説明

共重合ポリエステルの製造方法

【課題】
原料の仕込み比率とエステル化反応温度および重縮合反応温度を規定することで、重縮合反応でのオリゴマーの留出量を低減し、共重合ポリエステルを経済的に製造する方法を提供する。
【解決手段】
芳香族ジカルボン酸と炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸とからなるジカルボン酸成分(A)と、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオールよりなる群から選ばれる1種のグリコールからなるグリコール成分(G)とを用いてなる共重合ポリエステルの製造方法であって、グリコール成分(G)とジカルボン酸成分(A)との仕込み比率G/Aが1.05〜1.20、エステル化反応温度が190〜230℃、重縮合反応温度が210〜260℃であることを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材用途に好適に用いることができる共重合ポリエステルを、生産効率良く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、脂肪族ジオールとからなる共重合ポリエステルは、導電性材料やフィラーを分散させてなる樹脂組成物とすることで制振材料などに用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、上記組成の共重合ポリエステルについては、重縮合工程時に脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオール成分とからなる環状1量体を主成分とするオリゴマーが多量に副生し、それらは一旦、留出系へ排除されるものの、留出系内で固形化することとなる。したがって、重縮合反応時もしくは重縮合反応終了後に、上記オリゴマーをさらに留出系から除去しようとしても、留出系内で既に固形化しているオリゴマーによって、配管が閉塞を起こすなどのトラブルが発生し、生産性に問題をきたすものであった。
【特許文献1】特開平09−105066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる問題点を解決し、脂肪族成分が共重合されてなるポリエステルの製造にあたって、環状オリゴマーの副生量を低減でき、留出オリゴマーによる配管の閉塞を抑制し、経済的に製造できる方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定組成からなる共重合ポリエステルにおいて、エステル化工程におけるグリコール成分(G)とジカルボン酸成分(A)との仕込み比率G/A及びエステル化反応温度と重縮合反応温度を特定範囲に規定することで、ポリエステルの製造工程で留出するオリゴマー量を抑制でき、配管の閉塞を生じることなく効率よく共重合ポリエステルの製造ができることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は以下の構成を要旨とするものである。
(1)芳香族ジカルボン酸と炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸とからなるジカルボン酸成分(A)と、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオールよりなる群から選ばれる1種のグリコールからなるグリコール成分(G)とを用いてなる共重合ポリエステルの製造方法であって、グリコール成分(G)とジカルボン酸成分(A)との仕込み比率G/Aが1.05〜1.20、エステル化反応温度が190〜230℃、重縮合反応温度が210〜260℃であることを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。
(2)ポリエステル製造工程でのオリゴマー留出量がポリエステル生成量に対して0.5質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の共重合ポリエステルの製造方法では、脂肪族のジカルボン酸成分並びに脂肪族ジオール成分を含むポリエステルの製造に際し、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなるオリゴマー、特に環状1量体となるオリゴマーの留出を効果的に抑制することができる。
【0008】
これにより、ポリエステルの製造工程でのオリゴマーの留出に起因して発生する配管の閉塞や、減圧不良を抑制することができる。これにより、経済的に効率よく本願組成のポリエステルを製造することができる。
また、本発明の製造方法で得られた共重合ポリエステルは、制震材用途において好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における共重合ポリエステルの製造方法としては、芳香族ジカルボン酸と炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸とからなるジカルボン酸成分(A)と、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、及び2−メチル−1,3−プロパンジオールよりなる群から選ばれる1種のグリコールからなるグリコール成分(G)とを用いてなる共重合ポリエステルの製造方法であって、エステル化反応によりその低重合体を得るエステル化反応工程と、該低重合体から所望の重合度の共重合ポリエステルを得る重縮合反応工程との2工程によって構成される。
【0010】
本発明におけるジカルボン酸成分(A)としては、芳香族ジカルボン酸と炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸とからなるものである。当該芳香族ジカルボン酸としては、必要とされる樹脂特性やコストパフォーマンスなどの観点から、主としてテレフタル酸とイソフタル酸が用いられるが、必要に応じて、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのその他の芳香族ジカルボン酸を併用してもよい。
【0011】
また、本発明における炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸などを挙げることができる。
【0012】
また、本発明の共重合ポリエステルの製造方法において、芳香族ジカルボン酸および炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、コハク酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体、(無水)マレイン酸、フマル酸、ドデセニル無水コハク酸、テルペン−マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸及びその誘導体を併用することもできる。
【0013】
ここで、本発明における芳香族ジカルボン酸の全酸成分に対する含有割合としては、50〜80mol%であることが好ましく、また、炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸の全酸成分に対する含有割合としては20〜50mol%であることが好ましい。これにより、本発明における共重合ポリエステルが、例えば、導電性材料やフィラー等を分散添加されて制振材として使用される場合、当該制振性がより良好に発現されることとなる。
【0014】
本発明におけるグリコール成分(G)としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、及び2−メチル−1,3−プロパンジオールよりなる群から選ばれる1種のグリコールからなるものである。
【0015】
また、上記のグリコール成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどのジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの3価以上のポリオールを用いることもできる。
【0016】
本発明の共重合ポリエステルの製造方法としては、エステル化工程において、グリコール成分(G)とジカルボン酸成分(A)の仕込み比率G/Aを1.05〜1.20とすることが必要であり、1.05〜1.15であることが好ましい。ここで、当該比率G/Aが1.20を超える場合、原料成分のマテリアルバランスが当量値から乖離しているため、高分子量化反応に対してオリゴマーの環化反応の割合が増えてしまい、これが重縮合工程で順次留出されるため、留出するオリゴマー量が共重合ポリエステルに対して多くなり、これによって、共重合ポリエステルの高分子量化が阻害されると共に、留出系の配管の閉塞を引き起こす可能性が高い。一方、G/Aが1.05未満ではエステル化反応工程において、グリコール成分とジカルボン酸成分との間の反応性が低下し、反応時間が長時間になるなど、生産性が低くなる。
【0017】
本発明の共重合ポリエステルの製造方法において、エステル化反応工程での反応温度は190〜230℃とすることが必要であり、200〜220℃であることが好ましい。反応温度が230℃を超えると、高分子量化反応に対してオリゴマーの環化反応の割合が増えてしまい、これが重縮合工程で順次留出されるため、共重合ポリエステルの高分子量化を阻害すると共に、配管の閉塞を引き起こす可能性がある。一方、反応温度が190℃未満では、エステル化反応工程においてグリコール成分とジカルボン酸成分と間の反応性が低下し、反応時間が長時間になるなど生産性が低くなる。
【0018】
本発明におけるエステル化工程での反応時間は、約2〜10時間とすることが好ましい。因みに、エステル化工程で生成する水は分離塔を通して留去させるが、エステル化工程においては、オリゴマーの留出は見られない。
【0019】
また、エステル化反応を行う際に、公知のエステル化触媒や重縮合触媒、コバルト化合物、蛍光剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような顔料、臭素化合物、リン化合物のような難燃剤等の添加物を共存させても差し支えない。
【0020】
本発明の共重合ポリエステルの製造方法において、重縮合反応工程は210〜260℃の温度範囲で行うことが必要であり、220〜250℃であることが好ましい。反応温度が260℃以上では、脂肪族ジカルボン酸の熱分解が生じる傾向が高まる。加えて、熱分解により環状オリゴマーの生成量が増し、これによって、配管の閉塞を引き起こす可能性がある。一方、反応温度が210℃未満では、重縮合反応が効率的に進まないため好ましくない。
【0021】
本発明における重縮合反応では、所望の重合度(通常30〜200)となるまで0.9hPa以下の減圧下で行うことが好ましい。
【0022】
本発明の共重合ポリエステルの製造方法において、オリゴマー留出量としては、ポリエステル生成量に対して0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下がより好ましい。本発明におけるオリゴマーとしては、上記の脂肪族ジカルボン酸成分とグリコール成分(G)とからなる3量体までの低分子量体を示すものであり、反応の結果、得られる主要成分としては環状1量体が挙げられる。
【0023】
通常、本発明におけるジカルボン酸成分(A)とグリコール成分(G)との構成からなる共重合ポリエステルの製造では、脂肪族ジカルボン酸とグリコール成分とからなる環状1量体を主成分とするオリゴマーがポリマーに対して1.5〜3質量%副生し、これが留出系へ留出した場合、重縮合反応時もしくは重縮合反応終了後に、当該オリゴマーがグリコール成分などその他の留出成分中に溶解しきれないため、留出系の配管などに溜まるなどして減圧不良を引き起こしたり、留出液を系外へ除去する際に配管の閉塞を引き起こしたりする。
【0024】
本発明においては、(1)ジカルボン酸成分(A)とグリコール成分(G)との仕込み比率を所定の範囲に制限すること、(2)エステル化反応工程の反応温度を所定の範囲に制御すること、(3)重縮合工程の反応温度を所定の範囲に制御することによって、ポリエステル製造過程でのオリゴマー生成量を大幅に抑制することができ、これによりオリゴマー留出量を0.5質量%以下に低減できる。すなわち、本発明では、上記条件によりオリゴマー留出量を0.5質量以下にできることで、減圧不良や配管閉塞を生じることなく、効率的にポリエステルの製造を行うことが可能となる。
【0025】
また、本発明における重縮合反応時に使用される触媒としては、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、スズ、亜鉛等の化合物から適宜選択して用いられ、必要に応じてリン酸、亜リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルなどの安定剤も併用することができる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例により本発明の方法を具体的に説明するが、これに限定されるものではない。なお、実施例および比較例において示される各種特性値は下記の方法により測定したものである。
(1)ポリエステル生成量に対するオリゴマー留出量
留出液に、留出液の3倍量以上となる純水を加え、オリゴマーを
析出させ、フィルターで濾過し、フィルター上のオリゴマーの乾燥質量から留出液中のオリゴマー濃度を算定し、ポリエステル生成量に対するオリゴマー留出量を決定した。
(2)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合溶媒を用いて、20℃下で通常の方法により測定した。
【0027】
(実施例1)
アゼライン酸83モル(15.7kg)、イソフタル酸167モル(27.7kg)、2−メチル−1,3−プロパンジオール275モル(25.0kg)をエステル化反応槽に仕込み(G/A=1.10)、圧力0.3MPaG、温度200℃、モノブチル錫オキサイド6.0×10−4モル/酸成分1モル(31g)添加し、窒素雰囲気下で6時間エステル化反応を行った。得られたエステル化物を重縮合反応槽に移送した後、テトラブチルチタネート2.6×10−4モル/酸成分1モル(22g)添加し、0.5hPaに減圧し、250℃で4時間重縮合反応を行い、極限粘度0.80dl/gの共重合ポリエステルを得た。これにより50.2kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.2kgとポリマーに対して0.4質量%であり、0.5質量%以下だった。この結果、オリゴマーによる留出系配管の閉塞は生じなかった。
【0028】
(実施例2)
実施例1における2−メチル−1,3−プロパンジオールの仕込み量を300モル(27.3kg)とし、G/A=1.20とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。この反応により50.8kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.2kgとポリマーに対して0.4質量%であり、0.5質量%以下だった。その結果、製造過程でのトラブルは生じなかった。
(実施例3)
実施例1におけるエステル化温度を220℃とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。この反応により50.0kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.2kgとポリマーに対して0.4質量%であり、0.5質量%以下だった。留出系の配管の閉塞は生じなかった。
【0029】
(実施例4)
実施例1における重縮合温度を230℃とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。この反応により47.6kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.2kgとポリマーに対して0.4質量%であり、0.5質量%以下だった。留出系の配管の閉塞は生じなかった。
(実施例5)
実施例1における2−メチル−1,3−プロパンジオールをエチレングリコールに変えて、仕込み量を270モル(16.8kg)とした以外は実施例1と同様に反応を行った。この反応により51.2kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.2kgとポリマーに対して0.4質量%であり、0.5質量%以下だった。留出系の配管の閉塞は生じなかった。
【0030】
(比較例1)
実施例1における2−メチル−1,3−プロパンジオールの仕込み量を255モル(23.2kg)とし、G/A=1.02とした以外は実施例1と同様に反応を行った。この反応により49.3kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.2kgとポリマーに対して0.4質量%であり、0.5質量%以下だったが、エステル化反応に10時間を超えて非常に長時間を要し、生産効率が悪かった。
(比較例2)
実施例1における2−メチル−1,3−プロパンジオールの仕込み量を325モル(29.5kg)とし、G/A=1.30とした以外は実施例1と同様に反応を行った。この反応により50.4kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.8kgとポリマーに対して1.6質量%となり、留出系の配管に閉塞が見られた。
【0031】
(比較例3)
実施例1におけるエステル化温度を180℃とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。この反応により48.6kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.4kgとポリマーに対して0.8質量%であり、エステル化反応に非常に長時間を要し生産効率が悪かったと共に、留出系の配管に閉塞が見られた。
(比較例4)
実施例1におけるエステル化温度を240℃とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。この反応により50.1kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.7kgとポリマーに対して1.4質量%となり、留出系の配管に閉塞が見られた。
【0032】
(比較例5)
実施例1における重縮合温度を200℃とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。この反応により47.2kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.3kgとポリマーに対して0.6質量%であり、重縮合反応に非常に長時間を要し生産効率が悪かったと共に、留出系の配管に閉塞が見られた。
(比較例6)
実施例1における重縮合温度を270℃とした以外は実施例1と同様にして反応を行った。この反応により48.0kgの共重合ポリエステルが得られた。また、オリゴマー留出量は、0.8kgとポリマーに対して1.6質量%となり、留出系の配管に閉塞が見られた。
【0033】
実施例1〜5、比較例1〜6の結果を表1にまとめた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸と炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸とからなるジカルボン酸成分(A)と、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオールよりなる群から選ばれる1種のグリコールからなるグリコール成分(G)とを用いてなる共重合ポリエステルの製造方法であって、グリコール成分(G)とジカルボン酸成分(A)との仕込み比率G/Aが1.05〜1.20、エステル化反応温度が190〜230℃、重縮合反応温度が210〜260℃であることを特徴とする共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
ポリエステル重合過程でのオリゴマー留出量が、ポリエステル生成量に対して0.5質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の共重合ポリエステルの製造方法。






【公開番号】特開2010−70611(P2010−70611A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237943(P2008−237943)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】