説明

共重合ポリエステル樹脂

【課題】常温での柔軟性に優れ、脆さを改良したポリエステル樹脂であって、湿熱耐久性にも優れたポリエステル樹脂を提供する。より詳細には、電気・電子部品等のモールディング用途や、ポッティング加工用途に好適な共重合ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】酸成分として、芳香族ジカルボン酸とドデカン二酸とを含有し、グリコール成分として、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコール類とを含有し、酸成分中のドデカン二酸の含有量が20〜50モル%であり、グリコール成分中の1,4-ブタンジオールの含有量が80モル%以上であり、グリコール成分中のポリブタジエングリコール類の含有量が0.5〜20モル%であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸成分中にドデカン二酸を、グリコール成分中に1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコール類とを含有する共重合ポリエステル樹脂であって、柔軟性、湿熱耐久性に優れた共重合ポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する)またはポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略称する)単位を主成分とし、脂肪族ジカルボン酸または各種ジオールを共重合させた共重合ポリエステルは、優れた耐熱性、耐候性、耐溶剤性、柔軟性等を有しているため、フィルム、繊維、シート、接着剤、シーラントとして広く利用されている。
【0003】
しかしながら、上記の共重合ポリエステルは、高い柔軟性を必要とする用途に用いる場合、低温や常温での柔軟性に欠けて脆いものであり、使用できる用途に限界があった。
【0004】
このような欠点を改善するために、ポリエステル樹脂にソフトセグメントを共重合する方法が考えられている。ポリエーテル化合物をソフトセグメントとするポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体は、樹脂のガラス転移点が低く、流動性が高く、分子量を低下させても樹脂に柔軟性がある。このため、電気・電子部品あるいは自動車部品などで利用される成形材料などの素材として広く利用されている。このようなポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体は、例えば特許文献1に開示されている。
【0005】
しかしながら、このポリエステル−ポリエーテルブロック共重合体はハードセグメントのエステル結合により加水分解が起きやすく、さらにソフトセグメントであるポリエーテル化合物は高温に晒されたとき、酸化分解や熱分解などが起こりやすいなどの問題があり、この結果、共重合体自身の湿熱耐久性に問題があった。
【0006】
特許文献2には、モールディング用に適したポリエステル樹脂及び樹脂組成物が記載されている。特許文献2に記載の樹脂は、電気・電子部品用のモールディング用途に適したものであり、防水性、耐久性、耐燃料性等に優れることが記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載されているような組成では、十分な柔軟性、湿熱耐久性が得られない。このため、電気・電子部品等のモールディング用途に使用すると、その樹脂から得られる製品は、樹脂部分と内部の電気・電子部品等の剥離が生じたり、樹脂部分に亀裂が生じ、長期間使用することができないという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−3429号公報
【特許文献2】特開2003−176341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、常温での柔軟性に優れ、脆さを改良したポリエステル樹脂であって、湿熱耐久性にも優れたポリエステル樹脂を提供すること、より詳細には、電気・電子部品等のモールディング用途や、ポッティング加工用途に好適な共重合ポリエステル樹脂を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討した結果、特定の組成を有する共重合ポリエステル樹脂とすることにより上記課題を解決することができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、酸成分として、芳香族ジカルボン酸とドデカン二酸とを含有し、グリコール成分として、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコール類とを含有し、酸成分中のドデカン二酸の含有量が20〜50モル%であり、グリコール成分中の1,4-ブタンジオールの含有量が80モル%以上であり、グリコール成分中のポリブタジエングリコール類の含有量が0.5〜20モル%であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、ドデカン二酸とポリブタジエングリコール類を必須成分とする特定の組成を有するものであるため、常温での柔軟性に優れており、適度な硬さを有し、脆さが改良されたものであって、かつ、湿熱耐久性にも優れている。
そして、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、成形性に優れ、射出成形、ブロー成形、押し出し成形、溶融紡糸等により各種の成形品(容器、フィルム、繊維、シート)とすることが可能である。また、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、溶融時の流動性に優れ、低圧での射出成形が可能であるため、薄肉や複雑な形状を有する部品にも溶融成形が可能であり、モールディング用途にも好適に用いることができる。さらには、ハウジング内や基盤上に部品を置き、これに樹脂を注型し、ハウジングや基板と部品を一体化させるポッティング用途にも好適に用いることができる。
本発明の共重合ポリエステル樹脂は湿熱耐久性に優れていることから、特に電気・電子部品あるいは自動車用部品など、過酷な環境でも使用できる部品等に好適に使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の共重合ポリエステル樹脂を構成する酸成分は、芳香族ジカルボン酸とドデカン二酸とを含有するものである。
まず、酸成分について説明する。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、これらを2種類以上併用してもよく、これらの酸のエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0013】
芳香族ジカルボン酸は、共重合ポリエステル樹脂の融点を上げ、耐熱性を付与するとともに機械的強度を上げることに寄与するものである。かかる見地より、本発明では、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸及びイソフタル酸の少なくとも1種が好ましい。酸成分中における芳香族ジカルボン酸の含有量(割合)は50〜80モル%であることが好ましく、中でも65〜80モル%であることが好ましい。芳香族ジカルボン酸の割合が50モル%未満になると、共重合ポリエステル樹脂の融点が低くなり、耐熱性に劣るとともに、機械的強度も低くなりやすい。一方、80モル%を超えると、ドデカン二酸の割合が少なくなり、共重合ポリエステル樹脂の柔軟性や湿熱耐久性を向上させる効果に乏しくなりやすい。
【0014】
ドデカン二酸は、主に共重合ポリエステル樹脂の柔軟性を上げ、脆さを改良するとともに、湿熱耐久性を向上させることにも寄与するものである。酸成分中のドデカン二酸の含有量(割合)は、20〜50モル%であることが必要であり、中でも20〜35モル%であることが好ましい。ドデカン二酸を共重合成分として含有することにより、得られる共重合ポリエステル樹脂が柔軟性に優れたものとなり、適度な硬さを有し、脆さも改良されたものとなる。さらには湿熱耐久性も向上する。ドデカン二酸の割合が20モル%未満であると、得られる共重合ポリエステル樹脂に柔軟性、適度な硬さ、湿熱耐久性等を付与することが困難となる。一方、ドデカン二酸の割合が50モル%を超えると、得られる共重合ポリエステルの融点が低くなり、耐熱性に劣るとともに、機械的強度も低くなりやすい。
【0015】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、酸成分中に上記したような芳香族ジカルボン酸とドデカン二酸とを含有するが、本発明の効果を十分に奏するためには、酸成分としてテレフタル酸及び/又はイソフタル酸とドデカン二酸のみを含有することが好ましい。これら以外の他の酸成分を含有する場合は、できるだけ少量であることが好ましく、5モル%以下であることが好ましい。他の酸成分としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、エイコサン二酸等が挙げられる。
【0016】
次に、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分として、1,4−ブタンジオールを含有するものである。グリコール成分中の1,4−ブタンジオールの含有量(割合)は、80モル%以上であり、中でも85〜98モル%であることが好ましい。グリコール成分として、1,4−ブタンジオールを80モル%以上含有することで、得られる共重合ポリエステル樹脂は、融点が高くなり、耐熱性に優れるとともに、成形性にも優れる。1,4−ブタンジオールに代えて、1,2−エチレングリコールを用いると、得られる共重合ポリエステル樹脂は、結晶化速度が遅くなり成形性が悪いものとなる。また、1,4−ブタンジオールに代えて、1,6−ヘキサンジオールを用いると、得られる共重合ポリエステルは、融点が低くなり、耐熱性に劣るものとなる。
【0017】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂のグリコール成分中には、ポリブタジエングリコール類が含有されている。グリコール成分中のポリブタジエングリコール類の含有量は、0.5〜20モル%であり、中でも2〜15モル%であることが好ましい。
グリコール成分中にポリブタジエングリコール類が含有されていることにより、得られる共重合ポリエステル樹脂は柔軟性に優れ、脆さが改良されるとともに、湿熱耐久性に優れたものとなる。ポリブタジエングリコール類の割合が0.5モル%未満であると、得られる共重合ポリエステル樹脂に柔軟性や湿熱耐久性を付与することが困難となる。一方、ポリブタジエングリコール類の割合が20モル%を超えると、得られる共重合ポリエステル樹脂の融点が低くなり、耐熱性に劣るとともに、機械的強度も低くなりやすい。
【0018】
ポリブタジエングリコール類は、平均分子量が350〜6000であることが好ましく、中でも500〜4500であることが好ましい。ポリブタジエングリコール類の平均分子量が6000を超えると、相溶性が悪くなり、共重合することが困難となりやすい。一方、分子量が350未満では、得られる共重合ポリエステル樹脂の柔軟性を向上させることが困難となりやすい。
【0019】
ポリブタジエングリコール類としては、1,2−ポリブタジエングリコールや1,4−ポリブタジエングリコール等のほか、これらを水素還元して得られる水素添加型ポリブタジエングリコールが使用できる。より具体的には、例えばブタジエンをアニオン重合により重合し、末端処理により両末端に水酸基又は水酸基を有する基を導入して得られるジオール、これらの二重結合を水素還元して得られるジオール(水素添加型ポリブタジエングリコール)等が挙げられる。
【0020】
ポリブタジエングリコール類は、公知のもの又は市販品を使用することができる。具体的には、1,4−繰り返し単位を主に有する水酸基化ポリブタジエン(例えば、出光興産社製、「Poly bd R−45HT」、「Poly bd R−15HT」)、1,2−繰り返し単位を主に有する水酸基化ポリブタジエン(例えば、日本曹達社製「G−1000」、「G−2000」、「G−3000」)、水酸基化水素化ポリブタジエン(例えば、日本曹達社製「GI−1000」、「GI−2000」、「GI−3000」)等が挙げられる。
【0021】
本発明におけるポリブタジエングリコール類としては、水素添加型ポリブタジエングリコールが好ましい。水素添加型ポリブタジエングリコールは、重縮合反応中に副反応が生じにくいため、より優れた柔軟性、湿熱耐久性を有する共重合ポリエステル樹脂を得ることが可能となる。
【0022】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分中に1,4−ブタンジオールとポリブタジエングリコール類を含有するが、本発明の効果を十分に奏するためには、グリコール成分として1,4−ブタンジオールとポリブタジエングリコール類のみを含有することが好ましい。これら以外の他のグリコール成分を含有する場合は、できるだけ少量であることが好ましく、5モル%以下であることが好ましい。他のグリコール成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物およびプロピレンオキシド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0023】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、上記のようなドデカン二酸とポリブタジエングリコール類を必須とする特定の酸成分とグリコール成分とからなるものであるため、柔軟性に優れるとともに、適度な硬さを有し、脆さが改良されたものとなる。さらには湿熱耐久性にも優れたものとなる。そして、本発明の共重合ポリエステル樹脂のこのような性能を示す指標として、以下のような指標を満足することが好ましい。
【0024】
まず、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、柔軟性を示す指標として、20℃でのヤング率が100MPa以下であることが好ましく、中でも10〜80MPaであることが好ましい。ヤング率は、本発明の共重合ポリエステル樹脂を日精樹脂工業社製の射出成型機「PS20E2ASE」を用いて、射出成形し、厚み1mm、幅3mmの成型サンプルを作成し、引張試験機「テンシロン」(オリエンテック社製UTM−4−100型)を用い、20℃にて引張速度10mm/minで測定するものである。
【0025】
そして、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、適度な硬さを有し、脆さが改良されたものであることを示す指標として、20℃でのショアD硬度が60以下であることが好ましく、中でも20〜55であることが好ましい。ショアD硬度は、本発明の共重合ポリエステル樹脂を日精樹脂工業社製の射出成型機「PS20E2ASE」を用いて射出成形し、厚み3mm、幅20mmの成型サンプルを作成し、このサンプルを2枚重ね合わせ、20℃にてショアD硬度計(WESTOP WR−105D)を用い測定するものである。
【0026】
20℃でのヤング率が100MPaを超えると、共重合ポリエステル樹脂は柔軟性に乏しいものとなりやすい。一方、ヤング率が10MPa未満であると、成形加工性が低下しやすくなる。また、20℃でのショアD硬度が60を超えると、共重合ポリエステル樹脂は、硬さが不十分で脆い樹脂となり、多種多様な用途に用いることが困難となりやすい。一方、ショアD硬度が20未満であると、成形加工性が低下しやすくなる。そして、本発明の共重合ポリエステル樹脂は上記のヤング率とショアD硬度の両者ともに満足するものであることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂が湿熱耐久性に優れることを示す指標として、下記に示すひずみ保持率が80%以上であることが好ましく、中でも85%以上であることが好ましく、さらには90%以上であることが好ましい。ひずみ保持率が80%未満では、湿熱処理により樹脂の強度低下が大きいものとなり、このような樹脂を使用した成形体は形状安定性に劣るものとなる。つまり、湿熱環境下で長期間使用することが困難な成形体となる。
なお、本発明におけるひずみ保持率は、以下のようにして算出する。本発明の共重合ポリエステル樹脂を日精樹脂工業社製の射出成型機「PS20E2ASE」を用いて、融点よりも50℃高い温度で溶融した樹脂を圧力1MPaで金型内に射出成形し、厚み1mm、幅3mmの成型サンプルを作成し、ISO規格527−2に記載の方法に従い、引張破壊ひずみを測定する(処理前の引張破壊ひずみ)。恒温恒湿器(ヤマト科学社製IG400型)を用い、得られた成型サンプルを、温度60℃湿度95%RHの環境下に200時間保存処理し、湿熱処理を施す。湿熱処理後のサンプルを上記と同様にして引張破壊ひずみを測定し、下記式により算出する。
ひずみ保持率(%)=〔(処理後の引張破壊ひずみ)/(処理前の引張破壊ひずみ)〕×100
【0028】
さらに、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、耐熱性にも優れるものであり、融点は120〜180℃であることが好ましく、中でも130〜170℃であることが好ましい。融点が120℃未満では耐熱性に乏しく、用いる用途が限定される。一方、180℃を超えると成型時の加工温度を高くする必要があり、コスト的に不利になると同時に、樹脂の熱劣化も大きくなる。本発明の共重合ポリエステル樹脂は、このような融点を有するものであるため、成形加工性にも優れるものとなる。
なお、融点は、パーキンエルマー社ダイヤモンドDSCを使用し、10℃/分で昇温、降温し、融解ピークの温度で測定するものである。
【0029】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂は、200℃での溶融粘度が1Pa・s〜300Pa・sであることが好ましく、10〜150Pa・sであることがより好ましい。溶融粘度がこの範囲内であることにより、低圧での成形加工が可能となり、ホットメルトモールディング用途やポッティング用途に好適なものとなる。具体的には、圧力0.1〜5MPa、特に0.1〜3MPaでの成形が可能なものとなる。
【0030】
溶融粘度が300Pa・sを超えると、流動性が低くなり、低圧での成形が困難となる。また溶融粘度を低下させるために溶融温度を高くすると、装置への負荷が大きくなるほか、共重合ポリエステル樹脂の熱劣化も顕著なものとなる。一方、溶融粘度が1Pa・s未満であると、共重合ポリエステル樹脂の強度が低くなりやすい。
なお、溶融粘度は、フローテスター(島津製作所製、型式CFT−500)にて、ノズル径1.0mm、ノズル長10mmのノズルを用い、剪断速度1000sec−1の時の溶融粘度を測定するものである。
【0031】
なお、本発明でいうホットメルトモールディング法とは、溶剤を用いることなく、樹脂を溶融し、予め工業用部品(特に電子部品)が配置された金型内に、溶融した樹脂を低圧(好ましくは0.1〜3MPa)で射出注入し、前記部品のハウジング又はケースとして樹脂の成形(いわゆるインサート成形)を行う方法をいう。
【0032】
本発明におけるポッティング法とは、予めハウジング内又は基板上に工業用部品を置き、これに溶融した樹脂を低圧(好ましくは1MPa以下)で注入又は滴下し、前記ハウジング又は基板と前記部品とを一体化させる方法をいう。
【0033】
本発明の共重合ポリエステル樹脂は、柔軟性、湿熱耐久性等に優れることから、ホットメルトモールディング用途又はポッティング用途に用いると、成形加工性が良好であるのみならず、得られる製品(部品)は、インサートする電子部品と樹脂との接着に優れ、樹脂と電子部品との剥離が生じにくいものとなる。このため、過酷な環境下で長期間使用をしても、樹脂と電子部品との剥離が生じず、樹脂部分にひびや割れも生じにくいものとなる。
【0034】
次に、本発明の共重合ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
上記の酸成分とグリコール成分を150〜250℃でエステル化反応させた後、重縮合反応触媒の存在下で減圧しながら(好ましくは大気圧から10〜30Pa程度まで減圧しながら)230〜300℃で重縮合することにより、本発明の共重合ポリエステル樹脂を得ることができる。また例えば、芳香族ジカルボン酸のジメチルエステル等の誘導体とグリコール成分を150℃〜250℃でエステル交換反応させた後、重縮合反応触媒の存在下で減圧しながら(好ましくは大気圧から10〜30Pa程度まで減圧しながら230℃〜300℃で重縮合することにより、本発明の共重合ポリエステル樹脂を得ることができる。
【0035】
本発明の共重合ポリエステル樹脂には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、結晶核剤等を添加してもよい。
熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤が使用できるが、環境を配慮した場合、非ハロゲン系難燃剤の使用が望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等)、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)、無機系化合物(硼酸塩、Mo化合物等)が挙げられる。
充填材としては、層状珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
なお、本発明の共重合ポリエステル樹脂にこれらを添加する方法は特に限定されない。
【0036】
また、本発明の共重合ポリエステル樹脂を用いる際には、その効果を損なわない範囲で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、およびそれらの共重合体等の樹脂を添加して用いてもよい。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(1)融点、溶融粘度
上記と同様の方法で測定した。
(2)ポリマー組成
得られたポリエステル樹脂組成物を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(3)ショアD硬度、ヤング率
上記と同様の方法で測定した。
(4)引張破壊ひずみ、ひずみ保持率(湿熱耐久性)
上記と同様の方法で測定した。
(5)引張強度
(4)と同様にして得られた成型サンプルを用い、引張試験機「テンシロン」(オリエンテック社製UTM−4−100型)を用い、20℃にて引張速度10mm/分で測定するものである。
(6)成形性1(ホットメルトモールディング)
得られた共重合ポリエステル樹脂を融点よりも50℃高い温度で溶融し、日精樹脂工業社製「PS20E2ASE」を用い、圧力1MPaにて射出成形を行った。このとき、被モールディング材料として塩化ビニル製のリード線2本をハンダ付けした回路基板を用い、アルミニウム製金型を用いてインサート成型することで、共重合ポリエステル樹脂と回路基板が一体化された電気部品を得た。部品を得る際の成形性を、金型から離型可能となる時間(離型時間)にて以下の3段階で評価した。
○・・・離型時間が10秒以内であった。
△・・・離型時間が10秒を超え20秒以内であった。
×・・・離型時間が20秒を超えていた。
上記の成形性が○の部品について、部品を得た際(処理前)、部品を80℃、95%の環境下で500時間放置した後(湿熱処理後)の両方の場合において、回路基板内の絶縁特性について以下のように評価した。
○・・・絶縁性が保持されている。
×・・・絶縁性が破られている。
なお、回路基板において、2本のリード線のハンダ付けした箇所(2箇所)はつながっていない。したがって、通常ではリード線間で電気は流れない(絶縁性が保たれている)。湿熱処理後、樹脂と回路基板の間に水が入り込むと、水が導体となってリード線間に電流が流れる(絶縁性が破られる)こととなる。
(7)成形性2(ポッティング)
得られた共重合ポリエステル樹脂を融点よりも50℃高い温度で溶融した。そして、ハウジング(容器型のもの)内に成形性1で使用したものと同じ回路基板を置き、これに溶融した共重合ポリエステル樹脂を圧力0.5MPaにて注入し、ハウジングと樹脂と回路基板を一体化させて電気部品を得た。部品を得る際の成形性を目視にて以下の3段階で評価した。
○・・・樹脂が部品全体に流れ込んでおり、表面に凹凸が見られない。
△・・・樹脂が部品全体に流れこんでいるが、形状に凹凸が見られる。
×・・・樹脂の流れこみが不十分で、回路基板の一部が露出している。
上記の成形性が○の部品について、部品を得た際(処理前)、部品を80℃、95%の環境下で500時間放置した後(湿熱処理後)の両方の場合において、回路基板内の絶縁特性について以下のように評価した。
○・・・絶縁性が保持されている。
×・・・絶縁性が破られている。
なお、回路基板において、2本のリード線のハンダ付けした箇所(2箇所)はつながっていない。従って、通常ではリード線間で電気は流れない(絶縁性が保たれている)。湿熱処理後、樹脂と回路基板の間に水が入り込むと、水が導体となってリード線間に電流が流れる(絶縁性が破られる)こととなる。
【0038】
実施例1
酸成分として、テレフタル酸74質量部、イソフタル酸11質量部、ドデカン二酸40質量部を用い、ジオール成分として、1,4−ブタンジオール79質量部、ポリブタジエングリコール(1,2−繰り返し単位を主に有する水酸基化水素化ポリブタジエン;日本曹達社製、「GI−1000」)72質量部を用い、240℃に加熱して、エステル交換反応を行った。次に、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネート0.1質量部を添加し、温度240℃にて60分間で徐々に真空度を上げながら10〜30Paの高真空までもっていき、その後4時間重縮合反応を行い、反応終了後に払い出し、表1に示す組成を有する共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0039】
実施例2〜9、比較例1〜3、6〜7
テレフタル酸、イソフタル酸、ドデカン二酸、1,4−ブタンジオール、ポリブタジエングリコールの添加量を変更し、表1に示す組成となるようにした以外は、実施例1と同様に行い、表1に示す組成を有する共重合ポリエステル樹脂を得た。
なお、実施例8、9では、ポリブタジエングリコールとして、日本曹達社製「GI−2000」(1,2−繰り返し単位を主に有する水酸基化水素化ポリブタジエン)を使用した。
【0040】
比較例3
酸成分として、テレフタル酸とイソフタル酸のみを用いた以外は、実施例1と同様に行い、表1に示す組成を有する共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0041】
比較例4
1,4−ブタンジオールに代えて、1,6−ヘキサンジオールを用いた以外は、実施例1と同様に行い、表1に示す組成を有する共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0042】
比較例5
グリコール成分として、1,4−ブタンジオールのみを用いた以外は、実施例1と同様に行い、表1に示す組成を有する共重合ポリエステル樹脂を得た。
【0043】
実施例1〜9、比較例1〜7で得られた共重合ポリエステル樹脂の組成、特性値、評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から明らかなように、実施例1〜9で得られた共重合ポリエステル樹脂は、本発明を満足する組成のものであったため、柔軟性に優れ、かつ適度な硬さを有しており、脆さが改良されたものであったこのため、20℃でのヤング率が70MPa以下、20℃でのショアD硬度が50以下であった。さらに、ひずみ保持率も高く、湿熱耐久性にも優れていた。そして、実施例1〜9で得られた共重合ポリエステル樹脂は、ホットメルトモールディング又はポッティングで成形品を得た際の成形性に優れており、得られた成形品は成形時、湿熱処理後の両方において十分な絶縁特性を有していた。つまり、両方法で得られた成形品は、樹脂と部品との接着性が良好であり、過酷な環境下においても長期間使用が可能なものであった。
一方、比較例1、3で得られた共重合ポリエステル樹脂は、酸成分中のドデカン二酸の含有量が少ない、もしくはドデカン二酸を含有しないものであったため、ショアD硬度、ヤング率が高く柔軟性に劣るものであり、また、ひずみ保持率が低く、湿熱耐久性にも劣るものであった。比較例2で得られた共重合ポリエステル樹脂は、酸成分中のドデカン二酸の含有量が多く、芳香族ジカルボン酸の含有量が少ないものであったため、融点が低く、耐熱性に劣るとともに成形性に劣るものであった。また、引張強度も低いものであった。比較例4で得られた共重合ポリエステル樹脂は、ジオール成分として1,4-ブタンジオールを含有せず、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするものであったため、融点が低く、耐熱性に劣るとともに成形性にも劣るものであった。比較例5、6で得られた共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分中のポリブタジエングリコールの含有量が少ない、もしくは含有しないものであったため、ショアD硬度、ヤング率が高く柔軟性に劣るものであり、また、ひずみ保持率が低く、湿熱耐久性にも劣るものであった。比較例7で得られた共重合ポリエステル樹脂は、グリコール成分中のポリブタジエングリコールの含有量が多すぎたため、融点が低く、耐熱性に劣るとともに成形性に劣るものであった。また、引張強度も低いものであった




【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分として、芳香族ジカルボン酸とドデカン二酸とを含有し、グリコール成分として、1,4-ブタンジオールとポリブタジエングリコール類とを含有し、酸成分中のドデカン二酸の含有量が20〜50モル%であり、グリコール成分中の1,4-ブタンジオールの含有量が80モル%以上であり、グリコール成分中のポリブタジエングリコール類の含有量が0.5〜20モル%であることを特徴とする共重合ポリエステル樹脂。
【請求項2】
20℃でのヤング率が100MPa以下である請求項1に記載の共重合ポリエステル樹脂。
【請求項3】
20℃でのショアD硬度が60以下である請求項1〜2いずれかに記載の共重合ポリエステル樹脂。


【公開番号】特開2013−10922(P2013−10922A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22597(P2012−22597)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】