説明

内燃エンジンの温度を制御する方法及び装置

本発明は、エンジン温度を調整するための方法及び装置に関し、該装置は、エンジン(1)をラジエーター(2)に接続する内燃エンジン(1)の冷却回路の管(3)に配置されている弁制御システム(3)を備えており、前記管(11)は、エンジン(1)の出口に且つ弁制御システム(3)の上流に配置されている温度センサ(101)を備えており、前記弁制御システム(3)は、保存された最低温度設定点(C1)と保存された最高温度設定点(C2)との間の範囲にある予め規定されている設定点プロファイルに応じて設定された温度に加熱される冷却液体の作用下で自動的に開放され、これにより、弁制御システムがほぼ大きく開放されるように維持することによって、エンジンの温度が、最低設定点又は最高設定点に漸次的に到達し、さらに、弁制御システムが初期に既に開放されている場合に該弁制御システムの開放の制御を可能にする、弁制御システムの初期の開放を制御する(45、TC)手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御の分野に関し、より詳細には、冷却回路の弁制御システム(例えばサーモスタット)の開放を制御することによって内燃エンジンの温度を調整する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン制御は、そのセンサ、アクチュエータ及びシステム間リンク(ISL)全てによって、内燃エンジンを管理する技術である。全ての監視及び制御の原理(ソフトウェア戦略)並びにエンジンの特徴化パラメータ(較正)は、電子制御ユニット(ECU)と呼ばれるコンピュータ内に含まれている。
内燃エンジン(キャブレタを備えているもの又は燃料噴射装置を備えているもの)は、一般に、水又は空気を循環させることによって得られる冷却を必要とする。これは、内燃エンジンが熱を発生するためである。この熱は、ガスの燃焼及び運動する部品の様々な摩擦によって生じるものである。
【0003】
許容可能な温度範囲間での膨張を制限するために、また潤滑オイルの特性を維持するために、エンジンを冷却しなくてはならない。この冷却は、周囲環境に存在する3つの流体によって達成される。
− 空気は基本的に、熱交換器(ラジエーター(放熱器)、空気−空気熱交換器)用に、並びにエンジン及び排気装置の外部で伝導により発生する熱を自然冷却するために使用される。
− 水は、シリンダ及びシリンダヘッドを冷却する。
− オイルは、ピストン、カムシャフト、ビックエンド、クランクシャフト軸受、弁から熱を排除する。
【0004】
水を循環させる場合、水は通常、閉回路内を流れ、ラジエーター内で冷却される。ラジエーター自体は空気によって冷却され、その空気の流れはファンによって助成することができる。排除される熱は、内燃エンジンの速度及び負荷に依存するので、また、内燃エンジンの温度は、最適効率を得るために比較的狭い範囲内に維持されなくてはならないので、冷却システムを調整する必要がある。このためには、エンジンのための最適な運転温度を保証する設定点を用いて調整温度を決定することが必要である。
この調整の目的の1つは、燃料消費量を低減し、それにより、窒素酸化物のような汚染物質の形成を相応に減少させることを達成することである。
【0005】
実際、低温では、内燃エンジンの潤滑オイルの粘度は高く、これにより、エンジンには付加的な摩擦が発生し、その結果、過剰な燃料消費が生じる。このことは、特に、内燃エンジン及びオイルの温度が低い時に車両を始動させると起こる。
窒素酸化物(NOx)の生成は、特に、車両の内燃エンジンのシリンダ内に導入されるガス混合物の温度に依存する。混合物の温度が高い程、窒素酸化物の生成量はより大きくなる。
【0006】
よって、エンジン冷却水の温度を上昇させることによって、オイルの温度が上昇して摩擦損失が低下するが、その一方で、温度がより低ければ、特に窒素酸化物の生成が制限される。したがって、エンジンを最適温度に保ち、それにより冷却回路の有利な点を持続させることが重要である。よって、今日、大抵の車両には、ワックスの体積膨張の原理に基づいて動作する従来のサーモスタットが装備されている。このサーモスタットは、エンジンの出口又は入口に配置されていてよい。水の温度の作用で、ワックスプラグは、温度に対して較正されているその熱膨張によって、1つ又は2つの逆止弁の開放を作動ピストンを介して制御する。1つ又は2つの弁の開放又は閉鎖により、冷却剤の循環及び場合によってはバイパス回路を調整する。
【0007】
よって、エンジンの運転期(加速、減速等)に応じて、温度設定点を大きくする又は小さくすることによって温度を調整することが必要である。現在のところ、温度は、段階的な温度設定点プロファイルを有するよう変動させる。これは、温度が例えば90℃から110℃へ上昇する場合又は110℃から90℃へ低下する場合、設定点が90℃から110℃へと又は110℃から90℃へと、中間の段階がなく急激に変化することを意味する。よって、弁制御システムの開放は漸次的ではない。
【0008】
よって、温度設定点を変化させた場合、弁の開放前では、エンジン温度が上昇するので、サーモスタットの両側で温度差が拡大する。よって、弁を開放させる際に熱衝撃が生じてしまう。
【0009】
この熱衝撃は、エンジンを囲む補助的な構成要素、並びに特にエンジン自体のための冷却システム及びある温度から別のエンジン運転温度設定点への変化又は経過の影響を受けやすい他の冷却システム(乗客室のユニットヒータ、EGR熱交換器、水/油熱交換器、空調ラジエーター及びそのコンデンサ、ターボ過給空気、BVAラジエーター等)に悪影響を及ぼす。同様に、様々な要素における互いの(相対)位置も、温度調整の品質及びそれに関連する負担に影響を与える。例えば、冷却回路の弁制御システムが、エンジンの入口又は出口に位置する場合である。
このような付加的な負担によって、温度の変動によって生じるエンジンの補助的な構成要素の変形が起こり、これにより、付加的な機械的力が発生する。
【0010】
米国特許出願公開第2002/0053325号明細書は、エンジンとラジエーターのような熱交換器との間での冷却液の循環を制御することによりエンジン温度を調整する装置によって、熱衝撃を制限する問題解決策を提案している。この装置は、作動温度が約102℃である上述のような第1の従来のサーモスタットと、作動温度が第1のサーモスタットよりも25℃高い、つまり約127℃であり且つ中央抵抗器を備えているサーモスタットとを備えている。これら2つのサーモスタットはそれぞれ、冷却するラジエーターへの冷却液の進入を可能にする弁の種々の開放を制御する。よって、冷却液温度が第1の作動温度に達すると、第1のサーモスタット内に収容されている膨張可能な材料がピストンを作動させ、このピストン自体が弁を開放し、これにより、冷却液が特定の流量でラジエーターを介して流れることができるようになる。液体の温度がより高く、約127℃である場合には、第2のサーモスタットに収容されている膨張可能な材料が第2のピストンを作動させ、この第2のピストンが、弁のより大きな開放を可能にする。つまり、液体は、ラジエーターにより大きな流量で流れ込み、それにより、同じ時間間隔内で、より大量の液体が冷却される。よって、この装置は、エンジンが過度に長い時間、過度に高い温度で維持されることを防止するよう働く。
【0011】
しかし、この装置の1つの欠点は、エンジンの温度が約90℃という理想の運転温度よりも高い時にしかこの装置が機能しないことである。よって、熱衝撃を完全に回避するようには機能せず、温度設定点の変化に対処することはない。よって、この過熱に関連するエンジンの様々な部品は、上述の負担及び変形に曝されてしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって、本発明の目的は、弁制御システム(ここではサーモスタット)の適切な制御によって上記の欠点を抑え、冷却液の温度に関連して選択された基準に応じて制御を実施すること及びやはり温度に関連して弁制御システムの効率のよい開放を監視することによって、構成部材に対する熱衝撃の大きさを低減させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このために、本発明は、エンジン温度を調整するための装置であって、エンジンをラジエーターに接続する内燃エンジンの冷却回路のラインに配置された弁制御システムを備えており、前記ラインが、エンジンの出口に且つ弁制御システムの上流に配置されている温度センサを備えており、前記弁制御システムが、温度設定点に加熱される冷却液の作用下で自動的に開放されることを特徴とする装置であって、予め規定された設定点プロファイルに応じて、保存された最低温度設定点と保存された最高温度設定点との間の範囲で温度設定点を変動させる手段であって、これにより、弁制御システムをほぼ大きく開放したまま維持することによって、エンジンの温度が最低又は最高の設定点に漸次的に到達し、熱衝撃が減衰される、温度設定点を変動させる手段と、弁制御システムの第1の開放を制御し且つ弁制御システムの第1の開放が既に行われたかどうかを点検する手段とを備えていることを特徴とする、装置を提案する。
【0014】
本発明の別の特徴によれば、予め規定された設定点プロファイルに応じて、弁制御システムをほぼ大きく開放する手段が、弁制御システムのワックスプラグの温度を早期に上昇させて逆止弁を開放させるか又は低下させて逆止弁を閉鎖させるために使用される加熱抵抗からなっており、コンピュータに配置されている計算手段によって制御されている。
【0015】
本発明の別の特徴によれば、コンピュータに配置されている計算手段は、コンピュータ内の保存手段に保存されている最低及び最高温度設定点に共通に基づいて、最低温度限界及び最高温度限界を決定する少なくとも1つの第1の計算モジュールと、最低温度限界と最高温度限界との間の設定点プロファイルのいくつかの中間温度を計算する第2の計算モジュールと、作動中に温度センサによってエンジン出口で連続的に測定される温度を第2の計算モジュールによって計算された中間温度と比較し、2つの温度間の差を決定する比較モジュールと、前記差を補正し、測定された差に応じた所望の温度設定点に達するために必要なサーモスタットの開放を規定するよう働くモジュールとからなっている。
【0016】
本発明の別の特徴によれば、コンピュータに配置された計算手段は、補正モジュールに関連するサーモスタット制御モジュールを含む。
【0017】
本発明のさらなる目的は、請求項1に記載の装置を実施する、エンジン温度を調整する方法であって、温度設定点を変動させることを含み、それにより、弁制御システムの第1の開放が既に実施されている場合に、エンジン温度が最高温度に漸次的に到達することを特徴とする方法を提供することである。
【0018】
本発明の別の特徴によれば、前記方法は、
− 最低温度設定点及び最高温度設定点を決定し、これら2つの温度設定点をコンピュータの保存手段に保存し、
−第1の計算モジュールによって、最低温度設定点から最低温度限界を、最高温度設定点から最高温度限界を決定し、これら2つの温度設定点をコンピュータの保存手段に保存し、
− 第2の計算モジュールによって、中間温度を、最低温度限界及び最高温度限界の関数として決定し、
− 作動時間中、回路に収容されている冷却液の温度を、エンジンの出口で且つ弁制御システムの下流でセンサによって連続的に測定し、
− エンジンにおける温度を様々な中間温度と比較し、それにより、差を決定し、
− 弁制御システムを開放又は閉鎖することによって温度の差を補正する、ステップを含む。
【0019】
本発明の別の特徴によれば、最低温度設定点は80℃〜85℃であり、最高温度設定点は100℃〜120℃である。
本発明の別の特徴によれば、最低温度設定点は90℃であり、最高温度設定点は110℃である。
本発明の別の特徴によれば、最低温度設定点が90℃である場合に最低温度限界が92℃であり、最高温度設定点が110℃である場合に最高温度限界が108℃である。
【0020】
本発明の別の特徴によれば、弁制御システムの開放及び閉鎖は、弁制御システムに配置された加熱手段をONにすることによって行われ、これにより、弁制御システムが早期に温度設定点に達して、弁制御システムの開放又は閉鎖が可能となる。
【0021】
本発明は、その特徴及び利点について、非限定的な例として示す添付の図面を参照しながら説明を読むことによってより明確になるであろう。
【0022】
図1に、従来のエンジン温度調整を示す。この種の開放では、弁制御システムを開放する装置は、前述の従来のサーモスタットを備えており、そのサーモスタットの膨張可能な液体が、所与の温度で逆止弁を開放するように働く。図1に示すグラフでは、曲線A1は温度設定点を示し、曲線T1はエンジン温度である冷却液温度を示す。ここに示す例では、設定点は、90℃から110℃に急激に上昇し、平坦域又は段部(A11)を形成している。見て分かるように、冷却液温度は、この設定点に直ちに追従するわけでなく、サーモスタット調整温度に向かって収束する前に何度も変動する。この変動は、ラジエーター入口(曲線A2)及びラジエーター出口(曲線A3)での急激な温度変化によって説明される。これは、冷却液が流れ始める時にも、設定点と同様に急激に起こり、これにより、冷却システムに相当な疲労が生じる。
この運転モードでのこのような急激な温度変化は、ラジエーターへの負荷を発生させ、その劣化を増大させる。
【0023】
図2及び3にはエンジンの温度調整を示すが、この場合には、本発明による方法及び装置を用いて制御されている。
【0024】
図2に、90℃の低温(C1)から110℃の高温(C2)に移行する温度設定点の変化プロファイル(曲線A1)を示す。エンジン温度(曲線T1)は、設定点と同様に上昇し(より緩慢に)、温度の変動はない。ラジエーター入口の温度(曲線A2)については、同様の傾斜形の温度プロファイルが観察され、ラジエーターに対する負担は相応に減少している。この場合、温度設定点には、弁制御システムの漸次的な閉鎖によって到達し、抵抗器の温度は次第に低くなる。これにより、ラジエーター入口温度が上昇し続ける理由が説明される。実際、弁制御システムの漸次的な閉鎖によって冷却液が加熱され、ラジエーター中を流れ続ける少量の液体の温度がますます高くなり、よって、曲線A2で温度上昇が観察される。
【0025】
図3に、高温(C2)から低温(C1)に移行する温度設定点の変化プロファイル(曲線A1)を示す。抵抗器の温度は次第に高くなる。エンジン冷却及びラジエーター入口温度も、この傾斜に追従するが、その追従はより無秩序であり、エンジン運転の変動(エンジン速度及び負荷の変化)のために、温度の、小さな平坦域の存在が観察される。
【0026】
図4に、図2及び3に示す結果を得るための本発明による装置の一実施形態を示す。この装置は、内燃エンジン(1)及びラジエーター(2)を備えており、これらは、冷却液の流れ(10)を生じさせるよう働くライン(11、11’)によって互いに接続されていて、ループ回路を形成する。この回路によって、冷却液がエンジン(1)からラジエーター(2)へと流れ、さらに、異なる経路(11’)を通ってラジエーターからエンジンに向かうことが可能となる。第2のラインはバイパス(12)を形成しており、このバイパスにより、冷却液は、ラジエーター(2)を通過せずにエンジン(1)に直接戻ることができる。エンジン(1)とラジエーター(2)と間の第1のライン(11)のルート上に且つバイパス(12)の後には、サーモスタット式(温度自動調節式)の弁制御システム(3)が配置されている。ボックスの形で示されているこの弁制御システム(3)は、弁によって閉鎖可能な、エンジン(1)とラジエーター(2)との間の冷却液のための通路(図示せず)と、この弁のサーモスタット式の制御のための要素とを備えている。このサーモスタット式の制御要素(3)は、ラジエーター(2)が特定の温度に達した時に、冷却液のエンジン(1)からラジエーター(2)への流れを可能にするだけである。
【0027】
サーモスタット式の制御要素は、前述のものと同じ種類である。プラグ内に収容されているワックスの体積の膨張を原理として機能するものである。冷却液の温度の作用下で、ワックスプラグは、温度に対して較正されたその熱膨張によって、作動ピストンを介して逆止弁(32)の開放を命令する。すると、逆止弁(32)は、冷却液の流れを、場合によってはバイパス回路(12)の流れを調整するように開放又は閉鎖する。本発明では、冷却液の温度が、110℃である標準の温度設定点に達した時に、使用されるサーモスタット(3)が開放される。このサーモスタット(3)は、抵抗器の形式(31)の加熱手段(31)を含み、この加熱手段は、ワックスの温度を人工的に上昇させ、それにより、温度設定点を変化させるよう働く。このことは、通常では冷却液が110℃である時に逆止弁(32)を開放させるサーモスタット(3)が、サーモスタットの温度を110℃に人工的に上昇させる抵抗器(31)によって、冷却液が90℃の時に開放させるということを意味する。この抵抗器(31)の目的は、弁制御システム(3)の開放又は閉鎖を制御するための予め規定された設定点プロファイルに応じて、温度設定点を変化させる役割を果たすことである。この抵抗器(31)は、前記方法が必要とするコマンドを生成する、車両のコンピュータ(4)に接続されている。
【0028】
冷却回路は、冷却回路のライン(11)に、エンジン(1)の出口に且つ弁制御システム(3)の上流に配置されている少なくとも1つの温度センサ(101)も備えている。第2のセンサ(102)は、冷却回路のライン(11)に、弁制御システム(3)の下流に且つラジエーター(2)の入口に配置されていてよい。これらの2つの温度センサも、コンピュータ(4)に接続されている。第1のセンサ(101)は、エンジン出口での冷却液の温度(T1)を測定するように働く。第2のセンサ(102)は、ラジエーター(2)の入口での冷却液温度を測定するように働く。費用がかかるために、従来の自動車は、エンジン試験のためにしか使用されないこの第2のセンサ(102)を装備していない。よって、エンジン車両の運転中のエンジン温度を調整するのに必要な全ての測定値は、第1の温度センサ(101)によって得られる。
【0029】
前記装置は、弁制御システムの第1の開放が行われているかどうかを決定する制御モジュール(45)も備えており、それというのは、該装置は、この第1の開放後にのみ使用されるからである。実際、弁制御システムの第1の開放の際には、エンジン温度と温度設定点との間での温度差は、段階的な設定点を使用するには大きすぎる。
【0030】
始動時に起こる第1の開放は、熱衝撃が過度に大きくなることを防止するように働く手段を使用することによって、達成することができる。このために、標準の設定点が110℃である弁制御システムの第1の開放が早期に起こる。これは、装置が、冷却液温度が110℃ではなく90℃となった時に弁制御システムの開放を可能にする手段を有することを意味する。これは、サーモスタットの加熱抵抗器(31)を使用することによって達成される。前記開放が行われると、制御モジュール(45)は、第1の開放が行われたことを示す値(TC)を推測する。本発明による調整装置における第1の開放を制御する手段として使用されるのは、前記制御モジュール(45)である。
【0031】
よって、第1のセンサ(101)が、作動中、エンジン出口で冷却液のこの温度(T1)を連続的に測定するために使用され、これにより、エンジン温度が監視され、温度設定点に達したことが点検される。
【0032】
このために、前記装置は、コンピュータ(4)内の保存手段(47)に保存されている最低温度設定点(C1)及び最高温度設定点(C2)に基づく最低温度限界(B1)及び最高温度限界(B2)を決定する、車両又はエンジンの試験台における検証(identification)によって較正されている少なくとも1つの第1の計算モジュール(41)を備えている。これらの最低温度限界(B1)及び最高温度限界(B2)は、最低温度設定点(C1)及び最高温度設定点(C2)によって形成される間隔内にある。すなわち、第1の計算モジュール(41)は、最低温度設定点(C1)より高い最低温度限界(B1)を決定し、最高温度設定点(C2)より低い最高温度限界(B2)を決定する。例えば、最低温度設定点(C1)が90℃であって最高温度設定点(C2)が110℃である場合には、最低温度限界(B1)は92℃であってよく、最高温度限界(B2)は108℃であってよい。この温度差は、安全域となる。
【0033】
前記装置は、温度設定点プロファイルを決定する、車両又はエンジン試験台における検証によって較正されている第2の計算モジュールを備えている。このために、このモジュールは、最低温度限界(B1)と最高温度限界(B2)との間のいくつかの中間温度(I1)を計算する。このような中間温度(I1)は、最低温度設定点(C1)又は最高温度設定点(C2)に漸次的に到達するために役立つ。
別態様では、前記プロファイルは、コンピュータ(4)に予め保存されている。
【0034】
前記装置は、作動中に温度センサ(101)によってエンジン出口で連続的に測定された温度(T1)を、第2の計算モジュール(42)によって計算された中間温度(I1)と比較する比較モジュール(43)も備えている。この比較は、前記2つの温度間の差(E)を決定するのに役立つ。この差(E)は、差を補正するモジュール(44)へと転送され、このモジュール(44)は、測定された差(E)に基づいて、弁制御システムが所望の温度設定点に達するために必要である(該弁制御システムの)ほぼ大きな開放を規定するように働く。
コンピュータのこの補正モジュール(44)は、加熱抵抗器をONにするためにサーモスタットの制御モジュール(46)と関連している。
【0035】
別の装置では、前記計算モジュール及び補正モジュールは、PID制御装置(比例、積分、微分)と関連していてよい。この制御装置は、調整弁に作用し、この調整弁は、ここでは、加熱抵抗器、弁等を制御するための温度調整弁である。
【0036】
この種の制御装置は3つの動作を組み合わせている。
− 比例動作(P): 制御装置の出力値は、測定値と設定点との差に直接比例する。この種の調整によって、測定値は、設定点に到達することはない。つまり、制御装置の役割は、前記差を最小限にすることである。
− 積分動作(I): 積分動作は、測定値と設定点との差を解消するように働き、それにより、調整の精度を向上させる。この動作は、差の積分(この用語の数学的な意味において)を実施することを含む。この積分動作は、実際には、比例動作と常に関連している。
− 微分動作(D): この動作は、測定値と設定点との差を微分(この用語の数学的な意味において)するものである。この微分動作は、調整応答時間を短縮し、調整を安定させる(制御される値の変動が急速である場合)役割を果たす。この微分動作は、比例動作に対して補完的となっている。
【0037】
この装置の操作を図5に示し、以下に詳説する。
エンジンの調整を開始する前、最低及び最高温度設定点が決定され、コンピュータ(4)の保存モジュール(47)に保存される(201、202)。
作動中、エンジン出口での冷却液温度(T1)が、温度センサ(101)によって連続的に測定される(200)。この温度(T1)は、コンピュータ(4)に送信される。
【0038】
制御モジュール(45)が、第1の開放が既に行われていることを示す温度(TC)を有しているのであれば、本発明によるエンジン温度の調整が開始される。
【0039】
第1の計算モジュール(41)によって、コンピュータ(4)は、最低温度設定点(C1)及び最高温度設定点(C2)を利用して、最低温度限界(B1)及び最高温度限界(B2)を決定する(210)。一般に、最低温度設定点(C1)及び最高温度設定点(C2)はそれぞれ、90℃及び110℃であり、第1の計算モジュール(41)によって決定された最低温度限界(B1)及び最高温度限界(B2)はそれぞれ、92℃及び102℃であってよい。
これらの温度限界(C1、C2)は、コンピュータ(4)の保存モジュール(47)に保存される(211、212)。
【0040】
続いて、コンピュータ(4)の第2のモジュール(42)は、最低温度限界(B1)及び最高温度限界(B2)から決定された温度プロファイルの中間温度設定点(I1)を計算し(220)、これにより、温度設定点(C1、C2)への到達が漸次的に行われる。
【0041】
エンジン出口で連続的に測定された(200)温度(T1)は、様々な中間温度(I1)と比較され(230)、これにより、比較モジュール(43)を用いて差(E)が決定される。この差(E)の値は、未処理のまま、弁制御システムのほぼ大きな開放又は閉鎖(250)を決定する(240)、差を補正するモジュール(44)に送信される。この差を補正するモジュール(44)は、差(E)を補正し、それにより、設定点プロファイルに追従することによって所望の設定点に達するために必要なものである。
【0042】
補正は、制御モジュール(46)によって、抵抗器が加熱される又はされないよう加熱抵抗器(31)を制御することによって達成される。抵抗器(31)をONにすると、弁制御システムは徐々に開放され、抵抗器(31)をOFFにすると、弁制御システムは徐々に閉鎖される。
【0043】
よって、本発明による装置の操作は、以下のステップに従う。
− 最低温度設定点(C1)及び最高温度設定点(C2)を決定し、これら2つの温度設定点をコンピュータ(4)の保存手段(47)に保存し(201、202)、
− 第1の計算モジュール(41)によって、最低温度限界(B1)を最低温度設定点(C1)から、また最高温度限界(B2)を最高温度設定点(C2)から決定し(210)、これら2つの温度設定点を、コンピュータ(4)の保存手段(47)に保存し(212、212)、
− 第2の計算モジュール(42)によって、中間温度(I1)を、最低温度限界(B1)及び最高温度限界(B2)の関数として決定し(220)、
− 作動時間中、回路内に収容されている冷却液の温度(T1)を、エンジン(1)の出口で且つ弁制御システム(3)の下流で、センサ(101)により連続的に測定し(200)、
− エンジンでの温度を様々な中間温度(I1)と比較(230)し、差(E)を決定し、
−温度の差(E)を、弁制御システム(250)の開放又は閉鎖によって補正する(240)。
【0044】
ここに示す態様では、弁制御システム(3)は、サーモスタット式のものであるが、他の種類の冷却液用弁制御システム、例えば、電気的に制御され、それにより、温度以外の他の基準を調整するように働く弁を使用することもできる。
【0045】
同様に、放射の行程の例についても説明してきたが、例えば別の任意の熱交換器を使用することもできるし、エンジン熱伝達に関連ないが特定の熱衝撃レベルに曝されることのない構成要素も使用できる。
【0046】
そういった意味でも、この保護モードは、熱的な保護から利益を得ることのできる補助的な構成要素を備えている他の種類のエンジン、例えば電気エンジン又はハイブリッドシステムに適用させることができる。
【0047】
さらに、上述の例では、高温及び低温が、様々な妥協により選択される。条件の変化に応じて、他の値を適用させることもできる(より低い値又はより高い値)。
【0048】
特許請求の範囲に記載の本発明の応用領域から逸脱することがなければ、本発明が、多数の他の特定の形態の態様に適していることは当業者には明らかであろう。したがって、ここに示した態様は例示であって、添付の請求項の請求の範囲によって規定される領域において変更が可能であること、及び本発明が上述の詳細に限定されてはならないということを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】標準的な温度調整に関する時間の関数としての温度変化を概略的に示す。
【図2】本発明による設定点上昇を伴う漸次的な調整に関する時間の関数としての変化温度を概略的に示す。
【図3】本発明による設定点降下を伴う漸次的な調整に関する時間の関数としての変化温度を概略的に示す。
【図4】本発明による装置を概略的に示す。
【図5】本発明による方法を概略的に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン温度を調整するための装置であって、
エンジン(1)をラジエーター(2)に接続する内燃エンジン(1)の冷却回路のライン(11)に配置されている弁制御システム(3)を備えており、前記ライン(11)が、エンジン(1)の出口に且つ弁制御システム(3)の上流に配置されている温度センサ(101)を備えており、前記弁制御システム(3)が、温度設定点に加熱される冷却液の作用下で自動式に開放される装置であって、
予め規定された設定点プロファイルに応じて、保存された最低温度設定点(C1)と保存された最高温度設定点(C2)との間にわたる範囲の温度設定点を変動させる手段(31)を備えており、これにより、前記弁制御システムをほぼ大きく開放したまま維持することによって前記エンジンの温度が前記最低設定点又は前記最高設定点に漸次的に到達し、熱衝撃を減少させ、さらに、前記弁制御システムの第1の開放を制御し、当該弁制御システムの第1の開放が既に行われたかどうかを点検する手段(45、TC)を備えていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記予め規定された設定点プロファイルに応じて前記弁制御システムをほぼ大きく開放する前記手段が、前記弁制御システム(3)のワックスプラグの温度を早期に上昇させて逆止弁(32)の開放を起こさせるか又は下降させて逆止弁(32)の閉鎖を起こさせる加熱抵抗器(31)からなり、コンピュータ(4)に配置された計算手段によって制御されていることを特徴とする、請求項1に記載のエンジン温度を調整する装置。
【請求項3】
前記コンピュータ(4)に配置されている計算手段が、前記コンピュータ(4)内の保存手段(47)に保存されている最低温度設定点(C1)及び最高温度設定点(C2)に共通に基づいて、最低温度限界(B1)及び最高温度限界(B2)を決定する、少なくとも1つの第1の計算モジュール(41)と、前記最低温度限界(B1)と前記最高温度限界(B2)との間の設定点プロファイルのいくつかの中間温度(I1)を計算する、第2の計算モジュール(42)と、作動中に温度センサ(101)によってエンジン出口で連続的に測定される温度(T1)を、前記第2の計算モジュール(42)によって計算された前記中間温度(I1)と比較し、前記2つの温度(T1、I1)間の差(E)を決定する比較モジュール(43)と、前記差を補正して、測定された前記差(E)に基づいて、所望の温度設定点に到達するために必要なサーモスタットの開放を規定するように働くモジュール(44)とからなっていることを特徴とする、請求項2に記載のエンジン温度を調整するための装置。
【請求項4】
前記コンピュータ(4)に配置されている前記計算手段が、前記補正モジュール(44)と関連するサーモスタット制御モジュール(46)を備えていることを特徴とする請求項3に記載のエンジン温度を調整する装置。
【請求項5】
前記弁制御システムの第1の開放が既に行われている場合に、前記温度設定点を変動させ、これにより、前記エンジン温度が最高温度に漸次的に到達することを特徴とする、請求項1に記載の装置を実施するエンジン温度を調整する方法。
【請求項6】
以下のステップ、つまり、
− 最低温度設定点(C1)及び最高温度設定点(C2)を決定し、これら2つの温度設定点をコンピュータ(4)の保存手段(47)に保存し(201、202)、
− 第1の計算モジュール(41)によって、最低温度限界(B1)を最低温度設定点(C1)から、また最高温度限界(B2)を最高温度設定点(C2)から決定し(210)、これら2つの温度設定点を、コンピュータ(4)の保存手段(47)に保存し(212、212)、
− 第2の計算モジュール(42)によって、中間温度(I1)を、最低温度限界(B1)及び最高温度限界(B2)の関数として決定し(220)、
− 作動時間中、回路内に収容されている冷却液の温度(T1)を、エンジン(1)の出口で且つ弁制御システム(3)の下流で、センサ(101)により連続的に測定し(200)、
− エンジンでの温度(T1)を様々な中間温度(I1)と比較(230)し、それにより、差(E)を決定し、
− 温度の差(E)を、弁制御システム(250)の開放又は閉鎖によって補正する(240)ステップを含むことを特徴とする、請求項5に記載のエンジン温度を調整する方法。
【請求項7】
前記最低温度設定点(C1)が80℃〜85℃であり、前記最高温度設定点(C2)が100℃〜120℃であることを特徴とする、請求項6に記載のエンジン温度を調整する方法。
【請求項8】
前記最低温度設定点(C1)が90℃であり、前記最高温度設定点(C2)が110℃であることを特徴とする、請求項7に記載のエンジン温度を調整する方法。
【請求項9】
前記最低温度設定点(C1)が90℃である場合に、前記最低温度限界(B1)が92℃であり、前記最高温度設定点(C2)が110℃である場合に前記最高温度限界(B2)が108℃であることを特徴とする、請求項8に記載のエンジン温度を調整する方法。
【請求項10】
前記弁制御システム(3)の開放及び閉鎖(250)が、当該弁制御システム(3)に配置されている加熱手段(31)をONにすることによって行われ、前記加熱手段(31)が、温度設定点(C1、C2)に早期に到達し、前記弁制御システムの開放又は閉鎖(250)が可能となることを特徴とする、請求項6に記載のエンジン温度を調整する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−523948(P2009−523948A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−550821(P2008−550821)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/FR2007/050663
【国際公開番号】WO2007/083065
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)