説明

内服液剤

【課題】トリプタン含有内服液剤において、酸味料を配合した際に生じる、トリプタンの
安定性低下を抑制すること。
【解決手段】リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩と、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料、さらにアスコルビン酸、エデト酸及びこれらの塩、並びに没食子酸プロピルからなる群から選ばれる一種以上の抗酸化剤を配合したことを特徴とする内服液剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩を配合してなる内服液剤に関する。
さらに詳しくはリザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩と、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料、さらにアスコルビン酸、エデト酸及びこれらの塩並びに没食子酸プロピルからなる群から選ばれる一種以上の抗酸化剤を配合した内服液剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンとして知られているトリプタンは、トリプタン系のセロトニン−1(5−HT1)受容体作動薬群であって、片頭痛の治療に優れた効果を示す。
【0003】
これらトリプタンの中でも薬物動態の違いにより即効性、有効性、持続性などが異なっており、治療の際に使い分けがなされている。ここで同じ錠剤で比較した場合、もっとも古くから用いられているスマトリプタンと比較して、リザトリプタンは即効性や有効性の点で優れており、また、ゾルミトリプタンは少ない投与量で効果を発揮するという特長を有している(非特許文献1)。
【0004】
現在までに、これらトリプタンは、錠剤、点鼻剤、注射剤などとして提供されているが(非特許文献2〜4)、内服液剤としては提供されていなかった。そこで、片頭痛の特性上、携帯が可能であり、かつ服用が容易であるトリプタンを配合した内服液剤が求められている。
【0005】
一方、内服液剤には、服用性向上の観点から、クエン酸又はその塩、リンゴ酸又はその塩などが配合されており、これら酸味料の添加が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】片頭痛治療薬(トリプタン系薬剤) 薬事 2007年3月(vol.49 No.3)
【非特許文献2】イミグラン(登録商標)錠50 医薬品インタビューフォーム、グラクソ・スミスクライン株式会社、発行2007年9月(改定第4版)http://glaxosmithkline.co.jp/club_GSK/if/pdf/imigran_tab.pdf
【非特許文献3】イミグラン(登録商標)点鼻液20 医薬品インタビューフォーム、グラクソ・スミスクライン株式会社、発行2007年4月(改定第2版)http://g laxosmithkline.co.jp/club_GSK/if/pdf/imigran_nas20.pdf
【非特許文献4】イミグラン(登録商標)注3 医薬品インタビューフォーム、グラクソ・スミスクライン株式会社、発行2008年3月(改定第7版)http://glaxosm ithkline.co.jp/club_GSK/if/pdf/imigran_kit_sci.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、トリプタンを含有する内服液剤にクエン酸などの酸味料を配合したところ、トリプタンの安定性が低下することを確認した。
よって、本発明はクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料を配合したトリプタン含有内服液剤において、生じたトリプタンの安定性の低下を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、酸味料を配合したトリプタン含有内服液剤に、アスコルビン酸、エデト酸及びこれらの塩並びに没食子酸プロピルのような抗酸化剤を配合することにより、酸味料配合による安定性の低下を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は
(1)リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩と、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料、さらにアスコルビン酸、エデト酸及びこれらの塩並びに没食子酸プロピルからなる群から選ばれる一種以上の抗酸化剤を配合したことを特徴とする内服液剤、
(2)トリプタンがリザトリプタンであり、酸味料がクエン酸である(1)に記載の内服
液剤、
(3)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以
上の酸味料を、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩を含有する内服液剤に配合した際に生じる、トリプタンの安定性の低下を、アスコルビン酸、エリソルビン酸、エデト酸及びこれらの塩並びに没食子酸プロピルからなる群から選ばれる一種以上の抗酸化剤を配合したことにより抑制する方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、トリプタンを含有する内服液剤に酸味料を配合した際に生じる、トリプ
タンの安定性の低下を抑制することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明におけるトリプタンとは、片頭痛治療剤ゾルミトリプタン(即ち、(S)−4−({3−[2−(ジメチルアミノエチル)]−1H−インドール−5−イル}メチル)−2−オキサゾリジノン)、片頭痛治療剤エレトリプタン(即ち、(+)−(R)−3−(1−メチルピロリジン−2−イルメチル)−5−(2−フェニルスルホニルエチル)−1H−インドール)、片頭痛治療剤リザトリプタン(即ち、3−[2−(ジメチルアミノ)エチル]−5−(1H−1,2,4−チアゾール−1−メチル)インドール)、片頭痛治療剤ナラトリプタン(即ち、N−メチル−2−[3−(1−メチルピペリジン−4−イル)−1H−インドール−5−イル]エタンスルホンアミド)のことである。
【0012】
本発明における薬理上許容される塩とは、酢酸塩、カルシウム塩、クエン酸塩、ジエタ
ノールアミン塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、リジン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、コハク
酸塩、安息香酸塩などを挙げることができる。
【0013】
本発明におけるリザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩の含有(配合)量は、個々の患者にとって最も適切なものが何であるかによって、医者又は当業者等により決定されうる。この量は、用いられるトリプタンの性質、治療される特定の患者の年齢、性別によって変わる可能性がある。しかしながら、0.01mg/mL〜10mg/mLの範囲でトリプタン又はその薬理上許容される塩を含有することが好ましい。
【0014】
本発明に使用する酸味料とは、食品加工や調理において酸味を与えるために使われる物質で、各種の有機酸やその塩を指す。例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸が挙げられ、好ましくはクエン酸である。
【0015】
本発明に使用するアスコルビン酸とは、例えばL−アスコルビン酸又はその誘導体(L−アスコルビン酸−2−グルコシド、L−アスコルビン酸−2−リン酸エステルなど)であり、その塩とは、例えばL−アスコルビン酸ナトリウム又はL−アスコルビン酸カルシウムが挙げられる。
なお、本発明のアスコルビン酸又はその塩の含有(配合)量は、酸味料を配合した際に生じるトリプタンの安定性の低下を抑制する効果を有する範囲であれば特に制限はされないが、好ましくはトリプタン1質量部に対して、1.37質量部以上である。
【0016】
本発明に使用する没食子酸プロピルの含有(配合)量は、酸味料を配合した際に生じるトリプタンの安定性の低下を抑制する効果を有する範囲であれば特に制限はされないが、好ましくはトリプタン1質量部に対して、0.005質量部以上、さらに好ましくは0.34質量部以上である。
【0017】
本発明に使用するエデト酸又はその塩としては、例えばエデト酸二ナトリウムやエデト酸カルシウム二ナトリウムが挙げられる。
なお、本発明のエデト酸又はその塩の含有(配合)量は、酸味料を配合した際に生じるトリプタンの安定性の低下を抑制する効果を有する範囲であれば特に制限はされないが、好ましくはトリプタン1質量部に対して、0.05質量部以上、さらに好ましくは0.30質量部以上である。
【0018】
本発明の内服液剤の好ましいpHは2.5〜7.0であり、さらに好ましくは2.5〜5.0であり、もっとも好ましくは2.5〜4.0である。pHが2.5未満であると、酸味が強すぎて服用性の点で好ましくなく、pHが7.0を超える領域でも、服用性の点で好ましくないからである。pHの調整には、例えば、酢酸などの有機酸又は有機酸の塩、リン酸、塩酸などの無機酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基を用いることができる。
【0019】
本発明の内服液剤には、ビタミン類、ミネラル類、生薬、生薬抽出物などを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合できる。また、必要に応じて着色剤、香料、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合できる。これらの添加物等は、1種で単独に配合しても、2種以上を適宜組み合わせて配合してもよい。
【0020】
本発明の内服液剤は、常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではない。通常、各成分を適量の精製水で溶解した後、pH及び容量を、残りの精製水を加えて調整し、必要に応じてろ過、殺菌処理することにより得られる。
【0021】
本発明の内服液剤は、例えばシロップ剤、ドリンク剤などの医薬品や医薬部外品などとして提供することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0023】
(1)各内服液剤の調製
表1−3に記載の処方の各成分を秤量して、精製水に溶解させ、所定のpHになるよう、かつ、内服液剤の全量が10mLとなるよう調整した。その後にガラス瓶に充填し、キャップを施して本発明の実施例1−12及び比較例1−8の内服液剤を得た。
【0024】
(2)試験方法
表1の実施例1−9及び表2の比較例1−6で示す組成のリザトリプタン含有内服液剤を65℃の恒温槽中で14日間保存し、内服液剤中のリザトリプタン含有量をHPLCで測定した。リザトリプタンを溶解させた直後の内服液剤中のリザトリプタン含有量に対して、65℃、14日間保存後の内服液剤中のリザトリプタン含有量(残存率)を計算した。結果を表1、表2に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
(3)結果
比較例1、3〜4の結果から、クエン酸、リンゴ酸または酒石酸を配合したリザトリプタン配合内服液剤は、65℃、14日間保存後、内服液剤中のリザトリプタンの残存率が低くなることが分かった。また、比較例5−6の結果からpH2.5またはpH5.0の場合も内服液剤中のリザトリプタンの残存率が低くなることが分かった。この残存率の低下傾向は、必ずしも全ての酸でみられるわけではない。しかし、アスコルビン酸、没食子酸プロピル、エデト酸ナトリウムを用いた実施例1−9では、クエン酸、リンゴ酸または酒石酸を配合しているにも関わらず、内服液剤中のリザトリプタンの残存率の低下が抑制されることが分かった。
【0028】
なお、比較例2に示したとおり、アスコルビン酸、エリソルビン酸、没食子酸プロピル、エデト酸以外の抗酸化剤である亜硫酸ナトリウムを用いた場合、内服液剤中のリザトリプタンの残存率は比較例1と比較してさらに低下することが分かった。即ち、全ての抗酸化剤で内服
液剤中のリザトリプタンの安定性を抑制出来るわけではないことが分かった。
【0029】
また、表3の実施例10−12及び比較例7−8で示す組成のゾルミトリプタン含有内服液剤を65℃の恒温槽中で14日間保存し、内服液剤中のゾルミトリプタン含有量をHPLCで測定した。ゾルミトリプタンを溶解させた直後の内服液剤中のゾルミトリプタン含有量に対して、65℃、14日間保存後の内服液剤中のゾルミトリプタン含有量(残存率)を計算した。結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
比較例7の結果から、クエン酸を配合したゾルミトリプタン配合内服液剤は、65℃、14日間保存後、内服液剤中のゾルミトリプタンの残存率が低くなることが分かった。しかし、アスコルビン酸、没食子酸プロピルまたはエデト酸ナトリウムを用いた実施例10−12では、クエン酸を配合しているにも関わらず、内服液剤中のゾルミトリプタンの残存率の低下が抑制されることが分かった。
【0032】
なお、比較例8に示したとおり、アスコルビン酸、没食子酸プロピル、エデト酸以外の抗酸化剤である亜硫酸ナトリウムを用いた場合、内服液剤中のゾルミトリプタンの残存率は実施例10−12に比べて低いものであり、さらに比較例7と比較してさらに残存率が低下することが分かった。即ち、全ての抗酸化剤で内服液剤中のゾルミトリプタンの安定性を抑制出来るわけではないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、長期に保存可能なトリプタン含有内服液剤を製造することが可能となったので、商品性の高いトリプタン含有内服液剤を医薬品や医薬部外品などの分野で提供することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩と、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料、さらにアスコルビン酸、エデト酸及びこれらの塩並びに没食子酸プロピルからなる群から選ばれる一種以上の抗酸化剤を配合したことを特徴とする内服液剤。
【請求項2】
トリプタンがリザトリプタンであり、酸味料がクエン酸である請求項1に記載の内服液剤。
【請求項3】
クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる一種以上の酸味料を、リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンから選択されるトリプタン又はその薬理上許容される塩を含有する内服液剤に配合した際に生じる、トリプタンの安定性の低下を、アスコルビン酸、エリソルビン酸、エデト酸及びこれらの塩並びに没食子酸プロピルからなる群から選ばれる一種以上の抗酸化剤を配合したことにより抑制する方法。

【公開番号】特開2012−36166(P2012−36166A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134111(P2011−134111)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】