説明

共重合ポリエステル樹脂水性分散体およびその製造方法

【課題】貯蔵安定性に優れ、また、耐熱性、耐熱水性に優れ、かつ、基材への密着性に優れる樹脂被膜を形成することが可能な共重合ポリエステル樹脂水性分散体を提供する。
【解決手段】下記(A)〜(D)成分が配合されてなり、共重合ポリエステル樹脂の微粒子が水性媒体中に均一分散された共重合ポリエステル樹脂水性分散体であって、共重合ポリエステル樹脂水性分散体における共重合ポリエステル樹脂の含有率が5〜50質量%であり、共重合ポリエステル樹脂の体積平均粒径が300nm以下であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂水性分散体。
(A)共重合ポリエステル樹脂。
(B)塩基性化合物
(C)有機溶剤が0〜25質量%。
(D)水

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、耐熱性、耐熱水性、各種基材に塗布され密着性に優れる樹脂被膜を形成することができる共重合ポリエステル樹脂水性分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、被膜形成用樹脂として、被膜の加工性、耐候性、各種基材への密着性等に優れることから、塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等の分野におけるバインダー成分として大量に使用されている。
【0003】
特に近年、環境保護、省資源、消防法等による危険物規制、職場環境改善の立場から有機溶剤の使用が制限される傾向にあり、上記の用途に使用できるポリエステル樹脂系バインダーとして、ポリエステル樹脂を水性媒体に微分散させたポリエステル樹脂水分散体の開発が盛んに行われている。
【0004】
高いガラス転移点(Tg)のポリエステル樹脂水性分散体を作製するためには、比較的Tgの高い共重合ポリエステルに5−スルホイソフタル酸や5−ヒドロキシイソフタル酸のような水溶性の官能基をもつモノマーを共重合する方法が知られているが、このような方法で得られたポリエステル樹脂水性分散体は水溶性の官能基をもつために耐水性が悪いものであった。
【0005】
特許文献1〜3では、耐水性をあげるため、8mgKOH/g以上の酸価を付与した共重合ポリエステル樹脂をアルコールと水と一緒に分散する方法が開示されている。しかしながら、このような方法で得られたポリエステル樹脂水性分散体では、耐水性は良好なものの、高い酸価を付与するため分子量の低下が避けられず、最も高いTgをもつポリエステル樹脂水性分散体でも70℃のものであった。
【0006】
そこで、特許文献4で、発明者らは、耐水性を維持しながら、さらに分子量およびTgをあげるため、低酸価の共重合ポリエステルを分散する技術を開示している。しかしながら、このような方法で得られたポリエステル樹脂水性分散体でも、酸価付与前の共重合ポリエステルのTgが低いため、耐熱、耐熱水性に十分優れた被膜を作製できる水性分散体を得ることができず、最も高いTgをもつポリエステル樹脂水性分散体でも83℃のもので、さらに、高いTgをもつポリエステル樹脂水性分散体が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−296100号公報
【特許文献2】特開2000−26709号公報
【特許文献3】特開2000−313793号公報
【特許文献4】特表2004−37924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、また、耐熱性、耐熱水性に優れ、かつ、基材への密着性に優れる樹脂被膜を形成することが可能な共重合ポリエステル樹脂水性分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水溶性の官能基をもつモノマーを共重合せず、イソソルビドを共重合し得られる共重合ポリエステル樹脂を転相乳化することで、貯蔵安定性に優れる共重合ポリエステル樹脂水性分散体を得ることができ、また、それから形成される樹脂被膜が、良好な耐熱性、耐熱水性を有し、基材への密着性が良好であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、下記のとおりである。
【0011】
(1)下記(A)〜(D)成分が配合されてなり、共重合ポリエステル樹脂の微粒子が水性媒体中に均一分散された共重合ポリエステル樹脂水性分散体であって、共重合ポリエステル樹脂水性分散体における共重合ポリエステル樹脂の含有率が5〜50質量%であり、共重合ポリエステル樹脂の体積平均粒径が300nm以下であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂水性分散体。
(A)主としてジカルボン酸成分とグリコール成分からなり、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸、グリコール成分としてイソソルビドを含み、酸価が2〜12mgKOH/gであり、ガラス転移温度が85℃以上であり、数平均分子量が4000以上である共重合ポリエステル樹脂。
(B)塩基性化合物
(C)有機溶剤が0〜25質量%。
(D)水
(2)共重合ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解させた後、水、塩基性化合物と混合して分散することを特徴とする(1)の共重合ポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
(3)(1)の共重合ポリエステル樹脂水性分散体から得られる共重合ポリエステル樹脂被膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水溶性の官能基をもつモノマーを共重合せず、イソソルビドを共重合し得られる共重合ポリエステル樹脂は、耐熱性に優れるために、それを転相乳化することで、貯蔵安定性に優れ、また、耐熱性、耐熱水性に優れ、かつ、基材への密着性に優れる樹脂被膜を形成することが可能な共重合ポリエステル樹脂水性分散体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の共重合ポリエステル樹脂水性分散体(以下、水性分散体とする)は、(A)共重合ポリエステル樹脂および、(B)塩基性化合物、(C)有機溶剤、(D)水から構成される。
【0015】
まず、(A)の共重合ポリエステル樹脂について説明する。
【0016】
本発明でいう共重合ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸(A−A)成分とグリコール(A−B)成分の等モル量から構成される共重合ポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を含み、グリコール成分としては、イソソルビドを共重合する必要がある。必要に応じてヒドロキシカルボン酸(A−C)成分を共重合してもよい。
【0017】
ジカルボン酸成分として用いる芳香族カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等があげられる。芳香族カルボン酸は、全ジカルボン酸成分に対し、40モル%以上共重合することが好ましい。芳香族カルボン酸の配合が40モル%未満であると、樹脂被膜の耐熱性が低くなるので好ましくない。なお、「全カルボン酸成分」とは、本発明の共重合ポリエステル樹脂の構成成分とすることのできるカルボン酸(A−A)成分、ヒドロキシカルボン酸(A−C)成分、モノカルボン酸成分、3価以上のカルボン酸成分などの総和を意味する。
【0018】
グリコール成分として用いるイソソルビドとは、下記一般式(1)で示される化合物であり、化学名は、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール(以下、イソソルビドと称す)と表記される。
【0019】
【化1】

【0020】
イソソルビドは、全ジオール成分に対し、3モル%〜100モル%共重合することが好ましく、10モル%〜80モル%にすることがさらに好ましく、20モル%〜80モル%にすることが最も好ましい。3モル%未満であるとガラス転移温度を高める効果がほとんどないので好ましくない。なお、「全ジオール成分」とは、本発明の共重合ポリエステル樹脂の構成成分とすることのできるジオール(A−B)成分、ヒドロキシカルボン酸(A−C)成分、モノアルコール成分、3価以上のアルコール成分などの総和を意味する。
【0021】
イソソルビドは、再生可能資源、例えば糖類およびでんぷんから容易に得ることができ、例えば、D−グルコースを水添し、脱水反応をすればイソソルビドを得ることができる。イソソルビドは、ロケット社から入手することができる。
【0022】
本発明の共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度(以下、Tgとする)は、85℃以上である必要がある。さらに、得られる樹脂被膜の耐熱性を高めるためには、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。Tgが85℃よりも低いと、得られる樹脂被膜で必要とする耐熱性が得られないため適さない。
【0023】
本発明の共重合ポリエステル樹脂の融点(以下、Tmとする)は検出されないことが最も好ましいが、融点がある場合は、230℃以上が好ましい。融点がある場合、230℃よりも低いと、Tgが85℃よりも低くなる場合があるので好ましくない。
【0024】
本発明の共重合ポリエステル樹脂に融点がある場合、その融解エネルギー(以下、ΔHmと略称する。)は15J/g以下である必要があり、10J/g以下であることが好ましく、5J/g以下であることがさらに好ましい。融解エネルギーが25J/gよりも大きいと、結晶性が高くなるため、共重合ポリエステル樹脂を溶解または膨潤することができず、分散ができなくなるので好ましくない。
【0025】
共重合ポリエステル樹脂のTm、Tg、ΔHmは、共重合するモノマーの組み合わせを設定することにより、上記範囲に調整することができる。
【0026】
また、共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量は4,000以上とする必要があり、得られる樹脂被膜の加工に適した強度、靭性を確保するために、8,000以上であることが好ましく、12,000以上であることがより好ましい。数平均分子量が4,000未満では、樹脂被膜の加工性が不足するため適さない。
【0027】
共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量は、重合時間や解重合量を制御することにより、上記範囲に調整することができる。
【0028】
本発明において、共重合ポリエステル樹脂の酸価は2〜12mgKOH/gとする必要があり、樹脂被膜とした場合の密着性や耐熱水性を確保するためには、2〜6mgKOH/gとすることが好ましく、2〜4mgKOH/gがより好ましい。酸価が12mgKOH/gよりも大きいと、分子量が4000以下になり、本発明の水性分散体のガラス転移温度が下がるばかりか、樹脂被膜とした場合の密着性や耐熱水性が低下するので適さない。また、酸価が2mgKOH/g未満であると、水性化が困難になる傾向があり、また、水性化できたとしても体積平均粒経が大きくなり、貯蔵安定性が悪くなるので適さない。
【0029】
また、共重合ポリエステル樹脂には樹脂被膜の耐水性を損なわない範囲で水酸基が含まれていてもよく、30mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0030】
共重合ポリエステル樹脂の酸価、水酸基価は、重合時間や解重合量を制御することにより、上記範囲に調整することができる。
【0031】
なお、共重合ポリエステル樹脂の分子量分布の分散度は、特に限定されないが、8以下が好ましく、5以下がより好ましい。ここで、分子量分布の分散度とは、重量平均分子量を数平均分子量で除した値のことである。
【0032】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、以下のようなジカルボン酸(A−A)成分とグリコール(A−B)成分を用いてもよいし、必要に応じてヒドロキシカルボン酸(A−C)成分を共重合してもよい。
【0033】
(A)成分を構成する他のジカルボン酸成分としてはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、アイコサン二酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸の脂環族ジカルボン等を例示できる。これらは無水物であってもよい。
【0034】
(A−B)成分を構成する他のジオール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジール、
ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、3(4)、8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ(5.2.1.1/2.6)デカン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールAP、4,4′−ビフェノールのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、等が挙げられ、中でも、汎用性があるエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールが好ましい。
【0035】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、適度な柔軟性、接着性の向上、ガラス転移温度の調整などの目的に応じて、ヒドロキシカルボン酸(A−C)を用いることができる。(A−C)成分は全カルボン酸成分の20モル%以下とすることが好ましい。(A−C)成分の割合が20モル%よりも高いと、ガラス転移温度が下がるので好ましくない。
【0036】
(A−C)成分としては、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、o−ヒドロキシ安息香酸、乳酸、オキシラン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられ、これらの中でも、汎用性があるε−カプロラクトンが好ましい。
【0037】
少量であれば、3官能以上のカルボン酸成分やアルコール成分を共重合成分として添加してもよい。
【0038】
3官能以上のカルボン酸成分としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水べンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸等の芳香族カルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族カルボン酸が挙げられる。
【0039】
3官能以上のアルコール成分としては、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトールが挙げられる。
【0040】
これらは必ずしも1種類で用いる必要はなく、共重合ポリエステル樹脂に対し、付与したい特性に応じて複数種以上混合して用いることが可能である。このとき、3官能以上のモノマーの割合としては、全カルボン酸成分または全アルコール成分に対して0.2〜5モル%程度が適当である。0.2モル%未満では添加した効果が発現せず、5モル%を超える量を含有せしめた場合には、重合の際、ゲル化点を超えゲル化が問題になる場合がある。
【0041】
また、共重合ポリエステル樹脂には、モノカルボン酸、モノアルコールが共重合されていてもよい。モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等、モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0042】
共重合ポリエステル樹脂は前記のモノマーを組み合わせて、公知の重合釜で製造することができる。
【0043】
共重合ポリエステル樹脂を製造する反応は、エステル化反応工程および重縮合反応工程からなる。エステル化反応工程は、全モノマーおよび/または低重合体から、所望の組成の低重合体を作製する工程あり、重縮合反応は、低重合体からグリコール成分を留去させ、所望の組成の重合物を得る工程である。
【0044】
以下、各工程について説明する。 エステル化反応では、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下、加熱熔融して反応させる。イソソルビドは2級アルコールであるため、1級アルコールと比べて、反応性が低い。そのため、エステル化温度は、180〜250℃が好ましく、220〜250℃がより好ましく、反応時間は2.5〜10時間が好ましく、4時間〜6時間がより好ましい。なお、反応時間は所望の反応温度になってから、つづく重縮合反応までの時間とする。
【0045】
重縮合反応では、減圧下、220〜300℃の温度で、エステル化反応で得られたエステル化物から、グリコール成分を留去させ、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進める。重縮合の反応温度は、250℃以上が好ましく、270℃以上がより好ましい。重縮合の反応温度が低い場合、本発明の共重合ポリエステル樹脂はTgが85℃以上と高く、溶融粘度も高いため、所望の分子量に達することが難しくなる。減圧度は、130Pa以下であることが好ましい。減圧度が低いと、重縮合時間が長くなる傾向があるので好ましくない。大気圧から130Pa以下に達するまでの減圧時間としては、60〜180分かけて徐々に減圧することが好ましい。なお、組成によっては、イソソルビドが留去し、留去液からイソソルビドが析出する場合があるが、その場合は、留去ラインを40〜80℃に加熱することが好ましい。
【0046】
エステル化反応および重縮合反応の際には、必要に応じて、テトラブチルチタネ−トなどの有機チタン酸化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機錫化合物を用いて重合をおこなう。その際の触媒使用量は、生成する樹脂質量に対し、1.0質量%以下で用いるのが好ましい。
【0047】
共重合ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与する場合には、上記の重縮合反応に引き続き、多塩基酸成分をさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合を行う方法等を挙げることができる。
【0048】
なお、解重合した際に樹脂中に泡が発生し、払出しの際、泡のためにペレット化できない場合があるが、このような場合は、解重合後、系内を再減圧し脱泡すればよい。再減圧を行なう際の減圧度は67000Pa以下が好ましく、10000Paがより好ましい。減圧度が67000Paよりも高いと再減圧しても脱泡するのに要する時間が長くなるので好ましくない。
【0049】
次に、本発明の水性分散体中の共重合ポリエステル樹脂の含有率について説明する。
【0050】
水性分散体における共重合ポリエステル樹脂の含有率は5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。共重合ポリエステル樹脂の含有率が50質量%を超えると水性分散体の粘度が非常に高くなり、実質的に樹脂被膜の成形が困難になってしまう場合があり、その含有率が5質量%未満では、実用的ではない。
【0051】
次に(B)の塩基性化合物について説明する。
【0052】
本発明の水性分散体には、塩基性化合物が含まれていることが必要である。塩基性化合物によって、共重合ポリエステル樹脂のカルボキシル基が中和され、生成したカルボキシルアニオン間の静電気的反発力によって微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。
【0053】
塩基性化合物としては、樹脂被膜形成時に揮散しやすい点から、沸点が250℃以下、好ましくは160℃以下の有機アミン、あるいはアンモニアが好ましい。好ましく用いられる有機アミンの具体例としては、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等が挙げられ、中でも、トリエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンを使用することが好ましい。
【0054】
次に(C)の有機溶剤について説明する。
【0055】
有機溶剤は、後述する溶解工程で、共重合ポリエステル樹脂(A)を溶解するために用いる。
【0056】
有機溶剤としては、公知の有機溶剤が挙げられ、例えば、ケトン系有機溶剤、芳香族系炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、含ハロゲン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、グリコール系有機溶剤等が挙げられる。
【0057】
かかるケトン系有機溶剤としては、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(以後MEKと記す)、アセトン、ジエチルケトン(3−ペンタノン)、メチルプロピルケトン(2−ペンタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)(以後MIBKと記す)、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、2−へプタノン、3−へプタノン、4−へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが例示できる。
【0058】
芳香族炭化水素系有機溶剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等、エーテル系有機溶剤としては、ジオキサン、テトラヒドロフラン、含ハロゲン系有機溶剤としては、四塩化炭素、トリクロロメタン、ジククロロメタン等、アルコール系有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
【0059】
エステル系有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等が挙げられ、グリコール系有機溶剤としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等を例示することができる。また、さらには、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等の有機溶剤が挙げられる。
【0060】
これらの有機溶剤としては、上記したものを単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができるが、本発明の水性分散体を得るためには、共重合ポリエステル樹脂を3質量%以上溶解することができるように有機溶剤の選択を行うことが必要であり、5質量%以上溶解することができる有機溶剤がより好ましく、10質量%以上溶解することができる有機溶剤がよりさらに好ましく、30質量%以上溶解することができる有機溶剤が最も好ましい。
【0061】
このような有機溶剤としては、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、MEK、MIBK、ジオキサン単独が好適に使用できる。混合溶液を用いる場合には、任意の混合比の混合溶液を作製しておき、その混合溶液に共重合ポリエステル樹脂を溶解させるか、あるいは、より共重合ポリエステル樹脂に対して溶解力がある有機溶剤で、共重合ポリエステル樹脂をあらかじめ溶解しておき、後述する分散工程前に規定量の別の有機溶剤を加えてもよい。なお、脱溶剤工程がある場合には、有機溶剤を水と共沸させて脱溶剤するため、有機溶剤の沸点が水の沸点よりも低いほうが効率よく脱溶剤できるため、共重合ポリエステル樹脂を溶解することができ、沸点が100℃よりも低い有機溶剤を選択するほうが好ましい。
【0062】
次に、本発明の水性分散体の有機溶剤の含有率について説明する。
【0063】
水性分散体における有機溶剤の含有率は0〜25質量%であることが好ましく、0〜5質量%であることがより好ましく、0〜1質量%であることがさらに好ましく、0〜0.5質量%が特に好ましい。共重合ポリエステル樹脂の含有率が25質量%を超えると水性分散体の安定性が非常に悪くなるので好ましくない。
【0064】
次に、本発明の水性分散体を製造する方法について詳細に説明する。
【0065】
本発明の水性分散体の製造は、実質的に、溶解工程、分散工程の2工程よりなり、さらに、必要に応じて、脱溶剤工程が付け加えられる。溶解工程は、共重合ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解させる工程であり、分散工程は、有機溶剤に溶解した共重合ポリエステル樹脂溶液を塩基性化合物とともに水に分散させる工程である。脱溶剤工程は、得られた水性分散体から、共重合ポリエステル樹脂の溶解工程で用いた有機溶剤の一部またはすべてを系外に除去する工程である。
【0066】
以下、各工程について説明する。
【0067】
まず、溶解工程では、共重合ポリエステル樹脂を、10〜70質量%程度の濃度となるように前述の有機溶剤に溶解させる。共重合ポリエステル樹脂を溶解させる装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであればよい。また、共重合ポリエステル樹脂が溶解しにくい場合には、加熱してもよい。
【0068】
次に、分散工程について説明する。
【0069】
分散工程では、溶解工程で得られた共重合ポリエステル樹脂溶液を水および塩基性化合物と混合して分散を行う。本発明においては、塩基性化合物を、共重合ポリエステル樹脂を含有した溶液に加えておき、これに水を徐々に投入して分散を行うことが必要であり、このような方法を用いることで、得られる水性分散体の粒子径を300nm以下にすることができ、貯蔵安定性が良好になる。
【0070】
本発明の製造法における塩基性化合物の使用量は、共重合ポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基の総モル量に対する当量比で規定される。共重合ポリエステル樹脂(A)の酸価をEmgKOH/gとし、塩基性化合物(B)の、共重合ポリエステル樹脂のカルボキシル基総モル量に対する当量比をFとした時に、Eが2以上8以下の場合、下記式(1)の範囲で使用することが必要であり、好ましくは下記式(2)の範囲、より好ましくは下記式(3)の範囲である。Eが8以上12以下の場合、下記式(4)の範囲で使用することが必要であり、好ましくは下記式(5)の範囲、より好ましくは下記式(6)の範囲である。
【0071】
Eが2以上8以下の場合
【0072】
【数1】

【0073】
Eが8以上12以下の場合
【0074】
【数2】

【0075】
Fが(1)の範囲よりも小さいと、分散工程において、共重合ポリエステル樹脂のカルボキシル基が中和されて生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力の効果が不充分になり、共重合ポリエステル樹脂が凝集し析出する等の問題が生じる。また、共重合ポリエステル樹脂が生成したとしても粒子径が300nm以上となり、貯蔵安定性が悪くなり好ましくない。一方、Fが(1)の範囲を超える場合には、塩基性化合物の臭いで作業環境が非常に悪くなるばかりか、後述する脱溶剤工程を含む場合には、共重合ポリエステル樹脂が凝集して脱溶剤ができなくなるので好ましくない。なお、分散工程後に、脱溶剤工程行なうと、水性分散体における最終的な塩基性化合物の含有率が1質量%未満にすることができる。
【0076】
同様に、Fが(4)の範囲よりも小さいと、分散工程において、共重合ポリエステル樹脂のカルボキシル基が中和されて生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力の効果が不充分になり、共重合ポリエステル樹脂が凝集し析出する等の問題が生じる。また、共重合ポリエステル樹脂が生成したとしても粒子径が300nm以上となり、貯蔵安定性が悪くなり好ましくない。一方、Fが(4)の範囲を超える場合には、塩基性化合物の臭いで作業環境が非常に悪くなるばかりか、後述する脱溶剤工程を含む場合には、共重合ポリエステル樹脂が凝集して脱溶剤ができなくなるので好ましくない。なお、分散工程後に、脱溶剤工程行なうと、水性分散体における最終的な塩基性化合物の含有率が1質量%未満にすることができる。
【0077】
また、分散工程を行う際の温度は、40℃以下であることが好ましく、30℃
以下がより好ましく、15℃以下がさらに好ましい。温度が40℃以上であると、得られる水性分散体の粒子径が大きくなり、貯蔵安定性が悪くなるので、好ましくない。
【0078】
分散工程を行う装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであればよい。そのような装置としては、固/液撹拌装置や乳化機(例えばホモミキサー)として広く当業者に知られている装置があげられる。なお、ホモミキサーなど煎断の大きい乳化機を用いる際には、内温が40℃以下になるように冷却しながら用いることが好ましい。
【0079】
なお、分散工程は常圧、減圧、加圧下いずれの条件で行ってもよい。
【0080】
なお、有機溶剤の含有率を減少させるためには、脱溶剤工程を設けて、分散工程により得られた水性分散体に含まれる有機溶剤を、減圧または常圧下で蒸留して、有機溶剤の一部またはすべてを系外に除去してもよい。塩基性物質が、共重合ポリエステル樹脂のカルボキシル基の総モル量に対して2倍当量以上含まれており、さらに2時間以上かけて常圧で脱溶剤するような場合には、系内の樹脂が融着し、脱溶剤ができなくなる傾向があるので、そのような場合には、内温が70℃以下、好ましくは内温が60℃以下、さらに好ましくは内温が50℃以下になるように調節しながら、減圧で脱溶剤してもよい。脱溶剤工程を行う装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであればよい。
【0081】
次に、本発明の水性分散体の体積平均粒径について説明する。
【0082】
前記したような製法により、均一に分散され、外観上、水性分散体中に沈殿、相分離あるいは皮張りといった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない均一な状態で得られる。
【0083】
水性分散体の体積平均粒径は300nm以下であることが必要であり、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。体積平均粒径が300nmよりも大きいと、得られる水性分散体中の共重合ポリエステル樹脂がすぐに沈降し、貯蔵安定性が得られないので好ましくない。上記の製造方法を用いて、塩基性化合物の量や転相温度等を制御することで、水性分散体の体積平均粒子径の上記範囲に調整することができる。
【0084】
また、水性分散体の製造にあたっては、異物等を除去する目的で、工程中に濾過工程を設けてもよい。このような場合には、例えば、300メッシュ程度のステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)を設置し、加圧濾過(空気圧0.2MPa)を行えばよい。
【0085】
次に、本発明の水性分散体の使用方法について説明する。
【0086】
本発明の水性分散体は、被膜形成能に優れているので、公知の成膜方法、例えばディッピング法、はけ塗り法、スプレーコート法、カーテンフローコート法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥及び焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である基材の種類等により適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、90〜250℃が好ましく、90〜230℃がより好ましく、100〜200℃が特に好ましく、加熱時間としては、1秒〜30分間が好ましく、5秒〜20分がより好ましく、10秒〜10分が特に好ましい。
【0087】
また、本発明の水性分散体を用いて形成される樹脂被膜の厚さは、その目的や用途によって適宜選択されるものであるが、0.01〜40μmが好ましく、0.1〜30μmがより好ましく、0.5〜20μmが特に好ましい。
【0088】
また、本発明の水性分散体には、必要に応じて硬化剤、各種添加剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック等の顔料、染料、他の水性ポリエステル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性オレフィン樹脂、水性アクリル樹脂等の水性樹脂等を配合することができる。
【0089】
硬化剤としては、共重合ポリエステル樹脂が有する官能基、例えばカルボキシル基やその無水物および水酸基と反応性を有する硬化剤であれば特に限定されるものではなく、例えば尿素樹脂やメラミン樹脂やベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物及びその各種ブロックイソシアネート化合物、多官能アジリジン化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有重合体、フェノール樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種を使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0090】
また、添加剤としてはハジキ防止剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、滑剤等が挙げられる。
【0091】
なお、上記した硬化剤、各種添加剤、顔料、染料、水性樹脂等は、ポリエステル樹脂の溶解時や分散時にあらかじめ添加していてもよい。
【実施例】
【0092】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0093】
1.測定方法
【0094】
(共重合ポリエステル樹脂の特性)
【0095】
(1)共重合ポリエステル樹脂の組成
バリアン社製核磁気共鳴装置(300MHz)にて、H−NMR分析を行い求めた。
【0096】
(2)共重合ポリエステル樹脂の数平均分子量
数平均分子量は、島津製作所製GPC分析(送液ユニットLC−10ADvp型および紫外−可視分光光度計SPD−6AV型を使用、検出波長:254nm、溶媒:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算)により求めた。
【0097】
(3)共重合ポリエステル樹脂のTg
共重合ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、パーキンエルマー社製示差走査熱量測定装置(DSC7型)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、2ndスキャンの昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値をTgとした。
【0098】
(4)共重合ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂0.5gを50mlの水/ジオキサン=1/9(体積比)に溶解し、クレゾールレッドを指示薬としてKOHで滴定を行い、中和に消費されたKOHのmg数をポリエステル樹脂1gあたりに換算した値を酸価として求めた。
【0099】
(5)水性分散体の共重合ポリエステル樹脂の含有率
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱することにより、水性分散体の固形分濃度を求めた。
【0100】
(共重合ポリエステル樹脂水性分散体の特性)
【0101】
(6)水性分散体中の有機溶剤の含有率
島津製作所社製ガスクロマトグラフ(GC−8A型;FID検出器使用)を用い、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG−HT(5%)−UNIPORT HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n-ブタノール条件下にて、水性分散体を水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
【0102】
(7)水性分散体の体積平均粒径
水性分散体を0.1質量%になるように水で希釈し、日機装社製粒度分布測定装置“MICROTRACK UPA”(9340-UPA型)で体積平均粒子径を測定した。
【0103】
(8)水性分散体の貯蔵安定性
50mlのガラス製サンプル瓶に、水性分散体を30ml入れ、25℃で60日保存した後の外観変化を目視にて観察した。
【0104】
(樹脂被膜の特性)
【0105】
(9)樹脂被膜の密着性
安田精機製卓上型コーティング装置(フィルムアプリケータNo.542−AB型;バーコータ装着)を用いて、基材上に水性水分散体をコーティングし、130℃に設定されたオーブン中で1分間加熱することにより、基材上に厚み約1μmの樹脂被膜を形成させ、次いで、この樹脂被膜上にJIS Z1522に規定された粘着テープ(幅18mm)の端部を残して貼りつけ、その上から消しゴムでこすって十分に接着させた後に、粘着テープの端部をフィルムに対して直角としてから瞬間的に引き剥がした。この引き剥がした粘着テープ面をパーキンエルマー社製表面赤外分光装置(SYSTEM2000型;Ge60°50×20×2mmプリズムを使用)で分析することにより、粘着テープ面に樹脂被膜が付着しているか否かを調べ、下記の基準によって樹脂被膜の基材に対する密着性を評価した。尚、基材としては、二軸延伸PETフィルム(ユニチカ株式会社製、厚さ12μm)を使用した。
○:粘着テープ面に樹脂被膜に由来するピークが認められない。
×:粘着テープ面に樹脂被膜に由来するピークが認められる。
【0106】
(10)樹脂被膜の耐熱水性
卓上型コーティング装置を用いて、上記の二軸延伸PETフィルム上に水性分散体をコーティングし、160℃に設定されたオーブン中で1分間加熱することにより、厚み約1μmの樹脂被膜を形成させた後、この樹脂被膜が形成されたPETフィルムを、沸騰水に部分的に浸漬させ、4時間後に静かに引き上げ、風乾させた後、樹脂被膜の外観を目視にて観察し、下記の基準により評価した。
○:外観変化が全く認められない。
×:部分的に白化や溶解が見られる。
【0107】
(11)樹脂被膜の耐溶剤性
卓上型コーティング装置を用いて、上記の二軸延伸PETフィルム上に水性分散体をコーティングし、180℃に設定されたオーブン中で1分間加熱することにより、厚み約1μmの樹脂被膜を形成させた後、この樹脂被膜が形成されたPETフィルムを、室温下でエタノールに部分的に浸漬させ、10分後に静かに引き上げ、風乾させた後、樹脂被膜の外観を目視にて観察し、下記の基準により評価した。
○:外観変化が全く認められない。
×:部分的に白化や溶解が見られる。
【0108】
(共重合ポリエステル樹脂の製造)
【0109】
製造例1
テレフタル酸1661g(100モル部)1,2−プロパンジオール586g(77モル部)、イソソルビド(ロケット社製)1066g(73モル部)、トリメリロールプロパン2.7g(0.2モル部)からなる混合物に、触媒としてヒドロキシブチルスズオキサイド1.3gを添加して、攪拌しながら、オートクレーブ中、240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、270℃に昇温し、触媒としてテトラブチルチタネート3.4gを投入し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、重縮合反応をおこなった。4時間後、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、260℃になったところで無水トリメリット酸6.3g(0.3モル)を添加し、260℃で2時間撹拌して、解重合反応を行った。その後、系の圧力を除々に減じて0.5時間後に6700Paとし、0.5時間、脱泡反応を行った。その後、系を窒素ガスで加圧状態にして、ストランド状に樹脂を払い出し、水冷後、カッティングして、ペレット状(直径 約3mm、長さ 約3mm)の共重合ポリエステル樹脂(P−1)を得た。この共重合ポリエステル樹脂(P−1)の数平均分子量は9000、ガラス転移温度は131℃、酸価3.0mgKOH/gであった。樹脂組成と特性値および溶解性評価の結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
製造例2
テレフタル酸1495g(90モル部)、イソフタル酸166g(10モル部)、1,2−プロパンジオール1104g(145モル部)、イソソルビド(ロケット社製)73g(5モル部)、からなる混合物を攪拌しながら、オートクレーブ中、240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなう以外は実施例1と同様の操作を行って、共重合ポリエステル樹脂(P−2)を得た。得られたポリエステル樹脂(P−2)の最終樹脂組成と特性値を表1に示す。
【0112】
製造例3〜11
使用モノマー、仕込みモル部を変更し、上記製造例1と同様の操作を行って、共重合ポリエステル樹脂(P−3)〜共重合ポリエステル樹脂(P−11)を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂(P−3)〜(P−11)の最終樹脂組成と特性値を表1に示す。
【0113】
実施例1
[溶解工程]
3Lのポリエチレン製容器に共重合ポリエステル樹脂(P−1)(酸価3.0mgKOH/g)を400gとシクロヘキサノンを600g投入し、約80℃の温水で容器を加熱しながら、東京理化株式会社製攪拌機(MAZELA1000型)を用いて攪拌することにより、完全に共重合ポリエステル樹脂をシクロヘキサノンに溶解させ、固形分濃度40質量%の共重合ポリエステル樹脂溶液を得た。
[分散工程]
溶解したのち、すぐに溶解液を15℃に冷却し、ジャケット付きガラス容器(内容量2L)に上記共重合ポリエステル樹脂溶液500gを仕込み、系内温度を約15℃に保ちながら、東京理化株式会社製攪拌機(MAZELA1000型)で攪拌した(回転速度 600rpm)。次いで、攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン16.2g(共重合ポリエステル樹脂の総カルボキシル基量に対して15倍の当量比)を添加し、続いて100g/minの速度で約15℃の蒸留水1984gを添加した。添加終了後の水性分散体の温度は約15℃であり、約15℃を保ちながら30分間攪拌して水性分散体を得た。
[脱溶剤工程]
続いて、得られた水性分散体を300gと蒸留水245gを2Lフラスコ入れ、内温が80℃以下になるように調整しながら100mmHgの減圧度で東京理化株式会社製ロータリーエバポレーター(N−1100V−WD型)を用いて脱溶剤を行った。脱溶剤は留去量が約360gになったところで終了し、室温まで冷却後、300メッシュのステンレス製フィルターで濾過した。次いで、この水性分散体の固形分濃度を測定した後、固形分濃度が30質量%になるように蒸留水を添加して、水性分散体を得た。得られた水性分散体の体積平均粒径は138μmで、貯蔵安定性が良好で、樹脂被膜の密着性、耐熱水性、耐溶剤性は良好であった。その結果を表2に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
実施例2
[溶解工程]
3Lのポリエチレン製容器に共重合ポリエステル樹脂(P-2)(酸価3.0mgKOH/g)400gと2−ブタノン600g投入し、還流管がついた容器を投入し、約80℃の温水で加熱しながら、東京理化株式会社製攪拌機(MAZELA1000型)を用いて攪拌することにより、完全に共重合ポリエステル樹脂を2−ブタノンに溶解させ、固形分濃度40質量%の共重合ポリエステル樹脂溶液を得た。
[分散工程]
溶解したのち、すぐに溶解液を15℃に冷却し、ジャケット付きガラス容器(内容量2L)に上記共重合ポリエステル樹脂溶液500gを仕込み、系内温度を約15℃に保ちながら、東京理化株式会社製攪拌機(MAZELA1000型)で攪拌した(回転速度 600rpm)。次いで、攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン10.8g(共重合ポリエステル樹脂の総カルボキシル基量に対して10倍の当量比)を添加し、続いて100g/minの速度で約15℃の蒸留水1989gを添加した。添加終了後の水性分散体の温度は約15℃であり、約15℃を保ちながら30分間攪拌して水性分散体を得た。
[脱溶剤工程]
続いて、得られた水性分散体を300gと蒸留水5gを2Lフラスコ入れ、120℃のオイルバスにいれ、常圧で脱溶剤をおこなった。脱溶剤は留去量が約120gになったところで終了し、室温まで冷却後、300メッシュのステンレス製フィルターで濾過した。次いで、この水性分散体の固形分濃度を測定した後、固形分濃度が30質量%になるように蒸留水を添加して、水性分散体を得た。評価結果を表2に示す。
【0116】
実施例3
[溶解工程]
3Lのポリエチレン製容器に共重合ポリエステル樹脂(P-3)(酸価3.5mgKOH/g)500gとトルエン/2−ブタノン=1/1(質量比)500gを、還流管がついた容器を投入し、約80℃の温水で加熱しながら、東京理化株式会社製攪拌機(MAZELA1000型)を用いて攪拌することにより、完全に、トルエン、2−ブタノンの比率を変えないように、共重合ポリエステル樹脂をトルエン/2−ブタノン=1/1(質量比)に溶解させ、固形分濃度50質量%のポリエステル樹脂溶液を得た。
[分散工程]
溶解したのち、すぐに溶解液を15℃に冷却し、ジャケット付きガラス容器(内容量2L)に上記共重合ポリエステル樹脂溶液500gを仕込み、系内温度を約15℃に保ちながら、東京理化株式会社製攪拌機(MAZELA1000型)で攪拌した(回転速度 600rpm)。次いで、攪拌しながら、塩基性化合物としてトリエチルアミン31.6g(共重合ポリエステル樹脂の総カルボキシル基量に対して25倍の当量比)を添加し、続いて100g/minの速度で約15℃の蒸留水1968gを添加した。添加終了後の水性分散体の温度は約15℃であり、約15℃を保ちながら30分間攪拌して水性分散体を得た。
[脱溶剤工程]
続いて、得られた水性分散体を300gと蒸留水156gを2Lフラスコ入れ、120℃のオイルバスにいれ、常圧で脱溶剤をおこなった。脱溶剤は留去量が約225gになったところで終了し、室温まで冷却後、300メッシュのステンレス製フィルターで濾過した。次いで、この水性分散体の固形分濃度を測定した後、固形分濃度が30質量%になるように蒸留水を添加して、水性分散体を得た。評価結果を表2に示す。
【0117】
実施例4、7
共重合ポリエステル樹脂、共重合ポリエステル樹脂の総カルボキシル基量に対しての当量比を変更する以外は実施例1と同様に水性分散体を得た。評価結果を表2に示す。
【0118】
実施例5、6、8
共重合ポリエステル樹脂、共重合ポリエステル樹脂の総カルボキシル基量に対しての当量比を変更する以外は実施例2と同様に水性分散体を得た。評価結果を表2に示す。
【0119】
実施例9
塩基性化合物としてトリエチルアミンのかわりにジメチルアミノエタノール14.3gに変更する以外は実施例2と同様に水性分散体を得た。評価結果を表2に示す。
【0120】
実施例10、11、12
実施例1、3、4の脱溶剤工程をおこなわない以外は実施例1、3、4と同様に水性分散体を得た。評価結果を表2に示す。
【0121】
比較例1
トリエチルアミンを添加せずに転相乳化する以外は、実施例2と同様におこなったが、転送乳化工程において、蒸留水添加中に共重合ポリエステル樹脂が攪拌羽に絡まり、水性分散体が得られなかった。評価結果を表2に示す。
【0122】
比較例2
トリエチルアミンの量を1.6g(共重合ポリエステル樹脂の総カルボキシル基量に対して1.5倍の当量比)にする以外は、実施例2と同様におこなったが、塩基性化合物の量が少なかったために、得られた水性分散体の体積平均粒径が400nmとなり、1週間ほど放置すると沈殿が生じ、貯蔵安定性の良好な水性分散体が得られなかった。評価結果を表2に示す。
【0123】
比較例3
トリエチルアミンの量を43.3g(共重合ポリエステル樹脂の総カルボキシル基量に対して40倍の当量比)に変更すること、および、分散工程で添加する蒸留水を1957gに変更する以外は、実施例2と同様の方法でおこなったが、塩基性化合物の量が式(1)で規定する量よりも多かったために、トリエチルアミン臭で作業環境が非常に悪くなったばかりか、脱溶剤の際に共重合ポリエステル樹脂が凝集して脱溶剤ができなかった。評価結果を表2に示す。
【0124】
比較例4
共重合ポリエステル樹脂として、(P−2)のかわりに、(P−9)を使用する以外は、実施例2と同様の方法でおこなったが、使用した共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度が低かったために、2時間程度までは問題なかったが、4時間熱水に浸漬させると部分的に白化し、耐熱水性が不良であった。評価結果を表2に示す。
【0125】
比較例5
共重合ポリエステル樹脂として、(P−2)のかわりに、(P−10)を使用する以外は、実施例2と同様の方法でおこなったが、使用した共重合ポリエステル樹脂の酸価が低かったために、転送乳化工程において、蒸留水添加中に共重合ポリエステル樹脂が攪拌羽に絡まり、水性分散体が得られなかった。評価結果を表2に示す。
【0126】
比較例6
共重合ポリエステル樹脂として、(P−2)のかわりに、(P−11)を使用する以外は、実施例2と同様の方法でおこなったが、使用した共重合ポリエステル樹脂の酸価が高く、分子量が低かったために、密着性、耐熱水性、耐溶剤性がいずれも悪くなった。
【0127】
実施例1〜12の水性分散体は、ガラス転移温度が85℃以上と高く、塗布被膜は密着性、耐熱水性、耐溶剤性いずれも良好なものであった。評価結果を表2に示す。
【0128】
比較例1〜6は、本発明の規定の範囲外で実施したため、水性分散体が得られなかったり、水性分散体が得られたとしても、特性値が不適であった。










【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)成分が配合されてなり、共重合ポリエステル樹脂の微粒子が水性媒体中に均一分散された共重合ポリエステル樹脂水性分散体であって、共重合ポリエステル樹脂水性分散体における共重合ポリエステル樹脂の含有率が5〜50質量%であり、共重合ポリエステル樹脂の体積平均粒径が300nm以下であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂水性分散体。
(A)主としてジカルボン酸成分とグリコール成分からなり、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸、グリコール成分としてイソソルビドを含み、酸価が2〜12mgKOH/gであり、ガラス転移温度が85℃以上であり、数平均分子量が4000以上である共重合ポリエステル樹脂。
(B)塩基性化合物
(C)有機溶剤が0〜25質量%。
(D)水
【請求項2】
共重合ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解させた後、水、塩基性化合物と混合して分散することを特徴とする請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂水性分散体から得られる共重合ポリエステル樹脂被膜。


















【公開番号】特開2010−215770(P2010−215770A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63316(P2009−63316)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】