説明

共重合ポリエステル及びその製造方法と用途

本発明は共重合ポリエステル及びその製造方法とその用途に関し、ジカルボン酸成分の90mol%以上がテレフタル酸単位、ジオール成分の70mol%以上99mol%以下がエチレングリコール単位、ジオール成分の1mol%以上30mol%以下が側鎖を有する炭素数6以下の脂肪族ジオール単位からなるポリエステルであって、かつ該ポリエステルはポリエチレングリコール単位を含む。この共重合ポリエステルは従来の技術で繊維を製造でき、そして織物を製造する。その織物は常圧で分散染料での染色性が良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共重合ポリエステル及びその製造方法と用途に関する。更に詳しくは、側鎖を有する炭素数6以下の脂肪族ジオールが共重合されたポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルなかでもポリエチレンテレフタレートはその優れた性質から、繊維、フィルム等の様々な用途で用いられている。とくにポリエステル繊維においては衣料用、産業資材用等、使用用途は多岐にわたっている。
【0003】
ポリエステル繊維はその多くの使用用途で染色されることが多いが、通常のポリエステル繊維は鎖状分子が緊密であり結晶化度が高いために染色されにくく、分散染料を用いる場合、130℃程度の高温高圧が必要となる。高温高圧という条件で染色する場合は、設備投資が増える他、コストも高くなる。
【0004】
このポリエステル繊維の染色性改善の課題には古くから多くの検討がなされてきている。なかでも共重合技術によるポリマー特性を改善する方法は代表的手法の一つである。
【0005】
これに対して、側鎖を有するジオールを共重合したポリエステルが提案されている(CN101063236A、CN1534114A)。染色性は高くなるが、染色後の明度L*は依然として高い。もしジオール共重合量が増えれば、染色性能を向上させるが、ポリマーの結晶性が下がり、その上で得られる繊維は後加工工程中の熱処理で収縮率が大きくなり、織物の手触りが硬くなり、繊維の適用範囲が大きく制限される。
【0006】
日本特許JP56−26006では改質ポリエステル繊維が開示され、ポリエステルにスルホン酸基とポリエチレングリコール単位を添加することより染色性能を向上させるが、この方法で得られるポリエステル繊維は分散染料の代わりカチオン染料を用いることが必要であるため、コストが高くなるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、常圧で優れた染色性の上でコストも低い共重合ポリエステル及びその製造方法と用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の技術解決案は下記のとおり:
ジカルボン酸成分の90mol%以上がテレフタル酸単位、ジオール成分の70mol%以上99mol%以下がエチレングリコール単位、ジオール成分の1mol%以上30mol%以下が側鎖を有する炭素数6以下の脂肪族ジオール単位からなる共重合ポリエステルであり、かつ該共重合ポリエステルには、ポリエチレングリコール単位を含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の側鎖を有する炭素数6以下の脂肪族ジオール単位とは、具体的に2−メチル−1,3-プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、2,3−ジメチル−1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−プロパンジオールなどが挙げられる。良好な染色性をさせるために、2−メチル−1,3−プロパンジオールが好ましい。
【0010】
側鎖を有する炭素数6以下の脂肪族ジオール単位の共重合量は本発明の共重合ポリエステルを構成するジオール成分の1mol%以上30mol%以下であることが必要である。この範囲であると染色性が良好である。好ましくはジオール成分の6mol%以上20mol%以下である。
【0011】
染色性能を高めるために、本発明は共重合反応時、ポリエチレングリコールモノマーを添加する。ポリエチレングリコールの柔軟鎖構造により染料が染み込みやすく、ポリエステル繊維構造の緊密度を低下させるので染色温度が低くなる。ポリエチレングリコールモノマーの分子量は1000g/molから10000g/molである。ポリエチレングリコール単位の総量が共重合ポリエステル総量の1wt%から30wt%にあり、そうしないと、耐熱性が低下し可紡性が低くなって糸切れしやすい。本発明はポリエチレングリコール成分を添加することより、繊維の染色性能を向上させると同時に、ポリエステル結晶性能の低下を避けられるので、後加工しても繊維の熱収縮率と風合いは大きく変化せずに、適用範囲が制限されることがない。
【0012】
本発明の共重合ポリエステルを製造する方法として、100重量部のジカルボン酸、56〜93.4重量部のジオールと1.15〜35重量部のポリグリコールを共重合して共重合ポリエステルを製造し、ジカルボン酸中でフタル酸単元含有量を90mol%以上とし、ジオール中でグリコール含有量を70 mol%以上99mol%以下、側鎖を有する炭素原子数が6個以下の脂肪族ジオール含有量を1mol%以上30mol%以下とし、ジカルボン酸とジオールのモル比が1:1.5から2.5の範囲である。
【0013】
エステル化に使用されるエステル交換反応の触媒或いは重縮合反応の触媒であるが、具体的に酢酸カルシウム、塩化カルシウムなどのカルシウム化合物、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどのマグネシウム化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン化合物、酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート等のチタンアルコキシド、エチレンジアミン4酢酸、ヒドロキシエチルイミノ2酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸、あるいは多価カルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸および/または含窒素カルボン酸をキレート剤とするチタン錯体などが挙げられる。このキレート剤としては、フタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸などのヒドロキシジカルボン酸、エチレンジアミン4酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、カルボキシイミノ2酢酸、カルボキシメチルイミノ2プロピオン酸、ジエチレントリアミノ5酢酸、トリエチレンテトラミノ6酢酸、イミノ2酢酸、イミノ2プロピオン酸、2−ヒドロキシエチルイミノ酢酸、ヒドロキシエチルイミノ2プロピオン酸、2−メトキシエチルイミノ酢酸などの含窒素カルボン酸が挙げられる。
【0014】
本発明の共重合ポリエステルは直重法、DMT法のいずれの方法によっても製造することができる。またバッチ重合法、連続重合法のいずれの方法によっても重合可能である。
【0015】
また本発明の共重合ポリエステルは従来公知の方法で繊維化、さらに織編物とすることができ、得られた製品は常圧で分散染料に対して良好な染色性を持ち、高温高圧染色が必要となる染色設備の導入が不要でランニングコストも下げることができる。同時に、この繊維製品は優れた物性と汎用性を有する。
【実施例】
【0016】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の内容を具体的に説明したものであって、範囲を限定するものではない。
【0017】
本発明中、テレフタル酸90mol%以上含むジカルボン酸をTPAと略記し、グリコールをEGと略記し、2−メチル−1,3-プロパンジオールをMPOと略記し、ポリエチレングリコールをPEGと略記する。
【0018】
実施例1
あらかじめビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート10kgを投入し、温度250℃、圧力1.2×10Paに保持されたエステル化反応槽に、TPA8.25kgとEG3.54kgのスラリーを4時間かけて徐々に供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を進行させた。その後、得られたエステル化反応物のうち10.2kgを重縮合反応層に移した。
【0019】
エステル化反応生成物を250℃、常圧下で保持しながら、共重合ポリエステル総量の1wt%相当のPEG1000を添加して、5分間撹拌した後、MPOを得られるポリエステルの全ジオール成分に対して10mol%となるように添加し30分間撹拌した。その後、ポリマーに対してリン原子換算で18ppmとなるようにリン酸を添加し、5分後にアンチモン原子換算で230ppm相当の三酸化アンチモン及びコバルト原子換算で15ppm相当の酢酸コバルトを添加し、さらに5分後に酸化チタン粒子のエチレングリコールスラリーを、ポリマーに対して酸化チタン粒子換算で0.3wt%となるように添加した。さらに5分後に反応系の減圧及び昇温を開始した。温度は250℃から290℃まで徐々に昇温し、同時に圧力を40Paまで徐々に下げた。最終温度、最終圧力までの時間はともに90分とした。所定の撹拌トルクに到達した後、反応系に窒素を導入し常圧に戻して重縮合反応を停止した。ポリマーをストランド状に吐出、水槽で冷却後、ペレタイズした。得られたポリマーの固有粘度は0.67である。
【0020】
このペレットを乾燥し水分率を50ppmとした後、紡糸温度290℃で溶融紡糸し、引取り速度3000mで巻き取った。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率1.65倍で延伸し、引き続き熱セット温度130℃で熱処理した後巻き取って、56dtex、24フィラメントの延伸糸を得た。
【0021】
得られた糸を用いて筒編みを作製し以下の条件で染色評価を行った。すなわち作製した筒編みを高温染色試験機UR・MINI−COLOR(赤外線ミニカラー(テクサム技研製))を用い、95℃×30分の条件で処理液を撹拌しながら染色を行った。この際、処理液中の薬剤は次のとおりである。
【0022】
Dianix Blue E−Plus(ダイスター(株)製、分散染料)5%owf
ニッカサンソルト(日華化学(株)製、均染剤) 1g/L
酢酸(pH調整剤) 0.5g/L
【0023】
染色後、80℃×20分の条件で次の薬剤を使用して処理液を撹拌しながら還元洗浄を行った。
【0024】
水酸化ナトリウム 0.6g/L
ハイドロサルファイト 2 g/L
【0025】
その後、筒編みを水洗、風乾し評価試料とした。こうして得た評価試料を8枚重ねた状態で分光測色計(Datacolor Asia Pacific(H.K.)Ltd.製 Datacolor 650)を使用して測色した結果、L*=26.1となった。L*はL*a*b*表色系の明度であり、数値が小さいほど良好な染色性であることを示す。
【0026】
同時に、本発明の共重合ポリエステル繊維の汎用性を説明するために、熱収縮率も測定する。方法:10メートルの繊維を取って、10圏に巻いて、160℃下で15分間熱処理してから繊維の長さを測定し、繊維長さの縮小値と元長さの比例で繊維熱収縮百分率が得られる。一般的に、PETの熱収縮率は8%〜10%であり、大きくなればなるほど繊維製品の手触りが硬くなり、応用範囲が制限される。本発明においては、熱収縮率が15%以下のものを優れたとし、18%以下を良好とし、18%を超えたものを不良とする。
【0027】
以下の実施例により詳しく示すが、MPOとPEGを使わなくて得られたポリエチレンテレフタレートと比較し、本発明の共重合ポリエステルは常圧下で染色性能が大きく改善された。
【0028】
比較例1
PEG1000を添加しないこと以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は30.0であった。良好な熱収縮率を有する。
【0029】
比較例2
MPOとPEG1000を添加しないこと以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は37.5で、優れた熱収縮率を有する。
【0030】
実施例2
PEG1000をPEG4000に変更する以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は25.7であった。良好な熱収縮率を有する。
【0031】
実施例3
PEG1000をPEG10000に変更した以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は28.1であった。良好な熱収縮率を有する。
【0032】
実施例4
MPOをDMPO(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)に変更する以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は28.4であった。良好な熱収縮率を有する。
【0033】
実施例5
MPOをEPED(2−メチル−1,5−ペンタンジオール)に変更する以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は29.2であった。良好な熱収縮率をを有する。
【0034】
実施例6
MPOを1,2−PDO(1,2−プロパンジオール)に変更する以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は29.0であった。良好な熱収縮率を有する。
【0035】
実施例7
MPOの添加量を3mol%に変更する以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は30.0であった。優れた熱収縮率を有する。
【0036】
実施例8
MPOの添加量を20mol%に変更する以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は25.2であった。良好な熱収縮率を有する。
【0037】
実施例9
PEG1000の添加量を10wt%に変更する以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は25.0であった。良好な熱収縮率を有する。
【0038】
実施例10
PEG4000の添加量を20wt%に変える以外は実施例1と同様の条件で、得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は27.3であった。良好な熱収縮率を有する。
【0039】
実施例11
実施例1のMPOの添加量を8mol%に、PEG1000の添加量を3wt%に変えて、実施例1と同様の条件で未延伸糸を得、さらに未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率1.65倍で延伸し、引き続き熱セット温度160℃で熱処理した後巻き取って、56dtex、24フィラメントの延伸糸を得た。実施例1と同様の評価方法で得られた筒編みを95℃温度で染色した後、L*は25.7であった。優れた熱収縮率を有する。
【0040】
実施例12
実施例1のMPOの添加量を5mol%、PEG1000の添加量を4wt%に変えて、実施例1で得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率1.65倍で延伸し、引き続き熱セット温度160℃で熱処理した後巻き取って、56dtex、24フィラメントの延伸糸を得た。実施例1の評価方法で得られた筒編みを染色温度95℃のL*は25.5であった。優れた熱収縮率を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分の90mol%以上がテレフタル酸単位、ジオール成分の70mol%以上99mol%以下がグリコール単位、ジオール成分の1mol%以上30mol%以下が側鎖を有する炭素数6以下の脂肪族ジオール単位からなるポリエステルであって、かつ該ポリエステルはポリエチレングリコール単位を含むことを特徴とする共重合ポリエステル。
【請求項2】
ジオール成分の6mol%以上20mol%以下が側鎖を有する炭素数6以下の脂肪族ジオール単位であることを特徴とする請求項1記載の共重合ポリエステル。
【請求項3】
側鎖を有する炭素数6以下の脂肪族ジオールが2−メチル−1,3-プロパンジオールであることを特徴とする請求項1または2記載の共重合ポリエステル。
【請求項4】
ポリエチレングリコール単位の分子量が1000g/molから10000g/molの範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の共重合ポリエステル。
【請求項5】
ポリエチレングリコール単位の総量が共重合ポリエステル総量の1wt%から30wt%の範囲であることを特徴とする請求項1記載の共重合ポリエステル。
【請求項6】
100重量部のジカルボン酸、56〜93.4重量部のジオールと1.15〜35重量部のポリグリコールを共重合して共重合ポリエステルを製造し、ジカルボン酸中でフタル酸単元含有量を90mol%以上とし、ジオール中でグリコール含有量を70mol%以上99mol%以下、側鎖を有する炭素原子数が6個以下の脂肪族ジオール含有量を1mol%以上30mol%以下とすることを特徴とする請求項1記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
ジカルボン酸とジオールのモル比が1:1.5から2.5の範囲であることを特徴とする請求項6記載の共重合ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
繊維を製造するための請求項1記載の共重合ポリエステルの使用。

【公表番号】特表2013−506039(P2013−506039A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531224(P2012−531224)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【国際出願番号】PCT/CN2010/077393
【国際公開番号】WO2011/038671
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(512081018)東レ繊維研究所(中国)有限公司 (3)
【Fターム(参考)】