説明

共重合体ラテックスの製造方法及び共重合体ラテックス

【課題】1,3−ブタジエン、及び1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体を、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する際に、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素を含む油性混合物を再利用した場合でも、凝集物の少ない共重合ラテックスを得ることが出来る共重合ラテックスの製造方法の提供。
【解決手段】共重合体ラテックスの製造において重合後の共重合体ラテックスを蒸留することで得られた不飽和炭化水素を含む油性混合物を、単量体組成物と未使用の不飽和炭化水素と油性混合物との総量に対する4−ビニルシクロヘキセンの割合が600ppm以下となるように、今回の乳化重合系内に配合することで、凝集物の発生、ラテックスの収率低下などの問題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体ラテックスの製造方法、および、その製造方法により得られる共重合体ラテックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブタジエン系共重合体ラテックス(1,3−ブタジエンを主成分とする共重合体ラテックス)は、紙塗工用分野、カーペットのバックサイジング、木質系接着剤、電池の電極、タイヤコード分野などにおけるバインダーとして広く用いられている。
ブタジエン系共重合体ラテックスの製造においては、単量体、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤などの他に炭化水素が用いられることがある。
このような共重合体ラテックスの製造方法として、例えば、特開平5−112604号では、脂肪族共役ジエン系単量体およびこれと共重合可能な他の単量体を乳化重合するに際し、共重合反応性の無い炭素数5〜10の分岐アルカンを添加して重合する方法が開示されている。
また、特許第2961207号では、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセンから選ばれた環内に不飽和結合を有する環状の不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する方法が開示されている。
また、特許第2879121号では、脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体、およびこれらと共重合可能な他の単量体を、不飽和結合を1つ有する鎖状の不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−112604号公報
【0004】
【特許文献2】特許第2961207号公報
【0005】
【特許文献3】特許第2879121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような炭化水素を用いた乳化重合を工業化するにあたり、製造コストを低減する方法を検討する必要がある。
これらの炭化水素は、通常、乳化重合の終了後に、水蒸気蒸留などの方法によって、共重合体ラテックスから、油性混合物として未反応で残留している単量体などとともに揮発、除去される。
そこで、製造コストを低減するために、除去された炭化水素を回収し、次の乳化重合に再利用することが検討される。
しかし、除去された油性混合物をそのまま再利用すると、凝集物が多く発生して共重合体ラテックスの収率が低下したり、重合系内が汚れたりなど生産性が大きく低下する問題がある。
本発明の目的は、1,3−ブタジエン、及び1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体を、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する際に、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素を含む油性混合物を再利用した場合であっても、凝集物の少ない共重合体ラテックスを得ることが出来る共重合体ラテックスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の共重合体ラテックスの製造方法は、1,3−ブタジエンと、1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体とを含む単量体組成物を、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する共重合体ラテックスの製造方法であって、以前の共重合体ラテックスの製造において重合後の共重合体ラテックスを蒸留することで得られた不飽和炭化水素を含む油性混合物を、単量体組成物と未使用の不飽和炭化水素と油性混合物との総量に対する4−ビニルシクロヘキセンの割合が600ppm以下となるように、今回の乳化重合系内に配合することを特徴としている。
また、本発明の共重合体ラテックスの製造方法は、1,3−ブタジエンと、1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体とを含む単量体組成物を、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する共重合体ラテックスの製造方法であって、以前の共重合体ラテックスの製造において重合後の共重合体ラテックスを蒸留することで得られた不飽和炭化水素を含む油性混合物を、単量体組成物と未使用の不飽和炭化水素と油性混合物との総量に対する、油性混合物に由来する4−ビニルシクロヘキセンの割合が600ppm以下となるように、今回の乳化重合系内に配合することを特徴としている。
また、本発明の共重合体ラテックスの製造方法は、油性混合物が、不飽和炭化水素が蒸発する温度に加熱されることにより、さらに、蒸留されていることが好適である。
また、本発明の共重合体ラテックスの製造方法は、不飽和炭化水素が、シクロヘキセンであることが好適である。
また、本発明の共重合体ラテックスは、上記の共重合体ラテックスの製造方法によって製造されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の共重合体ラテックスの製造方法によれば、不飽和炭化水素を再利用して製造コストの低減を図ることができながら、凝集物の少ない共重合体ラテックスを製造することができる。
また、不飽和炭化水素を再利用することによって、不飽和炭化水素の廃棄量を大幅に低減して、環境負荷を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の共重合体ラテックスの製造方法では、1,3−ブタジエンと、1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体とを含む単量体組成物を、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する。
単量体組成物は、1,3−ブタジエンを、例えば、10〜90重量%含む。
なお、1,3−ブタジエンは、後述する水蒸気蒸留によって回収される未反応の1,3−ブタジエンを含んでもよい。
1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体としては、例えば、アルケニル芳香族単量体、シアン化ビニル単量体、不飽和カルボン酸単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。
1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体は、単量体組成物中に、例えば、10〜90重量%の割合で配合される。
【0010】
アルケニル芳香族単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
これらのアルケニル芳香族単量体のうち、好ましくは、スチレンが挙げられる。
【0011】
シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられる。
これらのシアン化ビニル単量体のうち、好ましくは、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。
【0012】
不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの1塩基酸、例えば、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの2塩基酸(またはその無水物)などが挙げられる。
【0013】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレートなどが挙げられる。
これらの不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体のうち、好ましくは、2−エチルへキシルアクリレート、メチルメタクリレートが挙げられる。
【0014】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、例えば、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられる。
これらのヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体のうち、好ましくは、β−ヒドロキシエチルアクリレートが挙げられる。
【0015】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
これらの不飽和カルボン酸アミド単量体のうち、好ましくは、アクリルアミド、メタクリルアミドが挙げられる。
【0016】
さらに、1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなど、通常の乳化重合において使用される単量体を用いることもできる。
これら1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体は、単独(1種類のみ)で用いることもでき、2種以上併用することもできる。
【0017】
不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素としては、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン、1−ペンテン、2−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、1−オクテンなどが挙げられる。
これらの不飽和炭化水素のうち、好ましくは、シクロヘキセンが挙げられる。
これらの不飽和炭化水素は、単独(1種類のみ)で用いることもでき、2種以上併用することもできる。
【0018】
また、これらの不飽和炭化水素は、共重合体ラテックスの製造において重合終了後に共重合体ラテックスから回収し、次回以降の製造において再利用することができる。
不飽和炭化水素を共重合体ラテックスの重合終了後に回収するには、蒸留などの方法により、残留している未反応の単量体などとともに共重合体ラテックスから回収される。
共重合体ラテックスの蒸留方法は、特に制限されず、公知の方法が利用できる。好ましくは、50℃〜100℃で水蒸気蒸留する。
ここで、蒸留によって共重合体ラテックスから取り除かれた油性混合物(以下、「油性混合物」という)には、不飽和炭化水素や、揮発性の単量体などの他に、乳化重合の際に副生する4−ビニルシクロヘキセン(以下、4VCと省略する。)が含まれている。
この油性混合物を、1,3−ブタジエン、及び1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体を乳化重合する際に配合するには、単量体組成物と、未使用の不飽和炭化水素(すなわち、油性混合物中の不飽和炭化水素を除く。)と、油性混合物との総量に対する4VCの割合を、例えば、600ppm以下、好ましくは、500ppm以下、さらに好ましくは400ppm以下にする。
また、油性混合物は、単量体組成物と、未使用の不飽和炭化水素(すなわち、油性混合物中の不飽和炭化水素を除く。)と、油性混合物との総量に対する、油性混合物に由来する4VCの割合が、例えば、600ppm以下、好ましくは、500ppm以下、さらに好ましくは400ppm以下となるように配合される。
600ppmを超える4VCが乳化重合系内に持ち込まれると、凝集物の発生量が多くなり、共重合体ラテックスの収率が低下する。また、得られる共重合体の粒子径が大きくなる傾向が見られ、重合の再現性が悪化する。
油性混合物を再利用する重合において、乳化重合系内に持ち込まれる4VC量をコントロールする方法としては、油性混合物中の4VC量を測定し、乳化重合系内へ持ち込まれる4VC量を算出することで、そのまま再利用できるか否かを判断することが可能となる。
このとき、重合に使用する1,3−ブタジエン(水蒸気蒸留によって回収された未反応の1,3−ブタジエンを含んでもよい。)に含まれる4VC量についても測定し、乳化重合系内へ持ち込まれる4VC量を算出し、油性混合物から乳化重合系内へ持ち込まれる4VC量に加算する。
なお、乳化重合系内に持ち込まれる4VCを減らす方法としては、例えば、油性混合物を、不飽和炭化水素が蒸発する温度に加熱することによりさらに蒸留し、不飽和炭化水素を含む蒸留物(以下、「蒸留物」という)として使用する方法、例えば、油性混合物と蒸留物とを併用する方法、例えば、新たな不飽和炭化水素を油性混合物および/または蒸留物と併用する方法などが挙げられる。蒸留物についても、上記した油性混合物と同様に、蒸留物中の4VC量を測定し、その使用量によって重合系内に持ち込まれる4VC量を算出し、再利用できるか否かを判断する。
油性混合物および/または蒸留物を再利用することで、不飽和炭化水素を含む油性混合物の廃棄量を大幅に減らすことが出来る。
【0019】
本発明における乳化重合方法としては、公知の方法が適用できる。つまり、単量体ならびにその他の成分の添加方法について、特に制限されない。また、単量体の添加方法について、公知の方法の何れでも採用することができる。また、乳化重合において、公知の乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤、電解質、キレート剤などを使用することができる。
【0020】
乳化剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩などのアニオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型などのノニオン性界面活性剤が挙げられる。
これらの乳化剤は、単独(1種類のみ)で用いることもでき、2種以上併用することもできる。
【0021】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドなどの油溶性重合開始剤、例えば、レドックス系重合開始剤を適宜用いることができる。
これらの重合開始剤のうち、好ましくは、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドが挙げられる。
【0022】
連鎖移動剤としては、例えば、アルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム系化合物、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノールなどのフェノール系化合物、例えば、アリルアルコールなどのアリル化合物、例えば、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素化合物、例えば、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミドなどのビニルエーテル、例えば、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
これらの連鎖移動剤は、単独(1種類のみ)で用いることもでき、2種以上併用することもできる。
【0023】
本発明の共重合体ラテックスの製造方法で得られる共重合体ラテックスの粒子径は、特に制限されず、光子相関法による平均粒子径が、例えば、50〜300nmである。共重合体ラテックスの平均粒子径が50nm未満では、共重合体ラテックスの粘度が高くなり、取り扱いが困難となる場合があり、好ましくない。共重合体ラテックスの平均粒子径が300nmより大きいと、共重合体ラテックスの表面積が小さくなり、接着力が低下する場合があり、好ましくない。共重合体ラテックスの粒子径は、共重合体ラテックスの重合において使用する各種乳化剤、重合開始剤の種類およびその使用量や添加方法、重合水の使用割合等を適宜変更することにより調整が可能である。
【0024】
本発明における共重合体ラテックスのゲル含量は、特に制限はないが、例えば、30〜100重量%である。ゲル含量が30重量%未満では、接着力が低下する傾向があり、好ましくない。
【0025】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、必要に応じて、酸素補足剤、キレート剤、分散剤、消泡剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を用いることもできる。これらの添加剤は、種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は下記の方法に拠った。
なお、本実施例では、「1,3−ブタジエン」として、4VCを80ppm含有する1,3−ブタジエンを使用し、「シクロヘキセン」として、4VCを含まない(1ppm未満)シクロヘキセンを使用した。「1,3−ブタジエン」中に含まれる4VCは、ガスクロマトグラフ測定に基づいて、定量した。
【0027】
「1,3−ブタジエン」のガスクロマトグラフ測定条件
サンプル量:0.5μL
検出器:FID
インジェクション温度:250℃
検出器温度:250℃
カラム:長さ/内径/膜厚=50m/0.53mm/50μm(GS−ALUMINA 115−3552)
キャリアーガス:He 6mL/分
スプリット比:1/50
カラム温度:45℃で3分ホールドした後に、6℃/分で195℃まで昇温し、195℃で15分間ホールドした。
【0028】
共重合体ラテックス中の凝集物量の測定
重合が完了した後、水蒸気蒸留する前に、共重合体ラテックス:1kgを試料として採取し、ステンレス製の300メッシュ金網でろ過した。金網上に残った凝集物を乾燥した後、重量を測定し、試料(固形分換算)に対する割合を求め、凝集物発生率とした。その発生率を下記の4段階で評価した。
◎ : 0.01% 未満 (非常に少ない)
○ : 0.01〜 0.02% 未満 (少ない)
△ : 0.02〜 0.05% 未満 (やや多い)
× : 0.05% 以上 (多い)
【0029】
油性混合物、蒸留物中の4−ビニルシクロヘキセンの測定
ガスクロマトグラフとしては、島津製作所製 GC−2014型を使用した。
(1)サンプルの作成
油性混合物A〜F、及び油性混合物の蒸留物A〜F(下記の各実施例参照)を、そのまま測定試料とした。
(2)ガスクロマトグラフ測定条件
サンプル量:1μL
検出器:FID
インジェクション温度:170℃
検出器温度:250℃
カラム:長さ/内径/膜厚(液層)=30m/0.25mm/0.5μm(DB−WAX)
キャリアーガス:He 1mL/分
スプリット比:1/40
カラム温度:70℃で5分ホールドした後に、10℃/分で170℃まで昇温し、更に20℃/分で230℃まで昇温し、230℃で10分間ホールドした。
(3)定量方法
4VCをシクロヘキセンで希釈した試料を用いて検量線を作成し、その検量線を用いて、上記サンプル中に含まれる4VCを定量した。
【0030】
共重合体ラテックスの平均粒子径の測定
共重合体ラテックスの平均粒子径を、動的光散乱法により光子相関法による平均粒子径として測定した。尚、測定に際しては、FPAR−1000(大塚電子製)を使用した。
【0031】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
80℃にてラテックスフィルムを作製する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量しXgとする。これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを秤量済みの300メッシュのステンレス製金網で濾過し、その後トルエンを蒸発乾燥させ、その乾燥後重量からメッシュ重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量しYgとする。下記式よりゲル含量を計算した。
ゲル含量(%)=Y/X*100
【0032】
実施例1
1回目の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1.5部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン、シクロヘキセンを仕込み、70℃に昇温した。次いで、表1の2段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン、シクロヘキセンを7時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた重合物を、水酸化カリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留した。これにより、得られた重合物を、共重合体ラテックスA1と、シクロヘキセンを含む油性混合物Aに分離した。得られた油性混合物Aの一部を、95℃で蒸留することで、シクロヘキセンを含む蒸留物Aを得た。
油性混合物A中の4VCの濃度は3,502ppmであった。また、蒸留物A中の4VCの濃度は2,110ppmであった。
その後、再利用1の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1.5部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン及び蒸留物Aを仕込み、70℃に昇温した。次いで、表1の2段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及び油性混合物Aを7時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られた重合物を、水酸化カリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留して、共重合体ラテックスA2を得た。
また、再利用2の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ1.5部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及び蒸留物Aを仕込み、70℃に昇温した。次いで、表1の2段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及び油性混合物Aを7時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られた重合物を、水酸化カリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留して、共重合体ラテックスA3を得た。
【0033】
実施例2
1回目の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.7部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及びシクロヘキセンを仕込み、68℃に昇温した。次いで、表1の2段目に示す単量体及びt−ドデシルメルカプタンを8時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が97%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られた重合物を、水酸化カリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留した。これにより、得られた重合物を、共重合体ラテックスB1と、シクロヘキセンを含む油性混合物Bに分離した。油性混合物Bの一部を、95℃で蒸留することで、シクロヘキセンを含む蒸留物Bを得た。
油性混合物B中の4VCの濃度は13,119ppmであった。また、蒸留物B中の4VCの濃度は6,074ppmであった。
その後、再利用の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.7部、過硫酸カリウム1部、表1の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン及び蒸留物Bを仕込み、68℃に昇温した。次いで、表1の2段目に示す単量体及びt−ドデシルメルカプタンを8時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が97%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られた重合物を、水酸化カリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留して、共重合体ラテックスB2を得た。
【0034】
実施例3
表2に示す単量体及び他の化合物に変更した以外は、実施例1と同様にして、1回目の重合における共重合体ラテックスC1、シクロヘキセンを含む油性混合物C、シクロヘキセンを含む蒸留物C、再利用の重合における共重合体ラテックスC2を得た。
油性混合物C中の4VCの濃度は4,188ppmであった。また、蒸留物C中の4VCの濃度は1,962ppmであった。
【0035】
実施例4
1回目の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.8部、過硫酸カリウム1部、表2の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及びシクロヘキセンを仕込み、70℃に昇温した。次いで、表2の2段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及びシクロヘキセンを7時間で連続添加した。引き続き、表2の3段目に示す単量体及びt−ドデシルメルカプタンを4時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られた重合物を、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留した。これにより、得られた重合物を、共重合体ラテックスD1と、シクロヘキセンを含む油性混合物Dに分離した。油性混合物Dを、95℃で蒸留することで、シクロヘキセンを含む蒸留物Dを得た。
油性混合物D中の4VCの濃度は7,305ppmであった。また蒸留物D中の4VCの濃度は5,162ppmであった。
その後、再利用1の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.8部、過硫酸カリウム1部、表2の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及びシクロヘキセンを仕込み、70℃に昇温した。次いで、表2の2段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及び油性混合物Dを7時間で連続添加した。引き続き、表2の3段目に示す単量体及びt−ドデシルメルカプタンを4時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られた重合物を、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留して、共重合体ラテックスD2を得た。
また、再利用2の重合として、共重合体ラテックスB2(上記実施例2参照)の重合において、シクロヘキセンを油性混合物Dに置き換えて2段目で連続添加し、蒸留物Bを蒸留物Dに置き換えた他は、同様にして重合及び水蒸気蒸留して、共重合体ラテックスD3を得た。
【0036】
比較例1
1回目の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.8部、過硫酸カリウム1部、表3の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及びシクロヘキセンを仕込み、68℃に昇温した。次いで、表1の2段目に示す単量体及びt−ドデシルメルカプタンを8時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られた重合物を、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留した。これにより、得られた重合物を、共重合体ラテックスE1と、シクロヘキセンを含む油性混合物Eに分離した。
油性混合物Eを、95℃で蒸留することで、シクロヘキセンを含む蒸留物Eを得た。
油性混合物E中の4VCの濃度は9,950ppmであった。また蒸留物E中の4VCの濃度は4,135ppmであった。
その後、再利用1の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.8部、過硫酸カリウム1部、表3の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン及び油性混合物Eを仕込み、68℃に昇温した。次いで、表1の2段目に示す単量体及びt−ドデシルメルカプタンを8時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られた重合物を、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留し、共重合体ラテックスE2を得た。
また、再利用2の重合として、共重合体ラテックスA3(上記実施例1参照)の重合において、油性混合物Aの代わりに油性混合物Eを、蒸留物Aの代わりに蒸留物Eを使用した以外は、同様にして重合及び水蒸気蒸留して、共重合体ラテックスE3を得た。
【0037】
比較例2
1回目の重合として、攪拌機を備える耐圧性の重合反応器に、重合水150部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.9部、過硫酸カリウム1部、表3の1段目に示す単量体、t−ドデシルメルカプタン及びシクロヘキセンを仕込み、70℃に昇温した。次いで、表3の2段目に示す単量体及びt−ドデシルメルカプタンを8時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、得られた重合物を、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、80℃で水蒸気蒸留した。これにより、得られた重合物を、共重合体ラテックスF1と、シクロヘキセンを含む油性混合物Fに分離した。
油性混合物Fを、95℃で蒸留することで、シクロヘキセンを含む蒸留物Fを得た。
油性混合物F中の4VCの濃度は14,473ppmであった。また蒸留物F中の4VCの濃度は6,208ppmであった。
その後、再利用1の重合として、共重合体ラテックスF1の重合において、シクロヘキセンを油性混合物Fに変更した他は、同様に重合及び水蒸気蒸留して、共重合体ラテックスF2を得た。
また、再利用2の重合として、共重合体ラテックスF1の重合において、シクロヘキセンを蒸留物Fに変更した他は、同様に重合及び水蒸気蒸留して、共重合体ラテックスF3を得た。
【0038】
【表−1】

【0039】
【表−2】

【0040】
【表−3】

【0041】
表1及び表2の結果から、本願発明の実施例は、シクロヘキセンを、シクロヘキセンを含む油性混合物もしくは油性混合物の蒸留物として、再利用して乳化重合した場合においても、凝集物の発生率も少なく、得られる共重合体ラテックスの粒子径も1回目の重合とほぼ同じであった。生産性が良好でかつ重合再現性も良好であることが明らかである。
【0042】
表3の結果から、比較例1及び2のいずれにおいても、重合系内に持ち込まれる4VC量が本願発明の上限を超えており、凝集物の発生率が非常に多く、生産性が劣っていることがわかる。またシクロヘキセンを再利用して得られた共重合体ラテックスの粒子径が、1回目で得られる共重合体ラテックスに比べて大きくなる傾向が見られ、重合の再現性についても劣っていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
上記のとおり、本発明の共重合体ラテックスの製造方法は、1,3−ブタジエン、及び1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体を、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する共重合体ラテックスを製造する際に、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素を、油性混合物そのもの、もしくは油性混合物を蒸留物として再利用しても凝集物の少ない共重合体ラテックスが得られる。このことから、油性混合物を廃棄する量を大幅に低減でき、環境負荷及び製造コストを大幅に低減可能である。また、得られた共重合体ラテックスは、従来の共重合体ラテックスと同様に凝集物が少ないことから、紙塗工用分野、カーペットのバックサイジング、木質系接着剤、電池の電極、タイヤコード分野等におけるバインダーとして好適に使用することが可能である。
なお、上記説明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記の特許請求の範囲に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ブタジエンと、前記1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体とを含む単量体組成物を、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する共重合体ラテックスの製造方法であって、
以前の共重合体ラテックスの製造において重合後の共重合体ラテックスを蒸留することで得られた前記不飽和炭化水素を含む油性混合物を、前記単量体組成物と未使用の前記不飽和炭化水素と前記油性混合物との総量に対する4−ビニルシクロヘキセンの割合が600ppm以下となるように、今回の乳化重合系内に配合することを特徴とする、共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項2】
前記油性混合物は、前記不飽和炭化水素が蒸発する温度に加熱されることにより、さらに、蒸留されていることを特徴とする、請求項1に記載の共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項3】
前記不飽和炭化水素が、シクロヘキセンであることを特徴とする、請求項1に記載の共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の共重合体ラテックスの製造方法によって製造されることを特徴とする、共重合体ラテックス。
【請求項5】
1,3−ブタジエンと、前記1,3−ブタジエンと共重合可能な他の単量体とを含む単量体組成物を、不飽和結合を一つ有する不飽和炭化水素の存在下で乳化重合する共重合体ラテックスの製造方法であって、
以前の共重合体ラテックスの製造において重合後の共重合体ラテックスを蒸留することで得られた前記不飽和炭化水素を含む油性混合物を、前記単量体組成物と未使用の前記不飽和炭化水素と前記油性混合物との総量に対する、前記油性混合物に由来する4−ビニルシクロヘキセンの割合が600ppm以下となるように、今回の乳化重合系内に配合することを特徴とする、共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項6】
前記油性混合物は、前記不飽和炭化水素が蒸発する温度に加熱されることにより、さらに、蒸留されていることを特徴とする、請求項5に記載の共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項7】
前記不飽和炭化水素が、シクロヘキセンであることを特徴とする、請求項5に記載の共重合体ラテックスの製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の共重合体ラテックスの製造方法によって製造されることを特徴とする、共重合体ラテックス。