内燃機関のクランク軸用の軸受装置
【課題】 ジャーナル部の部位毎に主軸受に作用する圧力に応じて上側半割軸受の軸受有効幅を設定しながらも、生産性に優れ、且つ、クランクピン用軸受側への給油が安定して行われる内燃機関のクランク軸用の軸受装置を提供する。
【解決手段】 各々のジャーナル部2に作用する圧力に応じて上側半割軸受5の油溝7の油溝幅を設定して上側半割軸受5の軸受有効幅を変化させることにより、各々のジャーナル部2に対する主軸受4に十分な油膜厚さを形成させることが可能となる。また、各々のジャーナル部2における上側半割軸受5の油溝7の断面積を一定とし、上側半割軸受5の油溝7の油溝幅に応じて油溝7の深さを設定することにより、各々の上側半割軸受5の油溝7内を流れる油の流量が一定となり、クランクピン10の表面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面間への油の供給を安定して行うことができる。
【解決手段】 各々のジャーナル部2に作用する圧力に応じて上側半割軸受5の油溝7の油溝幅を設定して上側半割軸受5の軸受有効幅を変化させることにより、各々のジャーナル部2に対する主軸受4に十分な油膜厚さを形成させることが可能となる。また、各々のジャーナル部2における上側半割軸受5の油溝7の断面積を一定とし、上側半割軸受5の油溝7の油溝幅に応じて油溝7の深さを設定することにより、各々の上側半割軸受5の油溝7内を流れる油の流量が一定となり、クランクピン10の表面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面間への油の供給を安定して行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸のジャーナル部を支承する複数の主軸受が、各々、上側半割軸受と下側半割軸受とを組み合わせて円筒形状となる一対の半割軸受から構成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置であって、前記クランク軸の内部には、前記ジャーナル部を直径方向に貫通する第1内部油路と、該第一油内部油路とクランクピンの外周面とを連通するように形成された第2内部油路と、を形成し、前記上側半割軸受の内周面には、周方向に沿って油溝を形成し、前記ジャーナル部の各々において、前記上側半割軸受の油溝の幅方向中央部位置と前記ジャーナル部の表面に開口する前記第1内部油路の油孔の中心位置とが整合するように形成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多気筒内燃機関のクランク軸は、複数のジャーナル部を有し、各々のジャーナル部では、一対の半割軸受から成る主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支持される。主軸受に対しては、オイルポンプによって吐出された油が、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーから主軸受の壁に貫通形成された供給穴を通じて主軸受の内周面に沿って形成された油溝内に送り込まれる。また、ジャーナル部の直径方向に第1内部油路が貫通形成され、この第1内部油路の両端に開口した油孔が油溝と連通し、さらにまた、ジャーナル部の第1内部油路から分岐してクランクアーム部を通り、クランクピンの外周面に貫通形成された第2内部油路に連通している。かくして、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから主軸受の壁に形成された供給穴を通じて主軸受の内周面に形成された油溝内に送り込まれた油は、主軸受の摺動面および第1内部油路、第2内部油路を経て、第2内部油路の端部出口から、クランクピンとクランクピン用軸受の摺動面間に供給される。
【0003】
また、多気筒内燃機関では、ジャーナル部の部位毎に主軸受に作用する圧力が異なる。すなわち、ジャーナル部の部位毎に回転偏心量が異なるが、回転偏心量が大きいジャーナル部を支持する主軸受のうち、特に油溝を形成した一方の上側半割軸受において油膜厚さが十分に確保できなくなる。このため、ジャーナル部の部位毎に主軸受に作用する圧力の大小に応じて上側半割軸受の軸受有効幅を設定することにより、各々の主軸受の油膜厚さを最適化した軸受装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−222087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示される技術のように、ジャーナル部の部位毎に主軸受に作用する圧力の大小に応じて上側半割軸受の軸受有効幅を設定するには、ジャーナル部の部位毎に上側半割軸受の幅寸法を変化させることにより容易になしえるが、軸受幅が異なった複数種類の上側半割軸受が必要となるため、生産効率が悪い。このため、上側半割軸受の軸受幅を一定とし、油溝の幅寸法を変化させることにより上側半割軸受の軸受有効幅を主軸受に作用する圧力に応じて設定する試みを行ったが、クランクピン用軸受側への油の給油量がジャーナル部の部位毎にばらついてしまうという問題が発生することが判明した。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ジャーナル部の部位毎に主軸受に作用する圧力に応じて上側半割軸受の軸受有効幅を設定しながらも、生産性に優れ、且つ、クランクピン用軸受側への給油が安定して行われる内燃機関のクランク軸用の軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、クランク軸のジャーナル部を支承する複数の主軸受が、各々、上側半割軸受と下側半割軸受とを組み合わせて円筒形状となる一対の半割軸受から構成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置であって、前記クランク軸の内部には、前記ジャーナル部を直径方向に貫通する第1内部油路と、該第1内部油路とクランクピンの外周面とを連通するように形成された第2内部油路と、を形成し、前記上側半割軸受の内周面には、周方向に沿って油溝を形成し、前記ジャーナル部の各々において、前記上側半割軸受の油溝の幅方向中央部位置と前記ジャーナル部の表面に開口する前記第1内部油路の油孔の中心位置とが整合するように形成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置において、前記主軸受は、前記ジャーナル部の各々において、その幅寸法が一定であると共に、前記上側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置と前記下側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置とが整合するように形成され、前記上側半割軸受の油溝は、前記ジャーナル部の各々において、その幅寸法が前記上側半割軸受の内周面に対し作用する圧力に応じて設定されると共に、その断面積が一定であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明においては、請求項1記載の内燃機関のクランク軸用の軸受装置において、前記上側半割軸受の油溝は、その幅寸法が前記第1内部油路の油孔径の30%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明においては、ジャーナル部の各々における主軸受の幅寸法を一定とし、上側半割軸受の油溝の幅寸法を変化させることにより上側半割軸受の軸受有効幅を主軸受に作用する圧力に応じて設定することが可能であり、上側半割軸受に油溝を形成する工程を除いて、複数の主軸受を共通の工程で製造できるため、生産性に優れる。また、ジャーナル部の各々における上側半割軸受の油溝の断面積を一定とし、上側半割軸受の油溝の幅寸法に応じて油溝の深さを設定することにより、各々の上側半割軸受の油溝内を流れる油の流量が一定となり、クランクピン表面とクランクピン用軸受の摺動面間への油の供給を安定して行うことができる。
【0010】
また、ジャーナル部の各々において、上側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置と下側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置とが整合するように形成されることにより、一方の半割軸受の内周面から他方の半割軸受の内周面に油がスムーズに流れる。このため、上側半割軸受及び下側半割軸受の全ての内周面に油膜を形成し、摩擦損失を低減することができる。なお、軸受有効幅とは、主軸受の内周面のうちジャーナル部を摺動する摺動面の幅方向の長さであり、上側半割軸受の場合には、その内周面の幅方向の両端部間の長さから油溝の幅方向の長さを差し引いた値に相当する。
【0011】
また、請求項2に係る発明のように、上側半割軸受の油溝は、その幅寸法が第1内部油路の油孔径の30%以上であることが好ましい。上側半割軸受の油溝の幅寸法が第1内部油路の油孔径の30%未満であると、ジャーナル部の表面に開口する第1内部油路の油孔と連通する面積が小さくなり過ぎるため、クランクピン側への油の供給量が少なくなってしまう。一方、上側半割軸受の油溝の幅寸法が第1内部油路の油孔径の30%以上である場合には、その影響が少なくなるが、50%以上とすることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】4気筒内燃機関のクランク軸用の軸受装置における各々のジャーナル部の回転偏心量を説明するための概念図である。
【図2】クランク軸のジャーナル部を支持する一対の半割軸受からなる主軸受の側面図である。
【図3】回転偏心量が大きい1,3、5番ジャーナル部に対する上側半割軸受の平面図である。
【図4】回転偏心量が小さい2、4番ジャーナル部に対する上側半割軸受の平面図である。
【図5】クランク軸のジャーナル部の第1内部油路とクランクピンへの第2内部油路との関係を説明するための概念図である。
【図6】図3に示す上側半割軸受に形成した油溝の横断面図である。
【図7】図4に示す上側半割軸受に形成した油溝の横断面図である。
【図8】主軸受の軸受有効幅の幅方向両端部の位置を整合させなかった場合における油の非供給領域を説明するための主軸受の平面図である。
【図9】下側半割軸受の平面図である。
【図10】上側半割軸受の油溝幅と第1内部油路の油孔径との関係を説明するための拡大図である。
【図11】上側半割軸受に形成した別実施形態に係る油溝の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図1乃至図11を参照して説明する。図1は、4気筒内燃機関のクランク軸1用の軸受装置における各々のジャーナル部2の回転偏心量を説明するための概念図であり、図2は、クランク軸1のジャーナル部2を支持する一対の半割軸受からなる主軸受4の側面図であり、図3は、回転偏心量が大きい1,3、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの平面図であり、図4は、回転偏心量が小さい2、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dの平面図であり、図5は、クランク軸1のジャーナル部2の第1内部油路9とクランクピン10への第2内部油路11との関係を説明するための概念図であり、図6は、図3に示す上側半割軸受5A,5C,5Eに形成した油溝7の横断面図であり、図7は、図4に示す上側半割軸受5B,5Dに形成した油溝7の横断面図であり、図8は、主軸受4の軸受有効幅の幅方向両端部の位置を整合させなかった場合における油の非供給領域を説明するための主軸受4の平面図であり、図9は、下側半割軸受6の平面図であり、図10は、上側半割軸受5の油溝幅と第1内部油路9の油孔径との関係を説明するための拡大図であり、図11は、上側半割軸受5に形成した別実施形態に係る油溝7の横断面図である。なお、上記した図は、実施形態に係る軸受装置の概略図であり、構成,構造等を理解し易くするために各箇所が誇張あるいは省略して描かれている。
【0014】
図1には、直列4気筒の内燃機関においてクランク軸1の5ヶ所のジャーナル部2(2A〜2E)が、上側半割軸受5(5A〜5E)及び下側半割軸受6(6A〜6E)から構成される5個の主軸受4で支持される軸受装置を示す。一般的には、多気筒型内燃機関の場合、気筒内圧が最大となる圧縮行程においてクランク軸1の各々のジャーナル部2に過大な圧力が作用するが、その作用時期が燃焼タイミングに応じてずれる関係上、各々のジャーナル部2で回転偏心量に差が生じる。本実施形態に係る直列4気筒の内燃機関では、図1に示すように、クランク軸1の5ヶ所のジャーナル部2がフロント(Fr)側からリア(Rr)側に向けて1番から5番の番号が付されると、1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eの回転偏心量が大きく、また、2番、4番ジャーナル部2B,2Dの回転偏心量が小さくなる。すなわち、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eでは、回転偏心量が小さい2番、4番のジャーナル部2B,2Dよりも主軸受4の内周面が受ける圧力が大きくなる。このため、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eでは、回転偏心量が小さい2番、4番ジャーナル部2B,2Dよりもジャーナル部2の表面と主軸受4の内周面との間の油膜厚さが小さくなる。
【0015】
また、図2に示すように、各々の主軸受4は、上側半割軸受5(5A〜5E)と下側半割軸受6(6A〜6E)とを組み合わせて円筒形状となる一対の半割軸受(すべり軸受)から構成される。また、上側半割軸受4の内周面には、周方向に沿って油溝7を形成し、上側半割軸受4の壁厚を貫通した油供給穴8と連通する。この油溝7は、クランク軸1のジャーナル部2の表面に開口する第1内部油路9の油孔と連通するように形成されている。
【0016】
上記したように、1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eは、油膜厚さが小さくなりがちであり、2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dよりも1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの軸受有効幅を大きくし、十分な油膜厚さを確保する必要がある。しかし、単に2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dよりも1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの軸受幅を大きくすると、軸受幅が異なる主軸受4を製造する必要があり、生産性が悪く高価となる。これに対して、本実施形態では、図3及び図4に示すように、各々のジャーナル部2に対する主軸受4の軸受幅Lを同じにしながら、図3に示した回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝幅W1を、図4に示した回転偏心量が小さい2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dの油溝幅W2よりも相対的に小さくするように形成されている。このため、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの軸受有効幅を大きくし、油膜厚さを十分に確保することができる。
【0017】
なお、主軸受4の油溝幅や軸受有効幅は、内燃機関の仕様により異なるので、一定ではない。具体的な主軸受4の油溝幅や軸受有効幅は、対象とする内燃機関の各々のジャーナル部2の回転偏心量、主軸受に作用する圧力、及び油膜厚さを、公知の測定方法や解析計算により求めて決めればよい。
【0018】
図5に示すように、内燃機関のクランク軸1のジャーナル部2用の主軸受4への油の供給は、まず、主軸受4の外部から上側半割軸受5の壁厚を貫通して形成される油供給穴8を介して内周面に形成された油溝7内に供給され、その油が主軸受4の摺動面に供給される。クランク軸1の内部には、ジャーナル部2を直径方向に貫通する第1内部油路9と、第1油内部油9とクランクピン10の外周面とを連通するように形成された第2内部油路11と、を備えている。また、第1内部油路9は、上側半割軸受5の油溝7と整合するようにジャーナル部2の外周面に油孔として開口される。このため、上側半割軸受5の油溝7内に供給された油は、第1内部油路9、第2内部油路11を介してコンロッド3内部におけるクランクピン10の外周面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面へも連続的に供給されるようになっている。
【0019】
また、各々のジャーナル部2に対する上側半割軸受5においては、油溝7の軸方向の断面積が同じとなるように形成されている。図6は、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝7(図3参照)の横断面図を示し、図7は、回転偏心量が小さい2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dの油溝7(図4参照)の横断面図を示す。図6及び図7に示すように、各々のジャーナル部2に対する上側半割軸受5の油溝7は、油溝幅W1が小さいほど油溝深さD1を深くし、油溝幅W2が大きいほど油溝深さD2を浅くするように、油溝幅に応じて油溝深さを設定するとともに、油溝7の断面積を同じとする。これにより、各々のジャーナル部2に対する主軸受4の外部から油溝7内に供給される油の量が同じとなるので、各々の主軸受4から各々のクランクピン10の外周面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面への油の供給量が一定になる。
【0020】
例えば、単に各々のジャーナル部2に対する上側半割軸受5の油溝7の油溝幅を異ならせただけで、油溝深さを同じにした場合、油溝7の断面積が同じではなく油溝7を流れる油量が異なるので、各々のジャーナル部2に対する主軸受4から各々のクランクピン10の外周面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面へ供給される油量が一定にならない。このため、油溝7の断面積が小さい上側半割軸受5の油溝7からクランク軸1の第1内部油路9、第2内部油路11を介してクランクピン10の外周面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面への油の供給量が不十分になってしまう。
【0021】
また、例えば、下側半割軸受6の内周面の軸受有効幅について、下側半割軸受6の摺動面として必要最低限の油膜厚さを確保する程度とすると、下側半割軸受6の軸受有効幅の幅方向両端部の位置が、上側半割軸受5の軸受有効幅の幅方向両端部の位置と整合しなくなる。この場合には、図8に示すように、下側半割軸受6の内周面とジャーナル部2の表面との間をジャーナル部2の回転方向に流れた油は、上側半割軸受5の内周面のジャーナル部2の回転方向の後方側の周方向端部であって上側半割軸受5の軸受有効幅の幅方向両端部の領域(図8のグレーで示す領域)に供給され難くなり、ジャーナル部2の表面と直接接触し、摩擦損失の増加や焼付が起き易くなる。
【0022】
これに対し、本実施形態では、図9に示すように、下側半割軸受6の軸受幅を上側半割軸受5の軸受幅と同じにして、各々の軸受有効幅の幅方向両端部の位置を整合させるので、このような問題が起きない。なお、主軸受4の内周面の幅方向の両端部には、一般的に面取がなされる。このため、主軸受4の幅方向端部の位置と軸受有効幅の幅方向の端部の位置とは一致するとは限らない。
【0023】
また、図10に示すように、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝幅W1(図3参照)は、ジャーナル部2の外周面に開口するクランク軸1の第1内部油路9の油孔径φHの30%以上となるように形成されている。これら上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝7の油溝幅W1が第1内部油路9の油孔径φHの30%未満であると、ジャーナル部2の表面に開口する第1内部油路9の油孔と連通する面積が小さくなり過ぎるため、クランクピン10側への油の供給量が少なくなってしまう。一方、これら上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝7の油溝幅W1が第1内部油路9の油孔径φHの30%以上である場合には、その影響が少なくなるが、50%以上とすることがより好ましい。
【0024】
また、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する主軸受4、及び回転偏心量が小さい2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する主軸受4は、上側半割軸受5に油溝7を形成する工程を除いて、複数の主軸受4を共通の工程で製造できるため、生産性に優れる。また、各々のジャーナル部2に作用する圧力に応じて上側半割軸受5の油溝7の油溝幅及び油溝深さを設定して上側半割軸受5の軸受有効幅を変化させることにより、各々のジャーナル部2に対する主軸受4に十分な油膜厚さを形成させることが可能となり、さらにクランクピン10側への油の供給も安定して行うことができる。
【0025】
なお、上側半割軸受5の油溝7は、本実施形態に示した断面形状に限定されない。図11に示すように、上側半割軸受5の油溝7は、逆台形の断面形状やR形状等の断面形状であってもよい。
【0026】
また、本実施形態では、上側半割軸受5の油溝7の油溝深さは、周方向に亘って一定としたが、これに限定されない。例えば、上側半割軸受5の油溝7の油溝深さは、上側半割軸受5の周方向中央付近で最大で、周方向端部へ向かって次第に小さくなるように形成してもよく、または、上側半割軸受5の周方向中央部付近で最小で、周方向端部へ向かって次第大きくなるように形成してもよい。このとき、上側半割軸受5の油溝7の油溝深さを変化させるとしても、各々のジャーナル部2に対する上側半割軸受5の油溝7の断面積を任意の位置(角度)で同じにすればよい。
【0027】
また、本実施形態では、上側半割軸受5の油溝7は、上側半割軸受5の内周面の周方向全体に亘って形成し、周方向両端面に開口させた例を示したが、これに限定されない。例えば、上側半割軸受5の油溝7は、上側半割軸受5の周方向端面に必ずしも開口させなくてもよい。また、下側半割軸受6は、周方向端部の内周面側に部分的な油溝7を形成し、上側半割軸受5の油溝7と連通させるようにしてもよい。
【0028】
また、本実施形態では、多気筒内燃機関として4気筒内燃機関で、クランク軸1の5ヶ所のジャーナル部2を5個の主軸受4で支持する例を示したが、これに限定されない。複数の気筒を有し、複数のジャーナル部2を主軸受4が支持する他の型の内燃機関にも適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 クランク軸
2 ジャーナル部(2A〜2E)
4 主軸受
5 上側半割軸受(5A〜5E)
6 下側半割軸受(6A〜6E)
7 油溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸のジャーナル部を支承する複数の主軸受が、各々、上側半割軸受と下側半割軸受とを組み合わせて円筒形状となる一対の半割軸受から構成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置であって、前記クランク軸の内部には、前記ジャーナル部を直径方向に貫通する第1内部油路と、該第一油内部油路とクランクピンの外周面とを連通するように形成された第2内部油路と、を形成し、前記上側半割軸受の内周面には、周方向に沿って油溝を形成し、前記ジャーナル部の各々において、前記上側半割軸受の油溝の幅方向中央部位置と前記ジャーナル部の表面に開口する前記第1内部油路の油孔の中心位置とが整合するように形成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多気筒内燃機関のクランク軸は、複数のジャーナル部を有し、各々のジャーナル部では、一対の半割軸受から成る主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支持される。主軸受に対しては、オイルポンプによって吐出された油が、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーから主軸受の壁に貫通形成された供給穴を通じて主軸受の内周面に沿って形成された油溝内に送り込まれる。また、ジャーナル部の直径方向に第1内部油路が貫通形成され、この第1内部油路の両端に開口した油孔が油溝と連通し、さらにまた、ジャーナル部の第1内部油路から分岐してクランクアーム部を通り、クランクピンの外周面に貫通形成された第2内部油路に連通している。かくして、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから主軸受の壁に形成された供給穴を通じて主軸受の内周面に形成された油溝内に送り込まれた油は、主軸受の摺動面および第1内部油路、第2内部油路を経て、第2内部油路の端部出口から、クランクピンとクランクピン用軸受の摺動面間に供給される。
【0003】
また、多気筒内燃機関では、ジャーナル部の部位毎に主軸受に作用する圧力が異なる。すなわち、ジャーナル部の部位毎に回転偏心量が異なるが、回転偏心量が大きいジャーナル部を支持する主軸受のうち、特に油溝を形成した一方の上側半割軸受において油膜厚さが十分に確保できなくなる。このため、ジャーナル部の部位毎に主軸受に作用する圧力の大小に応じて上側半割軸受の軸受有効幅を設定することにより、各々の主軸受の油膜厚さを最適化した軸受装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−222087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示される技術のように、ジャーナル部の部位毎に主軸受に作用する圧力の大小に応じて上側半割軸受の軸受有効幅を設定するには、ジャーナル部の部位毎に上側半割軸受の幅寸法を変化させることにより容易になしえるが、軸受幅が異なった複数種類の上側半割軸受が必要となるため、生産効率が悪い。このため、上側半割軸受の軸受幅を一定とし、油溝の幅寸法を変化させることにより上側半割軸受の軸受有効幅を主軸受に作用する圧力に応じて設定する試みを行ったが、クランクピン用軸受側への油の給油量がジャーナル部の部位毎にばらついてしまうという問題が発生することが判明した。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ジャーナル部の部位毎に主軸受に作用する圧力に応じて上側半割軸受の軸受有効幅を設定しながらも、生産性に優れ、且つ、クランクピン用軸受側への給油が安定して行われる内燃機関のクランク軸用の軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、クランク軸のジャーナル部を支承する複数の主軸受が、各々、上側半割軸受と下側半割軸受とを組み合わせて円筒形状となる一対の半割軸受から構成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置であって、前記クランク軸の内部には、前記ジャーナル部を直径方向に貫通する第1内部油路と、該第1内部油路とクランクピンの外周面とを連通するように形成された第2内部油路と、を形成し、前記上側半割軸受の内周面には、周方向に沿って油溝を形成し、前記ジャーナル部の各々において、前記上側半割軸受の油溝の幅方向中央部位置と前記ジャーナル部の表面に開口する前記第1内部油路の油孔の中心位置とが整合するように形成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置において、前記主軸受は、前記ジャーナル部の各々において、その幅寸法が一定であると共に、前記上側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置と前記下側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置とが整合するように形成され、前記上側半割軸受の油溝は、前記ジャーナル部の各々において、その幅寸法が前記上側半割軸受の内周面に対し作用する圧力に応じて設定されると共に、その断面積が一定であることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に係る発明においては、請求項1記載の内燃機関のクランク軸用の軸受装置において、前記上側半割軸受の油溝は、その幅寸法が前記第1内部油路の油孔径の30%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明においては、ジャーナル部の各々における主軸受の幅寸法を一定とし、上側半割軸受の油溝の幅寸法を変化させることにより上側半割軸受の軸受有効幅を主軸受に作用する圧力に応じて設定することが可能であり、上側半割軸受に油溝を形成する工程を除いて、複数の主軸受を共通の工程で製造できるため、生産性に優れる。また、ジャーナル部の各々における上側半割軸受の油溝の断面積を一定とし、上側半割軸受の油溝の幅寸法に応じて油溝の深さを設定することにより、各々の上側半割軸受の油溝内を流れる油の流量が一定となり、クランクピン表面とクランクピン用軸受の摺動面間への油の供給を安定して行うことができる。
【0010】
また、ジャーナル部の各々において、上側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置と下側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置とが整合するように形成されることにより、一方の半割軸受の内周面から他方の半割軸受の内周面に油がスムーズに流れる。このため、上側半割軸受及び下側半割軸受の全ての内周面に油膜を形成し、摩擦損失を低減することができる。なお、軸受有効幅とは、主軸受の内周面のうちジャーナル部を摺動する摺動面の幅方向の長さであり、上側半割軸受の場合には、その内周面の幅方向の両端部間の長さから油溝の幅方向の長さを差し引いた値に相当する。
【0011】
また、請求項2に係る発明のように、上側半割軸受の油溝は、その幅寸法が第1内部油路の油孔径の30%以上であることが好ましい。上側半割軸受の油溝の幅寸法が第1内部油路の油孔径の30%未満であると、ジャーナル部の表面に開口する第1内部油路の油孔と連通する面積が小さくなり過ぎるため、クランクピン側への油の供給量が少なくなってしまう。一方、上側半割軸受の油溝の幅寸法が第1内部油路の油孔径の30%以上である場合には、その影響が少なくなるが、50%以上とすることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】4気筒内燃機関のクランク軸用の軸受装置における各々のジャーナル部の回転偏心量を説明するための概念図である。
【図2】クランク軸のジャーナル部を支持する一対の半割軸受からなる主軸受の側面図である。
【図3】回転偏心量が大きい1,3、5番ジャーナル部に対する上側半割軸受の平面図である。
【図4】回転偏心量が小さい2、4番ジャーナル部に対する上側半割軸受の平面図である。
【図5】クランク軸のジャーナル部の第1内部油路とクランクピンへの第2内部油路との関係を説明するための概念図である。
【図6】図3に示す上側半割軸受に形成した油溝の横断面図である。
【図7】図4に示す上側半割軸受に形成した油溝の横断面図である。
【図8】主軸受の軸受有効幅の幅方向両端部の位置を整合させなかった場合における油の非供給領域を説明するための主軸受の平面図である。
【図9】下側半割軸受の平面図である。
【図10】上側半割軸受の油溝幅と第1内部油路の油孔径との関係を説明するための拡大図である。
【図11】上側半割軸受に形成した別実施形態に係る油溝の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図1乃至図11を参照して説明する。図1は、4気筒内燃機関のクランク軸1用の軸受装置における各々のジャーナル部2の回転偏心量を説明するための概念図であり、図2は、クランク軸1のジャーナル部2を支持する一対の半割軸受からなる主軸受4の側面図であり、図3は、回転偏心量が大きい1,3、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの平面図であり、図4は、回転偏心量が小さい2、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dの平面図であり、図5は、クランク軸1のジャーナル部2の第1内部油路9とクランクピン10への第2内部油路11との関係を説明するための概念図であり、図6は、図3に示す上側半割軸受5A,5C,5Eに形成した油溝7の横断面図であり、図7は、図4に示す上側半割軸受5B,5Dに形成した油溝7の横断面図であり、図8は、主軸受4の軸受有効幅の幅方向両端部の位置を整合させなかった場合における油の非供給領域を説明するための主軸受4の平面図であり、図9は、下側半割軸受6の平面図であり、図10は、上側半割軸受5の油溝幅と第1内部油路9の油孔径との関係を説明するための拡大図であり、図11は、上側半割軸受5に形成した別実施形態に係る油溝7の横断面図である。なお、上記した図は、実施形態に係る軸受装置の概略図であり、構成,構造等を理解し易くするために各箇所が誇張あるいは省略して描かれている。
【0014】
図1には、直列4気筒の内燃機関においてクランク軸1の5ヶ所のジャーナル部2(2A〜2E)が、上側半割軸受5(5A〜5E)及び下側半割軸受6(6A〜6E)から構成される5個の主軸受4で支持される軸受装置を示す。一般的には、多気筒型内燃機関の場合、気筒内圧が最大となる圧縮行程においてクランク軸1の各々のジャーナル部2に過大な圧力が作用するが、その作用時期が燃焼タイミングに応じてずれる関係上、各々のジャーナル部2で回転偏心量に差が生じる。本実施形態に係る直列4気筒の内燃機関では、図1に示すように、クランク軸1の5ヶ所のジャーナル部2がフロント(Fr)側からリア(Rr)側に向けて1番から5番の番号が付されると、1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eの回転偏心量が大きく、また、2番、4番ジャーナル部2B,2Dの回転偏心量が小さくなる。すなわち、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eでは、回転偏心量が小さい2番、4番のジャーナル部2B,2Dよりも主軸受4の内周面が受ける圧力が大きくなる。このため、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eでは、回転偏心量が小さい2番、4番ジャーナル部2B,2Dよりもジャーナル部2の表面と主軸受4の内周面との間の油膜厚さが小さくなる。
【0015】
また、図2に示すように、各々の主軸受4は、上側半割軸受5(5A〜5E)と下側半割軸受6(6A〜6E)とを組み合わせて円筒形状となる一対の半割軸受(すべり軸受)から構成される。また、上側半割軸受4の内周面には、周方向に沿って油溝7を形成し、上側半割軸受4の壁厚を貫通した油供給穴8と連通する。この油溝7は、クランク軸1のジャーナル部2の表面に開口する第1内部油路9の油孔と連通するように形成されている。
【0016】
上記したように、1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eは、油膜厚さが小さくなりがちであり、2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dよりも1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの軸受有効幅を大きくし、十分な油膜厚さを確保する必要がある。しかし、単に2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dよりも1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの軸受幅を大きくすると、軸受幅が異なる主軸受4を製造する必要があり、生産性が悪く高価となる。これに対して、本実施形態では、図3及び図4に示すように、各々のジャーナル部2に対する主軸受4の軸受幅Lを同じにしながら、図3に示した回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝幅W1を、図4に示した回転偏心量が小さい2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dの油溝幅W2よりも相対的に小さくするように形成されている。このため、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの軸受有効幅を大きくし、油膜厚さを十分に確保することができる。
【0017】
なお、主軸受4の油溝幅や軸受有効幅は、内燃機関の仕様により異なるので、一定ではない。具体的な主軸受4の油溝幅や軸受有効幅は、対象とする内燃機関の各々のジャーナル部2の回転偏心量、主軸受に作用する圧力、及び油膜厚さを、公知の測定方法や解析計算により求めて決めればよい。
【0018】
図5に示すように、内燃機関のクランク軸1のジャーナル部2用の主軸受4への油の供給は、まず、主軸受4の外部から上側半割軸受5の壁厚を貫通して形成される油供給穴8を介して内周面に形成された油溝7内に供給され、その油が主軸受4の摺動面に供給される。クランク軸1の内部には、ジャーナル部2を直径方向に貫通する第1内部油路9と、第1油内部油9とクランクピン10の外周面とを連通するように形成された第2内部油路11と、を備えている。また、第1内部油路9は、上側半割軸受5の油溝7と整合するようにジャーナル部2の外周面に油孔として開口される。このため、上側半割軸受5の油溝7内に供給された油は、第1内部油路9、第2内部油路11を介してコンロッド3内部におけるクランクピン10の外周面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面へも連続的に供給されるようになっている。
【0019】
また、各々のジャーナル部2に対する上側半割軸受5においては、油溝7の軸方向の断面積が同じとなるように形成されている。図6は、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝7(図3参照)の横断面図を示し、図7は、回転偏心量が小さい2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する上側半割軸受5B,5Dの油溝7(図4参照)の横断面図を示す。図6及び図7に示すように、各々のジャーナル部2に対する上側半割軸受5の油溝7は、油溝幅W1が小さいほど油溝深さD1を深くし、油溝幅W2が大きいほど油溝深さD2を浅くするように、油溝幅に応じて油溝深さを設定するとともに、油溝7の断面積を同じとする。これにより、各々のジャーナル部2に対する主軸受4の外部から油溝7内に供給される油の量が同じとなるので、各々の主軸受4から各々のクランクピン10の外周面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面への油の供給量が一定になる。
【0020】
例えば、単に各々のジャーナル部2に対する上側半割軸受5の油溝7の油溝幅を異ならせただけで、油溝深さを同じにした場合、油溝7の断面積が同じではなく油溝7を流れる油量が異なるので、各々のジャーナル部2に対する主軸受4から各々のクランクピン10の外周面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面へ供給される油量が一定にならない。このため、油溝7の断面積が小さい上側半割軸受5の油溝7からクランク軸1の第1内部油路9、第2内部油路11を介してクランクピン10の外周面とクランクピン用すべり軸受12の摺動面への油の供給量が不十分になってしまう。
【0021】
また、例えば、下側半割軸受6の内周面の軸受有効幅について、下側半割軸受6の摺動面として必要最低限の油膜厚さを確保する程度とすると、下側半割軸受6の軸受有効幅の幅方向両端部の位置が、上側半割軸受5の軸受有効幅の幅方向両端部の位置と整合しなくなる。この場合には、図8に示すように、下側半割軸受6の内周面とジャーナル部2の表面との間をジャーナル部2の回転方向に流れた油は、上側半割軸受5の内周面のジャーナル部2の回転方向の後方側の周方向端部であって上側半割軸受5の軸受有効幅の幅方向両端部の領域(図8のグレーで示す領域)に供給され難くなり、ジャーナル部2の表面と直接接触し、摩擦損失の増加や焼付が起き易くなる。
【0022】
これに対し、本実施形態では、図9に示すように、下側半割軸受6の軸受幅を上側半割軸受5の軸受幅と同じにして、各々の軸受有効幅の幅方向両端部の位置を整合させるので、このような問題が起きない。なお、主軸受4の内周面の幅方向の両端部には、一般的に面取がなされる。このため、主軸受4の幅方向端部の位置と軸受有効幅の幅方向の端部の位置とは一致するとは限らない。
【0023】
また、図10に示すように、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝幅W1(図3参照)は、ジャーナル部2の外周面に開口するクランク軸1の第1内部油路9の油孔径φHの30%以上となるように形成されている。これら上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝7の油溝幅W1が第1内部油路9の油孔径φHの30%未満であると、ジャーナル部2の表面に開口する第1内部油路9の油孔と連通する面積が小さくなり過ぎるため、クランクピン10側への油の供給量が少なくなってしまう。一方、これら上側半割軸受5A,5C,5Eの油溝7の油溝幅W1が第1内部油路9の油孔径φHの30%以上である場合には、その影響が少なくなるが、50%以上とすることがより好ましい。
【0024】
また、回転偏心量が大きい1番、3番、5番ジャーナル部2A,2C,2Eに対する主軸受4、及び回転偏心量が小さい2番、4番ジャーナル部2B,2Dに対する主軸受4は、上側半割軸受5に油溝7を形成する工程を除いて、複数の主軸受4を共通の工程で製造できるため、生産性に優れる。また、各々のジャーナル部2に作用する圧力に応じて上側半割軸受5の油溝7の油溝幅及び油溝深さを設定して上側半割軸受5の軸受有効幅を変化させることにより、各々のジャーナル部2に対する主軸受4に十分な油膜厚さを形成させることが可能となり、さらにクランクピン10側への油の供給も安定して行うことができる。
【0025】
なお、上側半割軸受5の油溝7は、本実施形態に示した断面形状に限定されない。図11に示すように、上側半割軸受5の油溝7は、逆台形の断面形状やR形状等の断面形状であってもよい。
【0026】
また、本実施形態では、上側半割軸受5の油溝7の油溝深さは、周方向に亘って一定としたが、これに限定されない。例えば、上側半割軸受5の油溝7の油溝深さは、上側半割軸受5の周方向中央付近で最大で、周方向端部へ向かって次第に小さくなるように形成してもよく、または、上側半割軸受5の周方向中央部付近で最小で、周方向端部へ向かって次第大きくなるように形成してもよい。このとき、上側半割軸受5の油溝7の油溝深さを変化させるとしても、各々のジャーナル部2に対する上側半割軸受5の油溝7の断面積を任意の位置(角度)で同じにすればよい。
【0027】
また、本実施形態では、上側半割軸受5の油溝7は、上側半割軸受5の内周面の周方向全体に亘って形成し、周方向両端面に開口させた例を示したが、これに限定されない。例えば、上側半割軸受5の油溝7は、上側半割軸受5の周方向端面に必ずしも開口させなくてもよい。また、下側半割軸受6は、周方向端部の内周面側に部分的な油溝7を形成し、上側半割軸受5の油溝7と連通させるようにしてもよい。
【0028】
また、本実施形態では、多気筒内燃機関として4気筒内燃機関で、クランク軸1の5ヶ所のジャーナル部2を5個の主軸受4で支持する例を示したが、これに限定されない。複数の気筒を有し、複数のジャーナル部2を主軸受4が支持する他の型の内燃機関にも適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 クランク軸
2 ジャーナル部(2A〜2E)
4 主軸受
5 上側半割軸受(5A〜5E)
6 下側半割軸受(6A〜6E)
7 油溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸のジャーナル部を支承する複数の主軸受が、各々、上側半割軸受と下側半割軸受とを組み合わせて円筒形状となる一対の半割軸受から構成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置であって、
前記クランク軸の内部には、前記ジャーナル部を直径方向に貫通する第1内部油路と、該第1内部油路とクランクピンの外周面とを連通するように形成された第2内部油路と、を形成し、前記上側半割軸受の内周面には、周方向に沿って油溝を形成し、前記ジャーナル部の各々において、前記上側半割軸受の油溝の幅方向中央部位置と前記ジャーナル部の表面に開口する前記第1内部油路の油孔の中心位置とが整合するように形成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置において、
前記主軸受は、前記ジャーナル部の各々において、その幅寸法が一定であると共に、前記上側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置と前記下側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置とが整合するように形成され、
前記上側半割軸受の油溝は、前記ジャーナル部の各々において、その幅寸法が前記上側半割軸受の内周面に対し作用する圧力に応じて設定されると共に、その断面積が一定であることを特徴とする内燃機関のクランク軸用の軸受装置。
【請求項2】
前記上側半割軸受の油溝は、その幅寸法が前記第1内部油路の油孔径の30%以上であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のクランク軸用の軸受装置。
【請求項1】
クランク軸のジャーナル部を支承する複数の主軸受が、各々、上側半割軸受と下側半割軸受とを組み合わせて円筒形状となる一対の半割軸受から構成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置であって、
前記クランク軸の内部には、前記ジャーナル部を直径方向に貫通する第1内部油路と、該第1内部油路とクランクピンの外周面とを連通するように形成された第2内部油路と、を形成し、前記上側半割軸受の内周面には、周方向に沿って油溝を形成し、前記ジャーナル部の各々において、前記上側半割軸受の油溝の幅方向中央部位置と前記ジャーナル部の表面に開口する前記第1内部油路の油孔の中心位置とが整合するように形成された内燃機関のクランク軸用の軸受装置において、
前記主軸受は、前記ジャーナル部の各々において、その幅寸法が一定であると共に、前記上側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置と前記下側半割軸受の軸受有効幅の幅方向の両端部の位置とが整合するように形成され、
前記上側半割軸受の油溝は、前記ジャーナル部の各々において、その幅寸法が前記上側半割軸受の内周面に対し作用する圧力に応じて設定されると共に、その断面積が一定であることを特徴とする内燃機関のクランク軸用の軸受装置。
【請求項2】
前記上側半割軸受の油溝は、その幅寸法が前記第1内部油路の油孔径の30%以上であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のクランク軸用の軸受装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−112472(P2012−112472A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262830(P2010−262830)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】
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