説明

共重合ポリエステルの連続製造方法

【課題】本発明は、共重合ポリエステルを長期にわたり安定的かつ連続的に製造できる方法であって、高品質な共重合ポリエステルを低コストで且つ品質変動を抑制しつつ製造できる方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る共重合ポリエステルの連続製造方法は、工程1:スラリー調製工程;工程2:エステル化反応工程;および工程3:重縮合反応工程、を含み、工程1〜3を通じて1回以上リン化合物を供給し、工程1において、新規の固体ネオペンチルグリコールを、溶融状態でおよび/またはエチレングリコール溶液とした後に濾過してスラリー調製槽へ導入し、工程2において、第2エステル化反応槽以降でネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給し、当該追加供給するエステル化反応槽の反応温度を、前段階のエステル化反応槽の反応温度よりも低く設定し、且つリン化合物の供給以降において、留出したグリコール成分のリン原子含有量を蒸留塔により10ppm以下に低減した上で循環再使用すること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合ポリエステルを連続して製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性や化学的特性に優れるものである。これらポリエステルは、それぞれの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用、磁気テープ用、光学用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。
【0003】
近年、市場の多様化により、上記ポリエステルに他のグリコール成分を共重合した共重合ポリエステルが注目されている(例えば、特許文献1と2を参照)。特に、ネオペンチルグリコール残基を含む共重合ポリエステルは、非晶質でガラス転移点が高いという特徴を有しており、フィルム分野等で広く使用されている。
【0004】
上記共重合ポリエステルの用途の1つとしては、フィルムやシートがある。これらフィルムやシートでは、厚みの均一性が極めて重要な特性であり、この特性をいかにして確保するかが問題となる。また、フィルム等の生産性はキャスティング速度に直接依存するため、その向上のためにはキャスティング速度をいかにして高めるかが重要な課題となる。
【0005】
この課題を解決するためには、T−ダイスから溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム面で急冷する際に、当該シート状物とドラム表面との密着性を高めることが必要となる。このシート状物とドラム表面の密着性を高める方法として、T−ダイスと回転冷却ドラムの間にワイヤー状の電極を設けて高電圧を印加し、未固化のシート状物面に静電気を析出させて当該シートを冷却体表面に密着させながら急冷する方法(静電密着キャスト法)が有効である。
【0006】
静電密着キャスト法を効果的に行うためには、シート状物とドラム表面との静電密着性を高めることが必要であり、そのためには、シート状物表面にいかに多くの電荷量を析出させるかが重要である。電荷量を多くするためには、共重合ポリエステルを改質して比抵抗を低くすることが有効であり、従来から多くの検討がなされている。例えば、共重合ポリエステルに関しても、上記の特許文献1および2等において静電密着性を高める方法が開示されている。
【0007】
ところでポリエステルを製造するに当たっては、一般的に、生産性の面から連続的な方法が用いられる。かかる連続製造方法では、エステル化反応工程と重縮合反応工程からなる2段階の反応が行なわれる。詳しくは、先ず、テレフタル酸等のジカルボン酸とエチレングリコール等のグリコール成分から直接エステル化するか、或いはジカルボン酸エステルとグリコール成分からエステル交換反応によって、反応性のより高いオリゴマーを得る。次に、高温かつ減圧下でエステル交換することによって、このオリゴマーを重縮合し、高分子量の共重合ポリエステルが製造される。
【0008】
近年、エステル化反応工程では、製造コストがより安価な直接エステル化法が主流となってきている。また、両工程においては、重合度が高まるにつれ反応液の粘度も上昇する。よって、粘度に応じた反応槽を使用するためや、反応を均一に進行させるために、複数の反応槽を用いた多段階の反応を行なっている。
【0009】
また、直接エステル化法においては、ジカルボン酸とグリコール成分を原料としてエステル化反応を行なう。この際、特に芳香族ジカルボン酸が固体でありグリコール成分に不溶であるために、先ずジカルボン酸とグリコール成分からスラリーを調製し、これをエステル化反応槽に供給するが、このスラリーの流動性を確保するため、理論必要量以上のグリコール成分が必要となる。さらに、オリゴマーを重縮合反応に付して高分子量のポリエステルとする際には、脱グリコール反応によりグリコール成分が生成する。これらのグリコール成分は、回収して再利用する必要がある。かかる回収や再利用の方法は、ポリエステルの製造コストに大きく影響を及ぼすので、様々な方法が検討されている。
【0010】
例えば特許文献3には、エステル化反応槽の留出液の低沸点留分を精留除去しスラリー調合槽に循環し再使用する方法が、特許文献4には、エステル化反応槽から排出されるエチレングリコールの低沸点留分を精留除去しエチレングリコール貯槽に供給するとともに、その一部を重縮合反応槽に設けられた湿式コンデンサーの循環液として用い凝縮液をエチレングリコール貯槽に供給し、当該エチレングリコール貯槽に滞留したエチレングリコールをスラリー調合用に再使用する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献5には、重縮合反応槽より発生する留出液を湿式コンデンサーにて凝縮し、エステル化反応槽に設けられた蒸留塔へ送り低沸点留分を除いた後、スラリー調合槽に戻して再使用する方法が、また、特許文献6には、重縮合反応槽で発生する留出液を連続的に単蒸留し、この連続単蒸留缶の底部抜き出し液を回分式単蒸留缶に送液して単蒸留を行い、初留部分を除いた蒸留液を重縮合反応ガスの凝縮用冷媒液の一部として使用する方法が、特許文献7には、エステル化反応槽留出液および重縮合反応槽留出液の一部は低沸点留分を精留除去し、重縮合反応槽留出液の残りの一部は低沸点留分と高沸点留分を除去し、スラリー調合に循環し再使用する方法が記載されている。
【0012】
さらに特許文献8には、エステル化反応2段階目の反応槽から排出される留出液を蒸留精製せずに、直接原料の一部または全量として再使用する方法が、特許文献9には、重縮合反応槽からの留出液をフラッシュ蒸留により低沸点留分を精留除去して原料グリコールの一部として再使用する方法が開示されている。
【0013】
上記の通り、ポリエステルの連続製造方法については、留出グリコールを回収再利用してポリエステルの製造コストを低減する方法の効率向上のために、様々な検討が為されている。しかし、これら特許文献3〜9に記載されている連続製造方法はホモポリエステルに関するものであり、共重合ポリエステルに関する記載はされていない。
【0014】
また、ポリエステルの製造においては、リン酸トリメチル等のリン化合物を添加することが多い。かかるリン化合物の添加は、エステル化やエステル交換反応触媒に用いられる金属化合物の封鎖、ポリエステル製造工程で例えば金属化合物との反応により微粒子を析出させるいわゆる内部粒子の生成、または、ポリエステルの静電密着性を向上させるため等の目的で実施される。例えば、ポリエステルの静電密着性を向上するためには、アルカリ土類金属などを含む金属化合物が添加されるが、さらにリン化合物を適量添加することによって、静電密着性を一層高めることができる。
【0015】
しかし、これらのリン化合物の一部は、留出グリコール成分に混入する。そのために、この留出グリコール成分を再利用する場合には、回収グリコール成分に混入したリン化合物の量を制御しなければ、ポリエステルへ含有されるリン化合物の量が変動する。また、回収グリコール成分へ混入したリン化合物は、その構造が変化している場合がある。その結果、添加したリン化合物が本来示すべき作用効果が、ポリエステルへ再現よく付与できないという問題が生じる。よって、リン化合物の留出グリコールへの混入を阻止または制御する必要があるが、上記の特許文献3〜9で開示された技術では、循環再使用されるグリコールへのリン化合物の混入に関しては全く配慮がなされていない。
【0016】
一方、上記のリン化合物の問題を解決する方法として、特許文献10と11には、ポリエステルの製造工程より留出したエチレングリコールを、アルカリ化合物の存在下で、或いはエチレングリコールと同容量以上の水を加えて加熱処理する方法が開示されている。また、特許文献12には、留出エチレングリコールに対して0.2〜10wt%の水を添加して加熱処理した後、蒸留して回収したエチレングリコールを使用する方法が記載されている。
【0017】
しかし、上記特許文献10〜12の方法は、リン化合物の回収エチレングリコールへの混入を阻止する方法としては有効な方法であるが、アルカリ化合物の添加や加熱処理工程が必要であるなど、経済性の点で不利であるという問題を有する。
【特許文献1】特開2004−256819号公報
【特許文献2】特開2004−67733号公報
【特許文献3】特開昭53−126096号公報
【特許文献4】特開昭55−56120号公報
【特許文献5】特開昭60−163918号公報
【特許文献6】特開平8−325363号公報
【特許文献7】特開平11−505551号公報
【特許文献8】特開平10−279677号公報
【特許文献9】WO01/083582号公報
【特許文献10】特開昭57−14619号公報
【特許文献11】特開昭57−14620号公報
【特許文献12】特開昭59−96124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述した様に、フィルム等に広く適用できる優れた材質として共重合ポリエステルが知られており、また、ポリエステルの連続製造方法については様々な検討が為されている。また、ポリエステルを製造するに当たってはリン化合物が用いられるが、最終ポリエステルへ混入するリン化合物の量を制御するために、回収グリコール成分からリン化合物を除去するための方法も公知である。
【0019】
そして近年、共重合ポリエステルに関しても、その使用用途や使用量の拡大に伴い製造コストの低減に対する要求が強くなってきている。よって、共重合ポリエステルでも連続的な製造方法を用い、且つ過剰のグリコール成分を回収して再利用することが考えられる。ところが、共重合ポリエステルの連続製造においてグリコール成分を回収再利用すると安定的な操業ができなくなったり、また、製品品質が低下する場合があった。
【0020】
また、グリコール成分を回収再利用するに当っては、製品品質を維持するために、留出したグリコール成分からリン化合物を除去する必要がある。しかし、従来方法は新たにアルカリ化合物や水を添加する工程が必要となるなど、効率的なものではなかった。
【0021】
そこで、本発明が解決すべき課題は、共重合ポリエステルを長期にわたり安定的かつ連続的に製造できる方法であって、高品質な共重合ポリエステルを低コストで且つ品質変動を抑制しつつ製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、特に連続製造方法の構成につき鋭意研究を進めた。その結果、以下の知見を見出して本発明を完成した。
【0023】
先ず、共重合ポリエステルを従来方法で連続製造するに当たり、エステル化反応において留出した分を補うためにグリコール成分を追加供給すると、発泡して安定的な製造が継続できないことがあった。因みに、通常のポリエステル連続製造方法では、エステル化または重合の進行により反応溶液の粘度は次第に高くなるため、反応温度は後段階になるほど高くするか、少なくとも前段階と同一にすることが常識であった。それに対して、添加の際の反応温度を制御することによって、発泡を抑制できることを見出した。
【0024】
また、ネオペンチルグリコール共重合ポリエステルの場合、原料であるネオペンチルグリコールを固体状態のままでスラリー調製槽へ供給すると、最終的な製品の品質が低下することがある。そこで、いったん溶融状態等とした上で濾過することによって、製品品質を高めることに成功した。
【0025】
さらに、リン化合物の除去は、既存の蒸留塔を利用して行なうことによって、工程を追加することなく効率的に行なえることを見出した。
【0026】
即ち、本発明に係る共重合ポリエステルの連続製造方法は、
工程1: 少なくともテレフタル酸、エチレングリコール、およびネオペンチルグリコールをスラリー調製槽へ導入してスラリーを調製する工程;
工程2: 調製したスラリーを、直列に連結した2以上のエステル化反応槽へ連続的に導入し、エステル化反応に付してオリゴマー化合物を得る工程;および
工程3: 得られたオリゴマー化合物を重縮合反応に付して共重合ポリエステルを製造する工程、を含み、
工程1〜3を通じて1回以上リン化合物を供給し、
工程1において、新規の固体ネオペンチルグリコールを、溶融状態でおよび/またはエチレングリコール溶液とした後に濾過してスラリー調製槽へ導入し、
工程2において、第2エステル化反応槽以降でネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給し、
当該追加供給するエステル化反応槽の反応温度を、前段階のエステル化反応槽の反応温度よりも低く設定し、且つ
リン化合物の供給以降において、留出したグリコール成分のリン原子含有量を蒸留塔により10ppm以下に低減した上で循環再使用すること、
を特徴とする。
【0027】
上記方法においては、ネオペンチルグリコールを溶融状態でまたはエチレングリコール溶液としたものを、平均孔径が20μm以下のフィルターで濾過することが好ましい。溶融状態等とした上でかかるフィルターで濾過処理を行なえば、最終的に得られる共重合ポリエステルに含まれる粗大粒子を抑制でき、品質の高い製品が得られる。
【0028】
また、上記工程2においてネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給する段階の反応温度を、前段階の反応温度より5〜15℃低くすることが好ましい。15℃を超えて反応温度を低くすると、エステル化反応を効率的に行なえないおそれがある一方で、5℃未満であると発泡する場合がある。
【0029】
リン化合物の添加は、第2エステル化反応槽以降で行なうことが好適である。また、留出するグリコール成分の精製は、リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物(A)と、リン化合物を添加した以降の反応槽より留出する留出物(B)とを区分して行うことが好ましい。本来、リン化合物が混入する余地のない流出物(A)にリン化合物が混入する可能性をなくすためであり、また、リン化合物の除去操作は、リン化合物を含むグリコール留出物に限って行なう方が効率的だからである。
【0030】
留出物(A)からのグリコール成分の生成については、留出物(A)から低沸点留分を分留除去し、残留分(A’)を回収グリコール成分として循環再使用することが好ましい。留出物(A)から除去すべき不純物は、主に水やアセトアルデヒド等の低沸点化合物だからである。
【0031】
また、留出物(A)を分留する蒸留塔の塔底より抜出した残留分(A’)の一部を、当該蒸留塔に循環するのも好適な態様である。より効果的に精製するためである。
【0032】
留出物(B)からは、リン化合物を含む高沸点留分と低沸点留分とを分留除去し、得られた中留分(B’)を回収グリコールとして循環再使用することが好ましい。留出物(B)には、低沸点の不純物の他に、比較的低温では除去できないリン化合物が含まれており、これが共重合ポリエステルへ最終的に混入するリン化合物の量を変化させ、製品品質を貶める原因となることから、特に高沸点留分を除去する必要がある。
【0033】
留出物(A)の場合と同様に、留出物(B)から低沸点成分を分留する蒸留塔の塔底より抜出した蒸留塔残留液の一部も、当該蒸留塔に循環する態様が好ましい。
【0034】
また、留出物(B)に対する精製は、先ず、留出物(B)から低沸点留分を蒸留塔により分留除去した後に、別の蒸留塔でリン化合物を含む高沸点留分を分留除去することにより行ない、得られた中留分(B’)を循環再使用することが好ましい。低沸点留分の除去と高沸点留分の除去は、別の蒸留塔を使って行なった方が効率が良いからである。
【0035】
留出物(A)と留出物(B)からそれぞれ精製された残留分(A’)と中留分(B’)の一部は、工程2における第2エステル化反応槽以降に供給することが好ましい。第1のエステル化反応槽へはスラリー調製槽からグリコール成分が連続的に供給されており、回収グリコール成分は、グリコール成分の喪失分が多い第2エステル化反応層以降で再使用した方が効果は高い。また、回収グリコール成分の温度は比較的高いことから反応温度を低くし難く、組成を調整することなくそのまま供給することも可能なので、新規のグリコール成分より利便性が高い。
【発明の効果】
【0036】
本発明による共重合ポリエステルの連続製造方法は、異物混入が抑制されているので、清澄度の高い共重合ポリエステルを得ることができる。また、本発明に係る製造方法は、連続重縮合法において長期にわたり連続生産をしても、共重合組成等の品質変動が抑制されており且つ工程トラブルが抑制されているので、高品質な共重合ポリエステルが品質変動を抑制した形で安定生産できるという利点を有する。さらに、本発明に係る製造方法は、共重合ポリエステルの品質、特に静電密着性や重縮合活性を低下させることなく、製造途中で留出するグリコール成分を製造装置に連結した蒸留塔により経済性の高い方法で分留し、回収されたグリコール成分を循環再使用することができるので経済性が高く、コストパフォーマンスに優れている。よって、本発明の連続製造方法は、品質の高い共重合ポリエステルを低コストで且つ長期にわたり安定的に製造できるものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明に係る共重合ポリエステルの連続製造方法は、
工程1: 少なくともテレフタル酸、エチレングリコール、およびネオペンチルグリコールをスラリー調製槽へ導入してスラリーを調製する工程;
工程2: 調製したスラリーを、直列に連結した2以上のエステル化反応槽へ連続的に導入し、エステル化反応に付してオリゴマー化合物を得る工程;および
工程3: 得られたオリゴマー化合物を重縮合反応に付して共重合ポリエステルを製造する工程、を含み、
工程1〜3を通じて1回以上リン化合物を供給し、
工程1において、新規の固体ネオペンチルグリコールを、溶融状態でおよび/またはエチレングリコール溶液とした後に濾過してスラリー調製槽へ導入し、
工程2において、第2エステル化反応槽以降でネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給し、
当該追加供給するエステル化反応槽の反応温度を、前段階のエステル化反応槽の反応温度よりも低く設定し、且つ
リン化合物の供給以降において、留出したグリコール成分のリン原子含有量を蒸留塔により10ppm以下に低減した上で循環再使用すること、
を特徴とする。以下では、工程1から順番に説明する。
【0038】
工程1) スラリー調製工程
本発明では、先ず、少なくともテレフタル酸、エチレングリコール、およびネオペンチルグリコールをスラリー調製槽へ導入してスラリーを調製する。
【0039】
スラリーにおけるこれら成分の含有割合は、スラリーがエステル化反応槽へ運搬されるに十分な流動性を有するものであれば特に制限されないが、共重合ポリエステルにおけるテレフタル酸残基が95モル%以上、エチレングリコール残基が60〜75モル%およびネオペンチルグリコール残基が25〜35モル%となる様に配合することが好ましい。より具体的には、テレフタル酸1モルに対して、エチレングリコールとネオペンチルグリコールとの合計量を1〜3モルとすることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.5モルとしてスラリーとする。上記の酸成分およびグリコール成分の組成を満たすスラリーからは、非晶質でガラス転移点が高いという特徴を有する共重合ポリエステルを製造できる。かかる共重合ポリエステルは、例えば、ポリエステルフィルムやポリエステルシート等の各種成型体や、これらの改質剤等として好適に用いることができる。
【0040】
上記スラリーへは、好適には酸成分において5モル%以下で、テレフタル酸以外の酸を添加してもよい。例えば、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸などを、併用してもよい。
【0041】
また、スラリーへは、上記範囲であれば、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、グリセロール等の三官能以上の多官能化合物;安息香酸、イソシアン酸フェニル等の単官能化合物等の化合物を併用してもよい。
【0042】
また、ヒドロキシカルボン酸を併用しても良い。ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。
【0043】
さらに、グリコール成分としては、共重合ポリエステルにおける他のグリコール成分残基が5モル%以下であれば、他のグリコール化合物を含んでもよい。他のグリコール成分としては、ジエチレングリコール(DEG)が挙げられる。このDEGは、積極的に添加しなくても共重合ポリエステル製造工程において副生し、共重合ポリエステルに取り込まれる点で、その他のグリコール成分とは異なる。さらに、共重合ポリエステルにおけるDEG残基は、耐熱酸化安定性等の特性に影響を及ぼす。特に、本発明の共重合ポリエステルを熱収縮性ポリエステルフィルムの原料として用いた場合に、フィルムの重要特性の1つである溶剤接着性に大きな影響を及ぼす。従って、DEG残基を1.3〜2.5モル%の範囲に制御するのが好ましい。より好ましくは1.5〜2.3モル%である。DEG残基が1.3モル%未満の場合は、溶剤接着性が悪化することがあるので好ましくない。逆に、2.5モル%を超えた場合は、フィルムの熱収縮性特性や耐熱性に悪影響を及ぼすおそれがあるので好ましくない。
【0044】
DEG残基含有量の制御方法は、特に制限されない。例えば、DEGは、製造工程においてもエチレングリコールの二量化により副生するため、共重合ポリエステルの製造工程で副生するDEG量をエステル化反応条件等の最適化により制御してもよい。しかし、共重合ポリエステルにおけるDEG残基含有量の最適範囲は上記の通り狭いため、製造工程における生成量を極力抑制する様に製造条件を設定した上で、好ましい範囲に対する不足分のDEGを添加することが好ましい。この場合のDEGの添加場所は限定されない。スラリー調製槽へ添加してもよいし、エステル化反応工程で添加してもよい。また、この場合におけるDEGの添加量は、共重合ポリエチレンに占めるDEG残基の所望量に応じて適宜調節すればよいが、例えば生成共重合ポリエステルに対して0.1〜1.0モル%とすることができる。
【0045】
近年、共重合ポリエステルよりなるフィルムやシートに対する品質に対する要求特性はますます厳しくなり、それに伴い厚み精度を向上させることが重要な要件となってきており、これも共重合ポリエステルの重要な特性の一つである。
【0046】
また、本発明においては、最終的に得られる共重合ポリエステルの275℃における溶融比抵抗を最適化し、その静電密着性等を高めるのが好ましい。
【0047】
上記の共重合ポリエステルの275℃における溶融比抵抗は、共重合ポリエステルの静電密着性の尺度である。静電密着性とは、例えば、共重合ポリエステルをフィルムやシートに溶融押出し法で成型する場合のキャスティング時に必要な特性である。即ち、押出口金から溶融押出したフィルム状物を回転冷却ドラムで急冷する際、当該フィルム状物の表面に静電荷を析出させ、フィルム状物を冷却ドラムの表面に静電力で密着させる静電密着法が知られている。しかし、この方法においては、生産能力を高めるために冷却ドラムの回転速度を上げるとフィルム状物と冷却ドラムとの密着力が減少し、フィルム状物と冷却ドラムとの間に気体を噛み込むようになってピンナーバブルの発生が起こり、厚み斑や外観不良発生の原因となる。静電密着性とは、この静電密着法において、大きな静電密着力が付与でき、高速でキャスティングしても厚み精度の高い製膜製品が得られる共重合ポリエステルの特性である。
【0048】
この静電密着性は共重合ポリエステルの溶融比抵抗と相関しており、共重合ポリエステルの溶融比抵抗を下げることにより、静電密着キャスト法においてピンナーバブルの発生を抑制しながらキャストできる最高のキャスティング速度、即ち静電密着性を向上させることができる。従って、共重合ポリエステルの溶融比抵抗の最適化は、フィルム生産性の面から非常に重要である。
【0049】
共重合ポリエステルの溶融比抵抗は、0.5×108Ω・cm以下であることが好ましい。溶融比抵抗が0.5×108Ω・cmより高ければ、静電密着性が悪化し、キャスティング速度が遅くなり生産性が悪くなる。好ましくは、0.4×108Ω・cm以下、さらに好ましくは、0.3×108Ω・である。一方、耐熱性や着色の点から、下限値は0.05×108Ω・cmとすることが好ましく、特に好ましくは0.09×108Ω・cmである。
【0050】
共重合ポリエステルの溶融比抵抗を上記範囲にする方法は限定されないが、マグネシウム化合物およびナトリウム化合物の添加により実施するのが好ましい。
【0051】
マグネシウム化合物の添加量は、マグネシウム原子量換算で3〜300ppmが好ましく、100〜250ppmがより好ましい。マグネシウム原子含有量が3ppm未満では、共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きくなり、静電密着性が悪化しやすくなる場合がある。一方、300ppmを超えた場合は、共重合ポリエステルの熱安定性が低下しやすくなり、共重合ポリエステルの着色が増大するおそれがある。
【0052】
また、ナトリウム化合物の添加量は、ナトリウム原子量換算で0.5〜50ppmが好ましく、3〜30ppmがより好ましい。ナトリウム原子含有量が0.5ppm未満では、共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きくなり、静電密着性が悪化しやすくなる場合がある。さらに、副反応であるグリコール成分同士の縮合反応が増加し、例えば、DEGの副生の増大や変動に繋がり、本発明方法の共重合ポリエステルの重要組成であるDEG量の制御に悪影響を及ぼし得る。一方、50ppmを超えた場合は、共重合ポリエステルの溶融比抵抗の低下やグリコール成分同士の縮合反応の抑制効果が頭打ちになり、かつ共重合ポリエステルの着色が増大して色調の低下が起こるおそれがある。
【0053】
上記のマグネシウム化合物やナトリウム化合物は、マグネシウム等を含む化合物の形態で添加すればよい。かかる化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩;安息香酸などの芳香族カルボン酸塩;トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩;乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩;炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩;1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩;ラウリル硫酸などの有機硫酸塩;メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物;水素化物;酸化物;水酸化物などが挙げられる。
【0054】
上記マグネシウム化合物等の添加は、スラリー調製工程に限定されず、エステル化反応工程や重縮合反応工程で添加してもよい。
【0055】
本発明では、目的物である共重合ポリエステルの静電密着性をさらに向上するために、リン化合物を添加するのが好ましい。なお、かかるリン化合物は、マグネシウム化合物等と同様に、スラリー調製工程に限られるものではなく、後述するエステル化反応工程や重縮合反応工程、或いはこれら工程間で添加してもよいが、第1エステル化反応槽出口以降の工程で添加するのが好ましい。
【0056】
特に、リン化合物は、第2エステル化反応以降で添加することが好ましい。リン化合物を添加する前の反応槽から留出するグリコール成分と、添加以降の反応槽から留出するグリコール成分を、区別してそれぞれ精製できるからである。後述する様に、リン化合物はエステル化反応槽または重縮合反応槽から留出するグリコール成分と共に留出する。回収したグリコール成分に混入したリン化合物は、その量を制御することが極めて困難であるために、目的化合物である共重合ポリエステルの品質に悪影響を及ぼすおそれがある。よって、留出したグリコール成分の精製は、リン化合物を含まない反応系から回収したグリコール成分と含む反応系からのものとを区別して行なった上で、回収グリコール成分を再使用した方がよい。また、再利用のために、低沸点留分のみならず高沸点のリン化合物等をも分留除去しなければならない留出グリコール成分の量を低減できるという効果もある。
【0057】
但し、工程3の重縮合反応工程でのリン化合物の添加は、減圧系になるためにリン化合物の残存量が低下するので避けた方がよい。従って、リン化合物の添加は、エステル化反応工程の最終段階または当該最終段階から重縮合工程への移送ラインにラインミキサーを設置して、当該ラインミキサーに添加する方法で実施するのが好ましい。
【0058】
かかるリン化合物としては、リン酸ならびにトリメチルリン酸、トリエチルリン酸、フェニルリン酸、トリフェニルリン酸等のリン酸エステル;亜リン酸ならびにトリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンジホスファイト等の亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0059】
リン化合物の添加量は、リン原子/マグネシウム化合物に含まれる金属の原子比で、0.1〜1.0とするのが好ましく、0.2〜0.8とすることがより好ましい。リン原子/当該金属原子の原子比が0.1未満では共重合ポリエステルの熱安定性が低下しやすくなり得る。一方、リン原子/当該金属原子の原子比が1.0超えた場合は、共重合ポリエステルの溶融比抵抗が大きくなり、静電密着性が悪化するおそれがある。
【0060】
また、本発明においては、共重合ポリエステルの色調を改善するために、コバルト化合物を含有させても良い。かかるコバルト化合物としては、酢酸コバルト、塩化コバルト、安息香酸コバルト、クロム酸コバルト等が挙げられる。なかでも、酢酸コバルトが好ましい。コバルト化合物は、生成する共重合ポリエステルに対して通常50ppm以下となるように含有させるが、使用する重合触媒の種類に応じて適宜変更することが好ましい。
【0061】
また、本発明の共重合ポリエステルの製造時に、本発明の目的を妨げない限り、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウムなどの不活性粒子、顔料、耐熱・酸化安定剤、離型剤、UV吸収剤、着色剤などを必要に応じて添加してもよい。
【0062】
その他、有機系、無機系、及び有機金属系のトナー、ならびに蛍光増白剤などを添加してもよい。これらを一種もしくは二種以上配合することによって、共重合ポリエステルの黄み等の着色をさらに優れたレベルにまで抑えることができる。また他の任意の重合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、その他の添加剤が含有されていてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が使用可能である。
【0063】
以上の添加剤は、特に断らない限り工程1〜3を通じて任意の段階で添加することが可能であり、どの段階が好適かは対象とする共重合ポリエステルの構造や得られる共重合ポリエステルの要求性能に応じてそれぞれ適宜選択すれば良い。
【0064】
テレフタル酸等の酸成分は、例えば図1の計量タンク1から所定量をスラリー調製槽2へ供給する。また、グリコール成分については、大部分は新規のグリコール成分を用いるが、後述する工程2および/または工程3から回収して精製したグリコール成分を一部用いてもよい。その他の成分も、適宜スラリー調製槽へ添加する。
【0065】
但し、本発明においては、新規の固体ネオペンチルグリコールを使用する場合は、溶融状態でおよび/またはエチレングリコールとの混合溶液とした後に濾過したものを用いることが好ましい。ネオペンチルグリコールは常温で固体であるので、通常は紙袋で包装されて流通している。この固体状のネオペンチルグリコールをスラリー原料として用いると、得られる共重合ポリエステルに異物が混入し、その清澄度が低下し得る。特にスラリー調製に用いる新規のネオペンチルグリコールの量は多いため、スラリー調製に新規の固体ネオペンチルグリコールをそのまま用いると、その影響が最終共重合ポリエチレンに直接表れるという問題があった。そこで、上記処理を行なうことにより異物混入が抑制され、共重合ポリエステルの清澄度が向上する。
【0066】
上記濾過には、平均孔径20μm以下のフィルターを用いることが好ましく、また、当該フィルターとしては平均孔径が15μm以下のものがより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。一方、清澄度に対する要求度と濾過の操業性の点より、平均孔径の下限は1μm程度である。フィルターの形式や容量は限定されず、共重合ポリエステルの清澄度や操業性等を考慮して適宜選択すればよい。
【0067】
濾過手段の設置場所は、特に限定されない。例えば、ネオペンチルグリコールの供給タンクから共重合ポリエステルの製造装置までの間の任意の場所に設置すればよい。
【0068】
なお、ネオペンチルグリコールを溶融状態または溶液状態で取り扱うことは、ネオペンチルグリコール供給量の精度向上にも繋がる。ネオペンチルグリコールの溶融は、共重合ポリエステルの製造設備内に溶融槽を設置して行ってもよいし、溶融状態のものを購入して使用してもよい。
【0069】
新規のネオペンチルグリコールは、直接スラリー調製槽に供給してもよいし、事前にエチレングリコールや後述の回収グリコール成分と混合してスラリー調製槽に供給してもよい。
【0070】
なお、本発明においては、回収PETボトルの化学分解回収法で得られたテレフタル酸、或いはグリコール成分等のリサイクル原料を用いることは、省資源や環境保護に役立つので好ましい実施態様である。
【0071】
工程2) エステル化反応工程
上記工程1で得られたスラリーを、直列に連結した2以上のエステル化反応槽へ導入し、エステル化反応に付することによって、テレフタル酸の両末端カルボキシル基にグリコールが縮合したオリゴマー化合物を得る。
【0072】
ここで、本発明に係る共重合ポリエステルの連続製造方法は、工程2(エステル化反応)と共に後述する工程3(重縮合反応)を含め、連続的なものであることが重要である。連続式の製造方法は、回分式の製造方法に比して品質の均一性や経済性において有利である。
【0073】
エステル化反応工程における反応槽の個数やサイズは限定なく適宜選択できる。また、各工程の製造条件は、重縮合触媒や静電密着性向上のための添加剤の種類や量、反応槽の個数やサイズ等により適宜選択できる。
【0074】
例えば、工程2のエステル化反応は、複数のエステル化反応槽を直列に連結した多段式装置(図1において、エステル化反応槽3〜5)を用いて、反応によって生成した水を蒸留塔9と10で系外に除去しながら実施するのが好ましい。エステル化反応の温度は240〜290℃、好ましくは245〜280℃とし、圧力はゲージ圧で常圧〜290KPa、好ましくは20〜190KPaとする。最終的にはエステル化反応率は90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。また、上記エステル化反応槽としては、その内部に堰等を設けて一個の反応槽内で多段化したものを用いてもよい。
【0075】
本発明方法では、エステル化反応に引き続いて重縮合反応を連続的に行なう。この重縮合反応に必要な重縮合触媒の添加時期は特に問わないが、好適にはエステル化反応の第1段階から供給することが好ましい。重縮合触媒は、エステル化反応の触媒にもなり得るからである。
【0076】
かかる重縮合触媒は、ポリエステルの製造で一般的に用いられているものであれば特に制限されないが、例えばアンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物およびアルミニウム化合物等を用いることができる。
【0077】
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイドなどが好適であり、特に好ましくは三酸化アンチモンである。
【0078】
チタン化合物としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、シュウ酸チタン酸リチウム、シュウ酸チタン酸カリウム、シュウ酸チタン酸アンモニウム、酸化チタン、チタンとケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物;チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステル、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物;チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物;チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルと少なくとも2個のヒドロキシル基を有する多価アルコール;2−ヒドロキシカルボン酸および塩基からなる反応生成物などが挙げられ、このうちチタンとケイ素の複合酸化物、チタンとマグネシウムの複合酸化物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物が好ましい。
【0079】
スズ化合物としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、モノブチルヒドロキシスズオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズサルファイド、ジブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸などが挙げられ、特にモノブチルヒドロキシスズオキサイドの使用が好ましい。
【0080】
ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウムなどが好適であり、特に好ましくは二酸化ゲルマニウムである。二酸化ゲルマニウムとしては、結晶性のものと非晶性のものもいずれもが使用できる。
【0081】
また、アルミニウム化合物としては、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩が挙げられる。これらのうちカルボン酸塩が特に好ましい。
【0082】
このような触媒を供給する位置や供給方法については、特に限定されるものではなく、製造条件に対応して適宜決定すればよい。例えば、これら重縮合触媒をそのまま反応槽へ投入してもよいし、エチレングリコール等のグリコール成分に溶解または懸濁した上で供給してもよい。
【0083】
本発明では、工程2の第2エステル化反応槽以降でネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給するのが好ましい。従来方法におけるネオペンチルグリコール共重合ポリエステルの製造では、グリコール成分はスラリー調製においてその全量が供給されていた。しかしかかる従来方法では、長期にわたり連続生産をした場合に、共重合ポリエステル中のグリコール成分組成が変動することがあるという問題があり、その抑制方法の確立が嘱望されていた。本発明者らは、この問題を解決するために検討をして、ネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を工程2の第2エステル化反応槽以降で追加供給することによって、この変動が抑制できることを見出した。
【0084】
上記の追加供給は2回以上に分割して実施してもよい。追加供給するグリコール成分の組成、エステル化反応槽への分割供給回数および分割供給比率は特に限定されない。また、添加すべきエステル化反応槽も、第2段階以降であれば特に制限されない。当該グリコール成分の組成は、ネオペンチルグリコールとエチレングリコールの混合物であるのが好ましい。その組成比は目的とした共重合ポリエステルのグリコール組成物比や得られる共重合ポリエステルの組成変動の抑制効果等を考慮し適宜決定すればよい。また、第2段階以降のエステル化反応槽へ、製造工程全体におけるグリコール成分の全添加量の2〜10質量%を添加するのが好ましく、4〜8質量%添加することがより好ましい。
【0085】
かかるグリコール成分の分割供給により共重合ポリエステル中のグリコール成分組成の変動が抑制される理由は不明であるが、エステル化反応におけるグリコール成分の系外への留出割合の変動が抑制されることによると推察している。
【0086】
本発明では、工程2の第2エステル化反応槽以降でネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給する際において、ネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を供給する反応槽の反応温度は、前段階の反応温度よりも低く設定するのが好ましい。かかる態様によって、ネオペンチルグリコールを含むグリコールが追加供給されるエステル化反応槽における反応液のネオペンチルグリコールにより引き起こされる発泡が抑制され、長期にわたり安定した運転が可能となる。通常、複数個の反応槽でエステル化反応を行う場合は、反応の進行に従い反応槽内温度を高めて行く方法で実施されるが、それではネオペンチルグリコールを含むグリコールの追加供給により当該追加供給される反応液の発泡が増大することによって、当該反応槽に設置されている蒸留塔への配管や蒸留塔にポリエステルオリゴマーが飛散し、操業が困難になる場合がある。一方本発明では、かかる追加供給を行なうエステル化反応槽における反応温度を前段階よりも低くすることによって、この問題の解決を図っている。
【0087】
ネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給する段階の反応温度は、前段階よりも5〜15℃低くすることが好ましい。15℃を超えて反応温度を低くすると、エステル化反応を効率的に行なえないおそれがある一方で、5℃未満であると発泡する場合がある。
【0088】
本発明における工程2または後述する工程3において、反応系から留出するグリコール成分を、蒸留塔へ導入して精製し、再使用することが好ましい。かかる態様によって、新規グリコールの使用量を減らすことができるので、共重合ポリエステルの製造コストの大幅な低減が可能となる。また、回収したグリコール成分は、新規のグリコール成分を添加する場合に比べて、その組成を調節する手間が少ない。さらに、新規のグリコール成分をそのまま反応槽へ投入すると反応温度が下がり、製造効率が低下する場合があるが、回収グリコール成分は比較的温度が高いため、かかる熱ショックも少ない。
【0089】
前述した様に、本発明の工程2または工程3で添加されるリン化合物は、その一部が留出グリコールに混入する。かかるリン化合物の量は制御し難い上に、構造が変化して活性も変わっている場合がある。よって、留出グリコール成分を精製して再使用する場合には、リン化合物の混入を阻止またはできる限り抑制した上で、目的物である共重合ポリエステルに配合されるリン化合物の量は、最初の添加量のみで制御することによって、共重合ポリエステルの特性を維持することが好ましい。
【0090】
特に、前述したリン化合物と共にマグネシウム化合物およびナトリウム化合物を反応系に添加し、これらの原子比を特定範囲にすることにより共重合ポリエステルの静電密着性を向上させる場合においては、マグネシウム化合物含有量に対するリン化合物含有量の変動により静電密着性が大きく変化する。また、重縮合触媒としてチタン系、錫系あるいはアルミニウム系触媒を用いる場合は、リン化合物の量は、重縮合触媒活性にも大きく影響する。さらに留出グリコールに混入するリン化合物は、添加時とは構造が変化しており、上記の静電密着性や重縮合触媒に対してより顕著な影響を及ぼすという側面を有している。従って、回収精製したグリコール中のリン原子含有量が10ppm以下になるようにして循環再使用するのが好ましい。当該含有量としては、8ppm以下がより好ましく、5ppm以下がさらに好ましい。リン原子含有量が10ppmを超えるグリコール成分を使用した場合、共重合ポリエステルに残存するリン原子量が設計値から変動することにより静電密着性や触媒活性が不安定になり、品質や操業性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0091】
共重合ポリエステルの製造工程で添加されたリン化合物は、化学反応によりその構造が変化して、例えばリン酸のグリコールエステル等の構造になっている。その結果、留出するグリコール成分中に含まれるリン化合物は、グリコールより高沸点の化合物に変質している。従って、上記の回収グリコール中のリン原子含有量が10ppm以下になるようにするには、蒸留塔による蒸留により高沸点留分を分留除去することが好ましい。
【0092】
一方、留出するグリコール成分中にリン化合物が含まれていなければ、水等の低沸点混入物を分留除去するのみで、高沸点留分を分留除去せずに循環再使用してもポリエステルの品質等に悪影響を及ぼすことは少ないので、高沸点留分を除去せず循環再使用することが好ましい。従って、グリコール成分の回収精製は、リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物(A)と、リン化合物を添加した以降の反応槽より留出する留出物(B)とを区分して行うことが好ましい。リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物にはリン化合物は混入しないので、両者を区分して回収精製し循環再使用することは、経済性、即ち運転経費の節減と設備の簡略化に大きく寄与する。
【0093】
上述した様に、リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物(A)には、リン化合物は含まれていない。よって留出物(A)から蒸留塔により低沸点留分を分留除去して、残留分(A’)を回収グリコール成分として循環再使用することが好ましい。
【0094】
リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物(A)を処理する蒸留塔の本数や性能は限定されないが、8〜18段が好ましく、9〜15段がより好ましい。また、泡鐘カラムおよび充填カラムのどちらでもよい。還流比は蒸留塔の段数や回収グリコールの要求品質により適宜設定される。
【0095】
ここで、低沸点留分とは、水、アセトアルデヒド、メタノールなど、留出グリコール成分に伴って反応槽より放出されるグリコール成分よりも沸点が低い副生物等をいう。
【0096】
上記の低沸点留分を分留除去する分留においては、蒸留塔の塔底より抜き出した残留分の一部を同蒸留塔に循環させること(以下、「蒸留塔液循環法」と称する)が好ましい実施態様である。当該方法の実施により、残留分の送液ラインのライン詰りの発生が抑制され、長期の安定操業が可能となる。留出するグリコール成分中には、飛沫同伴等により共重合ポリエステルのオリゴマー類等よりなるグリコールに難溶性または不溶性の固形分が含まれる。この固形分は、当然のことであるが上記蒸留において、蒸留塔残留分中に含まれ共重合ポリエステル製造工程に循環される。従って、共重合ポリエステルの製造を長期にわたり連続して実施した場合に、残留分の送液ラインにおいて、残留分中に存在する固形分または送液ライン中で析出する固形分により送液ラインの送液性の低下やライン詰まりが発生し、安定運転が困難になるという課題を有しており、その改善が嘱望されていた。この問題は、蒸留塔液循環法により解決することができる。この蒸留塔液循環法の実施により上記問題が解決される理由は明確でないが、残留分の送液流量および流速の増加、液温度維持、該温度変動抑制および残留分の蒸留塔内の滞留延長による固形分の構造変化等の複数の要因の総和によって、固形分の析出が抑制されることにより引き起こされるものと推察される。ここで、構造変化は、化学変化と物理変化の両方の効果が加味されていると推察される。即ち化学変化としては、固形分中のオリゴマーのグリコリシスによる低分子量化によりグリコールへの溶解性の向上および結晶性低下等が起こり、また、物理変化としては、固形分の結晶性等の変化が考えられる。また、蒸留塔液循環法の実施は、ライン詰りの抑制に加えて分留精度の向上にも繋がる。
【0097】
蒸留塔においては、残留分の液温や当該温度範囲の設定、蒸留塔底部の残留分の貯留容量、循環液の戻し位置や循環量等が重要となる。これらの条件は限定されないが、以下の方法が好ましい。例えば、循環液の戻し位置は、蒸留塔の中段から蒸留塔底部の残留分の貯留部の最上部が好ましい。蒸留精度向上の点では蒸留塔の中段への戻しが好ましいが、温度管理の点では不利になる。具体的には、両者のバランスにおいて適宜決定される。また、循環液の蒸留塔への供給は、当該液を噴霧状態で供給することによるのが好ましい。この態様によって、分留効率の増進や蒸留塔トレイの飛沫同伴による汚染防止効果が付加される上に、供給液量を安定させることができ、循環液の流量変動による循環ラインの詰まり発生が抑制できる。さらに、循環ライン内での詰まり発生防止のために循環ラインの配管内面をバフ研磨や電解研磨処理をしたり、配管の曲がり半径を大きくする等の対応をすることが好ましい。循環に用いるポンプはリバース形とノンリバース形のどちらでもよいが、リバース形が好ましい。貯留量は循環量に対し25〜70質量%に保つことが好ましく、循環量は残留分の30〜75質量%が好ましい。また、循環液温度は160〜180℃が好ましく、164〜173℃がより好ましく、168〜175℃がさらに好ましい。温度が160℃未満の場合はライン詰り頻度が高くなる場合がある。逆に180℃を超えた場合は、エネルギーロスの増加に繋がって経済的に不利となり、また、蒸留精度の低下に繋がり得る。当該温度維持と温度制御のために、循環ラインに温度調整機能を付加するのが好ましい。
【0098】
上記蒸留塔による分留の条件は限定されず、それぞれの蒸留塔の性能や必要とされる分留精度等により適宜設定すればよい。例えば、精製された回収グリコール中に水分が含まれるとエステル化反応が影響を受け、最終的には共重合ポリエステルの品質に大きく影響するので、水分量を制御するのが好ましい。回収グリコール中の水分量やその変動は、共重合ポリエステルの品質や経済性を考慮して適宜設定すればよい。制御方法も限定されない。
【0099】
一方、リン化合物を添加した以降の反応段階より留出する留出物(B)からは、水を主体とした低沸点留分とポリエステルオリゴマーやリン化合物等を含む高沸点留分を分留除去し、得られた中留分(B’)を回収グリコールとして循環再使用することが好ましい。
【0100】
留出物(B)については、従来技術の様に、留出物(A)と同様に低沸点留分のみを分留除去し、残留分を共重合ポリエステル製造用のグリコールの一部または全量として再使用すると、回収グリコールにリン化合物が混入して、共重合ポリエステルに残存するリン原子の量が設計値から変動する。その結果、静電密着性や触媒活性が不安定になり、品質や操業性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0101】
それに対して、留出物(A)も留出物(B)と同様に低沸点留分と高沸点留分の両方を分留除去した中留分を再使用する場合は、留出物(A)の処理が過剰となり、設備や運転経費の増大に繋がり経済的に不利となり好ましくない。一般に、留出物(A)は留出物(B)に比して量が多いので、本発明の方法である両者を区分して回収処理を実施することによる経済的効果は大きい。
【0102】
従って、前述のごとくリン化合物を第1エステル化反応槽出口以降で添加をすることが好ましい実施態様である。
【0103】
上記の中留分(B’)の分留は1基の蒸留塔を用いて低沸点留分と高沸点留分とを同時に分留除去する方法で実施してもよいし、前述した留出物(A)の分留と同様の方法により先ず低沸点留分を除去し、得られた残留分を別の蒸留塔に供給して、高沸点留分を除去する多段蒸留法で実施してもよい。後者の態様の方が効率的な分留ができ、また、運転経費の低減にも繋がる。後者の態様で実施する場合の高沸点留分を除去する蒸留塔の段数は、20〜30段が好ましい。還流比は、蒸留塔の段数や回収グリコールの要求品質により適宜設定すればよい。
【0104】
本発明において、エステル化反応槽からの留出物の低沸点留分の分留除去は、留出物自体が有する熱により連続的に行うことが好適である。このことにより、運転経費の節減と設備の簡略化をより高めることができる。必要に応じて、配管の加熱や熱交換により補助加熱してもよい。
【0105】
なお、エステル化反応槽より留出するグリコール成分に含まれる固形分は融点が低く、エステル化反応工程で反応系に溶解、反応してポリエステルに取り込まれるので除去する必要はない。但し、前述した蒸留塔液循環法等による固形分析出を原因とする蒸留残留分の送液ラインの詰り防止を行うことが好ましい。
【0106】
上記方法で回収精製されたグリコール成分の再使用方法は限定されないが、グリコール貯槽に蓄えた後に、共重合ポリエステル製造用のグリコール成分として再使用するのが好ましい。留出物(A)および(B)からの回収グリコールはそれぞれ別個の貯槽に蓄えてもよいし、一括して蓄えてもよい。また、回収されたプラントで使用してもよいし、別プラントで使用してもよい。また、留出物(A)の場合は、蒸留塔下部の体積を大きくしてこの部分に貯留をしてもよい。
【0107】
上記方法で回収されたグリコール成分は、精製された回収グリコールをそのままスラリー調製に用いてもよい。回収されたグリコール成分は、その組成を測定した上で、必要に応じて新規のグリコール成分を所定量混合し、スラリー調製に必要な所望の組成を有するグリコール成分とした上で、スラリー調製槽に供給してもよい。回収グリコールのグリコール組成評価は、ガスクロマトグラフィー分析、近赤外線吸分光法およびNMR分析法等から選ばれた方法で行うのが好ましい。
【0108】
上記方法で回収されたグリコール成分の一部は、工程2における第2段階以降のエステル化反応に供給することが好ましい。
【0109】
また、本発明においては、ネオペンチルグリコールを含むグリコール成分の追加供給方法として、リン化合物を添加する前の反応段階より留出したグリコールを蒸留塔で分留して得た残留分(A’)の一部を、工程2(エステル化反応)へ供給してもよい。これにより、グリコール組成が適切となり得られる共重合ポリエステル組成の変動抑制効果が向上する。また、当該残留分は加温状態になっており、反応槽へ供給した時の熱ショックが抑制され反応の安定化に繋がる。従って、新規グリコール成分を供給する場合に必要なグリコール組成の調整や加温操作が不要となる。
【0110】
本発明の工程2(エステル化反応)は、直列に連結した2以上のエステル化反応槽で行なう。具体的には、図1の様に複数のエステル化反応槽を設け、各反応槽での液面が一定となる様に反応液の供給と抜き出しをし、次の反応段階における反応槽へ反応液を供給する。エステル化反応の最終段階を経た反応液は、続いて工程3(重縮合反応)へ供給される。
【0111】
なお、本発明においては、工程2や工程3を通じて、或いはこれらを連結するパイプ等において、オリゴマーやポリマーをフィルターにより濾過することが好ましい。これにより、反応物の清澄度を高めることができる。ここで使用できるフィルターの目開き、構造、容量および設置場所等は、特に限定されない。
【0112】
工程3) 重縮合反応工程
工程2のエステル化反応を経た反応液は、引き続き重縮合反応槽に移送して重縮合反応を行う。
【0113】
重縮合反応工程における反応槽の個数やサイズは限定なく適宜選択できる。また、各工程の製造条件は、前記した重縮合触媒や静電密着性向上のための添加剤の種類や量、反応槽の個数やサイズ等により適宜選択できる。
【0114】
例えば、図1の様に複数の重縮合反応槽を設け、各反応槽での液面が一定となる様に反応液の供給と抜き出しをし、次の反応段階における反応槽へ反応液を供給する。
【0115】
重縮合反応条件は、第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は10〜2.7KPa、好ましくは2.7〜0.27KPaで、最終段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は1.3〜0.13KPa、好ましくは0.65〜0.065KPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階の重縮合反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件とする。これらの重縮合反応工程の各々において到達される固有粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
【0116】
本発明における重縮合反応の条件は、共重合ポリエステルの品質や生産性を考慮し適宜設定すればよい。
【0117】
工程3でもグリコール成分が留出するため、これを回収精製して再利用することが好ましい。この回収精製の詳しい条件等は、上記工程2と同様にすることができる。
【0118】
但し、重縮合反応槽からの留出物は、湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収されるので、加熱して蒸留塔に供給することが必要となる。また、重縮合反応槽より留出する留分に含有される固形分は融点が高く、これが回収グリコールに含有されたままポリエステル製造工程に循環されると、ポリエステル製造工程でポリエステルに反応せずに異物の発生に繋がる場合があるので好ましくない。従って、かかる固形分を回収グリコールに混入させない方策を取り入れるのが好ましい。その様な方策は限定されないが、湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収された凝縮液中の固形分を除去し蒸留塔に供給するのが好ましい。該固形分の除去方法も限定されない。例えば、濾過、遠心分離あるいは自然沈降等およびこれらを組み合わせた方法で実施するのが好ましい。
【0119】
本発明における以上の方法で回収された回収グリコールの使用割合は制限がなく、適宜設定して使用することができる。その全量を用いてもよいし、その一部のみを用いてもよい。
【0120】
また、本発明においては、必要に応じて、工程内外において未精製または精製グリコールに対して濾過等の処理を行うことにより共重合ポリエステルオリゴマー等の固形分を除去し、配管詰りを回避したり、純度を向上させる等の方法を取り入れることも好ましい実施態様である。
【0121】
工程3の最終段階で得られた共重合ポリエステルを、減圧下あるいは不活性ガス気流下で加熱してさらに重縮合を進めたり、共重合ポリエステル中に含まれている環状3量体等のオリゴマーやアセトアルデヒド等の副生成物を除去する等の手段を取ることも、何ら制約を受けない。また、例えば超臨界圧抽出法等の抽出法で共重合ポリエステルを精製し前記の副生成物等の不純物を除去する等の処理を行うことを取り入れても良い。さらに、最終段階の反応槽の出口に、平均孔径が20μm程度のフィルターを設置して、共重合ポリエステルを濾過してもよい。
【0122】
工程3を経て得られた共重合ポリエステルは、常法により処理すればよい。例えば、最終段階の反応槽の液面が一定となるように共重合ポリエステルを取り出し、水冷却などの手段により固化すればよい。最終的な共重合ポリエステルの形状は特に制限されず、例えばストランド状に固化したものをストランドカッターでペレット化してもよい。
【0123】
本発明方法で製造された共重合ポリエステルの固有粘度は、0.7〜0.8とすることが好ましい。当該範囲の固有粘度を有する共重合ポリエステルを用いて得られる成型体は、力学特性と成型時の操業性とのバランスが取れる。なお、かかる固有粘度は、常法により測定することができる。例えば、フェノール/テトラクロロエタン(60:40、重量比)混合溶媒を用いて、30℃で測定することができる。
【0124】
また、本発明方法で得られる共重合ポリエステルは、静電密着性等の特性に優れ、また、粗大粒子の含有量が少ない高品質なものであり、特にフィルムやシート等の材料として非常に有用である。
【実施例】
【0125】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0126】
なお、下記実施例における評価は、以下の方法で実施した。
【0127】
1.固有粘度(IV)の測定
フェノール:テトラクロロエタン=60:40(重量比)の混合溶媒を用いて、30℃で測定した。
【0128】
2.ポリマー溶融比抵抗(ρi)
275℃で溶融した共重合ポリエステル中に2枚の電極板を置き、120Vの電圧を印加した時の電流値(i)を測定し、比抵抗値ρiを次式により求めた。
ρi(Ω・cm)=A/l×V/ i
ここで、A=電極面積(cm2)、l=電極間距離(cm)、V=電圧(V)である。
【0129】
3.静電密着性
押出機の口金部と冷却ドラムとの間にタングステンワイヤー製の電極を設け、電極とキャスティングドラム間に10〜15KVの電圧を印加してキャスティングを行い、得られたキャスティング原反の表面を肉眼で観察し、ピンナーバブルの発生が起こり始めるキャスティング速度で評価した。キャスティング速度が大きいポリマー程、静電密着性が良好であることを示す。
【0130】
4.共重合ポリエステルの組成比
サンプル約5mgを、重クロロホルム:トリフルオロ酢酸=9:1(体積比)の混合溶媒0.7mlに溶解し、1H−NMR(Varian製、UNITY500)を使用して求めた。
【0131】
5.回収グリコール成分の組成分析
試料液に30容量%のジメチルスルホキサイドを添加し、1H−NMRおよび13C−NMR測定を行い評価した。
【0132】
6.回収グリコール成分中のリン原子含有量の定量
試料を硝酸マグネシウム共存下、550℃で灰化後、1.2M塩酸溶液としてから高周波プラズマ発光分析法により定量した。
【0133】
7.ポリエステル中の粗大粒子数(粒径5μm以上の粒子数)
ポリエステルチップ(一粒)を2枚のカバーグラス間に挟んで280℃で溶融プレスし、急冷した後に100倍の位相差顕微鏡で20視野観察し、イメージアナライザーで5μm以上の粒子の数をカウントした。
【0134】
実施例1
(1)スラリー調製
スラリー調製槽に、テレフタル酸1質量部;後述の方法で留出物(A)より回収した水分3.4質量%、エチレングリコール70.8質量%、ネオペンチルグリコール25.8質量%よりなる回収グリコール成分0.464質量部;および留出物(B)より回収された回収グリコール成分および/または新規のエチレングリコールと新規のネオペンチルグリコールよりなるエチレングリコール45.7質量%とネオペンチルグリコール54.3質量%からなる混合グリコール成分を0.325質量部入れた。ここへ、新規のエチレングリコールを0.044質量部ずつ供給し攪拌しながら、テレフタル酸のグリコールスラリーを調製した。なお、新規のネオペンチルグリコールは、ネオペンチルグリコールの溶融槽で溶融し、上記組成になるようにエチレングリコールと混合槽で混合したものを、平均孔径が5μmのフィルターで濾過した上で、スラリー調製槽へ供給した。
【0135】
(2)エステル化反応
エステル化反応装置として、攪拌装置、蒸留塔、原料仕込口および生成物取り出し口を有する3段の完全混合槽よりなる連続エステル化反応装置を使用した。上記(1)で調製したテレフタル酸のグリコールスラリー1651kg/時間と共に、三酸化アンチモンのエチレングリコール溶液(濃度1.3wt%)を41kg/時間、DEGを2kg/時間ずつ第1のエステル化反応槽に供給し、絶対圧122kpa、温度258℃、平均滞留時間6時間でエステル化反応を行った。
【0136】
第1のエステル化反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第2のエステル化反応槽に投入した。第2のエステル化反応槽の別の投入口からは、後述方法で第1および第2エステル化反応槽より留出したグリコール成分を蒸留塔で分留して得た残留分(A’)を50kg/時間で投入し、絶対圧122kpa、温度247℃、平均滞留時間1.5時間でエステル化反応を行った。第1のエステル化反応槽出口のオリゴマー酸価は、平均値で1950eq/トンであった。
【0137】
第2エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第3のエステル化反応槽に投入した。第3のエステル化反応槽の別の添加口からは、酢酸マグネシウム4水和物のエチレングリコール溶液(濃度4.3質量%)を0.051質量部、リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液(濃度5.9質量%)を0.018質量部、酢酸ナトリウムのエチレングリコール溶液(濃度1.0質量%)を0.009質量部、酢酸コバルト4水和物のエチレングリコール溶液(濃度1.76質量%)を0.003質量部ずつ投入し、圧力は常圧、温度253℃、平均滞留時間1.0時間でエステル化反応を行った。第3エステル化反応槽出口オリゴマーの酸価は、平均値で350eq/トンであった。
【0138】
(3)重縮合
上記第3エステル化反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第1重縮合反応槽に投入して、圧力5.3kpa、温度261℃、平均滞留時間1.5時間で第1重縮合反応を行った。
【0139】
第1重縮合反応槽内の液面が一定となるように反応液を取り出し、第2重縮合反応槽に投入した。圧力0.45kpa、温度272℃、平均滞留時間1.2時間で第2重縮合反応を行った。
【0140】
第2重縮合反物の液面が一定となるように反応液を取り出し、第3重縮合反応槽に投入した。温度272℃、平均滞留時間1.2時間で、反応生成物の平均固有粘度が0.74となるように真空度(圧力)を調節した。圧力は0.06〜0.15kpaの範囲であった。
【0141】
第3重縮合反応内の液面が一定となるように共重合ポリエステルをストランド状に取り出し、当該共重合ポリエステルを水冷却固化し、ストランドカッターでペレット化した。なお、第3重縮合反応槽出口に平均孔径20μmのフィルターを設置して、共重合ポリエステルを濾過した。
【0142】
10日間連続運転し、12時間毎に共重合ポリエステルのサンプルを得た。これらサンプルの性質を上記方法により測定したところ、固有粘度は0.73〜0.75、全グリコール成分に対するネオペンチルグリコールの含有量は28〜32モル%、溶融比抵抗は0.17〜0.19×108Ω・cm、5μm以上の粒子数は42〜48個であった。また当該共重合ポリエステルのDEGの含有量は1.5モル%、酸価は13eq/トン、融点(流動点)は181℃、テレフタル酸とエチレングリコールの環状3量体の含有量は3700ppm、テレフタル酸とネオペンチルグリコールの環状2量体の含有量は2200ppmであった(何れも平均値)。結果を表1に示す。当該結果の通り、本実施例で得られた共重合ポリエステルは高品質で、しかも品質変動が抑制されていた。
【0143】
(4)グリコール成分の回収
上記(1)〜(3)に示した共重合ポリエステル製造工程におけるグリコール成分の流れを図1に示す。
【0144】
第1エステル化反応槽3および第2エステル化反応槽4より留出する留出分(留出分A)を、段数が15段の泡鐘タイプの蒸留塔9に、第3エステル化反応槽5および3基の重縮合反応槽6〜8よりから留出する留出分(留出分B)を、段数が9段の泡鐘タイプの蒸留塔10に供給し、水を主体とする低沸点留分を除去した。両蒸留塔ともに、底部より取り出される残留分の一部を、それぞれの蒸留塔の中間部に循環させた。当該循環液の温度は、168℃近辺で安定していた。これら蒸留塔9と10では、塔頂の圧力を100kPa±1.3%以内に制御した。この圧力は、蒸留塔ベント配管に設置した調圧弁で制御した。なお、エステル化反応槽3〜5からの留出分に関しては、蒸留に必要な熱は留出分自体が有する熱量で足りるので加熱の必要はなかった。かかる循環によって、蒸留塔底部より取り出される残留液(本実施例の場合は回収グリコール成分)の送液ラインの詰まりは発生しなかった。
【0145】
蒸留塔9は、7段目に設置した温度検出器で検出した温度が130±2℃になるよう制御した。得られた残留分はグリコール成分貯層17に供給した。得られた回収グリコール成分の組成は、平均値で水分3.4質量%、エチレングリコール70.8質量%、ネオペンチルグリコール25.8質量%であった。得られた回収グリコール成分をスラリー調製に用いた。また、前述のごとくその一部を第2エステル化反応槽に供給した。
【0146】
蒸留塔10において、水を主体とする低沸点留分が除去されており、蒸留塔底部より取り出される残留液は、高沸点留分除去用の25段の蒸留塔14に供給した。蒸留塔14で高沸点留分を留去した回収グリコール成分中の水分は0.1wt%以下、DEG成分は0.2wt%であり、特にリン原子含有量は1.3ppmまで低減できた。この回収グリコール成分へ新規ネオペンチルグリコールを添加してネオペンチルグリコール含有量を54.3質量%に調節した後、回収グリコール成分貯槽18に貯留し、スラリー調合の原料の一部とした。
【0147】
3基の重縮合反応槽6〜8から留出する留出分は、減圧系で発生するため各反応槽に設置された湿式コンデンサー11〜13で凝縮して、グリコール成分凝縮液貯槽20〜22へ供給した後に蒸留塔10に供給する。そのために、熱交換器26において、蒸留に必要な熱量がグリコール成分凝縮液へ付与される。また、湿式コンデンサーに噴霧されるグリコール成分液の温度の上昇を抑えるために、グリコール成分液を冷却器23〜25で冷却した上で、湿式コンデンサーに供給する。このグリコール成分液は、各湿式コンデンサーで凝縮された凝縮液自体の自己循環で実施されるが、その一部または全部として新規エチレングリコールを供給してもよい。
【0148】
比較例1
実施例1の方法において、蒸留塔10の塔底留分を蒸留塔14に供給した後に高沸点留分の除去処理を行うことなくグリコール成分貯槽18に供給するように変更する以外は実施例1と同様にして重縮合を行って、共重合ポリエステルを得た。本比較例1に係る共重合ポリエステル製造工程におけるグリコール成分の流れを図2に示す。
【0149】
蒸留塔10の塔底留分を分析したところ、リン原子が200ppm含まれていた。また、本比較例で得られた共重合ポリエステルの性質を、上記方法により測定した。結果を表2に示す。
【0150】
溶融比抵抗の平均値は0.88×108Ω・cmと高く、最大キャスティング速度は28m/分であり、静電密着性が著しく劣っていた。また、当該共重合ポリエステルの溶融比抵抗を実施例1と同様の方法で求めたところ、その変動範囲は表2の通り0.78〜1.05×108Ω・cmであり、著しく劣っていた。本比較例において、静電密着性が低下し且つ溶融比抵抗の変動が増大するのは、回収グリコール成分中のリン化合物が重縮合系に循環されるために引き起こされたものである。
【0151】
比較例2
実施例1の方法において、回収グリコール成分を第2エステル化反応槽へ供給しない以外は実施例1と同様にして、比較例2の共重合ポリエステルを得た。結果を表2に示す。表2の通り、10日間連続運転をした時の共重合ポリエステル特性の平均値は同等であったが、12時間毎に測定した時のネオペンチルグリコール含有量の変動範囲は26〜34モル%であり、実施例1の方法に比べて劣っていた。
【0152】
比較例3
実施例1の方法において、第2エステル化反応槽温度を260℃に変更する以外は、比較例1と同様の方法で実施した。その結果、第2エステル化反応槽の発泡が多く、長期の安定生産が困難であった。
【0153】
比較例4
実施例1の方法において、新規のネオペンチルグリコールをスラリー調製槽へ供給するに当り、溶融濾過することなく、固体状態のままスラリー調製槽へ直接添加するように変更する以外は実施例1と同様の方法で、共重合ポリエステルを製造した。結果を表2に示す。表2の通り、本比較例で得られた共重合ポリエステルは粗大粒子の量が多く低品質であった。
【0154】
比較例5
比較例1の方法において、蒸留塔9および10に設けた蒸留塔底部より抜き出した残留分の蒸留塔への循環ラインを取り外し、循環を取りやめて残留分の全量をそれぞれの供給先に送液するように変更した。本比較例で実施した場合は、比較例1の方法での課題に加えて、蒸留塔底部から抜き出した残留分の送液ラインにおいて、時々固形分析出によるライン詰りが起こり、長期に渡り安定生産をすることが困難な場合があった。よって、蒸留塔における留出グリコール成分の精製では、蒸留塔残留液の一部を循環することがより好ましいということが明らかとなった。
【0155】
実施例2
実施例1の方法において、三酸化アンチモンをテトラブチルチタネートに変更し、かつその添加量を生成共重合ポリエステルに対してチタン原子として15ppmになるように変更する以外は実施例1と同様の方法で、実施例2の共重合ポリエステルを得た。結果を表1に示す。実施例1の方法と同等の特性の共重合ポリエステルが安定生産できた。
【0156】
比較例6
実施例2の方法において、グリコール成分の回収方法を比較例1と同様の方法に変更する以外は実施例2と同様にして、比較例6の共重合ポリエステルを得た。その結果、回収グリコール成分中に存在するリン化合物の影響で、比較例1方法における課題に加えてチタン触媒の失活が起こり、固有粘度が0.50で頭打ちになり所定の固有粘度の共重合ポリエステルは得られなかった。
【0157】
実施例3
実施例1の方法で、回収グリコール成分の第2エステル化反応槽への供給を取りやめ、代わりに新規のネオペンチルグリコール/エチレングリコール=73/27の混合溶液(質量比)を50Kg/時間で供給するように変更する以外は実施例1と同様の方法で、実施例3の共重合ポリエステルを得た。結果を表1に示す。表1の通り、実施例1と同等の特性の共重合ポリエステルが安定生産できた。
【0158】
実施例4
実施例1の方法において、(1)溶融状態のネオペンチルグリコールを平均孔径が5μmのフィルターで濾過した後にエチレングリコールと混合し、当該混合溶液は濾過せずスラリー調製槽に導入したこと、および(2)第3エステル化反応槽より留出したグリコール成分の蒸留塔10による分留を取り止め、全量を凝縮器16で凝縮し、全重縮合反応槽より留出したグリコール成分の凝縮液とを併せて、段数が30段の蒸留塔15を用いて分留し、低沸点留分および高沸点留分をカットした中留分を回収グリコール成分貯槽18に貯留しスラリー調合の原料の一部とするように変更する以外は実施例1と同様の方法で、実施例4の共重合ポリエステルを得た。
【0159】
得られた共重合ポリエステルの品質は、表1に示す通り、実施例1で得られた共重合ポリエステルと同等の品質を有しており高品質であった。なお、上記中留分のリン原子含有量は1.8ppmと十分に抑制されていた。本実施例4における共重合ポリエステル製造工程におけるグリコール成分の流れを図3に示す。
【0160】
【表1】

【0161】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】実施例1に係る共重合ポリエステル製造工程におけるグリコール成分の流れを示す図である。
【図2】比較例1に係る共重合ポリエステル製造工程におけるグリコール成分の流れを示す図である。
【図3】実施例4に係る共重合ポリエステル製造工程におけるグリコール成分の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0163】
1:計量タンク
2:スラリー調製槽
3:第1エステル化反応槽
4:第2エステル化反応槽
5:第3エステル化反応槽
6:第1重縮合反応槽
7:第2重縮合反応槽
8:第3重縮合反応槽
9、10、14、15:蒸留塔
16:凝縮器
11〜13:湿式コンデンサー
17、18:回収グリコール成分貯槽
20〜22:グリコール成分凝縮液貯槽
23〜25:冷却器
26:熱交換器
27〜44:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合ポリエステルを連続して製造する方法であって、
工程1: 少なくともテレフタル酸、エチレングリコール、およびネオペンチルグリコールをスラリー調製槽へ導入してスラリーを調製する工程;
工程2: 調製したスラリーを、直列に連結した2以上のエステル化反応槽へ連続的に導入し、エステル化反応に付してオリゴマー化合物を得る工程;および
工程3: 得られたオリゴマー化合物を重縮合反応に付して共重合ポリエステルを製造する工程、を含み、
工程1〜3を通じて1回以上リン化合物を供給し、
工程1において、新規の固体ネオペンチルグリコールを、溶融状態でおよび/またはエチレングリコール溶液とした後に濾過してスラリー調製槽へ導入し、
工程2において、第2エステル化反応槽以降にネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給し、
当該追加供給するエステル化反応槽の反応温度を、前段階のエステル化反応槽の反応温度よりも低く設定し、且つ
リン化合物の供給以降において、留出したグリコール成分のリン原子含有量を蒸留塔により10ppm以下に低減した上で循環再使用すること、
を特徴とする共重合ポリエステルの連続製造方法。
【請求項2】
ネオペンチルグリコールを溶融状態でおよび/またはエチレングリコール溶液としたものを、平均孔径が20μm以下のフィルターで濾過する請求項1の連続製造方法。
【請求項3】
ネオペンチルグリコールを含むグリコール成分を追加供給するエステル化反応槽の反応温度を、前段階のエステル化反応槽の反応温度より5〜15℃低くする請求項1または2に記載の連続製造方法。
【請求項4】
リン化合物を、第2エステル化反応槽以降で添加する請求項1〜3の何れかに記載の連続製造方法。
【請求項5】
留出するグリコール成分の精製を、リン化合物を添加する前の反応槽より留出する留出物(A)と、リン化合物を添加した以降の反応槽より留出する留出物(B)とを区分して行う請求項1〜4の何れかに記載の連続製造方法。
【請求項6】
上記留出物(A)から低沸点留分を分留除去し、残留分(A’)を回収グリコール成分として循環再使用する請求項5に記載の連続製造方法。
【請求項7】
上記留出物(A)を分留する蒸留塔の塔底より抜出した残留分(A’)の一部を、当該蒸留塔に循環する請求項6に記載の連続製造方法。
【請求項8】
上記残留分(A’)の一部を、工程2における第2エステル化反応槽以降に供給する請求項6または7に記載の連続製造方法。
【請求項9】
上記の留出物(B)から、低沸点留分とリン化合物を含む高沸点留分とを分留除去し、得られた中留分(B’)を回収グリコールとして循環再使用する請求項5〜8の何れかに記載の連続製造方法。
【請求項10】
上記留出物(B)から低沸点成分を分留する蒸留塔の塔底より抜出した蒸留塔残留液の一部を、当該蒸留塔に循環する請求項9に記載の連続製造方法。
【請求項11】
上記留出物(B)から低沸点留分を蒸留塔により分留除去した後に、別の蒸留塔でリン化合物を含む高沸点留分を分留除去することにより中留分(B’)を得て循環再使用する請求項5〜10の何れかに記載の連続製造方法。
【請求項12】
上記中留分(B’)の一部を、工程2における第2エステル化反応槽以降に供給する請求項9〜11の何れかに記載の連続製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−254660(P2007−254660A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83094(P2006−83094)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】