説明

共重合ポリエステル形成用ポリオール成分、共重合ポリエステルおよびその製造法

【課題】ポリアルキレングリコール類をポリオール成分の一部として用いてアルカリ溶出可能なポリエステルを製造する際の泡立ち現象が抑制され安定したポリエステル化反応が可能なポリアルキレングリコールを提供する。
【解決手段】 5,000以上の数平均分子量を有するポリアルキレングリコール(A)および(A)よりも3,000以上高い数平均分子量を有するポリアルキレングリコール(B)からなるポリアルキレングリコール混合物を必須として含むポリオール成分が、共重合ポリエステルの製造に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は共重合ポリエステル形成用ポリオール成分に関する。詳しくはポリアルキレングリコールからなり、特にアルカリ水等により溶出可能な共重合ポリエステル形成に有用な、ポリオール成分に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水等により溶出可能な共重合ポリエステルは、極細糸によるスエード調高密度織編物や優雅な光沢と柔軟な風合を持った絹様織編物、いわゆるオパール加工を適用するポリエステル系布帛等の用途に広く使用されている。
この共重合ポリエステルとして、従来からポリアルキレングリコール類をポリオール成分の一部として使用したポリエチレンテレフタレートが用いられている(例えば、特許文献1)。また、さらに酸成分に金属スルホネート基含有イソフタル酸を併用することが提案されている。(例えば、特許文献2)
【特許文献1】特公昭47−47532号公報
【特許文献2】特開2000−95850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のアルカリ水等により溶出可能なポリエステルとして、上記のポリアルキレングリコール類をポリオール成分の一部として使用したポリエチレンテレフタレートを製造する際には、留出する水やエチレングリコールによって発生する反応系内の泡が消えにくく、反応の進行とともに泡上面の高さが増大する現象(泡立ち)を引き起こす。泡立ちの結果として、内容物が反応容器から溢れたり、反応液を容器から送り出すポンプの機能を阻害する等の悪影響が現れる。このような、泡立ち現象が抑制され安定したポリエステル化反応ができるポリアルキレングリコールが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、上記問題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
即ち本発明は、5,000以上の数平均分子量を有するポリアルキレングリコール(A)および(A)よりも3,000以上高い数平均分子量を有するポリアルキレングリコール(B)からなるポリアルキレングリコール混合物を必須として含むことを特徴とする、共重合ポリエステル形成用ポリオール成分;それを用いる共重合ポリエステルの製造法;および共重合ポリエステルである。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係るポリアルキレングリコール混合物を共重合ポリエステル形成用のポリオール成分として加えることにより、従来のポリアルキレングリコール類を使用した際に引き起こす泡立ち現象を抑制し、安定したポリエステル化反応を行うことができる。また得られた共重合ポリエステルは優れたアルカリ溶解性と強度を併せ持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において、ポリアルキレングリコール(A)と(B)の数平均分子量の差は、3,000以上、好ましくは3,000〜30,000、より好ましくは7,000〜25,000である。数平均分子量の差が3,000未満であると、共重合ポリエステル製造時の泡立ち現象を抑制する効果が小さくなる。数平均分子量の差が30,000を超えても、製造されるポリエステルの樹脂物性が良好とならない。
低分子量のポリアルキレングリコール(A)の数平均分子量は5,000以上、好ましくは5,000〜15,000、より好ましくは6,000〜10,000である。(A)の数平均分子量が5,000未満であると、共重合ポリエステルの加水分解が起こり、耐熱性が悪化するという樹脂物性上の問題が生じる。15,000以下であると、溶融粘度が低いので作業性が良い。
高分子量のポリアルキレングリコール(B)の数平均分子量は好ましくは8,000〜45,000、より好ましくは15,000〜40,000である。8,000以上であると、共重合ポリエステル製造時の泡立ち現象を抑制する効果が大きくなる。
45,000以下であると、製造されるポリエステルの樹脂物性が良好である。
【0007】
数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)で測定することができる。測定法の一例を下記に示す。
《GPCの測定条件》
機種 :HLC−8120(東ソー株式会社製)
カラム TSK gel SuperH4000
TSK gel SuperH3000
TSK gel SuperH2000
(いずれも東ソー株式会社製)
カラム温度 :40℃
検出器 :RI
溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :0.6ml/分
試料濃度 :0.25%
注入量 :10μl
標準 :ポリオキシエチレングリコール
(東ソー株式会社製;TSK STANDARD
POLYETHYLENE OXIDE)
データ処理装置:SC−8020(東ソー株式会社製)
【0008】
ポリアルキレングリコール(A),(B)は、活性水素含有化合物(a)にアルキレンオキサイド(b)を開環重合させて製造することができる。上記活性水素含有化合物(a)は2個の活性水素を含有する化合物である。具体的には水、2価アルコール、2価フェノール、アミノ基含有化合物、2価チオール及びリン酸エステルからなる群から選択された化合物の1種または2種以上の混合物が含まれる。
【0009】
2価アルコールとしては、炭素数2〜20またはそれ以上の、脂肪族、脂環式および芳香族の2価アルコール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等;ポリブタジエンポリオールが挙げられる。
2価フェノールとしては、ピロガロ―ル、カテコール、ヒドロキノン等の単環2価フェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類等が挙げられる。
【0010】
アミノ基含有化合物としては、1級モノアミン類および2級ジアミン類、具体的には、炭素数1〜20のハイドロカルビルアミン、例えばアルキルアミン類(ブチルアミン等)、シクロアルキルアミン(シクロヘキシルアミン等)、および芳香族モノアミン類(アニリン等);ピペラジン等の複素環式ポリアミン類;並びにこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0011】
2価チオールとしては、エチレンジチオール、プロピレンジチオール、1,3−ブチレンジチオール、1,4−ブタンジチオール、1、6−ヘキサンジチオール、3−メチルペンタンジチオール等が挙げられる。
リン酸エステルとしては、リン酸類(燐酸、亜燐酸、ホスホン酸等)のモノエステル(炭素数1〜20またはそれ以上のアルキルエステル等)、ピロリン酸のジアルキル(炭素数1〜20またはそれ以上)エステル(ジブチルエステル等)が挙げられる。
【0012】
さらに上記の活性水素含有化合物(a)にアルキレンオキサイド(b)を開環重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン、ポリプロピレン)グリコール、ポリブチレングリコール、ハイドロキノンビス(ポリアルコキシレート)、ビスフェノールAビス(ポリアルコキシレート)、ポリアルキレングリコールアジペート、ポリアルキレングリコールフタレート、ポリアルキレングリコールラクテートポリアルキレングリコールエーテル等もまた活性水素化合物として用いることができる。これらのアルキレンオキサイド付加物の数平均分子量は、高分子量品(B)の場合には好ましくは5,000〜25,000であり、より好ましくは10,000〜20,000であり;低分子量品(A)の場合には好ましくは200〜2,000であり、より好ましくは200〜1,000である。
これらの内好ましいのは、水、2価アルコール、2価フェノール、2価チオールであり、より好ましいのは水、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ビスフェノールA、ポリプロピレングリコール、とくにエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(エチレン、ポリプロピレン)グリコールである。
である。
【0013】
上記活性水素含有化合物(a)に開環重合させるアルキレンオキサイド(b)としては、炭素数2〜12の1,2−アルキレンオキサイド、例えば、エチレンオキサイド(以下EOと略称)、プロピレンオキサイド(以下POと略称)、1,2−ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイド、1,2−ヘキシレンオキサイド、1,2−ドデセンオキサイド、1,2−ラウリレンオキサイド等;置換アルキレンオキサイド、例えばシクロヘキシレンオキサイド、シクロヘキシルエチレンオキサイド、スチレンオキシド、及びエピハロヒドリン(エピクロルヒドリン等);並びに4員環以上の環状エーテル、例えばオキセタン、ジメチルオキセタン、テトラヒドロフラン(以下THFと略称)、3―メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。(b)は1種のみを用いても良く、2種以上の環状エーテルを併用(ランダム付加および/またはブロック付加)してもよい。
これらのうち好ましいものは、EO、PO、BO及びTHFであり、より好ましいものはEOである。特に好ましいのはEOの開環重合を主体とするものである。
【0014】
(A)及び(B)を製造する際の(a)、(b)のモル比は特に限定されないが、好ましくは(a)1モルに対し(b)10〜200モルである。
数平均分子量は(a)、(b)のモル比によってコントロールすることができる。
【0015】
本発明の混合ポリアルキレングリコールの製造方法は、例えば以下の方法が挙げられるがこれらに限定されない。
(i)触媒の存在下、(a)に(b)を開環重合させて、低分子量ポリアルキレングリコール(A)、高分子量ポリアルキレングリコール(B)をそれぞれ製造した後両者を混合する。必要により他のポリオール成分を混合する。
(ii)触媒の存在下、二種類の異なる活性水素化合物(a)に(b)を開環重合させて、低分子量ポリアルキレングリコール(A)、高分子量ポリアルキレングリコール(B)をそれぞれ製造する。必要により他のポリオール成分を混合する。
上記の方法の内、好ましいのは(ii)の方法である。
(b)を開環付加重合させる際の反応温度は、好ましくは−50℃〜200℃、より好ましくは−10℃〜160℃、特に好ましくは20℃〜130℃である。
反応時間は好ましくは2〜20時間、より好ましくは3〜10時間である。
【0016】
上記開環付加重合に用いる触媒としては、通常用いられる公知の触媒が用いられる。アルカリ触媒、例えば、水酸化物[KOH、NaOH、CsOH、Ca(OH)2等のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物等]、酸化物(K2O、CaO、BaO等のアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物等)、アルカリ金属(Na、K等)、及びその水素化物(NaH、KH等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメチルアミン等)が挙げられる。THF単独付加、あるいはTHFと他のアルキレンオキシドを共付加重合する場合は、さらに、BF3、BCl3、AlCl3、FeCl3、SnCl3等のルイス酸及びそれらの錯体[例えばBF3エーテル錯体、BF3・THF錯体(BF3・THF)];H2SO4、HClO4等のプロトン酸;KClO4、NaClO4等のアルカリ金属の過塩素酸塩;Ca(ClO4)2、Mg(ClO4)2等のアルカリ土類金属の過塩素酸塩;Al(ClO4)3等の前記以外の金属の過塩素酸塩等が挙げられる。
【0017】
これらの触媒のうち好ましいのは、KOH、NaOH、CsOH、BF3エーテル錯体及びBF3・THFである。
上記のポリアルキレングリコールには、これらの触媒が残存していても構わないが、吸着剤で処理した後、濾過を行って触媒を取り除く方法、中和した後、濾過を行なって触媒を取り除く方法、中和して触媒を不活性化する方法等により触媒を処理してもよい。
【0018】
ポリアルキレングリコール(A)および(B)はこのようにして得られるが、(A)および(B)はそれぞれEOの開環重合で生成するオキシエチレン基が主体成分であるものが好ましい。POの開環重合によって生成するオキシプロピレン単位の含有量がオキシアルキレン基中の0〜20質量%、その他のオキシアルキレン単位の含有量が0〜5質量%であり、残りの75〜100質量%がオキシエチレン単位であるのがより好ましい。特に好ましいのは、オキシプロピレン基/オキシエチレン基=0〜20/100〜80質量%の共重合体若しくはポリエチレンオキサイドであり、最も好ましいものはポリエチレンオキサイドである。
オキシアルキレン基中のオキシプロピレン単位の含有量が0〜20質量%、その他の単位の含有量が0〜5質量%であると、製造される共重合ポリエステルの樹脂物性が良好である。75〜100質量%がオキシエチレン単位であると、製造される共重合ポリエステルのアルカリ水等への溶解性が良い。
【0019】
ポリアルキレングリコールの末端基の大部分は水酸基であるが、製造条件によって
末端に二重結合を有する成分が生じる。本発明におけるポリアルキレングリコールとしては、このような末端に二重結合を有する成分の含有量が3質量%以下のものが好ましく、2質量%以下のものがより好ましい。
【0020】
このようにして得られるポリアルキレングリコール(A)および(B)は数平均分子量の差が3,000以上である数平均分子量が異なる二種類のポリアルキレングリコールの混合物であって、低分子量品の数平均分子量が5,000以上であるポリアルキレングリコールを満たすものである。上記(A)と(B)とは、同一のオキシアルキレン単位、同一比率からなるポリアルキレングリコールでもよく、同一オキシアルキレン単位の異なる比率からなるポリアルキレングリコールでもよく、異なるオキシアルキレン単位からなるポリアルキレングリコールでもよい。好ましいのは同一のオキシアルキレン単位、同一比率からなるポリアルキレングリコールである。
【0021】
(A)と(B)の配合量は、特に限定されないが、質量比で好ましくは(B)/(A)=0.5〜5/99.5〜95であり、より好ましくは1.0〜2.0/99.0〜98.0である。(B)が0.5以上であると、共重合ポリエステル製造時の泡立ち抑制効果が顕著に現れ、5%以下であると、共重合ポリエステルの樹脂物性が良好である。
本発明において、(A)および(B)のポリアルキレングリコール混合物には、(A)と(B)を共重合ポリエステル製造前に混合したものの外に、共重合ポリエステル製造時にポリオール成分として同時に又は別々に投入するものも含まれるものとする。
【0022】
共重合ポリエステルはポリオール成分とポリカルボン酸成分(C)との反応により生成する。ここでポリカルボン酸成分(C)としては、ポリカルボン酸、およびポリカルボン酸のエステル形成性誘導体(ポリカルボン酸無水物、炭素数1〜4のアルキル基を有するポリカルボン酸低級アルキルエステル、ポリカルボン酸ハロゲン化物等)が挙げられる。
ポリオールとの反応ではカルボン酸は通常の酸とアルコールとの脱水反応、カルボン酸無水物とではアルコールとの開環付加と脱水反応、カルボン酸低級アルキルエステルとは脱アルコール反応、カルボン酸ハロゲン化物とは脱酸反応によりエステル化が生じる。いずれの反応の場合でも本発明のポリオール成分は有効である。
本発明に係るポリオール成分は、上記(A)および(B)からなるポリアルキレングリコール混合物を必須成分として含む。該ポリアルキレングリコール混合物は、GPCチャートにおいて、少なくとも2個のピークまたはピークおよびショルダー(肩部)を有する、二山またはそれ以上となる。(A)と(B)の混合物の数平均分子量は、好ましくは5,050〜18,000、とくに5,200〜10,000である。該混合物の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、好ましくは1.003〜1.70とくに1.05〜1.30である。
本発明のポリオール成分には、必要により他のポリオールを配合することができる。その他のポリオールとしては、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜6個、特に好ましくは2〜3個の水酸基を含有する化合物である。線状ポリエステルを製造する場合は、2個の水酸基を有する化合物が用いられる。その他のポリオール成分としては、数平均分子量が5,000未満の(ポリ)アルキレングリコール、ポリエステルポリオール、及びこれらのポリオールの中でビニルモノマーを重合させて得られる重合体ポリオールが挙げられる。(A)と(B)との中間の数平均分子量を有するポリアルキレングリコールは、小割合、例えばポリアルキレングリコール混合物のGPCチャートにおいて(A)および(B)に由来する少なくとも2個のピークまたはピークおよびショルダー(肩部)を有する二山またはそれ以上となる範囲で(一山にならない範囲で)併用してもよい。
【0023】
上記の数平均分子量が5,000未満の(ポリ)アルキレングリコールとしては、
アルキレングリコール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、および3−メチル−1,5−ペンタンジオール;並びにポリアルキレングリコール、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、およびこれらのアルキレンオキサイド[前記(b)]低モル付加物が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、低分子ポリオール類[上記の2価アルコール]とポリカルボン酸成分とを反応させて得られる縮合ポリエステルポリオール、ラクトン類[ε−カプロラクタム等]の開環重合により得られるポリエステルポリオール; 重合体ポリオールとしては、上記に例示したポリオールの少なくとも一種中で、ラジカル開始剤存在下、アクリロニトリル、スチレン等のビニルモノマーを重合し安定分散させたものが挙げられる。重合体ポリオール中のビニルポリマーの含量は、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%である。
【0024】
これらの内で好ましいのは数平均分子量が5,000未満の(ポリ)アルキレングリコールであり、より好ましいのは数平均分子量が300以下の低分子量の(ポリ)アルキレングリコール、特にエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールである。
これらのその他のポリオール成分の量はエステル化反応に供する全ポリオール成分の内、好ましくは質量で70〜95%であり、より好ましくは80〜95%である。 その他のポリオール成分の量が70%以上であると製造されるポリエステルの樹脂物性が良好である。その他のポリオール成分が95%以下であると製造されるポリエステルのアルカリ水等への溶解性が良い。
【0025】
一方、ポリカルボン酸成分(C)としては下記のものが挙げられる。
(1)ポリカルボン酸としては炭素数2〜40(好ましくは4〜30)、2〜8価またはそれ以上(好ましくは2価)の飽和および不飽和ポリカルボン酸が挙げられ、具体的には下記の化合物が挙げられる:
(i)飽和ジカルボン酸;
フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、キシリレンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ハイミック酸、テトラブロモフタル酸、テトラクロロフタル酸、ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;
シュウ酸、マロン酸、コハク酸、プロパンジカルボン酸、チオジプロピオン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸;
ダイマー酸等の脂環式ジカルボン酸;
(ii)重合性不飽和基を有するジカルボン酸;
マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸等の重合性不飽和基を有するジカルボン酸。
【0026】
(2) ポリカルボン酸の酸無水物としては例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、ヘキサブロモ無水フタル酸、無水ハイミック酸、無水ヘット酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
(3) ポリカルボン酸のエステルとしては、上記ポリカルボン酸の炭素数1〜4の低級アルキルエステル(メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等)、例えばテレフタル酸ジメチルが挙げられる。
(4) ポリカルボン酸のハロゲン化物としては上記ポリカルボン酸の酸塩化物、臭素化物、フッ素化物、ヨウ化物が挙げられ、例えばマレイン酸塩化物、イタコン酸塩化物、フマル酸臭化物、シトラコン酸塩化物等が挙げられる。
【0027】
これらのうちで好ましいものは(1)および(2)であり、より好ましいものは、シュウ酸(無水物)、マロン酸(無水物)、コハク酸(無水物)、プロパンジカルボン酸(無水物)、チオジプロピオン酸、テトラヒドロフタル酸(無水物)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸(無水物)、ハイミック酸(無水物)、ノルボルネンジカルボン酸(無水物)であり、特に好ましいものは、フタル酸(無水物)、イソフタル酸(無水物)、テレフタル酸(無水物)である。
【0028】
ポリオール成分とポリカルボン酸成分(C)との比率は、水酸基[OH]とカルボキシル基[COOH]の当量比[OH]/[COOH]として、好ましくは2/1〜1/2、より好ましくは1.6/1〜1/1.6であり、特に好ましくは1.3/1〜1/1.3である。
【0029】
本発明のポリオール成分を用いる共重合ポリエステルはポリオール成分とポリカルボン酸成分を公知のエステル化触媒の存在下で重縮合することにより得られる。
生成するポリエステルのアルカリ水等への溶解速度を向上させる目的で金属スルホネート基含有イソフタル酸類[例えばスルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩など)等、それらのエステル形成性誘導体(メチルエステルなど)]を用いることができる。この場合、添加される金属スルホネート基含有イソフタル酸類の量は、ポリカルボン酸成分に対して好ましくは1〜5モル%である。
エステル化触媒としては、有機鉛化合物(ナフテン酸鉛など);有機チタン化合物(テトラブチルチタネートなど);亜鉛、アンチモン、アルカリ金属のカルボン酸塩(酢酸塩など)、酸化物、アルコラート等(三酸化アンチモンなど)が挙げられる。エステル化の原料100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
反応温度は好ましくは150℃〜280℃である。反応時間は好ましくは1〜20時間であり、より好ましくは1〜10時間である。
反応方法としては公知の方法が適用でき、典型的には常圧で加熱し反応させて低重合物を得る第1段階の反応と、第1段階の反応生成物を減圧下(例えば30mmHg以下)で加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造される。
共重合ポリエステルはGPC法による分子量測定、酸価(AV)、水酸基価(OHV)、粘度(極限粘度など)等の測定によって所望の値が得られるまで反応を行い、反応がコントロールできる。
本発明で得られる共重合ポリエステルは、好ましくは0.50〜0.85、さらに好ましくは0.60〜0.80とくに0.65〜0.75の極限粘度[η][25℃のフェノール/テトラクロロエタン50/50重量比]溶媒として]を有する。
得られた共重合ポリエステルは優れたアルカリ溶解性と強度を併せ持つ。ここで、アルカリ溶解性とは、アルカリ水に溶出可能であること、アルカリ[アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物もしくは弱酸塩(炭酸塩,酢酸塩など)、例えば水酸化ナトリウム]の水溶液(濃度、たとえば1〜20質量%)に室温ないしは加熱下(20〜90℃)での溶解速度が通常のポリエステル(後述のレギュラーポリエステル)と比較して30倍以上であることを意味する。
本発明に係る共重合ポリエステルは、60℃で5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で処理したときの減量速度が好ましくは30〜80倍、とくに40〜60倍である。
本発明に係る共重合ポリエステルは、とくに繊維(溶融紡出糸、延伸糸など)の製造用に有用であるが、その他、フィルム(1軸または2軸延伸フィルムなど)、モールド成型品などの各種成形品、塗料(粉体塗料など)、バインダー(顔料バインダー、トナーバインダーなど)等の製造にも有用である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において、部及び%はそれぞれ質量部及び質量%を示す。
【0031】
実施例1
撹拌装置、温度制御装置付きの容積20L(リットル)のステンレス製オートクレーブに、ジエチレングリコール 1,800g、水酸化ナトリウム 51gを仕込み、エチレンオキサイド 15,200gを、反応温度160℃を保持制御しながら、8時間かけて滴下した後、160℃で2時間熟成し、液状の粗製ポリエーテル(中間体) 16,500gを得た。
撹拌装置、温度制御装置付きの容積20Lのステンレス製オートクレーブに、粗製ポリエーテル(中間体) 1,700g、数平均分子量約20,000のポリエチレングリコール 192g、水酸化ナトリウム 48gを仕込み、エチレンオキサイド 15,500gを、反応温度160℃を保持制御しながら、10時間かけて滴下した後、160℃で2時間熟成し、粗製ポリエーテルを得た。
この粗製ポリエーテルにリン酸の90%水溶液 115.2gを加えて85〜95℃で1時間撹拌中和して、ポリアルキレングリコール混合物 17,070gを得た。
得られたポリアルキレングリコール混合物は、数平均分子量5,800ポリアルキレングリコール(A)98.6%と、数平均分子量28,800のポリアルキレングリコール(B)1.4%との混合物であった。
【0032】
実施例2
撹拌装置、温度制御装置付きの容積20Lのステンレス製オートクレーブに、数平均分子量約1,000のポリエチレングリコール 1,700g、水酸化ナトリウムの48%水溶液 70gを仕込み、減圧下、130℃で2時間脱水した後、エチレンオキサイド 15,000gを、反応温度160℃を保持制御しながら、8時間かけて滴下した後、160℃で2時間熟成し、粗製ポリエーテル 16,200gを得た。
該粗製ポリエーテル 1,150gにリン酸の90%水溶液 11.5gを加えて85〜95℃で1時間撹拌中和した後、PEG−20,000(三洋化成工業社製:数平均分子量20,000のポリエチレングリコール) 20.0gを加えて、ポリアルキレングリコール混合物 1,120gを得た。
得られたポリアルキレングリコール混合物は、数平均分子量9,700のポリアルキレングリコール(A)98.2%と、数平均分子量20,000のポリアルキレングリコール(B)1.8%との混合物であった。
【0033】
実施例3〜4、比較例1〜2
下記試験法の結果を表1に示す。
<用いたポリアルキレングリコール組成物>
実施例3:製造例1で得られたポリアルキレングリコール混合物
実施例4:製造例2で得られたポリアルキレングリコール混合物
比較例1:数平均分子量8,300の一山分布であるポリエチレングリコール
比較例2:数平均分子量2,000のポリエチレングリコール98%と数平均分子 量20,000のポリエチレングリコール2%との混合物
【0034】
試験法
テレフタル酸とエチレングリコールをモル比1:1にて、加圧エステル化反応器に投入し、270℃、0.7MPaの加圧反応条件にて、30時間エステル化反応を行い、エステル化率80%のオリゴマーを得た。次いで、このオリゴマー 100部に、各ポリアルキレングリコール混合物 10部、5−ソジウムスルホイソフタル酸エチレングリコールエステルの30%エチレングリコール溶液を7部、三酸化アンチモンの5%エチレングリコール溶液 2部、抗酸化剤であるイルガノックス1010(チバガイギー社製) 0.2部を加え常圧で30分間エステル化反応を行った。次いで、275℃に昇温しながら1時間かけて760mmHgから1mmHgまで減圧した。このときの泡立ちの様子を評価した。さらに1mmHg以下の減圧下、275℃で3時間重縮合反応を行いポリエステルを得た。
アルカリ溶解性の比較用ポリエステルとしてポリアルキレングリコール混合物をエチレングリコールとし、金属スルホネート基含有イソフタル酸類を使用しないように変更した以外は上記と同様に反応を行いレギュラーポリエステルを得た。
得られたポリエステルをエクストルーダー型溶融紡糸機に投入し、紡糸温度280℃で、直径0.5mmの紡糸ノズルから約3g/分の割合で吐出した。紡出糸をノズルの直下2.5mの位置で1000m/分で巻き取った。巻き取られた未延伸糸を最終的に得られる延伸糸の伸度が30%になる延伸倍率で、70℃の供給ローラーと150℃のプレートヒーターを使って延伸、熱処理して延伸糸を得た。
評価は次の通りに行った。
(a)泡立ち評価:泡立ち(%)=(コルベン中の泡容量÷コルベンの容量)×100
○:泡立ち 10%未満 △:泡立ち 10〜30% ×:泡立ち 30%を超える
(b)極限粘度[η]:25℃のフェノール/テトラクロロエタン(50/50重量比) 溶媒として測定した。
(c)5%熱分解温度:窒素気流下で10mgのポリエステルを10℃/分の昇温速度で加熱し、5.0%の重量がガス化分解したときの温度を測定した。
(d)破断強度:引っ張り試験機を用いて破断強度を測定した。
(e)アルカリ溶解性:60℃の5%水酸化ナトリウム水溶液で処理したときの減量速度をレギュラーポリエステル延伸糸と比較した。レギュラーポリエステル延伸糸の減量速度は0.5%/分であり、これに対する溶解速度の倍率で表示する。○は30倍以上、△は10倍以上〜30倍未満を表す。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のポリアルキレングリコール混合物からなるポリオール成分は共重合ポリエステル形成用に有効に使用される。また得られた共重合ポリエステルは優れたアルカリ溶解性と強度を持った繊維となる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
5,000以上の数平均分子量を有するポリアルキレングリコール(A)および(A)よりも3,000以上高い数平均分子量を有するポリアルキレングリコール(B)からなるポリアルキレングリコール混合物を必須として含むことを特徴とする、共重合ポリエステル形成用ポリオール成分。
【請求項2】
アルカリ水に溶出可能な共重合ポリエステル形成用であることを特徴とする請求項1記載のポリオール成分。
【請求項3】
(A)および(B)がそれぞれ、主としてオキシエチレン単位からなり、オキシプロピレン単位の含有量が0〜20質量%、その他のオキシアルキレン単位の含有量が0〜5質量%である請求項1又は2記載のポリオール成分。
【請求項4】
(A)と(B)との数平均分子量の差が5,000〜30,000である請求項1〜3の何れか記載のポリオール成分。
【請求項5】
(A)の数平均分子量が5,000〜15,000である請求項1〜4の何れか記載のポリオール成分。
【請求項6】
(A)と(B)の合計質量に基づいて0.5〜5質量%の(B)を含有する請求項1〜5の何れか記載のポリオール成分。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか記載のポリオール成分とポリカルボン酸成分を反応させて共重合ポリエステルを製造することを特徴とする共重合ポリエステルの製造法。
【請求項8】
更に金属スルホネート基含有イソフタル酸類を反応させる、請求項7記載の製造法。
【請求項9】
請求項7または8記載の製造法で製造されてなり、アルカリ溶解性を有することを特徴とする共重合ポリエステル。

【公開番号】特開2006−182837(P2006−182837A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375679(P2004−375679)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】