説明

内燃機関の冷却装置

【課題】シリンダブロック側の冷却水の通流を制御するための開閉弁やその制御機構を必要としない簡単な二系統冷却装置を提供する。
【解決手段】シリンダヘッド側ウォータジャケット4は、前端部の冷却水入口7と後端部の冷却水出口8とを有し、電動ウォータポンプ10によって強制的に冷却水が循環する。シリンダブロック側ウォータジャケット2は、冷却水が滞留し、自然対流のみで冷却水が移動する。両者は、シリンダヘッドガスケットの連通孔15を介して連通する。シリンダ壁5表面には、微細な空孔を有する凹凸表面構造16を備える。シリンダブロック1側は冷却水が強制循環しないので、過度の冷却が回避される。シリンダ壁5の熱負荷が高いときには、凹凸表面構造16によって核沸騰が助長され、積極的な冷却が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内燃機関の冷却装置、特に、水冷式の冷却装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンに代表される内燃機関の多くは、冷却水の強制的な循環による水冷式冷却装置を備えているが、燃焼室を囲むシリンダヘッド側では、熱負荷が高く、異常燃焼を回避するために積極的な冷却が必要であり、また、シリンダブロック側では、フリクションロスの低減や排気組成の観点から過度の冷却は好ましくない。
【0003】
そのため、従来から特許文献1等に記載されているように、シリンダブロック側ウォータジャケットとシリンダヘッド側ウォータジャケットとを互いに分離独立させ、それぞれに独立して冷却水を通流させるようにした構成のいわゆる二系統冷却装置が提案されている。このものでは、例えばウォータポンプから吐出された冷却水をシリンダヘッド側およびシリンダブロック側の双方に並列に案内し、出口で合流させて外部のラジエータ側へ取り出す構成となっており、暖機運転中にシリンダブロック側ウォータジャケットへの冷却水の通流を阻止するために、サーモスタットバルブとは別の開閉弁を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−86970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の構成では、シリンダブロック側の冷却水の通流を制御するための開閉弁やその制御機構が必要であり、構成が複雑になるとともに、ウォータポンプで吐出された冷却水が二系統に分流しかつ合流するため、圧力損失が増え、容量の大きなウォータポンプが要求される、という問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る内燃機関の冷却装置は、シリンダヘッド内部に形成されるとともに、冷却水入口および冷却水出口を有し、これらの間で冷却水が強制的に通流するシリンダヘッド側ウォータジャケットと、シリンダブロック内に形成され、かつシリンダヘッドとシリンダブロックとの間の連通孔を介して上記シリンダヘッド側ウォータジャケットに連通し、該シリンダヘッド側ウォータジャケットとの間で冷却水が自然対流するシリンダブロック側ウォータジャケットと、を備えている。そして、上記シリンダブロック側ウォータジャケットの少なくともシリンダ側壁面は、微細な空孔を有する凹凸表面構造を備えている。
【0007】
すなわち、上記構成では、シリンダヘッド側ウォータジャケットを通して、ウォータポンプにより循環される冷却水が強制的に通流し、燃焼室周囲の積極的な冷却が行われる一方、シリンダブロック側ウォータジャケットは基本的に冷却水が強制循環せず、自然対流のみによってシリンダヘッド側ウォータジャケットとの間で冷却水が移動し、シリンダ壁を相対的に弱く冷却する。そして、シリンダ壁の熱負荷が高いときには、微細な空孔を有する凹凸表面構造によって核沸騰(サブクール沸騰)が助長され、積極的な冷却が行われる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、シリンダブロック側の冷却水の通流を制御する開閉弁等を具備せずに二系統冷却を実現でき、構成の簡素化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明に係る冷却装置の第1実施例を示す構成説明図。
【図2】シリンダ壁表面部分の拡大した平面図(a)および断面図(b)。
【図3】この発明の第2実施例を示す構成説明図。
【図4】この発明の第3実施例を示す構成説明図。
【図5】シリンダヘッドガスケットの平面図(a)および断面図(b)。
【図6】この発明の第4実施例を示す要部の断面図。
【図7】冷機始動後の冷却水温度と冷却水流量の変化を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、この発明に係る冷却装置の第1実施例を示している。
【0011】
図示例は、直列4気筒内燃機関に適用したものであって、4つのシリンダを備えたシリンダブロック1の内部には、シリンダブロック側ウォータジャケット2が形成されており、その上部に配置されるシリンダヘッド3には、シリンダヘッド側ウォータジャケット4が形成されている。上記シリンダブロック側ウォータジャケット2は、例えばサイアミーズ形式として気筒列方向に4気筒が連結されたシリンダ壁5の周囲を囲むように形成されており、特に、シリンダの全高の中で熱負荷の高い上半部のみに対応して形成されている。換言すれば、シリンダ壁5の下半部は、ウォータジャケット2に囲まれることなく外部に露出している。上記シリンダブロック1は、シリンダブロック側ウォータジャケット2の上端が開口したいわゆるオープンデッキ構造に鋳造されている。
【0012】
上記シリンダヘッド側ウォータジャケット4は、基本的に長手方向つまり気筒列方向に沿って冷却水が通流できるようになっており、その前端部の比較的下方位置に冷却水入口7が設けられ、また後端部の比較的上方位置に冷却水出口8が設けられている。上記冷却水入口7には、図示せぬエンジンコントロールユニットによって速度制御可能な電動ウォータポンプ10が接続され、かつラジエータ出口通路11を介してラジエータ12のロアタンク12aに接続されている。上記冷却水出口8は、ラジエータ入口通路13を介してラジエータ12のアッパタンク12bに接続されている。なお、14はラジエータ12のファンである。
【0013】
上記シリンダブロック側ウォータジャケット2とシリンダヘッド側ウォータジャケット4との間には、後述するようにプレート状のシリンダヘッドガスケットが介在し、このシリンダヘッドガスケットに設けられた複数の連通孔(いわゆる水孔)15によって、シリンダブロック側ウォータジャケット2とシリンダヘッド側ウォータジャケット4とが連通している。
【0014】
また、上記シリンダブロック側ウォータジャケット2の冷却水が接するシリンダ壁5の表面は、微細な空孔を有する凹凸表面構造16を有している。
【0015】
図5は、上記の連通孔15を構成するシリンダヘッドガスケット21の好ましい構成例を示しており、このシリンダヘッドガスケット21は、シリンダボアに対応する4つの円形孔22を有するとともに、各々の円形孔22に沿った円弧形の4つの連通孔15を備えている。この連通孔15は、シリンダヘッド3を吸気弁(吸気ポート)側と排気弁(排気ポート)側とに2分したときに、図示するように吸気弁側の領域内に位置し、かつ機関前後方向については、上述した冷却水入口7側に片寄って位置している。
【0016】
さらに、図(b)の断面図に示すように、上記シリンダヘッドガスケット21のシリンダブロック1側の表面は、例えば親水性材料のコーティング層23などからなる親水性の特性を有している。
【0017】
上記シリンダ壁5における凹凸表面構造16は、プレス加工等による機械加工で形成してもよいが、その他の一例としては、図2(a),(b)に示すように、シリンダ壁5表面に多数の微細な柱状の空孔32を備える酸化物皮膜31が設けられている。これは、アルミニウム合金からなるシリンダブロック1の母材自体の陽極酸化膜処理によって形成される。上記空孔32の大きさとしては、その平均直径が、ナノメータないしミクロンメータのオーダとなる。この酸化物皮膜31による凹凸表面構造16の加工は、例えば、表面の研磨工程、陽極酸化工程およびエッチング工程を有し、外部から直接に機械加工することが困難なシリンダブロック側ウォータジャケット2の内部に容易に凹凸表面構造16を形成することができる。なお、空孔32の平均直径や平均深さは、アルミニウム基材の成分組成の選定、電解液の成分組成の選定、陽極酸化条件などを制御することによって、調整可能である。
【0018】
上記実施例の冷却装置においては、電動ウォータポンプ10が動作することにより、シリンダヘッド側ウォータジャケット4内では冷却水が強制的に通流し、燃焼室周囲や排気ポート周囲の積極的な冷却が行われる。これに対し、シリンダブロック側ウォータジャケット2は、強制的な冷却水の循環はなされず、該シリンダブロック側ウォータジャケット2の上下の間あるいは上方のシリンダヘッド側ウォータジャケット4との間で自然対流により冷却水が移動するに過ぎない。従って、過度の冷却がなされず、シリンダ壁5を比較的高い温度に維持することができる。
【0019】
また、高負荷時などシリンダ壁5の熱負荷が高いときには、微細な空孔32を有する凹凸表面構造16によって冷却水の核沸騰(サブクール沸騰)が助長され、潜熱を利用した積極的な冷却が行われる。従って、シリンダ壁5が過度に高温となることはない。ここで、シリンダブロック側ウォータジャケット2で発生した気泡は、連通孔15を介して上方のシリンダヘッド側ウォータジャケット4へ入り、強制循環している冷却水とともに冷却水出口8から排出され、あるいは強制循環している冷却水により温度低下して消失する。望ましくは、冷却水出口8における冷却水温度が系内圧力下での飽和温度以下となるように、ラジエータ12の放熱量や冷却水循環量等が設定されている。これにより、気泡がラジエータ12に流入せず、ラジエータ12の性能低下を回避できる。
【0020】
上記連通孔15は、望ましくは、上記のように吸気弁側に片寄って位置している。従って、シリンダブロック側ウォータジャケット2内で発生した気泡は、連通孔15を通してシリンダヘッド側ウォータジャケット4内に上昇してきた際に、熱負荷の低い相対的に低温な吸気弁側の領域に入る。従って、熱負荷の高い排気弁側の排気ポート周囲などに気泡が滞留して冷却を阻害する虞がない。また、シリンダヘッドガスケット21のシリンダブロック1側の面を親水性とすることで、シリンダブロック側ウォータジャケット2で生じた気泡がシリンダヘッドガスケット21表面に付着して滞留することが抑制され、確実にシリンダヘッド3側へ輸送される。
【0021】
また上記ウォータポンプ10は、電動ウォータポンプであることから、その流量つまりシリンダヘッド側ウォータジャケット4を循環する冷却水循環量を任意に可変制御することが可能である。例えば図7に示すように、暖機運転中には電動ウォータポンプ10の流量を少なくして暖機を促進し、冷却水温度(例えば冷却水出口8における出口温度)が所定の閾値に達したときに、流量を増加するように制御することができる。なお、暖機運転中は、電動ウォータポンプ10を完全に停止するようにしてもよい。このように電動ウォータポンプ10により冷却水の循環を可変制御することで、例えば、ラジエータ12をバイパスする公知のバイパス通路やその流路の切換を行うためのサーモスタット弁の省略が可能である。
【0022】
次に、図3は、この発明に係る冷却装置の第2実施例を示しており、この実施例では、シリンダ壁5の凹凸表面構造16の空孔32のサイズ(平均直径や平均深さ)がシリンダブロック側ウォータジャケット2の深さ位置(シリンダの高さ位置)によって異なっており、同図の(a)に示すように、上部の凹凸表面構造16aでは空孔32のサイズが相対的に小さく、下部の凹凸表面構造16bでは空孔32のサイズが相対的に大きくなっている。これにより、シリンダブロック側ウォータジャケット2の下部で発生する気泡が低減し、より熱負荷の高い部位であるシリンダ壁5上部の冷却を阻害することがない。シリンダ壁5上部では、サイズの小さな空孔32を有するより微細な凹凸表面構造16aによって積極的に気泡が生じ、効果的に冷却される。なお、空孔32のサイズが凹凸表面構造16の上端から下端に亘って連続的に変化するように構成してもよい。
【0023】
図4は、同様に、シリンダ壁5の上部のみに凹凸表面構造16を設けた第3実施例を示している。
【0024】
また、図6は、この発明の第4実施例を示しており、この実施例では、オープンデッキ構造をなすシリンダブロック1のシリンダブロック側ウォータジャケット2内に、冷却水容量を低減するためのスペーサ41が挿入されている。このスペーサ41は、例えば合成樹脂にてシリンダブロック側ウォータジャケット2に沿った形状(より詳しくは周囲に隙間が残存するように若干小さな形状)に成形されたものであって、シリンダヘッド3を組み付ける前に挿入配置される。ここで、このスペーサ41のシリンダ側の表面つまり内周面は、例えば親水性材料のコーティング層42などからなる親水性の特性を有している。なお、スペーサ41の表面全体を親水性としてもよく、あるいは親水性の材料を用いてスペーサ41を形成するようにしてもよい。このようにシリンダ壁5の凹凸表面構造16に対向するシリンダ側の表面を親水性とすることで、スペーサ41表面からの無駄な気泡発生が抑制され、また、シリンダ壁5の凹凸表面構造16で発生した気泡の上昇を阻害することがない。
【0025】
以上、この発明の一実施例を直列4気筒内燃機関を例に説明したが、この発明は、これに限定されず、例えばV型多気筒内燃機関等においても同様に適用が可能である。
【符号の説明】
【0026】
2…シリンダブロック側ウォータジャケット
4…シリンダヘッド側ウォータジャケット
5…シリンダ壁
15…連通孔
16…凹凸表面構造
21…シリンダヘッドガスケット
32…空孔
41…スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッド内部に形成されるとともに、冷却水入口および冷却水出口を有し、これらの間で冷却水が強制的に通流するシリンダヘッド側ウォータジャケットと、
シリンダブロック内に形成され、かつシリンダヘッドとシリンダブロックとの間の連通孔を介して上記シリンダヘッド側ウォータジャケットに連通し、該シリンダヘッド側ウォータジャケットとの間で冷却水が自然対流するシリンダブロック側ウォータジャケットと、を備え、
上記シリンダブロック側ウォータジャケットの少なくともシリンダ側壁面は、微細な空孔を有する凹凸表面構造を備えていることを特徴とする内燃機関の冷却装置。
【請求項2】
上記凹凸表面構造の空孔サイズがシリンダブロック側ウォータジャケットの深さ位置によって異なり、上部の空孔サイズが相対的に小さいことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項3】
シリンダブロック側ウォータジャケットの上部のみに上記凹凸表面構造を備えていることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項4】
複数の連通孔が、シリンダヘッド側ウォータジャケットの吸気弁側に片寄って配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項5】
上記連通孔は、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に介在するガスケットによって構成されており、このガスケットのシリンダブロック側の表面が親水性であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項6】
シリンダブロック側ウォータジャケットの内部に、冷却水容量を低減するスペーサが挿入されており、このスペーサの少なくともシリンダ側の表面が親水性であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項7】
上記冷却水出口における冷却水温度が飽和温度以下となるように構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。
【請求項8】
ウォータポンプとして電動ウォータポンプを備え、暖機運転中は暖機完了後よりも冷却水流量が少なく制御されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の内燃機関の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−196518(P2010−196518A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40208(P2009−40208)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】