説明

共重合体、金属高分子錯体、及び該金属高分子錯体からなるミセルの分散液

【課題】金属錯体の液剤としての取り扱いを容易可能とする共重合体、金属高分子錯体、及び該金属高分子錯体からなるミセルの分散液を提供すること。
【解決手段】本発明の共重合体は、金属原子に配位結合する多座配位子を有するモノマー(A)と、親水性のモノマー(B)と、を少なくとも共重合させたことを特徴とし、前記モノマー(A)と、前記モノマー(B)とのモル比は、1:99〜99:1であることが好ましく、また、前記多座配位子は、ビピリジン、ジピコリルアミン、及びターピリジンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属高分子錯体のミセル形成が可能な共重合体、金属高分子錯体、該金属高分子錯体からなるミセルの分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
白金(II)錯体であるシスプラチンは、強い抗腫瘍活性を有することが知られており、抗癌剤として臨床で汎用されている。シスプラチンの抗腫瘍作用は、シスプラチンがDNA上で1,2−鎖内架橋を形成することにより発揮されると考えられている。近年では、白金錯体の有する抗腫瘍作用に着目し、新たな白金錯体を含む抗癌剤の開発が行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、シスプラチン等の白金錯体は水に対する溶解性が低く、液剤として取り扱い難いという欠点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−45131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、金属錯体の液剤としての取り扱いを容易可能とする共重合体、金属高分子錯体、及び該金属高分子錯体からなるミセルの分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、以下のような本発明を完成するに至った。
【0007】
(1) 金属原子に配位結合する多座配位子を有するモノマー(A)と、親水性のモノマー(B)と、を少なくとも共重合させた共重合体。
【0008】
(2) 上記モノマー(A)と、上記モノマー(B)とのモル比は、1:99〜99:1である(1)に記載の共重合体。
【0009】
(3) 上記多座配位子は、ビピリジン、ジピコリルアミン、及びターピリジンからなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)又は(2)に記載の共重合体。
【0010】
(4) (1)〜(3)いずれかに記載の共重合体の配位子と、金属原子とが配位結合してなる金属高分子錯体。
【0011】
(5) (4)に記載の金属高分子錯体からなるミセルの分散液。
【発明の効果】
【0012】
本発明の共重合体によれば、金属原子に配位結合する多座配位子を有するモノマー(A)と、親水性のモノマー(B)と、を少なくとも共重合させたので、多量の金属原子が安定に配位した高分子錯体のミセルを形成することができる。
本発明の共重合体の配位子と、金属原子とが配位結合してなる金属高分子錯体は、ミセルを形成するので、液剤として取り扱い易い。
本発明の金属高分子錯体からなるミセルは、エンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれ、細胞に効果的に作用するものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】bpyモノマーのNMRスペクトルを示す図である。
【図2】bpy(65)−g−PEG(35)のNMRスペクトルを示す図である。
【図3】bpy(65)−g−PEG(35)により形成されたミセルの粒径分布を示す図である。
【図4】Pt(DMSO)ClのIRスペクトルを示す図である。
【図5】bpy(65)−g−PEG(35)−Pt錯体のIRスペクトルを示す図である。
【図6】bpy(65)−g−PEG(35)−Pt錯体のUVスペクトルを示す図である。
【図7】bpy(65)−g−PEG(35)−Pt錯体により形成されたミセルの粒径分布を示す図である。
【図8】3−[bis(pyridin−2−ylmethyl)amino]propan−1−olのNMRスペクトルを示す図である。
【図9】DPAモノマーのNMRスペクトルを示す図である。
【図10】RAFT剤のNMRスペクトルを示す図である。
【図11】PEG(5K)−マクロ−RAFT剤のNMRスペクトルを示す図である。
【図12】DPA−b−PEGのNMRスペクトルを示す図である。
【図13】DPA(20)−b−PEGにより形成されたミセルの粒径分布を示す図である。
【図14】DPA(20)−b−PEG−Pt錯体により形成されたミセルの粒径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
本発明の共重合体は、金属原子に配位結合する多座配位子を有するモノマー(A)と、親水性のモノマー(B)と、を少なくとも共重合させたものである。モノマー(A)と、モノマー(B)とは、共重合するために重合性の官能基を有していてもよい。また、モノマー(A)が重合性の官能基を有していない場合であっても、モノマー(A)に連鎖移動剤が導入されたマクロ連鎖移動剤を合成した後、該マクロ連鎖移動剤と、重合性の官能基を有するモノマー(B)とを共重合させてもよいし、モノマー(B)が重合性の官能基を有していない場合であっても、モノマー(B)に連鎖移動剤が導入されたマクロ連鎖移動剤を合成した後、該マクロ連鎖移動剤と、モノマー(A)とを共重合させてもよい。本発明の共重合体の構造は、特に限定されず、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体のいずれであってもよいが、ミセル形成能が高いという点においてブロック共重合体又はグラフト共重合体であることが好ましい。なお、本発明の共重合体は、モノマー(A)と、モノマー(B)と、その他のモノマーとを共重合させたものであってもよい。
【0016】
[モノマー(A)]
本発明のモノマー(A)は、金属原子に配位結合する多座配位子を有する。金属原子としては、特に限定されず、典型金属元素であっても、遷移金属元素であってもよい。典型金属元素としては、例えば、亜鉛、カドミウム等が挙げられる。遷移金属元素としては、例えば、銅、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン、クロム等の第一遷移元素、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀等の第二遷移元素、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、金等の第三遷移元素、ユーロピウム、ガドリニウム等のランタノイド、アクチノイド等が挙げられる。これらの中でも、亜鉛、白金、コバルト、ルテニウム、ユーロピウム、及びガドリニウムが、より安定な錯体を形成するという点において好ましい。
【0017】
本発明のモノマー(A)は、多座配位子を有する。配位子が多座配位子であると、キレート効果により安定な錯体を形成することができる。多座配位子としては、特に限定されず、例えば、ビピリジン、シッフ塩基、フェナントリン、オルトベンゾキノン誘導体、核酸塩基等の二座配位子、ジピコリルアミン、ターピリジン、ジエチレントリアミン、シッフ塩基、トリアザシクロアルカン、テトラキス(2’−アミノエチル)−1,2−ジアミノプロパン等の三座配位子、ポルフィリン及びその誘導体、フタロシアニン及びその誘導体、テトラアザシクロアルカン等の四座配位子、アミノアルキル・テトラアザシクロアルカン等が挙げられる。トリ(アミノアルキル)トリアザシクロアルカン、1,14−ジアミノ−3,6,9,12−テトラアザテトラデカン等の五座配位子、トリ(アミノアルキル)トリアザシクロアルカン、1,14−ジアミノ−3,6,9,12−テトラアザテトラデカン等の六座配位子が挙げられる。これらの中でも、ビピリジン、ジピコリルアミン、及びターピリジンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらによれば、形成された錯体が更に遺伝子等の生体機能分子とのコンプレックスを形成し得るからである。
【0018】
本発明のモノマー(A)は、その構造中に重合可能な官能基を有していてもよい。重合可能な官能基は、特に限定されず、例えば、ビニル基、アリル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等が挙げられる。本発明のモノマー(A)は、これらの重合可能な官能基を介して後述のモノマー(B)と共重合してもよい。
【0019】
[モノマー(B)]
本発明のモノマー(B)は、親水性のモノマーである。本発明の共重合体は、親水性のモノマー(B)を有するので、極性溶媒中、特に水を含む溶媒中において優れた分散性や乳化性を示す。親水性のモノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、アミノスチレン、ヒドロキシスチレン、酢酸ビニル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(アルキル)アミノアルキル(メタ)アクリレート、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレンオキシド変性(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、N−ビニル−2−ピロリドン等のN−ビニルラクタム類、N−ビニルホルムアミド等のN−ビニルアミド類、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。本発明では、メタクリル酸(MAA)、末端にメトキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アジ基、又はプロパギル基を有するポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)、及びN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)が、優れた分散性や乳化性を示すという観点において好ましい。
【0020】
本発明のモノマー(B)は、その構造中に重合可能な官能基を有していてもよい。重合可能な官能基は、特に限定されず、例えば、ビニル基、アリル基、スチリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等が挙げられる。本発明のモノマー(B)は、このような重合性基を介してモノマー(A)と重合してもよい。
【0021】
[その他のモノマー]
本発明の共重合体では、モノマー(A)及びモノマー(B)以外に、その他のモノマーを有していてもよい。その他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、メチロール(メタ)アクリルアミド、メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、ブトキシメトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、クロトン酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーを、単独で有していても、2種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0022】
[共重合体]
上記モノマー(A)と、上記モノマー(B)と、を少なくとも共重合させた本発明の共重合体によれば、多量の金属原子が安定に配位した高分子錯体のミセルを形成することができる。これにより、金属の高分子錯体が薬剤として取り扱い易くなる。
【0023】
本発明の共重合体の質量平均分子量(ポリスチレンを標準物質としたGPCによる測定)は、5,000〜5,000,000であることが好ましく、10,000〜1,000,000であることがより好ましい。上記範囲であれば、優れた分散性や乳化性を示すナノ会合体を形成可能となる。
【0024】
本発明の共重合体におけるモノマー(A)の占める割合は、特に限定されないが、好ましくは10〜90mol%であり、より好ましくは20〜60mol%である。上記範囲であれば、十分な量の遷移金属原子を配位させることができる。また、本発明の共重合体におけるモノマー(B)の占める割合は、特に限定されないが、好ましくは10〜90mol%であり、より好ましくは20〜60mol%である。
【0025】
本発明の共重合体では、該共重合体におけるモノマー(A)と、モノマー(B)とのモル比は、特に限定されないが、好ましくは1:99〜99:1、より好ましくは10:90〜90:10である。上記範囲であれば、共重合体に良好なミセル形成能を付与することができる。
【0026】
[共重合体の合成方法]
本発明の共重合体の重合方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができるが、付加開裂連鎖移動(RAFT)重合、原子移動ラジカル重合(ATRP)等のリビングラジカル重合法が好ましい。リビングラジカル重合法によれば、合成する共重合体の分子量や分子量分布を制御することができる。以下に、金属原子に配位結合する多座配位子を有するモノマー(A)と、親水性のモノマー(B)とを共重合させた本発明の共重合体の合成方法を例示する。なお、重合方法はリビングラジカル重合法による。
【0027】
まず、RAFTによる場合について説明する。モノマー(B)と、連鎖移動剤と、重合開始剤とを所定の溶媒に溶解し、溶存酸素を含む反応容器中の酸素を完全に除いた後、重合開始剤が開裂する温度以上であって、かつ、100℃以下の温度で24〜48時間加熱することにより、モノマー(B)が重合したポリマー(以下、Bブロックと称する)の末端に連鎖移動剤が導入されたマクロ連鎖移動剤を合成する。次に、このマクロ連鎖移動剤と、モノマー(A)とを所定の溶媒に溶解し、重合開始剤が開裂する温度以上であって、かつ、100℃以下の温度で24〜300時間加熱することにより、Bブロックと、モノマー(A)が重合したポリマー(以下、Aブロックと称する)とが直列に結合した、本発明の共重合体(ブロック共重合体)を合成することができる。なお、モノマー(B)が、例えば、ポリアルキレンオキシド鎖を有するモノマーの場合には、モノマー(B)に連鎖移動剤が導入されたマクロ連鎖移動剤を合成した後、このマクロ連鎖移動剤と、モノマー(A)とを所定の溶媒に溶解し、上記と同様に加熱することにより、モノマー(B)と、モノマー(A)が重合したポリマー(以下、Aブロックと称する)とが直列に結合した、本発明の共重合体(ブロック共重合体)を合成することができる。
【0028】
また、モノマー(A)と、モノマー(B)と、連鎖移動剤と、重合開始剤とを所定の溶媒に溶解し、重合開始剤が開裂する温度以上であって、かつ、100℃以下の温度で24〜300時間加熱することにより、Bブロックと、Aブロックとが櫛型に結合した、本発明の共重合体(ランダムグラフト共重合体)を合成することができる。
【0029】
RAFTに用いられる連鎖移動剤は、特に限定されず、例えば、ブチルベンジルトリチオカルボナート、クミルジチオベンゾエート(CDB)、4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエート、酢酸ジチオベンゾエート、ブタン酸ジチオベンゾエート、4−トルイル酸ジチオベンゾエート等が挙げられる。
【0030】
重合開始剤は、特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等を用いることができる。重合開始剤の好適な使用量は、モノマーに対して、0.001〜1質量%、連鎖移動剤に対して、1〜33質量%である。
【0031】
次に、ATRPによる場合について説明する。まず、モノマー(B)と、ハロゲン化アルキル剤と、触媒とを所定の溶媒に溶解し、反応させることにより、Bブロックの末端にハロゲン化アルキル剤が導入されたマクロハロゲン化アルキル剤を合成する。次に、このマクロハロゲン化アルキル開始剤と、モノマー(A)とを所定の溶媒に溶解し、さらに触媒を加え、室温以上であって、かつ、100℃以下の温度で6〜50時間加熱することにより、Bブロックと、Aブロックとが直列に結合した、本発明の共重合体(ブロック共重合体)を合成することができる。
【0032】
ATRPに用いられるハロゲン化アルキル開始剤は、特に限定されず、例えば、2−ブロモイソブチリルブロミド、2−クロロイソブチリルクロリド、ブロモアセチルブロミド、ブロモアセチクロリド、ベンジルブロミド等が挙げられる。
【0033】
触媒としては、例えば、1価の銅、2価のルテニウム等の遷移金属錯体を用いることができる。
【0034】
なお、重合反応に用いる溶媒は、特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、t−ブタノール、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、これらの混合液等が挙げられる。
【0035】
[共重合体のミセル化方法]
本発明の共重合体をミセル化する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、本発明の共重合体を所定の溶媒に溶解し、透析膜を用いて透析することにより、ミセル化することができる。所定の溶媒としては、特に限定されず、例えば、エタノール、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ベンゼン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。透析膜としては、分画分子量2,000〜20,000の再生セルロース製膜を用いることが好ましい。なお、均一な粒子径のミセルを得るために、上記透析後にフィルター等でろ過することが好ましい。
【0036】
[金属高分子錯体]
本発明の金属高分子錯体は、本発明の共重合体の配位子と、金属原子とが配位結合してなる。本発明の金属高分子錯体は、多量の金属原子が安定に配位した高分子錯体であり、ミセルを形成する。本発明の金属高分子錯体によれば、ミセルを形成するので、液剤として取り扱い易く、また、エンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれるので、細胞に効果的に作用するものと推測される。
【0037】
本発明の金属高分子錯体中に含まれる金属原子は、同一種であっても、異種であってもよいが、金属原子における遷移金属元素の割合は、元素組成において10〜80質量%であることが好ましい。なお、金属原子については、上述したので説明は省略する。
【0038】
[金属高分子錯体の合成方法]
本発明の金属高分子錯体の製造方法について説明する。なお、上述した共重合体と共通する部分についての説明は省略する。本発明の金属高分子錯体の製造方法では、まず、金属錯体と、所定の溶媒と、水とを混合し、反応させることにより配位子交換金属錯体を合成する。例えば、白金高分子錯体を合成する場合、上記金属錯体としては、テトラクロロ白金(II)酸やそのアルカリ塩が好適である。その場合の所定の溶媒としては、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド等が好適である。溶媒にジメチルスルホキシドを用いた場合には、配位子交換金属錯体として、テトラクロロ白金(II)酸の2つの塩素原子が2つのジメチルスルホキシドに交換された化合物を合成することができる。
【0039】
次いで、上記配位子交換金属錯体と、本発明の共重合体とを、所定の溶媒に溶解し、室温以上であって、かつ、150℃以下の温度で10〜72時間加熱することにより、本発明の共重合体の配位子と、金属原子とが配位結合した金属高分子錯体を得ることができる。なお、所定の溶媒としては、特に限定されず、例えば、エタノール、メタノール、ジクロロメタン等が挙げられる。
【0040】
[金属高分子錯体のミセル化方法]
本発明の金属高分子錯体は、例えば、本発明の金属高分子錯体を所定の溶媒に溶解し、透析膜を用いて透析することにより、ミセル化することができる。所定の溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エタノール、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、ベンゼン、N,N−ジメチルアセトアミド等が好適である。透析膜としては、分画分子量5,000〜30,000の再生セルロース製膜を用いることが好ましい。なお、均一な粒子径のミセルを得るために、上記透析後にフィルター等でろ過することが好ましい。
【0041】
本発明の金属高分子錯体からなるミセルは、極性溶媒に対して良好な分散性を示す。したがって、高い分散性が求められる医薬品、化粧品、塗料、触媒、細胞イメージング剤、エネルギー変換材料等への応用が期待できる。例えば、シスプラチン等の白金錯体は、細胞内のDNAと結合することでDNAの合成を阻害し、細胞の分裂や増殖を抑制する作用を有することから、がん治療の薬剤として有用であるが、水に対する溶解性が低く、液剤として取り扱い難いという欠点がある。しかしながら、本発明の共重合体の配位子に白金が配位された白金高分子錯体は、ミセルを形成するので、液剤として取り扱い易い。また、ミセル形成された金属の高分子錯体は、エンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれるので、細胞に効果的に作用するものと推測される。
【0042】
[金属高分子錯体のミセルの分散液]
本発明の分散液は、本発明の金属高分子錯体からなるミセルが分散した溶液である。本発明の分散液に分散している粒子の平均粒径は、特に限定されないが、より高い分散安定性を示すためには、10〜1000nmであることが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。本発明の分散液における分散溶媒は、極性溶媒であれば特に限定されず、例えば、水、エタノール、ジクロロメタン,クロロホルム等が挙げられる。
【0043】
本発明の分散液における上記粒子の含有量は、特に限定されないが、少ないと有用性を十分に発揮することができず、多いと分散液の流動性が低下し、取り扱い難くなるので、この点を考慮しつつ、用途に応じて適宜調整するとよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[モノマー(A)の合成]
<多座配位子としてビピリジンを有するモノマー(A)>
2,6−ジブロモピリジン5.9g(25mmol)と、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム578mg(0.5mmol、2,6−ジブロモピリジンに対して2mol%)とを混合した後、アルゴン雰囲気下で、テトラヒドロフランに溶解させた0.5M 2−ピリジルジンクブロマイド50ml(25mmol、2,6−ジブロモピリジンに対して1当量)を加え、式(1)で表される化合物を得た(収量:2.60g、収率:44%)。反応スキームを以下に示す。
【0046】
【化1】

【0047】
式(1)で表される化合物2.6g(11.1mmol)に、ヨウ化銅114mg(0.6mmol、式(1)で表される化合物に対して5mol%)と、ヨウ化ナトリウム3.33g(2.2mmol、式(1)で表される化合物に対して2当量)とを加えた後、アルゴン雰囲気下で、1,4−ジオキサンに溶解させたトランス−N,N−ジメチル−シクロヘキサン−1,2−ジアミン190μl(d=0.902、1.2mmol、2.2mmol、式(1)で表される化合物に対して0.12当量)を更に加え、110℃の密閉条件下で24時間撹拌し、式(2)で表される化合物を得た(収量:3.957g、収率:126%)。反応スキームを以下に示す。
【0048】
【化2】

【0049】
4−ペンチン−1−オール1.72g(20mmol)に、氷浴下で、ジクロロメタン40mlと、p−トルエンスルホン酸一水和物38mg(0.2mmol、4−ペンチン−1−オールに対して1mol%)とを加え、窒素雰囲気下で、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン1850mg(22mmol、4−ペンチン−1−オールに対して1.1当量)をゆっくりと滴下し、氷浴下で1時間撹拌し、式(3)で表される化合物を得た(収量:2.589g、収率:77%)。反応スキームを以下に示す。
【0050】
【化3】

【0051】
式(2)で表される化合物3.957g(14mmol)に、式(3)で表される化合物2.355g(14mmol、式(2)で表される化合物に対して1当量)、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロリド647mg(0.56mmol、式(2)で表される化合物に対して4mol%)、ヨウ化銅213.3mg(1.12mmol、式(2)で表される化合物に対して8mol%)、i−プロピルアミン7.95ml(56mol、式(2)で表される化合物に対して4当量)、及びテトラヒドロフラン70mlの混合溶液を加え、アルゴン雰囲気下の室温で一晩撹拌し、式(4)で表される化合物を得た(収量:2.491g、収率:69.7%)。反応スキームを以下に示す。
【0052】
【化4】

【0053】
式(4)で表される化合物2.4g(7.4mmol)に、5%パラジウム−活性炭素500mgと、メタノール150mlとを加えた後、水素置換条件下で一晩撹拌し、式(5)で表される化合物を得た(収量:2.228g、収率:92%)。反応スキームを以下に示す。
【0054】
【化5】

【0055】
式(5)で表される化合物2.228g(6.8mmol)に、p−トルエンスルホン酸一水和物628mg(3.3mmol、式(5)で表される化合物に対して0.5当量)と、メタノール30mlとを加え、一晩撹拌し、式(6)で表される化合物を得た(収量:1.545g、収率:94%)。反応スキームを以下に示す。
【0056】
【化6】

【0057】
式(6)で表される化合物0.770g(3.2mmol)に、無水メタクリル酸1.956g(12.7mmol、式(6)で表される化合物に対して4当量)と、トリエチルアミン0.962g(9.5mmol、式(6)で表される化合物に対して3当量)と、脱水ジクロロメタン40mlとを加え、アルゴン雰囲気下で一晩撹拌し、本発明の重合性モノマー(A)である多座配位子としてビピリジンを有する、式(7)で表される本発明のモノマー(A)(bpyモノマー)を得た(収量:0.682g、収率:69%)。反応スキームを以下に示す。また、得られた式(7)で表される本発明のモノマー(A)であるbpyモノマーのNMRスペクトルを図1に示す。
【0058】
【化7】

【0059】
[共重合体の合成]
<bpy−g−PEGの合成>
式(7)で表される本発明のモノマー(A)であるbpyモノマー396.8mg(1.28mmol)に、式(8)で表される本発明のモノマー(B)1597mg(768μmol、式(7)で表される本発明のモノマー(A)に対して0.6当量)と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.77mg(4.71μmol、総モノマー(式(7)で表される本発明のモノマー(A)+本発明のモノマー(B))に対して0.23mol%)と、CDB 6.43mg(23.6μmol、総モノマー(式(7)で表される本発明のモノマー(A)であるbpyモノマー+本発明のモノマー(B))に対して1.15mol%)と、総量が11.1mlとなるようにN,N−ジメチルホルムアミドを加え、凍結脱気を4回行い、70℃で二日と一晩撹拌し、式(9)で表される本発明の共重合体(bpy(65)−g−PEG(35))を得た(収量:295mg、収率:15%)。なお、総モノマーとAIBNとCDBとの重合比は、総モノマー/AIBN/CDB=100/0.23/1.15であり、総モノマーは全体を100として、式(7)で表される本発明のモノマー(A)/式(8)で表される本発明のモノマー(B)=63/37となるように仕込んだ。反応スキームを以下に示す。また、得られた式(9)で表される本発明の共重合体であるbpy(65)−g−PEG(35)のNMRスペクトルを図2に示す。
【0060】
【化8】

【0061】
[共重合体の物性評価]
得られた式(9)で表される本発明の共重合体の理論数平均分子量(Mn)、ピリジン(Py)とポリエチレングリコール(PEG)との転化率、PyとPEGとのユニット比、及び臨界ミセル濃度(cmc)を表1に示す。なお、理論数平均分子量(Mn)、ピリジン(Py)とポリエチレングリコール(PEG)との転化率、及びPyとPEGとのユニット比は、NMRにより測定した。また、臨界ミセル濃度(cmc)は、ピレン可溶化試験により測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
[共重合体のミセル化]
式(9)で表される本発明の共重合体(bpy(65)−g−PEG(35))50mgをN,N−ジメチルアセトアミド5mlに溶解させた後、透析膜(分画分子量:3500)に入れ、N,N−ジメチルアセトアミドに対して400倍量の水で5日間透析を行うことによりミセルを形成させた。透析後、得られた溶液のうち、50mlをメスフラスコに回収し、濃度が1mg/mlとなるように水を用いてメスアップを行った。そして、得られたミセルの粒径を、Arレーザーを用いたダイナミック光散乱光度計(DLS)により測定したところ、平均粒径21.9±5.6nmの均一な粒子が形成されていることが確認された(図3)。
【0064】
[白金高分子錯体の合成]
テトラクロロ白金(II)酸カリウム300mg(722μmol)に、ジメチルスルホキシド(DMSO)169mg(d=1.099、2.17mmol、テトラクロロ白金(II)酸カリウムに対して3当量)と、ミリQ水1.5mlとを加え、氷浴下で2時間撹拌し、[Pt(DMSO)Cl]を得た(収量:248mg、収率:81%)。得られた[Pt(DMSO)Cl]のIRスペクトルを図4に示す。1200〜1000cm−1付近、及び3000cm−1付近にDMSOに由来するピークが確認され、430cm−1付近に[Pt(DMSO)Cl]に由来するピークが確認された。
【0065】
上記方法にて得られた[Pt(DMSO)Cl]60mg(0.14mmol)に、式(9)で表される本発明の共重合体(bpy(65)−g−PEG(35))5446mg(0.14mmol、[Pt(DMSO)Cl]に対して1当量)と、メタノール100mlとを加え、80℃の還流条件下で、1日間撹拌し、bpy(65)−g−PEG(35)−Pt錯体を得た(収量:822mg、収率:74%)。得られたbpy(65)−g−PEG(35)−Pt錯体のIRスペクトルを図5に示す。1600〜1430cm−1付近の大きな吸収は、bpyのC=N伸縮振動及びC=C伸縮振動を示しており、3010〜3080cm−1付近の大きな吸収は、bpyのC−H伸縮振動を示している。また、UVスペクトルを測定したところ、390nm付近に本発明の白金高分子錯体に由来するピークが確認された(図6)。
【0066】
[白金高分子錯体のミセル化]
上記にて得られた本発明の白金高分子錯体(bpy(65)−g−PEG(35)−Pt錯体)100mgをN,N−ジメチルアセトアミド5mlに溶解させた後、透析膜(分画分子量:3500)に入れ、N,N−ジメチルアセトアミドに対して200倍量の水で5日間透析を行うことによりミセルを形成させた。透析後、得られた溶液のうち、50mlをメスフラスコに回収し、濃度が1mg/mlとなるように水を用いてメスアップを行った。そして、得られたミセルの粒径を、Arレーザーを用いたダイナミック光散乱光度計(DLS)により測定したところ、平均粒径37.5±8.9nmの均一な粒子が形成されていることが確認された(図7)。
【0067】
[モノマー(A)の合成]
<多座配位子としてジピコリルアミンを有するモノマー(A)>
2−クロロメチルピリジン塩酸塩11.81g(72mmol)に、アミノプロパノール1.8g(24mmol)、炭酸カリウム33.2g(240mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)0.322g(1mmol)、及び脱水アセトニトリル300mlを加え、95℃で3日間加熱還流した。TLCにより反応の進行を確認した後、セライト濾過、濃縮、及び真空乾燥を行った。その後、カラム精製し、濃縮することにより、式(10)で表される化合物(3−[bis(pyridin−2−ylmethyl)amino]propan−1−ol)を獲た(収量:4.3g、収率:69.6%)。なお、カラム精製は、酢酸エチルに対してメタノールの割合を0%、5%、10%、20%と増やした展開溶媒を用いて行った。反応スキームを以下に示す。また、得られた式(10)で表される化合物のNMRスペクトルを図8に示す。
【0068】
【化9】

【0069】
アルゴン雰囲気下で、式(10)で表される化合物3g(11.6mmol)を脱水ジクロロメタン500mlに溶解させ、氷浴条件下、塩化アクリロイル1.50ml(18.56mmol、式(10)で表される化合物に対して1.6当量)を滴下し、一晩撹拌した。TLCにより反応の進行を確認した後、濃縮し、炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、次いで、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水処理した。その後、カラム精製し、本発明のモノマー(A)である多座配位子としてジピコリルアミンを有する、式(11)で表される化合物(DPAモノマー)を得た(収量:1.05g、収率:29.1%)。なお、カラム精製の展開溶媒には酢酸エチルを用いた。反応スキームを以下に示す。また、得られた式(11)で表される本発明のモノマー(A)であるDPAモノマーのNMRスペクトルを図9に示す。
【0070】
【化10】

【0071】
[RAFT剤の合成]
4−ブロモメチル安息香酸3g(13.95mmol)をテトラヒドロフラン25mlに溶解させ、4−ブロモメチル安息香酸のテトラヒドロフラン溶液を得た。次いで、アルゴン雰囲気下、1−ブタンチオール1.80ml(16.74mmol、4−ブロモメチル安息香酸に対して1.2当量)、ジアザビシクロウンデセン2.5ml(16.74mmol、4−ブロモメチル安息香酸に対して1.2当量)、及び二硫化炭素1.01ml(16.74mmol、4−ブロモメチル安息香酸に対して1.2当量)を脱水テトラヒドロフラン75mlに加え、室温で30分間撹拌した。撹拌後、上記4−ブロモメチル安息香酸のテトラヒドロフラン溶液を滴下し、更に室温で6時間撹拌した。TLCにより反応の進行を確認し、セライト濾過及び濃縮後、ベンゼンに溶解させた。さらに、1M塩酸及びイオン交換水で洗浄し、次いで、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水処理した後、濃縮し、フリーズドライすることにより、式(12)で表されるRAFT剤を得た(収量:3.78g、収率:93.9%)。反応スキームを以下に示す。また、得られた式(12)で表されるRAFT剤のNMRスペクトルを図10に示す。
【0072】
【化11】

【0073】
[モノマー(B)−マクロ−RAFT剤の合成]
アルゴン雰囲気下、式(12)で表されるRAFT剤720mg(2.4mmol、後述するモノマー(B)に対して10当量)を脱水ベンゼンに溶解させ、オキサリルクロライド242μl(2.88mmol、式(12)で表されるRAFT剤に対して1.2当量)、及びN,N−ジメチルホルムアミド(cat.)を少量加え、撹拌した後、TLCにより式(13)で表される酸塩化物の生成を確認し、濃縮した。次いで、該酸塩化物を脱水ベンゼン7mlに溶解し、さらに、脱水ベンゼンに溶解させたトリエチルアミン400μl(2.88mmol、式(12)で表されるRAFT剤に対して1.2当量)、及びポリエチレングリコール(PEG)(5K)1200mg(0.24mmol)を加えた後、70℃のオイルバス中で1晩撹拌した。その後、セライト濾過及び濃縮を行い、20倍量のイソプロピルエーテルで再沈殿を行った。得られた沈殿物をクロロホルムに溶解させ、濃縮後、フリーズドライすることにより、本発明のモノマー(B)が重合したポリマーの末端にRAFT剤が導入された、式(14)で表されるPEG(5K)−マクロ−RAFT剤を得た(収量:1060mg、収率:83.3%、末端修飾率:85%)。反応スキームを以下に示す。また、得られた式(14)で表されるPEG(5K)−マクロ−RAFT剤のNMRスペクトルを図11に示す。
【0074】
【化12】

【0075】
【化13】

【0076】
[共重合体の合成]
<DPA−b−PEGの合成>
式(14)で表されるPEG(5K)−マクロ−RAFT剤250mg(47μmol)、及び式(11)で表される本発明のモノマー(A)であるDPAモノマー(2M)1.42ml(2.83mmol、式(14)で表されるPEG(5K)−マクロ−RAFT剤に対して60当量)を、N,N−ジメチルホルムアミド5mlに溶解し、重合管に入れ、さらに、0.1Mのアゾビスイソブチロニトリル溶液235μl(23.5μmol、式(14)で表されるPEG(5K)−マクロ−RAFT剤に対して0.5当量)を加えた。凍結脱気を3回行い、90℃のオイルバス中で5日間撹拌した。その後、セライト濾過及び濃縮を行い、20倍量のイソプロピルエーテルで再沈殿を行った。得られた沈殿物をフリーズドライすることにより、式(15)本発明の共重合体(DPA(20)−b−PEG)を得た(収量:470mg、収率:35.7%)。反応スキームを以下に示す。また、得られた式(15)で表される本発明の共重合体であるDPA−b−PEGのNMRスペクトルを図12に示す。
【0077】
【化14】

【0078】
[共重合体の物性評価]
式(14)で表されるPEG(5K)−マクロ−RAFT剤300mg(57μmol)、及び式(11)で表される本発明のモノマー(A)であるDPAモノマー(2M)1.42ml(2.83mmol、式(14)で表されるPEG(5K)−マクロ−RAFT剤に対して50当量)を、N,N−ジメチルホルムアミド10mlに溶解した。そして、得られた溶液1.9mlと、0.1Mのアゾビスイソブチロニトリル溶液38μl(式(14)で表されるPEG(5K)−マクロ−RAFT剤に対して0.4当量)とを入れた重合管を全部で6本作製し、凍結、脱気を行い、90℃のオイルバス中で撹拌し、重合させた。なお、各重合管には、式(14)で表されるPEG(5K)−マクロ−RAFT剤が9.5μmol、式(11)で表される本発明のモノマー(A)であるDPAモノマーが473μmol、アゾビスイソブチロニトリルが3.8μmol入っている。重合して1日経過、2日経過、3日経過、5日経過、及び7日経過後に、重合管を1本回収し、NMRにより転化率を測定した。その結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2に示すように、モノマー転化率は、重合日数の経過とともに上昇した。このことから、ゆっくりではあるが重合が定量的に、かつ、リビング重合のメカニズムに従って進行していることが明らかとなった。なお、このことは反応のキネティクス解析からも明らかとなった。
【0081】
[共重合体のミセル化]
式(15)本発明の共重合体(DPA(20)−b−PEG)100mgをジメチルスルホキシド10mlに溶解させた後、透析膜(分画分子量:1000)に入れ、ジメチルスルホキシドに対して200倍量のpH9のホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝溶液で5日間透析を行うことによりミセルを形成させた。透析後、pH9のホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝溶液を用い、得られた溶液の濃度を0.5mg/mlとなるように調整した。そして、0.22μmのフィルターにてろ過した後、ミセルの粒径を、Arレーザーを用いたダイナミック光散乱光度計(DLS)により測定したところ、平均粒径120.7±34.0nmの均一な粒子が形成されていることが確認された(図13)。
【0082】
また、式(15)本発明の共重合体(DPA(20)−b−PEG)100mgをジメチルスルホキシド10mlに溶解させた後、透析膜(分画分子量:1000)に入れ、pH9のホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝溶液で5日間透析を行うことによりミセルを形成させた。透析後、pH9のホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝溶液を用い、得られた溶液の濃度を0.5mg/ml、0.3mg/ml、0.2mg/mlとなるように調整した。そして、0.22μmのフィルターにてろ過した後、ミセルの粒径を、He−Neレーザーを用いたスタティック光散乱光度計(SLS)により測定したところ、示差屈折率計により求められた屈折率増分(dn/dc)は0.1994、相関係数は0.9705、理論数平均分子量(Mn)は9673であった。また、これらから算出したDPAユニットの数は14.0unitであった。
【0083】
[白金高分子錯体の合成]
上記方法にて合成した[Pt(DMSO)Cl]60mg(0.14mmol)に、式(15)で表される本発明の共重合体(DPA(20)−b−PEG)96.7mg(0.01mmol、[Pt(DMSO)Cl]に対して1当量)と、メタノール100mlとを加え、80℃の還流条件下で、1日間撹拌し、DPA(20)−b−PEG−Pt錯体を得た(収量:137mg、収率:92%)。
【0084】
[白金高分子錯体のミセル化]
上記にて得られた本発明の白金高分子錯体(DPA(20)−b−PEG−Pt錯体)100mgをN,N−ジメチルアセトアミド5mlに溶解させた後、透析膜(分画分子量:1000)に入れ、N,N−ジメチルアセトアミドに対して400倍量のpH9のホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝溶液で5日間透析を行うことによりミセルを形成させた。透析後、得られた溶液のうち、50mlをメスフラスコに回収し、濃度が0.5mg/mlとなるように、pH9のホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝溶液を用いてメスアップを行った。そして、得られたミセルの粒径を、Arレーザーを用いたダイナミック光散乱光度計(DLS)により測定したところ、平均粒径91.3±30.6nmの均一な粒子が形成されていることが確認された(図14)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属原子に配位結合する多座配位子を有するモノマー(A)と、親水性のモノマー(B)と、を少なくとも共重合させた共重合体。
【請求項2】
前記モノマー(A)と、前記モノマー(B)とのモル比は、1:99〜99:1である請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記多座配位子は、ビピリジン、ジピコリルアミン、及びターピリジンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の共重合体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の共重合体の配位子と、金属原子とが配位結合してなる金属高分子錯体。
【請求項5】
請求項4に記載の金属高分子錯体からなるミセルの分散液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−97211(P2012−97211A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246907(P2010−246907)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】