説明

内容物付着防止蓋材およびその製造方法

【課題】主としてヨーグルト包装用の容器に適用される蓋材であって、ヒートシール性、密封性を良好に維持しながら、蓋の裏面に内容物であるヨーグルトが付着するのを効果的に防止しうるものとする。
【解決手段】基材層1に積層された熱封緘層5の外面に別途付着防止層6を形成する。該付着防止層6はエチレン−不飽和エステル共重合体等からなる熱可塑性樹脂バインダーと疎水性湿式シリカ微粒子との混合組成物で構成したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として食品類の包装用容器に適用されるヒートシール蓋材、更に具体的には、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ジャム、カフェラッテ等の包装用のカップ状容器に適用される内容物付着防止性を備えた蓋材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の熱封緘用の蓋材は、例えば、基材フィルムとアルミニウム箔との積層からなる基材層のアルミ箔面側に、中間樹脂層を介してヒートシール層、即ち熱封緘層を設けたものとなされ、ヨーグルト等の被包装物を充填したカップ状の容器本体の上面開口に被せて、周縁部を容器本体の上縁フランジ部上に熱融着することによって密封包装物を形成するものとなされている。
【0003】
従って、かかる蓋材においては、良好なヒートシール性、密封性と、開封時のための適当な易剥離性が求められるのと同時に、内容物の非付着性、即ち容器の内面側の蓋材裏面に内容物が付着するのを防止しうるものであることが望まれる。蓋材の裏面に内容物が付着すると、開封時に手指や衣服、あるいは周辺を汚すおそれがあると共に、内容物の棄損による無駄を生じ、あるいは付着物を剥がし取る手間がかかり、更には不潔感を催す等の不利益を生じるためである。
【0004】
そこで、従来、内容物付着防止性能を備えた蓋材について、下記特許文献1〜6に示されるような種々の提案がなされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−37310号公報
【特許文献2】特開2007−153385号公報
【特許文献3】特開2008−100736号公報
【特許文献4】特開2009−73523号公報
【特許文献5】特開2009−241943号公報
【特許文献6】特許第4348401号公報
【0006】
上記特許文献1〜3に示す先行技術は、基材の片面の熱封緘層に、付着防止効果を有する非イオン界面活性剤又は疎水性添加物、あるいはワックス等を添加するものであり、熱封緘層そのものに付着防止性能を付与しようとしているものであるが、いずれも未だ所期する内容物付着防止効果の点で不満足なものでしかなかった。
【0007】
また、特許文献4〜5の先行技術は、熱封緘層の外面(容器側の面)に、別途内容物付着防止層を付加形成するというものであり、該付着防止層をワックスと、その中に分散された固体微粒子充填剤との組成物で構成するものである。これらの先行技術は、前記特許文献1〜3の先行技術に比べて内容物付着防止効果は一段と改善されるが、それでも未だ十分とはいえないのに加えて、ワックス中に充填剤を分散させているものであるため、熱封緘層のヒートシール性に悪影響を及ぼして密封性が不安定なものになりやすい懸念があった。
【0008】
更に、特許文献6に示される先行技術は、熱封緘層の外面に、極めて微細な疎水性シリカ等の酸化物微粒子による三次元網目状構造の多孔質層を形成するというものである。
【0009】
この先行提案技術では、上記多孔質層のもつ超撥水レベルの極めて優れた撥水性により、内容物付着防止効果の点では非常に優れた効果を奏するものの、極めて微細な疎水性シリカ等の酸化物微粒子による三次元網目状構造の多孔質層のそれ自体が組織的に脆い上に、隣接する下地側の熱封緘層との密着力にも劣るため、多孔質層の部分剥離や脱落を生じ易く、包装内容物への異物混入のおそれを生じ衛生上も好ましいものではなかった。
【0010】
加えて、酸化物微粒子からなる上記多孔質層がヒートシール部において夾雑物となるため、上記酸化物微粒子の塗布ムラにも起因して、シール部の全周に亘って安定した均一な封止密着強度、耐剥離強度を得難く、蓋材のスムーズな易開封性が阻害されるおそれがあった。
【0011】
上記のような問題点に対し、本発明者らは、先の出願(特願2010−052794号)において、超微細な一次粒子の融着凝集粒子からなる乾式シリカに代表される疎水性無機微粒子を熱可塑性樹脂バインダーとの混合物として用い、この混合組成物をもって熱封緘層上に付着防止層を塗工形成することにより、バインダー樹脂によって無機微粒子相互間の結合力を高め、かつ熱封緘層との密着力も向上するという改善技術を提案したところである。
【0012】
この先行提案技術は、所期目的の達成のためには十分な有効性を有するものであった。
【0013】
しかしながら一方で、当該先行提案技術に則って行う蓋材の実生産の場面において、無機微粒子の均一な拡散を得るために必須の撹拌を伴う前記混合組成物による分散コート液の調製、その均一な塗布、塗布後の乾燥等の各工程において相当厳密な条件管理を必要とし、僅かな工程管理条件の逸脱によっても付着防止層に所期する付着防止性能が得られなくなってしまうおそれがあるという難点があることが判明してきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のような問題点について更なる改善をはかること、具体的には、安定した良好なヒートシール性能を維持しつつ、内容物付着防止性能に優れ、しかも該付着防止効果を発現する疎水性微粒子の熱封緘層との密着性、蓋材と容器との密着性を高めて上記内容物付着防止効果の安定持続性を向上しうる新たな改善技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の目的を達成するべく発明者らにおいて種々実験と研究を重ねていたところ、偶然ともいうべき発見により、湿式製法で作られた多孔質でかつ比較的粒子径の大きい湿式シリカ粒子であって、表面に疎水性を付与した疎水性湿式シリカ粒子を用いることにより、熱可塑性樹脂バインダーとの併用によっても前記のような付着防止性能の不本意な低下のリスクを顕著に軽減ないし改善しうることを見出すに至り、このような知見に基づいて完成し得たものである。
【0016】
そこで、先ず内容物付着防止蓋材を対象物とする発明として、次の[1]〜[5]項の手段を提示する。
【0017】
[1]少なくとも基材層と熱封緘層とを有する蓋材において、
前記熱封緘層の外面に付着防止層を有し、
該付着防止層は、撥水性付与成分として湿式製法による多孔質シリカ粒子の表面に疎水性を付与した疎水性湿式シリカ粒子が用いられ、かつ該疎水性湿式シリカ粒子と熱可塑性樹脂バインダーとの混合組成物で構成されてなることを特徴とする内容物付着防止蓋材。
【0018】
[2]前記熱可塑性樹脂バインダーは、融点または軟化点が80℃以上であり、前記熱封緘層及び容器の両者に対して接着性を有する合成樹脂を主成分として含むものであることを特徴とする前項[1]に記載の内容物付着防止蓋材。
【0019】
[3]前記熱可塑性樹脂バインダーは、エチレン−不飽和エステル共重合体、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂のうちの1種または2種以上からなることを特徴とする前項[1]または[2]に記載の内容物付着防止蓋材。
【0020】
[4]前記疎水性湿式シリカ粒子は、平均粒径100nm〜5,000nmである前項[1]〜[3]のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
【0021】
[5]前記混合組成物は、前記熱可塑性樹脂バインダーより疎水性湿式シリカ粒子を相対的に多く含む前項[1]〜[4]のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
【0022】
本発明はまた、上記内容物付着防止蓋材の製造方法について、コート液の調整、溶媒の選択、塗膜の乾燥条件等に特徴を有する下記[6]〜[9]項の手段を提示する。
【0023】
[6]少なくとも基材層と熱封緘層とを有する蓋材の前記熱封緘層の外面に、熱可塑性樹脂バインダーのエマルジョンまたは溶液に疎水性湿式シリカ粒子を分散させて調製したコート液を、乾燥後重量で0.1〜5.0g/mとなるように塗布したのち、温度80〜220℃、時間5〜180秒の乾燥条件で乾燥させて付着防止層を形成することを特徴とする内容物付着防止蓋材の製造方法。
【0024】
[7]前記熱可塑性樹脂バインダーが、エチレン−不飽和エステル共重合体、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂のうちの1種または2種以上からなる前項[6]に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【0025】
[8]前記コート液は、熱封緘層を溶解または膨潤させる溶媒を用いたものである前項[6]または[7]に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【0026】
[9]溶媒がn−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルエチルトルエン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、アセトンのうちの1種または2種以上からなる前項[6]〜[8]に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、前記[1]項の構成において、熱封緘層の外面に付加して設けられた内容物付着防止層に疎水性湿式シリカ微粒子が配合されていることにより、その配合割合に対応した所望される必要かつ十分な程度の内容物付着防止効果を発現せしめ得るのはもとより、併せて該付着防止層に熱可塑性樹脂バインダーが含まれていることにより、元来結合性に乏しい疎水性湿式シリカ微粒子の相互間の結合力を補うと同時に、それらの熱封緘層に対する密着性をも向上し、不本意な粒子の脱落、付着防止層の剥落を防いで長期に亘り安定した内容物付着防止効果を維持しうる。加えて、付着防止層への上記熱可塑性樹脂バインダーの含有により、これが熱封緘層のヒートシール性を補うべく作用し、疎水性湿式シリカ微粒子群の介在にかかわらず蓋材の容器本体に対する良好で安定した、強固なヒートシール性、密封性を確保しうる。
【0028】
このような効果の享受は、本発明者らの行った実験の結果によって確認し得たところであり、その理由となる機序については未だ明確ではないが、次のような理由によるものと推定される。即ち、付着防止層の撥水性付与成分として従来、一般に実用化が試みられてきた乾式製法による乾式シリカ(フュームドシリカ)は、粒径が数ナノから数十ナノレベルの超微細な中実の一次粒子の多数個が三次元方向に隣接するもの同士で強固にチェーン状に融着結合した最小単位としての一次凝集粒子を形成している。そして、常態ではこの一次凝集粒子が更に物理的に結合してせん断分離可能な二次凝集物を形成した状態で存在している。そこで、このような乾式シリカ粒子に疎水性付与加工を施した疎水性乾式シリカ粒子は、バインダーを含む溶媒中で撹拌すると、溶媒中に一次凝集粒子の状態で存在する該凝集粒子に対して、その構成単位である一次粒子の表面にバインダーが絡み合う。その結果、塗工後に溶媒を除去して付着防止層を形成した状態時において、一次粒子の疎水性表面の多くがバインダーによって覆われ、本来の疎水性能を減殺されてしまい、所期する付着防止性能が得られなくなってしまう事態を生じているものと推定される。
【0029】
これに対し、上記乾式シリカ粒子に代えて湿式製法による疎水性湿式シリカ粒子を用いるときは、該粒子自体がミクロンサイズの比較的大きな粒径を有すると共に、表面が凹凸構造を有して付着防止効果を発現していることに加えて、粒子自体が多孔質であり、比表面積が大きく、細孔容積や吸油量が大きい。このため、バインダー溶媒中で混合撹拌した場合において、疎水性湿式シリカ粒子の表面の一部がバインダーの付着によって覆われることがあっても、未だ粒子の表面に十分な露出面積が維持される。ひいては、溶媒を除去して付着防止層を形成した後においてもその疎水性表面の露出面積の極端な減少を招くことがなく、良好な内容物付着防止効果を発現する。加えて、湿式シリカ粒子は上記のようにそれ自体が多孔質であり細孔面積が大きいことにより、ヒートシール時において付着防止層に含まれるバインダー及び熱封緘層が溶融したときにも、殊にその低融点、低分子量成分を湿式シリカ粒子自体が急速に吸収し、粒子間の空隙が上記溶融成分で埋まってしまうのを防止しうる。このこともまた、粒子間の空隙の維持、粒子の疎水性表面の露出面積の確保に役立ち、ヒートシール後の良好な内容物付着防止効果の維持に貢献しているものと考えられる。
【0030】
また、前記[2]項に記載の構成においては、融点または軟化点が80℃以上の熱可塑性樹脂バインダーを用いることにより、加熱乾燥工程あるいはヒートシール工程において、些か苛酷な熱影響を受けることがあっても、バインダーの著しい溶融粘度の低下によって疎水性湿式シリカ微粒子による付着防止効果を大きく損なうことなく、そのこととの調和の中で疎水性湿式シリカ微粒子を含む付着防止層の基材側熱封緘層に対する密着性を、より一層確実かつ強固に保つことができる。
【0031】
また、前記[3]項に記載のように、バインダーとして、エチレン-不飽和エステル共重合体、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂の1種または2種以上からなるバインダーを用いるものとするときは、前記[1]項の構成による作用効果を一層良好に達成することができる。
【0032】
また、前記[4]項に記載のような平均粒径を有する疎水性湿式シリカ微粒子を用いることにより、市場から入手しやすい比較的安価な材料を用いて、前記のような内容物付着防止効果および熱封緘層に対する密着性の向上効果を一層確実に実現することができる。
【0033】
また、前記[5]項に記載のように、バインダーより疎水性微粒子の配分量を相対的に多くすることにより、付着防止層に常に良好な内容物付着防止性能を付与することができる。
【0034】
また、前記[6]項に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法によれば、前記[1]項による作用効果を奏する蓋材を簡易かつ確実に得ることができる。殊に、コート液の塗布層の塗布量、乾燥条件は、その特定範囲を逸脱すると、良好な内容物付着防止効果を発現させることができない。あるいはまた蓋材の生産性の低下、生産コストの増大を招く。
【0035】
前記[7]項に記載の製法においては、前記[4]項に記載の優れた効果を有する蓋材を得ることができる。
【0036】
前記[8]項に記載のように、コート液の調整に熱封緘層を溶解または膨潤させる溶媒を用いるものとすることにより、疎水性湿式シリカ微粒子の付着防止効果を損なうことなく、熱封緘層への密着性を確実に得ることができる。
【0037】
また、前記[9]項に記載のようにn−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルエチルトルエン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、アセトンのうちの1種または2種以上の混合溶媒を用いるときは、前記[8]項の対応効果をより一層確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は本発明による内容物付着防止蓋材の積層構成の概要を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、本発明に係る内容物付着防止蓋材の積層構成の一例を示す。
【0040】
該蓋材は、例えばヨーグルト包装用容器に適する蓋材の一例として、印刷(7)面をコート剤(2a)で保護被覆したコート紙(2)と、金属蒸着フィルム(3)とを一般的な接着剤で貼合わせた積層体をもって基材(1)とし、この基材(1)の金属蒸着フィルム(3)側の外面にアンカーコート(4)を介して熱封緘層(5)が設けられたものである。この積層構成は従来公知の蓋材のそれと同様であり、上記基材(1)と熱封緘層(5)とを含む積層体をここでは「蓋材本体」と称する。
【0041】
なお、例えばカフェラッテのような液体飲料の包装容器用の蓋材にあっては、蓋材本体は、図示を省略するが一般的に外面側の一方の面に所要の印刷を施したアルミニウム箔をもって基材とし、この基材の他方の面に、必要に応じて中間樹脂層を介して熱封緘層を設けたものとなされる。
【0042】
本発明に係る内容物付着防止蓋材は、上記蓋材本体の熱封緘層(5)の外面に、更に付加的に付着防止層(6)を設けたものとなされる。
【0043】
金属蒸着フィルム(3)は、ガスバリヤ性、遮光性などを付与するものであり、多くはアルミ蒸着ポリエステルフィルムが用いられる。特にヨーグルトの容器用の蓋材にあっては、遮光性、軽量性を満足するものとして厚さ12〜16μm程度のアルミ蒸着ポリエステルフィルムが好適に用いられる。また、コート紙(2)との積層接着には一般的な接着剤が用いられる。
【0044】
熱封緘層(5)は、容器側との接着性が良好なものであれば、その材料は、特に限定されない。例えば、ホットメルト剤、ラッカータイプヒートシール剤あるいは公知のシーラントフィルムを用いることができる。特にヨーグルト等包装用のポリスチレン製容器の蓋材にあっては、ラッカータイプのヒートシール剤を用いるのが一般的であり好適である。例えばポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、およびスチレン系樹脂のうちの1種または2種以上を主成分とするラッカータイプのヒートシール剤を用いるのが好適である。
【0045】
また、ポリエステルフィルムと密着性の良いポリエステル系ラッカー剤を塗布した後、容器とのシール性に優れる他のラッカー剤を塗布することも好適に選択できる。
【0046】
また熱封緘層(5)の厚みは特に限定されるものではないが、コスト、密封性、生産性等の点から、厚さ1〜30μm程度とするのが一般的であり、好適には、2〜20μmの範囲とするのが良い。
【0047】
ところで、本発明の主要構成要素をなす付着防止層(6)は、熱可塑性樹脂バインダーと撥水性付与成分としての疎水性湿式シリカ微粒子との混合組成物からなるものである。
【0048】
熱可塑性樹脂バインダーは、その材料が特に限定されるものではないが、融点または軟化点が80℃以上で、熱封緘層(5)及び疎水性湿式シリカ微粒子とのなじみが良く、それらと良好な接着性を示し、更には容器本体の表面層とも良好な接着性を有する熱可塑性樹脂を選択して用い、少なくとも該熱可塑性樹脂を主成分として含むものを用いることが望ましい。かかる熱可塑性樹脂を例示すれば、酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂等の単独重合体、または2種以上の共重合体等を挙示しうる。熱可塑性樹脂であるから、従来から蓋材の付着防止剤として良く使用されている分子量の小さいワックス類の使用は排除される。特に好ましいバインダー樹脂の種類としては、エチレン-不飽和エステル共重合体、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレートを挙げることができ、それらの1種または2種以上を少なくとも主成分として含むバインダーを用いることにより最も好ましい結果を得ることができる。
【0049】
疎水性湿式シリカ微粒子は、湿式法によって製造される合成非晶質シリカである湿式シリカ粒子の表面の水酸基に有機ケイ素化合物を化学的に反応させて疎水性を付与した疎水性湿式シリカ粒子からなる。
【0050】
湿式シリカは、乾式シリカと比較して、表面シラノール基が多く、ひいては表面をシラン類やシリコーン類で疎水化処理した後の疎水性粒子においても、乾式シリカに較べて優れた撥水性、疎水性を示す。また、前述のように細孔のない一次粒子の凝集体である一次凝集粒子を最小単位とする乾式シリカ粒子に較べ、湿式シリカ粒子は、粒子径が大きいだけでなく、粒子径に対しての比表面積が大きく、細孔容積、吸油量も大きい。これらのこともまた、付着防止層の性能の向上に大きく寄与しているものと考えられる。
【0051】
このような湿式シリカのもつ特性を有効に活用するために、使用する湿式シリカ粒子は細孔容積が0.4ml/100g以上であり、ひいては吸油量が少なくとも50ml/100g以上、好ましくは150ml/100g以上であるものを用いるべきである。吸油量が50ml/100g未満では、前述したように熱封緘層が溶融したときにそれに含まれる低融点、低分子量成分を速やかに十分量を吸着する能力に劣り、付着防止効果の熱安定性の向上効果を十分に達成することができない。吸油量の上限値は本発明において格別重要なことではない。湿式法によって製造される湿式シリカの持つ吸油量250〜350ml/100g以下のもので十分であり、それ以上の吸油量を有する特別な湿式シリカを選択使用する必要はない。むしろ、コストアップを招くことによる不利益の方が大きい。
【0052】
疎水性湿式シリカ粒子の粒径は、製造段階で種々の大きさのものを製造することが可能であるが、本発明の適用においては、平均粒径が100nm〜5000nmの範囲のものを用いるべきである。
【0053】
平均粒径が100nm未満の微粒子を用いるときは、概して、ヒートシール性に悪影響を及ぼさないような少ない塗布量、付着量の範囲において良好な内容物付着防止効果を得ることができない。逆に5000nmを超えるような粗大な粒子を用いるときは、熱封緘層(5)との密着性が悪いものとなるのみならず、ヒートシール性を阻害する。好ましくは、平均粒径が500nm〜4000nmの範囲のものを用いるのが良い。
【0054】
次に、熱可塑性樹脂バインダーと疎水性湿式シリカ微粒子との好ましい配合割合は、バインダー(固形分):微粒子の重量比において、5〜49重量%:95〜51重量%である。疎水性微粒子の配合量が、51重量%以上含有されれば、比較的良好な付着防止性能を得ることができる。
【0055】
特に好ましくは疎水性湿式シリカ微粒子を熱可塑性樹脂バインダーより相対的に多く含むものとして、60〜85重量%の範囲に設定すべきである。
【0056】
本発明に係る付着防止蓋材の製造において、上記付着防止層(6)の形成方法もまた、蓋材の内容物付着防止性能に重大な影響をもつ。
【0057】
付着防止層(6)の形成は、バインダーのエマルジョンまたは溶液に疎水性湿式シリカ微粒子の所定量を均一に分散させてコート液を調整し、これを蓋材本体の熱封緘層の外面に塗布し、乾燥させることによって行われる。
【0058】
コート液の調整には、熱封緘層を膨潤させる溶媒として、n−ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、アセトン等の有機溶剤を用いることができるが、特にコスト、安全性、撥水性の発現効果等の面からn−ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエンとメチルエチルケトン、酢酸エチル、アセトンの混合溶媒が好ましい。
【0059】
コート液の塗工は、公知の任意の方法を採用しうる。例えば、グラビアコート法、吹き付け、バーコート法等を任意に採用しうる。
【0060】
コート液の塗布量は、付着防止層の前記の厚みに応じて設定すればよいが、乾燥後重量で0.1〜5.0g/m程度が好ましく、0.3〜2.0g/mがより好ましく、更には0.5〜1.0g/mの範囲に設定するのが最適である。0.1g/m未満の場合には、内容物付着防止効果が不十分になるおそれがある。他方、5.0g/mを超えるとコストアップを招くほか、ヒートシール性を低下させない為にバインダー成分を多くする必要があり、その場合、内容物付着防止効果が充分に得られない恐れが生じ、バインダー成分が少ない場合は、内容物付着防止層の脱落の可能性が生じるため好ましくない。
【0061】
塗布後の乾燥工程も重要な要素をなす。もとより自然乾燥させても良いが、生産性、熱封緘層との密着性を高めるためには加熱乾燥させるべきであり、その場合の乾燥条件としては、温度80〜220℃、時間5〜180秒の範囲に設定するべきである。温度が上記下限値80℃より低いと乾燥工程に時間がかかり、時間が5秒未満では乾燥が不十分なものとなり、その後の取扱いにおいて付着防止層の部分的剥離や脱落を生じ易い。反面、乾燥温度を220℃を超える高い温度に設定したり、あるいは時間を180秒を超える時間に設定すると、疎水性湿式シリカ微粒子が熱封緘層に沈み込み付着防止層の疎水性、撥水性が損なわれることが確認されている。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の効果を確認するために、その各種の実施例を比較例との対比において示す。
【0063】
(蓋材本体の作製)
コート紙(55g/m2)と厚さ16μmのアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、それらをポリウレタン系ドライラミネート接着剤により貼合わせて基材層とした。
【0064】
次に、上記基材層のアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルムにアンカーコート剤を塗布した後、更にその上にグラビアコート法により熱封緘層を形成した。これによって得られた基材層/アンカーコート剤/熱封緘層の積層体をもって蓋材本体とした。
【0065】
ここに、上記熱封緘層(5)としては、下記の3種類のものを作製した。
【0066】
・ラッカー型(A)・・・ポリスチレン製容器の蓋材に適するものとして、主成分アク
リル樹脂及びポリエステル樹脂からなるヒートシールラッカー(A)を、塗布量
5g/mの割合でグラビアコート法により塗布し、ラッカー型の熱封緘層を形
成した。
【0067】
・ラッカー型(B)・・・ポリスチレン製容器の蓋材に適するものとして、主成分酸変 性ポリプロピレン樹脂(無水マイレン酸グラフト変性 変性率1.0%)と、粘
着付与剤、ブロッキング防止剤からなるヒートシールラッカー(B)を、塗布量 5g/mの割合でグラビアコート法により塗布し、ラッカー型の熱封緘層を形 成した。
【0068】
・シーラントフィルム型・・・主成分ポリエチレン系のイージーピールフィルムからな
る厚さ30μmのシーラントフィルムを、ウレタン系接着剤層を介して押出しラ
ミネート法により積層し、シーラントフィルム型の熱封緘層を形成した。
【0069】
(付着防止層の形成)
付着防止層の材料として、下記のバインダー及び疎水性微粒子を用意した。
【0070】
バインダー
A:エチレン−メタクリル酸共重合体
(融点95℃、メタクリル酸含有量10重量%)
B:ポリメチルメタクリレート(軟化点 105℃ )
C:エチレン−酢酸ビニル共重合体(融点82℃、酢酸ビニル含有量20%)
D:ポリエチレンワックス(融点 67℃)
【0071】
疎水性微粒子
SP(I):疎水性湿式シリカ 平均粒径 2700nm
SP(II):疎水性湿式シリカ 平均粒径 3900nm
SP(III):疎水性湿式シリカ 平均粒径 1300nm
SP(IV):疎水性乾式シリカ 一次粒子 10nm
【0072】
上記各種バインダーをメチルエチルケトンとメチルシクロヘキサンの50:50の混合溶媒で稀釈した溶液中に、疎水性微粒子を表1に示す各種配合割合で混合し、均一分散させてコート液を作製した。
【0073】
そして、これらの各種コート液を、蓋材本体の前記熱封緘層の外面にグラビアコート法により、表1に示すように塗布量、乾燥条件を各種に変えて塗布し、かつ強制乾燥して付着防止層を形成した。
【0074】
(作製試料の種類)
上記により得た表1に示す各種蓋材の試料1〜20のうち、試料1〜3、5は付着防止層におけるバインダーの種類を変えてその影響を調べたものである。試料4は、バインダーなしのものである。試料6、7は、疎水性湿式シリカ微粒子の粒径を変えてその影響を調べたものである。
【0075】
試料8から熱封緘層の種類を変えた。試料8〜9、17は塗布量、試料11〜13、16は、疎水性湿式シリカ粒子とバインダーの配合比率を各種に変えてその影響を調べたものである。
【0076】
試料14、15は、蓋材本体における熱封緘層の種類をシーラントタイプに変えて影響を調べたものである。
【0077】
試料18は、疎水性湿式シリカ微粒子ではなく、疎水性乾式シリカ微粒子(一次粒子径 10nm)を使用し、試料19,20は、コート液の乾燥条件を変えてその影響を調べたものである。
【0078】
(評価試験)
(1)付着防止性能
各試料No.1〜20の蓋材の裏面、即ち付着防止層の外面上に、アロエヨーグルト(森永乳業株式会社製 商標「森永アロエヨーグルト」)を約0.5ccの液滴として滴下し、試料をゆっくりと傾けたときに上記液滴が「転がりはじめたときの傾斜角度」を測定して、次の基準で判定評価した。
◎・・・30度以下
○・・・31度以上60度以下
×・・・61度以上
【0079】
(2)シール性
試料No.1〜20の蓋材を、120〜180℃×0.2MPa×1.0secの熱圧シール条件で容器本体(ポリスチレン製容器、試料No.14、15はポリエチレン製容器)のフランジ面上にヒートシールした。
【0080】
そして、付着防止層を設けていない蓋材本体のままの蓋材におけるシール強度(蓋材の耐剥離強度・密封性)を基準値として、シール強度の低下率を下記の基準で判定評価した。
◎・・・付着防止層なしのものとほぼ同等
○・・・強度低下20%未満
×・・・強度低下20%以上
【0081】
(3)密着性
試料No.1〜20の各蓋材の付着防止層の面に、黒い布を巻き付けた重り(500g)を垂直に載せ、ゆっくりと長さ200mm擦り、布に付着したシリカを目視で確認した。
【0082】
そして、黒い布における疎水性微粒子及び付着防止層の転移付着量(剥離量)を目視検査し、下記の評価基準で評価した。
◎・・・ほとんど付着なし
○・・・許容範囲と認められる僅かな付着あり
×・・・明らかに多くの付着あり
【0083】
上記(1)〜(3)の各評価試験の結果を、表2に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
表2の「付着防止性」試験の結果に示すように、本発明による内容物付着防止蓋材においては、試料を僅かに傾けるだけでヨーグルト液滴が転がり移動を始める。このことは、ヨーグルト、プリン、ゼリー等の粘稠な液体成分を含むような内容物に対し、蓋材裏面への該内容物の付着防止効果に優れたものであることを示す。しかも「シール性」試験の結果に示すように、付着防止層の存在によってヒートシール性(シール強度)を大きく損なうことなく、良好な密封性を維持しつつ、上記付着防止性能を付与しうる。加えて、「密着性」試験の結果に見られるように、疎水性粒子及びそれを含む付着防止層の密着性が良好で、不本意な疎水性微粒子の分離脱落、付着防止層の部分剥離等のおそれがなく、長期に亘って内容物付着防止性能を安定に維持しうると共に、容器内への異物混入のおそれのない衛生上も問題のないものであることを確認し得た。
【符号の説明】
【0087】
1・・・基材
2・・・コート紙
3・・・金属蒸着フィルム
4・・・アンカーコート層
5・・・熱封緘層
6・・・付着防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材層と熱封緘層とを有する蓋材において、
前記熱封緘層の外面に付着防止層を有し、
該付着防止層は、撥水性付与成分として湿式製法による多孔質シリカ粒子の表面に疎水性を付与した疎水性湿式シリカ粒子が用いられ、かつ該疎水性湿式シリカ粒子と熱可塑性樹脂バインダーとの混合組成物で構成されてなることを特徴とする内容物付着防止蓋材。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂バインダーは、融点または軟化点が80℃以上であり、前記熱封緘層及び容器の両者に対して接着性を有する合成樹脂を主成分として含むものであることを特徴とする請求項1に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂バインダーは、エチレン−不飽和エステル共重合体、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂のうちの1種または2種以上からなることを特徴とする請求項1または2に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項4】
前記疎水性湿式シリカ粒子は、平均粒径100nm〜5,000nmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項5】
前記混合組成物は、前記熱可塑性樹脂バインダーより疎水性湿式シリカ粒子を相対的に多く含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の内容物付着防止蓋材。
【請求項6】
少なくとも基材層と熱封緘層とを有する蓋材の前記熱封緘層の外面に、熱可塑性樹脂バインダーのエマルジョンまたは溶液に疎水性湿式シリカ粒子を分散させて調製したコート液を、乾燥後重量で0.1〜5.0g/mとなるように塗布したのち、温度80〜220℃、時間5〜180秒の乾燥条件で乾燥させて付着防止層を形成することを特徴とする内容物付着防止蓋材の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂バインダーが、エチレン−不飽和エステル共重合体、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂のうちの1種または2種以上からなる請求項6に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【請求項8】
前記コート液は、熱封緘層を溶解または膨潤させる溶媒を用いたものである請求項6または7に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。
【請求項9】
溶媒がn−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルエチルトルエン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、アセトンのうちの1種または2種以上からなる請求項6〜8に記載の内容物付着防止蓋材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−39930(P2013−39930A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176540(P2011−176540)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(501428187)昭和電工パッケージング株式会社 (110)
【Fターム(参考)】