説明

共重合ポリエステル樹脂およびこれを用いた塗料および接着剤

【課題】 太陽電池裏面封止シートなど屋外で長期に使用される製品に使用される塗料および接着剤のバインダー成分として使用できる程度の高度な初期接着力および耐湿熱性を示す共重合ポリエステル樹脂、およびこれを用いた接着剤および塗料を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも芳香族ジカルボン酸とイソソルビドと炭素数5〜7の脂肪族グリコールとが共重合されており、ガラス転移温度が50℃以下である共重合ポリエステル樹脂、およびこれを用いた塗料および接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた初期接着力および耐湿熱性を示す共重合ポリエステル樹脂に関するものである。本発明の共重合ポリエステル樹脂は、塗料および/または接着剤のバインダー成分として使用することができ、例えば、太陽電池裏面封止シートなど屋外で長期に使用される製品に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
一般に樹脂バインダーの結合力は、樹脂の分解劣化により徐々に低下し、共重合ポリエステル樹脂からなるバインダーについても同様である。特に太陽電池部材や電気絶縁部材などは長期間にわたり高温高湿下におかれることから、使用される塗料および接着剤のバインダー成分には初期接着力に加えて、優れた耐湿熱性が要求されている。
【0003】
高温高湿下における共重合ポリエステル樹脂の分解劣化は、熱による分解と加水分解に分けて考えることができる。
【0004】
まず熱による共重合ポリエステル樹脂の分解は、次のような反応により進行すると考えられている。すなわち、まず熱によりエステル結合が開裂してポリマー鎖が切断され、カルボキシル末端基とビニルエステル末端が生成する。次いでビニルエステル末端からさらに反応してアセトアルデヒドを脱離する。
【0005】
また、水や水蒸気による加水分解は、次のような反応により進行すると考えられている。すなわち、まず水分子のエステル結合への求核攻撃によってエステル結合の加水分解反応によるポリマー鎖の分裂が起こり、カルボキシル基末端と水酸基末端が形成され、次いで生成された末端水酸基はバックバイティングを引き起こし、更にポリマー鎖の分解が継続する。この反応において、末端カルボキシル基はポリマーの加水分解反応の触媒的な役割を担い、末端カルボキシル基量の増加に伴って加水分解が加速される。
【0006】
熱や水、水蒸気による分解を抑制するために、末端カルボキシル基量の少ないポリエステル樹脂が数多く提案されている。しかしながら、末端カルボキシル基量の低減だけでは長期の分解抑制が不十分であった。
【0007】
そこで、ポリマー鎖を剛直にして樹脂のガラス転移温度を上げることで、高温下における分子運動を抑制させる手法も為されるが、この場合、樹脂の溶剤溶解性が低下したり、通常温度の熱圧着では樹脂の流動性が低いため基材への接着性が発現しなくなる場合があり、塗料や接着剤としては課題が残る。
【0008】
ポリエステル樹脂に長鎖の脂肪酸や脂肪族グリコールを共重合し、分解反応の起点であるエステル結合の含有量を低くすることは、樹脂の耐熱性を改良する上で有効な手段である。しかしながらその一方で、脂肪酸や脂肪族グリコールの鎖長が長く、またその含有量が多いとポリエステル樹脂のガラス転移温度が下がりすぎて、樹脂強度が低下し、接着性が低くなるとの問題が生じる傾向にある。そのような傾向を抑制するために、他の成分を用いてガラス転移温度を上げ、好適なガラス転移温度に制御する方策が考えられるが、汎用されているグリコール成分のガラス転移温度上昇効果は低く、そのため、長鎖の脂肪酸や脂肪族グリコールの共重合量には限界があった。
【0009】
近年、ポリエステルに共重合することで樹脂のガラス転移温度を上げ、耐熱性を高める効果のあるグリコール成分として、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール(以降「イソソルビド」とする。)が注目されている。イソソルビドは、石油資源の枯渇が危惧されている中、ブドウ糖類やでんぷんから容易に合成することができ、再生可能資源を原料として製造することができるグリコール成分である。
【0010】
特許文献1〜2では、イソソルビドを共重合した成型用の結晶性樹脂の開示があり、耐熱性に優れるポリエステル樹脂を作ることができるとしている。特許文献3では、イソソルビドを共重合したポリエステルを用いたフィルムは、透明性を有し、食品包装等で用いることができるとしている。特許文献4では、透明性と耐熱性を生かしたホットフィルボトルの開示を行っている。特許文献5では、イソソルビドを水溶液として取り扱い、ポリエステルの重合の効率を高める開示を行っている。しかしながら、これらの特許に開示されている組成では、汎用溶剤には溶解することができず、塗料または接着剤として扱うことができなかった。
【0011】
一方、特許文献6には、芳香族ジカルボン酸を40モル%以上、イソソルビドを3〜80モル%含有し、25℃において2−ブタノン/トルエン混合溶媒(質量比1/1)に濃度10重量%で溶解する可溶性共重合ポリエステル樹脂が開示されており、耐熱性が高く、塗料およびコーティング用に用いることが想定されているようである。ところが、特許文献6には、イソソルビドを共重合したポリエステル樹脂が数種類開示されているものの、その数平均分子量、ガラス転移温度および特定の2種類の溶媒に対する溶解性が示されているのみであり、塗料やコーティング剤において必須の特性である接着性や耐湿熱性に関してはまったく評価されていないので、実際に塗料やコーティング剤として有効であるのかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許3413640号公報
【特許文献2】特許3399465号公報
【特許文献3】特表2007−508412号公報
【特許文献4】特表2007−504352号公報
【特許文献5】特表2006−506485号公報
【特許文献6】特開2010−95696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、従来から知られているイソソルビド共重合ポリエステル樹脂を、溶剤溶解型接着剤、塗料およびコーティング剤のバインダー成分として利用することを検討した。特許文献1〜5に開示されているイソソルビド共重合ポリエステル樹脂は、いずれも汎用溶剤に対する溶解性に乏しく、このため溶剤溶解型接着剤、塗料およびコーティング剤のバインダー成分として用いることができないことが判明した。また、特許文献6のイソソルビド共重合ポリエステル樹脂は、一部の汎用溶剤には溶解するものの、接着力、耐候性および耐湿熱性が不十分であり、バインダー成分としての実用性には乏しいことが判明した。本発明の課題は、太陽電池裏面封止シートなど屋外で長期に使用される製品に使用される塗料および接着剤のバインダー成分として使用できる程度の高度な初期接着力および耐湿熱性を示す共重合ポリエステル樹脂、およびこれを用いた接着剤および塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記の課題を解決するため鋭意研究した結果、特定のカルボン酸成分およびグリコール成分を特性の比率で共重合すれば前記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0015】
(1) 少なくとも芳香族ジカルボン酸とイソソルビドと炭素数5〜7の脂肪族グリコールとが共重合されており、ガラス転移温度が50℃以下である共重合ポリエステル樹脂。
(2) 前記芳香族ジカルボン酸が全多価酸成分に対して合計40モル%以上共重合されており、前記イソソルビドが全多価アルコール成分に対して3モル%以上共重合されており、前記炭素数5〜7の脂肪族グリコールが全多価アルコール成分に対して30モル%以上共重合されている(1)に記載の共重合ポリエステル樹脂。
(3) グリコール成分としてエチレングリコールを含まないことを特徴とする(1)または(2)に記載の共重合ポリエステル樹脂。
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を用いた塗料。
(5) (1)〜(3)のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を用いた接着剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、一部の汎用溶剤には溶解し、なおかつ太陽電池裏面封止シートなど屋外で長期に使用される製品に使用される塗料および接着剤のバインダー成分として使用できる程度の高度な初期接着力および耐湿熱性を示す。また、本発明の共重合ポリエステル樹脂の共重合成分として用いられるイソソルビドは再生可能資源を原料として製造することができるモノマーであるので、地球環境保護の観点から好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の共重合ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸成分とグリコール成分から主として構成され、必要に応じて3官能以上の成分が共重合されたものである。
【0019】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、芳香族ジカルボン酸が共重合されている。全多価カルボン酸成分に対する芳香族ジカルボン酸の共重合比率は特に限定されないが、40モル%以上共重合することが好ましく、45モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが更に好ましく、100モル%であっても差し支えない。芳香族ジカルボン酸の割合が低くなると得られる共重合ポリエステル樹脂の接着性や耐アルカリ性が低くなることがある。
【0020】
本発明の共重合ポリエステル樹脂に共重合される芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸やイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。このうちテレフタル酸とイソフタル酸を併用して使用することが、良好な加工性、耐衝撃性を得るうえで好ましい。
【0021】
本発明の共重合ポリエステル樹脂に共重合されるその他の多価カルボン酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等の脂環族ジカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。このうち好ましくは、シクロヘキサンジカルボン酸やセバシン酸である。さらに好ましくはセバシン酸である。セバシン酸は汎用性があり、長鎖アルキル基を有し、樹脂のガラス転移温度を制御しやすいため好ましい。
【0022】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、炭素数5〜7の脂肪族グリコールおよびイソソルビドが共重合されている。
【0023】
本発明の共重合ポリエステル樹脂に共重合される炭素数5〜7の脂肪族グリコールは、炭素数8以上の長鎖グリコールより反応効率がよく、共重合量でガラス転移温度をコントロールしやすいため、共重合成分として好ましい。炭素数5〜7の脂肪族グリコールの共重合比率は特に限定されないが、全多価アルコール成分に対して、30モル%以上共重合することが好ましく、より好ましくは35モル%以上である。炭素数5〜7の脂肪族グリコールの共重合比率が少なすぎると、得られる共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度が高く、樹脂の柔軟性が低くなり、結果として接着性や溶剤溶解性が低くなるので好ましくない。炭素数5〜7の脂肪族グリコールとしては、直鎖脂肪族グリコール、分岐を有する脂肪族グリコールおよびオリゴアルキレングリコールのいずれでもよく、分岐を有する脂肪族グリコールの例としては、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、直鎖脂肪族グリコールとしては1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、オリゴアルキレングリコールの例としてはジプロピレングリコール等の等が挙げられる。これらのうち、ネオペンチルグリコールと1,6−ヘキサンジオールが好ましい。更に好ましくは1,6−ヘキサンジオールである。1,6−ヘキサンジオールは汎用性があり、ガラス転移温度をコントロールしやすいため、好ましい。
【0024】
本発明の共重合ポリエステル樹脂にはイソソルビドが共重合されている。イソソルビドは、化1のような剛直な脂環構造を有する。本発明者らの検討によると、脂肪族グリコール成分が共重合されている共重合ポリエステルにおいて、脂肪族グリコールをイソソルビドに置換すると、共重合ポリエステル樹脂に1モル%共重合するごとにガラス転移温度を約1℃程度上昇させることが可能であり、効率よくガラス転移温度を上げることができることがわかった。また、イソソルビドは2級アルコールであるため1級アルコールに比べて反応性が低く、ポリマー末端に残りやすくなる。ポリマー末端がイソソルビド残基となった場合、反応性の低い2級水酸基がポリマー末端となり、なおかつポリマー末端付近のポリマー鎖が剛直となるため、ポリマー主鎖はバックバイティングを受けにくくなる。また、ポリマー主鎖内部に共重合されたイソルビド残基は、その構造が立体的にかさ高いため、近隣のエステル結合部が求核攻撃をうけにくくなり、ポリマー鎖の分解が抑制される。このように、イソソルビドを共重合成分とすることにより、共重合ポリエステル樹脂の分解は抑制されるので、好ましい共重合成分である。イソソルビドは糖類およびでんぷんから容易に得ることができ、例えば、D−グルコースを水添し、脱水反応をすればイソソルビドを得ることができる。
【0025】
【化1】

【0026】
本発明の共重合ポリエステル樹脂に用いられるイソソルビドの共重合比率は特に限定されないが、全多価アルコール成分に対して、3モル%以上共重合することが好ましく、5モル%以上がさらに好ましい。3モル%未満であると、ガラス転移温度を上げる効果がほとんどないので好ましくない。一方、イソソルビドは反応性が低いため、共重合量を高くすると重合時間が長くなる傾向があり、製造コストの面で不利である。そのため、イソソルビドの共重合量は60モル%未満が好ましく、55モル%未満がさらに好ましい。炭素数5〜7を有する脂肪族グリコールとイソソルビドを共重合することで、エステル結合の含有量を下げながら、好適なガラス転移温度を有した樹脂が提供される。
【0027】
本発明の共重合ポリエステル樹脂に用いられるその他のグリコール成分としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,10−デカンジオール、3(4)、8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ(5.2.1.1/2.6)デカン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールAP、4,4′−ビフェノールのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。例示したグリコール成分の中でも、汎用性がある1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールが好ましい。なお、エチレングリコールは分子量が小さく、共重合成分として用いると、エステル結合の含有量が多くなるため、耐湿熱性が低下する可能性が高く、好ましくない。
【0028】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、適度な柔軟性、接着性の向上などの必要に応じて、3官能以上のカルボン酸や3官能以上のアルコール成分を共重合することができる。3官能以上のモノマーの共重合比率としては、全カルボン酸成分または全グリコール成分に対して0.2〜5モル%程度が適当である。3官能以上のモノマーの共重合比率が低すぎると共重合した効果が発現せず、共重合比率が高すぎる場合には、ゲル化が問題になる場合がある。3官能以上のカルボン酸にはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸等の芳香族カルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族カルボン酸が挙げられる。3官能以上のアルコール成分にはグリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトールが挙げられる。
【0029】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂にはヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、モノカルボン酸およびモノアルコールを共重合成分として添加してもよい。これらの共重合成分は全カルボン酸成分および全グリコール成分の合計に対して10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは8モル%以下であり、共重合されていなくてもよい。これらの共重合成分の共重合比率が高すぎると、ポリマーの凝集力が低下し、接着力が低くなる場合がある。ヒドロキシカルボン酸の例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。ラクトン類の例としては、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等があげられる。また、モノカルボン酸の例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等、モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0030】
本発明の共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、50℃以下である必要があり、40℃以下が好ましく、30℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度が50℃より高いと樹脂の柔軟性が損なわれたり、室温付近での接着性を発現しなくなる傾向にある。ガラス転移温度の下限は特に限定されないが、硬化工程や基材との圧着工程における樹脂の溶出による塗工むらを考慮すると、−20℃以上が好ましく、−10℃以上がさらに好ましい。ポリマーのガラス転移温度は、ポリマー鎖の自由度が高いほど低くなるので、共重合成分として芳香族成分に替えて脂環族成分および/または脂肪族成分を用いることは、得られる共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度を低下させる効果を発揮する。また、脂肪族成分同士を比較すると、炭素数が多いほどガラス転移温度を低くする効果が大きい傾向にある。一方、イソソルビドを共重合成分として用いることは、脂肪族成分を用いる場合に比較して、得られる共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度を上昇させる効果がある。そこで、例えば、酸成分に主として芳香族ジカルボン酸成分を用いて樹脂強度を向上させ、グリコール成分として炭素数5〜7を有する脂肪族グリコール、イソソルビドを適度な比率で共重合させることにより、適切なガラス転移温度を有し、なおかつ接着性と耐湿熱性に優れるポリエステル樹脂を得ることができる。
【0031】
本発明において、初期接着力は、ポリエステルフィルムに接着剤を塗布し、溶剤を揮発させたあと、同フィルムをドライラミネーターをもちいて圧着させ、120℃、3時間かけて接着剤を硬化させたサンプルの剥離強度で評価している。また、耐湿熱性は、初期接着力評価と同様に作成したサンプルを105℃、100%RHで24時間放置した後、剥離強度を測定し、105℃、100%RHでの試験前後の接着力を比較して評価している。
【0032】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は前記のモノマーを組み合わせて、公知の重合釜で製造することができる。
【0033】
一般的に共重合ポリエステル樹脂を製造する反応は、エステル化/エステル交換反応工程および重縮合反応工程からなる。エステル化/エステル交換反応工程は、全モノマーおよび/または低重合体から所望の組成の低重合体を作製する工程であり、重縮合反応工程は、エステル化/エステル交換反応工程で得られた低重合体含有組成物からグリコール成分を留去させ、所望の分子量の共重合ポリエステル樹脂を得る工程である。
【0034】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造においても、一般的な共重合ポリエステル樹脂を製造する方法を用いることができる。
【0035】
以下、各工程について例示説明する。
エステル化/エステル交換反応工程では、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下、加熱熔融して反応させる。イソソルビドは2級アルコールであるため、1級アルコールと比べて、反応性が低い。そのため、エステル化/交換反応温度は、180〜250℃が好ましく、220〜250℃がより好ましく、反応時間は2.5〜10時間が好ましく、4時間〜6時間がより好ましい。なお、反応時間は所望の反応温度になってから、つづく重縮合反応までの時間とする。
【0036】
重縮合反応工程では、減圧下、220〜280℃の温度で、エステル化/エステル交換反応工程で得られた低重合体含有組成物から、グリコール成分を留去させ、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進める。重縮合の反応温度は、220〜270℃が好ましく、220〜250℃がより好ましい。減圧度は、130Pa以下であることが好ましい。減圧度が低いと、重縮合時間が長くなる傾向があるので好ましくない。大気圧から130Pa以下に達するまで60〜180分かけて徐々に減圧することが好ましい。
【0037】
なお、組成によっては、グリコール成分とともにイソソルビドが留去し、留去液からイソソルビドが析出する場合があるが、その場合は、留去ラインを40〜80℃に加熱することで、グリコール成分に対し析出したイソソルビドを溶解させ、留去ラインから排出することができる。
【0038】
エステル化/エステル交換反応工程および重縮合反応工程を行う際には、必要に応じて、テトラブチルチタネートなどの有機チタン酸化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機錫化合物等の触媒を用いてもよい。その際の触媒使用量は、生成する樹脂質量に対し、1.0質量%以下で用いるのが好ましい。
【0039】
また、一般的に共重合ポリエステル樹脂に所望の酸価や水酸基価を付与する場合には、前記の重縮合反応に引き続き、多塩基酸成分や多価グリコール成分をさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合を行うことができる。
【0040】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造においても、一般的な共重合ポリエステル樹脂を製造する場合と同様に解重合を行い、所望の酸価や水酸基価を付与することができる。
【0041】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、溶剤への溶解性に優れるため、様々な汎用溶媒に溶解させてポリエステル溶液として利用することができる。溶液濃度は15〜50質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましい。また、好ましい溶媒としては、シクロヘキサノン、2−ブタノン、トルエン、酢酸エチルからなる少なくとも1種または2種の混合溶媒が挙げられる。中でも2−ブタノン/トルエンの混合溶媒は一般に溶解性が高いので好ましく、両者の質量比を8/2〜2/8の範囲としたものが最も好ましい。
【0042】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量は、4,000以上とすることが好ましく、8,000以上であることがより好ましい。数平均分子量が4,000未満では、塗膜強度が低くなるため、コーティングした場合、割れてしまう場合があり、好ましくない。
【0043】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、更に耐湿熱性、基材への接着強度を向上させるため硬化剤を配合しても良い。
【0044】
本発明の共重合ポリエステルに配合される硬化剤としては、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物、メラミン化合物、フェノール樹脂等が上げられる。これらのうち、イソシアネート化合物が低温で硬化できる点で好ましく、脂肪族のヘキサメチレンジイソシアネートまたは脂環族イソホロンジイソシアネートを使用することが屋外用途での経時的な黄変を軽減できる点で好ましい。それぞれイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体の種類があるが、好ましいのはイソシアヌレート体である。
【0045】
本発明の共重合ポリエステル樹脂とイソシアネート化合物の配合比は共重合ポリエステル100重量部に対してイソシアネート化合物1〜20重量部であり、好ましくは5〜10量部である。1重量部以下だと架橋密度が低すぎて接着・耐湿熱性に影響する恐れがあり、20重量部以上だと塗膜の架橋密度が高すぎるために接着性に劣る可能性がある。
【0046】
更にこれらの硬化剤の反応性を上げるために、硬化触媒を添加しても良い。硬化触媒としては、錫系や亜鉛系他の有機金属化合物、アミン類、ルイス酸、アルカリ性化合物等が挙げられる。
【0047】
本発明の共重合ポリエステルには、高温高湿下で分解劣化が起きた際に生成するカルボキシル基を封鎖するために、カルボジイミド化合物やオキサゾリン化合物、エポキシ化合物等の末端封鎖剤を任意の割合で配合しても良い。
【0048】
本発明の接着剤組成物には、必要により耐候性を付与するための紫外線吸収剤、酸化劣化防止のための酸化防止剤、離型剤、滑剤等の公知の添加剤を含有させることができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例中における各値は下記の方法で求めた。
【0050】
(1)還元粘度(ηsp/c)
パラクロロフェノール/テトラクロロエタン=6/4(重量比)混合溶媒中、25℃での溶液粘度から求めた。
【0051】
(2)ガラス転移温度(Tg)
室温で真空乾燥した共重合ポリエステル樹脂をDSC用のアルミパンに入れ、160℃で20分間加熱し、その後、液体窒素で冷却した。そのように前処理した共重合ポリエステル樹脂をTAインスツルメンツ社製DSC2920を用いて測定した。試料7.5mg、窒素雰囲気下中、−50〜250℃の範囲を20℃/分で昇温し、得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前のベースラインと、吸熱ピークに向かう接線との交点との温度をもって、ガラス転移温度とした。
その途中において観察される、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求め、これをガラス転移温度(Tg)とした。
【0052】
(3)ポリエステル樹脂組成
ポリエステル樹脂の組成及び組成比の決定は共鳴周波数400MHz のH-NMR測定(プロトン型核磁気共鳴分光測定)にて行った。測定装置はVARIAN社製 NMR装置 400-MRを用い、溶媒には重クロロホルム/トリフルオロ酢酸=85/15(重量比)を用いた。
【0053】
(4)ワニス調製および溶解性評価
200mLの四つ口フラスコに、共重合ポリエステル樹脂30g、2−ブタノン/トルエン混合溶媒(質量比1/1)70gを入れ(濃度30質量%)、フラスコに設置したメカニカルスターラーを用い、攪拌速度100rpm、温度55〜60℃で溶解した。なお、溶解性は上記条件で共重合ポリエステル樹脂を溶解し、25℃、24時間静置後に溶解しているものを○、上記作業直後は溶解しているが、25℃、24時間静置後に溶解していないものを△、溶解していないものを×と評価した。なお、左記判定は溶解液を肉眼で観察して行い、「溶解している」とは、濁りも非溶解分も認められない状態を、「溶解していない」とは、濁りおよび/または非溶解分が認められる状態を指すものとする。
【0054】
(5)接着・耐湿熱性評価
A.サンプルの調製
上記(4)で調整したワニス20gに、ポリイソシアネートN3300(住化バイエルウレタン製)を0.6g添加、混合し、接着剤とした。共重合ポリエステル樹脂とポリイソシアネートの重量比率は、10:1である。
ポリエステルフィルム(東洋紡製シャインビームQ1211、厚さ125μm)に接着剤をドライ膜厚が10μmになるようにバーコーターで塗布し、溶剤を揮発させ、ポリエステルフィルム/樹脂組成物積層体を得た。
次いで、ポリエステルフィルム/樹脂組成物積層体の接着剤側とポリエステルフィルム(東洋紡製シャインビームQ1211、厚さ125μm)とを接触させ、ドライラミネーターを用いて圧着させた。ドライラミネーション条件は、ロール温度150℃、ロール荷重3kg/cm、被圧着物速度1m/分とした。その後、120℃、3時間のエージングを行なって接着剤を硬化させ、接着・耐湿熱試験用サンプルを得た。
【0055】
B.初期接着力測定
前記接着・耐湿熱試験用サンプルを幅15mmの短冊状に切り取り、テンシロン(東洋測器(株)製、UTM−IV)で剥離強度(T型ピール剥離、引っ張り速度50mm/分)を測定し、初期剥離強度とした。初期接着性は4段階評価とし、初期剥離強度が600g/15mm以上のものを◎、400g/15mm以上のものを○、200g/15mm以上のものを△、200g/15mm未満のものを×とした。但し、剥離強度が100g/15mm以下の場合や、共重合ポリエステル樹脂が溶剤に不溶のため評価できなかったサンプルは―とした。
【0056】
C.耐湿熱性評価
105℃、100%RH条件のレトルト試験機(トミー工業(株)製 ES−315)内に上記Aで作成したサンプルを24時間静置し、次いで剥離強度(T型ピール剥離、引っ張り速度50mm/分)を測定した。
保持率は、以下の式から算出し、数値が高いほど耐湿熱密着性が良好なことを示す。
保持率(%)=(耐湿熱試験後の剥離強度/初期剥離強度)×100
耐湿熱性は4段階評価とし、剥離強度耐湿熱保持率が75%以上のものを◎、70%以上のものを○、65%以上のものを△、65%未満のものを×とした。但し、湿熱試験後の剥離強度が100g/1.5cm以下の場合や、共重合ポリエステル樹脂が溶剤に不溶のため評価できなかったサンプルは―とした。
【0057】
実施例1
ジメチルテレフタレート58.3g(0.30mol)、ジメチルイソフタレート134.0g(0.69mol)、1,6−ヘキサンジオール106.4g(0.90mol)、イソソルビド73.1g(0.50mol)、無水トリメリット酸2.5g(0.01mol)を攪拌翼ならびにヴィグリュー管を取り付けた四つ口フラスコに入れ、チタン酸テトラ−n−ブチルモノマーのn−ブタノール溶液(68g/L)を5.25mL加えて、常圧で180〜220℃、4時間攪拌してエステル交換を行った。その後、220℃で常圧から20分かけて50Paまで減圧し、過剰なジオール成分を留去して1時間重合した。この樹脂はガラス転移温度が50℃以下かつ、良好な溶解性、初期接着性および耐湿熱性を示した。
【0058】
実施例2〜11
実施例1の重合方法に準じて、但し、原料の種類と配合比率を変更して、共重合ポリエステル樹脂実施例2〜11を製造した。得られた樹脂の組成と物性は表1に示した。これらは良好な初期接着性と耐湿熱性を示した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
比較例1
ジメチルテレフタレート58.3g(0.30mol)、ジメチルイソフタレート134.0g(0.69mol)、1,6−ヘキサンジオール141.8g(1.20mol)、2−メチルプロパンジオール18.0g(0.20mol)、無水トリメリット酸2.5g(0.01mol)を攪拌翼ならびにヴィグリュー管を取り付けた四つ口フラスコに入れ、チタン酸テトラ−n−ブチルモノマーのn−ブタノール溶液(68g/L)を5.25mL加えて、常圧で180〜220℃、2.5時間攪拌してエステル交換を行った。その後、220℃で常圧から20分かけて50Paまで減圧し、過剰なジオール成分を留去して1時間重合した。この樹脂は耐湿熱性に劣る。
【0062】
比較例2〜6
比較例1の重合方法に準じて、但し、原料の種類と配合比率を変更して、共重合ポリエステル樹脂比較例2〜6を製造した。得られた樹脂の組成と物性は表2に示した。比較例2、4、5は耐湿熱性に劣り、比較例3、6、7は溶剤溶解性に劣る。
【0063】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、例えば塗料および/または接着剤のバインダー成分として使用することができ、優れた初期接着力および耐湿熱性を示すので、特に太陽電池裏面封止シートなど屋外で長期にわたって使用される製品に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも芳香族ジカルボン酸とイソソルビドと炭素数5〜7の脂肪族グリコールとが共重合されており、ガラス転移温度が50℃以下である共重合ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記芳香族ジカルボン酸が全多価酸成分に対して合計40モル%以上共重合されており、前記イソソルビドが全多価アルコール成分に対して3モル%以上共重合されており、前記炭素数5〜7の脂肪族グリコールが全多価アルコール成分に対して30モル%以上共重合されている請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項3】
グリコール成分としてエチレングリコールを含まないことを特徴とする請求項1または2に記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を用いた塗料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を用いた接着剤。

【公開番号】特開2013−32424(P2013−32424A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168390(P2011−168390)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】