説明

共重合ポリエステル樹脂およびこれを用いた塗料および接着剤

【課題】 天然由来資源から得ることができるモノマーであるイソソルビドを共重合成分として含有し、なおかつ接着性、耐湿熱性および耐候性に優れる共重合ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】 イソフタル酸成分および/またはオルソフタル酸成分が全多価酸成分に対して合計70モル%以上共重合されており、イソソルビドが全多価アルコール成分に対して5モル%以上60モル%以下共重合されている共重合ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来原料であるイソソルビドを共重合成分としていながら、接着剤および/または塗料のバインダー成分として有用な共重合ポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
共重合ポリエステル樹脂は、原料となる多価カルボン酸成分や多価グリコール成分を変更することでガラス転移温度や分子量といった物性を自由にコントロールすることができ、塗料用途や接着剤用途をはじめ様々な用途で使用されている。特に脂肪族ジカルボン酸成分や長鎖のグリコール成分を多く含む樹脂は流動性や粘着性に優れ、金属や樹脂からなる基材への優れた接着性を示す場合が多い。
【0003】
共重合ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分にはテレフタル酸が汎用されているが、共重合成分としてテレフタル酸成分を多く含んだ共重合ポリエステルは耐候性が悪く、黄変を起こすなどの問題があった。また、共重合ポリエステル樹脂中のエステル結合は加水分解反応を起こしやすいため、耐湿熱性が必要となる一部の用途において分解が激しく、実用に値しないといった問題があった。
【0004】
耐湿熱性改良のために、炭素数の多い脂肪酸やグリコールを共重合することによりエステル基濃度を減らす手法もとられているが、樹脂の凝集力低下によって接着性が低下し、実用に値しない場合があった。
【0005】
これまで共重合ポリエステル樹脂を構成するモノマーのほとんどが石油資源由来であった。近年、石油資源の枯渇や焼却処分の際の炭素ガスの環境中への放出に関する懸念が広がり、これらに対する懸念の軽減策として天然資源由来のモノマーが注目されるようになってきている。中でもイソソルビドは、糖類やでんぷんから容易に合成することができるので入手が比較的容易であり、共重合ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としての検討が進んでいる。イソソルビドを共重合することによって、共重合ポリエステル樹脂の耐熱性を高める効果があることが既に知られている。特許文献1〜2では、イソソルビドを共重合した成型用の結晶性樹脂の開示があり、耐熱性に優れるポリエステル樹脂を作ることができるとしている。特許文献3では、イソソルビドを共重合したポリエステルを用いたフィルムは、透明性を有し、食品包装等で用いることができるとしている。特許文献4では、透明性と耐熱性を生かしたホットフィルボトルの開示を行っている。特許文献5では、イソソルビドを水溶液として取り扱い、ポリエステルの重合の効率を高める開示を行っている。
【0006】
一方、特許文献6には、芳香族ジカルボン酸を40モル%以上、イソソルビドを3〜80モル%含有し、25℃において2−ブタノン/トルエン混合溶媒(質量比1/1)に濃度10重量%で溶解する可溶性共重合ポリエステル樹脂が開示されており、耐熱性が高い塗料およびコーティング用に用いることが想定されているようである。ところが、特許文献6には、イソソルビドを共重合したポリエステル樹脂が数種類開示されているものの、その数平均分子量、ガラス転移温度および特定の2種類の溶媒に対する溶解性が示されているのみであり、塗料やコーティング剤において必須の特性である接着性や耐湿熱性がまったく評価されていないので、実際に塗料やコーティング剤として有効であるのかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3413640号公報
【特許文献2】特許3399465号公報
【特許文献3】特表2007−508412号公報
【特許文献4】特表2007−504352号公報
【特許文献5】特表2006−506485号公報
【特許文献6】特開2010−95696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、従来から知られているイソソルビド共重合ポリエステル樹脂を、溶剤溶解型接着剤、塗料およびコーティング剤のバインダー成分として利用することを検討した。特許文献1〜5に開示されているイソソルビド共重合ポリエステル樹脂は、いずれも汎用溶剤に対する溶解性に乏しく、このため溶剤溶解型接着剤、塗料およびコーティング剤のバインダー成分として用いることができないことが判明した。また、特許文献6のイソソルビド共重合ポリエステル樹脂は、一部の汎用溶剤には溶解するものの、接着性、耐候性および耐湿熱性が不十分であり、バインダー成分としての実用性には乏しいことが判明した。本発明の課題は、天然由来資源から得ることができるモノマーであるイソソルビドを共重合成分として含有し、なおかつ接着性、耐湿熱性および耐候性に優れる共重合ポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意研究した結果、モノマー成分として、特定の多価カルボン酸成分および多価グリコール成分を特定の比率で共重合すれば前記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の効果は下記のとおりである。
(1) イソフタル酸成分および/またはオルソフタル酸成分が全多価酸成分に対して合計70モル%以上共重合されており、イソソルビドが全多価アルコール成分に対して5モル%以上60モル%以下共重合されている共重合ポリエステル樹脂。
(2) ガラス転移温度が50℃以下である(1)に記載の共重合ポリエステル樹脂。
(3) テレフタル酸成分の共重合比率が全酸成分に対して20モル%未満である(1)または(2)に記載の共重合ポリエステル樹脂。
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂と溶剤を含有するポリエステル樹脂ワニス。
(5) (1)〜(3)のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を用いた塗料。
(6) (1)〜(3)のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を用いた接着剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗料または接着剤組成物は、従来の共重合ポリエステル由来の塗料または接着剤組成物よりも高い耐湿熱性、耐候性を発揮する。このため、従来品よりも長期での使用が可能となるため省エネルギーやコストダウンが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明における共重合ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分(A)と多価グリコール成分(B)の重縮合物、または、多価カルボン酸成分(A)と多価アルコール成分(B)とヒドロキシカルボン酸成分(C)の重縮合物であり、成分(A)と成分(B)の少なくとも一方が複数の成分からなるものである。
【0013】
本発明の共重合ポリエステル樹脂にはイソフタル酸成分および/またはオルソフタル酸成分が共重合されており、イソフタル酸成分とオルソフタル酸成分の合計は、全ジカルボン酸成分に対し、70モル%以上である。イソフタル酸成分とオルソフタル酸成分の合計共重合比率は80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。イソフタル酸成分とオルソフタル酸成分の合計が低すぎると、その他の共重合成分によっては得られる共重合樹脂のガラス転移温度が低くなりすぎて耐湿熱性が悪化する場合や、十分な耐候性、初期接着性が得られない場合がある。
【0014】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成する他の多価カルボン酸成分(A)としては、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸の脂環族ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸等の脂肪族ジカルボン酸を例示することができる。
【0015】
本発明の共重合ポリエステル樹脂に脂肪族ジカルボン酸を共重合する場合には、本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成する全酸成分に対し30モル%以下とすることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸の共重合比率が高くなりすぎると、得られる共重合ポリエステル樹脂の耐加水分解性が悪化し、樹脂の使用環境によっては接着性に悪影響を及ぼすことがある。なお、「全酸成分」とは、本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分(A)とヒドロキシカルボン酸成分(C)の総和である。
【0016】
また、本発明の効果を損なわない程度において、本発明の共重合ポリエステル樹脂にテレフタル酸成分を共重合することができる。テレフタル酸を共重合することにより、凝集力の増加による接着強度の上昇といった効果を期待できるが、一方、テレフタル酸成分を多く含む共重合ポリエステル樹脂は耐候性が悪く黄変を起こしやすいため、共重合比率は全酸成分に対して20モル%以下とすることが好ましく、共重合しないことがさらに好ましい。
【0017】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール(以降「イソソルビド」と呼び、下記に化学式を示す)が共重合されている。イソソルビドは、再生可能資源、例えば糖類およびでんぷんから容易に製造することができる。例えば、D−グルコースを水添し、脱水反応をすることにより、イソソルビドを得ることができる。現在市販されているイソソルビドは再生可能資源から製造されたものであるとされている。
【0018】
【化1】

【0019】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、イソソルビドを共重合成分として含有し、その共重合比率は全グリコール成分に対し5モル%〜60モル%である。5モル%未満であると、共重合ポリエステル樹脂の耐湿熱性を高める効果がほとんどないので好ましくない。また、60モル%よりも高いと、ガラス転移温度が高くなりすぎて、常温付近での接着性を発現しなくなる傾向にある。接着性を発現させる為には、共重合ポリエステルのガラス転移温度が50℃以下である必要があり、40℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
【0020】
一方、イソソルビドは二級アルコールであるため、重合性が低く、共重合比率を高くすると重合時間が長くなる傾向があり、製造コストの面で不利となる。したがって、重合性を損なわないためには、イソソルビドの共重合比率は、60モル%にすることが好ましく、30モル%以下にすることがさらに好ましい。
【0021】
なお、「全グリコール成分」とは、本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分(B)とヒドロキシカルボン酸成分(C)の総和である。
【0022】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成する他の多価アルコール成分(B)としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、トリシクロデカンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族グリコールを挙げることができる。また、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールAPおよび4,4’−ビフェノールのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレンエーテルグリコールを挙げることができる。これらの中でも、汎用性があるエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましい。
【0023】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、適度な柔軟性、接着性の向上、ガラス転移温度の調整などの目的に応じて、ヒドロキシカルボン酸成分(C)を共重合することができる。成分(C)は、全カルボン酸成分の20モル%以下とすることが好ましい。成分(C)の割合が高すぎると、接着性に悪影響を及ぼすことがあるので好ましくない。
【0024】
成分(C)の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシカルボン酸のほか、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトンを挙げることができる。これらの中でも、汎用性があるε−カプロラクトンが好ましい。
【0025】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、少量であれば、3官能以上のカルボン酸成分や3官能以上のアルコール成分を共重合してもよい。3官能以上のカルボン酸成分としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸等の芳香族カルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族カルボン酸が挙げられる。3官能以上のアルコール成分としては、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトールが挙げられる。
【0026】
多価カルボン酸成分や多価アルコール成分は、樹脂に対し付与したい特性に応じて複数種以上混合して用いることが可能である。このとき、3官能以上のモノマーの共重合比率は、全カルボン酸成分または全アルコール成分に対して0.2〜5モル%程度が適当である。3官能以上のモノマーの共重合比率が低すぎると共重合による効果が発現せず、共重合比率が高すぎるとゲル化が問題になる場合がある。
【0027】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂には、モノカルボン酸、モノアルコールが共重合されていてもよい。モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等、モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0028】
本発明の共重合ポリエステル樹脂はガラス転移温度が50℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が50℃を超えると、基材に対して十分な接着性を示さない場合がある。
【0029】
本発明の共重合ポリエステル樹脂はテレフタル酸成分の共重合比率が20モル%未満であることが好ましい。テレフタル酸成分の共重合比率が高すぎると十分な耐候性を示さない場合がある。
【0030】
本発明において、耐候性とは紫外線照射に対する耐久性を指し、黄変着色の程度によって評価する。紫外線照射はアイスーパーUVテスターにより行い、黄変着色の程度は紫外線照射前後のCo−b値の差により判定する。
【0031】
光劣化を開始する活性種としてはヒドロペルオキシドおよびペルオキシド基、カルボニル基、一重項酸素等などが知られている。共重合ポリエステル樹脂中のテレフタル酸成分はこれらの活性種の影響により着色物質へと変化しやすいことから、テレフタル酸成分を減らすことは耐候性を上昇させる有効な手段となる。
【0032】
また、共重合ポリエステル樹脂の光劣化は、発生したアルコキシラジカル、ペルオキシラジカル等の活性種の影響を共重合ポリエステル樹脂が受けることによって進行するものと考えられており、エステル結合部分も比較的活性種の影響を受けやすいが、グリコール成分の選択により耐候性を改善することができる。すなわち、第二級ヒドロキシル基とカルボン酸により形成されるエステル結合は第一級ヒドロキシル基とカルボン酸により形成されるエステル結合よりも安定性が高いため、第二級ヒドロキシル基をもつイソソルビドを多価アルコール成分として使用することでより耐候性を上昇させることができる。
【0033】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量は、4,000以上とすることが好ましく、8,000以上であることがより好ましい。数平均分子量が4,000未満では、コーティングした際に皮膜が割れてしまう場合があるので好ましくない。また、接着剤として用いる場合においても樹脂の凝集力が低すぎるため、良好な接着強度を示さない場合があるので好ましくない。
【0034】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量は、50,000以下とすることが好ましく、30,000以下であることがより好ましい。数平均分子量が50,000を超えると、溶剤への溶解性が低下する場合や、溶剤へ溶解しても溶液粘度が高くなり使用が困難となる場合があるので好ましくない。
【0035】
一般的に共重合ポリエステル樹脂を製造する反応は、エステル化反応工程および重縮合反応工程からなる。エステル化反応工程とは、全モノマーおよび/または低重合体から、所望の組成の低重合体を作製する工程あり、重縮合反応工程とは、エステル化反応工程で生成された低重合体からグリコール成分を留去させ、所望の分子量の重合物を得る工程である。
【0036】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造においても、一般的な共重合ポリエステル樹脂を製造する方法を用いることができる。
【0037】
ここで、共重合ポリエステル樹脂の製造方法の例について説明する。
【0038】
エステル化反応工程では、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下、加熱熔融して反応させる。イソソルビドは2級アルコールであるため、1級アルコールと比べて、反応性が低い。そのため、エステル化温度は、180〜250℃が好ましく、220〜250℃がより好ましく、反応時間は2.5〜10時間が好ましく、2.5時間〜6時間がより好ましい。なお、反応時間は所望の反応温度になってから、つづく重縮合反応までの時間とする。
【0039】
重縮合反応工程では、減圧下、220〜280℃の温度で、エステル化反応工程で得られたエステル化物から、グリコール成分を留去させ、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進める。重縮合の反応温度は、220〜270℃が好ましく、220〜250℃がより好ましい。減圧度は、0.1Torr以下であることが好ましい。減圧度が低いと、重縮合時間が長くなる傾向があるので好ましくない。大気圧から0.1Torr以下に達するまでの減圧時間としては、60〜180分かけて徐々に減圧することが好ましい。
【0040】
エステル化反応および重縮合反応の際には、必要に応じて、テトラブチルチタネートなどの有機チタン酸化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機錫化合物を用いて重合を行う。その際の触媒使用量は、生成する樹脂質量に対し、1.0質量%以下で用いるのが好ましい。
【0041】
また、一般的に共重合ポリエステル樹脂に所望の酸価や水酸基価を付与する場合には、前記の重縮合反応に引き続き、多塩基酸成分や多価グリコール成分をさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合を行うことができる。
【0042】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造においても、一般的な共重合ポリエステル樹脂を製造する場合と同様に解重合を行い、所望の酸価や水酸基価を付与することができる。
【0043】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、25℃において、2−ブタノン/トルエン(質量比1/1)混合溶媒に、15質量%以上の濃度で溶解することが好ましい。濃度15質量%以上で溶解しない場合には、接着剤や塗料として使用する際の作業性が低下する。
【0044】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、溶剤への溶解性に優れるため、様々な溶媒に溶解させてポリエステル樹脂ワニスとして利用することができ、特に接着剤や塗料として用いる場合に好適である。溶液濃度は15〜50質量%とするが好ましく、15〜40質量%がより好ましい。また、好ましい溶媒の例としては、シクロヘキサノン、2−ブタノン、トルエンおよび酢酸エチルから選択される1種または2種異常の成分からなる混合溶媒が挙げられる。中でも2−ブタノン/トルエンの混合溶媒は一般に溶解性が高いので好ましく、両者の質量比を8/2〜2/8の範囲としたものが最も好ましい。
【0045】
本発明のポリエステル樹脂ワニスには、硬化剤を配合することができる。硬化剤としては、一般的に用いられているものを使用することができ、このようなものとしては、メラミン系化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、金属イオン等が挙げられる。得られた塗膜の諸性能、コストの点からメラミン系化合物樹脂及び/又はイソシアネート化合物が一般的に用いられる。
【0046】
前記硬化剤としては、屋外用途での経時的な黄変を軽減させるため、脂肪族イソシアネート化合物および/または脂環族イソシアネート化合物を用いることが好ましく、キサメチレンジイソシアネートおよび/またはイソホロンジイソシアネートを使用することが特に好ましい。それぞれイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体の種類があるがイソシアヌレート体が好ましい。
【0047】
本発明の共重合ポリエステル樹脂にイソシアネート化合物を配合する場合の配合比は、共重合ポリエステル樹脂100重量部に対してイソシアネート化合物1〜20重量部であり、好ましくは5〜10重量部である。配合比が低すぎると架橋密度が低すぎて接着・耐湿熱性に影響する恐れがあり、配合比が高すぎると塗膜の架橋密度が高すぎるために接着性に劣る可能性がある。
【0048】
本発明に使用するポリエステルポリオールには、長期間の使用による加水分解が起きた際に生成するカルボキシル基を封鎖するために、カルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物、エポキシ化合物等の末端封鎖剤を任意の割合で配合しても良い。
【0049】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を含有するポリエステルワニスには、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の公知の添加剤を含有させることができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例中、単に部とあるのは重量部を示す。また、各測定項目は以下の方法に従った。
【0051】
(1)ポリエステル樹脂組成
ポリエステル樹脂の組成及び組成比の決定は共鳴周波数400MHzのH−NMR分析(プロトン型核磁気共鳴分光分析)にて行った。測定装置はVARIAN社製NMR装置400−MRを用い、溶媒には重クロロホルム( トリフルオロ酢酸添加)を用いた。
【0052】
(2)酸価
試料0.2gを精秤しクロロホルム40mlに溶解し、0.01Nの水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定を行った。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。
【0053】
(3)ガラス転移温度
示差走査型熱量計(SII社、DSC−200)により測定した。サンプルは試料5mgをアルミニウム抑え蓋型容器に入れ密封し、液体窒素を用いて−50℃まで冷却、次いで150℃まで20℃/分にて昇温させた。その過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点の温度をもって、ガラス転移温度とした。
【0054】
(4)数平均分子量
試料4mgを、4mlのテトラヒドロフラン(テトラブチルアンモニウムクロライド5mM添加)に溶解した後、0.2μmのメンブランフィルターでろ過した試料溶液のゲル浸透クロマトグラフィー分析を行った。装置はTOSOH HLC−8220で示差屈折率検出器を用い、40℃で測定を実施した。数平均分子量は標準ポリスチレン換算値とし、分子量1000未満に相当する部分を省いて算出した。
【0055】
共重合ポリエステル樹脂1の製造例
2リッターステンレス製オートクレーブにイソフタル酸116.5g(0.60モル)、オルトフタル酸267.9g(1.34モル)、トリメリット酸5.0g(0.02モル)、1、6−ヘキサンジオール281.2g(2.38モル)、イソソルビド61.4g(0.42モル)、触媒としてテトラブチルチタネート0.18gを仕込み、200℃まで昇温しつつ、0.25MPaの加圧下で150分間エステル化反応を行い、オリゴマー混合物を得た。その後、60分間かけて220℃まで昇温しつつ、反応系の圧力を徐々に下げて、0.1Torrとして、ポリエステル重縮合反応を60分間行った。放圧に続き、微加圧下のレジンを冷水にストランド状に吐出して急冷し、その後20秒間冷水中で保持した後、カッティングして長さ約3mm、直径約2mmのシリンダー形状のペレットを得た。得られたペレットは常温で24時間以上風乾してから使用した。
【0056】
共重合ポリエステル樹脂2〜8の製造例
ポリエステル樹脂1の製造例に準じて、但し、原料の種類と配合比率を変更して、ポリエステル樹脂2〜8を製造した。樹脂組成と樹脂物性は表1と表2に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
共重合ポリエステル樹脂溶液の調製
200mLの四つ口フラスコに、樹脂30g、2−ブタノン/トルエン混合溶媒(質量比1/1)70gを入れ、フラスコに設置したメカニカルスターラーを用い、攪拌速度100rpm、温度65℃で溶解した。溶解後、溶液を常温になるまで冷却し、樹脂濃度30重量%の共重合ポリエステル樹脂溶液とした。
【0060】
塗工液組成物の調製
前記共重合ポリエステル樹脂溶液20gに、ポリイソシアネートN3300(住化バイエルウレタン製)を0.6g添加、混合し、塗工液組成物とした。この塗工液組成物において、共重合ポリエステル樹脂とポリイソシアネートの比率は、重量比で10:1である。
【0061】
接着・耐湿熱試験用サンプルの調製
ポリエステルフィルム(東洋紡製シャインビームQ1210 厚さ125μm)の片面に、前記塗工液組成物をドライ膜厚が10μmになるようにバーコーターで塗布し、溶媒を120℃下3分の乾燥条件で揮発させ、ポリエステルフィルム/樹脂組成物積層体を得た。
次いで、ポリエステルフィルム/樹脂組成物積層体の接着剤側とポリエステルフィルム(東洋紡製シャインビームQ1210 厚さ125μm)とを接触させ、ドライラミネーターを用いて圧着させた。ドライラミネーション条件は、ロール温度120℃、ロール荷重3kg/cm、被圧着物速度1m/分とした。その後、40℃、3日のエージングを行なって樹脂組成物を硬化させ、接着・耐湿熱試験用サンプルを得た。
【0062】
塗料・耐湿熱試験用サンプルの調製
ポリエステルフィルム(東洋紡製シャインビームQ1210 厚さ125μm)の片面に、前記塗工液組成物をドライ膜厚が10μmになるようにバーコーターで塗布し、溶媒を120℃下3分の乾燥条件で揮発させ、ポリエステルフィルム/樹脂組成物積層体を得た。このサンプルを塗料・耐湿熱試験用サンプルとした。
【0063】
耐候性試験用サンプル
ポリエステルフィルム(東洋紡製、シャインビームQ1210、厚み50μm)に前記塗工液組成物をドライ膜厚20μmになるように塗布し、溶媒を揮発させ、ポリエステルフィルム/樹脂組成物積層体を得た。次いで、ポリエステルフィルム/樹脂組成物積層体の樹脂組成物側とポリプロピレンフィルム(東洋紡製P2161、厚み50μm)の非コロナ処理面とを接触させ、ドライラミネーターを用いて圧着させた。ドライラミネーション条件は、ロール温度120℃、ロール荷重3kg/cm、被圧着物速度1m/分とした。その後、40℃、24時間のエージングを行なって樹脂組成物を硬化させ、更にポリプロピレンフィルムを剥離させ、耐候性試験用サンプルを得た。
【0064】
性能評価項目および評価方法は下記の通りである。
【0065】
接着剤評価−初期接着性:
前記接着・耐湿熱試験用サンプルを幅15mmの短冊状に切り取り、テンシロン(東洋測器(株)製、UTM−IV)で剥離強度(T型ピール剥離、引っ張り速度50mm/分)を測定し、初期剥離強度とした。初期接着性はSABCの4段階評価とし、初期剥離強度が1000g/1.5cm以上のものをS、600g/1.5cm以上のものをA、300g/1.5cm以上のものをB、300g/1.5cm未満のものをCとした。
【0066】
接着剤評価−耐湿熱性:
105℃、相対湿度100%のレトルト試験機(トミー工業(株)製 ES−315)内に前記接着・耐湿熱試験用サンプルを96時間静置した後の剥離強度(180゜ピール剥離強度、引っ張り速度50mm/分、単位;Kgf/15mm)を測定し、耐湿熱試験後の剥離強度とした。剥離強度耐湿熱保持率を以下の式から算出し、耐湿熱性の評価指標とした。数値が高いほど耐湿熱性が良好なことを示す。
剥離強度耐湿熱保持率(%)=(耐湿熱試験後の剥離強度/初期剥離強度)×100
耐湿熱性はABCの3段階評価とし、剥離強度耐湿熱保持率が50%以上のものをA、40%以上のものをB、40%未満のものをCとした。但し、耐湿熱試験後の剥離強度が100g/1.5cm以下の場合には、剥離強度耐湿熱保持率の値にかかわらずCとした。
【0067】
塗料評価−初期接着性:
前記塗料・耐湿熱試験用サンプルを25℃・50%の環境下に24時間保存した後すぐに、25℃・50%環境下にて接着剤層の塗膜上にセロハンテープを貼り、塗工面に対して45°の角度で剥離試験を行い、以下の基準にて評価した。
(評価基準)
○:塗膜のハガレが認められない。
×:塗膜のハガレが認められる。
【0068】
塗料評価−耐湿熱性:
105℃、相対湿度100%のレトルト試験機(トミー工業(株)製 ES−315)内に前記塗料・耐湿熱試験用サンプルを192時間静置した。その後25℃・50%の環境下に24時間保存した後すぐに、25℃・50%環境下にて接着剤層の塗膜上にセロハンテープを貼り、塗工面に対して45°の角度で剥離試験を行い、以下の基準にて評価した。
(評価基準)
○:塗膜のハガレが認められない。
×:塗膜のハガレが認められる。
【0069】
樹脂評価−耐候性:
前記耐候性試験用サンプルの接着剤側から紫外線を照射した。紫外線照射はUV照射試験機(岩崎電気(株)製、アイスーパーUVテスター、SUV−W151)を用いて行い、照射条件は60℃(ブラックパネル温度)、相対湿度60%、照射のみ、とし、照射時間は24時間、照射強度は100mW/cm2とした。紫外線照射前後の耐候性試験用サンプルのCo−b値を色差計(日本電色(株)製 ZE2000)を用いて測定し、紫外線照射前後の差(ΔCo−b)を耐候性の指標とした。(ΔCo−b)の数値が大きいほど黄変の度合が大きく、耐候性に劣ることを示す。耐候性はABCの3段階評価とし、ΔCo−bが+10未満のものをA、+10以上+15未満のものをB、+15以上のものをCとした。
【0070】
実施例1〜6および比較例1〜2
共重合ポリエステル樹脂1〜8を使用して接着剤評価として初期接着性と耐湿熱性、塗料評価として初期接着性と耐湿熱性、樹脂評価として耐候性を評価した。評価結果を表3および表4に示した。
【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を用いた実施例1〜6については、いずれについても、良好な初期接着性、耐湿熱性および耐候性を示した。
【0074】
比較例1
共重合ポリエステル樹脂7を使用して初期接着性、耐湿熱性および耐候性を評価した。評価結果を表4に示す。この樹脂は初期接着性は良好な値を示したものの、組成にイソソルビドを含有していないため、良好な耐湿熱性を示さなかった。
【0075】
比較例2
共重合ポリエステル樹脂8を使用して接着・耐湿熱試験用サンプルを作成した。このサンプルの初期接着力、耐湿熱性、及び耐候性評価の結果を表4に示す。この樹脂は組成にイソソルビドを含有しているものの、含有量が多すぎるためTgが非常に高い樹脂となり、良好な初期接着力を示さなかった。また、組成にテレフタル酸成分を多く含んでいるため、良好な耐候性を示さなかった。
【0076】
共重合ポリエステル樹脂9〜13の製造例
ポリエステル樹脂1の製造例に準じて、但し、原料の種類と配合比率を変更して、ポリエステル樹脂9〜13を製造した。樹脂組成と樹脂物性は表5に示した。
【0077】
【表5】

【0078】
実施例7〜9
共重合ポリエステル樹脂9〜11を使用して接着剤評価として初期接着性と耐湿熱性、塗料評価として初期接着性と耐湿熱性、樹脂評価として耐候性を評価した。評価結果を表6に示した。
【0079】
比較例3
共重合ポリエステル樹脂12を使用して初期接着性、耐湿熱性および耐候性を評価した。評価結果を表6に示した。この樹脂は初期接着性は良好な値を示したものの、耐湿熱性の弱い脂肪族ジカルボン酸成分を組成に多く含んでいたため、良好な耐湿熱性を示さなかった。
【0080】
比較例4
共重合ポリエステル樹脂13を使用して接着・耐湿熱試験用サンプルを作成した。このサンプルの初期接着力、耐湿熱性、及び耐候性評価の結果を表6に示した。この樹脂は組成にイソソルビドを含有しているものの、含有量が多すぎるためTgが非常に高い樹脂となり、良好な初期接着力を示さなかった。
【0081】
【表6】

【0082】
実施例1〜9、比較例1〜4より明らかなように、イソフタル酸成分かつ/またはオルソフタル酸成分が全多価酸成分に対して合計70モル%以上共重合されており、イソソルビドが全多価アルコール成分に対して5モル%以上60モル%以下共重合されている共重合ポリエステル樹脂とイソソルビドを用いることにより、耐湿熱性、耐候性が良好な接着剤を得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により、バイオマス原料であるイソソルビドを用いた、耐湿熱性および耐候性に優れた塗料、コーティング剤、接着剤が提供され、産業上の利用価値は極めて高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソフタル酸成分および/またはオルソフタル酸成分が全多価酸成分に対して合計70モル%以上共重合されており、イソソルビドが全多価アルコール成分に対して5モル%以上60モル%以下共重合されている共重合ポリエステル樹脂。
【請求項2】
ガラス転移温度が50℃以下である請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項3】
テレフタル酸成分の共重合比率が全酸成分に対して20モル%未満である請求項1または2に記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂と溶剤を含有するポリエステル樹脂ワニス。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を用いた塗料。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を用いた接着剤。

【公開番号】特開2013−10916(P2013−10916A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181213(P2011−181213)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】