説明

共重合体組成物、防汚塗料組成物、施工方法及び構造物

【課題】防汚効果を長期間維持できるといった防汚塗料組成物として要求される性能を維持しつつ、さらに海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物を提供することができる共重合体組成物、及び該共重合体組成物を含有する防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】トリイソプロピルシリル基を有する特定の単量体(A)を含む単量体混合物の共重合体、及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを含有する共重合体組成物、並びに該共重合体及び防汚剤を含有する海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体組成物、防汚塗料組成物、施工方法及び構造物に関し、より詳しくは、船舶、ブイ、定置養魚網、養殖養魚網、各種水管、汚濁防止膜などの没水部等の海水と接触する部位を有する水中構造物に、海棲生物が付着することを防ぐために用いられる防汚塗料組成物であって、海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物に用いられる共重合体組成物、その防汚塗料組成物、その防汚塗料組成物の施工方法、及びその防汚塗料組成物が施工された構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚塗料用樹脂として有機錫含有共重合体を用いた防汚塗料組成物は、有機錫エステル部分が海水中で加水分解されることにより、塗膜が表面より徐々に海水中に溶解することから、長期間に渡って防汚効果を発揮すると共に、船舶等の航行時における燃費が低減できることから広く利用されてきた。しかし、有機錫含有共重合体は、海洋汚染の問題から日本では使用できなくなり、世界的にも使用が禁止されつつある。そこで、有機錫含有共重合体に代わる防汚塗料用樹脂として、ロジンと他の樹脂、たとえば、塩化ゴム、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−イソブチルビニルエーテル共重合体、アクリル樹脂などを併用したビヒクルが用いられてきた。しかし、これらの樹脂を用いた防汚塗料組成物ではロジンの使用量が少ないと、塗膜の海水に対する溶解性が低下するので防汚効果が持続しないという問題がある。また、ロジンを多く用いると塗膜の海水中への溶解性が向上し、防汚効果が多少持続するようになるが、防汚塗料組成物の塗膜の物性、接着性が低下し剥離、クラックが生じ易く、防汚性能以外の面で間題を生じる。そこで、防汚塗料組成物の塗膜物性に優れると共に、海水中で塗膜が適度に溶解して長期防汚を可能とする防汚塗料用樹脂の開発が望まれてきた。
【0003】
このような事態に対処すべく、海水中で有機錫含有共重合体と同様に加水分解するエステル部分を重合体側鎖に導入した防汚塗料用樹脂が各種検討されてきている。その中で、トリアルキルシリルエステル基含有共重合体を用いた防汚塗料組成物は、トリアルキルシリルエステル部分が海水中で加水分解され、塗膜が表面より徐々に海水中に溶解することから、有機錫含有共重合体に替わる防汚塗料用樹脂として注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1〜7には、トリアルキルシリルエステル基含有単量体を有する防汚塗料用共重合体又は該共重合体を用いた防汚塗料組成物に関する発明が開示されている。これら防汚塗料組成物は、塗膜溶解速度の安定性、長期間の防汚性等については、一定の要求性能を満たす。しかしながら、一定の色調の塗膜、特定の防汚剤を用いた塗膜においては、海中に没している間に塗膜が黄変するという課題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−248029号公報
【特許文献2】特開2000−248228号公報
【特許文献3】特開2000−265107号公報
【特許文献4】特開2001−81147号公報
【特許文献5】特開2001−226440号公報
【特許文献6】特開2002−53796号公報
【特許文献7】特開2002−53797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明は、塗膜の耐水性が高く、クラックや剥離が生じにくく、塗膜溶解速度が長期間一定であり、設計通りの防汚効果を長期間維持できるといった防汚塗料組成物として要求される性能を維持しつつ、さらに海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物を提供することができる共重合体組成物、及び該共重合体組成物を含有する防汚塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のトリアルキルシリルエステル基含有共重合体を含む共重合体組成物に、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを含有させることにより、上記課題を解決することができること見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記の態様に関する。
[態様1]
次の一般式(a);
【化1】

により表される基を有する単量体(A)を含む単量体混合物の共重合体、及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを含有する共重合体組成物。
【0009】
[態様2]
単量体(A)が、トリイソプロピルシリルアクリレート及び/又はトリイソプロピルシリルメタクリレートである、態様1記載の共重合体組成物。
[態様3]
上記単量体混合物が、次の一般式(b);
【化2】

{式(b)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は次の一般式(c);
【化3】

[式(c)中、nは1又は2である。]により示される基である}
により表される単量体(B)を含む、態様1又は2に記載の共重合体組成物。
【0010】
[態様4]
上記単量体混合物が、メチルメタクリレートを含む、態様1〜3のいずれか一項に記載の共重合体組成物。
[態様5]
上記2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの含有量が、上記共重合体の質量に対して、5〜1000ppmである、態様1〜4のいずれか一項に記載の共重合体組成物。
【0011】
[態様6]
態様1〜5のいずれか一項に記載の共重合体組成物及び防汚剤を含有する、海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物。
[態様7]
態様6に記載の防汚塗料組成物を被塗物に施工する施工方法。
[態様8]
態様6に記載の防汚塗料組成物が施工された構造物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、塗膜の耐水性が高く、クラックや剥離が生じにくく、塗膜溶解速度が長期間一定であり、設計通りの防汚効果を長期間維持できるといった防汚塗料組成物として要求される性能を維持しつつ、さらに海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物を得ることができる。特に亜酸化銅により呈色した赤褐色系又は淡彩色系の防汚塗料組成物において、得られる塗膜の海中での黄変を顕著に防止することができる防汚塗料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[共重合体組成物]
本発明の共重合体組成物は、次の一般式(a);
【化4】

により表される基を有する単量体(A)を含む単量体混合物の共重合体を含有する。
【0014】
単量体(A)としては、上記一般式(a)により表される基を有する(メタ)アクリレート、マレート、フマレート等が挙げられる。マレート、フマレートは、上記一般式(a)により表される基を分子内に1つ有していてもよく、又は2つ有していても良い。単量体(A)の具体例としては、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリイソプロピルシリルC1〜C6アルキルマレート、例えば、トリイソプロピルシリルメチルマレート、トリイソプロピルシリルアミルマレート、トリイソプロピルシリルC1〜C6アルキルフマレート、例えば、トリイソプロピルシリルメチルフマレート、トリイソプロピルシリルアミルフマレート、ビス(トリイソプロピルシリル)マレート、ビス(トリイソプロピルシリル)フマレート等が挙げられる。
【0015】
これら単量体(A)は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これら単量体(A)のうち、防汚効果を有しつつ、耐水性、耐クラック性等の諸性能を有する共重合体を製造しやすい点から、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートが好ましく、トリイソプロピルシリルメタクリレートが特に好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0016】
上記単量体混合物における単量体(A)の使用割合は、本発明の共重合体組成物を用いた塗料組成物の使用目的に応じて適宜設定できるが、一般には、上記単量体混合物における単量体(A)の使用割合は、上記単量体混合物に対して、好ましくは1〜95質量%であり、さらに好ましくは5〜90質量%であり、特に好ましくは15〜75質量%である。これら範囲の下限値は、塗膜溶解速度が長期間安定である点及び防汚効果を長期間維持できる点で意義がある。これら範囲の上限値は、塗膜の可とう性及び下地密着性の点で意義がある。
【0017】
上記単量体混合物は、次の一般式(b)
【化5】

{式(b)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は次の一般式(c);
【化6】

[式(c)中、nは1又は2である]により示される基である}
により表される単量体(B)をさらに含むことが塗膜溶解速度をより長期間一定としうる点から好ましい。
【0018】
上記一般式(b)により表される単量体(B)としては、具体的には、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。これら単量体(B)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これら単量体(B)のうち、塗膜に適度な硬さを付与する点及び塗膜に適度な親水性を付与し塗膜溶解速度の調節を容易とする点からメトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシエチルメタクリレートが特に好ましい。
【0019】
上記単量体混合物における単量体(B)の使用割合は、塗料組成物の使用目的に応じて適宜設定できるが、一般には、上記単量体混合物における単量体(B)の使用割合は、上記単量体混合物に対して、好ましくは1〜95質量%であり、さらに好ましくは5〜90質量%であり、特に好ましくは5〜60質量%である。これら範囲は、塗膜に適度な親水性を付与し塗膜溶解速度の調節を容易とする点で意義がある。
【0020】
上記単量体混合物は、単量体(A)、単量体(B)の他に、単量体(A)及び単量体(B)以外のビニル系単量体(C)を含むことができる。ビニル系単量体(C)としては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素原子数が1〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロトン酸エステル類、イタコン酸エステル類等が挙げられる。これらビニル系単量体(C)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらビニル系単量体(C)の中でも、塗膜に耐水性及び適度な硬さを付与する点から(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、メチルメタクリレートがさらに好ましく、メチルメタクリレート及びn−ブチルメタクリレートを併用することが特に好ましい。
【0021】
単量体(C)の使用割合は、塗料組成物の使用目的に応じて適宜設定できるが、一般には、単量体(C)の使用割合は、上記単量体混合物に対して、好ましくは1〜95質量%であり、さらに好ましくは5〜90質量%であり、特に好ましくは10〜50質量%である。これら範囲の下限値は、塗膜の物性を安定なものとする点で意義がある。これら範囲の上限値は、塗膜溶解速度の調節を容易とする点で意義がある。
【0022】
上記共重合体は、上記単量体混合物をビニル重合開始剤の存在下で、常法に準じて溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等の各種方法で重合させることにより得ることができる。この共重合体を塗料に用いる場合には、例えば、有機溶剤にて希釈した適当な粘度の重合体溶液としてもよく、そのためには、溶液重合法又は塊状重合法を採用することができる。
【0023】
上記ビニル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、トリフェニルメチルアゾベンゼン等のアゾ化合物、ベンゾイルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート等の過酸化物が挙げられる。
【0024】
また、上記有機溶剤としては、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
この共重合体を含む重合体溶液の粘度は、特に限定されるものではないが、固形分48〜52質量%において25℃でのガードナー粘度がC〜Zであることが塗料組成物の塗装作業性の点から好ましく、E〜Yであることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の共重合体組成物は、上記共重合体に加え、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを含有する。2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの含有量は特に限定されるものではないが、本発明の防汚塗料組成物から形成される塗膜の海中での黄変をより抑制できる点から、上記共重合体の質量に対して5〜1000ppmであることが好ましく、20〜900ppmであることがさらに好ましい。
なお本明細書において、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定される含有量である。当該ガスクロマトグラフィーは、下記の条件で測定される。
【0027】
装置:GC2010(製品名;(株)島津製作所社製)
カラム:ZB−5(内径0.25mm/全長30m/膜厚1μm、95%ジメチルシリコン−5%ジメチルフェニルシリコン−ガラスキャピラリーカラム、充填剤なし)
サンプル量:1マイクロリットル
ヘリウム流量:40cm/sec(線速度)
サンプル投入時温度(インジェクション温度):250℃
サンプル投入後、100℃で2分間保持し、昇温速度:5℃/minにて160℃まで昇温し、当該温度で11分間保持することにより測定する
検出器:FID(水素炎イオン化型検出器)
内部標準物質:ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテルアセテート
【0028】
本発明の共重合体組成物において、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを上記共重合体に配合する方法は、特に限定されるものではなく、配合方法としては、例えば、(i)上記共重合体の重合前に、上記単量体混合物を2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールと配合する方法、(ii)上記単量体混合物を重合して上記共重合体を得た後に上記共重合体を2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールと配合する方法、及び(iii)上記単量体混合物を2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールと配合して上記共重合体を得た後、さらに上記共重合体に2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを添加する方法を挙げることができる。
【0029】
なお本発明において、本発明の海中での耐黄変性に優れるという効果を得るためには、本発明の共重合体組成物が、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを含有することが必要である。
しかし、上記(i)及び(iii)の場合には、単量体混合物の重合時に2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの少なくとも一部又は全部が、ビニル重合開始剤、単量体又は共重合体等と反応しその化学構造が変化する。
【0030】
そのため、上記(i)の場合には、「本発明の共重合体組成物が2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを含有する」との要件を満たすためには、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを、単量体混合物に単に配合するだけでは十分ではなく、重合後に共重合体組成物中に有効量の2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールが残存するような量を、単量体混合物中に配合する必要がある。
【0031】
[防汚塗料組成物]
本発明の海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物は、上記共重合体組成物、並びに所望により防汚剤を含有する。
本発明の防汚塗料組成物における上記共重合体の使用量は、防汚塗料組成物の固形分中に5〜50質量%の範囲が好ましく、10〜30質量%の範囲が特に好ましい。上記共重合体の使用量が上記範囲の下限値未満では、塗膜が強靭ではなく且つ基材への密着性が不良であり剥離やクラックを起こしやすい。また、上記共重合体の使用量が上記範囲の上限値を超えると、防汚効果や耐侯性が好ましくなくなる。
【0032】
上記防汚剤としては、従来公知のものを用いることができる。上記防汚剤としては、無機化合物、金属を含む有機化合物及び金属を含まない有機化合物が挙げられる。
無機化合物としては、例えば、亜酸化銅、銅粉、チオシアン酸銅、炭酸銅、塩化銅、硫酸銅等の銅化合物、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸ニッケル、銅−ニッケル合金等が挙げられる。
【0033】
金属を含む有機化合物としては、例えば、有機銅系化合物、有機ニッケル系化合物及び有機亜鉛系化合物等があり、その他マンネブ、マンセブ、プロピネブ等も用いることができる。有機銅系化合物としては、オキシン銅、銅ピリチオン、ノニルフエノールスルホン酸銅、カッパービス(エチレンジアミン)−ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)、酢酸銅、ナフテン酸銅、ビス(ペンタクロロフエノール酸)銅等が挙げられる。有機ニッケル系化合物としては、酢酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケル等が挙げられる。有機亜鉛系化合物としては、酢酸亜鉛、カルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジンクピリチオン、エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。
【0034】
金属を含まない有機化合物としては、例えば、N−トリハロメチルチオフタルイミド、ジチオカルバミン酸、N−アリールマレイミド、3−置換化アミノ−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン、ジチオシアノ系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。
【0035】
N−トリハロメチルチオフタルイミドとしては、N−トリクロロメチルチオフタルイミド、N−フルオロジクロロメチルチオフタルイミド等が挙げられる。ジチオカルバミン酸としては、ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、N−メチルジチオカルバミン酸アンモニウム、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)アンモニウム、ミルネブ等が挙げられる。
【0036】
N−アリールマレイミドとしては、N−(2,4,6−トリクロロフェニル)マレイミド、N−4−トリルマレイミド、N−3−クロロフェニルマレイミド、N−(4−n−ブチルフェニル)マレイミド、N−(アニリノフェニル)マレイミド、N−(2,3−キシリル)マレイミド等が挙げられる。
【0037】
3−置換化アミノ−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオンとしては、3−ベンジリデンアミノ−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン、3−(4−メチルベンジリデンアミノ)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン、3−(2−ヒドロキシベンジリデンアミノ)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン、3−(4−ジメチルアミノベンジリデンアミノ)−1,3−チアゾリン−2,4−ジオン、3−(2,4−ジクロロベンジリデンアミノ)−1,3−チアゾリジン−2,4−ジオン等が挙げられる。
【0038】
ジチオシアノ系化合物としては、ジチオシアノメタン、ジチオシアノエタン、2,5−ジチオシアノチオフエン等が挙げられる。
トリアジン系化合物としては、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン等が挙げられる。
【0039】
その他の金属を含まない有機化合物としては、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、4,5−ジクロロ−2−N−オクチル−3−(2H)イソチアゾロン、N,N−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、3−ヨード−2−プロピニルブチルカルバメート、2−(メトキシカルボニルアミノ)ベンズイミダゾール、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、ジヨードメチルパラトリルスルホン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、フェニル(ビスピリジン)ビスマスジクロライド、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、トリフェニルボロンピリジン等が挙げられる。
【0040】
上記防汚剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記防汚剤のうち、安定した防汚性能を発揮する観点から亜酸化銅を用いることが好ましく、亜酸化銅を及び銅ピリチオンを併用することがさらに好ましい。
【0041】
上記のごとく、防汚剤としては亜酸化銅を用いることが安定した防汚性能を発揮する点から好ましい。しかしながら、亜酸化銅を用いた場合、防汚塗料組成物から形成される塗膜の色は、海中の没水後の初期は亜酸化銅が有する赤褐色であるが、海中に没している間に塗膜表面の極めて薄い表面層の亜酸化銅が化学変化を起して赤褐色が消色し、塗膜表面は淡色又は白色となる。この場合に、従来のトリアルキルシリルエステル基含有単量体を有する防汚塗料組成物は、塗膜が黄変するが、本発明の共重合体組成物を含有する防汚塗料組成物であれば、亜酸化銅を含有することによる高度の防汚性を維持しつつ、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを含有することによる効果により、海中での耐黄変性に優れる。
【0042】
防汚剤の使用量としては、特に限定されるものではないが、防汚塗料組成物の固形分中に、防汚剤の使用割合が0.1〜80質量%、好ましくは1〜60質量%、されに好ましくは5〜60質量%である。これら範囲の下限値は、防汚効果の点で意義がある。これら範囲の上限値は、塗膜のクラック、剥離等の欠陥を防止する点で意義がある。
【0043】
本発明の防汚塗料組成物は、ロジン系化合物を含有することができる。ロジン系化合物としては、ロジン、ロジン誘導体又はロジン金属塩がある。例えば、ロジンとしてはトールロジン、ガムロジン、ウッドロジン等が挙げられる。ロジン誘導体としては、水添ロジン、ロジンと無水マレイン酸を反応させたマレイン化ロジン、ホルミル化ロジン、重合ロジン等が挙げられる。ロジン金属塩としては、ジンクロジネート、カルシウムロジネート、カツパーロジネート、マグネシウムロジネート、その他金属化合物とロジンとの反応物等が挙げられる。これらロジン系化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
ロジン系化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、上記共重合体に対して質量比で、共重合体/ロジン系化合物=25/75〜95/5が好ましく、30/70〜85/15がさらに好ましい。これら範囲のロジン系化合物の使用量の下限値は、防汚効果、特に艤装期間対応海洋生物付着防止効果に優れる点で意義がある。また、これら範囲のロジン系化合物の使用量の上限値は、塗膜形成能を保持し塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じさせず、効果的な防汚効果を得る点で意義がある。
【0045】
本発明の防汚塗料組成物には、さらに顔料、可塑剤、その他の添加物等を用いることができる。
上記顔料としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンガラ、タルク、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
上記可塑剤、その他の添加物としては、特に限定されるものではないが、例えば、トリクレジルフォスフェート、ジオクチルフタレート、塩素化パラフィン、流動パラフィン、ポリブテン等の可塑剤、ベントナイト、酸化ポリエチレン、各種のアミド化合物等の揺変剤、染料、消泡剤、水結合剤、有機溶剤等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
本発明の防汚塗料組成物は、特に淡彩色系又は亜酸化銅により呈色した赤褐色系の防汚塗料組成物とした場合において、得られる塗膜の海中での黄変を顕著に防止することができる。
【0048】
[施工方法及び構造物]
本発明の施工方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法により行うことができる。被塗物としては、船舶の船底に限らず、海中構築物、発電所導水管、養殖用又は定置用の漁網もしくはこれらに用いられる浮き子、ロープ等の漁網付属具等の海中物品類等が挙げられる。これら被塗物の表面に、常法に従って上記防汚塗料組成物を1回〜複数回塗布すればよい。
【0049】
本発明の防汚塗料組成物は、船舶等の素材が、FRP、鋼鉄、木、アルミニウム合金等である場合にもこれらの素材表面に良好に付着し、防汚塗膜を形成できる。また、素材表面にプライマー、防食塗料、及び必要に応じてバインダー塗料を塗装した表面に、本発明の防汚塗料組成物を塗布してもよい。また、本発明の防汚塗料組成物は、既存の防汚塗膜表面に重ね塗りしてもよい。
【0050】
上記被塗物に上記施工方法を行うことにより、塗膜の耐水性がよく、クラックや剥離が生じず、塗膜溶解速度が長期間安定であり、設計通りの防汚効果を長期間維持しつつ、さらに海中での耐黄変性に優れる防汚塗膜被覆船舶又は水中構造物等の構造物が得られる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「質量部」及び「質量%」を示す。
【0052】
<実施例1>
攪拌機付きのフラスコに、表1の配合組成に準じて溶剤aとしてキシレンを40質量部仕込み、反応温度である140℃に昇温させた。そこへ、各単量体、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、及び重合触媒aとしてパーブチルIを表1の配合組成に準じて混合した混合液を3時間で滴下した。次いで、滴下終了後同温度で30分間保持した。次いで、重合触媒bとしてパーブチルI 1質量部と溶剤bとしてキシレン10質量部との混合物を20分間で滴下し、さらに同温度で2時間攪拌を続けて重合反応を終了させた。その後、希釈溶剤としてキシレン47質量部を加えて希釈した後、室温に冷却し共重合体を得た。さらに、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを単量体混合物の質量に対して800ppm添加して均一に混合した後、共重合体組成物S1を得た。
【0053】
共重合体組成物S1の固形分は51質量%、25℃におけるガードナー粘度はKであった。また、共重合体組成物S1における2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの含有量を、ガスクロマトグラフィーを用いた内部標準法にて求めたところ、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの含有量は共重合体の質量に対して820ppmであった。
【0054】
<実施例2〜12、比較例1〜5>
表1に示す各実施例、各比較例の配合組成、反応温度とした以外は、実施例1と同様にして、共重合体組成物S2〜S12、T1〜T5を得た。各共重合体組成物の固形分、25℃におけるガードナー粘度、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの含有量を表1に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
(注1)単位は質量部(ただし、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの単位は、注4参照)
(注2)TISAM:トリイソプロピルシリルイソアミルマレート
(注3)VeoVa9:商品名、Hexion社製、炭素数9のカルボン酸からなるバーサチック酸のビニルエステル
(注4)単位は、単量体混合物の質量に対するppmである
【0058】
(注5)パーブチルO:商品名、日油社製、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサネート
(注6)パーブチルI:商品名、日油社製、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート
(注7)共重合体を室温に冷却した後に添加。単位は単量体混合物の質量に対するppmである
(注8)単位は、共重合体の質量に対するppmである
【0059】
<実施例13〜32>
各共重合体組成物S1〜S12を用いて、表2に示す配合組成(表中の数値は質量部)により、各成分を混合し、2,000rpmのホモミキサーで混合分散して、各種の防汚塗料組成物を調製した。調製した防汚塗料組成物を、耐黄変性試験、防汚性能試験、耐クラック性、耐剥離性、耐水性試験及び塗膜消耗試験に供した。試験結果を表4〜表10に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
(注9)プリベントールA5S:商品名、バイエル社製、N−ジクロロフルオロメチルチオ−N’,N’−ジメチル−N−p−トリルスルファミド(一般名:トリフルアニド)
(注10)ディスパロンA630−20XN:商品名、楠本化成社製、脂肪酸アマイドワックス
(注11)アエロジル200:商品名、日本アエロジル社製、二酸化ケイ素粉末
(注12)ソルベッソ100:商品名、エクソン化学社製、高沸点芳香族石油ナフサ
【0063】
<比較例6〜14>
各共重合体組成物T1〜T5を用いて、表3に示す配合組成(表中の数値は質量部)により、各成分を混合し、2,000rpmのホモミキサーで混合分散して、各種の防汚塗料組成物を調製した。調製した防汚塗料組成物を、耐黄変性試験、防汚性能試験、耐クラック性、耐剥離性、耐水性試験及び塗膜消耗試験に供した。試験結果を表4〜表10に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
<耐黄変性試験>
サンドブラスト処理鋼板に予めノンタールビニル系防錆塗料を塗布して調製した塗装板(直径500mm×高さ240mmの円筒形ドラムに装着可能な様に湾曲性を持たせた120mm×120mm×1mmの塗装板)の片面に、各防汚塗料組成物を、乾燥膜厚が240μmとなるようにスプレー塗装により2回塗装して、温度20℃、湿度75%の恒温恒湿室にて1週間乾燥させ、試験片を作製した。その試験片を直径500mm×高さ240mmの円筒形ドラムに装着し、該円筒形ドラムを兵庫県由良湾の海面下500mmにて16ノットで24ヶ月間回転させ試験を行った。一定期間経過後の試験片の塗膜表面の黄変の度合いについて目視評価を行った。目視評価は、塗膜の表層の一部をカッターナイフで削り、削った部分に対する削っていない部分(塗膜表面)の黄変の度合いを下記基準にて目視評価することにより行った。
【0066】
◎:(合格)黄変が観察されなかった
○:(合格)僅かに黄変が観察された
△:(不合格)明確な黄変が観察された
×:(不合格)激しい黄変が観察された
【0067】
<防汚性能試験>
サンドブラスト処理鋼板に予めタールビニル系防錆塗料を塗布して調製した塗装板(100mm×200mm×1mm)の両面に、各防汚塗料組成物を、乾燥膜厚が片面240μmとなるようにスプレー塗装により2回塗装して、温度20℃、湿度75%の恒温恒湿室にて1週間乾燥させ、試験片を作製した。この試験片を三重県尾鷲湾で48ヶ月間海水に浸漬させ、試験塗膜上の付着生物の占有面積(付着面積)の割合を経時的に測定した。
【0068】
<耐クラック性試験>
上記耐黄変性試験に供した試験板にて、塗膜表面でのクラックの有無を確認した。
◎:(合格)クラックが観察されなかった
○:(合格)微細なクラックが観察された
△:(不合格)明確なクラックが観察された
×:(不合格)下地に至るクラックが観察された
【0069】
<耐剥離性試験>
上記耐黄変性試験に供した試験板にて、塗膜の剥離の有無を確認した。
◎:(合格)剥離が観察されなかった
○:(合格)表面に僅かな剥離が観察された
△:(不合格)明確な剥離が観察された
×:(不合格)下地に至る剥離が観察された
【0070】
<耐水性試験>
上記耐黄変性試験に供した試験板にて、塗膜のフクレの有無を確認した。
◎:(合格)フクレが観察されなかった
○:(合格)僅かにフクレが観察された
△:(不合格)明確なフクレが部分的に観察された
×:(不合格)明確なフクレが全面に観察された
【0071】
<塗膜消耗試験>
サンドブラスト処理鋼板に予めタールビニル系防錆塗料を塗布してなる塗装板(100mm×200mm×1mm)の両面に、各防汚塗料組成物を、1回の乾燥膜厚が片面250μmとなるようにスプレーにより2回塗装して、温度20℃、湿度75%の恒温恒湿室にて1週間乾燥させ、試験片を作製した。この試験片を直径50cmの円筒形ドラムの外面に固定したのち、兵庫県洲本市由良湾の海面下1mに浸漬して、ドラムの周速が16ノットとなるようにモーターで回転させ、消耗した塗膜厚を3〜6ケ月ごとに24ケ月間測定した。その初期から24ケ月までの塗膜厚消耗平均速度が初期から6ケ月までの塗膜厚消耗平均速度に対して、±1(μm/月)の範囲内であれば、一定速度で塗膜が消耗していることを示している。
【0072】
【表6】

【0073】
【表7】

【0074】
【表8】

【0075】
【表9】

【0076】
【表10】

【0077】
【表11】

【0078】
【表12】

【0079】
【表13】

【0080】
【表14】

【0081】
【表15】

【0082】
【表16】

【0083】
【表17】

【0084】
【表18】

【0085】
【表19】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、塗膜の耐水性が高く、クラックや剥離が生じにくく、塗膜溶解速度が長期間一定であり、設計通りの防汚効果を長期間維持できるといった防汚塗料組成物として要求される性能を維持しつつ、さらに海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物を得ることができるので産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(a);
【化1】

により表される基を有する単量体(A)を含む単量体混合物の共重合体、及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを含有する共重合体組成物。
【請求項2】
単量体(A)が、トリイソプロピルシリルアクリレート及び/又はトリイソプロピルシリルメタクリレートである、請求項1記載の共重合体組成物。
【請求項3】
前記単量体混合物が、次の一般式(b);
【化2】

{式(b)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は次の一般式(c);
【化3】

[式(c)中、nは1又は2である。]により示される基である}
により表される単量体(B)を含む、請求項1又は2記載の共重合体組成物。
【請求項4】
前記単量体混合物が、メチルメタクリレートを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の共重合体組成物。
【請求項5】
前記2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの含有量が、前記共重合体の質量に対して、5〜1000ppmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の共重合体組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の共重合体組成物及び防汚剤を含有する、海中での耐黄変性に優れる防汚塗料組成物。
【請求項7】
請求項6記載の防汚塗料組成物を被塗物に塗装する施工方法。
【請求項8】
請求項6記載の防汚塗料組成物が施工された構造物。

【公開番号】特開2010−84099(P2010−84099A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257582(P2008−257582)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(501481724)NKMコーティングス株式会社 (7)
【Fターム(参考)】