説明

共重合体及び成形体

【課題】全芳香族ポリエステルの優れた耐熱性及び成形性を十分維持しつつ、成形体の接着強度を向上させることができる共重合体及び成形体を提供すること。
【解決手段】芳香族ヒドロキシカルボン酸誘導体からなる繰り返し構造単位を40〜99モル%と、リン含有芳香族ジオール誘導体で表される繰り返し構造単位及び4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンで表される繰り返し構造単位のうちの1種以上の繰り返し構造単位を合計で1〜15モル%と、該リン含有芳香族ジオール誘導体表される繰り返し構造単位以外の芳香族ジオール誘導体からなる繰り返し構造単位を0〜30モル%と、芳香族ジカルボン酸からなる繰り返し構造単位を0〜30モル%とを含有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体及びそれを含む樹脂組成物からなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリエステルに代表される液晶ポリマーは、高い耐熱性と優れた電気特性を有し、主として電気・電子部品に使用されている。このような部品は、全芳香族ポリエステル樹脂組成物を射出成形や押出成形することにより作製され、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系などの接着剤で他の部材に接合される。
【0003】
一般に、共重合体を含む樹脂組成物から成形体を作製する場合、用途に合った特性が得られるように共重合成分を変更することが行われる。全芳香族ポリエステルについても、種々の化合物を共重合成分として用いて特定の構造単位を組み入れることで全芳香族ポリエステルの特性を改善する試みがなされている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−227807号公報
【特許文献2】特許4302638号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、全芳香族ポリエステルの成形体は、接着剤との親和性が低いため、同質あるいは異質の部材との接合が困難となる場合があった。接着剤の改良はなされているが、接着剤による接着強度の改善にも限界がある。
【0006】
上記特許文献のように全芳香族ポリエステルの共重合成分を変更して接着性を改善することが考えられる。しかし、十分な改善効果を得るために変更する構造単位の割合が大きくなりすぎると、全芳香族ポリエステルが有している耐熱性、成形性などの利点を損なってしまう。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、全芳香族ポリエステルの優れた耐熱性及び成形性を十分維持しつつ、成形体の接着強度を向上させることができる共重合体及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、下記一般式(1)で表される繰り返し構造単位を40〜99モル%と、下記式(2)で表される繰り返し構造単位及び下記一般式(3)で表される繰り返し構造単位のうちの1種以上の繰り返し構造単位を合計で1〜15モル%と、式(2)で表される繰り返し構造単位以外の下記一般式(4)で表される繰り返し構造単位を0〜30モル%と、下記一般式(5)で表される繰り返し構造単位を0〜30モル%と、を含有してなる共重合体を提供する。
【0009】
【化1】



式(1)中、Xは、芳香族基を含む2価の有機基を示す。
【0010】
【化2】



【0011】
【化3】



式(3)中、Lは、−CH−、−(CHC−、−O−、又は−SO−を示す。
【0012】
【化4】



式(4)中、Yは、芳香族基を含む2価の有機基を示す。
【0013】
【化5】



式(5)中、Zは、芳香族基を含む2価の有機基を示す。
【0014】
本発明の共重合体によれば、上記特定の構造単位を上記特定の割合で含有するものであることにより、全芳香族ポリエステルの優れた耐熱性及び成形性を十分維持しつつ、成形体の接着強度を向上させることができる。
【0015】
本発明はまた、上記本発明の共重合体が含まれる樹脂組成物を成形してなる成形体を提供する。係る樹脂組成物からなる成形体は、耐熱性に優れ且つ接着性が向上したものになり得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、全芳香族ポリエステルの優れた耐熱性及び成形性を十分維持しつつ、成形体の接着強度を向上させることができる共重合体及び成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の共重合体は、下記一般式(1)で表される繰り返し構造単位を40〜99モル%と、下記式(2)で表される繰り返し構造単位及び下記一般式(3)で表される繰り返し構造単位のうちの1種以上の繰り返し構造単位を合計で1〜15モル%と、式(2)で表される繰り返し構造単位以外の下記一般式(4)で表される繰り返し構造単位を0〜30モル%と、下記一般式(5)で表される繰り返し構造単位を0〜30モル%と、を含有してなるものである。
【0018】
【化6】



式(1)中、Xは、芳香族基を含む2価の有機基を示す。
【0019】
【化7】



【0020】
【化8】



式(3)中、Lは、−CH−、−(CHC−、−O−、又は−SO−を示す。
【0021】
【化9】



式(4)中、Yは、芳香族基を含む2価の有機基を示す。
【0022】
【化10】



式(5)中、Zは、芳香族基を含む2価の有機基を示す。
【0023】
上記一般式(1)中のXとしては、耐熱性及び成形加工性の観点から、下記式(A)又は下記式(B)で表される2価の芳香族基であることが好ましい。なお、式(A)で表されるベンゼン環の2つの結合手はメタ位又はパラ位の関係にある。
【0024】
【化11】



【0025】
上記一般式(4)中のYとしては、例えば、下記一般式(4−1)で表される2価の基が挙げられる。
【0026】
【化12】



式(4−1)中、Arは2価の芳香族基を示し、Yは芳香環を有する2価の基を示し、tは、0又は1の整数を示す。
【0027】
Arとしては、耐熱性及び成形加工性の点で、下記式(A)又は(B)で表される2価の芳香族基が好ましい。なお、式(A)で表されるベンゼン環の2つの結合手はメタ位又はパラ位の関係にある。
【0028】
【化13】



【0029】
としては、下記式(4−2)で表される2価の基が挙げられる。
【0030】
【化14】



式(4−2)中、Lは、−O−、−S−、又は−SO−を示し、sは、0又は1の整数を示す。なお、式(4−2)中のベンゼン環の2つの結合手はメタ位又はパラ位の関係にある。
【0031】
本発明の共重合体においては、特に射出成形時の流動性を向上させる観点から、上記一般式(4)中のYが、下記式(4−3)で表される2価の基であることが好ましい。
【0032】
【化15】



【0033】
上記一般式(5)中のZとしては、例えば、下記一般式(5−1)で表される2価の基が挙げられる。
【0034】
【化16】



式(5−1)中、Arは2価の芳香族基を示し、Zは芳香環を有する2価の基を示し、vは、0又は1の整数を示す。
【0035】
Arとしては、耐熱性及び成形加工性の点で、下記式(A)又は(B)で表される2価の芳香族基が好ましい。なお、式(A)で表されるベンゼン環の2つの結合手はメタ位又はパラ位の関係にある。
【0036】
【化17】



【0037】
としては、下記式(5−2)で表される2価の基が挙げられる。
【0038】
【化18】



式(5−2)中、Lは、2価の炭化水素基、−O−、−S−、−SO−、−SO−、又は−CO−を示し、uは、0又は1の整数を示す。2価の炭化水素基としては、炭素数1〜3のアルカンジイル基が挙げられ、そのうち、−C(CH−又は−CH(CH)−が好ましい。なお、式(5−2)中のベンゼン環の2つの結合手はメタ位又はパラ位の関係にある。
【0039】
本発明の共重合体においては、上記一般式(5)中のZが、下記式(5−3)又は下記式(5−4)で表される2価の基であることが好ましい。特に、テレフタル酸などを用いて式(5−3)で表わされる2価の基を組み入れた場合には、耐熱性を向上させることができる。イソフタル酸などを用いて式(5−4)で表わされる2価の基を組み入れた場合には、耐熱性が低下する傾向にあるが、上記2種類の化合物を併用して式(5−3)及び式(5−4)で表される2価の基を組み入れることにより融点を微調整することができる。
【0040】
【化19】



【0041】
本発明の共重合体は従来のポリエステルの重縮合法に準じて製造することができる。
【0042】
上記一般式(1)で表される繰り返し構造単位は、例えば、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、これらのフェノール部位をプロピオン酸エステル、酢酸エステル又はギ酸エステルで変性したもの及びこれらのカルボン酸部位をメチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステル又はフェニルエステルなどで変性したもの、並びに、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、その位置異性体、これらのフェノール部位をプロピオン酸エステル、酢酸エステル又はギ酸エステルで変性したもの及びこれらのカルボン酸部位をメチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステル又はフェニルエステルなどで変性したもののうちの1種以上の化合物を共重合成分として用いることにより共重合体に組み入れることができる。
【0043】
これらの化合物は、上記一般式(1)で表される繰り返し構造単位が共重合体中40〜99モル%となる割合で配合される。
【0044】
射出成形向けの共重合体を製造する場合には、ポリマー分子の絡み合いが少なくなるパラヒドロキシ安息香酸及び/又はその誘導体を使用することが好ましい。押出成形向けの共重合体を製造する場合には、ポリマー分子の絡み合いが多くなる2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸及び/又はその誘導体を試用することが好ましい。
【0045】
パラヒドロキシ安息香酸及びその誘導体、並びに、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸及びその誘導体は1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。本実施形態においては、例えば、(a)パラヒドロキシ安息香酸及び/又はその誘導体と、(b)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸及び/又はその誘導体とを併用することができる。この場合の使用割合としては、モル比(a)/(b)が0.1〜10となる範囲が好ましく、0.3〜8となる範囲がより好ましく、0.4〜5となる範囲が更により好ましい。(a)の割合が多くなると、ポリマー分子の絡み合いが少なくなり、縦裂き性など押出成形、特にフィルム成形に好ましくない性質が発現する傾向にある。
【0046】
上記一般式(2)で表される繰り返し構造単位は、例えば、下記式(2−A)で表される化合物、このフェノール部位をプロピオン酸エステル、酢酸エステル又はギ酸エステルで変性したもののうちの1種以上の化合物を共重合成分として用いることにより共重合体に組み入れることができる。
【0047】
【化20】



【0048】
また、上記一般式(3)で表される繰り返し構造単位は、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−2,2−ジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、及び、これらのアミン部位をプロピオン酸アミド、酢酸アミド又はギ酸アミドで変性したもののうちの1種以上の化合物を共重合成分として用いることにより共重合体に組み入れることができる。
【0049】
上記の化合物は、上記式(2)で表される繰り返し構造単位及び上記記一般式(3)で表される繰り返し構造単位が合計で共重合体中1〜15モル%となる割合で配合され、好ましくは1〜14モル%、より好ましくは1〜13モル%となる割合で配合される。上記の化合物を上記構造単位が15モル%を超える量で用いると、重合時に過剰に粘度が上昇したり極端な場合には炭化を起こしたりする。また、上記構造単位が1%未満となる量では、接着性の向上効果が十分に得られなくなる。
【0050】
上記一般式(4)で表される繰り返し構造単位は、例えば、4,4’−ビフェノール、ハイドロキノン、2,6−ナフタレンジオール、及びこれらのフェノール部位をプロピオン酸エステル、酢酸エステル、ギ酸エステル、フェニルエステルで変性したもののうちの1種以上の化合物を共重合成分として用いることにより共重合体に組み入れることができる。これらの中でも、機械的強度の観点から、4,4’−ビフェノールが好ましく使用される。
【0051】
これらの化合物は、上記一般式(4)で表される繰り返し構造単位が共重合体中0〜30モル%となる割合で配合され、低コスト化の点で好ましくは27モル%以下、よりこのましくは25モル%以下となる割合で配合される。
【0052】
上記一般式(5)で表される繰り返し構造単位は、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、これらのカルボン酸部位をメチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステル又はフェニルエステルで変性したもののうちの1種以上の化合物を共重合成分として用いることにより共重合体に組み入れることができる。
【0053】
これらの化合物は、上記一般式(5)で表される繰り返し構造単位が共重合体中0〜30モル%となる割合で配合され、好ましくは27モル%以下、よりこのましくは25モル%以下となる割合で配合される。上記の化合物を、上記一般式(5)で表される繰り返し構造単位が30モル%を超えるようになる量で使用すると、重合中に高粘度となるため好ましくない。
【0054】
上述した各共重合成分については、上記式(1)〜(5)におけるカルボン酸残基の合計モル数とヒドロキシ残基及びアミノ残基の合計モル数とが等しくなるように、組成を選択することが肝要である。本発明の共重合体において、上記一般式(4)で表される構造単位や上記一般式(5)で表される構造単位は含まれていなくてもよいが、式(4)の構造単位及び(5)の構造単位が含まれる場合、式(1)〜(5)の構造単位の合計が100モル%となり、式(2)〜(4)の構造単位の含有割合の合計と、(5)の構造単位の含有割合とが等しくなるように設定することができる。また、式(4)の構造単位が含まれず、(5)の構造単位が含まれる場合、式(1)〜(3)及び(5)の構造単位の合計が100モル%となり、式(2)〜(3)の構造単位の含有割合の合計と、(5)の構造単位の含有割合とが等しくなるように設定することができる。
【0055】
本発明の共重合体は、共重合体を板状、シート状又はフィルム状に成形したときの表面エネルギーが35mJ/m以上であることが好ましい。この場合、極性基を有する接着剤や金属との親和性が高くなり、他の部材と強固に密着させることが可能となる。例えば、上記の式(2)で表される繰り返し構造単位及び/又は式(3)で表される繰り返し構造単位の含有割合を多くすることによって、共重合体の表面エネルギーを大きくすることができる。
【0056】
また、本発明の共重合体は、示差走査熱量計(DSC)において測定される融点が300〜400℃の範囲にあることが望ましい。融点が300℃未満では、耐熱性が不十分となる傾向にあり、一方、融点が400℃を超えると、成形時に多大なエネルギーを必要とし、また成形性が著しく低下するため好ましくない。
【0057】
本発明の共重合体は、従来のポリエステルの重縮合法に準じて製造することができる。製造方法について何ら限定はないが、例えば、下記の方法が挙げられる。
A:芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、場合により芳香族ジアミンを配合したものに無水酢酸を添加し、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
B:芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物、芳香族ヒドロキシカルボン酸のアシル化物、芳香族ジカルボン酸、場合により芳香族ジアミンのジアミド化合物を配合したものからら脱酢酸重縮合によって製造する方法。
C:芳香族ジヒドロキシ化合物、芳香族ヒドロキシカルボン酸のフェニルエステル、芳香族ジカルボン酸のジフェニルエステル、場合により芳香族ジアミンを配合したものから脱フェノール重縮合によって製造する方法。
D:芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸を所定量のジフェニルカーボネートと反応させ、カルボキシル基をフェニルエステル化した後、芳香族ジヒドロキシ化合物、場合により芳香族ジアミンを加え、脱フェノール重縮合によって製造する方法。
【0058】
代表的な例を挙げると、パラヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ビフェノール、4,4’−ジアミノジフェニルメタンを反応器に投入し、無水酢酸を加えて無水酢酸還流下でアセトキシ化を行う。その後、昇温して250〜350℃の温度範囲で酢酸を留出しながら脱酢酸重縮合を行うことにより、ポリエステル又はポリエステルアミドを製造することができる。重合時間は1〜100時間の範囲で選択することができる。
【0059】
また、上記のような重縮合反応を行う際、触媒を用いることができる。具体的には、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、N−メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0060】
本発明の共重合体は、上記の重合反応のそれぞれについて、溶融重合と固相重合を併用して製造することができる。固相重合とは、溶融重合により重縮合を終えたプレポリマーをさらに高度に重合する方法である。固相重合は、例えば、溶融重合により得られたプレポリマーを窒素などの不活性ガス雰囲気下、あるいは減圧下において、200〜350℃の温度範囲で1〜30時間熱処理することにより行うことができる。実験室レベルではクーゲルロール装置が使用できる。工業的には円筒型回転式リアクターが好適に使用される。
【0061】
溶融重合における重合器は特に限定されるものではないが、一般の高粘度反応に用いられる攪拌設備、例えば、錨型、多段型、螺旋帯、螺旋軸などの形状の攪拌機を有する攪拌槽型重合機、より具体的にはワーナー式ミキサー、バンバリーミキサー、ポニーミキサー、ミュラーミキサー、ロールミル、連続走査可能なコニーダー、パグミル、ギアーコンパウンダーなどを使用することができる。
【0062】
本発明の共重合体は、単独で又は他の樹脂と混合し、必要に応じて添加剤が配合された樹脂組成物として使用することができる。
【0063】
本発明に係る樹脂組成物には、主として機械的強度の向上を目的として、繊維状、分粒状、板状などの無機又は有機充てん剤を配合することができる。
【0064】
繊維状の充てん剤としては、例えば、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカアルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、炭素繊維、アルミニウム、チタン及び銅などの金属の繊維が挙げられる。
【0065】
粒状の充てん剤としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトなどのケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナ、硫酸カルシウム、その他各種金属粉末が挙げられる。
【0066】
板状充てん剤としては、例えば、マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔などが挙げられる。
【0067】
有機充てん剤としては、例えば、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドからなる繊維などが挙げられる。
【0068】
無機充てん剤を配合する場合、その配合量は組成物全体に対して10〜90質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましい。配合量が90質量%を超える場合、機械的強度が低下する傾向にあり、一方、配合量が10質量%未満の場合、配合効果が現れにくくなる。
【0069】
本発明に係る樹脂組成物には、上記以外に従来公知の酸化防止剤、熱安定化剤、補強剤、顔料、難燃化剤などの添加剤を適宜添加することができる。これらの添加剤は、単独で又は2種類以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0070】
本発明の共重合体を含む樹脂組成物は、従来公知の成形方法、射出成形、フィルム成形、シート成形、ブロー成形、圧縮成形などの溶融成形加工することができる。そのような加工法を通じ、繊維、フィルム、シート、容器、ホース、三次元成形品などに加工して、成形品を得ることができる。なお、このようにして得られた成形品は、適当な条件による熱処理によって高強度化・高弾性率化することができる。この熱処理は、例えば、成形品を不活性雰囲気中、酸素含有雰囲気中、あるいは減圧下において、組成物の融点以下の温度で加熱することにより行うことができる。
【0071】
本発明の共重合体を含む樹脂組成物を成形してなる成形体の具体的な用途としては、携帯電話、デジタルカメラなどのカメラモジュール部品、LED部品、銅張積層板などの基板、その他電気・電子部品に好適に使用することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
機械式攪拌機を備え付けた200mLの三口フラスコに、パラヒドロキシ安息香酸(PHBA)33g(0.24モル)、4,4’−ビフェノール(BP)11g(0.06モル)、テレフタル酸(TPA)10g(0.06モル)、イソフタル酸(IPA)3g(0.02モル)、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン5g(0.02モル)を導入した。更にこれに、無水酢酸を40mLと、酢酸マグネシウム10mg及び酢酸カリウム10mgを加えた。この無水酢酸スラリーを、マントルヒーターを使用して140℃に制御して2時間加熱還流した。
【0074】
次に、還流装置を留出装置に変え、さらにマントルヒーターを溶融塩バスに変えた。酢酸を留去しながら、180℃から300℃まで5℃/10分の速度で昇温した。300℃で10分間保持した後、内容物をステンレスバットに流し入れ、得られた重合物を放冷した。次いで、冷却された重合物を粉砕機にて粉砕して粉末状のプレポリマーを得た。
【0075】
次に、上記で得られたプレポリマーをクーゲルロール装置に入れ、減圧にして290℃に加熱することで、低分子量成分を留去しながら固相重合した。こうして共重合体を得た。
【0076】
上記で得られた共重合体について、以下の方法にしたがって表面エネルギー、融点、ピール強度、及び見かけ粘度の測定を行った。結果を表2に示す。なお、ピール強度の測定後のサンプルの破壊形態は樹脂の破壊であった。
【0077】
[表面エネルギーの測定]
共重合体を350℃でプレス成形して板状サンプル(3cm×6cm×1.5mm)を作成した。自動接触角計(協和界面化学(株)製、DM−501)を用いて、純水及びジヨードメタンの液滴(1.0μL)をシリンジの針先から板状サンプル上にたらし、その接触角を読み取り、Owens式を用いて表面エネルギーを求めた。
【0078】
[融点の測定]
示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製)を用いて、リファレンスとしてα-アルミナを使用した。測定条件は、室温から20℃/分で420℃まで昇温し、共重合体を溶融させた後、10℃/分で150℃まで降温し、さらに20℃/分で430℃まで昇温したときに得られた吸熱ピークの頂点を融点とした。
【0079】
[ピール強度の測定]
共重合体からプレス成形機を用いて3cm×6cm×1.5mmの試験片を作製した。作製条件は、330℃、5MPaであり、時間は2分間とした。その際、あらかじめアセトンで脱脂した銅箔(3cm×10cm×0.02mm)を片面に接着させた。このサンプルについて、引張試験機を用いて、引張角度90度、引張速度5cm/分の条件でピール強度を測定した。
【0080】
[見かけ粘度]
(株)インテスコ製キャピラリーレオメーター(2010型)にて、キャピラリー径1.0mm、長さ40mm、流入角90°の物を用い、せん断速度100sec−1で融点−30℃から融点+20℃まで、+4℃/分の昇温速度で等速加熱する等速昇温法における320℃での粘度を読み取った。
【0081】
(実施例2)
4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンに代えて4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを4g(0.02モル)用いたこと以外は、実施例1と同様にして共重合体を得た。得られた共重合体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、ピール強度の測定後のサンプルの破壊形態は樹脂の破壊であった。
【0082】
(実施例3)
4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンに代えて4,4’−ジアミノジフェニルメタンを8g(0.04モル)用い、4,4’−ビフェノールを7.4g(0.04モル)用いたこと以外は、実施例1と同様にして共重合体を得た。得られた共重合体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、ピール強度の測定後のサンプルの破壊形態は樹脂の破壊であった。
【0083】
(実施例4)
4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンに代えて4,4’−ジアミノ−2,2−ジフェニルプロパンを4g(0.02モル)用いたこと以外は、実施例1と同様にして共重合体を得た。得られた共重合体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、ピール強度の測定後のサンプルの破壊形態は樹脂の破壊であった。
【0084】
(実施例5)
4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンに代えて下記式(2−A)で表されるリン系化合物Aを6.5g(0.02モル)用いたこと以外は、実施例1と同様にして共重合体を得た。得られた共重合体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、ピール強度の測定後のサンプルの破壊形態は樹脂の破壊であった。
【0085】
【化21】



【0086】
(実施例6)
機械式攪拌機を備え付けた200mLの三口フラスコに、パラヒドロキシ安息香酸(PHBA)32g(0.23モル)、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(HNA)11g(0.06モル)、上記式(2−A)で表されるリン系化合物A11g(0.03モル)、イソフタル酸(IPA)6g(0.04モル)を導入した。更にこれに、無水酢酸を40mLと、酢酸マグネシウム10mg及び酢酸カリウム10mgを加えた。この無水酢酸スラリーを、マントルヒーターを使用して140℃に制御して2時間加熱還流した。
【0087】
次に、還流装置を留出装置に変え、さらにマントルヒーターを溶融塩バスに変えた。酢酸を留去しながら、180℃から270℃まで5℃/10分の速度で昇温した。その後、内容物をステンレスバットに流し入れ、得られた重合物を放冷した。次いで、冷却された重合物を粉砕機にて粉砕して粉末状のプレポリマーを得た。
【0088】
次に、上記で得られたプレポリマーをクーゲルロール装置に入れ、減圧にして290℃に加熱することで、低分子量成分を留去しながら固相重合した。こうして共重合体を得た。得られた共重合体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、ピール強度の測定後のサンプルの破壊形態は樹脂の破壊であった。
【0089】
(比較例1)
4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンを配合しなかったこと、及び4,4’−ビフェノールを15g(0.08モル)用いたこと以外は、実施例1と同様にして共重合体を得た。得られた共重合体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、ピール強度の測定後のサンプルの破壊形態は銅と樹脂との界面の剥がれ(界面破壊)であった。
【0090】
(比較例2)
機械式攪拌機を備え付けた200mLの三口フラスコに、パラヒドロキシ安息香酸(PHBA)11g(0.08モル)、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(HNA)8g(0.04モル)、4,4’−ビフェノール(BP)22g(0.12モル)、テレフタル酸20g(TPA)(0.12モル)、イソフタル酸(IPA)3g(0.02モル)、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン5g(0.04モル)を導入した。更にこれに、無水酢酸を40mLと、酢酸マグネシウム10mg及び酢酸カリウム10mgを加えた。この無水酢酸スラリーを、マントルヒーターを使用して140℃に制御して2時間加熱還流した。
【0091】
次に、還流装置を留出装置に変え、さらにマントルヒーターを溶融塩バスに変えた。酢酸を留去しながら、180℃から5℃/10分の速度で昇温した。250℃付近で重合物の流動性が失われ、270℃付近から著しい焦げ付きが見られた。
【0092】
(比較例3)
リン系化合物Aを配合しなかったこと、及び4,4’−ビフェノールを6.5g(0.03モル)用いたこと以外は、実施例6と同様にして共重合体を得た。得られた共重合体について実施例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。なお、ピール強度の測定後のサンプルの破壊形態は銅と樹脂との界面の剥がれ(界面破壊)であった。
【0093】
(比較例4)
機械式攪拌機を備え付けた200mLの三口フラスコに、パラヒドロキシ安息香酸(PHBA)9.5g(0.07モル)、テレフタル酸10g(TPA)(0.06モル)、イソフタル酸(IPA)3g(0.02モル)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル16g(0.08モル)を導入した。更にこれに、無水酢酸を40mLと、酢酸マグネシウム10mg及び酢酸カリウム10mgを加えた。この無水酢酸スラリーを、マントルヒーターを使用して140℃に制御して2時間加熱還流した。
【0094】
次に、還流装置を留出装置に変え、さらにマントルヒーターを溶融塩バスに変えた。酢酸を留去しながら、180℃から5℃/10分の速度で昇温した。230℃付近で重合物の流動性が失われ、260℃付近から著しい焦げ付きが見られた。
【0095】
【表1】



【0096】
【表2】



【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、全芳香族ポリエステルの優れた耐熱性及び成形性を十分維持しつつ、成形体の接着強度を向上させることができる共重合体を提供することができる。また、本発明の共重合体を含む樹脂組成物からなる成形体は、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系といった接着剤との親和性に優れ、優れた接着性を発現することができる。また、本発明に係る成形体によれば、金属との親和性が高いことから、金属との複合体、例えば銅張積層板などを、金属と本発明に係る成形体とを熱圧着するだけで成形することが可能になる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し構造単位を40〜99モル%と、
下記式(2)で表される繰り返し構造単位及び下記一般式(3)で表される繰り返し構造単位のうちの1種以上の繰り返し構造単位を合計で1〜15モル%と、
前記式(2)で表される繰り返し構造単位以外の下記一般式(4)で表される繰り返し構造単位を0〜30モル%と、
下記一般式(5)で表される繰り返し構造単位を0〜30モル%と、
を含有してなる、共重合体。
【化1】



[式(1)中、Xは、芳香族基を含む2価の有機基を示す。]
【化2】



【化3】



[式(3)中、Lは、−CH−、−(CHC−、−O−、又は−SO−を示す。]
【化4】



[式(4)中、Yは、芳香族基を含む2価の有機基を示す。]
【化5】



[式(5)中、Zは、芳香族基を含む2価の有機基を示す。]
【請求項2】
請求項1に記載の共重合体が含まれる樹脂組成物を成形してなる、成形体。


【公開番号】特開2011−236326(P2011−236326A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108643(P2010−108643)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】