説明

共重合ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】結晶化処理、乾燥処理などの熱処理工程において、樹脂ペレット同士の固着が低減された共重合ポリエステル樹脂ペレットを提供する。
【解決手段】テレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主たる成分とするジオール成分とを反応させて得られた共重合ポリエステル樹脂ペレットを剪断処理した後、流動状態でガラス転移温度以上融点未満の温度に加熱して結晶化処理を行う共重合ポリエステル樹脂の製造方法において、下記a)、及びb)を満たす。
a)得られる共重合ポリエステル中のテレフタル酸以外のジカルボン酸成分由来の残基と、エチレングリコール以外のジオール成分由来の残基との合計が、全ジカルボン酸成分由来の残基に対して5〜20モル%
b)剪断処理前のペレットの明度L0と、剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度L1との差(L1−L0)が、0.3〜10.0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合ポリエステル樹脂の製造方法に関し、詳しくは、結晶化処理及びその後の熱処理時における樹脂ペレット同士の固着防止に著しい効果が得られる共重合ポリエステル樹脂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PET樹脂と記す場合がある)に代表されるポリエステル樹脂は、優れた機械的特性、耐熱性、耐薬品性を有するため、繊維、ボトル、フィルム、シート等として幅広い分野で使用されている。近年、PET樹脂を波板やチューブなどの押出成形品や化粧品容器、ビールグラス、日用雑貨などの射出成形品として利用する試みがなされている。
【0003】
しかしながら、PET樹脂は結晶性が高く、厚みのある成形品に加工した場合、成形品内部が冷却不足となり結晶化による白濁を起こして透明性が著しく低下する。そこで、PET樹脂の透明性を改善する方法として、イソフタル酸などの共重合成分を配合することでPET樹脂の結晶性を低下させ、成形品の透明性を高める試みがなされている。
しかし、このような共重合ポリエステル樹脂は、結晶性が低下することによる成形品の透明性向上は達成できるが、共重合ポリエステル樹脂を製造する際に必要となる結晶化処理、その後の乾燥、固相重合工程などにおいて、樹脂ペレット同士の固着が激しくなり、生産性の著しい低下を引き起こすという問題点があった。
【0004】
PET樹脂ペレットの結晶化処理などの熱処理工程におけるペレット同士の固着を防止する方法として、樹脂ペレットに機械的衝撃を与えてペレット表面に凹凸を設ける方法や、剪断処理によるペレット表面の結晶化促進方法などが提案されている。例えば、PET樹脂ペレットに特定の表面粗度(Ra)をもつように剪断処理を施し、その後の固相重合時での融着防止を図る方法(特許文献1参照)、また、PET樹脂ペレットに特定範囲の表面凹凸を形成させるように剪断処理を施して固着防止を図る方法(特許文献2参照)、更にはPET樹脂ペレットの結晶化度をラマン分光法により評価し、断面中心部及び表面のカルボニルピーク半値幅が特定の値以下になるように剪断処理を施して固着防止を図る方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3で固着防止を図るPET樹脂は、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの殆ど共重合成分を含まないものであり、共重合成分が5モル%以上もあるような共重合ポリエステルに対しては、これらの特許文献に記載される方法は、必ずしもペレットの固着防止に効果がないことが本発明者らの検討により判明した。
【特許文献1】特許第3061424号公報
【特許文献2】特許第2935132号公報
【特許文献3】特許第3475709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、結晶化処理、乾燥処理などの熱処理工程において、樹脂ペレット同士の固着が低減された共重合ポリエステル樹脂ペレットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、共重合ポリエステル樹脂ペレットが剪断処理の前後で特定の明度差を持つように剪断処理を施し、剪断処理後、流動状態で加熱して結晶化処理を施すことにより、優れた固着防止効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明の要旨は、テレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主たる成分とするジオール成分とを反応させて共重合ポリエステル樹脂ペレットを得る反応工程と、得られた共重合ポリエステル樹脂ペレットに剪断処理を施す剪断処理工程と、剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットを、ペレットが流動した状態で該共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上融点未満の温度に加熱して結晶化処理を行う結晶化処理工程とを備える共重合ポリエステル樹脂の製造方法であって、下記a)、及びb)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法、に存する。
a)得られる共重合ポリエステル中のテレフタル酸以外のジカルボン酸成分由来の残基と、エチレングリコール以外のジオール成分由来の残基との合計が、全ジカルボン酸成分由来の残基に対して5〜20モル%である。
b)剪断処理前の共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度L0と、剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度L1との差(L1−L0)が、下記式(1)を満足する。
0.3≦L1−L0≦10.0 (1)
【0009】
本発明においては、結晶化処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットの密度が1.340g/cm以上、1.400g/cm以下であり、かつ結晶化処理前の共重合ポリエステル樹脂の固有粘度IV0と、結晶化処理後の共重合ポリエステル樹脂の固有粘度IV1との差(IV1−IV0)が0dL/gを超え、0.01dL/g以下であるような結晶化処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法によれば、結晶化処理やその後の固相重合、成形のための乾燥処理などの加熱処理工程におけるペレット同士の固着を効果的に防止することができ、従来法に比べて生産性が著しく改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法は、テレフタル酸(以下「TPA」と称すことがある)及び/又はそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコール(以下「EG」と称すことがある)を主たる成分とするジオール成分とを反応させて共重合ポリエステル樹脂ペレットを得る反応工程と、得られた共重合ポリエステル樹脂ペレットに剪断処理を施す剪断処理工程と、剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットを、ペレットが流動した状態で該共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上融点未満の温度に加熱して結晶化処理を行う結晶化処理工程とを備える共重合ポリエステル樹脂の製造方法であって、下記a)、及びb)を満足することを特徴とする。
a)得られる共重合ポリエステル中のテレフタル酸以外のジカルボン酸成分由来の残基と、エチレングリコール以外のジオール成分由来の残基との合計が、全ジカルボン酸成分由来の残基に対して5〜20モル%である。
b)剪断処理前のペレットの明度L0と、剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度L1との差(L1−L0)が、下記式(1)を満足する。
0.3≦L1−L0≦10.0 (1)
【0013】
本発明における共重合ポリエステル樹脂の製造は、反応により得られたポリエステル樹脂ペレットを所定の条件で剪断処理した後、流動状態で結晶化処理すること以外は、基本的には制限されず、例えば、TPA及び/又はそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジカルボン酸成分とEGを主たる成分とするジオール成分とを反応させるポリエステル樹脂の慣用の製造方法により実施することができる。
【0014】
本発明において、製造される共重合ポリエステル樹脂のTPA以外のジカルボン酸成分由来の残基と、EG以外のジオール成分由来の残基との合計は、全ジカルボン酸成分由来の残基に対して5〜20モル%である。この共重合成分割合の下限は好ましくは10モル%以上であり、上限は好ましくは17モル%である。
【0015】
得られる共重合ポリエステル樹脂の、ジカルボン酸成分の主たる成分であるTPA由来の残基は全ジカルボン酸由来の残基に対して80モル%以上であり好ましくは85モル%以上である。また、ジオール成分の主たる成分であるEG由来の残基は全ジオール成分由来の残基に対して80モル%以上であり、好ましくは85モル%以上である。この主たる成分の割合が上記下限未満であると、この共重合ポリエステル樹脂を成形した場合、成形品の透明性が低下する。この主たる成分割合が上記上限超過では、結晶性が著しく低下するため、結晶化処理におけるペレット同士の固着防止効果が現れにくくなる。
【0016】
反応に用いるTPA及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分の例としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらジカルボン酸成分の中ではイソフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が工業的に安価に製造できることから好ましい。
【0017】
また、EG以外のジオール成分の例としては、1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオールや、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオールなどが挙げられる。この中では、1,4−シクロヘキサンジメタノールが耐衝撃性に優れた共重合ポリエステル樹脂が得られるために好ましい。
【0018】
[反応工程]
反応工程における反応方式には、TPAを主たる成分とするジカルボン酸成分と、EGを主たる成分とするジオール成分とを、エステル化反応槽でエステル化し、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応槽に移送して重縮合させる直接重合法、TPAのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジカルボン酸成分とEGを主たる成分とするジオール成分とをエステル交換反応槽でエステル交換反応し、得られたエステル交換反応生成物を重縮合反応槽に移送して重縮合させるエステル交換法がある。
これらの反応は、回分法で行ってもよく、連続法で行ってもよい。
【0019】
エステル化反応は、必要に応じて、例えば、三酸化二アンチモンや、アンチモン、チタン、マグネシウム、カルシウム等の金属の有機酸塩、アルコラート等のエステル化触媒を使用して、200〜270℃程度の温度、1×10〜4×10Pa程度の圧力下で行われ、エステル交換反応は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、チタン、亜鉛等の金属の有機酸塩等のエステル交換触媒を使用して、200〜270℃程度の温度、1×10〜4×10Pa程度の圧力下で行われる。
【0020】
また、重縮合反応は、例えば、安定剤として正燐酸、亜燐酸、及びこれらのエステルなどの燐化合物を使用し、また、例えば、三酸化二アンチモン、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等の金属の酸化物、或いは、アンチモン、ゲルマニウム、亜鉛、チタン、コバルト等の有機酸塩、アルコラート等の重縮合触媒を使用して、240〜290℃程度の温度、10〜2000Pa程度の減圧下で行われる。
【0021】
通常、重縮合反応により得られた樹脂は、重縮合反応槽の底部以降に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断されてペレット状とされる。ペレットのサイズは、本発明の効果を妨げない範囲であれば特に制限はされず、通常は数mm程度より小さいペレットが使用可能である。
【0022】
[剪断処理工程]
本発明では、上記のようにして得られる共重合ポリエステル樹脂ペレットに対して、剪断処理を施すことによってペレット表面を粗面化する。
【0023】
本発明の共重合ポリエステル樹脂ペレットの剪断処理方法としては、特に制限は無く、公知の剪断処理装置を用いて行うことができる。一般的には、精米機、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダーなどを用いて、樹脂ペレット同士が互いにこすれあうように樹脂ペレットを攪拌することにより実施される。この剪断処理時の温度については特に制限はなく、通常は室温(20〜40℃程度)で実施される。
【0024】
本発明では、剪断処理前の共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度をL0、剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度をL1として、その明度差(L1−L0)が0.3以上10.0以下、好ましくは2.0以上10.0以下、より好ましくは2.0以上5.0以下となるように、剪断処理を施す。この明度差が0.3未満では、後続の結晶化処理工程での樹脂ペレット同士の固着防止効果が得難く、10.0を超えると固着防止効果が飽和し、剪断処理をする際に削り屑(ダスト)が多量に発生する問題がある。
【0025】
なお、共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度は、後掲の実施例の項に記載の方法により測定することができる。
【0026】
[結晶化処理]
上記剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットは、次いで、ペレットが流動化した状態で、所定の温度に加熱して結晶化処理を行う。
【0027】
上述の条件で剪断処理を施した共重合ポリエステル樹脂ペレットは、結晶化処理などの熱処理工程でのペレット同士の固着が少なく、特にペレットが流動した状態で結晶化処理することによりその効果は著しい。ペレットをホッパードライヤーのような静置状態かつペレット自重がかかるような状態で加熱処理を施した場合では、本発明の固着防止効果は得られにくい。
【0028】
ペレットが流動した状態で加熱結晶化処理する方法としては、間接加熱型乾燥機、容器回転式真空乾燥機及び流動層乾燥機などを使用する方法が挙げられる。これらの装置の中でも、間接加熱型乾燥機が好ましく、具体的には、ソリッドエアー(ホソカワミクロン社製)及びトーラスディスク(ホソカワミクロン社製)等の市販の装置を挙げることができる。これらの装置を使用することによって結晶化工程における熱処理時間が短縮され、結晶化が効率的に行われるようになる。
【0029】
結晶化処理は通常共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上融点未満の温度で、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で1分間以上加熱することで行われるが、この加熱温度は120〜200℃の温度範囲であることが好ましく、120〜160℃の温度範囲であることがより好ましい。結晶化処理時の温度が低過ぎると十分な結晶化がおこり難く、高過ぎると樹脂同士の融着が起こる場合がある。
【0030】
本発明に係る結晶化処理では、剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットを、結晶化処理前の固有粘度IV0と、結晶化処理後の固有粘度IV1との差(IV1−IV0)が0dL/gを超え、0.01以下になるように熱処理することが好ましい。
【0031】
更に、本発明に係る結晶化処理では、結晶化処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットの密度が1.340g/cm以上、1.400g/cm以下になるように結晶化処理をすることが好ましい。
【0032】
結晶化処理温度や処理時間を調節して、結晶化処理前後における固有粘度と密度が上記範囲となるようにすることにより、結晶化処理中のペレット同士の固着をより一層確実に防止することができるようになる。
【0033】
このような結晶化処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットを加熱処理して固相重合させることにより、更に高重合度化させると共に、反応副生物のアセトアルデヒドや低分子オリゴマー等を低減化することもできる。
【0034】
このように、本発明に従って剪断処理及び結晶化処理をして得られた共重合ポリエステル樹脂ペレットは、その後の固相重合やこれを成形する際の加熱乾燥などの、加熱を施す際も固着が起こりにくい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、ポリエステル樹脂の各種分析法及び評価方法は以下の通りである。
【0036】
(1)共重合組成
ポリエステル樹脂を、フェノール/テトラクロロエタンの混合溶液=50/50(重量比)で溶解し、BRUKER社製「AV400M分光計」を用いてH−NMRを測定し、得られたチャートの全ジカルボン酸成分のプロトンのピーク積分強度、及び各共重合成分のプロトンのピーク積分強度から全ジカルボン酸成分に対する共重合組成(モル%)を計算した。なお、表1における「仕込みベース共重合組成」は共重合ポリエステル樹脂の製造に際し、実際にガラス製容器に仕込んだ各成分の重量から計算した値である。
【0037】
(2)固有粘度(IV)
ポリエステル樹脂試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液約25mLに、濃度が1.00g/dLとなるように溶解させた後、30℃まで冷却、保持し、全自動溶液粘度計(中央理化社製「2CH型DT504」)にて、試料溶液及び溶媒のみの落下秒数をそれぞれ測定し、下式により算出した。
IV=((1+4K・ηsp)0.5−1)/(2K・C)
ここで、ηsp=η/η0−1であり、ηは試料溶液の落下秒数、η0は溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。なお試料の溶解条件は、110℃で30分間である。
ポリエステル樹脂ペレットを剪断処理した後、結晶化処理を施す前の固有粘度IV0と、結晶化処理後の固有粘度IV1とを測定し、その差(IV1−IV0)を算出した。
【0038】
(3)透明性(ヘーズ)
ポリエステル樹脂ペレットを熱風乾燥機(エスペック社製「イナートオーブンIPHH−201」)中、130℃で5時間(ただし、非晶性樹脂の場合(実施例8,10、及び2で得られた樹脂)は60℃で5時間)乾燥し、樹脂水分率を100ppm以下とした後、射出成形機(名機製作所社製「M−70AII−DM」)を使用して射出圧力60MPa、成形温度260℃、金型温度40℃で、寸法80mm×120mm、厚み5mmの平板プレートを成形した。水分率の測定は三菱化学社製「VAPORIZER VA−06、MOISTUREMETER CA−06」を用い、カールフィッシャー水分測定法により求めた。その際の測定条件は、温度230℃、窒素流量200ml/minとした。電解液は陽極側:三菱化学社製「アクアミクロンAX」、陰極側:三菱化学社製「アクアミクロンCXU」を用いた。
得られたプレートについて、ヘーズメーター(日本電色社製「ヘーズメーター300A」)によりJIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に従ってヘーズ(曇価)を測定した。ヘーズが1.0%以下であると成形品として透明感が良好である。
【0039】
(4)明度(L)
ポリエステル樹脂ペレットを、内径36mm、深さ15mmの円柱状の粉体測色用セルに充填し、測色色差計(日本電色工業社製「ND−300A」)を用いて、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標軸L値を、反射法により測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
剪断処理前のペレットの明度L0と、剪断処理後のペレットの明度L1をそれぞれ測定し、その差ΔL(=L1−L0)を算出した。
【0040】
(5)密度
透明性(ヘーズ)の測定時の前処理と同様にして、ポリステル樹脂ペレットを熱風乾燥して樹脂水分率100ppm以下とした後、ペレット6〜7gを内径18.5mm、深さ39.5mmの円柱状のセルに充填し、島津製作所製「アキュビック1330密度測定装置、Micromeritics圧力制御装置及びREGULATORDR−611A−1温度制御装置」を用いて、23℃の雰囲気下で測定した。
【0041】
(6)表面粗さ(Ra)
ポリエステル樹脂ペレットの表面粗さはJIS B 0601−1994に記載されている方法にて求めた。測定には、表面粗度計(東京精密社製「サーフコム1800D」)を用い、20℃、50%の恒温恒湿室内で測定した。測定範囲を0.75mm、λcを0.25mmとし、測定値は2個のペレットについて、各ペレット2箇所ずつの計4箇所の平均値で求めた。
剪断処理前のRaをRa0、剪断処理後のRaをRa1としてそれぞれ測定し、その差(Ra1−Ra0)を算出した。
【0042】
(7)表面凹凸
ポリエステル樹脂ペレットの表面凹凸は以下のようにして測定した。
まず、ポリエステル樹脂ペレットを硬化性樹脂を用いて包埋処理した。硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂(JER社製「エピコート828」)、希釈剤(JER社製「RED205」)及び硬化剤(JER社製「エポメートB−002W」)を重量比80:20:50の割合で混合したものを用いた。続いて、ミクロトーム(大和光機工業社製「ミクロトームTU−213」)及びミクロトームナイフ(大和光機工業社製「ミクロトームナイフ17cmD」)を用いてペレット断面が露出するよう切片を切り出し、金属顕微鏡(ニコン社製「OPTIPHOT」)、顕微鏡写真撮影装置(ニコン社製「COOLPIXミクロシステムIV」)を用いて写真撮影して、ペレット表面の0.5mm当たりの最凸部と最凹部との差を測定した。測定値は同じペレットの5箇所の平均値で求めた。
【0043】
(8)ラマン分析
ポリエステル樹脂のラマンスペクトル測定は、レーザーラマン分光装置(日本分光社製「NRS−2100」)を用い、ペレットの表面部について以下の測定条件により1725cm−1付近のC=O伸縮振動ピークの半値幅を測定した。
<偏光顕微ラマン散乱測定条件>
Arレーザー:514.5nm線 90〜10mW
ミクロ光学系:対物レンズ×100
共焦点アパーチャー:25μm
【0044】
(9)樹脂のガラス転移温度及び融点
ポリエステル樹脂ペレットのガラス転移温度及び融点はJISK7121の方法に準じて昇温条件のみ変更して測定した。具体的には、ポリエステル樹脂ペレット7〜9mgをアルミニウム製固体用標準パンに封入し、メトラートレド社製示差走査熱量分析装置を用いて測定した。ブランクには空のパンを用い、窒素雰囲気下、30℃から昇温速度10℃/分で285℃まで昇温し、同温度で5分間保持した。その後20℃まで液体窒素雰囲気下で急冷し、再び20℃から285℃まで10℃/分で昇温し、ガラス転移温度としてTmg(中間点ガラス転移温度)、融点としてTpm(融解ピーク温度)をそれぞれ測定した。
【0045】
[ポリエステル樹脂の製造]
<イソフタル酸共重合ポリエステル樹脂の製造>
製造例1
ジカルボン酸成分として、テレフタル酸ジメチルエステル(144.6g、0.74モル)及びイソフタル酸(以下「IPA」と表す)ジメチルエステル(8.0g、0.04モル)と、ジオール成分としてEG(106.6g、1.72モル)とを、0.5Lの円筒型ガラス製容器に仕込み、エステル交換反応を行った。仕込みベースのイソフタル酸組成は5.2モル%、ジカルボン酸成分に対するジオール成分のモル比は2.2となる。エステル交換反応は、濃度1.98重量%の酢酸マンガンのEG溶液を、酢酸マンガンが得られるポリエステルに対して250重量ppmとなるように加え、250℃、200KPa、反応時間3時間の条件下で行った。エステル交換反応終了後、濃度0.52重量%の二酸化ゲルマニウムのEG溶液を、二酸化ゲルマニウムが得られるポリエステルに対して120重量ppmとなる量、及び、濃度1.50重量%の正燐酸のEG溶液を、正燐酸が得られるポリエステルに対して300重量ppmとなる量加え、280℃、66Paの減圧下にて5時間重縮合反応を行い、ストランド状に抜き出して、水冷しながらカッターで切断してペレット状とした。
得られた共重合ポリエステル樹脂に関し、共重合組成(モル%)、密度、ガラス転移温度、融点、固有粘度(IV0)、明度L0を測定した結果を表1に示した。
【0046】
製造例2〜4、9、10
製造例1において、ポリエステル樹脂のイソフタル酸共重合組成が表1に示す量となるようにイソフタル酸ジメチルエステルの仕込み量を表1に示すように変えた他は、製造例1と同様に共重合ポリエステル樹脂の製造を行った。各種測定結果を表1に示した。
【0047】
<1,4−シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエステル樹脂の製造>
製造例5
ジカルボン酸成分として、テレフタル酸ジメチルエステル(150.5g、0.76モル)と、ジオール成分としてEG(100.6g、1.62モル)及び1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下「CHDM」と表す)(7.1g、0.05モル)とを、0.5Lの円筒型ガラス製容器に仕込み、エステル交換反応を行った。仕込みベースのCHDM組成は6.5モル%、ジカルボン酸成分に対するジオール成分のモル比は2.2となる。エステル交換反応は、濃度2.24重量%の酢酸マンガンのEG溶液を、酢酸マンガンが得られるポリエステルに対して300重量ppmとなるように加え、250℃、200KPa、反応時間3時間の条件下で行った。エステル交換反応終了後、濃度0.53重量%の二酸化ゲルマニウムのEG溶液を、二酸化ゲルマニウムが得られるポリエステルに対して120重量ppmとなる量、及び、濃度0.73重量%の正燐酸のEG溶液を、正燐酸が得られるポリエステルに対して240重量ppmとなる量加え、280℃、66Paの減圧下にて5時間重縮合反応を行い、ストランド状に抜き出して、水冷しながらカッターで切断してペレット状とした。
得られた共重合ポリエステル樹脂に関し、共重合組成(モル%)、密度、ガラス転移温度、融点、固有粘度(IV0)、明度L0を測定した結果を表1に示した。
【0048】
製造例6〜8、11、12
製造例5において、ポリエステル樹脂のCHDMの共重合組成が表1に示す量となるようにCHDMの仕込み量を表1に示す量に変えた他は、製造例5と同様に共重合ポリエステル樹脂の製造を行った。各種測定結果を表1に示した。
【0049】
なお、製造例1から製造例12で得られた樹脂をそれぞれ樹脂1から樹脂12として表1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
[樹脂ペレットの処理と評価]
実施例1〜8
製造例1〜8で得られた樹脂1〜8について、以下の処理と評価を行った。
【0052】
<剪断処理>
得られた共重合ポリエステル樹脂ペレットを、ソリッドエアー(ホソカワミクロン社製 型式:SJS−4−1.5)にて、室温で、回転数100rpmの条件で1パス(滞留時間は20分と計算される)の剪断処理を行い、剪断処理の前後で共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度を測定した。剪断処理前のペレットの明度L0と、剪断処理後のペレットの明度L1との差(L1−L0)を表2に示した。
【0053】
<結晶化処理>
剪断処理を施した共重合ポリエステル樹脂ペレットを、以下に示すような方法で流動床にて結晶化処理を行った。結晶化処理後のペレットの密度、結晶化処理前後の固有粘度(IV0、IV1)を測定し、固有粘度差(IV1―IV0)を表2に示した。
【0054】
1.内径30mm、高さ350mm円筒状ガラス管にペレット10gを充填する。このガラス管には不活性ガスとして窒素ガスが通気できるよう、底部にノズル、上部から形外に放出されるようになっている。
2.窒素ガスはペレットが流動する状態で整流するよう、80〜90L/min(常温換算)の量でガラス管に供給する。
3.結晶化は、予め設定温度に昇温されたオイルバス中にペレットが充填密閉されたガラス管を浸漬させ、加熱した窒素ガスを通気しながら、処理温度150℃で60分間行う。
4.処理終了後、オイルバスからガラス管を抜き出し、常温まで放冷した後にガラス管からペレットを取り出し、固着率の判定とヘーズの評価を行う。
【0055】
<固着率の測定、ヘーズ評価>
上記の方法で結晶化処理を行ったペレットについて、下式(2)で固着率(φ)を求め、下記の固着評価の判定基準に従って評価した。
また、固着率が10%以下のペレットについて、成形後、ヘーズ測定を行った。固着率が10%を超える樹脂は成形困難なため、ヘーズ測定は行わなかった。結果を表2に示した。
固着率(φ)=固着物(*)の重量/全重量×100(%) (2)
(* 2個以上融着したペレットを固着物とする。)
固着評価の判定基準(各数値は固着率:%の値を示す)
◎:0≦φ<2.0
○:2.0≦φ<5.0
△:5.0≦φ≦10.0
×:10.0<φ
【0056】
比較例1〜4
実施例1において、製造例9〜12の樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の操作及び評価を行った。結果を表3に示す。樹脂9、11は固着防止効果は認められたものの、成形後のヘーズが高く、樹脂10、12は固着防止効果は認められなかった。
【0057】
比較例5〜12
実施例1〜8において、剪断処理を行わない以外は実施例1〜8と同様の操作及び評価を行なった。結果を表4に示す。
【0058】
比較例13〜18
実施例2〜4及び6〜8において、ソリッドエアーの条件を回転数40rpm(1パスの滞留時間は5分と計算される)とした以外は実施例2〜4及び6〜8と同様の操作及び評価を行なった。結果を表5に示す。
【0059】
比較例19〜26
実施例1〜8において、結晶化処理を、内径50mm、高さ100mm円筒状容器に剪断処理後のペレット100gを充填し、ペレットに77kPaの荷重がかかるように重しを載せ、固定床にて熱風乾燥機(エスペック社製「イナートオーブンIPHH−201」)中、窒素雰囲気下にて150℃で、6時間行う以外は実施例1〜8と同様の操作及び評価を行なった。結果を表6に示す。
【0060】
実施例9,10
実施例1及び5において、結晶化処理を170℃で行う以外は実施例1及び5と同様の操作及び評価を行なった。結果を表7に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
実施例11
実施例3において、剪断処理をサタケ製「精米機1PR−7B」に1パスで実施する以外は実施例3と同様の操作及び評価を行なった。また、ペレットの表面粗さ、表面凹凸、ラマン分光法による評価を行った。結果を表8に示す。
【0068】
実施例12
実施例3において、剪断処理におけるソリッドエアーの条件を回転数100rpm(1パスの滞留時間は10分と計算される)とした以外は実施例3と同様の操作を行なった。また、ペレットの表面粗さ、表面凹凸、ラマン分光法による評価を行った。結果を表8に示す。
【0069】
比較例27
実施例3において、剪断処理を、内壁に紙ヤスリ(永塚工業社製「#180紙ヤスリ」)を巻き付けたガラス管中に、ペレット20gを充填し、しんとう機(TAITEC社製「recipro shaker SR−25」)で300rpm、50分間処理することにより行った以外は実施例3と同様の操作及び評価を行なった。また、ペレットの表面粗さ、表面凹凸、ラマン分光法による評価を行った。結果を表8に示す。
【0070】
比較例28
実施例3において、剪断処理を、気力輸送による配管内壁にペレットを衝突させることにより行った以外は実施例3と同様の操作及び評価を行なった。また、ペレットの表面粗さ、表面凹凸、ラマン分光法による評価を行った。結果を表8に示す。
【0071】
【表8】

【0072】
以上の結果から、本発明によれば、結晶化処理、その後の乾燥処理などの熱処理工程において、樹脂ペレット同士の固着が低減された共重合ポリエステル樹脂ペレットを提供することができることが分かる。
特に、表8の結果から次のことが分かる。
【0073】
表8における表面粗さ(Ra)の評価は、特許第3061424号公報記載の方法に準拠するものである。
特許第3061424号公報では、剪断処理前後のペレットの表面粗さ(Ra)を評価しており、その差がRa1−Ra0≧0.2μmにおいて固着防止効果が見込めると記載されている。しかし、実施例11、12及び比較例27、28の結果から、その範囲内外において、Ra1−Ra0では固着性について説明できないことが分かった。即ち、例えば、Ra1−Ra0=0.17でも固着が防止され、Ra1−Ra0=0.2でも固着が起こる。これは、本発明で対象とするものが共重合ポリエステル樹脂であるためと考えられる。
【0074】
また、表8における剪断処理前後のペレットの表面凹凸高低差は、特許第2935132号公報の方法に準拠するものである。
特許第2935132号公報では、剪断処理後のペレットの表面凹凸高低差を評価しおり、その差が1〜50μmにおいて固着防止効果が見込めると記載されている。しかし、実施例11、12及び比較例27、28の結果から、その範囲内の表面凹凸高低差では固着性について説明できないことがわかった。即ち、例えば、この表面凹凸高低差が3.3μmでも固着が起こる。これは、本発明で対象とするものが共重合ポリエステル樹脂であるためと考えられる。
【0075】
更に、表8の剪断処理前後のペレット表面のラマン分光法での評価は、特許第3475709号公報の方法に準拠するものである。
特許第3475709号公報では、剪断処理前後のペレット表面をラマン分光法により評価しており、剪断処理後ではカルボニルピーク半値幅の値が減少するとしている。ところが、実施例11、12及び比較例27、28において、剪断処理前後の半値幅に変化は認められなかった。これは、本発明で対象とするものが共重合ポリエステル樹脂であるためと考えられる。
【0076】
これらのことから、共重合ポリエステル樹脂と共重合成分を含まないポリエステル樹脂とでは、物性ないし特性が大きく異なるため、通常のポリエステル樹脂における知見を共重合ポリエステル樹脂に当てはめることはできず、共重合ポリエステル樹脂には共重合ポリエステル樹脂独自の固着防止のための処理基準が必要であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明により製造される共重合ポリエステル樹脂は、熱処理工程でのペレット同士の固着が起こりにくく、生産性、取り扱い性に優れ、また、成形品に加工した後の透明性に優れており、波板やチューブなどの押出成形品、化粧品容器、ビールグラス、日用雑貨などの射出成形品用途に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主たる成分とするジオール成分とを反応させて共重合ポリエステル樹脂ペレットを得る反応工程と、得られた共重合ポリエステル樹脂ペレットに剪断処理を施す剪断処理工程と、剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットを、ペレットが流動した状態で該共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上融点未満の温度に加熱して結晶化処理を行う結晶化処理工程とを備える共重合ポリエステル樹脂の製造方法であって、下記a)、及びb)を満足することを特徴とする共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
a)得られる共重合ポリエステル中のテレフタル酸以外のジカルボン酸成分由来の残基と、エチレングリコール以外のジオール成分由来の残基との合計が、全ジカルボン酸成分由来の残基に対して5〜20モル%である。
b)剪断処理前の共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度L0と、剪断処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットの明度L1との差(L1−L0)が、下記式(1)を満足する。
0.3≦L1−L0≦10.0 (1)
【請求項2】
結晶化処理後の共重合ポリエステル樹脂ペレットの密度が1.340g/cm以上、1.400g/cm以下であり、かつ結晶化処理前の共重合ポリエステル樹脂の固有粘度IV0と、結晶化処理後の共重合ポリエステル樹脂の固有粘度IV1との差(IV1−IV0)が0dL/gを超え、0.01dL/g以下である請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
テレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分がイソフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を含む請求項1又は2に記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
エチレングリコール以外のジオール成分が1,4−シクロヘキサンジメタノールを含む請求項1乃至3の何れか1項に記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2009−1716(P2009−1716A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165240(P2007−165240)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】