説明

内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受および分割型すべり軸受装置

【課題】互いに熱膨張率の異なる一対のハウジング分割体に、すべり軸受である一対の軸受半円筒体が装着され、内燃機関の運転によって分割型軸受ハウジングの温度が上昇した時、該軸受半円筒体の突き合わせ端面において、軸受内周面に段差が生じる問題に対処する。
【解決手段】熱膨張率の高いハウジング分割体14に支持される軸受半円筒体20と、熱膨張率の低いハウジング分割体16に支持される軸受半円筒体22について、初期状態で外径が等しく、ハウジング分割体14に支持される軸受半円筒体20の、周方向両端部領域における壁厚さが、ハウジング分割体16に支持される軸受半円筒体22の周方向両端部領域における壁厚さよりも大きくなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の軸受半円筒体を互いに組み合わせて円筒形状体として用いられる、内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受であり、その組み合わせ状態と整合する態様で2分割された円筒形状の軸受保持穴を有するとともに一対のハウジング分割体から成る分割型軸受ハウジング内に収容して用いられる前記分割型すべり軸受に関するものである(例えば、特許文献1参照)。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受は、一対の軸受半円筒体を、エンジンブロックの一部であるハウジング分割体と、軸受キャップとしてのハウジング分割体に組み付けることにより円筒形状体になる。分割型軸受ハウジングの軸受保持穴は、一対の軸受半円筒体を組み付ける前に、一対のハウジング分割体をボルトで締結した状態で、真円になるように単一作業で加工される。
また、近年、乗用車用内燃機関では、内燃機関の軽量化のために、アルミニウム合金製エンジンブロックを用いることが一般的である。この場合、クランク軸用分割型軸受ハウジングでは、一方のハウジング分割体がアルミニウム合金製エンジンブロックの一部であり、他方のハウジング分割体が鉄合金製軸受キャップである組合せが一般的である。
【0003】
一方、クランク軸用分割型すべり軸受の軸受半円筒体は、鋼製裏金と軸受合金層から成るのが普通である。一対の軸受半円筒体から成るクランク軸用分割型すべり軸受の外周面周長は、分割型軸受ハウジングの内周面周長よりも所定長だけ大きく形成されている。この寸法関係により、一対の軸受半円筒体を分割型軸受ハウジングに組付けると、一対の軸受半円筒体には、周方向圧縮応力が発生すると同時に、半径方向応力が発生する。このことによって、一対の軸受半円筒体は分割型軸受ハウジングの内周面に密着固定されるとともに、分割型軸受ハウジングは弾性変形して半径方向に膨張し、その内径が増大する。
【0004】
一対の軸受半円筒体から成るクランク軸用分割型すべり軸受の内周面とクランク軸との間には、潤滑油を供給するための軸受クリアランスが設けられている。この軸受クリアランスが過大になると、クランク軸にガタが生じ、内燃機関の振動や騒音の原因となる。
一方、分割型軸受ハウジングにおける軸受保持穴の内径、および、クランク軸の外径には製造時の加工誤差が伴うため、分割型軸受ハウジングとクランク軸との間の間隔にはバラツキが生じる。したがって、分割型すべり軸受の内周面とクランク軸との間の軸受クリアランスを適正に設定するには、適切な厚さを有する分割型すべり軸受を選択することによって、軸受クリアランスのバラツキを抑制しなければならない。
【0005】
しかるに、前記のとおり、分割型すべり軸受が分割型軸受ハウジングに組付けられる際、分割型軸受ハウジング内径は径方向に膨張変形する。かかる膨張変形が生じた場合の軸受クリアランスは、分割型軸受ハウジングにおける軸受保持穴の内径、クランク軸の外径、および、軸受半円筒体の厚さによって定まる設計上の軸受クリアランスに比して、分割型軸受ハウジングの膨張変形分だけ増大し、かかる膨張変形によってもバラツキが生じる。
このバラツキについて、特許文献2(特開平10−175131号公報)に教示があり、分割型すべり軸受の外周面周長と、分割型軸受ハウジングの軸受保持穴内径との選択的組み合わせにより、分割型軸受ハウジングの膨張変形に起因する、分割型軸受ハウジングとクランク軸との間の間隔寸法のバラツキを小さくして、軸受クリアランスのバラツキを低減化している。
【特許文献1】特開平8−210355号公報
【特許文献2】特開平10−175131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内燃機関の軽量化のために、クランク軸用分割型軸受ハウジングは、従来より低剛性化されてきている。汎用されているアルミニウム合金製エンジンブロックの採用も軽量化のためである。
ここで、分割型軸受ハウジングと、これに組み込まれる一対の軸受半円筒体から成るクランク軸用分割型すべり軸受との関係について、図9、図10を見ながら説明する。
図9は、クランク軸用分割型軸受ハウジング01を示し、軸受ハウジング01は、エンジンブロックの一部である一方のハウジング分割体02と、軸受キャップ(例えば、鉄合金製)としての他方のハウジング分割体03とで形成されている。ハウジング分割体03が、ボルト04によってハウジング分割体02に組み付けられた状態で、室温にて、機械加工により、横断面真円形状の軸受保持穴(05、06)が形成される。この後の、軸受装置組立作業は、軸受ハウジング01からボルト04を取り外し、軸受保持穴の内周面05、06に沿って、分割型すべり軸受を形成する軸受半円筒体07、08を装着し、再度、ボルト04によって、ハウジング分割体03を、ハウジング分割体02に締結することによって行なわれる(図10参照)。
【0007】
この時に一対の軸受半円筒体07、08の突き合わせ端面における軸受保持穴の内周面05、06に段差が存在せずとも、アルミニウム合金と鉄合金とでは熱膨張率が異なるため、内燃機関の運転によって分割型軸受ハウジングの温度が上昇すると、相対的に熱膨張率の低い鉄合金製軸受キャップ側のハウジング分割体03の内径(06)に対して、相対的に熱膨張率の高いアルミニウム合金製のエンジンブロック側のハウジング分割体02の内径(05)が大きくなるため、分割型軸受ハウジングの分割面における内径に熱膨張量の差による段差(図10、記号G参照)が形成され、軸受半円筒体07、08の突き合わせ端面において、軸受内周面にも段差(g)が生じる。
【0008】
一方、近年の内燃機関では、オイルポンプの小型化により、クランク軸用すべり軸受の内周面に対する潤滑油供給量が減少している。これに対応して、クランク軸用すべり軸受の内周面とクランク軸表面の間の軸受クリアランスからの潤滑油の漏れ量を少なくするために、軸受クリアランスがより小さく設定される。そのため、軸受半円筒体07、08の突き合わせ端面における軸受内周面に段差(g)が形成されていると、従来の軸受クリアランスが大きく設定された場合に比べて、潤滑油の流路断面積に対する潤滑油流の障壁になる段差面積の割合が相対的に高くなり、段差(g)による潤滑油のワイピング現象が生じて、潤滑油の漏れ量が増加し、軸受摺動面に対する潤滑油供給不良が発生するようになってきた。
【0009】
特許文献2は、内燃機関の静粛性のためにすべり軸受の内周面と軸表面の間の軸受クリアランスをより小さくする手段を教示しているが、互いに熱膨張率の異なる分割型軸受ハウジングの一対のハウジング分割体に一対の軸受半円筒体が組み付けられ、内燃機関の運転によって分割型軸受ハウジングの温度が上昇した時の該軸受半円筒体の突き合わせ端面において、軸受内周面に段差が発生する問題については何も考察されていない。
【0010】
かくして、本発明の目的は、内燃機関のクランク軸用分割型軸受ハウジングを構成する互いに熱膨張率差のある一対のハウジング分割体に、すべり軸受である一対の軸受半円筒体が組み付けられ、内燃機関の運転によって分割型軸受ハウジングの温度が上昇した時に、該軸受半円筒体の突き合わせ端面において、軸受内周面に段差が生じることによる、潤滑油のワイピング現象が発生する問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的に照らし、本発明の第一の観点によれば、以下に示す内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受が提供される。
一対の軸受半円筒体を互いに組み合わせて円筒形状体として用いられる、内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受であり、その組み合わせ状態と整合する態様で2分割された円筒形状の軸受保持穴を有する分割型軸受ハウジング内に収容して用いられる前記分割型すべり軸受において、
前記分割型軸受ハウジングが、相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体と、相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体とから成り、
前記高熱膨張率側ハウジング分割体に支持される前記軸受半円筒体を第一軸受半円筒体と称し、前記低熱膨張率側ハウジング分割体に支持される前記軸受半円筒体を第二軸受半円筒体と称するとき、非装着状態における前記第一および第二軸受半円筒体の寸法関係が、
(1)前記第一および第二軸受半円筒体の外径寸法が等しく、かつ
(2)前記第一軸受半円筒体の周方向両端部の厚さが、前記第二軸受半円筒体の周方向両端部の厚さよりも大きくなされており、
それによって、前記第一および第二軸受半円筒体が組み込まれた状態で一対の前記ハウジング分割体がボルト締結され、内燃機関の運転によって前記ハウジング分割体の温度が上昇した時に、一対の前記ハウジング分割体の突き合わせ端面に、熱膨張率の違いに基づいて、両ハウジング分割体の熱膨張量の差に起因する段差が生じても、前記第一および第二軸受半円筒体の突き合わせ端面における両軸受半円筒体の内周面が整合状態になることを特徴とする内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
ここで、前記「内周面の整合状態」について説明する。
この整合は、軸受半円筒体内周面相互の幾何学的完全一致を意味せず、内燃機関の運転によって、ハウジング分割体の温度が上昇した時に、両ハウジング分割体の突き合わせ端面における軸受保持穴内径の熱膨張変形量差を、例えば、以下に示す「熱膨張量差計算式」で求め、この値の1/2の値を、突き合わせ端部における軸受厚さの差として設定し、分割型すべり軸受および分割型軸受ハウジングの製造時における加工精度によって定まる誤差を許容するものとする。
【0012】
[数1]
ΔD=D×(T2−T1)×(α1−α2)×K ・・・ 数式1
記号の説明:
熱膨張量の差:ΔD(mm)
軸受保持穴内径:D(mm)
分割型軸受ハウジングの軸受保持穴加工温度:T1(℃)
内燃機関の定常運転時の分割型軸受ハウジングの温度:T2(℃)
高熱膨張率側の分割型軸受ハウジングの熱膨張率:α1(K−1
低熱膨張率側の分割型軸受ハウジングの熱膨張率:α2(K−1
ボルト締結による熱膨張量差の緩和係数:K
【0013】
本発明すべり軸受の第一の実施形態によれば、前記第一軸受半円筒体は、周方向長さの全体に亘ってその厚さが均一になされる。
本発明すべり軸受の第二の実施形態によれば、前記第一軸受半円筒体は、周方向長さの中央部分から両突き合わせ端面に向かってその厚さが増大する。
本発明すべり軸受の第三の実施形態によれば、前記第二軸受半円筒体は、周方向長さの全体に亘ってその厚さが均一である。
本発明すべり軸受の第四の実施形態によれば、前記第二軸受半円筒体は、周方向長さの中央部分から両突き合わせ端面に向かってその厚さが小さくなされる。
本発明すべり軸受の第五の実施形態によれば、少なくとも前記第二軸受半円筒体の内周面に、周方向に延在する多数の周方向溝が存在し、該第二軸受半円筒体の2つの周方向端面を含む前記第二軸受半円筒体の周方向端部領域に形成された前記周方向溝の深さが5μm〜20μmになされる。
本発明すべり軸受の第六の実施形態によれば、前記第一軸受半円筒体の内周面に、周方向に延在する多数の周方向溝が存在し、該第一軸受半円筒体の2つの周方向端面を含む前記第一軸受半円筒体の周方向端部領域に形成された周方向溝の深さが5μm〜20μmになされる。
本発明すべり軸受の第七の実施形態によれば、前記第一軸受半円筒体の前記内周面における前記周方向端部領域が、当該周方向端面を始点とする少なくとも円周角10°、最大で円周角50°に相当する周方向長さで規定される範囲である。
本発明すべり軸受の第八の実施形態によれば、前記第一軸受半円筒体における、前記周方向長さで規定される範囲以外の前記内周面の表面粗さが3.2μmRz以下である。
本発明すべり軸受の第九の実施形態によれば、前記第一軸受半円筒体における、前記周方向溝のピッチが0.3mm〜1.5mmである。
本発明すべり軸受の第十の実施形態によれば、
前記第二軸受半円筒体の内周面に形成された前記周方向溝の深さが、前記第一および第二軸受半円筒体の突き合わせ端面の間で生じる段差量と同等以上の大きさになされる。
【0014】
本発明の第二の観点によれば、以下に示す内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置が提供される。
一対の軸受半円筒体を互いに組み合わせて円筒形状体として用いられる、内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受と、
前記一対の軸受半円筒体の組み合わせ状態と整合する態様で2分割された円筒形状の軸受保持穴を有し、該軸受保持穴内に前記一対の軸受半円筒体を収容して保持する内燃機関のクランク軸用分割型軸受ハウジングとを含む分割型すべり軸受装置において、
前記分割型軸受ハウジングが、相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体と、相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体とから成り、
前記高熱膨張率側ハウジング分割体に支持される前記軸受半円筒体を第一軸受半円筒体と称し、前記低熱膨張率側ハウジング分割体に支持される前記軸受半円筒体を第二軸受半円筒体と称するとき、非装着状態における前記第一および第二軸受半円筒体の寸法関係が、
(1)前記第一および第二軸受半円筒体の外径寸法が等しく、かつ
(2)前記第一軸受半円筒体の周方向両端部の厚さが、前記第二軸受半円筒体の周方向両端部の厚さよりも大きくなされており、
それによって、前記第一および第二軸受半円筒体が組み込まれた状態で一対の前記ハウジング分割体がボルト締結され、内燃機関の運転によって前記ハウジング分割体の温度が上昇した時に、一対の前記ハウジング分割体の突き合わせ端面に、熱膨張率の違いに基づいて、両ハウジング分割体の熱膨張量の差に起因する段差が生じても、前記第一および第二軸受半円筒体の突き合わせ端面における両軸受半円筒体の内周面が整合状態になることを特徴とする内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【0015】
[発明の効果]
内燃機関のクランク軸用分割型軸受ハウジングが、互いに熱膨張率の異なる一対のハウジング分割体から成り、該軸受ハウジングに装着して用いられる前記分割型すべり軸受によれば、該分割型すべり軸受が一対のハウジング分割体に装着された状態で、内燃機関の運転によって前記ハウジング分割体の温度が上昇した時に、一対のハウジング分割体の突き合わせ端面(分割型軸受ハウジングの分割面)における軸受保持穴の内径に、両ハウジング分割体間の熱膨張量差が生じ、これが段差(図10、記号G参照)になって現れるが、従来の分割型すべり軸受と違って、軸受保持穴に保持される一対の軸受半円筒体の突き合わせ端面に段差が生じることは事実上ない。何故なら、熱膨張率の高いハウジング分割体に沿って装着された軸受半円筒体の突き合わせ端部の厚さが、熱膨張率の低いハウジング分割体に沿って装着された軸受半円筒体の突き合わせ端部の厚さよりも大きくなされており、その厚さの差を適切に選択することにより、一対のハウジング分割体の突き合わせ端面に生じる段差を事実上相殺できるからである。
【実施例1】
【0016】
図1は、内燃機関のクランク軸用分割型軸受ハウジング10の軸受保持穴12内に、一対の軸受半円筒体20、22から成る分割型すべり軸受を装着した状態を示す正面図である。分割型軸受ハウジング10は、アルミニウム合金製エンジンブロックの一部をなす相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体14と、鉄合金製軸受キャップとしての相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体16とで形成され、両ハウジング分割体14、16は、ボルト18で一体的に締結されている。分割型軸受ハウジング10の軸受保持穴12は、分割型すべり軸受を装着せずに、ボルト18を用いてハウジング分割体14、16を組立てた状態で、横断面真円形状の円筒形状穴を機械加工して形成したものである。
前記のように機械加工によって軸受保持穴12を形成した後の分割型軸受ハウジング10を分解して、ハウジング分割体14、16の内周面に沿って軸受半円筒体20、22を装着し、再度、ハウジング分割体14、16をボルト18で一体的に組み合わせた状態が図1に示されている。
軸受半円筒体20、22は、分割型軸受ハウジング10に組み込まれる前の初期状態で、外径が等しいものの、両者の突き合せ端部20a、22aの壁厚さが異なっている。すなわち、壁厚さの関係は、突き合せ端部20aの壁厚さが、突き合せ端部22aの壁厚さよりも大きい。また、軸受半円筒体20、22の壁厚さは、軸受半円筒体の周方向中央部20x、22xで最も大きく、突き合せ端面20b、22bに向かって、次第に小さくなされている。
【0017】
しかるに、ハウジング分割体14、16をボルト18で一体的に組み合わせた時に、軸受半円筒体20、22の突き合わせ端面20b、22b間で段差が存在せずとも、内燃機関の運転によってハウジング分割体14、16の温度が上昇した時に、前記[0007]欄で説明したとおり(図10も参照)、相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体14の突き合せ端部における熱膨張量が、相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体16の突き合せ端部における熱膨張量よりも大きいため、軸受保持穴12の内径が、両ハウジング分割体14、16間で異なり、両軸受半円筒体20,22の突き合せ端面20b、22b間で、図10に示すような、段差(g)が生じる可能性がある。しかしながら、本実施例では、軸受半円筒体20,22の初期状態における外径が等しく、また、突き合せ端部20aの壁厚さが、突き合せ端部22aの壁厚さよりも大きく、突き合せ端面20b、22bにおいて、内燃機関の運転によってハウジング分割体14,16の温度が上昇した時に、両軸受半円筒体20,22の内周面が互いに整合するように設計されており、図1に示されるような突き合せ端面20b、22bの状態になる。このため、両軸受半円筒体20,22の突き合せ端面20b、22bにおいて、潤滑油のワイピング現象が起き難い。
【0018】
現実に、両軸受半円筒体20,22の内周面が前記のように互いに整合するように構成するには、分割型軸受ハウジング10の実物(シリンダブロックと軸受キャップ)、または、実物を模して作成した分割型軸受ハウジング部分のみのモデルを用いる。
分割型軸受ハウジングの軸受保持穴に、同一形状、同一寸法の一対の軸受半円筒体を装着して、両ハウジング分割体をボルトで締結した状態で、内燃機関の定常運転時の温度に加熱し、一対の軸受半円筒体の突き合わせ端面における内径の段差寸法を真円度測定機等の測定機を用いて測定する。
この測定値を用い、相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体に装着されるべき軸受半円筒体の周方向両端部の壁厚さを、相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体に装着されるべき軸受半円筒体の周方向両端部の壁厚さよりも、実物またはモデルを用いて実際に測定した段差寸法値分だけ大きくするとよい。
【0019】
或いはまた、簡易的に、前記[0012]欄に記載した数式で求められる分割型軸受ハウジングの軸受保持穴内径の熱膨張量差の1/2の値だけ、相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体に装着されるべき軸受半円筒体の周方向両端部の壁厚さを、相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体に装着されるべき軸受半円筒体の周方向端部の壁厚さよりも大きくしてよい。
【0020】
軸受保持穴内径(D(mm))は、分割型軸受ハウジングの軸受保持穴加工温度(T1(℃))における寸法であり、軸受保持穴加工は通常は室温域にて行なわれる。また、内燃機関の定常運転時の分割型軸受ハウジングの温度(T2(℃))は、内燃機関の仕様により異なるが、一般的な乗用車用の内燃機関の場合には130℃程度である。また、
相対的に熱膨張率が異なる分割型軸受ハウジングはボルトで締結されており、分割型軸受ハウジングの突き合わせ端面では突き合わせ端面に対して垂直方向の圧縮応力が発生し、相対的に低熱膨張率側の分割型軸受ハウジングの突き合わせ端面が相対的に高熱膨張率の分割型軸受ハウジングの突き合わせ端面の熱膨張変形の抵抗となる。相対的に熱膨張率が異なるアルミニウム合金製と鉄合金製の分割型軸受ハウジングの組合せであると、分割型軸受ハウジングの分割面における軸受保持穴内径の熱膨張変形量差は、それぞれの分割型軸受ハウジングが自由状態で熱膨張した場合の熱膨張量変形量差の約3分の1程度に緩和される。(熱膨張変形の緩和係数K=1/3)
【0021】
計算例:
アルミニウム合金製ハウジング分割体(熱膨張率が23×10−6(K−1))と、鉄合金製ハウジング分割体(熱膨張率12×10−6(K−1))とを、鉄合金製ボルトで締結した時に、軸受保持穴寸法が60mmの分割型軸受ハウジングであり、軸受保持穴の加工温度が25℃、内燃機関の定常運転時の分割型軸受ハウジングの温度が130℃である場合、
熱膨張量差=60mm×(130℃−25℃)×(23×10−6(K−1)−12×10−6(K−1))×1/3=0.023mmになる。
相対的に高熱膨張率側のハウジング分割体に装着される軸受半円筒体の周方向両端部の壁厚さを、低熱膨張率側のハウジング分割体に装着される軸受半円筒体の周方向端部の壁厚さに対して、前記熱膨張量差(60mm)の1/2の値である0.0115mmだけ小さくする。
【0022】
前記[0016]欄において、「突き合せ端面20b、22bにおいて、両軸受半円筒体20,22の内周面が互いに整合する」旨述べたが、この「整合」とは、幾何学的に完全整合した状態のみに限定されない。何故なら、両軸受半円筒体の製造時、および、分割型軸受ハウジングの軸受保持穴を機械加工する時には、加工誤差が生じ、さらに、分割型軸受ハウジングに両軸受半円筒体を装着して、ボルトで分割型軸受ハウジングを再締結する時にも、前記突き合せ端面20b、22bの僅かな位置ずれを伴うからである。このため、両軸受半円筒体の一方の突き合わせ側において、半径方向で5μm以内(すなわち、±5μm以内)の段差は許容されるものとする。
【0023】
本実施例では、内燃機関用の分割型すべり軸受として最も一般的である、両軸受半円筒体の周方向中央部の厚さ(20x、22x)が最も大きく、周方向両端面に向かって厚さが減少する仕様のものを用いて説明したが、本発明は、この仕様に限定されるわけではない。本発明では、分割型軸受ハウジングに一対の軸受半円筒体を装着し内燃機関の運転によってハウジング分割体14,16の温度が上昇した時に、両軸受半円筒体の周方向両端面において内周面を整合させる限り、両軸受半円筒体の厚さが周方向全体に亘って等しい仕様、両軸受半円筒体の周方向中央部の厚さが最も小さく周方向両端面に向かって厚さが増大する仕様、または、両軸受半円筒体の内周面が曲率の異なる複数の円弧面で形成された仕様を用いてよく、あるいはまた、相互間で異なる仕様の一対の軸受半円筒体を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
また、従来の軸受半円筒体と同じく、軸受半円筒体20A、22Aの内周面側の周方向両端部にクラッシュリリーフ(20c、22c:内径拡大部)を形成してもよい(図2参照)。クラッシュリリーフを形成する場合には、相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体および相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体に装着される両軸受半円筒体のクラッシュリリーフ形成領域に直接隣接する軸受半円筒体内周面位置における軸受中心からの半径寸法(r1、r2)が、整合する(図2:r1=r2)ようにすればよい。
【実施例2】
【0025】
図3を見ながら説明する。本実施例は、実施例1と同じ分割型軸受ハウジング10を用い、相対的に熱膨張率の高いアルミニウム合金製ハウジング分割体14に、壁厚さが周方向に亘って同じ軸受半円筒体20Bを装着し、相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体16に、周方向中央部の壁厚さが最も大きく、突き合わせ端面22bに向かって厚さが減少する軸受半円筒体22(後者は、図1に示した軸受半円筒体22と同じ)を装着して、両ハウジング分割体14、16をボルト18で締結し内燃機関の運転によってハウジング分割体14,16の温度が上昇した時に、一対の軸受半円筒体20B、22の周方向両端面における内周面を整合させた状態を、図3に示す。この構成によれば、膨張変形量の大きな、相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体14に装着された軸受半円筒体20Bの内周面と、被支持軸(図示しない)との間のクリアランスを、軸受半円筒体20Bの内周面全体に亘って小さくできるので、潤滑油の漏れ防止に効果的である。なお、この場合、相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体16に組み込まれる軸受半円筒体22については、突き合わせ端面で内周面を整合させる限りにおいて形状制限はないが、内燃機関の運転時における静粛性に最も影響するすべり軸受の周方向中央部の軸受クリアランスが小さくなるように、軸受半円筒体の周方向中央部の厚さが最も大きく、周方向両端面(突き合わせ端面)に向かって厚さが減少する軸受半円筒体22を用いることが好ましい。
【実施例3】
【0026】
図4を見ながら説明する。一対のハウジング分割体14、16から成る分割型軸受ハウジング10は、ボルト18で締結されるが、ボルト締結時の応力で、相対的に低剛性でもある高熱膨張率のアルミニウム合金製ハウジング分割体14の突き合わせ端面におけるハウジング分割体14の内径が拡大し、両突き合わせ端面を含む仮想平面に対して直角方向でハウジング分割体の内径が小さい楕円形状になるように弾性変形する場合がある。この場合に、高熱膨張率のハウジング分割体14に装着された軸受半円筒体の内径と、被支持軸であるクランク軸との間の軸受クリアランスが、軸受半円筒体の周方向端面に向かって次第に拡大し、軸受クリアランスの拡大部からの潤滑油の漏れ量が多くなってしまう。その対策として、本実施例では、高熱膨張率ハウジング分割体14に装着される軸受半円筒体20Cの周方向中央部から周方向端面に向かって壁厚さを増大させている。この結果、軸受半円筒体20Cの周方向端部においても、軸受クリアランスの拡大を抑えて小さく維持することができる。
相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体16に装着された軸受半円筒体22Bは周方向全長に亘って壁厚さが均一である。軸受半円筒体22Bの壁厚さは、軸受半円筒体20Bの周方向端部の壁厚さに比して小さい。
相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体16に装着される軸受半円筒体の仕様は、突き合わせ端面における内周面を、軸受半円筒体20Bの突き合わせ端面における内周面と整合させる限りにおいて、特に制約はないが、軸受半円筒体22Bの周方向の全長に亘って軸受クリアランスを可及的に小さくして内燃機関の運転時における静粛性を高めるために、軸受半円筒体の周方向の全長に亘って壁厚さが均一な軸受半円筒体22Bを用いることが好ましい(図4参照)。
【実施例4】
【0027】
図5を見ながら説明する。本実施例では、相対的に熱膨張率の低い鉄合金製ハウジング分割体16に装着される軸受半円筒体22Cに対して、相対的に熱膨張率の高いアルミニウム合金製ハウジング分割体14に装着される軸受半円筒体20Dの周方向両端部の厚さを大きくして内燃機関の運転によってハウジング分割体14,16の温度が上昇した時に、一対の軸受半円筒体20D、22Cの突き合わせ端面における内周面を整合させる。しかしながら、軸受半円筒体20D、22Cの製造時、および、ハウジング分割体14、16から成る分割型ハウジングの軸受保持穴12を機械加工する時には、加工誤差が生じ、また、分割型軸受ハウジングに軸受半円筒体20D、22Cを装着して、ボルト18でハウジング分割体14、16を締結する時にも、ハウジング分割体14、16の突き合わせ端面(分割型ハウジングの分割面)の僅かな位置ずれを伴うため、一対の軸受半円筒体20D、22Cの一方の側の突き合わせ端面において、半径方向で最大5μm程度の段差(g)が生じる場合がある。
【0028】
図5は、ハウジング分割体14、16をボルトで締結する時に、ハウジング分割体14、16の突き合わせ面(分割型ハウジングの分割面)で位置ずれが生じて、軸受半円筒体20D、22Cの突き合わせ端面で内周面に段差(g)が生じた状態を示す。図7は、図5における軸受半円筒体20D、22Cの段差形成部Aを拡大して示す。図7では、クランク軸30が示されている。
【0029】
軸受半円筒体20D、22Cは、内周面に多数の周方向溝20d、22dが形成されている点を除いて、実施例3(図3参照)における軸受半円筒体20B、22の仕様と同じである。周方向溝20d、22dの好適溝形状は、図8に示すとおり横断面円弧形状である。図中、Hは周方向溝20d、22dの深さを示す。軸受半円筒体20Dの突き合わせ端面の一部である段差(g)を、図7における矢印Bで指示される方向で見ると、図8に示される周方向溝20dの横断面形状が、突き合わせ端面で開放された状態で現れている。
【0030】
軸受半円筒体20D、22Cの突き合わせ端面において、軸受内周面に最大で5μm程度の段差(g)が形成されたとしても、本実施例のように周方向溝20d、22dの内周面に5μm〜20μmの周方向溝が存在すれば、周方向溝の深さが段差(g)の大きさと同等以上になるので、クランク軸30の回転方向(図7:矢印X)に流れる潤滑油が、軸受半円筒体20Dの突き合わせ端面に生じた段差(g)で阻害されることなく、周方向溝20d内に進入して円滑に流れる。したがって、段差(g)による潤滑油のワイピング現象を首尾よく防止できる。
【0031】
これに対して、軸受半円筒体の内周面に周方向溝が形成されていない場合には、軸受半円筒体の突き合わせ端面に生じた段差が、クランク軸の回転方向に流れる潤滑油の進路を妨げる障壁になり、段差による潤滑油のワイピング現象が生じる。この結果、段差位置に達した潤滑油は、段差に沿って軸受の幅方向に流れ易く、十分な軸受の潤滑が保証されない。
【0032】
先に、周方向溝20d、22dの溝深さ(H)を20μm以下にすることについて述べた。その限定理由は、20μmを超えると、内燃機関運転時に、動荷重負荷を主に受けることになる軸受半円筒体の周方向中央部の摺動面で、潤滑油膜の形成が難しくなるからである。より好ましい周方向溝の深さは10μm〜15μmである。
また、軸受半円筒体の内周面に形成する周方向溝の軸受幅方向におけるピッチは、0.3mm〜1.5mmにするが、この理由は、0.3mm未満であると、周方向溝を形成する山の頂点部分の各断面積が過度に小さく、クランク軸との接触によって容易に摩耗し、摩耗量が増すと、軸受クリアランスが増大して、潤滑油の漏れ量が増加することになるからである。周方向溝のピッチが1.5mmを超えると、クランク軸からの負荷を支えることになる軸受半円筒体の軸受幅方向における山の数が少ないために、一つの山頂点で受ける面圧が高くなり、摩擦熱によって軸受半円筒体の素材強度が低下し、摩耗量の増加を招く。軸受半円筒体の摩耗を少なくするための、より好ましい周方向溝の軸受半円筒体幅方向のピッチは0.5mm〜1.2mmである。
【0033】
軸受半円筒体20D、22Cの周方向溝20d、22dは、その全内周面に形成されているが、クランク軸の回転方向とは反対の方向を向いた段差(g)が存在する側の、軸受半円筒体20D、22Cの周方向端面を始点とする所定円周角に相当する周方向長さ範囲にのみ形成してもよい。
【0034】
なお、周方向溝20d、22dの好適溝形状は、図8に示すように、横断面円弧形状であるが、横断面V字形状も好適である。
周方向溝の溝形状が横断面円弧形状の場合、軸受半円筒体の突き合わせ面の一部である段差面の約2/3以上が溝内空間であり、その溝内を潤滑油が流れる。このことは、段差量(g:図7)を実質的に1/3以下にしたのと同等の効果が得られることを示している。
周方向溝の溝形状が横断面V字形状の場合、軸受半円筒体の合わせ面の一部である段差面の約1/2以上が溝内空間であり、その溝内を潤滑油が流れる。このことは、段差量(g:図7)を実質的に1/2以下にしたのと同等の効果が得られることを示している。
周方向溝を形成するためには、刃先が円弧形状またはV字形状の切削刃を用い、旋削加工により、切削刃先の形状を軸受半円筒体の内周面に転写すればよい。
【実施例5】
【0035】
ここで、図6に示す周方向溝形成形態の別例について説明する。図6に示す軸受半円筒体20E、22Dは、図5に示す軸受半円筒体20D、22Cと概ね同じ仕様であるが、周方向溝20e、22eの形成範囲が、図5に示す例と異なる。すなわち、周方向溝20e、22eは、軸受半円筒体20E、22Dの各周方向端面を始点とする少なくとも円周角10°、最大で円周角50°に相当する周方向長さ範囲に形成されている。この構成によれば、実施例4の場合と同様に、軸受半円筒体の周方向端面に段差が生じたとしても、潤滑油のワイピング現象を効果的に防止できる。
また、周方向溝20e、22eが形成されない内周面範囲では、クランク軸用の分割型すべり軸受の通常の粗さである3.2μmRz以下になされる。この表面粗さによれば、軸受半円筒体の主荷重部となる周方向中央部の摺動面において油膜が形成され易く、すべり軸受としての十分な負荷能力が保証される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例1に係る内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受を、互いに熱膨張率の異なる軸受ハウジングから成る分割型軸受ハウジングに装着し内燃機関の運転によってハウジング分割体の温度が上昇した状態を示す正面図。
【図2】図1に示した分割型すべり軸受にクラッシュリリーフを付与した状態を示す図1と同様な図面。
【図3】本発明の実施例2に係る内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受を、互いに熱膨張率の異なる軸受ハウジングから成る分割型軸受ハウジングに装着し内燃機関の運転によってハウジング分割体の温度が上昇した状態を示す正面図。
【図4】本発明の実施例3に係る内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受を、互いに熱膨張率の異なる軸受ハウジングから成る分割型軸受ハウジングに装着し内燃機関の運転によってハウジング分割体の温度が上昇した状態を示す正面図。
【図5】本発明の実施例4に係る内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受を、互いに熱膨張率の異なる軸受ハウジングから成る分割型軸受ハウジングに装着し内燃機関の運転によってハウジング分割体の温度が上昇した状態を示す正面図。
【図6】本発明の実施例5に係る内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受を、互いに熱膨張率の異なる軸受ハウジングから成る分割型軸受ハウジングに装着し内燃機関の運転によってハウジング分割体の温度が上昇した状態を示す正面図。
【図7】図5における段差形成部Aを拡大して示す。
【図8】実施例4に示す分割型すべり軸受を構成する軸受半円筒体の内周面に形成された周方向溝の横断面形状を、軸受半円筒体の周方向端面で見た図。
【図9】互いに熱膨張率の異なる一対の軸受ハウジングから成る分割型軸受ハウジングを組立状態で示す従来例の説明図。
【図10】図9に示す分割型軸受ハウジングに、一対の軸受半円筒体から成る分割型すべり軸受を組み付け内燃機関の運転によってハウジング分割体の温度が上昇した状態を示す従来例の説明図。
【符号の説明】
【0037】
10 内燃機関のクランク軸用分割型軸受ハウジング
12 軸受保持穴
14 相対的に高熱膨張率を有するハウジング分割体
16 相対的に低熱膨張率を有するハウジング分割体
18 ボルト
20 軸受半円筒体
20A 軸受半円筒体
20B 軸受半円筒体
20C 軸受半円筒体
20D 軸受半円筒体
20E 軸受半円筒体
20a 突き合せ端部
20b 突き合せ端面
20c クラッシュリリーフ
20d 周方向溝
20e 周方向溝
22 軸受半円筒体
22A 軸受半円筒体
22B 軸受半円筒体
22C 軸受半円筒体
22D 軸受半円筒体
22a 突き合せ端部
22b 突き合せ端面
22c クラッシュリリーフ
22d 周方向溝
22e 周方向溝
30 クランク軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の軸受半円筒体を互いに組み合わせて円筒形状体として用いられる、内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受であり、その組み合わせ状態と整合する態様で2分割された円筒形状の軸受保持穴を有する分割型軸受ハウジング内に収容して用いられる前記分割型すべり軸受において、
前記分割型軸受ハウジングが、相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体と、相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体とから成り、
前記高熱膨張率側ハウジング分割体に支持される前記軸受半円筒体を第一軸受半円筒体と称し、前記低熱膨張率側ハウジング分割体に支持される前記軸受半円筒体を第二軸受半円筒体と称するとき、非装着状態における前記第一および第二軸受半円筒体の寸法関係が、
(1)前記第一および第二軸受半円筒体の外径寸法が等しく、かつ
(2)前記第一軸受半円筒体の周方向両端部の厚さが、前記第二軸受半円筒体の周方向両端部の厚さよりも大きくなされており、
それによって、前記第一および第二軸受半円筒体が組み込まれた状態で一対の前記ハウジング分割体がボルト締結され、内燃機関の運転によって前記ハウジング分割体の温度が上昇した時に、一対の前記ハウジング分割体の突き合わせ端面に、熱膨張率の違いに基づいて、両ハウジング分割体の熱膨張量の差に起因する段差が生じても、前記第一および第二軸受半円筒体の突き合わせ端面における両軸受半円筒体の内周面が整合状態になることを特徴とする内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項2】
前記第一軸受半円筒体は、周方向長さの全体に亘ってその厚さが均一であることを特徴とする請求項1に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項3】
前記第一軸受半円筒体は、周方向長さの中央部分から両突き合わせ端面に向かってその厚さが増大していることを特徴とする請求項1に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項4】
前記第二軸受半円筒体は、周方向長さの全体に亘ってその厚さが均一であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項5】
前記第二軸受半円筒体は、周方向長さの中央部分から両突き合わせ端面に向かってその厚さが小さくなっていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項6】
少なくとも前記第二軸受半円筒体の内周面に、周方向に延在する多数の周方向溝が存在し、該第二軸受半円筒体の2つの周方向端面を含む前記第二軸受半円筒体の周方向端部領域に形成された前記周方向溝の深さが5μm〜20μmになされていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項7】
前記内周面における前記周方向端部領域が、当該周方向端面を始点とする少なくとも円周角10°、最大で円周角50°に相当する周方向長さで規定される範囲である請求項6に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受

【請求項8】
前記周方向長さで規定される範囲以外の前記内周面の表面粗さが3.2μmRz以下である請求項7に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項9】
前記周方向溝のピッチが0.3mm〜1.5mmである請求項6から請求項8までのいずれか一項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項10】
前記第二軸受半円筒体の内周面に形成された前記周方向溝の深さが、前記第一および第二軸受半円筒体の突き合わせ端面の間で生じる段差量と同等以上の大きさである請求項6から請求項9までのいずれか一項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項11】
前記第一軸受半円筒体の内周面に、周方向に延在する多数の周方向溝が存在し、該第一軸受半円筒体の2つの周方向端面を含む前記第一軸受半円筒体の周方向端部領域に形成された周方向溝の深さが5μm〜20μmになされている請求項6に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項12】
前記第一軸受半円筒体の前記内周面における前記周方向端部領域が、当該周方向端面を始点とする少なくとも円周角10°、最大で円周角50°に相当する周方向長さで規定される範囲である請求項11に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項13】
前記第一軸受半円筒体における、前記周方向長さで規定される範囲以外の前記内周面の表面粗さが3.2μmRz以下である請求項12に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項14】
前記第一軸受半円筒体における、前記周方向溝のピッチが0.3mm〜1.5mmである請求項11から請求項13までのいずれか一項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受。
【請求項15】
一対の軸受半円筒体を互いに組み合わせて円筒形状体として用いられる、内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受と、
前記一対の軸受半円筒体の組み合わせ状態と整合する態様で2分割された円筒形状の軸受保持穴を有し、該軸受保持穴内に前記一対の軸受半円筒体を収容して保持する内燃機関のクランク軸用分割型軸受ハウジングとを含む分割型すべり軸受装置において、
前記分割型軸受ハウジングが、相対的に熱膨張率の高いハウジング分割体と、相対的に熱膨張率の低いハウジング分割体とから成り、
前記高熱膨張率側ハウジング分割体に支持される前記軸受半円筒体を第一軸受半円筒体と称し、前記低熱膨張率側ハウジング分割体に支持される前記軸受半円筒体を第二軸受半円筒体と称するとき、非装着状態における前記第一および第二軸受半円筒体の寸法関係が、
(1)前記第一および第二軸受半円筒体の外径寸法が等しく、かつ
(2)前記第一軸受半円筒体の周方向両端部の厚さが、前記第二軸受半円筒体の周方向両端部の厚さよりも大きくなされており、
それによって、前記第一および第二軸受半円筒体が組み込まれた状態で一対の前記ハウジング分割体がボルト締結され、内燃機関の運転によって前記ハウジング分割体の温度が上昇した時に、一対の前記ハウジング分割体の突き合わせ端面に、熱膨張率の違いに基づいて、両ハウジング分割体の熱膨張量の差に起因する段差が生じても、前記第一および第二軸受半円筒体の突き合わせ端面における両軸受半円筒体の内周面が整合状態になることを特徴とする内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項16】
前記第一軸受半円筒体は、周方向長さの全体に亘ってその厚さが均一であることを特徴とする請求項15に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項17】
前記第一軸受半円筒体は、周方向長さの中央部分から両突き合わせ端面に向かってその厚さが増大していることを特徴とする請求項15に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項18】
前記第二軸受半円筒体は、周方向長さの全体に亘ってその厚さが均一であることを特徴とする請求項15から請求項17までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項19】
前記第二軸受半円筒体は、周方向長さの中央部分から両突き合わせ端面に向かってその厚さが小さくなっていることを特徴とする請求項15から請求項17までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項20】
少なくとも前記第二軸受半円筒体の内周面に、周方向に延在する多数の周方向溝が存在し、該第二軸受半円筒体の2つの周方向端面を含む周方向端部領域に形成された前記周方向溝の深さが5μm〜20μmになされていることを特徴とする請求項15から請求項19までのいずれか1項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項21】
前記内周面における前記周方向端部領域が、当該周方向端面を始点とする少なくとも円周角10°、最大で円周角50°に相当する周方向長さで規定される範囲である請求項20に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項22】
前記周方向長さで規定される範囲以外の前記内周面の表面粗さが3.2μmRz以下である請求項21に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項23】
前記周方向溝のピッチが0.3mm〜1.5mmである請求項20から請求項22までのいずれか一項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項24】
前記第二軸受半円筒体の内周面に形成された前記周方向溝の深さが、前記第一および第二軸受半円筒体の突き合わせ端面の間で生じる段差量と同等以上の大きさである請求項20から請求項23までのいずれか一項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項25】
前記第一軸受半円筒体の内周面に、周方向に延在する多数の周方向溝が存在し、被支持軸に摺接する前記第一軸受半円筒体の内周面における周方向端部領域に形成された周方向溝の深さが5μm〜20μmになされている請求項20に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項26】
前記第一軸受半円筒体の前記内周面における前記周方向端部領域が、当該周方向端面を始点とする少なくとも円周角10°、最大で円周角50°に相当する周方向長さで規定される範囲である請求項25に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項27】
前記第一軸受半円筒体における、前記周方向長さで規定される範囲以外の前記内周面の表面粗さが3.2μmRz以下である請求項26に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。
【請求項28】
前記第一軸受半円筒体における、前記周方向溝のピッチが0.3mm〜1.5mmである請求項25から請求項27までのいずれか一項に記載された内燃機関のクランク軸用分割型すべり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−156374(P2010−156374A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333844(P2008−333844)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】