説明

共重合体の製造方法

【課題】生産性に優れ、且つ透明性、流動性、機械特性、耐熱性、光学特性のバランスに優れた共重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】溶解度パラメーターδが9.0(cal/cm1/2以上15.0(cal/cm1/2以下である溶媒(イ)存在下で不飽和カルボン酸エステル単量体(A)及び、不飽和カルボン酸単量体(B)を共重合して不飽和カルボン酸エステル単量体単位(a)及び、不飽和カルボン酸単量体単位(b)を含有する共重合体を得ることを特徴とする共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明で高い耐熱性を有し、流動性、成型加工性、機械特性、生産性に優れた共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)に代表されるアクリル樹脂は、その高い透明性から、光学材料、レンズ、家庭用品、OA機器、照明機器等の分野で幅広く使用されている。特に近年では導光板や液晶ディスプレイ用フィルムなどの光学材料への使用が進んでおり、ディスプレイの薄型化や、高温下での使用を想定した用途にも展開されており、より高度な耐熱性や光学特性が求められている。
PMMAの耐熱性を向上する方法としては、マレイミド系単量体を導入する方法が提案されているが、反応性が低いうえに、樹脂が着色することもあるなどの課題もあった。
また、酸無水物を導入する方法として、メタクリル酸メチルとメタクリル酸を共重合させた後、環化反応により六員環無水物を生成させる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。このような方法は、共重合体の単量体単位の比率をある程度自由に設計できるため、耐熱性向上だけでなく、さまざまな特性を付与した重合体を得ることが可能であり、有用である。しかしながら、これらの方法において使用される重合溶媒については何等規定がなく、生産安定性が向上し、且つ、使用する単量体や溶媒のリサイクル性も向上するうえに、流動性、加工性、光学特性、耐熱性のバランスを満足するものは見出されていなかった。
【特許文献1】特公昭61−49325号公報
【特許文献2】特開2003−313237号公報
【特許文献3】特公平4−3417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、生産性に優れ、且つ透明性、流動性、機械特性、耐熱性、光学特性のバランスに優れた共重合体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、不飽和カルボン酸エステル単量体及び、不飽和カルボン酸単量体を共重合させる共重合体の製造方法において、特定の溶媒(イ)存在下で共重合を行うことにより、高い溶媒、単量体のリサイクル性を有し、且つ、透明性、機械特性、耐熱性、光学特性に優れた重合体を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
1.溶解度パラメーターδが9.0(cal/cm1/2以上15.0(cal/cm1/2以下である溶媒(イ)存在下で、不飽和カルボン酸エステル単量体(A)及び不飽和カルボン酸単量体(B)を共重合して、不飽和カルボン酸エステル単量体単位(a)及び不飽和カルボン酸単量体単位(b)を含有する共重合体を得ることを特徴とする共重合体の製造方法、
2.該溶媒(イ)が1分子中に水酸基を少なくとも一つ含有することを特徴とする1.に記載の共重合体の製造方法、
【0005】
3.該溶媒(イ)の沸点(Y)が100℃以上であることを特徴とする1.又は2.に記載の共重合体の製造方法、
4.該溶媒(イ)が環状構造を有するアルコール類を含むことを特徴とする1.〜3.いずれか一つに記載の共重合体の製造方法、
5.該溶媒(イ)がシクロヘキサノールを含むことを特徴とする1.〜4.いずれか一つに記載の共重合体の製造方法、
6.単量体(A)及び(B)を共重合したのち、180〜300℃、200Torr以下で1〜240分間加熱処理することにより、分子内に下記一般式(1)で示される酸無水物単位(c)を形成させることを特徴とする1.〜5.いずれか一つに記載の共重合体の製造方法、
【0006】
【化1】

【0007】
ただし、式中のR1,R2は水素原子及び炭素数が1〜6のアルキル基を表し、R1,R2は同一の基であっても異なる基であってもよい。
7.更に芳香族基含有ビニル系単量体を共重合成分として共重合することを特徴とする1.〜6.いずれか一つに記載の共重合体の製造方法、
8.全単量体の質量に対し、芳香族基含有ビニル系単量体を1質量%〜50質量%用いることを特徴とする7.に記載の共重合体の製造方法、
9.該共重合体を重合するに際し、全単量体と該溶媒(イ)の合計を100質量%とした時に、該溶媒(イ)を5〜60質量%存在させることを特徴とする1.〜8.いずれか一つに記載の共重合体の製造方法、
10.重合温度が50℃以上200℃以下であることを特徴とする1.〜9.いずれか一つに記載の共重合体の製造方法、
11.1.〜10.いずれか一つに記載の製造方法で得られる共重合体、
12.11.に記載の共重合体からなる成形体、
13.11.に記載の共重合体からなるフィルム、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による共重合体の製造方法によれば、良好なリサイクル性を有するなど従来技術と比べて高い生産性を有している。また得られる共重合体は、透明性が高く、高い耐熱性、流動性、機械特性、光学特性を有する共重合体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の共重合体の製造方法について詳細に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
なお、本発明においては、重合前のモノマー成分のことを「〜単量体」といい、「単量体」を省略することもある。また、共重合体を構成する構成単位のことを「〜単量体単位」という。
本発明の製造方法により得られる共重合体は、不飽和カルボン酸エステル単量体(A)及び不飽和カルボン酸単量体(B)を重合して得られるものであり、本発明の効果を発揮できる範囲で、芳香族基含有ビニル系単量体単位(d)等の他のビニル化合物単量体単位を共重合させることができる。
【0010】
<不飽和カルボン酸エステル単量体(A)>
本発明において用いることのできる不飽和カルボン酸エステル単量体(A)としては、本発明の効果を達成できるものであれば特に制限されないが、好ましい例としては下記一般式(2)で示される単量体が挙げられる。
【0011】
【化2】

【0012】
ただし、R3は水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、アルキル基上に水酸基を有していてもよい。また、R4は炭素数が1〜12の基を表し、炭素上に水酸基を有していてもよい。
これらのうち、R3が水素原子であるアクリル酸エステル単量体又は炭素数が1のメチル基であるメタクリル酸エステル単量体を好適に用いることができる。
好適に用いることのできるメタクリル酸エステル単量体の具体例としては、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2−エチルヘキシル)、メタクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)などが挙げられ、代表的なものはメタクリル酸メチルである。
アクリル酸エステル単量体の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(t−ブチルシクロヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸(2,2,2−トリフルオロエチル)などが挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体は一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0013】
<不飽和カルボン酸単量体(B)>
本発明の共重合体においては、不飽和カルボン酸単量体(B)を共重合させることが必要である。不飽和カルボン酸単量体は、一般式(3)で表すことができる。
【0014】
【化3】

【0015】
ただし、R5は水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、アルキル基上に水酸基を有していてもよい。
中でも、R5が水素原子であるアクリル酸単量体又は炭素数が1のメチル基であるメタクリル酸単量体を好適に用いることができ、一例としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、好適にはメタクリル酸又はアクリル酸を用いることができ、より好ましくはメタクリル酸を用いることができる。
これらの不飽和カルボン酸単量体は一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
不飽和カルボン酸単量体(B)を共重合させる割合は、得られる共重合体の耐熱性、加工性、光学特性や、生産性等を考慮すると、全単量体量100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5質量部以上40質量部以下、更に好ましくは10質量部以上40質量部以下、とりわけ好ましくは10質量部以上35質量部以下、特に好ましくは15質量部以上35質量部以下、最も好ましくは20質量部以上30質量部以下である。
【0016】
<芳香族基含有ビニル系単量体(D)>
本発明においては、芳香族基含有ビニル系単量体(D)を共重合させることができる。芳香族基含有ビニル系単量体は、下記一般式(4)で表すことができる。
【0017】
【化4】

【0018】
ただし、R6は水素原子又は炭素数が1〜6のアルキル基を表し、アルキル基上に水酸基を有していてもよい。また、式中のnは0〜5の整数を表す。R7は水素原子、炭素数が1〜12のアルキル基、炭素数が1〜12のアルコキシ基、炭素数が1〜8のアリール基、炭素数が1〜8のアリール基から選ばれる一種の基であり、R7はすべて同じ基であっても、すべて異なる基であってもよい。また、R7同士で環構造を形成してもよい。
一例を挙げると、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、о−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、イソプロペニルベンセン(α−メチルスチレン)等のスチレン系単量体、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、1,1−ジフェニルエチレン、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等が挙げられ、共重合体に必要な特性によって適宜選ぶことができる。好ましい単量体としては、スチレン系単量体を挙げることができ、より好ましくはスチレン、イソプロペニルベンゼン、更に好ましくはスチレンである。上記芳香族基含有ビニル系単量体は、一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0019】
芳香族基含有ビニル系単量体(D)を共重合させる場合、得られる共重合体に求められる光学特性、耐熱性、加工性に応じて最適な量を決定することができるが、生産性等も考慮した場合、全単量体量100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1質量部を超えて45質量部以下、更に好ましくは2質量部以上45質量部以下、特に好ましく4質量部以上40質量部以下、最も好ましくは4質量部以上37質量部以下である。
また、不飽和カルボン酸単量体に対して芳香族基含有ビニル系単量体含有量が少ない場合に溶媒への溶解性が低下する傾向があること、重合時の溶液粘度、共重合体の耐熱性の観点から、不飽和カルボン酸単量体と芳香族基含有ビニル系単量体の質量%比が0.25≦(不飽和カルボン酸単量体)/(芳香族基含有ビニル系単量体)≦9の範囲であることが好ましい。
【0020】
<その他のビニル系単量体(E)>
本発明においては、本発明の効果を損わない範囲で(A)、(B)及び(D)以外のビニル単量体(以下、その他のビニル系単量体、という)を用いることができる。その他のビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド類等を挙げることができる。その他のビニル系単量体を含有する場合、光学特性や耐熱性、加工性を考慮すると、全単量体量100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜40質量部、更に好ましくは0.5〜35質量部、とりわけ好ましく1〜30質量部、特に好ましくは1〜25質量部である。
【0021】
<重合方法>
本発明の共重合体の重合方法は、塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の従来公知の方法を用いることができ、微小異物の混入を低減することが可能であることから、懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合、溶液重合が好ましい。
【0022】
<溶媒(イ)>
本発明における共重合体の製造に際しては、 特に溶液重合や塊状重合を行う時、生成する共重合体の溶媒への溶解性が低い場合に重合体が析出すると安定運転が難しくなることも考えることから、共重合体の溶媒への溶解度を考慮して、溶媒(イ)の溶解度パラメーターδは9.0〜15.0(cal/cm1/2であることが必要である。好ましくは9.2〜14.0(cal/cm1/2、更に好ましくは9.3〜13.5(cal/cm1/2、とりわけ好ましくは9.4〜13.0(cal/cm1/2、特に好ましくは9.7〜12.8(cal/cm1/2である。溶解度パラメーターの値や値の求め方は、例えば非特許文献「Journal of Paint Technology Vol.42、No.541、February 1970」中のP76−P118に投稿されているK.L.Hoy著「New Values of the Solubility Parameters From Vapor Pressure Data」や、J.Brandrup他著「Polymer Handbook Fourth Edition」P−VII/675−P714などを参考にすることができる。尚、1(cal/cm1/2は、凡そ0.49(MPa)1/2である。
【0023】
本発明における共重合体の製造に際しては、芳香族炭化水素や、ケトン類等の水酸基を含有しない溶媒を用いた場合、共重合体製造時に実用的に有用な重合度で運転した場合に、高分子量成分が析出してくる等のために分子量及び、分子量分布の制御が難しくなる傾向があるため、重合度が上げられないことがある。特に不飽和カルボン酸単量体を15質量%以上用いる時に高分子量成分が析出してくる場合があるが、更に芳香族基含有ビニル系単量体を共重合させない場合にはその傾向が顕著であり、生産性を考慮する必要がある場合、下記一般式(5)に示されるような水酸基を少なくとも一つ以上含有する溶媒を用いることが好ましい。
【0024】
【化5】

【0025】
式中のR8は炭素数が1〜15のアルキル基を表し、炭素上の置換基は水素原子、水酸基から選ばれる少なくとも一種の基である。また、エーテル結合を含有していてもよい。
また、不飽和カルボン酸単量体は重合性が高い傾向があるため、重合禁止剤を未添加か、添加量が少ないときに常温〜高温下で自己重合をすることがある。反応系から回収される溶媒及び単量体をリサイクルする際に、精留塔を用いて分離操作を行うことができるが、精留塔中で不飽和カルボン酸単量体の重合が進んでリサイクルできなくなる上、重合体の析出、固化により機器を傷める恐れがある。使用する単量体や溶媒のリサイクル性も考慮する必要がある場合、水酸基を少なくとも一つ含有する溶媒(イ)を用いることが好ましい。
【0026】
溶媒(イ)の一例を示すと、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、2−エチルシクロヘキサノール、3−エチルシクロヘキサノール、4−エチルシクロヘキサノール、2,3−ジメチルシクロヘキサノール、2,4−ジメチルシクロヘキサノール、2,5−ジメチルシクロヘキサノール、2、6−ジメチルシクロヘキサノール、3、4−ジメチルシクロヘキサノール、3,5−ジメチルシクロヘキサノール等の水酸基を一つ有するアルコール類や、エチレングリコール、グリセリン等の水酸基を複数含有するアルコール類、メチルセロソルブ等のエーテル結合含有アルコール等が挙げられる。
【0027】
中でも二級アルコール類が好ましく、より好ましくは、環状構造を有するアルコール類であり、中でも不飽和カルボン酸単量体との混合性に優れるシクロヘキサノールは、有機酸である不飽和カルボン酸単量体類による金属腐食防止の観点からも特に好ましい。
また、溶媒(イ)中に含まれる水分量は5%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以下、更に好ましくは0.01〜2%、特に好ましくは0.1〜2%である。
また、不飽和カルボン酸単量体はアクリル酸エステル単量体や、芳香族基含有ビニル系単量体などと比較すると沸点が高い傾向にあり、リサイクル液の分離操作を行う際に精留塔下部に高濃度で残りやすく、精留塔下部で不飽和カルボン酸単量体により重合が進んで単量体や溶媒等のリサイクル性が損われる恐れがある。単量体や溶媒のリサイクル性を求められる場合は水酸基を少なくとも一つ含有する溶媒を用いることにより解消されるが、より高いリサイクル性等を求める場合、溶媒の沸点が100℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上200℃以下、更に好ましく110℃以上200℃以下、特に好ましくは120℃以上190℃以下、とりわけ好ましくは130℃以上190℃以下である。
【0028】
更には、使用する単量体の中で最も沸点の高い単量体の沸点(X)と使用する溶媒(イ)の沸点(Y)の差が−50℃≦(X−Y)≦40℃であることが好ましく、より好ましくは−40℃≦(X−Y)≦30℃、さらに好ましくは−40℃≦(X−Y)≦20℃、特に好ましくは−30℃≦(X−Y)≦20℃、とりわけ好ましくは−25℃≦(X−Y)≦15℃、最も好ましくは−15℃≦(X−Y)≦10℃である。
溶液重合や塊状重合を行うに際しては、製造の安定性を考慮すると、本発明において使用される溶媒(イ)に対する共重合体の溶解度は、0.1g/100mL以上であることが好ましく、1g/100mLを超えることがより好ましい。更には2g/100mL以上であることが好ましい。
【0029】
また、重合溶液のリサイクル液回収工程や配管腐食性などを考慮した場合、溶媒(イ)の水に対する溶解性は0.7g/100mL以上100g/100mL以下であることが好ましい。より好ましくは1.0g/100mL以上80g/100mL、更に好ましくは1.0g/100mL以上50g/100mL以下、とりわけ好ましくは1.0g/100mL以上25g/100mL以下、特に好ましくは1.0g/100mL以上15g/100mL以下、最も好ましくは1.0g/100mL以上10g/100mL以下である。
【0030】
<溶媒(イ)添加量>
本発明において使用する溶媒(イ)の添加量は、多すぎると重合溶液中の共重合体量が少なくなるため、生産性が低下してしまい、少なすぎると重合溶液の粘度が上がって加熱機の温度を上げる等の処置が必要となり、生産コストが上がる傾向がある。これらの課題を問題視しなければ重合可能な溶媒(イ)添加量を適宜選択すればよいが、通常は生産性、生産コストを勘案して全単量体成分と溶媒(イ)の合計を100質量%とした場合に、溶媒(イ)の量は5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5質量%以上50質量%以下、更に好ましくは10質量%以上45質量%以下、特に好ましくは15質量%以上40質量%以下である。
【0031】
<重合温度、時間>
本発明の共重合体の製造における重合温度は、重合が進行する温度であればよいが、生産性の観点から50℃以上200℃以下であることが好ましく、より好ましくは90℃以上200℃以下である。より好ましくは100℃以上200℃以下、更に好ましくは100℃以上180℃以下、とりわけ好ましくは110℃以上170℃以下、特に好ましくは120℃以上160℃である。また、重合時間は、必要な重合度を得ることができる時間であれば特に規定はされないが、生産性などの観点から0.5時間以上6時間以下であることが好ましく、より好ましくは1時間以上5時間以下、更に好ましくは1時間以上3時間以下である。
【0032】
<溶存酸素濃度>
本発明の共重合体の製造時において、重合液中の溶存酸素濃度は10ppm以下であることが好ましい。溶存酸素濃度は例えば、溶存酸素計 DOメーターB−505(飯島電子工業株式会社製)を用いて測定を行った値である。溶存酸素濃度を低下する方法としては、重合溶液中に不活性ガスをバブリングする方法、重合前に重合溶液を含む容器中を不活性ガスで0.2MPa程度まで加圧した後に放圧する操作を繰り返す方法、重合溶液を含む容器中に不活性ガスを通ずる方法等の方法を適宜選択することができる。
【0033】
<共重合体分子量>
共重合体の分子量分布範囲は、加工流動性、機械強度の観点から、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.5〜3.0の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、1.6〜2.7であり、さらに好ましくは1.6〜2.4の範囲である。
本発明でいう重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、PMMA換算によって求めた値のことである。
GPCにより測定した重量平均分子量(Mw)は、流動性、耐熱性、延伸安定性等のバランスから、好ましくは5万〜30万、より好ましくは5〜25万、さらに好ましくは7〜22万、特に好ましくは8〜20万である。
【0034】
<重合開始剤>
本発明による共重合体の重合においては、重合度を調整する目的で、重合開始剤を用いてもよい。本発明において、用いることができる重合開始剤の一例を挙げると、ラジカル重合を行う場合は、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどの有機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリルなどのアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤を挙げることができる。これらは単独でもあるいは2種類以上を併用してもよい。これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として実施してもよい。これらの開始剤は、単量体混合物100質量部に対して、0〜1質量部の範囲で用いるのが一般的であり、重合を行う温度と開始剤の半減期を考慮して適宜選ぶことができる。
【0035】
特に、90℃以上の高温下で重合を行う場合には、溶液重合が一般的であるので、10
時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開
始剤などが好ましい。具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。これらの開始剤は、例えば、全単量体量100質量%に対して、0〜1質量%の範囲で用いることが好ましい。
溶液重合法を選択する場合には、重合溶液の粘度等を考慮して重合溶液中の固体分量が10〜60質量%となるように適宜重合開始剤の種類、添加量を決定すればよい。
【0036】
<分子量制御>
本発明による共重合体の製造においては、本発明の目的を損わない範囲で、分子量の制御を行うことができる。例えば、アルキルメルカプタン類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤、ジチオカルバメート類、トリフェニルメチルアゾベンゼン、テトラフェニルエタン誘導体等のイニファータ等を用いる方法がある。これらの添加量を調整することにより、分子量を調整することが可能である。これらの添加剤を用いる場合、取扱性や安定性の点からアルキルメルカプタン類が好適に用いられ、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等が挙げられる。
これらは、要求される分子量に応じて適宜添加することができるが、一般的には全単量体混合物100質量部に対して0.001質量部〜3質量部の範囲で用いられる。
また、その他の分子量制御方法としては重合方法を変える方法、重合開始剤の量を調整する方法、重合温度を変更する方法などが挙げられる。
これらの分子量制御方法は、一種の方法だけ用いてもよいし、二種以上の方法を併用してもよい。
【0037】
<酸無水物単量体単位(c)>
本発明における共重合体において、不飽和カルボン酸単量体を共重合する場合、熱安定性付与、共重合体の光弾性係数や延伸リターデーションと耐熱性のバランスから、環化反応を行い、一般式(1)で表される構造単位を形成させることが好ましい。
一般式(1)で表される構造単位は、触媒の存在或いは非存在下で加熱することにより、不飽和カルボン酸単量体からの脱水反応、若しくは不飽和カルボン酸単量体及び不飽和カルボン酸エステルからの脱アルコール反応による分子内環化反応により得ることができる。
このような分子内環化反応を起こす方法は、特に制限されないが、例えば、ベント口を有する押出機を用いる方法や、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下若しくは減圧下で脱揮タンクを用いる方法等が挙げられる。
好ましい装置としては、フラッシュタンク、二軸押出機、単軸押出機、二軸・単軸複合型連続混練押出機、三軸以上の多軸押出機、ニーダー等が挙げられ、これらは一種又は二種以上を併用してもよい。
【0038】
上記の方法により加熱脱揮する際の温度は、所望する共重合体組成、未反応単量体の量や溶媒量の多少に応じて適宜選ぶことができ、分子内環化反応が起こる温度であれば特に制限されないが、好ましくは180〜300℃、より好ましくは200〜300℃、更に好ましくは200〜280℃、特に好ましくは220〜280℃である。
また、上記方法により加熱脱揮及び/又は環化反応を行う場合の加熱時間は、所望する共重合体組成に応じて適宜設定することが可能であり、通常1〜240分、好ましくは1〜150分、より好ましくは1〜120分、特に好ましくは2〜90分、特に好ましくは3〜60分であり、とりわけ好ましくは5〜60分である。
【0039】
押出機を用いる場合、加熱時間を確保するために、スクリュー直径(D)とスクリュー長さ(L)の比はL/D=20以上であることが好ましく、より好ましくは30以上、特に好ましくは40以上とすることが好ましい。また、実用的にはL/Dが120以下であることが好ましい。
また、加熱脱揮及び/又は環化反応を減圧下で行う場合、脱揮効率などを考慮すると、200Torr以下であることが好ましく、より好ましくは150Torr以下、更に好ましくは100Torr以下、とりわけ好ましくは50Torr以下である。また、実用的には1Torr以上であることが好ましい。
【0040】
本発明による共重合体において、酸無水物単量体単位(c)形成する際には、環化反応を促進する触媒として、酸、アルカリ、塩から選ばれる少なくとも一種を添加することができる。環化触媒の添加量は、本願の目的を損わない範囲であれば特に規定はされないが、得られる共重合体の透明性、機械強度などの観点から、より少ない方が好ましい。具体的には1質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下であることが適当である。好適に使用される触媒の一例を挙げると、酸触媒としては塩酸、硫酸、リン酸、亜リン酸、p−トルエンスルホン酸、フェニルホスホン酸等が挙げられる。塩基性触媒としては、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルカリ土類金属誘導体等が挙げられる。また、塩系触媒としては、炭酸金属塩、硫酸金属塩、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩等が挙げられる。
環化反応の反応促進効果、共重合体の透明性、着色性の観点から、アルカリ系、塩系触媒を好適に用いることができ、上記環化触媒は一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0041】
<共重合体中の各単量体単位の構成比>
本発明における共重合体の各構造単位の質量%比は、不飽和カルボン酸エステル単位(a)と不飽和カルボン酸単量体単位(b)を含有する場合、(a)と(b)の総量を100質量%とした場合に、(b)成分の含有量は、1質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
また、(a)成分と(b)成分及び、酸無水物単位(c)を含有する場合、それぞれの存在比は、耐熱性、流動性、加工性、機械特性、光学特性のバランスを考慮すると、(a)成分、(b)成分及び(c)成分の総量を100質量%とした場合に、(b)成分の含有量は1質量%以上50質量%以下、より好ましくは1質量%以上40質量%以下、更に好ましくは2質量%以上30質量%以下であり、且つ、(b)成分と(c)成分と質量%比が2≦(c)/(b)≦30であることが好ましい。
【0042】
本発明における共重合体中に更に芳香族基含有ビニル系単量体単位(d)を含有する場合、共重合体中の(d)成分の含有量は、所望の機械特性、耐熱性が得られる範囲であれば、特に規定はされないが、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分の合計を100質量%とした場合に、(d)成分は1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜45質量%、更に好ましくは3〜40質量%である。
また、特に光弾性係数、リターデーション等の光学特性と耐熱性、加工流動性を高度にバランスさせる必要があるときには、(d)成分と(b)成分の配合割合は、1≦(d)/(b)≦10であることが好ましい。
【0043】
<他の樹脂との組合せ>
本発明において製造される共重合体においては、従来公知の樹脂と組み合わせて使用することができる。使用に供される樹脂は何等規定されるものではなく、公知の硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が好適に使用される。一例を挙げると、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シンジオタクテックポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂、樹脂、AS系樹脂、BAAS系樹脂、MBS樹脂、AAS樹脂、生分解性樹脂、ポリカーボネート−ABS樹脂のアロイ、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。特にAS樹脂、BAAS樹脂は流動性を向上させるのに好ましく、ABS樹脂、MBS樹脂は耐衝撃性を向上させるのに好ましく、また、ポリエステル樹脂は耐薬品性を向上させるのに好ましい。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等は難燃性を向上させる効果が期待できる。
【0044】
また、硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、キシレン樹脂、トリアジン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ウレタン樹脂、オキセタン樹脂、ケトン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、スチリルピリジン樹脂、シリコン樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
本発明で使用することの出来るその他の樹脂は、一種単独でも、二種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
<添加剤>
本発明において製造される共重合体においては、剛性や寸法安定性等の他の特性を付与するため、本発明の効果を損なわない範囲で他の添加剤、例えば可塑剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤等の安定剤、難燃剤、難燃助剤、硬化剤、硬化促進剤、帯電防止剤、導電性付与剤、応力緩和剤、離型剤、結晶化促進剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、衝撃付与剤、摺動性改良剤、相溶化剤、核剤、強化剤、補強剤、流動調整剤、染料、増感材、着色用顔料、ゴム質重合体、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、充填剤、消泡剤、カップリング剤、防錆剤、抗菌・防カビ剤、防汚剤、導電性高分子等を添加することも可能である。
【0046】
本発明において製造される共重合体においては添加することができる熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工安定剤等の酸化防止剤等が挙げられ、好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤である。具体的には、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリン)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミン)フェノール等が挙げられ、より好ましくは、ペンタエリスリトールテラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートである。
【0047】
本発明において製造される共重合体においては添加することができる紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられ、好ましくはベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物である。これらを単独で用いても、2種以上併用して用いても構わない。
また、本発明において添加することができる紫外線吸収剤は、成型加工性の観点から、20℃における蒸気圧(P)が1.0×10−4Pa以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.0×10−6Pa以下であり、特に好ましくは1.0×10−8Pa以下である。成型加工性に優れるとは、例えばフィルム成形時に、低分子化合物のロールへの付着が少ないことなどを示す。ロールへ付着すると、例えば成形体表面へ付着し外観、光学特性を悪化させる恐れがあるため、光学用材料として好ましくないものとなる。
【0048】
また、紫外線吸収剤(c)の融点(Tm)は80℃以上であることが好ましく、更に好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、特に好ましくは160℃以上である。
本発明において添加することができる紫外線吸収剤は、23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の重量減少率が50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下である。
【0049】
<添加剤、他の樹脂の混練方法>
本発明で得られる共重合体を加工したり、種々の添加剤や他の樹脂と組み合わせる場合、その混練方法は従来公知の方法用いればよく、特に規定するものではない。例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練製造することができる。その中でも押出機による混練りが、生産性の面で好ましい。混練り温度は、ベース樹脂の好ましい加工温度に従えばよく、目安としては140〜360℃の範囲、好ましくは180〜330℃の範囲である。
【0050】
<成型方法>
また本発明の製造方法により得られる共重合体を含有する成形体は、フィルムであることが好ましい。共重合体を含有する成形体は、射出成形、シート成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、Tダイ成型、プレス成形、押出成形、発泡成形、流延法によるフィルム成形等、公知の方法で成形することが可能であり、圧空成形、真空成形等の二次加工成形法も用いることができる。
また、硬化性樹脂に配合する場合には、樹脂組成物を製造するための成分を、無溶媒で、若しくは、必要に応じて均一に混合できる溶媒を用いて混合した後、溶媒を除去して樹脂混合物を得て、これを金型内へ注形し硬化させた後冷却し、型から取り出すことにより成型品を得る方法でもよい。また、型に注型し、熱プレスにより硬化させることもできる。各成分を溶解させる為の溶媒は各種材料を均一に混合することができ、且つ、使用することによって本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されるものではない。一例としてはトルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−ヘキサン、n−ペンタン等が挙げられる。
【0051】
また、加熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機等の混練機を用いて混練製造した後、冷却、粉砕し、さらにトランスファー成形、射出成形、圧縮成形等により成形を行う方法も一例として挙げることができる。また、硬化方法は使用する硬化剤により異なるが、特に限定はされない。例としては、熱硬化、光硬化、UV硬化、圧力による硬化、湿気による硬化等が挙げられる。各成分を混合させる順序は、本発明の効果が達成できる方法であれば特に規定するものではない。
【0052】
<用途>
本発明により製造された共重合体からなる成型品の用途としては、家庭用品、OA機器、AV機器、電池電装用、照明機器、自動車部品用途、ハウジング用途や、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる導光板、拡散板、偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、レンズ、タッチパネル等、また、太陽電池に用いられる透明基盤等に好適に用いることができる。その他にも、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなどにも用いることができる。また、他の樹脂の改質材として用いることもできる。
本発明により製造された共重合体からなる成形体は、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
(1)ガラス転移温度(Tg)測定
示差走査熱量計 DSC−7型(パーキン・エルマー社製)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で測定した。
(2)流動性(メルトフローレート:MFR)
ASTM−D1238に基づき、230℃/3.8kg荷重にて測定を行った。
(3)分子量分布(Mw/Mn)
東ソー株式会社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC−8120+8020)カラムに東ソー製TSKスーパーHH−M(2本)+スーパーH2500(1本)を直列に並び検出器をRIで行い、測定試料は、0.02gのメタクリル系樹脂を20ccのTHF溶媒に溶解し、注入量10ml、展開流量0.3ml/minで溶出時間と、強度を測定した。ジーエルサイエンス製の単分散の重量平均分子量が既知なメタクリル系樹脂を標準試料とした検量線を元に重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求め、分子量分布をMw/Mnとして算出した。
【0054】
(4)全光線透過率(光学特性)
日本電色工業(株)製 濁度計 型式:1001DPを使用して測定した。
(5)耐衝撃性
約50mm×約50mm×厚さ約0.4mmの試験片を作成し、約30mm×約30mmの穴があいた「回」型の型枠に、左右及び上下に各約10mmでるように両面テープで貼り付け、そこに約12.1gの鉄球を落下させ、割れない高さ(cm)を算出して耐衝撃性の比較を行った。
(6)光弾性係数(C)の測定
測定光の経路に引張装置(井元製作所製)を配置し、試験片に伸張応力をかけながらその複屈折をRets−RFI(大塚電子製)を用いて測定した。伸張時の歪速度は0.3%/分(チャック間:30mm、チャック移動速度0.1mm/分)、試験片幅は10mmとした。25℃、試験片の0.5〜1.0%の歪範囲における複屈折の絶対値(|Δn|)をy軸、伸張応力(σ)をx軸としてプロットし、最小二乗近似により線形領域の直線の傾きを求め、光弾性係数の絶対値(|C|)を計算した。
【0055】
[実施例1]
メタクリル酸メチル53質量部、スチレン5質量部、メタクリル酸12質量部、シクロヘキサノール(含有水分量:2%、溶解度パラメーターδ=11.4)30質量部、1,1−ジ(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン50ppm、n−オクチルメルカプタン1400ppmからなる混合液を調製し、10分間窒素ガスをバブリングした。この混合液を内容量3Lのジャケット付完全混合反応機に1.5L/hrの速度で連続供給して重合を行った。重合温度135℃で2時間反応させたところ、重合体は完全に溶解しており、重合液中に含まれる重合体固形分量が40質量%となった。この重合溶液を直ちに連続的に加熱器に通して脱揮タンクに供給した。この脱揮タンクは255℃、25Torrで40分間滞留させることにより、未反応単量体類及び、溶媒の除去とともに六員環酸無水物の生成を実施した。未反応単量体類及び溶媒は回収ラインを通じて回収した。
得られた重合体の組成解析の結果、メタクリル酸メチル単位70質量%、スチレン単位10質量%、メタクリル酸単位3質量%、六員環無水物単位17質量%であり、メルトフローレート(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は0.9g/10分、Mw/Mn=1.9、Tg=130℃であった。
また、回収した未反応単量体及び溶媒を窒素雰囲気下、90℃で3時間加熱還流したが固形物の形成は見られなかった。
【0056】
[実施例2]
メタクリル酸メチル51.8質量部、スチレン3.5質量部、メタクリル酸14.7質量部、シクロヘキサノール30質量部、1,1−ジ(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン50ppm、n−オクチルメルカプタン1500ppmからなる混合液を調製し、10分間窒素ガスをバブリングした。この混合液を内容量3Lのジャケット付完全混合反応機に1.5L/hrの速度で連続供給して重合を行った。重合温度135℃で2時間反応させたところ、重合体は完全に溶解しており、重合液中に含まれる重合体固形分量が40質量%となった。この重合溶液を直ちに連続的に加熱器に通して脱揮タンクに供給した。この脱揮タンクは255℃、25Torrで30分間滞留させることにより、未反応単量体類及び、溶媒の除去とともに六員環酸無水物の生成を実施した。未反応単量体類及び溶媒は回収ラインを通じて回収した。
得られた重合体の組成解析の結果、メタクリル酸メチル単位68.9質量%、スチレン単位6.8質量%、メタクリル酸単位3.2質量%、六員環無水物単位21.1質量%であり、メルトフローレート(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は0.9g/10分、Mw/Mn=1.9、Tg=133℃であった。
また、回収した未反応単量体及び溶媒を窒素雰囲気下、90℃で3時間加熱還流したが固形物の形成は見られなかった。
【0057】
[実施例3]
メタクリル酸メチル35質量部、スチレン21質量部、メタクリル酸14質量部、シクロヘキサノール30質量部、1,1−ジ(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン50ppm、n−オクチルメルカプタン1200ppmからなる混合液を調製し、10分間窒素ガスをバブリングした。この混合液を内容量3Lのジャケット付完全混合反応機に1.5L/hrの速度で連続供給して重合を行った。重合温度135℃で2時間反応させたところ、重合体は完全に溶解しており、重合液中に含まれる重合体固形分量が42質量%となった。この重合溶液を直ちに加熱器に通して、バレル温度255℃に設定し、25Torrに減圧したベント付き二軸押出機に連続的に供給し、未反応単量体類及び、溶媒の除去とともに六員環酸無水物の生成を実施した。未反応単量体類及び溶媒は回収ラインを通じて回収した。得られた重合体を、50Torrに減圧したベント付き二軸押出機(L/D=67)に通して、未反応単量体類及び、溶媒の除去とともに六員環酸無水物の生成を完結させた。得られた重合体の組成解析の結果、メタクリル酸メチル単位43質量%、スチレン単位33質量%、メタクリル酸単位7質量%、六員環無水物単位17質量%であり、メルトフローレート(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は0.6g/10分、Mw/Mn=1.9、Tg=136℃であった。
また、回収した未反応単量体及び溶媒を窒素雰囲気下、90℃で3時間加熱還流したが固形物の形成は見られなかった。
【0058】
[比較例1]
メタクリル酸メチル44質量部、スチレン20質量部、メタクリル酸16質量部、エチルベンゼン(溶解度パラメーターδ=8.84)20質量部、1,1−ジ(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン50ppm、n−オクチルメルカプタン1500ppmからなる混合液を調製し、10分間窒素ガスをバブリングした。この混合液を内容量3Lのジャケット付完全混合反応機に1.5L/hrの速度で連続供給して重合を行った。重合温度135℃でさせたところ、固形分が析出してきたため、払出しが不可能となった。得られた固形分の組成解析の結果、メタクリル酸メチル単位49質量%、スチレン単位28質量%、メタクリル酸単位23質量%、メルトフローレート(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は0.1g/10分、Mw/Mn=2.4であった。
また、固形物を除去した後の重合溶液を、255℃、25Torrに設定した脱揮タンクに供給して未反応単量体及び溶媒を回収た。回収液を窒素雰囲気下、90℃で3時間加熱したところ、急激に固形物が生成した。
【0059】
[参考例1]
実施例1の共重合体を、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)により、バレル温度250℃、Tダイ温度250℃、樹脂温度254℃、ロール温度130℃にて押出成型することにより平均厚み100μmの未延伸フィルムを得た。フィルム成型性は良好であり、全光線透過率は92%であった。
【0060】
[参考例2]
実施例2の共重合体を、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)により、バレル温度250℃、Tダイ温度250℃、樹脂温度254℃、ロール温度135℃にて押出成型することにより平均厚み100μmの未延伸フィルムを得た。フィルム成型性は良好であり、全光線透過率は92%であった。
【0061】
[参考例3]
実施例2の共重合体を、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)により、バレル温度250℃、Tダイ温度250℃、樹脂温度256℃、ロール温度135℃にて押出成型することにより平均厚み100μmの未延伸フィルムを得た。フィルム成型性は良好であり、全光線透過率は92%であった。
【0062】
[参考例4]
デルペット80N(旭化成ケミカルズ(株)社製;Tg=114℃)を用い、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW−25MG−NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)により、バレル温度250℃、Tダイ温度250℃、樹脂温度254℃、ロール温度115℃にて押出成型することにより平均厚み100μmの未延伸フィルムを得た。フィルム成型性は良好であり、全光線透過率は92%であった。
本発明による共重合体の製造方法によれば、高いリサイクル性を有するなど高い生産性を有しており、本発明の製造方法により得られる共重合体及びその成形体は耐熱性、光学特性、加工流動性及び機械特性を高度にバランスさせることができる。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明による共重合体の製造方法によれば、良好なリサイクル性を有するなど従来技術と比べて高い生産性を有している。また得られる共重合体は、透明性が高く、高い耐熱性を有しており、家庭用品、OA機器、AV機器、電池電装用、照明機器、自動車部品用途、ハウジング用途や、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる導光板、拡散板、偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、レンズ、タッチパネル等、また、太陽電池に用いられる透明基盤、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野における、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなどにも好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解度パラメーターδが9.0(cal/cm1/2以上15.0(cal/cm1/2以下である溶媒(イ)存在下で、不飽和カルボン酸エステル単量体(A)及び不飽和カルボン酸単量体(B)を共重合して、不飽和カルボン酸エステル単量体単位(a)及び不飽和カルボン酸単量体単位(b)を含有する共重合体を得ることを特徴とする共重合体の製造方法。
【請求項2】
該溶媒(イ)が1分子中に水酸基を少なくとも一つ含有することを特徴とする請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項3】
該溶媒(イ)の沸点(Y)が100℃以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の共重合体の製造方法。
【請求項4】
該溶媒(イ)が環状構造を有するアルコール類を含むことを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項5】
該溶媒(イ)がシクロヘキサノールを含むことを特徴とする請求項1〜4いずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項6】
単量体(A)及び(B)を共重合したのち、180〜300℃、200Torr以下で1〜240分間加熱処理することにより、分子内に下記一般式(1)で示される酸無水物単位(c)を形成させることを特徴とする請求項1〜5いずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【化1】

ただし、式中のR1,R2は水素原子及び炭素数が1〜6のアルキル基を表し、R1,R2は同一の基であっても異なる基であってもよい。
【請求項7】
更に芳香族基含有ビニル系単量体を共重合成分として共重合することを特徴とする請求項1〜6いずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項8】
全単量体の質量に対し、芳香族基含有ビニル系単量体を1質量%〜50質量%用いることを特徴とする請求項7に記載の共重合体の製造方法。
【請求項9】
該共重合体を重合するに際し、全単量体と該溶媒(イ)の合計を100質量%とした時に、該溶媒(イ)を5〜60質量%存在させることを特徴とする請求項1〜8いずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項10】
重合温度が50℃以上200℃以下であることを特徴とする請求項1〜9いずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか一項に記載の製造方法で得られる共重合体。
【請求項12】
請求項11記載の共重合体からなる成形体。
【請求項13】
請求項11記載の共重合体からなるフィルム。

【公開番号】特開2009−138064(P2009−138064A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314169(P2007−314169)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】