説明

共重合ポリアミド繊維

【課題】 本発明は、高強力、高モジュラス、高耐熱性であり、且つ吸湿による物性低下が小さく、さらに溶融紡糸性に優れたポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】 (a)炭素数が4〜12の脂肪族ジアミンとテレフタル酸との等量モル塩から得られる構成単位50〜95モル%、及び(b)11−アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムから得られる構成単位50〜5モル%からなる、濃硫酸中30℃で測定した相対粘度が1.0〜4.0である共重合ポリアミドからなることを特徴とする共重合ポリアミド繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強力、高モジュラス、高耐熱性であり、且つ吸湿による物性低下が小さく、さらに溶融紡糸性に優れたポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維としては、ナイロン6、ナイロン66が知られており、高強力で耐久性に優れていることから種々の産業資材用途に用いられてきた。しかし、これらのポリアミド繊維は、熱や吸水による寸法安定性が悪いという欠点を有しており、改良が求められていた。その課題に対して、引用文献1は高融点で高結晶性ポリアミドであるナイロン46の繊維を提案し、耐熱性および寸法安定性に優れた繊維として産業資材分野への展開が検討されている。しかし、ナイロン46は吸湿による物性低下が大きいという欠点があるために、改善が求められている。
【0003】
一方、最近、脂肪族ポリアミドの耐熱性不足、吸湿による物性低下等の問題点を解決するために、テレフタル酸単位を含有する半芳香族ポリアミドが種々提案され、成型樹脂材料用途分野で実用化されている。繊維用途においても、ヘキサメチレンジアミン(6)とテレフタル酸(T)との共縮重合反応により合成される6Tナイロンが検討されているが、共重合されていない6Tナイロンは360℃を超える融点を有するため、得られたポリマーの溶融紡糸が困難であるという欠点を有する。
【0004】
6Tナイロンの特性を活かしつつ溶融紡糸を付与するために、6Tナイロンにさらに別の成分を共重合した共重合ポリアミドも検討されている。特許文献2には、6Tナイロンに66ナイロン(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との共縮重合反応により合成されるナイロン)を共重合した共重合ポリアミドが開示されている。この共重合ポリアミドは、融点を下げられることから溶融紡糸が可能となっているが、スルホンアミド化合物を添加して可塑化する必要があり、残存するスルホンアミド化合物による物性低下が避けられないという問題点を有する。
【0005】
又、特許文献3には、6Tナイロンに芳香族ヒドロキシ化合物を配合することで溶融紡糸を可能となっているが、芳香族ヒドロキシ化合物の除去工程や残留した芳香族ヒドロキシ化合物による物性低下があり、実用化には至っていない。
【0006】
また、特許文献4には、1,9−ノナンジアミン(9)とテレフタル酸(T)とを共縮重合反応により合成される9Tナイロンが開示されている。9Tナイロンは低吸水性でかつ機械的特性に優れるという利点を有するが、紡糸性が悪い欠点を有する。
【0007】
このように、従来公知の6T系ナイロンでは溶融紡糸するためには可塑剤添加や融点を下げるための共重合成分の導入を行っているが、溶融紡糸性と6T系ナイロン由来の優れた樹脂特性の両立をできるものではなかった。さらに6T以外のナイロンでも物性と紡糸性を両立するものは無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−135513号公報
【特許文献2】特公昭45−17551号公報
【特許文献3】特開昭63−254138号公報
【特許文献4】特開平07−228690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明に用いるポリマーによれば、従来公知の共重合ナイロンでは達成できなかった、添加剤を配合することなく溶融紡糸が可能であり、且つ強力、高モジュラス、耐熱性、耐水性及び耐薬品性を高度に満足する繊維を提供できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために、脂肪族ジアミンとテレフタル酸との等量モル塩から得られる構成単位と共重合する成分の種類及びその量について鋭意検討した結果、炭素数が4〜12の脂肪族ジアミンとテレフタル酸との等量モル塩から得られる構成単位と11ナイロンを特定の割合で共重合したポリアミドを用いることによって、溶融紡糸が可能であり、添加剤を配合することなく溶融紡糸が可能であり、且つ強力、高モジュラス、耐熱性、耐水性及び耐薬品性を高度に満足する繊維提供することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、(a)炭素数が4〜12の脂肪族ジアミンとテレフタル酸との等量モル塩から得られる構成単位50〜95モル%、及び(b)11−アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムから得られる構成単位50〜5モル%からなる共重合ポリアミドであって、濃硫酸中30℃で測定した相対粘度が1.0〜4.0である共重合ポリアミドからなることを特徴とするポリアミド繊維が提供される。
【0012】
本発明のさらに好ましい態様としては、(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、または前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大30モル%まで含有するポリアミド繊維が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリアミド繊維は、高強力、高モジュラスで、かつ耐熱性、耐水性、耐薬品性、などの諸特性にも優れており、タイヤ類、ベルト類、ホース類、ターポリンなどのゴム製品の補強用材料、重布類、ロープ類、網類などの産業資材用途のほか、衣料用途、カーペット用途、エアバック用途などに好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の共重合ポリアミド繊維について詳述する。本発明の共重合ポリアミド繊維は、主成分である(a)成分と11ナイロンに相当する(b)成分を特定の割合で含有するポリアミドから得られるものであり、高強力、高モジュラスで、かつ耐熱性、耐水性、耐薬品性、などの諸特性を高度に満足するという特徴を有する。
【0015】
(a)成分は、メチレン鎖4〜12の脂肪族ジアミンとテレフタル酸との等量モル塩から得られる構成単位のポリアミドであり、具体的には、下記式(I)で表されるものである。下式のnはメチレン鎖数を表し、4〜12の範囲である。
【0016】
【化1】

【0017】
(a)成分は、本発明の共重合ポリアミド繊維の主成分であり、共重合ポリアミド繊維に優れた高強力、高モジュラスで、かつ耐熱性などを付与する役割を有する。共重合ポリアミド中の(a)成分の配合割合は、50〜95モル%であり、好ましくは70〜95モル%、さらに好ましくは80〜95モル%である。(a)成分の配合割合が上記下限未満の場合、結晶成分である(a)成分が共重合成分により結晶阻害を受け、高強力、高モジュラスの低下を招くおそれがあり、一方上記上限を超える場合、融点が高くなり過ぎ紡糸できない恐れがあり、好ましくない。
【0018】
(a)成分に用いる具体的な脂肪族ジアミンとしては、1,4−テトラメチレンジアミン、5−ベンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミンなどが挙げられるが、その中でも耐水性と耐熱性との両立の面より1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−ウンデカメチレンジアミンが好ましい。
又、(a)成分に用いる脂肪族ジアミンとして、炭素数が4〜12の分岐型ジアミンを一部に併用しても良い。具体的な分岐型ジアミンとしては、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノペンタン、2−エチル−1,4−ジアミノブタン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、2,4−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1,8−ジアミノオクタン、2,2,4−トリメチル−1,6−ジアミノヘキサン、2,4,4−トリメチル−1,6−ジアミノヘキサン挙げられる。その中でも好ましい分岐型ジアミンとしては、直鎖型ジアミンと分岐型ジアミンの直鎖部分の炭素数の差が2〜4の範囲であるジアミンである。
【0019】
(b)成分は、11−アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムを重縮合させることにより得られる11ナイロンに相当するものであり、具体的には、下記式(II)で表されるものである。
【0020】
【化2】

【0021】
(b)成分は、(a)成分の欠点を改良するためのものであり、添加剤を配合することなく溶融紡糸を可能にし、且つ6T系ナイロンの特性である耐熱性、耐水性及び耐薬品性を高度に満足するものである。
共重合ポリアミド中の(b)成分の配合割合は、50〜5モル%であり、好ましくは30〜5モル%、更に好ましくは20〜5モル%である。(b)成分の配合割合が上記下限未満の場合、共重合ポリアミドの融点が高すぎるために安定して紡糸することができず、紡糸性能が不十分である。上記上限を超える場合、共重合ポリアミドの結晶性が大幅に低下し結晶化速度が遅くなり紡糸性が悪くなるおそれがあると共に、(a)成分の量が少なくなり、耐熱性が不足するおそれがあり、好ましくない。
【0022】
本発明の共重合ポリアミドは、上記(a)成分及び(b)成分以外に、(c)上記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、または上記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大30モル%共重合しても良い。(c)成分としては、(a)成分及び(b)成分によっては得られない他の特性を付与したり、(a)成分及び(b)成分によって得られる特性をさらに改良する役割を有するものである。
【0023】
(c)に用いる共重合成分は具体的には以下のような共重合成分が挙げられる。アミン成分としては、1,2−エチレンジアミン、1,3−トリメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、1,18−オクタデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、ピペラジン、シクロヘキサンジアミン、ビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタン、ビス−(4,4’−アミノシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミンのような脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンおよびこれらの水添物等があげられる。ポリアミドの酸成分としては、以下に示す多価カルボン酸、もしくは酸無水物を使用できる。多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボンル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホン酸ナトリウムイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11−ウンデカン二酸、1,12−ドデカン二酸、1,14−テトラデカン二酸、1,18−オクタデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等があげられる。また、ε−カプロラクタムなどのラクタムおよびこれらが開環した構造であるアミノカルボン酸などがあげられる。
【0024】
具体的な(c)成分としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ナイロンPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ナイロンPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ナイロンPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ナイロンPACM14)などが挙げられる。
【0025】
本発明に用いられる共重合ポリアミドは、その分子鎖の末端基を末端封止剤により封止されていても良く、耐加熱黄変性に優れたポリアミド繊維が得られる。
【0026】
ポリアミドの製造法は特に制限されず、結晶性ポリアミドを製造する方法として知られている任意の製造方法を用いることができる。例えば、酸クロライドとジアミンを原料とする溶液重合法あるいは界面重合法、ジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出機重合法などの方法により重合可能である。
【0027】
本発明の共重合ポリアミドを製造するに際に使用する触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸もしくはその金属塩やアンモニウム塩、エステルが挙げられる。金属塩の金属種としては、具体的には、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどが挙げられる。エステルとしては、エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどを添加することができる。また、溶融滞留安定性向上の観点から、水酸化ナトリウムを添加することが好ましい。
【0028】
本発明の共重合ポリアミドの96%濃硫酸中30℃で測定した相対粘度(RV)は1.0〜4.0であり、好ましくは1.0〜3.5、より好ましくは1.5〜3.0である。相対粘度(RV)がこの範囲であると、溶融紡糸性が良好であり、さらに得られる繊維の力学的性能も優れている。ポリアミドの相対粘度を一定範囲とする方法としては、分子量を調整する手段が挙げられる。
【0029】
本発明の共重合ポリアミドは、アミノ基量とカルボキシル基とのモル比を調整して重縮合する方法や末端封止剤を添加する方法によって、ポリアミドの末端基量および分子量を調整することができる。アミノ基量とカルボキシル基とのモル比を一定比率で重縮合する場合には、使用する全ジアミンと全ジカルボン酸のモル比をジアミン/ジカルボン酸=1.00/1.05から1.10/1.00の範囲に調整することが好ましい。
【0030】
末端封止剤を添加する時期としては、原料仕込み時、重合開始時、重合後期、または重合終了時が挙げられる。末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はないが、モノカルボン酸またはモノアミン、無水フタル酸等の酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などを使用することができる。末端封止剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン等が挙げられる。
【0031】
本発明の共重合ポリアミドの酸価およびアミン価としては、それぞれ0〜150eq/トン、0〜100eq/tonであることが好ましい。末端官能基が150eq/ton超であると、溶融滞留時にゲル化や劣化が促進されるだけでなく、使用環境下においても、着色や加水分解等の問題を引き起こす。
【0032】
本発明の繊維に用いる共重合ポリアミドに対して、安定剤を配合しても良い。安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などの有機系酸化防止剤や熱安定剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、イミダゾール系等の光安定剤や紫外線吸収剤、金属不活性化剤、銅化合物などが挙げられる。銅化合物としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、塩化第二銅、臭化第二銅、ヨウ化第二銅、燐酸第二銅、ピロリン酸第二銅、硫化銅、硝酸銅、酢酸銅などの有機カルボン酸の銅塩などを用いることができる。さらに銅化合物以外の構成成分としては、ハロゲン化アルカリ金属化合物を含有することが好ましく、ハロゲン化アルカリ金属化合物としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウムなどが挙げられる。これら添加剤は、1種のみの単独使用だけではなく、数種を組み合わせて用いても良い。安定剤の添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド100重量部に対して0〜5重量部を添加することが可能である。特に、熱安定剤としてヒンダードフェノールなどの有機系安定剤、ヨウ化銅などのハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウムなどのハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、紡糸時の溶融滞留安定性、紡糸した後の糸の耐乾熱劣化性が更に向上するので好ましい。
【0033】
また、本発明に用いる共重合ポリアミドは、本発明の共重合ポリアミドとは異なる組成のポリアミドをポリマーブレンドしても良い。本発明の共重合ポリアミドと異なる組成のポリアミドとしては、特に制限は無いが、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ナイロンPXD6)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ナイロン4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ナイロン5T)、ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ナイロンM−5T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン6T(H))、ポリ2−メチル−オクタメチレンテレフタルアミド、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ナイロンPACMT)ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ナイロンPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテトラデカミド(ナイロンPACM14)、ポリアルキルエーテル共重合ポリアミドなどの単体、もしくはこれらの共重合ポリアミドを単独または二種以上を使用しても良い。これらの中でも、結晶速度を向上させるために、ナイロン66やナイロン6T66などをポリマーブレンドしても良い。本発明の共重合ポリアミドとは異なる組成のポリアミドの添加量は最適な量を選択すれば良いが、共重合ポリアミド100重量部に対して0〜50重量部を添加することが可能である。
【0034】
本発明の共重合ポリアミドは、従来公知の方法で製造することができるが、例えば、(a)成分の原料モノマーであるジアミン、テレフタル酸、及び(b)成分原料モノマー、並びに必要により(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩、または前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる原料モノマーを共縮合反応させることによって容易に合成することができる。共縮重合反応の順序は特に限定されず、全ての原料モノマーを一度に反応させてもよいし、一部の原料モノマーを先に反応させ、続いて残りの原料モノマーを反応させてもよい。また、重合方法は特に限定されないが、原料仕込からポリマー作製までを連続的な工程で進めても良いし、一度オリゴマーを作製した後、別工程で押出し機などにより重合を進める、もしくはオリゴマーを固相重合により高分子量化するなどの方法を用いても良い。原料モノマーの仕込み比率を調整することにより、合成される共重合ポリアミド中の各構成単位の割合を制御することができる。
【0035】
ポリアミドの製造に用いる触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらのアンモニウム塩、それらの金属塩(カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどの金属塩)、それらのエステル類(エチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなど)を挙げることができる。これらのなかでも、次亜リン酸ナトリウムが入手し易さ、取扱いの簡便さなどから好ましい。
【0036】
溶融紡糸は、スクリューを用いる押出機を使用するのが好ましい。上記のポリアミドを、好ましくは融点〜360℃で溶融し、30分以内の溶融滞留時間で、口金ノズルより紡出することにより繊維を得ることができる。溶融温度および溶融滞留時間が上記条件を満たしていれば、紡糸時の熱分解やゲル物発生を抑えることができ、高品質の共重合ポリアミド繊維を得ることができる。
【0037】
本発明の繊維は、紡出した糸を引取りローラーなどにより引き取ることができる。この時、必要に応じて、ノズル直下に加熱または保温ゾーンを設けたり、吹き付けチャンバーなどによる冷却ゾーンを設けたり、紡出した糸条に油剤を塗布してもよい。
【0038】
延伸は、加熱浴、加熱蒸気吹付け、ローラーヒーター、接触式プレートヒーター、非接触式プレートヒーター等を使用して、280℃以下で行うのが好ましく、140℃〜260℃で行うのがより好ましい。さらに、延伸倍率は2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。延伸条件は、280℃より高い温度で延伸を行うと、ポリアミド樹脂の劣化が起こるため強度が低下する。必要に応じて、延伸に引き続いて、さらに120〜270℃で定長熱処理、緊張熱処理または弛緩熱処理を行うことができる。上記の方法の他にも、紡糸直結延伸を行うことも可能である。得られた共重合ポリアミド繊維は、通常の染色方法で染色することもできる。
【0039】
本発明のポリアミド繊維は、高強力、高弾性率で、かつ耐熱性、耐水性、耐薬品性、耐加熱黄変性、染色堅牢性などの諸性能にも優れているので、タイヤ類、ベルト類、ホース類、ターポリンなどのゴム製品の補強用材料、重布類、ロープ類、網類などの産業資材用途のほか、衣料用途、カーペット用途などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値及び評価結果は、以下の方法によって測定したものである。
【0041】
(1)相対粘度
ポリアミド樹脂0.25gを96%硫酸25mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0042】
(2)紡糸性
紡糸性は紡糸状態を下記の基準によって評価した。
○:5時間以上の連続紡糸ができる。
△:5時間以上の連続紡糸ができない。
×:気泡が混入して断糸する又は溶融が不十分なために断糸する。
【0043】
(3)強力及び弾性率
JIS L 1013に準じて測定した。
【0044】
(4)耐薬品性
耐薬品性は、延伸糸したモノフィラメントを80℃の条件で5%塩酸、5%水酸化ナトリウム水溶液及び蒸留水中に、10時間浸漬した。処理前後の強度を測定し、強度の保持率(%)を求めた。
【0045】
(5)吸水率
吸水率は、延伸糸約2gを真空乾燥機にて乾燥(50℃で24時間)した後に、調湿されたデシケーター(95%RH)中に1週間放置し、以下の式より求めた。
飽和吸水率(%)=(飽和吸水時の重量−乾燥時重量)/乾燥時重量×100
【0046】
ポリマー合成例1
ヘキサメチレンジアミンを6.96kg、テレフタル酸9.96kg、11−アミノウンデカン酸8.04kg、触媒としてジ亜リン酸ナトリウム9g、末端調整剤として酢酸40gおよびイオン交換水17.52kgを50リットルのオートクレーブに仕込み、常圧から0.05MPaまでN2で加圧し、放圧させ、常圧に戻した。この操作を3回行い、N2置換を行った後、攪拌下135℃、0.3MPaにて均一溶解させた。その後、溶解液を送液ポンプにより、連続的に供給し、加熱配管で240℃まで昇温させ、1時間、熱を加えた。その後、加圧反応缶に反応混合物が供給され、290℃に加熱され、缶内圧を3MPaで維持するように、水の一部を留出させ、低次縮合物を得た。その後、この低次縮合物を、溶融状態を維持したまま直接二軸押出し機(スクリュー径37mm、L/D=60)に供給し、樹脂温度を330℃、3箇所のベントから水を抜きながら溶融下で重縮合を進め、共重合ポリアミドを得た。得られた共重合ポリアミドの特性を評価し、表1に示す。
【0047】
ポリマー合成例2〜10
下記の表1に記載したモル%の比率で、原料モノマー、触媒、末端調整剤として酢酸及びイオン交換水を50リットルのオートクレーブに仕込み、合成例1と同様にして重縮合を進め、共重合ポリアミドを得た。得られた共重合ポリアミドの特性を評価し、表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1〜7、比較例1〜3
フローテスター(口金:0.3mmφ)を用いて、合成例1〜10で得られた共重合ポリアミドを、下記の表2に示す紡糸温度で、吐出速度と巻取速度の比(ドラフト比)が15前後となるような条件下で紡糸することにより、モノフィラメンを得た。モノフィラメンについて評価した結果を下記の表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例8〜10、比較例4
合成例1〜3、8で得られたポリアミドを、押出機を用いて下記の表2に示す紡糸温度で溶融押出し、0.2mmφ×24ホールの丸孔ノズルから吐出し、吐出速度と巻取速度の比(ドラフト比)が10〜50の間になるように、吐出速度及び巻取速度を調節し、巻取速度500〜2000m/分の範囲で巻取った。ついで、140℃のホットローラー、200℃のホットプレートを用い、75デニール/24フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントについて、評価した結果を下記の表3に示す。
【0052】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の共重合ポリアミド繊維は、高強力、高モジュラスで、かつ耐熱性、耐水性、耐薬品性、などの諸特性にも優れており、タイヤ類、ベルト類、ホース類、ターポリンなどのゴム製品の補強用材料、重布類、ロープ類、網類などの産業資材用途のほか、衣料用途、カーペット用途、エアバック用途として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)炭素数が4〜12の脂肪族ジアミンとテレフタル酸との等量モル塩から得られる構成単位50〜95モル%、及び(b)11−アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムから得られる構成単位50〜5モル%からなる、濃硫酸中30℃で測定した相対粘度が1.0〜4.0である共重合ポリアミドからなることを特徴とする共重合ポリアミド繊維。
【請求項2】
共重合ポリアミドが、(c)前記(a)の構成単位以外のジアミンとジカルボン酸の等量モル塩から得られる構成単位、または前記(b)の構成単位以外のアミノカルボン酸もしくはラクタムから得られる構成単位を最大30モル%まで含有する請求項1に記載の共重合ポリアミド繊維。
【請求項3】
(a)成分の脂肪族ジアミンが、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン,1,9−ノナンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン及びこれらの混合物からなる群より選ばれるジアミンである請求項1又は2に記載の共重合ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2012−136796(P2012−136796A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289505(P2010−289505)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】