説明

共焦点レーザー走査型顕微鏡

【課題】共焦点レーザー走査型顕微鏡の観察光と刺激光による試料の高速走査を目的とする。
【解決手段】本発明では、試料を観察する観察用励起光を走査する為の第1の走査光学系と、試料の一部分を光刺激する刺激光を走査する為の第2の走査光学系とを備える共焦点レーザー走査型顕微鏡に、観察用励起光および刺激光を同時多点に反射できるマイクロミラーデバイスを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡の技術分野に係り、特に、マイクロミラーデバイスを備えた共焦点レーザー走査型顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
試料を観察・記録しながら試料の所望の位置に刺激用のレーザー光(刺激光)を照射し、試料の変化などを観察する実験手法が一般に知られている。
このためのレーザー走査顕微鏡として特許文献1では、第2の走査光学系を用いてレーザー光源から出力された刺激光を試料の任意の位置に照射しながら、第1の走査光学系を用いてレーザー光源から出力された観察用励起光を試料全体にわたり走査して試料からの蛍光を光電変換素子で検出する構成および走査方法を開示している。また、この特許文献1の構成および走査方法の他にも、光音響素子を利用して光を偏向させる方法、ガルバノミラーによって光を偏向させる方法、ニポウディスクと呼ばれるピンホール板を回転させることにより光を走査する方法などの共焦点レーザー走査型顕微鏡が実用化されている。
【0003】
ここで、従来の共焦点レーザー走査顕微鏡の例として図6を参照してガルバノミラーによって光を偏向させる走査方法を用いた共焦点レーザー走査型顕微鏡の構成を模式的に示す。
【0004】
図6の顕微鏡10において、観察用の第1の走査光学系1は、観察用励起光22を発する観察光源11、コリメータ12、x軸方向およびy軸方向の二次元に観察用励起光22を走査する為の2枚のガルバノミラー14aで構成してある。一方で、刺激用の第2の走査光学系2は刺激光23を発する刺激光源19、コリメータ12、x軸方向およびy軸方向の二次元に刺激光を走査する為の2枚のガルバノミラー14bで構成している。また、観察用励起光22と刺激光23の交差する部分にダイクロイックミラー13aを配置しており、本構成例ではダイクロイックミラー13aを観察用励起光22が通過し、かつ刺激光23が反射して観察用励起光22と刺激光23が重なる光路上にリレーレンズ15と結像レンズ16と対物レンズ17を配置し、対物レンズ17の焦点位置に試料18を置くように構成する。そして、観察用励起光22や刺激光23を照射し、試料18より発した光を検出する為の検出光学系3として、第1走査光学系1の光路上にあるコリメータ12とガルバノミラー14aの間にダイクロイックミラー13bを配置し、試料からの光がダイクロイックミラー13bで反射される光路上に結像レンズ16や焦点面以外からの光をカットするピンホール20を配置して光電子増倍管などの光電変換素子21で試料からの光学情報を計測できるように構成する。
【0005】
上記の構成により、観察励起光22のためのガルバノミラー14aと刺激光23のためのガルバノミラー14bは独立して配置されるために、観察と刺激は同時かつ独立に実行できる。
ここで、図7を参照して、試料18に照射された観察用励起光22と刺激光23において、第1の走査光学系1の2つのガルバノミラー14aを動作させて試料上で観察用励起光22を二次元走査し、さらに、同時に第2の走査光学系2の2つのガルバノミラー14bを動作させて試料上で刺激光23を二次元走査する従来の試料走査方法を以下に述べる。
【0006】
本明細書では、例えば図7のように試料18を配置したとして、図中における横軸方向をx座標とし、縦軸方向をy座標として、光の走査している位置を区画(ピクセル)で(x,y)=(1,1)、(x,y)=(1,2)、…、(x,y)=(20,10)、…などと表記することにする。
【0007】
尚、本明細書では、試料18内の部分Xを、刺激光23によって調べようとする試料部分、すなわち刺激光によって反応を示す試料部分として述べてゆく。
図7に示される例に描かれる試料18において観察用励起光22を試料18に照射して試料全体を走査する場合では、まず、第1の走査光学系1のx座標方向に動く片方のガルバノミラー14aを動作させて、(x,y)=(1,1)から(x,y)=(20,1)まで走査することを行う。次に、(x,y)=(20,1)まで観察用励起光22が到達すると、第1走査光学系1のy座標方向に動く他方のガルバノミラー14aを動作させて(x,y)=(20,2)に観察用励起光22を走査し、ここでまた、x座標方向に動くガルバノミラー14aを動作させて、(x,y)=(20,2)から(x,y)=(1,2)まで走査する。そして、また第1走査光学系1のy座標方向に動くガルバノミラー14aを動作させて(x,y)=(1,3)に走査し、次々と図7における観察光の走査経過線22のように(x,y)=(1,10)まで観察光の走査を行う。
【0008】
同様に、第2走査光学系2の刺激光23においても、第1走査光学系1と同じようにx座標方向に動くガルバノミラー14bとy座標方向に動く14bガルバノミラーを用いて刺激光23の走査を行っていた。ただし、例えば刺激光23を用いて調べたい試料部分Xが、図7の(x,y)=(8,4)と(8,8)と(14,8)と(14,4)に囲まれる範囲内にあるときは、その範囲の部分のみを刺激光の走査経過線23のように刺激光の走査を行う。
【0009】
上記の観察用励起光22と刺激光23の走査を同時に行うことにより試料から発した蛍光は、試料に観察用励起光22と刺激光23が照射されるまでの光路を逆行し、ダイクロイックミラー13aを通過し、第一の走査光学系の2つのガルバノミラー14aを介してダイクロイックミラー13bで試料からの蛍光のみが波長選択的に反射され、検出光学系3の光路に向かう。そして、第一の走査光学系のダイクロイックミラー13bで反射された試料からの光は、検出光学系3の結像レンズ16で集束され、ピンホール20を通り抜けて光電変換素子21で試料における光学情報が取り込まれることで試料の光学情報が記録される。この光電変換素子21に記録された光学情報を元に情報処理装置によって画像が作成され、試料の反応を画像として随時知ることができる。
以上が、従来の主にガルバノミラーを用いた共焦点レーザー走査型顕微鏡の走査方法である。
【0010】
次に図8Aおよび図8Bを参照して、図6で示される従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡におけるピンホール20の役割を簡単に説明する。このピンホール20は、試料の3次元情報、すなわち図7で示される試料18の深さ方向の情報を知る役割を果たす為に重要である。
【0011】
図8Aおよび図8Bでは、上述した従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡の簡易的な構成として、観察光11、ダイクロイックミラー13、対物レンズ17、試料18、ピンホール20、光電変換素子21のみを示した。本例では、試料18の深さLにある光学情報だけを得たいとし、ピンホール20をあらかじめ試料18の深さLに対応する対物レンズの焦点位置で調節しているものとする。
【0012】
以下では、図8Aと図8Bにおいて光電変換素子21に記録されるまでの観察用励起光の経過について述べる。
まず、図8Aおよび図8Bの観察用励起光は、ダイクロイックミラー13bで反射され、対物レンズ17によって収斂光束に変換され、試料18のある深さLで集光する。観察用励起光によって励起された深さLの試料内蛍光物質から発した蛍光は、対物レンズ17で集められ、ダイクロイックミラー13bを通過しピンホール20に到達する。このとき、対物レンズ17の焦点とピンホール20を光学的に共役な位置に調節しておくと、焦点から発した蛍光はピンホールを通過することが出来て、光電変換素子21によって記録される。しかし、一方で、図8Bのように対物レンズ17の焦点面とは異なる深さMで試料から発した蛍光は、対物レンズ17で集められピンホール20に到達するが、ピンホール20によって遮断される。その理由は、深さMからの蛍光がピンホール面に達したときには非焦点像となってしまっているからである。
【0013】
以上のようにピンホールを用いることで、共焦点顕微鏡では焦点面のみの光学情報を光電変換素子で記録するようにできる。したがって、試料に対する対物レンズ17の焦点面の位置を調節することで深さ方向の情報を得ることができ、観察光の2次元走査で得られる2次元の光学情報と組み合わせることで試料18の3次元情報を得ることができる。
【0014】
しかしながら、以上に述べた図6のような従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡では、試料面上の1区画に集光された観察用励起光22または刺激光23を試料全体や特定の範囲にわたって走査させる必要があった為に、観察用励起光と刺激光の両方の走査を終えて1つの画像を得る為に比較的長い時間を要すると言う技術的課題があった。この為、実時間程度の速さで画像を得る事が困難であり、生物の細胞等の試料において反応速度の速い生体反応を知る為に著しい制限を与えていた。また、ニポウディスクを用いた共焦点顕微鏡では、試料面上の複数の区画に観察用励起光を集光して試料面上を走査するために、動画レベルの速度で試料の観察を行うことができるが、試料の任意の部分のみに刺激光を照射することができなかった。このような技術的課題から動画レベルの速度で試料を観察しつつ、試料の任意の部分のみに刺激光を照射することが可能な共焦点レーザー走査型顕微鏡が望まれていた。
【0015】
また、光学技術におけるマイクロミラーを用いたデバイスとして、一つのシリコン基盤上に電気回路を集積化したMEMSデバイス上に多数のマイクロミラーを平面に配列した表示素子の一つであるデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)が一般的に知られている。このDMDでは、基板上に複数のマイクロミラーを二次元に縦横に配置し、各マイクロミラー下方にある2つのアドレス電極に電圧を印加する事でクーロン力Fを生じさせ、マイクロミラーの傾斜角度を変化させ、入射光の反射を制御している。
【0016】
以下、本明細書では、入射光が試料を照射する方向に反射される光を「ON光」と呼ぶ事とし、一方で、試料を照射する方向以外の方向に反射する光を「OFF光」と呼ぶ事にする。
【特許文献1】特開平10―206742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡では、試料面上の1区画に集光された観察用励起光と刺激光の2つのレーザー光の両方を試料全体や特定の範囲にわたって走査する必要があった為に、観察光と刺激光の両方の走査を終えて1つの画像を得る為に比較的長い時間を要すると言う技術的課題があった。このため、実時間程度の速さでの画像を得る事が困難であり、生物の細胞等の試料における反応速度の速い生体反応を知る為に著しい制限を与えていた。
【0018】
また、従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡では、1つの光の2次元の走査を行う為に2つのガルバノミラーを必要としていた。そして、試料の3次元の光学情報を得る為にピンホールを必要としていた。
【0019】
本発明では、上記の問題に鑑み、共焦点レーザー走査型顕微鏡の観察光と刺激光による試料の高速走査を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の共焦点レーザー走査型顕微鏡の第一の態様としては、試料を観察する観察用励起光を走査する為の第1の走査光学系と、試料の一部分を光刺激する刺激光を走査する為の第2の走査光学系とを備える共焦点レーザー走査型顕微鏡において、観察用励起光および刺激光を同時多点に反射できるマイクロミラーデバイスを備えた構成とする。
【0021】
好ましくは、第1の走査光学系からの観察用励起光が、第1の走査光学系に対応するアナモフィックレンズによってマイクロミラーデバイス上に集光され、第2の走査光学系からの刺激光が、第2の走査光学系に対応するアナモフィックレンズによってマイクロミラーデバイス上に集光され、観察用励起光および刺激光の集光領域が、マイクロミラーデバイスの直線上に集光することが望ましい。
【0022】
また、観察用励起光と刺激光のマイクロミラーデバイス上での集光領域はマイクロミラーデバイスのミラー素子配列構造の部分列に一致することが好ましい。
さらに、マイクロミラーデバイスは、対物レンズの焦点面と光学的に共役な位置に配置され、観察用励起光と刺激光は、対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置された偏向素子によって走査されることが好ましい。
【0023】
そして、観察用励起光と刺激光のマイクロミラーデバイス上での集光領域は、偏向素子による走査方向と直交するように構成することが望ましい。
また、好ましくは、観察用励起光と刺激光をマイクロミラーデバイスを構成しているミラー素子ごとに切り替えるようにすると良い。
【0024】
さらに、好ましくは、第1の走査光学系にダイクロイックミラーを配置し、マイクロミラーデバイスと光学的に共役な位置にラインセンサを配置することによって蛍光を検出するとしてもよい。
【0025】
また、好適には、第1の走査光学系にダイクロイックミラーを配置し、リレーレンズによって作られる瞳位置に偏向素子を配置し、マイクロミラーデバイス上での観察用励起光の集光領域と直交する方向に走査することによって、2次元検出器に光を導くことが望ましい。
【0026】
次に、本発明では、複数の観察用励起光のスポットで試料面における複数の平行な直線上を同時に走査する共焦点レーザー走査型顕微鏡における光の走査方法を提供する。
さらに、本発明では、複数の観察用励起光のスポットと複数の刺激光のスポットで試料面における複数の平行な直線上を同時に走査する共焦点レーザー走査型顕微鏡における光の走査方法を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の共焦点レーザー走査型顕微鏡では、マイクロミラーデバイスを用いて観察光励起光と刺激光を同時並列に多点走査することができる為、従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡よりも高速に試料を走査することができる。この高速走査により、従来と同じ時間でより多く画像を得ることができる。このことにより、生物の細胞等の試料における反応速度のより速い生体反応を知ることが可能となった。
【0028】
また、従来においては、2つの光を二次元方向の走査をする為に2組の偏向素子(ガルバノミラー)を必要としていたが、マイクロミラーデバイスを備えることで、1組のマイクロミラーデバイスと偏向素子(ガルバノミラー)で2つの光を二次元方向に走査することができるようになった。
【0029】
さらに、本発明における共焦点レーザー走査型顕微鏡のマイクロミラーデバイスが、従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡に備えられていたピンホールの役割を兼ねることでピンホールを備える必要がなくなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明では、共焦点レーザー走査型顕微鏡の観察光と刺激光による試料の高速走査を目的とし、試料を観察する観察用励起光を走査する為の第1の走査光学系と、試料の一部分を光刺激する刺激光を走査する為の第2の走査光学系と観察用励起光および刺激光を同時多点に反射できるマイクロミラーデバイスを備えた共焦点レーザー走査型顕微鏡を提供する。
【0031】
以下では、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
[実施形態1]
以下では、本発明のマイクロミラーデバイスを備えた共焦点レーザー走査型顕微鏡の構成および原理を示す。
【0032】
図1Aの共焦点レーザー走査型顕微鏡100-Aにおいて、観察用の第1の走査光学系4は、観察用励起光116を発する観察光源101、アナモフィックレンズ102、ミラー104で構成され、一方で刺激用の第2の走査光学系5は、第1の走査光学系4と同様に、刺激光117を発する刺激光源112、アナモフィックレンズ102、ミラー104で構成される。また、第1の走査光学系4と第2の走査光学系5の観察光116および刺激光117がミラー104で反射され、観察用励起光116および刺激光117の両方の反射光が交差する位置にマイクロミラーデバイス105が配置される。また、このとき、2つのアナモフィックレンズ102の焦点位置にマイクロミラーデバイス105が配置されていると、観察用励起光116と刺激光117がそれぞれ集光され、それぞれの観察用励起光116と刺激光117の集光領域は、マイクロミラーデバイス105上におけるミラー素子上に直線状に集光される。なお、この時の観察用励起光116と刺激光117の集光方向は揃えて同一直線に集光させることが望ましい。また、上述の観察用励起光116と刺激光117の集光領域は、マイクロミラーデバイスのミラー素子配列構造の部分列に一致するようにしてもよい。なお、本実施形態で述べているアナモフィックレンズとはシリンドリカルレンズの一般形である。そして、観察用励起光116と刺激光117がマイクロミラーデバイスの各ミラー素子で反射されて観察用励起光116および刺激光117が重なる光路上に、2つのリレーレンズ106,108と偏向素子であるガルバノミラー107と結像レンズ109と対物レンズ110を順次配置し、対物レンズ110の焦点面に試料111を置くように構成する。また、本構成におけるマイクロミラーデバイス105は、対物レンズ110との焦点面が光学的に共役の位置関係となるように配置する。さらに、偏向素子であるガルバノミラー107は、対物レンズ110の瞳位置と光学的に共役な位置に配置されることが望ましい。そして、この偏向素子であるガルバノミラー107によって、観察用励起光116と刺激光117を同時平行な一方向に走査することができる。
【0033】
このとき、ガルバノミラー107の走査方向が、マイクロミラーデバイス上において集光している観察用励起光116と刺激光117の直線方向に対して略直交する方向になるように設計する。このようにすることで、観察用励起光116と刺激光117のマイクロミラーデバイス上での集光領域が、偏向素子のガルバノミラー107による走査方向と直交するようになる。したがって、本発明の実施に利用される走査方法をラインスキャンに近い方法とすることができる。
【0034】
そして、観察用励起光116を照射して試料より発した蛍光を検出する為の検出光学系6として、第1走査光学系4の光路上にあるアナモフィックレンズ102とミラー104の間にダイクイロックミラー103を配置し、試料からの光がダイクロイックミラー103で反射される光路上に結像レンズ光学系113を配置して、マイクロミラーデバイスと光学的に共役な位置に配置したラインセンサやエリアセンサなどの少なくとも1次元の受光を扱うことができる光電変換素子114で構成することで試料からの蛍光を検出できる。さらに、ラインセンサなどの光電変換素子114に記録された試料111からの光学情報を不図示の情報処理装置で処理することで画像に再構成できる。
【0035】
また、図1Bは、本発明における共焦点レーザー走査型顕微鏡の異なる実施形態を示している。図1Bにおける図1Aとの違いは、検出光学系6にラインセンサを用いず、リレーレンズなどの結像レンズ光学系113,114を介した後に、結像レンズ光学系113,114のリレーレンズの瞳位置に配置した偏向素子のガルバノミラー107を用いて、試料111からの光をマイクロミラーデバイス上における観察用励起光の直線集光領域と直交する方向にガルバノミラー107を走査し、その後に結像レンズ109で集光させて、CCDなどの2次元検出器115に試料111からの光を導き、試料111の光学情報を記録する構成としている点にある。以上の検出光学系6の構成を除いては、図1Aと同様である。
【0036】
次に、マイクロミラーデバイスおよび偏向素子であるガルバノミラーを用いて観察用励起光および刺激光で試料全体を走査する方法について以下に述べる。
図2は、マイクロミラーデバイスにおいてミラー素子を基板上に二次元に配置した模式図である。
【0037】
図2で示されているようにマイクロミラーデバイスは、複数のミラー素子50を基板52上に二次元的に縦横に配置したデバイスである。このデバイスは、一つのミラー素子50を構成している一つのマイクロミラー51を不図示の2つの電極で制御し、電極に電圧を印加した時に、マイクロミラー51と電極との間にクーロン力を作用させることで、後述の図3のようにマイクロミラー51のミラー面を傾かせることができる。このようにマイクロミラー51のミラー面の傾斜を制御することで、光の反射光路を制御することができる。この反射光路により、観察用励起光や刺激光をON光やOFF光に制御することができる。
【0038】
ここで本発明の共焦点レーザー走査型顕微鏡では、第1の走査光学系4からの観察用励起光116と第2の走査光学系5からの刺激光117が、上述したマイクロミラーデバイス105の鉛直方向に対して略対称方向からマイクロミラーデバイス105に照射される。このとき、マイクロミラーデバイス105は、アナモフィックレンズ102の焦点に配置されているので観察用励起光と刺激光は、マイクロミラーデバイス105上の直線上に結像される。そして、この直線方向の観察用励起光と刺激光の集光領域をマイクロミラーデバイス105のミラー素子配列方向と合わせる。このようにすることで、マイクロミラーデバイスにおけるミラー素子の一つ一つが、従来技術で示した試料を走査する際の縦方向の区画(ピクセル)の一つ一つに対応し、それぞれに対応する縦方向の区画に観察用励起光と刺激光が集光される。すなわち、マイクロミラーデバイスのミラー素子によって試料を走査する縦方向の区画を分割でき、その直線上にある各ミラー素子のミラーに観察用励起光と刺激光がそれぞれ集光される。
【0039】
図3は、図2に示されているマイクロミラーデバイスを視線方向Iから眺めた基板52とマイクロミラー51のみを簡易的に示し、マイクロミラー51に観察用励起光116と刺激光117が照射され、観察用励起光116と刺激光117が同時にON光として反射される様子を表している。以下に、図3において、観察用励起光116と刺激光117が同時にON光となる状態について述べる。図3では、交互にマイクロミラー51の傾斜が逆になるようにマイクロミラーデバイスのミラー素子を制御して、互いにマイクロミラーデバイス105の鉛直軸に対して対称となる方向から観察用励起光116と刺激光117が照射されるようにすることで、図3において右に傾斜しているミラー51では、観察用励起光116はON光とし、刺激光117はOFF光とすることができる。一方で、図3において左に傾斜しているミラー51では、逆に観察用励起光116はOFF光とし、刺激光117をON光とすることができる。このようにすることで、マイクロミラーデバイスにおける一つのミラー素子のマイクロミラー51の傾斜により観察用励起光116および刺激光117をON光やOFF光に制御することができる。したがって、マイクロミラーデバイスを構成しているミラー素子ごとに電極に電圧を印加してマイクロミラー51を傾かせ、マイクロミラー51の傾斜方向を選択することでそれぞれ独立した制御により観察用励起光116をON光としたり、刺激光117をON光としたり、観察用励起光116と刺激光117の両方をON光やOFF光とするような切り替えが可能である。
【0040】
ここで、本発明の一つの実施の形態としてマイクロミラーデバイスと偏向素子であるガルバノミラーを用いて観察用励起光116と刺激光117を同時多点に一次元走査することで試料111全体を高速に走査する走査方法を以下に述べる。
【0041】
図4Aでは、本発明の実施の形態として観察用励起光116のみを走査する一例を説明する。図4Aは試料111を配置した走査領域を破線で示した観察用励起光116で走査する様子を表している。本発明は、試料上における2次元の走査領域を偏向素子であるガルバノミラー107による走査方向(図4A中の横方向のピクセル)とマイクロミラーデバイス105の個々のミラー素子に対応して一つずつの区画(ピクセル)に分割された方向(図4A中の縦方向のピクセル)とを直交させ、それぞれ独立に走査する。つまり、本発明によれば縦方向のピクセルにおいては、マイクロミラーデバイスの各ミラー素子を制御する事により観察用励起光のON光やOFF光を選択して、それぞれの光をマイクロミラーデバイスの直線上に集光させることで同時多点走査が実現される。しかし、ここでは、後述するようなピンホール効果(図5)をもたらす為にマイクロミラーデバイス105を用いて分割した縦方向のピクセルにおいて、同時に直線上の全ての縦方向のピクセルに観察用励起光を集光することはしない方が好ましい。
【0042】
図4Aによる走査の例は、マイクロミラーデバイスで縦方向に分割した区画(ピクセル)において、3つ置きに観察用励起光を同時に多点走査する例である。この例では、マイクロミラーデバイス上の縦方向の直線上に3つ置きに集光された観察用励起光(x,y)=(1,1),(1,5),(1,9)を同時に照明し、その後は偏向素子であるガルバノミラーを用いてマイクロミラーデバイス上の横方向に観察用励起光を同時平行に走査をする。この例によれば、横方向の走査を2往復するだけで試料の全領域を走査することができる。なお、この往復における折り返しの時は、マイクロミラーデバイスのミラー素子のミラーの傾きを制御して、ON光とOFF光とを切り替える。
【0043】
したがって、マイクロミラーデバイス上の縦方向の区画に集光している複数の観察用励起光を偏向素子のガルバノミラーで試料面におけるマイクロミラーデバイス上の縦方向の区画に略直交している横方向を平行に走査することで観察用励起光の同時多点走査ができる。したがって、この同時多点走査により従来技術に記してある例よりも高速に試料を走査することができる。
【0044】
図4Bは、図4Aの別の実施形態として観察用励起光116と刺激光117の両方を同時多点走査する一例を説明する。この例では、領域Xに刺激光117を照射させ、かつ、試料全体にわたり観察用励起光116を走査する。
【0045】
図4Bによる走査の例は、縦方向のピクセルを1つおきにして観察用励起光116と刺激光117を交互に利用する。ここでの観察用励起光116と刺激光117は、前述のマイクロミラーデバイスのミラー素子のミラー面の傾きを制御することで選択できる。ただし、刺激光117は、領域Xだけを刺激したいので常に刺激光117を照射することはしない。図4Bでは、刺激光117が照射される部分を太線で表してある。
【0046】
図4Bにおける走査方法の例によっても、図4Aと同様な原理で横方向の走査を2往復するだけで試料の全領域を走査できる。この往復における折り返しの時は、マイクロミラーデバイスのミラー素子のミラーの傾きを制御することで観察用励起光や刺激光やOFF光を適宜切り替える操作が行われる。したがって、マイクロミラーデバイス上で反射して、複数の観察用励起光を縦方向の区画に同時多点に照射しているスポットおよび複数の刺激光を縦方向の区画に同時多点に照射しているスポットの両方で試料面における平行直線上を偏向素子のガルバノミラーで横方向に同時多点に走査することができる。
【0047】
以上より、本発明の実施によれば、観察用励起光と刺激光を試料にむけて同時多点に照射しながら観察できることによって、従来よりも試料からの光学情報を早く取得できる。そのことにより、例えば、生物の細胞等の試料における反応速度のより速い生体反応情報を知ることが可能となる。
【0048】
なお、本実施形態においてマイクロミラーを1つずつ交互に観察用励起光116や刺激光117を近接させて照射しないのは、マイクロミラーデバイスを用いることでピンホール効果をもたせることを目的としている為である。なお、この時、どれ位近接させて照射することが可能であるかは、光学系のマイクロミラーデバイス上における観察用励起光や刺激光のスポット径やマイクロミラーデバイスのミラー素子の大きさに依存する。
【0049】
以下では、図5を参照して、マイクロミラーデバイスがピンホールの役割を果たす原理を説明する。図5は、図2のマイクロミラーデバイスを視線方向IIからみたマイクロミラーの様子を例示している。図5では例として、各マイクロミラーで観察用励起光116と刺激光117をマイクロミラーデバイスのミラー素子を一つおきに交互にON光として反射しているとする。ここで、円領域Zは、観察用励起光116の照射領域(スポット)を表す。ここでは、観察用励起光や刺激光がON状態になっている一つのミラー素子を一つのピンホールとみなすことによって、ON状態となっているマイクロミラー部分のみをON光として反射でき、スポットが重なることが無いために本実施形態のマイクロミラーデバイスにピンホール効果を持たせることができる。このピンホール効果をもたらす為には、近接したミラー素子はON状態にしてはいけない。また、ここでピンホールとみなすためのミラー素子は、1つのミラー素子とは限らない。つまり、一つのスポットの対応する4つのミラー素子でピンホール効果をもたらすとしてもよい。なお、2次元に配列されたマイクロミラーデバイスのミラー素子のいくつかをスポット径にあわせて適宜ON状態にすることが望ましい。
【0050】
以上、実施形態1においてマイクロミラーデバイスを備えることで多点に観察光と刺激光を走査できる共焦点レーザー走査型顕微鏡を記載した。本発明は、特定の実施形態としての参考例を記載してきたが、様々な修正および変化を発明の範囲や概念の域を超えることなく、これらの実施形態に対して施すことができるのは明らかである。したがって、本明細書および図は、限定的な意味では無く、具体例としてみなされるものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1A】本発明の一つの実施形態として、マイクロミラーデバイスを備えた共焦点レーザー走査型顕微鏡の構成を示している図である。
【図1B】図1Aにおける共焦点レーザー走査型顕微鏡の検出光学系を異ならせた別の実施形態の図である。
【図2】マイクロミラーデバイスのミラー素子を基板上に二次元に配置した模式図である。
【図3】マイクロミラーデバイスのマイクロミラーの傾斜を制御する事で観察光および刺激光をON光として同時に試料にむけて反射できる様子を例示している図である。
【図4A】本発明の一つの実施形態として、マイクロミラーデバイスにおける各ミラー素子に観察光をON光とし、一つのガルバノミラーを用いて試料全体を観察光で同時に多点走査する走査方法を示している図である。
【図4B】図4Aの別の実施形態として、マイクロミラーデバイスにおける各ミラー素子において交互に観察光と刺激光をON光とし、一つのガルバノミラーを用いて試料全体を観察光および刺激光で同時に多点走査する走査方法を示している図である。
【図5】本発明の一つの実施形態として、図2のマイクロミラーデバイスを視線方向IIから眺めた図であり、マイクロミラーデバイスのマイクロミラーにおける観察光と刺激光の配置がピンホールの役割を兼ねることを示している図である。
【図6】従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡の構成を示している模式図である。
【図7】従来の共焦点レーザー走査型顕微鏡における観察光と刺激光の走査方法を示している図である。
【図8A】観察光を照射した時に、試料の深さLの光学情報を光電変換素子に記憶できるピンホールの効果を示した図である。
【図8B】図8Aにおける試料の深さL以外からの光学情報として、試料の深さMの大部分の光学情報がピンホールの効果によって光電変換素子に記憶されないことを例示している図である。
【符号の説明】
【0052】
10,100―A,100−B・・・共焦点レーザー走査型顕微鏡
1,4・・・観察用の第1の走査光学系
2,5・・・刺激用の第2の走査光学系
3,6・・・検出光学系
11,101・・・観察光源
12・・・コリメータ
13a,13b,103・・・ダイクロイックミラー
14a,14b,107・・・ガルバノミラー
15,106,108・・・リレーレンズ
16,109・・・結像レンズ
17,110・・・対物レンズ
18,111・・・試料
19,112・・・刺激光源
20・・・ピンホール
21,115・・・光電変換素子
22,116・・・観察用励起光
23,117・・・刺激光
102,114・・・アナモフィックレンズ
104・・・ミラー
105・・・マイクロミラーデバイス
113・・・結像光学系
114・・・ラインセンサ
50・・・ミラー素子
51・・・マイクロミラー
52・・・基板
81・・・観察用励起光が照射されている1つのミラー部分
I,II・・・視線方向
L,M・・・試料内の深さ
X・・・刺激光によって反応を示す試料の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を観察する観察用励起光を走査する為の第1の走査光学系と、
前記試料の一部分を光刺激する刺激光を走査する為の第2の走査光学系とを備える共焦点レーザー走査型顕微鏡において、
前記観察用励起光および前記刺激光を同時多点に反射できるマイクロミラーデバイスを備えることを特徴とする共焦点レーザー走査型顕微鏡。
【請求項2】
前記第1の走査光学系からの前記観察用励起光は、前記第1の走査光学系に対応するアナモフィックレンズによって前記マイクロミラーデバイス上に集光され、
前記第2の走査光学系からの前記刺激光は、前記第2の走査光学系に対応するアナモフィックレンズによって前記マイクロミラーデバイス上に集光され、
前記観察用励起光および前記刺激光の集光領域が、前記マイクロミラーデバイスの直線上に集光することを特徴とする請求項1に記載の共焦点レーザー走査型顕微鏡。
【請求項3】
前記集光領域は前記マイクロミラーデバイスのミラー素子配列構造の部分列に一致することを特徴とする請求項2に記載の共焦点レーザー走査型顕微鏡。
【請求項4】
前記マイクロミラーデバイスは、対物レンズの焦点面と光学的に共役な位置に配置され、
前記観察用励起光と前記刺激光は、前記対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置に配置された偏向素子によって走査されることを特徴とする請求項2あるいは請求項3に記載の共焦点レーザー走査型顕微鏡。
【請求項5】
前記観察用励起光と前記刺激光の前記マイクロミラーデバイス上での前記集光領域は、前記偏向素子による走査方向と直交すること特徴とする請求項4に記載の共焦点レーザー走査型顕微鏡。
【請求項6】
前記観察用励起光と前記刺激光を前記マイクロミラーデバイスを構成しているミラー素子ごとに切り替えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の共焦点レーザー走査型顕微鏡。
【請求項7】
前記第1の走査光学系にダイクロイックミラーを配置し、前記マイクロミラーデバイスと光学的に共役な位置にラインセンサを配置することによって蛍光を検出することを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の共焦点レーザー走査型顕微鏡。
【請求項8】
前記第1の走査光学系にダイクロイックミラーを配置し、リレーレンズによって作られる瞳位置に偏向素子を配置し、前記マイクロミラーデバイス上での前記観察用励起光の集光領域と直交する方向に走査することによって、2次元検出器に光を導くことを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の共焦点レーザー走査型顕微鏡。
【請求項9】
共焦点レーザー走査型顕微鏡における光の走査方法であって、
複数の観察用励起光のスポットで試料面における複数の平行な直線上を同時に走査することを特徴とする走査方法。
【請求項10】
共焦点レーザー走査型顕微鏡における光の走査方法であって、
複数の観察用励起光のスポットと複数の刺激光のスポットで試料面における複数の平行な直線上を同時に走査することを特徴とする走査方法。

【図2】
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【図6】
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【図1A】
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【図1B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2008−164841(P2008−164841A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353229(P2006−353229)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】