説明

共役系化合物、並びにこれを用いた有機薄膜及び有機薄膜素子

【課題】電子輸送性に優れたn型半導体として利用可能であり、しかも溶剤への溶解性にも優れる共役系化合物の提供。
【解決手段】式(I)で表される共役系化合物。[式中、R01及びR02はアルカン骨格を含む1価の基。R11、R12、R21及びR22は水素原子、ハロゲン原子又は1価の基。X11、X12、X21及びX22は=O,=S又は=CA(Aは水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示すが、その少なくとも1つは電子吸引性の基。)を示す。Z及びZは−O−,−S−,−Se−,−Te−,−SO−等のいずれかの基を示す。Ar、Ar及びArは芳香族炭化水素基又は複素環基を示す。rは1〜6の整数、s及びtは0〜6の整数を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役系化合物、これを含む有機薄膜、並びに係る有機薄膜を備える有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタ及び有機薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子輸送性又はホール輸送性を有する有機材料を含む薄膜は、有機薄膜トランジスタ、有機薄膜太陽電池、光センサ等の有機薄膜素子への応用が期待されている。ところが、これまでは、有機p型半導体(ホール輸送性を示す)に比べると、有機n型半導体(電子輸送性を示す)が得難かったことから、有機n型半導体が種々検討されている。
【0003】
近年、有機n型半導体に適用できる電子輸送性材料として、π共役化合物の電子受容性を増加させるべく、チオフェン環にフルオロアルキル基を導入した化合物の研究が盛んに行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、分子構造の平面性を高めて電子輸送性を向上させるために、架橋した構造を有するポリチオフェンが種々検討されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/186266号明細書
【特許文献2】特開2004−339516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような従来の材料であっても、未だ有機n型半導体として十分な性能を得ることは困難な傾向にあった。
【0007】
また、フレキシブル基板上に有機薄膜素子を形成する場合、有機薄膜を印刷法により形成することができると有利である。そのためには有機溶剤への溶解性に優れた材料が求められる。しかし、十分な有機n型半導体としての特性を有しながら、溶解性の点でも十分に優れた材料は、これまで得ることは極めて困難であった。
【0008】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、電子輸送性に優れたn型半導体として利用可能であり、しかも溶剤への溶解性にも優れる共役系化合物を提供することを目的とする。
【0009】
また本発明は、かかる共役系化合物を含む有機薄膜、並びに係る有機薄膜を備える有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタ及び有機薄膜太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の共役系化合物は、式(I)で表されることを特徴とする。
【化1】


【化2】


【化3】

【0011】
式(I)中、R01及びR02は、それぞれ独立に、アルカン骨格が含まれる1価の基を示し、R11、R12、R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は置換基で置換されていてもよい1価の基を示す。X11、X12、X21及びX22は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又は式(a)で表される基を示す。ただし、X11、X12、X21及びX22の少なくとも1つは、硫黄原子又は式(a)で表される基である。Z及びZは、それぞれ独立に、式(i)で表される基、式(ii)で表される基、式(iii)で表される基、式(iv)で表される基、式(v)で表される基、式(vi)で表される基、式(vii)で表される基、式(viii)で表される基及び式(ix)で表される基(以下、同様の表記は、「式(i)〜(ix)で表される基」のように表記する。)からなる群より選ばれるいずれか1種の基を示す。Ar、Ar及びArは、それぞれ独立に、炭素数6以上の2価の芳香族炭化水素基、又は炭素数4以上の2価の複素環基を示し、これらは置換基を有していてもよい。rは1〜6の整数を示し、s及びtは、それぞれ独立に、0〜6の整数を示す。
【0012】
また、式(a)中、Aは、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、複数あるAはそれぞれ同一でも異なっていてもよいが、少なくとも1つのAは電子吸引性の基である。
【0013】
さらに、式(vii)、式(viii)及び式(ix)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。なお、式(viii)で表される基は左右反転していてもよい。
【0014】
上記構成を有する本発明の共役系化合物は、環同士のπ共役平面性が良好であるとともに、特定の構造を有する末端基が両端に導入されていることで、十分に低いLUMO(最低空軌道)を示すことができる。そのため、電子輸送性に優れた有機n型半導体として利用可能である。また、共役系化合物は、π共役平面性が高いことに加えて、末端基がR01及びR02で表されるアルカン骨格が含まれる基を有していることから、化学的に安定で、しかも有機溶剤への溶解性が優れている。したがって、本発明の共役系化合物によれば、塗布法により有機薄膜を形成でき、性能の優れた有機薄膜素子を得ることが可能となる。
【0015】
本発明の共役系化合物においては、式(I)におけるX11及びX12の少なくとも一方が式(a)で表される基であり、X21及びX22の少なくとも一方が式(a)で表される基であると好ましい。式(a)で表される基は電子吸引性を有することから、かかる基を有することにより、共役系化合物は一層低いLUMOを示すことができる。その結果、電子輸送性が更に向上する。
【0016】
また、Arは、アルカン骨格を含む置換基を有していない基であるとより好ましい。このような構成とすることで、優れた電子輸送性が得られる。また、Arがアルカン骨格を有していなくても、上記のような特定の末端基を有していることから、共役系化合物は、一層優れた溶解性を有することができる。
【0017】
共役系化合物としては、式(I)におけるArが、式(II)で表される基又は式(III)で表される基であるとより好ましい。このような構成を有することで、電子輸送性が更に高められる傾向にある。
【化4】


【化5】


【化6】

【0018】
式(II)中、Zは、式(xi)〜式(xix)で表される基からなる群より選ばれるいずれか1種の基を示す。なお、式(xviii)で表される基は左右反転していてもよい。
【0019】
式(III)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、炭素数6以上の3価の芳香族炭化水素基又は炭素数4以上の3価の複素環基であって、アルカン骨格を含む置換基を有していない基を示し、Xは、酸素原子、硫黄原子又は式(a)で表される基を示す。
【0020】
上記効果を得やすくなるので、式(III)で表される基は、式(IV)で表される基であると好ましい。
【化7】


【化8】


[式(IV)中、Xは前記と同義であり、Y及びYは、それぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を示し、Z及びZは、それぞれ独立に、式(xxi)〜式(xxix)で表される基からなる群より選ばれるいずれか1種の基を示す。なお、式(xxviii)で表される基は左右反転していてもよい。]
【0021】
特に、本発明の共役系化合物は、X11及びX12のうちの一方が酸素原子であり、X11及びX12のうちの残りの一方が式(a1)で表される基であり、かつ、X21及びX22のうちの一方が酸素原子であり、X21及びX22のうちの残りの一方が式(a1)で表される基であると好ましい。また、Z及びZが、式(xxii)で表される基又は式(xxvii)で表される基であると好ましい。これらの構成を有することで、本発明の共役系化合物は、優れた電子輸送性及び溶解性が一層得られ易いものとなる。
【化9】

【0022】
本発明はまた、上記本発明の共役系化合物を含有する有機薄膜、それを備える有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタ及び有機薄膜太陽電池を提供する。このような有機薄膜、有機薄膜トランジスタ及び有機薄膜太陽電池は、上述のように優れた電子輸送性を示す本発明の共役系化合物を含む有機薄膜を備えることから、印刷法を用いることで素子の製造が容易であり、しかも優れた性能を発揮することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電子輸送性に優れたn型半導体として利用可能であり、しかも溶剤への溶解性にも優れる共役系化合物を提供することが可能となる。また、本発明によれば、かかる共役系化合物を含む有機薄膜、並びに係る有機薄膜を備える有機薄膜素子、有機薄膜トランジスタ及び有機薄膜太陽電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図2】第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図3】第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図4】第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図5】第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図6】第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図7】第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタの模式断面図である。
【図8】実施形態に係る有機薄膜太陽電池の模式断面図である。
【図9】第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図10】第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【図11】第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
[共役系化合物]
本発明の共役系化合物は、上記の式(I)で表される構造を有している。ここで、本明細書において、共役系化合物とは、化合物の主骨格において、単結合と、不飽和結合、孤立電子対、ラジカル又は非結合性軌道とが交互に連なる構造を含み、π軌道又は非結合性軌道の相互作用による電子の非局在化が主骨格の一部又は全域に起こっているものをいう。主骨格とは、共役系化合物を構成している構造単位の連鎖のうち、最も長いものであり、芳香環同士が連続して結合している部分は、芳香環が連鎖した構造が主骨格となる。共役系化合物の中でもπ軌道の相互作用によるπ共役系化合物が好ましい。
【0027】
式(I)において、R01及びR02は、それぞれ独立に、アルカン骨格が含まれる1価の基を示す。ここで、アルカン骨格とは、一般式C2n+2(ここで、nは1以上の整数を表す。)で表される鎖式飽和炭化水素から1個又は2個の水素原子を取り除いた残りの原子団からなる骨格を表す。アルカン骨格が含まれる1価の基とは、このような鎖式飽和炭化水素からなる基、又は、鎖式飽和炭化水素を少なくとも一部に有する基を表す。アルカン骨格が含まれる1価の基としては、アルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルチオフェニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルシリル基及びアルキルアミノ基が例示される。
【0028】
アルカン骨格が含まれる1価の基において、アルカン骨格が有している炭素数は、1〜30であると好ましく、3〜24であるとより好ましい。特に、有機溶媒への溶解性が高くなるので、アルカン骨格が有している炭素数は、6〜20であると更に好ましい。アルカン骨格は、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。ただし、分子間の配列をよくするためには直鎖状のアルカン骨格が好ましい一方、有機溶媒への溶解性が高くなるので、分岐状のアルカン骨格が好ましく、所望とする特性に応じて選択することができる。
【0029】
アルカン骨格が含まれる1価の基は、アルキル基であると好ましい。アルキル基としては、直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜30のアルキル基が好ましく、直鎖状又は分岐状の炭素数3〜24のアルキル基がより好ましく、直鎖状又は分岐状の炭素数6〜20のアルキル基がより好ましい。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、3−メチルブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、3,7-ジメチルオクチル基、3,7,11−トリメチルドデシル基が挙げられる。なお、アルキル基以外のアルカン骨格が含まれる1価の基が有しているアルカン骨格についても、同様のものが例示できる。
【0030】
式(I)において、X11、X12、X21及びX22は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又は式(a)で表される基を示す。ただし、X11、X12、X21及びX22の少なくとも1つは、硫黄原子又は式(a)で表される基であり、X11及びX12の少なくとも1つは、硫黄原子又は式(a)で表される基であり、かつ、X21及びX22の少なくとも1つは、硫黄原子又は式(a)で表される基であるとより好ましい。式(I)におけるX11、X12、X21及びX22が含まれる末端基の平面性が高くなるので、X12又はX22は、酸素原子又は硫黄原子であることがより好ましい。
【0031】
式(I)においては、X11及びX12の少なくとも一方が式(a)で表される基であり、X21及びX22の少なくとも一方が式(a)で表される基であると好ましい。式(a)中、Aは、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示す。複数あるAは、それぞれ同一でも異なっていてもよいが、少なくとも一つのAは電子吸引性の基であり、両方が電子吸引性の基であると好ましい。このようにAとして電子吸引基を有することで、共役系化合物のLUMOを低くすることができる。電子吸引性の基としては、シアノ基、ニトロ基、ホルミル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、水酸基及びハロゲン原子が例示され、シアノ基、ニトロ基及びハロゲン原子が好ましく、シアノ基が特に好ましい。
【0032】
式(I)において、R11、R12、R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は置換基で置換されていてもよい1価の基を示す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。なお、本明細書で説明されるハロゲン原子としては、いずれも同様の原子が適用できる。1価の基としては、直鎖状若しくは分岐状の低分子鎖からなる基、1価の環状基(この環状基は、単環でも縮合環でも、炭化水素環でも複素環でも、飽和でも不飽和でもよく、置換基を有していてもいなくてもよい)が例示され、これらの基が有する水素原子の一部又は全部はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0033】
共役系化合物のLUMOをより低くできるので、R11、R12、R21及びR22の少なくとも一つは電子吸引性の基であることが好ましく、R11及びR12の少なくとも一方又はR21及びR22の少なくとも一方が、電子吸引性の基であることがより好ましく、R11、R12、R21及びR22のすべてが電子吸引性の基であることがさらに好ましい。これらの電子吸引性の基としては、ハロゲン原子、及び、一部又は全部の水素原子がハロゲン原子で置換された1価の基が好ましく、フッ素原子、及び、一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基がさらに好ましく、フッ素原子が特に好ましい。
【0034】
式(I)において、Z及びZは、それぞれ独立に、上記の式(i)〜(ix)で表される基からなる群より選ばれるいずれか一種の基を示す。R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。なお、式(viii)で表される基は左右反転していてもよい。
【0035】
式(I)中のZ及びZとしては、式(i)、(ii)、(iii)、(vii)、(viii)及び(ix)のいずれかで表される基が好ましく、式(ii)及び(vii)のいずれかで表される基がより好ましく、式(ii)で表される基が特に好ましい。式(I)におけるZ及びZを含む環が、チオフェン環、フラン環、ピロール環又はピリジン環、特にチオフェン環となる場合は、特徴的な電気的性質(例えば、電子輸送に適したLUMOレベル及び安定なキノイド構造をとりやすい性質)が得られ、種々の電気的特性(例えば、高い電子輸送性)が発揮される。
【0036】
式(I)において、Arは、炭素数6以上の2価の芳香族炭化水素基又は炭素数4以上の2価の複素環基を示す。Arとしては、上記のようなアルカン骨格を含む置換基を有していない炭素数6以上の2価の芳香族炭化水素基、又はアルカン骨格を含む置換基を有していない炭素数4以上の2価の複素環基が好ましい。このように、式(I)で表される共役系化合物の中央部分のArが、アルカン骨格が含まれる置換基を有しないことにより、分子間のπスタックがし易く、それにより電荷の分子間移動が起こりやすくなるため、有機n型半導体としての性能が向上する傾向にある。
【0037】
式(I)中のrは、Arで表される基の繰り返し数を示し、1〜6の整数であり、1〜3の整数であると好ましい。rが2以上である場合、複数のArは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0038】
Arとしては、式(II)で表される基が好ましい。式(II)中、Zは、式(xi)〜(xix)で表される基のいずれかを示し、式(xviii)で表される基は左右反転していてもよい。
【化10】

【0039】
式(II)におけるZとしては、なかでも、式(xi)、(xii)、(xiii)、(xvii)、(xviii)のいずれかで表される基が好ましく、式(xii)、(xiii)、(xvii)のいずれかで表される基がより好ましく、式(xii)、(xvii)のいずれかで表される基がさらに好ましく、式(xii)で表される基が特に好ましい。式(II)におけるZを含む環が、チオフェン環、フラン環、ピロール環又はピリジン環、特にチオフェン環となる場合、特徴的な電気的性質(例えば、電子輸送に適したLUMOレベル及び安定なキノイド構造をとりやすい性質)が得られ、種々の電気的特性(例えば、高い電子輸送性)が発揮される。
【0040】
また、式(I)におけるArは、分子の平面性が高くなるので、式(III)で表される基であっても好ましい。
【化11】

【0041】
式(III)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、炭素数6以上の3価の芳香族炭化水素基又は炭素数4以上の3価の複素環基を示し、これらは上記のようなアルカン骨格が含まれる置換基を有しない基である。Xは、酸素原子、硫黄原子又は式(a)で表される基を示す。
【0042】
ここで、3価の芳香族炭化水素基とは、ベンゼン環又は縮合環から水素原子3個を除いた残りの原子団からなる基をいう。3価の芳香族炭化水素基の炭素数は、6〜60であることが好ましく、6〜20であることがより好ましい。縮合環としては、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ピレン環、ペリレン環、フルオレン環が挙げられる。3価の芳香族炭化水素基としては、これらの中でも、ベンゼン環から水素原子3個を除いた残りの原子団からなる基が特に好ましい。なお、3価の芳香族炭化水素基は、アルカン骨格が含まれる置換基以外の置換基であれば有していてもよい。その場合、3価の芳香族炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0043】
また、3価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子3個を除いた残りの原子団からなる基をいう。ここで、複素環式化合物とは、環式構造をもつ有機化合物のうち、環を構成する元素が炭素原子だけでなく、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子、ケイ素原子等のヘテロ原子を環内に含むものをいう。3価の複素環基の炭素数は、4〜60であることが好ましく、4〜20であることがより好ましい。3価の複素環基としては、チオフェン環、チエノチオフェン環、フラン環、ピロール環、ピリジン環、チアゾール環、オキサゾール環又はイミダゾール環から水素原子3個を除いた残りの原子団からなる基が例示される。特に、ArやArが、チオフェン環、チエノチオフェン環又はチアゾール環から水素原子3個を除いた残りの原子団からなる基であると、特徴的な電気的性質(例えば、電子輸送に適したLUMOレベル及び安定なキノイド構造をとりやすい性質)が得られ、従来にない新たな電気的特性が発現することも期待できる。
【0044】
このような3価の複素環基としては、3価の芳香族複素環基が好ましい。3価の複素環基は、アルカン骨格が含まれる置換基以外の置換基であれば有していてもよい。その場合、3価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。置換基としては、ハロゲン原子、アリール基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
【0045】
式(III)で表される基としては、式(IV)で表される基が好ましい。式(IV)中、Xは、上記と同義である。Y及びYは、それぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表す。Z及びZは、それぞれ独立に、式(xxi)〜(xxix)で表される基のいずれかを示し、式(xxviii)で表される基は左右反転していてもよい。
【化12】

【0046】
式(IV)中のZ及びZとしては、なかでも、式(xxi)、(xxii)、(xxiii)、(xxvii)、(xxviii)のいずれかで表される基が好ましく、式(xxii)、(xxiii)、(xxvii)のいずれかで表される基がより好ましく、式(xxii)、(xxvii)のいずれかで表される基がさらに好ましく、式(xxii)で表される基が特に好ましい。また、式(IV)中のY及びYの少なくとも一方は、LUMOをより低くできるので、窒素原子が好ましく、Y及びYの両方が窒素原子であるとより好ましい。
【0047】
式(III)又は(IV)中のXとしては、共役系化合物のLUMOをより低くできるので、酸素原子又は式(a)で表される基が好ましく、酸素原子又は式(a)において少なくとも一方のAがシアノ基である基がより好ましく、酸素原子又は式(a)において両方のAがシアノ基である基がさらに好ましい。
【0048】
式(III)又は(IV)で表される基としては、例えば、以下の化学式で表される基が挙げられる。
【化13】


【化14】

【0049】
式(I)におけるAr及びArは、それぞれ独立に、炭素数6以上の2価の芳香族炭化水素基又は炭素数4以上の2価の複素環基を示し、これらは置換基を有してもよい。式(I)におけるsは、Arで表される基の繰り返し数を示し、tは、Arで表される基の繰り返し数を示す。s及びtは、それぞれ独立に、0〜6の整数であり、0〜2の整数であると好ましい。s又はtが2以上である場合、複数となるAr又は複数となるArは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0050】
ここで、2価の芳香族炭化水素基とは、ベンゼン環又は縮合環から水素原子2個を除いた残りの原子団からなる基をいう。2価の芳香族炭化水素基は、炭素数6〜60であると好ましく、6〜20であるとより好ましい。縮合環としては、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、ピレン環、ペリレン環、フルオレン環が挙げられる。
【0051】
2価の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ペンタセン環、ピレン環又はフルオレン環から水素原子2個を除いた残りの原子団からなる基が好ましい。なお、2価の芳香族炭化水素基は、置換基を更に有していてもよい。その場合、2価の芳香族炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基が挙げられる。
【0052】
一方、2価の複素環基とは、複素環式化合物から水素原子2個を除いた残りの原子団からなる基をいう。2価の複素環基は、炭素数が3〜60であると好ましく、3〜20であるとより好ましい。2価の複素環基としては、例えば、チオフェン環、チエノチオフェン環、ジチエノチオフェン環等のチオフェン環が2〜6個縮環した化合物、チアゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環から水素原子2個を除いた残りの原子団からなる基が挙げられる。好ましくは、チオフェン環、チエノチオフェン環、ジチエノチオフェン環等のチオフェン環が2〜6個縮環した化合物から水素原子2個を除いた残りの原子団からなる基である。特に、チオフェン環、チエノチオフェン環から水素原子2個を除いた残りの原子団からなる基が好ましい。
【0053】
2価の複素環基は、置換基を更に有していてもよい。その場合、2価の複素環基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれない。置換基としては、ハロゲン原子、飽和若しくは不飽和炭化水素基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、1価の複素環基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基が挙げられる。
【0054】
上述したような本実施形態の共役系化合物としては、以下の化学式で示される化合物が例示できる。
【化15】


【化16】


【化17】


【化18】


【化19】


【化20】

【0055】
これらの化学式におけるR00は、上述したR01又はR02と同義である。Rは、水素原子、炭素数3〜24のアルキル基、炭素数3〜24のフルオロアルキル基、炭素数3〜24のアルコキシ基、又は炭素数1〜20のフルオロアルコキシ基を示し、水素原子又は炭素数3〜24のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数6〜20のアルキル基がより好ましい。なお、分子中に複数のR00やRが存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0056】
[共役系化合物の製造方法]
上述したような好適な実施形態の共役系化合物は、上記の構造が得られる限り、どのような方法により製造してもよい。好適な製造方法としては、以下の例が挙げられる。なお、以下の製造方法における反応条件や反応試薬等は、下記の例示以外にも選択することが可能である。
【0057】
以下の例では、式(I)において、Arが、Xとして酸素原子を有する式(IV)で表される基であり、s及びtが0、すなわちAr及びArが含まれず、且つ、X11、X12、X21及びX22として、いずれも両方のAがシアノ基である式(aa)で表される基を有する共役系化合物を製造する方法の好適な実施形態について説明する。
【0058】
共役系化合物の製造においては、まず、下記スキーム(S1)に示すように、式(a)及び(a')で表される出発原料を用い、それらを反応させて前駆体(b)を製造し、得られた前駆体(b)を、更にカルボニル架橋剤(c)と反応させることによって、中間体(d)を得る。
【0059】
次いで、下記スキーム(S2)に示すように、化合物(f)や(n)の合成等を経由する反応を行って、化合物(o)を得る。この反応では、まず、中間体(d)を、アルコール(e)と反応させて、中間体(d)におけるカルボニル基が保護された化合物(f)を形成する。なお、カルボニル基の保護は、例えば、アルコール(e)に代え、2,2−ジブチル−1,3−プロペンジオール等を反応させてアセタール基を形成することによって行ってもよい。
【0060】
それから、カルボニル基が保護された化合物(f)に所定の反応活性基(V’’)を付与して化合物(h)を得た後、これと末端基を形成するための原料化合物(n)とを反応させて化合物(o)を形成する。
【化21】


【化22】

【0061】
スキーム(S1)及び(S2)中、Zは、式(IV)中のZ又はZを表し、Yは、式(IV)中のY又はYを表す。Z**は、式(I)中のZ又はZを表し、R*は、式(I)中のR11、R12、R21又はR22を表し、R0*は、式(I)中のR01又はR02を表す。
【0062】
V、V’及びV”は、反応活性基を表し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。反応活性基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、アリールスタニル基、アリールアルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基、スルホニウムメチル基、ホスホニウムメチル基、ホスホネートメチル基、モノハロゲン化メチル基、ホウ酸残基(−B(OH))、ホルミル基、ビニル基が挙げられる。ホウ酸エステル残基としては、下記の式で示される基が挙げられる。
【化23】

【0063】
合成における反応性が良好になるので、V、V’及びV”はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基、アリールアルキルスルホネート基、アルキルスタニル基、ホウ酸エステル残基又はホウ酸残基であることが好ましい。
【0064】
また、X、X’、X”は、それぞれ独立にハロゲン原子を表し、W、W’及びW”は、それぞれ独立に脱離基を表す。脱離基としては、アミノ基、アルコキシ基が例示される。
【0065】
そして、上記反応により得られた化合物(o)から、カルボニル基の保護基を外してカルボニル化合物とすることにより、好適な実施形態に係る共役系化合物を得ることができる。なお、共役系化合物を用いて有機薄膜等を形成する場合は、必ずしもカルボニル基の保護基を外してから有機薄膜等の形成を行うのではなく、例えば、保護基を有した状態の化合物(化合物(o)等)を用いて有機薄膜を形成した後に、有機薄膜となった状態で加熱等を行うことにより保護基を外し、これにより共役系化合物を含む有機薄膜中を形成してもよい。この場合、有機薄膜中には、特性に大きく影響しない限り、保護基が外れる前の状態の化合物又はその副生成物が残存していてもよい。
【0066】
上記のような方法によって好適な実施形態の共役系化合物を得ることができるが、例えば、式(I)においてs及びtが1以上である、すなわちAr及びArを含む共役系化合物を形成する場合は、次のような製造方法を適用することができる。
【0067】
この場合、まず、式(p)(好ましくは、式(q))で表される化合物と、式(r)で表される化合物とを用いて、中間体である式(s)(好ましくは、式(t))で表される化合物(s)又は化合物(t)を生成する。そして、得られた化合物(s)又は化合物(t)と、上述したような末端基を形成するための原料化合物(n)とを反応させることによって、式(r)の化合物が有していたAr**に由来するAr及びArで表される基を分子中に有する、すなわち、s及びtが1以上である、式(I)で表される共役系化合物を得ることができる。
【化24】


【化25】

【0068】
上記の式中、Arは、式(I)におけるArを示し、Ar**は、式(I)におけるAr又はArを示す。また、V、V’及びZは、それぞれ上記と同義である。式(p)で表される化合物として式(q)で表される化合物を用いる場合、この化合物は、例えば、Zを含む複素環に対応する複素環式化合物に、V及びV’で表される反応活性基を付与することによって得ることができる。式(p)で表される化合物としては、上記の化合物(h)も用いることができ、その場合は、上記と同様の方法により化合物(h)を合成することができる。
【0069】
上述したような共役系化合物の製造方法においては、例えば途中で化合物(f)を合成するなどしてカルボニル基を保護したが、同様に、反応性の高い官能基に対しては、不要な反応を生じることを避けるために、その後の反応において不活性な官能基(保護基)に変換し、目的の反応の終了後に保護基を外す工程を行ってもよい。保護基は、保護する官能基や用いる反応に応じて選択することができる。例えば、活性水素の保護にはトリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、tert−ブチルジメチルシリル(TBS又はTBDMS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、tert−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)を用いることが好ましい。
【0070】
上述したような共役系化合物を合成するための各反応では、溶媒を用いてもよい。用いられる溶媒としては、なるべく目的の反応を阻害しないものが好ましい。例えば、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、アセトニトリル等のニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化溶媒等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。好適な溶媒としては、例えばジクロロメタンが挙げられる。
【0071】
そして、得られた共役系化合物を有機薄膜素子用の材料として用いる場合は、その純度が素子特性に影響を与えることもあるため、共役系化合物の合成後、得られた生成物を、蒸留、昇華精製、再結晶等の方法で純化処理することが好ましい。
【0072】
[有機薄膜]
次に好適な実施形態に係る有機薄膜について説明する。本実施形態の有機薄膜は、上述した本発明の共役系化合物を含むものである。
【0073】
有機薄膜の厚さは、1nm〜100μmであると好ましく、2nm〜1000nmであるとより好ましく、5nm〜500nmであると更に好ましく、20nm〜200nmであると一層好ましい。
【0074】
有機薄膜は、好適な実施形態の共役系化合物の1種類を単独で含むものであってもよく、また共役系化合物の2種類以上を含むものであってもよい。また、有機薄膜は、その電子輸送性又はホール輸送性を高めるために、共役系化合物以外に、電子輸送性若しくはホール輸送性を有する低分子化合物又は高分子化合物(これらの低分子化合物及び高分子化合物を総称して、「電子輸送性材料」、「ホール輸送性材料」という。)を混合して用いることもできる。
【0075】
ホール輸送性材料としては、公知のものが使用できる。例えば、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリアリールジアミン誘導体、オリゴチオフェン及びその誘導体、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリアリーレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体が挙げられる。
【0076】
電子輸送性材料としては、公知のものが使用できる。例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、又は8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、C60等のフラーレン類及びその誘導体が挙げられる。
【0077】
また、有機薄膜は、有機薄膜中で吸収した光により電荷を発生させるために、電荷発生材料を含んでいてもよい。電荷発生材料としては、公知のものが使用できる。例えば、アゾ化合物及びその誘導体、ジアゾ化合物及びその誘導体、無金属フタロシアニン化合物及びその誘導体、金属フタロシアニン化合物及びその誘導体、ペリレン化合物及びその誘導体、多環キノン系化合物及びその誘導体、スクアリリウム化合物及びその誘導体、アズレニウム化合物及びその誘導体、チアピリリウム化合物及びその誘導体、C60等のフラーレン類及びその誘導体が挙げられる。
【0078】
さらに、有機薄膜は、種々の機能を発現させるために必要な材料を含んでいてもよい。このような材料としては、例えば、吸収した光により電荷を発生させる機能を増感するためのため増感剤、安定性を増すための安定化剤、紫外(UV)光を吸収するためのUV吸収剤が挙げられる。
【0079】
また、有機薄膜は、機械的特性を高めるため、上述した実施形態の共役系化合物以外の高分子化合物材料を高分子バインダーとして含んでいてもよい。高分子バインダーとしては、電子輸送性又はホール輸送性を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好ましく用いられる。
【0080】
このような高分子バインダーとして、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)及びその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサンが例示される。
【0081】
有機薄膜の製造方法としては、例えば、共役系化合物、必要に応じて混合する電子輸送性材料又はホール輸送性材料、高分子バインダーを含む溶液を用いた成膜による方法が挙げられる。また、共役系化合物が昇華性を有する場合は、真空蒸着法により薄膜を形成することもできる。
【0082】
溶液を用いた成膜に用いる溶媒としては、共役系化合物やその他混合する電子輸送性材料又はホール輸送性材料、高分子バインダーを溶解させるものであればよい。溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、デカリン、ビシクロヘキシル、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン等の不飽和炭化水素系溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類系溶媒が例示される。共役系化合物は、その構造や分子量にもよるが、例えば、これらの溶媒に0.1質量%以上溶解させることができる。
【0083】
溶液を用いた成膜方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法、ノズルコート法及びキャピラリーコート法等の塗布法を用いることができる。なかでも、スピンコート法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法、ノズルコート法及びキャピラリーコート法が好ましい。
【0084】
有機薄膜を製造する工程には、共役系化合物を配向させる工程が含まれていてもよい。このような工程を行うことで、有機薄膜においては、共役系化合物の主鎖又は側鎖が一方向に並ぶので、電荷移動度が更に向上する傾向にある。
【0085】
共役系化合物を配向させる方法としては、液晶の配向手法として知られている方法を用いることができる。中でもラビング法、光配向法、シェアリング法(ずり応力印加法)や引き上げ塗布法が配向手法として簡便かつ有用で利用しやすく、ラビング法、シェアリング法が好ましい。
【0086】
また、有機薄膜を製造する工程には、成膜後にアニール処理をする工程が含まれていてもよい。この工程により、共役系化合物間の相互作用が促進される等、有機薄膜の膜質が改善され、電荷移動度が向上する。アニール処理の処理温度としては、50℃から共役系化合物のガラス転移温度(Tg)付近の間の温度が好ましく、(Tg−30℃)からTgの間の温度がより好ましい。アニール処理する時間としては、1分から10時間が好ましく、10分から1時間がより好ましい。アニール処理する雰囲気としては、真空中又は不活性ガス雰囲気中が好ましい。
【0087】
本発明の共役系化合物を含む有機薄膜は、優れた電子輸送性を有することから、電極から注入された電子や、光吸収により発生した電荷を輸送制御することができ、その特性により、有機薄膜トランジスタ、有機薄膜太陽電池、光センサ等、種々の有機薄膜素子に用いることができる。有機薄膜をこれらの有機薄膜素子に用いる場合は、配向処理により配向させて用いることが電子輸送性より向上するため好ましい。
【0088】
[有機薄膜素子]
上述した有機薄膜は、本発明の共役系化合物を含むことから、優れた電荷(特に電子)輸送性を有するものとなる。したがって、この有機薄膜は、各種の電気素子(有機薄膜素子)に応用することができる。また、本発明の共役系化合物は、環境安定性に優れているため、これらを用いて薄膜を形成することで、通常の大気中においても性能が安定している有機薄膜素子を製造することが可能となる。以下、有機薄膜素子の例についてそれぞれ説明する。
【0089】
(有機薄膜トランジスタ)
まず、本発明の有機薄膜トランジスタは、本発明の共役化合物を備えるものである。以下、好適な実施形態に係る有機薄膜トランジスタについて説明する。好適な実施形態に係る有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり好適な実施形態の共役系化合物を含む活性層(有機薄膜層)、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を備えた構造であればよく、電界効果型、静電誘導型が例示される。
【0090】
電界効果型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり好適な実施形態の共役系化合物を含む活性層、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極、並びに、活性層とゲート電極との間に配置される絶縁層を備えることが好ましい。特に、ソース電極及びドレイン電極が、好適な実施形態の共役系化合物を含む活性層に接して設けられており、さらに活性層に接した絶縁層を挟んでゲート電極が設けられていることが好ましい。
【0091】
静電誘導型有機薄膜トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり好適な実施形態の共役系化合物を含有する活性層、並びに電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を有し、該ゲート電極が活性層中に設けられていることが好ましい。特に、ソース電極、ドレイン電極及び有機薄膜層中に設けられたゲート電極が、好適な実施形態の共役系化合物を含有する活性層に接して設けられていることが好ましい。ゲート電極の構造としては、ソース電極からドレイン電極へ流れる電流経路が形成され、かつゲート電極に印加した電圧で電流経路を流れる電流量が制御できる構造であればよく、例えば、くし形電極が挙げられる。
【0092】
図1は第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図1に示す有機薄膜トランジスタ100は、基板1と、基板1上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を覆うようにして基板1上に形成された活性層2と、活性層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0093】
図2は第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図2に示す有機薄膜トランジスタ110は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を覆うようにして基板1上に形成された活性層2と、ソース電極5と所定の間隔を持って活性層2上に形成されたドレイン電極6と、活性層2及びドレイン電極6上に形成された絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の領域を覆うように絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0094】
図3は、第3の実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図3に示す有機薄膜トランジスタ120は、基板1と、基板1上に形成された活性層2と、活性層2上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うようにして活性層2上に形成された絶縁層3と、ソース電極5が下部に形成されている絶縁層3の領域とドレイン電極6が下部に形成されている絶縁層3の領域とをそれぞれ一部覆うように、絶縁層3上に形成されたゲート電極4と、を備えるものである。
【0095】
図4は第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図4に示す有機薄膜トランジスタ130は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように、絶縁層3上に所定の間隔を持って形成されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を一部覆うように絶縁層3上に形成された活性層2と、を備えるものである。
【0096】
図5は第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図5に示す有機薄膜トランジスタ140は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を一部覆うように絶縁層3上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を一部覆うようにして絶縁層3上に形成された活性層2と、ゲート電極4が下部に形成されている活性層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔を持って絶縁層3上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0097】
図6は第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(電界効果型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図6に示す有機薄膜トランジスタ150は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に形成された絶縁層3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の領域を覆うように形成された活性層2と、ゲート電極4が下部に形成されている活性層2の領域を一部覆うように絶縁層3上に形成されたソース電極5と、ゲート電極4が下部に形成されている活性層2の領域を一部覆うように、ソース電極5と所定の間隔を持って絶縁層3上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0098】
図7は第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ(静電誘導型有機薄膜トランジスタ)の模式断面図である。図7に示す有機薄膜トランジスタ160は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5上に形成された活性層2と、活性層2上に所定の間隔を持って複数形成されたゲート電極4と、ゲート電極4の全てを覆うようにして活性層2上に形成された活性層2a(活性層2aを構成する材料は、活性層2と同一でも異なっていてもよい)と、活性層2a上に形成されたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0099】
第1〜第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタにおいては、活性層2及び/又は活性層2aは、好適な実施形態の共役系化合物を含有しており、ソース電極5とドレイン電極6の間の電流通路(チャネル)となる。また、ゲート電極4は、電圧を印加することにより活性層2及び/又は活性層2aにおける電流通路(チャネル)を通る電流量を制御する。
【0100】
このような電界効果型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開平5−110069号公報記載の方法により製造することができる。また、静電誘導型有機薄膜トランジスタは、公知の方法、例えば特開2004−006476号公報記載の方法により製造することができる。
【0101】
基板1としては有機薄膜トランジスタとしての特性を阻害しない材質のものであればよく、ガラス基板やフレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板を用いることができる。
【0102】
活性層2を形成する際に、有機溶媒可溶性の化合物を用いることが製造上非常に有利であり好ましいことから、上記で説明した本発明の有機薄膜の製造方法を用いて、活性層2となる有機薄膜を形成することができる。
【0103】
活性層2に接した絶縁層3としては、電気の絶縁性が高い材料であればよく、公知のものを用いることができる。例えば、SiOx,SiNx、Ta25、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、有機ガラス及びフォトレジストが挙げられる。低電圧化できるので、誘電率の高い材料の方が好ましい。
【0104】
絶縁層3の上に活性層2を形成する場合は、絶縁層3と活性層2の界面特性を改善するため、シランカップリング剤等の表面処理剤で絶縁層3の表面を処理して表面改質した後に活性層2を形成することも可能である。表面処理剤としては、例えば、長鎖アルキルクロロシラン類、長鎖アルキルアルコキシシラン類、フッ素化アルキルクロロシラン類、フッ素化アルキルアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン化合物が挙げられる。表面処理剤で処理する前に、絶縁層表面をオゾンUV、Oプラズマで処理をしておくことも可能である。
【0105】
また、有機薄膜トランジスタを作製後、素子を保護するために有機薄膜トランジスタ上に保護膜を形成することが好ましい。これにより、有機薄膜トランジスタが、大気から遮断され、有機薄膜トランジスタの特性の低下を抑えることができる。また、保護膜により有機薄膜トランジスタの上に駆動する表示デバイスを形成する工程からの影響を低減することができる。
【0106】
保護膜を形成する方法としては、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂又は無機のSiONx膜でカバーする方法が挙げられる。大気との遮断を効果的に行うため、有機薄膜トランジスタを作製後、保護膜を形成するまでの工程を大気に曝すことなく(例えば、乾燥した窒素雰囲気中、真空中)行うことが好ましい。
【0107】
(有機薄膜太陽電池)
次に、有機薄膜太陽電池への応用を説明する。図8は、実施形態に係る有機薄膜太陽電池の模式断面図である。図8に示す有機薄膜太陽電池200は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された好適な実施形態の共役系化合物を含有する有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0108】
本実施形態に係る有機薄膜太陽電池においては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属又はそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。高い開放電圧を得るためには、それぞれの電極として、仕事関数の差が大きくなるように選ばれることが好ましい。活性層2中には光感度を高めるために電荷発生剤、増感剤等を添加して用いることができる。基材1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0109】
(光センサ)
次に、有機薄膜の光センサへの応用を説明する。図9は、第1実施形態に係る光センサの模式断面図である。図9に示す光センサ300は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された好適な実施形態の共役系化合物を含有する有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0110】
図10は、第2実施形態に係る光センサの模式断面図である。図10に示す光センサ310は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された電荷発生層8と、電荷発生層8上に形成された好適な実施形態の共役系化合物を含有する有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0111】
図11は、第3実施形態に係る光センサの模式断面図である。図11に示す光センサ320は、基板1と、基板1上に形成された第1の電極7aと、第1の電極7a上に形成された好適な実施形態の共役系化合物を含有する有機薄膜からなる活性層2と、活性層2上に形成された第2の電極7bと、を備えるものである。
【0112】
第1〜第3実施形態に係る光センサにおいては、第1の電極7a及び第2の電極7bの一方に透明又は半透明の電極を用いる。電荷発生層8は光を吸収して電荷を発生する層である。電極材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属又はそれらの半透明膜、透明導電膜を用いることができる。活性層2中には光感度を高めるためにキャリア発生剤、増感剤等を添加して用いることができる。また基材1としては、シリコン基板、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0113】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0114】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0115】
(測定条件等)
まず、以下の実施例及び比較例で行った測定の条件について説明する。核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、JEOL(日本電子株式会社)製の商品名JMN−270(H測定時270MHz)、又は同社製の商品名JMNLA−600(19F測定時600MHz)を用いて測定した。その結果において、ケミカルシフトは百万分率(ppm)で表している。内部標準0ppmには、テトラメチルシラン(TMS)を用いた。結合定数(J)は、ヘルツで示しており、略号s、d、t、q、m及びbrは、それぞれ、一重線(singlet)、二重線(doublet)、三重線(triplet)、四重線(quartet)、多重線(multiplet)及び広幅線(broad)を表す。
【0116】
また、質量分析(MS)は、株式会社島津製作所製のGCMS−QP5050A(商品名)を用い、電子イオン化(EI)法、直接試料導入(DI)法により行った。カラムクロマトグラフィー分離におけるシリカゲルは、関東化学株式会社製の商品名Silicagel 60N(40〜50μm)を用いた。全ての化学物質は、試薬級であり、和光純薬工業株式会社、東京化成工業株式会社、関東化学株式会社、ナカライテスク株式会社、シグマアルドリッチジャパン株式会社、又はダイキン化成品株式会社より購入した。
【0117】
さらに、マイクロウェーブ照射下での反応は、Biotage AB社製のInitiatorTM Ver.2.5を用い、出力400W、2.45GHzで行った。サイクリックボルタンメトリー(CV)は、測定装置としてビー・エー・エス株式会社(BAS社)製の商品名「CV−50W」を使用し、作用電極としてBAS社製Pt電極、対電極としてPt線、参照電極としてAg線を用いて測定した。この測定時の掃引速度は100mV/s、走査電位領域は−2.8V〜1.6Vであった。還元電位及び酸化電位の測定は、化合物及び重合体を1×10−3mol/L、支持電解質としてテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート(TBAPF6)0.1mol/Lをモノフルオロベンゼン溶媒に完全に溶解し測定した。
【0118】
[実施例1:共役系化合物(E)の合成]
以下に示す各種の中間体の合成を経て、共役系化合物(E)を合成した。
【0119】
(化合物(B)の合成)
まず、以下の反応を行って、末端基を形成するための原料化合物である化合物(B)を合成した。
【0120】
すなわち、J. Org. Chem. 2006, 71, 9475-9483に記載された方法で合成した化合物(A−1)を原料にして、下記のスキームにしたがった反応を行い、中間体である化合物(A−3)を合成した。
【化26】

【0121】
ここで、化合物(A−3)の合成では、まず、50mLの3つ口フラスコに化合物(A−1)(1g,3.43mmol)及び塩化チオニル(SOCl)(1mL,13.74mmol)を加え、1時間還流させた後、SOClを留去した。室温で、ニトロベンゼン(PhNO)を40mL加え、さらにマロニルクロライド(532mg,3.78mmol)、及び、塩化アルミニウム(1.37g,13.72mmol)を加えて80℃に昇温し、それらを4時間攪拌した。それから、10重量%シュウ酸溶液を加えて反応を停止させた後、反応液を水洗し、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させて、溶媒を留去した後、真空乾燥した。得られた生成物を、シリカゲルカラム(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(容積比))で精製を行い、中間体である白色固体の化合物(A−2)(606mg,収率56%)を得た。
【0122】
100mlのナスフラスコに、化合物(A−2)(606mg,1.92mmol)、及びフッ素化剤「SelectfluorTM(登録商標)」(1.63g,4.61mmol)を入れ、これにテトラヒドロフラン(THF)(30mL)を加えて溶かした。そこに、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド(TBAH)(10重量%メタノール溶液)(19.94g,4.61mmol)を加えて、0℃で2時間攪拌した後に、室温まで昇温した。攪拌後の溶液を水洗した後、酢酸エチルを用いて抽出した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去した後、真空乾燥した。得られた生成物を、シリカゲルカラム(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(容積比))により精製し、中間体である白色固体の化合物(A−3)(527mg,収率78%)を得た。
【0123】
このようにして化合物(A−3)を合成した後、100mLナスフラスコに、得られた化合物(A−3)(1.09g,3.10mmol)、マロノニトリル(409mg,6.20mmol)、酢酸アンモニウム(358mg,4.64mmol)、トルエン(40mL)、及び、酢酸(4mL)を加え、4時間還流させた。還流後の溶液を水洗した後、酢酸エチルを用いて抽出した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去した後、真空乾燥した。そして、得られた生成物を、シリカゲルカラム(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(容積比))により精製して、目的物である緑色固体の化合物(B)(627mg,収率50%)を得た。化合物(B)の分析結果及び化学式は以下の通りである。
TLC R=0.5(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(容積比))
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.90(m,3H),1.34(m,6H),1.62(m,2H),2.89(m,2H)
GC−MS(DI):m/z=398(M
【化27】

【0124】
(化合物(D)の合成)
まず、共役系化合物の中央部分を構成するための原料となる化合物(C)を、PhilippeLucas et al. Synthesis, 2000 No.9 p.1253.及びMyung-HanYoon et al., Chemistry Materials vol.19 (2007) p.4864.に記載された方法にしたがって合成した。
【化28】

【0125】
次いで、5mLの試験管に、上記で得られた化合物(B)(215mg,0.54mmol)、化合物(C)(200mg,0.25mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))(12mg,0.013mmol)、トリ−o−トリルホスフィン(8mg,0.026mmol)、及び、クロロベンゼン(3mL)を入れ、マイクロウェーブ照射下でそれらを反応させた(180℃,5分)。反応後の生成物を、シリカゲルカラム(クロロホルム)及びゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて精製して、目的物である濃青黒色固体の化合物(D)(142mg,収率66%)を得た。化合物(D)の分析結果及び化学式は以下の通りである。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.97(m,6H),1.35(m),1.47(m),1.67(m),3.11(m,4H),4.42(s,4H),7.39(s,2H)
MALDI TOFMS:m/z=872
【化29】

【0126】
(共役系化合物(E)の合成)
ふた付き試験管に、上記で得られた化合物(D)(142mg,0.16mmol)、塩酸(0.5mL)、及び、酢酸(4mL)を入れ、100℃で一晩攪拌した。攪拌後の溶液を水洗した後、ジクロロメタンを用いて抽出した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去した後、真空乾燥した。得られた生成物を、シリカゲルカラム(クロロホルム)及びGPCにより精製して、目的物である濃青黒色固体の共役系化合物(E)(118mg,収率88%)を得た。共役系化合物(E)の分析結果及び化学式は以下の通りである。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.91(m,6H),0.97(m),1.35(m),1.47(m),1.67(m),3.08(m,4H),7.44(s,2H)
MALDI TOFMS:m/z=828
【化30】

【0127】
得られた共役系化合物(E)について、CV測定を行ったところ、−0.82V及び+1.04Vにそれぞれ可逆な還元波及び酸化波が観測された。還元波よりLUMOレベルが低くなっていることが確認できた。
【0128】
[実施例2:共役系化合物(G)の合成]
上記で得た化合物(B)を用いて、共役系化合物(G)を合成した。
【0129】
(共役系化合物(G)の合成)
まず、原料となる5,5’−ビス(トリ−n−ブチルスタニル)−2,2’−ジチオフェン(化合物(F))をJia Huang et al., J. Am. Chem. Soc., vol.129 (2007) p.9366.に記載された方法にしたがって合成した。
【0130】
次に、5mLの試験管に、上記で得られた化合物(B)(148mg,0.37mmol)、化合物(F)(124mg,0.17mmol)、Pd(dba)(7mg,0.008mmol)、トリ−o−トリルホスフィン(5mg,0.016mmol)、及び、クロロベンゼン(3mL)を入れ、マイクロウェーブ照射下でそれらを反応させた(180,5分)。得られた生成物を、シリカゲルカラム(クロロホルム)及びGPCにより精製して、目的物である濃青黒色固体の共役系化合物(G)(93mg,収率70%)を得た。共役系化合物(G)の分析結果及び化学式は以下の通りである。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.91(m,6H),1.35(m),1.47(m),1.69(m),3.12(m,4H),7.39(m,2H),7.49(m,2H)
MALDI TOFMS:m/z=802
【化31】

【0131】
共役系化合物(G)について、CV測定を行ったところ、−0.86V及び+1.06Vにそれぞれ可逆な還元波及び酸化波が観測された。還元波から見積もったLUMOエネルギーは−3.94eVであり、LUMOレベルが低くなっていることが確認できた。
【0132】
[実施例3:共役系化合物(J)の合成]
以下に示す各種の中間体の合成を経て、共役系化合物(J)を合成する。
【0133】
(化合物Iの合成)
まず、共役系化合物の中央部分を構成するための原料となる化合物(H)をYutakaIe et al., Advanced Functional Materials, vol.20 (2010) p.907.に記載の方法にしたがって合成する。
【化32】

【0134】
次いで、5mLの試験管に上記で得られた化合物(B)、化合物(H)、Pd(dba)、トリ−o−トリルホスフィン、及び、クロロベンゼンを入れ、それらをマイクロウェーブ照射下で反応させる。そして、得られた生成物を、シリカゲルカラム(クロロホルム)及びGPCにより精製して、目的物である化合物(I)を得る。
【化33】

【0135】
(共役系化合物(J)の合成)
ふた付き試験管に、塩酸と酢酸を入れ100℃で一晩攪拌する。攪拌後の溶液を水洗した後、ジクロロメタンを用いた抽出を行う。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去した後、真空乾燥する。得られた生成物を、シリカゲルカラム(クロロホルム)及びGPCにより精製して、目的物である共役系化合物(J)を得る。
【化34】

【0136】
[実施例4:有機トランジスタ素子1の作製及びトランジスタ特性の評価]
ゲート電極となる高濃度にドープされたp型シリコン基板の表面に、絶縁層となるシリコン酸化膜を熱酸化により300nm形成したものを準備した。この基板の上に、リフトオフ法によりチャネル幅38mm、チャネル長5μmの櫛形ソース電極及びドレイン電極を形成した。得られた電極付き基板を、アセトンで10分間、次いでイソプロピルアルコールで10分間超音波洗浄した後、オゾンUVを30分間照射し表面を洗浄した。
【0137】
ここで、実施例1で合成した共役系化合物(E)をクロロホルムに溶解させ、1重量%の濃度となるように溶液を調製したところ、完全に溶解できたことから、共役系化合物(E)は、有機溶媒に溶解可能であることを確認できた。
【0138】
得られた共役系化合物(E)のクロロホルム溶液を塗布液として用い、上記の洗浄後の基板上に、スピンコート法により共役系化合物(E)の有機薄膜を堆積させて、有機トランジスタ素子1を作製した。
【0139】
得られた有機トランジスタ素子1について、半導体パラメータアナライザー(keithley社製、商品名「4200−SCS」)を用い、真空中でゲート電圧Vg及びソース−ドレイン間電圧Vsdを0〜80Vの範囲で変化させる条件でトランジスタ特性を測定したところ、良好なn型半導体のドレイン電流(Id)−ゲート電圧(Vg)特性が得られた。
【0140】
このときの移動度は1.2×10−3cm/Vsであり、しきい値電圧は32Vであり、オン/オフ比は10であり、いずれも良好な値となった。このことから、共役系化合物(E)を用いた有機トランジスタ素子1は、n型有機トランジスタとして有効に機能することが確認された。そして、共役系化合物(E)は、電子輸送性に優れた有機n型半導体として利用可能であることが確認された。
【0141】
[実施例5:有機トランジスタ素子2の作製及びトランジスタ特性の評価]
実施例2で合成した共役系化合物(G)をクロロホルムに溶解させ、1重量%の濃度となるように溶液を調製したところ、完全に溶解できたことから、共役系化合物(G)は、有機溶媒に溶解可能であることを確認できた。
【0142】
このようにして調製した共役系化合物(G)のクロロホルム溶液を塗布液として用いたこと以外は、実施例4と同様にして、共役系化合物(E)の代わりに共役系化合物(G)を含む有機薄膜を備える有機トランジスタ素子2を作製した。
【0143】
得られた有機トランジスタ素子2について、実施例4と同様にして、トランジスタ特性を測定したところ、良好なn型半導体のId−Vg特性が得られた。このときの移動度は0.016cm/Vsであり、しきい値電圧11Vであり、オン/オフ比10と良好であった。このことから、共役系化合物(G)を用いた有機トランジスタ素子2は、n型有機トランジスタとして有効に機能することが確認された。また、共役系化合物(G)は、電子輸送性に優れた有機n型半導体として利用可能であることが確認された。
【0144】
[比較例1:共役系化合物(L)の合成]
以下に示す中間体の合成を経て、共役系化合物(L)を合成した。
【0145】
(化合物(K)の合成)
まず、以下の反応を行って、末端基を形成するための原料化合物である化合物(K)を合成した。すなわち、化合物(K−1)を原料にして、下記のスキームにしたがった反応を行い、化合物(K)を茶色固体として得た。
【化35】

【0146】
<化合物(K−1)の合成>
以下、上述した化合物(K)を合成する工程を詳細に説明する。化合物(K)の合成では、まず、化合物(K−1)を、文献(J.Chem.Soc.Perkin Trans 1.Organic and Bio-Organic Chemistry 1992,21,2985-2988)に記載の方法にしたがって合成した。
【0147】
<化合物(K−2)の合成>
次いで、300mLの三口フラスコに、化合物(K−1)(1.00g,6.58mol)、及びフッ素化剤「SelectfluorTM(登録商標)」(5.60g,15.8mol)を入れ、THF(65mL)を加えて溶かした。そこに、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド(TBAH)(10重量%メタノール溶液)(3.76g,14.5mol)を加え、0℃で12時間撹拌した。攪拌後の溶液から溶媒を減圧留去して、水を加え、水相を酢酸エチルで抽出した後、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させて、減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1(容積比))で精製して、化合物(K−2)(0.934g,収率75%)を淡黄色固体として得た。化合物(K−2)の分析結果は以下の通りである。
mp:156−158℃
TLC R=0.29(2:1=ヘキサン:酢酸エチル(容積比))
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=7.60(d,1H,J=4.8Hz),8.28(d,1H,J=4.8Hz)
MS(EI)m/z=188(M+)
【0148】
<化合物(K−3)の合成>
200mLの三口フラスコに、化合物(K−2)(1.97g,10.48mmol)を入れ、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)(50mL)を加えて溶かし、さらに2−クロロメタノール(3.37g,41.91mmol)を加えた。そこへDMF(50mL)に溶かしたカリウムtert−ブトキシドを−60℃で滴下した。滴下終了後、室温で4時間撹拌し、水を加えて反応を停止した。次に、水層を酢酸エチルで抽出し、水で洗ってから有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ別し、減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1(容積比))で精製して、化合物(K−3)(1.58g、収率55%)を白色固体として得た。化合物(K−3)の分析結果は以下の通りである。
mp:117−122℃
TLC R=0.34(2:1=ヘキサン:酢酸エチル(容積比))
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=4.26(s,8H),7.02(d,1H,J=4.8Hz),7.51(d,1H,J=5.1Hz)
MS(EI)m/z=276(M
【0149】
<化合物(K)の合成>
100mLの三口フラスコに、化合物(K−3)(1.00g,3.62mmol)を入れ、THF(30mL)を加えて溶かした。そこへn−ブチルリチウム(1.58M,2.75mL,4.34mmol)を−78℃で加えた。0.5時間撹拌した後、臭素(0.29mL,5.43mmol)を加え、徐々に室温まで昇温した。1時間後、水を加えて反応を停止した。水層を酢酸エチルで抽出し、飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液で洗い、水で洗ってから有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去し、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1(容積比))に通して、中間化合物(K−4)の粗生成物を得た。
【0150】
得られた中間化合物(K−4)を100mLナスフラスコに入れ、THF(30mL)に溶かした。そこに濃硫酸(30mL)を加え、室温で12時間撹拌した。反応混合物を氷に注ぎ、水で抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、水の順で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ別し、減圧濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製して、化合物(K)(877mg、収率91% in 2steps)を茶色固体として得た。化合物(K)の分析結果は以下の通りである。
TLC:R=0.21(3:1=ヘキサン:酢酸エチル(容積比))
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=7.60(s,1H);MS(EI)m/z=266(M
【0151】
(共役系化合物(L)の合成)
上記で得られた化合物(K)(326mg,1.22mmol)、5,5’−ビス(トリブチルスタニル)−2,2’−ビチオフェン(413mg,0.555mmol)、及び、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(64mg,0.056mmol)を試験管に入れ、トルエン(6mL)を加えて溶かした。これを120℃で12時間撹拌した後、室温で放冷した。反応溶液をセライトろ過し溶媒を減圧留去した後、得られた固体をヘキサンで洗い、共役系化合物(L)(35mg,収率74%)を暗紫色固体として得た。共役系化合物(L)の分析結果及び化学式は以下の通りである。
mp:>300℃
MS(EI):m/z=538(M
【化36】

【0152】
このようにして得られた共役系化合物(L)をクロロホルムに溶解させたところ、1×10−4mol/Lより高い濃度では完全に溶解せず、有機溶媒に難溶であることが判明した。
【0153】
[比較例2]
(共役系化合物(N)の合成)
以下に示す化合物(M)の合成を経て、共役系化合物(N)を合成した。まず、20mLの三口フラスコに、5,5’−ジブロモ−4,4’−ジヘキシル−2,2’−ビチオフェン(492mg,1.00mmol)を入れ、THF(10mL)を加えて溶かした。そこにn−ブチルリチウム(1.58M,1.39mL,2.20mmol)を−78℃で加えた。1時間撹拌した後、塩化トリブチルスズ(0.543ml,2.00mmol)を加え、徐々に室温まで昇温した。2時間後、水と微量の塩酸を加えて反応を停止した。水層をジエチルエーテルで抽出し、水で洗ってから有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を減圧留去した後、得られた液体をGPC(クロロホルム(CHCl))で精製することにより、化合物(M)(630mg,収率69%)を黄色液体として得た。化合物(M)の分析結果及び化学式は以下の通りである。
TLC:R=1.0(ヘキサン)
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.84−0.94(m,24H),1.02−1.20(m,12H),1.26−1.39(m,24H),1.46−1.61(m,16−H),2.51(t,4H,8.0Hz),7.13(s,2H)
MS(EI):m/z=912(M).
【化37】

【0154】
次に、上記で得た化合物(M)(50mg,0.055mmol)、比較例1で合成した化合物(K)(32mg,0.12mmol)、及び、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(6mg,0.005mmol)を蓋付き試験管に入れ、トルエン(1mL)を加えて溶かした。これを120℃で12時間撹拌した後、室温で放冷した。次に溶媒を減圧留去し、粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム)に通してからGPC(クロロホルム)で精製して、共役系化合物(N)(19mg,収率49%)を橙色固体として得た。共役系化合物(N)の分析結果及び化学式は以下の通りである。
TLC:R=0.43(5:1=ヘキサン:酢酸エチル(容積比))
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.88−0.96(m,6H),1.28−1.49(m,12H),1.65−1.76(m,4H),2.85(t,4H,J=7.9Hz),7.19(s,2H),7.51(s,2H)
MS(EI)m/z=706(M
【化38】

【0155】
(有機トランジスタ素子3の作製及びトランジスタ特性の評価)
共役系化合物(N)をクロロホルムに溶解させ、1重量%の濃度となるように溶液を調製したところ、完全に溶解できたことから、有機溶媒に溶解可能であることを確認できた。
【0156】
このようにして調製した共役系化合物(N)のクロロホルム溶液を塗布液として用いたこと以外は、実施例4と同様にして、共役系化合物(E)の代わりに共役系化合物(N)を含む有機薄膜を備える有機トランジスタ素子3を作製した。
【0157】
得られた有機トランジスタ素子3について、実施例4と同様にして、トランジスタ特性を測定したところ、n型半導体のId−Vg特性が得られたが、このときの移動度は1.8×10−5cm/Vsであり、実施例と比較して低かった。
【0158】
[実施例5:共役系化合物(P)の合成]
以下に示す各種の中間体の合成を経て、共役系化合物(P)を合成した。
【0159】
(化合物(O)の合成)
30mLの2口ナスフラスコに化合物(A−3)(100mg,0.28mmol)、マロノニトリル(75mg,1.12mmol)、ピリジン(180mg,2.24mmol)、四塩化チタン(210mg,1.12mmol)、及び、クロロホルム(10mL)を加え、8時間還流させた後、水洗しクロロホルムで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ溶媒を留去して、真空乾燥させた。得られた固形物を、シリカゲルカラム(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(容積比))で精製して、目的物である黄色固体の化合物(O)(88mg,収率69%)を得た。得られた化合物(O)の分析結果及び化学式は以下の通りである。
TLC R=0.5(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(容積比))
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.90(m,3H),1.34(m,4H),1.43(m,2H),1.58(m,2H),3.14(m,2H)
GC−MS(DI):m/z=446(M
【化39】

【0160】
(共役系化合物(P)の合成)
2mLの試験管に、化合物(O)(100mg,0.22mmol)、化合物(F)(75mg,0.16mmol)、Pd(dba)(2mg,0.002mmol)、トリ−o−トリルホスフィン(3mg,0.008mmol)、及び、クロロベンゼン(1mL)を入れ、マイクロウェーブ照射下でそれらを反応させた(180℃,5分)。シリカゲルカラム(クロロホルム)及びGPCで精製を行い、目的物である濃青黒色固体の共役系化合物(P)(15mg,収率17%)を得た。共役系化合物(P)の分析結果及び化学式は以下の通りである。
H−NMR(400MHz,CDCl):δ(ppm)=0.89(m,6H),1.32(m),1.46(m),1.64(m),3.34(m,4H),7.40(m,2H),7.46(m,2H)
MALDI TOFMS:m/z=898.1
【化40】

【0161】
共役系化合物(P)について、CV測定を行ったところ、−0.62Vに可逆な還元波が観測された。還元波から見積もったLUMOエネルギーは−4.18eVであり、LUMOが低くなっていることが確認できた。
【0162】
[実施例6:共役系化合物(Q)の合成]
(共役系化合物(Q)の合成)
試験管に、化合物(O)、2,2’−ビス(トリブチルスタニル)チエノチオフェン、Pd(dba)、及びトリ−o−トリルホスフィン及びクロロベンゼンを入れ、マイクロウェーブ照射下でそれらを反応させる。反応物を、シリカゲルカラム(クロロホルム)、及びGPCで精製して、目的物である共役系化合物(Q)を得る。
【化41】

【0163】
[実施例7:有機トランジスタ素子4の作製及びトランジスタ特性の評価]
共役系化合物(P)をクロロホルムに溶解させ、1重量%の濃度となるように溶液を調製したところ、完全に溶解できたことから、共役系化合物(P)は、有機溶媒に溶解可能であることを確認できた。
【0164】
共役系化合物(E)のクロロホルム溶液に代えて、共役系化合物(P)のクロロホルム溶液を塗布液として用いたこと以外は、実施例4と同様にして、共役系化合物(P)を含む有機薄膜を備える有機トランジスタ素子4を作製した。
【0165】
得られた有機トランジスタ素子4について、実施例4と同様にして、トランジスタ特性を真空中で測定したところ、良好なn型半導体のId−Vg特性が得られた。このときの移動度は4.9×10−3cm/Vsであり、しきい値電圧25Vであり、オン/オフ比10と良好であった。さらに有機トランジスタ素子4について、トランジスタ特性を大気中で測定したところ、移動度は2.8×10−3cm/Vsであり、しきい値電圧23Vであり、オン/オフ比10と真空中での特性とほぼ同等であった。このことから、共役系化合物(P)を用いた有機トランジスタ素子4は、n型有機トランジスタとして有効に機能し、大気中でも安定に動作することが確認された。また、共役系化合物(P)は、電子輸送性に優れた有機n型半導体として利用可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0166】
1…基板、2…活性層、2a…活性層、3…絶縁層、4…ゲート電極、5…ソース電極、6…ドレイン電極、7a…第1の電極、7b…第2の電極、8…電荷発生層、100…第1実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、110…第2実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、120…第3実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、130…第4実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、140…第5実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、150…第6実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、160…第7実施形態に係る有機薄膜トランジスタ、200…実施形態に係る有機薄膜太陽電池、300…第1実施形態に係る光センサ、310…第2実施形態に係る光センサ、320…第3実施形態に係る光センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される共役系化合物。
【化1】


【化2】


【化3】


[式(I)中、R01及びR02は、それぞれ独立に、アルカン骨格が含まれる1価の基を示し、R11、R12、R21及びR22は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は置換基で置換されていてもよい1価の基を示す。X11、X12、X21及びX22は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子又は式(a)で表される基を示す。ただし、X11、X12、X21及びX22の少なくとも1つは、硫黄原子又は式(a)で表される基である。Z及びZは、それぞれ独立に、式(i)で表される基、式(ii)で表される基、式(iii)で表される基、式(iv)で表される基、式(v)で表される基、式(vi)で表される基、式(vii)で表される基、式(viii)で表される基及び式(ix)で表される基からなる群より選ばれるいずれか1種の基を示す。Ar、Ar及びArは、それぞれ独立に、炭素数6以上の2価の芳香族炭化水素基、又は炭素数4以上の2価の複素環基を示し、これらは置換基を有していてもよい。rは1〜6の整数を示し、s及びtは、それぞれ独立に、0〜6の整数を示す。
式(a)中、Aは、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、複数あるAはそれぞれ同一でも異なっていてもよいが、少なくとも1つのAは電子吸引性の基である。
式(vii)、式(viii)及び式(ix)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は1価の基を示し、RとRとは互いに結合して環を形成していてもよい。なお、式(viii)で表される基は左右反転していてもよい。]
【請求項2】
前記X11及び前記X12の少なくとも一方が式(a)で表される基であり、前記X21及び前記X22の少なくとも一方が式(a)で表される基である、請求項1記載の共役系化合物。
【請求項3】
前記Arが、アルカン骨格を含む置換基を有していない基である、請求項1又は2記載の共役系化合物。
【請求項4】
前記Arが、式(II)で表される基又は式(III)で表される基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の共役系化合物。
【化4】


【化5】


【化6】


[式(II)中、Zは、式(xi)で表される基、式(xii)で表される基、式(xiii)で表される基、式(xiv)で表される基、式(xv)で表される基、式(xvi)で表される基、式(xvii)で表される基、式(xviii)で表される基及び式(xix)で表される基からなる群より選ばれるいずれか1種の基を示す。なお、式(xviii)で表される基は左右反転していてもよい。
式(III)中、Ar及びArは、それぞれ独立に、炭素数6以上の3価の芳香族炭化水素基又は炭素数4以上の3価の複素環基であって、アルカン骨格を含む置換基を有していない基を示し、Xは、酸素原子、硫黄原子又は式(a)で表される基を示す。]
【請求項5】
式(III)で表される基が、式(IV)で表される基である、請求項4記載の共役系化合物。
【化7】


【化8】


[式(IV)中、Xは前記と同義であり、Y及びYは、それぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を示し、Z及びZは、それぞれ独立に、式(xxi)で表される基、式(xxii)で表される基、式(xxiii)で表される基、式(xxiv)で表される基、式(xxv)で表される基、式(xxvi)で表される基、式(xxvii)で表される基、式(xxviii)で表される基及び式(xxix)で表される基からなる群より選ばれるいずれか1種の基を示す。なお、式(xxviii)で表される基は左右反転していてもよい。]
【請求項6】
前記X11及び前記X12のうちの一方が酸素原子であり、前記X11及び前記X12のうちの残りの一方が式(a1)で表される基であり、かつ、前記X21及び前記X22のうちの一方が酸素原子であり、前記X21及び前記X22のうちの残りの一方が式(a1)で表される基である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の共役系化合物。
【化9】

【請求項7】
前記Z及びZが、式(xxii)で表される基又は式(xxvii)で表される基である、請求項5又は6記載の共役系化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の共役系化合物を含む有機薄膜。
【請求項9】
請求項8記載の有機薄膜を備える有機薄膜素子。
【請求項10】
請求項8記載の有機薄膜を備える有機薄膜トランジスタ。
【請求項11】
請求項8記載の有機薄膜を備える有機薄膜太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−126876(P2012−126876A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33737(P2011−33737)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】