説明

共役不飽和基に対する求核付加反応によって作製される生体適合材料

【課題】重合性ヒドロゲルを含む合成生体適合材料の提供。
【解決手段】生体適合材料を作製するための方法であって、2つの組成物の重合が可能となる条件下で該生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物を化合させる段階を含み、求核付加による強い求核試薬と共役不飽和結合または共役不飽和基との間の自己選択的反応によって該重合が生じ、各組成物の官能価(functionality)が少なくとも2であり、該生体適合材料が、処理されていない(unprocessed)アルブミンを含まず、該共役不飽和結合または共役不飽和基がマレイミドまたはビニルスルホンではない方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に関する相互参照
本出願は、1999年2月1日に提出された米国特許出願第60/118,093号に対する優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本発明は、共役不飽和基に対する求核付加反応によって作製される生体適合材料、およびこのような生体適合材料の使用に関する。
【0003】
重合性ヒドロゲルを含む合成生体適合材料を、医薬品的および外科的な用途を含む種々の用途に用いることができる。それらは例えば、治療用分子を対象に送達するため、接着剤または密封剤として、組織工学用および創傷治癒用の足場として、ならびに細胞移植用装置として用いることができる。
【0004】
重合性生体適合材料の分野は大きく進歩しているが、このような生体適合材料を生体内で最適な形で用いるためにはさらに開発が必要である。例えば、生体適合材料の組成物の自己選択性が高くないため、感受性生体物質の存在下での生体適合材料の作製は困難である。
【発明の概要】
【0005】
重合ヒドロゲルを含む、新たな重合生体適合材料を医療用に開発した。それらは、感受性生体物質の存在下で実現されうる方法で2つまたはそれ以上の組成物を重合または架橋させるために、強い求核試薬と共役不飽和物との間の付加反応を用いる点で独特である。これには、タンパク質およびDNAを含む薬剤の存在下での生体適合材料の作製、細胞および細胞集塊の存在下での生体適合材料の作製のほかに、体の内部または表面のどちらかにおけるインビボでの生体適合材料の作製も含まれると考えられる。用いる強い求核試薬と共役不飽和物との間の付加反応の自己選択性が高いため、これらの生体適合材料を感受性生体物質の存在下で作製させることが可能である。本明細書で述べる方法において特に関心対象の求核試薬はチオールである。
【0006】
感受性生体物質の存在下での生体適合材料の作製において、2つまたはそれ以上の液体組成物を混合して反応させ、弾性固体、粘弾性固体(一般的な固体ゲルなど、例えば、ゼラチンなどのゲル)、粘弾性液体(流動化させうる一般的なゲルなど、例えば、ワセリンなどのゲル)、ゲル状微粒子から構成される粘弾性液体(Carbopol(登録商標)ゲルなど)、またはさらには、混合する2つの前駆組成物のいずれかよりも粘性がかなり高い粘性液体のいずれかを作製することができる。前駆物質の最終物質への化学的変換は選択性が高いため、生体物質が生体それそのものである場合を含め、感受性生体物質の存在下で行なわれうる。
【0007】
高い生体模倣性を有する可能性のある合成ポリマーの新規ファミリーを開発した。これらのポリマーは、(i)実験室またはインサイチュー移植部位のどちらかにおいて液体前駆物質から重合性の直線状または架橋性生体適合材料へと変換されることができる;(ii)ヒドロゲルまたはより実質的に非膨潤性の材料であることができる;(iii)細胞侵入に対する牽引摩擦力をもたらす接着部位としての役割を果たす生物活性分子を提供することができる;(iv)細胞移動時に細胞によって産生されるコラゲナーゼまたはプラスミンなどの酵素に反応し、材料を分解させるためのプロテアーゼ基質部位としての役割を果たす生物活性分子を提供することができる;(v)材料を増殖因子と結合させ、その後細胞の要求に応じて増殖因子を遊離させることにより、生体模倣的な方法でそれらを相互作用させるための増殖因子結合部位を提供することができる;および(vi)ゲルを構成するポリマーの骨格内部に含まれる基の加水分解または酵素的分解によってタンパク質医薬を送達することができる。
【0008】
したがって1つの局面において、本発明は生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物を2つの組成物の重合が可能となる条件下で化合させることを含み、重合が強い求核試薬と共役不飽和結合または共役不飽和基との間の求核付加による自己選択的反応によって生じるような、生体適合材料を作製するための方法を特徴とする。各組成物の官能価は少なくとも2であり、生体適合材料は処理されていないアルブミンを含まない。さらに、共役不飽和結合または共役不飽和基は、マレイミドまたはビニルスルホンではない。
【0009】
本発明の第1の局面の1つの態様において、組成物はオリゴマー、ポリマー、生合成タンパク質またはペプチド、天然のペプチドまたはタンパク質、処理された天然のペプチドまたはタンパク質、および多糖類からなる群より選択される。ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン-コ-アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレン-コ-ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-コ-マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)、またはポリ(エチレンオキシド)-コ-ポリ(プロピレンオキシド)ブロック共重合体であってよい。ペプチドは接着部位、増殖因子結合部位またはプロテアーゼ結合部位を含みうる。
【0010】
もう1つの態様において、組成物は強い求核試薬または共役不飽和基もしくは共役不飽和結合を含むように官能性を付与される。好ましくは、強い求核試薬はチオール、またはチオールを含む基である。好ましくは、共役不飽和基はアクリル酸エステル、アクリルアミド、キノン、または、例えば2-ビニルピリジニウムもしくは4-ビニルピリジニウムなどのビニルピリジニウムである。もう1つの態様において、1つの組成物の官能価は少なくとも3である。
【0011】
本発明の第1の局面のさらに他の態様において、本方法はさらに、前駆組成物を、接着部位、増殖因子結合部位またはヘパリン結合部位を含み、強い求核試薬または共役不飽和結合もしくは共役不飽和基のいずれかをも含む分子と化合させる段階を含む。好ましくは、強い求核試薬はチオールである、または共役不飽和結合もしくは共役不飽和基はアクリル酸エステル、アクリルアミド、キノンもしくはビニルピリジニウムである。
【0012】
本発明の第1の局面のさらに他の態様において、生体適合材料はヒドロゲルである。生体適合材料は分解性であってもよい。生体適合材料を感受性生体分子の存在下または細胞もしくは組織の存在下で作製してもよい。また、生体適合材料を動物の体の内部または表面で作製してもよい。
【0013】
本発明の第1の局面のさらに別の態様において、本方法はさらに、前駆組成物を重合の前に促進剤と化合させる段階を含む。また、本方法はさらに、前駆組成物を、少なくとも1つの共役不飽和結合または共役不飽和基および少なくとも1つのアミン反応性基を含む組成物と混合することを含んでもよい。細胞または組織表面の重合部位に対して、少なくとも1つの共役不飽和結合または共役不飽和基および少なくとも1つのアミン反応性基を含む付加的な組成物を適用してもよい。
【0014】
第2の局面において、本発明は、生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物を2つの組成物の重合が可能となる条件下で化合させることによって作製される生体適合材料であって、重合が強い求核試薬と共役不飽和結合または共役不飽和基との間の求核付加による自己選択的反応によって生じるような生体適合材料を特徴とする。各組成物の官能価は少なくとも2であり、生体適合材料は処理されていないアルブミンを含まず、共役不飽和結合または共役不飽和基はマレイミドまたはビニルスルホンではない。
【0015】
本発明の第2の局面の1つの態様において、組成物は、オリゴマー、ポリマー、生合成タンパク質またはペプチド、天然のペプチドまたはタンパク質、処理された天然のペプチドまたはタンパク質、および多糖類からなる群より選択される。ポリマーは、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン-コ-アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレン-コ-ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-コ-マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)またはポリ(エチレンオキシド)-コ-ポリ(プロピレンオキシド)ブロック共重合体であってよい。ペプチドは接着部位、増殖因子結合部位またはプロテアーゼ結合部位を含みうる。
【0016】
本発明の第2の局面のもう1つの態様において、組成物は強い求核試薬または共役不飽和基もしくは共役不飽和結合を含むように官能性を付与される。好ましくは、強い求核試薬はチオール、またはチオールを含む基である。好ましくは、共役不飽和基はアクリル酸エステル、アクリルアミド、キノン、または例えば2-ビニルピリジニウムもしくは4-ビニルピリジニウムなどのビニルピリジニウムである。もう1つの態様において、1つの組成物の官能価は少なくとも3である。
【0017】
本発明の第2の局面のさらに他の態様において、本方法はさらに、前駆組成物を、接着部位、増殖因子結合部位またはヘパリン結合部位を含み、強い求核試薬または共役不飽和結合もしくは共役不飽和基のいずれかをも含む分子と化合させる段階を含む。好ましくは、強い求核試薬はチオールであるか、または共役不飽和結合もしくは共役不飽和基はアクリル酸エステル、アクリルアミド、キノンもしくはビニルピリジニウムである。
【0018】
本発明の第1の局面のさらに他の態様において、生体適合材料はヒドロゲルである。生体適合材料は分解性であってもよい。生体適合材料を感受性生体分子の存在下または細胞もしくは組織の存在下で作製してもよい。また、生体適合材料を動物の体の内部または表面で作製してもよい。
【0019】
本発明の第2の局面のさらに別の態様において、本方法はさらに、前駆組成物を重合の前に促進剤と化合させる段階を含む。また、本方法はさらに、前駆組成物を、少なくとも1つの共役不飽和結合または共役不飽和基および少なくとも1つのアミン反応性基を含む組成物と混合することを含んでもよい。細胞または組織表面の重合部位に対して、少なくとも1つの共役不飽和結合または共役不飽和基および少なくとも1つのアミン反応性基を含む付加的な組成物を適用してもよい。
【0020】
第3の局面において、本発明は、治療用物質を動物の細胞、組織、器官、器官系または身体に送達する方法であって、細胞、組織、器官、器官系または身体を本発明の第2の局面の生体適合材料と接触させることを含み、生体適合材料が治療用物質を含んでいて、治療用物質がそれによって動物の細胞、組織、器官、器官系または身体へと送達されるような方法を特徴とする。
【0021】
1つの態様において、治療用物質は、タンパク質、天然または合成性の有機分子、DNAまたはRNAなどの核酸分子、およびウイルス粒子からなる群より選択される。もう1つの態様において、治療用物質はプロドラッグである。さらにもう1つの態様において、核酸分子はアンチセンス核酸分子である。
【0022】
第4の局面において、本発明は、細胞内殖を許容する条件下である部位に足場を導入する段階を含む、組織を再生させる方法を特徴とする。この足場は本発明の第2の局面の生体適合材料を含みうる。
【0023】
本発明の第4の局面の態様において、足場は細胞によってあらかじめ播種される。組織は骨、皮膚、神経、血管および軟骨からなる群より選択されうる。
【0024】
第5の局面において、本発明は、何らかの部位を本発明の第2の局面の生体適合材料前駆組成物と接触させること、およびその部位で組成物を重合させる段階を含む、癒着、血栓症または再狭窄を防止する方法を特徴とする。
【0025】
第6の局面において、本発明は、液体または気体の流れを封止する方法であって、動物の体内のある部位を、少なくとも1つの共役不飽和結合または共役不飽和基および少なくとも1つのアミン反応性基を含む組成物をさらに含みうる本発明の第2の局面の生体適合材料前駆組成物と接触させる段階、ならびにその部位で組成物を重合させる段階を含む方法を特徴とする。
【0026】
本発明の第6の局面の好ましい態様において、部位は肺、血管、皮膚、硬膜障壁または腸である。
【0027】
第7の局面において、本発明は、生体適合材料の前駆組成物を細胞または組織と化合させること、および組成物を重合させる段階を含む、細胞または組織を封入する方法であって、重合が強い求核試薬と共役不飽和結合または共役不飽和基との間の自己選択的反応によって生じ、細胞または組織が重合生体適合材料によって封入されるような方法を特徴とする。
【0028】
第8の局面において、本発明は、生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物を2つの組成物の重合が可能となる条件下で化合させる段階を含む、生体適合材料を作製するための方法であって、重合がアミンと共役不飽和結合または共役不飽和基との間の求核付加による自己選択的反応によって生じ、各組成物の官能価が少なくとも2であり、生体適合材料が処理されていないアルブミンを含まず、不飽和結合または不飽和基がマレイミドまたはビニルスルホンでないような方法を特徴とする。
【0029】
第9の局面において、本発明は、生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物を2つの組成物の重合が可能となる条件下で化合させることによって作製される生体適合材料であって、重合がアミンと共役不飽和結合または共役不飽和基との間の求核付加による自己選択的反応によって生じ、各組成物の官能価が少なくとも2であり、生体適合材料が処理されていないアルブミンを含まず、不飽和結合または不飽和基がマレイミドまたはビニルスルホンでないような生体適合材料を特徴とする。
【0030】
「生体適合材料」とは、身体と、その表面でまたはその内部への移植によって接触させるための材料を意味する。好ましくは、生体適合材料は強い求核試薬と共役不飽和物との間の共役付加反応によって作製される。
【0031】
本明細書で用いる「重合」および「架橋」という用語は、多数の前駆組成物分子を連結させて分子量を実質的に増加させることを意味するように用いられる。「架橋」はさらに、ポリマー網目構造が一般的に得られる分枝形成を示す。
【0032】
「自己選択的」とは、反応の第1の前駆組成物が反応の第2の前駆組成物と反応部位において混合物中に存在する他の組成物よりもはるかに速く反応し、かつ、反応の第2の前駆組成物が反応の第1の前駆組成物と反応部位において混合物中に存在する他の組成物よりもはるかに速く反応することを意味する。混合物は他の生体物質、例えば、薬物、ペプチド、タンパク質、DNA、細胞、細胞集塊および組織などを含んでもよい。本明細書で用いる強い求核試薬は他の生体化合物よりも共役不飽和物と選択的に結合し、共役不飽和基は他の生体化合物よりも強い求核試薬と選択的に結合する。
【0033】
本発明の方法において最も高度の自己選択性が求められる場合には、チオールが求核試薬として選択される。本発明の方法において最も高いレベルの選択性が必要ではない場合には、アミンを強い求核試薬として用いてもよい。本発明の自己選択的反応を終了させるために用いる条件は、本明細書に提示するように、自己選択性の程度が高まるように変更することができる。例えば、低pKのアミンの選択による生体適合材料の作製における強い求核試薬として用いる、重合させる最終前駆物質溶液をpHがpK付近となるように処方する場合には、不飽和物と提供されたアミンとの反応が優先的となり、これによって自己選択性が得られる。
【0034】
「強い求核試薬」とは、極性結合作製反応において求電子試薬に電子対を供与しうる分子を意味する。好ましくは、強い求核試薬の求核性は生理的pHでHOよりも強い。強い求核試薬の例にはチオールおよびアミンがある。
【0035】
チオールは、高い自己選択性を示すことから、本発明に用いるのに好ましい強い求核試薬である。細胞外において見い出されるタンパク質には立体的に接近しうるチオールはほとんど存在しない。アミンを有しない感受性生体分子、例えば多くの薬剤の存在下で生体適合材料作製反応が行われる場合には、特にアミンも有用かつ自己選択的である。
【0036】
「共役不飽和結合」とは、炭素-炭素、炭素-ヘテロ原子もしくはヘテロ原子-ヘテロ原子多重結合と単結合が交互に存在すること、または官能基の合成ポリマーもしくはタンパク質などの高分子との結合を意味する。このような結合は付加反応を生じうる。
【0037】
「共役不飽和基」とは、付加反応しうる多重結合を有する、炭素-炭素、炭素-ヘテロ原子またはヘテロ原子-ヘテロ原子多重結合と単結合が交互に存在することを含む、分子または分子の領域を意味する。共役不飽和基の例には、アクリル酸エステル、アクリルアミド、キノン、および例えば2-または4-ビニルピリジニウムなどのビニルピリジニウムが非制限的に含まれる。
【0038】
「実質的に純粋なペプチド」、「実質的に純粋なポリペプチド」または「実質的に純粋なタンパク質」とは、天然の状態で付随している組成物から分離されたポリペプチドを意味する。本明細書で用いる場合、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質という用語は互換的に用いられる。典型的には、ポリペプチドは、天然の状態で伴っているタンパク質および天然の有機分子を除いた割合が重量にして少なくとも60%である場合、実質的に純粋である。好ましくは、ポリペプチドは、重量にして少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、そして最も好ましくは少なくとも99%純粋である。実質的に純粋な関心対象のポリペプチドは、例えば、天然の提供源(例えば、細胞、細胞集塊または組織)からの抽出、所望のポリペプチドをコードする組換え核酸の発現、またはタンパク質の化学合成によって得ることができる。純度は、例えばカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、アガロースゲル電気泳動、光学密度またはHPLC分析などの任意の適した方法を用いてアッセイしうる。
【0039】
タンパク質は、天然の状態で付随している混入物から分離されている場合は、天然の状態で伴う組成物を実質的に含まない。このため、化学的に合成されたタンパク質、または天然で生じた細胞と異なる無細胞系によって産生されたタンパク質は、天然の状態で伴う組成物を実質的に含まないと考えられる。したがって、実質的に純粋なポリペプチドには、真核生物に由来するが大腸菌(E. coli)またはその他の原核生物において合成されたものが含まれる。
【0040】
「精製された核酸」とは、本発明の核酸が由来する生物体の天然のゲノムにおいて、遺伝子の近傍に位置する遺伝子を含まない核酸を意味する。このため、この用語には、例えば、ベクター、自律複製性プラスミドもしくはウイルス、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組換えDNA、またはその他の配列から独立した分離分子(例えば、PCRまたは制限酵素消化によって生じるcDNAまたはゲノムDNAもしくはcDNAの断片)として存在する組換えDNAが含まれる。また、付加的なポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAもこれに含まれる。
【0041】
「官能性を付与する」とは、官能基または官能部分の付加が生じるような方法で改変することを意味する。例えば、分子を強い求核試薬または共役不飽和物にさせる分子の導入により、分子に官能性を付与することができる。好ましくは、PEGなどの分子は官能性を付与されて、チオール、アミン、アクリル酸エステルまたはキノンとなる。
【0042】
タンパク質には特に、ジスルフィド結合の部分的に還元または完全に還元することによって遊離チオールを作り出すことにより、効果的に官能性を付与することもできる。
【0043】
「官能価」とは、分子にある反応部位の数を意味する。本明細書で用いる場合、強い求核試薬および共役不飽和物の官能価はそれぞれ少なくとも2であると考えられる。官能価がそれぞれ2である2つの組成物、例えば強い求核試薬および共役不飽和物を混合すると直線状の重合性生体適合材料が生じると考えられ、官能価がそれぞれ少なくとも2であって一方の組成物の官能価が2を上回る2つの組成物を混合すると架橋性生体適合材料が生じると考えられる。
【0044】
「接着部位」とは、ある分子、例えば細胞表面の接着促進受容体が結合するペプチド配列を意味する。接着部位の例には、フィブロネクチン由来のRGD配列およびラミニン由来のYIGSR配列が非制限的に含まれる。好ましくは、接着部位は本発明の生体適合材料に組み込まれる。
【0045】
「増殖因子結合部位」とは、増殖因子または増殖因子と結合する分子が結合するペプチド配列を意味する。例えば、増殖因子結合部位にはヘパリン結合部位が含まれる。この部位はヘパリンと結合し、続いてヘパリンはヘパリン結合性の増殖因子、例えば、bFGF、VEGF、BMPまたはTGFβと結合すると考えられる。
【0046】
「プロテアーゼ結合部位」とは、ある酵素の基質であるペプチド配列を意味する。
【0047】
「アンチセンス核酸」とは、その長さとは無関係に、関心対象のタンパク質のコード遺伝子のコード鎖に対して相補的な核酸配列を意味する。好ましくは、アンチセンス核酸は細胞内に存在する場合に、関心対象のタンパク質の生物活性を低下させることができる。好ましくは、対照と比べて少なくとも10%、より好ましくは25%、最も好ましくは100%低下している。
【0048】
「生物活性」とは、関心対象のタンパク質によって媒介される機能的現象を意味する。いくつかの態様において、これにはあるポリペプチドと別のポリペプチドとの相互作用を測定することによってアッセイされる現象が含まれる。これには、関心対象のタンパク質が細胞の増殖、分化、死、移動、接着、他のタンパク質との相互作用、酵素活性、タンパク質のリン酸化もしくは脱リン酸化、転写または翻訳に対する影響をアッセイすることも含まれる。
【0049】
「感受性生体分子」とは、細胞内もしくは生体内において見い出される分子、または細胞もしくは生体に対する治療薬として用いうる分子であって、他の分子の存在下で他の分子と反応しうると考えられる分子を意味する。感受性生体分子の例には、ペプチド、タンパク質、核酸および薬剤が非制限的に含まれる。本発明では、生体適合材料を感受性生体物質の存在下で、感受性生体物質に有害な影響を及ぼさずに作製することができる。
【0050】
本明細書で用いる場合、「再生する」とは、組織の一部または全体が増殖して元の状態に戻ることを意味する。例えば、本発明は、外傷、腫瘍摘出もしくは脊椎固定術の後に骨を再生させる方法、または糖尿病性足部潰瘍、褥瘡および静脈不全の治癒を補助する目的で皮膚を再生させるための方法を特徴とする。再生可能と考えられるその他の組織には、神経、血管および軟骨組織が非制限的に含まれる。
【0051】
「細胞移植」とは、細胞、細胞集塊または組織を対象に移植することを意味する。本発明の生体適合材料を用いることにより、対象における移植された細胞、細胞集塊または組織を対象の防御系から分離しながら、正常な細胞機能に必要な分子の選択的送達を行わせることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】システインに隣接するアミノ酸残基の変更が、アクリル酸エステル(PEG-アクリル酸エステル)への共役付加速度に及ぼす影響に関するグラフである。
【図2】PEGジアクリル酸エステル上のアクリル酸エステルへのチオール(システイン上の)付加の反応速度を調べるためのモデルとして用いた共役付加反応の概略図である。
【図3】チオール(システイン上の)とPEGジアクリル酸エステルとの間の付加反応に対するpHの影響を示したグラフである。
【図4】さまざまな量のPEGDAが、試薬1モル当たりの吸光度である平均吸光係数(すなわち、吸光度をPEGDA濃度とシステイン濃度の合計で割ったもの;この合計は2.5×10Mに保たれる)に及ぼす影響に関するグラフである。
【図5】共役不飽和物の部位の近傍にある基の立体的影響が、チオール(システイン上の)とアクリル酸エステル、クロトン酸エステルまたはジメチルアクリル酸エステルとの反応およびそれによって官能性を付与されたPEGに及ぼす影響を示したグラフである。
【図6】RGDペプチド配列を本発明のヒドロゲルに組み込むことが、細胞の接着および伸展に及ぼす影響を示したグラフである。
【図7】ヒドロゲル包埋コラーゲン(ヘリスタット(Helistat))スポンジからのミオグロビンの放出を示したグラフである。第14日に材料にプラスミンを添加しており、これによってプラスミン感受性ヒドロゲルからのミオグロビンの放出量が増したことに注目されたい。
【図8】水系で調製した75%固体ゲルの歪み-応力曲線である。ゲルはペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570を用いてリン酸緩衝生理食塩水、pH 9.0中に75%固体として調製した。圧縮荷重を加えた場合、ゲルは約37%の変形および2MPaの極限強さを示した。
【図9】PEGジアクリル酸エステル570と入れ換えに種々の量のペンタエリトリトールトリアクリル酸エステルを加えた水系で調製した75%固体ゲルの歪み-応力曲線である。ゲルはペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570およびペンタエリトリトールトリアクリル酸エステルを用いてリン酸緩衝生理食塩水、pH 9.0中にて75%固体として調製した。このゲルにより、疎水性トリアクリル酸エステルの含有量によってゲルの剛性が操作されることが示された。
【図10】ゲルへの無機粒子または界面活性剤の添加がゲルの極限強さに及ぼす影響を示したグラフである。水系で75%固体(75%固体ゲル)として調製したゲルを、BaSO4 10%を添加した場合、または界面活性剤ソルビタンモノオレイン酸エステル(エマルジョン(Emulsion))1%を添加した場合と比べた。あらかじめ反応させた前駆物質から得られたゲルと、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570前駆物質(あらかじめ反応させた前駆物質)によって得られたゲルとの比較も行った。
【図11】ゲルへの無機粒子または界面活性剤の添加がゲルの剛性に及ぼす影響を示したグラフである。水系で75%固体(75%固体ゲル)として調製したゲルを、BaSO4 10%を添加した場合、または界面活性剤ソルビタンモノオレイン酸エステル(Emulsion)1%を添加した場合と比べた。あらかじめ反応させた前駆物質から得られたゲルと、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570前駆物質(あらかじめ反応させた前駆物質)によって得られたゲルとの比較も行った。
【図12】フュームドシリカ(14nm)を加えた水系で調製したゲルの歪み-応力曲線である。ゲルはペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570を用い、フュームドシリカ粒子(14nm)で補強した上でリン酸緩衝生理食塩水、pH 9.0中にて調製した。
【図13】N-メチルピロリドン/PEG 400共溶媒中で調製した10%固体ゲルの歪み-応力曲線である。ゲルはペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570を用い、10%固体としてN-メチルピロリドン/PEG 400中にて調製した。
【図14】ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570の弾性率および複素弾性率(G'およびG'')を示している。pH 9.0のリン酸緩衝生理食塩水は加えずに、ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570を1 SHに対して1 C=Cの比で混合した。この混合物をボルテックスした後に、弾性率および複素弾性率をレオロジーにより時間的に決定した。
【図15】pH 9.0のリン酸緩衝生理食塩水で活性したペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570の37℃での弾性率および複素弾性率(G'およびG'')を示している。ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)およびPEGジアクリル酸エステル570を1 SHに対して1 C=Cの比で混合し、pH 9.0のリン酸緩衝生理食塩水を加えた。混合物をボルテックスした後に弾性率(◆)および複素弾性率(■)をレオロジーにより時間的に決定した。
【発明を実施するための形態】
【0053】
詳細な説明
I.生体適合材料のインビボ合成または適用
生体適合材料の作製のために用いた化学反応系
生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物をインサイチューまたは感受性生体物質の存在下で自己選択性の高い方法で重合または架橋(この2つの用語を本明細書では同義語として用いる)させるための新規化学反応スキームを開発した。一般には2つの前駆組成物を混合する。これらの2つの前駆組成物は反応速度において自己選択的である(すなわち、第1の前駆組成物は感受性生体物質における他の組成物よりも第2の前駆組成物とはるかに速く反応し、しかも、第2の前駆組成物は感受性生体物質における他の組成物よりも第1の前駆組成物とはるかに速く反応する)。これらの前駆組成物の官能価がいずれも少なくとも2であってその一方の官能価が2を上回る場合には、その系は自己選択的に反応して架橋性生体適合材料を作製すると考えられる。「官能価」という用語は本明細書では、ポリマー科学で用いられる意味(すなわち、反応部位の数)で用いられる。したがって、官能価がそれぞれ2である2つの組成物を混合すると直線状の重合性生体適合材料が生じると考えられ、官能価がそれぞれ少なくとも2であって組成物の一方の官能価が2を上回る2つの組成物を混合すると架橋性生体適合材料が生じると考えられる。
【0054】
どちらの前駆組成物の官能価も2である場合には、直線状の重合性生体適合材料が生じると考えられる。いずれの状況も有用と考えられる。架橋性生体適合材料の場合には、組成物が極めて親水性であっても全材料は完全な固体として存続し、体内全体には分散しないことが可能である。このような非分散系が直線状の重合性生体適合材料に望まれる場合には、結果として得られる生体適合材料も水または体液に不溶性であるように、少なくとも1つの前駆組成物が疎水性であると有用である。例えば、2つの前駆組成物が別の方法で相互作用して不溶性となる場合、または前駆物質の一方もしくは両方がpH、温度もしくは他の刺激に反応して溶解性が上昇もしくは低下する場合、または一方の前駆組成物がポリカチオンで他方の前駆組成物がポリアニオンである場合、または一方の前駆組成物が他方と強い水素結合を生じる場合に、他のアプローチも可能である。
【0055】
本発明の化学反応系では、一方の組成物が強い求核試薬を有し、他方の組成物が共役不飽和物または共役不飽和物を有する付加反応を利用する。本発明において強い求核試薬として特に関心対象であるのはチオールである。好ましくは、この系ではチオールと共役不飽和物(例えば、アクリル酸エステルまたはキノン)との間の共役付加反応を利用する。この反応系は自己選択的なものにすることができ、すなわち、関心対象の大半の感受性生体化合物(大半の薬剤、ペプチド、タンパク質、DNA、細胞、細胞集塊および組織)において見い出される他の化学基とは実質的に反応しない。これは、これらの組成物の一方または両方がポリマーまたはオリゴマーである場合に特に有用であるが、他の可能性も本明細書に示している。
【0056】
タンパク質は、側鎖の末端にチオールが存在するアミノ酸であるシステインを含んでいる。しかし、タンパク質に存在する遊離チオールの数は極めて少なく、ほとんどのタンパク質は偶数のシステイン残基を含み、これらは後に対になってタンパク質の種々の領域との間にジスルフィド架橋を形成する。タンパク質の中には奇数のシステイン残基を含むものもあるが、これらの大部分はジスルフィド結合性二量体として存在し、そのうえ天然のタンパク質には遊離チオール残基は存在しない。このため、タンパク質に存在する遊離チオールの数は極めて少ない。グルタチオンなどのいくつかの重要な電子伝達分子は遊離チオールを含むが、これらの分子の細胞内での空間的配置は一般に限られている。したがって、細胞外に存在する共役不飽和構造は生理的条件に近い条件ではほとんどのタンパク質と実質的に反応しないと考えられる。アミンも求核試薬であるが、求核試薬としてはチオールほど優れてはいない。反応環境のpHはこれを考慮すると重要である。特に、非プロトン化アミンは一般にプロトン化アミンよりも優れた求核試薬である。生理的pHでは、リジン側鎖上のアミンはほぼ完全にプロトン化されており、このため反応性はそれほど高くない。ペプチドおよびタンパク質のN末端のαアミンは側鎖εアミンよりもpKがはるかに低く、このため、生理的pHでは、これはリジン側鎖のεアミンよりも共役付加に対する反応性が高い。
【0057】
しかしながら、チオールは実質的にプロトン化アミンよりも反応性が高い。上記のようにpHはこれを考慮すると重要であり、脱プロトン化チオールは実質的にプロトン化チオールよりもかなり反応性が高い。以上から、アクリル酸エステルまたはキノンなどの共役不飽和物とチオールとの反応によって2つの前駆組成物を生体適合材料へと変換させる付加反応は、関心対象のチオールのほとんどが脱プロトン化され(このため反応性がより高くなり)、しかも関心対象のアミンのほとんどはプロトン化された状態に保たれる(このため反応性が低い)、ほぼpH 8で(すなわち最も速く、最も自己選択的に)行われることがしばしばであると考えられる。チオールを第1の組成物として用いる場合には、アミンと比べてチオールとの反応性に対して選択的である共役構造が非常に望ましい。
【0058】
共役構造が細胞外で保たれる場合には、反応し、その結果毒性を誘発する反応性求核試薬の数は極めて少ない。この空間的制限は一般に、共役組成物を高分子量にすること、親水性にすること、またはその両方によって実現可能である。
【0059】
ポリエチレングリコール(PEG)は極めて好都合な構成単位を提供する。直線状(末端が2つあることを意味する)または分枝状(末端が2つを上回ることを意味する)のPEGは容易に購入または合成でき、続いてPEG末端基に官能性を付与してチオールなどの強い求核試薬またはアクリル酸エステルもしくはキノンなどの共役構造を導入することができる。これらの組成物を互いに混合すると、または対応する組成物と混合すると、ヒドロゲル材料が作製されると考えられる。PEG組成物を非PEG組成物と反応させて、結果として得られる生体適合材料の物理的特性、透過性および含水量を操作するために、いずれかの組成物の分子量または親水性を調節することもできる。これらの材料は一般に、以下にさらに詳細に述べる医療用インプラントに有用である。
【0060】
生体適合材料、特にインビボで分解することが望ましい生体適合材料の形成においては、ペプチドが非常に好都合な構成単位を提供する。2つまたはそれ以上のシステイン残基を含むペプチドを合成することは簡単であり、続いてこの組成物を生体適合材料、特にヒドロゲル生体適合材料の求核性前駆組成物として容易に利用することができる。例えば、2つの遊離システイン残基を有するペプチドは、生理的pHまたはそれよりもわずかに高いpH(例えば8〜9;ゲル化はさらに高いpHでも進行すると考えられるが、自己選択性が損失するおそれがある)の下でPEGトリアクリル酸エステルと混合すると、容易にヒドロゲルを作製すると考えられる。2つの液体前駆組成物を混合すると、それらは数分間にわたって反応し、網目構造の結節点を有するPEG鎖の網目構造からなり、ペプチドが結合部として存在する弾性ゲルを作製する。タンパク質をベースとする網目構造の場合と同じように網目構造が細胞による浸潤および分解を受けるように、ペプチドをプロテアーゼ基質として選択することができる。このゲル化は自己選択的であり、すなわちペプチドはほとんど他の組成物ではなくPEG組成物と反応し、PEG組成物はほとんど他の組成物ではなくペプチドと反応する。必要に応じて、他種のもの(例えば、組織表面)との化学結合を提供するように生体機能性物質を設計して組み込むことも可能である。これらのゲルは操作的には作製が容易であり、一方がペプチドを含み、他方が官能性を付与されたPEGを含む、2つの液体前駆物質を混合する。この例では、生理食塩水を溶媒として利用することができ、反応によって生じる熱が極めてわずかである上、PEGトリアクリル酸エステルもペプチドも容易に細胞内には拡散しないため、ゲル化は組織と直接接触した状態で有害な毒性を引き起こすことなく、インビボまたはインビトロで行うことができる。テレケリック的に修飾された、または側基が修飾された、PEG以外のポリマーも用いうることは明らかである。
【0061】
プロテアーゼ部位
本発明の化学架橋スキームの1つの特別な特徴は、それが自己選択的であること、すなわちそれがペプチドまたはタンパク質上の他の特徴となるものとは反応しないことである。したがって、上記の通りに、ペプチド上のシステイン残基以外の側基とは化学的に反応しないペプチドを1つの組成物として用いることができる。このことは、結果として得られる生体適合材料構造に種々の生体活性ペプチドを組み込むことができることを意味する。例えば、架橋用のジチオールとして用いるペプチドを、組織移動時および組織再編成時に細胞が用いる酵素の基質であるように設計することができる(例えば、プラスミン、エラスターゼ、またはコラゲナーゼなどのマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の基質のような)。ゲルの分解特性は、架橋結節点として利用するペプチドの細部を変更することによって操作可能である。コラゲナーゼによって分解されるがプラスミンによっては分解されないゲル、またはプラスミンによって分解されるがコラゲナーゼによっては分解されないゲルを作製することができる。さらに、酵素反応のKもしくはkcatまたはその両方が変化するようにアミノ酸配列を単に変更することのみによって、このような酵素との反応によるゲルの分解を速くまたは遅くすることもできる。このため、細胞の通常の再編成特性による再編成されうるという点で生体模倣的な生体適合材料を作製することが可能である。
【0062】
接着部位
細胞接着のためのペプチド部位、すなわち細胞表面の接着促進受容体と結合するペプチドを本発明の生体適合材料に組み込むことができる。フィブロネクチン由来のRGD配列またはラミニン由来のYIGSR配列などの、このような種々の接着促進ペプチドを組み込むことは容易である。上記の通り、これは例えば、残りのチオール含有前駆組成物と混合する数分前に、システイン含有ペプチドをPEGジアクリル酸エステルもしくはトリアクリル酸エステル、PEGジアクリルアミドもしくはトリアクリルアミドまたはPEGジキノンもしくはトリキノンと単に混合することによって行える。この最初の段階の間に、接着促進ペプチドは共役不飽和物による多数の官能性を付与されたPEGの一端に組み込まれると考えられ、残りの多価チオールを系に加えると架橋網目構造が作製されると考えられる。このため、例えば、システイン1つを含む接着性ペプチドをPEGトリアクリル酸エステルと混合し(例えば、アクリル酸エステル末端基1モル当たり0.1モルのペプチドの割合で)、続いてシステイン残基2つを含むプロテアーゼ基質ペプチドを添加して三次元網目構造を作製させると(例えば、アクリル酸エステル末端基1モル当たり等モルより0.1モル少ないペプチドの割合で)、結果として得られる材料は高い生体模倣性を有すると考えられる。すなわち、組み込まれた接着部位およびプロテアーゼ部位が共存することにより、細胞がインビボで細胞外基質において通常行っているのと全く同じように、細胞が移動用の経路を分解しながら作成する際に材料において牽引摩擦力を成立させることが可能となる。この場合には、接着部位は側基として材料に組み込まれる。また、接着部位を材料の骨格に直接組み込むことも可能である。これを行える方法は1つにとどまらない。1つの方法は、接着性ペプチドまたはタンパク質に2つまたはそれ以上のチオール(例えば、システイン)を含めることである。または、PEGなどのポリマー上に接着性ペプチドを直接合成し(例えば、液相化学を用いて)、1つの鎖末端当たり少なくとも1つのチオール(例えば、システイン)または共役不飽和物を含めることも可能と考えられる。
【0063】
増殖因子結合部位
本発明の生体適合材料の生体模倣性は、特にそれらをヒドロゲルとなるように水溶性組成物から作製する場合には、増殖因子結合ドメインを組み込むことによってさらに高めることが可能である。例えば、ヘパリンを結合させるためにヘパリン結合性ペプチドを用いることができ、続いてこのヘパリンを用いて、bFGF、VEGF、BMPまたはTGFβなどのヘパリン結合性増殖因子を結合させることができる。このため、ヘパリン結合性増殖因子、ヘパリンおよび活性化ヘパリン結合性ペプチドを活性化PEG(前の項に述べたものと同様のもの)を混合する場合には、その結果得られるゲルは、浸潤細胞がゲルの分解によって増殖因子を放出させるまでその大半を保持しながら、増殖因子を徐々に放出すると考えられる。増殖因子の貯蔵所としての役割を果たし、損傷時に局所的細胞活動によってそれを放出することは、細胞外基質のインビボでの通常の機能の一つである。ヘパリン結合性増殖因子を隔離するためのもう1つの類似した方法は、より直接的に、増殖因子と直接結合する共有結合的に組み込まれたヘパリン模倣物、例えば負に荷電した側鎖を有するペプチドなどを用いることによるものであると考えられる。さらに、生体適合材料はそれ自体が網目構造であるため、それを用いて、単に物理的に組み込まれた、分解もしくは拡散、またはその組み合わせによってによって徐々に放出される、増殖因子を放出させることもできる。ゲル化化学作用は自己選択的であるため、増殖因子それ自体および他の生体活性ペプチドはその生物活性が消失するような化学的修飾を受けないことを理解する必要がある。自己選択性のこの重要な様相により、例えば、増殖因子をポリマー粒子内に封入する必要性(ゲル化化学作用が、タンパク質中のリジン側鎖上に存在するεアミンのように増殖因子上に遊離した形で存在する側基と反応させるものである場合に、それをゲル化化学作用から保護するために)はなくなる。
【0064】
共役付加反応によって作製されるヒドロゲルからの薬物送達
ヒドロゲルはタンパク質医薬の送達には特に有用である。ヒドロゲルは生体適合性があり、タンパク質の変性を最小限に抑えるタンパク質に対して穏和な環境を提供する。チオールとの共役付加反応はタンパク質の存在下でゲルを作製するために用いられるが、これはこれらの反応の自己選択性が求核性置換反応、フリーラジカル反応または反応性を得るためにアミンを含む反応に比べて高いためである。このため、タンパク質はゲル中に物理的に埋め込まれる。さらに、ヒドロゲルを構成するポリマーの内部に分解性部分を組み込むこともでき、この際にはゲル内部の部分の分解により、ゲルの分解に伴ってタンパク質が放出されると考えられる。本発明の1つの特に有用な態様は、共役付加反応それ自体によって特に加水分解を受けやすい構造が得られる場合に生じる。
【0065】
大半の場合には、タンパク質医薬、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドもしくは遺伝子などの高分子医薬は、ポリ乳酸などの分解性疎水性材料から送達される。しかし、本発明者らは、チオール、共役不飽和物またはその両方による官能性が付与された架橋性ポリエチレングリコールなどの、より親水性の高い材料を記載する。光架橋性ポリエチレングリコール(Pathakら、Journal of the American Chemical Society 114:8311〜8312、1992)、および求核性置換反応によって架橋されたポリエチレングリコール(Zhaoら、Polymer Preprints 38:526〜527、1997;国際公開公報第99/2270;国際公開公報第99/34833号および国際公開公報第99/14259号)を含む他の例も存在する。チオールとの共役付加反応を介した架橋は、タンパク質中の共役基とアミンなどの他の基との間の反応が極めて遅いという点で優れた自己選択性を示す。組み込もうとするタンパク質が遊離チオールを含む場合には、別の方法で保護または反応させない限り、これは生体適合材料系と反応すると考えられる。
【0066】
タンパク質の封入および放出を目的としてチオールとの共役付加によって作製される生体適合材料を用いるほかの利点には、共役付加架橋によって生じる基の化学的性質によるものがある。共役基がアクリル酸エステルである場合には、比較的不安定なエステルが系に存在する。アクリル酸エステルにフリーラジカル架橋を行うと、この種のゲルはpH 7.4および37℃では分解が極めて遅く、ゲルが分解するのに約1年間かかることが明らかになっている。しかし、アクリル酸エステル基をチオールと反応させると、アクリル酸エステル基エステル加水分解による半減期は約3週間であり、約3週間で分解するゲルが生じる(以下に述べる)。フリーラジカル架橋の場合には、ゲルの分解を促進させるためにポリエチレングリコールとアクリル酸エステルとの間に特別な基を含める必要があるが(ポリ乳酸オリゴマーなど;Pathak、前記)、一方、共役付加架橋の場合にはアクリル酸エステルとポリエチレングリコールとの間に特別な基は必要でない。共役不飽和物とポリマーとの間により安定なリンカーを用い、続いてグリコール酸、乳酸、εカプロラクトンまたはトリメチレン炭酸エステルのオリゴマーなどの加水分解によって分解されるドメインをポリマーと共役不飽和物との間に組み込むことにより、これらのドメインの分解による生体適合材料の分解を得ることができる。
【0067】
ヒドロゲルの生物医学的応用
ヒドロゲルは水によって大きく膨潤する重合性材料である。ヒドロゲルは多くの用途に対して特に有用である。ヒドロゲルは極めて多くの生物医学的応用に対して関心がもたれている。これらには、障壁用途(癒着予防薬、密封剤)、薬物送達装置、組織工学用および創傷治癒用の足場、細胞封入および移植用の材料、組織の外科的補強用の材料、および密封剤および接着剤としての材料が非制限的に含まれる。生物医学におけるヒドロゲルの応用に関して不完全ながらも例示的なリストを以下に示す。
【0068】
1.接着予防用のヒドロゲルは、術後またはその他の外傷後の望ましくない接着を最小限に抑えるために望まれる。このような接着はタンパク質性もしくは細胞性またはその両方でありうる。例えば、術後腹骨盤癒着は慢性痛、腸閉塞および不妊につながるおそれがある。第2の例として、血管系におけるバルーン血管形成術後の血小板と血管壁表面との望ましくない接着は血栓症および再狭窄につながるおそれがある。外科手術部位でインサイチューで治癒した材料は術後癒着の予防に、特にこれらの材料が数日から数週間かけて分解する場合に有用と考えられる。損傷動脈の表面でインサイチューで治癒した材料は、カテーテル介在、ステント配置または外科手術に伴う血管外傷部位での血栓症の予防に有用と考えられる。
【0069】
2.接着剤または密封剤としてのヒドロゲルは、(気相または液相)液体含有腔を分離している組織における漏出を封止するために望ましい。いくつかの例に血管、皮膚、肺、硬膜障壁および腸がある。この材料は内用として例えば肺の空気漏出の封止にも有用であり、外用として例えば皮膚の切開部の閉鎖にも有用と考えられる。
【0070】
3.ヒドロゲルは局所的な薬物送達装置としても有用と考えられる。薬物は任意の生物活性分子、例えば、天然物、合成薬、タンパク質(増殖因子または酵素など)、または遺伝物質であってよい。このような薬物の機能特性はその担体によって保持される必要がある。薬物の放出は、拡散機構、種々の機構によるゲル担体の分解(加水分解または酵素的分解など)または他の感知機構(例えば、pH誘導性の膨潤)によるものでよい。多くの薬物は反応基を含むことから、担体としての役割を果たす材料は本材料と望ましくない様式では反応しないことが重要である。このため、共役不飽和物とチオールとの間の反応の自己選択性の高さは薬物封入において極めて有用である。
【0071】
4.足場としてのヒドロゲルは、組織工学および創傷治癒の用途、すなわち神経再生、血管新生ならびに皮膚、骨および軟骨の修復および再生のために望ましい。このような足場は細胞をあらかじめ播種した体内に導入してもよく、材料の外側から移植した生体適合材料の付近の組織中への細胞侵入に依存してもよい。このような足場は、接着性ペプチドおよび増殖因子などの細胞相互作用性分子を(共有結合または非共有結合によって)含んでもよい。
【0072】
5.ヒドロゲルには細胞移植装置としての生物医学的用途もある。このような装置は、細胞(例えば、同種移植片または異種移植片)を宿主の防御系から分離しつつ(免疫防御)、酸素、二酸化炭素、グルコース、ホルモンおよびインスリンならびに他の増殖因子などの分子の選択的送達を可能にし、これによって封入された細胞が正常な機能を保持し、免疫防御性ヒドロゲル膜を介したレシピエントへの拡散可能な治療用タンパク質を放出するといった望ましい利点が得られるという役割を果たす。
【0073】
6.ヒドロゲルをその環境に対して反応性にすることができる。最初に注入された際に組成物は水を含む上に水溶性であるため、ゲルと組織との間の網目構造の形成が増加し、それによって付着性が高まるようにそれらを設計することができる。活性刺激(例えば、温度またはpH)が遷移すると、前駆物質の一方または両方が水不溶性となって平均含水量が減少し、結果として得られるゲルの剛性の増加および力学特性の改善がもたらされる。
【0074】
上記で引用されたこれらの例の一部においては、治療用ヒドロゲルを体内の最終的目標部位で作製させることが望ましい。このため、液相として標的部位に注入し、そこで固体材料に変換することができる移植可能な材料には関心がもたれる。このようなインプラントの形状は組織の形態に適合させることができ、侵襲性が非常に低い方法によって比較的大きなインプラントを送達することが可能である。しばしば、基盤となる組織基質との良好な接着は、例えば、組織表面の構造への液体前駆物質の直接浸透により、または生体適合材料ポリマー網目構造と同じくポリマー網目構造である天然組織細胞外材料との間に相互浸透ポリマー網目構造を作製させる相相互浸透によって得ることができる。また、接着性を高めるためのカップリング剤としての役割を果たす付加的な材料を設計することも可能である。例えば、活性化エステル(N-スクシンイミジル活性化エステル誘導体のような)またはエポキシド基を一方の端に有し、アミンと緩徐に反応する共役構造をもう一方の端に有するヘテロ二官能カップリング剤を設計することができる。このような薬剤は組織表面に適用すると組織表面上のタンパク質と反応し、続いて重合または架橋の際に化学的組み込み用の共役基を生体適合材料の網目構造に固定すると考えられる。この前処理段階によって、最終的な前駆物質溶液の2つの組成物間の自己選択的架橋に関与しうると考えられる化学基が組織表面に導入されると考えられる。
【0075】
ヒドロゲルを含む生体適合材料を作製させる方法は数多くある。しかし、細胞または組織を含む感受性生体物質と接触した状態で作製される材料、または移植もしくは身体との他の接触を意図している材料には特別な制約が課せられる。以下の本文では、生体適合材料ヒドロゲルの特殊な有用性のために、生体適合材料ヒドロゲルの作製状況を考察する。非ヒドロゲル材料についてもアプローチは一般に同じであり、以下に述べるアプローチは一般化が可能であると理解される必要がある。網目構造の形成過程は、溶媒系、温度および発熱性ならびにpHに関して比較的穏和な条件で進行する必要がある。前駆物質および(ゲル化化学作用およびゲル分解の)作製物は実質的に無毒性である必要があり、ここで毒性は医学的に関連のある文脈で医学的に関連のある組織反応を誘発することと定義される。
【0076】
生体適合材料の作製のためにチオールとの共役付加反応を用いる本明細書に述べるアプローチによって、ゲル形成の方法は容易になり(光および温度の変更が必要ない)、自己選択的であることによって有用性が大きく高まる(バイオ医薬品として組み込まれたタンパク質、または細胞および組織表面に存在するタンパク質とは一般に反応しない)。さらに、自己選択性があるために、例えば、プロテアーゼ切断部位(分解のため)、細胞接着部位またはヘパリンもしくは増殖因子の結合部位として、生体適合材料それ自体にペプチドをはるかに柔軟な形で組み込むことが可能である。
【0077】
インサイチュー架橋が望ましいがヒドロゲルは望ましくない医療分野において、数多くの用途が存在する。これらには、強度の高い材料が望ましい用途が含まれうる。強度の高いヒドロゲルは作製可能であるが、一般に非ヒドロゲル材料の方が強度は高い。これらの材料は、酢酸エチル、低分子量PEGなどの低毒性非水性溶媒の存在下で本発明のスキームを用いる架橋によって、または溶媒を用いずに液体前駆物質からの適切な架橋によって入手可能である。例えば、加水分解によって分解される強度の高い材料は、疎水性組成物として低分子量ポリ(ε-カプロラクトン)ジアクリル酸エステル(これは液体である)から作製しうると考えられる。このような材料は直線状の重合性生体適合材料でもよく架橋性の重合性生体適合材料でもよい。また、これをpH、温度または他の操作可能な刺激に対する感受性を示す前駆物質を用いて成し遂げてもよい。これにより、前駆物質は適用の後/間に可溶性形態から不溶性形態への変換を生じると考えられる。これによって取り扱いが容易となり、非ヒドロゲル(含水量が少ない)材料を用いることによって力学特性の改善が可能となる。
【0078】
チオールとの共役付加を用いて、インサイチューでかなりの力学強度を有する構造材料を調製することが可能である。高い架橋密度および/または少ない含水量を用いた場合には、高い力学強度を有するゲルまたは材料を得ることができる。水溶性が低いまたは非水溶性の多官能性低分子量前駆物質を化合させることにより、強度の高い架橋材料を作製させることが可能である。これらの不溶性またはわずかに可溶性の前駆物質は、それらが液体である場合には、乳化剤の存在下または非存在下で水相において分散させることによって化合させることができる。この乳化剤はソルビタンモノオレイン酸エステルなどの無毒性または毒性が極めて低い界面活性剤でもよく、アルブミンなどのタンパク質でもよい。無機粒子もこのような前駆物質の水中分散を補助しうる。この方法によって得られる構造ゲルの力学特性は、無機粒子、親水性または疎水性添加剤の添加によって、または多様な分子量の前駆物質(多数の分子量が小さい前駆物質)の使用によって改変可能である。無機粒子の添加によって架橋材料の剛性が高まり、材料の極限強さおよび耐疲労性を高めることができる。親水性添加剤の添加によって含水量を高め、材料を軟化させることができる。化学的組成によっては、疎水性添加剤の添加によってゲルの含水量を減らし、材料の硬度および/または強度を高めることができる。これを弾性を高めるために用いることもできる。架橋密度は最初の前駆物質の分子量によって影響を受けさせることができる。分子量が増すと架橋密度を低下することができ、これを利用して最終的な生体適合材料の力学特性を調節することができる。
【0079】
II.架橋化学作用
本明細書で用いる場合、記号Pは2つの反応部位の間に位置する(テレケリックの意味で)、または反応部位が接合した(グラフトの意味で)分子の部分を示すために用いられる。テレケリックポリマーの場合、Pは2つのチオールなどの2つの強い求核試薬の間、または2つの共役不飽和物の間に位置すると考えられる(例えば、PEGジアクリル酸エステルまたはPEGジチオールの場合には、PはPEG鎖である)。PEGトリキノンまたはトリチオールの場合には、Pは3つの分枝を有する分枝状PEGである。ブロック共重合体性のアクリル酸エステル-(乳酸オリゴマー)PEG-(乳酸オリゴマー)-アクリル酸エステルまたはキノン-(乳酸オリゴマー)-PEG-(乳酸オリゴマー)-キノンの場合、Pは(乳酸オリゴマー)-PEG-(乳酸オリゴマー)ブロック共重合体である。共役不飽和物または強い求核試薬のいずれかが、剛毛が先端にある瓶洗いブラシのような構造をポリマーが有するグラフト共重合体の場合には(例えば、ポリリジン-グラフト-(PEGアクリル酸エステル)またはポリリジン-グラフト-(PEGキノン)またはポリリジン-グラフト-(PEGチオール))、Pはポリリジン-グラフト-(PEG)である。Pは側鎖内に反応性基を提示することもできる:側鎖内にアルコールまたはアミンを有するすべてのポリマーは、例えば、共役付加反応のための多数の共役不飽和基を提示させるために、容易にアクリル酸エステル化することができる。カルボン酸を含むポリマーは誘導体化して、例えばキニン基を露出させることができる。Pは用語の通常の意味で重合性である必要はない。例えば、エチレングリコールジアクリル酸エステルまたはジキノンの場合、Pはエチレン単位である。例えばYCXXXXXXCY(配列番号:1)またはCXXXXXXC(配列番号:2)(配列中、Cはアミノ酸システインであり、XおよびYは、XXXXXX(配列番号:3)がコラゲナーゼなどのプロテアーゼの基質として作用する配列となるような他のアミノ酸である)などのペプチドの場合、PはXXXXXXである。XXXXXXの長さまたはXの数(例えば、X)は任意の長さまたは数(n=0)でありうる。1,2エチレンジチオールの場合、Pはエチレンである。このように、Pは前駆組成物にある2つまたはそれ以上の反応性基の間に介在する前駆組成物の分子部分である。これがポリマー性またはオリゴマー性である場合にはしばしば好都合であるが、いずれの場合も必ずしも必要ではなく、低分子も関心がもたれる上に有用である。用いうる低分子の例には、完全または部分的にアクリル酸エステル化しうる、またはβ-メルカプトプロピオン酸と反応してチオールを生じうる、マンニトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパンおよびグリセロールなどの還元糖または類似の化合物が非制限的に含まれる。EDTA、クエン酸、コハク酸およびセバシン酸などの多カルボン酸はキノンに変換可能である。
【0080】
マイケル型反応の定義
共役不飽和系に対する求核試薬の1,4付加反応はマイケル型反応と呼ばれる。付加機序は純粋に極性的であってもよく、ラジカル様中間状態を介して進行してもよく、ルイス酸または適切に設計された水素結合種は触媒として作用しうる。共役という用語は炭素-炭素、炭素-ヘテロ原子もしくはヘテロ原子-ヘテロ原子多重結合と単結合が交互に存在するもの、または官能基の合成ポリマーもしくはタンパク質などの高分子との結合のいずれをも意味する。CHまたはCH2単位によって隔てられた二重結合はホモ共役二重結合と呼ばれる。
【0081】
共役不飽和基に対するマイケル型付加は、種々の求核試薬により、室温または体温において穏和な条件下で定量的収量が得られる程度に良好に起こる(Pathak、前記;Mathurら、Journal of Macromolecular Science-Reviews In Macromolecular Chemistry and Physics、C36:405〜430、1996;Moghaddamら、Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry 31:1589〜1597、1993;およびZhoa、前記)。アミノ-またはメルカプト-基によるマイケル型反応によってPEGまたは多糖類をタンパク質と結合させるために、ビニルスルホン(Pathak、前記)またはアクリルアミド(Mathur、前記)などの共役不飽和基が用いられている。
【0082】
本発明の革新性は、生体適合材料前駆物質の生体適合性のあるゲル化による生体適合材料の作製が、自己選択的な様式でチオールと反応する種々の共役不飽和化合物の使用によって迅速に得られることにある。ゲル作製反応速度ならびに作製物の力学特性および送達特性は用途の必要性に応じて調整される。主としてタンパク質分解的に分解される材料を得るために、またはその内部での特異的認識過程のために、タンパク質性もしくはペプチド性材料を組み込む可能性も想定されるが、これは主として意図的に組み込まれたシステイン残基との反応によるものである。純粋なタンパク質のPEG化は本発明の範囲に含まれないが、これはそれによって生体適合材料を生じないためである。マレイミドおよびビニルスルホンなどの基はこれらの架橋反応に有用であるが、これらは他の求核試薬と比べて、例えば以下に述べる共役系のいくつかと比べてアミンとの反応速度が相対的に高いため、他のものよりは有用性が低い傾向がある。このため、キノンおよびアクリル酸エステルを含む、全体的反応性が低い共役不飽和物の使用。
【0083】
共役不飽和構造
種々の共役不飽和化合物に対してマイケル型付加反応を行うことができる。以下に示す構造では、オリゴマー性またはポリマー性の構造をPとして示している。Pの具体的実体に関する種々の可能性については本明細書でさらに考察する。Pは1〜20の番号を付したものなどの構造における反応共役不飽和基とのカップリングが可能である。
【0084】
図面中、Pの末端にはCH2、CHまたはC基があるものとする。
【0085】
反応性二重結合は、直線状ケトン、エステルまたはアミド構造中の1つもしくは複数のカルボニル基(1、2)、またはマレイン酸もしくはパラキノイド誘導体におけるように環状系と共役させることができる(3、4、5、6、7、8、9、10)。後者の場合には環を融合させてナフトキノン(6、7、10)または4,7-ベンズイミダゾールジオン(8)を生じさせることができ(Pathak、前記)、カルボニル基をオキシムに変換することが可能である(9、10)。二重結合をスルホン(11)、スルホキシド(12)、スルホネートまたはスルホンアミド(13)、ホスホン酸エステルまたはホスホンアミド(14)などのヘテロ原子-ヘテロ原子二重結合と共役させることもできる。最終的には、二重結合を4-ビニルピリジニウムイオン(15)などの電子欠乏性芳香族系と共役させることもできる。カルボニルまたはヘテロ原子に基づく多重結合と共役した三重結合も用いられうる(16、17、18、19、20)。
【0086】
化学構造は以下の通りである。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【0087】
1および2などの構造は、炭素-炭素二重結合の一電子または二電子求引基との共役に基づく。それらの1つは常にカルボニルであり、アミドからエステルへ、さらにフェノン構造への反応性を高める。求核付加は立体障害を軽減すること、またはα位における電子求引力を高めることによって容易になる。すなわちCH3<H<COOH<CNの順である。
【0088】
後者の2つの構造を用いることによって得られる比較的高い反応性は、求核攻撃が起こるβ位での置換基の嵩高性を変化させることによって調節しうる。この際、反応性はP<W<Ph<Hの順となる。このため、Pの位置によって求核試薬に対する反応性を調整することも可能である。このファミリーには、毒性に関する詳細が知られており、医療に用いられているいくつかの化合物も含まれる。例えば、末端にアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルがある水溶性ポリマーは、それぞれヒドロゲル密封剤および骨の役目をするセメントにおいてインビボで重合を生じる(フリーラジカル機序による)。このため、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを含むポリマーはすでに臨床用製品において体内に認められているが、用いる化学反応スキームは大きく異なる。
【0089】
構造3〜構造10は、二重結合がシス配置であって二電子求引基が存在するという双方の理由により、求核試薬に対する反応性が極めて高い。
【0090】
不飽和ケトンはこれらのカルボニル基の電気陰性度が大きいためにアミドまたはイミドよりも反応速度が高い。このため、共役範囲が長いためにシクロペンタジオン誘導体はマレイミド誘導体(3)よりも速く反応し、パラキノンはマレインヒドラジド(4)よりも同じくシクロヘキサノンよりも速く反応する。最も高い反応性が認められるのはナフトキノン(7)である。
【0091】
Pは、環の対側部分(3、5)、別の環(7、8)またはパラキノンモノオキシムを介してO結合した(9、10)、不飽和基の反応性を低下させない位置に配置することができる。また、求核付加速度を低下させたい場合にはPを反応性二重結合と結合させてもよい(6、8)。
【0092】
二重結合の求核付加に対する活性化を、ヘテロ原子に基づく電子求引基を用いて得ることもできる。実際、ヘテロ原子を含むケトン(11、12)、エステルおよびアミド(13、14)の類似体は類似した電子挙動を示している。構造13および14を、迅速なゲル分解を促進しうる易加水分解性基として用いることもできる。求核付加に対する反応性は基の電気陰性度が大きいほど高く、すなわち11>12>13>14の順となり、芳香環との結合によって高くなる。芳香環に基づく電子求引基を用いて二重結合の強い活性化を得ることもできる。ピリジニウム様カチオンを含む任意の芳香族構造(例えば、キノリン、イミダゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジンおよび類似のsp2窒素含有化合物の誘導体)は二重結合に強い極性を与え、迅速なマイケル型付加を可能にする。
【0093】
炭素またはヘテロ原子に基づく電子求引基と共役した炭素-炭素三重結合は含硫求核試薬と容易に反応し、単付加および二重付加による作製物を生じる。二重結合を含む類似化合物に関しては、反応性は置換基によって影響される。
【0094】
水分環境における規則的凝集体(リポソーム、ミセル)の形成または単相分離により、不飽和基の局所濃度は高くなり、このために反応速度も上昇する。この場合、後者は求核試薬の分配係数にも依存し、これは親油的特性が増大された分子ほど高くなる。
【0095】
求核試薬
有用な求核試薬は、付加反応による共役不飽和基との反応性を有するものである。求核試薬の反応性は不飽和基の実体に依存し、これについては本明細書の別項でより詳細に考察するが、不飽和基の実体はまず生理的pHでの水との反応によって制限される。このため、有用な求核試薬は一般に生理的pHではHOよりも求核性が高いと考えられる。好ましい求核試薬は、毒性の理由から生体系に一般において見い出されるものの、細胞外の生体系では一般に遊離した状態では見い出されるないものと考えられる。このため、アミンを有効な求核試薬として用いうる例もあるが、最も好ましい求核試薬はチオールである。
【0096】
チオールは細胞外の生体系ではジスルフィド結合による対形態として存在する。最も高い程度の自己選択性が求められる場合(例えば、治療用タンパク質を組み込む場合、ゲル化化学作用が組織の存在下で行われ、その組織の化学修飾が望ましくない場合など)には、チオールがえり抜きの強い求核試薬であると考えられる。
【0097】
しかし、最も高いレベルの自己選択性は必要ではないと考えられる他の状況もある。これには、治療用タンパク質を組み込まない場合、およびゲル化化学作用はインサイチューで行われるが組織との化学結合は望ましいか有害ではない場合といった状況が含まれると考えられる。これらの場合には、アミンは適切な求核試薬として役立つと考えられる。ここで、脱プロトン化アミンはプロトン化アミンよりもはるかに強い求核試薬であるという点で、pHには特に注意を払う必要がある。このため、例えば、典型的なアミノ酸にあるαアミン(pKはアスパラギンの場合は8.8と低く、プロリンを除く20種の一般的アミノ酸すべての平均は9.0である)のpKはリジンの側鎖εアミンよりもはるかに低い(pK 10.80)。このため、強い求核試薬として用いるアミンのpKに特に注意を払う場合には、かなりの自己選択性を得ることができる。タンパク質にはαアミンは1つしかない(N末端にある)。低pKのアミンを選択し、pHがそのpK付近となるように最終的な前駆物質溶液を処方することにより、提供された不飽和物と提供されたアミンとの反応を、系に存在する他のアミンよりも優先的に行わせることができる。自己選択性が全く要求されない場合には、求核試薬として用いるアミンのpKにそれほど注意を払う必要はないが、許容される程度に高い反応速度を得るためには、適切な数のこれらのアミンが脱プロトン化されるように最終的な前駆物質溶液のpHを調整する必要がある。
【0098】
概略すると、前駆物質溶液のpHおよび最も高い自己選択性という理由から、チオールは好ましい本発明の強い求核試薬であるが、アミンが有用な強い求核試薬として有用であると考えられる状況もある。特定の求核試薬の有用性は、想定される状況および求められる自己選択性の程度に依存する。
【0099】
求核基の概念は本明細書において、この用語が時に官能基それ自体(例えば、チオールまたはアミン)だけでなく、官能基を含む分子(例えば、システインもしくはシスチル残基、またはリジンもしくはリジル残基)も含むものとして用いられるように拡張される。
【0100】
求核基は全体的構造が極めて柔軟な分子に含まれてもよい。例えば、二官能性求核試薬がNuc-P-Nuc(式中、Pは本明細書に述べた意味で用いられ、Nucは求核試薬を指す)の形態として存在することが可能である。同様に、分枝状ポリマーPを多数の求核試薬によって誘導体化してP-(Nuc)を作製することもでき、この場合にはi=2が有用と考えられる。NucはPの鎖端に提示される必要はなく、例えば、反復構造を想定することもできる:(PNuc)、この場合にはi=2が有用と考えられる。明らかに、このような構造内部のPまたはNucのすべてが同一である必要はない。必要とされるのは、1つの求核性前駆物質がこのようなNuc基を2つまたはそれ以上含むことのみである。
【0101】
同様に、Pおよび上記に詳細に述べた共役不飽和基の類似の構造を作製させてもよい。必要とされるのは、1つの共役不飽和前駆物質がこのような共役不飽和基を2つまたはそれ以上含むことのみである。
【0102】
2つの前駆組成物の両方、例えば、求核性前駆組成物および共役不飽和前駆組成物の両方が、実際に用語の通常の意味で重合性である必要はないことに注意が必要であり、理解される必要がある。これはその官能価のみに関することである。実際には、少なくとも1つの組成物が用語の通常の意味で重合性である場合には、好都合であるが、これは絶対的に必要ではない。例えば、有用な材料はPEGトリアクリル酸エステルとジシステインとの反応によって生じ、同様に有用な材料はPEGトリチオールと低分子量ジアクリル酸エステルとの反応によっても生じる。最終的には、一部の用途のための有用な材料はジシステインと低分子ジアクリル酸エステルとの反応によっても得られる。
【0103】
実際には、1つまたは複数の前駆組成物が用語の通常の意味で重合性である場合は、好都合かつ有用である。これらの場合には、Pは合成親水性ポリマー、合成疎水性重合液体、想定される用途に対して許容される毒性もしくは生物的影響を有する溶媒に溶解しうる合成疎水性ポリマー、生合成タンパク質もしくはペプチド、天然のタンパク質もしくは処理された天然のタンパク質、または多糖類でありうる。
【0104】
親水性ポリマー
好ましい態様において、合成ポリマーPはポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン-コ-アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレン-コ- ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-コ-マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)またはポリ(エチレンオキシド)-コ-ポリ(プロピレンオキシド)ブロック共重合体でありうる。これは網羅的なリストではなく、他の親水性ポリマーを用いることもできる。
【0105】
Pは共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体またはランダム共重合体であってもよい。親水性ポリマーの両端で重合したブロックは、例えば、加水分解または酵素的手段による分解性を付与するために、例えば、乳酸、グリコール酸、ε-カプロラクトン、乳酸-コ-グリコール酸オリゴマー、トリメチチレン炭酸エステル、無水物およびアミノ酸などで構成することができる。このリストは網羅的ではなく、他のオリゴマーもブロック共重合体に用いうる。
【0106】
ランダム共重合体は、ポリ(N-ビニルピロリドン-コ-ビニルアルコール)またはポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)などのさまざまな組成のビニルアルコールに基づくことが可能であり、アクリル酸エステル、ベンゾキノン、ナフトキノンなどの共役不飽和基による誘導体化を行える。ビニルアルコール共重合体には、ω-ブロモ-カルボン酸との反応によって(CH)COOH基による官能性を付与することができる。その結果得られるポリマーまたはアクリル酸もしくはメタクリル酸共重合体はキノン基の付加に用いることができる。コモノマー組成および官能性付与の程度は、それらが溶解性または相転移を決定している場合を除き、反応速度に劇的な影響を及ぼすことはない。一方、それらは最終的な力学特性を決定する。
【0107】
1つの組成物Pは、求核試薬または共役不飽和物の部位が存在するコロイド粒子などの固体でもよいことに注意しなければならない。
【0108】
タンパク質および生合成タンパク質
Pはタンパク質でもよい。タンパク質は天然タンパク質または組換えタンパク質でありうる。一般的な用語として、組換えタンパク質とは組換えDNA技術によって作製される任意の長さのアミノ酸材料のことである。これらの組成物の例には、プロテアーゼによる分解部位をコードするペプチド配列、他の生物シグナルに関するペプチド配列および非生体相互作用性配列が含まれる。
【0109】
任意の天然のタンパク質がPであってもよい。より詳細には、天然のタンパク質は求核試薬によって隔てられた複数のPsを含む。例えば、584アミノ酸からなるタンパク質である血清アルブミンは、5.7%システイン、9.9%リジンおよび3.1%チロシンを含む。例えば、システイン、チロシンおよびリジンの間にあるアミノ酸配列は異なるPsを構成する。アルブミンは天然の状態では共役不飽和物とタンパク質上のチオールとの間の共役付加反応による架橋の目的にはそれほど有用ではないが、アルブミンはシステイン残基の一部またはすべてが遊離状態にあるポリ(アミノ酸)を作製するために還元によって容易に処理することができ、または多数のチオール基を導入するために化学的に誘導体化することができる。
【0110】
ペプチド
場合によっては、Pは、求核試薬がアミノ酸のシステインであって、1つの態様においてはHN-CXXXXXCXXXXXC-COOH(配列番号:4)またはHN-CXXXXXC-COOH(配列番号:5)(配列中、Cはシステインの一文字表記であり、Xはシステイン以外の任意のアミノ酸を表す)に、もう1つの態様においてはアセチル-NH-YXXXXXYXXXXXY-COOH(配列番号:6)(配列中、Yはチロシンの一文字表記であり、Xはシステインおよびチロシン以外の任意のアミノ酸を表す)に類似した構造のペプチドを生じる、ペプチドまたはポリペプチドであってもよい。XXXXX(配列番号:7)の長さまたはXの数(例えば、X)は任意の長さまたは数(n=0)でありうる。上記にXXXXXとして示したドメイン内部の配列が細胞移動に関与する酵素の基質(例えば、コラゲナーゼ、プラスミンまたはエラスターゼなどの酵素の基質)である場合には特に有用であるが、ドメインがこれらに限定される必要はない。酵素プラスミンの基質として特に有用なこのような配列の一つが実施例の項に記載されている。これらの酵素に関する文献を調査することによって種々のこのようなペプチドを学ぶことができる。例えば、このような調査により、重要なプロテアーゼであるプラスミンの基質部位(表1;配列番号:8〜配列番号:24)が示される。
【0111】
(表1) フィブリン(フィブリノーゲン)(Fg)において見い出されたプラスミン基質部位**

参照1:Takagi T.およびR.F. Doolittle、Biochemistry 14:5149〜5156、1975;参照2:Hantgan R.R.ら、うっ血および血栓症:基本原理および臨床実践(Hemostasis and Thrombosis:Basic Principles and Clinical Practice)、第3版、R.W. Colmanら編、LB. Lippincott Company:Philadelphia. 1994;参照3:Takagi T.およびR.F. Doolittle、前記;参照4:Nomura S.ら. Electrophoresis 14:1318〜1321、1993.;参照5:Standker L.ら、Biochemical and Biophysical Research Communications 215:896〜902(1995)。
*疎水性アミノ酸を示す;+/- 陽イオン性(+)または陰イオン性(-)の荷電側鎖を示す。
**一文字アミノ酸記号;A、アラニン;C、システイン;D、アスパラギン酸;E、グルタミン酸;F、フェニルアラニン;G、グリシン;H、ヒスチジン;I、イソロイシン;K、リジン;M、メチオニン;N、アスパラギン;P、プロリン;Q、グルタミン;R、アルギニン;S、セリン;T、トレオニン;V、バリン;W、トリプトファン;Y、チロシン。
【0112】
プラスミンは細胞移動および組織/凝血塊再編成に重要な酵素であると仮定すると、これらの基質またはこれらの基質の部分は、PにおけるXXXXXとして上記に示した部位の内部の有用な配列である。
【0113】
同様に、コラゲナーゼは細胞移動および組織再編成に重要な酵素である。同じくコラゲナーゼに関する文献調査により、PにおけるXXXXXの有用な実体である種々の基質部位が示されている(表2;配列番号:25〜配列番号:31)。
【0114】
(表2) コラーゲンにおいて見い出されるコラゲナーゼ基質部位

参照6:Netzel-Arnett S.ら. The Journal of Biological Chemistry 266:6747〜6755、1991:参照7:Upadhye S.およびVS. Ananthanarayanan. Biochemical and Biophysical Research Communications 215:474〜482、1995;参照8:Liko Z.ら、Biochem Biophys Res Commun 227:351〜35、1996。
【0115】
求核試薬前駆組成物(求核試薬としてのチオールを提供するために配列中のシステインを用いうるため最も容易である)または共役不飽和前駆組成物のいずれかとしてP内部の酵素的分解部位を用いることは、生体適合材料の吸収または再編成の速度が例えば細胞侵入によって示される治癒の速度と相関する可能性があるということである。
【0116】
基質部位のKおよびkcatが変化するようにオリゴペプチド配列を調整することによって生体適合材料の吸収速度を調節しうることを指摘することは特に有意義である。例えば、コラゲナーゼ基質部位の酵素学に関する文献の検討により、基質上の配列の設計によって基質の分解速度を調整しうることが示されている(表3:配列番号:32〜配列番号:38)。
【0117】
(表3) コラゲナーゼ(マトリックスメタロプロテイナーゼ1)感受性ペプチド配列の設計

Netzel-Arnett S.ら、The Journal of Biological Chemistry 266:6747〜6755、1991。
【0118】
促進剤
反応性に乏しい求核試薬とは、pH5よりも高く9よりも低いpHと一般に定義されるpHおよび25℃よりも高く40℃よりも低い温度の下での擬一次半減期が約15分を上回るものをいう(過剰量の共役不飽和基が存在する場合;一部の医療環境では比較的遅い反応が有用と考えられる)。ラジカル開始剤とは、自発的、熱的または光化学的に誘発される炭素-ヘテロ原子またはヘテロ原子-ヘテロ原子結合の均一切断によって炭素またはヘテロ原子に基づくラジカルを生じる有機分子または水溶性分子のことをいう。このようなラジカル開始剤を促進剤として用いることは、好ましくはないが、用いるフリーラジカルの濃度をはるかに低くできるという点で重合よりも優れていることを理解する必要がある。共役不飽和基に対する反応性に乏しい求核試薬の付加速度は加速物質の存在によって高めることができる。これらはラジカル開始剤、光増感剤(単独またはラジカル開始剤との併用による;Pathak、前記)、低分子量ルイス酸(Pathak、前記)、ルイス酸性もしくは第四アンモニウムイオンの存在を特徴とするアンバーリスト(Amberlyst)樹脂(Pathak、前記)もしくはモンモリロナイト粘土(Pathak、前記)などの固体触媒、またはN,N-二置換尿素もしくはペプチド構造に基づく水素結合性受容体(Pathak、前記)であってよい。最後の場合には、加速機序は、共役オレフィン上の求核試薬の攻撃に続いてのエノラート様遷移状態の水素結合による安定化に基づく。適合させた抗体をこの目的に用いることができる(Pathak、前記)。
【0119】
1つの典型的な実験では、P残基1つ当たり1つを上回る数の共役不飽和基を含むP誘導体の高濃度の(一般的には10% w/w以上であるが、簡便には望ましい挙動を得るのに十分に高い濃度の)溶液を、求核性化学種の数が2を上回るチオール含有性または適したアミノ含有性化合物(最も高度の自己選択性が必要でないと考えられる用途では、特にチオール)の高濃度の(>10%であるが、簡便には望ましい挙動を得るのに十分に高い濃度の)溶液と直ちに混合する。触媒量(<1〜2% w/w)の促進性化学種を混合段階で導入することができる。混合後には架橋反応を活性化するために比較的高い温度(最大60℃)を短期間用いることができる。材料を体内に注入した後にインサイチューで反応させて最終的な生体適合材料を作製させようとする状況では、最大約50℃までの注入温度が許容されると考えられる。
【0120】
III.ポリマー網目構造の形成
官能価
ポリマー科学の専門用語を用いると、ポリマーは官能価が2のモノマーの反応によって作製可能である。ポリマーの架橋網目構造はモノマーの一部またはすべての官能価が2を上回る場合に生じうる。本明細書では、互いに反応して架橋網目構造を形成できる場合に分子の官能価は2またはそれ以上であると記載し(モノマーまたはマクロマー)、官能価は付加反応の局面から定義される。本明細書で用いる場合、重合とは官能価が2であるモノマーまたはマクロマーの反応を意味し、架橋とはその一部またはすべての官能価が2を上回るモノマーまたはマクロマーの反応を意味する。モノマーという用語は本明細書において低分子には限定されず、ポリマーおよび生体高分子も指すものとする。
【0121】
記載されるモノマーは2つのクラスからなり、互いに反応すると直線状または架橋性の生体適合材料を作製する。架橋が起こるためには両方のクラスのモノマーを混合することが必要である(混合のための異なるアプローチをすぐ後に述べる)。一方のクラスのモノマーは2つまたはそれ以上の共役不飽和基を含み(このため、官能価は2またはそれ以上である)、好ましくは共役性である。他方のクラスのモノマーは2つまたはそれ以上の求核試薬を含み(このため、官能価は2またはそれ以上である)、これは好ましくは系の他の組成物として存在する他のものよりも強い求核試薬、例えば、望ましくは系の非反応性組成物として存在すると考えられるアミンと比較した際にはチオールである。
【0122】
水溶性前駆物質モノマーを混合すると(最終的な前駆物質溶液と呼ぶ)、直線状または架橋性のゲルまたは網目構造が作製されるが、このような反応は生理的または生理的に近い塩濃度およびpHの水中で進行しうる。モノマーが完全に水溶性である必要はなく、実際には水溶性でないことが有益である場合もある。このような場合にはゲルが最終材料として得られず、むしろより疎水性が高く水膨潤性の低い材料が得られると考えられる。これらは疎水性薬剤の送達および構造強度の高い材料の作製に特に有用な可能性がある。必要とされるのは、おそらくは乳化剤の存在下で、2つの組成物が互いに溶解性であること、または少なくとも互いに微細に分散しうることである。これにより、2つの組成物は、反応して直線状または架橋性の材料を作製する程度に互いに十分に接近することができる。
【0123】
また、水以外の溶液中で形成されるモノマーの溶液を用いて作用させることも可能である。例えば、注射可能な生体適合材料系における溶媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)の使用が知られており、このため、溶液中にある前駆組成物を用いて作用させたいが、その前駆組成物が水に溶けにくい場合には、検討対象の感受性生体物質との使用が許容される特定の有機溶媒を用いることができる。
【0124】
薬剤を実験室または作製ラインで組み込む場合には、インプラントを対象に提供する前に少なくともその大部分は除去されると考えられるため、この有機溶媒の選択には大きな自由度がある。材料を皮膚表面で作製させる場合にも、NMP、アセトン、エタノール、イソプロパノールおよび酢酸エチルを含む多くの溶媒の皮膚毒性は低いため、大きな自由度がある。材料を体内で作製させる場合には、許容される溶媒の範囲はかなり狭くなり、これは毒性面での懸念によって決まる。このような場合にはNMPが特に好ましい有機溶媒である。有機溶媒および水を含む混合溶媒系を用いて、有機溶媒の全体的濃度を下げながら混合溶媒系における優れた溶解性または分散性を維持することによって溶媒系の毒性を調節することも可能である。
【0125】
最終的な前駆物質溶液を作製させるための混合はいくつかの手段によって行うことができる。最も簡便な場合には、一方の溶液が求核性前駆組成物を含み、もう一方の溶液が共役不飽和前駆組成物を含む。混合後に得られるpHおよび濃度が化学反応の進行に適切となるように、これらの2つの組成物を溶媒および緩衝系中に処方する。このような混合は、例えば、2つのシリンジの作用で静止型混合器において行うことができる。
【0126】
その他の混合方法も想起されうる。例えば、エアスプレーにおいて2つの前駆物質溶液のそれぞれの微粒子の間で混合が起こりうる。例えば、反応が進行しない、または緩徐にしか進行しないpHで、1つの溶液を両方の前駆組成物から調製することもできる。あらかじめ混合しておいた前駆物質溶液を配置した後に、pHを調製し(例えば、温度の変化、または酸もしくは塩基との混合、または酸もしくは塩基が生じる化学反応、または酸もしくは塩基の拡散による)、最終的な前駆物質溶液において化学反応の進行に適した最終条件を得ることができると考えられる。もう1つの方法は、反応の活性化エネルギーもしくは温度感受性のある緩衝液またはその両方に関係して、反応が進行しない、または緩徐にしか進行しないような温度で最終的な前駆物質溶液を調製することである。最終的な適用温度へと(例えば、注射後に体温へと)加温または冷却を行うと(加温が最も有用である)、最終的な前駆物質溶液における条件は化学反応の進行に適切なものになると考えられる。
【0127】
医学的応用
本生体適合材料はヒトにおける医用インプラントまたは装置として、または薬物送達のために有用であるため、前駆物質溶液に用いる分子系はある種の基準を満たす必要がある。これらには以下が含まれる。
【0128】
1.マイケル型反応の速度は臨床的に意味のある期間にわたって臨床的に意味のある温度およびpHでみられる必要がある。一般的には、一般に7よりも高く9よりも低いpHおよび25℃よりも高く40℃よりも低い温度での約15分未満のゲル化が望ましい。
【0129】
2.反応は十分に自己選択的である必要があり、自己選択性の検討事項には以下が含まれる。アミンを含む薬剤の存在下でのゲルの作製の場合、または細胞および組織組成物との反応が望ましくない場合には、最終的な前駆物質溶液の適用pHでの共役不飽和物のアミンとの反応は極めて緩徐である必要がある。好ましくは、反応性を意図した求核試薬に対する共役不飽和物の反応性とアミン、この場合には反応性が意図されないまたは望ましくない求核試薬に対するものとの比は、10またはそれを上回ること、好ましくははるかに上回ることが望ましい。一般に、共役不飽和物とチオールとの間のマイケル型付加によるアプローチは、それ自体が共役不飽和物またはチオールを含む薬剤には有用でないと考えられる。その例外には、薬剤にある基の反応性が生体適合材料前駆物質における対応する基の反応性よりもかなり低い場合、およびこの種の反応が有害でない場合、例えば、生体適合材料網目構造に対するグラフト形成が有害でない場合が含まれる。
【0130】
3.前駆物質溶液を水相中に調製する場合には、反応物は水中で安定である必要がある。安定であるとは緩徐に反応することと定義され、緩徐であるとは2つの組成物の間の反応が進行する程度に十分に緩徐であり、それでもなお望ましい生体適合材料の作製が得られることと定義される。
【0131】
4.最終的な前駆物質溶液における付加反応は、組織損傷、薬剤分解または検討対象の生体物質に他の有害な結果を引き起こす程度に発熱性であってはならない。ゲル化溶液の温度は一般にゲル化の間は60℃を超えない必要があり、好ましくは最高反応温度はさらに低いことが望ましい。
【0132】
5.前駆物質溶液の組成物は、最終的な前駆物質溶液が適用された際に拡散する濃度で有毒であってはならず、ここで毒性という用語は医学的に関連する文脈で医学的に許容されない組織反応を誘発することと定義される。
【0133】
この項で上記に定義した基準は、架橋に用いられる化学基の実体を限定することにより、前駆物質溶液において有用と考えられる分子の実体を限定する。
【0134】
更なる生体機能性
本明細書に述べる付加反応の使用による1つの大きな利点は、例えば、細胞表面の接着促進受容体の結合のための部位、または増殖因子の結合のための部位を提供するために、生体活性のある他の生体機能性基を生体適合材料に組み込むことができることにある。
【0135】
接着性ペプチド
種々の接着促進ペプチドが、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、フォンビルブランド因子、オステオネクチンなどの接着促進タンパク質の活性ドメインとして同定されている。これらのペプチドは、ペプチド鎖においてシステインなどの強い求核試薬とともに設計すれば、生体適合材料に容易に組み込むことができる。このような一例が実施例に示されている。関心がもたれると考えられるペプチドの一部のリストを以下に示す(表4;配列番号:39〜配列番号:49)。
【0136】
(表4) 細胞外基質タンパク質の細胞結合ドメイン配列

Yamada, Y.およびKleinman, H.K.、Curr. Opin. Cell Biol. 4:819、1992による。
【0137】
これらのペプチドは、材料表面での細胞の接着、移動および異常増殖(特に材料が分解性でない場合、または緩徐に分解される場合)、材料を経た細胞移動(特に2つの前駆組成物の一方にプロテアーゼ基質を組み込むことによって材料がより容易に分解される場合)および特定の細胞表現型の誘導(例えば、異物巨細胞を形成せずに有益な増殖因子を放出するようにマクロファージを刺激すること)などの種々の細胞反応の制御に有用な可能性がある。表5に示したペプチド(配列番号:50〜配列番号:57)は、糖タンパク質である細胞表面受容体と結合する。ヘパリン結合性ペプチドファミリーと呼ばれる、細胞表面ヘパラン硫酸およびコンドロイチン硫酸を含むプロテオグリカンと結合する他のこのようなペプチド配列もある。このような細胞表面組成物との結合を介した細胞接着性を付与するためにこれらを組み込むこともできる。
【0138】
(表5) 細胞外基質タンパク質のプロテオグリカン結合ドメイン配列

最初の5つに関する参照はMassia, S.P.、およびHubbell, J.A. J. Biol. Chem. 267:10133〜10141、1992である;抗トロンビンIIIの配列はTyler-Cross, R.ら、Protein Sci. 3:620〜627、1994による;神経細胞接着分子の配列はKallapur, S.G.およびAkeson, R.A.、J. Neurosci. Res. 33:538〜548.1992による;血小板第4因子の配列はZucker, MB.、およびKatz, I.R.、Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 198、693〜702.1991による。
*xは疎水性アミノ酸を示す。塩基性アミノ酸は下線を付して示している。
【0139】
本発明の方法による接着性ペプチドの組み込みのための実践的方法は、現時点の最高技術水準よりもはるかに容易であることに留意されるべきである(Pathak、前記)。先行技術に用いられるこのような方法では(ペプチド-PEG-アクリル酸エステルの作製を一例に挙げると)、一方の端に活性化エステルがあって他方の端にアクリル酸エステルがあるヘテロ二官能性PEGを合成しなければならない。これはペプチドに対してグラフト処理を行って精製する必要がある。この作用物質は、本発明の方法またはアクリル酸エステル末端基の重合による、例えばハッベル(Hubbell)らによって教示されたPEGジアクリル酸エステルへの組み込みのために有用である。これに対して、本方法によるペプチド組み込みははるかに容易である。ペプチドを含む求核試薬(例えば、遊離チオールを有するシステイン)をPEGジアクリル酸エステル(または多官能性PEG共役不飽和構造)と単に混合して短期間反応させ、残りの異なる多価求核試薬を添加するか、系を光重合させる。ヘテロ二官能性物質を合成する必要はなく、カップリング後の精製も必要ない。これが可能なのは系の自己選択性のためである。
【0140】
増殖因子結合ペプチド
生体適合材料において有用な第2の種類の生体機能性は、増殖因子と結合する構造である。これらは増殖因子の調節的送達および放出に用いることができる。その優れた一例は、aFGF、bFGF、VEGF. TGFβおよびBMPを含むヘパリン結合性増殖因子に関して見い出される。ヘパリンと結合するペプチドを組み込むことは容易である(上記の通り、以下でも述べる)。この混合物に増殖因子とともにヘパリンを添加することができる。系が自己選択的であるため、ヘパリンおよび増殖因子との化学反応は起こらないと考えられる。このため、システイン残基の箇所に単一の遊離チオールを含むヘパリン結合性ペプチドをヘパリンおよびヘパリン結合性増殖因子と混合し、これらの組成物を例えば、PEG-トリアクリル酸エステルと混合して、これを2つのシステイン残基(それぞれ基質ドメインの両端に位置する)の組み込みによって2つのチオールを有するプロテアーゼ基質ペプチドと混合する場合に、以下の生体模倣性生体適合材料が生じると考えられる。すなわち、この生体適合材料は細胞に伴うプロテアーゼによって分解されると考えられ、増殖因子はヘパリンとの非共有結合によって生体適合材料の内部に結合し、このヘパリンはヘパリン結合性ペプチドと非共有的に結合し、さらにこれがヒドロゲル生体適合材料と共有結合すると考えられる。または、ヘパリンに直接、それが単一の強い求核試薬を含み、ポリマー網目構造と直接化学的に結合するように官能性を付与することも可能と考えられる。ヘパリン結合性増殖因子を隔離するための関連したもう1つの方法は、より直接的に、増殖因子と直接結合する共有結合的に組み込んだヘパリン模倣物(例えば、負に荷電した側鎖を有するペプチド)を用いることであると考えられる。
【0141】
本発明の組成物の調製および本発明の方法を説明した個別の実施例を以下に示す。これらの実施例は本発明の例示を目的として提供されるものであり、これを制限するものとみなされるべきではない。
【実施例】
【0142】
実施例1:基本試薬の調製
ポリ(エチレングリコール)ジオールのアクリル化
ポリエチレングリコール、分子量8000(50 g、6.25 mmol、12.5 mmol水酸基、Aldrich、Milwaukee、WI、USA)をトルエン(500 ml)に加え、共沸蒸留によって乾燥させた。混合物を0℃まで冷却し、100 mlの無水ジクロロメタン(Aldrich)を加えた。トリエチルアミン(2.61 ml、18.75 mmol、水酸基に対して1.5当量、Aldrich)を加え、次いで、塩化アクリロイル(acryloyl chloride)(2.03 ml、18.75 mmol、1.5当量、Aldrich)を一滴づつ加えた。反応をアルゴン雰囲気下で一晩、暗黒下で行った。作製物をろ過した後、ヘキサン中で撹拌することにより沈殿として回収した。作製物を75 mlのジクロロメタンに再溶解させ、再度、ヘキサン中で撹拌することにより沈殿させた。作製物を25 gのNaClを含む水500 mlに溶解させ、pHをpH 6に調節した。溶液はジクロロメタン(Aldrich)で3回抽出した(エマルジョンの形成を避けるため、最初のジクロロメタンの抽出では、激しく振るべきでない)。ジクロロメタン画分を全て回収し、撹拌しながらヘキサンを加えた。作製物をろ過により回収し、真空下で一晩乾燥した。1H-NMRによって、ポリエチレングリコールの80%のアルコールがアクリル化された(作製物を、ポリエチレングリコールジアクリレートと呼ぶ)。
【0143】
ポリ(エチレングリコール)トリオールのアクリル化
PEGトリアクリレート(PEG-3A)はグリセロール核を持つ、3本の枝のPEGである。分子量の記号(PEG-2500-3A、PEG-3500-3A)は総平均分子量を指し、単一の枝の分子量を指したものではない。アクリル化は、PEGジオールに関して記載された反応物のモル分率と全く同じ比率を用いることで行われた。
【0144】
ポリ(エチレングリコール)ジオールのクロトニル化とジメチルアクリル化
クロトニルPEG-8000(PEG-8000-2C)(クロトニル、-OOC-CH=CHCH3)とジメチルアクリロイルPEG-8000(PEG-8000-2DMA)(ジメチルアクリロイル、-OOC-CH=C(CH3)2)を、並行した反応で同時に合成した。27 gのPEG-8000(3.375 mmol、6.75 mmol水酸基、Aldrich)をベンゼンに溶解させ、蒸留液が透明になるまで共沸させた。PEGベンゼン溶液を室温まで放冷した。そして溶液の100 mlを無水的に丸底フラスコに移した。トリエチルアミン(100 mlの試料に対し1.1 ml、またはより大量(150 ml)の試料に対しては1.7 ml、水酸基に対して3当量、Aldrich)をそれぞれのフラスコに加えた。クロトニル-Cl(1.2 ml、水酸基に対して3当量、Fulka)を一滴づつ150mlの試料へ加えた。ジメチルアクリロイル-Cl(0.9 ml、水酸基に対して3当量、Fulka)を一滴づつ100 mlの試料へ加えた。反応を暗黒下で20時間続けた。溶液を紙でろ過し、ヘキサンで沈殿させた。両方の沈殿を真空中で乾燥させた。修飾の程度は、1H-NMRによって(エステル化の程度により)PEG-8000-2Cに対しては85%、PEG-8000-2DMAに対しては89%と決定された。
【0145】
ビス(ベンゾキノン)PEGの調製
段階A)ビス-カルボニルPEGの調製
17 g(5 mmol)の3400 PEGジオールを500 mlのトルエンに溶解させ、共沸蒸留で乾燥させる。カリウムtert-ブチルオキサイド(15 mmol)の1 MTHF溶液を加え、反応混合物を10分間環流した後、室温まで冷却する。次に5.4 ml(50 mmol)のエチル2-ブロモアセトンを加え、溶液を40℃で24時間撹拌し、臭化カリウムを除去するためにろ過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、冷ジエチルエーテル内で沈殿させる。その後、固体を250 mlの0.2N NaOH(4N NaOHの滴下によってpH12を維持する)に溶解させ、溶液を12時間撹拌し、濃塩酸の滴下によりpHを4まで低下させた後、ジクロロメタンで抽出する。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、冷ジエチルエーテル内で沈殿させる。修飾の程度は1H-NMRによって決定される。
【0146】
段階B)ビス(カルボニル2,5-ジメトキシアニリド)PEGの調製
10 g(2.8 mmol、5.2ミリ当量)の3400ビス-カルボニルPEGを、2.0 g(6 mmol)の2,5-ジメトキシアニリド(ヘキサンからの再結晶を3回行ったもの)を含むTHF200 mlに溶解させ、次に0.73 g(5.8 mmol)のジイソプロピルカルボジイミドを加え、溶液を室温で24時間撹拌する。沈殿したジイソプロピル尿素をろ過して除き、THFはロータリーエバポレーターで蒸発させる。その後、重合物をトルエンに再溶解し、溶液をろ過後、冷ジエチルエーテル内で沈殿させる。この操作を2回繰り返す。修飾の程度は1H-NMRによって決定される。
【0147】
段階C)ビス(カルボニル2,5-ヒドロキシアニリド)PEGの調製
5 g(1.4 mmol、5.7ミリ当量)の3400ビス(カルボニル2,5-ジメトキシアニリド)PEGを乾燥窒素雰囲気下で50 mlの乾燥ジクロロメタンに溶解させる。次に1.2 g(6 mmol、0.82 ml)のヨウ化トリメチルシランを加え、溶液を24時間室温で撹拌する。ジクロロエタン溶液を中性になるまで水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、ヘキサンで沈殿させる。反応収率は1H-NMRによって決定される。
【0148】
段階D)ビス(カルボキサミド2,5-ベンゾキノン)PEGの調製
5 g(1.4 mmol、5.6ミリ当量)の3400ビス(カルボニル2,5-ヒドロキシアニリド)PEGを50 mlのエタノールに溶解させ、1.2 g(7.4 mmol)の塩化第三鉄を加える。溶液を24時間室温で撹拌し、その後150 mlのジクロロメタンと150mlの水を加えて二層に分離させる。ジクロロメタン層を水で3回洗浄し、その後濃縮して冷ジエチルエーテルで沈殿させる。反応収率は1H-NMRによって決定される。
【0149】
α,ω-ビス(ベンゾキノン)ポリ(乳酸)-PEG-ポリ(乳酸)ブロック共重合体の調製(PEG末端当たり乳酸の2.5単量体ユニットを用いた例)
段階A)ポリ(乳酸)-PEG-ポリ(乳酸)ブロック共重合体の調製
17 g(5 mmol)の乾燥3400PEGジオール、3.60 g(0.025 mol)のdlラクチド及び15 mlのオクチル酸スズを共に乾燥窒素雰囲気下で混合する。反応混合物を200℃で2時間撹拌し、160℃で2時間撹拌し、その後室温まで冷却する。得られた固体をジクロロメタンに溶解させ冷ジエチルエーテル内で沈殿させる。
【0150】
段階Bから段階E
段階Bから段階Eはビス(ベンゾキノン)PEGの調製における段階Aから段階Dに類似している。
【0151】
ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール-コ-2-オキシビニル-(2',5'-ベンゾキノン)アセトアミド)の調製
段階Aから段階D)ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール-コ-2-オキシビニル-酢酸)の調製
これらの調製はビス(ベンゾキノン)PEGの調製における段階Aから段階Dに類似している。
【0152】
ビス(4-ビニルピリジル)PEGの調製
30 mlの乾燥したNMPの中で、10 g(2.7 mmol)の新たに調製された3400PEGトリフレートを24時間0℃で0.75 g(8 mmol)の4-ビニルピリジンと反応させた。溶液を冷ジエチルエーテル内で沈殿させ、固体をジクロロメタンに再溶解し、再び冷ジエチルエーテル内で沈殿させた。
【0153】
ペプチド合成
ペプチドを、パーセプティブバイオシステムズ(Perseptive Biosystems)(Framingham、MA、USA)のパイオニアペプチド合成機により、標準的なFmoc保護法を用いて合成した。樹脂から樹脂1 g当たり8.8 mlのトリフルオロ酢酸(パーセプティブバイオシステムズ)、0.5 mlの水、0.5 mlのフェノール(Aldrich)及び0.2 mlのトリイソプロピルシラン(Aldrich)を用いて、室温で2時間ペプチドを切り出した。溶液をエーテル内で沈殿させ、反応物をろ過で回収し、真空中で乾燥させた。ペプチドをC18クロマトグラフィーで精製し、作製物を含む画分をMALDI-TOF質量分析計で同定した。ペプチドをアルゴン雰囲気下-20℃で保存した。
使用の前に、できるだけ酸化を防ぐために、システイン含有ペプチドを酸性溶液及び/もしくは脱気した溶液で湿らせて取り扱い、または真空もしくはアルゴン下で乾燥させた。
【0154】
実施例2:共役付加反応によるゲルの形成
低分子量トリチオールとPEG結合不飽和物との共役付加によって形成されたゲル:トリメチルオールプロパントリス(3-メルカプトプロピオン酸)及びPEGジアクリル酸
50 mgのPEG-8000-2Aを、0.1 g/mlで50 mM炭酸水素塩緩衝液(pH 8.4)とアセトニトリルを4:1で混合した溶液500μlに溶解させた。1.1μlのトリメチルオールプロパントリス(3-メルカプトプロピオン酸)(アクリレートを基準として1.25当量)を加え、溶液をボルテックスにより混合させた。トリメチルオールプロパントリス(3-メルカプトプロピオン酸)は溶液の中で完全には混和せず、水層の中で小さな液滴の懸濁物を形成した。試料は2時間ではゲル化せず、一晩静置された。トリメチルオールプロパントリス(3-メルカプトプロピオン酸)添加後約12時間で、架橋された材料が形成された。材料に水を加えると、水によって膨潤するが、溶解しなかった(時間尺度:不純物のために最終的にゲルが捨てられるまでの数週間)。
【0155】
同様に、より高いPEG濃度でより強い機械的性質を有するゲルが、最初に0.2 gのPEG-8000-2Aを750μlの緩衝作用のない水及び250μlのアセトンに溶解させることにより形成された。4.4μlのトリメチルオールプロパントリス(3-メルカプトプロピオン酸)(アクリル酸塩基を基準として1.25当量)が加えられた。トリメチルオールプロパントリス(3-メルカプトプロピオン酸)はこれらの濃度(4.4μlのトリメチルオールプロパントリス(3-メルカプトプロピオン酸)/250μlのアセトン)ではアセトンに可溶であるが、ボルテックスによりPEG溶液中で未だ視覚的に不溶な懸濁液を形成した。2時間〜4時間後、高度に架橋された水に不溶な材料が形成された。
【0156】
ペプチド結合求核剤とPEG結合共役不飽和物との共役付加反応によって形成されたゲル
ペプチドGCYKNRDCG(配列番号: 58)は酵素プラスミンによる加水分解感受性で、共役した不飽和基との付加反応のため1個以上のチオール(システイン)を含み、水に非常に溶け易いように設計された。ペプチドは前述の方法に従って合成された。ペプチドは、少なくとも120 mg/mlまでは非常に水に溶けやすい。
【0157】
ゲルは、PEG-2500-3A及びGCYKNRDCGから、PEG-3500-3A及びGCYKNRDCGからと同様に形成された。ゲルは、スルフヒドリル基に対するアクリレートの3種類の比(1:1、1.1:1、1.25:1)において形成された。ゲルは、pH試験紙で調べたように、pH 8.0からpH9.0に調整するためにトリエタノールアミンを含む10 mMリン酸緩衝生理食塩水中で形成された(ゲル形成反応は50μlか、それ以下のスケールで実行された)。ゲルは以下のように作製された:ペプチドを予め溶解させておき、その後、ペプチド溶液にPEG-3Aを加える。または、PEG-3Aを予め溶解させておき、その溶液にペプチドを加える。または、両方を予め溶解させておき、その後、両者を適当な割合で混合する。
【0158】
以下の方法は、40μlスケールでのゲル形成のために使われた。エッペンドルフに量り取られるPEG-2500-3Aの量は、材料の粘性のために変化し、これにより制御が多少困難になる。しかし、PEG-2500-3Aへ加えられる緩衝液の体積は、質量/体積を基準とした最終濃度を同一とするために常に調整される。
【0159】
2.5 mgのGCYKNRDCGをエッペンドルフチューブに量り取った。7.0 mgのPEG-2500-3Aを別のエッペンドルフチューブに量り取った。62μlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)・TEA(1mlあたり13μlのトリエタノールアミンを含む10 mM PBS)をPEG-2500-3Aに加え、4.5 mg/40 μlの溶液とした。PEG溶液をPEG-3Aが溶解するまで(5分未満)静置させた。40μlのPEG-3A溶液をペプチドに加え、非常に早く溶解させた。移動に用いたピペットチップを、約3秒間混合物を撹拌するのに用いた。試験紙(pH範囲1〜11)によるpHの試験のために、1μlの試料を除いた。およそpH8.0であった。20分〜30分後、ゲルが形成された。
【0160】
求核剤(たとえばチオール)近傍の電荷の調節によるゲル化速度の制御
2種類のコラゲナーゼ(MMP-1)感受性ペプチド:GCDDGPQGIWGQDDCG(配列番号: 59)およびGCRDGPQGIWGQDRCG(配列番号: 60)が、実施例1で記載された標準的なFmoc技法を用いて合成された。一つのペプチドにおいて、関心対象のpHである中性のpH付近では(システイン、Cにおける)チオール基は負電荷をもった残基(アスパラギン酸、D)の近傍に位置していた。もう一方のペプチドにおいては、中性pH付近で、チオール基は正電荷をもつ残基(アルギニン、R)の近傍に存在した。pH 8で、それぞれのペプチドはPEGのポリマーを含むアクリレートと別々に反応した。共役付加の速度は、エルマン試薬、DTNBによるチオールの消費より遅かった。結果を図1に示す。チオール基に隣接したDからR(負電荷から正電荷)への交換は反応速度を増加させ、ゲル形成のチオール消費の半減期を約3分の1に減少させた。これは、チオールが共役付加に関与するS型で存在する可能性が増大し、よって、反応及びゲル化の速度が増加するように設計されたことにより、達成された。
【0161】
共役付加によって作られたゲルの膨潤(水の含量)
ゲルは、20 μlスケールで0.1 g/ml、0.15 g/ml、及び0.2 g/ml のPEG-2500-3Aで作製された。ゲルはペプチド(求核剤)組成物、GCYKNRDCGにおいてスルフヒドリル当たり1.1のアクリレートを含んだ。ゲル形成のために、高濃度のゲルにおける余分なペプチドの付加的な酸性度を考慮して、pH 8.0〜pH8.5で反応するようにPBS緩衝液が調整された。ゲルが4通り作製された。
【0162】
(表6) 膨潤調査のための共役付加ゲル

【0163】
ゲルは、最初の湿潤重量測定の前に10 mM PBS, pH 7.3で48時間膨潤された。ゲルは連続した3日間にわたって4回、湿潤重量を測定され、この期間の間、湿潤重量において有意な増加はみられなかった。乾燥重量を得るために凍結乾燥された後、ゲルは4日間脱イオン水に浸漬されて液相が交換された。(実際の乾燥重量における可変性による)最大可能乾燥重量を基準とした水含量は、全て湿潤ゲルの質量の95%である。
【0164】
2種の粉末組成物の混合によって形成されるゲル
材料の前駆体もまた、乾燥状態で組織に送達されうる。例えば、2種の粉末組成物が混合され、水、生理食塩水または生理的な液体中に溶解されたとき、たとえばpH 8など2種の前駆組成物の反応がおこるようなpHで溶液が形成されるように、緩衝組成物を含む一方またはもう一方の組成物、しかし好ましくは両方の組成物、つまり、PEGジチオールは粉末として調製されることができ、PEGテトラアクリレートも粉末として調製されうる。これらの粉末組成物は、水流とともに、又はそれなしで組織表面に噴霧されうる。水流とともに、あるいはそれなしで粉末が噴霧された場合。粉末が水流とともに噴霧された場合、組織表面の生物学的液体(biomaterial)の層に沿って重合体組成物は水流に溶解し、その後反応して最終的な生体適合材料の移植片を形成する。粉末組成物を組織表面に適用する場合、重合体の前駆体と緩衝液組成物は生物学的な液体に溶解し、最終的な生体適合材料の移植片を形成する反応する能力を持つ前駆体溶液を形成する。生物学的な液体が重合体の前駆体組成物の溶解のための水分を供給する場所である場合、重合体の前駆体組成物の濃度は高くてよく、強固な生体適合材料の移植片及び組織への良好な接着をもたらす。粉末の流れの応用において、粉末は一緒に混合されうり、その後、単一の粉末混合物として湿潤した組織表面に適用されうるか、または2種の組成物由来の噴霧中で混合されうる。粉末組成物は、沈殿、磨砕、粉砕、凍結乾燥、噴霧乾燥などの粉末技術の当業者に既知の方法により形成されうる。小さい粒子は水流中や組織表面の水分中のいずれかで、より効率的で迅速な溶解をもたらす。2種の重合体の前駆体組成物は、アクリレート1モル当たりチオール1モルベースにおいて、チオール組成物とアクリレート組成物がほぼ等当量となる割合で共に混合されねばならない。さらに、生体適合材料の移植片の性質は、前記の水溶液又はガスへ溶解するのが遅い粒子などの他の薬剤を前駆体粉末に混合することによって、制御されうり、どちらも回復後、移植材料中での小孔形成をもたらす。
【0165】
実施例3:ペプチドを固定化し、培養物中の細胞で活性を試験するための一般的プロトコール
ペプチドが共役付加により固定化され、ゲルが共役付加によって形成されるようなゲルにおけるペプチドの固定化
13.9 mgのPEG-2500-3Aを69.5μl(5.0 mg/25μl)のGCGYGRGDSPG(配列番号:61)を3.2 mg GCGYGRGDSPG/mlの濃度で含むPBS・TEA(1ml当たり13μlのトリエタノールアミンを含む10 mM PBS)に溶解させた。7.0 mgのGCYKNRDCGを、65μlのPBS・TEA(2.7 mg/25μl)に溶解させた。GCYKNRDCGを、0.22ミクロンのフィルターを通してろ過した。9分間の反応時間後、PEG-2500-3A/GCGYGRGDSPG溶液を別々に0.22ミクロンのフィルターを通してろ過した。ろ過が完了したらすぐに、等体積(25μl)の二種の溶液をコーニング(Corning)平底組織培養処理用ポリスチレン96ウェルプレートのウェルに加えた。二つの前駆体溶液のうち2番目を加える時、ピペットのチップを、混合物を2秒〜3秒撹拌するために用いた。その後、ゲルを37℃で静置させた。
【0166】
組み込まれた接着ペプチドが欠如した共役付加によって作られたゲルの細胞耐性
共役付加ゲルは、GCYKNRDCG中の0.1 g/mlのPEG-2500-3Aおよびスルフヒドリル基当たり1.1当量のアクリレートで作製された。ゲルを24時間、1%の抗生物質と抗真菌剤を含むダルベッコ改変イーグル培地(幾つかは血清なしの条件下でまた幾つかは10%ウシ胎仔血清を含む)で膨潤された。ヒト包皮線維芽細胞(継代後7代目;トリプシン/EDTA継代)をゲルに播種した。2時間から40時間の時点では、細胞は球状のままで、広がらなかった。細胞が次第に凝集していった。細胞の挙動は培地中の血清に依存しなかった。組織培養処理ポリスチレンに播種された対照細胞は通常通り広がった。
【0167】
組み込まれた接着ペプチドを含む共役付加によって作製されたゲルとの、細胞の相互作用
共役付加ゲルはPEG-2500-3A、GCYKNRDG及びペンダント型で挿入されたRGD含有ペプチド(GCGYGRGDSPG)で作製された。ゲルは、GCYKNRDCG中の0.1 gのPEG-2500-3A/ml及びスルフヒドリル基当たり1.1当量のアクリレートで作製された。ゲルは36時間以上、1%の抗生物質と抗真菌剤を含むダルベッコ改変イーグル培地(幾つかは血清なしの条件下でまた幾つかは10%ウシ胎仔血清を含む)で膨潤された。RGDペプチドがPEG-2500-3Aの12個のアクリレート当たり一つ組み込まれた時、(血清を含まない条件下での膨潤と血清を含む培地中での膨潤のいずれの場合も)ヒト包皮線維芽細胞(継代後8代目;トリプシン/EDTA継代)はゲルに接着した。播種から6時間後、(いずれの培地条件においても)細胞はゲルの表面に均一に分布し、播種された細胞の約50%が広がった。
【0168】
ポリエチレングリコールネットワークとの細胞の相互作用
ポリエチレングリコールネットワークと細胞の相互作用は標準的な組織培養方法を用いてゲルにヒト細胞を播種することによって試験された。ヒト包皮線維芽細胞またはヒト臍静脈内皮細胞を、クローンティクス(Clonetics)(San Diego,CA,USA)から購入した。線維芽細胞を、10%のウシ胎仔血清と1%の抗生物質(全てGIBCO BRL,Grand Island,NY,USAから購入)を含むダルベッコ改変イーグル培地で、37℃5%CO2で培養した。内皮細胞を、10%のウシ胎仔血清と1%の抗生物質(全てGIBCO BRL,Grand Island,NY,USAから購入)を含むM199培地で培養した。培地50μl当たり100 mg/mlのヘパリン(Sigma、St Louis、MO、USA)と3 mgの内皮細胞成長補助剤(Becton Dickinson Labware,Bedford,MA,USA)を加えた。トリプシン/EDTA(GIBCO BRL)を用いて細胞を培地基質から除去し、遠心分離(線維芽細胞に対して500 gで5分間、内皮細胞に対して250 gで5分間)し、ポリエチレングリコールゲルに播種する前に通常の細胞培養培地に再懸濁させた。
【0169】
実施例4:反応作製物の化学分析
エルマン(Ellman)試薬を用いて測定した反応速度論
溶液のチオール濃度を測定するためにエルマン試薬が使われた。分析には、10 mlの0.1 Mリン酸緩衝液pH 8に40 mgのジニトロビスチオールニトロベンゼン(Sigma)を溶かした溶液(エルマン試薬)が用いられた。3 mlのリン酸緩衝液を加えることによって、溶液をチオールの存在に関して試験した。エルマン試薬(100μl)を加え混合した。15分後、溶液の吸光度を412 nmで測定した。モル吸光係数は14150とした。
【0170】
アミノ酸であるシステインを用いて、エルマン試薬がpH 10で室温下30分以内に検出可能なジスルフィド結合を形成しないことを示した。同じ条件でシステインを過剰量の分子量8000のPEGジアクリレートに加えたところ、チオールの濃度は数秒のうちに元の値の0.2%まで低下して以後30分間減少せず、PEGジアクリレートの存在下でのチオールの急速な消失を示した。PEGジアクリレート及びアミノ酸であるシステイン間の共役付加反応を図2に示す。
【0171】
アミノ酸配列Ac-GCGYGRGDSP-NH2(配列番号:62)を持つペプチドも同様に試験された。PEGジアクリレートを、1 ml中25μmolの濃度でpH8 リン酸緩衝液中に溶解させた。ペプチド(1 μmol)はPEGジアクリレート溶液に加えられ、チオールの消失はエルマン試薬を用いることによりモニターされた(図3を参照のこと)。反応は異なったpHで行われ、更にジスルフィド結合の形成は、同じ濃度ではあるがPEGジアクリレートの非存在下でペプチドを溶かすことによって評価された。室温で、反応の半減期はpH 7.4で約3分、pH 8でわずか数秒であった。
【0172】
チオールとPEGジアクリレートの間の反応をオンラインでモニターできるもう一つの方法は、反応混合物の223 nmの吸光度をモニターすることである。この波長では、吸光度は原則として4種の基質、チオール組成物、チオール組成物中のジスルフィド不純物、アクリレート、及び作製物(β-アルキルチオプロピオン酸エステル)による。実験は、20℃から37℃の間の種々の温度の10-2M PBS緩衝液において行われた。
【0173】
反応基の総モル濃度を一定にしながら、反応物の比を変えて実験を行ない(図4)、反応前後の吸光度をあわせることで、すべての種の吸光係数が計算されうる。この方法は、反応物と作製物の濃度の時間変化を別々に追跡することを可能にした。つまり、PEGDA及びシステインは同様の反応速度定数をもつ単一の指数関数的な挙動を示し、これは、全ての反応物に関する反応が1次であることを証明した。半減期が2分から10分の間で、温度に依存し、反応物の濃度が記録された。表7においては、速度定数が列挙されている。
【0174】
(表7) 異なったPEGDA含量における、2.5×10-3Mの総累積濃度でのPEGDA-システインの反応の一次反応速度定数

【0175】
PEGジアクリレートと1級アミンとの反応もまた評価された。PEGジアクリレートは、ペプチドのアミノ末端にわずか一つの1級アミンを含むアミノ酸配列GDGSGYGRGDSPG(配列番号:63)を持つペプチドと混合された。アミンの存在はフルオレスカミン分析によって測定された。フルオレスカミン(Sigma)を乾燥アセトンに1.5 mg/ml で溶解させた。ペプチド(1 mg)を100μlのpH 8、0.1 Mリン酸緩衝液に加えた。PEGジアクリレート、分子量8000(100 mg)を900 μlのpH 8、0.1 Mリン酸緩衝液に溶解させ、ペプチド溶液と混合させた。試料を反応物から取り出し、1.5 mgのフルオレスカミンを溶かした乾燥アセトン溶液100 μlに加え、pH 9の50 mMホウ酸溶液で1 mlにした。
【0176】
蛍光強度は蛍光分光光度計を用いて測定され、アミノ酸であるグリシンを用いて作製した検量線との比較により濃度が測定された。アミンとアクリレートとの反応の半減期は、pH 8、37℃で、約90分である。
【0177】
ゲル濾過(size exclusion)クロマトグラフィーを用いて評価されたPEG-ペプチド付加物の作製
水溶性ゲル濾過クロマトグラフィーは、ショーデクスオーパック(Shodex OHpak)SB-803カラム(昭和電工、東京、日本)、UV検出、及び200 nm〜400 nmの吸光度測定により行われた。溶出液はリン酸緩衝生理食塩水(10 mMリン酸ナトリウム、140 mM NaCl、pH 7.4)であった。PEGジアクリレートは極大吸収を205 nmにもち、一方、使用されたペプチドGCGYGRGDS(配列番号: 64)はアミド結合及びチロシンの存在のため、吸収極大を220 nm及び270 nmにもつ。PEGジアクリレートを1 ml中に25 μmolの濃度で、pH 8の0.1 Mリン酸緩衝液に溶解させた。溶液の試料はゲル濾過カラムクロマトグラフィーを用いて分離され、吸収極大を205 nmにもち、220 nmや270 nmには吸光度をもたないポリエチレングリコールは単一のピークとして溶出した。次に、ペプチド(12.5 μmol)をPEGジアクリレート溶液に加え、室温で5分間反応させた。その後試料をゲル濾過クロマトグラフィーで分離し、吸収極大を205 nm、220 nm、270 nmにもち、PEGジアクリレートと同じ保持時間を有する単一のピークを検出した。これによりペプチドがPEGジアクリレートと反応することが示された。同様の研究が、C18クロマトグラフィーを用いて0.1%のトリフルオロ酢酸、5%のアセトニトリルを含む95%の水から、0.1%のトリフルオロ酢酸、60%のアセトニトリルを含む40%の水グへの勾配を用いて行なわれた。ペプチドAc-GCGYGRGDSP-NH2は約20%のアセトニトリルで溶出し、一方、PEGまたはPEG-3400ジアクリレートは約40%アセトニトリルで溶出した。2 molのPEG-3400ジアクリレート当たり1 molのペプチドを、pH8で緩衝された水中でインキュベートすると、20%アセトニトリルで溶出するペプチド関連のピークが消失し、40%アセトニトリルでPEGのピークと共溶出した、220 nmと270 nmの吸光度バンドが現れた。ピークを回収し、MALDI-TOF質量分析計で分析することにより、PEG関連のピークは未修飾のPEG-3400ジアクリレートの混合物ならびにPEG-3400ジアクリレート及びペプチドの分子量の合計である分子量をもつ新たな化学種を含むことが示された。
【0178】
アクリレート、クロトニレート、及びジメチルアクリレート末端化PEGとシステインとの反応速度論の分析
チオール及び共役不飽和基が最初に等モル濃度(20μmol)になるように、アミノ酸であるシステインを溶液(0.1 Mリン酸、pH 8)中で、官能基の結合したPEG(PEG-8000-2A、PEG-8000-2C、及びPEG-8000-2DMA)と混合させた。ジメタクリロイル基の存在下では、その後の時間尺度(10分間)において、チオールの消費速度は本質的に0であった。より立体障害の小さなクロトニル基(二重結合においてひとつのメチル基の置換)の存在下では、チオールの消費速度は増加した。もっと立体障害の小さなアクリレートにおいては、チオールの濃度の減少はもっと迅速であったが、以下の時間経過内では完了しなかった。図5参照のこと。
【0179】
共役した不飽和基の濃度がチオール基の10倍である実験においては、アクリレートによるチオールの消費は極端に速かった。反応は、1分後に最初の試料を取り出したことにより終了した(データは示していない)。
【0180】
実施例5:システイン含有ペプチドとアクリル化ポリマーとの間に形成された結合の加水分解の証明
溶液中での加水分解
ペプチドAc-GCGYGRGDSP-NH2を脱イオン水に溶解させ、PEG-8000ジアクリレートを10 mM HEPESと115 mMトリエタノールアミンでpH 8に緩衝された脱イオン水に溶解させた。2 molのPEG-8000ジアクリレート当たり1 molのペプチドを混合した後、C18クロマトグラフィーで0.1%のトリフルオロ酢酸及び5%のアセトニトリルを含む95%の水から、0.1%のトリフルオロ酢酸及び60%のアセトニトリルを含む40%の水への勾配を用いて反応を追跡した。ペプチドAc-GCGYGRGDSP-NH2は約20%アセトニトリルで溶出し、一方PEGまたはPEG-8000ジアクリレートは約40%アセトニトリルで溶出した。20%アセトニトリルにおける遊離ペプチドのピークが迅速に消失し、ペプチドはその後、40%アセトニトリルでPEGのピークと共溶出した。PEGペプチド付加物を含む溶液をその後、37℃でインキュベートし、ポリマーからのペプチドの加水分解を検出するために、後の時点で、C18クロマトグラフィーへの注入を行った。これは、PEGのピークと共溶出した273 nmでのシグナルにおける減少と、約20%アセトニトリルでの遊離ペプチドのピークの再出現を観察することによって測定された。約20%アセトニトリルで溶出する新たなピークのMALDI-TOFF質量分析は、もとのペプチドの分子量+72質量ユニットに相当する分子量をもつ作製物を明らかにした。これは、新たなピークはプロピオン酸で修飾されたペプチドを含んでおり、このペプチドは、ペプチド上のシステイン残基及びアクリレート基との間に期待される以下の共役付加の作製物で、その後に修飾されたアクリレートのエステルが加水分解される。ペプチドとPEGの間のエステルの加水分解の半減期は4.86日であることが見出された。これは、加水分解の半減期がpH 7.4で3週間であることに対応する。
【0181】
チオールを含むペプチドとアクリレートとの反応によって形成されるゲルの分解
PEG-3400トリアクリレートを濃度20%(W/V)で、50 mM HEPES緩衝生理食塩水pH 8.0に溶解させた。PEG-3400ジチオール(Shearwater Polymers, Huntsville, AL, USA)を、1 mM MES緩衝生理食塩水pH 5.6に濃度20%(W/V)で溶解させた。溶液は、アクリレート1:チオール1の割合で混合された。37℃で数分後にゲルが形成され、その後ゲルを10 mM HEPES緩衝食塩水pH 7.4を含む試験管に移し、37℃でインキュベートした。最初の一週間、HEPES緩衝生理食塩水を毎日交換し、試験管内に残存しているゲルの存在を毎日評価した。架橋後18日から24日の間で試験管からなくなるゲルを用いて、固体のゲルが約3週間後には試験管内からなくなることが見出された。これは、遊離基架橋(Pathak、前記)によってPEG-8000ジアクリレートから形成されるゲルに匹敵し、これはpH 7.4、37℃において4ヵ月後もまだ存在している。
【0182】
チオールを含む分子とアクリレートとの反応によって形成されたゲルの分解
13.9 mgのPEG-2500-3Aを、69.5μl(5.0 mg/25μl)のPBS・TEA(1ml当たり13μlのトリエタノールアミンを含む10 mM PBS)に溶解させた。7.0 mgのGCYKNRDCGは65μlのPBS・TEA(2.7 mg/25μl)に溶解させた。等体積(25μl)の二つの溶液を、コーニング平底組織培養処理ポリスチレン96ウェルプレートのウェルに加えた。二つの前駆体溶液を加える時、ピペットのチップを、混合物を2、3秒撹拌するために使用した。その後、ゲルを37℃で静置した。次にゲルを10 mM HEPES緩衝生理食塩水pH 7.4を含む試験管に移した。ゲルを37℃でインキュベートし、固体のゲルの消失がその後目視された。14日から21日の間ですべての固体ゲルは消失し、それらがペプチドとPEGとの間のエステル結合の加水分解によって分解されたことが示された。
【0183】
局所的な環境における変化を通じた加水分解速度の制御
13.9 mgのPEG-2500-3Aを、69.5μl(5.0 mg/25μl)のPBS・TEA(1ml当たり13μlのトリエタノールアミンを含む10 mM PBS)に溶解させた。7.0 mgのGKKKKGCYKNRDCG(配列番号: 65)を65μlのPBS・TEA(2.7 mg/25μl)に溶解させた。等体積(25μl)の二つの溶液を、コーニング平底組織培養処理ポリスチレン96ウェルプレートのウェルに加えた。二つの前駆体溶液を加える時、ピペットのチップを、混合物を2、3秒撹拌するために使用した。その後、ゲルを37℃で静置した。次にゲルを10 mM HEPES緩衝生理食塩水pH 7.4を含む試験管に移した。ゲルを37℃でインキュベートし、固体のゲルの消失がその後目視された。ペプチドにおいて見出された余分なリジン(「GKKKK…」)が、エステル結合の局所的環境への更なる求核試薬を供給するために添加された。さらに、この基のカチオン性の性質はまた、局所的なpHの上昇をもたらす。これらの2つの効果の組み合わせがペプチド及びポリマーの間のエステル結合の加水分解速度を増大させると期待される。
【0184】
実施例6:2個のシステイン残基を含むペプチドと、その間のプラスミン基質配列との共役付加によって形成されたゲルのプラスミン加水分解及び置換ペプチドの加水分解の欠如の証明
共役付加によるゲルの合成
酵素やペプチドはキラル(chiral)であるので、GCYKNRDCGの立体化学が、共役付加によって作製されたゲルに対する、プラスミンに安定な求核剤を作製するために変更された。このプラスミンに安定なペプチドは、GCY-DLys-N-DArg-DCG(配列番号: 66)であった。GCYKNRDCGの非常に良好な水溶性の性質を維持するため、他の点では配列は変えられなかった。
【0185】
分析的なC18 HPLC(水中のTFA0.1%以上の直線状アセトニトリル勾配)を、GCY-DLys-N-DArg-DCGの相対的なプラスミン安定性を確認するために使用した。以下の試料を用いた:プラスミン;GCYKNRDCG;プラスミン+GCYKNRDCG;GCY-DLys-N-DArg-DCG;及びプラスミン+GCY-DLys-N-DArg-DCG。(マイクロモルの)プラスミンは、(ミリモルの)ペプチドの1/1000の濃度で存在しており、それゆえ、クロマトグラムの重なった吸光度に影響を与えなかった。ペプチドの溶出のトレース(220 nmまたは278 nmの吸光度)に対してペプチド-プラスミンのトレースを重ねることにより、GCYKNRDCGペプチドの大部分が37℃において約一時間で分解されたことが示された。GCY-DLys-N-DArg-DCGペプチドはしかし、24時間後でもプラスミンによって影響を受けず、試料中のプラスミンの寿命を超えて、影響を受けないままであった(試料はC18に二週間注入された)。
【0186】
プラスミン感受性及びプラスミン耐性の証明
上述の40μlプロトコールに従ってゲルが作製された。幾つかはL配置のLysとArgをもつGCYKNRDCGペプチドを含んだ。もう一方はその代わりにGCY-DLys-N-DArg-DCGを含んだ。全てが200μl中の0.2ユニットのプラスミンに曝露され、37℃でインキュベートされた。ペプチドのL-Lys、L-Arg配置は酵素によって容易に分解された。ある場合には、6時間後にはゲルが残っていなかった。DLys、DArg配置のゲルはプラスミン分解による分解が示されなかった。
【0187】
実施例7:光重合化によって形成されたポリエチレングリコールゲルへのペプチドの組み込み
ゲルの合成
分子量8000のポリエチレングリコールジアクリレート(230 mg/ml)を、HEPES緩衝生理食塩水(10 mmol HEPES、Sigma、8 g/L NaCl、pH 7.4)に一時間溶かした。トリエタノールアミン(Aldrich、15.3 μl/ml)を加え、溶液のpHを6N HClでpH 8に調製した。システイン含有ペプチドを116.5μlのHEPES緩衝生理食塩水に溶かし、870μlのPEG溶液をボルテックスしながら加えた。5分後、3.5 μlのN-ビニルピロリドン及び10 mMのエオシン(Eosin)Y 溶液10 μlを加え、続いてボルテックスした。ゲルを、75 mW/cm2の光(Cermax Xenon Lightsource、470nmから520 nmの間の光を透過;ILC Technology、Sunnyvale,CA,USA)に一時間さらすことによって形成した。ゲルをpH 7.4のトリス緩衝生理食塩水(1L当たり4.36 g Tris HCl、0.64 g Trizma base、8 g NaCl、0.2 g KCl、全てSigmaから購入) の中で36時間膨潤させた。
【0188】
光重合化によってゲルが形成される共役付加によって挿入されたペプチドを含むPEGゲルと細胞の相互作用
PEGゲルはペプチドGCGYGRGDSPGを用いて、上述のように調製された。大部分の細胞はGRGDSPG配列を認識する受容体をもっており、細胞は、ペプチドを含む固定化されたRGDを示している表面と相互作用すると考えられる。共役付加によって組み込まれたペプチドを含むPEGゲルと細胞との細胞相互作用を試験するためにゲルが形成され、ヒト臍静脈内皮細胞はゲルに播種された。表面で細胞がペプチドと相互作用していることを示す、表面上の細胞の形の変化が観察された。形の変化は広がりと呼ばれ、表面での球状から平面状及び多面体状の細胞の形の変化のことを指す。ペプチドのないPEGゲル上では細胞の広がりが起こらず、また、GCGYGRGDSPGペプチドの特異性は、同じアミノ酸残基を含むが異なった配列であり、生物学的な活性を持たないGCGYGRDGSPGペプチドを含むゲルとの比較によって確認された。細胞がゲル上に1 mm2当たり400細胞の割合で播種され、面積当たりの広がった細胞の数を数回にわたって計測した(図6参照)。実験は、通常の細胞培養培地を用いて行われた。共役付加反応を用いてゲル中に組み込まれたペプチドGCGYGRGDSPGを含むゲルの上だけで、細胞は広がることができた。
【0189】
実施例8:共役付加反応を用いたpH感受性ゲルの形成
ペプチドGCCGHHHHHGCCG(配列番号:67)が、上述のように合成された。ペプチド(10 mg)を、15 μlの10 mMリン酸緩衝生理食塩水pH 7.4及び25 μlのエタノールに溶解させた。溶液のpHを1N NaOHを用いてpH 5.8に調製し、その後、分子量400のPEGジアクリレート(7.5 μl、Aldrich)を加えた。混合物は37℃で5分間インキュベートされた。ヒドロゲルが形成され、pHを7.4から5.8に変えることにより直径が約50%増加することが示された。
【0190】
37℃で10分間ボルテックスさせながら上記のゲル化溶液に94 mgのハイパーマー(Hypermer)B239 (ICI Surfactants, Wilmington, DE, USA)を含む1 mlのシクロヘキサンに加えることにより、ゲルが球状に重合化された。直径2 μmから20 μmの範囲の球が作製され、pHを7.4から5.8に変えることで直径が約50%増加することが示された。
【0191】
実施例9:タンパク質送達への応用のための粒子の形成
PEG-3400トリアクリレートを、2%のアルブミン(Sigma、St.Louis, MO,USA)を含む50 mM HEPES緩衝生理食塩水pH 8に、20%(w/v)の濃度で溶解させる。PEG-3400ジチオール(Sharwater Polymers, Huntsville,AL,USA)を、1 mM MES緩衝生理食塩水pH 5.6に20%(w/v)の濃度で溶解させる。溶液を、アクリレート1:チオール1の割合で混合する。液体溶液(50 μl)に、100 mgのハイパーマー B239(ICI Surfactants,Wilmington, DE,USA) を含む1 mlのシクロヘキサンを急速に攪拌しながら迅速に加える。混合物を37℃で30分間加熱する。その後、重合化したタンパク質を含む球を余分のシクロヘキサンで洗浄して界面活性剤を除き、続いてシクロヘキサンを除くために真空中で乾燥させる。次に粒子をHEPES緩衝生理食塩水pH 7.4に再懸濁させる。微粒子からのタンパク質の放出を、毎日再懸濁培地を変えることにより測定し、再懸濁培地中のタンパク質を、280 nmでのUV検出と組み合わせたゲル濾過クロマトグラフィーを用いて評価する。再懸濁培地中のタンパク質濃度は、280 nmにおけるアルブミンの濃度検量線から決定される。
【0192】
実施例10:共役付加によって組み込まれたペプチドを用いた細胞及び組織に対する標的化PEGトリアクリレート微粒子
実施例7で示されたように微粒子はPEGトリアクリレート及びペプチドGCYdKNdRDCG(配列番号:68)との共役付加架橋によって形成されるが、GCGYGRGDSPG 1に対してGCYdKNdRDCG 8の割合で、付加的にペプチドGCGYGRGDSPGも反応混合物に含まれる。生物活性なペプチドが、生物活性なペプチドを含まない微粒子と比較して、細胞の表面に微粒子を局在化させる能力を試験される。
【0193】
実施例11:共役付加によって形成されたゲルによる薬剤カプセル化及び送達
共役付加によりPEGゲルを形成するための条件は非常に穏和(室温から37℃、pHは約8.0、水溶性の溶媒中)であるので、タンパク質薬剤のような薬剤は送達のためゲル中に組み込まれる。そのような穏和な条件はほとんどのタンパク質を変性させない。薬剤はいろいろな様式で挿入される。一つの方法において、タンパク質またはその他の薬剤(PEG感受的及び酵素感受的なペプチドの両方のために、水、エタノール、アセトニトリルまたは他の溶媒に可溶な薬剤で、水性緩衝液に交換されうる)はゲル形成の間にゲルの小孔の空間に包括される。遊離システインは天然のタンパク質において相対的に稀であるので、ゲルと架橋するタンパク質が問題となる場合は僅かである。また、共役した不飽和化合物の、タンパク質中の他の求核剤(水酸基及びアミノ基)への添加はスルフヒドリル基に比べ非常に遅いので、反応の選択性は非常に良い。膨潤状態におけるゲルの小孔空間よりも薬剤が大きい時は、分子量や前駆体の濃度による制御のため、薬剤は適当な速度でゲルの外へ拡散するのではなく、むしろゲルの表面の酵素的分解によって放出される。
【0194】
タンパク質放出の拡散及び分解制御:ゲル小孔空間に閉じ込められたミオグロビンの放出
タンパク質であるミオグロビン(17,000 Da)は、チオール及びアクリレートの間の共役付加によって作製されたヒドロゲルから放出された。PBS、pH 7.4中の0.2 g/mlPEG-3500-3Aは、チオールとアクリレートの濃度が同じでPEG-3500-3Aの最終濃度が10%(前駆体溶液)になるように、プラスミン感受性ペプチドGCYKNRDCGの溶液と混合された。幾つかの前駆体溶液に対して、ミオグロビンが加えられた(195 μlの前駆体溶液あたり5.2 μlの9.8 mg/mlのミオグロビン溶液)。ミオグロビンは、大きさが同じであることから、BMP-2のような成長因子のためのモデルタンパク質として選択された。ミオグロビンを含む又は含まない200μlアリコートの前駆体溶液は、止血用コラーゲンスポンジ上に作製された。幾つかの対照スポンジに、5.2 μlの9.8 mg/mlのミオグロビン溶液がゲル前駆体なしに加えられた。幾つかのスポンジに、ミオグロビンの代わりにPBSが加えられた。スポンジの中でゲルが固形化した後、各試料はが細菌や真菌の混入を防ぐため、0.1%のアジ化ナトリウムを含む4 mlの10 mM PBS pH 7.4でインキュベートされた。6時間、12時間、24時間後及び、2日、3日、7日、13日後、それぞれの試料から液層が除去され、0.1%のアジ化ナトリウムを含む新鮮なPBSで置換された。13日後、溶液が4 ml PBSの0.08ユニットのプラスミンで置換され、図7の垂直線で示された不連続性が現れた。溶液をBIORAD/Bradfordタンパク質微量分析法を用いて展開し、既知の濃度のミオグロビン溶液から作製された検量線と比較した。ヒドロゲル材料中のミオグロビンを含む試料がミオグロビンを遅れて放出(拡散律速)することが示されるが、酵素であるプラスミンによってヒドロゲルが分解されると、放出されるタンパク質の総量はスポンジだけ(ヒドロゲルなし)から放出される総量と変わらない(データは示していない)。
【0195】
組み込まれた親和性部位を用いた放出
もう一つの方法において、ヘパリン結合成長因子のような薬剤は、ゲルの中へ静電的に隔離される。本方法は、特に膨潤状態のゲルで、さもなくば小孔を通ってゲルの外へ拡散してしまうような、比較的低分子量の化合物を閉じ込めるのに効果的である。隔離は、種々の方法で行われる。
【0196】
最初の試みにおいて、共役付加によるゲル形成の間、一つ又は複数のシステインを含むヘパリン結合ペプチド(つまり、ペプチドが付加物あるいは架橋用となりうる)、ヘパリン、及びヘパリン結合成長因子が含まれる。第2番目の試みにおいて、以前全く存在していなかった(あるいは、ごく親和性の低い部位しかなかった)ヘパリン結合領域における分子生物学的技術や遺伝子工学によって、人為的なタンパク質が作製される。第3の試みにおいては、対になっていないシステインを含む、人為的なタンパク質を作製する。その後ゲル形成段階の間に、このシステインリンカーを通じてタンパク質を共有結合させる。第4の試みにおいて、対になっていないシステイン及び酵素感受性領域の両方を人為的タンパク質中に導入する。このタンパク質はまた、ゲル形成において共役付加ゲル内に共有結合的に組み込まれるが、該タンパク質は適当なプロテアーゼの存在下で放出され、これは、バルクのゲルまたは特異的な酵素が劣化することと同じでありうる。第5の場合において、成長因子を静電的に隔離するために、チオール、たとえばシステイン残基において、又は共役不飽和を含むヘパリン類似物を作製し、ヘパリン結合成長因子の存在下で、材料の中へ共有的に組み込んだ。
【0197】
成長因子の親和性の組み込みと持続性放出のための成長因子の隔離
ヘパリン結合成長因子を含むヘパリン結合タンパク質は、材料形成において非共有結合的に材料に結合される。もし、結合されるタンパク質が天然のヘパリン結合配列を含んでいないならば、天然のタンパク質配列及び合成ヘパリン結合ドメインを含むように融合タンパク質が構築される(分子生物学的技法を用い、DNAレベルから開始する)。
【0198】
たとえば、神経成長因子(NGF)は、タンパク質がN末端にヘパリン結合ドメインを、該タンパク質のC末端にNGFの配列を含むような融合タンパク質として大腸菌内で発現する。これは、所望の融合タンパク質をコードするDNAを含む合成遺伝子を構築することで達成される。発現されるタンパク質配列は、以下の通りである。

ここで、斜体の領域は発現ベクター由来のヒスチジンタグで、下線の領域はトロンビン切断部位である。太字で示されたアミノ酸は、ヘパリン結合配列を示している。
【0199】
遺伝子を組み立てるために使われるクローニングプラスミドはpUC 18である。遺伝子のDNA配列は以下の5'末端から3'末端である。

この遺伝子は、pUC18のポリリンカークローニング部位のEcoRI部位とHindIII部位の間に挿入されている。組み立て後、この遺伝子は発現ベクターに挿入される。その後発現と精製が行われる。
【0200】
上記実施例1に記載された標準的なFmocペプチド合成を用いて、GCG(βA)FAKLAARLYRKA(配列番号:71;表5参照)のようなヘパリン結合ペプチドが合成される。材料形成のため、ペプチドは共役した不飽和前駆体とあらかじめインキュベートされ、融合タンパク質はヘパリンとあらかじめインキュベートされる。その後ペプチドが共役した不飽和物と共有結合し、同時に、ヘパリンがペプチドとタンパク質の間に非共有結合的な架橋を形成するように、融合タンパク質-ヘパリン複合体がペプチド-不飽和物に加えられる。そして、架橋する前駆体を含むチオールが加えられ、ヘパリン結合タンパク質を全体にわたって含む材料が形成される。
【0201】
タンパク質の共有結合的な組み込みと酵素的に制御された放出の可能性
融合タンパク質が、関心対象のタンパク質、及び、一方の末端にプラスミンのような酵素によって分解可能な短いペプチド配列、及び、タンパク質分解のための部位から遠位にシステインを含むように構築される。システインは、材料形成の際に、材料の中にタンパク質が共有結合的に組み込まれることを可能にする。タンパク質分解のための部位は、細胞活性、たとえば、細胞の移動において用いられるプラスミン又はコラーゲンのようなプロテアーゼの活性化によって決定された速度で、その天然型におけるタンパク質の放出を可能にする。タンパク質の放出は、材料それ自身を分解するだけでなく、同じまたは異なった酵素によって制御されうる。酵素的な放出なしで、タンパク質と材料との共有結合が望ましい場合もある。このような場合には、タンパク質は(たとえば、タンパク質の一方の末端における)対になっていないシステインを含むが新たなタンパク質分解部位を含まないように、DNAレベルから開始して操作される。
【0202】
たとえば、血管内皮成長因子(VEGF)は、タンパク質のN末端近くにシステインを導入するように部位特異的突然変異導入を行うことで、改変される。分子生物学的方法が、タンパク質の合成、精製、折り畳みのために使われる。タンパク質はタンパク質中のチオールに対して過剰量のアクリレートを含むPEG-トリアクリレートとインキュベートされる。2個のチオールを含むプラスミン感受性ペプチド(GCYKNRDCG)が全体にわたって組み込まれた成長因子を含む材料と架橋するために加えられる。
【0203】
実施例12:タンパク質分解によって薬剤として放出されうる共有結合的に結合されたプロドラッグによる材料からの薬剤(非タンパク質薬剤を含む)の送達
材料内へのプロドラッグの共有結合的な組み込みのためのもう一つの方法が記載されている。材料が可溶性である場合、材料からプロドラッグを送達できる。薬剤の大きな分子量の改変は、循環時間、プロドラッグの標的化、免疫耐性及び細胞取り込みの様式を調節するために用いられる。安定な担体-薬剤結合が送達のために望ましい。しかしながら、望ましい部位に到着すると切断されることができる結合が、関心対象である。結合の一つの組成物がタンパク質分解酵素に認識されるL-アミノ酸であるようなアミド結合が適当である。コペセック(Kopecek)ら(Pato, J., M Azori, K., K. Ulbrich, J. Kopecek, Makromol. Chem.誌, 185巻:231〜237, 1984年)はこのような酵素的分解可能な可溶性の高分子量薬剤担体に関して多くの文献を公開してきた。しかしながら、ヒドロゲルのような固体材料からの酵素的に制御された薬剤送達についてはほとんど研究されていない。固体材料からの送達は、所望の部位、たとえば、材料形成の部位に薬剤送達を局在化させることに役立つ。薬剤放出がタンパク質分解酵素の発現のような細胞活性によって行われる固体材料からの送達は、細胞活性(たとえば、細胞の移動)が放出の速度を決定するように、放出の速度を制御する。
【0204】
(抗がん剤ドキソルビシンまたはダウノルビシンのような)薬剤の官能基は、アミノ官能基以外が保護される。薬剤のアミン基は、アミド結合の形成によってアミノ酸またはペプチドと結合する。それゆえ、アミノ末端をリジンやアルギニンに切断するプラスミンのようなタンパク質分解酵素によって、アミノ酸またはペプチドと薬剤が結合しているアミド結合において、アミノ酸またはペプチドは、アミノ末端がアミノ酸(Y)またはペプチド(XXXXY;配列番号:72)に分解可能なように選択される。チオール(たとえばシステイン)は、結合したペプチドに含まれるか、または、ペプチド-薬剤共役部分のアミノ酸もしくはペプチド部分の隣に結合されるかのどちらかである。(SH-XXXXY-薬剤を与えるため)薬剤及びペプチドの官能基は脱保護されている。材料形成の際には、チオール-ペプチド-薬剤の共役は、材料前駆体内の共役不飽和物におけるチオールの共役付加によって、材料と共有結合する。薬剤は、薬剤を材料へ結合しているアミド結合(Y-薬剤)を切断するプラスミン分解のような酵素的活性によって、材料から放出される。
【0205】
あるいは、(プロスタグランジンのアンタゴニストであるジクロフェナックのような)薬剤の官能基は、カルボキシル官能基以外が保護される。カルボキシル基はペプチドのアミノ末端においてアミド結合を形成することにより活性化され、ペプチドと結合する。それゆえ、このペプチドはカルボキシル末端を特定のアミノ酸(Y)になるように切断するタンパク質分解酵素によって、ペプチドと薬剤を結合しているアミド結合においてチオール(たとえばシステイン)を含み、カルボキシル末端がペプチドに分解されうるように設計される。薬剤及びペプチドの官能基は脱保護されている。材料形成の際には、チオール-ペプチド-薬剤の共役(薬剤-YXXXX-SH)は、材料前駆体内の共役不飽和物においてチオールの共役付加によって材料と共有結合する。薬剤は、薬剤を材料へ結合しているアミド結合(薬剤-Y)を切断する酵素的活性によって、材料から放出される。
【0206】
実施例13:組織の再生
ラットにおける異所性(皮下の)骨形成
本質的に実施例3に従って、しかし滅菌条件下、ならびにPEG-3500-3A、1:1のアクリレート:チオールのモル比、及び1/12のGCGYGRGDSPG:アクリレートのモル比を用いて材料を作製した。ゲル形成時には、骨形成を誘導する組み換えヒト成長因子、BMP-2を、前駆体溶液の濃度250 μl/mlで前駆体溶液に加えた。前駆体溶液を止血用コラーゲンスポンジ(Helistat、直径8 mm、高さ約3.5 mm)に加えた。前駆体溶液を、スポンジがそれ以上溶液を吸収できなくなるまで(約160 μl)加えた。ゲルは、スポンジ中で固体化された。ゲルを簡単にPBSで洗浄し、その後、ラットの皮下に移植するまで、最低限に湿った状態にしておいた。移植片を2週間後に除去し、固定し、ヘマトキシリン及びエオシン染色をした。材料に非常に少量の残余の材料が残っていて、細胞によりよく浸潤されており、骨形成(石灰化及び髄形成)及び血管新生が促進されていた。このことは、材料が活性な生体分子(たとえば、成長因子)を送達することができ、インビボで細胞によって浸潤されうることを示している。
【0207】
骨再生
ヒドロゲル材料は、多様な治療の状況、たとえば、外傷後、腫瘍の除去、または脊椎の融合などにおける骨再生において有用である。一つの例において、例えば上述のヒドロゲル材料は脊椎融合ケージ中の空間に適用され、材料内にBMP-2、TGF-β、またはBMP-7などの骨形態形成タンパク質を含む。この生物活性な製剤は、症例における脊椎融合の成功の確率の増大において有用である。このような材料の使用は、ケージ内の空間を(疾病の感染や高い費用を伴う)アモルファス骨同種移植片で充填すること及び、たとえば、腸骨隆線から得られた(付加的な罹患率や入院のコストを伴う)骨自家移植片で空間を充填することといった現在の外科的方法におけるいくつかの困難を回避することができる。
【0208】
皮膚再生
ヒドロゲル材料は、皮膚の治療及び再生、たとえば、糖尿病性足潰瘍、圧迫びらん、及び静脈機能不全潰瘍の閉塞に有用である。たとえば、前述のヒドロゲルはたとえば、血管内皮細胞成長因子、TGFβ、アクチビン、ケラチノサイト成長因子、血小板由来成長因子、上皮成長因子、または他の多くの成長因子など、これらの傷の閉鎖を増強する成長因子を送達することに使われうる。これらの成長因子は包括又は生物特異的親和性(たとえば、ヘパリンに対する親和性など)のどちらかによってヒドロゲル内に組み込まれうる。
【0209】
実施例14:構造的負荷をもつためのヒドロゲル及び非ヒドロゲル材料
共役付加反応によって形成された構造材料
ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオン酸)(QT)(424 mg)及び997 mgのポリエチレングリコールジアクリレート570(PEGDA)を適切に化合させ、ボルテックスにより、よく混合させた。空気の泡を超音波処理によって除去した。PH 9.0で調製されたPBS 0.01 M溶液(1N NaOHでpH 9に調整された等体積の10 mM PBSと混合されたトリエタノールアミン(EtOH3N) により、pH 9に調整された10 mM PBS)(473 mg)を、混合された前駆体に加えた。混合物をよく混合するために再度約2分間ボルテックスし、水性溶液内の前駆体を分散させた。ボルテックスに続いて、空気の泡を除去するために、混合物を再度超音波処理した。材料は室温で、約20分〜30分内でゲル化した。得られたゲルは、約2 MPaの極限強度を示し、圧縮において、約35%の変形に耐えた(図8)。
【0210】
疎水性による機械的特性の制御(ペンタエリトリトールトリアクリレート)
QT及びペンタエリトリトールトリアクリレートを489 mg対596 mgの割合で適切に混合した(混合物1)。QT及びPEGDA570を、上記で示した比率で混合した(混合物2)。100 mgの混合物1を650 mgの溶液2と化合させて250 mgのPBS pH 9.0を加え、混合のため全混合物をボルテックスした。同様なゲルを、200 mg、300 mg、及び400 mgの混合物1に対して調製した。これらに対しては、550 mg、450 mg、及び350 mgの混合物2をそれぞれ加えた。これら全てに対して250 mgの活性化緩衝液を加えた。得られたゲルは、疎水性共前駆体を添加することで、機械的特性の変化を示した。疎水的なTA含量の増加は、得られたゲルの硬度を増加させた(図9)。
【0211】
チオールのアクリレートに対する比の変化
QT及びPEGDA570を、適当量のQTを1000 mgのPEGDA 570に加え、75重量%の固体ゲルを作製するために大量のPBS 9.0を加え、チオールのアクリレートに対する比率が、0.8、0.9、1.0、1.1、1.3であるように適切に化合させた。一つの例として、チオールのアクリレートに対する比率0.8に関しては、343 mgのQTを1000 mgのPEGDAに加えた。2つの組成物をボルテックスにより混合し、その後、448 mgのPBS 9.0を加えた。混合物を再度ボルテックスし、その後、ゲル化させた。1以上のチオールとアクリレートの比において、得られたゲルは極限強度における有意な減少を示した。1.0から1.3の比において、チオール/アクリレートの比の変化に対するゲルの感受性が減少した。以下の表(表8)は、それぞれのチオール/アクリレートの比で得られた極限強度を示している。
【0212】
(表8) 種々のチオール/アクリレートの比に対するゲルの極限強度

【0213】
粒子の添加による機械的特性の制御
前駆体であるQT及びPEGDA 570を、上記で概述したように化合させた。活性化緩衝液(PBS、pH 9.0)を加える前に、10重量%のBaSO4粒子であるbalance fixe(0.8 μm)を、混合された前駆体に加えた。活性化緩衝液を加えて全混合物をボルテックスし、その後、ゲル化させた。上記の実施例で記されたものと同量の前駆体が使われた。BaSO4を加えることによって得られたゲルは、多少の極限強度の増加及びかなりの硬度の増加を示した(図10及び図11)。QT及びPEGDA 570ゲルもまた、いぶしたシリカ粒子(14 nm)に添加されることで調整される。424 mgのQTを997 mgのPEGDAと化合させた。PBS pH 9.0緩衝液を加える前に、緩衝液を10%のいぶしたシリカ粒子に添加した。250 mgのPBS-いぶしたシリカの混合物をQT/PEGDA混合物に加え、その後、混合するためにボルテックスした。いぶしたシリカの添加により得られたゲルは、極限強度における有意な増加を示した。図12は、準破壊圧縮におけるいぶしたシリカゲルの圧縮負荷曲線を示している。4 MPaの圧縮においても、これらのゲルは破壊されなかった。
【0214】
乳化剤の使用による機械的特性の改善
緩衝液を、混合された前駆体であるQT及びPEGDA 570に加える前に、ソルビタンモノオレイン酸を4重量%でPBS 9.0緩衝液に加えることによる乳化によりゲルが調製された。その後、界面活性剤/pH 9.0緩衝液混合物を、混合された前駆体に加えた。他の点においては、上記と同じように、同じ量と方法が使用された。無機的粒子を加えたゲルと比較して、得られたゲルは極限強度において同様の増加を示したが、それに伴う硬度の増大を示さなかった(図10及び図11)。
【0215】
有機溶媒を含む溶媒中での材料の調製
QT及びPEGDAを、前述の比率で化合させた。次に、これらの前駆体を10重量%のN-メチルピロリジノン(NMP)に溶解させ、その後ゲル化させた。ゲルを24時間固めた後、溶媒を交換するために、脱イオン化した水の中に置いた。溶媒を交換する間に、ゲルの体積は60%縮小し、新たな平衡体積に達した。得られた平衡化ゲルは、低負荷の圧縮に対する柔らかい弾性反応及び圧縮における高度な変形に対する硬度において増加を示した。図13はこの材料の典型的な圧縮負荷曲線を示している。
【0216】
親水性添加物の添加による機械的特性の調節
QT及びPEGDAを上述の比率で化合させた。ポリ(ビニルピロリドン)(分子量40,000)(PVP)を、PBS 9.0緩衝液に、1%、7%、及び13%の濃度で溶解させた。上記で示したように、同量の前駆体混合物と緩衝液/PVP溶液を混合した。混合物をボルテックスし、ゲル化させた。これらのゲルにより、親水性添加物の添加による機械的特性の操作が示された。PVPの添加はゲルの平衡膨潤を増加させ、PVP含量の増加は、さらに膨潤を増加させた。PVPの添加はまた、より弱く柔らかいゲルをもたらした。
【0217】
QT及びPEGDA 570のゲル化の速度論
QT及びPEGDAを上述の比率で化合させた。ボルテックスによりQT/PEGDA 570を混合させた後、緩衝液を加える代わりに、室温で100 μmの隙間を有するCVO 120流量計の20 mmのプレートの間に100 μlの混合物を置いた。弾性係数、複素(complex)係数、及び粘度を、歪幅が0.3である1Hzの剪断応力を用いて経時変化を追跡する間、混合物を室温で維持した。反応の進行にしたがって、化合した2つの前駆体は、弾性係数が複素係数よりも大きくなった時間で定義されるゲル化点を約14時間で示した。図14は、化合した前駆体の2つの係数を時間とともに示している。
【0218】
次に、上記のように、2種類以上の前駆体を化合させ、上記のように、PBS 9.0を加えた。前駆体と緩衝液を混合した後、混合物は37℃で流量計のプレートの間に置かれた。周波数と振幅は、前述の方法と同様であった。緩衝液を加えることにより、ゲル化の速度は劇的に増加した。37℃において、ゲル化点は約11分に生じた。図15は、pH 9.0の緩衝液によって活性化された前駆体の係数を示している。
【0219】
組織中でのゲルの生体互換性
前駆体、QT及びPEGDA 570、緩衝液、ならびにソルビタンモノオレイン酸を全てフィルターで滅菌した。Blanc Fixe粒子をオートクレーブにより滅菌した。ゲルのピンは前駆体、Blanc Fixe、及びソルビタンモノオレイン酸を用いて調製された。他のピンは2つの前駆体のみを用いて調製された。2つの前駆体からのみ調製されたゲルのピンはゲル化に先立って活性化され、ボルテックスされた混合物がピンを形成するため鋳型に置かれる点以外、上述された同じ方法で調製され、無機粒子を含むゲルのピン及び界面活性剤を上述の方法を組み合わせることにより調製された。ピンは、ウサギの左右の背筋に埋め込まれた。ポリエチレンの参照用ピンも使用された。4週間後、移植片と周辺の組織の組織学的切開が行われた。テストしたどちらのゲルも、参照用の材料に比較して、有意な差は現れなかった。稀なマクロファージ、線維芽細胞、及び新生血管が、移植されたゲルのピンに結合していた。ネクローシス、変質、または他の局所的拒絶反応の兆候はこれらのゲル組成によって誘導されなかった。
【0220】
低分子量前駆体の毒性と生体互換性は、官能基を残している高分子量の前駆体をもたらす大量の前駆体をあらかじめ反応させることによって改善される。QTは、10倍の過剰量のPEG-DA 570で官能基が導入された。この過程の結果は、末端のアクリレートがフリーのままであるジアクリレートでキャップされたQTのそれぞれのチオールからなる4個の官能基を持ったアクリレートである。QTが過剰である同様な反応では、6個の官能基を持つ3個のフリーのチオールでそれぞれの末端がキャップされたPEGを生じる。チオールとアクリレートの比1:1で化合されたこれらの前駆体は、QT及びPEGD 570をの直接の使用によって得られるゲルと同様なゲルを生じる(図10及び図11を参照のこと、HT及びQTの値に注目されたい)。
【0221】
混合した分子量の前駆体からの材料の調製による機械的特性の制御
末端官能基ポリマー架橋システムは、機械的特性が多様な分子量の分布を用いることで、操作を可能にすることを示してきた。低分子量系のなかで、高分子量の前駆体の低いモルを含むことは、どちらかの分子量の前駆体だけで達成されるよりは、より改善された機械的特性を与える協同的な効果を有している。短い鎖だけを含むネットワークはもろく、そしてより長い組成物だけを含むネットワークは非常に低い極限強度しか持たない。一方、短い鎖が支配的で、より長い組成物を小さなモル比率で含む2つの様式を持つシステムは、大きな分子量系に比べて高い極限強度を持ち、短い鎖からなる1組モデルシステムに比べ、改善された展性を持ったネットワークを示す(Pathak, 上記、Llorente, M. A., 他、J. Polym. Sci., Polym. Phys. Ed., 19: 621, 1981)。
【0222】
高分子量の前駆体(たとえば、PEGDA 20,000またはPEVAL 20,000)の低いモル含量を、2つの様式を持つシステムを作製するために、ある割合でPEGDA 570と置き替えることができる。3つの前駆体システム(例えばQT、PEGDA 570、及びPEGDA 20,000)は、十分な反応速度を与えるpHで水溶液中で化合されることができる。その結果、より強靭なゲルとなる。第3組成物(高分子量前駆体)の親水性/疎水性バランスもまた、さらに特性を調節するために活用されうる。
【0223】
実施例15:環境条件に対応した材料の調製
前駆体の温度感受性
もし、前駆体が温度感受性(たとえば、37℃以下の臨界温度以下で可溶及びその温度以上で不溶)であり、更にチオールや共役不飽和な基を有するならば、それらは、混合中の取り扱いが容易なゲルに調製することに使うことができるが、疎水性前駆体で得られたゲルによって示される改善された特性を示す。この目的のために、テレキレリックもしくはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(プロピレングリコール-コ-エチレングリコール)に接合された官能基、または他の温度感受性ポリマーを使うことができる。前駆体を臨界温度以下の温度の水に溶解させることができる。前駆体溶液を化合させ、ゲル化する。もし、ゲルが臨界温度以上の温度にさらされると、ゲルは、より疎水的な状態へと転移をすると考えられる。転移が温度感受性前駆体の設計や当初の濃度に依存した離液現象に関連する場合もあるし、そうでない場合もある。
【0224】
前駆体のpH感受性
もし、前駆体がpH感受性(たとえば、臨界pHより高い又は低いときに可溶)であって、さらにチオールや共役不飽和基を有するならば、それらは、それらは、混合中の取り扱いが容易なゲルに調製することに使うことができるが、疎水性前駆体で得られたゲルによって示される改善された特性を示す。この目的のために、テレキレリックもしくはポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-コ-アクリル酸)、ポリ(イソプロピルアクリルアミド-コ-ジメチルアミノエチルメタクリレート)あるいはポリ(アクリル酸)に接合された官能基、または他のpH感受性ポリマーを使うことができる。これらの材料の溶解度は、pHにより変化しうる。前駆体溶液は化合し、ゲル化する。環境におけるpHの変化は、ゲルのプロトン化または脱プロトン化によって、ゲルの疎水性を変化させる。転移はpH感受性前駆体の設計や当初の濃度に依存した離液現象を伴う場合もあるし、そうでない場合もある。
【0225】
他の態様
前述の記載から、種々の使用法や条件に合わせるために、本明細書に記載された発明に対して変形や改変が行われうることは明らかであると考えられる。このような態様もまた、添付の特許請求の範囲内である。更に、生体適合材料前駆体組成物としてのアミンの使用は、添付の特許請求の範囲内の態様である。
【0226】
本明細書内の全ての出版物及び特許は、それぞれ個々の出版物または特許が特異的かつ独立して参照として組み入れられることが示されるのと同程度に、本明細書において参照として組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合材料を作製するための方法であって、2つの組成物の重合が可能となる条件下で該生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物を化合させる段階を含み、求核付加による強い求核試薬と共役不飽和結合または共役不飽和基との間の自己選択的反応によって該重合が生じ、各組成物の官能価(functionality)が少なくとも2であり、該生体適合材料が、処理されていない(unprocessed)アルブミンを含まず、該共役不飽和結合または共役不飽和基がマレイミドまたはビニルスルホンではない方法。
【請求項2】
組成物が、オリゴマー、ポリマー、生合成タンパク質またはペプチド、天然のペプチドまたはタンパク質、処理された天然のペプチドまたはタンパク質および多糖類からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
組成物が、強い求核試薬または共役不飽和基もしくは共役不飽和結合を含むように官能性を付与された、請求項2記載の方法。
【請求項4】
強い求核試薬がチオールまたはチオールを含む基からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
生体適合材料を作製するための方法であって、2つの組成物の重合が可能となる条件下で該生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物を化合させる段階を含み、求核付加によるアミンと共役不飽和結合または共役不飽和基との間の自己選択的反応によって該重合が生じ、各組成物の官能価(functionality)が少なくとも2であり、該生体適合材料が、処理されていない(unprocessed)アルブミンを含まず、該共役不飽和結合または共役不飽和基がマレイミドまたはビニルスルホンではない方法。
【請求項6】
共役不飽和基がアクリル酸エステル、アクリルアミド、キノンまたは2-ビニルピリジニウムもしくは4-ビニルピリジニウムである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ポリマーが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン-コ-アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレン-コ-ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-コ-マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)およびポリ(エチレンオキシド)-コ-ポリ(プロピレンオキシド)ブロック共重合体からなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項8】
1つの組成物の官能価が少なくとも3である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ペプチドが接着部位、増殖因子結合部位またはプロテアーゼ結合部位を含む、請求項2記載の方法。
【請求項10】
前駆組成物を、接着部位、増殖因子結合部位またはヘパリン結合部位を含み、また、強い求核試薬または共役不飽和結合もしくは共役不飽和基のいずれかを含む分子と化合させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
強い求核試薬がチオールである、または共役不飽和結合もしくは共役不飽和基がアクリル酸エステル、アクリルアミド、キノンもしくはビニルピリジニウムである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
生体適合材料がヒドロゲルである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
生体適合材料が分解性である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
生体適合材料が感受性生体分子の存在下で作製される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
生体適合材料が細胞または組織の存在下で作製される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
生体適合材料が動物の体の内部又は表面で作製される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
重合の前に前駆組成物を促進剤と化合させることをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前駆組成物を、少なくとも1つの共役不飽和結合または共役不飽和基および少なくとも1つのアミン反応性基を含む組成物と混合する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項19】
細胞または組織表面に付加的な組成物を適用する段階をさらに含み、付加的組成物が少なくとも1つの共役不飽和結合または共役不飽和基および少なくとも1つのアミン反応性基を含む、請求項15記載の方法。
【請求項20】
生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物を2つの組成物の重合が可能となる条件下で化合させることによって作製される生体適合材料であって、求核付加による強い求核試薬と共役不飽和結合または共役不飽和基との間の自己選択的反応によって該重合が生じ、各組成物の官能価が少なくとも2であり、該生体適合材料が処理されていないアルブミンを含まず、該共役不飽和結合または共役不飽和基がマレイミドまたはビニルスルホンではない生体適合材料。
【請求項21】
組成物が、オリゴマー、ポリマー、生合成タンパク質またはペプチド、天然のペプチドまたはタンパク質、処理された天然のペプチドまたはタンパク質および多糖類からなる群より選択される、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項22】
組成物が、強い求核試薬または共役不飽和基もしくは共役不飽和結合を含むように官能性を付与される、請求項21記載の生体適合材料。
【請求項23】
強い求核試薬がチオールまたはチオールを含む基からなる群より選択される、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項24】
生体適合材料の2つまたはそれ以上の前駆組成物を2つの組成物の重合が可能となる条件下で化合させることによって作製される生体適合材料であって、求核付加によるアミンと共役不飽和結合または共役不飽和基との間の自己選択的反応によって該重合が生じ、各組成物の官能価が少なくとも2であり、該生体適合材料が処理されていないアルブミンを含まず、該共役不飽和結合または共役不飽和基がマレイミドまたはビニルスルホンではない生体適合材料。
【請求項25】
不飽和基がアクリル酸エステル、アクリルアミド、キノンまたはビニルピリジニウムである、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項26】
ポリマーがポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン-コ-アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)。ポリ(エチレン-コ-ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-コ-マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)およびポリ(エチレンオキシド)-コ-ポリ(プロピレンオキシド)ブロック共重合体からなる群より選択される、請求項21記載の生体適合材料。
【請求項27】
1つの組成物の官能価が少なくとも3である、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項28】
ペプチドが接着部位、増殖因子結合部位またはプロテアーゼ結合部位を含む、請求項21記載の生体適合材料。
【請求項29】
接着部位、増殖因子結合部位またはヘパリン結合部位を含み、強い求核試薬または共役不飽和結合もしくは共役不飽和基のいずれかをも含む分子をさらに含む、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項30】
強い求核試薬がチオールである、または共役不飽和結合もしくは共役不飽和基がアクリル酸エステル、キノンもしくはビニルピリジニウムである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
ヒドロゲルである、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項32】
分解性である、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項33】
感受性生体分子の存在下で作製される、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項34】
細胞または組織の存在下で作製される、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項35】
動物の体の内部又は表面で作製される、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項36】
促進剤をさらに含む、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項37】
少なくとも1つの共役不飽和結合または共役不飽和基および少なくとも1つのアミン反応性基を含む組成物をさらに含む、請求項20記載の生体適合材料。
【請求項38】
細胞または組織の表面に結合する付加的な組成物を適用することをさらに含み、付加的組成物が少なくとも1つの共役不飽和結合または共役不飽和基および少なくとも1つのアミン反応性基を含む、請求項34記載の生体適合材料。
【請求項39】
治療用物質を動物の細胞、組織、器官、器官系または身体に送達するための方法であって、細胞、組織、器官、器官系または身体を請求項20または請求項24のいずれか一項記載の生体適合材料と接触させる段階を含み、該生体適合材料が治療用物質を含み、それによって該治療用物質が動物の該細胞、組織、器官、器官系または身体へ送達されるような方法。
【請求項40】
治療用物質がタンパク質、天然有機分子または合成有機分子、ウイルス粒子および核酸分子からなる群より選択される、請求項39記載の方法。
【請求項41】
治療用物質がプロドラッグである、請求項39記載の方法。
【請求項42】
核酸分子がDNAまたはRNAである、請求項40記載の方法。
【請求項43】
核酸分子がアンチセンス核酸分子である、請求項40記載の方法。
【請求項44】
組織を再生させるための方法であって、細胞内殖(cell ingrowth)を許容する条件下で部位に足場を導入する段階を含み、該足場が請求項20または請求項24のいずれか一項記載の生体適合材料を含む方法。
【請求項45】
足場が細胞にあらかじめ播種される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
組織が、骨、皮膚、神経、血管および軟骨からなる群より選択される、請求項44記載の方法。
【請求項47】
癒着、血栓症または再狭窄を防止するための方法であって、部位を請求項20または請求項24のいずれか一項記載の生体適合材料前駆組成物と接触させる段階;および該部位において該組成物を重合する段階を含む方法。
【請求項48】
液体または気体の流れを封鎖する方法であって、動物の体内の部位を請求項20、請求項24または請求項37のいずれか一項記載の生体適合材料前駆組成物と接触させる段階;および該部位において該組成物を重合する段階を含む方法。
【請求項49】
部位が、肺、血管、皮膚、硬膜障壁および腸である、請求項48記載の方法。
【請求項50】
細胞または組織を封入する方法であって、生体適合材料の前駆組成物を細胞または組織と化合させる段階;および該組成物を重合する段階を含み、該重合が強い求核試薬と共役不飽和結合または共役不飽和基との間の自己選択的反応によって生じ、該細胞または組織が該重合生体適合材料によって封入されるような方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−101095(P2012−101095A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−282597(P2011−282597)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2000−596061(P2000−596061)の分割
【原出願日】平成12年2月1日(2000.2.1)
【出願人】(502092040)
【出願人】(501393966)ウニヴェルジテート・チューリッヒ (13)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET ZUERICH
【Fターム(参考)】