説明

共重合体ラテックスの製造方法、及び塗料組成物

【課題】塗工紙のピック強度を改良し、皮膜の耐湿潤べたつき性に優れてバッキングロール汚れの抑制効果を有し、さらに製造工程における凝固物の発生量を減少させて生産性を向上させることが可能な、共重合体ラテックスの製造方法等を提供する。
【解決手段】 共役ジエン系単量体と、エチレン系不飽和カルボン酸単量体とを用い、乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩を用いて乳化共重合するにあたって、工程を3工程以上に分割し、各工程において用いる単量体を規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙塗工用途における顔料バインダーとして好ましく用いられる共重合体ラテックスの製造方法等に関するものである。さらに詳しくは、共重合体ラテックスの製造時において生産性が高く、塗工紙の製造工程においては塗工操業性に優れ、塗工紙の品質においては高い接着強度(ピック強度)を有する共重合体ラテックスを実現し得る、共重合体ラテックスの製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
共重合体ラテックスは、塗工紙における顔料バインダー、カーペットバッキング剤、各種接着剤および粘着剤、繊維結合剤、ならびに塗料など広範な用途に用いられる。これらの用途では、基材や配合される顔料などに対する優れた接着力が共重合体ラテックスに要求される。
【0003】
塗工紙は、印刷用紙の表面の平滑性を高め、光沢や印刷適性を向上させる目的で、抄造された原紙にカオリンクレー、炭酸カルシウム、サチンホワイト、タルク、酸化チタンなどの無機顔料およびプラスチック顔料などの有機顔料を塗布して形成される。これらの顔料のバインダーとしては、ジエン系共重合体ラテックスが一般的に用いられている。顔料バインダーとして用いられる共重合体ラテックスの性質は、塗工紙の表面強度はもとより、塗工紙の製造工程における塗工操業性にも大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0004】
近年、カラー印刷された雑誌類やパンフレット、広告等の需要の増大に伴い、印刷の高速化が進められており、特にインクタックによる紙の表面の破壊に対する抵抗性(いわゆるピック強度)の改良が以前にも増して要求されるようになった。また、塗工紙を生産する製紙メーカーにおいては、バインダーとしての共重合体ラテックスの使用量削減によるコストダウンの要望も強く、この観点からも共重合体ラテックスの性能としての接着強度の改良が求められている。
【0005】
一方、塗工紙の生産においても、生産性および生産能力の向上のため塗工速度の高速化が進められており、ここでも塗工操業性に影響を与える共重合体ラテックスへの品質要求は高まっている。塗工紙の製造方法としては、先に述べたような共重合体ラテックスを主バインダーとする塗工液が原紙にアプリケートされた後、ブレード等によって余分な塗工液が掻き取られ所定量の塗工液を塗布、乾燥する方法が一般的である。塗工紙は表裏両面に印刷されることが多く、従って、原紙の表面に塗工液が塗布、乾燥された後、裏面にも同様に塗工液が塗布、乾燥されることが多い。
【0006】
ブレードによる掻き取りの際には、紙はバッキングロールとの間で高いせん断力および圧力を受けるため、裏面の塗工を行なう際にバッキングロールに接触する表面の塗工層がバッキングロールに転移し汚れを発生させることがある。このいわゆるバッキングロール汚れの程度が著しい場合、紙切れの発生や頻繁なロール洗浄の必要が生じることにより大幅に生産性が低下する。バッキングロール汚れを改良するには、塗工層の粘着性を低減させることによりバッキングロールへの転移を抑制することが重要である。すなわち、共重合体ラテックス皮膜の耐湿潤べたつき性を改良することが有効である。
【0007】
また、共重合体ラテックスを製造するメーカーにとっても生産性の向上は大きな課題である。一般に、共重合体ラテックスの製造時には、機械的なせん断力等によって分散安定性が損なわれることに起因し、共重合体の一部が凝集して凝固物が発生する。通常、このような凝固物はろ過工程により除去されて最終製品が製造されるが、凝固物の発生量が多いとろ過工程に時間がかかり、生産性を低下させる一因となる。ここで、接着面積の増加による接着強度の向上を目的として、共重合体ラテックスの粒子径を小さくすることが試みられている。しかし、粒子径を小さくすると単位体積あたりの粒子数が増加し、粒子間距離が短くなるため凝固物が発生しやすくなる。このため、共重合体ラテックスの製造において凝固物の発生量を減少させることはますます重要となっている。
【0008】
以上のような塗工紙品質上の問題や、塗工紙製造における操業性の問題、および共重合体ラテックス製造における生産性の問題の解決を目的として、共重合体ラテックスには様々な改良がなされてきた。
たとえば、ピック強度を改良する目的で共役ジエン系単量体の組成比率を上げて共重合体のガラス転移温度を低くする方法が知られている。また、たとえば特定の単量体組成で二段もしくは多段で重合を行ない、共重合体ラテックスを改良する方法が多数提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【0009】
更に、特定組成の単量体を乳化重合する際に、乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩およびアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩を特定の方法で併用し、100nm以下の粒子径を有する共重合体ラテックスを製造する、共重合体ラテックスの製造方法が開示されている(特許文献6)。また、特定組成の単量体混合物を3分割仕込みで乳化重合する共重合体ラテックスの製造方法が開示されている(特許文献7)。
【0010】
一方、重合中の凝固物の発生を抑制する方法としては、たとえば共重合反応性のない炭素数5〜12の非水溶性炭化水素類、および水に対する溶解度が5重量%以上であり、かつヒドロキシル基、オキソ基またはニトリル基を置換基として有する水溶性炭化水素類を添加して重合する、紙塗工用共重合体ラテックスの製造方法が開示されている(特許文献8)。また、凝固物の発生の抑制に関して、重合装置を改良することが開示されている(特許文献9)。
【0011】
【特許文献1】特公昭62−31116号公報
【特許文献2】特公昭62−58371号公報
【特許文献3】特公昭60−19927号公報
【特許文献4】特開平4−41502号公報
【特許文献5】特開平7−247327号公報
【特許文献6】特開平10−7706号公報
【特許文献7】特開平10−17602号公報
【特許文献8】特開平5−9336号公報
【特許文献9】特開2000−262877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、共役ジエン系単量体の組成比率を上げて共重合体のガラス転移温度を低くする方法を採用した場合、塗工紙の白紙光沢の低下や、共重合体ラテックス皮膜の耐湿潤べたつき性の低下といった問題が生じる場合がある。
また、二段もしくは多段で重合を行なう方法については、塗工紙のピック強度と共重合体ラテックス皮膜の耐湿潤べたつき性を両立させるという点、また、共重合体ラテックスの製造時における凝固物の発生量の点において、なお改善の余地を有する場合がある。
乳化重合時に、乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩およびアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩を特定の方法で併用する方法を採用した場合、表面強度に優れる小粒径の共重合体ラテックスを得ることができる。しかし、ラテックス皮膜の耐湿潤べたつき性が不十分となって塗工工程における操業性が不良となったり、共重合体ラテックス製造時における凝固物が多く発生したりする場合がある。
乳化重合時に、特定組成の単量体混合物を3分割で仕込む方法を採用した場合には、接着強度等の点で好ましい共重合体ラテックスを得ることができる。しかし、ラテックス皮膜の耐湿潤べたつき性や凝固物発生の観点からは、なお改善の余地を有する場合がある。
【0013】
更に、重合中の凝固物の発生を抑制する方法として、共重合反応性のない特定の非水溶性炭化水素類等を使用する方法を採用した場合には、凝固物発生量の減少に関してある程度の効果が認められる。しかし、共重合体ラテックスを小粒径化した場合には十分な効果が発現されない場合がある。また、ラテックス皮膜の耐湿潤べたつき性の点で、なお改善の余地を有する場合がある。
なお、共重合体ラテックスの小粒径化等により、凝固物の発生に関してより厳しい状況にある今日では、重合装置の改良よりも共重合体ラテックスの製造方法からの改良が望ましい。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、塗工紙のピック強度を改良し、皮膜の耐湿潤べたつき性に優れてバッキングロール汚れの抑制効果を有し、さらに製造工程における凝固物の発生量を減少させて生産性を向上させることが可能な、共重合体ラテックスの製造方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定組成の単量体を乳化重合するに際し、乳化剤の種類、量、使用方法等を規定して多段重合を行なうことによって上記課題を解決し得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0016】
即ち、本発明は、以下の共重合体ラテックスの製造方法等を提供する。
[1]原料単量体として、
(a)成分:共役ジエン系単量体の1種又は2種以上を20〜80質量部と、
(b)成分:エチレン系不飽和モノカルボン酸単量体の1種または2種以上を0.1〜5.0質量部と、
(c)成分:エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体の1種又は2種以上を0.5〜5.0質量部と、
(d)成分:前記(a),(b)又は(c)成分と共重合可能な他の単量体の1種又は2種以上を10〜79.4質量部と
を合計で100質量部となるように用い、
乳化剤として、
(イ)成分:アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩を前記原料単量体の総量100質量部に対して0.1〜2.0質量部と、
(ロ)成分:アルキルベンゼンスルホン酸塩を前記原料単量体の総量100質量部に対して0.1〜1.0質量部と
を用いて乳化共重合するに際し、
以下の第1工程〜第3工程を含むことを特徴とする共重合体ラテックスの製造方法。
第1工程:前記(イ)成分の25質量%以上と前記(ロ)成分の50質量%以上との存在下で、前記原料単量体の総量の3〜30質量%を用いて重合を行ない、重合系を形成する工程。
第2工程:前記第1工程の後、前記原料単量体の総量の30〜69質量%を前記重合系に添加して重合を行なう工程。
第3工程:前記第2工程の後、前記原料単量体の残量を前記重合系に更に添加して重合を行なう工程であって、前記(c)成分の50質量%以上を用いて重合を行なう工程。
[2]前記第3工程において用いられる(a)成分の合計量が、当該第3工程の前に用いられる(a)成分の合計量よりも少ないことを特徴とする[1]記載の製造方法。
[3]前記第3工程の開始時において、当該第3工程の前に使用される原料単量体の重合転化率が60〜90質量%であることを特徴とする[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]前記乳化共重合が水の共存下に行われる重合であると共に、前記第2工程の終了時までに用いられる原料単量体の合計量と、前記第2工程の終了時までに用いられる水の合計量との配合比が、原料単量体の合計量/水の合計量(質量比)として0.2/1〜1/1であることを特徴とする[1],[2]又は[3]記載の製造方法。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法により得られる共重合体ラテックスと、粒径2μm以下の粒子割合が84質量%以上であるカオリンクレー、又は粒径2μm以下の粒子割合が90質量%以上である炭酸カルシウムとを含む塗料組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法により得られる共重合体ラテックスは、塗工紙のピック強度を向上させ得ると共に、塗工紙製造工程におけるバッキングロール汚れの発生を抑制し得る。
また、本発明の製造方法は、共重合体ラテックスの製造時における凝固物の発生を減少させ得、生産性を向上させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施の形態の製造方法は、原料単量体として、以下の(a)〜(d)成分、
(a)共役ジエン系単量体の1種又は2種以上、
(b)エチレン系不飽和モノカルボン酸単量体の1種又は2種以上、
(c)エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体の1種又は2種以上、
(d)前記(a),(b)又は(c)成分と共重合可能な他の単量体の1種又は2種以上、を用いるものである。
【0019】
前記(a)成分は、得られる共重合体ラテックスの柔軟性、衝撃吸収性を向上させたり、或いは、ピック強度を高めたりすることができる。
前記(a)成分の使用量としては、本実施の形態の製造方法の全工程を通じて使用される原料単量体の総量(以下、「原料単量体の総量」と略記することがある。)を100質量部とした場合において、当該100質量部中の20〜80質量部、好ましくは25〜70質量部、さらに好ましくは28〜65質量部である。使用量を20質量部以上とすることにより、共重合体に十分な柔軟性を与えることが可能となる。また、80質量部以下とすることにより、共重合体がやわらかくなりすぎて接着力が低下したり皮膜の耐湿潤べたつき性が低下したりするのを防止することができる。
前記(a)成分としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどがあげられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
前記(b)成分は、得られる共重合体ラテックスの分散安定性を向上させたり、或いは、接着力を高めたりすることができる。
前記(b)成分の使用量としては、原料単量体の総量を100質量部とした場合において、当該100質量部中の0.1〜5.0質量部、好ましくは0.2〜4.0質量部、さらに好ましくは0.3〜3.0質量部である。使用量を0.1質量部以上とすることにより、分散安定性および接着力を十分に高めることが可能である。また、5.0質量部以下とすることにより、共重合体ラテックスの粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となったり、耐水性が低下したりすることを防止できる。
前記(b)成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
前記(c)成分は、得られる共重合体ラテックスの分散安定性を向上させたり、接着力を高めたり、或いは、皮膜の耐湿潤べたつき性を高めたりすることができる。
前記(c)成分の使用量としては、原料単量体の総量を100質量部とした場合において、当該100質量部中の0.5〜5.0質量部、好ましくは0.7〜4.0質量部、さらに好ましくは1.0〜3.0質量部である。使用量を0.5質量部以上とすることにより、分散安定性、接着力および耐湿潤べたつき性を十分に付与することが可能である。また、5.0質量部以下とすることにより、共重合体ラテックスの粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となったり、耐水性が低下したりすることを防止できる。
なお、前記(c)成分としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、およびその酸無水物が挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
前記(d)成分は、得られる共重合体ラテックスに様々な特性を付与し得る。
前記(d)成分としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体;
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸アルキルエステル類;
メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル類;
アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのヒドロキシアルキルエステル類;
アクリル酸アミノエチルアクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノアルキルエステル類、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのピリジン類;
アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのグリシジルエステル類;
アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアミド類;
酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;
塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;
p−スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸類およびそのアルカリ金属塩;
などがあげられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、前記(d)成分の使用量としては、原料単量体の総量を100質量部とした場合において、当該100質量部中の10〜79.4質量部、好ましくは25〜75質量部である。前記(d)成分を上記範囲で用いることにより、得られる共重合体ラテックスに良好な接着力等をもたせることができる。
【0023】
本実施の形態の製造方法は、乳化剤として、以下の(イ)〜(ロ)成分、
(イ)アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、
(ロ)アルキルベンゼンスルホン酸塩、
を用いるものである。
【0024】
前記(イ),(ロ)成分は、得られる共重合体ラテックスの数平均粒子径を100nm以下とし、さらに製造工程および最終製品の分散安定性および耐水性を確保する観点から有効な成分である。ここで、本実施の形態において「数平均粒子径」とは、Microtrac社製マイクロトラック超微粒子粒度分析計UPA−150を用いて、レーザー回折散乱法(マイクロトラック法)により測定した数平均粒子径を意味する。
前記(イ)成分の使用量としては、前記原料単量体の総量100質量部に対して、0.1〜2.0質量部、好ましくは0.2〜1.7質量部、さらに好ましくは0.3〜1.5質量部である。一方、前記(ロ)成分の使用量としては、前記原料単量体の総量100質量部に対して、0.1〜1.0質量部、好ましくは0.15〜0.8質量部、さらに好ましくは0.2〜0.7質量部である。
【0025】
なお、前記(イ)成分としては、例えば、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸カリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸アンモニウム等があげられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、前記(ロ)成分としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム等があげられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
本実施の形態の製造方法は、上記原料単量体と上記乳化剤とを用いて乳化共重合を行うに際し、以下の第1工程〜第3工程を含むものである。
第1工程:前記(イ)成分の25質量%以上と前記(ロ)成分の50質量%以上との存在下で、前記原料単量体の総量の3〜30質量%を用いて重合を行ない、重合系を形成する工程。
第2工程:前記第1工程の後、前記原料単量体の総量の30〜69質量%を前記重合系に添加して重合を行なう工程。
第3工程:前記第2工程の後、前記原料単量体の残量を前記重合系に更に添加して重合を行なう工程であって、前記(c)成分の50質量%以上を用いて重合を行なう工程。
【0027】
前記第1工程において用いられる原料単量体量が、原料単量体の総量に占める割合としては、3〜30質量%、好ましくは4〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%である。
また、前記第1工程において用いられる前記(イ)成分が、本実施の形態の全工程を通じて用いられる(イ)成分の総量に占める割合としては、25質量%以上、好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、上限としては通常100質量%以下である。
更に、前記第1工程において用いられる前記(ロ)成分が、本実施の形態の全工程を通じて用いられる(ロ)成分の総量に占める割合としては、50質量%以上、好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、上限としては通常100質量%以下である。
前記第1工程において、このような使用量をもって各成分を用いることにより、得られる共重合体ラテックスの数平均粒子径を100nm以下とすることができ(即ち、得られる共重合体ラテックスの数平均粒子径を調節することができ)、凝固物の発生量を減らすことができ、良好な接着力を発現させることができる。
【0028】
ここで、前記第1工程で使用する乳化剤については、重合反応の開始前に原料単量体と混合することが好ましい。そのようにすることにより、単量体が十分に乳化混合され凝固物の発生が抑制されるというメリットがある。
また、本実施の形態において「重合を行なう」とは、少なくとも重合反応を開始、乃至進行させることを意味する。そして、重合反応が進行している反応系が「重合系」である。
【0029】
前記第2工程において用いられる原料単量体量が、原料単量体の総量に占める割合としては、30〜69質量%、好ましくは35〜65質量%、さらに好ましくは40〜63質量%である。
このような範囲で原料単量体量を用いることにより、適度な柔軟性をもつラテックス共重合体を生成させて良好な接着強度を発現させることができる。また、前記第1工程で発生したラテックス粒子を安定に成長させることができる。
【0030】
前記第3工程において用いられる原料単量体量が、原料単量体の総量に占める割合としては、1〜67質量%、好ましくは10〜65質量%、さらに好ましくは25〜60質量%である。
このような範囲で原料単量体量を使用することにより、バッキングロール汚れの抑制効果を十分に発現させることができる。
【0031】
ここで、前記第3工程において用いられる(c)成分が、本実施の形態の全工程を通じて用いられる(c)成分の総量に占める割合としては、50質量%以上、好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、上限としては通常100質量%以下である。
このような範囲で原料単量体を使用することにより、得られる共重合体ラテックス皮膜に良好な耐湿潤べたつき性を付与し、接着力を向上させることができる。
【0032】
前記第3工程において重合を開始する時点での、当該第3工程の前に使用される原料単量体の重合転化率としては、皮膜の耐湿潤べたつき性を更に向上させる観点から、通常60〜90質量%、好ましくは65〜85質量%である。
また、バッキングロール汚れの抑制効果をさらに向上させる観点から、前記第3工程において用いられる前記(a)成分の合計量は、当該第3工程の前に用いられる(a)成分の合計量よりも少ないことが好ましい。
なお、本実施の形態の製造方法において、前記第1工程、第2工程、及び第3工程は各々、1又は2以上の工程を含むことが可能である。
【0033】
本実施の形態の製造方法において、重合の各工程における単量体および乳化剤の添加方法については特に制限はなく、一括添加、回分添加、連続添加等の公知の添加方法が適宜選択して用いられる。ただし、重合反応熱の除去と生産効率を考慮した場合、単量体の添加については、第2工程以降は連続的に添加することが好ましい。また、特定の単量体のみ別の添加方法を採用することも可能である。
【0034】
本実施の形態の製造方法においては、前記(イ),(ロ)成分に加え、公知のアニオン性、カチオン性、両性、または非イオン性の界面活性剤を併用することが可能である。
このような界面活性剤としては、例えば、脂肪族せっけん、ロジン酸せっけん、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などのアニオン性界面活性剤;
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン性界面活性剤;
等が挙げられる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、このような界面活性剤の使用量としては、本実施の形態の全工程を通じて使用される前記原料単量体の100質量部に対して通常2.0質量部以下である。
【0035】
本実施の形態の製造方法における重合反応は、共重合体ラテックスを安定に効率よく製造する観点から、ラジカル開始剤により開始される乳化共重合であることが好ましい。ここで、ラジカル開始剤とは、熱または還元剤の存在下でラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、無機系開始剤、有機系開始剤のいずれも使用することが可能である。
このようなラジカル開始剤としては、例えば、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物などがある。より具体的には、例えば、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、2,2−アゾビスブチロニトリル、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、本実施の形態においては、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸およびその塩、エリソルビン酸およびその塩、ロンガリット、等の還元剤を、ラジカル開始剤と組み合わせて用いる方法(いわゆるレドックス重合法)を用いることもできる。
【0036】
本実施の形態においては、ラジカル重合において用いられる公知の連鎖移動剤を用いることが可能である。
このような連鎖移動剤としては、例えば、核置換α−メチルスチレンの二量体のひとつであるα−メチルスチレンダイマー;
n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン類;
テトラメチルチウラジウムジスルフィド、テトラエチルチウラジウムジスルフィドなどのジスルフィド類;
四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化誘導体;
2−エチルヘキシルチオグリコレート、等があげられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができ。
なお、前記連鎖移動剤の添加方法に特に制限はなく、一括添加、回分添加、連続添加など公知の添加方法が用いられる。
【0037】
本実施の形態の製造方法における重合温度に特に制限はないが、通常40〜100℃の範囲で行なうことが一般的である。また、生産効率と接着強度の観点から、重合開始から単量体の添加終了時までの温度としては50〜90℃の範囲であることが好ましく、55〜80℃の範囲であることがより好ましい。
なお、本実施の形態の製造方法においては、使用される原料単量体の添加終了後に重合転化率を向上するため、重合温度を上げる方法を用いることも可能である(いわゆるクッキング工程)。クッキング工程の温度は重合率を十分高くするため、80〜100℃の範囲とすることが好ましい。
【0038】
本実施の形態における前記乳化共重合は、安定に乳化重合を行なう観点から、水の存在下で行なう重合であることが好ましい。
また、前記乳化共重合が水の存在下で行なう重合である場合、前記第2工程の終了時までに用いられる原料単量体の合計量と、前記第2工程の終了時までに用いられる水の合計量との配合比としては、原料単量体の合計量/水(質量比)として通常0.2/1〜1/1、好ましくは0.3/1〜0.8/1である。このような範囲において原料単量体と水とを配合することは、粒子径制御の観点や、凝固物発生量の抑制の観点、又は、生産効率の観点から好ましい。
【0039】
なお、本実施の形態においては、粒子径の調整を容易にするため、公知の、いわゆるシード重合法を用いることも可能である。シードラテックスを作製後、同一反応器内で引き続き共重合体ラテックスの重合を行なうインターナルシード法、別途作製したシードを添加して共重合体ラテックスの重合を行なうエクスターナルシード法のいずれの方法についても採用することができる。
【0040】
また、本実施の形態においては、必要に応じて公知の各種重合調整剤を用いることが可能である。このような重合調整剤としては、例えばpH調整剤、キレート剤などを挙げることができる。前記pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどがあげられる。また、前記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0041】
本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスの数平均粒子径としては、通常100nm以下、好ましくは90nm以下、下限として通常50nm以上、好ましくは60nm以上である。数平均粒子径を100nm以下とすることにより、単位体積あたりのラテックスの粒子数が増加し、接着面積を増して良好な接着強度を得ることができる。また、数平均粒子径が50nm以上とすることにより、ラテックス粘度が高くなりすぎず、取り扱いを容易にし得る。
【0042】
本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスのガラス転移温度(Tg)としては、通常−40℃〜50℃、好ましくは−30〜30℃である。このような範囲に設定することは、接着強度と皮膜の耐湿潤べたつき性との観点から好適である。
ここで、本実施の形態におけるガラス転移温度とは、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製示差走査熱量計DSC6220を用いて昇温速度15℃/minで測定したガラス転移温度を意味する。
なお、本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスは、Tgを一つ有するものであっても良いし、異なる複数のTgを有するものであっても良い。
【0043】
本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスのゲル分率(トルエン不溶分)としては、接着強度と皮膜の耐湿潤べたつき性の観点から、通常70〜99質量%、好ましくは80〜98質量%、さらに好ましくは85〜96質量%である。
ここで、本実施の形態におけるゲル分率とは以下のように測定した共重合体のトルエン不溶分を意味する。2倍に希釈した共重合体ラテックスを130℃で30分間乾燥してラテックス皮膜を得る。このラテックスフィルムを0.5gとり秤量する。これをトルエン30mlと混合して3時間浸透したのち、目開き32μmの金属網にてろ過した場合の残留物の乾燥質量を秤量する。もとのラテックスフィルム質量に対する残留物の乾燥質量の割合をゲル分率(質量%)とする。
【0044】
本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスの、最終製品としての固形分濃度としては、通常30〜60質量%、好ましくは40〜55質量%である。最終製品は、このような範囲に希釈または濃縮されて調製される。
また、本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスには、その効果を損ねない限り、必要に応じて各種添加剤を添加すること、あるいは他のラテックスを混合して用いることが可能である。このような添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、老化防止剤、耐水化剤、殺菌剤、印刷適性改良剤、滑剤などが挙げられる。また、混合されるラテックスの好ましい例としては、アルカリ感応型ラテックス、有機顔料などがあげられる。なお、前記滑剤としては、脂肪酸エステルの共重合体からなる滑剤が、耐湿潤べたつき性をさらに高めることができる観点から好適に用いられる。
【0045】
本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスが紙塗工用塗料組成物のバインダーとして用いられる場合、例えば、以下のような態様が採用される。即ち、分散剤を溶解させた水中に、カオリンクレー、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト、タルクなどの無機顔料、プラスチックピグメントやバインダーピグメントとして知られる有機顔料、(変性)でんぷん、カゼイン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子や、増粘剤、染料、消泡剤、防腐剤、滑剤、印刷適性向上剤、保水剤等の各種添加剤と、共重合体ラテックスとを添加混合して、均一な分散液とする態様である。
【0046】
ここで、本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスは、当該共重合体ラテックスと共に塗料組成物を構成する顔料について、その粒径が小さいものと組み合わせて用いた場合に、特に顕著にピック強度の改良効果を発現する。即ち、本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスと、粒径2μm以下の粒子割合が84質量%以上であるカオリンクレー(顔料)、又は粒径2μm以下の粒子割合が90質量%以上である炭酸カルシウム(顔料)とを含む塗料組成物は、ピック強度に優れる皮膜を形成し得る。かかる塗料組成物は、特に紙塗工用に有用である。粒径2μm以下の粒子割合が84質量%以上であるカオリンクレーの例としては、イメリス ミネラルズ・ジャパン社製カピム−DG、Thiele Kaolin社製カオホワイト、カオグロス、カオグロス−90、カオファイン、カオファイン−90、J.M.Huber社製ハイドラグロス90、ジャパングロス、ハイドラグレーズ、ハイドラグロス、ハイドラコート−A、ハイドラファイン90、ハイドラファイン、菱三商事社製ミラグロス、ミラグロスプラス、ミラシーン、ウルトラグロス90、ウルトラホワイト90、ウルトラフロー90、ラストラ、三井物産社製アマゾンSB、アマゾンプレミアム、アマゾンプラスなどがあげられ、粒径2μm以下の粒子割合が90質量%以上である炭酸カルシウムとしてはイメリス ミネラルズ・ジャパン社製カービタル95、カービタル90、白石カルシウム社製セタカーブ、ハイドロカーブ90、ファイマテック社製スーパーコート−95、FMT−95、FMT−90、FMT−97などがあげられる。
【0047】
前記塗料組成物において、本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスと顔料とを配合する場合、顔料100質量部に対する当該共重合体ラテックスの配合量(乾燥状態)としては通常3〜30質量部、好ましくは5〜25質量部である。当該配合量については、塗料組成物の使用目的により適宜決定することができる。
また、上記塗料組成物は、各種ブレードコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、バーコーターなどを用いる通常の方法によって原紙に塗工することができる。中でも、塗工紙の品質上の観点から、ブレードコーターを用いることが好ましい。
更に、上記塗料組成物の塗工形態としては、原紙の片面あるいは両面に塗工することが可能である。また、片面あたりの塗工回数については、1回(シングル塗工)でも、2回(ダブル塗工)でも良く、適宜目的に応じて選択することができる。ダブル塗工法を採用する場合、本実施の形態の塗料組成物については、下塗り用、又は上塗り用のいずれの用途に対しても適用することができる。
【0048】
本実施の形態の塗料組成物を用いて塗工紙を得る場合は、かかる塗工紙は必要に応じてスーパーカレンダー処理され、印刷紙用途に供される。前記塗工紙は、高温ソフトニップカレンダー処理にも好適に適用可能である。
また、上記塗工紙は、オフセット枚葉印刷用紙、オフセット輪転印刷用紙、グラビア式印刷用紙、凸版式印刷用紙などの各種印刷用紙や、板紙、ダンボール用紙、包装紙などに好適に用いられる。中でも、オフセット枚葉印刷用紙およびオフセット輪転印刷用紙として用いられることが好ましい。
なお、本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスは、紙のコーティング剤、カーペットバッキング剤、その他接着剤および各種塗料などにも好適に用いることができる。
【実施例】
【0049】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。尚、重合体ラテックスの物性、およびこれを用いた塗工紙の物性の測定および評価については、下記の方法により行なった。
【0050】
[実施例1]
攪はん機と内温調節用の温水ジャケットおよび各種原料の定量添加装置を備えた耐圧反応容器に、初期原料としてイオン交換水130質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.3質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部、フマル酸0.5質量部、およびシードラテックスとして数平均粒子径20nmのポリスチレンラテックス0.5質量部を仕込み、内温を70℃に制御しながら十分に攪はんした。なお、水を除く各原料の質量部は全て乾燥質量に基づく。第1工程の単量体として、スチレン3.39質量部、1,3−ブタジエン5.21質量部、メタクリル酸0.41質量部、アクリロニトリル0.83質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル0.08質量部、アクリル酸0.04質量部、メタクリル酸0.04質量部、および連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー0.1質量部、t−ドデシルメルカプタン0.03質量部を反応容器に仕込み、ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液0.5質量部を添加して重合反応を開始し、30分間反応を継続した。
第2工程の単量体として、スチレン12.87質量部、1,3−ブタジエン19.79質量部、メタクリル酸メチル1.57質量部、アクリロニトリル3.14質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル0.31質量部、アクリル酸0.16質量部、メタクリル酸0.16質量部、および連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー0.38質量部、t−ドデシルメルカプタン0.13質量部を混合して単量体混合液を調製した。一方、イオン交換水15質量部にドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.4質量部およびペルオキソ二硫酸ナトリウム0.7質量部を溶解して水溶液を調整した。
第1工程に引き続き、あらかじめ調製した第2工程の単量体混合液および水溶液をそれぞれ4時間かけて反応容器に連続的に添加した。
第3工程の単量体として、スチレン24.75質量部、ブタジエン15質量部、メタクリル酸メチル3.02質量部、アクリロニトリル6.03質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル0.6質量部、アクリル酸0.3質量部、メタクリル酸0.3質量部、および連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー0.72質量部、t−ドデシルメルカプタン0.24質量部を混合して単量体混合液を調製した。一方、イタコン酸1.5質量部をイオン交換水15質量部に加温溶解しイタコン酸水溶液を調整した。
第2工程に引き続き、第3工程としてあらかじめ調製した上記第3工程の単量体混合液およびイタコン酸水溶液をそれぞれ3時間および1.5時間かけて反応容器に連続的に添加した。
第3工程の添加終了後、70℃で1時間反応を継続し、その後1.5時間かけて反応器の内温を100℃まで上昇し、冷却して反応を停止した。得られた反応物は水蒸気蒸留により残留単量体を除去して濃縮した後、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用いてpHを7.5に調整した。以上の様にして得られたラテックスを共重合体ラテックスAとする。
【0051】
[実施例2、3、4、6]
各原料を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様な方法により、共重合体ラテックスB、C、D、Fを得た。
【0052】
[実施例5]
各原料を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様な方法により、第2工程までの反応を行なった。
第3工程の単量体として、スチレン5.75質量部、1,3−ブタジエン7質量部、メタクリル酸メチル2.74質量部、アクリロニトリル4.1質量部、アクリル酸0.41質量部、および連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー0.55質量部、t−ドデシルメルカプタン0.14質量部を混合し単量体混合液を調整した。一方イタコン酸2質量部をイオン交換水15質量部に加温溶解してイタコン酸水溶液を調整した。
第2工程に引き続き、第3工程として上記第3工程の単量体混合液およびイタコン酸水溶液をそれぞれ1.5時間かけて反応容器に連続的に添加した。
第4工程の単量体として、スチレン7.27質量部、1,3−ブタジエン5質量部、メタクリル酸メチル3.16質量部、アクリロニトリル4.1質量部、アクリル酸0.47質量部、および連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー0.63質量部、t−ドデシルメルカプタン0.16質量部を混合して単量体混合液を調整した。
第3工程に引き続き、第4工程としてあらかじめ調製した上記第4工程の単量体混合液を1.5時間かけて反応容器に連続的に添加した。第4工程の添加終了後、70℃で1時間反応を継続し、その後1.5時間かけて反応器の内温を100℃まで上昇し、冷却して反応を停止した。得られた反応物は水蒸気蒸留により残留単量体を除去して濃縮した後、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用いてpHを7.5に調整した。以上の様にして得られたラテックスを共重合体ラテックスEとする。
【0053】
[比較例1]
各原料を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様な方法により、第1工程までの反応を行なった。
第2工程の単量体として、スチレン35.01質量部、ブタジエン35.92部、メタクリル酸メチル1.8質量部、アクリロニトリル13.47質量部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル0.9質量部、メタクリル酸0.9質量部、および連鎖移動剤としてα−メチルスチレンダイマー1.08質量部、t−ドデシルメルカプタン0.36質量部を混合し単量体混合液を調製した。一方、イタコン酸1.5質量部をイオン交換水15質量部に加温溶解してイタコン酸水溶液を調製した。
第1工程に引き続き、第2工程の単量体混合液およびイタコン酸水溶液をそれぞれ7時間および1.5時間かけて反応容器に連続的に添加した。第2工程の添加終了後、70℃で1時間反応を継続し、その後1.5時間かけて反応器の内温を100℃まで上昇し、冷却して反応を停止した。得られた反応物は水蒸気蒸留により残留単量体を除去して濃縮した後、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用いてpHを7.5に調整した。以上の様にして得られたラテックスを共重合体ラテックスGとする。
【0054】
[比較例2〜6]
各原料を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様な方法により、共重合体ラテックスH〜Lを得た。
以上のようにして得た共重合体ラテックスA〜Lについて、ラテックス物性(数平均粒子径、凝固物発生量、皮膜の耐湿潤べたつき性)、および塗工紙物性(ピック強度)の評価を行なった。結果を表3に示す。
【0055】
【表1】


【0056】
【表2】



【0057】
【表3】



【0058】
ラテックス物性の評価
(1)共重合体ラテックスの数平均粒子径(nm)
マイクロトラック超微粒子粒度分析計UPA−150(Microtrac社製)を用いて、レーザー回折散乱法(マイクロトラック法)により測定した。
(2)共重合体ラテックスの凝固物発生量(質量%)
共重合体ラテックスのサンプル約100gを目開き75μmの金網でろ過し、回収した凝固物を蒸留水で十分洗浄した後、熱風乾燥機中、130℃で1時間乾燥し、凝固物の乾燥重量(g)を測定した。下記式により共重合体ラテックスの凝固物発生量を算出した。
凝固物発生量(質量%)=凝固物の乾燥重量(g)/(サンプルの質量(g)×共重合体ラテックスの全固形分(質量%)/100)×100
(3)共重合体ラテックスの皮膜の耐湿潤べたつき性
共重合体ラテックスをPETフィルム上にNo.18のワイヤーバーを用いて塗布し、130℃で30秒乾燥してラテックスフィルムを作製した。このラテックスフィルムを幅約2cmの短冊状にしたものを5秒間水に浸漬した黒ラシャ紙と重ね合わせ、温度80℃、線圧19600N/mでスーパーカレンダー装置を通過させた。その後、直ちに黒ラシャ紙を剥離させた。ラテックスフィルムのべたつきによりフィルムに転移した黒ラシャ紙の繊維の転移量を目視で判定した。全く転移しないものを10点、全面に繊維が転移したものを1点として10点法で判定した。
【0059】
塗工紙物性の評価
(1)紙塗工用塗料組成物の調製
得られた共重合体ラテックスA〜Lと、下記の構成材料を用いて、紙塗工用塗料組成物を調製した。以下の配合の質量部は水を除いて全て乾燥質量に基づく。
(紙塗工用塗料組成物配合)
カオリンクレー 60質量部
重質炭酸カルシウム 40質量部
分散剤(ポリアクリル酸ナトリウム) 0.2質量部
水酸化ナトリウム 0.1質量部
酸化でんぷん 3.0質量部
共重合体ラテックス 10質量部
水(塗料の全固形分が65%となるように添加)
なお、カオリンクレーとしてはカオファイン(THIELE KAOLIN社製、粒子径2μm以下の割合95質量%以上)、重質炭酸カルシウムとしてはカービタル97(イメリス ミネラルズ・ジャパン社製、粒子径2μm以下の割合97質量%以上)、ポリアクリル酸ナトリウムとしてはアロンT−50(東亞合成社製)、酸化でんぷんとしてはマーメイド210(敷島スターチ社製)を用いた。
【0060】
(2)塗工紙の作製
このようにして得られた紙塗工用塗料組成物を塗工量が片面15g/mとなるように坪量80g/mの塗工原紙に枚様式ブレードコーターで塗工、乾燥した。ロール温度50℃、線圧147000N/mの条件でスーパーカレンダー処理を行ない塗工紙を調製した。
【0061】
(3)ピック強度
RI印刷試験機(明製作所製)を用いて、短冊状に切り取って台紙上に並べて貼り付けた塗工紙サンプルに印刷インク(T&K TOKA社製SDスーパーデラックス50紅B(タック18))0.5ccを数回重ね刷りし、ゴムロールに現れたピッキングを別の台紙に裏取りして目視判定した。ピッキングの全く発生しなかったものを10点、全面に隈なくピッキングが発生したものを1点として、10点法により評価を行なった。
【0062】
表3に示すように、本実施の形態の製造方法により得られる共重合体ラテックスA〜Fは、いずれも数平均粒子径が100nm以下であり、凝固物の発生量が少なく、皮膜の耐湿潤べたつき性および塗工紙のピック強度に優れている。
比較例1は第2工程までしかなく、皮膜の耐湿潤べたつき性に劣る。
比較例2は第1工程において使用される単量体の量が過度に多く、塗工紙のピック強度に劣る。
比較例3は第1工程のアルキルベンゼンスルホン酸塩の量が過度に少なく、塗工紙のピック強度に劣る。
比較例4は第1工程のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩の量が過度に少なく、凝固物の発生量が多い。
比較例5はエチレン系モノカルボン酸の使用量が過度に多く、凝固物の発生量が多く、かつ皮膜の耐湿潤べたつき性に劣る。
比較例6は第3工程で使用されるエチレン系ジカルボン酸の使用量が過度に少なく、皮膜の耐湿潤べたつき性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法により得られる共重合体ラテックスは、例えば、共重合体ラテックス製造時における凝固物の発生量が少なく接着力に優れる。従って、例えば、紙塗工における顔料バインダー、カーペットバッキング剤、接着剤、繊維結合剤および塗料など広範な用途に利用可能である。特に紙塗工用途においては、塗工紙製造工程におけるバッキングロール汚れを抑制して操業性が良好であり、かつ塗工紙のピック強度に優れることから、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料単量体として、
(a)成分:共役ジエン系単量体の1種又は2種以上を20〜80質量部と、
(b)成分:エチレン系不飽和モノカルボン酸単量体の1種または2種以上を0.1〜5.0質量部と、
(c)成分:エチレン系不飽和ジカルボン酸単量体の1種又は2種以上を0.5〜5.0質量部と、
(d)成分:前記(a),(b)又は(c)成分と共重合可能な他の単量体の1種又は2種以上を10〜79.4質量部と
を合計で100質量部となるように用い、
乳化剤として、
(イ)成分:アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩を前記原料単量体の総量100質量部に対して0.1〜2.0質量部と、
(ロ)成分:アルキルベンゼンスルホン酸塩を前記原料単量体の総量100質量部に対して0.1〜1.0質量部とを用いて乳化共重合するに際し、
以下の第1工程〜第3工程を含むことを特徴とする共重合体ラテックスの製造方法。
第1工程:前記(イ)成分の25質量%以上と前記(ロ)成分の50質量%以上との存在下で、前記原料単量体の総量の3〜30質量%を用いて重合を行ない、重合系を形成する工程。
第2工程:前記第1工程の後、前記原料単量体の総量の30〜69質量%を前記重合系に添加して重合を行なう工程。
第3工程:前記第2工程の後、前記原料単量体の残量を前記重合系に更に添加して重合を行なう工程であって、前記(c)成分の50質量%以上を用いて重合を行なう工程。
【請求項2】
前記第3工程において用いられる(a)成分の合計量が、当該第3工程の前に用いられる(a)成分の合計量よりも少ないことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程の開始時において、当該第3工程の前に使用される原料単量体の重合転化率が60〜90質量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記乳化共重合が水の共存下に行われる重合であると共に、前記第2工程の終了時までに用いられる原料単量体の合計量と、前記第2工程の終了時までに用いられる水の合計量との配合比が、原料単量体の合計量/水の合計量(質量比)として0.2/1〜1/1であることを特徴とする請求項1,2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られる共重合体ラテックスと、粒径2μm以下の粒子割合が84質量%以上であるカオリンクレー、又は粒径2μm以下の粒子割合が90質量%以上である炭酸カルシウムとを含む塗料組成物。

【公開番号】特開2008−127543(P2008−127543A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317481(P2006−317481)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】