説明

内燃機関の制御装置

【課題】 燃料カット運転中に空調装置がオンされた場合において燃料供給再開回転数を適切に設定し、燃料カット運転による燃費向上効果を得るとともに、機関停止を確実に回避することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 燃料カット運転中にエアコンクラッチ31が係合され、コンプレッサ32が非作動状態から作動状態へ移行したときは、クラッチ係合時点から冷媒圧の安定化に要する安定期間TSTBLが経過するまでは、コンプレッサ32の作動によってエンジン1に加わる負荷を示す代替値(TDCTA)に応じて燃料供給再開回転数NFCEを設定し、安定期間TSTBL経過後は、エアコン冷媒圧に応じて算出される冷媒圧相関推定トルクTDCPに応じて燃料供給再開回転数NFCEを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に機関減速時に燃料カット運転を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、機関減速時に燃料カット運転を行う制御装置が示されている。この制御装置よれば、機関により駆動される空調装置のコンプレッサ下流側における冷媒圧が検出され、燃料カット運転中に空調装置がオンされたときは、検出される冷媒圧に応じて、燃料供給を再開する機関回転数(燃料供給再開回転数)が設定される。空調装置の駆動負荷が機関に加わることを考慮して、燃料供給再開回転数が空調装置のオフ時より高く設定され、機関停止が回避される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−336531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空調装置がオンされると、コンプレッサに機関駆動力を伝達するクラッチが係合され、冷媒圧が高められる。しかしながら、冷媒圧が安定するまでには遅れがあるため、冷媒圧センサにより検出される冷媒圧は、空調装置が作動を開始した直後において機関に加わる負荷を正確に示していない。そのため、検出される冷媒圧に応じて燃料供給再開回転数の設定を行うと、燃料供給再開が遅れて再開前に機関が停止するおそれがある。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、燃料カット運転中に空調装置のコンプレッサが作動開始した場合において燃料供給再開回転数を適切に設定し、燃料カット運転による燃費向上効果を得るとともに、機関停止を確実に回避することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の減速時に前記機関への燃料供給を停止する燃料カット運転を実行し、前記機関の回転数(NE)が燃料供給再開回転数(NFCE)まで低下したときに前記燃料カット運転を終了して燃料供給を再開する燃料カット制御手段を備える内燃機関の制御装置において、前記機関により駆動される空調手段(23)のコンプレッサ(32,32a)の作動状態を検出する作動状態検出手段と、前記空調手段の冷媒圧(Pd)に相関する冷媒圧相関値(TDCP)を算出する冷媒圧相関値算出手段と、前記冷媒圧相関値(TDCP)に応じて前記燃料供給再開回転数(NFCE)を設定する燃料供給再開回転数設定手段とを備え、前記燃料供給再開回転数設定手段は、前記燃料カット運転中に前記コンプレッサ(32,32a)が非作動状態から作動状態へ移行したときは、該移行時点から安定期間(TSTBL)が経過するまでは、前記冷媒圧相関値(TDCP)を代替値(TDCTA)に切り換えて前記燃料供給再開回転数(NFCE)の設定を行い、前記安定期間(TSTBL)は前記移行時点から前記冷媒圧(Pd)が安定するまでの期間として設定されることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、外気温度に相関する外気温相関温度(TA)を取得する外気温相関温度取得手段をさらに備え、前記安定期間(TSTBL)は、前記外気温相関温度(TA)に応じて設定されることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、前記空調手段の冷媒圧(Pd)を取得する冷媒圧取得手段をさらに備え、前記安定期間(TSTBL)は、前記外気温相関温度(TA)が高くなるほど長く設定され、かつ前記コンプレッサ作動開始直後の冷媒圧(Pd)が低いほど長く設定されることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、前記代替値(TDCTA)は、前記外気温相関温度(TA)が高くなるほど増加するように設定されることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関の制御装置において、前記安定期間は、前記冷媒圧相関値(TDCP)と前記代替値(TDCTA)との差が所定値(DTDX)より小さくなるまでの期間であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、前記冷媒圧相関値(TDCP)は、前記冷媒圧(Pd)に基づいて推定される、前記コンプレッサの駆動トルクであることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項4または5に記載の内燃機関の制御装置において、前記空調手段の冷媒圧(Pd)を取得する冷媒圧取得手段をさらに備え、前記冷媒圧相関値(TDCP)は、前記冷媒圧(Pd)に基づいて推定される、前記コンプレッサの駆動トルクであることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の内燃機関の制御装置において、前記コンプレッサは、固定容量型のコンプレッサ(32)であって、前記冷媒圧取得手段は、前記空調手段のコンプレッサ下流側の高圧側冷媒圧(Pd)を取得するものであり、前記コンプレッサの上流側の低圧側冷媒圧(Ps)を取得する低圧側冷媒圧取得手段と、前記低圧側冷媒圧(Ps)に基づいて算出される前記コンプレッサ上流側における冷媒のエンタルピ(EPs)と、前記高圧側冷媒圧(Pd)に基づいて算出される前記コンプレッサ下流側における冷媒のエンタルピ(EPd)との差(DEN)を算出するエンタルピ差算出手段と、前記機関の回転数(NE)を検出する回転数検出手段と、前記機関の回転数(NE)に基づいて前記冷媒の流量(Gr)を算出する冷媒流量算出手段とをさらに備え、前記冷媒圧相関値算出手段は、前記エンタルピ差(DEN)、前記機関回転数(NE)、及び前記冷媒流量(Gr)に基づいて前記コンプレッサの駆動トルク(TDCP)を推定することを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項6または7に記載の内燃機関の制御装置において、前記コンプレッサは可変容量型のコンプレッサ(32a)であって、前記冷媒圧取得手段は、前記コンプレッサの下流側に設けられるコンデンサ(33)の上流側冷媒圧である第1高圧側冷媒圧(Pda)を検出する第1高圧側冷媒圧検出手段と、前記コンデンサ(33)の下流側冷媒圧である第2高圧側冷媒圧(Pd)を検出する第2高圧側冷媒圧検出手段とからなり、前記コンプレッサの上流側の低圧側冷媒圧(Ps)を取得する低圧側冷媒圧取得手段と、前記低圧側冷媒圧(Ps)に基づいて算出される前記コンプレッサ上流側における冷媒のエンタルピ(EPs)と、前記第1または第2高圧側冷媒圧(Pda,Pd)に基づいて算出される前記コンプレッサ下流側における冷媒のエンタルピ(EPd)との差(DEN)を算出するエンタルピ差算出手段と、前記機関の回転数(NE)を検出する回転数検出手段と、前記第1高圧側冷媒圧(Pda)と前記第2高圧側冷媒圧(Pd)との差圧(DPH)に応じて前記冷媒の流量(Gr)を算出する冷媒流量算出手段とをさらに備え、前記冷媒圧相関値算出手段は、前記エンタルピ差(DEN)、前記機関回転数(NE)、及び前記冷媒流量(Gr)に基づいて前記コンプレッサの駆動トルク(TDCP)を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、燃料カット運転中に空調手段のコンプレッサが非作動状態から作動状態へ移行したときは、該移行時点から冷媒圧の安定化に要する安定期間が経過するまでは、冷媒圧相関値を代替値に切り換えて燃料供給再開回転数の設定が行われる。冷媒圧相関値に応じて燃料供給再開回転数が設定される。したがって、代替値をコンプレッサの作動開始によって機関に加わる負荷に応じた値に設定することにより、空調手段のコンプレッサが非作動状態から作動状態へ移行した直後の過渡状態において、燃料供給再開回転数を適切に設定することができる。その結果、燃料カット運転による燃費向上効果を得るとともに、機関停止を確実に回避することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、外気温度に相関する外気温相関温度が取得され、外気温相関温度に応じて安定期間が設定される。空調手段の冷媒圧が安定化するまでの期間は、外気温度に依存して変化するので、外気温相関温度に応じて設定することにより、安定期間を適切に設定し、燃費向上効果を高めることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、冷媒圧が取得され、安定期間は、外気温相関温度が高くなるほど長く設定され、かつコンプレッサ作動開始直後の冷媒圧が低いほど長く設定される。外気温が高いほど、またコンプレッサ作動開始直後の冷媒圧が低いほど、冷媒圧が安定化するまでの時間が長くなるので、安定期間を、外気温相関温度が高くなるほど長く設定し、かつ冷媒圧が低下するほど長く設定することにより、安定期間を適切に設定し、燃費向上効果を高めるとともに機関停止を確実に回避することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、代替値は外気温相関温度が高くなるほど増加するように設定される。空調手段のコンプレッサが作動を開始したときに加わる機関負荷は、外気温が高くなるほど大きくなるので、外気温相関温度が高くなるほど増加するように算出することにより、過渡状態における燃料供給再開回転数を適切に設定し、燃費向上効果を高めるとともに機関停止を確実に回避することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、安定期間は、冷媒圧相関値と代替値との差が所定値より小さくなるまでの期間とされる。冷媒相関値は、冷媒圧と相関し、冷媒圧は機関に加わる負荷と相関するので、冷媒圧相関値と代替値との差が所定値より小さくなったとき、冷媒圧が安定化したと判定することにより、安定期間をより適切に設定することができる。
【0020】
請求項6または7に記載の発明によれば、冷媒圧相関値は、冷媒圧に基づいて推定されるコンプレッサの駆動トルクとされる。コンプレッサ駆動トルクは、冷媒圧と相関がありかつ機関に加わる負荷を直接的に示すので、これを用いることにより燃料供給再開回転数を適切に設定することができる。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、空調手段のコンプレッサは、固定容量型のコンプレッサとされ、コンプレッサ下流側の高圧側冷媒圧及びコンプレッサの上流側の低圧側冷媒圧が取得され、低圧側冷媒圧に基づいて算出されるコンプレッサ上流側における冷媒のエンタルピと、高圧側冷媒圧に基づいて算出されるコンプレッサ下流側における冷媒のエンタルピとの差が算出される。さらに検出される機関回転数に基づいて冷媒の流量が算出され、エンタルピ差、検出される機関回転数、及び冷媒流量に基づいてコンプレッサの駆動トルクが推定される。コンプレッサ駆動トルクは、エンタルピ差及び冷媒流量に比例し、コンプレッサ回転数、すなわち機関回転数に反比例するので、請求項8の構成により、これらのパラメータ値を正確に算出し、コンプレッサ駆動トルクを精度よく推定することができる。固定容量型コンプレッサでは、高圧側冷媒圧と低圧側冷媒圧との差圧に応じて冷媒流量を正確に算出することができる。
【0022】
請求項9に記載の発明によれば、空調手段のコンプレッサは可変容量型のコンプレッサであって、コンプレッサの下流側に設けられるコンデンサの上流側冷媒圧である第1高圧側冷媒圧と、コンデンサ下流側冷媒圧である第2高圧側冷媒圧とが検出されるとともに、コンプレッサの上流側の低圧側冷媒圧が取得され、低圧側冷媒圧に基づいて算出される前記コンプレッサ上流側における冷媒のエンタルピと、第1または第2高圧側冷媒圧に基づいて算出されるコンプレッサ下流側における冷媒のエンタルピとの差が算出される。さらに第1高圧側冷媒圧と第2高圧側冷媒圧との差圧に応じて冷媒の流量が算出され、エンタルピ差、機関回転数、及び冷媒流量に基づいてコンプレッサの駆動トルクが推定される。これにより請求項8の発明と同様にコンプレッサ駆動トルクを精度よく推定することができる。可変容量型コンプレッサでは、コンデンサの上流側における第1高圧側冷媒圧とコンデンサの下流側における第2高圧側冷媒圧との差圧に応じて冷媒流量を正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及び該機関により駆動される空調装置と、それらの制御装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示される空調装置の冷媒循環系の構成を示す図である。
【図3】冷媒循環系における冷媒圧(PCM)と、冷媒のエンタルピ(EN)との関係を示す図である。
【図4】機関への燃料供給を停止する燃料カット運転の制御を行う処理のフローチャートである。
【図5】空調装置のコンプレッサ駆動トルク(TDCP)を算出する処理のフローチャートである。
【図6】図4の処理で参照されるマップ及びテーブルを示す図である。
【図7】エンタルピ(EN)の算出手法を説明するための図である。
【図8】図4の処理による制御動作を説明するためのタイムチャートである。
【図9】図4に示す処理の変形例のフローチャートである。
【図10】本発明の第2の実施形態における冷媒循環系の構成を示す図である。
【図11】空調装置のコンプレッサ駆動トルク(TDCP)を算出する処理のフローチャートである(第2の実施形態)。
【図12】図11の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図13】第1及び第2の実施形態の変形例において使用されるテーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる内燃機関及び該機関により駆動される空調装置と、それらの制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下単に「エンジン」という)1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配置されている。スロットル弁3には、スロットル弁3の開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が設けられており、その検出信号がエンジン制御用電子制御ユニット(以下「EG−ECU」という)5に供給される。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、EG−ECU5によりその作動が制御される。
【0025】
燃料噴射弁6は図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にEG−ECU5に電気的に接続されて当該EG−ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。また各気筒の点火プラグ13は、EG−ECU5に接続されており、点火信号がEG−ECU5から供給される。
【0026】
吸気管2のスロットル弁3の上流側には吸入空気量GAIR[g/sec]を検出する吸入空気量センサ14が装着され、エンジン1の本体にはエンジン冷却水温TWを検出する冷却水温センサ9が取り付けられており、これらのセンサの検出信号はEG−ECU5に供給される。
【0027】
EG−ECU5には、エンジン1のクランク軸8の回転角度を検出するクランク角度位置センサ10が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がEG−ECU5に供給される。クランク角度位置センサ10は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置でTDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)でCRKパルスを発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがEG−ECU5に供給される。これらの信号パルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御及びエンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0028】
EG−ECU5には、外気温TAを検出する外気温センサ11、エンジン1により駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ12、及びエンジン1により駆動される車両の車速VPを検出する車速センサ13が接続されており、これらのセンサの検出信号がEG−ECU5に供給される。
【0029】
クランク軸8はロックアップクラッチを備える自動変速機(図示せず)に接続されており、エンジン1の駆動力は自動変速機及び他の動力伝達機構を介して当該車両の駆動輪に伝達される。
【0030】
EG−ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理回路(以下「CPU」という)、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、点火プラグ13などに駆動信号を供給する出力回路から構成される。
【0031】
EG−ECU5は、上述したセンサの検出信号に基づいて、燃料噴射弁6の開弁時間の制御(燃料供給制御)及び点火時期制御を行うとともに、スロットル弁3の目標開度THCMDを算出し、検出したスロットル弁開度THが目標開度THCMDに一致するようにアクチュエータ7を駆動するスロットル弁開度制御を行う。
【0032】
エンジン1のクランク軸8は、伝達機構21及びシャフト22を介して空調装置(以下「エアコン」という)23に接続されており、エアコン23のコンプレッサ32は、エアコンクラッチ31を介してシャフト22によって駆動できるよう構成されている。エアコン23は、エアコン制御用電子制御ユニット(以下「AC−ECU」という)20により、その作動が制御される。
【0033】
AC−ECU20には、オンオフスイッチ、温度設定スイッチ(図示せず)などが接続されており、それらのスイッチの切換信号がAC−ECU20に供給される。AC−ECU20は、EG−ECU5と同様に、入力回路、CPU、記憶回路、及び出力回路を備えている。AC−ECU20は、EG−ECU5と接続されており、相互に必要な情報の伝達を行う。検出される外気温TAを示す信号は、EG−ECU5からAC−ECU20に供給される一方、後述する冷媒圧力などを示す信号が、AC−ECU20からEG−ECU5に供給される。
【0034】
AC−ECU20は、外気温TA、室内温度、設定温度などに基づいてエアコン23の制御を行う。
【0035】
図2は、エアコン23の冷媒循環系の構成を示す図であり、この冷媒循環系は、コンプレッサ32と、コンデンサ33と、エバポレータ34と、これらを接続する第1、第2、及び第3冷媒通路36,37,及び38と、第3冷媒通路38に設けられた膨張弁39とを備えている。本実施形態では、コンプレッサ32は固定容量型のコンプレッサである。
【0036】
エバポレータ34には、エバポレータ34の表面温度TSRFを検出する表面温度センサ41が設けられている。第1冷媒通路36には、コンプレッサ32の上流側における冷媒圧(以下「低圧側冷媒圧」という)Psを検出する第1冷媒圧センサ42が設けられ、第3冷媒通路38には、膨張弁39より上流側における冷媒圧(以下「高圧側冷媒圧」という)Pdを検出する第2冷媒圧センサ43が設けられている。これらのセンサ41〜43の検出信号は、AC−ECU20に供給される。
【0037】
図3は、図2に示す冷媒循環系の動作を説明するために、モリエル線図を簡略化して示す。図3の横軸はエンタルピEN[kJ/kg]であり、縦軸は冷媒圧PCM[MPa]である。また図3に示す曲線L1及びL2は、それぞれ冷媒の飽和蒸気線及び飽和液線であり、状態点PC1,PC2,及びPC3は、それぞれ第1冷媒通路36、第2冷媒通路37、及び第3冷媒通路(膨張弁39の上流側)における冷媒の状態を示す。飽和蒸気線L1より右側では、冷媒は気体であり、飽和液線L2の左側では冷媒は液体である。
【0038】
コンプレッサ32によって圧縮されることにより、冷媒のエンタルピEN及び圧力PCMがともに増加して、状態点PC1からPC2へ移行する。コンデンサ33において冷媒は液化し、エンタルピENが大きく減少するとともに冷媒圧PCMが若干減少して、状態点PC2からPC3へ移行する。膨張弁39で冷媒圧PCMが急激に低下し、エバポレータ34でエンタルピENが増加して、状態点PC3からPC1へ戻る。
【0039】
後述するようにコンプレッサ32の駆動トルク(エンジン1に加わる負荷トルク)の推定値である推定駆動トルクTDCPの算出には、状態点PC1における低圧側エンタルピEPsと、状態点PC2における高圧側エンタルピEPdとのエンタルピ差DEN(=EPd−EPs)が適用される。
【0040】
図4は、エンジン1の減速時にエンジン1への燃料供給を一時的に停止する燃料カット運転の制御を行う処理のフローチャートであり、この処理はEG−ECU5のCPUで実行される。
【0041】
ステップS11では、アクセルペダルオフフラグFAPOFFが「1」であるか否かを判別する。アクセルペダルオフフラグFAPOFFは、アクセルペダルが踏み込まれていないとき(アクセルペダル操作量APが「0」であるとき)、「1」に設定される。ステップS11の答が肯定(YES)であるときは、エンジン回転数NEが燃料カット開始回転数NFCS以下であるか否かを判別する(ステップS12)。この答が肯定(YES)であるときはさらにロックアップクラッチ係合フラグFLCONが「1」であるか否かを判別する。ロックアップクラッチ係合フラグFLCONは、自動変速機のロックアップクラッチが係合状態にあるとき「1」に設定される。
【0042】
ステップS11〜S13の何れかの答が否定(NO)であるときは、燃料カット運転実行条件が不成立と判定し、燃料カットフラグFFCを「0」に設定して(ステップS14)、本処理を終了する。
【0043】
ステップS13の答が肯定(YES)であるときは、燃料カット運転実行条件が成立していると判定し、燃料カットフラグFFCが「1」であるか否かを判別する(ステップS15)。最初はこの答は否定(NO)であるので、燃料カットフラグFFCを「1」に設定する(ステップS16)。以後はステップS15の答が肯定(YES)となるので、直ちにステップS17に進む。
【0044】
ステップS17では、エアコンオンフラグFACONが「1」であるか否かを判別する。エアコンオンフラグFACONは、エアコン23が作動状態にあるとき「1」に設定される。ステップS17の答が否定(NO)であるときは、燃料カット運転を終了するエンジン回転数、すなわち燃料供給を再開するエンジン回転数である燃料供給再開回転数NFCEを最小再開回転数NFCEMINに設定し(ステップS18)、ステップS30に進む。
【0045】
ステップS17の答が肯定(YES)、すなわちエアコン作動中であるときは、センサ故障フラグFSFAILが「1」であるか否かを判別する(ステップS19)。センサ故障フラグFSFAILは、エアコン23に設けられている各種センサの何れかの故障が検出されると「1」に設定される。ステップS19の答が肯定(YES)であるときは、燃料供給再開回転数NFCEを最大再開回転数NFCEMAXに設定し(ステップS20)、ステップS30に進む。
【0046】
ステップS19の答が否定(NO)であるときは、エアコンクラッチオン変化フラグFCLONCNGが「1」であるか否かを判別する(ステップS21)。エアコンクラッチオン変化フラグFCLONCNGは、エアコンクラッチ31が非係合状態から係合状態へ移行した直後のみ「1」に設定される。ステップS21の答が肯定(YES)であって、エアコンクラッチ31が係合した直後であるときは、外気温TA及び高圧側冷媒圧Pdに応じて図6(a)に示すTSTBLマップを検索し、安定期間TSTBLを算出する(ステップS22)。安定期間TSTBLは、エアコンクラッチ31が係合された時点から冷媒圧が安定するまでに要する期間として、外気温TA及び高圧側冷媒圧Pdに応じて設定されたものである。図6(a)に示すP1〜P3は、所定冷媒圧であり、P1<P2<P3なる関係を満たす。TSTBLマップは、外気温TAが高いほど安定期間TSTBLが長くなり、かつ高圧側冷媒圧Pdが低いほど安定期間TSTBLが長くなるように設定されている。
【0047】
ステップS23では、ダウンカウントタイマTMSTBLを安定期間TSTBLにセットしてスタートさせる。ステップS25では、外気温TAに応じて図6(b)に示すTDCTAテーブルを検索し、外気温相関推定トルクTDCTAを算出する。外気温相関推定トルクTDCTAは、エアコンクラッチ31が係合されたときに発生するコンプレッサ駆動トルク(エンジン1の負荷となるトルク)の推定値である。外気温相関推定トルクTDCTAは、外気温TAに応じて推定され、高圧側冷媒圧Pdの変化遅れの影響を受けない推定トルクである。TDCTAテーブルは、外気温TAが高くなるほど外気温相関推定トルクTDCTAが増加するように設定されている。ステップS26では、コンプレッサ駆動トルクTDCMPを外気温相関推定トルクTDCTAに設定し、ステップS29に進む。
【0048】
エアコンクラッチ31が係合された直後のみステップS21の答が肯定(YES)となるが、その後はステップS21の答が否定(NO)となり、ステップS24に進んで、タイマTMSTBLの値が「0」であるか否かを判別する。最初はこの答が否定(NO)であるので、前記ステップS25に進む。
【0049】
エアコンクラッチ31の係合時点から安定期間TSTBLが経過すると、ステップS24の答が肯定(YES)となり、ステップS27に進んで、図5に示すTDCP算出処理を実行し、冷媒圧相関推定トルクTDCPを算出する。冷媒圧相関推定トルクTDCPは、検出される冷媒圧Ps及びPdに基づいて算出されるコンプレッサ駆動トルクの推定値である。冷媒圧相関推定トルクTDCPは、安定期間TSTBL経過後は冷媒圧変化遅れの影響がなくなるため、正確な推定トルクを示す。ステップS28では、コンプレッサ駆動トルクTDCMPを冷媒圧相関推定トルクTDCPに設定する。
【0050】
ステップS29では、コンプレッサ駆動トルクTDCMPに応じて図6(c)に示すNFCEテーブルを検索し、燃料供給再開回転数NFCEを算出する。NFCEテーブルは、コンプレッサ駆動トルクTDCMPが増加するほど燃料供給再開回転数NFCEが高くなるように設定されている。ステップS29で算出される燃料供給再開回転数NFCEは、最小再開回転数NFCEMIN以上でかつ最大再開回転数NFCEMAX以下である。
【0051】
ステップS30では、エンジン回転数NEが燃料供給再開回転数NFCE以下であるか否かを判別し、その答が否定(NO)である間は直ちに処理を終了する。したがって、燃料カット運転が継続される。ステップS30の答が肯定(YES)となると、燃料カットフラグFFCを「0」に戻し、燃料供給を再開する(燃料カット運転を終了する)。
【0052】
図5は、図4のステップS27で実行されるTDCP算出処理のフローチャートである。
ステップS41では、低圧側冷媒圧Psに応じて低圧側エンタルピEPsを算出する。具体的には、図7に示すモリエル線図の飽和蒸気線L1及び等温度線(細い破線で示す)をマップ化したエンタルピ算出マップを用いて、以下のように低圧側エンタルピEPsを算出する。図7においてTCM1〜TCM6は、所定の冷媒温度であり、TCM1<TCM2<TCM3<TCM4<TCM5<TCM6なる関係を満たす。
【0053】
1)低圧側冷媒圧Psに対応する飽和蒸気線L1上の状態点PCS1を求める。
2)状態点PCS1に対応する第1低圧冷媒温度TCMS1を、等温度線に対応する冷媒温度(TCM1,TCM2)の補間演算を行うことにより算出する。
3)第1低圧冷媒温度TCMS1に所定低圧側加算温度TADDSを加算して、第2低圧冷媒温度TCMS2(=TCMS1+TADDS)を算出する。
4)低圧側冷媒圧Ps及び第2低圧冷媒温度TCMS2に対応する状態点PCS2を求める。状態点PCS2に対応するエンタルピが低圧側エンタルピEPsに相当する。
【0054】
所定低圧側加算温度TADDSは、エンジン1から受ける熱を考慮して例えば0度から20度程度の範囲の値に予め設定されるものであり、エアコン23とエンジン1の位置関係に依存する。
【0055】
ステップS42では、高圧側冷媒圧Pdに応じて高圧側エンタルピEPdを算出する。算出手法は低圧側エンタルピEPsと同様である。すなわち、高圧側冷媒圧Pdに応じて図7に示す状態点PCD1を求め、状態点PCD1に対応する第1高圧冷媒温度TCMD1を算出し、第1高圧冷媒温度TCMD1に所定高圧側加算温度TADDDを加算して、第2高圧冷媒温度TCMD2(=TCMD1+TADDD)を算出し、第2高圧冷媒温度TCMD2に対応する状態点PCD2を求めて、高圧側エンタルピEPdを算出する。所定高圧側加算温度TADDDは、コンプレッサ32の動作特性に依存するパラメータであり、例えば20度から50度程度の範囲内で設定される。
【0056】
ステップS43では、下記式(1)及び(2)により、エンタルピ差DEN及び圧力差DPを算出する。
DEN=EPd−EPs (1)
DP=Pd−Ps (2)
【0057】
ステップS44では、エンジン回転数NE及び圧力差DPに応じたマップ(図示せず)を検索することにより、冷媒流量Grを算出する。冷媒流量Grは、エンジン回転数NEが高くなるほど増加し、圧力差DPが増加するほど増加するように算出される。
【0058】
ステップS45では、下記式(3)によりコンプレッサ回転数NCを算出する。式(3)のKCは伝達機構21の伝達比に応じた変換係数である。
NC=NE×KC (3)
【0059】
ステップS46では、エンタルピ差DEN、コンプレッサ回転数NC、及び冷媒流量Grを下記式(4)に適用し、冷媒圧相関推定トルクTDCPを算出する。式(4)のηmは、コンプレッサ32の機械効率(定数)である。
TDCP=DEN×Gr×ηm/NC (4)
【0060】
図5の処理により、定常状態におけるコンプレッサ駆動トルクを精度よく近似する冷媒圧相関推定トルクTDCPを算出することができる。
【0061】
図8は、本実施形態における燃料カット制御を説明するためのタイムチャートであり、エアコンクラッチ31が時刻t0において係合された例が示されている。図8(a)は、高圧側冷媒圧Pd(破線)、冷媒圧相関推定トルクTDCP、及び外気温相関推定トルクTDCTAの推移を示し、図8(b)は、エンジン回転数NEの推移を示す。図8(a)に示す一点鎖線は、実コンプレッサ駆動トルクTDCACTを参考のために示す。
【0062】
図8(b)に示す破線は、燃料供給再開回転数NFCEが、冷媒圧相関推定トルクTDCP(あるいは冷媒圧Pdそのもの)に応じて算出される第1再開回転数NFCE1に設定され、時刻t2において燃料供給が再開される場合のエンジン回転数NEの推移を示す。この場合には、燃料供給再開時期が遅すぎてエンジンストールが発生する。なお、図8(b)のNECEAは、実コンプレッサ駆動トルクTDCACTに応じて設定した燃料供給再開回転数を示し、この場合には時刻t1において燃料供給が再開される。
【0063】
本実施形態では、時刻t0において外気温相関推定トルクTDCTAが算出され、外気温相関推定トルクTDCTAは実コンプレッサ駆動トルクTDCACTの定常値(時刻t0から安定期間TSTBL経過後の値)の近似値をとるように設定され、外気温相関推定トルクTDCTAに応じて燃料供給再開回転数NFCEが第2再開回転数NFCE2に設定される。これにより、時刻t1より少し前の時刻t1aにおいて燃料供給が再開され、エンジンストールを回避することができる。
【0064】
以上のように本実施形態では、エアコン23の冷媒圧に相関する冷媒圧相関値として、冷媒圧相関推定トルクTDCPが算出され、冷媒圧が安定しているとき(例えばコンプレッサが作動している状態で燃料カット運転が開始されたような場合)は、冷媒圧相関推定トルクTDCPに応じて燃料供給再開回転数NFCEが設定される。燃料カット運転中にエアコンクラッチ31が係合され、コンプレッサ32が非作動状態から作動状態へ移行したときは、コンプレッサ32の作動によってエンジン1に加わる負荷に相関する代替値として、外気温相関推定トルクTDCTAが算出され、コンプレッサ作動開始時点(t0)から冷媒圧の安定化に要する安定期間TSTBLが経過するまでは、冷媒圧相関推定トルクTDCPに代えて外気温相関推定トルクTDCTAを用いて燃料供給再開回転数NFCEの設定が行われる。したがって、コンプレッサ32が非作動状態から作動状態へ移行した直後の過渡状態において、外気温相関推定トルクTDCTAに応じて燃料供給再開回転数NFCEが設定され、燃料供給再開回転数NFCEを適切に設定することができる。その結果、燃料カット運転による燃費向上効果を得るとともに、エンジンストールを確実に回避することができる。
【0065】
また安定期間TSTBLは、外気温TAが高くなるほど長く設定され、かつコンプレッサ作動開始直後の高圧側冷媒圧Pdが低いほど長く設定される。外気温TAが高いほど、またコンプレッサ作動開始直後の高圧側冷媒圧Pdが低いほど、冷媒圧Pdが安定化するまでの時間が長くなるので、安定期間TSTBLを、外気温TAが高くなるほど長く設定し、かつコンプレッサ作動開始直後の高圧側冷媒圧Pdが低いほど長く設定することにより、安定期間TSTBLを最適値に設定し、燃費向上効果を高めるとともにエンジンストールを確実に回避することができる。
【0066】
また外気温相関推定トルクTDCPは、外気温TAが高くなるほど増加するように算出される。コンプレッサ32が作動を開始したときに加わるエンジン負荷は、外気温TAが高くなるほど大きくなるので、外気温相関推定トルクTDCPを、外気温TAが高くなるほど増加するように算出することにより、過渡状態における燃料供給再開回転数NFCEを適切に設定し、燃費向上効果を高めるとともにエンジンストールを確実に回避することができる。
【0067】
本実施形態では、エアコン23が空調手段に相当し、クランク角度位置センサ10が回転数検出手段に相当し、第2冷媒圧センサ43が冷媒圧取得手段に相当し、第1冷媒圧センサ42が低圧側冷媒圧取得手段に相当し、外気温センサ11が外気温相関温度取得手段に相当し、EG−ECU5が、燃料カット制御手段、作動状態検出手段、冷媒圧相関値算出手段、燃料供給再開回転数設定手段、エンタルピ差算出手段、及び冷媒流量算出手段を構成する。具体的には、図4の処理が燃料カット制御手段に相当し、図5の処理が冷媒圧相関値算出手段に相当し、図4のステップS21〜S26,ステップS28,及びS29が燃料供給再開回転数設定手段に相当し、図5のステップS41〜S43がエンタルピ差算出手段に相当し、ステップS43及びS44が冷媒流量算出手段に相当する。
【0068】
[変形例1]
図4に示す処理は、図9に示す処理に代えてもよい。図9の処理は、図4のステップS22及びS23を削除し、ステップS24をステップS24aに変更するとともに、ステップS21a,S24b,及びS26aを追加したものである。
【0069】
ステップS21の答が肯定(YES)、すなわちエアコンクラッチ31が係合された直後であるときは、直ちにステップS25及びS26を実行し、次いで安定期間中であることを示す安定期間フラグFPSTBLを「1」に設定する(ステップS26a)。その後ステップS29に進む。
【0070】
ステップS21の答が否定(NO)であるときは、ステップS21aに進み、安定期間フラグFPSTBLが「1」であるか否かを判別する。最初はこの答が肯定(YES)であるので、ステップS24aに進み、冷媒圧相関推定トルクTDCPと外気温相関推定トルクTDCTAとの差の絶対値が、所定トルク差DTDXより小さいか否かを判別する。ステップS24aの答が否定(NO)であるときは、前記ステップS25に進む。
【0071】
高圧側冷媒圧Pdが上昇してステップS24aの答が肯定(YES)となると、ステップS24bに進んで安定期間フラグFPSTBLを「0」に戻す。したがって、その後はステップS21aの答が否定(NO)となり、ステップS21aから直ちにステップS27に進む。
【0072】
図9の処理によれば、エアコンクラッチ31が係合された時点から冷媒圧相関推定トルクTDCMPと外気温相関推定トルクTDCTAとの差の絶対値が、所定トルク差DTDXより小さくなるまでの期間が、上述した実施形態における安定期間TSTBLに相当する。冷媒圧相関推定トルクTDCPは、高圧側冷媒圧Pdと相関し、高圧側冷媒圧Pdはエンジン1に加わるコンプレッサ負荷と相関するので、冷媒圧相関推定トルクTDCPと外気温相関推定トルクTDCTAとの差の絶対値が、所定トルク差DTDXより小さくなったとき、高圧側冷媒圧Pdが安定化したと判定することにより、安定期間TSTBLをより適切に設定することができる。
【0073】
[変形例2]
図5のステップS44では、エンジン回転数NE及び圧力差DPに応じて冷媒流量Grを算出するようにしたが、エンジン回転数NEのみ基づいて冷媒流量Grを算出するためのGrテーブルを予めメモリに格納しておき、エンジン回転数NEに応じてGrテーブルを検索することにより冷媒流量Grを算出するようにしてもよい。Grテーブルは、エンジン回転数NEが高くなるほど冷媒流量Grが増加するように設定される。
【0074】
[第2の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態における固定容量型コンプレッサ32を図10に示すように可変容量型コンプレッサ32aに代え、さらに第2冷媒通路37(コンデンサ33の上流側)に第3冷媒圧センサ44を設けたものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0075】
第3冷媒圧センサ44は、第2冷媒通路37における冷媒圧(以下「第1高圧側冷媒圧」という)Pdaを検出し、その検出信号をAC−ECU20に供給する。本実施形態では、第2冷媒圧センサ43により検出される冷媒圧Pdを「第2高圧側冷媒圧Pd」という。
【0076】
図11は本実施形態におけるTDCP算出処理のフローチャートである。この処理は、図5に示す処理のステップS43及びS44を、それぞれステップS43a及びS44aに変更したものである。
【0077】
ステップS43aでは、エンタルピ差DENを算出するとともに、下記式(5)により、高圧側圧力差DPHを算出する。
DPH=Pda−Pd (5)
ステップS44aでは、高圧側圧力差DPHに応じて図12に示すGrテーブルを検索し、冷媒流量Grを算出する。
【0078】
可変容量型コンプレッサ32aが使用されるため、冷媒流量Grは第1の実施形態と同様に算出することはできない。そこで本実施形態では、図11の処理により、コンデンサ33の上流側における第1高圧側冷媒圧Pdaと、下流側における第2高圧側冷媒圧Pdとの圧力差DPHに応じて、冷媒流量Grを算出するようにしている。
【0079】
本実施形態では、第3冷媒圧センサ44及び第2冷媒圧センサ43が、それぞれ第1高圧側冷媒圧検出手段及び第2高圧側冷媒圧検出手段に相当し、図11の処理が冷媒圧相関値算出手段に相当し、図11のステップS43a及び44aが冷媒流量算出手段に相当する。
【0080】
[変形例]
高圧側エンタルピEPdは、第2高圧側冷媒圧Pdに代えて第1高圧側冷媒圧Pdaに応じて算出するようにしてもよい。
【0081】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、第1冷媒圧センサ42を設けて低圧側冷媒圧Psを検出するようにしたが、低圧側冷媒圧Psは、エバポレータ34の表面温度TSRFと相関があるので、表面温度TSRFに応じて図13(a)に示すPsテーブルを検索することにより、低圧側冷媒圧Psを算出(推定)するようにしてもよい。この場合には、表面温度センサ41及びEG−ECU5が低圧側冷媒圧取得手段を構成する。
【0082】
また冷媒圧相関推定トルクTDCPは、高圧側冷媒圧Pdに応じて図13(b)に示すTDCPテーブルを検索することにより算出するようにしてもよい。
【0083】
また上述した実施形態では、冷媒圧相関推定トルクTDCPの代替値は、外気温TAに応じて算出するようにしたが、例えばコンプレッサ作動開始時において想定される最大負荷トルクに相当する所定トルク値に設定するようにしてもよい。また、安定期間TSTBLにおいて冷媒圧相関推定トルクTDCPを代替値に切り換えることに代えて、燃料供給再開回転数NFCEを、例えば最大再開回転数NFCEMAXに固定するようにしてもよい。
【0084】
また上述した実施形態では、冷媒圧相関値として冷媒圧相関推定トルクTDCPを用いてが、高圧側冷媒圧Pdそのものを用いてもよい。また外気温TAに代えて、例えば特許第3417035公報に示されるようにエンジン冷却水温TWに基づいて推定される推定外気温を「外気温相関温度」として用いてもよい。その場合には、冷却水温センサ9が外気相関温度取得手段の一部を構成する。
【符号の説明】
【0085】
1 内燃機関
5 エンジン制御用電子制御ユニット(燃料カット制御手段、作動状態検出手段、冷媒圧相関値算出手段、燃料供給再開回転数設定手段、エンタルピ差算出手段、冷媒流量算出手段、低圧側冷媒圧取得手段)
6 燃料噴射弁
9 冷却水温センサ(外気温相関温度取得手段)
11 外気温センサ(外気温相関温度取得手段)
20 エアコン制御用電子制御ユニット
23 空調装置(空調手段)
31 エアコンクラッチ
32 コンプレッサ
33 コンデンサ
34 エバポレータ
36 第1冷媒通路
37 第2冷媒通路
38 第3冷媒通路
41 表面温度センサ(低圧側冷媒圧取得手段)
42 第1冷媒圧センサ(低圧側冷媒圧取得手段)
43 第2冷媒圧センサ(冷媒圧取得手段、第2高圧側冷媒圧検出手段)
44 第3冷媒圧センサ(第1高圧側冷媒圧検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の減速時に前記機関への燃料供給を停止する燃料カット運転を実行し、前記機関の回転数が燃料供給再開回転数まで低下したときに前記燃料カット運転を終了して燃料供給を再開する燃料カット制御手段を備える内燃機関の制御装置において、
前記機関により駆動される空調手段のコンプレッサの作動状態を検出する作動状態検出手段と、
前記空調手段の冷媒圧に相関する冷媒圧相関値を算出する冷媒圧相関値算出手段と、
前記冷媒圧相関値に応じて前記燃料供給再開回転数を設定する燃料供給再開回転数設定手段とを備え、
前記燃料供給再開回転数設定手段は、前記燃料カット運転中に前記コンプレッサが非作動状態から作動状態へ移行したときは、該移行時点から安定期間が経過するまでは、前記冷媒圧相関値を代替値に切り換えて前記燃料供給再開回転数の設定を行い、前記安定期間は前記移行時点から前記冷媒圧が安定するまでの期間として設定されることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
外気温度に相関する外気温相関温度を取得する外気温相関温度取得手段をさらに備え、
前記安定期間は、前記外気温相関温度に応じて設定されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記空調手段の冷媒圧を取得する冷媒圧取得手段をさらに備え、
前記安定期間は、前記外気温相関温度が高くなるほど長く設定され、かつ前記コンプレッサ作動開始直後の冷媒圧が低いほど長く設定されることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記代替値は、前記外気温相関温度が高くなるほど増加するように設定されることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記安定期間は、前記冷媒圧相関値と前記代替値との差が所定値より小さくなるまでの期間であることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記冷媒圧相関値は、前記冷媒圧に基づいて推定される、前記コンプレッサの駆動トルクであることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記空調手段の冷媒圧を取得する冷媒圧取得手段をさらに備え、
前記冷媒圧相関値は、前記冷媒圧に基づいて推定される、前記コンプレッサの駆動トルクであることを特徴とする請求項4または5に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記コンプレッサは、固定容量型のコンプレッサであって、前記冷媒圧取得手段は、前記空調手段のコンプレッサ下流側の高圧側冷媒圧を取得するものであり、
前記コンプレッサの上流側の低圧側冷媒圧を取得する低圧側冷媒圧取得手段と、
前記低圧側冷媒圧に基づいて算出される前記コンプレッサ上流側における冷媒のエンタルピと、前記高圧側冷媒圧に基づいて算出される前記コンプレッサ下流側における冷媒のエンタルピとの差を算出するエンタルピ差算出手段と、
前記機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記機関の回転数に基づいて前記冷媒の流量を算出する冷媒流量算出手段とをさらに備え、
前記冷媒圧相関値算出手段は、前記エンタルピ差、前記機関回転数、及び前記冷媒流量に基づいて前記コンプレッサの駆動トルクを推定することを特徴とする請求項6または7に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項9】
前記コンプレッサは可変容量型のコンプレッサであって、前記冷媒圧取得手段は、前記コンプレッサの下流側に設けられるコンデンサの上流側冷媒圧である第1高圧側冷媒圧を検出する第1高圧側冷媒圧検出手段と、前記コンデンサの下流側冷媒圧である第2高圧側冷媒圧を検出する第2高圧側冷媒圧検出手段とからなり、
前記コンプレッサの上流側の低圧側冷媒圧を取得する低圧側冷媒圧取得手段と、
前記低圧側冷媒圧に基づいて算出される前記コンプレッサ上流側における冷媒のエンタルピと、前記第1または第2高圧側冷媒圧に基づいて算出される前記コンプレッサ下流側における冷媒のエンタルピとの差を算出するエンタルピ差算出手段と、
前記機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記第1高圧側冷媒圧と前記第2高圧側冷媒圧との差圧に応じて前記冷媒の流量を算出する冷媒流量算出手段とをさらに備え、
前記冷媒圧相関値算出手段は、前記エンタルピ差、前記機関回転数、及び前記冷媒流量に基づいて前記コンプレッサの駆動トルクを推定することを特徴とする請求項6または7に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−172614(P2012−172614A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36252(P2011−36252)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】