説明

内圧クリープ試験片へのタグガス封入装置

【課題】 タグガスと内圧負荷ガスを均一な混合ガスにし、それらの混合割合を正確に把握でき、高温時の内部応力を正確に算出できるようにする。タグガスの無駄を非常に少なくでき、内圧クリープ試験片の製作コストを低減する。
【解決手段】 内圧クリープ試験片24を封入容器10,12内に設置し、タグガスと内圧負荷ガスを封入容器内に導いて内圧クリープ試験片内に充填し、レーザ溶接により内圧クリープ試験片のガス封入孔を封止する。ここで封入容器の前段に、攪拌機能を備えた内容積可変型の混合器14を設置し、タグガスと内圧負荷ガスを別々に混合器に導き、混合室に圧入するプランジャにより高圧混合ガスを封入容器に圧送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内圧クリープ試験片内へタグガスと内圧負荷ガスを封入する装置に関し、更に詳しく述べると、高価なタグガスを無駄なく使用でき、タグガスと内圧負荷ガスが均一に混合した状態で充填されるように工夫した内圧クリープ試験片へのタグガス封入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速実験炉「常陽」では、燃料被覆管の実環境下における高温強度特性を評価するために、内圧クリープ試験が行われている。この試験では、室内温度で所定の内圧となるように高圧ガスを封入した円筒状の内圧クリープ試験片(燃料被覆管材料)を照射キャプセル内に収納し、それを原子炉に装荷する。原子炉温度の上昇に伴い内圧クリープ試験片の内圧は上昇し、内圧は運転期間中一定に保持される。その結果、内圧クリープ試験片は次第に膨らみ、やがて破断に至る。高温強度特性の評価では、内圧と試験片破断時間の関係を得る必要がある。
【0003】
原子炉内での内圧クリープ試験においては、内圧クリープ試験片の内圧負荷ガスに、通常、ヘリウム(He)ガスを用いており、原子炉内での内圧クリープ試験片の破断は、照射キャプセルに付属した温度センサ(特許文献1)やボイド計(特許文献2)により検知している。しかし、原子炉運転中に複数の内圧クリープ試験片が破断した場合には、そのままでは破断試験片の判別ができない。そこで、高速実験炉「常陽」では、タグガス分析装置を導入し、内圧クリープ試験片の破断の際に放出されるガスを分析することによって破断試験片を同定できるシステムが導入されている。
【0004】
なお、「タグガス」とは、キセノンガスやクリプトンガスの天然の同位体を任意の同位体組成比に調整した特殊なガスのことである。このタグガスは、現時点において国内では入手できず、製造の困難さから非常に高価なものとなっている。
【0005】
内圧クリープ試験片へ高圧ガスを封入するには、高圧ガス保安法に基づき設計・製作した高圧ガス機器配管システムを使用し、封入容器内に内圧クリープ試験片を設置して、封入容器内部を高圧ガス雰囲気とし、内圧クリープ試験片のガス封入孔をYAGレーザ溶接機にて塞ぐことで、内圧クリープ試験片内部を高圧ガス雰囲気とする。タグガスを封入するには、封入容器に内圧クリープ試験片を設置して封入容器内にタグガスを導入する。タグガスのみで封入容器内を最大20MPaに加圧すると無駄なタグガスが多くなるため、通常、内圧クリープ試験片には破断の検知に必要な量のみとして約5×10-63 のタグガスを入れ、残りをHeガスで加圧する。
【0006】
しかし、従来技術では、
(1)封入容器に先ず必要な量のタグガスを入れ、次にHeガスで加圧し、所定の内圧にして内圧クリープ試験片のガス封入孔を溶封すると、ガスの圧縮性の違いから内圧クリープ試験片内部にはタグガスが優先的に入り、均一な混合ガスにならない。
(2)タグガスとHeガスでは熱膨張係数が異なるため、高温時の内部応力を算出するには、内圧クリープ試験片に封入するタグガスとHeガスの割合を正確に把握する必要があるが、それができない。
(3)高圧ガス用の封入容器や連結配管などに余分な空間が多く存在し、その余分な空間がガス溜まりとなるため、タグガスを無駄に消費することになり、その結果、内圧クリープ試験片製作コストが上昇する。
などの技術的課題が生じた。
【特許文献1】特開2003−1215892号公報
【特許文献2】特開平9−145981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来技術では、タグガスとHeガス等とを均一な混合ガスとして内圧クリープ試験片へ封入できない点、そのためタグガスとHeガス等の割合を正確に把握できない点、ガス溜まりが多くできてタグガスが無駄になる点、などである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内圧クリープ試験片を封入容器内に設置し、タグガスと内圧負荷ガスを該封入容器内に導いて内圧クリープ試験片内に充填し、レーザ溶接により内圧クリープ試験片のガス封入孔を封止する装置において、前記封入容器の前段に、攪拌機能を備えた内容積可変型の混合器を設置し、タグガスと内圧負荷ガスを別々に混合器の混合室に導き、該混合室に圧入するプランジャにより高圧混合ガスが封入容器に圧送されるようにしたことを特徴とする内圧クリープ試験片へのタグガス封入装置である。ここで、内圧負荷ガスとしては、ヘリウムガスやアルゴンガスなどを用いる。
【0009】
本発明では、内圧クリープ試験片が嵌入し且つ封入容器内に嵌入する試験片固定用ホルダを使用し、該試験片固定用ホルダには外周面に軸方向及び円周方向のスリットが形成され、封入容器と内圧クリープ試験片との間のガス空間を最小化するのが好ましい。また高圧ガス弁を封入容器と混合器に直接組み込んで、バルブ内蔵型封入容器及びバルブ内蔵型混合器とする構成が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の内圧クリープ試験片へのタグガス封入装置は、封入容器の前段に、攪拌機能を備えた内容積可変型の混合器を設置し、タグガスと内圧負荷ガスを別々に混合器の混合室に導き、該混合室に圧入するプランジャにより高圧混合ガスを封入容器に圧送するように構成されているので、タグガスと内圧負荷ガスが均一な混合ガスになり、それらの混合割合を正確に把握でき、高温時の内部応力を正確に算出できる。
【0011】
また本発明の内圧クリープ試験片へのタグガス封入装置は、高圧ガス弁を封入容器と混合器に直接組み込んで、バルブ内蔵型封入容器及びバルブ内蔵型混合器とし、更に内圧クリープ試験片が嵌入し且つ封入容器内に嵌入する試験片固定用ホルダを使用し、ガス流路は試験片固定用ホルダの外周面に設けた軸方向及び円周方向のスリットで形成しているため、封入容器と内圧クリープ試験片との間のガス空間を最小化することができ、それらによってタグガスが無駄になることが非常に少なくなり、内圧クリープ試験片の製作コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明に係るタグガス封入装置の全体構成を示す説明図である。これは、原子炉内に装荷する内圧クリープ試験片に、タグガス(ここではXe,Krガス)と内圧負荷ガス(ここではHeガス)を混合して最大20MPaの圧力範囲内の任意の圧力で封入する装置である。本装置は、主として、互いに連通する2基の封入容器10,12、その前段に位置する混合器14、Heガス源16、加圧器18、タグガス容器20、真空ポンプ22、及びそれらを接続する配管や各種の弁などから構成される。これらの装置は、高圧ガス保安法の第1種高圧ガス製造設備に該当し、その基準を全て満たすように設計・製作される。封入容器10,12は、その内部に内圧クリープ試験片24を収納可能で、且つ窓部にサファイアガラス26を装着した構造であり、X−Yステージ28に搭載したYAGレーザ溶接機30により、前記サファイアガラス越しに内圧クリープ試験片24のガス封入孔を溶封できるように構成されている。なお、図1では一方の封入容器12のみにYAGレーザ溶接機30が付設されているように描いているが、両方にそれぞれ設けてもよいし、1台で共用するようにしてもよい。
【0013】
混合器14の一例を図2に示す。この混合器は、内容積可変型であり且つ攪拌機能を備えた構造である。高圧ガス弁32を介してタグガス及びHeガスを導入する混合室34、圧縮空気によって往復駆動されるエアシリンダ36、該エアシリンダ36によって混合室34内で進退するプランジャ38、電磁スターラ(混合室内に収容されている回転子40と混合室外に位置する電磁スターラ本体42の組み合わせ)などからなる。前述したように、タグガスは高価なガスであり、そのため損失を可能な限り減らす必要がある。内圧クリープ試験片の封入本数(即ち封入容積)に合わせてタグガスとHeガスの混合ガスを無駄なく作るために、混合器14を内容積可変型としている。つまり、混合器14のプランジャ位置を試験片容積に合わせ、そこに〔必要タグガス量/試験片容積〕で求めた圧力のタグガスを導入する。次に、混合器圧力が〔所定の内圧〕に達するように、Heガスを加圧しながら導入する。ここで、タグガスとHeガスは、圧縮性の違いから2層に分かれるが、電磁スターラによる回転子40の攪拌機能によって均一な混合ガスにしている。混合室内で均一に混合したガスは、圧縮空気によってプランジャ38を押し下げることで押し出され、封入容器10,12内に導入される。ここではプランジャ38のピストン機能により、混合室34内に残るガス量を極力少なくしている。
【0014】
次に、封入容器の詳細と内圧クリープ試験片の装着状態を図3に示す。前記のように、封入容器10,12は、内部に内圧クリープ試験片24が収納可能で、且つ窓部にサファイアガラス26を装着した構造であり、2基とも同じ構造であってよい。封入容器10,12の内部に丁度嵌入する試験片固定用ホルダ44を使用し、該試験片固定用ホルダ44内に内圧クリープ試験片24が丁度嵌入するように構成する。試験片固定用ホルダ44には、その外周面に軸方向及び円周方向のスリット46を形成し、そのスリットをガス流路として使用する。このようにすることで、封入容器10,12と内圧クリープ試験片24との間を試験片固定用ホルダ44で埋めガス空間を最小化している。このような構造は、内圧クリープ試験片の外形が変わっても、それに対応した試験片固定用ホルダを作り直すだけで封入装置をそのまま使用できる利点もある。
【0015】
内圧クリープ試験片24を試験片固定用ホルダ44に装着し、それを封入容器10,12に収納する。ここでは試験片固定用ホルダ44に最大3本の内圧クリープ試験片24を装着可能としてある。また前記のように、封入容器10,12は2基装備されている。これによって、同一封入条件での試験片封入を最大6個まで可能としている。このことは、内圧クリープ試験片取り出しのための封入容器蓋の開放回数が減ることを意味し、蓋の開放による封入容器内の残タグガスの放出量の削減が可能となる。
【0016】
タグガスの封入に先立ち、封入容器10,12の内部を真空排気する。その後、混合ガスは、封入容器10,12の混合ガス導入口48から導かれ、試験片固定用ホルダ側面のスリット46を通じて内圧クリープ試験片24のガス封入孔50から内圧クリープ試験片内に入る。このとき、混合ガスの損失を少なくするために、前記のように試験片固定用ホルダ44を用いることで封入容器内の空隙を可能な限り少なくしているのである。また、封入時のガス温度測定のために、熱電対温度センサ52を備えている。封入容器10,12では、高圧ガス雰囲気下にある内圧クリープ試験片24のガス封入孔50を、X−Yステージ28で位置決めしたレーザ溶接機30により、サファイアガラス26を通して高出力レーザ光を照射することで溶封する。
【0017】
ここで、内圧クリープ試験片24は、基本的に従来品と同じ構造でよい。その一例を図4に示す。筒状体54の両端部に、上部端栓56と下部端栓58を溶接で接合した構造とする。上部端栓56の中心にはガス封入孔50が形成されており、高出力のレーザ光の照射を受けて、溶封される。
【0018】
なお、本発明では、容器などの連結配管系統でのガス損失を最少にするような工夫が施されている。従来技術では、市販品の高圧ガス弁を高圧ガス配管の途中に組み込んでいるが、そのような構成では、長い配管内もタグガスのデッドスペースになり、損失になる。本発明では、図2あるいは図3からも分かるように、混合器14や封入容器10,12の本体ブロックを高圧ガス弁32のボディとして利用している。即ち、高圧ガス弁32を混合器14や封入容器10,12に内蔵させている。これによって配管長の短縮が可能となる。また、タグガスが通じる配管は、全て外径約0.16cm(1/16インチ)の細径配管を使用している。これらによって、タグガスの損失を最小限に抑えている。
【実施例】
【0019】
本発明に係るタグガス封入装置を用いて、内圧クリープ試験片にXeガスとHeガスを高圧で封入した時の混合の効果をもとめた。その結果を、表1及び図5に示す。ここで、Xeガスはタグガスを想定したものである。
【0020】
【表1】

【0021】
混合器無しの状態で封入した内圧クリープ試験片にはXeガスが優先的に封入されていることが分かる。それに対して混合器を有する場合(本発明装置)、内圧クリープ試験片にはほぼ目標通りの割合でXeガスとHeガスが封入されており、攪拌による均一化の効果は明瞭である。均一化を図った2種類のガスを分析すると、目標とするタグガス割合に対して10%以内の精度での封入が可能であることが確認できた。原子炉内での内圧クリープ試験では、高温での熱膨張による内部応力を正確に評価するためには、封入時のHeガスとタグガスの封入量を正確に制御する必要があるが、本発明装置はそれが可能になっている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るタグガス封入装置の全体構成を示す説明図。
【図2】混合器の一例を示す説明図。
【図3】封入容器の詳細と内圧クリープ試験片の装着状態を示す説明図。
【図4】内圧クリープ試験片の一例を示す説明図。
【図5】Xe濃度の目標値と実測値の関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0023】
10,12 封入容器
14 混合器
16 Heガス源
20 タグガス容器
24 内圧クリープ試験片
26 サファイアガラス
30 レーザ溶接機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内圧クリープ試験片を封入容器内に設置し、タグガスと内圧負荷ガスを該封入容器内に導いて内圧クリープ試験片内に充填し、レーザ溶接により内圧クリープ試験片のガス封入孔を封止する装置において、前記封入容器の前段に、攪拌機能を備えた内容積可変型の混合器を設置し、タグガスと内圧負荷ガスを別々に混合器の混合室に導き、該混合室に圧入するプランジャにより高圧混合ガスが封入容器に圧送されるようにしたことを特徴とする内圧クリープ試験片へのタグガス封入装置。
【請求項2】
内圧クリープ試験片が嵌入し且つ封入容器内に嵌入する試験片固定用ホルダを使用し、該試験片固定用ホルダには外周面に軸方向及び円周方向のスリットが形成され、封入容器と内圧クリープ試験片との間のガス空間を最小化した請求項1記載の内圧クリープ試験片へのタグガス封入装置。
【請求項3】
高圧ガス弁を、封入容器と混合器に直接組み込んで、バルブ内蔵型封入容器及びバルブ内蔵型混合器とした請求項1又は2記載の内圧クリープ試験片へのタグガス封入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−10355(P2006−10355A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184212(P2004−184212)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000224754)核燃料サイクル開発機構 (51)
【出願人】(597150005)高圧システム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】