説明

共重合体ラテックス及び該共重合体ラテックスを含有する組成物

【課題】接着強度に優れ、臭気の少ない共重合体ラテックスを提供する。
【解決手段】脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量部と炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体5〜40重量部、エチレン系不飽和カルボン酸単量体1〜15重量部およびこれらと共重合可能な他の単量体20〜84重量部から構成される単量体(単量体合計100重量部)を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、光子相関法による平均粒子径が50〜150nmであり、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体の残留量が、共重合体ラテックスの固形分基準で300ppm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体ラテックスに関するものである。詳しくは、接着強度と臭気に優れる、バインダーとして有用な共重合体ラテックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジエン系共重合体ラテックスが紙加工分野やカーペットのバックサイジング等をはじめとする各種接着剤(バインダー)として広く用いられていることは周知である。各用途に応じてバインダーに要求される性能は多岐にわたるが、合成ゴムラテックスであるジエン系共重合体ラテックスは、単量体組成の変更や共重合体の分子量などを比較的容易にコントロール可能であり、様々な要望に応えることが可能である。
【0003】
例えば、紙加工分野において、塗工紙はその印刷効果が高い等の理由から、非常に数多くの印刷物に利用されている。季刊、月刊紙等の定期刊行物、メールオーダービジネスにおけるダイレクトメールや商品カタログ等において、その多くの頁に塗工紙が利用されている。印刷の高速化も進み、各市場からの塗工紙の物性への要求も高まっている。
一般に塗工紙は塗工原紙の表面に紙塗工用組成物を塗工、乾燥して製造される。紙塗工用組成物は、クレーや炭酸カルシウムなどの白色顔料を水に分散した顔料分散液、顔料同士および顔料を原紙に接着固定するためのバインダー、およびその他の添加剤によって構成される水性塗料である。バインダーとしてはスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスに代表されるような合成エマルションバインダーやデンプン、カゼインに代表されるような天然バインダーが使用される。その中でもスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスは、品質設計の自由度が大きく、今日では紙塗工用組成物に最も適したバインダーとして広く使用されており、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスの性能が紙塗工用組成物の性能や塗工紙作製時の操業性あるいは最終的な塗工紙製品の表面強度、印刷光沢などの品質に影響することが知られている。
【0004】
塗工紙製品の表面強度などの品質改善としては、例えば特開2006−152484号公報(特許文献1)では、平均粒子径150nm以下の多段重合によって得られるコア-シェル型共重合体ラテックスを使用することにより、印刷光沢が良好でかつインキセット、インキ乾燥性が良好な艶消し塗工紙を提供する技術が紹介されている。特開平9−31894号公報(特許文献2)においては、重合の最初の仕込み段に不飽和ジカルボン酸及びメタクリル酸の使用量全量を含む単量体混合物を重合した後、2段目以降を重合して得られる共重合体ラテックスを用いた紙塗工用組成物によれば、印刷時の表面強度、耐水性、インク着肉性、耐ブリスター性に優れたオフ輪印刷用塗工紙が得られるとの技術開示がある。さらに、特開2008−248446号公報(特許文献3)には、共重合体ラテックスのフィルムの大豆油に対する接触角を規定することにより、印刷時の表面強度、印刷光沢、インキセットなどの印刷適性に優れる塗工紙を提供し得ると紹介され、該共重合体ラテックスを得るには、多段重合によるものが好ましいとしている。
【0005】
また、カーペット分野においても、従来よりその製造工程において、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスに代表されるような合成エマルションバインダーが、繊維どうしや繊維と基布を接着するバインダーとして、カーペットバッキング剤組成物に用いられている。近年コストダウンを目的としてより少量のバインダー量でこれらの接着強度を得るために種々の検討がなされている。
例えば、特開平3−121179号公報(特許文献4)ではα−メチルスチレンダイマーやターピノーレン等の連鎖移動剤の存在下で脂肪族共役ジエン系単量体を乳化重合することにより風合いと接着強度に優れるカーペットを与えるラテックスが得られるという技術が明らかにされている。
【0006】
一方で、ジエン系共重合体ラテックスをバインダーとして使用した最終製品の塗工紙や繊維製品などにおける臭気については、臭気が発生しただけで製品価値がなくなるケースもあり、改善すべき課題のひとつである。
例えば、塗工紙製品の臭気と共に表面強度、インキ着肉性を改善する方法として、特開平2001−248098号公報(特許文献5)には、共重合する単量体組成と、1、3−ブタジエンとスチレンの反応生成物である4−フェニルシクロヘキセンのラテックス中の残留量を規定する技術の開示がある。
しかし、これらの様々な改良技術は、各種用途におけるバインダーとして日々高まる要求物性を十分に満足するレベルには至っておらず、更なる改良が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−152484号公報
【0008】
【特許文献2】特開平9−31894号公報
【0009】
【特許文献3】特開2008−248446号公報
【0010】
【特許文献4】特開平3−121179号公報
【0011】
【特許文献5】特開2001−248098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、脂肪族共役ジエン系単量体、特定のアクリル酸アルキルエステル単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体、およびこれらと共重合可能な他の単量体を重合して得られ、特定範囲の平均粒子径であり、特定のアクリル酸エステル単量体の残留量が特定量以下であることを特徴とする共重合体ラテックスであり、接着強度と臭気に優れる共重合体ラテックスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量部と炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体5〜40重量部、エチレン系不飽和カルボン酸単量体1〜15重量部およびこれらと共重合可能な他の単量体20〜84重量部から構成される単量体(単量体合計100重量部)を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、光子相関法による平均粒子径が50〜150nmであり、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体の共重合体ラテックス中の残留量が、共重合体ラテックスの固形分基準で300ppm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の共重合体ラテックスは、接着強度と臭気に優れることから、該共重合体ラテックスをバインダーとして用いた紙塗工用組成物を塗工して得られた塗工紙は、印刷時のピック強度と臭気に優れる。また、該共重合体ラテックスをカーペットバッキング剤に用いることで、剥離強度やパイルの抜糸強度と風合い(触った際のソフト感)のバランスに優れ、さらに臭気に優れるカーペットを得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の共重合体ラテックスは、脂肪族共役ジエン系単量体、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体およびこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られる。
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に1,3−ブタジエンの使用が好ましい。
脂肪族共役ジエン系単量体は、全単量体100重量部中、10〜60重量部の範囲で使用されることが必要である。10重量部未満では、塗工紙のドライピック強度やカーペットの風合いが低下する。60重量部を超えると、カーペットの剥離・抜糸強度が低下し、また塗工紙やカーペットなどの得られる最終製品における臭気が悪化する。より好ましくは、15〜50重量部である。
【0016】
炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体としては、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に、2−エチルヘキシルアクリレートの使用が好ましい。
炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体は、全単量体100重量部中、5〜40重量部の範囲で使用されることが必要である。炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体が5重量部未満では、塗工紙にした場合はドライピック強度が低下し、カーペットでは風合いが低下する。共重合体ラテックスの架橋が進み過ぎるためである。炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体が40重量部を超えると、塗工紙にした場合はウエットピック強度が低下し、カーペットでは剥離・抜糸強度が低下する。より好ましくは、5〜30重量部である。
【0017】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの1塩基酸または2塩基酸(無水物)が挙げられる。
エチレン系不飽和カルボン酸単量体は、全単量体100重量部中1〜15重量部の範囲で使用されることが必要である。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が1重量部未満では、塗工紙にした場合はウエットピック強度が低下し、カーペットでは剥離・抜糸強度が低下する。一方、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が15重量部を越えるとラテックスの粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。好ましくは1.5〜10重量部である。
【0018】
上記脂肪族共役ジエン系単量体、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体としては、アルケニル芳香族単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体は除く)、シアン化ビニル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。
【0019】
アルケニル芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にスチレンの使用が好ましい。
【0020】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体(炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体は除く)としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等の、炭素数が4以下のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体や、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
炭素数が4以下のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体を用いた場合、得られる最終製品の臭気が低下する傾向があることから、炭素数4以下のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸エステルを使用する場合には、その使用量は1重量部未満、より好ましくは0.5重量部未満とすることが好ましい。
【0021】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0022】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレートの使用が好ましい。
【0023】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリルアミドまたはメタクリルアミドの使用が好ましい。
【0024】
さらに、上記単量体の他に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0025】
これらの共重合可能な他の単量体は、全単量体100重量部中、20〜84重量部の範囲で使用されることが必要である。これらの共重合可能な他の単量体が20重量部未満では、塗工紙にした場合はウエットピック強度が低下し、カーペットでは剥離・抜糸強度が低下する。84重量部を超えると、塗工紙にした場合はドライピック強度が低下し、カーペットでは風合いが低下する。より好ましくは30〜70重量部である。
【0026】
共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径としては、50〜150nmの範囲にあることが必要である。50nm未満では、ラテックスの粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。150nmを超えると、接着強度(塗工紙にした場合はドライピック強度、カーペットでは剥離・抜糸強度)と臭気が低下する。好ましくは、50〜130nmである。
【0027】
本発明の共重合体ラテックスは、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体の残留量が、共重合体ラテックスの固形分基準で300ppm以下であることが必要である。300ppmを超えると、得られる最終製品の臭気が悪化する。炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体の残留量を、ラテックスの固形分基準で300ppm以下にする方法としては、1)単量体の添加において、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体を重合の前半に添加する方法、2)単量体添加終了後の重合を延長して重合転化率を上げる方法、3)重合終了後の水蒸気蒸留等による除去する方法が挙げられる。省エネルギーの観点から、上記1)及び2)の方法が好ましく、またこれらを組み合わせることも可能である。また、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体の残留量が、ラテックスの固形分基準で200ppm以下にすることが、臭気の面からさらに好ましい。
【0028】
本発明の共重合体ラテックスの重合方法としては、2段以上の多段重合であることが好ましい。単量体ならびにその他の成分の添加方法については、特に制限されるものではなく、単量体の添加方法については分割添加方法、連続添加方法の何れでも採用することができる。また、乳化重合において、公知の乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤、炭化水素系溶剤、電解質等を使用することができる。
【0029】
乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。
【0030】
重合開始剤としては、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤、またはレドックス系重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドの使用が好ましい。
【0031】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0032】
炭化水素系溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を使用することができる。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンやトルエンが、本発明の目的とは異なるものの、環境問題の観点から好適である。
【0033】
本発明の共重合体ラテックスの重合には、必要に応じて酸素補足剤、キレート剤、分散剤等の公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらは種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。更には消泡剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらも種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。
【0034】
本発明の紙塗工用組成物及びカーペットバッキング用組成物は、本発明の共重合体ラテックスをバインダーとして使用する。
本発明の紙塗工用組成物に使用する顔料としては、公知の顔料、例えば、カオリンクレー、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、サチンホワイトなどの無機顔料、あるいはポリスチレンラテックスのような有機顔料をそれぞれ単独または混合して使用することができる。また、紙塗工用組成物中の共重合体ラテックスの含有量は顔料100重量部(固形分)に対して1〜20重量部(固形分)を使用することが好ましい。共重合体ラテックスの含有量が1重量部未満では顔料を充分に接着できないために好ましくなく、20重量部を超えると不透明度や白紙光沢が低下する上に、紙塗工用組成物のコスト上昇を招くために好ましくない。
本発明のカーペットバッキング用組成物に使用する充填剤としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、クレイ、硫酸バリウム、珪酸、珪酸塩、酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの無機充填剤を単独または混合して使用することができる。共重合体ラテックスと無機充填剤の使用割合は、通常共重合体ラテックス100重量部(固形分)に対して、無機充填剤が30〜800重量部(固形分)が好ましい。無機充填剤量が30重量部未満では高固形分の接着剤組成物が得られず乾燥速度が低下すると共に、コスト上昇を招くため好ましくなく、800重量部を超えると剥離・抜糸強度が低下するため好ましくない。より好ましくは100〜700重量部である。
【0035】
また、必要に応じて澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の変性澱粉、大豆蛋白、カゼインなどの天然バインダー、あるいはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性合成バインダーなどを使用しても差し支えない。
【0036】
本発明の組成物を調製する際には、さらにその他の助剤、例えば分散剤(ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)、消泡剤(ポリグリコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーンオイルなど)、レベリング剤(ロート油、ジシアンジアミド、尿素など)、防腐剤、離型剤(ステアリン酸カルシウム、パラフィンエマルジョンなど)、蛍光染料、カラー保水性向上剤(カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、増粘剤(ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースなど)、発泡剤(界面活性剤など)、着色剤(着色顔料など)、難燃剤、老化防止剤、安定剤、加硫促進剤、架橋剤、帯電防止剤、pH調整剤等を必要に応じて添加しても良い。
【0037】
さらに、紙塗工用組成物を塗工用紙へ塗布する方法には、公知の技術、例えばエアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、バーコーター、カーテンコーターなどのいずれの塗工機を使用しても差し支えない。また、塗工後、乾燥し、カレンダーリングなどにより仕上げることにより、塗工紙を得る。
カーペットバッキング用組成物の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ロールコート法、ダイレクトコート法、含浸法、スプレー法等が挙げられる。塗布後の乾燥については、加熱処理して乾燥する方法が望ましいが、加熱温度は80〜160℃であり、より好ましくは100〜140℃である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。その評価結果は、各々表−1〜3に示した。
【0039】
共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径の測定
共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径を測定した。尚、測定に際しては、FPAR−1000(大塚電子製)を使用した。
【0040】
シクロヘキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、とブチルアクリレートの共重合体ラテックス中の残留量の測定
ガスクロマトグラフとしては、島津製作所製 GC−2014型を使用した。
(1)サンプルの作成
共重合体ラテックス1gを精秤し、N、N−ジメチルホルムアミド25mlに溶解し24時間後、これを測定サンプルとした。
(2)ガスクロマトグラフ測定条件
サンプル量:1μL
検出器:FID
インジェクション温度:170℃
検出器温度:250℃
カラム:長さ/内径/膜厚(液層)=30m/0.25mm/0.5μm(DB−WAX)
キャリアーガス:He 1mL/分
スプリット比:1/40
カラム温度:70℃で5分ホールドした後に、10℃/分で170℃まで昇温し、更に20℃/分で230℃まで昇温し、230℃で10分間ホールド
(3)定量方法
シクロヘキシルアクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、ブチルアクリレートをそれぞれN、N−ジメチルホルムアミドで希釈した試料を用いて各々検量線を作成した。その検量線を用いて、得られたガスクロマトグラフから共重合体ラテックスに残留するシクロへキシルアクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、ブチルアクリレートを定量した。検量線から定量した残留単量体量を、共重合体ラテックスの固形分に対する濃度(ppm)に換算した。
【0041】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
80℃にてラテックスフィルムを作製する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量しXgとする。これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを秤量済みの300メッシュのステンレス金網で濾過し、その後トルエンを蒸発乾燥させ、その乾燥後重量からメッシュ重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量しYgとする。下記式よりゲル含量を計算した。
ゲル含量(%)=Y/X*100
【0042】
塗工紙のドライピック強度の評価
RI印刷機で各塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0043】
塗工紙のウェットピック強度の評価
RI印刷機を用いてモルトンロールにより各塗工紙試料に同時に湿し水を付与し、その直後にインキロールにより各塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0044】
塗工紙の臭気の評価
約3cm角に切断した各塗工紙試料10gを500mLの臭気瓶にいれ、20℃にて24時間放置した後、70℃で30分間加熱した。その後室温まで冷却した後に、試料の臭気を嗅ぎ、臭気の程度によって5級(臭気が少なく良い)から1級(臭気が多く悪い)まで相対的に評価した。各塗工紙試料について10人の試験者の判定を平均し、テスト結果とした。
【0045】
カーペットの剥離強度及び抜糸強度の評価
JIS L−1021繊維性床敷物試験方法準拠した方法で、パイル糸の引き抜き強さ及び剥離強さを測定した。
【0046】
カーペットの風合いの評価
作成した各カーペット試験片のソフト感を触感により評価した。
○:ソフト(柔らかい)
△:普通
×:硬い
【0047】
カーペットの臭気の評価
作成した各カーペット試験片を約3cm角に切断し、10gを500mLの臭気瓶にいれ、20℃にて24時間放置した後、70℃で30分間加熱した。その後室温まで冷却した後に、試料の臭気を嗅ぎ、臭気の程度によって5級(臭気が少なく良い)から1級(臭気が多く悪い)まで相対的に評価した。各塗工紙試料について10人の試験者の判定を平均し、テスト結果とした。
【0048】
共重合体ラテックスの合成
共重合体ラテックス1〜4、11
攪拌機を備えた耐圧性の重合反応器に、重合水150部、過硫酸カリウム1部、表−1または表−2の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤及び連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表−1または表−2の2段目に示す単量体、炭化水素系溶剤及び連鎖移動剤を7時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留を行い、共重合体ラテックス1〜4、11を得た。
【0049】
共重合体ラテックス5、10
攪拌機を備えた耐圧性の重合反応器に、重合水150部、過硫酸カリウム1部、表−1または表−2の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤及び連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表−1または表−2の2段目に示す単量体及び連鎖移動剤を4時間で連続添加した。更に、表−1または表−2の3段目に示す単量体及び連鎖移動剤を4時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。 次いで、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留を行い、共重合体ラテックス5、10を得た。
【0050】
共重合体ラテックス6
攪拌機を備えた耐圧性の重合反応器に、重合水150部、過硫酸カリウム1部、表−1の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤及び連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表−1の2段目に示す単量体及び連鎖移動剤を6.5時間で連続添加した。更に、表−1の3段目に示す単量体を1.5時間で連続添加した。更に重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留を行い、共重合体ラテックス6を得た。
【0051】
共重合体ラテックス7〜9
攪拌機を備えた耐圧性の重合反応器に、重合水150部、過硫酸カリウム1部、表−1または表−2の1段目に示す単量体、乳化剤、炭化水素系溶剤及び連鎖移動剤を仕込み、70℃に昇温し、表−1または表−2の2段目に示す単量体及び連鎖移動剤を7時間で連続添加した。更に、重合を継続し、重合転化率が98%を超えた時点で重合を終了した。次いで、水酸化ナトリウムを用いて、pHを7に調製し、水蒸気蒸留を行い、共重合体ラテックス7〜9を得た。
【0052】
【表−1】

【0053】
【表−2】

【0054】
紙塗工用組成物の作製
下記に示した配合処方に従って、上記で得られた共重合体ラテックスを配合し、水酸化ナトリウムでpH9.5に調整した紙塗工用組成物を作製した。
(紙塗工用組成物の配合処方)
配合処方
カオリン 40部
重質炭酸カルシウム 60部
変性デンプン 2部
共重合体ラテックス 8部
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
固形分濃度 67%
【0055】
塗工紙の作製と評価
塗工原紙(坪量55g/m)に、上記の紙塗工用組成物を片面あたりの塗被量が10g/mとなるようにワイヤーバーを用いて塗工し乾燥した後、線圧60kg/cm、温度50℃の条件でカレンダー処理を行って塗工紙を得た。得られた塗工紙を上記試験に供して評価した。
【0056】
【表−3】

【0057】
表−3に示すとおり、本発明による共重合体ラテックス1〜7を用いた紙塗工用組成物を塗工して得られた塗工紙は、塗工紙のドライピック強度、ウエットピック強度及び臭気に優れる。
【0058】
比較例8は、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体の残留量が本発明の規定範囲を超えており、得られた塗工紙の臭気が劣る。
比較例9は、ブタジエン量が本発明の規定範囲の上限を超え、また炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体量が本発明の規定範囲の下限未満であり、塗工紙の臭気とドライピック強度が劣る。
比較例10は、ラテックスの粒子径が本発明の規定範囲の上限を超えており、塗工紙の臭気とドライピック強度が劣る。
比較例11は、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体量及び残留量が本発明の規定範囲の上限を超えており、塗工紙の臭気が劣り、ウェットピック強度が大きく劣る。
【0059】
カーペットバッキング用組成物の作製
下記に示した配合処方に従って、上記で得られた共重合体ラテックスを配合し、カーペットバッキング用組成物を作製した。
(カーペットバッキング用組成物の配合処方)
配合処方
共重合体ラテックス 100部
重質炭酸カルシウム 400部
トリポリリン酸ナトリウム 1部
スチレン化フェノール 0.5部
増粘剤
5部

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
固形分濃度 67 %
粘度 40000 mPa・s
【0060】
カーペットの作製と評価
ナイロン繊維のタフテッドカーペット生機の裏面に、上記のカーペットバッキング用組成物を固形分で700g/mとなるように均一に塗布し、ジュート織布を張り合わせて、130℃の乾燥機中15分間乾燥して、タフテッドカーペットを得た。得られたタフテッドカーペットを上記試験に供して評価した。
【0061】
【表−4】

【0062】
表−4に示すとおり、本発明による共重合体ラテックス1〜7を用いたカーペットバッキング用組成物を塗布して得られたタフテッドカーペットは、風合いと剥離強度・抜糸強度のバランス及び臭気に優れる。
【0063】
比較例19は、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体の残留量が本発明の規定範囲を超えており、得られたタフテッドカーペットの臭気が劣る。
比較例20は、ブタジエン量が本発明の規定範囲の上限を超え、また炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体量が本発明の規定範囲の下限未満であり、タフテッドカーペットの臭気、剥離強度、抜糸強度及び風合いが劣る。
比較例21は、ラテックスの粒子径が本発明の規定範囲の上限を超えており、タフテッドカーペットの臭気、剥離強度及び抜糸強度が劣る。
比較例22は、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体量及び残留量が本発明の規定範囲の上限を超えており、タフテッドカーペットの臭気、剥離強度及び抜糸強度が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0064】
上記のとおり、本発明の共重合体ラテックスは、接着強度と臭気に優れる。該共重合体ラテックスを使用した紙塗工用組成物を塗工して得られた塗工紙が、印刷時のピック強度と臭気に優れ、紙塗工用組成物用バインダー及び組成物として有用である。
また、該共重合体ラテックスを使用したカーペットバッキング剤を塗布して得られたカーペットは、剥離強度・抜糸強度と風合いのバランスに優れ、さらにカーペットの臭気も少なく、カーペットバッキング用バインダー及びカーペットバッキング剤として有用である。更には、電池電極用バインダー、木質接着剤用バインダー、耐チッピング用バンダーとしても、使用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量部、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体5〜40重量部、エチレン系不飽和カルボン酸単量体1〜15重量部およびこれらと共重合可能な他の単量体20〜84重量部から構成される単量体(単量体合計100重量部)を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、光子相関法による平均粒子径が50〜150nmであり、炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸アルキルエステル単量体の残留量が、共重合体ラテックスの固形分基準で300ppm以下である共重合体ラテックス。
【請求項2】
炭素数が5以上のアルコールとアクリル酸からなるアクリル酸エステル単量体の残留量が、共重合体ラテックスの固形分基準で、200ppm以下である請求項1に記載の共重合体ラテックス。
【請求項3】
光子相関法による平均粒子径が50〜130nmである請求項1または2に記載の共重合体ラテックス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体ラテックスが、紙塗工用組成物のバインダーとして用いられることを特徴とする共重合体ラテックス。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体ラテックスをバインダーとして用いることを特徴とする紙塗工用組成物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体ラテックスが、カーペットバッキング用組成物のバインダーとして用いられることを特徴とする共重合体ラテックス。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体ラテックスをバインダーとして用いることを特徴とするカーペットバッキング用組成物。

【公開番号】特開2012−214694(P2012−214694A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−10471(P2012−10471)
【出願日】平成24年1月20日(2012.1.20)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】