説明

共通DNA断片の検出方法

【課題】 ある生物集団に共通して存在し、別の生物集団には存在しない特異的DNA断片を簡易な手法によって取得する手段を提供する。
【解決手段】 ある生物集団に属する複数の個体及び別の生物集団に属する複数の個体のそれぞれから同一の手法でDNA断片の混合物を得る工程、前記ある生物集団に属する複数の個体から得られたDNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程を含むことを特徴とする特異的DNA断片の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある生物集団に共通して存在するDNA断片を検出する方法(共通DNA断片の検出方法)、ある生物集団に共通して存在し、別の生物集団には存在しない特異的DNA断片を検出する方法(特異的DNA断片の検出方法)、複数の生物集団に共通して存在するDNA断片を検出する方法(特定集団間共通DNA断片の検出方法)、特定環境中に存在する微生物のDNAの変化を検出する方法(微生物DNAの変化の検出方法)、及びある生物集団に属する個体の持つDNAの断片のハイブリダイゼーション方法(ハイブリダイゼーション方法)に関する。
【0002】
本発明の検出方法によって検出されるDNA断片は、種判別の鑑定や遺伝子組換え生物の鑑定などに有用である。種判別のDNA鑑定とは、生物集団によって異なる部分のDNAで生物集団を判別する手法である。例えば、マグロを例にとると、ミナミマグロとキハダマグロの種判別をDNA鑑定で行う場合、ミナミマグロだけに存在するDNAとキハダマグロだけに存在するDNAが既知の情報となっていることが前提でなければ鑑定はできない。DNA鑑定は、マグロに限らず、人を含む全ての動植物や微生物に関して行うことができ、法医学の分野では既に実用化されている。遺伝子組換え生物のDNA鑑定とは、天然に存在する生物の遺伝子に人工的に新たなDNAが導入された生物を鑑定するもので、DNAの違いにより天然の生物と判別する手法である。
【0003】
本発明の微生物DNAの変化の検出方法は、特定環境における微生物生態系の経時変化を解析するのに有用である。
【背景技術】
【0004】
種判別のDNA鑑定に用いる特定の生物集団だけに存在するDNAを求める手法は、以下の方法でおこなっている。
【0005】
従来は、まず、DNA塩基配列の解析による手法(例えば、非特許文献1参照。)で、例えば複数匹のミナミマグロのDNA塩基配列をそれぞれ個体ごとに読み取り、複数匹の塩基配列相互の相同性解析をおこない、複数匹すべてが同じ塩基配列である共通DNAと同じでない非共通DNAを求める。これにより、共通DNAはミナミマグロに共通するDNAで、非共通DNAはミナミマグロでも個体により異なる個体別のDNAであることがわかる。キハダマグロについても同様に複数匹のDNA塩基配列をそれぞれ個体ごとに読み取り、同様の相同性解析をおこない、共通DNAと非共通DNAを求める。さらに、ミナミマグロには存在するがキハダマグロには存在しない、またはキハダマグロには存在するがミナミマグロには存在しないようなそれぞれの種の特異的DNAを求めるには、ミナミマグロの共通DNAとキハダマグロの共通DNAを比較し、等しいDNAがこれらのマグロに共通のDNAで、異なるDNAがミナミマグロまたはキハダマグロの特異的DNAという方法で求めている。しかし、この方法では、かかる時間とコストが大きかった。
【0006】
そのため、最近では、予めDNA塩基配列の解析によって得た特異的DNAの塩基配列の情報に基づき、主としてpolymerase chain reaction - restriction fragment length polymorphism(PCR−RFLP(例えば、非特許文献2参照。))による種判別が行われている。例えば、ミナミマグロの特異的DNAは切断するがキハダマグロの特異的DNAは切断しない制限酵素を作用させたDNAを電気泳動し、特異的DNAが切断されたパターンが得られればミナミマグロ、切断されていないパターンが得られればキハダマグロと判別する方法である。この方法はDNA塩基配列の解析よりもはるかに工程が単純で少ないため短時間で安価に結果が得られ、しかも同時に複数の試料を解析することができ、効率が良い。しかしこの方法には、特異的DNAを切断できる制限酵素がなければ使用できないため利用範囲が限られること、DNAをPCRにより増幅する際に増幅酵素によるエラーが起きて制限酵素による切断部位の塩基配列が変わり、切断ができなくなるなど、正確な種判別ができなくなる場合があることなどの問題点がある。
【0007】
そこで新たに、制限酵素を用いない手法として、DNAマイクロアレイを用いた手法が使われ始めている。この手法は、ミナミマグロとキハダマグロの共通DNA、それぞれのマグロの特異的DNA、無関係なDNAを、マイクロアレイを用いて判別する手法である。この方法では、ミナミマグロから抽出したDNAを個体毎に一枚ずつのDNAマイクロアレイにハイブリダイズさせて、個体が持つDNAを求める。この実験を複数匹のマグロに対して繰り返し行い、その結果から、ミナミマグロとキハダマグロの共通DNA、それぞれのマグロの特異的DNA、区関係なDNAを求めている。しかしこの手法では、実験を個体毎に繰り返し行うため、非常に手間とコストがかかるという問題がある。
【0008】
また、この実験に市販のマイクロアレイを用いると、共通DNAを決定しようとしている生物種に存在するDNAが、アレイ上に固定されていない場合も多く、このようなときは、市販のマイクロアレイでは、目的とする共通DNAや特異的DNAを求めることができないという問題がある。さらに、DNAマイクロアレイとのハイブリダイゼーション作業を複数匹分繰り返しおこなうため、その都度、温度、溶液濃度などの実験条件を同一に設定することが非常に難しいなどの問題もある。
【0009】
【非特許文献1】Sambrook J & Russell DW Chapter12 DNA sequencing. Molecular Cloning : A laboratory manual. 3rd Ed. 2001; pp12.1-12.120.
【非特許文献2】Deng G R、”A sensitive non-radioactive PCR-RFLP analysis for detecting point mutations at 12th codon of oncogene c-Ha-ras in DNAs of gastric cancer.” Nucleic Acids Res. 1988 July 11; 16(13): 6231.
【特許文献1】特許公開2004−65242 「生体関連物質マイクロアレイ及びそれを用いた植物の品種判別法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来技術の問題に鑑みなされたものであり、ある生物集団に共通して存在するDNAを求めるために、マイクロアレイを用いる従来の手法が持つ3つの問題点、すなわち、繰り返し実験を行うためにかかる手間と費用、マイクロアレイ上に求めるDNAが固定されていないために結果が得られない危険性、および繰り返し実験毎の実験誤差の悪影響を解決し、従来より効率良く正確に、生物集団の共通DNAや特異的DNAを検出する手段を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するため、本発明は以下の(1)〜(31)を提供する。
(1)ある生物集団に共通して存在するDNA断片を検出する方法であって、前記生物集団に属する複数の個体からDNA断片の混合物を得る工程、DNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、DNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNA断片の量を計測する工程を含むことを特徴とする共通DNA断片の検出方法。
【0012】
(2)DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の組織を採取し、それらを同じ重量ずつ混合し、混合した組織からDNAを抽出した後断片化することによって得ることを特徴とする(1)に記載の共通DNA断片の検出方法。
(3)DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の細胞を採取し、それらを同じ細胞数ずつ混合し、混合した細胞からDNAを抽出した後断片化することによって得ることを特徴とする(1)に記載の共通DNA断片の検出方法。
(4)DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出し、抽出したDNAを同じ量ずつ混合し、混合したDNAを断片化することによって得ることを特徴とする(1)に記載の共通DNA断片の検出方法。
【0013】
(5)DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出して同一の手法で断片化し、断片化したDNAを同じ量ずつ混合することによって得ることを特徴とする(1)に記載の共通DNA断片の検出方法。
(6)DNA断片の鎖長が、10〜10,000ベースの範囲にあることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の共通DNA断片の検出方法。
(7)DNA断片の混合物が、標識されていることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の共通DNA断片の検出方法。
【0014】
(8)単離した個々のDNA断片が、標識されていることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の共通DNA断片の検出方法。
(9)DNA断片の混合物と単離した個々のDNA断片のハイブリダイゼーションにより形成された二重鎖DNA断片が特異的に標識されることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の共通DNA断片の検出方法。
【0015】
(10)ある生物集団に共通して存在し、別の生物集団には存在しない特異的DNA断片を検出する方法であって、前記ある生物集団に属する複数の個体及び前記別の生物集団に属する複数の個体のそれぞれから同一の手法でDNA断片の混合物を得る工程、前記ある生物集団に属する複数の個体から得られたDNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程を含むことを特徴とする特異的DNA断片の検出方法。
【0016】
(11)DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の組織を採取し、それらを同じ重量ずつ混合し、混合した組織からDNAを抽出した後断片化することによって得ることを特徴とする(10)に記載の特異的DNA断片の検出方法。
(12)DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の細胞を採取し、それらを同じ細胞数ずつ混合し、混合した細胞からDNAを抽出した後断片化することによって得ることを特徴とする(10)に記載の特異的DNA断片の検出方法。
(13)DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出し、抽出したDNAを同じ量ずつ混合し、混合したDNAを断片化することによって得ることを特徴とする(10)に記載の特異的DNA断片の検出方法。
【0017】
(14)DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出して同一の手法で断片化し、断片化したDNAを同じ量ずつ混合することによって得ることを特徴とする(10)に記載の特異的DNA断片の検出方法。
(15)DNA断片の鎖長が、10〜10,000ベースの範囲にあることを特徴とする(10)乃至(14)のいずれかに記載の特異的DNA断片の検出方法。
(16)DNA断片の混合物が、標識されていることを特徴とする(10)乃至(15)のいずれかに記載の特異的DNA断片の検出方法。
【0018】
(17)単離した個々のDNA断片が、標識されていることを特徴とする(10)乃至(15)のいずれかに記載の特異的DNA断片の検出方法。
(18)DNA断片の混合物と単離した個々のDNA断片のハイブリダイゼーションにより形成された二重鎖DNA断片が特異的に標識されることを特徴とする(10)乃至(15)のいずれかに記載の特異的DNA断片の検出方法。
【0019】
(19)複数の特定の生物集団に共通して存在する特定集団間共通DNA断片を検出する方法であって、前記ある生物集団に属する複数の個体及び前記別の生物集団に属する複数の個体のそれぞれから同一の手法でDNA断片の混合物を得る工程、前記ある生物集団に属する複数の個体から得られたDNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物と前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物を混合し、これを単離した個々のDNA断片とハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程を含むことを特徴とする特定集団間共通DNA断片の検出方法。
【0020】
(20)(1)乃至(19)のいずれかに記載の検出方法によって得られたDNA断片を用いてDNA鑑定を行うことを特徴とするDNA鑑定方法。
【0021】
(21)特定環境中に存在する微生物のDNAの変化を検出する方法であって、ある時点において前記特定環境の一定体積に含まれる微生物群を採取し、その微生物群からDNAを抽出した後、断片化し、第一時点のDNA断片混合物を調製する工程、第一時点の微生物群採取後に、第一時点とは異なる時点で前記特定環境の同一体積に含まれる第二時点の微生物群を採取し、その微生物群からDNAを抽出した後、第一時点のDNA断片混合物と同一の手法で断片化し、第二時点のDNA断片混合物を調製する工程、第一時点のDNA断片混合物とその混合物中に含まれる個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、第二時点のDNA断片混合物と第一時点のDNA断片混合物中に含まれる個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程、第一時点のDNA断片混合物中に含まれる個々のDNA断片について、第一時点のDNA断片混合物とハイブリダイズさせた場合と第二時点のDNA断片混合物とハイブリダイズさせた場合の結合したDNAの量を比較する工程を含むことを特徴とする微生物DNAの変化の検出方法。
【0022】
(22)DNA断片の鎖長が、10〜10,000ベースの範囲にあることを特徴とする(21)に記載の微生物DNAの変化の検出方法。
(23)第一時点のDNA断片の混合物及び第二時点のDNA断片の混合物が、標識されていることを特徴とする(21)又は(22)に記載の微生物DNAの変化の検出方法。
(24)第一時点のDNA断片の混合物中に含まれる個々のDNA断片が、標識されていることを特徴とする(21)又は(22)に記載の微生物DNAの変化の検出方法。
【0023】
(25)ある生物集団に属する個体の持つDNAの断片と、プローブDNAとをハイブリダイゼーションさせる方法であって、前記生物集団に属する複数の個体のそれぞれが持つDNAの断片の混合物を調製し、これとプローブDNAとをハイブリダイゼーションさせることを特徴とするハイブリダイゼーション方法。
(26)DNAの断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の組織を採取し、それらを同じ重量ずつ混合し、混合した組織からDNAを抽出した後断片化することによって調製すことを特徴とする(25)に記載のハイブリダイゼーション方法。
【0024】
(27)DNAの断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の細胞を採取し、それらを同じ細胞数ずつ混合し、混合した細胞からDNAを抽出した後断片化することによって調製することを特徴とする(25)に記載のハイブリダイゼーション方法。
(28)DNAの断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出し、抽出したDNAを同じ量ずつ混合し、混合したDNAを断片化することによって調製することを特徴とする(25)に記載のハイブリダイゼーション方法。
(29)DNAの断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出して同一の手法で断片化し、断片化したDNAを同じ量ずつ混合することによって調製することを特徴とする(25)に記載のハイブリダイゼーション方法。
【0025】
(30)複数の生物の混合物に含まれる生物を同定する方法であって、混合物からDNA断片を調製する工程、前記調製したDNA断片と、混合物に含まれる可能性のある生物ごとの特異的DNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNA断片を検出する工程を含むことを特徴とする、混合物に含まれる生物の同定方法。
(31)複数の生物の混合物が、板ノリ又は配合飼料である(30)に記載の混合物に含まれる生物の同定方法。
【0026】
本発明の基本的な考え方は以下の通りである。
まず、塩基配列の分かっていない魚種Aと魚種Bとの種判別をおこなうために必要なそれぞれの魚種の特異的DNAを求める手段について、図1を用いて本発明の基本的な考え方を説明する。
【0027】
魚種Aの個体a1の全DNA2は、(a)のように、個体により異なる個体a1の非共通DNA3と、魚種Aの他の個体にも共通して存在する共通DNA4とに区別できる。同様に、魚種Aの別の個体b5の全DNA6も、個体b2の非共通DNA7と魚種Aの共通DNA4とに区別できる。これらの個体のDNAをあわせて考えると、(b)のように、二つの個体の両方に共通する共通DNA4と、個体ごとに異なる個体a1の非共通DNA3と個体b2の非共通DNA7に区別することができる。このような図を魚種Aの多数の個体の全DNAについて重ねていくと、(c)に示すように、魚種Aの全DNA8は、魚種Aであれば共通に持っている魚種Aの共通DNA4と、魚種Aの中でも個体によって異なる魚種Aにおける非共通DNAの集合9の2つの部分に区別することができる。
【0028】
魚種Bについても同様に、個体c10の全DNA11は、(d)のように、個体により異なる個体c10の非共通DNA12と、他の個体にも共通して存在する魚種Bの共通DNA13とに区別することができ、魚種Bの別の個体d14の全DNA15も、個体d14の非共通DNA16と魚種Bの共通DNA13とに区別することができる。これらの個体のDNAをあわせて考えると、(e)のように、魚種Bの二つの個体の両方に共通な共通DNA13と、それ以外に、個体10の非共通DNA12と個体14の非共通DNA16が存在する。このような図を魚種Bの多数の個体の全DNAについて重ねていくと、(f)に示すように、魚種Bの全DNA17は、魚種Bであれば共通に持っている魚種Bの共通DNA13と、魚種Bの中でも個体によって異なる魚種Bにおける非共通DNAの集合18の2つの部分に区別することができる。
【0029】
次に、魚種Aの全DNA8と魚種Bの全DNA17とを比較する。(g)に示すように、魚種Aの全DNA8は、魚種Aの個体に共通して存在する魚種Aの共通DNA4と、個体ごとに異なる魚種Aにおける非共通DNAの集合9とに区別することができ、魚種Bの全DNA17は、魚種Bの個体に共通して存在する魚種Bの共通DNA13と、個体ごとに異なる魚種Bにおける非共通DNAの集合18とに区別することができる。それぞれの魚種が持つ共通DNAのうちでどちらの魚種にも共通に存在するDNAが、魚種Aと魚種Bとの特定種間共通DNA19であり、魚種Aの共通DNA4のうちで魚種Bには存在しないDNAが魚種Aの特異的DNA20であり、魚種Bの共通DNA13のうちで魚種Aには存在しないDNAが魚種Bの特異的DNA21である。
【0030】
このように、魚種Aおよび魚種BそれぞれのDNAを基準DNAにハイブリダイズさせ、ハイブリダイゼーションによる結合の結果得られるシグナルを整理すると、(h)のハイブリダイゼーションのシグナル表22のようになる。例えば、魚種Aの持つDNAを基準DNAとし、これを用いてDNAマイクロアレイを作成し、魚種AのDNAをハイブリダイズさせると、ハイブリダイゼーションのシグナル表22の該当欄に示すように、魚種Aと魚種Bとの特定種間共通DNA19および魚種Aの特異的DNA20はDNAマイクロアレイにハイブリダイズして結合し、オンのシグナルとなるが、魚種Aの中でも個体ごとにDNAが異なる魚種Aにおける非共通DNAの集合9については、ハイブリダイズさせたDNAがDNAマイクロアレイ上に固定された基準DNAとは異なるため、ハイブリダイズによる結合は起こらず、シグナルはオフとなる。同様に魚種Aの持つDNAを基準DNAとし、これを用いてDNAマイクロアレイを作成し、魚種BのDNAをこのDNAマイクロアレイにハイブリダイズさせると、ハイブリダイゼーションのシグナル表22の該当欄に示すように、魚種Aと魚種Bとの特定種間共通DNA19はDNAマイクロアレイにハイブリダイズして結合し、オンのシグナルとなるが、DNAマイクロアレイ上に固定された魚種Aの特異的DNA20および魚種Aにおける非共通DNAの集合9に属するDNAは、ハイブリダイズさせた魚種Bに同じDNAが存在しないため、ハイブリダイゼーションによる結合は起こらず、シグナルはオフとなる。逆に、魚種Bの持つDNAを基準DNAとし、これを用いてDNAマイクロアレイを作成し、魚種AのDNAをこのDNAマイクロアレイにハイブリダイズさせると、ハイブリダイゼーションのシグナル表22の該当欄に示すように、魚種Aと魚種Bとの特定種間共通DNA19はDNAマイクロアレイにハイブリダイズして結合し、オンのシグナルとなるが、DNAマイクロアレイ上に固定された魚種Bの特異的DNA21および魚種Bにおける非共通DNAの集合18に属するDNAは、ハイブリダイズさせた魚種Aに同じDNAが存在しないため、ハイブリダイゼーションによる結合は起こらず、シグナルはオフとなる。同様に魚種Bの持つDNAを基準DNAとし、魚種BのDNAをこのDNAマイクロアレイにハイブリダイズさせると、ハイブリダイゼーションのシグナル表22の該当欄に示すように、魚種Aと魚種Bとの特定種間共通DNA19および魚種Bの特異的DNA21はDNAマイクロアレイにハイブリダイズして結合し、オンのシグナルとなるが、魚種Bの中でも個体ごとにDNAが異なる魚種Bにおける非共通DNAの集合18については、ハイブリダイズさせたDNAがDNAマイクロアレイ上に固定された基準DNAとは異なるため、ハイブリダイズによる結合は起こらず、シグナルはオフとなる。
【0031】
このように、基準DNAとする特定の生物集団の特異的DNAを求め、それに対して鑑定するDNAがハイブリダイズして結合するか否かをみることによって、鑑定するDNAが基準DNAと同種であるか否かを鑑定することができる。
以上の方法では、魚種AのDNAからマイクロアレイを作製しているが、このような特定のDNAから作製したマイクロアレイではなく、市販のマイクロアレイを用いても、特異的DNAを求めることは可能である。以下に、魚種Cの共通DNAを求める具体的な手法を例にとり、現行の手法と本発明の手法とを比較して、本発明の手法の利点を説明する。
【0032】
まず、図11の<I>に従って、現行の手法を説明する。魚種Cの個体を複数集めるが、実験は1個体毎に行う。最初に、魚種Cの個体a82の実験について述べる。個体a82から採取した組織84を容器83に取って個体aのDNA85を抽出し切断して、個体aのDNA断片混合物86を得る。これを蛍光色素等で標識し、市販のマイクロアレイにかけてハイブリダイゼーションを行い、個体aのマイクロアレイの実験結果87を得る。この一連の実験を、同じ魚種Cの他の個体、b、c、dについてもそれぞれ同様に個体の数だけ繰り返し、個体毎のマイクロアレイの実験結果を得る。その後、魚種Cのaからdまでの結果をまとめるため、それらのマイクロアレイの実験結果の積算88を行い、魚種C全体の結果89を得る。この中から魚種Cの共通DNAを特定するため、使用した魚種Cのすべての個体由来のDNA断片がハイブリダイズして、強い蛍光強度を示したマイクロアレイのスポットのDNAを選定する。その後、以上の一連の作業を魚種Cとの判別が必要な魚種Dについても行い、検出されたそれぞれの共通DNA同士を比較して、共通するものを魚種Cと魚種Dとの種間共通DNA、魚種Cの特異的DNA,魚種Dの特異的DNAを求めている。
【0033】
このため、現行の手法では、分析する個体の数だけ実験を繰り返し行い、最後にそれぞれのハイブリダイゼーションの実験結果を集積して魚種Cおよび魚種Dそれぞれの共通DNAを求めるため、費用も労力も個体数分必要となる。
【0034】
これに対し、図11の<II>に示した本発明の手法では、同じ魚種Cの共通DNAを求めるために、複数匹の魚種CをまとめてDNA抽出を行い、そのDNAと市販のマイクロアレイとでハイブリダイズすることで、1回の実験で結果を得ることができることを特徴としている。まず、魚種C用の共通容器91に、魚種Cの集団90の各個体a、b、c、dから等量ずつ採取した魚種Cの同一部分の組織をこの段階でまとめて入れて、魚種Cの組織の混合物92を作る。ここから先は、混合物を一つの検体として扱い、魚種Cの組織の混合物92から魚種CのDNA混合物93を抽出し、これを切断して、魚種CのDNA断片混合物94を得る。これを蛍光色素等で標識し、市販のマイクロアレイ1枚にかけてハイブリダイゼーションを行い、魚種Cの全体の結果89を得る。この中から魚種Cの共通DNAを特定するため、強い蛍光強度を示したマイクロアレイのスポットのDNAを選定する。本発明の手法では、この結果がそのまま、魚種Cの共通DNAであるといえる。
【0035】
本発明によれば、上記の方法を1匹ごとにおこなうのではなく、複数匹を集団処理することで効率よく区別することができる。集団処理とは、例えばミナミマグロを複数匹、ここでは100匹と仮定するが、この100匹の切り身を擂り潰してミックスしDNAを抽出することでミナミマグロ100匹のDNA混合物ができ、そのDNAを制限酵素で切断し、半分を基準DNAとしてマイクロアレイ化し、残りの半分とハイブリダイズさせ、全数が結合したDNAの部位はミナミマグロが共通に持つ共通DNAであり、一部だけしか結合しなかったDNAの部位は個体別の非共通DNAと区別することができる。これと同様に、例えばキハダマグロを複数匹、ここでは100匹と仮定するが、この100匹のキハダマグロの切り身を擂り潰してミックスし抽出したDNA混合物を、ミナミマグロのDNAの切断に用いたものと同一の制限酵素で切断する。こうすることで、ミナミマグロとキハダマグロの両方に存在する共通DNAは、ミナミマグロでもキハダマグロでも同一サイズで切断できる。このキハダマグロのDNA断片混合物を、ミナミマグロのDNA断片混合物中に含まれる個々のDNA断片を固定したマイクロアレイとハイブリダイズさせる。この結果、キハダマグロの全数が結合したDNAはミナミマグロとキハダマグロに共通なこれらのマグロの共通DNAであり、結合しなかったDNAはキハダマグロと比較したミナミマグロの特異的DNAとして区別することができる。ミナミマグロとキハダマグロとを入れ替えて同様の実験をおこなえば、ミナミマグロと比較したキハダマグロの特異的DNAを区別することができる。このようにして得られた情報を用いて、ミナミマグロとキハダマグロの種判別のDNA鑑定をおこなうシステムを構築できる。この方法はまた、ヒトを含む動植物、細菌、ウイルス等様々な生物の種判別のDNA鑑定を行うシステムも構築できる。また、この複数匹を集団処理するという考え方を応用することにより、板ノリや配合飼料のような複数生物の混合物に含まれる生物のそれぞれを同定することもできる。さらに、特異的DNA断片ごとの量を求めることで、生物の配合の割合を求めることもできる。DNA断片量の求め方は、一般的に用いられているDNAマイクロアレイにおける蛍光強度や、リアルタイムPCRなどで求めることが可能である。また、本発明によって求められた非共通DNAの情報を用いて、ヒトを含む動植物、細菌、ウイルス等様々な生物集団の個体のDNA鑑定を行うシステムも構築できる。また、本発明によれば、個体の数や切り身の大きさを必要に応じて変えて採取することで、PCRなどでDNAを増幅することなく、解析に十分な量のDNAを抽出できるため、DNAを増幅しておこなう場合より正確な種判別を行うことができ、また増幅にかかる時間や費用を削減することができる。
【発明の効果】
【0036】
従来の方法に従って、共通DNA断片、特異的DNA断片、特定集団間共通DNA断片、微生物DNAの変化を検出する場合、個体ごとの解析や塩基配列の解析が必要になる。個体ごとの解析や塩基配列の解析は、手間と費用がかかり、特に個体ごとの解析は、一回ごとの実験条件のばらつき及びそれに由来する実験結果の誤差が個体数分蓄積された結果を解析することになり、実験結果の信頼性が低くなる危険性がある。本発明の検出方法では、このような面倒な解析を行うことなく、効率的に共通DNA断片、特異的DNA断片、特定集団間共通DNA断片、微生物DNAの変化を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)共通DNA断片の検出方法
本発明の共通DNA断片の検出方法は、ある生物集団に共通して存在するDNA断片を検出する方法であって、前記生物集団に属する複数の個体からDNA断片の混合物を得る工程、DNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、DNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNA断片の量を計測する工程を含むことを特徴とするとするものである。
【0038】
本発明における生物集団とは、通常は、同一の分類学上の単位(例えば、目、科、属、種など)に属する集団を意味するが、分類学上の単位とは無関係な集団をも含む。また、生物集団は、二種類以上の分類学上の単位等を含んでいてもよい。
【0039】
DNA断片の混合物は、各個体から採取した組織、細胞等を混合し、それからDNAを抽出し、その後、DNAを断片化することにより得られる。また、各個体から採取した組織、細胞等のそれぞれからDNAを抽出し、それらを混合し、その後、DNAを断片化してもよい。更に、各個体由来のDNAのそれぞれを同一の手法で断片化し、断片化した後に混合してもよい。このように各個体から採取した組織等を混合してDNA断片を調製することにより、以下のような利点がある。現行の検出方法では個体ごとに実験を行っているため、それぞれの個体から採取できる組織や細胞などの原材料の量が限られ、非常に少量の原材料から抽出したDNAをPCR法などを用いて人工的に増幅をおこなったものを検出に用いている。しかし本発明では、複数の個体を混合して検出に必要なDNA混合物を調製できるため、それぞれの個体から採取する量を少なくしても、人工的な増幅をおこなわずに検出できるだけのDNA量を確保することができる。また、共通DNA断片を求めるためには全ての部位のDNAを同じ効率で増幅することが必要であるが、これは非常に難しく、通常は部位により増幅効率に差が生じるため、検出精度が低くなる危険性がある。さらに、人工的な増幅に用いるDNAポリメラーゼが一定の確率で間違いを犯し変異塩基を導入する危険性があり、このことも、検出精度を低下させる。本発明によれば、これらの精度低下を招く要因を作ることなく検出を行うことができる。もちろん、個体から採取できる組織や細胞の量に上限があり、混合してもDNAの量が不十分で増幅せずには検査が行えない場合には、可能な限りエラー率の低いDNAポリメラーゼにより増幅したDNAを用いて検出をおこなうこともできる。
【0040】
各個体から採取した組織等の混合にあたっては、各個体由来のDNA量が等しくなるように混合する必要がある。DNA量が等しくなるような混合方法は、生物の種類等に応じて適切な方法を選択すればよい。例えば、各個体が分類学的に近似した生物(例えば、同一の属、種等に属する生物)である場合、各個体から同様の組織を採取し、それらを同じ重量ずつ混合すればよく、また、同様の細胞を採取し、細胞数が同じになるように混合してもよい。各個体が分類学的に近似した生物でない場合、同様の組織や細胞を採取することが困難なので、各個体からDNAを採取し、そのDNAを等量ずつ混合すればよい。
【0041】
DNAを断片化する手法は、厳密な再現性のある手法であればよく、代表的な手法は、制限酵素による切断である。制限酵素は、一種類でも複数種類を併用しても構わないが、DNA鎖長はハイブリダイゼーションの状態に大きな影響を与えるため、DNAごとのハイブリダイゼーションの条件をできるだけ均一にして、条件を厳しく定め、より正確な検出結果を得るために、切断して生じる大部分のフラグメントができるだけ類似した鎖長になるような制限酵素の使い方をすることが望ましい。長い領域に渡るおおまかな共通DNA断片を求めたい場合には、ゲノムにおける認識配列の存在頻度が高くない制限酵素を使用し、切断して生じる大部分のフラグメントの鎖長が10〜10,000ベースの間、より好ましくは10〜1,000ベースの間、さらにより好ましくは10〜100ベースの間になるような切断をおこなうことが望ましい。一方、数塩基以下の微細な違いを排除して非常に厳密な形で共通DNA断片を求めたい場合には、切断して生じる大部分のフラグメントの鎖長10〜30ベースの間になるような制限酵素を1種類または複数種類の組合せで用いることが望ましい。
【0042】
DNAの抽出は、後で制限酵素で切断した際にDNAが細断されすぎて制限酵素による切断の結果が正しく得られなかったり、抽出後の標識やハイブリダイゼーションの反応を阻害するような物質が残存していたりするような方法でなければ、どのような方法でも構わない。
DNA断片の混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する方法は特に限定されず、例えば、混合物中に含まれるDNA断片をベクターにクローニングしてライブラリーを作製し、それから個々のDNA断片をそれぞれ独立して増やせば、個々のDNA断片を得ることができる。
【0043】
DNA断片の混合物と単離した個々のDNA断片とのハイブリダイゼーションはどのような方法で行ってもよいが、個々のDNA断片をDNAマイクロアレイ上に固定して両者をハイブリダイズさせることが好ましい。
【0044】
ハイブリダイズして結合したDNA断片の量は、DNA断片を標識しておくことにより、計測できる。標識は、DNA断片の混合物と個々のDNA断片のどちらに付加してもよいし、ハイブリダイゼーションの前に付加しても後に付加してもよい。DNA断片の混合物と個々のDNA断片のハイブリダイゼーションにより形成された二重鎖に特異的に結合する標識でも構わない。また、DNA断片に直接的に付加しても間接的に付加してもよいし、ハプテンや低分子化合物などのタグをDNA断片に付加しておき、それらに対する抗体や強い結合力を持つ分子に結合した酵素とその基質となる呈色材などを含むシステムを用いてもよい。標識としては、色素・蛍光色素・放射性同位元素・導電体またはそれらの前駆体、ハイブリダイゼーション後に酵素などを結合させて呈色反応をおこなわせるための前述のタグなど、標識により検出できるシグナル量が個々のDNA断片とDNA断片混合物との結合量を正確に反映できるようなシステムであれば、どのようなものでも構わないが、DNA断片の末端ごとに標識やタグを定量ずつ付加する方法であれば、DNA断片の数と標識の数の対応がつけやすい。
【0045】
ハイブリダイズして結合したDNA断片の量を計測した後、個々のDNA断片から結合したDNAの量が相対的に多いDNA断片のグループを選択する。上述したように、DNA断片混合物中の各個体由来のDNA量は等しいので、ハイブリダイズして結合したDNA断片の量は、ハイブリダイズ対象となる個々のDNA断片を持っていた個体の数に応じて多くなる。従って、結合したDNAの量が相対的に多いグループに属するDNA断片は、その生物集団に共通して存在するDNA断片(共通DNA断片)である可能性が高く、特に結合したDNAの量が最大値を示したDNA断片はその可能性がより高い。
【0046】
(B)特異的DNA断片の検出方法
本発明の特異的DNA断片の検出方法は、ある生物集団に共通して存在し、別の生物集団には存在しない特異的DNA断片を検出する方法であって、前記ある生物集団に属する複数の個体及び前記別の生物集団に属する複数の個体のそれぞれから同一の手法でDNA断片の混合物を得る工程、前記ある生物集団に属する複数の個体から得られたDNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程を含むことを特徴とするものである。
【0047】
本発明の特異的DNA断片の検出方法は、上記共通DNA断片の検出方法を応用したものであり、生物集団の意味、DNA断片の混合物の調製方法、混合物中に含まれる個々のDNA断片の単離方法、ハイブリダイズさせる方法、結合したDNA断片の量の計測方法は、共通DNA断片の検出方法と同様でよい。
【0048】
ハイブリダイズして結合したDNA断片の量を計測した後、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物とハイブリダイズして結合したDNAの量が相対的に多いDNA断片のグループを選択し、選択したDNA断片の中から、前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物とハイブリダイズしないDNA断片を選択する。上述したように、DNA断片混合物中の各個体由来のDNA量は等しいので、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物とハイブリダイズして結合したDNA断片の量は、ハイブリダイズ対象となる個々のDNA断片を持っていた個体の数に応じて多くなる。従って、結合したDNAの量が相対的に多いグループに属するDNA断片は、前記ある生物集団に共通して存在するDNA断片である可能性が高く、特に結合したDNAの量が最大値を示したDNA断片はその可能性がより高い。しかし、このDNA断片は、前記別の生物集団にも存在することもあるので、特異的なDNAということはできない。そこで、前記別の生物集団にも存在するDNA断片を排除するため、前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物とハイブリダイズしないDNA断片を選択する。
【0049】
このようにして検出された特異的DNA断片は、目的の個体がある生物集団に属するのか、あるいは別の生物集団に属するかを鑑定するのに使用できる。このような鑑定は個体レベルでだけでなく、加工食品の原材料など生物の原型を留めていない対象についても行うことができる。
【0050】
(C)特定集団間共通DNA断片の検出方法
本発明の特定集団間共通DNA断片の検出方法は、複数の特定の生物集団に共通して存在する特定集団間共通DNA断片を検出する方法であって、前記ある生物集団に属する複数の個体及び前記別の生物集団に属する複数の個体のそれぞれから同一の手法でDNA断片の混合物を得る工程、前記ある生物集団に属する複数の個体から得られたDNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物と前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物を混合し、これを単離した個々のDNA断片とハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程を含むことを特徴とするものである。
【0051】
本発明の特定集団間共通DNA断片の検出方法は、上記共通DNA断片の検出方法を応用したものであり、生物集団の意味、DNA断片の混合物の調製方法、混合物中に含まれる個々のDNA断片の単離方法、結合したDNA断片の量の計測方法は、共通DNA断片の検出方法と同様でよい。
ハイブリダイゼーションは、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物と前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物を混合し、この混合物同士の混合物を単離した個々のDNA断片とハイブリダイズさせることにより行う。
【0052】
ハイブリダイズして結合したDNA断片の量を計測した後、ハイブリダイズして結合したDNAの量が相対的に多いグループに属するDNA断片を選択する。上述したように、DNA断片混合物中の各個体由来のDNA量は等しいので、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物と前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物同士の混合物とハイブリダイズして結合したDNA断片の量は、ハイブリダイズ対象となる個々のDNA断片を持っていた個体の数に応じて多くなる。従って、結合したDNAの量が相対的に多いグループに属するDNA断片は、前記ある生物集団および前記別の生物集団に共通して存在するDNA断片である可能性が高く、特に結合したDNAの量が最大値を示したDNA断片はその可能性がより高い。このようにして検出された特定種間共通DNA断片は、それを共通に持つ複数種間の品種識別の実験の際、ハイブリダイゼーション反応がきちんと行われているかどうかを確認するための対照DNAとして用いることができる。
【0053】
(D)微生物DNAの変化の検出方法
本発明の微生物DNAの変化の検出方法は、特定環境中に存在する微生物のDNAの変化を検出する方法であって、ある時点において前記特定環境の一定体積に含まれる微生物群を採取し、その微生物群からDNAを抽出した後、断片化し、第一時点のDNA断片混合物を調製する工程、第一時点の微生物群採取後に、第一時点とは異なる時点で前記特定環境の同一体積に含まれる第二時点の微生物群を採取し、その微生物群からDNAを抽出した後、第一時点のDNA断片混合物と同一の手法で断片化し、第二時点のDNA断片混合物を調製する工程、第一時点のDNA断片混合物とその混合物中に含まれる個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、第二時点のDNA断片混合物と第一時点のDNA断片混合物中に含まれる個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程、第一時点のDNA断片混合物中に含まれる個々のDNA断片について、第一時点のDNA断片混合物とハイブリダイズさせた場合と第二時点のDNA断片混合物とハイブリダイズさせた場合の結合したDNAの量を比較する工程を含むことを特徴とするものである。
【0054】
本発明の微生物DNAの変化の検出方法は、上記共通DNA断片の検出方法を応用したものであり、DNAの抽出方法、DNAの断片化方法、ハイブリダイズさせる方法、結合したDNA断片の量の計測方法は、共通DNA断片の検出方法と同様でよい。なお、本発明における特定環境とは、河川、湖沼、海などの特定水域や特定の地域の土壌域、特定の地域の大気、生物の体内環境などをいう。
微生物DNAの変化を検出することにより、特定環境において微生物の組成等に変化があったかどうかを知ることができる。
【0055】
(E)ハイブリダイゼーション方法
本発明のハイブリダイゼーション方法は、ある生物集団に属する個体の持つDNAの断片と、プローブDNAとをハイブリダイゼーションさせる方法であって、前記生物集団に属する複数の個体のそれぞれが持つDNAの断片の混合物を調製し、これとプローブDNAとをハイブリダイゼーションさせることを特徴とするものである。本発明のハイブリダイゼーション方法は、上記共通DNA断片の検出方法を応用したものであり、生物集団の意味、DNAの断片の混合物の調製方法、ハイブリダイゼーション方法は、共通DNA断片の検出方法と同様でよい。
プローブDNAはどのようなものでもよく、例えば、市販のマイクロアレイなどを使用することもできる。
【0056】
(F)複数の生物を混合した混合物に含まれる生物を同定する方法
本発明の複数の生物の混合物に含まれる生物を同定する方法は、混合物からDNA断片を調製する工程、前記調製したDNA断片と、混合物に含まれる可能性のある生物ごとの特異的DNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNA断片を検出する工程を含むことを特徴とするものである。
【0057】
本発明の同定方法において、ハイブリダイズさせる方法、結合したDNA断片の検出方法は、共通DNA断片の検出方法と同様でよい。また、混合物からのDNA断片の調製におけるDNAの抽出、及びDNAの断片化は、共通DNA断片の検出方法と同様でよい。ハイブリダイゼーションに用いる生物ごとの特異的DNA断片は、上述した本発明の共通DNA断片の検出方法などによって得たものでもよく、また、塩基配列検索などから設計されたものであってもよい。本発明における混合物とは、複数品種を混合して作成する板ノリや配合飼料などをいう。
【0058】
このようにして得られた生物の情報から、混合物に含まれる生物の構成を知ることができるため、成分表示の真偽の鑑定などを行うこともできる。
以下、本発明の検出方法の好ましい態様を図を用いて説明する。
【0059】
図2は、塩基配列の分かっていない生物集団、たとえばミナミマグロとキハダマグロの種判別をするために、ミナミマグロの特異的DNAを求める実験の手順を示した図である。また、図3は、図2で得た実験結果をもとにして、ミナミマグロとキハダマグロの種判別をするために有効なミナミマグロの特異的DNAを特定するための解析手順を示した図である。
【0060】
まず、図2において、複数匹のミナミマグロの集団23のそれぞれの個体から等量ずつ採取したミナミマグロの同一部分の組織24を1つのミナミマグロ用の容器25の中に混合し、全体からミナミマグロのDNA混合物26を抽出する。これを適当な長さの断片を与える制限酵素で切断して、ミナミマグロのDNA断片混合物27とする。これを二つに分割し、分割したうちの片方のミナミマグロのDNA断片混合物27を、適当なベクターにクローニングしてライブラリーを作製する。これを宿主に取り込ませて寒天培地28に撒き、一つ一つのミナミマグロのコロニーまたはプラーク29をピックアップする。これらを互いに独立に増殖させてクローニングしたDNA断片を増やし、クローンごとに基板上の異なる位置に固定して、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30を作製する。二つに分割したもう一方のミナミマグロのDNA断片混合物27の末端を蛍光色素で標識して、ミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物31を作製する。このミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物31を先に作製したミナミマグロのDNAマイクロアレイ30にハイブリダイズさせて余剰のDNAを除去し、ミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物31とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ32の蛍光シグナルを読み取る。蛍光標識はDNAの末端に1分子ずつ付加しているため、ミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物31とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ32上で読み取れる各クローンの蛍光シグナルの強弱は、ハイブリダイズしたミナミマグロのDNAの分子数に比例し、ミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物31の由来するミナミマグロの中で、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30に固定されたDNAと同じDNAを持つ個体の数に比例する。この結果、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定されたある特定のクローンのDNAがすべてのミナミマグロに共通する共通DNAであれば、このミナミのマグロの共通DNAクローン33に対応する蛍光標識したすべてのミナミマグロの個体由来のDNAが、このクローンに同じ長さで完全にハイブリダイズするため、このミナミマグロの共通DNAクローン33の蛍光シグナルは強くなる。一方、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定された別なクローンのDNAが、ミナミマグロの個体ごとに異なる非共通DNAであれば、ミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物31の中で、このミナミマグロの非共通DNAクローン34のDNAと異なる塩基配列のものはハイブリダイズしないため、このミナミマグロの非共通DNAクローン34の蛍光シグナルは、同じマイクロアレイ上のミナミマグロの共通DNAクローン33の蛍光シグナルよりも弱くなる。このような解析をミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定された全てのクローンについて行えば、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定されたおのおののクローンのDNAが、ミナミマグロの共通DNAであるか非共通DNAであるかを知ることができる。
【0061】
次に、複数匹のキハダマグロの集団35から等量ずつ採取したキハダマグロの同一部分の組織36を1つのキハダマグロ用の容器37の中に混合し、全体からキハダマグロのDNA混合物38を抽出する。これを図2でミナミマグロのDNAを切断したものと同じ制限酵素で切断してキハダマグロのDNA断片混合物39とする。このキハダマグロのDNA断片混合物39の末端を蛍光色素で標識して、キハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物40を作製する。このキハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物40を、先に作製したミナミマグロのDNAマイクロアレイ30にハイブリダイズさせて余剰のDNAを除去し、キハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物40とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ41の蛍光シグナルを読み取る。ミナミマグロとキハダマグロは同じマグロ属の魚であり、DNAの塩基配列も共通部分が多いと考えられる。したがって、同じ制限酵素で切断すれば、両者のDNAの切断部位はほとんどが共通であると考えられる。ハイブリダイゼーションの結果、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定されたある特定のクローンのDNAがすべてのキハダマグロにも共通するDNAクローン42であれば、蛍光標識したすべてのキハダマグロの個体由来のこのクローンに対応するDNAが、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定されたこのクローンに完全にハイブリダイズするため、このキハダマグロの共通DNAクローン42の蛍光シグナル強くなる。一方、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定された別なクローンのDNAが、キハダマグロの個体ごとに異なるキハダマグロの非共通DNAクローン43であれば、キハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物40の中で、このクローンのDNAと異なる塩基配列のものはハイブリダイズしないため、このキハダマグロの非共通DNAクローン43の蛍光シグナルは、キハダマグロの共通DNAクローン42の蛍光シグナルよりも弱くなる。この場合の蛍光シグナルの強度は、キハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物40の由来するキハダマグロの中で、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30に固定されたDNAと同じ塩基配列のDNAを持つ個体の数に比例する。また、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定されたさらに別なクローンのDNAが、キハダマグロのどのDNAとも異なるミナミマグロの特異的DNAであれば、キハダマグロの蛍光標識DNA41の中のどのDNAもこのクローンにハイブリダイズしないため、このミナミマグロの特異的DNAクローン44は蛍光シグナルを全く発しない。このような解析をミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定された全てのクローンについて行えば、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定されたおのおののミナミマグロのクローンのDNAが、キハダマグロの共通DNAであるか非共通DNAであるか、またはキハダマグロには存在しないDNAであるかを知ることができる。
【0062】
上記の図2の流れに従って得たミナミマグロおよびキハダマグロの実験結果を、図3のように比較解析する。まず、ミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物31とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ32について、蛍光スキャナやCCDカメラなどの読取装置を用いて、各クローンの蛍光シグナル強度を読み取る。たとえばミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物31とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ32のスキャンライン45の線上を蛍光スキャナでスキャンし、読み取った蛍光シグナル強度をスキャンライン45に沿ってグラフに表すと、ミナミマグロのシグナルスキャングラフ46のようになる。このようなグラフのデータに基づき、各クローンを蛍光シグナル強度で分類する。即ち、蛍光標識したDNAに含まれる対応するすべてのDNAがハイブリダイズして強い蛍光シグナル強度を与えるクローンをグループaと分類し、蛍光標識したDNAに含まれる対応するDNAの一部がハイブリダイズしてより弱い蛍光シグナル強度を与えるクローンをグループbと分類する。この分類に従って、比較表48のミナミマグロの欄を作成する。たとえばミナミマグロのシグナルスキャングラフ46のデータからは、クローン番号9とクローン番号11は、グループbに分類され、クローン番号10とクローン番号12は、グループaに分類される。この場合、ミナミマグロのクローンにミナミマグロのDNAをハイブリダイズさせているため、原則として、蛍光シグナルが皆無というクローンは存在しない。次に、キハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物40とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ41について、蛍光スキャナやCCDカメラなどの読取装置を用いて、各クローンの蛍光シグナル強度を読み取る。たとえばキハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物40とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ41のスキャンライン45の線上を蛍光スキャナでスキャンし、読み取った蛍光シグナル強度をスキャンライン45に沿ってグラフに表すと、キハダマグロのシグナルスキャングラフ47のようになる。このようなグラフのデータに基づき、キハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物40とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ41上のおのおののクローンについて、蛍光標識したDNAに含まれる対応するすべてのDNAがハイブリダイズして最強の蛍光シグナル強度を与えるクローンをグループaと分類し、蛍光標識したDNAに含まれる対応するDNAの一部がハイブリダイズしてより弱い蛍光シグナル強度を与えるクローンをグループbと分類し、さらに、蛍光標識したDNAが全くハイブリダイズせずに蛍光シグナルが全く得られないクローンをグループcと分類し、ミナミマグロのハイブリダイゼーション結果の比較表48にキハダマグロの欄を追加して記入し、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上に固定したおのおののクローンのミナミマグロとキハダマグロの蛍光シグナルの強度を一覧できる比較表48を作成する。たとえばキハダマグロのシグナルスキャングラフ47のデータからは、クローン番号9とクローン番号10はグループcに分類され、クローン番号11はグループbに分類され、クローン番号12はグループaに分類される。この比較表48でミナミマグロとキハダマグロの実験結果の得点をおのおののクローンごとに比較し、ミナミマグロでグループa、キハダマグロでグループcと分類されるクローンを選出する。このようなクローンは、ミナミマグロの共通DNAでかつキハダマグロには存在しない無DNAであり、それはすなわち、ミナミマグロとキハダマグロの種判別を行う際のミナミマグロの特異的DNAである。比較表48にこのようなクローンのみをマークする欄を設けて、ミナミマグロの特異的DNAを容易に見つけられるようにする。このようなクローンのみをピックアップすれば、より搭載クローン数の少ない種判別用DNAマイクロアレイ49を作成することができ、これを用いて、ミナミマグロかキハダマグロかの種判別が必要な検査対象の種判別が可能なDNA鑑定をおこなうことができる。
【0063】
この方法に従えば、手間と時間と費用のかかる塩基配列解析を行わずに特異的DNAを求めることができる。また、最初に複数個体を混合してDNAを抽出し、ミナミマグロとキハダマグロのDNA断片混合物各1回ずつのDNAマイクロアレイのハイブリダイゼーションのみで、ミナミマグロおよびキハダマグロそれぞれの多数の共通DNAと非共通DNAとを区別して求めることが出来るため、これらの点でも実験の手間と時間と費用とを省くことができる。またこの方法によれば、簡便さばかりではなく、ハイブリダイゼーションを一度だけおこなうことにより、個体ごとに実験した場合に生じる1回ごとの実験条件のばらつき及びそれに由来する実験結果の誤差は入ることがなく、信頼性の高い結果が得られる。さらに、この方法によれば、DNAを増幅せずに検査に必要なDNA量を確保できるため、DNA増幅によって生じる結果の間違いも引き起こす危険性がなくなり、この点でも、より信頼性の高い検出をおこなうことができる。
【0064】
なお、ミナミマグロのDNAマイクロアレイ30の上には、キハダマグロには存在するがミナミマグロには存在しないキハダマグロの特異的DNAは固定されていないため、このマイクロアレイを用いてキハダマグロの特異的DNAを求めることは出来ない。したがって、ミナミマグロとキハダマグロの種判別に用いるためのキハダマグロの特異的DNAを求めるためには、上記のミナミマグロとキハダマグロのDNAを入れ替えて上記の実験及び解析を行い、キハダマグロの特異的DNAを求める必要がある。この方法を多数の生物集団に相互に当て嵌めれば、複数生物集団の種間共通DNAや複数生物集団に対する特定生物集団の特異的DNAを次々と求めることもできる。さらに、それらの複数生物集団それぞれの特異的DNAをまとめてひとつの検査システムとし、サンプルが複数生物集団の中のどの生物であるのかを同定するシステムを作成することもできる。
【0065】
また、この方法により、複数生物集団の割合の変化を検出することも可能である。図4は、この特異的DNA断片の検出法を応用して、特定水域における微生物生態系の経時変化を解析する手順の概略を示した図である。
【0066】
まず、解析の基準となる時点1において、河川や湖沼、海などの特定水域の水を採取すると、この中には様々な微生物が様々な量含まれている。これを、特定水域の時点1の水とそれに含まれる微生物の集団50とする。図3に示した工程と同様に、ここに含まれる微生物をまとめて回収して混合したままでDNAを抽出し、適当な制限酵素で断片化して、特定水域の時点1の微生物全体のDNA断片混合物51を作成する。これを二分し、片方の特定水域の時点1の微生物全体のDNA断片混合物51中に含まれる個々のDNA断片を用いて、特定水域の時点1のDNAマイクロアレイを作成する。次に、もう片方の特定水域の時点1の微生物全体のDNA断片混合物51を蛍光標識し、特定水域の時点1のDNAマイクロアレイ52とハイブリダイズさせて、特定水域の時点1の微生物全体のDNA断片混合物でハイブリダイズした特定水域の時点1のDNAマイクロアレイ53を得る。その後、特定水域で時点2において採取した水とそれに含まれる微生物の集団54から、ここに含まれる微生物をまとめて回収して混合したままでDNAを抽出し、これを特定水域の時点1の微生物全体の断片化したDNA断片混合物51を断片化したものと同じ制限酵素で断片化して、特定水域の時点2の微生物全体のDNA断片混合物55を作成する。これを蛍光標識し、特定水域の時点1のDNAマイクロアレイ52とハイブリダイズさせて、特定水域の時点2の微生物全体のDNA断片混合物でハイブリダイズした特定水域の時点1のDNAマイクロアレイ56を得る。特定水域の時点1の微生物全体のDNA断片混合物でハイブリダイズした特定水域の時点1のDNAマイクロアレイ53の結果と、特定水域の時点2の微生物全体のDNA断片混合物でハイブリダイズした特定水域の時点1のDNAマイクロアレイ56の結果とを比較する。時点1から時点2までの時間経過において存在量の変化した微生物DNAのクローンは、二つのDNAマイクロアレイにおいて、相対的にシグナル強度が異なることにより、変化があったと検出できる。採水を定期的に行い、変化の様子を追跡すれば、生態系における特定の微生物DNAの存在量の変化を、経時的に捉えることができる。
【0067】
また、この方法を応用して、複数の生物の混合物に含まれる生物を同定することも可能である。まず、混合物に含まれる可能性のある生物すべてについて、上記の方法などにより、各々の生物ごとの特異的DNA断片を求める。それらの生物ごとの特異的DNA断片を用いて、たとえば生物同定用のDNAマイクロアレイを作成する。次に、含まれる生物を同定したい混合物からDNAを抽出し、上記の方法により断片化および蛍光標識を行って、生物同定用のDNAマイクロアレイとハイブリダイズさせる。生物同定用のDNAマイクロアレイ上で混合物のDNAがハイブリダイズした特異的DNAが由来する生物を列挙すれば、それがすなわち、混合物に含まれる生物である。
【0068】
また、検出の方法は、本実施の形態で説明したものに限定されるわけではない。このほか、本発明の要旨を逸脱することなくその他の種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0070】
図1の(g)のように分類される特定種間共通DNA、特異的DNAおよび非共通DNAを、(h)に示すようなシグナルのオンオフの状態で検出できるかどうかを、本発明の検査方法で調べた。
【0071】
まず、図5の表に示したような塩基配列を持つ40merのオリゴヌクレオチド10種を合成した。これらのうち、オリゴヌクレオチドBはオリゴヌクレオチドGと、オリゴヌクレオチドCはオリゴヌクレオチドHと、およびオリゴヌクレオチドDはオリゴヌクレオチドIと、それぞれ互いに相補的な塩基配列を持ち、オリゴヌクレオチドA、オリゴヌクレオチドE、オリゴヌクレオチドF、オリゴヌクレオチドJは、これら10種のオリゴヌクレオチドの中には相補的な塩基配列を持たない。最初に、これら10種のオリゴヌクレオチドの相補性と特異性を確認するための実験を行った。これら10種のオリゴヌクレオチドの1μM水溶液を、図6の(a)および(b)の配置図に従って、1枚目の96穴マイクロタイタープレート58および2枚目の96穴マイクロタイタープレート67(日本ジェネティクス Multi Semi-skirted PCR Plate 35801)の該当する各ウェルに各々22μlずつ分注した。すなわち、オリゴヌクレオチドAの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分59、オリゴヌクレオチドBの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分60、オリゴヌクレオチドCの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分61、オリゴヌクレオチドDの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分62、オリゴヌクレオチドEの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分63、オリゴヌクレオチドFの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分64、オリゴヌクレオチドGの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分65、オリゴヌクレオチドHの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分66、オリゴヌクレオチドIの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分68、およびオリゴヌクレオチドJの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分69の各2列ずつの各ウェルに、該当するオリゴヌクレオチドの1μM水溶液22μlずつを分注した。1枚目の96穴マイクロタイタープレート58および2枚目の96穴マイクロタイタープレート67のウェルのうちで、オリゴヌクレオチドを1種類しか分注しないウェルには、蒸留水22μlを、また、オリゴヌクレオチドを全く分注しないウェルには、蒸留水44μlを、それぞれ分注した。このことにより、オリゴヌクレオチドA〜Eのいずれか1種とオリゴヌクレオチドF〜Jのうちのいずれか1種とが同じウェルに分注されたウェルが、少なくとも4ウェルずつすべての組合せで作成でき、また、対照として、A〜Jの各オリゴヌクレオチドが1種のみ分注されたウェル、およびオリゴヌクレオチドが全く入っていないウェルも、各マイクロタイタープレートに4ウェルずつ作成できた。
【0072】
次に、二枚のマイクロタイタープレートの全てのウェルに、x10TE(100mM Tris-HCl, 10mM EDTA, pH8.0)を5.5μlずつ分注し、ウェルごとによくピペッティングして溶液を混合した。これらのマイクロタイタープレート二枚にアルミ箔製のシール(アズワン アルミテープ AH-132)を被せて、ウェル間で溶液や蒸気が交換されないように、しっかり加熱圧着した後、マイクロタイタープレートをサーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズジャパン(株)Gene Amp PCR System 9700)にセットし、96℃で3分間加熱後、17分かけて温度を25℃まで下げ、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行わせた。プレートの水気をよくふき取り、これらのマイクロタイタープレートの各ウェルから45μlずつとって、同じ配置を保って、2枚の96穴の平底マイクロタイタープレート(Nunc 96ウェルオプティカルボトムプレート 265301)に移した。溶液を移した二枚の平底マイクロタイタープレートの全てのウェルに、二本鎖DNA検出試薬(SYBR Green I, TaKaRa F0513)の20000倍希釈液を5μlずつ分注し、ウェルごとによくピペッティングして溶液を混合した後、アルミ箔製のシール(アズワン アルミテープ AH-132)を被せて、ウェル間で溶液や蒸気が交換されないように、しっかり加熱圧着した。これらの平底マイクロタイタープレートを37℃で15分暗所に保存した。
【0073】
これらの平底マイクロタイタープレートの蓋をはずし、フルオロ・イメージアナライザー(富士フイルム(株) FLA-5000)で蛍光強度を測定(フィルター:LPB、励起波長:473nm、pmt値:400V)して画像を撮影した。これらの中から、同じ組合せのオリゴヌクレオチドでハイブリダイゼーションを行った4ウェルずつの画像を図7に示した。また、同じ組合せのオリゴヌクレオチドでハイブリダイゼーションを行ったウェル同士の測定値の算術平均を求め、その値からオリゴヌクレオチドの含まれていないウェルの測定値の算術平均をバックグラウンドとして引き去った値を求めた後、2枚の96穴マイクロタイタープレートの値を両方に存在するオリゴヌクレオチドHのハイブリダイゼーションにより得られた蛍光強度の測定値で補正したところ、各組合せのハイブリダイゼーションによる相対的な蛍光強度値は、図7の表の数値のようになった。
【0074】
図7の画像で明らかなように、互いに相補性のあるオリゴヌクレオチド同士の組合せであるオリゴヌクレオチドBとオリゴヌクレオチドG、オリゴヌクレオチドCとオリゴヌクレオチドH、およびオリゴヌクレオチドDとオリゴヌクレオチドIの組合せが同じウェルに入っている部位だけで強い蛍光シグナルが検出でき、相補性のないオリゴヌクレオチドの組合せ、オリゴヌクレオチドが1種類しか入っていないウェル、およびオリゴヌクレオチドが全く入っていないウェルの蛍光シグナルは、非常に低くしか検出されなかった。また、図7の表に示したように、相対的な蛍光強度を数値化した場合にも、同様の結果が得られた。したがって、これら10種のオリゴヌクレオチドは、塩基配列で相補性を確認しているオリゴヌクレオチドBとオリゴヌクレオチドG、オリゴヌクレオチドCとオリゴヌクレオチドH、およびオリゴヌクレオチドDとオリゴヌクレオチドIの組合せでのみ、特異的にハイブリダイゼーションが検出できることが示された。
【0075】
そこで、これらのオリゴヌクレオチドを用いて、図1の(g)に示したような2種類の生物集団に含まれるDNAのモデル系を想定した。すなわち、図8に示すように、生物集団(1)の全DNA71および、生物集団(2)の全DNA72を仮定し、オリゴヌクレオチドAおよびオリゴヌクレオチドFを生物集団(1)の非共通DNA73、オリゴヌクレオチドBおよびオリゴヌクレオチドGを生物集団(1)の特異的DNA74、オリゴヌクレオチドCおよびオリゴヌクレオチドHを生物集団(1)および(2)の種間共通DNA75、オリゴヌクレオチドDおよびオリゴヌクレオチドIを生物集団(2)の特異的DNA76、オリゴヌクレオチドEおよびオリゴヌクレオチドJを生物集団(2)の非共通DNA77と仮定した。オリゴヌクレオチドAとオリゴヌクレオチドFはともに生物集団(1)の非共通DNA73であるが、由来する個体が異なるため配列の異なるDNA部位と仮定することができる。同様に、オリゴヌクレオチドEとオリゴヌクレオチドJも、生物集団(2)の異なる個体由来の非共通DNA77のDNA部位と仮定できる。図8では、相補的な配列を持つオリゴヌクレオチド同士を=で結んで表した。このモデル系にしたがって、生物集団(1)および生物集団(2)の特定種間共通DNA75、生物集団(1)の特異的DNA74、生物集団(2)の特異的DNA76、生物集団(1)の非共通DNA73、生物集団(2)の非共通DNA77を、本発明の方法により、ハイブリダイゼーションを用いて検出する実験を行った。
【0076】
まず、オリゴヌクレオチドA,B,Cそれぞれの3μM水溶液を等量混合し、生物集団(1)に属する1つの個体から得られたDNA断片の混合物の1μMの水溶液を作成した。同様に、オリゴヌクレオチドC,D,Eそれぞれの3μM水溶液を等量混合し、生物集団(2)に属する1つの個体から得られたDNA断片の混合物の1μMの水溶液を作成した。
【0077】
次に、生物集団(1)に由来するDNA断片としてオリゴヌクレオチドFおよびG、生物集団(2)に由来するDNA断片としてオリゴヌクレオチドIおよびJ、生物集団(1)および(2)に共通に由来するDNA断片としてオリゴヌクレオチドHの5種のオリゴヌクレオチドを、図9に示した配置に従って、本実験の96穴マイクロタイタープレート78(日本ジェネティクス Multi Semi-skirted PCR Plate 35801)の該当する各ウェルに各々22μlずつ分注した。すなわち、オリゴヌクレオチドFの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分64、オリゴヌクレオチドGの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分65、オリゴヌクレオチドHの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分66、オリゴヌクレオチドIの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分68、およびオリゴヌクレオチドJの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分69の各2列ずつの各ウェルに、該当するオリゴヌクレオチドの1μM水溶液22μlずつを分注した。
【0078】
この、横長に置いた本実験の96穴マイクロタイタープレート78に、図9に示した配置に従って、図の最上段と上から五段目の各ウェル79に、先に調整した、生物集団(1)に属する1つの個体から得られたDNA断片の混合物の1μMの水溶液を、各ウェルに22μlずつ分注した。さらに、三段目と七段目の各ウェル80に、先に調整した、生物集団(2)に属する1つの個体から得られたDNA断片の混合物の1μMの水溶液を、各ウェルに22μlずつを分注した。本実験の96穴マイクロタイタープレート78のウェルのうちで、一種類のオリゴヌクレオチドまたは混合オリゴヌクレオチドのどちらか1種類しか分注しないウェルには、蒸留水22μlを、また、どちらも分注しないウェルには、蒸留水44μlを、それぞれ分注した。
【0079】
次に、本実験の96穴マイクロタイタープレート78の全てのウェルに、x10TE(100mM Tris-HCl, 10mM EDTA, pH8.0)を5.5μlずつ分注し、ウェルごとによくピペッティングして溶液を混合した。この本実験の96穴マイクロタイタープレート78にアルミ箔製のシール(アズワン アルミテープ AH-132)を被せて、ウェル間で溶液や蒸気が交換されないように、しっかり加熱圧着した後、マイクロタイタープレートをサーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズジャパン(株)Gene Amp PCR System 9700)にセットし、96℃で3分間加熱後、17分かけて温度を25℃まで下げ、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行わせた。プレートの水気をよくふき取り、本実験の96穴マイクロタイタープレート78の各ウェルから45μlずつとって、同じ配置を保って、96穴の平底マイクロタイタープレート(Nunc 96ウェルオプティカルボトムプレート 265301)に移した。溶液を移した96穴の平底マイクロタイタープレートの全てのウェルに、二本鎖DNA検出試薬(SYBR Green I, TaKaRa F0513)の20000倍希釈液を5μlずつ分注し、ウェルごとによくピペッティングして溶液を混合した後、アルミ箔製のシール(アズワン アルミテープ AH-132)を被せて、ウェル間で溶液や蒸気が交換されないように、しっかり加熱圧着した。この平底マイクロタイタープレートを37℃で15分暗所に保存した。
【0080】
この平底マイクロタイタープレートの蓋をはずし、フルオロ・イメージアナライザー(富士フイルム(株) FLA-5000)で蛍光強度を測定(フィルター:LPB、励起波長:473nm、pmt値:400V)して画像を撮影した。これらの中から、同じ組合せのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行った4ウェルの画像を図10に示した。また、同じ組合せのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを行ったウェル同士の測定値の算術平均を求め、その値からオリゴヌクレオチドの含まれていないウェルの測定値の算術平均をバックグラウンドとして引き去った値を求めた相対的な蛍光強度値は、図10の表の数値のようになった。画像及び数値のどちらからも、オリゴヌクレオチド(A+B+C)の混合液とオリゴヌクレオチドGおよびオリゴヌクレオチドH、オリゴヌクレオチド(C+D+E)の混合液とオリゴヌクレオチドHおよびオリゴヌクレオチドIの各組合せの場合のみ、強い蛍光シグナルが検出でき、その他の相補性のないオリゴヌクレオチドの組合せ、オリゴヌクレオチドが1種類しか入っていないウェル、およびオリゴヌクレオチドが全く入っていないウェルの蛍光シグナルは、非常に低くしか検出されなかった。以上の結果から、オリゴヌクレオチド(A+B+C)の混合液すなわち生物集団(1)の全DNAとオリゴヌクレオチド(C+D+E)の混合液すなわち生物集団(2)の全DNAを、生物集団(1)および(2)に由来する個々のDNAとのハイブリダイゼーションさせることによって、生物集団(1)のDNAおよび生物集団(2)のDNAの両方にハイブリダイズして蛍光シグナルを発するオリゴヌクレオチドHを種間共通DNA、生物集団(1)のDNAにはハイブリダイズして蛍光シグナルを発するが生物集団(2)のDNAにはハイブリダイズせず蛍光シグナルを発しないオリゴヌクレオチドGを生物集団(1)の特異的DNA、生物集団(1)のDNAにはハイブリダイズせず蛍光シグナルを発しないが生物集団(2)のDNAにはハイブリダイズして蛍光シグナルを発するオリゴヌクレオチドIを生物集団(2)の特異的DNA、生物集団(1)の個体由来のDNAではあるが生物集団(1)および(2)のどのDNAともハイブリダイズせず蛍光シグナルを発しないオリゴヌクレオチドFを生物集団(1)の非共通DNA、生物集団(2)の個体由来のDNAではあるが生物集団(1)および(2)のどのDNAともハイブリダイズせず蛍光シグナルを発しないオリゴヌクレオチドFを生物集団(2)の非共通DNAとして、それぞれ検出することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】魚種Aと魚種Bの種判別に必要な、それぞれの魚種の特異的DNAを求める考え方を示した図である。
【図2】ミナミマグロとキハダマグロの種判別をするために、ミナミマグロの特異的DNAを求める実験の手順を示した図である。
【図3】ミナミマグロとキハダマグロの種判別をするために、実験で得られた結果を解析して種判別用DNAマイクロアレイを作製する流れを示した図である。
【図4】特定水域に生息する微生物全体のDNAを用いて特定水域における微生物生態系の経時変化を解析する手順の概略を示した図である。
【図5】実施例の検査に用いた各オリゴヌクレオチドの塩基配列と相補性を示した図である。
【図6】実施例の検査に用いた各オリゴヌクレオチドの相補性と特異性を確認する実験の、各DNAの配置図である。
【図7】実施例の検査に用いた各オリゴヌクレオチドの相補性と特異性を確認した実験結果の図である。
【図8】実施例の検査に用いた各オリゴヌクレオチドを、図1(g)の分類にあわせたモデル系として分配した状態を示した図である。
【図9】実施例のモデル系の実験における各DNAの配置図である。
【図10】実施例のモデル系の実験結果を示した図である。
【図11】魚種Cの共通DNAを求める現行の手法と本発明の方法との比較を示した図である。
【符号の説明】
【0082】
1・・・魚種Aの個体a、2・・・個体aの全DNA、3・・・個体aの非共通DNA、4・・・魚種Aの共通DNA、5・・・魚種Aの個体b、6・・・個体bの全DNA、7・・・個体bの非共通DNA、8・・・魚種Aの全DNA、9・・・魚種Aにおける非共通DNAの集合、10・・・魚種Bの個体c、11・・・個体cの全DNA、12・・・個体cの非共通DNA、13・・・魚種Bの共通DNA、14・・・魚種Bの個体d、15・・・個体dの全DNA、16・・・個体dの非共通DNA、17・・・魚種Bの全DNA、18・・・魚種Bにおける非共通DNAの集合、19・・・魚種Aと魚種Bとの特定種間共通DNA、20・・・魚種Aの特異的DNA、21・・・魚種Bの特異的DNA、22・・・ハイブリダイゼーションのシグナル表、23・・・複数匹のミナミマグロの集団、24・・・等量ずつ採取したミナミマグロの同一部分の組織、25・・・ミナミマグロ用の容器、26・・・ミナミマグロのDNA混合物、27・・・ミナミマグロのDNA断片混合物、28・・・寒天培地、29・・・ミナミマグロのコロニーまたはプラーク、30・・・ミナミマグロのDNAマイクロアレイ、31・・・ミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物、32・・・ミナミマグロの蛍光標識DNA断片混合物とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ、33・・・ミナミマグロの共通DNAクローン、34・・・ミナミマグロの非共通DNAクローン、35・・・複数匹のキハダマグロの集団、36・・・等量ずつ採取したキハダマグロの同一部分の組織、37・・・キハダマグロ用の容器、38・・・キハダマグロのDNA混合物、39・・・キハダマグロのDNA断片混合物、40・・・キハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物、41・・・キハダマグロの蛍光標識DNA断片混合物とハイブリダイズしたミナミマグロのDNAマイクロアレイ、42・・・キハダマグロの共通DNAクローン、43・・・キハダマグロの非共通DNAクローン、44・・・ミナミマグロの特異的DNAクローン、45・・・スキャンライン、46・・・ミナミマグロのシグナルスキャングラフ、47・・・キハダマグロのシグナルスキャングラフ、48・・・比較表、49・・・種判別用DNAマイクロアレイ、50・・・特定水域の時点1の水とそれに含まれる微生物の集団、51・・・特定水域の時点1の微生物全体のDNA断片混合物、52・・・特定水域の時点1のDNAマイクロアレイ、53・・・特定水域の時点1の微生物全体のDNA断片混合物でハイブリダイズした特定水域の時点1のDNAマイクロアレイ、54・・・特定水域の時点2の水とそれに含まれる微生物の集団、55・・・特定水域の時点2の微生物全体のDNA断片混合物、56・・・特定水域の時点2の微生物全体のDNA断片混合物でハイブリダイズした特定水域の時点1のDNAマイクロアレイ、57・・・オリゴの塩基配列と特徴の表、58・・・1枚目の96穴マイクロタイタープレート、59・・・オリゴヌクレオチドAの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、60・・・オリゴヌクレオチドBの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、61・・・オリゴヌクレオチドCの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、62・・・オリゴヌクレオチドDの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、63・・・オリゴヌクレオチドEの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、64・・・オリゴヌクレオチドFの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、65・・・オリゴヌクレオチドGの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、66・・・オリゴヌクレオチドHの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、67・・・2枚目の96穴マイクロタイタープレート、68・・・オリゴヌクレオチドIの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、69・・・オリゴヌクレオチドJの溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、70・・・オリゴヌクレオチドの相補性と特異性の確認のための実験結果の表、71・・・生物集団(1)の全DNA、72・・・生物集団(2)の全DNA、73・・・生物集団(1)の非共通DNA、74・・・生物集団(1)の特異的DNA、75・・・生物集団(1)と生物集団(2)の種間共通DNA、76・・・生物集団(2)の特異的DNA、生物集団(2)の非共通DNA、78・・・モデル系の実験の96穴マイクロタイタープレート、79・・・オリゴヌクレオチドA,B,Cの混合溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、80・・・オリゴヌクレオチドC,D,Eの混合溶液を分注した96穴マイクロタイタープレートのウェルの部分、81・・・モデル系の実験結果の表、82・・・魚種Cの個体a、83・・・容器、84・・・個体aから採取した組織、85・・・個体aのDNA、86・・・個体aのDNA断片混合物、87・・・マイクロアレイの実験結果、88・・・マイクロアレイの実験結果の積算、89・・・魚種Cの全体の結果、90・・・魚種Cの集団、91・・・魚種C用の共通容器、92・・・魚種Cの組織の混合物、93・・・魚種CのDNA混合物、94・・・魚種CのDNA断片混合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある生物集団に共通して存在するDNA断片を検出する方法であって、前記生物集団に属する複数の個体からDNA断片の混合物を得る工程、DNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、DNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNA断片の量を計測する工程を含むことを特徴とする共通DNA断片の検出方法。
【請求項2】
DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の組織を採取し、それらを同じ重量ずつ混合し、混合した組織からDNAを抽出した後断片化することによって得ることを特徴とする請求項1に記載の共通DNA断片の検出方法。
【請求項3】
DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから細胞を採取し、それらを同量ずつ混合し、混合した細胞からDNAを抽出した後断片化することによって得ることを特徴とする請求項1に記載の共通DNA断片の検出方法。
【請求項4】
DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出し、抽出したDNAを同じ量ずつ混合し、混合したDNAを断片化することによって得ることを特徴とする請求項1に記載の共通DNA断片の検出方法。
【請求項5】
DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出して同一の手法で断片化し、断片化したDNAを同じ量ずつ混合することによって得ることを特徴とする請求項1に記載の共通DNA断片の検出方法。
【請求項6】
DNA断片の鎖長が、10〜10,000ベースの範囲にあることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の共通DNA断片の検出方法。
【請求項7】
DNA断片の混合物が、標識されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の共通DNA断片の検出方法。
【請求項8】
単離した個々のDNA断片が、標識されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の共通DNA断片の検出方法。
【請求項9】
DNA断片の混合物と単離した個々のDNA断片のハイブリダイゼーションにより形成された二重鎖DNA断片が特異的に標識されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の共通DNA断片の検出方法。
【請求項10】
ある生物集団に共通して存在し、別の生物集団には存在しない特異的DNA断片を検出する方法であって、前記ある生物集団に属する複数の個体及び前記別の生物集団に属する複数の個体のそれぞれから同一の手法でDNA断片の混合物を得る工程、前記ある生物集団に属する複数の個体から得られたDNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物と、単離した個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程を含むことを特徴とする特異的DNA断片の検出方法。
【請求項11】
DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の組織を採取し、それらを同じ重量ずつ混合し、混合した組織からDNAを抽出した後断片化することによって得ることを特徴とする請求項10に記載の特異的DNA断片の検出方法。
【請求項12】
DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから細胞を採取し、それらを同量ずつ混合し、混合した細胞からDNAを抽出した後断片化することによって得ることを特徴とする請求項10に記載の特異的DNA断片の検出方法。
【請求項13】
DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出し、抽出したDNAを同じ量ずつ混合し、混合したDNAを断片化することによって得ることを特徴とする請求項10に記載の特異的DNA断片の検出方法。
【請求項14】
DNA断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出して同一の手法で断片化し、断片化したDNAを同じ量ずつ混合することによって得ることを特徴とする請求項10に記載の特異的DNA断片の検出方法。
【請求項15】
DNA断片の鎖長が、10〜10,000ベースの範囲にあることを特徴とする請求項10乃至14のいずれか一項に記載の特異的DNA断片の検出方法。
【請求項16】
DNA断片の混合物が、標識されていることを特徴とする請求項10乃至15のいずれか一項に記載の特異的DNA断片の検出方法。
【請求項17】
単離した個々のDNA断片が、標識されていることを特徴とする請求項10乃至15のいずれか一項に記載の特異的DNA断片の検出方法。
【請求項18】
DNA断片の混合物と単離した個々のDNA断片のハイブリダイゼーションにより形成された二重鎖DNA断片が特異的に標識されることを特徴とする請求項10乃至15のいずれか一項に記載の特異的DNA断片の検出方法。
【請求項19】
複数の特定の生物集団に共通して存在する特定集団間共通DNA断片を検出する方法であって、前記ある生物集団に属する複数の個体及び前記別の生物集団に属する複数の個体のそれぞれから同一の手法でDNA断片の混合物を得る工程、前記ある生物集団に属する複数の個体から得られたDNA断片の混合物の一部をとり、その混合物中に含まれる個々のDNA断片を単離する工程、前記ある生物集団から得たDNA断片の混合物と前記別の生物集団から得たDNA断片の混合物を混合し、これを単離した個々のDNA断片とハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程を含むことを特徴とする特定集団間共通DNA断片の検出方法。
【請求項20】
請求項1乃至19のいずれか一項に記載の検出方法によって得られたDNA断片を用いてDNA鑑定を行うことを特徴とするDNA鑑定方法。
【請求項21】
特定環境中に存在する微生物のDNAの変化を検出する方法であって、ある時点において前記特定環境の一定体積に含まれる微生物群を採取し、その微生物群からDNAを抽出した後、断片化し、第一時点のDNA断片混合物を調製する工程、第一時点の微生物群採取後に、第一時点とは異なる時点で前記特定環境の同一体積に含まれる第二時点の微生物群を採取し、その微生物群からDNAを抽出した後、第一時点のDNA断片混合物と同一の手法で断片化し、第二時点のDNA断片混合物を調製する工程、第一時点のDNA断片混合物とその混合物中に含まれる個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、第二時点のDNA断片混合物と第一時点のDNA断片混合物中に含まれる個々のDNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNAの量を計測する工程、第一時点のDNA断片混合物中に含まれる個々のDNA断片について、第一時点のDNA断片混合物とハイブリダイズさせた場合と第二時点のDNA断片混合物とハイブリダイズさせた場合の結合したDNAの量を比較する工程を含むことを特徴とする微生物DNAの変化の検出方法。
【請求項22】
DNA断片の鎖長が、10〜10,000ベースの範囲にあることを特徴とする請求項21に記載の微生物DNAの変化の検出方法。
【請求項23】
第一時点のDNA断片の混合物及び第二時点のDNA断片の混合物が、標識されていることを特徴とする請求項21又は22に記載の微生物DNAの変化の検出方法。
【請求項24】
第一時点のDNA断片の混合物中に含まれる個々のDNA断片が、標識されていることを特徴とする請求項21又は22に記載の微生物DNAの変化の検出方法。
【請求項25】
ある生物集団に属する個体の持つDNAの断片と、プローブDNAとをハイブリダイゼーションさせる方法であって、前記生物集団に属する複数の個体のそれぞれが持つDNAの断片の混合物を調製し、これとプローブDNAとをハイブリダイゼーションさせることを特徴とするハイブリダイゼーション方法。
【請求項26】
DNAの断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の組織を採取し、それらを同じ重量ずつ混合し、混合した組織からDNAを抽出した後断片化することによって調製すことを特徴とする請求項25に記載のハイブリダイゼーション方法。
【請求項27】
DNAの断片の混合物を、複数の個体のそれぞれから同様の細胞を採取し、それらを同量ずつ混合し、混合した細胞からDNAを抽出した後断片化することによって調製することを特徴とする請求項25に記載のハイブリダイゼーション方法。
【請求項28】
DNAの断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出し、抽出したDNAを同じ量ずつ混合し、混合したDNAを断片化することによって調製することを特徴とする請求項25に記載のハイブリダイゼーション方法。
【請求項29】
DNAの断片の混合物を、複数の個体のそれぞれからDNAを抽出して同一の手法で断片化し、断片化したDNAを同じ量ずつ混合することによって調製することを特徴とする請求項25に記載のハイブリダイゼーション方法。
【請求項30】
複数の生物の混合物に含まれる生物を同定する方法であって、混合物からDNA断片を調製する工程、前記調製したDNA断片と、混合物に含まれる可能性のある生物ごとの特異的DNA断片とをハイブリダイズさせる工程、ハイブリダイズして結合したDNA断片を検出する工程を含むことを特徴とする、混合物に含まれる生物の同定方法。
【請求項31】
複数の生物の混合物が、板ノリ又は配合飼料である請求項30に記載の混合物に含まれる生物の同定方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−27989(P2009−27989A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196641(P2007−196641)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(501379247)日本ソフトウェアマネジメント株式会社 (12)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】