説明

内燃機関の制御装置及び制御方法

【課題】過給機を搭載した内燃機関において冷態始動時に圧縮S/Lモードを実行した際に、過給機の作動を抑制しつつ、内燃機関のアイドル回転数の安定化が可能な内燃機関の制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る制御装置(34)は、過給機(18)を有する内燃機関(12)を搭載した車両(10)の冷態始動時に、圧縮スライトリーン制御を行った際のエンジン回転数を制御することを特徴とし、特に、吸気管(14)の吸気圧を検出する吸気圧検出手段(62)と、内燃機関をトルクアシスト可能なモータジェネレータ(28)と、吸気圧に基づいてエンジン回転数が所定の目標値になるように、モータジェネレータのアシストトルク値を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機を有する内燃機関を搭載した車両の冷態始動時に、前記内燃機関の点火時期を遅角すると共に吸排気バルブのオーバーラップを増加させる圧縮スライトリーン制御を行った際のエンジン回転数を制御する内燃機関の制御装置及び制御方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の始動時には、エンジンのクランクプーリにベルト連結されたベルトスタータージェネレータ(以下、適宜「BSG」と称する)でクランクシャフトを回転させることにより、エンジンの駆動が開始される。その後、エンジンの出力トルクは、変速機、ディファレンシャル装置、車軸等を介して駆動輪に伝達され、車両の走行が行われる。
【0003】
近年、環境意識の高まりに伴い、エンジンから排出される排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxなどの有害成分の低減が要求されている。その対策の一つとして、エンジンの排気管の途中に排気ガス浄化用の触媒を配置し、これらの有害成分の浄化を行う手法が行われている。しかしながら、触媒の浄化作用を十分に得るためには、ある程度の触媒温度が必要である。そのため、冷態始動時のように触媒温度が低い状態ではその効果を十分に得ることが困難になる。
【0004】
このような始動時の問題を解決するために、触媒温度を迅速に昇温させる技術の開発が進められており、その一例として特許文献1がある。特許文献1では、冷態始動時にエンジンの吸排気バルブの開弁期間のバルブオーバーラップ量を通常運転時より増大させると共に、燃焼室での点火時期を通常運転時より遅角(リタード)させる圧縮スライトリーンモード(以下、適宜「圧縮S/Lモード」と称する)が実施されている。圧縮S/Lモードでは、バルブオーバーラップ量の増大によって内部EGRを増大させ燃焼安定性を確保しながら燃焼速度を低下させることで、排気ガス温度が上昇するため、冷態始動時において触媒温度を迅速に昇温させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−235647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧縮S/Lモードでは上述したようにバルブオーバーラップ量が増大するため、燃焼室に流入する吸気量が増加し、それに伴い排気ガス量も増加する。その結果、過給機を搭載した車両では、アイドリング時であるにも関わらず、増加した排気ガス量によって過給機が作動してしまい、吸気量が更に増加してしまうという悪循環に陥り、アイドル時のエンジン回転数が不安定になってしまうなどの制御性の悪化を引き起こしてしまうという問題がある。特に、エンジンの出力トルクを伝達する変速機が自動変速機(A/T)のようなトルクコンバータを用いたものである場合、マニュアルトランスミッションなどに比べて伝達時のトルク損失が多いため、このような問題はより一層顕著となる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、過給機を搭載した内燃機関において冷態始動時に圧縮S/Lモードを実行した際に、過給機の作動を抑制しつつ、内燃機関のアイドル回転数の安定化が可能な内燃機関の制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内燃機関の制御装置は上記課題を解決するために、過給機を有する内燃機関を搭載した車両の冷態始動時に、前記内燃機関の点火時期を遅角する圧縮スライトリーン制御を行った際のエンジン回転数を制御する内燃機関の制御装置において、前記内燃機関の吸気管の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、前記内燃機関のクランクプーリにベルトを介して連結されることにより、前記内燃機関をトルクアシスト可能なモータジェネレータと、前記吸気圧検出手段で検出した吸気圧に基づいて、圧縮スライトリーン制御された前記内燃機関のエンジン回転数が所定の目標値になるように、前記モータジェネレータのアシストトルク値を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、内燃機関をトルクアシスト可能なモータジェネレータを備えているので、このモータジェネレータを回生駆動又は力行駆動させることによって、エンジン回転数が目標値になるようフィードバック制御することが可能となる。その結果、圧縮S/Lモード時に過給機が作動してエンジン回転数の制御性が悪化した場合であっても、モータジェネレータの駆動によってエンジン回転数が目標値になるようにアシストすることができ、制御性を改善できる。
【0010】
好ましくは、前記制御手段は、前記吸気圧検出手段が検出した吸気圧が所定値以上である場合に、前記モータジェネレータを駆動することにより、前記内燃機関をトルクアシストするとよい。この態様によれば、吸気圧が所定値以上になった場合に過給機が作動していると判定し、制御性の悪化を防止すべく、モータジェネレータによるエンジンのトルクアシストを行うことができる。
【0011】
また、前記制御手段は、前記吸気圧検出手段が検出した吸気圧が所定値以上である場合に、前記内燃機関のアイドル時の目標回転数を算出するためのアイドル回転制御ゲインを小さく変更するとよい。この態様では、吸気圧が所定値以上になった場合に、アイドル回転制御ゲインを小さく変更することによって、アイドル時のエンジンの出力を減少させ、排気ガス量の増加を抑制し、過給機の作動を防止することができる。このとき、エンジンの出力を減少させるとエンジン自身によるエンジン回転数も減少して目標値から乖離してしまう。そのため、この態様では、この目標値からの乖離を補うようにモータジェネレータからアシストトルクを出力させ、アイドル時のエンジン回転数を目標値に良好に追従させて制御性の改善を図ることができる。
【0012】
本発明は、前記車両において、前記内燃機関の出力トルクはトルクコンバータ式変速機を介して駆動輪に伝達されている場合により効果的である。トルクコンバータ式変速機を搭載した車両では、マニュアル式変速機に比べてトルク損失が大きくなるため、その分アイドル回転数が大きくなる傾向がある。そのため、上述したようなアイドル時における過給機の作動が生じやすい傾向がある。従って、このような車両に搭載された内燃機関について、本発明の制御を行うと上記メリットをより効果的に享受することができる。
【0013】
本発明に係る内燃機関の制御方法は上記課題を解決するために、過給機を有する内燃機関を搭載した車両の冷態始動時に、前記内燃機関の点火時期を遅角すると共に吸排気バルブのオーバーラップを増加させる圧縮スライトリーン制御を行った際のエンジン回転数を制御する内燃機関の制御方法において、前記内燃機関の吸気管の吸気圧を検出する吸気圧検出工程と、前記検出した吸気圧が所定値以上であるか否かを判定する判定工程と、前記検出した吸気圧が所定値以上である場合に、圧縮スライトリーン制御された前記内燃機関のエンジン回転数が所定の目標値になるように、前記内燃機関のクランクプーリにベルトを介して連結されたモータジェネレータのアシストトルク値を制御する制御工程とを備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る内燃機関の制御方法によれば、上述の制御装置(上記各種態様を含む)を好適に実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る内燃機関の制御装置及び制御方法によれば、内燃機関をトルクアシスト可能なモータジェネレータを備えているので、このモータジェネレータを回生駆動又は力行駆動させることによって、エンジン回転数が目標値になるようフィードバック制御することが可能となる。その結果、圧縮S/Lモード時に過給機が作動してエンジン回転数の制御性が悪化した場合であっても、モータジェネレータの駆動によってエンジン回転数が目標値になるようにアシストすることができ、制御性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る内燃機関の制御装置が搭載された車両の構成を概略的に示す模式図である。
【図2】エンジンの周辺構造を概略的に示す模式図である。
【図3】ECUによる制御内容を手順毎に示すフローチャートである。
【図4】車両の冷態始動時における各種パラメータの経時的推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0018】
まず図1を参照して、本発明に係る内燃機関の制御装置が搭載された車両10の構成について説明する。図1は本発明に係る内燃機関の制御装置が搭載された車両10の構成を概略的に示す模式図である。
【0019】
車両10の内部前部10aには、動力源たるエンジン12が搭載されている。エンジン12の燃焼室(図2の符号36を参照)には、車外から吸気aを導入するための吸気管14と、車外へ排気ガスeを排出するための排気管16が接続されている。過給機18の詳細な構成は公知であるため詳細は省略するが、過給機18は吸気管14に設けられたコンプレッサと排気管16に設けられた排気タービンとから構成されており、排気管16中を流れる排気ガスeによって排気タービンが駆動されると、該排気タービンに連結されたコンプレッサが連動して駆動され、燃焼室36に吸気aが圧縮供給されるようになっている。このようにエンジン12の出力は過給機18によって高められており、その出力は当該エンジン12の出力軸に連結された変速機20、ディファレンシャル装置22及び車軸24を介して駆動輪25に伝達される。本実施例では特に、変速機20は公知のトルクコンバータ式変速機であり、トルクコンバータ20aと遊星ギア機構20bを含んで構成されている。また排気管16には排気ガスeを浄化するための触媒56が設置されており、排気ガスeはこの触媒56と、その下流側に消音のためのマフラー32を通過して車外に排出される。
【0020】
エンジン12のクランクプーリには、ベルト26を介してベルトスタータージェネレータ28(以下、適宜「BSG28」と称する)が接続されている。このBSG28はエンジン12の運転状態に応じて回生駆動又は力行駆動が可能であり、回生駆動時には発電した電力をインバータ30を介して図不示のバッテリに蓄電し、力行駆動時にはエンジン12の駆動軸をトルクアシストできるようになっている。尚、回生駆動時にBSG28で発電された電力をバッテリに充電する際の制御は、図不示のMCU(Motor control Unit)によって制御されている。このMCUは次に説明するECU34によって下位的に制御されているが、本明細書ではMCUの制御は特段の記載がない限りにおいて公知のものと同様とし、その詳細な説明は省略することとする。
【0021】
ECU34は、エンジン12を制御するための電子制御ユニット(Engine Control Unit or Electronic Control Unit)である。ECU34は、車両10に設置された各種センサの検出値が入力される入力装置、車両10各部への制御信号等を出力する出力装置、必要な各種演算処理を行うCPU、該CPUで処理する各種データを記憶するためのROMやRAMなどの記憶装置などから構成されている。ECU34の具体的な構成については公知であるため、本明細書では詳細な説明を省略することとする。
【0022】
図2はエンジン12の周辺構造を概略的に示す模式図である。エンジン12の燃焼室36には、吸気バルブ38と排気バルブ40とが設けられており、それぞれ燃焼室36と吸気管14、燃焼室と排気管16との連通状態を開閉制御可能になっている。吸気バルブ38及び排気バルブ40には、それぞれ可変バルブタイミング調整機構42が備えられており(以下、適宜それぞれ「吸気VVT42a」及び「排気VVT42b」と称する)、開閉タイミングが調整可能に構成されている。尚、このバルブタイミング調整機構42の詳細な構造については公知であるため、詳細な説明は省略することとする。
【0023】
エンジン12は直噴ガソリンエンジンであり、そのシリンダヘッド(図不示)には、燃焼室36に燃料を直接噴射するために開口部を燃焼室36側に向けて配置された燃料噴射手段である燃料噴射インジェクタ44が設けられている。燃料噴射インジェクタ44には、図不示の低圧燃料ポンプ及び高圧燃料ポンプにより加圧される燃料が供給されるようになっている。また、各気筒のシリンダヘッドの頂点近傍には、混合気に着火するための点火プラグ46が設けられている。尚、必要に応じて吸気管14にはMPIインジェクタが設けられていてもよい。
【0024】
尚、燃焼室36は、図不示のシリンダヘッドと、ピストン48とシリンダ50とから構成されている。ピストン48の上下運動はコンロッドを介して、図不示のクランクシャフトに伝達される。
【0025】
吸気管14には、燃焼室36に流入する吸気aの量を調整するための電子制御式スロットルバルブ54(以下、適宜「ETV54」と称する)が設けられている。ETV54の開度は、上述のECU34からの制御信号に基づいて電子的に制御できるようになっている。
【0026】
排気管16は、各気筒の燃焼室36から排気ガスeを車外に排出し、その途中に排気ガスe中の有害成分(例えばHC(未燃分)、CO、NOxなど)を浄化するための触媒56が設けられている。本実施例では特に、触媒56は三元触媒であり、前段と後段に2段階に亘って設けられている。
【0027】
エンジン12には、冷却水温を検出するための水温センサ58とクランクシャフトの回転に同期して信号を出力することによりエンジン回転数を検出可能なエンジン回転数センサ60とが配置されている。また、吸気管14には吸気aの圧力(吸気圧P)を検出するための吸気圧センサ62とETV54の開度を検出するためのETV開度センサ64とが配置されている。ECU34は、これら各種センサからの検出値に基づいて、車両10の各部に制御信号を出力して走行状態を制御するようになっており、具体的には点火プラグ46の点火時期、燃料噴射インジェクタ44の燃料噴射タイミングや燃料噴射量、吸気VVT42a及び排気VVT42bによる吸気バルブ38及び排気バルブ40の開閉タイミングなどが制御される。
【0028】
図3はECU34による制御内容を手順毎に示すフローチャートである。まずECU34は、エンジン12が冷態始動直後状態であるか否かを判定する(ステップS101)。この判定は例えば、車両10に設置された車速センサ(図不示)の検出値を取得することにより車両が停止状態にあるか否か、アクセルペダル開度センサ(図不示)の検出値(ドライバーによるアクセルペダルの踏み込み量)を取得することによりドライバーが発進の意思を有していないか否か、水温センサ58の検出値を取得することによりエンジンが冷えた状態にあるか否か等を総合的に考慮して行うとよい。
【0029】
尚、ドライバーの発進の意思の有無を判定する手法としては、車両10にアイドリング状態にある場合を示すアイドリングスイッチが搭載されている場合には、そのON/OFFから判定するようにしてもよい。また、エンジン12が冷えた状態にあるか否かを判定する際には、水温センサ58の検出値Tが何℃より低い場合に、エンジン12が冷態状態にあるとみなすかを判定するための閾値を予め設定しておき、水温センサ58の検出値と比較することにより行うとよい。
【0030】
続いて、エンジン12が冷態状態にある場合(ステップS101:YES)、ECU34は車両10の運転モードを「通常運転モード」から「圧縮S/Lモード」に切り替え、触媒56の昇温の迅速化を行う。尚、車両10の運転モードの管理はECU34によって行われる。本実施例では特に、圧縮S/Lモードが実行されているか否かは、ECU34の内蔵メモリの所定の領域に設けられた圧縮S/LモードフラグのON/OFFにより、ECU34が適宜参照可能に構成されている。この圧縮S/Lモードフラグは、圧縮S/Lモードの実行中に、上記各種センサにおいて異常値が検知された際にこのフラグを自動的にOFFに切り替えられ、圧縮S/Lモードが強制的に終了する(通常運転モードに自動的に戻す)ようになっている。圧縮S/Lモードでは通常運転モードに比べて、エンジン12で失火が発生するおそれが多い。そのため、このように異常時(例えば、各インジェクタに燃料を供給するポンプに異常があることにより燃料圧力が十分に得られない場合など)には、車両10にとって負担の少ない通常運転モード(ステップS107)に自動的に戻るようにすることで、車両10が重大な故障状態に陥ることを回避している。ステップS102では、このように圧縮S/LモードフラグがONになっているかの確認を行うようにしている。
【0031】
続いてECU34は吸気圧センサ62の検出値Pが所定値P1以上であるか否かを判定する(ステップS103)。圧縮S/Lモードでは吸気バルブ14と排気バルブ16のオーバーラップ量が増加するため、吸気管14の負圧は次第に減少し(吸気圧が次第に増加し)、過給機18が作動しやすくなる。このようにアイドル時に過給機18が作動すると、吸気量が変動することによりETV54の開度が不安定になるので、燃焼室36での燃焼状態や排気管16の排気ガス量が不安定になり、エンジン12の制御性が悪化してしまうという問題が発生する。
【0032】
本発明ではこのような問題を解決するために、ECU34はアイドル回転制御ゲインを通常運転モード時に比べて低下させる(ステップS104)。通常運転モードや圧縮S/Lモードでは基本的に、アイドル時のエンジン回転数の目標値は、車両10の状態に応じて予め規定されたアイドル回転制御ゲインに基づいて設定されており、ECU34はこの設定した目標値に実際のエンジン回転数が追従するようにフィードバック制御が行われている(ステップS106、ステップS107)。ステップS104では、吸気圧センサ62の検出値PがP1より大きくなった場合に過給機18が作動していると判定し、アイドル回転制御ゲインを通常運転モード時に比べて小さくなるように変更する。これにより、アイドル時のエンジン12自体の駆動によるエンジン回転数を減少させることにより、排気ガス量を抑え、過給機18が作動してしまうことを防止することができる。
【0033】
続いてECU34はBSG38を駆動することにより、エンジン12をトルクアシストする(ステップS105)。ステップS104にて、アイドル回転制御ゲインを低下させると、エンジン12の出力を減少させた分だけ、アイドル時のエンジン回転数が本来の目標値に比べて小さくなってしまう。ステップS105では、このようなアイドル時のエンジン回転数の減少を保管するように、BSG38によってトルクアシストを行い、アイドル時のエンジン回転数を本来の目標値に維持することができる。
【0034】
このBSG38によるトルクアシストは、エンジン回転数が前述の目標値になるようにフィードバック的に行われる。具体的に説明すると、エンジン回転数が目標値に満たない場合にはECU34はBSG38を力行駆動することによってエンジン回転数を増加させる。一方、エンジン回転数が目標値を超えた場合にはBSG38を回生駆動することによって回転数を減少させる。このようにBSG38によるアシストトルクを制御することによって、過給機18の作動を防止しながらも、本来のアイドル時のエンジン回転数目標値への追従を行うことが可能となる。
【0035】
吸気圧センサ62の検出値が所定値未満である場合は(ステップS103:NO)、このような問題は生じないため、アイドル回転制御ゲインの変更を行わず、且つ、BSG38によるトルクアシストも行わないことによって、通常のアイドル時のエンジン回転数制御(エンジン12自体に対してエンジン回転数が本来の目標値に追従するようにフィードバック制御)を行う(ステップS106)。
【0036】
以上説明した一連の制御は、車両10が始動される度に自動的に繰り返し実行されるようにECU34にプログラミングされている。これにより、冷態始動時に圧縮S/Lモードを実行することによって触媒56の昇温を迅速に行うことによって、排気ガスの浄化を促進させることができる一方で、排気ガスの増大に伴い過給機18が作動することを抑制しつつ、アイドル時におけるエンジン回転制御を安定的に行うことが可能となる。
【0037】
次に図4を参照して、上記制御に伴う、車両10各部のパラメータの推移について説明する。図4は車両10の冷態始動時における各種パラメータの経時的推移を示すタイミングチャートである。図4において、(a)はBSG28の出力トルクを示しており、正の値は力行駆動、負の値は回生駆動を意味している。また(b)は吸気圧センサ62によって検出される吸気圧Pの推移を示している。また(c)はETV開度センサ54によって検出されるETV54の開度の推移を示している。(d)及び(e)は、それぞれ点火プラグ46の点火時期とエンジン回転数センサ60によって検出されるエンジン回転数Neの推移を示している。
【0038】
まずドライバーが車両10のイグニッションキーをONにすると、時刻t1においてBSG28はバッテリに蓄積された電力を用いてトルクを出力することにより、エンジン12を始動する(つまり、このときBSG28はエンジンスターターとして機能する)。エンジン12が始動されると、ETV54の開度、点火プラグ46の点火時期、エンジン回転数Neは、ECU34によって、それぞれ予め設定されたアイドリング時の目標値に向かって推移するように制御される。このとき、吸気管14の圧力は負圧となり、その負圧値は時間の経過に従い次第に増加(吸気圧が減少)していく。
【0039】
時刻t2に達すると、上記制御によって車両10の運転モードが通常運転モードから圧縮S/Lモードに切り替えられ、触媒56の昇温が図られる。圧縮S/Lモードでは、点火プラグ46の点火時期が遅角(リタード)されると共に、吸気バルブ38と排気バルブ40のバルブオーバーラップ量が増加するように制御される。このとき、バルブオーバーラップ量の増加に伴って排気ガス量が増大するため、過給機28が作動することにより吸気管14の負圧値は次第に増加していく(大気圧に近づくように増加していく)。
【0040】
時刻t3では、このように増加した吸気管14の負圧値Pが所定値P1に到達することにより、前記ステップS104及びS105が実行される(図3を参照)。ステップS104ではアイドル回転制御ゲインが減少されることによって過給機18の作動が抑制されるため、吸気管14における負圧の減少(吸気圧の上昇)が緩和される。その結果、図4(b)に示すように、アイドル時の吸気圧目標値を中心に安定的なフィードバック制御が実現される。また、ステップS105では図4(e)に示すように、BSG28から出力されたアシストトルクによって、アイドル時のエンジン回転数が目標値にフィードバック制御されるので、良好な制御性が得られている。
【0041】
ここで図4で示した点線は、仮にステップS104及びS105が実行されない場合の(即ち、従来技術における)各種パラメータの推移を示している。ステップS104及びS105が実行されないと、本発明(実線)に比べて圧縮S/Lモード時における目標値への安定性が低下し、制御性が悪化することが現れている。
【0042】
以上説明したように本実施例によれば、エンジン12をトルクアシスト可能なBSG28を備えているので、このBSG28を回生駆動又は力行駆動させることによって、エンジン回転数が目標値になるようフィードバック制御することが可能となる。その結果、圧縮S/Lモード時に過給機18が作動してエンジン回転数の制御性が悪化した場合であっても、BSG28の駆動によってエンジン回転数が目標値になるようにアシストすることができ、制御性を改善できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、過給機を有する内燃機関を搭載した車両の冷態始動時に、前記内燃機関の点火時期を遅角すると共に吸排気バルブのオーバーラップを増加させる圧縮スライトリーン制御を行った際のエンジン回転数を制御する内燃機関の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 車両
12 エンジン
14 吸気管
16 排気管
18 過給機
20 変速機
22 ディファレンシャル装置
24 車軸
25 駆動輪
26 ベルト
28 BSG
30 インバータ
32 マフラー
34 ECU
36 燃焼室
38 吸気バルブ
40 排気バルブ
42 可変バルブタイミング機構
44 燃料噴射インジェクタ
46 点火プラグ
48 ピストン
50 シリンダ
54 電子制御式スロットルバルブ(ETV)
56 触媒
58 水温センサ
60 エンジン回転数センサ
62 吸気圧センサ
64 ETV開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機を有する内燃機関を搭載した車両の冷態始動時に、前記内燃機関の点火時期を遅角する圧縮スライトリーン制御を行った際のエンジン回転数を制御する内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の吸気管の吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、
前記内燃機関のクランクプーリにベルトを介して連結されることにより、前記内燃機関をトルクアシスト可能なモータジェネレータと、
前記吸気圧検出手段で検出した吸気圧に基づいて、圧縮スライトリーン制御された前記内燃機関のエンジン回転数が所定の目標値になるように、前記モータジェネレータのアシストトルク値を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記吸気圧検出手段が検出した吸気圧が所定値以上である場合に、前記モータジェネレータを駆動することにより、前記内燃機関をトルクアシストすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記吸気圧検出手段が検出した吸気圧が所定値以上である場合に、前記内燃機関のアイドル時の目標回転数を算出するためのアイドル回転制御ゲインを小さく変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記車両において、前記内燃機関の出力トルクはトルクコンバータ式変速機を介して駆動輪に伝達されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
過給機を有する内燃機関を搭載した車両の冷態始動時に、前記内燃機関の点火時期を遅角すると共に吸排気バルブのオーバーラップを増加させる圧縮スライトリーン制御を行った際のエンジン回転数を制御する内燃機関の制御方法において、
前記内燃機関の吸気管の吸気圧を検出する吸気圧検出工程と、
前記検出した吸気圧が所定値以上であるか否かを判定する判定工程と、
前記検出した吸気圧が所定値以上である場合に、圧縮スライトリーン制御された前記内燃機関のエンジン回転数が所定の目標値になるように、前記内燃機関のクランクプーリにベルトを介して連結されたモータジェネレータのアシストトルク値を制御する制御工程と
を備えたことを特徴とする内燃機関の制御方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−241700(P2012−241700A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116347(P2011−116347)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】