説明

共振器光ファイバジャイロスコープのキャビティ長変調

【課題】共振器光ファイバジャイロスコープにおいてスプリアスな2重反射経路から生じる誤差を削減する。
【解決手段】共振器光ファイバジャイロスコープの回転検知誤差を削減するためのシステム及び方法を提供する。一例の方法は、光ファイバと、この光ファイバの第1の端部を出る光波を後方の光ファイバの反対端部へ方向付けるための複数の光学表面とを有する共振器に1次光波を伝搬させる。光ファイバは、圧電トランスデューサ(PZT)チューブに巻き付けられている。正弦波電圧がPZTチューブに印加されて、光ファイバ内のファイバキャビティの長さが調節される。ファイバキャビティ長変調の振幅と周波数は、1次光波と2重後方反射光波との間の相対位相変調であって、2重後方散乱に起因する回転検知誤差が対象周波数帯域を超える周波数になるような相対位相変調、を生み出すように選択される。これによって、関連した誤差を回転速度信号からフィルタリングすることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振器光ファイバジャイロスコープのキャビティ長変調に関する。
[優先権の主張]
本発明は、2009年3月6日に出願された米国仮出願第61/158,038号の利益を主張する。この米国仮出願の内容は、この結果、参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
共振器光ファイバジャイロスコープ(RFOG)は、多くの航法/姿勢制御市場のニーズを満たし、新たな市場を作り出す著しく大きな可能性を有する。この大きな可能性の理由は、RFOGが、高性能な回転検知デバイス用の最小コストで最小サイズのジャイロであるという有望性を有するからである。RFOGが所要の性能レベルを達成する際の1つの問題は、共振リング内における2重後方散乱(double backscatter)又は2重後方反射(double back-reflection)であり、これによって、回転検知に誤差が取り込まれる。
【0003】
RFOGは、リング共振器内で伝搬するように向けられた2つの対向伝搬する波の間のリング共振器の共振周波数シフトを測定することによって機能する。共振周波数シフトは、共振器が形成されている有効面の法線軸にまわりの慣性回転の速度に比例する。RFOGの共振器は、その往復経路長の大部分に光ファイバを含む。RFOGの共振周波数を正確に測定し、したがって、回転速度を正確に測定するには、時計回り(CW)方向及び反時計回り(CCW)方向で共振器に連結される光波が、リング共振器の内部においてCW及びCCWで実質的に独立して伝搬する(実質的にその所期の方向にのみ伝搬する、したがって「信号波」と呼ばれる)ことが必要である。
【0004】
しかしながら、実際には、共振器の内部の光学表面、すなわち界面は、光波のそれぞれの小部分を反対の伝搬方向に方向付けるおそれがある。これらの望ましくない欠陥のケースの1つの部類は、1つの波からの光の小部分が奇数回の反射を通じて反対方向に反射されるときである。これによって、例えば、CW伝搬光から派生した光の寄生波(parasitic wave)が共振器に生み出され、この寄生波は、最終的には(望ましくなく)CCW方向に伝播する。この寄生波は、(CCW方向でのみ伝搬していた)所期のCCW「信号」波とCCW方向の寄生波との間に光干渉効果を生み出す。同じ現象は、CCW方向で開始されて奇数回反射された光が、CW方向の「信号波」と干渉するCW方向の寄生波を生み出すことによっても起こるおそれがある。回転測定時にCW方向又はCCW方向のいずれかで結果として生じる干渉(共振器における奇数回の反射によって引き起こされる)の影響は、CWの光波及びCCWの光波が波長で大きく分離され且つ/又は異なる周波数で変調及び復調される場合に大きく減衰される場合がある。しかしながら、これらの欠陥の第2の部類も存在する。すなわち、光波が、偶数回の反射によって反射される場合である。反射された寄生光波は、1次(primary)「信号」光波から派生し、復調プロセスを通じて取り除くことができないことから、1次「信号」光波と同じ波長及び/又は変調周波数を有するので、望ましくない欠陥の第1の部類を軽減するのに使用される技法は機能しない。2回反射されることを伴う経路に沿って進む光波(2回の反射を伴い、これによって、偶数回の反射を通じた反射波の中で最も高い強度の反射波が生み出される)は、信号光波と寄生干渉計(parasitic interferometer)を形成し、共振線形状(resonance line shape)の歪を作り出す。これらの歪は、測定された回転速度のバイアス誤差につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなスプリアスな2重反射経路から生じるこのような誤差を削減する方法を見つけることは、RFOG性能を改善するのに重要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、共振器光ファイバジャイロスコープの回転検知誤差を削減するためのシステム及び方法を提供する。一例の方法は、光ファイバと、この光ファイバの第1の端部を出る光波を後方の光ファイバの反対端部へ方向付けるか又は有効にするための複数の光学表面とを有する共振器に1次光波を伝搬させる。光ファイバは、圧電トランスデューサ(PZT)チューブに巻き付けられている。正弦波電圧がPZTチューブに印加されて、光ファイバ内のファイバキャビティの長さが調節される。ファイバキャビティ長変調の振幅は、1次(すなわち、信号)光波と2重後方反射光波との間の相対位相変調であって、2重後方散乱に起因する回転検知誤差が対象周波数帯域を超える周波数になるような相対位相変調を生み出すように選択される。これによって、関連した誤差をフィルタリングすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明の好ましい実施形態及び代替的な実施形態が、以下の図面を参照して以下で詳細に説明される。
【図1】本発明の実施形態に従って形成された共振器光ファイバジャイロスコープの概略図である。
【図2】ベッセル関数のグラフである。
【図3】本発明の実施形態に従って形成された共振器光ファイバジャイロスコープの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、キャビティ長変調を使用して後方散乱誤差を抑制する共振器光ファイバジャイロスコープ(RFOG)10を示す。RFOG10は、光波源(図示せず)と、部分透過型入力ミラー26と、光検出器34と、先端40及び42に端部を有する光ファイバ28を含む共振器コイル20と、部分透過型半時計回り(CCW)出力ミラー22と、部分透過型時計回り(CW)出力ミラー24、及びコリメートレンズ30、32とを含む。閉リング共振器経路が光路によって規定される。この光路は、例えばCW方向では、部分透過型入力ミラー26の反射(内面)から、部分透過型反時計回り(CCW)出力ミラー22へ向かい、レンズ30を通って、先端40のファイバ端部へ向かい、ファイバ28を通って、先端42のファイバ端部へ向かい、レンズ32を通って、部分透過型時計回り(CW)出力ミラー24へ向かい、部分透過型入力ミラー26の反射(内面)に戻り、部分透過型反時計回り(CCW)出力ミラー22に戻るといったものであり、このようにして、その経路が再生成される。同じようにして、光は、ファイバコイル20内をCCW方向に進むことができ、その経路を再生成することができる。
【0009】
図1では、簡単にするために、CW波しか示されていない。入力光波は、部分透過型入力ミラー26から共振器20に入る。この波のほとんどは、CCW出力ミラー22で反射し、レンズ30を通過し、先端40からファイバに入り、ファイバコイル20のCW方向に伝搬する波を生み出す。波の反射しない部分は、1次波である。この1次波は、共振器ファイバ28を通過し、先端42から出る。1次波は、その後、レンズ32によってコリメートされ、CW出力ミラー24に進み、CW出力ミラー24において、1次波のほとんどは反射され、その結果、1次波は、共振器コイル20を再び循環し、ごく一部が部分透過型時計回り(CW)出力ミラー24から共振器を出る。部分透過型時計回り(CW)出力ミラー24から共振器を出る1次波のこのごく一部は、光検出器34に伝搬し、光検出器34において、波の強度が電気信号に変換される。
【0010】
共振器ファイバ端面は、ファイバの外部の自由空間媒体と完全な屈折率整合を有するように作製することができないので、ファイバ端面からは常に多少の後方反射がある。1次波が、先端42からファイバを出る時、ごく一部が、共振器ファイバコイル20のCCW方向に後方反射し、先端40から出る。先端40でも同様にして、この後方反射波のごく一部が、共振器ファイバ28のCW方向に後方反射する。この2重後方反射波は、共振器ファイバ28を通って進み、先端42からファイバを出て、ごく一部がCW出力ミラー24から共振器を出る。2重後方反射波は、光検出器34において1次波と干渉することになり、共振線形状を歪ませることによって回転検知誤差を引き起こすことになる。
【0011】
1次波が共振器ファイバコイル20を通過するごとに、2重後方反射波は、3回通過する(1回の通過は1次波と共に行われ、2回の通過は最初の反射後に行われる)。したがって、2重後方反射波は、1次波とは異なる経路長を進み、1次波に対して位相シフトを有することになる。相対位相は、2つの波間の経路長差に依存する。経路長差は、ファイバ長と、ファイバ屈折率と、ミラー間隔と、温度及び他の環境パラメータに依存する他の多くの共振器の機械的パラメータとの関数である。したがって、相対位相は、温度の関数であり、回転検知誤差を不安定にすることになる。
【0012】
2つの光波の干渉は、
【0013】
【数1】

【0014】
として表すことができる。ここで、Iは、2つの干渉波の結果として生じた光度であり、Eは、第1の(CW又はCCW)1次波、すなわち信号波の電界振幅であり、Eは、第2の波、すなわち寄生波(CW又はCCW)の電界振幅であり、φ(t)は、2つの波間の相対位相である。相対位相は、時間の関数であることが明らかにされているが、温度の関数又は時間で変化する他の或る環境パラメータの関数として示すこともできる。φ(t)は、主として、温度のように、非常にゆっくりと(<1Hz)変化する環境パラメータによって駆動されるので、φ(t)が生み出す回転検知誤差は、通常、低周波数(<1Hz)になる。本発明は、対象周波数帯域の範囲外のはるかに高い周波数へ誤差を周波数シフトすることによってこれらの誤差を抑制する。このはるかに高い周波数では、誤差を回転信号から容易にフィルタリングすることができる。
【0015】
対象周波数帯域は、センサの用途に関係する。例えば、航法用途の対象周波数帯域は、通常、1Hzよりもはるかに小さい。測位用途の場合、対象周波数帯域は、通常、100Hzよりも小さい。
【0016】
RFOG10は、誤差を周波数シフトするためにキャビティ長(すなわち、ファイバ28の長さ)を調節する。図1は、圧電トランスデューサ(PZT)チューブ50に巻き付けられた共振器ファイバコイル20を示す。電圧がPZTチューブ50に印加されると、チューブの直径が変化し、これによって、ファイバ28の長さが引き伸ばされたり弛緩されたりする。ファイバ長の変化は、約200ナノメートルである。これによって、ファイバの長さ及び/又はファイバの屈折率が変化することにより、共振器コイル20の光路長が変化する。中空コアファイバの場合、実際には、すべての光学的長さの変化は、物理的な長さの変化に起因するのに対して、ソリッドコアファイバの場合、光路長の変化のおよそ80%は、屈折率の変化に起因する。1次波が共振器ファイバ28のループを1回進むごとに、2重後方反射寄生波はこのループを3回進むので、2重後方反射波の位相は、その方向の1次信号波よりも大きな位相振幅で変調され、したがって、これら2つの波の間に正味の相対位相変調が存在することになる。この相対位相変調θ(t)は、正弦関数であり、
【0017】
【数2】

【0018】
として表される。ここで、θは、1次信号波と寄生2重後方反射波との間の相対位相のキャビティ変調振幅であり、ωは、キャビティ変調角周波数である。
式1は、
【0019】
【数3】

【0020】
として書き直すことができる。
三角恒等式を使用すると、式3は、
【0021】
【数4】

【0022】
として書き直すことができる。
三角関数cos[θsin(ωt)]及びsin[θsin(ωt)]は、ベッセル関数の無限級数
【0023】
【数5】

【0024】
として表すことができる。
式5及び式6では、1項を除いて、2つの無限級数のすべての項が、ω又はωの或る整数倍(multiple integer)で変化することが分かる。したがって、キャビティ変調周波数ωが十分高く設定される場合、項J(θ)の1項を除くすべての項は、十分高い周波数で変化ことになるので対象帯域幅の範囲外となり、したがって、フィルタリングすることができる。残りの項J(θ)は、キャビティ変調振幅θを適切な値に設定することによって削減することができる。
【0025】
図2は、位相変調振幅の関数としてのJ(θ)のプロットを示す。J(θ)は、2.4ラジアンの位相変調振幅の辺りで0を通過し、約5.5ラジアンで再び0を通過し、そして約8.6ラジアンで再び0を通過することに注目されたい。位相変調振幅がこれらヌルの1つに近くなるほど、ジャイロ検知誤差は小さくなる。
【0026】
キャビティ変調は、2重後方反射に起因した誤差を抑制するために正弦関数である必要はない。変調は、2π又は2πの整数倍の相対位相振幅を有する三角波とすることもできる。他のタイプの波形が、2重後方反射に起因した回転検知誤差を対象周波数帯域の範囲外に周波数シフトすることもできる。多重周波数変調又はノイズ変調を使用して、幅広い周波数帯域にわたって回転誤差を拡散することもできる。
【0027】
ファイバ端面からの後方反射は、この変調が対処する後方反射だけではない。共振器ファイバ28を余分に通過するレンズ及びミラーからの後方反射又は後方散乱の同様の組み合わせも、ファイバ28の経路長調節で抑制される。しかしながら、1次波の通過を上回って共振器ファイバ28を余分に通過することのないいくつかの後方反射がある。
【0028】
図3は、光がファイバ28に入った後に、ファイバ端面の後方反射光があるケースを示す。このケースでは、ファイバコイル20にちょうど入った1次波から開始して、1次波が共振器を往復することをトレースすることが例示されている。したがって、1次波は、先端40から共振器ファイバ28に入り、CW方向でコイルを伝搬しているものと仮定する。1次波は、その後、先端42においてファイバコイル20から出て来て、ミラー24、44、及び22を介してファイバコイル20に再び向けられ、先端40からファイバ28に再び入って往復を完了する。1次光が先端40に到達し、ファイバに再び入ろうとしているまさにその時に、先端40では、小さな後方反射波も存在する。この後方反射波は、ファイバに再び入ることなく、ミラー22、44、及び24を介して先端42へ後方反射され、再び後方反射されて、最終的には、先端40からCW方向でファイバに再び入り、共振器の往復を完了する。この2重反射寄生波及び1次波のそれぞれはコイルを1回旋回して、2重反射寄生波は1次波と干渉する。したがって、共振器ファイバ28を通過する2回の後方反射によって生成された寄生光波が存在するが、この寄生光波は、1次波の1回の通過ごとに1回しかファイバコイル20を進まず、したがって、これら2つの波の間の相対位相は、共振器ファイバの経路長を調節することによって変調することができない。これら2つの波の相対経路長を調節するために、もう1つの経路長調節器が、共振器の適切な箇所に追加される。この調節の位置は、2次波が、変調された領域を1次波よりも多く通過するように選ばれる。
【0029】
図3は、共振器入力ミラー44上に配置された1つ又は複数のPZTトランスデューサ46を有するRFOG10−1を示す。1次CW波と2重後方反射CW波との間の相対位相は、変調された信号をトランスデューサ46に印加することによって変調される。1次波が1回通過するごとに、2重後方反射波は、共振器入力ミラー44によって3回通過する(1回は1次波と共に通過し、2回は最初の反射後に通過する)。PZTトランスデューサ46は、共振器入力ミラー44を内外に移動させ、したがって、先端42と40との間の光路長を調節する。ミラー変調の振幅及び周波数の選択は、図1の共振器ファイバ28の変調の振幅及び周波数と同様である。
【0030】
上述のように、本発明の一実施形態を図示して説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変更を行うことができる。したがって、本発明の範囲は、一実施形態の開示によって限定されるものではない。むしろ、本発明は、専ら以下の特許請求の範囲を参照することによって画定されるべきである。
【0031】
独占的な財産又は独占権が主張される本発明の具体的内容は、次のように規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振器光ファイバジャイロスコープ(RFOG)の回転検知誤差を削減するための方法であって、
時計回り1次光波及び反時計回り1次光波を、光ファイバと、前記光ファイバの第1の端部を出る前記光波を後方の前記光ファイバの反対端部へ方向付ける複数の光学表面とを有する共振器に伝搬させるステップと、
事前に規定された変調方式に基づいて、前記共振器内の光ファイバコイルの経路長を調節するステップと、
前記共振器において伝搬する前記波に基づいて検出器で信号を生成するステップと、
前記生成された信号に基づいて前記ジャイロスコープの出力を求めるステップであって、回転検知誤差が削減される、ステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記調節するステップは、前記光ファイバに取り付けられる圧電トランスデューサチューブに正弦波電圧を印加する回転検知誤差が削減されるを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ファイバキャビティ長変調の振幅及び周波数は、前記1次光波と2重後方反射光波との間の相対位相変調であって、2重後方散乱に起因する回転検知誤差が対象周波数帯域を超える周波数になるような相対位相変調、を生み出すように選択される請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−210617(P2010−210617A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−38195(P2010−38195)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】