説明

共役ジエン系重合体の製造方法

【課題】重合溶液から回収した炭化水素化合物溶媒を重合溶媒に再使用する共役ジエン系重合体の製造方法であって、回収した炭化水素化合物溶媒中のビニル結合含有量調整剤をより高割合で除去した共役ジエン系重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】アルカリ金属触媒を重合開始剤として用いて、共役ジエンと必要に応じて他の単量体とを炭化水素化合物溶媒中で重合する共役ジエン系重合体の製造方法であって、ルイス塩基性化合物を用いて重合を行った重合溶液から炭化水素化合物溶媒を分離精製し、該炭化水素化合物溶媒を重合溶媒として重合反応器に再供給する工程を有し、該工程において、ルイス塩基性化合物を、炭化水素化合物溶媒から抽出蒸留によって除去する共役ジエン系重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジエン系重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として、炭化水素化合物溶媒中で、共役ジエンを単独重合、あるいは、共役ジエンとビニル芳香族化合物を共重合する共役ジエン系重合体の製造において、共役ジエン系重合体のビニル結合含有量を調整するために、テトラヒドロフランやエチレングリコールジブチルエーテルなどのエーテル化合物、トリエチルアミンなどの第三級アミン等を、ビニル結合含有量調整剤として、炭化水素化合物溶媒に添加することが知られている。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−72907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビニル結合含有量調整剤を用いた共役ジエン系重合体の従来の製造方法では、重合溶液から炭化水素化合物溶媒を回収する場合、回収した炭化水素化合物溶媒中のビニル結合含有量調整剤を十分に除去できないことがあった。そのため、ビニル結合含有量調整剤が少ない重合反応に用いる重合溶媒に、回収した炭化水素化合物溶媒を再使用する場合、ビニル結合含有量調整剤の濃度を下げるために、回収した炭化水素化合物溶媒の一部を重合で未使用の炭化水素化合物溶媒で希釈して使用する方法が用いられていた。しかし、この方法では、回収した炭化水素化合物溶媒のリサイクル率を高めることができず、経済的に十分満足のいくものではなかった。
かかる状況のもと、本発明が解決しようとする課題は、重合溶液から回収した炭化水素化合物溶媒を重合溶媒に再使用する共役ジエン系重合体の製造方法であって、回収した炭化水素化合物溶媒中のビニル結合含有量調整剤をより高割合で除去した共役ジエン系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アルカリ金属触媒を重合開始剤として用いて、共役ジエンと必要に応じて他の単量体とを炭化水素化合物溶媒中で重合する共役ジエン系重合体の製造方法であって、共役ジエン系重合体のビニル結合含有量の調整剤としてエーテル化合物および第三級アミンからなる化合物群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基性化合物を用いて重合を行った重合溶液から炭化水素化合物溶媒を分離精製し、該炭化水素化合物溶媒を重合溶媒として重合反応器に再供給する工程を有し、該工程において、エーテル化合物および第三級アミンからなる化合物群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基性化合物を、炭化水素化合物溶媒から抽出蒸留によって除去する共役ジエン系重合体の製造方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、重合溶液から回収した炭化水素化合物溶媒を重合溶媒に再使用する共役ジエン系重合体の製造方法であって、回収した炭化水素化合物溶媒中のビニル結合含有量調整剤をより高割合で除去した共役ジエン系重合体の製造方法を提供することができる。また、本発明は、ビニル結合含有量調整剤の除去に、複雑な装置や操作を必要とはしない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に使用される抽出蒸留装置の一態様の概略図である。
【図2】本発明に使用される抽出蒸留装置の他の態様の概略図である。
【符号の説明】
【0008】
1:抽出蒸留塔
2:原料供給管
3:抽出剤供給管
4:留出管
5:冷却器
6:還流ドラム
7:ポンプ
8:ポンプ
9:抜出管
10:加熱器
11:ポンプ
12:抜出管
13:冷却器
14:回収ドラム
a:炭化水素化合物溶媒
b:抽出剤
c:抽出剤+ルイス塩基性化合物
d:炭化水素化合物溶媒
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において「重合」という語は、単独重合のみならず、共重合を包含したものであり、また「重合体」という語は単独重合体のみならず共重合体を包含したものである。
【0010】
本発明では、アルカリ金属触媒を重合開始剤として用いて、共役ジエンと必要に応じて他の単量体とを炭化水素化合物溶媒中で重合して共役ジエン系重合体の製造を行う。
【0011】
重合開始剤として用いるアルカリ金属触媒としては、アルカリ金属、有機アルカリ金属化合物をあげることができる。該アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムをあげることがでる。該有機アルカリ金属化合物としては、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、iso−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−オクチルリチウム、n−デシルリチウム、フェニルリチウム、2−ナフチルリチウム、2−ブチル−フェニルリチウム、4−フェニル−ブチルリチウム、シクロヘキシルリチウム、4−シクロペンチルリチウム、ジメチルアミノプロピルリチウム、ジエチルアミノプロピルリチウム、t−ブチルジメチルシリロキシプロピルリチウム、N−モルホリノプロピルリチウム、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド、1,4−ジリチオ−ブテン−2、ナトリウムナフタレン、ナトリウムビフェニル、カリウムナフタレンをあげることができる。好ましくは、炭素原子数が2〜20の有機リチウム化合物又は炭素原子数が2〜20の有機ナトリウム化合物である。
【0012】
共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘキサジエンをあげることができる。好ましくは、1,3−ブタジエン、イソプレンである。
【0013】
他の単量体としては、芳香族ビニル化合物、ビニルニトリル、不飽和カルボン酸エステルをあげることができる。芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレンをあげることができる。また、ビニルニトリルとしては、アクリロニトリルをあげることができる。不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチルをあげることができる。好ましくは、芳香族ビニル化合物であり、より好ましくはスチレンである。
【0014】
共役ジエン系重合体としては、1,3−ブタジエン単独重合体、イソプレン単独重合体、1,3−ブタジエン−イソプレン共重合体、1,3−ブタジエン−スチレン共重合体、イソプレン−スチレン共重合体をあげることができる。
【0015】
炭化水素化合物溶媒に用いる炭化水素化合物としては、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、2−メチル−ペンタン、3−メチル−ペンタン、n−ヘプタン、2−メチル−ヘキサン、3−メチル−ヘキサン、3−エチル−ペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンをあげることができる。これらは単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いられる。好ましくは、炭素原子数5〜7の飽和炭化水素化合物である。
【0016】
ビニル結合含有量の調整剤は、エーテル化合物および第三級アミンからなる化合物群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基性化合物である。エーテル化合物としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテルをあげることができる。第三級アミンとしては、トリエチルアミンをあげることができる。好ましくは、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテルおよびトリエチルアミンからなる化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0017】
また、本発明は、炭化水素化合物溶媒の沸点とルイス塩基性化合物の沸点との差が10℃以下である重合を行った重合溶液からの炭化水素化合物溶媒の回収に、好適である。このような炭化水素化合物とルイス塩基性化合物との組み合わせとしては、炭化水素化合物が、n−ペンタン、iso−ペンタンである場合、ルイス塩基性化合物としてジエチルエーテル、炭化水素化合物が、n−ヘキサン、2−メチル−ペンタン、3−メチル−ペンタン、メチルシクロペンタンである場合、ルイス塩基性化合物としてテトラヒドロフラン、炭化水素化合物が、2−メチル−ヘキサン、3−メチル−ヘキサン、3−エチル−ペンタン、シクロヘキサンである場合、ルイス塩基性化合物としてテトラヒドロピラン、炭化水素化合物が、n−ヘプタン、2−メチル−ヘキサン、3−メチル−ヘキサン、3−エチル−ペンタンシクロヘキサンである場合、ルイス塩基性化合物としてトリエチルアミンがあげられる。
【0018】
重合溶液から炭化水素化合物溶媒を分離精製する方法としては、まず、重合溶液を低圧のホッパー等の分離手段に導入して、フラッシュさせること等により、溶媒と未反応のモノマーとを含む気体成分と、重合体成分とに分離する。次いで、後述の抽出蒸留により、エーテル化合物および第三級アミンからなる化合物群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基性化合物を、溶媒から除去する。溶媒と未反応のモノマーとを含む気体成分と、重合体成分とに分離する方法としては、公知の方法が用いられる。また、抽出蒸留前および/または抽出蒸留後に、公知の精製方法を行ってもよい。抽出蒸留を行った後に、精留塔および/または脱水塔により精製を行うことが好ましい。
【0019】
ルイス塩基性化合物を含有する炭化水素化合物溶媒を抽出蒸留して、該炭化水素化合物溶媒からエーテル化合物および第三級アミンからなる化合物群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基性化合物を除去する方法においては、例えば、図1に示す抽出蒸留装置を用いることができる。
【0020】
抽出蒸留塔(1)に、重合溶液から分離されたルイス塩基性化合物を含有する炭化水素化合物溶媒(a)を、抽出蒸留塔(1)の上段に設けられた原料供給管(2)を通して供給する。抽出蒸留塔(1)の下段に設けられた抽出剤供給管(3)を通して、抽出剤(b)を抽出蒸留塔(1)に供給する。抽出剤(b)は加熱蒸気の状態でも供給してもよい。炭化水素化合物溶媒(a)と抽出剤(b)は、連続的に供給される。抽出蒸留塔(1)内で、抽出蒸留が行われ、塔頂の留出管(4)から、抽出剤(b)とルイス塩基性化合物が留出される。抽出蒸留塔(1)の塔底から抜出管(12)を通して、炭化水素化合物溶媒が抜き出される。
【0021】
抽出蒸留塔(1)の塔底と抜出管(12)との間には、図2に示すように、必要に応じて、冷却器(13)および回収タンク(14)を設けてもよい。
【0022】
抽出蒸留に用いる抽出剤としては、ルイス塩基性化合物との親和力が大きい化合物がもちいられ、アセトン、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、水をあげることができる。また、抽出剤としては、炭化水素化合物溶媒の沸点およびルイス塩基性化合物の沸点よりも沸点が高い化合物が好ましい。
【0023】
抽出蒸留塔(1)の操作条件は、各成分が分離できる条件であればよく、通常の蒸留条件が採用される。通常、常圧下で温度20〜200℃の範囲で行われる。また、通常、段数は10〜70段であり、還流比は0.1〜50である。また、連続的処理法でもよく、回分処理法でもよい。
【0024】
抽出蒸留塔(1)の原料供給管(2)および抽出剤供給管(3)の供給位置は必要に応じて任意に調整され、炭化水素化合物溶媒(a)の供給量は、通常1〜50T/hの範囲である。
【0025】
抽出蒸留塔の材質としては、炭素鋼ならびにオーステナイト系ステンレス鋼であればよく、SS400ならびにSUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L等があげられる。
【0026】
重合は、バッチ重合法で行われてもよく、連続重合法で行われてもよい。また、1槽の反応器を用いて重合を行ってもよく、2槽以上の反応器を用いて重合を行ってもよい。反応器としては、槽型反応器、管型反応器などが用いられる。重合溶液の攪拌には、公知の攪拌翼が用いられ、アンカー翼、パドル翼、プロペラ翼、格子翼、ヘルカルリボン翼、マックスブレンド翼などがあげられる。
【0027】
重合は、反応器内を重合溶液で満液として行ってもよく、気相部を設けて行ってもよい。該気相部は、単量体ガス相であってもよく、窒素やアルコンなどの不活性ガス相としてもよい。また、該気相部の単量体等の蒸気を反応器外に取り出し、凝縮機で該蒸気を凝縮させ、凝縮液を反応器内に戻すことを行ってもよい。
【0028】
重合温度は、通常、25〜100℃であり、好ましくは35〜90℃であり、より好ましくは50〜80℃である。重合圧力は、通常、0〜5MPaであり、好ましくは0〜1MPaである。
【0029】
本発明は、高段数の精留塔を用いて炭化水素化合物溶媒からルイス塩基性化合物を除去する方法に比べて、ルイス塩基性化合物の除去率を高くすることができる。また、液液抽出法による除去方法に比べて、経済的に優れる。
【0030】
本発明で製造された共役ジエン系重合体は、タイヤ、靴底、床材、防振材などに用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって、本発明をより詳細に説明する。
【0032】
実施例1
テトラヒドロフランを600ppm含有するヘキサン溶媒の抽出蒸留について、AspenTech社製のソフトウェアであるAspenPlus(プロセスシミュレータ)を用いて計算した。計算条件は次の条件とし、抜出管9および12での抜出物の組成、温度等を計算した。計算結果を表1に示す。
【0033】
<計算条件>
(1)抽出蒸留装置
図1に示す形式の装置
(2)抽出蒸留塔の操作条件
理論段数:18段
操作圧力:1.01bar
還流比 :18.5
凝縮器 :全縮型
(3)テトラヒドロフランを600ppm含有するヘキサン溶媒
供給位置:塔頂より数えて1段目
供給速度:8250kg/hr
供給温度:25℃
(4)抽出剤
物質 :水
供給位置:塔頂より数えて18段目
供給速度:1000kg/hr
供給温度:25℃
【0034】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属触媒を重合開始剤として用いて、共役ジエンと必要に応じて他の単量体とを炭化水素化合物溶媒中で重合する共役ジエン系重合体の製造方法であって、
共役ジエン系重合体のビニル結合含有量の調整剤としてエーテル化合物および第三級アミンからなる化合物群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基性化合物を用いて重合を行った重合溶液から炭化水素化合物溶媒を分離精製し、該炭化水素化合物溶媒を重合溶媒として重合反応器に再供給する工程を有し、
該工程において、エーテル化合物および第三級アミンからなる化合物群から選ばれる少なくとも1種のルイス塩基性化合物を、炭化水素化合物溶媒から抽出蒸留によって除去する共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項2】
炭化水素化合物溶媒が炭素原子数5〜7の飽和炭化水素化合物溶媒であり、ルイス塩基性化合物が、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテルおよびトリエチルアミンからなる化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、炭化水素化合物溶媒の沸点とルイス塩基性化合物の沸点との差が10℃以下である請求項1に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項3】
抽出蒸留に用いる抽出剤が、アセトン、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンまたは水であり、炭化水素化合物溶媒の沸点およびルイス塩基性化合物の沸点よりも沸点が高い化合物である請求項1または2に記載の共役ジエン系重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−235751(P2010−235751A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84834(P2009−84834)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】