説明

共重合体ラテックス組成物

【課題】塗工紙のピック強度と湿潤ピック強度、印刷光沢、および湿し水存在下でのインク着肉性に加え、耐湿潤ベタツキ性、および紙塗工用組成物の再分散性に優れる共重合体ラテックス組成物の提供。
【解決手段】ジエン系共重合体ラテックスと、1〜100ppmのアルキルベンゼン類からなる共重合体ラテックス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工紙における顔料バインダーに用いられる共重合体ラテックス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗工紙は、抄造された紙の表面の平滑性を高め、光沢や印刷適性を向上させる目的で、原紙にカオリンクレー、炭酸カルシウム、サチンホワイト、タルク、酸化チタンなどの無機顔料およびプラスチック顔料などの有機顔料を塗布したものであり、これらの顔料のバインダーとしてジエン系共重合体ラテックスが一般的に用いられている。顔料バインダーとして用いられる共重合体ラテックスの性質は、これを利用した塗工紙の表面強度や印刷性能に大きな影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
近年、カラー印刷された雑誌類やパンフレット、広告等の需要の増大に伴い、印刷速度の高速化が進められており、特にインクのタックによる紙の表面の破壊に対する抵抗性(いわゆるピック強度及び湿潤ピック強度)の改善が以前にも増して要求されるようになった。さらには最近の塗工紙品質へのニーズとして、印刷光沢の高いもの、湿し水存在下でのインク着肉性が優れるものが求められている。
【0004】
一方、塗工紙の生産においても、生産能力および生産性の向上のため塗工速度の高速化が進められ、ここでも塗工操業性に影響を与える共重合体ラテックスへの品質要求は高まっている。特に塗工操業性に関わる性能として、共重合体ラテックスには優れた耐湿潤ベタツキ性が、また、紙塗工用組成物には優れた再分散性が要求されている。
【0005】
このように塗工紙の品質向上や塗工紙生産時の操業性の改良が求められる中、ラテックス重合後にラテックス中に残留する成分に着目した提案がなされている。例えば、4−フェニルシクロへキセンやαメチルスチレンダイマーの量を制御することで、塗工紙のインク着肉性、印刷光沢、表面強度を改良する提案が行われている(特許文献1、2)。さらに、ラテックス中に残留するスチレン、4−シアノシクロへキセン、4−ビニルシクロへキセンの量を制御することにより、印刷光沢や表面強度等の塗工紙性能とともに、塗工紙生産時の塗工操業性に影響するラテックスのべとつき性が改良されることが開示されている(特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−248098号公報
【特許文献2】特開2001−11244号公報
【特許文献3】特開2003−277448号公報
【特許文献4】特開2003−277544号公報
【特許文献5】特開2003−277546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの特許文献には、塗工紙性能の改良効果について開示されているものの、優れた塗工操業性のために必要な、ラテックス皮膜の耐湿潤ベタツキ性や、塗工組成物の再分散性を同時に満足させるには至っていない。
【0008】
本発明は、塗工紙のピック強度と湿潤ピック強度、印刷光沢、および湿し水存在下でのインク着肉性に加え、塗工操業性に関わるラテックスの耐湿潤ベタツキ性、および紙塗工用組成物の再分散性に優れる共重合体ラテックス組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述の問題点を解決するために鋭意検討した結果、共重合体ラテックス中に特定の炭化水素化合物を特定量含有させることにより、ピック強度、湿潤ピック強度、ラテックスの耐湿潤ベタツキ性、紙塗工用組成物の再分散性、印刷光沢、湿し水存在下の着肉性等の性能を同時に満たすことを見出し、本発明をなすに至った。即ち本発明は、下記の通りである。
【0010】
(1)(a)共役ジエン系単量体25〜60質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、および(c)その他共重合可能な単量体33〜74.5質量%(但し(a)、(b)、(c)の合計量は100質量%)から成る単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックスと、ラテックス固形分に対し1ppm〜100ppmのアルキルベンゼン類からなる紙塗工用共重合体ラテックス組成物。
(2)(1)に記載の共重合体ラテックス組成物を含有する紙塗工用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の共重合体ラテックス組成物によれば、塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度、印刷光沢、および湿し水存在下のインク着肉性に加え、ラテックス皮膜の耐湿潤ベタツキ性、紙塗工用組成物の再分散性等を改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、特にその好ましい発明の実施の形態(以下、本実施形態)を中心に具体的に説明する。
【0013】
(共役ジエン系単量体)
共重合体ラテックスの原料の1つである(a)共役ジエン系単量体は、共重合体に柔軟性を与え、ピック強度、衝撃吸収性を与えるために必須の成分である。該共重合体を構成する全単量体を100質量%とした場合、25〜60質量%、好ましくは27〜53質量%、最も好ましくは29〜48質量%の割合で用いられる。この単量体の使用量を上記範囲に設定することにより、共重合体に適度の柔軟性と弾性を付与してピック強度を向上させ、さらには耐湿潤ベタツキ性を向上させることができる。使用される共役ジエン系単量体の好ましい例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどがあげられ、これらは1種または2種以上が組み合わせて用いられる。
【0014】
(エチレン系不飽和カルボン酸単量体)
また、原料の1つである(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体は、共重合体ラテックスに必要な分散安定性を与え、ピック強度、湿潤ピック強度を高めるための必須成分であり、該共重合体を構成する全単量体を100質量%とした場合、全単量体に対し0.5〜7質量%、好ましくは1〜6質量%、さらに好ましくは2〜5質量%の割合で用いられる。この単量体の使用量を上記範囲に設定することにより、共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性を良好(べたつかない)に保つことが可能になり、且つこの共重合体ラテックスを使用した紙塗工用組成物の再分散性を良好にすることが可能となる。
【0015】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体の好ましい例としては、アクリル酸、メタクリル酸等の一塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体などがあげられ、これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(その他共重合可能な単量体)
また、他の原料として(c)上記単量体と共重合可能な他の単量体を含む。この共重合可能な他の単量体を適宜選択することにより、共重合体ラテックス及びその組成物にさまざまな特性を付与できる。共重合可能な他の単量体の好ましい例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、などのアクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル類、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノアルキルエステル類、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのピリジン類、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのグリシジルエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアミド類、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類などがあげられ、これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。上記各種単量体の中でも、得られる共重合体ラテックスのピック強度及び乳化重合における重合安定性の観点から、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチルを用いることが好ましい。
【0017】
この(c)共重合可能な単量体は、共重合体ラテックスを構成する全単量体を100質量%とした場合、全単量体に対し33〜74.5質量%、好ましくは41〜72質量%、さらに好ましくは47〜69質量%の割合で用いられる。この単量体を上記範囲で使用することで、好適なピック強度が発現する。
【0018】
(アルキルベンゼン類)
本実施形態における共重合体ラテックス組成物は、ラテックス固形分に対し、アルキルベンゼン類を1〜100ppm含有することを特徴とする。アルキルベンゼン類としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、1−メチルエチルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、ドデシルベンゼンなどの、アルキル基置換ベンゼンが挙げられる。これらのアルキルベンゼン類の中から、1種、または2種以上含有することが好ましい。アルキルベンゼン類のうち、好ましいものはトルエン、キシレン、エチルベンゼンである。
【0019】
アルキルベンゼン類の含有量は、1〜100ppm、好ましくは2〜90ppmである。この範囲の含有量であれば、得られた塗工紙の印刷光沢と湿し水存在下のインク着肉性が優れるとともに、ピック強度、湿潤ピック強度、耐湿潤ベタツキ性、紙塗工用組成物の再分散性の低下が見られない。
【0020】
本実施形態の共重合体ラテックス組成物は、単量体混合物を乳化重合、ストリッピングして共重合体ラテックスを得、固形分、pHを調整した後に、アルキルベンゼン類を所定の量になるよう共重合体ラテックスに添加して製造することができる。
【0021】
または、次の方法も可能である。アルキルベンゼン類の中で、キシレン、エチルベンゼンは、原料スチレン中に含有する場合があるので、重合終了時のラテックス中には、キシレン、エチルベンゼンが残留する。このような場合には、ストリッピング工程を調整することにより共重合体ラテックス中にキシレンやエチルベンゼンを所定量含有せしめることができる。ストリッピング工程は、例えば、ラテックスに吹き込む水蒸気の量、水蒸気の吹き込み速度、水蒸気の吹き込み時間、等を適宜調整することにより、所定範囲のアルキルベンゼン含有量にすることができる。
【0022】
なお、ストリッピング後のラテックス中に含まれるアルキルベンゼン類の量や、アルキルベンゼン類添加後におけるラテックス中に含まれるアルキルベンゼン類の量は、ガスクロマトグラフィーにより、既知の方法で求めることが出来る。
【0023】
(乳化重合)
本実施形態の共重合体ラテックスは、上記の単量体の混合物を乳化重合法により重合することで得られる。乳化重合法は水及び界面活性剤の存在下、ラジカル発生能を有する開始剤を、熱または還元剤の作用によってラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものである。
【0024】
(開始剤)
重合開始剤としては、ペルオキソニ硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、2,2−アゾビスブチロニトリル、クメンハイドロパーオキサイド等の有機系開始剤、過酸化水素等を併用して使用することが可能である。また酸性亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸やその塩、エリソルビン酸やその塩、ロンガリットなどの還元剤を重合開始剤と組み合わせて用いる、いわゆるレドックス重合法を用いることもできる。
【0025】
(連鎖移動剤)
共重合体ラテックスを製造する場合、ラジカル重合において通常用いられる公知の連鎖移動剤を用いることが可能である。連鎖移動剤の好ましい例としては、核置換α−メチルスチレンの二量体のひとつであるα−メチルスチレンダイマー、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン類、テトラメチルチウラジウムジスルフィド、テトラエチルチウラジウムジスルフィドなどのジスルフィド類、四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化誘導体、2−エチルヘキシルチオグリコレートなどがあげられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の添加方法にも特に制限はなく、一括添加、回分添加、連続添加など公知の添加方法が用いられる。
【0026】
(界面活性剤)
使用する界面活性剤についても特に制限はなく、従来公知のアニオン、カチオン、両性および非イオン性の界面活性剤を用いることができる。好ましい界面活性剤の例としては、脂肪族セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン性界面活性剤があげられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いられる。使用される界面活性剤の量は、単量体100質量部当たり、0.3〜2.0質量部であることが好ましい。
【0027】
(重合温度)
共重合体ラテックスを製造する場合の重合温度は、通常40〜100℃の範囲で行うことが一般的であるが、生産効率と、得られる共重合体ラテックス及びその組成物のピック強度、湿潤ピック強度等の品質の観点からは、重合開始時から単量体混合物の添加終了時までの期間においては、55〜85℃の範囲が好ましく、より好ましくは60〜80℃の範囲である。また全単量体を重合系内に添加終了した後で、且つ単量体混合物の重合転化率が60%を越えた後には、各単量体の重合転化率を引き上げるために、重合温度を上げる方法(いわゆるクッキング工程)を設けることも可能であり、この工程の重合温度は80〜100℃の範囲にあることが好ましい。
【0028】
(重合固形分)
共重合体ラテックスを製造する場合の重合固形分濃度は、生産効率と、乳化重合時の粒子径制御の観点から、35〜60質量%とするのが好ましく、さらに好ましくは40〜52質量%である。ここにいう固形分濃度とは、乾燥により得られた固形分質量の、元の共重合体ラテックス質量に対する割合を言う。
【0029】
(多段重合法)
共重合体ラテックスの製造法は、従来商業的に用いられている乳化重合法の装置を使用して行われるものであり、一段重合法、または、少なくとも二段の重合工程を含む多段重合法を挙げることができるが、特に制限されるものでなく、いずれの方法を用いても良いが、特に、多段重合法が好ましい。これにより、特にピック強度、湿潤ピック強度、耐湿潤ベタツキ性、再分散性に対する効果がより大きくなる。多段重合法とは、例えば特開2002−226524号公報に開示されている如く、組成の異なる複数の単量体混合物を準備し、重合反応の進行に伴って系内に添加する単量体混合物の組成を、重合反応の途中で変化させる重合法である。
【0030】
(多段重合組成)
上記のような多段重合法を行う場合、各重合段における単量体混合物の組成が重要である。重合反応における時系列的な観点で整理した場合、最初の工程を第一重合段、これに続く工程を第二重合段、(さらにこれに続く第三重合段以降が存在しても良い)と定義した場合に、各重合段における単量体混合物から得られる共重合体のガラス転移温度(Tg)については、より後段の重合段ほど高いTgの得られる単量体混合物の組成にすることが望ましい。各重合段で得られる共重合体ラテックスのガラス転移温度は、主に(a)共役ジエン系単量体の配合比率による影響が大きい。即ち、より後段の重合段ほど、共役ジエン系単量体の配合比率を下げ、Tgを高めることが好ましい。
【0031】
(単量体添加方法)
共重合体ラテックスを製造するにあたって乳化重合の系内に単量体混合物を添加する好ましい手段に関しては、上記で説明した方法以外には特に制約はない。単量体混合物の一部を一括して予め乳化重合系内に仕込み重合した後、残りの単量体混合物を連続的もしくは間欠的に仕込む方法、あるいは単量体混合物を各重合段の最初から連続的または間欠的に仕込む方法を採りうるものであり、これらの重合方法を組み合わせて重合してよい。
【0032】
(シード)
共重合体ラテックスの製造に際しては、粒子径の調整のため公知のシード重合法を用いることも可能であり、シードを作製後同一反応系内で共重合体ラテックスの重合を行うインターナルシード法、別途作製したシードを用いるエクスターナルシード法などの方法を適宜選択して用いることができる。
【0033】
(粒子径)
共重合体ラテックスの粒子径は50〜150nmであることが好ましい。より好ましくは60〜110nmである。この範囲の粒子径に設定することにより、ラテックスの粘度を好適な範囲に調整することが可能であり、作業性を低下せしめない。さらには、ピック強度・湿潤ピック強度の低下や塗料粘度上昇発生を抑制させることができる。
【0034】
(トルエン不溶分)
共重合体ラテックスについては、トルエン不溶分が70〜98質量%にあることが好ましく、さらに好ましくは80〜97質量%、最も好ましくは85〜94質量%の範囲にあることである。この範囲にトルエン不溶分を調整することによって、共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性と塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度及び印刷光沢を同時に向上させることができる。
【0035】
(重合調整剤)
共重合体ラテックスには、必要に応じて公知の各種重合調整剤を用いることができる。これらはたとえばpH調整剤、キレート剤などであり、pH調整剤の好ましい例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどがあげられ、キレート剤の好ましい例としてはエチレンジアミン四酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0036】
(固形分濃度)
共重合体ラテックス組成物の、最終製品としての固形分濃度についても特に制限はなく、通常固形分濃度は30〜60質量%の範囲に希釈もしくは濃縮して調製される。
【0037】
(添加剤)
共重合体ラテックス組成物には、その効果を損ねない限り、必要に応じて各種添加剤を添加すること、あるいは他のラテックスを混合して用いることが可能であり、例えば分散剤、消泡剤、老化防止剤、耐水化剤、殺菌剤、印刷適性剤、滑剤などを添加すること、アルカリ感応型ラテックス、有機顔料などを混合して用いることもできる。
【0038】
(紙塗工組成物)
次に、前述の共重合体ラテックス組成物を紙塗工用塗料のバインダーとして用いることにより紙塗工用組成物が得られる。これは、通常行われている実施態様で製造することができる。すなわち、分散剤を溶解させた水中に、カオリンクレー、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト、タルク等の無機顔料、プラスチックピグメントやバインダーピグメントとして知られる有機顔料、澱粉、カゼイン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子、増粘剤、染料、消泡剤、防腐剤、耐水化剤、滑剤、印刷適性向上剤、保水剤等の各種添加剤とともに適切な共重合体ラテックスを添加して混合し、均一な分散液(紙塗工用組成物)とする態様である。
また紙塗工用組成物を構成するバインダーについては、共重合体ラテックス組成物と併用して、澱粉類を用いることが望ましい。この場合には、紙塗工用組成物の熱安定性に関して特に顕著な改良効果を発現する。澱粉類の好ましい例としては、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、酵素分解型酸化澱粉等を挙げることができる。
【0039】
(顔料)
顔料と共重合体ラテックス組成物との使用割合は、組成物の使用目的によって適宜決定することが出来るが、顔料100質量部に対して共重合体ラテックス組成物3〜30質量部を用いることが好ましい。そして、この紙塗工用組成物は、各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーターなどを用いる通常の方法によって原紙に塗工することができるが、より印刷光沢の高い塗工紙を得るためにはブレードコーターを用いることが好ましい。塗工形態も原紙に対し片面、又は表裏の両面に塗工されうるものであり、また片面当たりの塗工回数についても1回であるシングル塗工の他、2回の塗工工程を行ういわゆるダブル塗工に供することもできる。この場合、本実施形態の共重合ラテックス組成物はその下塗り用顔料組成物、及び上塗り用顔料組成物のいずれにも用いることができる。
さらに、本実施形態の共重合体ラテックス組成物は、紙のコーティング剤、カーペットバッキング剤、その他接着剤、各種塗料にも用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例の具体的態様に限定されるものではない。
[各物性の評価方法]
【0041】
(1)共重合体ラテックスの粒子径:
動的光散乱法により、光散乱光度計(シーエヌウッド社製、モデル6000)を用いて、初期角度45度−測定角度135度で測定した。
【0042】
(2)共重合体ラテックスのトルエン不溶分:
2倍に希釈したラテックスを130℃で30分間乾燥しラテックスフィルムを得る。このラテックスフィルムを0.5gとり秤量する。これをトルエン30mlと混合して3時間浸透したのち、目開き32μmの金属網にてろ過した場合の残留物の乾燥質量を秤量する。もとのラテックスフィルム質量に対する残留物の乾燥質量の割合をトルエン不溶分(質量%)とする。
【0043】
(3)共重合体ラテックス組成物の耐湿潤ベタツキ性:
共重合体ラテックス組成物を、No.12のワイヤーバーでポリエチレンテレフタレートフィルムに塗布して130℃で30秒乾燥した。このフィルムを30℃の水中に5秒間浸漬させた後、黒ラシャ紙と重ね合わせ、温度60℃、線圧19600N/mのスーパーカレンダーを通過させた後、黒ラシャ紙を剥離する。この黒ラシャ紙繊維のラテックスフィルムのベタツキによる転移状態を目視評価した。評価は10点評価法で行い、転移の少ないものほど高得点とした。
【0044】
(4)紙塗工用組成物の再分散性:
天然ゴム製のシート上にワイヤーバーを用いて紙塗工用組成物を塗布し、100℃で20秒間乾燥させた。この際、乾燥後の塗工量が25g/m2になる様に塗工条件を調整した。次いでこの塗工されたシートの一定面積を切り出し、アダムス湿時摩耗試験機(熊谷理機株式会社製)を用いて、水への紙塗工用組成物の再分散の度合いを試験した。水は全て蒸留水を使用し、量は10ml、温度は30℃に統一した。また試験機に掛ける加重は1N、試験機の回転数は175rpm、試験時間は30分に統一した。試験終了後の水の濁度を目視にて観察した。評価は10点法とし、濁度の高いものほど再分散性は優れ、高得点とした。
【0045】
(5)ピック強度:
RI印刷試験機(明製作所製)を用いて、印刷インク(T&K TOKA社製、商品名SDスーパーデラックス50紅B、タック18)0.4ccを1回刷りし、ゴムロールに現れたピッキング状態を別の台紙に裏取りし、その状態を観察した。評価は10点評価法とし、ピッキング現象の少ないものほど高得点とした。
【0046】
(6)湿潤ピック強度:
RI印刷試験機(明製作所製)を用いてスリーブロールで塗工紙表面に給水し、その直後に印刷インク(T&KTOKA社製SDスーパーデラックス50紅B;タック15)0.4cc1回刷りし、ゴムロールに現れたピッキング状態を別の台紙に裏取りし、その状態を観察した。評価は10点評価法とし、ピッキング現象の少ないものほど高得点とした。
【0047】
(7)塗工紙の印刷光沢
RI印刷試験機(明製作所)を用いて、中央部に塗工紙(1.5cm×20cm)をならべて貼った台紙(30cm×25.5cm)に、印刷インク(大日本インク社製、商品名:ジオスGスミ)0.6ccを25cm×21cmの印刷面積で1回刷りを実施した。23℃、湿度50%で、24時間放置後、印刷光沢値を光沢計を用い、60°で測定した。数値の高いもの程、優れた印刷光沢を有する。
【0048】
(8)湿し水存在下のインク着肉性
RI印刷試験機(明製作所製)を用い、水を付着させたロールから塗工紙表面に薄く水を転写し、その直後に印刷インク(東洋インキ製造社製ハイエコー藍M)0.4cc1回刷りし、塗工紙へのインクの転移量を観察した。評価は10点評価法とし、インクの転移量の多いものほど高得点とした。
【0049】
(9)アルキルベンゼン類の含有量の測定
共重合体ラテックス、または共重合体ラテックス組成物10gをイソオクタン20g、メタノール5g中に混ぜ、60分しんとう後、上澄み液をとり、ガスクロマトグラフィー(島津GC14A、ガラスカラム)で測定し、共重合体ラテックス固形分当たりのアルキルベンゼン類含有量(ppm)を測定した。
【0050】
[製造例1]
(共重合体ラテックスAの製造)
攪はん機と内部温度調整用の温水ジャケット、及び各種原材料の定量添加設備を備えた、量産用の耐圧反応器に、重合初期の原料として水110質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3質量部、α―メチルスチレンダイマー0.4質量部、およびシードラテックスとして平均粒子径20nmのポリスチレンラテックス0.5質量部を含む重合初期原料を一括して仕込み、65℃にて充分に攪拌した。次いで、第一重合段用として調製しておいたスチレン21質量部、ブタジエン25質量部、メタクリル酸メチル2質量部、アクリロニトリル8質量部、ヒドロキシエチルアクリレート0.8質量部、アクリル酸0.8質量部、t−ドデシルメルカプタン0.03質量部、α―メチルスチレンダイマー0.8質量部から成る単量体及び連鎖移動剤混合物の内、14質量%をこの耐圧反応容器内に一括して仕込み、攪拌混合後、濃度30質量%のペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液0.6質量部(固形分換算)を耐圧容器内に5分間かけて添加し、重合反応を開始させた。
【0051】
ペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液の添加終了後から10分後、残りの第一重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物(第一重合段用の内86質量%に相当)をこの耐圧容器内に添加開始し、3時間20分で連続的に添加を行った。一方、この残りの第一重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加と同時に、水15質量部、水酸化ナトリウム0.1質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.7質量部、及びペルオキソ二硫酸ナトリウム0.6質量部からなる水系混合物の添加を開始し、3時間10分かけて連続的に添加し、重合反応を加速させた。
【0052】
第一重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加が終了した時点で、直ちに第二重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加を開始した。この第二重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物は、スチレン15質量部、ブタジエン14質量部、メタクリル酸メチル1質量部、アクリロニトリル8質量部、ヒドロキシエチルアクリレート0.7質量部、アクリル酸0.7質量部、t−ドデシルメルカプタン0.02質量部、α―メチルスチレンダイマー0.7質量部から成るものであり、2時間で連続的にこの耐圧容器内に添加し、重合反応を継続させた。
【0053】
第二重合段の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加開始時期から30分後に、イタコン酸3質量部を含む固形分濃度15質量%の50℃のイタコン酸水溶液について、この耐圧容器への添加を開始し、60分かけて全量を添加した。イタコン酸水溶液の添加開始時点での、容器内の単量体混合物の重合転化率(この時点までに系内に添加された単量体混合物総量に対して)は、71質量%であった。
【0054】
第二重合段の単量体混合物の添加終了後、全単量体の重合転化率は68重量%であった。次いで耐圧容器内の温度を65℃に保ったまま30分間反応を継続し、その後60分間かけて95℃に昇温させ、95℃の状態で30分間重合反応を継続させて各単量体の重合転化率を高めた。最終的には全単量体の重合転化率は98質量%であり、系内のpHは2.9であった。
【0055】
この共重合体ラテックスは、水酸化カリウムを添加してpHを6.0に調整し、スチームストリッピング法により未反応の単量体を除去した。スチームストリッピングは、共重合体ラテックス(固形分+水)100質量部に対し、水蒸気200重量部を4時間かけて吹き込んだ。ストリッピング終了後、ラテックスは水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整し、濃縮設備を用いて固形分濃度を最後に50質量%に調整した。共重合体ラテックスを325メッシュのフィルターを通過させて濾過し、共重合体ラテックスAを得た。共重合体ラテックスAを前述の方法で分析した結果、アルキルベンゼン類の含有は確認されなかった。
【0056】
[実施例1〜3、比較例1〜2]
共重合体ラテックスAの固形分に対し、エチルベンゼンを、3ppm、30ppm、60ppm、150ppm添加して、共重合体ラテックス組成物を作製した。これらの共重合ラテックス、共重合ラテックス組成物に対する、ラテックス各物性の評価結果を表1に記載した。なお、塗工紙の作製は以下の様に実施した。
【0057】
(塗工紙の作製と評価)
共重合体ラテックス組成物、および以下の構成材料を使用し、均一に混合して紙塗工用組成物を調製した。なお、以下の配合(質量部)は、水を除いて、全て固形分に換算した値である。
微粒カオリンリンクレー 20質量部
エンジニアードカオリンクレー 15質量部
粗粒カオリンクレー 35質量部
重質炭酸カルシウム 30質量部
ポリアクリル酸ナトリウム 0.1質量部
水酸化ナトリウム 0.2質量部
リン酸エステル化澱粉 3質量部
共重合体ラテックスA 10質量部
水(塗工液の全固形分濃度が66質量%となるように添加)
【0058】
なお、微粒カオリンクレーとしては、商品名カオファイン(THIELE KAOLIN社製;粒子径2μm以下の割合=95質量%以上)、エンジニアードカオリンクレーとしては、商品名カピムDG(IMERYSMINERALS社製)、重質炭酸カルシウムとしては、商品名カービタル97(ECC社製)、ポリアクリル酸ナトリウムとしては商品名アロンT−40(東亞合成社製)およびリン酸エステル化酸化澱粉としては商品名MS−4600(日本食品加工社製)をそれぞれ使用した。次いで前述の方法で、紙塗工用組成物の再分散性を評価した。
【0059】
次に、このようにして得られた紙塗工用組成物を、塗工量が片面12g/m2になるように坪量74g/m2の塗工原紙にブレードコーターで塗工し、150℃で15秒間乾燥した後、ロール温度50℃、線圧150kg/cmでスーパーカレンダー処理を行い塗工紙を得た。得られた塗工紙を印刷試験に用いた。この塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度、印刷光沢および湿し水存在下でのインク着肉性を評価した。これらの評価結果を表1に記載した。実施例1〜3は、耐湿潤ベタツキ性、再分散性、ピック強度、湿潤ピック強度、印刷光沢、湿し水存在下の着肉性が優れていた。
【0060】
[製造例2]
(共重合体ラテックスB、共重合体ラテックス組成物の製造)
製造例1に記載の耐圧反応に、イオン交換水70質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4質量部、イタコン酸3質量部、シードラテックスとして平均粒径20nmのポリスチレンラテックス0.5質量部を入れ、内温を75℃とした。次いで、第1段目として、スチレン43質量部、ブタジエン34質量部、メチルメタクリレート4質量部、アクリロニトリル8質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1質量部、連鎖移動剤としてt−ドデシルメルカプタン(t−DDM)0.6重量部およびα−メチルスチレンダイマー(α−MSD)2重量部を混合した単量体組成物を5.5時間かけて一定の流速で添加し、同時に水20重量部、ぺルオキソ二硫酸ナトリウム1重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.1重量部、水酸化ナトリウム0.2重量部からなる開始剤系水溶液を7時間かけて一定の流速で添加した。第1段目の単量体組成物の添加終了後、スチレン3重量部、アクリロニトリル4重量部を混合した単量体組成物を1時間かけて一定の流速で添加した。単量体混合物および開始剤系水溶液の全ての添加終了後、95℃に昇温し、その温度を30分保った後冷却した。全単量体の重合添加率は99%であった。共重合体ラテックス中に残留するアルキルベンゼン類をガスクロマトグラフィーで分析したところ、エチルベンゼンが確認され、その含有量は、ラテックス固形分に対し、280ppmであった。
【0061】
次いで、生成したジエン系共重合体ラテックスに水酸化ナトリウムを添加してpHを7に調製し、スチームストリッピング法により未反応単量体を除去した。スチームストリッピングは、ラテックス(固形分+水)100質量部に対し、水蒸気200重量部を4時間かけて吹き込んだ。スチーム吹き込み開始後、1時間、1.5時間、および4時間の時点でラテックスサンプルを採取した。それぞれのラテックスサンプルは325メッシュの金網でろ過した後、最終的には水酸化ナトリウムを用いてpH8.0とし、固形分濃度50重量%となるよう濃度調整を行った。各ラテックスサンプルのアルキルベンゼン類の含有量をガスクロマトグラフィーで測定した結果、スチームストリッピングを4時間実施したラテックスには、アルキルベンゼン類の含有が認められなかった。これを共重合体ラテックスBとする。
【0062】
スチームストリッピングを1.5時間実施したものは、エチルベンゼンが40ppm検出された。また、スチームストリッピングを1時間実施したものは、エチルベンゼンが80ppm検出された。これらは、エチルベンゼンを含有する共重合体ラテックス組成物である。
【0063】
[実施例4〜6、比較例3〜4]
ラテックスBの固形分に対し、キシレン含有量が20、および200ppmとなる様に、キシレンを添加して共重合体ラテックス組成物を作製した。
実施例1〜3および比較例1〜2と同様に、共重合体ラテックスB、エチルベンゼンを含有する共重合体ラテックス組成物、キシレンを添加して調整した共重合ラテックス組成物の評価を実施した。得られた結果を表2に示す。実施例4〜6は、耐湿潤ベタツキ性、再分散性、ピック強度、湿潤ピック強度、印刷光沢、湿し水存在下の着肉性が優れていた。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の共重合体ラテックス組成物は、塗工紙の顔料用バインダーとして好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)共役ジエン系単量体25〜60質量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜7質量%、および(c)その他共重合可能な単量体33〜74.5質量%(但し(a)、(b)、(c)の合計量は100質量%)から成る単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックスと、ラテックス固形分に対し1ppm〜100ppmのアルキルベンゼン類からなる紙塗工用共重合体ラテックス組成物。
【請求項2】
請求項1記載の共重合体ラテックス組成物を含有する紙塗工用組成物。

【公開番号】特開2012−26048(P2012−26048A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164115(P2010−164115)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】