説明

共重合ポリエステル組成物及びポリエステル繊維

【課題】本発明の課題は、常圧下でのカチオン染色が可能で、色相が良好で、且つ高重合度の常圧カチオン可染性ポリエステルを提供することである。
【解決手段】主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステルであり、スルホイソフタル酸金属塩とスルホイソフタル酸アンモニウム塩又はホスホニウム塩が特定の数式を満たすように共重合され、リン系化合物とフェノール系化合物が特定の数式を満たすように含有されている共重合ポリエステルにより上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧下でカチオン染料に可染性である常圧カチオン可染性共重合ポリエステル組成物及びそれから得られるポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートを代表とするポリエステル繊維は、その化学的特性から分散染料、アゾイック染料でしか染色できないため、鮮明且つ深みのある色相が得られにくいという欠点があった。かかる欠点を解消する方法として、ポリエステルにスルホイソフタル酸の金属塩を2〜3モル%共重合する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
しかしながら、かかる方法によって得られるポリエステル繊維は、高温・高圧下でしか染色することができず、天然繊維やウレタン繊維などと交編、交織した後に染色すると、天然繊維、ウレタン繊維が脆化するという問題があった。これを常圧、100℃付近の温度で十分に染色しようとすれば、スルホイソフタル酸の金属塩を多量にポリエステルに対して共重合されることが必要となるが、この場合、スルホネート基による増粘効果から、ポリエステルの重合度を高くすることができず、溶融紡糸にて得られるポリエステル繊維の強度が著しく低下し、さらに紡糸操業性が著しく悪化するという問題があった。
【0004】
一方、このような問題を解決するため、イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染性モノマーを共重合する技術が開示されている(例えば、特許文献3、4参照。)。イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染性モノマーとしては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩などが例示されているが、これらのカチオン可染性モノマー共重合ポリエステルは熱安定性が悪く、常圧カチオン可染化させるため、共重合量を増加させようとしても、重合反応途中で熱分解が進行し、高分子量化させることが困難であった。さらに溶融紡糸する際の熱履歴による分解が大きく、結果として得られる糸の強度が弱くなるという欠点を有していた。また、使用する5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩は非常に高価であり、結果として得られるカチオン可染性ポリエステルのコストが大幅に増大するという問題があった。
【0005】
かかる問題を解決する方法として、耐光性の低下が少なく、且つ常圧可染性を出す方法としてアジピン酸、セバシン酸のような直鎖炭化水素のジカルボン酸、あるいはジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールのようなグリコール成分、また、平均分子量が400〜6000のポリアルキレングリコールをスルホイソフタル酸の金属塩と併せて共重合する方法が提案されている(例えば、特許文献5、6参照。)。これらの方法は、共重合成分によりポリエステルのガラス転移温度を低下させることにより、100℃付近又は100℃以下の温度におけるポリエステル中への染料の拡散速度を上げることで、常圧付近又は常圧以下でのカチオン可染を可能にしている。しかしながら、いずれの方法でも得られたポリエステルを溶融紡糸して得られる常圧カチオン可染性ポリエステル繊維の強度が低くなり、強いては得られる布帛の引き裂き強度が低下する、ガラス転移温度が低くなるために熱セット性が悪化し、仮撚捲縮加工性が悪く風合いが硬くなる、更には染色堅牢度が低いなどの問題があった。
【0006】
かかる問題を解決する方法として、芳香族スルホイソフタル酸の金属塩に加え、芳香族スルホイソフタル酸四級ホスホニウム塩を併せて共重合する方法が提案されている(例えば、特許文献7参照。)。しかしながら、この方法で得られたポリエステルにおいても、溶融紡糸して得られる常圧カチオン可染性ポリエステル繊維の黄色味が強い、及び/又は強度が不十分、強いては得られる布帛の引き裂き強度が低下するなどの問題があった。また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエステルを鞘部に、95モル%以上がエチレンテレフタレートの繰返し単位からなるポリエステルを芯部に配した複合繊維が提案されている(例えば特許文献8参照。)。しかしながら、鞘部を構成する共重合ポリエステル中のスルホイソフタル酸成分の共重合量には、前述と同様の理由で限界があり、十分な染着性を得ることが困難であること、並びに複合繊維とすることで紡糸工程での加工コストが増加、又は繊維断面形状などに制約が生じるなどの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭34−010497号公報
【特許文献2】特開昭62−089725号公報
【特許文献3】特開平01−162822号公報
【特許文献4】特開2006−176628号公報
【特許文献5】特開2002−284863号公報
【特許文献6】特開2006−200064号公報
【特許文献7】特開2010−180273号公報
【特許文献8】特開平07−126920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するものであり、常圧下でのカチオン染色が可能で、色相が良好で、且つ高重合度の常圧カチオン可染性ポリエステルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に鑑み本発明者らは鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステル組成物であり、該共重合ポリエステルを構成する酸成分中に、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記化学式(I)で表される化合物(B)を、
【化1】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
下記数式(1)及び(2)を同時に満足するように共重合された共重合ポリエステルであり、
2.0≦a+b≦5.0 ・・・(1)
0.2≦b/(a+b)≦0.7 ・・・(2)
[上記数式中、aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)、bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記化学式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
当該共重合ポリエステルに対し、リン系化合物(Y)及びフェノール系化合物(Z)を、下記数式(3)及び(4)を同時に満足するように配合してなる共重合ポリエステル組成物である。
0.1≦y+z≦3.0 ・・・(3)
0.2≦y/(y+z)≦1.0 ・・・(4)
[上記式中、yは共重合ポリエステルを基準とするリン系化合物(Y)の配合量(重量%)を、zは共重合ポリエステルを基準とするフェノール系化合物(Z)の配合量(重量%)を表す。]
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、常圧下でのカチオン染料を用いた染色操作による染着性が良好で、且つ色相が良好で、繊維強度の高いポリエステル繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に使用される共重合ポリエステルとは、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール成分とを重縮合反応せしめて得られるエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、共重合成分としてスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記化学式(I)で表される化合物(B)を、下記数式(1)及び(2)を同時に満足する状態で含有する共重合ポリエステルである。
【0012】
【化2】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
2.0≦a+b≦5.0 ・・・(1)
0.2≦b/(a+b)≦0.7 ・・・(2)
[上記数式中、aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)、bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記化学式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
さらに当該共重合ポリエステルに対し、リン系化合物(Y)及びフェノール系化合物(Z)を、下記数式(3)及び(4)を同時に満足するように配合してなる共重合ポリエステル組成物である。
0.1≦y+z≦3.0 ・・・(3)
0.2≦y/(y+z)≦1.0 ・・・(4)
[上記式中、yは共重合ポリエステルを基準とするリン系化合物(Y)の配合量(重量%)を、zは共重合ポリエステルを基準とするフェノール系化合物(Z)の配合量(重量%)を表す。]
【0013】
(共重合ポリエステルについて)
本発明における共重合ポリエステルとはエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、主たる繰り返し単位とは共重合ポリエステルを構成する全繰り返し単位あたり80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを指している。他の20モル%以下の範囲内で他の成分が共重合されていても良い。好ましくは90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることであり、より好ましくは93モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることである。その他の共重合成分としては、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸又はそのエステル形成性誘導体を挙げる事ができ、グリコール成分として、1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ビス(トリメチレングリコール)、ビス(テトラメチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジメタノールを挙げる事ができ、これらの1種以上のジカルボン酸と1種以上のグリコール成分を反応させて得られる成分を繰り返し単位として共重合されていても良い。
更にエステル形成性誘導体とは、これらの2価のジカルボン酸の炭素数1〜10のジアルキルエステル、ジフェニルエステル、酸ハロゲン化物(酸塩化物、酸臭化物など)をあげる事ができる。
【0014】
(化合物(A)について)
本発明で使用されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)としては、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)が例示される。より好ましくはスルホイソフタル酸の金属塩がリチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群より少なくとも1種選ばれるアルカリ金属塩であることである。必要に応じてこれら化合物のマグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類塩を併用しても良い。また、これらのエステル形成性誘導体も好ましく例示される。エステル形成性誘導体としてはジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジヘキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステル、ジフェニルエステル、モノエチレングリコールエステル、ジエチレングリコールエステル、5−スルホイソフタル酸金属塩のジハロゲン化物(酸塩化物、酸臭化物など)を挙げる事ができるが、これらの中でもジメチルエステル、モノエチレングリコールエステル、ジエチレングリコールエステルが好ましい。これらの化合物群の中では、熱安定性、コストなどの面から、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩が好ましく例示され、特に5−ナトリウムスルホイソフタル酸又はそのジメチルエステルである5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルが特に好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、ポリエステル繊維とした場合の充分なカチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。また後述する製造方法により容易に共重合することが可能である。
【0015】
(化合物(B)について)
また、上記式(I)で表される化合物(B)としては、5−スルホイソフタル酸又はその低級アルキルエステルの4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩である。X基の部分は4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩であるが、4級ホスホニウム塩であることがより好ましい。4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩としては、リン元素又は窒素元素にアルキル基、ベンジル基又はフェニル基が結合した4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級ホスホニウム塩であることが好ましい。また、4つある置換基は同一であっても異なっていても良い。また一般式(I)におけるRは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を示し、後述のようにジカルボン酸のみならず、ジアルキルエステルでも良いことを表している。このRとしてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などを挙げることができ、これらの中でジメチルエステルを用いることが入手しやすいこと、反応性が高いこと等の観点から好ましい。上記式(I)で表される化合物の具体例としては、5−スルホイソフタル酸テトラメチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラエチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラプロピルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸エチルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラプロピルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルアンモニウム塩、あるいはこれらイソフタル酸誘導体のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロプルエステル、ジブチルエステル、ジへキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステルが好ましく例示される。これらのイソフタル酸誘導体の中でも、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリメチルアンモニウム塩がより好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、ポリエステル繊維とした場合の充分なカチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。また後述する製造方法により容易に共重合することが可能である。
【0016】
(数式(1)について)
本発明において、ポリエステルに共重合させる上記のスルホイソフタル酸の金属塩(A)と上記の化合物(B)の合計は共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として、(A)成分と(B)成分の和a+bが2.0〜5.0モル%の範囲である必要がある。2.0モル%より少ないと、共重合ポリエステル中のカチオン染料の染着座席が少ないため、常圧下でのカチオン染色では十分な染着を得ることができない。一方、5.0モル%より多くなると、得られるポリエステル糸の強度が低下するため実用に適さない。さらに染料を過剰に消費するため、コスト面でも不利である。このA+Bの値は好ましくは3.2〜4.8モル%であり、より好ましくは3.3〜4.7モル%である。
【0017】
(数式(2)について)
また、スルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)の成分比は上記のモル%の値にて、b/(a+b)が0.2〜0.7の範囲にある必要がある。0.2以下、つまりスルホイソフタル酸の金属塩(A)の割合が多い状態では、スルホイソフタル酸の金属塩による増粘効果により、得られる共重合ポリエステルの重合度を上げることが困難になる。一方、0.7を超える、つまり化合物(B)の割合が多い状態では、重縮合反応が遅くなり、さらに化合物(B)の比率が多くなると熱分解反応が進むため重合度を上げることが困難となる。さらに、化合物(B)の比率多くなると共重合ポリエステルの熱安定性が悪化し、溶融紡糸段階で再溶融した際の熱分解反応による分子量の低下が大きくなるため、得られるポリエステル糸の強度が低下するため、好ましくない。このb/(a+b)の値は好ましくは0.23〜0.65であり、より好ましくは0.25〜0.60である。
【0018】
スルホイソフタル酸の金属塩(A)をポリエステルに共重合することによりカチオン可染性は付与する事ができるが、スルホン酸金属塩基間のイオン結合に由来すると思われる共重合ポリエステルの溶融粘度の増粘効果のため共重合ポリエステルを高重合度化することが困難であった。そのため十分に高い重合度、高い固有粘度を有する共重合ポリエステルが得られず、その高い固有粘度を有さない共重合ポリエステルから得られるポリエステル繊維は、繊維強度が著しく低下する問題があった。一方その問題を解消するためにスルホイソフタル酸のテトラアルキルアンモニウム塩又はスルホイソフタル酸のテトラアルキルホスホニウム塩、即ち化合物(B)をポリエステルに共重合することが開示されているが、当該化合物は重縮合反応中に熱分解を起こしやすいため、共重合量を上げようとすると熱分解反応が進みやすい問題があり、繊維強度を高い値にすることが依然として困難であった。本発明の共重合ポリエステルにおいては、これらのスルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)を併用し、双方の化合物の共重合量、共重合比率、共重合ポリエステルのガラス転移温度及び固有粘度を特定の範囲に設定し、更に、以下に説明するリン系化合物及び/又はフェノール系化合物を併用することによって、充分なカチオン染料による染色性と良好な色相、及び高い繊維強度を両立させる事を見出し本発明に至ったものである。
【0019】
(リン系化合物について)
本発明で使用されるリン系化合物(Y)は、下記一般式(II)で表される単位構造を分子内に1個以上含有するものが挙げられる。さらに好ましくは、下記一般式(II)で表される単位構造を一分子内に2個以上5個以下、好ましくは一分子内に2個以上3個以下有する化合物を挙げる事ができる。これらの化合物は安定剤として有用な化合物である。
【0020】
【化3】

[上記式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を、Rは水素、炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。]
【0021】
上記式(II)中のRは具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基を表し、Rは水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基を表す。Rはメチル基又はt−ブチル基が、Rは水素原子、メチル基又はt−ブチル基が好ましい。
【0022】
これらの単位構造を含むリン系化合物としてホスファイト化合物が好ましく、具体的にはトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:アデカスタブ2112、スミライザーP−16、Irgafos168)、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(商品名:Irgafos38)、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブPEP−24G、ULTRANOX626)、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名:アデカスタブ PEP−36)、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト(商品名:JPH1200、アデカスタブ260)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:アデカスタブPEP−24G)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト(商品名:アデカスタブPEP−36)、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(商品名:アデカスタブHP−10)、6−t−ブチル−4−[3−[(2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ]プロピル]−2−メチルフェノール(住友化学社製:商品名;スミライザーGP)を挙げることができる。これらの中でもトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:アデカスタブ2112、スミライザーP−16、Irgafos168)、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(商品名:Irgafos38)、6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−tetra−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン(別名:6−t−ブチル−4−[3−[(2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ]プロピル]−2−メチルフェノール)(商品名スミライザーGP)を好ましく用いることができる。
【0023】
(フェノール系化合物について)
本発明で使用されるフェノール系化合物(Z)は、下記一般式(III)で表される単位構造を分子内に1個以上含有するものが挙げられ、更に好ましくは下記一般式(III)で表される単位構造を分子内に2個以上有するものが挙げられ、酸化防止剤として有効であり、特にこれらの中でヒンダードフェノール化合物と呼ばれる化合物は酸化防止剤として有効な化合物である。
【0024】
【化4】

[上記式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表す。]
【0025】
は炭素数1〜5個のアルキル基を表し、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1,1−ジメチルプロピル基などを挙げることができ、これらの中でもメチル基、t−ブチル基が好ましい。
【0026】
としてこのような単位構造(官能基)を有するフェノール系化合物として具体的には2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(商品名:スミライザーBHT等)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名:アデカスタブAO−50、Irganox1076等)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(商品名:スミライザーGM、Irganox3052)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスフォネート−ジエチルエステル(商品名:Irganox1222)等のモノフェノール系化合物、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(商品名:スミライザーWX、スミライザーWXR、ノクラック300等)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(商品名:スミライザーBBM等)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(商品名:アデカスタブAO−80、スミライザーGA−80等)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(商品名:スミライザーMDP−S、ノクラックNS−6)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)(商品名:ノクラックNS−5)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:Irganox245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:Irganox249)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:Irganox1035)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(商品名:Irganox MD1024)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(商品名:Irganox565)等のビスフェノール系化合物、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン(商品名:アデカスタブAO−30等)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:アデカスタブAO−330、Irganox330等)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン{別名:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]}(商品名:Irganox1010等)、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエスエル(商品名:Antioxidant Hoechst TMOZ等)、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−sec−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン(商品名:アデカスタブAO−20)、トリス(4−t−ブチル−2,6−ジメチル−3−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレイト(商品名:Cyanox1790)等の高分子型フェノール系化合物を挙げることができる。これらの中でもIrganox1010等が好ましい。
【0027】
(数式(3)及び(4)について)
本発明による共重合ポリエステルは、前述の化合物(B)の耐熱性が低く、高温下での熱分解の影響により、溶融重合段階の後半で重合度が上がりにくくなる現象が発生する。そのため、所望の重合度(又は分子量、固有粘度)の共重合ポリエステルを得るためには、重縮合反応時間を長くする、若しくは重縮合反応触媒を大量に添加する必要があるが、重縮合反応時間が長くなると、長時間高温下で保持する事となり共重合ポリエステルの色相が悪化すると共に、生産性が低下するなどの問題が発生する。また重縮合反応触媒の添加量を上げると、得られる共重合ポリエステルの色相が悪くなる上、共重合ポリエステルの耐熱性が低下するため溶融紡糸時に再溶融する際の共重合ポリエステルの熱分解反応が進行しやすいなどの問題が発生する。
【0028】
これらの問題に対し、共重合ポリエステルに対し、リン系化合物(Y)及び/又はフェノール系化合物(Z)を添加することにより、重縮合反応後半での熱分解反応を抑制し、それに伴い重縮合反応時間の短縮、並びに分解生成物による共重合ポリエステルの着色を抑制することができる。リン系化合物(Y)及びフェノール系化合物(Z)の添加量は、共重合ポリエステルの重量を基準とし、y+zが0.1〜3.0重量%の範囲である必要がある。更にy+zは0.2〜1.0重量%の範囲であることが好ましい。y+zの値が0.1重量%未満の場合は、重縮合反応時間の短縮及び着色抑制効果が十分でなく、y+zの値が3.0重量%を超える場合は、添加する化合物自身の熱劣化などの影響で、得られる共重合ポリエステル組成物の色相が悪化するため好ましくない。さらに、y/(y+z)が0.2〜1.0の範囲である必要がある。更にy/y+zは0.4〜1.0の範囲であることが好ましい。この値が0.2未満の場合、リン系化合物による共重合ポリエステル組成物の色相改善効果の発現が不十分であり、得られる共重合ポリエステル組成物の色相が好ましくない。一方この数式の定義からみて、数式におけるyとzは共に0以上の数値を取るので、この数式が示す値が1.0を越えることはない。
【0029】
(共重合ポリエステルの製造方法について)
本発明における共重合ポリエステル組成物の製造は特に限定されず、1)スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)を請求項1に記載の条件を満たすように共重合するよう使用することに留意する、及び2)フェノール系化合物(Y)及びチオエーテル系化合物(Z)の添加量を請求項1に記載の条件を満たすように配合するよう使用することに留意する他は、通常知られている共重合ポリエステル(組成物)の製造方法が用いられる。すなわち、テレフタル酸とエチレングリコールの直接エステル化反応させる、あるいはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸のエステル形成性誘導体とエチレングリコールとをエステル交換反応させて低重合体を製造する。次いでこの反応生成物を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることにより製造される。スルホイソフタル酸を含有する芳香族ジカルボン酸及び/又はそのエステル誘導体(スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B))を共重合する方法についても通常知られている製造方法を用いる事ができる。これらの化合物の反応工程への添加時期は、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重縮合反応の開始までの任意の時期に添加することができる。但し、上述のように化合物(B)は相対的に熱分解反応を起こしやすいので、この化合物(B)についてはエステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から製造工程に添加することは良くない場合がありうる。
【0030】
本発明によれば、リン系化合物(例えばホスファイト化合物)やフェノール系化合物(例えばヒンダートフェノール化合物)の添加時期は特に限定されるものではないが、好ましくはエステル化反応、若しくはエステル交換反応終了時から重縮合反応中頃までの間に添加するのが良い。これにより、重縮合反応後半での分解反応を抑制し、重縮合反応時間が短縮され、且つ得られる共重合ポリエステルの着色を防止することができる。
【0031】
(固有粘度について)
本発明の共重合ポリエステル組成物を構成する共重合ポリエステルの固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は0.50〜1.00dL/gの範囲であることが好ましい。固有粘度が0.50dL/g未満である場合、得られるポリエステル繊維の強度が不足し、一方、1.00dL/gを超える場合、溶融粘度が高くなりすぎて溶融成型が困難になるため好ましくなく、また、溶融重縮合法に引続いて固相重合法により固有粘度を上昇させる場合には、共重合ポリエステル組成物の重縮合工程での生産コストが大幅に増大するため好ましくない。常圧カチオン可染性ポリエステルの固有粘度としては、0.60〜0.90dL/gの範囲が更に好ましい。共重合ポリエステルの固有粘度を0.55〜1.00dL/gの範囲するためには、溶融重縮合を行う際の最終の重合温度、重合時間を調整したり、溶融重縮合法のみでは困難な場合には固相重合を行って適宜調整することができる。本発明においては、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)を上記数式(1)及び(2)を満たすようにポリエチレンテレフタレートに対して共重合を行うことで上述のような手法により固有粘度を0.50〜1.00dL/gにすることが可能となる。
【0032】
(DEG含有量について)
本発明における常圧カチオン可染性を有する共重合ポリエステル組成物に含有されるジエチレングリコールは、2.5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは2.2重量%以下、更により好ましくは1.50〜2.2重量%である。一般にカチオン可染性ポリエステルを製造する際には、共重合ポリエステルの製造工程において副生するジエチレングリコール(DEG)量を抑制するために、DEG抑制剤として少量のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、水酸化テトラアルキルホスホニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルアミンなどの少なくとも1種類を、使用するカチオン可染性モノマー(本発明の場合はスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)の全モル量)に対して、1〜20モル%程度を添加することが好ましい。
【0033】
(その他添加剤について)
また、本発明における共重合ポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば前述のリン系、及びフェノール系以外の酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤又は艶消し剤などを含んでいても良い。特に二酸化チタンに代表される艶消し剤などはポリエステル繊維用途に本発明の共重合ポリエステル組成物を用いる場合には、特に好ましく添加することができる。
【0034】
(溶融紡糸について)
本発明における共重合ポリエステル組成物を用いた紡糸方法・製糸方法は、特に制限は無く、ポリエステルで採用されている従来公知の方法が採用される。すなわち、乾燥した共重合ポリエステル組成物を270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の引取り速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られるポリエステル繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻取りを行うこともできる。さらに、上述の方法で得られた未延伸糸若しくは部分延伸糸を、延伸工程にて1.2倍〜6.0倍程度の範囲で延伸することが好ましい。この延伸は未延伸ポリエステル繊維を一旦巻き取ってから行ってもよく、一旦巻き取ることなく連続的に行ってもよい。また、紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無く、円形、三角形・四角形等の多角形、3以上の多葉形、C型断面、H型断面、X型断面、又はこれらの形状に更に中空を有する断面のいずれであってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の分析項目などは、下記記載の方法により測定した。
【0036】
(ア)共重合ポリエステル組成物中のリン系化合物(Y)及びフェノール系化合物(Z)等の含有量
乾燥した共重合ポリエステル組成物サンプルを走査型電子顕微鏡(日立計測器サービス株式会社製S570型)にセットし、これに連結したエネルギー分散型X線マイクロアナライザー(XMA、株式会社堀場製作所製EMAX−7000)を用いて共重合ポリエステル組成物中の各元素の濃度を求めた。また後述の共重合量の定量方法でも実施するNMR測定結果も併用して含有量を定量した。共重合ポリエステル組成物サンプル一旦を溶媒に溶解し、再沈殿操作を行うなどにより、共重合ポリエステル成分と、リン系化合物(Y)及びフェノール系化合物(Z)を分離し各元素の含有量を測定することができる。
【0037】
(イ)固有粘度(ηC)
共重合ポリエステル組成物試料を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ型粘度計を用いて測定した値から求めた。なお希薄溶液に溶解できていない成分が発見された場合には、希薄溶液を粘度計に移す前に濾過によりその成分を取り除いた。
【0038】
(ウ)チップカラー(Col−L,b)
粒状の共重合ポリエステルサンプルを160℃×90分乾燥機中で熱処理し、結晶化させた後、カラーマシン社製CM−7500型カラーマシンで測定した。Col−Lは73以上を可、Col−bは10以下を可とした。
【0039】
(エ)スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)の共重合量
共重合ポリエステルサンプルをトリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子株式会社製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定して、そのスペクトルパターンから常法に従って、各プロトン量により定量した。特にイソフタル酸骨格由来の水素原子に着目した。また上記のエネルギー分散型X線マイクロアナライザーを用いた測定による硫黄元素含有量、リン元素含有量、窒素元素含有量も参考にした。
【0040】
(オ)ジエチレングリコール(DEG)含有量
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いて共重合ポリエステル組成物試料チップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィー(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0041】
(カ)ポリエステル繊維の繊維強度(破断強度)
日本工業規格、JIS L1013:1999 8.5に記載の方法に準拠して測定を行った。
【0042】
(キ)染着率(カチオン染料による染色性)
得られたポリエステル延伸糸から常法により丸編みの編物サンプルを作成し、その編物をCATHILON BLUE CD−FRLH)0.2g/L、CD−FBLH0.2g/L(いずれも保土ヶ谷化学株式会社製のカチオン可染性染料)、硫酸ナトリウム3g/L、酢酸0.3g/Lの染色液中にて100℃で1時間、浴比1:50で染色を行い、次式により染着率を求めた。
染着率=(OD−OD)/OD×100
OD:染色前の染液の576nmの吸光度
OD:染色後の染液の576nmの吸光度
本発明の実施例では、染着率98%以上のものを可染性良好と判断した。
【0043】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル3.0重量部、5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホニウム塩5.2重量部とエチレングリコール60重量部の混合物に、酢酸マンガン四水和物0.02重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.05重量部と二酸化チタン0.07重量部を攪拌機、精留塔等を備えたエステル交換反応槽に添加し、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、エステル交換反応の結果生成するメタノールをエステル交換反応槽外に留出させながらエステル交換反応を行った。所定量のメタノールを留出した時点でエステル交換反応を終了させた。
その後、エステル交換反応の反応生成物に三酸化アンチモン0.06重量部を重合容器に移し、引き続いてトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製:商品名;Irgafos168)0.2重量部(共重合ポリエステルに対する含有量(配合量)0.2wt%に相当する。以下リン系化合物・フェノール化合物等について同じ。)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製:商品名;Irganox1010)0.3重量部を添加した後、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、重合槽の攪拌機電力が所定電力に到達、若しくは所定時間を経過した段階で重縮合反応を終了させた。さらに常法に従いチップ化して共重合ポリエステル組成物を得た。得られた共重合ポリエステル組成物の原料等仕込み量等の反応条件、品質結果を表1に示した。また上記の測定評価の結果、原料の仕込み量どおりに各成分が共重合、配合されていることも確認することができた。
このようにして得られた共重合ポリエステル組成物チップを140℃、5時間乾燥後、紡糸温度285℃、巻取り速度400m/minで330dtex/36フィラメントの原糸を作った。次いで延伸同時仮撚加工により4.0倍に延伸して83dtex/36フィラメントの仮撚加工糸を得て、更に常法に従い弛緩熱処理を実施した。得られたポリエステル糸の評価結果も併せて表1に示した。
【0044】
[実施例2]
酸化防止剤として、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製:商品名;Irgafos168)0.5重量部、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製:商品名;Irganox1010)0.5重量部を添加した以外、実施例1と同様の手順で共重合ポリエステル組成物、及びポリエステル糸を得た。得られた共重合ポリエステル組成物の原料仕込み量等の反応条件、品質結果及びポリエステル糸の評価結果を表1に示した。
【0045】
[実施例3]
酸化防止剤として、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製:商品名;Irgafos168)0.2重量部のみを添加した以外、実施例1と同様の手順で共重合ポリエステル組成物、及びポリエステル糸を得た。得られた共重合ポリエステル組成物の原料仕込み量等の反応条件、品質結果及びポリエステル糸の評価結果を表1に示した。
【0046】
[実施例4]
酸化防止剤として、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製:商品名;Irgafos168)0.5重量部のみを添加した以外、実施例1と同様の手順で共重合ポリエステル組成物、及びポリエステル糸を得た。得られた共重合ポリエステル組成物の原料仕込み量等の反応条件、品質結果及びポリエステル糸の評価結果を表1に示した。
【0047】
[実施例5]
酸化防止剤として、6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−tetra−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン(別名:6−t−ブチル−4−[3−[(2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ]プロピル]−2−メチルフェノール)(住友化学株式会社製:商品名;スミライザーGP)0.2重量部、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製:商品名;Irganox1010)0.3重量部を添加した以外、実施例1と同様の手順で共重合ポリエステル組成物、及びポリエステル糸を得た。得られた共重合ポリエステル組成物の原料仕込み量等の反応条件、品質結果及びポリエステル糸の評価結果を表1に示した。
【0048】
[実施例6]
酸化防止剤として、6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−tetra−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン(住友化学社製:商品名;スミライザーGP)0.2重量部のみを添加した以外、実施例1と同様の手順で共重合ポリエステル組成物、及びポリエステル糸を得た。得られた共重合ポリエステル組成物の原料仕込み量等の反応条件、品質結果及びポリエステル糸の評価結果を表1に示した。
【0049】
[実施例7]
酸化防止剤として、6−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−tetra−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェピン(住友化学社製:商品名;スミライザーGP)0.5重量部のみを添加した以外、実施例1と同様の手順でポリエステル、及びポリエステル糸を得た。得られたポリエステルの反応条件、品質結果及びポリエステル糸の評価結果を表1に示した。
【0050】
[比較例1〜4]
実施例1において、酸化防止剤などを表1の通り変更して実施例1と同様の手順でポリエステル、及びポリエステル糸を得た。得られたポリエステルの反応条件、品質結果及びポリエステル糸の評価結果を表1に示した。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、色相が良好で、十分な繊維強度を有する常圧カチオン可染性ポリエステル繊維を提供することができる。さらに従来の共重合ポリエステルと同等の重合性を有しており、効率的な生産も可能である。故に、その産業上の意義はきわめて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステル組成物であり、該共重合ポリエステルを構成する酸成分中に、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記化学式(I)で表される化合物(B)を、
【化1】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
下記数式(1)及び(2)を同時に満足するように共重合された共重合ポリエステルであり、
2.0≦a+b≦5.0 ・・・(1)
0.2≦b/(a+b)≦0.7 ・・・(2)
[上記数式中、aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩(A)の共重合量(モル%)、bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記化学式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
当該共重合ポリエステルに対し、リン系化合物(Y)及びフェノール系化合物(Z)を、下記数式(3)及び(4)を同時に満足するように配合してなる共重合ポリエステル組成物。
0.1≦y+z≦3.0 ・・・(3)
0.2≦y/(y+z)≦1.0 ・・・(4)
[上記式中、yは共重合ポリエステルを基準とするリン系化合物(Y)の配合量(重量%)を、zは共重合ポリエステルを基準とするフェノール系化合物(Z)の配合量(重量%)を表す。]
【請求項2】
リン系化合物(Y)が下記一般式(II)で表される単位構造を分子内に1個以上含有するリン系化合物である、請求項1に記載の共重合ポリエステル組成物。
【化2】

[上記式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を、Rは水素、炭素数1〜15のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。]
【請求項3】
フェノール系化合物(Z)が下記一般式(III)で表される単位構造を分子内に1個以上含有する酸化防止剤である、請求項1又は2のいずれかに記載の共重合ポリエステル組成物。
【化3】

[上記式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表す。]
【請求項4】
該共重合ポリエステル組成物中のジエチレングリコール含有量が2.5重量%以下である請求項1〜3のいずれか1項記載の共重合ポリエステル組成物。
【請求項5】
スルホイソフタル酸の金属塩(A)が、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群より少なくとも1種選ばれるアルカリ金属塩である請求項1〜4のいずれか1項記載の共重合ポリエステル組成物。
【請求項6】
上記化合物(B)のX部分が、4級ホスホニウム塩である請求項1〜5のいずれか1項記載の共重合ポリエステル組成物。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のいずれかの共重合ポリエステル組成物を溶融紡糸して得られるポリエステル繊維。

【公開番号】特開2012−251011(P2012−251011A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122121(P2011−122121)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】