説明

内燃機関のオイルポンプ

【課題】インナーリリーフ方式のオイルポンプにおいて、オイルの温度に応じてリリーフ圧を自動設定することを簡単な構造で実現すると共に、動きの確実性も担保する。
【解決手段】ケースを構成する蓋2に、オイル吸引空間10とオイル吐出空間11とが形成されている。蓋2に、両空間10,11に連通したリリーフ通路17と、リリーフ通路17を開閉制御するリリーフ弁18とを設けている。リリーフ弁18は、リリーフ通路17を開閉する弁体19と、弁体19を後退方向に付勢するばね20と、弁体19を前進方向に付勢する熱膨張部材21とを有する。熱膨張部材21が温度に応じて膨張・収縮することにより、弁体19が温度に応じて前進し、リリーフ通路17の閉じ量(或いは開き量)が温度に応じて変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のオイルポンプに関し、より詳しくは、リリーフ弁が内蔵されたインナーリリーフ方式オイルポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関では潤滑のためにオイルポンプが使用されているが、潤滑経路でオイルの圧力が過度に高くなると動力損失が増えると共にオイル漏れ等の原因になる。そこで、リリーフ弁を設けて、オイルが所定の圧力に高くなるとオイルを系外に逃がすように設定している。そして、リリーフ弁は、オイルポンプとは異なる場所に設ける場合とオイルポンプに内蔵する場合とがあり、リリーフ弁をオイルポンプに内蔵したインナーリリーフ方式の一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1では、弁体は頭付きの筒状になっており、この弁体は、オイル通路とドレン通路とに連通した弁穴にスライド自在に嵌まっていると共に、その頭をオイル通路に露出させ得る状態で熱膨張部材とピストンとばねとで支持されており、油温が低い状態では弁体は後退していて、オイルの一部がオイル通路から弁穴を通ってドレン通路に逃げることが許容されており、油温が高くなると、弁体が前進して弁穴が塞がれることにより、オイルがドレン通路に逃げることが阻止される。
【0004】
つまり、特許文献1では、油温が低いとリリーフ圧は低く、油温が高いとリリーフ圧が高くなるように、油温に応じてリリーフ圧が自動設定される。従って、粘度が低い低温時にはリリーフ圧を低くしてエンジンの負担を軽減し、粘度が高い高温時にはリリーフ圧を高くして適切な潤滑を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭56−31606号のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1はリリーフ弁に温度感応機能を持たせたものであり、そのこと自体は優れていると言える。しかし、特許文献1はオイルのリリーフ手段としてポンプ本体にわざわざドレン通路を形成しなければならないため、構造が複雑化するという問題である。
【0007】
また、オイルは弁体が嵌まっている弁穴を通ってドレン通路に逃げるため、弁体が大きく後退しないとオイルは弁穴に入ることはできず、このため、リリーフ機能の確実性に問題があると推測される。つまり、弁体が後退してもばねの力が変化する訳ではないため、弁体が弁穴に嵌まっている状態では、熱膨張部材の膨張量に関係なくオイルは弁穴に逃げることができない現象が発生して、温度応答性がよくない可能性が高いと推測される。
【0008】
本願発明は、リリーフ弁に温度感応によるリリーフ圧自動設定機能を持たせる点は特許文献1と共通しつつ、構造が簡単で温度応答性が高いインナーリリーフ方式オイルポンプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明のオイルポンプは、ロータを内蔵したケースに、互いに分離したオイル吸引空間とオイル吐出空間とが、前記ロータの回転軸心を挟んで反対側に位置するように形成されており、前記オイル吸引空間の一端部とオイル吐出空間の一端部の間、及び、前記オイル吸引空間の他端部とオイル吐出空間の他端部との間は、それら両空間の相互間にオイルが流れることを阻止する締め切り部になっている、という基本構成になっている。
【0010】
そして、前記締め切り部に、前記オイル吐出空間からオイル吸引空間にオイルを逃がし得るリリーフ通路と、前記リリーフ通路を流れるオイルの量を制御するリリーフ弁とが設けられており、前記リリーフ弁は、進退動自在な弁体と、油温が上昇するとオイルのリリーフ量が減少して油温が低下するとオイルのリリーフ量が増大するように前記弁体の進退動を制御する温度感応性付勢手段とを備えている。
【0011】
本願発明は請求項2の構成も含んでいる。この発明は、請求項1において、前記ロータの一端面の一部が前記リリーフ通路に露出している一方、前記弁体は、ばねによって前記ロータから離反する後退方向に付勢されていると共に、前記温度感応性付勢手段の一例である熱膨張性部材で前進可能に支持されており、更に、前記弁体の最前進位置と最後退位置とを規制するストッパー手段を設けており、前記弁体が前進し切った状態で当該弁体と前記ロータとの間に僅かの隙間が保持されるように設定している。
【発明の効果】
【0012】
本願発明は、温度感応性付勢手段で弁体を前進させてリリーフ圧を自動調節するものであり、従って、始動時のような低温時に油圧が必要以上に高くなってオイルの抵抗がエンジンの過大な負荷になることを防止できる。そして、本願発明では、リリーフオイルをオイルポンプのオイル吐出空間からオイル吸引空間に戻すものであるため、ケースの構造は簡単であって現実性・実用性に優れている。
【0013】
また、本願発明は、特許文献1のようにオイルを弁穴に逃がすのではなく、リリーフ通路を弁体で開閉制御することでオイルの逃がし量を調節するものであるため、弁体の進退量はオイルが逃げ量と直結しており、このため、温度に応じてオイルを逃がす温度感応性に優れている。
【0014】
特に、請求項2のように弁体をばねで後退方向に付勢して熱膨張部材で前進方向に付勢すると、弁体の前進位置をしっかりと保持できるため、温度感応性がより一層優れている。また、請求項2の発明では、ストッパー手段によって弁体の最前進位置が規制されるため、弁体がロータに当たるようなことはなくて、安全性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るオイルポンプを示す図で、(A)は蓋を取り外した状態での平面図、(B)は(A)のB−B視断面図である。
【図2】図1(A)のII-II 視断面図である。
【図3】弁体が前進し切った状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本願発明の実施形態に基づいて説明する。なお、以下の説明で使用する「平面視」は、ロータの軸方向から見た状態を言う。本実施形態のオイルポンプはトロコイドポンプであり、本体1と蓋2とから成るケースを有している。図1(A)では蓋2は実線では表示しておらず、一部を一点差線で示している。本体1には真円形の凹所3が形成されており、この凹所3にリング状のアウターロータ4が回転自在に嵌め込まれている。アウターロータ4の内部には、インナーロータ5が嵌め込まれている。なお、アウターロータ4とインナーロータ5とは、それぞれアウターギアとインナーギアと呼びことも可能である。
【0017】
アウターロータ4の内周には平面視半円状の内向き突起6が周方向に等間隔で多数形成されている一方、インナーロータ5の外周には平面視山形の外向き突起7が周方向に沿って多数形成されている。そして、インナーロータ5は駆動軸8に固定されており、駆動軸8がエンジンの動力で回転するが、インナーロータ5の回転軸心(すなわち駆動軸8の回転軸心)O1は、アウターロータ4の回転軸心O2に対して若干の寸法だけずれている(偏心している。)。
【0018】
突起6,7は噛み合い関係にあるため、インナーロータ5を回転させるとアウターロータ4も一緒に回転するが、アウターロータ4とインナーロータ5との回転軸心が偏心していることにより、突起6,7の噛み合いは、偏心方向に延びる中心線9を挟んだ一方の側(紙面の右側)では、回転方向(A方向)に向かって手前側から前方側に向かって深くなり、逆に、偏心方向に延びる中心線9を挟んだ他方の側(紙面の左側)では、回転方向(A方向)に向かって手前側から前方側に向かって浅くなっている。
【0019】
蓋2には、ロータ4,5に向いて開口したオイル吸引空間10とオイル吐出空間11とが形成されている。なお、図1(A)では両空間10,11のエリアを平行斜線で示しているが、これは空間10,11の位置と形状とを明確化するための便宜的な措置であり、平行斜線は断面表示ではない。オイル吸引空間10は突起6,7の噛み合いが徐々に浅くなる領域に位置しており、平面視で突起6,7の群と重なるように円弧状に延びている。他方、オイル吐出空間11は突起6,7の噛み合いが徐々に深くなる領域に位置しており、平面視で突起6,7の群と重なるように円弧状に延びている。
【0020】
オイル吸引空間10とオイル吐出空間11とは、ロータ4,5の偏心方向に延びる中心線9を挟んだ両側に位置しており、互いに分離している。従って、オイル吸引空間10とオイル吐出空間11との間には、ロータ4,5の噛み合いが最も深い一端部の間に位置した第1締め切り部12と、ロータ4,5の噛み合いが最も浅い他端部の間に位置した第2締め切り部13とが存在している。
【0021】
また、オイル吸引空間10とオイル吐出空間11とは、第1締め切り部12に近い部位の横幅が最も小さくて第2締め切り部13に近い部位が最も幅広になるように形成されている。以下の説明でては、便宜的に、オイル吸引空間10は、第1締め切り部12に近い端部を始端部と呼び、第2締め切り部13に近い端部を終端部と呼ぶ。他方、オイル吐出空間11は、第2締め切り部13に近い端部を始端部と呼び、第1締め切り部12に近い端部を終端部と呼ぶ。オイル吸引空間10の始端部には吸引通路14が連しており、オイル吐出空間11の終端部には吐出通路15が連通している。
【0022】
蓋2のうち第1締め切り部12の箇所には、オイル吸引空間10の始端部とオイル吐出空間11の終端部とを連通させる細幅のリリーフ通路17が形成されていると共に、リリーフ通路17を開閉制御するリリーフ弁18を設けている。リリーフ弁18は、リリーフ通路17を塞ぐように配置された弁体19と、弁体19をロータ4,5と反対側の後退方向に付勢するばね20と、弁体19をロータ4,5の方向に前進させ得る熱膨張部材21とを有している。熱膨張部材21は温度感応性付勢手段の一例である。
【0023】
弁体19は丸棒状の形態で蓋2に設けたガイド穴22に嵌まっており、ロータ4,5の軸線と同じ方向にスライドする。弁体19は外筒23を有しており、外筒23の内側にばね20を配置している。蓋2には、ばね20を支持する受け座24が形成されている。また、外筒23は弁体19の上方に突出しており、このため、弁体19にはロータ4,5と反対側に開口して凹所25が形成されており、この凹所25に熱膨張部材21を配置している。蓋2には弁体19を囲う筒状ボス部26が外向きに突設されており、筒状ボス部26にねじ込んだキャップ27で熱膨張部材21を支持している。
【0024】
以上の構成において、駆動軸8が回転すると、オイルパンに溜まっているオイルは、オイル吸引空間10から両ロータ4,5の隙間に吸引され、両ロータ4,5の突起(歯)6,7の間に溜まったオイルは、第2締め切り部13を追加してオイル吐出空間11のエリアに移行し、このエリアで両ロータ4,5の突起6,7の噛み合いが徐々に深くなることにより、オイルはオイル吐出空間11に強制的に押し出されて、吐出通路15に排出される。これがオイルポンプの基本的な働きである。
【0025】
そして、始動時のようにオイルの温度が低い状態では熱膨張部材21は縮んだ状態になっているため、弁体19はばね20によって後退位置に付勢されており、このため、加圧されたオイルの一部がオイル吐出空間11からリリーフ通路17を通ってオイル吸引空間10に戻る。このため、オイルの圧力が過大になることを防止して、機関に過大な負荷がかかることを防止できる。
【0026】
他方、オイルの温度が高くなると熱膨張部材21が膨張し、弁体19はばね20に抗して前進する。このため、オイル吐出空間11からリリーフ通路17を通ってオイル吸引空間10に戻るオイルの量は減少し、オイルの圧力は高くなる。そして、オイルのリリーフ量は油温の上昇に従って徐々に低下して行き、熱膨張部材21が膨張し切って弁体19が前進し切った状態では、オイルのリリーフ量はゼロになる。
【0027】
そして、図3に示すように、弁体19が前進し切った状態では、弁体19の外筒23が蓋2の受け座24に当接すると共に、弁体19の前端とロータ4,5の端面との間に若干の寸法Eの隙間が空くように設定している。この寸法Eは、オイルは殆ど又は全く流れることがない寸法に設定しており、このため、弁体19とロータ4,5と接触することを防止しつつ、リリーフ通路17の閉じ機能を確保できる。本実施形態では、外筒23と受け座24とが弁体19の最前進位置を規制するストッパー手段になっており、また、外筒23とキャップ27とが弁体19の最後退位置を規制するストッパー手段になっている。
【0028】
以上のように、オイルをオイル吐出空間11からオイル吸引空間10に戻す単純な構造であるため、全体として構造を簡素化できると共に、油温に応じてリリーフ量を調節する温度感応性に優れている。
【0029】
本願発明は、上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、温度感応性付勢手段は膨張部材には限らず、バイメタルのように温度変化によって形状が変化するものも採用できる。ガスを透過しない弾性素材で形成した風船状部材に空気を封入したものも採用できる。オイルポンプはトロコイド方式には限らず、ギアポンプやベーンポンプなども採用可能である。図1に二点鎖線で示すように、第2締め切り部13にリリーフ弁18を設けることも可能である(第2締め切り部13の方がスペース的な余裕があるので設計面から見ると好ましい。)。オイル吸引空間及びオイル吐出空間を本体に設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明は内燃機関に実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 ケースを構成する本体
2 ケースを構成する蓋
4 アウターロータ
5 インナーロータ
6,7 突起(歯)
8 駆動軸(回転軸)
9 ロータの偏心方向に延びる中心線
10 オイル吸引空間
11 オイル吐出空間
12,13 締め切り部
14 吸引通路
15 吐出通路
17 リリーフ通路
18 リリーフ弁(弁装置)
19 弁体
20 ばね
21 熱膨張部材
23 外筒
24 受け座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータを内蔵したケースに、互いに分離したオイル吸引空間とオイル吐出空間とが、前記ロータの回転軸心を挟んで反対側に位置するように形成されており、前記オイル吸引空間の一端部とオイル吐出空間の一端部の間、及び、前記オイル吸引空間の他端部とオイル吐出空間の他端部との間は、それら両空間の相互間にオイルが流れることを阻止する締め切り部になっている構成であって、
前記締め切り部に、前記オイル吐出空間からオイル吸引空間にオイルを逃がし得るリリーフ通路と、前記リリーフ通路を流れるオイルの量を制御するリリーフ弁とが設けられており、前記リリーフ弁は、進退動自在な弁体と、油温が上昇するとオイルのリリーフ量が減少して油温が低下するとオイルのリリーフ量が増大するように前記弁体の進退動を制御する温度感応性付勢手段とを備えている、
内燃機関のオイルポンプ。
【請求項2】
前記ロータの一端面の一部が前記リリーフ通路に露出している一方、前記弁体は、ばねによって前記ロータから離反する後退方向に付勢されていると共に、前記温度感応性付勢手段の一例である熱膨張性部材で前進可能に支持されており、更に、前記弁体の最前進位置と最後退位置とを規制するストッパー手段を設けており、前記弁体が前進し切った状態で当該弁体と前記ロータとの間に僅かの隙間が保持されるように設定している、
請求項1に記載した内燃機関のオイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96279(P2013−96279A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238567(P2011−238567)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】