説明

内燃機関のスタータ、それを備える内燃機関、内燃機関のスタータの制御方法、及びアイドリングストップシステムの制御方法

【課題】内燃機関の停止過程に発電による制動トルクを発生させて、ピストンとクランクシャフトを最適なクランクアングルに停止して、始動時間を短縮することができる内燃機関のスタータ、それを備える内燃機関、内燃機関のスタータの制御方法、及びアイドリングストップシステムの制御方法を提供する。
【解決手段】エンジン1の停止過程に、予めピニオンギア12をリングギア3に嵌合し、リングギア3によるピニオンギア12の駆動で発生する電磁誘導作用によって発電を行う発電機構40を、ピニオンギア12の噛み合い部12aに備えると共に、発電機構40の発電量を制御することで、この発電によって生じる制動トルクを調整して、エンジン1のピストンとクランクシャフトを所定の位置に停止させるECU4を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の停止過程に発電による制動トルクを発生させて、ピストンとクランクシャフトを最適なクランクアングルに停止して、始動時間を短縮する内燃機関のスタータ、それを備える内燃機関、内燃機関のスタータの制御方法、及びアイドリングストップシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)の始動には、クランクシャフトに駆動トルクを与えて吸入、圧縮、膨張、及び排出というエンジンサイクルを発起させる始動補助装置が必要である。この始動補助装置として、アーマチャ(電気モータ)を利用したスタータが広く採用されている。中でもピニオンギアをソレノイドで軸方向に押し出し、エンジンのフライホイール外周に設置されたリングギアに嵌合する飛び込み式スタータが主流である。
【0003】
従来の飛び込み式スタータは前述のソレノイドによりピニオンギアを押し出すと同時に、押し出し機構に設けられたメーン接点でアーマチャへの通電回路を閉じてアーマチャシャフトの回転を開始させる。ピニオンギアとリングギアが嵌合してエンジンが回転を始め、燃焼が開始されるとエンジンは自立して回転を上げる。スタータの回転数(ピニオンギアとリングギアのギア比からエンジン回転数に換算)がエンジンの回転数以下の状態(以下、アシスト領域という)では、ピニオンギアはオーバーランニングクラッチおよびアーマチャシャフトと一体で回転して駆動トルクを伝達する。
【0004】
一方、エンジンの回転数がスタータの回転数を上回った状態(以下、自立運転領域)では、ローラによるロックが解除されてピニオンギアの回転はオーバーランニングクラッチ及びアーマチャシャフトの回転とは独立し、フライホイールイのリングギアと共に連れ回る。その後、エンジン始動指令が解除(スタートOFF)されるとピニオンギアを引き戻し、嵌合を解除する。
【0005】
最近では燃費改善を狙ったアイドリングストップシステムを搭載した車両での高度なエンジン始動停止動作を実現させる目的で、前述のピニオンギア押し出しと回転を独立して制御出来るスタータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。アイドリングストップシステムはエンジン停止による燃費改善効果が得られる一方で、ドライバーの発進の意志を認識する動作によって即座にエンジンを再始動し、短時間で発進準備を完了する必要がある。この装置はエンジンの停止過程に予めピニオンギアをリングギアに嵌合させて、再始動にかかる時間を短縮することができる。
【0006】
しかしながら、発進意志の認識からエンジンが運転可能な状態になるまでの始動時間は、実社会の交通流における運転で安全、且つストレス無くシステムが動作するように設定される必要があり、アイドリングストップシステムでは、より一層、始動時間を短縮する必要がある。
【0007】
始動時間の短縮には、スタータ出力の向上や燃焼開始の早期化などの始動時の技術改善だけでなく、停止時に次の始動開始に最適なクランクアングルにピストン、及びクランクシャフトを停止させる技術が必要になる。その課題に対して、オルタネータなどの電動機を用いてエンジンの停止時に制動トルクを与える装置が提案されている(例えば、特許文献2、及び特許文献3参照)。この装置はエンジンに取り付けられた発電機を利用し、発電量の調整によって運動エネルギを電気エネルギに変換してエンジン回転を制動している
。しかしながら、電動機とエンジンとを常に噛み合わせていると燃費が悪くなることや、噛み合い部の劣化が激しく、損傷してしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4232069号
【特許文献2】特開2001−027171号公報
【特許文献3】特開2007−085238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の停止過程に発電による制動トルクを発生させ、ピストンとクランクシャフトを最適なクランクアングルに停止して、始動時間を短縮することができる内燃機関のスタータ、それを備える内燃機関、内燃機関のスタータの制御方法、及びアイドリングストップシステムの制御方法を提供することである。また、内燃機関の停止時の振動を抑制することができる内燃機関のスタータ、それを備える内燃機関、内燃機関のスタータの制御方法、及びアイドリングストップシステムの制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を解決するための本発明の内燃機関のスタータは、内燃機関の始動時に内燃機関のリングギアをピニオンギアによって駆動し、内燃機関の停止過程に、予め前記ピニオンギアを前記リングギアに嵌合する内燃機関のスタータにおいて、内燃機関の停止過程に、前記リングギアによる前記ピニオンギアの駆動で発生する電磁誘導作用によって発電を行う発電機構を、前記ピニオンギアの噛み合い部に備えると共に、前記発電機構の発電量を制御することで、この発電によって生じる制動トルクを調整して、前記内燃機関のピストンとクランクシャフトを所定の位置に停止させる制御装置を備えて構成される。
【0011】
この構成によれば、内燃機関の始動時と停止時にのみピリオンギアをリングギアに嵌合するスタータのピニオンギアの噛み合い部に発電機構を備え、その発電量を制御することで、発電に伴って発生する制動トルクを調整する。これにより、目的のクランクアングルにピストンとクランクシャフトを停止して、次回の始動時間を短縮することができる。また、内燃機関の制動に必要なエネルギを電気エネルギとして回収することができ、回収したエネルギを始動時に使用することで、エネルギ損失を改善することができる。
【0012】
また、上記の内燃機関のスタータにおいて、前記発電機構を、前記ピニオンギアの内部に設ける電磁石と、前記ピニオンギアの外側に設けるコイルとから構成し、前記制御装置が、前記電磁石に供給される電流を制御することで、磁束密度を調整して、前記発電量を調整する手段を備える。
【0013】
この構成によれば、上記のスタータは、ピニオンの押し出しと回転を独立して制御できるスタータであり、そのスタータのピニオンギアの噛み合い部に発電機構を設けることで、スタータの動作に影響を与えることなく、エンジンの停止過程に発電を行うことができる。これにより、モータに発電機構を備えた場合に発生するスタータの制御への悪影響、特にピニオンの押し出しの制御への悪影響を防ぐことができる。
【0014】
なお、アーマチャシャフトに設けたスリップリングを介して、電磁石に供給される電流の制御をレギュレータによって行い、磁束密度を調整して、発電量を調整することができる。また、得られた電力は整流器によって直流に変換され、バッテリに充電することができる。
【0015】
加えて、上記の内燃機関において、前記制御装置が、前記内燃機関を含むパワープラントと該パワープラントの支持装置におけるロール振動の共振が発生する回転数の近傍の共振回転数領域内に前記内燃機関の回転数があるときに、前記発電機構の発電量を増加する手段と、圧縮圧力によるピストンの逆回転が起きないように、前記内燃機関の完全停止直前に前記発電機構の発電量を増減する手段と、を備える。
【0016】
この構成によれば、停止時に、エンジンマウントの共振を励起しやすい回転数の領域で、制動トルクを大きくすることで、その領域でのエンジンの回転数の低下が急速となり、その領域を素早く通過することで、停止時の振動を抑制することができる。また、エンジン回転の制動により完全停止する直前に、シリンダ内の圧縮圧力による逆回転現象を抑制して揺り返し振動も抑制することができる。
【0017】
上記の問題を解決するための内燃機関は、上記に記載の内燃機関のスタータを備えて構成される。この構成によれば、ピストンとクランクシャフトを所定の位置に停止することができるので、特にアイドリングストップシステムを搭載した車両の再始動時間を短縮することができる。
【0018】
上記の問題を解決するための内燃機関のスタータの制御方法は、内燃機関の始動時に内燃機関のリングギアをピニオンギアによって駆動し、内燃機関の停止過程に、予め前記ピニオンギアを前記リングギアに嵌合する内燃機関のスタータの制御方法において、内燃機関の停止過程に、前記ピニオンギアの噛み合い部に備えた発電機構が、前記リングギアによる前記ピニオンギアの駆動で発生する電磁誘導作用によって発電を行い、制動トルクを発生させて、前記内燃機関のピストンとクランクシャフトを所定の位置に停止させることを特徴とする方法である。
【0019】
この方法によれば、ピストンとクランクシャフトを所定の位置に停止することができ、再始動時間を短縮することができる。また、ピニオンギアの噛み合い部に発電機構を備えているため、スタータのピニオン押し出しと回転の制御に影響なく、発電することができる。加えて、回転速度が高いピニオンギアに発電機構を設けることで、より大きな制動トルクをエンジンに与えることができる。
【0020】
上記の問題を解決するためのアイドリングストップシステムの制御方法は、上記に記載の内燃機関のスタータを備える車両のアイドリングストップシステムの制御方法であって、内燃機関の停止過程で、予め前記ピニオンギアを前記リングギアに嵌合し、前記ピニオンギアの噛み合い部に備えた発電機が、前記リングギアによる前記ピニオンギアの駆動で発生する電磁誘導作用によって発電を行い、制動トルクを発生させて、前記内燃機関のピストンとクランクシャフトを所定の位置に停止させることを特徴とする方法である。
【0021】
この方法によれば、上記の作用効果から、アイドリングストップシステムを搭載した車両の始動時間の短縮や、停止時の振動を低減といった課題を解決することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、内燃機関の停止過程に発電による制動トルクを発生させ、ピストンとクランクシャフトを最適なクランクアングルに停止して、始動時間を短縮することができる。また、内燃機関の停止時の振動を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態の内燃機関のスタータを示した断面図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の内燃機関のスタータの動作を示した図である。
【図3】図1の一部を拡大した概略図である。
【図4】図1の回路図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の内燃機関のスタータの制御方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関のスタータ、それを備える内燃機関、内燃機関のスタータの制御方法、及びアイドリングストップシステムの制御方法について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態では、ディーゼルエンジンを例に説明するが、本発明はディーゼルエンジンに限定せずに、ガソリンエンジンにも適用することができる。
【0025】
まず、本発明に係る実施の形態の内燃機関について、図1及び図2を参照しながら説明する。エンジン(内燃機関)1は、クランクシャフト(図示しない)に固着されたフライホイール2、その外周に配置されたリングギア3、及びスタータ(始動補助装置)10を備える。スタータ10は、ハウジング11、ピニオンギア12、回転機構20、押し出し機構30、及び発電機構40を備える。また、それらと接続されるバッテリ13、メーン接点14、コンタクトプレート15、及びフィールドコイル16も備える。
【0026】
回転機構20は、アーマチャシャフト21、アーマチャ22、及びコンミテータ23を備える。この回転機構20は、図示しないECU(制御装置)により回転を制御され、ドライバーの発進の意志を認識する動作、つまりエンジン1の始動命令により、メーン接点14がコンタクトプレート15に接することで、コンミテータ23に電力が供給されて、アーマチャシャフト21に固定されたピニオンギア12を回転させることができる。
【0027】
押し出し機構30は、プランジャ31、ソレノイドコイル32、リターンスプリング33、ドライブレバー34、オーバーランニングクラッチ35、ローラストッパ36、及びスイッチ37を備える。この押し出し機構30は、ECUによりスイッチ37を制御され、プランジャ31に電力が供給されると、プランジャ31の直動により、ドライブレバー34が稼働して、オーバーランニングクラッチ35を押し出す。これにより、ピニオンギア12を押し出し、リングギア3と嵌合させることができる。
【0028】
オーバーランニングクラッチ35は、スプラインを介してアーマチャシャフト21の軸方向に摺動可能かつトルク伝達可能な円筒状に形成され、その内面にはスプリング(図示しない)により押し付け方向が規定されたローラストッパ36が設置されており、スタータ10の回転数(ピニオンギア12とリングギア3のギア比からエンジン1の回転数に換算)がエンジン1の回転数以下の状態であるアシスト領域ではピニオンギア12をアーマチャシャフト21にロックする。また、エンジン1の回転数がスタータ10の回転数を上回った状態である自立運転領域ではそのロックが解除されてピニオンギア12がエンジン1に駆動(リングギア3の回転により駆動)されるように作動する。
【0029】
上記の回転機構20と押し出し機構30は、それぞれ独立してECUにより制御することができ、ピニオンギア12を押し出して、リングギア3を回転駆動できれば、上記の構成に限定しない。例えば、ピニオンギアがギア機構を介して回転するように、プランジャの軸線上に設けて、プランジャの直動により直接ピニオンギアが押し出される構成でもよい。
【0030】
この回転機構20と押し出し機構30の動作について、図2を参照しながら説明する。エンジン1の通常稼働時、及び完全停止時は、図2の(a)に示すように、メーン接点14とコンタクトプレート15が接しておらず、通電していないため、ピニオンギア12と
リングギア3は嵌合していない。エンジン1の始動指令、又は停止指令を受けると、図2の(b)に示すように、メーン接点14とコンタクトプレート15とが接触して、回転機構20と押し出し機構30に電力が供給され、ピニオンギア12をリングギア3に嵌合する。
【0031】
ソレノイドコイル32に電力が供給され、スイッチ37を閉じて、プランジャ31に磁力を発生させる。これにより、プランジャ31が図中の右側に摺動して、ドライブレバー34を介してオーバーランニングクラッチ36をリングギア3側に押し付ける。これによりピニオンギア12をリングギア3に嵌合する。
【0032】
上記の構成により、スタータ10は、回転機構20と押し出し機構30とをそれぞれ独立してECUにより制御することができるので、エンジン1の停止過程で、予めピニオンギア12をリングギア3に嵌合することができる。これにより、再始動時にピニオンギア12をリングギア3に嵌合する動作を省略することができ、再始動時間を短縮することができる。
【0033】
次に、本発明の発電機構40について、図3を参照しながら説明する。発電機構40は、電磁石41とステータコイル42とを備える。また、それらに接続される整流器43、レギュレータ44、及び各スリップリング45が設けられ、前述の回転機構20と押し出し機構30とからなる回路と接続する。加えて、これらをエンジン1の回転数を検出するクランク角センサ5などのセンサと接続されるECU4と接続する。
【0034】
本発明のピニオンギア12を、リングギア3よりも幅広に形成する。これにより、噛み合い部12aのオーバーランニングクラッチ35側に、リングギア3と嵌合しない部分を設けることができ、その部分に円筒状に形成された電磁石41を配置することができる。この電磁石41は、アーマチャシャフト21の内部に配設された各スリップリング45を介して、レギュレータ44から電力を受け取る。
【0035】
ステータコイル42は、ハウジング11の内部又は内周面に設けられており、上記の電磁石41と発電機構40を形成する。このステータコイル42を設けるため、ハウジング11をピニオンギア12の噛み合い部12aに接近するように形成する。
【0036】
ピニオンギア12の噛み合い部12aに電磁石41を設け、その外側にステータコイル42を設ける構成によって、回転機構20と押し出し機構30とを独立して制御するスタータ10に発電機構40を設けることができる。前述したように、スタータ10はエンジン1の回転の始動を補助する役割を持つため、ピニオンギア12は、アシスト領域ではアーマチャシャフト21と一体に回転するが、自立運転領域ではローラストッパ36によりロックが解除されて、アーマチャシャフト21と一体に回転することができない。よって、上記のように構成することで、エンジン1の始動を補助するスタータ10に発電機能を備えることができる。
【0037】
この発電機構40を含むスタータ10の回路図を、図4に示す。コンデンサ46を境にして、図1に示す始動補助装置としての回路と、図3に示す発電機構40を含む発電回路とに分岐している。発電機構40を含む発電回路は、自立運転領域において、アーマチャシャフト21とのロックを解除されてリングギア3の回転によりピニオンギア12が回転駆動して、電磁石41を回転させることで電磁誘導を生じる。これらの構成は自動車用として一般的な三相交流発電機と同様であり、得られた電力は整流器43によって直流に変換され、バッテリ13を充電することができる。また、この発電機構40の発電量は電磁石41への供給電力をレギュレータ44で制御し、その磁束密度を変化させることで、調整することができる。
【0038】
この発電機構40は、ピニオンギア12の噛み合い部12aに設けられ、ピニオンギア12の回転により発電することができれば、上記の構成に限定しない。なお、発電機構40に接続する整流器43、レギュレータ44、及び同心円状に配置された環状の電路45aとブラシ45bとからなる各スリップリング45は、周知の技術のものを使用する。
【0039】
ECU4は、エンジンコントロールユニットと呼ばれる制御装置であり、電気回路によってエンジン1の制御を担当している電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラである。オートマチック車においては、ECU4に全ての運転状態における最適制御値を記憶させ、その時々の状態をセンサで検出し、センサからの入力信号により、記憶しているデータの中から最適値を選出し各機構を制御している。
【0040】
また、このECU4は、アイドリングストップシステムも備えており、車両の停止時間などに応じてエンジン1を停止する手段を備えると共に、回転機構20を制御する手段、押し出し機構30を制御する手段、及びレギュレータ44を制御して、発電機構40の発電量を調整する手段も備える。
【0041】
次に、このスタータ10の動作について説明する。エンジン1の停止過程において、ECU4が回転機構20と押し出し機構30を制御して、ピニオンギア12をリングギア3に嵌合する。このときアーマチャシャフト21は回転していないので、自立運転領域と同様に、ローラストッパ36によりピニオンギア12とアーマチャシャフト21とのロックは解除され、リングギア3によりピニオンギア12は回転する。
【0042】
その後、ECU4はレギュレータ44を制御して、電磁石41へ電力を供給する。ピニオンギア12と共に電磁石41が回転して、ステータコイル42との間の磁束が変化することで、電磁誘導作用による発電を行う。この発電によりエンジン1の回転を停止させる制動トルクが発生する。発電機構40の発電量を制御することにより、制動トルクを調整して、エンジン1の図示しないピストンとクランクシャフトを、再始動時に最適なクランクアングルに停止することができる。この最適なクランクアングルは、次回始動時の1圧縮目に着火温度に達することができる位置であり、好ましくは下死点から行程中間部の間である。
【0043】
上記の動作によれば、エンジン1の始動時と停止時にピニオンギア12をリングギア3に嵌合するスタータ10を用いて、エンジン1の停止過程において、発電機構40の発電により発生する制動トルクで、ピストンとクランクシャフトを再始動時に最適なクランクアングルに停止することができる。そのため、エンジン1の再始動時にかかる時間を短縮することができる。また、そのエンジン1の制動に必要なエネルギを電気エネルギとして回収することができ、回収したエネルギを始動時に使用することで、エネルギ損失を改善することができる。
【0044】
加えて、上記のスタータ10は、回転機構20と押し出し機構30とを独立して制御して、エンジン1の停止過程にピニオンギア12をリングギア3に嵌合するスタータである。そのため、発電機構40をピニオンギア12の噛み合い部12aに設けることで、そのスタータ10の動作に影響を与えることなく、エンジン1の停止過程に発電して、制動トルクを発生することができる。
【0045】
さらに、従来の方法と比べると、クランクプーリーからベルト駆動される発電機のプーリー比の1:3程度に対して、リングギア3とピニオンギア12のギア比は10:1程度と比較的大きいため、電磁石41の回転速度が高くなり、同一磁束密度、及び同一コイル長の場合は起電力を高くすることができる。その上、発電による発生トルクが同一の場合
は、ギア比が大きい方がより大きな制動トルクをエンジン1に与えることができる。
【0046】
次に、スタータ10の制御方法について、図5を参照しながら説明する。制御方法S10は、先ず、スタートすると、車両の停止指令があったか否かを判断するステップS11を行う。このエンジン1の停止指令は、運転手の停止操作によるものとアイドリングストップシステムによるものとがある。エンジン1の停止指令があると判断されると、次に、ピニオンギア12をリングギア3に嵌合するステップS12を行う。
【0047】
このステップS12では、ピニオンギア12を回転機構20により回転駆動し、クランクシャフトの回転速度の低下を予測して、その回転速度がピニオンギア12の回転速度と略同一になったときに、押し出し機構30によりピニオンギア12を押し出して、リングギア3に嵌合する方法などを用いることができる。このステップS12はエンジン1の停止過程において、ピニオンギア12をリングギア3に嵌合することができれば、上記の方法に限定しない。
【0048】
次に、レギュレータ44から電磁石41に電力を供給して、発電を開始するステップS13を行う。その後、クランク角センサ5で検知されるエンジン1の回転数が、振動制御回転範囲の下限よりも小さいか否かを判断するステップS14を行う。この振動制御回転範囲とは、エンジン1を含むパワープラントを支持するラバーマウントとのマウント共振周波数とローリング起振モーメントの主成分が一致するエンジン1の回転数(以下、共振回転数という)が、0からアイドリング回転数の範囲にあり、この共振回転数の近傍で、共振現象が顕著となるエンジン1の回転数の範囲のことをいう。このステップS13では、振動制御回転範囲を予め定めて、ECU4に登録しておく。
【0049】
ステップS14でエンジン1の回転数が、振動制御回転範囲の下限より大きいと判断されると、電磁石41へ供給される電力の電圧を上げ、磁束密度を大きくするステップS15を行う。これにより、発電量が大きくなりと共に、それにより発生する制動トルクも大きくなる。そのため、エンジン1の回転数の低下が急速になり、振動や騒音の原因となっている振動制御回転範囲をその領域を素早く通過することで、停止時の振動を抑制することができる。
【0050】
このステップS14とS15をエンジン1の回転数が、振動制御回転数範囲の下限よりも小さくなるまで行う。次に、ピストンとクランクシャフトが始動時に最適なクランクアングルで停止するか否かを判断するステップS16を行う。
【0051】
従来エンジン1が停止するときは、停止直前に圧縮行程にある気筒のピストンがクランク回転運動及びピストン往復運動の慣性力により押し上げられ、それに伴って上昇した筒内圧が慣性力と釣り合ったところで運動方向を変えて逆回転を始める。その後、筒内圧の持つ内部エネルギを逆回転の運動エネルギと機関フリクションで消費して完全停止していた。
【0052】
そこで、上記のステップS16で、クランク回転運動及びピストン往復運動の慣性力と筒内圧の差分を算出し、その差分が、最適なクランクアングルとなるピストンの停止位置で発電機構40の発生する制動トルクと釣り合うか否かを判断する。
【0053】
差分よりも制動トルクが小さいと判断されると電磁石へ供給される電力の電圧を上げ、磁束密度を大きくするステップS17を行って、制動トルクを大きくする。また、差分よりも制動トルクが大きいと判断されると電磁石41へ供給される電力の電圧を下げ、磁束密度を小さくするステップS18を行って、制動トルクを小さくする。上記のステップS16〜S18を差分と制動トルクが最適なクランクアングルで釣り合うまで行う。そして
、ピストンが最適なクランクアングルで停止するステップS19を行い、この制御方法S10は完了する。
【0054】
上記の制御方法S10によれば、上記の作用効果に加えて、停止時に、エンジンマウントの共振を励起しやすい回転数の領域である振動制御回転数範囲内で、制動トルクを特に大きくすることで、その領域でのエンジン1の回転数の低下が急速となり、その領域を素早く通過するので、停止時の振動を抑制することができる。また、エンジン1の回転の制動により完全停止直前に、シリンダ内の圧縮圧力による逆回転現象を抑制できるので、揺り返し振動も抑制することができる。加えて、スタータ10のピニオンギア12をリングギア3に常時嵌合することがないため、燃費の悪化を防止し、またピニオンギア12とリングギア3の劣化を防止することができる。
【0055】
この制御方法S10を、アイドリングストップシステムが搭載された車両に適用すると、アイドリングストップシステムを搭載した車両の始動時間の短縮、及び停止時の振動を低減するといった課題を解決することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の内燃機関は、内燃機関の通常稼働時にはピニオンギアとリングギアの嵌合を外すスタータを用いて、内燃機関の始動時にかかる時間を短縮することができるため、特にアイドリングストップシステムを搭載した車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 エンジン(内燃機関)
2 フライホイール
3 リングギア
4 ECU(制御装置)
10 スタータ
11 ハウジング
12 ピニオンギア
13 バッテリ
14 メーン接点
15 コンタクトプレート
20 回転機構
21 アーマチャシャフト
22 アーマチャ
23 コンミテータ
30 押し出し機構
31 プランジャ
32 ソレノイドコイル
33 リターンスプリング
34 ドライブレバー
35 オーバーランニングクラッチ
36 ローラストッパ
40 発電機構
41 電磁石
42 ステータコイル
43 整流器
44 レギュレータ
45 スリップリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の始動時に内燃機関のリングギアをピニオンギアによって駆動し、内燃機関の停止過程に、予め前記ピニオンギアを前記リングギアに嵌合する内燃機関のスタータにおいて、
内燃機関の停止過程に、前記リングギアによる前記ピニオンギアの駆動で発生する電磁誘導作用によって発電を行う発電機構を、前記ピニオンギアの噛み合い部に備えると共に、
前記発電機構の発電量を制御することで、この発電によって生じる制動トルクを調整して、前記内燃機関のピストンとクランクシャフトを所定の位置に停止させる制御装置を備えることを特徴とする内燃機関のスタータ。
【請求項2】
前記発電機構を、前記ピニオンギアの内部に設ける電磁石と、前記ピニオンギアの外側に設けるコイルとから構成し、
前記制御装置が、前記電磁石に供給される電流を制御することで、磁束密度を調整して、前記発電量を調整する手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関のスタータ。
【請求項3】
前記制御装置が、前記内燃機関を含むパワープラントと該パワープラントの支持装置におけるロール振動の共振が発生する回転数の近傍の共振回転数領域内に前記内燃機関の回転数があるときに、前記発電機構の発電量を増加する手段と、
圧縮圧力によるピストンの逆回転が起きないように、前記内燃機関の完全停止直前に前記発電機構の発電量を増減する手段と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関のスタータ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関のスタートを備えることを特徴とする内燃機関。
【請求項5】
内燃機関の始動時に内燃機関のリングギアをピニオンギアによって駆動し、内燃機関の停止過程に、予め前記ピニオンギアを前記リングギアに嵌合する内燃機関のスタータの制御方法において、
内燃機関の停止過程に、前記ピニオンギアの噛み合い部に備えた発電機構が、前記リングギアによる前記ピニオンギアの駆動で発生する電磁誘導作用によって発電を行い、制動トルクを発生させて、前記内燃機関のピストンとクランクシャフトを所定の位置に停止させることを特徴とする内燃機関のスタータの制御方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関のスタータを備える車両のアイドリングストップシステムの制御方法であって、
内燃機関の停止過程で、予め前記ピニオンギアを前記リングギアに嵌合し、前記ピニオンギアの噛み合い部に備えた発電機が、前記リングギアによる前記ピニオンギアの駆動で発生する電磁誘導作用によって発電を行い、制動トルクを発生させて、前記内燃機関のピストンとクランクシャフトを所定の位置に停止させることを特徴とするアイドリングストップシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−72329(P2013−72329A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210934(P2011−210934)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】