説明

内燃機関の制御装置

【課題】安全性に配慮しつつ、プレヒート時におけるエネルギ消費の無駄を抑制することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】インジェクタヒータ22の加熱によりプレヒートを行う。プレヒート時間TPとプレヒート経過時間tpとを求める。エンジンフードの開閉を検知する。インジェクタヒータ22の加熱中にエンジンフードの開放がなされた場合には、プレヒート時間TPとプレヒート経過時間tpの差が2秒未満であるときには、プレヒートを続行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に、車両に搭載され始動時にプレヒートが行われる内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特開2006−242171号公報に開示されているように、車両搭載内燃機関の始動時に、車両のエンジンフード(いわゆるボンネット)が閉状態から開状態に変化することが認められた場合には、内燃機関の始動を禁止する内燃機関の制御技術が知られている。当該制御技術によれば、内燃機関の始動時における安全性の確保を徹底することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−242171号公報
【特許文献2】特開平6−101583号公報
【特許文献3】特開2004−340028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の始動時に、プレヒートを行う技術が公知である。プレヒートとは、内燃機関の始動時に、燃料の気化を促進する目的で、燃料噴射弁に取り付けられたインジェクタヒータによる噴射弁の加熱等を行うことである。プレヒートを実施することにより、内燃機関の始動時における始動性向上やエミッション悪化抑制という効果を得ることができる。プレヒートは、主に、低温始動時や高濃度アルコール燃料を用いる場合に有効な措置である。
【0005】
プレヒートを行うには、それに見合うエネルギを消費する必要がある。その消費エネルギが多ければ燃費悪化を招いてしまうため、プレヒートの際にはできるだけ無駄なエネルギ消費は避けたい。
【0006】
一方、上記従来の技術のように、安全性確保のために、エンジンフードを開く兆候が認められたら内燃機関の始動を途中で中止せざるを得ない場合もある。プレヒート開始後にその様な始動中止が発生した場合、プレヒートも途中で中止されてしまう。その結果、その始動中止までにプレヒートに費やされたエネルギが無駄になってしまう。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、安全性に配慮しつつ、プレヒート時におけるエネルギ消費の無駄を抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、車両に搭載される内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の始動前にプレヒートを行うプレヒート手段と、
前記車両のエンジンフードの閉状態から開状態への変化または前記車両のエンジンフードが開かれる兆候を検知するエンジンフード検知手段と、
前記プレヒート中に前記エンジンフード検知手段が前記変化或いは前記兆候を検知した場合に、当該検知後に前記プレヒートが終了するまでの所要時間が所定値より短い場合には前記プレヒートを続行し、前記所要時間が前記所定値以上の場合には前記プレヒートを中止するように、前記プレヒート手段を制御するプレヒート制御手段と、
前記プレヒート制御手段が前記プレヒート手段に前記プレヒートを続行させた後、前記プレヒートが終了したら、前記内燃機関の始動を開始する始動手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記プレヒート制御手段は、
前記プレヒートに要する時間の長さと相関を有する物理量を検知する物理量検知手段と、
前記物理量検知手段が検知した前記物理量に基づいて、前記内燃機関の始動時に前記プレヒート手段が前記プレヒートを行うべき時間の長さであるプレヒート時間を求めるプレヒート時間取得手段と、
前記内燃機関の始動時に、前記プレヒートが開始されたときから前記エンジンフード検知手段が前記変化または前記兆候を検知したときまでの、経過時間を求める経過時間取得手段と、
前記プレヒート中に前記エンジンフード検知手段が前記変化または前記兆候を検知した場合に、前記プレヒート時間取得手段が求めた前記プレヒート時間と前記経過時間取得手段が求めた前記経過時間とに基づいて、前記所要時間を求める所要時間算出手段と、
を含むことを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記物理量検知手段は、前記内燃機関のエンジン水温を検知する手段と前記内燃機関に供給されるべき前記燃料のアルコール濃度を検知する手段とのうち少なくとも1つを含み、
前記プレヒート時間取得手段が、前記内燃機関のエンジン水温が低い程または/および前記内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高い程、前記プレヒート時間を長い時間として求める手段であることを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第1の発明において、
前記プレヒート制御手段は、前記内燃機関のエンジン水温が低いほどまたは/および前記内燃機関に供給されるべき前記燃料のアルコール濃度が高いほど、前記プレヒートが中止されやすくなるように、前記プレヒート手段の制御を行うことを特徴とする。
【0012】
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明のいずれか1つにおいて、
前記エンジンフード検知手段は、前記車両の車室内のエンジンフード開閉レバーの操作状態、または/および、前記車両のエンジンフードフック部の操作状態に基づいて、前記エンジンフードの開閉状態を検知することを特徴とする。
【0013】
また、第6の発明は、第1乃至第5の発明のいずれか1つにおいて、
前記プレヒート制御手段が前記所要時間と比較する前記所定値は、前記エンジンフードの閉状態が解除されたあと前記エンジンフードの開動作が完了するまでにかかる程度の長さの時間であることを特徴とする。
【0014】
また、第7の発明は、第1乃至6の発明のいずれか1つにおいて、
前記プレヒートが行われている期間に前記エンジンフード検知手段の前記変化または前記兆候の検知があった場合には、プレヒート中であることの報知を行う報知手段を備えることを特徴する。
【0015】
また、第8の発明は、第1乃至7の発明のいずれか1つにおいて、
前記プレヒート制御手段が、前記プレヒート中に前記車両の運転者による始動中止要求があった場合には前記プレヒートを中止させるプレヒート中止手段を、含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、エンジンフードが開かれることを検知した場合に、プレヒート終了までの残り所要時間が予め定めた時間より短いかどうかに基づいて、プレヒート手段の続行と中止のいずれかを選択することができる。これにより、プレヒートの残り所要時間が短いため始動を継続しても安全性を損なわないと認められる場合には、プレヒートを継続して内燃機関の運転を開始することができる。その結果、安全性に配慮しつつ、プレヒートで消費されたエネルギが無駄になることを抑制することができる。
【0017】
第2の発明によれば、環境に応じてプレヒートにかかる時間が相違しても、所要時間を適切に求めることができる。その結果、安全性に配慮したうえでのプレヒート消費エネルギの無駄防止を、より一層図ることができる。
【0018】
第3の発明によれば、内燃機関のエンジン水温または/および燃料のアルコール濃度に応じて、プレヒート時間の好適値を求めることができる。
【0019】
第4の発明によれば、下記の効果が得られる。プレヒートに要する時間は、内燃機関のエンジン水温が低いほど長めになる傾向があり、かつ、燃料のアルコール濃度が高いほど長めになる傾向がある。プレヒートに要する時間が長ければ、その分だけ、プレヒートがエンジンフードの開閉までに完了し難いと考えることができる。第4の発明によれば、この点を考慮に入れて、内燃機関のエンジン水温または/および燃料のアルコール濃度に応じて、プレヒートの続行と中止の優先度を変更することができる。
【0020】
第5の発明によれば、エンジンフード検知手段が、エンジンフード開閉レバー或いはエンジンフードフック部の操作状態に基づいて、エンジンフードが開かれる動作を確実に検知することができる。この検知手法により第1乃至第4の発明においてプレヒートを中止すべき事態の発生を正確に検知することができ、結果、プレヒートの不必要な中止の発生を確実に抑制できる。
【0021】
第6の発明によれば、エンジンフードが実際に開き終わるまでに要する時間に比して残りの所要時間が短い場合には、プレヒート継続可能と判断することができる。これにより、安全性の確保をしつつも、プレヒートの中止を可能な限り避けることができる。その結果、安全性に配慮しつつ、プレヒート消費エネルギの無駄を可能な限り防止することができる。
【0022】
第7の発明によれば、プレヒート中の状況を外部に知らせることができる。
【0023】
第8の発明によれば、プレヒートの続行が不要である場合に、速やかにプレヒートを中止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態にかかる内燃機関の制御装置を、この制御装置が搭載される内燃機関とともに示す模式的構成図である。
【図2】本発明の実施の形態においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図3】エンジン水温、エタノール濃度、および必要なプレヒート時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態.
[実施の形態の構成]
図1は、本発明の実施の形態にかかる内燃機関の制御装置を、この制御装置が搭載される内燃機関20とともに示す模式的構成図である。図1に示された構成は、車両(不図示)のエンジンルーム内に搭載されている。本実施形態では、フレキシブル・フューエル・ビークル(FFV)に内燃機関20が備えられているものとし、内燃機関20はエタノール燃料を使用することが可能な内燃機関である。なお、本発明において、内燃機関20の気筒数、気筒の配列方式、燃料噴射弁の構成などといった内燃機関の構成に限定はない。
【0026】
内燃機関20は、図示しない燃料噴射弁を備えている。この燃料噴射弁は、インジェクタヒータ22を備えるいわゆる加熱インジェクタである。インジェクタヒータ22は、内燃機関20の燃料噴射弁(不図示)を加熱することができる。本実施形態では、インジェクタヒータ22によって燃料噴射弁を加熱することにより、プレヒートが実施される。プレヒートにより、冷間始動時においても、エタノール燃料の気化特性の悪化を少なく抑えることができる。
【0027】
ECU(Electronic Control Unit)50は、エンジンフード検知装置52、エンジン水温センサ54、エタノール濃度センサ56と接続している。エンジンフードは、内燃機関20が収納されたエンジンルームを覆うカバーである。なお、車両前部にあるものは一般にボンネットと呼称される。エンジンフード検知装置52は、本実施形態では、車室内のエンジンフード開閉レバーの操作状態を検知する。これにより、内燃機関20が収納されたエンジンルームを運転者が開こうとしていることを、いち早く検知できる。
【0028】
エンジン水温センサ54は、内燃機関20のエンジン水温を検知することができる。エタノール濃度センサ56は、内燃機関20への供給燃料のエタノール濃度を検知することができる。なお、エンジン水温や燃料のエタノール濃度検知の具体的技術は、既に公知であり、新規な事項ではない。したがって各種の公知技術を用いればよく、ここでは詳細な説明は省略する。
【0029】
ECU50は、図示しないが、内燃機関20の制御に関する各種センサ機器(例えば、エアフローメータ、吸気温センサ、排気ガスセンサその他の機器)や、各種アクチュエータ(例えば、点火プラグ、燃料噴射弁、吸気弁や排気弁の駆動機構のアクチュエータなど)とも接続している。
【0030】
[実施の形態の動作および具体的制御]
以下、図2を参照しながら、本実施形態にかかる内燃機関の制御装置の動作および具体的制御の内容を説明する。図2は、本発明の実施の形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。図2のフローチャートは、内燃機関20の始動時に実行されるものである。
【0031】
本実施形態では、先ず、始動S/W(始動スイッチ)がオンかどうかの判別が行われる(ステップS100)。このステップでは、運転者からの内燃機関20の始動要求があったかどうかが判別される。始動スイッチ(イグニッション・スイッチ)の信号をECU50が受信して、当該判別を行えばよい。ステップS100の条件が認められない場合には、今回の処理が終了する。
【0032】
始動スイッチのオンが認められた場合には、始動時のエンジン水温thwsとエタノール濃度E(%)とに応じて、プレヒート時間TPを算出する処理が実行される(ステップS102)。図3は、本発明の実施の形態において用いられるマップの一例を示す。ステップS102では、ECU50が、上記の図3のマップにしたがって、始動時のエンジン水温thwsとエタノール濃度Eとに応じたプレヒート時間TPを求める。
なお、本実施形態では、一例として、ステップS102でプレヒート時間TPが算出された時点で、プレヒート(つまりインジェクタヒータ22への通電)が開始されるものとする。但し、本発明はこれに限られず、イグニッション・スイッチがオンされたら直ちに(TP算出前に)プレヒートを開始してもよいし、イグニッションキーの挿入や、車両ドアが開かれたことなどをトリガとして、プレヒートを開始しても良い。
【0033】
図3のマップは、内燃機関20の始動時における、エンジン水温、エタノール濃度、および必要なプレヒート時間の関係を示している。図3には、エタノール濃度が異なる複数の燃料として、E0、E50、E100の特性をそれぞれ図示している。
【0034】
図3に示すように、始動時エンジン水温が低いほど、要求されるプレヒート時間は長い。これは、エタノールの気化特性が、高濃度であるほどかつ低温であるほど急激に悪化してしまうためである。気化に必要なプレヒート時間は、エタノール濃度と始動時水温に応じて大きく変わる。エタノール濃度が高い燃料であるほどプレヒート時間は長く、エタノール濃度差に応じたプレヒート時間の相違は低温であるほど顕著である。
【0035】
そこで、本実施形態では、ECU50に図3のマップを予め記憶させておき、始動時のエンジン水温thwsとエタノール濃度Eとの検知値に応じて、プレヒート時間TPを算出する。その結果、内燃機関20のエンジン水温thwsおよび燃料のアルコール濃度Eに応じて、プレヒート時間TPの好適値を求めることができる。これにより、上述したエタノール燃料の気化特性を、プレヒート時間に正確に反映させることができる。
【0036】
次に、プレヒート経過時間tpを求めるための処理が実行される(S104)。ステップS104では、プレヒート経過時間tpを求めるための時間の計測が開始される。
【0037】
ここで、本実施形態における「プレヒート経過時間」の定義を述べる。本実施形態では、プレヒート経過時間tpの起算点は、インジェクタヒータ22が加熱を開始したタイミングである。また、本実施形態では、エンジンフード検知装置52からの信号に基づいてECU50がエンジンフードの閉鎖状態が解除されたことを検知したときを、プレヒート経過時間tpの計測の終期とする。本実施形態では、ECU50がこの始期から終期までの時間を計測し、その計測値をプレヒート経過時間tpとする。
【0038】
次に、エンジンフードが閉状態にあるかどうかの検知が行われる(ステップS106)。ステップS106では、ECU50が、エンジンフード検知装置52からの信号がエンジンフードが閉じ状態にある場合の信号であるかどうかを比較判定する。エンジンフード検知装置52からの信号が閉じ状態の信号と一致している場合、エンジンフードは閉じられたままだと判断できる。この場合には、ステップS106の条件は肯定される。
【0039】
一方、エンジンフード検知装置52からの信号が閉じ状態の信号と一致していない場合、エンジンフードの開放動作が開始され、エンジンフードは閉から開へと推移し始めたものと判断できる。この場合、ステップS106の条件は否定される。
【0040】
ステップS106の条件が否定された場合、処理はステップS109に移る。ステップS109では、下記の式(1)が成立しているかどうかが判定される。
TP−tp < 2秒 ・・・(1)
ここで、TPの値、tpの値は、ステップS102、S104の処理で説明したそれぞれの値である。tpは、本実施形態では、ステップS106の条件肯定時までの時間である。本実施形態では、このtpは、プレヒート開始時点からステップS106が肯定されたときまでの経過時間に当たる。「TP−tp」は、プレヒート時間TPからプレヒート経過時間tpを減算した値であり、プレヒート完了までの残りの所要時間を意味する。
一方、上記の式の右辺における2秒という時間は、エンジンフードの開フックを外しエンジンフードを実際に開けるためにかかる時間が2〜3秒程度であることを根拠に、設定された値である。エンジンフードが実際に開くまでに内燃機関20が始動されたとしても、特に危険はなく、安全面に支障はないと考えることができる。
【0041】
ステップS106の条件が否定かつステップS109の条件が否定の場合には、ECU50が、プレヒート中止および内燃機関20の始動禁止の措置を取る(ステップS114)。
【0042】
前述したステップS106の条件が否定されたということは、エンジンフードは閉じ状態ではなくなっている。この場合、例えばエンジンルームの点検が試みられている可能性がある。
【0043】
その上で、さらにステップS109の条件が否定された場合には、プレヒートの残り所要時間が、2秒以上という長時間である。つまり、エンジンフードの開フックを外しエンジンフードを実際に開けるためにかかる程度の時間以上に、プレヒートの残り所要時間が長いという状況にある。
【0044】
プレヒートが行われる場合、車両の運転者が始動指示をしてから実際の内燃機関20の始動運転までに、一定の遅延時間が生ずる。このため、内燃機関20の実始動タイミングを、外部からは正確に把握できない。その結果、本状況下では、エンジンフードが実際に開かれた後、エンジンルームを点検しようとしているときに内燃機関20が始動してしまうおそれがある。これは、点検者の安全性の面から見て好ましくない。
【0045】
そこで、ステップS106の条件が否定されかつステップS109の条件が否定された場合には、ECU50が、プレヒート中止および内燃機関20の始動禁止の措置を取る。これにより、始動の際の安全性を確保することができる。その後、今回のルーチンが終了する。
【0046】
一方、ステップS106の条件が否定されたとしても、ステップS109の条件が肯定された場合には、本実施形態ではプレヒート実施を継続する(ステップS112)。
【0047】
プレヒートを行うには、それに見合うエネルギを消費する必要がある。その消費エネルギが多ければ燃費悪化を招いてしまうため、プレヒートの際にはできるだけ無駄なエネルギ消費は避けたい。
【0048】
一方、安全性確保のために、ステップS106でエンジンフードを開く兆候が認められたら、一律にステップS114に移行して内燃機関20の始動を途中で中止させるという考え方もある。しかし、プレヒート開始後にその様な始動中止が発生した場合、プレヒートも途中で中止されてしまう。その結果、始動中止までにプレヒートに費やされたエネルギが無駄になってしまう。
【0049】
プレヒートの残り所要時間(TP−tp)が2秒未満であれば、エンジンフードの開フックを外しエンジンフードを実際に開けるよりも早くプレヒートが完了し、内燃機関20が始動運転を開始することができる。この場合であれば、上述した安全性の問題は解決される。
【0050】
そこで、本実施形態では、ステップS106の条件が否定されたとしても、ステップS109の条件が肯定された場合、つまり、プレヒートの残り所要時間(TP−tp)が2秒未満であれば、ステップS112においてプレヒート実施を継続し、内燃機関20の始動運転へと進むこととした。その結果、安全性に配慮しつつ、プレヒートで消費されたエネルギが無駄になることを抑制することができる。その後、今回のルーチンが終了する。
【0051】
一方、ステップS106の条件が肯定された場合、プレヒート経過時間tpがプレヒート時間TPよりも長いかどうかが判定される(ステップS108)。このステップの条件(TP<tp)が肯定の場合には、プレヒート時間TPを越えて十分な時間のプレヒートが行われたと判断できる。
【0052】
ステップS108の条件が肯定されている場合には、プレヒート結果に応じた始動増量(始動時燃料増量)で始動制御が行われる(ステップS110)。高濃度エタノール燃料は、低温での揮発性が低い。高濃度エタノール燃料でガソリン並みの始動性を得るためには、燃料の増量が必要となる。しかし、燃料増量に全面的に頼った場合、燃料増量によってガソリン並みの始動性が得られたとしても、過剰な未燃エタノールが大気放出されるおそれがある。燃料増量に全面的に頼る場合には、始動性と排気エミッション低減とを両立させることは難しい。
【0053】
こういった問題に対処するためには、始動時の燃料加熱つまりプレヒートが有効である。本実施形態ではプレヒートを実施しているため、始動時の燃料増量はプレヒート結果に応じた少ない量で足りる。ステップS110では、この観点から、プレヒート後の燃料の温度状態に応じて、要求する始動性を満足させるために必要な分の増量後燃料量が算定される。ECU50は、この増量後燃料量を始動時の燃料噴射量として用いて、内燃機関20のその後の始動制御ルーチン(具体的には、スタータモータ制御、燃料噴射、着火など)を実行する。ステップS110後には、今回のルーチンが終了する。
【0054】
なお、ステップS108の条件が否定された場合には、TP≧tpが成立している、つまり、プレヒート経過時間tpがプレヒート時間TP以下の状況である。この場合には、処理は、ステップS112に移り、プレヒートを続行する制御(始動プレヒート制御)が引き続き行われる。その後今回のルーチンが終了する。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、エンジンフードが開かれることを検知した場合に、プレヒート終了までの残り所要時間が予め定めた時間より短いかどうかに基づいて、プレヒートの続行と中止のいずれかを選択することができる。
【0056】
これにより、プレヒートの残り所要時間が短いため始動を継続しても安全性を損なわないと認められる場合には、プレヒートを継続して内燃機関20の運転を開始することができる。その結果、安全性に配慮しつつ、プレヒートで消費されたエネルギが無駄になることを抑制することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、ステップS109において、(TP−tp)の値に対する比較値を、2秒に設定した。しかしながら、本発明はこれに限られない。2秒よりも短い値にしてもよく、逆にそれよりも長めに設定しても良い。
【0058】
なお、エタノールのプレヒートを短時間で行うには大型の加熱装置が必要になるため、これにより車両搭載性、コスト、ひいては商品性の低下が問題となりやすい。簡易な加熱装置でE0燃料〜E100燃料のプレヒートを行うためには、エタノール濃度とエンジン水温に応じた加熱時間(つまり、可変プレヒート時間+過熱エネルギ)が必須である。
【0059】
過熱時間が長ければ、早期にプレヒートを開始するという措置を取ることも考えられる。例えば、運転者が車両のドアを開けたときや、運転者がシートに座ったときに、プレヒートを開始することもできる。
【0060】
しかしながら、確実性を重視するならば、運転者の実際の始動指示(つまりイグニッションキー操作やプッシュ始動スイッチ操作)をトリガとしてプレヒートを開始することが好ましい。この場合、プレヒート完了タイミングも相応に遅くなりやすく、運転者の始動要求とプレヒート始動の際の始動タイミングとの乖離が大きくなり易い。このように、プレヒートの実際上の使用場面においては、幾つかの背反する事情があった。
【0061】
この点、本実施形態によれば、簡易な加熱装置によるプレヒート、プレヒートの確実性の重視、安全性の確保、およびプレヒートの消費エネルギの無駄抑制という多数の課題を同時に解決することができる。
【0062】
なお、上述した実施の形態においては、インジェクタヒータ22が前記第1の発明における「プレヒート手段」に、エンジンフード検知装置52が前記第1の発明における「エンジンフード検知手段」に、それぞれ相当している。また、上述した実施の形態1においては、ECU50が上記ステップS106、S109、S112およびS114の一連の処理を実行することにより、前記第1の発明における「プレヒート制御手段」が、ECU50が上記ステップS112において内燃機関20の始動運転処理を実行することにより、前記第1の発明における「始動手段」が、それぞれ実現されている。また、上述した実施の形態においては、「TP−tp」の値が、前記第1の発明における「所要時間」に相当し、ステップS109における2秒という時間が、前記第1の発明における「所定値」に相当している。
【0063】
なお、上述した実施の形態においては、エンジン水温センサ54およびエタノール濃度センサ56が、前記第2の発明における「物理量検知手段」に相当している。また、上述した実施の形態2においては、ECU50が、上記ステップ102の処理を実行することにより、前記第2の発明における「プレヒート時間取得手段」が、上記ステップ104の処理を実行することにより、前記第2の発明における「経過時間取得手段」が、上記ステップ109の処理においてTP−tpを算出することにより、前記第2の発明における「所要時間算出手段」が、それぞれ実現されている。また、上述した実施の形態において、プレヒート経過時間tpが、前記第2の発明における「経過時間」に相当している。
【0064】
[実施の形態の変形例]
(第1変形例)
本変形例では、プレヒート中にエンジンフードが開かれた場合には、異常音が発せられる。或いは、異常ランプの点灯が行われる。これにより、注意喚起を行うことができる。また、車室内のインパネ(インストルメント・パネル)等に、現在プレヒート中であることを表示したり、プレヒート後の内燃機関20の始動までの時間を表示したりしてもよい。これにより、車両の運転者に、プレヒート中の状況を知らせることができる。図2のルーチンにおける、ステップS106以降(例えば、ステップS106とS109の間、あるいはS109とS114との間)に、異常音発信或いは異常ランプ点灯のための処理を挿入すればよい。
【0065】
(第2変形例)
プレヒート中に、運転者がエンジン始動中止操作を行った場合には、その中止操作に応じてプレヒート中止および内燃機関20の始動制御中止をしてもよい。例えば、イグニッション・スイッチの再度の操作があった場合や、プッシュ始動スイッチが再び押された場合に、これらの操作をエンジン始動中止操作として取り扱ってもよい。これにより、プレヒートの続行が不要である場合に、速やかにプレヒートを中止することができる。
【0066】
(第3変形例)
上述した本実施形態においては、エンジンフード検知装置52が車室内のエンジンフード開閉レバーの操作状態を検知することにより、エンジンルームが開かれる兆候を検知することができる。しかしながら、本発明はこれに限られない。他にも、例えば、エンジンフードフック部の解除スイッチの検知を行うことによっても、運転者が内燃機関20が収納されたエンジンルームを開いていることを検知できる。また、エンジンフードのロックが実際に外れたかどうか(つまりエンジンフードが開いたかどうか)や、エンジンフードの開閉動作を検知して、エンジンフードの閉状態から開状態への変化があったか否かを検知してもよい。
【0067】
なお、上述した実施の形態では、インジェクタヒータ22を用いたプレヒートを行っているが、本発明はこれに限られない。例えば、特開2005−2933号公報に開示されているように、燃料噴射弁に燃料を分配するデリバリパイプにヒータを設けることによりプレヒートを行う構成でも、本願発明を用いることができる。その他、プレヒートに関する各種技術が公知であり、それらの公知技術を適宜用いても良い。
【符号の説明】
【0068】
20 内燃機関
22 インジェクタヒータ
50 ECU(Electronic Control Unit)
52 エンジンフード検知装置
54 エンジン水温センサ
56 エタノール濃度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の始動前にプレヒートを行うプレヒート手段と、
前記車両のエンジンフードの閉状態から開状態への変化または前記車両のエンジンフードが開かれる兆候を検知するエンジンフード検知手段と、
前記プレヒート中に前記エンジンフード検知手段が前記変化或いは前記兆候を検知した場合に、当該検知後に前記プレヒートが終了するまでの所要時間が所定値より短い場合には前記プレヒートを続行し、前記所要時間が前記所定値以上の場合には前記プレヒートを中止するように、前記プレヒート手段を制御するプレヒート制御手段と、
前記プレヒート制御手段が前記プレヒート手段に前記プレヒートを続行させた後、前記プレヒートが終了したら、前記内燃機関の始動を開始する始動手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記プレヒート制御手段は、
前記プレヒートに要する時間の長さと相関を有する物理量を検知する物理量検知手段と、
前記物理量検知手段が検知した前記物理量に基づいて、前記内燃機関の始動時に前記プレヒート手段が前記プレヒートを行うべき時間の長さであるプレヒート時間を求めるプレヒート時間取得手段と、
前記内燃機関の始動時に、前記プレヒートが開始されたときから前記エンジンフード検知手段が前記変化または前記兆候を検知したときまでの、経過時間を求める経過時間取得手段と、
前記プレヒート中に前記エンジンフード検知手段が前記変化または前記兆候を検知した場合に、前記プレヒート時間取得手段が求めた前記プレヒート時間と前記経過時間取得手段が求めた前記経過時間とに基づいて、前記所要時間を求める所要時間算出手段と、
を含むことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記物理量検知手段は、前記内燃機関のエンジン水温を検知する手段と前記内燃機関に供給されるべき前記燃料のアルコール濃度を検知する手段とのうち少なくとも1つを含み、
前記プレヒート時間取得手段が、前記内燃機関のエンジン水温が低い程または/および前記内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が高い程、前記プレヒート時間を長い時間として求める手段であることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記プレヒート制御手段は、前記内燃機関のエンジン水温が低いほどまたは/および前記内燃機関に供給されるべき前記燃料のアルコール濃度が高いほど、前記プレヒートが中止されやすくなるように、前記プレヒート手段の制御を行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記エンジンフード検知手段は、前記車両の車室内のエンジンフード開閉レバーの操作状態、または/および、前記車両のエンジンフードフック部の操作状態に基づいて、前記エンジンフードの開閉状態を検知することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記プレヒート制御手段が前記所要時間と比較する前記所定値は、前記エンジンフードの閉状態が解除されたあと前記エンジンフードの開動作が完了するまでにかかる程度の長さの時間であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記プレヒートが行われている期間に前記エンジンフード検知手段の前記変化または前記兆候の検知があった場合には、プレヒート中であることの報知を行う報知手段を備えることを特徴する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記プレヒート制御手段が、前記プレヒート中に前記車両の運転者による始動中止要求があった場合には前記プレヒートを中止させるプレヒート中止手段を、含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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