説明

共重合ポリエステルの製造方法および共重合ポリエステル

【課題】ダイレクト成形品に必要な強度を持ち、優れた耐熱性、耐衝撃性、さらには高透明性を有する共重合ポリエステルの効率的な製造方法、およびそれにより得られる共重合ポリエステルを提供する。
【解決手段】上記課題は、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される脂環族ジオールから構成されたポリエステルの製造方法において、少なくとも下記の工程を含んでなることを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法によって解決することができる。工程1:芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される脂環族ジオールとを溶融状態で反応させる工程。工程2:工程1で製造した共重合ポリエステルとジフェニルカーボネートである重合促進剤との反応で、共重合ポリエステルの固有粘度を重合促進剤との反応前の固有粘度より増加させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエチレンナフタレート樹脂を用いた溶融重合によって耐熱性、や耐衝撃性さらには透明性に優れたポリエステル重合体およびその製造方法に関するものである。本発明で得られた共重合ポリエチレンナフタレート重合体は、医療用材料や食品包装材料に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、医療用材料や食品包装材料などにプラスチックを用いる研究開発が精力的に行われており、医療用材料や食品包装材料においては成形品の耐熱性や耐衝撃性、さらには透明性が要求される。医療用材料には非晶性の環状ポリオレフィンが、食品容器材料にはポリカーボネートや芳香族ポリエステルなどが使用されている。しかし、環状ポリオレフィンは耐熱性や透明性に優れるものの、酸素バリア性が低いことが問題視されている(例えば、特許文献1、2など参照。)。一方、ポリカーボネートにおいては耐熱性、透明性に優れているものの人体に悪影響(特に内分泌かく乱作用)を及ぼすとされているビスフェノールAを使用していること(例えば、特許文献3参照。)、芳香族ポリエステルにおいては、酸素バリア性は優れているものの、吸水性、耐熱性、透明性不足であることが問題である(例えば、特許文献4参照。)。最後に、共重合ポリエチレンナフタレートでも耐熱性不足と言った問題がある(例えば、特許文献5、6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−186632号公報
【特許文献2】特開2008−208237号公報
【特許文献3】特開平02−189347号公報
【特許文献4】特開平10−245433号公報
【特許文献5】特開平10−017661号公報
【特許文献6】特開平11−293005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために検討した結果達成されたものであって、ダイレクト成形品に必要な強度を持ち、優れた耐熱性、耐衝撃性、さらには高透明性を有する共重合ポリエステルの効率的な製造方法、およびそれにより得られる共重合ポリエステルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下2つの工程を用いることによってダイレクト成形に必要な強度を持ち、耐熱性、耐衝撃性に優れた共重合ポリエステルが提供できることを見出し、本発明を解決した。即ち本発明は、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される脂環族ジオールから構成されたポリエステルの製造方法において、少なくとも下記の工程を含んでなることを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。
工程1:芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される脂環族ジオールとを溶融状態で反応させる工程
工程2:工程1で製造した共重合ポリエステルと下記式(II)で示される重合促進剤との反応で、共重合ポリエステルの固有粘度を重合促進剤との反応前の固有粘度より増加させる工程
【0006】
すなわち、下記式(I)で表されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールを好ましくは2,6−ナフタレンジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、さらに好ましくははエチレングリコールと熱安定剤とチタン化合物を使用して重縮合せしめる工程、さらには下記式(II)で表されるジフェニルカーボネートを使用して重縮合せしめる工程、といった2つの製造工程を経て得られる共重合ポリエステルの製造方法および共重合ポリエステルである。
【0007】
【化1】

【化2】

【発明の効果】
【0008】
本発明の共重合ポリエステルは耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れており、押出成形や射出成形にも適した共重合ポリエステルを得ることができる。さらには、人体に悪影響を及ぼす物質(特に内分泌かく乱作用)を使用していないために、医療用材料や食品容器材料に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いられる芳香族ジカルボン酸またはその誘導体としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸を主成分とするが、本発明の共重合ポリエチレンナフタレートの特性を損なわない範囲で他のジカルボン酸を併用することができる。「主成分とする」とは、共重合ポリエステルを構成するジカルボン酸単位のうち70モル%以上が上記の成分であることを表している。また他のジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シュウ酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。さらに「その誘導体」とはエステル形成性誘導体であることを表し、具体的には芳香族ジカルボン酸の炭素数1〜20のジアルキルエステル、炭素数6〜20のジアリールエステル、ジ酸クロライド、ジ酸ブロマイド等のエステル形成性誘導体であることが好ましい。炭素数1〜20のアルキルエステルや炭素数6〜20のアリールエステルは更にその水素原子の1個または2個以上がハロゲン原子、アルキルエーテル基、アリールエーテル基、アルキルエステル基、アリールエステル基、アセチル基等のアルキルカルボニル基、ベンゾイル基等のアリールカルボニル基で置換されているものであっても良い。炭素数6〜20のアリールエステルは更にその水素原子の1個または2個以上が炭素数1〜10のアルキル基で置換されているものであっても良い。本発明の共重合ポリエチレンナフタレートの特性を損なわない範囲とは、全酸成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0010】
本発明に用いられるジカルボン酸の炭素数1〜20のアルキルエステルとしては好ましくはメチルエステルが主成分であるが、本発明の共重合ポリエチレンナフタレートの特性を損なわない範囲でエチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。本発明の共重合ポリエチレンナフタレートの特性を損なわない範囲とは、全ジカルボン酸の低級アルキルエステル形成性誘導体成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。
【0011】
また、少量のトリメリット酸のような三官能性以上のカルボン酸成分を用いてもよく、無水トリメリット酸のような酸無水物を少量用いてもよい。また、乳酸、グリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル等を少量用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。
【0012】
本発明に用いられる脂肪族ジオールとしてはエチレングリコールを主成分とするが、本発明の共重合ポリエチレンナフタレートの特性を損なわない範囲で他のグリコール成分を併用することができる。例えば、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(オキシ)エチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリメチレングリコール等のアルキレングリコールの1種もしくは2種以上を用いてもよく、目的によって任意に選ぶことができる。さらに少量のグリセリンのような多価アルコール成分を用いてもよい。また少量のエポキシ化合物を用いてもよい。本発明の共重合ポリエチレンナフタレートの特性を損なわない範囲とは、全グリコール成分に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下である。かかる脂肪族ジオールの共重合ポリエステル製造の際の使用量は、前記ジカルボン酸もしくはジカルボン酸のエステル形成性誘導体に対して1.0モル倍以上2.0モル倍以下であることが必要である。好ましくは1.0モル倍以上1.5モル倍以下である。グリコール成分の使用量が1.0モル倍に満たない場合にはエステル化あるいはエステル交換反応が十分に進行せず好ましくない。また、2.0モル倍以上を超える場合にも、理由は定かではないが反応速度が遅くなり、過剰のグリコール成分からの副生成物(たとえばジエチレングリコール)量が大となり好ましくない。
【0013】
また、本発明においては下記式(I)で示されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールを共重合されていることを特徴とする。
【0014】
【化3】

【0015】
このトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールの具体例としては下記式(1a)〜(1c)(式中、環を構成する炭素原子は置換基を有していてもよい)で示されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3,8−、3,9−及び4,8−ジメタノール類から選択された少なくとも1種のトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール類を含むジオール成分を挙げることができる。
【0016】
【化4】

【0017】
本発明の共重合ポリエステルに共重合されているジオール成分には、前記式(I)で表される少なくとも1種のトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール類が含まれている。
【0018】
上記式(I)中に示される2つのヒドロキシメチル基はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する何れの炭素原子(橋頭位又は非橋頭位の炭素原子)に結合していてもよい。例えば、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環をノルボルナン環とシクロペンタン環とに分けた場合、2つのヒドロキシメチル基がともにノルボルナン環側の炭素原子に結合していてもよく、2つのヒドロキシメチル基がともにシクロペンタン環側の炭素原子に結合していてもよい。また、一方のヒドロキシメチル基がノルボルナン環側の炭素原子に結合し、他方のヒドロキシメチル基がシクロペンタン環側の炭素原子に結合していてもよい。これらの位置異性体は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、式(1a)〜(1c)で表されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール類にはエンド体とエキソ体とが存在し得るが、本発明ではこれらの一方又は混合物の何れをも使用できる。
【0019】
上記式(I)において、環を構成する炭素原子(橋頭位又は非橋頭位の炭素原子)は、前記2つのヒドロキシメチル基に加えて、他の置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル基などのアルキル基(例えば、C1−10アルキル基、好ましくはC1−4アルキル基);シクロペンチル、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル、ナフチル基などのアリール基;メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ基などのアルコキシ基(例えば、C1−4アルコキシ基);メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基(例えば、C1−4アルコキシ−カルボニル基);アセチル、プロピオニル、ブチリル、ベンゾイル基などのアシル基;ヒドロキシル基;カルボキシル基;ニトロ基;置換又は無置換アミノ基;ハロゲン原子;オキソ基などが挙げられる。
【0020】
上記式(I)で表されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール類の中でも、前記式(1a)〜(1c)で表されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3,8−ジメタノール類、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3,9−ジメタノール類及びトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−4,8−ジメタノール類が好ましい。なお、式(1a)〜(1c)において、環を構成する炭素原子が有していてもよい置換基は前記と同様である。上記式(I)で表されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール類は公知乃至慣用の方法により得ることができる。また本発明においては、当該トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール類をポリエチレンナフタレートに共重合することによって、ポリエチレンナフタレートに透明性を保ちつつ、高い耐熱性と耐衝撃性を付与する事ができると出願人は考える。本発明では、上記式(I)で表されるトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール類から1種の化合物のみを選択して使用してもよく、ジメタノール部分の置換基の位置の異なる複数の化合物を併用してもよい。
【0021】
また、重合触媒としては種々の金属化合物が用いられるが、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルには三酸化アンチモンなどのようなアンチモン(Sb)化合物が安価でかつ高重合活性を持つことから広く用いられる。しかし、Sb化合物は、その一部が反応中に還元されて金属Sbやその他の異物を生成し、その結果ポリエステルの色を黒ずませたり、製造工程を不安定化させたりして成形品の品質を悪化させるといった問題を抱えている。
【0022】
アンチモン化合物以外の重合触媒としては、ゲルマニウム(Ge)化合物、テトラ−n−ブトキシチタンのようなチタン(Ti)化合物が提案されている。Ge化合物は高価であるために、ポリエステルの製造コストが高くなるという問題がある。一方Ti化合物を重合触媒として使用した場合、上記のような金属Sbやその他の異物の生成が抑制され、上述の異物に対する問題は改善される。しかし、チタン化合物を重合触媒として用いた場合、ポリエステルが黄色く着色されたり、溶融熱安定性が乏しかったりするといったTi化合物特有の問題がある。そこで、Ti化合物による着色や溶融熱安定性を付与するために特定のリン化合物を加えた(特開2004−175837号公報参照)。これにより、ポリエステルの着色は抑えられ、かつ溶融熱安定性が付与される。この安定剤の添加量は生成する透明性ポリエステル樹脂中のリン含有量として60ppm以上であることが好ましい。
【0023】
上述した安定剤として本願の共重合ポリエステルに含有されるリン化合物としては、下記一般式(III)により表されるリン化合物を用いることが好ましい。
【0024】
【化5】

[上記式中、R、R及びRは、同一又は異なって炭素原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは、−CH−又は―CH(Y)を示す(Yは、ベンゼン環を示す)。]
【0025】
ここで、前記一般式(III)により表されるリン化合物としては、カルボメトキシメタンホスホン酸、カルボエトキシメタンホスホン酸、カルボプロポキシメタンホスホン酸、カルボプトキシメタンホスホン酸、カルボメトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸、カルボプロトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸若しくはカルボブトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸のジメチルエステル類、ジエチルエステル類、ジプロピルエステル類又はジブチルエステル類から選ばれることが好ましい。より具体的にはトリメチルホスホノアセテート、トリエチルホスホノアセテート(ホスホノ酢酸トリエチル)、トリプロピルホスホノアセテート、トリブチルホスホノアセテート、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸ジメチルエステル、カルボエトキシ−ホスホノ−フェニル酢酸ジエチルエステルが好ましく選択される。
【0026】
上述のリン化合物は、共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸に対して10〜50mmol%含有することが好ましい。より好ましくは15〜50mmol%、更に好ましくは15〜40mmol%含有することである。またリン元素換算とすると5〜40ミリモル%、好ましくは8〜35ミリモル%、更に好ましくは10〜30ミリモル%の範囲とすることが好ましい。該リン化合物が含有量が微量であるために、当該化合物を含有するとしても当業者であれば、本発明を共重合ポリエステルと称することもあるであろう。該リン化合物が下限値未満であるとポリエステルの色調が低下しやすくなり、また上限値を超えると重合反応が進行しにくくなる為好ましくない。上記のリン化合物は、通常安定剤として使用されるリン化合物に比較して、チタン化合物又はチタン化合物成分(以下「チタン化合物等」と略称する。)との反応が比較的緩やかに進行するので、反応中におけるチタン化合物等の触媒活性持続時間が長く、結果として該チタン化合物のポリエステルへの添加量を少なくすることができ、また、本発明のように触媒に対し多量に安定剤を添加する場合であっても、ポリエステルの熱安定性を損ない難い特性を有している。
【0027】
本発明において重合触媒成分として用いられるチタン化合物としては、テトラアルキルチタネートが好ましく、具体的にはテトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネートなどが挙げられ、これらの混合チタネートとして用いても良い。これらのチタン化合物のうち、特にテトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートが好ましく、最も好ましいのはテトラ−n−ブチルチタネートである。チタン化合物の添加量は生成共重合ポリエチレンナフタレート中のチタン原子含有量として、60ppm以下であることが好ましく、より好ましくは40ppm以下である。生成共重合ポリエチレンナフタレート中のチタン原子量が60ppmを超える場合は共重合ポリエステルの色調、透明性、および熱安定性が低下するために好ましくない。
【0028】
また、本発明の共重合ポリエチレンナフタレートの特性を損なわない範囲において、例えば、オクタアルキルトリチタネートもしくはヘキサアルキルジチタネートなどのテトラアルキルチタネート以外のアルキルチタネート、酢酸チタンやシュウ酸チタンなどのチタンの弱酸塩、酸化チタンなどのチタン酸化物、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイドなどの有機スズ化合物、塩化カリウム、カリウムミョウバン、ギ酸カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸二水素カリウム、グルコン酸カリウム、コハク酸カリウム、酪酸カリウム、シュウ酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、ステアリン酸カリウム、フタル酸カリウム、フタル酸水素カリウム、メタリン酸カリウム、リンゴ酸カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、亜硝酸カリウム、安息香酸カリウム、酒石酸水素カリウム、重蓚酸カリウム、重フタル酸カリウム、重酒石酸カリウム、重硫酸カリウム、硝酸カリウム、酢酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カリウムナトリウム、炭酸水素カリウム、乳酸カリウム、硫酸カリウム硫酸水素カリウム、塩化ナトリウム、ギ酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、シュウ三二ナトリウム、シュウ酸水素ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸水素ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、重シュウ酸ナトリウム、重フタル酸ナトリウム、重酒石酸ナトリウム、重硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、塩化リチウム、ギ酸リチウム、クエン酸三リチウム、クエン酸水素二リチウム、クエン酸二水素リチウム、グルコン酸リチウム、コハク酸リチウム、酪酸リチウム、シュウ酸二リチウム、シュウ酸水素リチウム、ステアリン酸リチウム、フタル酸リチウム、フタル酸水素リチウム、メタリン酸リチウム、リンゴ酸リチウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素リチウム、亜硝酸リチウム、安息香酸リチウム、酒石酸水素リチウム、重シュウ酸リチウム、重フタル酸リチウム、重酒石酸リチウム、重硫酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、乳酸リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウムなどのアルカリ金属塩、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、コハク酸カルシウム、酪酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リン酸カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化マグネシウム、ギ酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、酪酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩の1種もしくは2種以上をチタン化合物と組み合わせても良い。
【0029】
本発明における重合促進剤としては、例えばジフェニルカーボネート、2,6−ジフェニルナフタレートが挙げられる。ジフェニルカーボネートに替えて、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジブチルカーボネートなどのカーボネート化合物を用いてもよいが、ジフェニルカーボネートが最も好ましい。ジフェニルカーボネートの添加量は共重合ポリエステルに対して2.0重量%以上、6.0重量%以下が好ましく、2.5重量%以上、5.0重量%以下が最も好適である。添加量が2.0重量%以下であれば規定の固有粘度まで上げることが難しく、6.0重量%を超えて添加すると溶融重合時の粘度が高くなり過ぎてしまい好ましくない。
【0030】
本発明における上記組成の共重合ポリエステルの製造方法において、少なくとも下記の工程を含んでなることが必要である。
工程1:芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される脂環族ジオールとを溶融状態で反応させる工程
工程2:工程1で製造した共重合ポリエステルと下記式(II)で示される重合促進剤との反応で、共重合ポリエステルの固有粘度を重合促進剤との反応前の固有粘度より増加させる工程
【0031】
【化6】

【化7】

【0032】
本発明の工程1における製造方法においては、上記の芳香族ジカルボン酸またはその誘導体、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される脂環族ジオールを上記の重合触媒の存在下で加熱溶融反応せしめることにより製造される。重合反応の初期は常圧下で、反応温度は150℃以上、好ましくは200℃以上、特に好ましくは240℃以上とし、反応の進行とともに昇温するのが好ましい。この場合の上限は350℃、好ましくは320℃程度である。この常圧反応の際には、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。220℃以上320℃以下、好ましくは240℃以上300℃以下とした後減圧することが好ましい。反応時間は固有粘度が0.30dL/g以上に達するに足る時間であればよく、またこの時間は反応条件によっても異なるが、30分〜10時間程度である。なお、この工程1における反応槽は縦型反応槽、横型反応槽のいずれであっても構わず、その他通常のポリエステルの製造工程で用いられる製造設備を使用することができる。
【0033】
本発明の工程1の製造方法において、共重合ポリエステルの固有粘度は後述する重合促進剤を添加することなく力学的強度などの物性が十分な程度にまで上昇させることができることが好ましい。しかし、溶融粘度が非常に上がることによって反応時間を要したり、加えられる熱によって共重合ポリエステルの分解反応も進行するなどして、共重合ポリエステルの透明性などの物性に悪影響を及ぼすことがある。そこで我々は後述の重合促進剤を使用することによって、短時間で且つ透明性などの物性に悪影響を及ぼすことなく高い固有粘度の共重合ポリエステルを製造する方法を見出すに至った。
【0034】
特許文献4および5等で開示されている従来技術においては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族および脂環族ジオールとを溶融状態で反応させる工程1のみにより製造されていたが、本発明においては、工程1で反応した共重合ポリエステルと重合促進剤との反応で共重合ポリエステルの分子量を増大させることが大きな特徴となっている。該対応により、従来技術で得られていた共重合ポリエステルの抱えていた特性が大幅に改善され高品質な共重合ポリエステルを経済的に、かつ効率的に安定して製造できるようになった。なお、この工程1の反応と工程2の反応は同一槽内にて実施することが好ましい。別の反応槽に移送している間に共重合ポリエステルが熱劣化し、上記の物性らが低下することを抑制でき、また低コストで製造できる可能性があるからである。
【0035】
また本発明の製造方法において、工程2の共重合ポリエステルと重合促進剤との反応は工程1における溶融重合反応時の温度範囲内で行うことが好ましい。更に好ましくは、重合促進剤との反応により生成する低分子化合物を除去するために減圧下で反応を行うことである。
【0036】
本発明により得られる工程2終了後の共重合ポリエステルの固有粘度は機械的強度、成形性の点から0.55〜0.65dL/gが好ましい。固有粘度が0.50dL/g未満では機械的強度に劣り、0.65dL/gを超える場合には流動性が低下して成形加工性に劣るので好ましくない。またガラス転移温度は135℃以上であることが好ましく、より好ましくは140℃以上である。十分な固有粘度値と式(I)で表される化合物の共重合率によって、このガラス転移温度の値の範囲を達成することができる。
【0037】
本発明により得られる共重合ポリエステルを成形して得られる共重合ポリエステル成形品の全光線透過率は90%以上が好ましく、91%以上がより好ましい。全光線透過率が85%以下では成形品の透明性に劣り、医療用シリンジなど透明性を要求される用途には適さないために好ましくない。なお全光線透過率をこの値の範囲にするためには、共重合ポリエステルを製造する際に式(I)で表される化合物の共重合率や重合触媒の濃度を40ppm以下に抑えることによってこの全光線透過率の値の範囲を達成することができる。
【0038】
本発明により得られる共重合ポリエステルのシャルピー衝撃強さは2.0kJ/m以上が好ましい。シャルピー衝撃強さが2.0kJ/m未満であれば、成形品が割れやすくなるため好ましくない。なおシャルピー衝撃強さをこの値の範囲にするためには、共重合ポリエステルを製造する際に上記式(I)で表される化合物の共重合率と、式(II)で表されるジフェニルカーボネートにより固有粘度を0.55〜0.65dL/gの間に調整することによってこのシャルピー衝撃強さの値の範囲を達成することができる。
【0039】
本発明により得られる共重合ポリエステルの荷重1.80MPaにおける荷重たわみ温度は、成形品の物性の点から110℃以上が好ましく、111℃以上がより好ましい。荷重たわみ温度が100℃以下であれば、成形品の耐熱性に劣り好ましくない。なお荷重たわみ温度をこの値の範囲にするためには、共重合ポリエステルを製造する際に、上記式(I)で表される化合物の共重合率によってこの荷重たわみ温度の値の範囲を達成することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中、「部」は質量部、「%」は質量%を意味する。なお、得られた共重合ポリエステルの諸物性の測定は以下の方法により実施した。
【0041】
1)固有粘度(IV)測定
常法に従って、溶媒であるオルトクロロフェノール中、35℃で測定した。
2)ガラス転移温度測定
25℃で24時間減圧乾燥した共重合ポリエステルを示差走査型熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で昇温しながら測定した。測定試料はアルミニウム製パン(TA Instruments社製)に約10mg計量し、窒素雰囲気下で測定した。
3)全光線透過率測定
本発明により得られた共重合ポリエステルを3cm角(厚み3mm)のプレート状に射出成形しJIS K 7105に従い全光線透過率を測定した。
4)シャルピー衝撃強さ測定
本発明により得られた共重合ポリエステルをISO 179の方法に従い測定を行った。
5)荷重たわみ温度測定
本発明により得られた共重合ポリエステルを80mm×10mm×4mmの試験片に成形した後、ISO 75の方法に従い測定を行った。
6)耐薬品性試験測定
本発明により得られた共重合ポリエステルの成形品を23℃で500時間アセトン中に浸漬させ、外観の変化を確認した。全く変化しなかったものには○を、白化したり膨潤したりしたものについては×とした。
【0042】
[実施例1]
2価ジカルボン酸として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルを22.5部、2価ジオールとしてエチレングリコールを5.7部、さらには共重合成分として、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールを19.9部、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として5ミリモル%加え、反応温度が200℃以上となるように昇温しながら60分間エステル交換反応を行った。ついで、熱安定剤としてホスホノ酢酸トリエチル(以下、TEPAと称することがある)を2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として20ミリモル%を加えて重縮合反応槽に移して重縮合反応を開始した。
重縮合反応は常圧から0.13kPa(1Torr)まで40分掛けて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度290℃まで昇温し、以降は所定の重合温度、0.13kPa(1Torr)の状態を維持して30分間重縮合反応を行った。
重縮合反応開始から180分間が経過した時点で、得られた共重合ポリエステル33.0部に対しジフェニルカーボネートを0.83部加えてさらに20分間反応した後に重縮合反応を終了して共重合ポリエステルを抜き出し、固有粘度、ガラス転移温度、全光線透過率、シャルピー衝撃強さ、荷重たわみ温度、耐薬品性を測定し、その結果を表1に示した。
【0043】
[実施例2]
ジフェニルカーボネートを1.00部に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、全光線透過率、シャルピー衝撃強さ、荷重たわみ温度、耐薬品性を測定し、その結果を表1に示した。
【0044】
[実施例3]
ジフェニルカーボネートを1.16部に変更した以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、全光線透過率、シャルピー衝撃強さ、荷重たわみ温度、耐薬品性を測定し、その結果を表1に示した。
【0045】
[比較例1]
2価ジカルボン酸として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルを35.0部、2価ジオールとしてエチレングリコールを13.9部、重合触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として5ミリモル%加え、反応温度が200℃以上となるように昇温しながら60分間エステル交換反応を行った。ついで、熱安定剤としてホスホノ酢酸トリエチル(以下、TEPAと称することがある)を2価ジカルボン酸のモル数に対して総量として20ミリモル%加えて重縮合反応槽に移して重縮合反応を開始した。
重縮合反応は常圧から0.13kPa(1Torr)まで40分掛けて徐々に減圧し、同時に所定の反応温度290℃まで昇温し、以降は所定の重合温度、0.13kPa(1Torr)の状態を維持して30分間重縮合反応を行った。重縮合反応開始から70分間が経過した時点で重縮合反応を終了して共重合ポリエステルを抜き出し、固有粘度、ガラス転移温度、全光線透過率、シャルピー衝撃強さ、荷重たわみ温度、耐薬品性を測定し、その結果を表1に示した。
【0046】
[比較例2]
2価ジカルボン酸として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルを25.2部、2価ジオールとしてエチレングリコールを5.1部、さらには共重合成分として、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールを24.3部、ジフェニルカーボネートを添加しない以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、全光線透過率、シャルピー衝撃強さ、荷重たわみ温度、耐薬品性を測定し、その結果を表1に示した。
【0047】
[比較例3]
2価ジカルボン酸として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルを25.2部、2価ジオールとしてエチレングリコールを6.4部、さらには共重合成分として、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールを20.3部、ジフェニルカーボネートを添加しない以外は実施例1と同様にして共重合ポリエステルを得た。得られた共重合ポリエステルの固有粘度、ガラス転移温度、全光線透過率、シャルピー衝撃強さ、荷重たわみ温度、耐薬品性を測定し、その結果を表1に示した。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の共重合ポリエステルは耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れており、押出成形や射出成形にも適した共重合ポリエステルを得ることができる。また高い固有粘度、高い溶融粘度となる共重合ポリエステルを容易に製造することができる。さらには、人体に悪影響を及ぼす物質(特に内分泌かく乱作用)を使用していないために、医療用材料や食品容器材料に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される脂環族ジオールから構成されたポリエステルの製造方法において、少なくとも下記の工程を含んでなることを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。
工程1:芳香族ジカルボン酸またはその誘導体と、脂肪族ジオールおよび下記式(I)で示される脂環族ジオールとを溶融状態で反応させる工程
工程2:工程1で製造した共重合ポリエステルと下記式(II)で示される重合促進剤との反応で、共重合ポリエステルの固有粘度を重合促進剤との反応前の固有粘度より増加させる工程
【化1】

【化2】

【請求項2】
前記工程1と前記工程2を同一反応槽で行なうことを特徴とする請求項1に記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記工程2で得られた共重合ポリエステルの固有粘度が0.55〜0.65dL/gであって、下記式(III)で表されるリン化合物を、共重合ポリエステルを構成する2価のカルボン酸に対して10〜50mmоl%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【化3】

[上記式中、R、R及びRは、同一又は異なって炭素数原子数1〜4のアルキル基を示し、Xは、−CH−又は―CH(Y)を示す(Yは、ベンゼン環を示す)。]
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法により得られた共重合ポリエステルであって、ガラス転移温度が135℃以上であることを特徴とする共重合ポリエステル。
【請求項5】
請求項4に記載の共重合ポリエステルを成形して得られ、荷重1.80MPaにおける荷重たわみ温度が110℃以上であることを特徴とする共重合ポリエステル成形品。
【請求項6】
全光線透過率が90%以上であることを特徴とする請求項5に記載の共重合ポリエステル成形品。

【公開番号】特開2012−229369(P2012−229369A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99789(P2011−99789)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】