説明

共役ジエン系重合体および共役ジエン系重合体組成物

【課題】優れた加工性を有しかつ省燃費性が良好な重合体組成物を得ることができる共役ジエン系重合体を提供する。
【解決手段】ピークHのピーク面積が3〜30%であり、ピークMの総ピーク面積が5〜45%であり、ピークLの総ピーク面積が40〜80%である共役ジエン系重合体。
ピークH:ピークトップの分子量がピークMのピークトップの分子量よりも高いピークであり、特定のケイ素化合物1モル量と共役ジエン系重合体3モル量とが反応した重合体
ピークM:ピークHのピークトップの分子量をMHとして、ピークトップの分子量が0.6×MH〜0.8×MHであるピークであり、特定のケイ素化合物1モル量と共役ジエン系重合体2モル量とが反応した重合体
ピークL:ピークHのピークトップの分子量をMHとして、ピークトップの分子量が0.2×MH〜0.4×MHであるピークであり、特定のケイ素化合物1モル量と共役ジエン系重合体1モル量とが反応した重合体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジエン系重合体および共役ジエン系重合体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車タイヤ用材料としては、ポリブタジエンやブタジエン−スチレン共重合体等の共役ジエン系重合体をゴム成分とし、カーボンブラックやシリカ等を補強剤として含有する重合体組成物が用いられている。近年、自動車に対する省燃費化の要求が強くなっており、自動車タイヤ用材料についても、転動抵抗の小さい材料が求められており、このようなゴム成分として、官能基を導入した共役ジエン系重合体が提案されている。例えば、ゴム成分に用いる共役ジエン系重合体としては、特許文献1には、ジアルキルアミノ基を有するアクリルアミド化合物で変性したブタジエン−スチレン共重合体が提案されている。また、特許文献2、3には、ジアルキルアミノ基を有するアルコキシシラン化合物で変性したブタジエン−スチレン共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−217047号公報
【特許文献2】特開昭63−186748号公報
【特許文献3】特開2005−290355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の共役ジエン系重合体をゴム成分として用いた重合体組成物は、加工性において十分満足のいくものではなかった。
かかる状況のもと、本発明が解決しようとする課題は、優れた加工性を有しかつ省燃費性が良好な重合体組成物を得ることができる共役ジエン系重合体、および、該共役ジエン系重合体とシリカとを配合してなる重合体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られる分子量分布曲線に、少なくとも下記ピークH、MおよびLが存在し、分子量分布曲線の全面積を100%として、ピークHのピーク面積が3〜30%であり、ピークMの総ピーク面積が5〜45%であり、ピークLの総ピーク面積が40〜80%であることを特徴とする共役ジエン系重合体にかかるものである。
ピークH:ピークトップの分子量がピークMのピークトップの分子量よりも高いピークであり、
下式(IV)で表されるケイ素化合物1モル量とアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体3モル量とが反応した重合体のピーク
ピークM:ピークHのピークトップの分子量をMHとして、ピークトップの分子量が0.6×MH〜0.8×MHであるピークであり、
下式(IV)で表されるケイ素化合物1モル量とアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体2モル量とが反応した重合体のピーク
ピークL:ピークHのピークトップの分子量をMHとして、ピークトップの分子量が0.2×MH〜0.4×MHであるピークであり、
下式(IV)で表されるケイ素化合物1モル量とアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体1モル量とが反応した重合体、および/または、アルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体と触媒失活剤とが反応した重合体のピーク

[式中、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に、炭素原子数が1〜4の炭化水素オキシ基を表し、nは0〜10の整数を表し、A2は下式(II)又は(III)で表される基を表す。

(式中、R3及びR4はそれぞれ独立に、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜10の炭化水素基を表すか、R3及びR4は結合して、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が2〜10の2価の炭化水素基を表す。)

(式中、Xは酸素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜6の2価の炭化水素基を表し、R5は水素又は炭素原子数が1〜6の炭化水素基を表す。)]
【0006】
本発明の第二は、上記の共役ジエン系重合体とシリカとを配合してなる共役ジエン系重合体組成物にかかるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、補強剤としてシリカを用いた場合でも、優れた加工性を有しかつ省燃費性が良好な重合体組成物を得ることができる共役ジエン系重合体、および、該共役ジエン系重合体とシリカとを配合してなる重合体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の共役ジエン系重合体は、共役ジエンに基づく単量体単位と下式(I)で表される基とを有する共役ジエン系重合体である。

[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭化水素基、炭化水素オキシ基、水酸基又は共役ジエンに基づく単量体単位を有する重合体鎖を表し、mは0〜10の整数を表し、A1は活性水素を持たない極性官能基を表す。]
【0009】
共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘキサジエンなどをあげることができ、これらは1種でもよく、2種以上でもよい。製造での入手容易性の観点から、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0010】
1及びR2はそれぞれ独立に、炭化水素基、炭化水素オキシ基、水酸基又は共役ジエンに基づく単量体単位を有する重合体鎖を表す。該炭化水素基としては、炭素原子数1〜4の炭化水素基が好ましく、炭素原子数1〜4のアルキル基がより好ましい。該炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などをあげることができる。該炭化水素オキシ基としては、炭素原子数1〜4の炭化水素オキシ基が好ましく、炭素原子数1〜4のアルコキシ基がより好ましい。該炭化水素オキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基などをあげることができる。これらの炭化水素オキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。該共役ジエンに基づく単量体単位を有する重合体鎖としては、重合触媒としてアルカリ金属触媒を用い、共役ジエンと必要に応じて他の単量体とを、単独重合あるいは共重合された重合体鎖があげられる。該共役ジエンは2種以上でもよく、また、他の単量体としては、芳香族ビニル、ビニルニトリル、不飽和カルボン酸エステルなどがあげられる。
【0011】
1及びR2としては、省燃費性を高める観点から、好ましくは炭化水素オキシ基であり、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。
【0012】
mは0〜10の整数を表す。省燃費性を高める観点から、好ましくは3以上であり、製造時の経済性を高める観点から、好ましくは4以下である。
【0013】
1は活性水素を持たない極性官能基を表し、下式(II)で表される基、下式(III)で表される基などをあげることができる。

[式中、R3及びR4はそれぞれ独立に、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜10の炭化水素基を表すか、R3及びR4は結合して、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が2〜20の2価の炭化水素基を表す。]

[式中、Xは酸素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜6の2価の炭化水素基を表し、R5は水素又は炭素原子数が1〜6の炭化水素基を表す。]
【0014】
3及びR4はそれぞれ独立に、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜10の炭化水素基を表すか、R3及びR4は結合して、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が2〜20の2価の炭化水素基を表す。
該窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜10の炭化水素基としては、無置換の炭化水素基;窒素原子を有する基、酸素原子を有する基及びケイ素原子を有する基からなる基群から選ばれる少なくとも一つの基を置換基として有する置換炭化水素基;炭化水素基を置換基として有するアミノ基;炭化水素オキシ基;炭化水素基を置換基として有するシリル基をあげることができ、具体的には、アルキル基、アリール基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリル基などをあげることができる。該炭化水素基としては、より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、メトキシペンチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシブチル基、エトキシペンチル基、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基などをあげることができる。
【0015】
また、該R3及びR4が結合した2価の炭化水素基としては、無置換の2価の炭化水素基;窒素原子を有する基、酸素原子を有する基及びケイ素原子を有する基からなる基群から選ばれる少なくとも一つの基を置換基として有する2価の置換炭化水素基;炭化水素基の少なくとも一つの炭素原子を、窒素原子、酸素原子及びケイ素原子からなる原子群から選ばれる少なくとも一つの原子で置き換えた2価の基などをあげることができる。R3及びR4が結合した2価の炭化水素基としては、具体的には、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などのアルキレン基;オキシジエチレン基、オキシジプロピレン基などのオキシアルキレン基;−CH2CH2−NH−CH2−で表される基、−CH2CH2−N=CH−で表される基などの含窒素基などをあげることができる。
【0016】
3及びR4の炭素原子数としては、好ましくは1〜8であり、より好ましくは1〜6である。R3及びR4として好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、トリメチルシリル基である。また、R3及びR4が結合した2価の炭化水素基の炭化水素原子数としては、好ましくは2〜16であり、より好ましくは2〜12であり、更に好ましくは2〜10であり、特に好ましくは2〜6である。R3及びR4が結合した2価の炭化水素基として好ましくは、−CH2CH2−NH−CH2−で表される基、−CH2CH2−N=CH−で表される基である。
【0017】
Xは酸素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜6の2価の炭化水素基を表す。該炭化水素基としては、無置換の2価の炭化水素基;酸素原子を有する基を置換基として有する2価の置換炭化水素基;炭化水素基の少なくとも一つの炭素原子を、酸素原子で置き換えた2価の基などをあげることができ、具体的には、アルキレン基、アルキレンオキシ基をあげることができる。該炭化水素基としては、より具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、1−オキシエチレン基、1−オキシトリメチレン基、1−オキシテトラメチレン基などをあげることができる。
【0018】
Xとして好ましくは、1−オキシトリメチレン基である。
【0019】
5は水素又は炭素原子数が1〜6の炭化水素基を表す。該炭化水素基としては、アルキル基、アリール基などをあげることができ、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基などをあげることができる。
【0020】
5として好ましくは、水素またはメチル基である。
【0021】
式(II)で表される基としては、非環状アミノ基、環状アミノ基をあげることができる。該非環状アミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジ(メトキシメチル)アミノ基、ジ(メトキシエチル)アミノ基、ジ(エトキシメチル)アミノ基、ジ(エトキシエチル)アミノ基、ジ(t−ブチルジメチルシリル)アミノ基、ジ(トリメチルシリル)アミノ基などを例示することができる。該環状アミノ基としては、1−ピロリジニル基、ピペリジノ基、1−ヘキサメチレンイミノ基、1−ヘプタメチレンイミノ基、1−オクタメチレンイミノ基、1−デカメチレンイミノ基、1−ドデカメチレンイミノ基、1−テトラデカメチレンイミノ基、1−オクタデカメチレンイミノ基などの1−ポリメチレンイミノ基をあげることができる。また、環状アミノ基としては、1−イミダゾリル基、4,5−ジヒドロ−1−イミダゾリル基、1−イミダゾリジニル基、1−ピペラジニル基、モルホリノ基などもあげることができる。
【0022】
式(III)で表される基としては、3−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基などをあげることができる。
【0023】
1として好ましくは、経済性および入手容易性から式(II)で表される基であり、より好ましくは非環状アミノ基である。
【0024】
本発明の共役ジエン系重合体は、共役ジエンに基づく単量体単位(共役ジエン単位)および式(I)で表される基に加え、他の単量体に基づく単量体単位を有していもよい。該他の単量体としては、芳香族ビニル、ビニルニトリル、不飽和カルボン酸エステルなどがあげられる。芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレンを例示することができる。また、ビニルニトリルとしては、アクリロニトリルなどを、不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチルなどを例示することができる。これらの中では、入手容易性の観点から、スチレンが好ましい。
【0025】
本発明の共役ジエン系重合体は、機械的強度を高める観点から、芳香族ビニルに基づく単量体単位(芳香族ビニル単位)を有していることが好ましく、芳香族ビニル単位の含有量としては、共役ジエン単位と芳香族ビニル単位との総量を100重量%として、好ましくは10重量%以上(共役ジエン単位の含有量は90重量%以下)であり、より好ましくは15重量%以上(共役ジエン単位の含有量は85重量%以下)である。また、省燃費性を高める観点から、芳香族ビニル単位の含有量は、好ましくは50重量%以下(共役ジエン単位の含有量は50重量%以上)であり、より好ましくは45重量%以下(共役ジエン単位の含有量は55重量%以上)である。
【0026】
本発明の共役ジエン系重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られる分子量分布曲線に、少なくとも下記ピークH、MおよびLが存在する重合体である。
ピークH:ピークトップの分子量がピークMのピークトップの分子量よりも高いピーク
ピークM:ピークHのピークトップの分子量をMHとして、ピークトップの分子量が0.6×MH〜0.8×MHであるピーク
ピークL:ピークHのピークトップの分子量をMHとして、ピークトップの分子量が0.2×MH〜0.4×MHであるピーク
なお、ピークHは、分子量分布曲線において、最も高分子量側のピークであることが好ましい。
【0027】
なお、本発明の共役ジエン系重合体を、後述の工程1、2および3を有する製造方法で製造した場合、ピークHに現れる成分は、後述の式(IV)で表されるケイ素化合物1モル量とアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体3モル量とが反応した重合体であり、ピークMに現れる成分は、式(IV)で表されるケイ素化合物1モル量とアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体2モル量とが反応した重合体であり、ピークLに現れる成分は、式(IV)で表されるケイ素化合物1モル量とアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体1モル量とが反応した重合体、および/または、アルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体と触媒失活剤とが反応した重合体であると考えられる。本発明の共役ジエン系重合体は、これらの成分比が特定の範囲となるものである。
【0028】
分子量分布曲線の全面積を100%として、上記ピークHのピーク面積は、加工性を高める観点から、3%以上であり、好ましくは、5%以上である。また、該ピーク面積は、省燃費性を高める観点から、30%以下であり、好ましくは25%以下である。
また、加工性と強度のバランスの観点から、ピークHのピークトップの分子量は、好ましくは40〜100万であり、より好ましくは55〜85万である。
【0029】
分子量分布曲線の全面積を100%として、上記ピークMの総ピーク面積は、加工性を高める観点から、5%以上であり、好ましくは、10%以上である。また、該ピーク面積は、省燃費性を高める観点から、45%以下であり、好ましくは40%以下である。
【0030】
分子量分布曲線の全面積を100%として、上記ピークLの総ピーク面積は、省燃費性を高める観点から、40%以上であり、好ましくは、50%以上である。また、該総ピーク面積は、加工性を高める観点から、80%以下であり、好ましくは70%以下である。
【0031】
なお、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られる分子量分布曲線において、ピークの曲線がベースラインまで下がっていない場合、すなわち、対象ピークが隣接するピークと重なっている場合には、対象ピークのピークトップと隣接するピークのピークトップとの間にある曲線の極小点から、ベースラインに対して垂線を設け、該垂線を対象ピークと隣接するピークとの境界線としてピーク面積を求める。
【0032】
本発明の共役ジエン系重合体のムーニー粘度(ML1+4)は、機械的強度を高める観点から、好ましくは10以上であり、より好ましくは20以上である。また、加工性を高める観点から、好ましくは200以下であり、より好ましくは150以下である。該ムーニー粘度(ML1+4)は、JIS K6300(1994)に従って、100℃にて測定される。
【0033】
本発明の共役ジエン系重合体のビニル結合量は、共役ジエン単位の含有量を100モル%として、省燃費性を高める観点から、好ましくは70モル%以下であり、より好ましくは60モル%以下である。また、タイヤのグリップ性能を高める観点から、好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上である。該ビニル結合量は、赤外分光分析法により、ビニル基の吸収ピークである910cm-1付近の吸収強度より求められる。
【0034】
本発明の共役ジエン系重合体の製造方法としては、下記工程1、2および3を有する製造方法をあげることができる。
(工程1):アルカリ金属触媒の存在下、炭化水素溶媒中で、共役ジエンを含む単量体を重合させ、該触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体を得る工程
(工程2):工程1の共役ジエン系重合体の炭化水素溶液に、工程1で用いたアルカリ金属触媒のアルカリ金属1モルあたり、0.05〜0.35モルの量の下式(IV)で表されるケイ素化合物を添加、混合する工程
(工程3):工程2の共役ジエン系重合体の炭化水素溶液に、工程1で用いたアルカリ金属触媒のアルカリ金属1モルあたり、工程2で添加した量との総量で、0.5モル以上となる量の下式(IV)で表されるケイ素化合物を添加、混合する工程

[式中、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に、炭化水素基又は炭化水素オキシ基を表し、R6、R7及びR8の少なくとも1つは炭素原子数が1〜4の炭化水素オキシ基であり、nは0〜10の整数を表し、A2は活性水素を持たない極性官能基を表す。]
【0035】
工程1で用いられるアルカリ金属触媒としては、アルカリ金属、有機アルカリ金属化合物、アルカリ金属と極性化合物との錯体、アルカリ金属を有するオリゴマーなどをあげることができる。該アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどをあげることがでる。該有機アルカリ金属化合物としては、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、iso−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−オクチルリチウム、n−デシルリチウム、フェニルリチウム、2−ナフチルリチウム、2−ブチル−フェニルリチウム、4−フェニル−ブチルリチウム、シクロヘキシルリチウム、4−シクロペンチルリチウム、ジメチルアミノプロピルリチウム、ジエチルアミノプロピルリチウム、t−ブチルジメチルシリロキシプロピルリチウム、N−モルホリノプロピルリチウム、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド、1,4−ジリチオ−2−ブテン、ナトリウムナフタレニド、ナトリウムビフェニリド、カリウムナフタレニドなどをあげることができる。また、アルカリ金属と極性化合物との錯体としては、カリウム−テトラヒドロフラン錯体、カリウム−ジエトキシエタン錯体などをあげることができ、アルカリ金属を有するオリゴマーとしては、α−メチルスチレンテトラマーのナトリウム塩をあげることができる。これらの中でも、有機リチウム化合物又は有機ナトリウム化合物が好ましく、炭素原子数が2〜20の有機リチウム化合物又は有機ナトリウム化合物がより好ましい。
【0036】
工程1で用いられる炭化水素溶媒は、アルカリ金属触媒を失活させない溶媒であり、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環族炭化水素などをあげることができる。該脂肪族炭化水素としては、プロパン、n−ブタン、iso−ブタン、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、プロペン、1−ブテン、iso−ブテン、トランス−2−ブテン、シス−2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどをあげることができる。また、芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンをあげることができ、脂環族炭化水素としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどがあげられる。これらは単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いられる。
これらの中では、炭素原子数が2〜12の炭化水素が好ましい。
【0037】
工程1では、共役ジエンを含む単量体を重合させ、上述のアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体を製造する。該共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘキサジエンをあげることができ、これらは単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いられる。中でも、入手容易性の観点から、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0038】
工程1では、共役ジエン単独での重合を行ってもよく、共役ジエンと他の単量体とを組み合わせて重合を行ってもよい。他の単量体としては、芳香族ビニル、ビニルニトリル、不飽和カルボン酸エステルなどがあげられる。芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレンを例示することができる。また、ビニルニトリルとしては、アクリロニトリルなどを、不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチルなどを例示することができる。これらの中では、入手容易性の観点から、スチレンが好ましい。
【0039】
工程1の重合は、共役ジエン単位のビニル結合量を調整する剤、共役ジエン系重合体鎖中での共役ジエン単位と共役ジエン以外の単量体に基づく単量体単位の分布を調整する剤(以下、総称して「調整剤」と記す。)などの存在下で行ってもよい。このような剤としては、エーテル化合物、第三級アミン、ホスフィン化合物などをあげることができる。該エーテル化合物としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサンなど環状エーテル;ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどの脂肪族モノエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどの脂肪族ジエ−テル;ジフェニルエーテル、アニソールなどの芳香族エーテルなどがあげられる。該第三級アミンとして、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルアニリン、ピリジン、キノリンなどをあげることができる。また、該ホスフィン化合物として、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどをあげることができる。これらは単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
工程1の重合温度は、通常0〜100℃であり、好ましくは35〜65℃であり、重合時間は、通常10分〜5時間である。
【0041】
工程2では、工程1で得られたアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体の炭化水素溶液に、下式(IV)で表されるケイ素化合物を添加、混合し、共役ジエン系重合体をケイ素化合物で変性する。

[式中、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に、炭化水素基又は炭化水素オキシ基を表し、R6、R7及びR8の少なくとも1つは炭素原子数が1〜4の炭化水素オキシ基であり、nは0〜10の整数を表し、A2は活性水素を持たない極性官能基を表す。]
【0042】
6、R7及びR8はそれぞれ独立に炭化水素基又は炭化水素オキシ基を表す。R6、R7及びR8の少なくとも1つは炭素原子数が1〜4の炭化水素オキシ基であり、R6、R7及びR8が、全て炭素原子数が1〜4の炭化水素オキシ基であることが好ましい。
【0043】
6、R7及びR8の炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは1〜4である。R6、R7及びR8の炭素原子数が1〜4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基をあげることができる。これらの炭化水素基としては、アルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。また、R6、R7及びR8の炭化水素オキシ基の炭素原子数は、好ましくは1〜4である。R1、R2及びR3の炭素原子数が1〜4の炭化水素オキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基をあげることができる。これらの炭化水素オキシ基としては、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基がより好ましい。
【0044】
nは0〜10の整数を表す。省燃費性を高める観点から、好ましくは3以上であり、製造時の経済性を高める観点から、好ましくは4以下である。
【0045】
2は活性水素を持たない極性官能基を表し、下式(II)で表される基、下式(III)で表される基などをあげることができる。

[式中、R3及びR4はそれぞれ独立に、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜10の炭化水素基を表すか、R3及びR4は結合して、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が2〜20の2価の炭化水素基を表す。]

[式中、Xは酸素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜6の2価の炭化水素基を表し、R5は水素又は炭素原子数が1〜6の炭化水素基を表す。]
【0046】
2において、式(II)で表される基、式(III)で表される基、R3、R4、R5およびXの例示は、それぞれ、A1においての式(II)で表される基、式(III)で表される基、R3、R4、R5およびXの例示と同じであり、式(II)で表される基、式(III)で表される基、R3、R4、R5およびXの好ましい基は、それぞれ、A1においての式(II)で表される基、式(III)で表される基、R3、R4、R5およびXの好ましい基と同じである。また、A2の好ましい基は、A1の好ましい基と同じである。
【0047】
式(IV)で表されるケイ素化合物としては、A2が式(II)で表される非環状アミノ基である化合物として、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メチルジメトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]メチルジメトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]エチルジメトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]エチルジメトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]ジメチルメトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]ジエチルメトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]ジメチルメトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]ジエチルメトキシシラン、[(3−メチル−3−エチルアミノ)プロピル]メチルジメトキシシラン、[(3−メチル−3−エチルアミノ)プロピル]エチルジメトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メチルジエトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]メチルジエトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]エチルジエトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]エチルジエトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]ジメチルエトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]ジエチルエトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]ジメチルエトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]ジエチルエトキシシラン、[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]メチルジエトキシシラン、[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]エチルジエトキシシラン、
【0048】
{3−[ジ(メトキシメチル)アミノ]プロピル}トリメトキシシラン、{3−[ジ(メトキシエチル)アミノ]プロピル}トリメトキシシラン、{3−[ジ(メトキシメチル)アミノ]プロピル}トリエトキシシラン、{3−[ジ(メトキシエチル)アミノ]プロピル}トリエトキシシラン、{3−[ジ(エトキシエチル)アミノ]プロピル}トリメトキシシラン、{3−[ジ(エトキシメチル)アミノ]プロピル}トリメトキシシラン、{3−[ジ(エトキシエチル)アミノ]プロピル]トリエトキシシラン、{3−[ジ(エトキシメチル)アミノ]プロピル}トリエトキシシラン、
【0049】
{3−[ジ(トリメチルシリル)アミノ]プロピル}トリメトキシシラン、{3−[ジ(トリメチルシリル)アミノ]プロピル}トリエトキシシラン、{3−[ジ(t−ブチルジメチルシリル)アミノ]プロピル}トリメトキシシラン、{3−[ジ(t−ブチルジメチルシリル)アミノ]プロピル}トリエトキシシラン、{3−[ジ(トリメチルシリル)アミノ]プロピル}メチルジメトキシシラン、{3−[ジ(トリメチルシリル)アミノ]プロピル}メチルジエトキシシラン、{3−[ジ(t−ブチルジメチルシリル)アミノ]プロピル}メチルジメトキシシラン、{3−[ジ(t−ブチルジメチルシリル)アミノ]プロピル}メチルジエトキシシラン、{3−[ジ(トリメチルシリル)アミノ]プロピル}ジメチルメトキシシラン、{3−[ジ(トリメチルシリル)アミノ]プロピル}ジメチルエトキシシラン、{3−[ジ(t−ブチルジメチルシリル)アミノ]プロピル}ジメチルメトキシシラン、{3−[ジ(t−ブチルジメチルシリル)アミノ]プロピル}ジメチルエトキシシラン、
【0050】
[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]メチルジメトキシシラン、[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]エチルジメトキシシラン、[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]メチルジエトキシシラン、[3−(エチルメチルアミノ)プロピル]エチルジエトキシシランなどをあげることができる。
【0051】
2が式(II)で表される非環状アミノ基であるケイ素化合物としては、省燃費性を高める観点から、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、[3−(ジメチルアミノ)プロピル]トリエトキシシラン、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリエトキシシランが好ましい。
【0052】
式(IV)で表されるケイ素化合物としては、A2が式(II)で表される環状アミノ基である化合物として、3−モルホリノプロピルトリメトキシシラン、3−モルホリノプロピルトリエトキシシラン、3−モルホリノプロピルメチルジメトキシシラン、3−モルホリノプロピルエチルジメトキシシラン、3−モルホリノプロピルメチルジエトキシシラン、3−モルホリノプロピルエチルジエトキシシラン、3−ピペリジノプロピルトリメトキシシラン、3−ピペリジノプロピルトリエトキシシラン、3−ピペリジノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ピペリジノプロピルエチルジメトキシシラン、3−ピペリジノプロピルメチルジエトキシシラン、3−ピペリジノプロピルエチルジエトキシシラン、N−(3−トリメトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−トリメトキシシリルプロピル)−4,5−イミダゾール、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−イミダゾール、3−ヘキサメチレンイミノプロピルトリメトキシシラン、3−ヘキサメチレンイミノプロピルトリエトキシシラン、3−ヘキサメチレンイミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ヘキサメチレンイミノプロピルエチルジメトキシシラン、3−ヘキサメチレンイミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−ヘキサメチレンイミノプロピルエチルジエトキシシランなどをあげることができる。
【0053】
2が式(II)で表される環状アミノ基であるケイ素化合物としては、省燃費性を高める観点から、N−(3−トリメトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−トリメトキシシリルプロピル)−4,5−イミダゾール、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−イミダゾールが好ましい。
【0054】
式(IV)で表されるケイ素化合物としては、A2が式(III)で表される基であるケイ素化合物として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン等を例示することができる。
【0055】
2が式(III)で表される基であるケイ素化合物としては、省燃費性を高める観点、化合物の入手容易性、長期保存安定性を高める観点からは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0056】
工程2での式(IV)で表されるケイ素化合物の添加量は、ピークHのピーク面積を大きくする観点から、工程1で用いたアルカリ金属触媒のアルカリ金属1モルあたり、好ましくは0.05〜0.35モルであり、より好ましくは0.1〜0.3モルである。
【0057】
工程2での式(IV)で表されるケイ素化合物の添加速度は、通常、炭化水素溶媒の単位体積及び単位時間あたり、5〜10000ミリモル/秒/m3である。ピークHのピーク面積を大きくする観点から、該添加速度は、低い方が好ましい。
【0058】
工程2で式(IV)で表されるケイ素化合物の添加は、通常、撹拌下の炭化水素溶液に行う。炭化水素溶液の撹拌速度は、通常、30〜400rpmである。ピークHのピーク面積を大きくする観点から、該撹拌速度は、低い方が好ましい。
【0059】
工程2で式(IV)で表されるケイ素化合物を添加する際の炭化水素溶液の温度は、通常、0〜100℃である。
【0060】
工程2では、で式(IV)で表されるケイ素化合物を添加後、炭化水素溶液を、撹拌しておくことが好ましい。撹拌速度としては、通常100rpm以上であり、温度としては、通常35℃以上であり、時間としては、通常1秒〜30分である。ピークHのピーク面積を大きくする観点から、該温度は、高い方が好ましく、該時間は、長い方が好ましい。
【0061】
ケイ素化合物は、テトラヒドロフラン、ヘキサンなどのアルカリ金属触媒を失活させない溶媒に溶解させた溶液として、炭化水素溶液に添加してもよい。
【0062】
工程2のケイ素化合物を添加する前での炭化水素溶液中の共役ジエン系重合体の濃度は、通常、5〜30重量%である。ピークLの総ピーク面積を大きくする観点から、該濃度は低い方が好ましい。また、ピークHのピーク面積を大きくする観点から、該濃度は高い方が好ましい。
【0063】
工程3では、工程2を行った共役ジエン系重合体の炭化水素溶液に、式(IV)で表されるケイ素化合物を更に添加、混合し、共役ジエン系重合体をケイ素化合物で変性する。
【0064】
工程3での式(IV)で表されるケイ素化合物の添加量は、ピークLの総ピーク面積を大きくする観点から、工程1で用いたアルカリ金属触媒のアルカリ金属1モルあたり、工程2で添加した量との総量で、好ましくは0.5モル以上であり、より好ましくは1モル以上である。該添加量は、製造時の経済性を高める観点から、好ましくは10モル以下であり、より好ましくは5モル以下である。
【0065】
工程3での式(IV)で表されるケイ素化合物の添加速度は、通常、炭化水素溶媒の単位体積及び単位時間あたり、5〜10000ミリモル/秒/m3である。ピークLの総ピーク面積を大きくする観点から、該添加速度は大きい方が好ましく、ピークMの総ピーク面積を大きくする観点から、該添加速度は低い方が好ましい。
【0066】
工程3で式(IV)で表されるケイ素化合物の添加は、通常、撹拌下の炭化水素溶液に行う。炭化水素溶液の撹拌速度は、通常、30〜400rpmである。ピークLの総ピーク面積を大きくする観点から、該撹拌速度は高い方が好ましく、ピークMの総ピーク面積を大きくする観点から、該撹拌速度は低い方が好ましい。
【0067】
工程3で式(IV)で表されるケイ素化合物を添加する際の炭化水素溶液の温度は、通常、0〜100℃である。
【0068】
ケイ素化合物は、テトラヒドロフラン、ヘキサンなどのアルカリ金属触媒を失活させない溶媒に溶解させた溶液として、炭化水素溶液に添加してもよい。
【0069】
共役ジエン系重合体は、公知の回収方法、例えば、(1)共役ジエン系重合体の炭化水素溶液に凝固剤を添加する方法、(2)共役ジエン系重合体の炭化水素溶液にスチームを添加する方法によって、(工程2)の処理後の共役ジエン系重合体の炭化水素溶液から回収することができる。回収した共役ジエン系重合体は、バンドドライヤーや押出型ドライヤーなどの公知の乾燥機で乾燥してもよい。
【0070】
本発明の共役ジエン系重合体は、他のゴム成分を配合して、共役ジエン系重合体組成物にして用いることができる。他のゴム成分としては、従来のスチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、ブチルゴムなどをあげることができる。また、天然ゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−オクテン共重合体ゴムなどもあげることができる。これらの成分は、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0071】
本発明の共役ジエン系重合体に他のゴム成分を配合する場合、本発明の共役ジエン系重合体の配合量は、省燃費性を高める観点から、ゴム成分の総配合量を100重量部として、好ましくは10重量部以上であり、より好ましくは20重量部以上である。
【0072】
また、本発明の共役ジエン系重合体には、添加剤などを配合して、共役ジエン系重合体組成物にして用いることができる。添加剤としては、公知のものを用いることができ、硫黄などの加硫剤;チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤などの加硫促進剤;ステアリン酸、酸化亜鉛などの加硫活性化剤;有機過酸化物;シリカ、カーボンブラックなどの補強剤;炭酸カルシウム、タルクなどの充填剤;シランカップリング剤;伸展油;加工助剤;老化防止剤;滑剤を例示することができる。
【0073】
本発明の共役ジエン系重合体に補強剤を配合した共役ジエン系重合体組成物を用いる場合、補強剤として、シリカを用いることが好ましい。
【0074】
本発明の共役ジエン系重合体にシリカを配合した共役ジエン系重合体組成物とする場合、シリカの配合量は、ゴム成分(本発明の共役ジエン系重合体および他のゴム成分の総量)を100重量部として、通常10〜150重量部である。また、該配合量は、省燃費性を高める観点から、好ましくは20重量部以上であり、より好ましくは30重量部以上である。また、補強性を高める観点から、好ましくは120重量部以下であり、より好ましくは100重量部以下である。
【0075】
本発明の共役ジエン系重合体にシリカ以外の補強剤を配合する場合、シリカ以外の補強剤の配合量は、補強剤の総配合量を100重量部として、省燃費性を高める観点から、好ましくは50重量部以下であり、より好ましくは30重量部以下である。また、補強性を高める観点から、好ましくは1重量部以上であり、より好ましくは3重量部以上である。
シリカ以外の補強剤としては、カーボンブラックが好ましい。
【0076】
本発明の共役ジエン系重合体に、他のゴム成分や添加剤などを配合して共役ジエン系重合体組成物を製造する方法としては、公知の方法、例えば、各成分をロールやバンバリーのような公知の混合機で混練する方法を用いることができる。
【0077】
本発明の共役ジエン系重合体とシリカとを配合した組成物の製造方法としては、上述の工程1、2及び3に加え、下記工程4を有する製造方法をあげることができる。
(工程4):(工程3)で得られた共役ジエン系重合体とシリカとを配合する工程
【0078】
工程4では、他のゴム成分や他の添加剤などを配合してもよい。工程4での配合方法としては、公知の方法、例えば、各成分をロールやバンバリーのような公知の混合機で混練する方法を用いることができる。
【0079】
工程4での混練条件としては、加硫剤および加硫促進剤以外の添加剤を配合する場合、混練温度は、通常50〜200℃であり、好ましくは80〜190℃であり、混練時間は、通常30秒〜30分であり、好ましくは1分〜30分である。加硫剤、加硫促進剤を配合する場合、混練温度は、通常100℃以下であり、好ましくは室温〜80℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を配合した組成物は、通常、プレス加硫などの加硫処理を行って用いられる。加硫温度としては、通常120〜200℃、好ましくは140〜180℃である。
【0080】
工程4において、工程3で得られた共役ジエン系重合体の配合量、シリカの配合量、他の重合体成分を配合の配合量、シリカ以外の充填剤の配合量は、上述した配合量が好ましい。
【0081】
本発明の共役ジエン系重合体、共役ジエン系重合体組成物は、優れた加工性を有する。
また、省燃費性が良好である。更には、グリップ性、耐磨耗性、強度なども良好である。
【0082】
本発明の共役ジエン系重合体、共役ジエン系重合体組成物は、タイヤ、靴底、床材、防振材などに用いられ、特に、タイヤに好適に用いられる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例によって本発明を説明する。
物性測定は次の方法で行った。
【0084】
1.ムーニー粘度(ML1+4
JIS K6300(1994)に従って、100℃にて測定した。
【0085】
2.ビニル含量(単位:モル%)
赤外分光分析法により、ビニル基の吸収ピークである910cm-1付近の吸収強度より求めた。
【0086】
3.スチレン単位の含量(単位:重量%)
JIS K6383(1995)に従って、屈折率から求めた。
【0087】
4.分子量分布曲線
ゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法を用いて、下記の条件(1)〜(8)により測定を行った。
(1)装置:東ソー製HLC−8020
(2)分離カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)
(3)測定温度:40℃
(4)キャリア:テトラヒドロフラン
(5)流量:0.6mL/分
(6)注入量:5μL
(7)検出器:示差屈折
(8)分子量標準:標準ポリスチレン
【0088】
5.省燃費性
重合体100重量部、シリカ(デグッサ社製、商品名:ウルトラシルVN3−G)78.4重量部、シランカップリング剤(デグッサ社製、商品名:Si69)6.4重量部、カーボン6.4重量部、伸展油(共同石油社製、商品名:X−140)47.6重量部、老化防止剤(住友化学社製、商品名:アンチゲン3C)1.5重量部、ステアリン酸2重量部、亜鉛華2重量部、ワックス(大内新興化学工業社製、商品名:サンノックN)1.5重量部、イオウ1.4重量部、加硫促進剤(住友化学社製、商品名:ソクシノールCZ,ソクシノールD)を各1重量部)2重量部を混練し、組成物を調製した。得られた組成物を2本ロールでシートに成形し、該シートを160℃で45分加熱して加硫させ、加硫されたシートとした。
粘弾性測定装置(上島製作所製)を使用し、歪み1%及び周波数10Hzの条件下で、加硫されたシートの温度70℃の損失正接(tanδ(70℃))を測定した。この値が小さいほど、省燃費性に優れる。
【0089】
6.加工性
重合体100重量部、シリカ(デグッサ社製、商品名:ウルトラシルVN3−G)78.4重量部、シランカップリング剤(デグッサ社製、商品名:Si69)6.4重量部、カーボン6.4重量部、伸展油(共同石油社製、商品名:X−140)47.6重量部、老化防止剤(住友化学社製、商品名:アンチゲン3C)1.5重量部、ステアリン酸2重量部を、ラボプラストミルにて混練し、次いで、亜鉛華2重量部、ワックス(大内新興化学工業社製、商品名:サンノックN)1.5重量部を添加して更に混練し、組成物を調製し、得られた組成物を2本ロール(ロールギャップ2.5mm、ロール径10インチ)でシートに成形した。
得られたシートの端の外観を観察し、次の基準により評価した。数字が大きいほど加工性に優れる。
5:凹凸は非常に少なく、10cm以上の平滑な部分がある。
4:凹凸は少なく、7cm以上の平滑な部分がある。
3:凹凸はあるが、5cm以上の平滑な部分がある。
2:凹凸は多いが、3cm程度の平滑な部分がある。
1:凹凸が多く、平滑な部分が認められない。
【0090】
実施例1
内容積20リットルのステンレス製重合反応器を洗浄、乾燥し、乾燥窒素で置換した後、ヘキサン(比重0.68g/cm3)10.2kg、1,3−ブタジエン461g、スチレン259g、テトラヒドロフラン6.1ml、エチレングリコールジエチルエーテル3.3mlを投入した。次に、n−ブチルリチウム13.7mmolをn−ヘキサン溶液として投入し、重合反応器内の温度を65℃に調整し、1,3−ブタジエンとスチレンとを重合反応器に供給して、3時間重合を行い、重合体溶液を得た。3時間の重合での1,3−ブタジエンの供給量は691g、スチレンの供給量は389gであった。
【0091】
得られた重合体溶液を130rpmの撹拌速度で撹拌し、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン2.4mmolをヘキサン10mlに溶解させた溶液を、重合体溶液に1秒で添加し、重合体溶液を15分間撹拌した。
【0092】
次に、得られた重合体溶液を130rpmの撹拌速度で撹拌し、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン9.6mmolをヘキサン10mlに溶解させた溶液を、重合体溶液に1秒で添加し、重合体溶液を60分間撹拌した。重合体溶液にメタノール10mlを加えて、更に重合体溶液を5分間攪拌した。
【0093】
重合体溶液に2−ターシャリーブチル−6−(3−ターシャリーブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学製、商品名:スミライザーGM)8g、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルプロピオネート)(住友化学製、商品名:スミライザーTP−D)4gを加え、次に、重合体溶液を、常温、24時間で蒸発させ、更に55℃で12時間減圧乾燥し、重合体を得た。重合体の物性および重合体を用いた組成物の物性の測定結果を表1に示す。
【0094】
実施例2
n−ブチルリチウムの投入量を13.7mmolに替えて15.5mmolとし、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン2.4mmolをヘキサン10mlに溶解させた溶液に替えて、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン2.7mmolをヘキサン10mlに溶解させた溶液とし、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン9.6mmolをヘキサン10mlに溶解させた溶液に替えて、[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン10.7mmolをヘキサン10mlに溶解させた溶液とした以外は、実施例1と同様に行った。得られた重合体の物性および重合体を用いた組成物の物性の測定結果を表1に示す。
【0095】
比較例1
内容積20リットルのステンレス製重合反応機を洗浄、乾燥し、乾燥窒素で置換した後、これにヘキサン10.2kg、1,3−ブタジエン1404g、スチレン396g、テトラヒドロフラン122g、および、n−ブチルリチウム(n−ヘキサン溶液)11.0mmolを添加し、攪拌下に65℃で3時間重合し、重合混合物を得た。
重合混合物に[3−(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン11.0mmolを添加し、攪拌下に60分間反応させた後、メタノール10mlを加えて、更に5分間攪拌し、反応混合物を得た。
反応混合物を取り出し、これに2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(住友化学製、商品名スミライザーBHT)10gを加え、ヘキサンの大部分を蒸発させた後、55℃で12時間減圧乾燥し、重合体を得た。重合体の物性、および重合体を用いた組成物の物性の測定結果を表1に示す。
【0096】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られる分子量分布曲線に、少なくとも下記ピークH、MおよびLが存在し、分子量分布曲線の全面積を100%として、ピークHのピーク面積が3〜30%であり、ピークMの総ピーク面積が5〜45%であり、ピークLの総ピーク面積が40〜80%であることを特徴とする共役ジエン系重合体。
ピークH:ピークトップの分子量がピークMのピークトップの分子量よりも高いピークであり、
下式(IV)で表されるケイ素化合物1モル量とアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体3モル量とが反応した重合体のピーク
ピークM:ピークHのピークトップの分子量をMHとして、ピークトップの分子量が0.6×MH〜0.8×MHであるピークであり、
下式(IV)で表されるケイ素化合物1モル量とアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体2モル量とが反応した重合体のピーク
ピークL:ピークHのピークトップの分子量をMHとして、ピークトップの分子量が0.2×MH〜0.4×MHであるピークであり、
下式(IV)で表されるケイ素化合物1モル量とアルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体1モル量とが反応した重合体、および/または、アルカリ金属触媒由来のアルカリ金属を末端に有する共役ジエン系重合体と触媒失活剤とが反応した重合体のピーク

[式中、R6、R7及びR8はそれぞれ独立に、炭素原子数が1〜4の炭化水素オキシ基を表し、nは0〜10の整数を表し、A2は下式(II)又は(III)で表される基を表す。

(式中、R3及びR4はそれぞれ独立に、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜10の炭化水素基を表すか、R3及びR4は結合して、窒素原子、酸素原子又はケイ素原子を有していてもよい炭素原子数が2〜10の2価の炭化水素基を表す。)

(式中、Xは酸素原子を有していてもよい炭素原子数が1〜6の2価の炭化水素基を表し、R5は水素又は炭素原子数が1〜6の炭化水素基を表す。)]
【請求項2】
請求項1に記載の共役ジエン系重合体とシリカとを配合してなる共役ジエン系重合体組成物。

【公開番号】特開2012−207234(P2012−207234A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171768(P2012−171768)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【分割の表示】特願2008−158939(P2008−158939)の分割
【原出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】