説明

共重合ポリエステル樹脂及びその成形体

【課題】 耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折の小さい光学レンズ等の用途として好適なポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】 (A)テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分を含む酸成分と、(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分及び(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分を含むジオール成分とを重合反応させて得られる共重合ポリエステル樹脂であって、前記(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分として1,2−ブタンジオールを含み、ガラス転移温度が130〜155℃であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合ポリエステル樹脂及びその成形体に関するものであり、特に耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折の小さい光学レンズ等の用途として好適な共重合ポリエステル樹脂及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明で機械的特性に優れている樹脂が光学用材料として広く用いられている。例えばポリメチルメタクリレート、脂環式ポリオレフィン、ポリカーボネート等がコンパクトディスク、レンズ等の光学材料として、あるいは自動車部品のランプ等の透明材料として使用されている。これらのうち、ポリメチルメタクリレートや脂環式ポリオレフィンは、透明性が高く、複屈折が小さく、更に色収差が少ないという点では光学レンズとして適しているものの、屈折率が小さく、耐熱性が不足している、という欠点を有している。また、ポリカーボネートは、透明性と耐熱性に優れているものの、複屈折が大きいという欠点を有している。
【0003】
これに対して、近年、ジオール成分としてビスフェニルフルオレン系化合物を主成分とした共重合ポリエステル樹脂を光学材料として使用することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらの公知の各種ポリエステル樹脂においては、高耐熱性及び高屈折率、あるいは低複屈折性のいずれかの特性を満足するものは散見されるものの、これら全ての物性を十分に満足し得る樹脂は未だ得られていない。例えば、特許文献3に記載の共重合ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が141〜184℃、屈折率が1.655〜1.663といずれも大きく、高耐熱性及び高屈折率の点では満足のいくものであるが、複屈折が85×10−4〜140×10−4と大きく、一般的な光学レンズとして要求される複屈折特性としては不十分である。このため、これらの要求特性を全て満足し得る光学用樹脂の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−184288号公報
【特許文献2】特開平09−302077号公報
【特許文献3】特開2006−335974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の従来技術の課題に鑑みて行なわれたものであって、すなわち、本発明の解決しようとする課題は、耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折の小さい光学レンズ等の用途として好適なポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の従来技術の課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、共重合ポリエステル樹脂の製造にあたって、酸成分として(A)テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分、ジオール成分として(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分及び(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分を用い、且つ(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分として1,2−ブタンジオールを含有させることによって、耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折の小さい、特に光学レンズ等の用途として非常に有用な共重合ポリエステル樹脂が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかる共重合ポリエステル樹脂は、(A)テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分を含む酸成分と、(B)下記一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分及び(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分を含むジオール成分とを重合反応させて得られる共重合ポリエステル樹脂であって、前記(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分として1,2−ブタンジオールを含み、ガラス転移温度が130〜155℃であることを特徴とするものである。
【0008】
【化1】


(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R、R、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。)
【0009】
また、前記共重合ポリエステル樹脂において、前記(A)テレフタル酸成分とイソフタル酸成分の合計量が、全酸成分に対して80モル%以上であることが好適である。
また、前記共重合ポリエステル樹脂において、前記(A)テレフタル酸(TPA)成分とイソフタル酸(IPA)成分とのモル比が、TPA:IPA=20:80〜70:30であることが好適である。
【0010】
また、前記共重合ポリエステル樹脂において、前記(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分の含有量が、全ジオール成分に対して80〜95モル%であることが好適である。
また、前記共重合ポリエステル樹脂において、前記(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分が、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンであることが好適である。
また、前記共重合ポリエステル樹脂において、前記(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分の10〜100モル%が、1,2−ブタンジオールであることが好適である。
【0011】
また、本発明にかかる樹脂成形体は、前記共重合ポリエステル樹脂物を成形加工してなり、屈折率が1.630以上、固有複屈折が50×10−4以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる共重合ポリエステル樹脂及びこれを成形加工して得られた樹脂成形体は、耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折が小さく、特に光学レンズ等の用途として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1により得られた共重合ポリエステル樹脂のH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、以下の内容に限定されるものではない。
本発明にかかる共重合ポリエステル樹脂は、酸成分として(A)テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分、ジオール成分として(B)下記一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分及び(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分を含むものである。
【0015】
〈酸成分〉
(A)テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分
本発明の共重合ポリエステル樹脂においては、重合原料として使用される酸成分として、(A)テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分が含まれる。(A)テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分以外の酸成分としては、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸、1,4−デカリンジカルボン酸、1,5−デカリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体等の多環式エステル形成性誘導体等が挙げられる。また、これらの酸成分は、単独でも2種類以上組み合わせて使用してもよい。なお、酸成分中に含まれる(A)テレフタル酸成分とイソフタル酸成分の合計量は80モル%以上が好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。(A)テレフタル酸成分とイソフタル酸成分の合計量が80モル%未満であると、例えば脂肪族ジカルボン酸を20モル%以上使用した場合、ガラス転移温度の低下が著しく、あるいは2,6−ナフタレンジカルボン酸等の剛直な酸成分を20モル%以上使用した場合、複屈折が顕著に発現するために好ましくない。
【0016】
また、(A)テレフタル酸(TPA)成分とイソフタル酸(IPA)成分とのモル比は、TPA:IPA=20:80〜70:30であることが好ましく、より好ましくは、70:30〜30:70、さらに好ましくは、60:40〜40:60である。また、全酸成分中、テレフタル酸とイソフタル酸の合計モル比率が80モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。テレフタル酸の比率が70モル%以上の場合、複屈折が顕著に発現し、光学用樹脂材料として望ましくなく、また、イソフタル酸成分が80モル%以上の場合、複屈折性は低減されるものの、ガラス転移温度の低下が著しくなり、耐熱性が大幅に低下するため、好ましくない。
【0017】
〈ジオール成分〉
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂においては、重合原料として使用されるジオール成分として、(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分、及び(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分が含まれる。
(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分
本発明の共重合ポリエステル樹脂において、重合原料として使用される(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物は、下記一般式(I)により表される化合物である。
【化2】


(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R、R、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。)
【0018】
上記一般式(I)で表される(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物としては、より具体的には、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン等が挙げられ、これらは単独でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンが、得られる樹脂の光学特性や成形性の面から特に好ましい。
【0019】
本発明の共重合ポリエステル樹脂において、重合原料として使用する(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物の含有量は、全ジオール成分に対して80〜95モル%であることが好ましく、さらに好ましくは80〜90モル%である。80モル%未満の場合、耐熱性や屈折率が低下するため、光学用材料としては好ましくなく、一方で、95モル%を超えると、得られる樹脂の流動性及び機械物性が低下して脆くなったり、成形性が悪くなるため好ましくない。
【0020】
(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分
本発明の共重合ポリエステル樹脂において、重合原料として使用される(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分は、1,2−ブタンジオールを含むものである。1,2−ブタンジオールは、全(C)脂肪族ジオール成分に対して10〜100モル%であることが好ましい。また、1,2−ブタンジオール以外の(C)脂肪族ジオール成分を用いてもよく、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等が挙げられ、これらは単独でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。(C)脂肪族ジオール成分としては、1,2−ブタンジオール単独が最も好ましいが、1,2−ブタンジオールと、それ以外の(C)脂肪族ジオール成分との混合成分とする場合、エチレングリコールとの混合成分が、樹脂製造時の反応性や、得られる樹脂の耐熱性、光学特性、寸法安定性に優れているという特性から、光学用途には特に好ましい。
【0021】
本発明の共重合ポリエステル樹脂において、(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分の含有量は、全ジオール成分に対して5〜20モル%であることが好ましく、さらに好ましくは10〜20モル%である。(C)脂肪族ジオール成分の含有量が5モル%未満であると、重合反応が進み難く、所定の分子量(固有粘度評価)に到達せず、得られた樹脂が脆くて実用に耐えられなかったり、流動性が悪く成形し難いものとなる場合がある。一方で、(C)脂肪族ジオール成分の含有量が20モル%を超えると、樹脂中に含まれる(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物の含有量が相対的に減少し、屈折率及び耐熱性が低下する場合があるため好ましくない。
【0022】
本発明の共重合ポリエステル樹脂において、(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物と(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分との合計量が、全ジオール成分に対して、85〜100モル%であることが好ましく、より好ましくは90〜100モル%、さらに好ましくは95〜100モル%である。なお、上記(B),(C)成分以外の任意のジオール成分を使用してもよいが、全ジオール成分に対して15モル%未満の範囲であることが望ましい。他のジオール成分を15モル%以上含有させた場合、耐熱性や屈折率が低下したり、あるいは寸法安定性が低下するなど、光学材料としての性能が低下する場合がある。
【0023】
〈ガラス転移温度〉
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、主として上記(A)〜(C)の特定組成の酸成分及びジオール成分を重合原料として使用することによって、130℃以上の高いガラス転移温度を有しており、耐熱性に優れている。なお、本発明の共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度は130〜155℃であり、好ましくは135〜145℃である。例えば、電子部品等に使用する光学材料用途の樹脂としては、一般に、130℃以上のガラス転移温度が要求される。すなわち、ガラス転移温度が130℃未満の場合、電子部品に組み込まれた場合に耐熱性が不足し、使用中に変形したり、性能が変化する場合があるため、好ましくない。一方、ガラス転移温度が155℃を超えると、樹脂が脆くなり易く、機械物性に劣る場合があり、また、成形時の残留歪により、複屈折が増大してしまう場合があるため、好ましくない。
【0024】
〈屈折率〉
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、上記(A)〜(C)の酸成分及びジオール成分を含有していることによって、通常、1.630以上の高い屈折率を有する樹脂として得られる。高い屈折率を有する樹脂材料は、特に光学レンズに使用する場合には、屈折率が大きい程レンズの厚さを薄くすることができるため好ましい。本発明の共重合ポリエステル樹脂において、さらに好ましい屈折率は1.632以上である。
【0025】
〈固有複屈折〉
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、上記(A)〜(C)の酸成分及びジオール成分を含有していることによって、通常、固有複屈折が50×10−4以下の樹脂として得られる。複屈折は光学異方性の指標であり、一般的な光学レンズ用途においては、より小さい複屈折を有することが望ましい。本発明の共重合ポリエステル樹脂において、さらに好ましい固有複屈折は、45×10−4以下である。
【0026】
〈共重合ポリエステル樹脂の製造方法〉
以下、本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、原料酸成分(A)とジオール成分(B及びC)との直接エステル化法、あるいは原料酸成分(A)のエステル形成性誘導体(例えば、ジメチルエステル化物)とジオール成分(B及びC)とのエステル交換反応により重合前駆体を形成し、引き続いて、減圧下での重縮合反応を実施することによって、本発明の共重合ポリエステル樹脂が得られる。なお、
この際、円滑な反応を促進するために、公知の触媒を使用して公知の重合方法によって行うことができる。
【0027】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法において、エステル化又はエステル交換反応の触媒としては、触媒を使用しないか、または、ナトリウム、カリウム、カルシウム、チタン、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、スズ、コバルト等、公知の金属化合物を触媒として1種以上使用することができる。エステル交換反応の場合、これらの金属触媒の中でも、カルシウム及びマンガン化合物が、反応性が高く、得られる樹脂の色調が良好なことから好ましい。エステル交換触媒の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対して、通常、30〜3000ppm、好ましくは50〜1000ppmである。
【0028】
また、重縮合反応の触媒としては公知の重合触媒を使用することができ、少なくとも一種類以上の金属化合物を使用することが望ましい。好ましい金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム等が挙げられる。これらの中でも、チタン及びゲルマニウム化合物は反応性が高く、得られる樹脂の透明性及び色調に優れていることから、光学用樹脂においては、特に好ましい。重合触媒の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対して、通常、10〜1000ppm、好ましくは100〜800ppmである。
【0029】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂を製造する際は、重縮合工程を円滑にするため、エステル化反応またはエステル交換反応が終了した後にリン化合物を使用することが望ましい。リン化合物の例としては、リン酸、亜リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等があるが、中でも好ましいのはトリメチルホスフェートである。リン化合物の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対して、通常、40〜1000ppm、好ましくは50〜800ppmである。
【0030】
エステル化反応またはエステル交換反応は、例えば、原料として使用する(A)〜(C)の各成分と、必要に応じて用いられるその他の共重合成分とを、加熱装置、攪拌機及び留出管を備えた反応槽に仕込み溶解し、反応触媒を使用する場合は触媒を使用し、常圧不活性ガス雰囲気下で攪拌しつつ加熱し、反応で生じた水またはメタノール等の副生物を留去しつつ反応を進行させることにより行なわれる。反応温度は、150℃〜270℃、好ましくは160℃〜260℃であり、反応時間は、通常、3〜7時間である。
【0031】
重縮合反応は、例えば、上記のエステル交換反応終了後の生成物(ポリマー前駆体)を用いて、加熱装置、攪拌機、留出管及び減圧装置を備えた反応槽により実施される。なお、これらの条件が満たされるならば、エステル交換反応を実施した同一の反応槽により、引き続き重縮合反応を実施することもできる。なお、重合度は、特に限定されないが、固有粘度(フェノール:テトラクロロエタン=60:40(重量比)の混合液,20℃)換算で0.35以上が好ましく、より好ましくは0.40〜1.00程度である。
【0032】
重縮合反応は、例えば、上記のエステル交換反応終了後の生成物を入れた反応槽内に、重合触媒とリン化合物を添加した後、反応槽内を徐々に昇温且つ減圧しながら行なう。槽内の圧力は、常圧雰囲気下から最終的には0.4kPa以下、好ましくは0.2kPa以下まで減圧する。槽内の温度は、220〜230℃から徐々に昇温し、最終的には250〜290℃、好ましくは260〜280℃まで昇温し、所定のトルクに到達した後、槽底部から反応物を押し出して回収する。通常の場合、水中にストランド状に押し出し、冷却した上で、カッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0033】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂においては、用途及び成形目的に応じて、滑剤、離型剤、熱安定剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を適宜配合することができる。また、これらの添加剤成分は、反応工程及び成形加工工程のいずれの工程において配合してもよい。
【0034】
本発明の樹脂成形体は、以上のようにして得られた共重合ポリエステル樹脂を成形加工することによって得られる。本発明の樹脂成形体の用途は、特に限定されるものではないが、優れた特性(耐熱性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折が小さい等)を有していることから、一般的な光学レンズ、光学フィルム、光学シート、光ディスク、ピックアップレンズ等の用途において、特に有用である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明の要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において用いた評価方法は、以下の通りである。
【0036】
(1)樹脂を構成する各モノマー成分組成の定量:
ブルカー・バイオスピン社製FT−NMR装置(DPX400型)を使用し、重水素化クロロホルムに試料を溶解し、テトラメチルシランを標品として混合し、H1−NMRスペクトルの特異吸収ピークから定量した。
【0037】
(2)固有粘度(IV):
フェノール:テトラクロロエタン=60:40(重量比)の混合液を溶媒として用い、サン電子工業社製、自動粘度計AVL−6Cを使用し、20℃で測定した。ただし、ハギンズ定数Kは、0.37を使用して、固有粘度(IV)を算出した。
【0038】
(3)ガラス転移温度(Tg):
パーキンエルマー社製、示差走査熱量測定装置(DSC−7)を使用し、窒素雰囲気中で30℃から10℃/分で昇温し、ガラス転移による吸熱挙動の中間点温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0039】
〈屈折率〉
樹脂1gを200℃で熱プレス成形し、厚さ約150μの透明なフィルムを作成し、アタゴ社製のアッベ屈折計(DR−M2型)を使用し、20℃での屈折率を測定した。なお、実施例及び比較例として記載の屈折率の値は、波長589nmにおける屈折率を測定した値である。
【0040】
〈固有複屈折〉
大塚電子社製リタデーション測定装置RETS−100を用いて、600nmの単色光で測定した。測定片は、樹脂を160〜240℃でプレス成形し、厚み100〜400μmのフィルムを得た。得られたフィルムを15×50mmの短冊状に切り出し、測定試験片とした。Tg+10℃の温度で測定用試験片を25mm/分で2〜4倍延伸し、延伸フィルムを得た。これらのフィルムの複屈折を、上記の装置を使用して測定し、延伸倍率から配向度を算出し、配向度と複屈折から固有複屈折を求めた。具体的には、フィルムを2倍、3倍及び4倍に延伸したときの複屈折を測定した。各延伸倍率(λ)に対応する配向度(F)を下式の換算式より求め、各配向度に対する複屈折の値をプロットした。
F=(3<cosθ>−1)/2
<cosθ>=(1+r)(r−tan−1r)/r
r=(λ−1)0.5
λ:延伸倍率,F:配向度
最小二乗法を用い近似直線を得て、外挿法により配向度(F)=1.0(即ち、無限延伸倍率)のときの複屈折を求めた。ここで、フィルム内の分子は理想的に極限まで配向していると仮定し、本発明においては、このときの複屈折の値を「固有複屈折」と定義した。
【0041】
本発明者らは、下記実施例及び比較例のポリエステル樹脂を製造し、以上の方法を用いて各種物性について評価を行なった。各実施例及び比較例のポリエステル樹脂の原料仕込み量を表1に、得られた樹脂の成分組成を表2に、各樹脂の物性評価結果を表3にまとめて示す。なお、比較のために市販のポリカーボネート(PC)及びポリメタクリル酸メチルを使用して同様の物性評価を行なった。結果を表3に併せて示す。
【0042】
実施例1
攪拌機、還流冷却器、加熱装置、圧力計、温度計、減圧装置及び窒素供給装置を装備し、且つ樹脂の押し出し口を有する容量30リットルのステンレス製反応器に、テレフタル酸ジメチル(以下、DMT)939質量部、イソフタル酸ジメチル(以下、DMI)939質量部、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEF)3609質量部、1,2−ブタンジオール(以下、1,2−BD)2312質量部を投入し系内を窒素置換した後150℃で原料を溶解した。しかる後、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水和物0.535質量部及び酢酸カルシウム・1水和物1.500質量部を投入し、内温を230℃まで3時間かけて徐々に昇温し、さらに230℃に保持したまま1時間反応を継続し、副生物の留出が無くなり、且つ所定の副生物が留出したことを確認した。しかる後、トリメチルホスフェート1.880質量部、二酸化ゲルマニウム2.095質量部を0.9%の水溶液として添加。内温が230℃に到達した後、徐々に昇温と減圧を開始し、90分後には内温を270℃且つ0.13kPaとし、この状態で重縮合反応を継続し、所定のトルクに到達するまで反応を継続した。所定のトルクに到達後、窒素で反応容器内を加圧にし、樹脂を冷却水中にストランド状に押し出し、カッティングしてペレットを得た。実施例1で得られた共重合ポリエステル樹脂のH−NMRスペクトルを図1に示す。また、得られた樹脂の成分組成は表2に、物性評価結果は表3に示すとおりであった。
【0043】
実施例2〜9
表1実施例2〜9に記載の原料及び仕込み量に変更した以外は、上記実施例1と同一の装置及び反応条件でエステル交換反応及び重縮合反応を実施し、共重合ポリエステル樹脂を得た。得られた樹脂の成分組成は表2に、物性評価結果は表3に示すとおりであった。
【0044】
比較例1〜8
表1比較例1〜8に記載の原料及び仕込み量に変更した以外は、上記実施例1と同一の装置及び反応条件でエステル交換反応及び重縮合反応を実施し、共重合ポリエステル樹脂を得た。得られた樹脂の成分組成は表2に、物性評価結果は表3に示すとおりであった。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
表3に示すように、原料成分として、(A)テレフタル酸及びイソフタル酸と、(B)9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、及び(C)1,2−ブタンジオールを含む炭素数2〜4のジオール成分とを、適切な割合で用いて重合反応することによって得られた実施例1〜9の共重合ポリエステル樹脂は、ガラス転移点Tgが130℃以上(135〜146℃)と高く、耐熱性に優れたものであることがわかった。また、これら実施例1〜9の共重合ポリエステル樹脂は、いずれも屈折率が1.630以上(1.634〜1.638)、延伸時の複屈折が50×10−4以下(26〜44×10−4)であり、一般的な光学レンズ用途において要求される物性を十分に満足するものであった。
【0049】
これに対して、1,2−ブタンジオールを含まない比較例1,2の共重合ポリエステル樹脂は、複屈折が大きく(116×10−4,55×10−4)、特にテレフタル酸成分とイソフタル酸成分とを併用した比較例2においても、複屈折は50×10−4以上(55×10−4)と大きくなってしまった。また、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの含有量を98モル%(1,2−ブタンジオールを2モル%)とした比較例3の共重合ポリエステル樹脂では、樹脂が脆くて延伸することができず、実使用に耐え得るものではなかった。
【0050】
また、比較例4〜8は、いずれも1,2−ブタンジオールを含んでおらず、優れた耐熱性、高い屈折率、小さい複屈折のすべての物性を満たす共重合ポリエステル樹脂は得られなかった。例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの含有量を80モル%以下とした比較例4,5の共重合ポリエステル樹脂では、複屈折が50×10−4以上(67×10−4,120×10−4)となってしまい、複屈折を十分に改善することができなかった。また、酸成分として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を使用した比較例6では、ガラス転移温度が125℃と低く、加えて屈折率も1.607と低い値であった。また、TPA成分とIPA成分とのモル比を75:25とした比較例7、酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸を使用した比較例8においては、いずれも複屈折が50×10−4以上(116×10−4,154×10−4)と大きかった。
【0051】
さらに、従来、光学用途として汎用されているポリカーボネート及びポリメタクリル酸メチルを使用し、同様の評価を行なった結果、ポリカーボネートは、ガラス転移点が151℃と耐熱性に優れてはいるものの、屈折率が1.585と低くなってしまい、他方、ポリメタクリル酸メチルは、ガラス転移が107℃と低く、また、屈折率も1.492であり、一般的な光学レンズ用途において要求される物性をいずれも満たしていなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テレフタル酸成分及びイソフタル酸成分を含む酸成分と、
(B)下記一般式(I)で表されるビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分及び(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分を含むジオール成分と
を重合反応させて得られる共重合ポリエステル樹脂であって、
前記(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分として1,2−ブタンジオールを含み、
ガラス転移温度が130〜155℃であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
【化1】


(式中、R、Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R、R、R、Rは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記(A)テレフタル酸成分とイソフタル酸成分の合計量が、全酸成分に対して80モル%以上であることを特徴とする請求項1記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記(A)テレフタル酸(TPA)成分とイソフタル酸(IPA)成分とのモル比が、TPA:IPA=20:80〜70:30であることを特徴とする請求項1又は2に記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分の含有量が、全ジオール成分に対して80〜95モル%であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記(B)ビスフェニルフルオレン系ジヒドロキシ化合物成分が、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンであることを特徴とする1から4のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項6】
前記(C)炭素数2〜4の脂肪族ジオール成分の10〜100モル%が、1,2−ブタンジオールであることを特徴とする1から5のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂を成形加工してなり、屈折率が1.630以上、固有複屈折が50×10−4以下であることを特徴とする樹脂成形体。


【図1】
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【公開番号】特開2013−49784(P2013−49784A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188531(P2011−188531)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【出願人】(506346152)株式会社ベルポリエステルプロダクツ (9)
【Fターム(参考)】