説明

共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物

【課題】常温での柔軟性に優れ、脆さの問題が改善されており、接着性及び湿熱耐久性にも優れる共重合ポリエステル樹脂系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】酸成分として、芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とを含有し、グリコール成分として、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコール類とを含有し、酸成分中のダイマー酸の含有量が10〜50モル%であり、グリコール成分中の1,4-ブタンジオールの含有量が50モル%以上であり、グリコール成分中のポリブタジエングリコール類の含有量が0.5〜20モル%である共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物に関する。具体的には、酸成分としてダイマー酸を含有し、グリコール成分として1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコール類とを含有する共重合ポリエステル樹脂であって、柔軟性、接着性、湿熱耐久性等に優れた共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する)単位又はポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略称する)単位を主成分とし、脂肪族ジカルボン酸又は各種ジオールを共重合させた共重合ポリエステルが知られている。この共重合ポリエステルは、優れた耐熱性、耐候性、耐溶剤性、柔軟性等を有しているため、フィルム、繊維、シート、各種の成形品、接着剤として広く利用されている。
【0003】
しかしながら、上記の共重合ポリエステルは、高い柔軟性を必要とする用途に用いる場合、低温ないしは常温での柔軟性に欠けるため、脆い。このため、上記の共重合ポリエステルは、使用できる用途に限界がある。
【0004】
このような欠点を改善するために、ポリエステル樹脂にソフトセグメントを共重合する方法が提案されている。ポリエーテル化合物をソフトセグメントとするポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体は、樹脂のガラス転移点が低く、流動性が高く、分子量を低下させても樹脂に柔軟性がある。このため、電気・電子部品、自動車部品等に利用される成形材料等として広く利用されている。このようなポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体は、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
しかしながら、このポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体は、ハードセグメントのエステル結合により加水分解が起きやすい。さらに、ソフトセグメントであるポリエーテル化合物は高温に晒されたとき、酸化分解、熱分解等が起こりやすいことから、共重合体自身の湿熱耐久性に問題がある。
【0006】
特許文献2には、モールディング用に適したポリエステル樹脂及び樹脂組成物が記載されている。特許文献2に記載の樹脂は、電気・電子部品用のモールディング用途に適したものであり、防水性、耐久性、耐燃料性等に優れることが記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載されているような組成では、十分な柔軟性、湿熱耐久性、接着性等が得られない。このため、電気・電子部品等のモールディング用途に使用すると、その樹脂から得られる製品は、樹脂部分と内部の電気・電子部品等の剥離が生じたり、樹脂部分に亀裂が生じ、長期間使用することができないという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−3429号公報
【特許文献2】特開平2003−176341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
よって、本発明の主な目的は、常温での柔軟性に優れ、脆さの問題が改善されており、なおかつ、接着性及び湿熱耐久性にも優れるポリエステル系樹脂組成物を提供することにある。より詳細には、電気・電子部品等のホットメルトモールディング用途、ポッティング用途等に好適な共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の共重合ポリエステル樹脂を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物に係るものである。
1. 酸成分として、芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とを含有し、グリコール成分として、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコール類とを含有し、酸成分中のダイマー酸の含有量が10〜50モル%であり、グリコール成分中の1,4-ブタンジオールの含有量が50モル%以上であり、グリコール成分中のポリブタジエングリコール類の含有量が0.5〜20モル%である共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物。
2. 共重合ポリエステル樹脂中に、エステル形成性の官能基を2個以上有する有機リン化合物が共重合しており、当該樹脂中のリン原子含有量が500〜20000質量ppmである、前記項1に記載の樹脂組成物。
3. 20℃でのヤング率が100MPa以下である、前記項1に記載の樹脂組成物。
4. 20℃でのショアD硬度が50以下である、前記項1に記載の樹脂組成物。
5. 燃焼試験における酸素指数が27以上である、前記項1に記載の樹脂組成物。
6. 前記項1に記載の樹脂組成物を圧力5MPa以下で成形することによって樹脂成形品を得る工程を含む、樹脂成形品の製造方法。
7. 前記工程が、予め工業用部品が配置された金型内に請求項1に記載の樹脂組成物を射出注入することによって、工業用部品を含む樹脂成形品を得る工程である、前記項6に記載の方法。
8. 前記工程が、予め工業用部品が配置されたハウジング又は基板に請求項1に記載の樹脂組成物を注入又は滴下することによって、工業用部品を含む樹脂成形品を得る工程である、前記項6に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、特に、酸成分としてダイマー酸、グリコール成分としてポリブタジエングリコール類を特定量含有する共重合ポリエステル樹脂を主成分とするものであるため、常温での柔軟性に優れており、適度な硬さを有し、脆さの問題が改善されており、なおかつ、優れた接着性及び湿熱耐久性を発揮することができる。
このため、本発明の樹脂組成物は、例えばフィルム、繊維、シート、その他の各種の成形品として使用できるほか、接着剤等としても用いることができる。
また、本発明の樹脂組成物は、溶融時の流動性に優れ、低圧での射出成形が可能であるため、薄肉部位又は複雑な形状を有する成形品を溶融成形によって提供することが可能である。
さらに、本発明の樹脂組成物は、デリケートな電子部品等のインサート成型を行うホットメルトモールディング用途にも好適に用いることができる。また、ハウジング内又は基板上に部品を置き、これに樹脂を注型し、樹脂組成物を用いてハウジング又は基板と部品とを一体化させるポッティング用途にも好適に用いることができる。
そして、本発明の樹脂組成物は、湿熱耐久性にも優れていることから、上記のように電子部品をインサート成型して得られた電気・電子部品等は、過酷な環境で長期間使用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物
以下、本発明の共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物(本発明の樹脂組成物)について詳細に説明する。本発明の樹脂組成物の主成分となる共重合ポリエステル樹脂(本発明の共重合ポリエステル樹脂)は、共重合成分として、芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とを含有する酸成分と、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコールとを含有するグリコール成分とからなるものである。
【0014】
(1)共重合ポリエステル樹脂
(1−1)酸成分
まず、酸成分について説明する。芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のほか、これらの酸のエステル形成性誘導体を使用しても良い。これらは単独で使用しても良いし、これらを2種類以上併用しても良い。芳香族ジカルボン酸は、共重合ポリエステルの融点を上げ、耐熱性を付与するとともに機械的強度を上げることに寄与するものである。かかる見地より、本発明では、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸及びイソフタル酸の少なくとも1種が好ましい。
【0015】
酸成分中における芳香族ジカルボン酸の含有量は特に限定されないが、50〜90モル%であることが好ましく、特に60〜85モル%であることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸の含有量が50モル%未満になると、共重合ポリエステルの融点が低くなり、耐熱性に劣るとともに、機械的強度も低くなりやすい。一方、90モル%を超えると、ダイマー酸の割合が少なくなり、共重合ポリエステル樹脂の柔軟性が乏しくなりやすい。
【0016】
本発明におけるダイマー酸とは、例えば乾性油、半乾性油等から得られる精製植物脂肪酸等の不飽和脂肪酸を熱重合して得られる不飽和脂肪酸、又はそれを部分的もしくは完全に水素添加して得られる飽和脂肪酸をいう。これらダイマー酸は、不飽和脂肪酸の二量体又はその水素添加物を主体とするものであるが、三量体、四量体等も含む。これらは公知のもの又は市販品を使用することができる。市販品としては、例えば「プリポール」、「プライプラスト」(クローダ社製)、「エンポール」、「ソバモール」(コグニス社製)、「ユニダイム」(アリゾナケミカル社製)等を用いることができる。
【0017】
酸成分中におけるダイマー酸の含有量は、10〜50モル%であることが必要であり、特に15〜40モル%であることがより好ましい。ダイマー酸を共重合成分として含有することにより、得られる共重合ポリエステル樹脂が柔軟性に優れたものとなるとともに、湿熱耐久性も向上する。酸成分中のダイマー酸の含有量が10モル%未満であると、得られる共重合ポリエステル樹脂に柔軟性を付与することが困難となり、湿熱耐久性の向上効果も乏しくなる。一方、ダイマー酸の含有量が50モル%を超えると、得られる共重合ポリエステルの融点が低くなったり、非晶性となるため、耐熱性に劣るとともに、機械的強度も低くなりやすい。
【0018】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、酸成分中に上記したような芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とが含まれるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、これら以外の成分が共重合成分として含有されていても良い。このような他の成分としては、例えばコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸等が挙げられる。
【0019】
(1−2)グリコール成分
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分として、1,4−ブタンジオールを含有するものである。グリコール成分中の1,4−ブタンジオールの含有量は、50モル%以上であることが必要であり、特に60〜98モル%であることがより好ましく、さらには80〜98モル%であることが最も好ましい。グリコール成分として、1,4−ブタンジオールを50モル%以上含有することにより、得られる共重合ポリエステル樹脂は、融点が高くなり、耐熱性に優れるとともに、成形性も向上する。特に成形させる用途に用いる場合には、80〜98モル%とすることが好ましい。1,4−ブタンジオール以外のジオールを使用しても所望の効果を得ることは困難である。例えば、1,4−ブタンジオールに代えて、1,2−エチレングリコールを用いると、得られる共重合ポリエステル樹脂は、結晶化速度が遅くなり成形性が悪いものとなる。また、1,4−ブタンジオールに代えて、1,6−ヘキサンジオールを用いると、得られる共重合ポリエステルは、融点が低くなり、耐熱性に劣るものとなる。
【0020】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂のグリコール成分中には、ポリブタジエングリコール類が含有されている。グリコール成分中のポリブタジエングリコール類の含有量は、0.5〜20モル%であることが必要であり、特に2〜18モル%であることがより好ましく、さらには3〜16モル%であることが最も好ましい。
【0021】
グリコール成分中にポリブタジエングリコール類が含有されていることにより、得られる共重合ポリエステル樹脂に優れた柔軟性及び湿熱耐久性を付与することができる。ポリブタジエングリコール類の割合が0.5モル%未満であると、得られる共重合ポリエステル樹脂を柔軟性及び湿熱耐久性に優れたものとすることが困難となる。一方、ポリブタジエングリコール類の割合が20モル%を超えると、得られる共重合ポリエステルの融点が低くなり、耐熱性に劣るとともに、機械的強度も低くなりやすい。
【0022】
ポリブタジエングリコール類は、平均分子量が350〜6000であることが好ましく、特に500〜4500であることがより好ましい。ポリブタジエングリコール類の平均分子量が6000を超えると、相溶性が悪くなり、共重合することが困難となりやすい。一方、分子量が350未満では、得られる共重合ポリエステル樹脂の柔軟性を向上させることが困難となりやすい。
【0023】
ポリブタジエングリコール類としては、1,2−ポリブタジエングリコール、1,4−ポリブタジエングリコール等のほか、これらを水素還元して得られる水素添加型ポリブタジエングリコールが使用できる。より具体的には、例えばブタジエンをアニオン重合により重合し、末端処理により両末端に水酸基又は水酸基を有する基を導入して得られるジオール、これらの二重結合を水素還元して得られるジオール(水素添加型ポリブタジエングリコール)等が挙げられる。
【0024】
ポリブタジエングリコール類は、公知のもの又は市販品を使用することができる。具体的には、1,4−繰り返し単位を主に有する水酸基化ポリブタジエン(例えば、出光興産社製、「Poly bd R−45HT」、「Poly bd R−15HT」)、1,2−繰り返し単位を主に有する水酸基化ポリブタジエン(例えば、日本曹達社製「G−1000」、「G−2000」、「G−3000」)、水酸基化水素化ポリブタジエン(例えば、日本曹達社製「GI−1000」、「GI−2000」、「GI−3000」)等が挙げられる。
【0025】
本発明におけるポリブタジエングリコール類としては、水素添加型ポリブタジエングリコールが好ましい。水素添加型ポリブタジエングリコールは、重縮合反応中に副反応が生じにくいため、より優れた柔軟性、湿熱耐久性等をもつ共重合ポリエステル樹脂を得ることが可能となる。
【0026】
本発明の共重合ポリエステル樹脂中には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、グリコール成分(共重合成分)として、1,4−ブタンジオール及びポリブタジエングリコール類以外の成分が含有されていても良い。このような他の成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物およびプロピレンオキシド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の少なくとも1種が挙げられる。
【0027】
(1−3)難燃化成分
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂に難燃性能を付与するためには、難燃化成分としてエステル形成性の官能基を2個以上有する有機リン化合物が共重合しており、共重合ポリエステル樹脂中のリン原子含有量が500〜20000質量ppmであることが好ましい。
【0028】
本発明において、エステル形成性の官能基としては、例えばカルボキシル基、ヒドロキシル基等が挙げられる。有機リン化合物がエステル形成性の官能基を有しない場合には、ポリエステル鎖に共重合されないため、重縮合時に飛散しやすく、十分な難燃性を発現することができないおそれがある。エステル形成性の官能基が1個の場合には重縮合反応が阻害されて重合度が上がらず、好ましくない。このため、エステル形成性の官能基は2個以上必要であり、中でも2〜3個であることが好ましい。
【0029】
また、共重合ポリエステル樹脂中のリン原子含有量は500〜20000質量ppmであるが、特に2000〜18000質量ppmであることがより好ましい。リン原子含有量が500質量ppm未満では、共重合ポリエステル樹脂の難燃性能が不十分となり、高い難燃性能が要求される用途に用いることが困難となるおそれがある。一方、20000質量ppmを超えると、共重合ポリエステル樹脂の融点が低くなったり、非晶性となるため、耐熱性に劣るものとなるおそれがある。
【0030】
エステル形成性の官能基を2個以上有する有機リン化合物としては、重縮合反応の反応性、有機リン化合物の残存率等の点から、下記の式(1)で示される化合物が好ましい。
【化1】

ただし、Rは炭素数1〜12のアルキル基又はアリール基を示し、Rは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基あるいはRを介した環状体又は水素原子を示し、Rは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基又は水素原子を示し、Aは2価以上の炭化水素基を表す。また、nは、Aの価数から1を引いた数を表す。
【0031】
上記の式(1)で示される有機リン化合物における好ましい具体例としては、次のような構造式(a)〜(d)のものが挙げられる。
【化2】

【0032】
(2)共重合ポリエステル系樹脂組成物
(2−1)樹脂組成物の組成
本発明の樹脂組成物は、前記の共重合ポリエステル樹脂を含有するものである。共重合ポリエステル樹脂の含有量は、例えば共重合ポリエステル樹脂の種類、所定の用途等に応じて適宜設定することができるが、一般的には樹脂組成物中30〜100質量%、特に50〜100質量%、さらには70〜100質量%とすることが好ましい。すなわち、本発明の樹脂組成物は、共重合ポリエステル樹脂100質量%の場合のほか、共重合ポリエステル樹脂と他の成分とを含む場合も包含する。共重合ポリエステル樹脂の含有量が100質量%未満である場合は、下記に示すような添加剤、樹脂成分等が含まれていても良い。
【0033】
添加剤としては、例えば顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、結晶核剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの添加剤等を用いて、本発明の共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物を調製することができる。
【0034】
上記のように、本発明の共重合ポリエステル樹脂においては、難燃性を付与するために、特定の有機リン化合物が共重合していることが好ましいが、本発明の樹脂組成物において、難燃性を付与するためには、以下に示すような難燃剤を含有していても良い。このような難燃剤としては、例えばリン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等)、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、Mo化合物等)が挙げられる。中でも芳香族縮合リン酸エステル化合物、臭素化芳香族化合物、酸化アンチモン化合物等の少なくとも1種が好ましい。臭素化芳香族化合物と酸化アンチモン化合物を用いる場合は、両化合物を併用することが好ましい。そして、臭素化芳香族化合物としては、例えば臭素化エポキシ樹脂が好ましく、酸化アンチモン化合物としては、例えば三酸化アンチモン(Sb)が好ましい。なお、これらの難燃剤の含有量は、共重合ポリエステル樹脂100質量部に対して、2〜30質量部とすることが好ましい。
【0035】
また、例えば各種の電子部品で発生する熱を効果的に外部へ放散させる熱対策も重要な課題になっており、このような課題を解決するためには、本発明の共重合ポリエステル樹脂に熱伝導性を付与することが好ましい。具体的には、熱伝導性の充填剤を本発明の共重合ポリエステル樹脂に添加することが好ましい。
【0036】
熱伝導性の充填剤としては、鱗片状黒鉛、六方晶系結晶構造を有する鱗片状窒化ホウ素、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、タルク等が例示される。なお、これらの充填剤の含有量は特に限定されないが、共重合ポリエステル樹脂100容量部に対して、50〜150容量部とすることが好ましく、特に60〜120容量部とすることがより好ましい。
【0037】
熱安定剤又は酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0038】
なお、本発明の樹脂組成物に上記したような添加剤を含有させる方法は特に限定されない。
【0039】
また、本発明の樹脂組成物では、その効果を損なわない範囲において、本発明の共重合ポリエステル樹脂以外の樹脂成分が含まれていても良い。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、およびそれらの共重合体等の樹脂を添加して用いても良い。
【0040】
(2−2)樹脂組成物の用途・特性
本発明の樹脂組成物は、公知の樹脂組成物と同様の成形方法を適用することができるが、特に比較的低圧での射出成形に好適に利用することができる。具体的には、圧力0.1〜5MPa、特に0.1〜3MPaでの成形に最適である。この場合の温度(溶融温度)は、樹脂成分の種類等によって異なるが、一般的には180〜240℃程度とすれば良い。従って、本発明の樹脂組成物は、ホットメルトモールディング法又はポッティング法に好適である。
【0041】
本発明でいうホットメルトモールディング法とは、溶剤を用いることなく、樹脂組成物を溶融し、予め工業用部品(特に電子部品)(以下「部品」ともいう。)が配置された金型内に、溶融した樹脂組成物を低圧(好ましくは0.1〜3MPa)で射出注入し、前記部品のハウジング又はケースとして樹脂組成物を成形(いわゆるインサート成形)を行う方法をいう。すなわち、本発明は、予め工業用部品が配置された金型内に本発明の樹脂組成物を射出注入することによって、工業用部品を含む樹脂成形品を得る工程を含む樹脂成形品の製造方法を包含する。
【0042】
本発明におけるポッティング法とは、予めハウジング内又は基板上に部品を置き、これに溶融した樹脂組成物を低圧(好ましくは1MPa以下)で注入又は滴下し、前記ハウジング又は基板と部品とを一体化させる方法をいう。すなわち、本発明は、予め工業用部品が配置されたハウジング又は基板に本発明の樹脂組成物を注入又は滴下することによって、工業用部品を含む樹脂成形品を得る工程を含む樹脂成形品の製造方法を包含する。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、柔軟性、接着性、湿熱耐久性等に優れることから、ホットメルトモールディング用途又はポッティング用途に用いると、成形加工性が良好であるのみならず、得られる製品(部品)は、インサートする電子部品と樹脂との接着に優れるものとなる。しかも、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、柔軟性、湿熱耐久性等に優れる。このため、樹脂と電子部品との剥離が生じにくい。特に、過酷な環境で長期間使用をしても、樹脂と電子部品との剥離が生じず、樹脂部分にひびや割れも生じにくいものとなる。
【0044】
さらに、上記したように本発明の樹脂組成物が特定の有機リン化合物や他の難燃剤により難燃性が付与されている場合は、難燃性が要求される用途においても好適に用いることが可能となる。
【0045】
本発明の樹脂組成物(樹脂組成物からなる成形体)は、上記したように、酸成分にダイマー酸、グリコール成分にポリブタジエングリコールを特定量含有する共重合ポリエステル樹脂を含有するので柔軟性に優れている。ここに、柔軟性を示す指標として、20℃でのヤング率が100MPa以下であることが好ましく、中でも60MPa以下であることが好ましい。
【0046】
ヤング率は、本発明の樹脂組成物を融点よりも50℃高い温度で溶融し、日精樹脂工業社製の射出成型機「PS20E2ASE」を用いて、前記溶融物を圧力1MPaで射出成形することにより、厚み1mm、幅3mmの成型サンプルを作成し、そのサンプルについて引張試験機「テンシロン」(オリエンテック社製UTM−4−100型)を用い、20℃にて引張速度10mm/minで測定するものである。
【0047】
そして、本発明の樹脂組成物(樹脂組成物からなる成形体)は、上記のような組成とすることにより優れた柔軟性が得られると同時に、適度な硬さを有し、脆さが改良されたものである。このような適度な硬さを有し、脆さが改良されていることを示す指標として、20℃でのショアD硬度が50以下であることが好ましく、中でも45以下であることが好ましい。
【0048】
ショアD硬度は、本発明の樹脂組成物を融点よりも50℃高い温度で溶融し、日精樹脂工業社製の射出成型機「PS20E2ASE」を用いて、前記溶融物を圧力1MPaで射出成形し、厚み3mm、幅20mmの成型サンプルを作成し、このサンプルを2枚重ね合わせ、20℃にてショアD硬度計(WESTOP WR−105D)を用い測定するものである。なお、このとき、ショアD硬度計での測定は、押付荷重50Nにて、1秒以内に、ピークの値を読み取り、測定回数10回の平均値を算出するものとする。
【0049】
20℃でのヤング率が100MPaを超えると、本発明の樹脂組成物は柔軟性に乏しいものとなりやすい。20℃でのショアD硬度が50を超えると、本発明の樹脂組成物は、硬さが不十分で脆いものとなり、多種多様な用途に用いることが困難となりやすい。
【0050】
本発明の共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物(樹脂組成物からなる成形体)は、柔軟性に優れるとともに、適度な硬さを有し、脆さが改良されたものとなるが、20℃でのヤング率と20℃でのショアD硬度ともに、上記範囲内のものであることが好ましい。
【0051】
さらに、本発明の樹脂組成物は、上記のような組成とすることで湿熱耐久性に優れる。湿熱耐久性を示す指標として、下記に示すひずみ保持率が80%以上であることが好ましく、中でも85%以上であることが好ましく、さらには90%以上であることが好ましい。ひずみ保持率が80%未満では、湿熱処理により樹脂の強度低下が大きいものとなり、このような樹脂組成物を使用した成形体は形状安定性に劣るものとなる。つまり、湿熱耐久性に劣るものとなる。
【0052】
なお、本発明におけるひずみ保持率は、以下のようにして算出する。本発明の樹脂組成物を融点よりも50℃高い温度で溶融し、日精樹脂工業社製の射出成型機「PS20E2ASE」を用いて、前記溶融物を圧力1MPaで金型内に射出成形し、厚み1mm、幅3mmの成型サンプルを作成し、ISO規格527−2に記載の方法に従い、引張破壊ひずみを測定する(処理前の引張破壊ひずみ)。恒温恒湿器(ヤマト科学社製IG400型)を用い、得られた成型サンプルを温度60℃湿度95%RHの環境下に200時間保存処理し、湿熱処理を施す。湿熱処理後のサンプルを上記と同様にして引張破壊ひずみを測定し、下記式により算出する。
ひずみ保持率(%)=〔(処理後の引張破壊ひずみ)/(処理前の引張破壊ひずみ)〕×100
【0053】
そして、本発明の樹脂組成物が特定の有機リン化合又は他の難燃剤により難燃性が付与されている場合は、本発明の樹脂組成物は、難燃性を示す指標として、JIS K7201に記載の燃焼試験において、酸素指数(以下、OIと略す)が27以上であることが好ましく、28以上であることがさらに好ましい。OI値が27未満では、難燃性が不十分であり、電気・電子部品用途に適していないため、好ましくない。
【0054】
本発明の樹脂組成物は、耐熱性にも優れる。具体的には、本発明の共重合ポリエステル樹脂及び樹脂組成物の融点は115〜180℃であることが好ましく、130〜170℃であることがより好ましい。融点が115℃未満では耐熱性に乏しく、用いる用途が限定されるおそれがある。一方、180℃を超えると成型時の加工温度を高くする必要があり、コスト的に不利になると同時に、樹脂の熱劣化も大きくなる場合がある。
なお、融点は、パーキンエルマー社製ダイヤモンドDSCを使用し、10℃/分で昇温、降温し、融解ピークの温度で測定するものである。
【0055】
また、本発明の樹脂組成物は接着性に優れるものであり、各種の樹脂、電気電子部品等を構成する金属との接着性にも優れる。中でも、PET、PBT又はポリフェニレンサルファイドとの接着性に優れている。
【0056】
さらに、本発明の樹脂組成物は、200℃での溶融粘度が1Pa・s〜300Pa・sであることが好ましく、3〜150Pa・sであることがより好ましい。溶融粘度がこの範囲内であることにより、低圧での成形加工が可能となり、ホットメルトモールディング用途又はポッティング用途に好適なものとなる。溶融粘度が300Pa・sを超えると、流動性が低くなり、低圧での成形が困難となるおそれがある。また溶融粘度を低下させるために溶融温度を高くすると、装置への負荷が大きくなるほか、共重合ポリエステル樹脂の熱劣化も顕著なものとなる。一方、溶融粘度が1Pa・s未満であると、共重合ポリエステル樹脂組成物(樹脂成形品)の強度が低くなりやすい。
【0057】
なお、溶融粘度は、フローテスター(島津製作所製、型式CFT−500)にて、ノズル径1.0mm、ノズル長10mmのノズルを用い、剪断速度1000sec−1の時の溶融粘度を測定するものである。
【0058】
2.共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物の製造方法
まず、本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。共重合ポリエステル樹脂の製造方法としては、前記の各成分を用いて共重合させることができる限り、特に制限されない。従って、前記の各成分を所定割合で用いるほかは、公知の共重合ポリエステル樹脂の製造条件と同様の条件を採用することもできる。
【0059】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法として、例えば、上記の酸成分とグリコール成分を150〜250℃でエステル化反応させた後、重縮合反応触媒の存在下で減圧しながら(好ましくは大気圧から10〜30Pa程度まで減圧しながら)230〜300℃で重縮合することにより、本発明の共重合ポリエステル樹脂を得ることができる。また例えば、芳香族ジカルボン酸のジメチルエステル等の誘導体とグリコール成分を150℃〜250℃でエステル交換反応させた後、重縮合反応触媒の存在下で減圧しながら(好ましくは大気圧から10〜30Pa程度まで減圧しながら230℃〜300℃で重縮合することにより、本発明の共重合ポリエステル樹脂を得ることができる。
【0060】
また、有機リン化合物を共重合する場合は、上記の酸成分及びジオール成分に加えて、エステル形成性の官能基を2個以上有する有機リン化合物を添加し、上記と同様な条件で、エステル化反応又はエステル交換反応後、重縮合を行うことにより、該有機リン化合物が共重合された本発明の共重合ポリエステル樹脂を得ることができる。
【0061】
上記で得られた共重合ポリエステル樹脂に対し、必要に応じて添加剤、他の樹脂成分等(以下「添加剤等」という。)を均一に混合することによって樹脂組成物を得ることができる。共重合ポリエステルに添加剤、他の樹脂成分等(以下「添加剤等」という。)を添加する方法としては、例えば1)スクリュー型押出機を用い、共重合ポリエステル樹脂と添加剤等を同時に添加し、溶融・混練してペレット化する一括ブレンド方法、2)共重合ポリエステル樹脂を溶融・混練した後、押出機の他の供給口から添加剤等を供給し、溶融・混練してペレット化する分割ブレンド方法等のいずれを採用しても良い。
【0062】
本発明の樹脂組成物は、ホットメルトモールディング法及びポッティング法に好適であるが、公知のポリエステル系樹脂組成物と同様に様々な形態で使用することができる。例えばフィルム、繊維、シート等の各種の成形品として使用できるほか、接着剤等として用いることも可能である。特に、フィルム、繊維等を得る際には、公知の方法、装置等を用いて製造することができる。また、シート又は成形体を得る際には、例えば射出成形、ブロー成形、押出成形等の公知の成形方法により成型することができる。また、接着剤として使用する場合には、例えばシート状等所望の形に成形した後、熱処理を施すことにより、接着剤としての使用が可能となる。
【実施例】
【0063】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0064】
なお、実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は、次の通りである。
(1)融点、溶融粘度
上記と同様の方法で測定した。
(2)ポリマー組成
得られた共重合ポリエステル樹脂を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(3)共重合ポリエステル樹脂中のリン原子の含有量
リガク社製蛍光X線スペクトロメータ3270型にて測定した。
(4)ショアD硬度、ヤング率
上記と同様の方法で測定した。
(5)引張破壊ひずみ、ひずみ保持率(湿熱耐久性)
上記と同様の方法で測定した。
(6)引張強度
(5)の測定において得られた成型サンプルと同様のものを用い、引張試験機「テンシロン」(オリエンテック社製UTM−4−100型)を用いて、20℃にて引張速度10mm/分で測定するものである。
(7)接着性
得られた共重合ポリエステル樹脂(又は樹脂組成物)を厚さ50μmのシート状とし、厚さ100μmのポリフェニレンサルファイドのシートの間にはさんで、融点よりも50℃高い温度、圧力0.2MPaで、30秒間熱処理し、幅15mm、長さ100mmのサンプルを作製した。サンプルを、引張試験機「テンシロン」(オリエンテック社製UTM−4−100型)を用い、JIS K−6854に従って、剥離速度50mm/分で剥離を行った。接着性を以下の3段階で評価した。
○・・・剥離強度が10N/15mm以上
△・・・剥離強度が10N/15mm未満〜5N/15mm以上
×・・・剥離強度が5N/15mm未満
(8)成形性1(ホットメルトモールディング)
得られた共重合ポリエステル樹脂(又は樹脂組成物)を融点よりも50℃高い温度で溶融し、日精樹脂工業社製「PS20E2ASE」を用い、圧力1MPaにて射出成形を行った。このとき、被モールディング材料として塩化ビニル製のリード線2本をハンダ付けした回路基板を用い、アルミニウム製金型を用いてインサート成型することで、共重合ポリエステル樹脂(又は樹脂組成物)と回路基板が一体化された電気部品を得た。
部品を得る際の成形性を、金型から離型可能となる時間(離型時間)にて以下の3段階で評価した。
○・・・離型時間が10秒以内であった。
△・・・離型時間が10秒を超え20秒以内であった。
×・・・離型時間が20秒を超えていた。

上記の成形性が○の部品について、部品を得た際(処理前)、部品を80℃、95%の環境下で500時間放置した後(湿熱処理後)の両方の場合において、回路基板内の絶縁特性について以下のように評価した。
○・・・絶縁性が保持されている。
×・・・絶縁性が破られている。
なお、回路基板において、2本のリード線のハンダ付けした箇所(2箇所)はつながっていない。したがって、通常ではリード線間で電気は流れない(絶縁性が保たれている)。湿熱処理後、樹脂と回路基板の間に水が入り込むと、水が導体となってリード線間に電流が流れる(絶縁性が破られる)こととなる。
(9)成形性2(ポッティング)
得られた共重合ポリエステル樹脂(又は樹脂組成物)を融点よりも50℃高い温度で溶融した。そして、ハウジング(容器型のもの)内に成形性1で使用したものと同じ回路基板を置き、これに溶融した共重合ポリエステル樹脂(又は樹脂組成物)を圧力0.5MPaにて注入し、ハウジングと樹脂と回路基板を一体化させて電気部品を得た。
部品を得る際の成形性を目視にて以下の3段階で評価した。
○・・・樹脂が部品全体に流れ込んでおり、表面に凹凸が見られない。
△・・・樹脂が部品全体に流れこんでいるが、形状に凹凸が見られる。
×・・・樹脂の流れこみが不十分で、回路基板の一部が露出している。
上記の成形性が○の部品について、部品を得た際(処理前)、部品を80℃、95%の環境下で500時間放置した後(湿熱処理後)の両方の場合において、回路基板内の絶縁特性について以下のように評価した。
○・・・絶縁性が保持されている。
×・・・絶縁性が破られている。
なお、回路基板において、2本のリード線のハンダ付けした箇所(2箇所)はつながっていない。従って、通常ではリード線間で電気は流れない(絶縁性が保たれている)。湿熱処理後、樹脂と回路基板の間に水が入り込むと、水が導体となってリード線間に電流が流れる(絶縁性が破られる)こととなる。
(10)酸素指数(OI)
JIS K7201に記載の燃焼試験を行い、OIを求めた。27以上を合格とした。
(11)熱伝導率
熱伝導率λは、熱拡散率α、密度ρ、比熱Cpを下記方法により求め、その積として次式で算出した。
λ=αρCp
λ:熱伝導率(W/(m・K))
α:熱拡散率(m/sec)
ρ:密度(g/m
Cp:比熱(J/(g・K))
熱拡散率αは、得られた共重合ポリエステル樹脂系樹脂組成物を射出成形機にて直径30mmの円板状に成形し、得られた成形品から所定のサイズに切り出した試料について、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置TC−7000(アルバック理工社製)を用い、レーザーフラッシュ法にて測定した。密度ρは、電子比重計ED−120T(ミラージュ貿易社製)を用いて測定した。比熱Cpは、示差走査熱量計DSC−7(パーキンエルマー社製)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0065】
実施例1−1
酸成分として、テレフタル酸60質量部、イソフタル酸9質量部、炭素数36の水素添加ダイマー酸(クローダージャパン社製、Pripol 1009)60質量部、ジオール成分として、1,4−ブタンジオール58質量部、ポリブタジエングリコール(1,2−繰り返し単位を主に有する水酸基化水素化ポリブタジエン;日本曹達社製、「GI−1000」)78質量部を用い、240℃に加熱して、エステル化反応を行った。次に、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.1質量部を添加し、温度240℃にて60分間で徐々に真空度を上げながら10〜30Paの高真空までもっていき、その後4時間重縮合反応を行い、表1に示す組成を有する共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0066】
実施例1−2〜1−8、比較例1−1〜2、1−4〜1−6
テレフタル酸、イソフタル酸、水素添加ダイマー酸、1,4−ブタンジオール、ポリブタジエングリコールの種類や添加量を変更し、表1に示す組成(含有量)となるようにした以外は、実施例1−1と同様に行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。なお、実施例1−7では、ポリブタジエングリコールとして、日本曹達社製「GI−2000」(1,2−繰り返し単位を主に有する水酸基化水素化ポリブタジエン)を使用した。また、実施例1−8では、ダイマー酸として、炭素数36のダイマー酸(クローダージャパン社製、Pripol
1013)を使用した。
【0067】
実施例1−9
グリコール成分として、1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールを用い、表1に示す組成(含有量)となるようにした以外は、実施例1−1と同様に行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0068】
比較例1−3
グリコール成分として、1,6−ヘキサンジオールのみを用い、表1に示す組成(含有量)となるようにした以外は、実施例1−1と同様に行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0069】
実施例1−1〜1−9、比較例1−1〜1−6で得られた共重合ポリエステル樹脂の組成、特性値、評価結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から明らかなように、実施例1−1〜1−9で得られた共重合ポリエステル樹脂は、本発明を満足する組成のものであったため、20℃でのヤング率が55MPa以下、20℃でのショアD硬度が45以下であり、柔軟性に優れ、かつ適度な硬さを有しており、脆さが改良されたものであった。そして、接着性に優れており、さらに、引張破壊ひずみの値、保持率ともに高く、強度に優れるとともに湿熱耐久性にも優れていた。中でも、実施例1−1〜1−8で得られた共重合ポリエステル樹脂は、ホットメルトモールディング又はポッティングで成形品を得た際の成形性に優れており、得られた成形品は成形時、湿熱処理後の両方において十分な絶縁特性を有していた。つまり、両方法で得られた成形品は、樹脂と部品との接着性が良好であり、過酷な環境下においても長期間使用が可能なものであった。
【0072】
一方、比較例1−1で得られた共重合ポリエステル樹脂は、酸成分中のダイマー酸の含有量が少ないものであったため、ショアD硬度、ヤング率が高く、柔軟性に劣るものであり、接着性にも劣るものであった。さらに、ひずみ保持率が低く、湿熱耐久性に劣るものであったため、得られた成形品の湿熱処理後のものは、絶縁特性を有していなかった。
【0073】
比較例1−2で得られた共重合ポリエステル樹脂は、酸成分中のダイマー酸の含有量が多く、芳香族ジカルボン酸の含有量が少ないものであったため、融点が測定できず(非晶性のものとなり)、耐熱性に劣るとともに成形性に劣るものであった。また、引張強度も劣るものであった。
【0074】
比較例1−3で得られた共重合ポリエステル樹脂は、ジオール成分として1,4-ブタンジオールを含有せず、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするものであったため、融点が低く、耐熱性に劣るとともに成形性にも劣るものであった。
【0075】
比較例1−4で得られた共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分として、ポリブタジエングリコールを含有しなかったため、比較例1−5で得られた共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分としてポリブタジエングリコールの含有量が少なかったため、ともにヤング率、ショアD硬度が高く、柔軟性に劣るものであり、接着性にも劣るものであった。さらに、ひずみ保持率が低く湿熱耐久性に劣るものであったため、得られた成形品の湿熱処理後のものは、絶縁特性を有していなかった。
【0076】
比較例1−6で得られた共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分のポリブタジエングリコールの含有量が多すぎたため、融点が低く、耐熱性に劣るとともに成形性に劣るものであった。また、引張強度も劣るものであった。
【0077】
実施例2−1
有機リン化合物として、前記した構造式(a)で示される有機リン化合物を用いた。まず、酸成分として、テレフタル酸58質量部、イソフタル酸7質量部、炭素数36の水素添加ダイマー酸(クローダージャパン社製、Pripol
1009)73質量部、ジオール成分として、1,4−ブタンジオール60質量部、ポリブタジエングリコール(1,2−繰り返し単位を主に有する水酸基化水素化ポリブタジエン;日本曹達社製、「GI−1000」)57質量部、また、有機リン化合物(a)9質量部を用い、240℃に加熱して、エステル化反応を行った。次に、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.1質量部を添加し、温度240℃にて60分間で徐々に真空度を上げながら最終的に0.4hPaの高真空までもっていき、その後4時間重縮合反応を行い、表2に示す組成の共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0078】
実施例2−2〜2−9、比較例2−1〜2−2、2−4〜2−8
テレフタル酸、イソフタル酸、水素添加ダイマー酸、1,4−ブタンジオール、ポリブタジエングリコール、有機リン化合物の種類及び添加量を変更し、表2に示す組成(含有量)となるようにした以外は、実施例2−1と同様に行い、共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0079】
実施例2−10
グリコール成分として、1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールを用い、表2に示す組成(含有量)となるようにした以外は、実施例2−1と同様に行い、共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0080】
比較例2−3
グリコール成分として、1,6−ヘキサンジオールのみを用い、表2に示す組成(含有量)となるようにした以外は、実施例2−1と同様に行い、共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0081】
比較例2−9
有機リン化合物として、下記の構造式(x)で示される有機リン化合物を用いた以外は実施例2−1と同様にして、共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【化3】

【0082】
実施例2−1〜2−10、比較例2−1〜2−9で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物の組成、特性値、評価結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2から明らかなように、実施例2−1〜2−10で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、本発明を満足する組成のものであったため、柔軟性に優れ、かつ適度な硬さを有しており、脆さが改良されたものであった。そして、接着性に優れており、さらに、引張破壊ひずみの値、保持率ともに高く、強度に優れるとともに湿熱耐久性にも優れていた。さらに、OI値が28以上であり、十分な難燃性も有していた。中でも実施例2−1〜2−9で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、ホットメルトモールディング又はポッティングで成形品を得た際の成形性に優れており、得られた成形品は成形時、湿熱処理後の両方において十分な絶縁特性を有していた。つまり、両方法で得られた成形品は、樹脂と部品との接着性が良好であり、過酷な環境下においても長期間使用が可能なものであった。
【0085】
一方、比較例2−1で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、酸成分中のダイマー酸の含有量が少ないものであったため、ショアD硬度、ヤング率が高く柔軟性に劣るものであり、接着性にも劣るものであった。さらに、ひずみ保持率が低く、湿熱耐久性に劣るものであったため、得られた成形品の湿熱処理後のものは、絶縁特性を有していなかった。
【0086】
比較例2−2で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、酸成分中のダイマー酸の含有量が多く、芳香族ジカルボン酸成分の含有量が少ないものであったため、融点が測定できず、耐熱性に劣るとともに成形性に劣るものであった。また、引張強度も劣るものであった。
【0087】
比較例2−3で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、ジオール成分として1,4-ブタンジオールを含有せず、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするものであったため、融点が低く、耐熱性に劣るとともに成形性にも劣るものであった。
【0088】
比較例2−4で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、グリコール成分として、ポリブタジエングリコールを含有しなかったため、比較例2−5で得られた共重合ポリエステル樹脂系樹脂組成物は、グリコール成分としてポリブタジエングリコールの含有量が少なかったため、ともにショアD硬度、ヤング率が高く柔軟性に劣るものであり、接着性にも劣るものであった。さらに、ひずみ保持率が低く、湿熱耐久性に劣るものであったため、得られた成形品の湿熱処理後のものは、絶縁特性を有していなかった。
【0089】
比較例2−6で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、グリコール成分のポリブタジエングリコールの含有量が多すぎたため、融点が低くなり、耐熱性に劣るとともに成形性に劣るものであった。また、引張強度も劣るものであった。
【0090】
比較例2−7で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、有機リン化合物が含有されていなかったため、OI値が低く、難燃性に乏しいものであった。
【0091】
比較例2−8で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、有機リン化合物の含有量が多すぎたため、非晶性のものとなり(融点は測定できなかった)、耐熱性に劣るものであり、成形性にも劣るものであった。
【0092】
比較例2−9で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、有機リン化合物がエステル形成性の官能基を1個しか有していないものであったため、重縮合反応が阻害されて重合度が上がらず、重合度が低すぎるものとなった。このため、各種評価ができなかった。
【0093】
実施例3−1
実施例1−1で得られた共重合ポリエステル樹脂と、熱伝導性充填材として、タルク〔日本タルク社製 K−1、平均粒径8μm、熱伝導率10W/(m・K)、密度2.7g/cm〕を用い、二軸押出機(東芝機械社製:TEM26SS、スクリュー径26mm)の主ホッパーに、共重合ポリエステル樹脂100容量部と、熱伝導性充填材80容量部とを供給し、温度200℃で溶融混練した。そしてストランド状に押出して冷却固化した後、ペレット状に切断して、共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0094】
実施例3−2
熱伝導性充填材として、酸化アルミニウム〔電気化学工業社製、平均粒径10μm、熱伝導率38W/(m・K)、密度3.97g/cm〕を用いた以外は、実施例3−1と同様にして共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0095】
実施例3−3
熱伝導性充填材として、炭酸マグネシウム〔神島化学社製、平均粒径10μm、熱伝導率15W/(m・K)、密度3.05g/cm〕を用いた以外は、実施例3−1と同様にして共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0096】
実施例3−4
実施例1−3で得られた共重合ポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例3−1と同様にして共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0097】
実施例3−5
実施例1−3で得られた共重合ポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例3−2と同様にして共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0098】
実施例3−1〜3−5で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物の組成、特性値、評価結果を表3に示す。なお、実施例3−1〜3−5で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、熱伝導性充填材を多量に含有したものであり、溶融粘度が高いものであるため、ポッティング用途に用いることは困難であった。このため、成形性2の評価は行わなかった。
【0099】
【表3】

【0100】
表3から明らかなように、実施例3−1〜3−5で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、本発明を満足する組成の共重合ポリエステル樹脂に熱伝導性充填材を含有させたものであるため、上記したような実施例1−1又は実施例1−3で得られた共重合ポリエステル樹脂の有する優れた点を備えつつ、熱伝導性が付与されたものであった。このため、各種の電子部品等において、発生する熱を効果的に外部へ放散させる熱対策が求められる用途においても好適に用いることができるものであった。
なお、実施例1−1で得られた共重合ポリエステル樹脂(熱伝導性充填材を含有しないもの)の熱伝導率は、0.1W/mkであった。
【0101】
実施例4−1
実施例1−1で得られた共重合ポリエステル樹脂と、難燃剤として芳香族縮合リン酸エステル化合物(大八化学工業社製PX200)を用い、二軸押出機(日本製鋼所社製、型式TEX30C、スクリュー径30mm)に、共重合ポリエステル樹脂100質量部と、難燃剤20質量部を供給し、定温度255℃、スクリュー回転数200rpmで溶融混練した。そして、ストランド状に押出して冷却固化した後、ペレット状に切断して、共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0102】
実施例4−2〜4−5
表4に示すように、用いる共重合ポリエステル樹脂の種類、難燃剤の添加量を変更した以外は、実施例4−1と同様にして共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0103】
実施例4−6
難燃剤として、臭素化エポキシ樹脂20質量部と三酸化アンチモン10質量部を用いた以外は、実施例4−1と同様にして共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0104】
実施例4−7〜4−10
表4に示すように、用いる共重合ポリエステル樹脂の種類、難燃剤の添加量を変更した以外は、実施例4−6と同様にして共重合ポリエステル系樹脂組成物を得た。
【0105】
実施例4−1〜4−10で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物の組成、特性値、評価結果を表4に示す。
【0106】
【表4】

【0107】
表4から明らかなように、実施例4−1〜4−10で得られた共重合ポリエステル系樹脂組成物は、本発明を満足する組成の共重合ポリエステル樹脂に難燃剤として、芳香族縮合リン酸エステル化合物や臭素化芳香族化合物、酸化アンチモン化合物を含有させたものであるため、上記したような実施例1−1〜1−4で得られた共重合ポリエステル樹脂の有する優れた点を備えつつ、難燃性が付与されたものであった。このため、各種の電子部品等において、難燃性が求められる用途においても好適に用いることができるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分として、芳香族ジカルボン酸とダイマー酸とを含有し、グリコール成分として、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコール類とを含有し、酸成分中のダイマー酸の含有量が10〜50モル%であり、グリコール成分中の1,4-ブタンジオールの含有量が50モル%以上であり、グリコール成分中のポリブタジエングリコール類の含有量が0.5〜20モル%である共重合ポリエステル樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項2】
共重合ポリエステル樹脂中に、エステル形成性の官能基を2個以上有する有機リン化合物が共重合しており、当該樹脂中のリン原子含有量が500〜20000質量ppmである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
20℃でのヤング率が100MPa以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
20℃でのショアD硬度が50以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
燃焼試験における酸素指数が27以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の樹脂組成物を圧力5MPa以下で成形することによって樹脂成形品を得る工程を含む、樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記工程が、予め工業用部品が配置された金型内に請求項1に記載の樹脂組成物を射出注入することによって、工業用部品を含む樹脂成形品を得る工程である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程が、予め工業用部品が配置されたハウジング又は基板に請求項1に記載の樹脂組成物を注入又は滴下することによって、工業用部品を含む樹脂成形品を得る工程である、請求項6に記載の方法。

【公開番号】特開2013−32528(P2013−32528A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−190711(P2012−190711)
【出願日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【分割の表示】特願2012−512094(P2012−512094)の分割
【原出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】