説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関と車両の駆動装置との結合状態を精度よく判定し、適正に内燃機関を制御することのできる内燃機関の制御装置を得る。
【解決手段】この発明による内燃機関の制御装置は、車速センサにより検出された車速と回転センサにより検出された実回転速度とスロットル開度センサにより検出されたスロットル開度とが所定の範囲である第1の条件と、車速センサにより検出された車速と回転センサにより検出された実回転速度との比率を表す実演算値が所定の状態である第2の条件とを満たしているとき、実演算値を変速ギヤに於ける基準学習値として学習する基準値学習機能を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載された内燃機関を制御する内燃機関の制御装置、更に詳しくは、2輪車、バギー車、雪上車等の車両のクラッチの結合状態と関連して内燃機関を制御する内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、車両に搭載された内燃機関は、クラッチを介してタイヤ等の車両の駆動装置と連結されており、クラッチの結合状態、即ち内燃機関と車両の駆動装置とのつながりの状態により、内燃機関の回転が不安定となることがある。例えば、内燃機関と駆動装置が完全につながっている状態(クラッチレバーリリース時、とも称される)では、内燃機関は走行中のタイヤからクラッチを介して駆動される状態にもなるため内燃機関自体の回転は安定しているが、その状態から内燃機関と駆動装置がつながっていない状態(クラッチレバープル時、とも言う)に移行すると、内燃機関は、突然、タイヤから駆動されなくなり、内燃機関の回転が不安定になることがある。
【0003】
一般に、電子制御式燃料噴射装置を備えた内燃機関の制御装置に於いては、制御ユニットにより内燃機関の回転速度や負荷の状態に応じて燃料供給量を演算し、その演算に基づく制御信号により燃料噴射弁であるインジェクタを駆動して内燃機関への燃料供給量を制御するようにしているが、前述のようにクラッチの結合状態により内燃機関の回転が不安定となることがあるので、従来は、クラッチの結合状態をクラッチレバーに連動して開閉するクラッチスイッチの出力に基づいてクラッチの結合状態を検出し(例えば、特許文献1参照)、若しくは、内燃機関の回転速度と車両の走行速度とに基づいてクラッチの結合
状態を判定し(例えば、特許文献2参照)、前述の検出若しくは判定したクラッチの結合状態に基づいて電子式燃料噴射装置による燃料噴射量を調整し、内燃機関の回転の安定化を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−25492号公報
【特許文献2】特開2002−266895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のクラッチスイッチからの出力に基づいてクラッチの結合状態を検出する場合、クラッチスイッチの機械式接点の取り付け位置が車両毎にばらついていることが多く、そのため車両によってはクラッチの結合状態を正しく検出できないことがある。
【0006】
一方、内燃機関の回転速度と車両の走行速度との情報を用いてクラッチの結合状態を判定する場合、例えば2輪車にあっては、各ユーザーが2輪車購入後にスプロケットを交換したり、タイヤ交換、或いはタイヤ径を変更したりすることがあり、内燃機関の回転速度と車両の走行速度速との関係が、車両生産時とユーザーでの変更後とは異なることがあり、車両の生産時のクラッチの結合状態の判定データ等を正しく得ることが困難となり、従ってクラッチの結合状態を正しく判定することができず、燃料供給量等を適性に切り替えたり増減したりすることができず、エンスト等を引き起こすことがあった。
【0007】
又、車両の停車状態からの発進時には、ユーザーのスロットル操作やクラッチレバー操作の仕方に個人差があり、実際には、車両の走行速度が検出される前にユーザーがクラッ
チレバーをリリースしていて、クラッチの結合状態の判定ができないことがあり、或いは、クラッチの結合状態の判定をギヤ毎に使い分けをしないと正しくクラッチ繋がり判定ができないことがあり、その結果、クラッチの結合状態の判定タイミングが遅れ、燃料供給量の補正、及び吸入空気量の補正が遅れ、内燃機関の挙動が不調になったりすることがあった。
【0008】
この発明は、従来の内燃機関の制御装置に於ける前述のような課題を解決するためになされたもので、クラッチの結合状態、つまり内燃機関と駆動装置との結合状態を精度よく判定し、適正に内燃機関を制御することのできる内燃機関の制御装置を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による内燃機関の制御装置は、車両に搭載された内燃機関と前記車両の駆動装置との連結を制御するクラッチと、前記クラッチを操作するクラッチレバーと、前記車両の速度を検出する車速センサと、前記内燃機関の出力を前記駆動装置に伝達する変速ギヤを検出するギヤ検出装置と、前記内燃機関の実回転速度を検出する回転センサと、前記内燃機関への吸入空気量を制御するスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサと、前記車両と前記内燃機関との内の少なくとも一方の運転状態に基づいて、前記内燃機関への燃料噴射量及び吸入空気量を制御する電子制御式燃料噴射装置と、前記回転センサにより検出される前記内燃機関の実回転速度と前記車速センサにより検出される前記車両の速度の情報とに基づいて、前記クラッチによる前記内燃機関と前記駆動装置との連結状態を判定するクラッチ状態検出ユニットとを備え、前記クラッチ状態検出装置により検出する前記連結状態に応じて、前記燃料噴射量と前記吸入空気量とのうち少なくとも一方を補正するようにした内燃機関の制御装置であって、前記車速センサにより検出された車速と前記回転センサにより検出された実回転速度と前記スロットル開度センサにより検出されたスロットル開度とが所定の範囲である第1の条件と、前記車速センサにより検出された車速と前記回転センサにより検出された実回転速度との比率を表す実演算値が所定の状態である第2の条件とを満たしているとき、前記実演算値を前記変速ギヤに於ける基準学習値として学習する基準値学習機能を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明による内燃機関の制御装置によれば、車速センサにより検出された車速と回転センサにより検出された内燃機関の実回転速度とスロットル開度センサにより検出されたスロットル開度とが所定の範囲である第1の条件と、前記車速センサにより検出された車速と前記回転センサにより検出された実回転速度との比率を表す実演算値が所定の状態である第2の条件とを満たしているとき、前記実演算値を変速ギヤに於ける基準学習値として学習する基準値学習機能を備えたので、クラッチの結合状態、つまり内燃機関と駆動装置との連結状態を精度よく判定し、適正に内燃機関を制御することのできる内燃機関の制御装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置について、図に基づいて説明する。図1は、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置の全体構成を示す構成図である。図1に示す内燃機関の制御装置は、2輪車の場合を示している。図1に於いて、内燃機関15は、シリンダ(図示せず)及びこのシリンダ内に摺動自在に挿入されたピストン(図示せず)を備えている。内燃機関15のシリンダヘッドには、点火コイル18と、この点火コイル18により高電圧が印加されてシリンダ内に火花放電を発生させる点火プラグ19が設けられている。更に、内燃機関15のシリンダには、吸気弁(図示せず)を介して吸気通路12が接続されると共に、排気弁(図示せず)を介して排気通路16が接続されている。
【0013】
吸気通路12の上流側にはエアクリーナ11が設置されており、エアクリーナ11を介して吸気通路12内に給入された空気と燃料噴射モジュール17により噴射された燃料との混合気は、吸気弁を介してシリンダ内に吸入される。吸気通路12内の吸入空気の圧力は、吸気通路12に設けられた吸気圧力センサ3により検出される。
【0014】
吸気通路12に於けるエアクリーナタ11の下流側には、吸入する空気量を制御するスロットルバルブ13が設けられ、スロットルバルブ13の開度はスロットル開度センサ2により検出される。又、吸気通路12には、スロットルバルブ13を迂回するバイパスエア通路のバイパス空気量を調整するバイパス空気量制御弁14が設けられている。排気弁を介して内燃機関15のシリンダ内から吸気通路内へ排出された排気ガスは、排気マフラ20を介して大気へ排出される。排気マフラ20には、排気ガス中のNOx、HC、COを浄化する排出ガス浄化触媒が設けられている。内燃機関15の壁面に接地された内燃機関温度センサ4は、内燃機関15の壁面内を通過する水温を計測する。クランク角センサ5は、内燃機関15のクランク角度つまりクランク位置を計測する。車速センサ6は、車両の駆動装置であるタイヤ23の回転数に基づいて車速を検出する。
【0015】
クラッチ21は、内燃機関15の出力軸に連結されると共に軸方向に移動可能に構成された第1のクラッチ板と、この第1のクラッチ板に軸方向に対向して設けられ、第1のクラッチ板が軸方向に移動することにより第1のクラッチ板と結合若しくは離反する第2のクラッチ板とを備えている。変速装置(図示せず)によるギヤ変速時にドライバーによりプル操作若しくはリリース操作されるクラッチレバー1は、ワイヤ等を介してクラッチ21の第1のクラッチ板に連結されており、ドライバーによるプル操作若しくはリリース操作によりワイヤを介してクラッチ21の第1のクラッチ板をその軸方向に移動させることにより、第1のクラッチ板と第2のクラッチ板との結合度を調節する。
【0016】
第2のクラッチ板に連結されたクラッチ21の出力軸は、駆動チェーン22を介して車両の駆動装置であるタイヤ23に連結されている。従って、内燃機関15とタイヤ23との連結度は、クラッチ21の結合度により制御されることになる。
【0017】
コントロールユニット10は、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェイス(何れも図示せず)、及び不揮発メモリ9等を有し、スロットル開度センサ2、吸気圧力センサ3、内燃機関温度センサ4、クランク角センサ5、車速センサ6からの夫々の検出値、及びクラッチレバー1の操作状態に基づくクラッチ21の結合度検出値が夫々入力され、これ等の入力された検出値等に基づいて種々の演算を行ない、その演算に基づく駆動信号を点火コイル18、燃料噴射モジュール17、及びバイパス空気量制御弁14に送信してこれ等を駆動する。
【0018】
前述の不揮発メモリ9は、コントロールユニット10の演算等に必要な情報を記憶すると共に、後述する変速装置の各ギヤに於ける基準学習値を記憶している。この不揮発メモリ9は、電源オフ時にもその記憶を保持し続け、車両の次回の走行時には、その記憶して
いる前述の各ギヤにおける基準学習値を使用することができる。
【0019】
次に、以上のように構成されたこの発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置の動作を説明する。図2は、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置の動作を説明するフローチャートである。図2に示すフローチャートは、クラッチ21の結合状態つまり第1のクラッチ板と第2のクラッチ板との結合状態を推定し判定するための、変速装置の各ギヤ毎の車速Vと内燃機関回転速度Nとの比(以下、V/Nと称する)の基準値(以下、基準V/N値、と称する)を学習する方法を説明している。
【0020】
図2に於いて、先ず、ステップS201に於いて、現在、内燃機関15がエンストしているか否かを判定し、エンストしていれば(YES)、ステップS203に進んで[V/N演算値=XRMAX]とし、以降、ステップS216、ステップS217、ステップS21
8へと進み、図2に示すルーチンを終了する。ステップS216では基準V/N値学習第1条件タイマを初期化して初期値XTM1にセットし、ステップS217では基準V/N値学習第2条件タイマを初期化して初期値XTM2にセットし、更にステップS218では基準V/N学習瞬時値を初期化して初期値V/N演算値にセットする。
【0021】
ステップS201に於いてエンストと判定されなければ(NO)、ステップS202に進み、(V/N演算値=車速÷内燃機関回転速度)の演算をコントロールユニット10により実施し、ステップS204に進む。
【0022】
ステップS204では、車両の変速装置が現在のギヤに変更されてから所定時間が経過したかどうかを判定し、所定時間が経過されていると判定すると(YES)、ステップS2
05に進む。一方、ステップS204に於いて、未だ所定時間経過していないと判定すると(NO)、ステップS216、ステップS217、及びステップS218へと進み、前述したように基準V/N値学習第1条件タイマの初期化、基準V/N値学習第2条件タイマの初期化、及び基準V/N学習瞬時値の初期化を行ない、図2に示すルーチンを終了する。
【0023】
ステップS204からステップS205に進むと、現在の内燃機関回転速度Nが回転速度判定値f(TH)よりも小さいか否かを判定し、内燃機関回転速度Nが回転速度判定値f(TH) よりも小さければ(YES)、ステップS206に進む。一方、ステップS205にて内燃機関回転速度Nがf(TH) 以上であると判定すれば(NO)、ステップS216に
進み、以降、ステップS217、ステップS218へと進み、前述のように基準V/N値学習第1条件タイマの初期化、基準V/N値学習第2条件タイマの初期化、及び基準V/N学習瞬時値の初期化を行ない、図2に示すルーチンを終了する。
【0024】
前述の回転速度判定値f(TH)は、内燃機関15が無負荷状態、つまり内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23が連結されていない状態で、スロットルバルブ13を開いた時の内燃機関15の回転速度Nの上昇値を試験的に求めた値を使用する。このように設定した回転速度判定値f(TH)を用いて現在の回転速度を判定することにより、内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23とが連結されていない時の基準V/N値の誤学習を防ぐことが出来る。
【0025】
ステップS205からステップS206に進むと、車速Vが車速判定値XVHより大きいか否かを判定し、車速Vが車速判定値XVHより大きければ(YES)、ステップS20
7に進み、車速Vが車速判定値XVH以下であれば(NO)、ステップS216、ステップS217、ステップS218へと進み、前述したように基準V/N値学習第1条件タイマの初期化、基準V/N値学習第2条件タイマの初期化、及び基準V/N学習瞬時値の初期化を行ない、図2に示すルーチンを終了する。
【0026】
ステップS206からステップS207に進むと、スロットルバルブ13の安定度合いのチェックとして、スロットルバルブ13の開度の変化は小さく安定しているか否かを判定し、安定していると判定すれば(YES)、ステップS208へ進み、基準V/N値学習
第1条件タイマをデクリメントする。一方、テップS207にて、スロットルバルブ13の開度の変化安定していないと判定すれば(NO)、ステップS216、ステップS217、ステップS218へと進み、前述したように基準V/N値学習第1条件タイマの初期化、基準V/N値学習第2条件タイマの初期化、及び基準V/N学習瞬時値の初期化を行ない、図2に示すルーチンを終了する。
【0027】
前述のように、ステップS204、ステップS205、ステップS206、及びステップS207での判定の結果、全て成立(YES)していると判定されたときにステップS2
08に進むことになる。ステップS208に進むと、基準V/N値学習第1条件タイマをデクリメントし、次のステップS209に進む。
【0028】
ステップS209では、基準V/N値学習第1条件タイマが「0」であるか否かを判定し、基準V/N値学習第1条件タイマが「0」であれば(YES)、ステップS210に進
む。一方、ステップS209での判定の結果、基準V/N値学習第1条件タイマが「0」でなければ、ステップS217、及びステップS218に進み、前述したように基準V/N値学習第2条件タイマの初期化、及び基準V/N学習瞬時値の初期化を行ない、図2に示すルーチンを終了する。
【0029】
ステップS210に進むと、ステップS202で演算した現在のV/N演算値と今まで取得した基準V/N学習瞬時値とを比較し、その偏差が大きいかどうかでV/N演算値が安定しているかどうかをチェックする。具体的には、(基準V/N学習瞬時値−XDL)≦V/N演算値≦(基準V/N学習瞬時値+XDH)が成立していれば(YES)、現在の
V/N演算値が安定していると判定してステップS211に進み、基準V/N値学習第2条件タイマをデクリメントし、次のステップS213に進む。
【0030】
逆に、ステップS210での判定の結果、(基準V/N学習瞬時値−XDL)≦V/N演算値≦(基準V/N学習瞬時値+XDH)が不成立ならば(NO)、V/N演算値が安定していないと判定してステップS212に進み、基準V/N値学習第2条件タイマを初期化し、次のステップS213に進む。
【0031】
尚、前述のXDLの値、及びXDHの値は、夫々任意に設定することができる。
【0032】
ステップS213では、基準V/N学習瞬時値を現在のV/N演算値とし、ステップS214に進む。ステップS214では、基準V/N値学習第2条件タイマが「0」か否かを判定し、「0」であれば、正しいV/N学習値が得られたとして、ステップS215に進み、現在のギヤの基準V/N値=基準V/N学習瞬時値を実行し、図2の処理ルーチンを終了する。基準V/N値学習第2条件タイマが「0」でなければ、そのまま図2の処理ルーチンを終了し、正しい基準V/N値を求め続けていく。
【0033】
以上のように、この発明の実施の形態1による内燃機関の制御装置によれば、各ギヤに於いて、内燃機関と駆動装置が完全に連結されている、つまりクラッチ21の第1のクラッチ板と第2のクラッチ板とが完全に結合されている状態を認識し、その時のV/N演算値を各ギヤの基準V/N値とする学習機能を有するので、ユーザーがスプロケットの交換やタイヤ径変更をしても、正しくクラッチの結合状態を推定できるので、内燃機関回転の不安定やエンスト等を引き起こすことがない。
【0034】
尚、この発明の実施の形態1では、基準V/N値学習第2条件タイマが「0」となったときの基準V/N学習瞬時値、つまり、同タイミングのクラッチ結合判定ルーチンで演算したV/N演算値、を現在のギヤの基準V/N値としているが、基準V/N値学習第1条件タイマが「0」の状態でかつ、ステップS210で安定が確認されているときのV/N演算値を複数回記憶し、その記憶した複数回の値の平均値を現在のギヤの基準値としても良い。
【0035】
又、前記基準値学習機能は、一定時間毎に前記車速と実回転速度の比率を表す実演算値をモニタするモニタ機能をさらに有し、スロットル開度が所定値以上の状態で、車速と実回転速度の比率を表す実演算値が所定の期間変化しない第3の条件を満たしている場合に、前記車速と実回転速度の比率を表す実演算を各ギヤにおける基準学習値として学習するように構成されていてもよい。
【0036】
更に、基準値学習機能は、スロットル開度毎の内燃機関の上限回転速度を備え、内燃機関の実回転速度が前記上限回転速度以下のである第4の条件を満たしている場合に、車速と実回転速度の比率を表す実演算値を各変速ギヤに於ける基準学習値として学習するように構成されていてもよい。
【0037】
又、この発明の実施の形態1で得た各ギヤ毎の基準値を、コントロールユニット10に内蔵された不揮発性メモリ9に記憶し、次回の走行時のクラッチ結合判定に使用しても良い。
【0038】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置について説明する。図3は、この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置の動作を説明するフローチャートである。図3のフローチャートは、クラッチ21の結合状態、つまり第1のクラッチ板と第2のクラッチ板との結合状態を、内燃機関の回転数と車速とから推定し判定するルーチンを示している。
【0039】
先ず、ステップS301では、内燃機関15がエンストしているか否かを判定し、エンストしているならば(YES)、ステップS302に進み、クラッチレバー1がプル状態であ
り内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23とは連結されていないと判定し、図3のルーチンを終了する。
【0040】
一方、ステップS301に於ける判定の結果、内燃機関15がエンストしていないならば(NO)、ステップS303に進んで、(V/N演算値=車速÷内燃機関の回転速度)の演算を実施する。
【0041】
続いて、求められたV/N演算値を基にクラッチ21の結合状態、つまり内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23との連結状態を判定する処理に入る。即ち、ステップS304にて、現在のギヤがニュートラルであり「0」速か否かを判定し、ニュートラルであり「0」速であると判定すると(YES)、ステップS305に進み、クラッチレバープル、つまりクラッチ21の第1のクラッチ板と第2のクラッチ板が離反していてクラッチ21が遮断(解放)状態にあると判定し、内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23とは連結されていないと判定して図3のクラッチ結合判定ルーチンを終了する。
【0042】
一方、ステップS304に於いてギヤがニュートラル、つまり「0」速ではないと判定されれば(NO)、ステップS306に進み、スロットルバルブ13の現在の開度が所定値XTHより大きいか否かを判定し、スロットルバルブ13が所定値XTHより大きく開いていると判定すれば(YES)、ステップS307に進み、クラッチレバーリリースの状
態であり内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23は連結されていると判定し、図3のルーチンを終了する。
【0043】
一方、ステップS306に於いてスロットルバルブ13は所定値XTHより大きく開いていないと判定されれば(NO)、ステップS308に進み、現在のギヤが1速であるか否かを判定し、1速であれば(YES)、ステップS309に進む。ステップ309では、前
述のステップS303で演算した演算した現在のV/N演算値と第1の所定値、または1速ギヤの基準V/N値とを比較し、その大小関係及び、偏差の大きさでクラッチの繋がり具合をチェックする。具体的には、現在のV/N演算値が、第1の所定値XVN1L以上であり且つ(1速ギヤの基準V/N値+XRH)以下であるか否かを比較し、その大小関係及び、偏差の大きさに基づいてクラッチ21の結合状態を判定する。
【0044】
ステップS309にて判定の結果、XVN1L≦V/N演算値≦(1速の基準V/N値+XRH)が成立していれば(YES)、ステップS310に進み、クラッチレバーリリー
スの状態でありクラッチ21は内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23とを連結させていると判定する。一方、ステップS309にて判定の結果、(1速の基準V/N値−XRL)≦V/N演算値≦(1速の基準V/N値+XRH)が不成立であれば(NO)、ステップS311に進みクラッチレバープルの状態でありクラッチ21が遮断状態にあり、内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23とは連結されていないと判定し、図3のルーチンを終了する。
【0045】
次に、1速よりも高ギヤの時のクラッチの結合状態の判定は以下のように行われる。先ず、ステップS312に於いて変速機の現在稼働中のギヤをチエックしてステップS313に進み、現在のV/N演算値と現在のギヤの基準V/N値とを比較し、その偏差が大きいかどうかでクラッチ21の結合状態を判定する。具体的には、(当該ギヤの基準V/N値−XRL)≦V/N演算値≦(当該ギヤの基準V/N値+XRH)が成立しているか否かを判定する。
【0046】
ステップS313での判定の結果、(当該ギヤの基準V/N値−XRL)≦V/N演算値≦(当該ギヤの基準V/N値+XRH)が成立していれば(YES)、ステップS314
に進みクラッチレバーリリース、つまりクラッチ21は内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23と連結した状態であると判定する。一方、前述のステップS313にて(当該ギヤの基準V/N値−XRL)≦V/N演算値≦(当該ギヤの基準V/N値+XRH)が不成立であると判定したときは(NO)、ステップS315に進みクラッチレバープルと判定し、図3のルーチンを終了する。
【0047】
尚、前述のXRLの値、及びXRHの値は、夫々任意に設定することができる。
【0048】
前述のステップS309、及びステップS313に於いて用いる基準V/N値は、前述の実施の形態1による内燃機関の制御装置に於いて学習し記憶した基準学習値を用いる。即ち、その基準学習値は、基準値学習機能に記憶されている基準学習値であって、車速センサにより検出された車速と回転センサにより検出された実回転速度とスロットル開度センサにより検出されたスロットル開度とが所定の範囲である第1の条件と、車速センサにより検出された車速と回転センサにより検出された実回転速度との比率を表す実演算値が所定の状態である第2の条件とを満たしているとき、前記実演算値を変速ギヤに於ける基準学習値として学習した値である。
【0049】
以上のように、この発明の実施の形態2による内燃機関の制御装置によれば、変速機がニュートラル状態であり「0」速ギヤのときは、常時クラッチレバープル、つまりクラッチ21が結合されておらず遮断状態にあり、内燃機関15と駆動装置であるタイヤ23と
は連結されていないと判定し、変速機がニュートラルではなく「0」速ギヤ以外であるときで、且つスロットル13の開度が所定以上であるときは、クラッチレバーリリース、つまりクラッチ21は結合状態にあり、内燃機関15と駆動装置あるタイヤ23とは連結されていると判定し、スロットル13の開度が所定以下に閉じており、且つ1速ギヤ以外のときは、V/N演算値と基準V/N値との偏差を判定し、1速ギヤのときは一部基準V/N値を使わずに判定するようにしており、クラッチ結合状態の判定の仕方を変速機のギヤ毎に使い分けを行うようにしたので、あらゆる状態で正しく、且つ、良いタイミングでクラッチの結合状態を判定し、燃料供給量や吸入空気を切り替えやたり増減したりすることができ、内燃機関の回転の不安定やエンスト等を引き起こすことがない。
【0050】
尚、この発明の実施の形態2では、クラッチの結合状態を判定するために、車速と内燃機関の回転速度の情報を、(車速÷内燃機関回転速度)の演算式を用いるようにしたが、(内燃機関の回転速度÷車速)の演算式を用いるようにしてもよい。
【0051】
又、この発明の実施の形態2では、クラッチの結合状態を判定する時の偏差の大きさの判定基準値を一定値である所定値XRL、XRHとしていたが、ギヤ毎に判定基準値に設けても良い。
【0052】
以上述べたこの発明による内燃機関の制御装置は、以下の特徴を備える。
(1)車両に搭載された内燃機関と前記車両の駆動装置との連結を制御するクラッチと、前記クラッチを操作するクラッチレバーと、前記車両の速度を検出する車速センサと、前記内燃機関の出力を前記駆動装置に伝達する変速ギヤを検出するギヤ検出装置と、前記内燃機関の実回転速度を検出する回転センサと、前記内燃機関への吸入空気量を制御するスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサと、前記車両と前記内燃機関との内の少なくとも一方の運転状態に基づいて、前記内燃機関への燃料噴射量及び吸入空気量を制御する電子制御式燃料噴射装置と、前記回転センサにより検出される前記内燃機関の実回転速度と前記車速センサにより検出される前記車両の速度の情報とに基づいて、前記クラッチによる前記内燃機関と前記駆動装置との連結状態を判定するクラッチ状態検出ユニットとを備え、前記クラッチ状態検出装置により検出する前記連結状態に応じて、前記燃料噴射量と前記吸入空気量とのうち少なくとも一方を補正するようにした内燃機関の制御装置であって、前記車速センサにより検出された車速と前記回転センサにより検出された実回転速度と前記スロットル開度センサにより検出されたスロットル開度とが所定の範囲である第1の条件と、前記車速センサにより検出された車速と前記回転センサにより検出された実回転速度との比率を表す実演算値が所定の状態である第2の条件とを満たしているとき、前記実演算値を前記変速ギヤに於ける基準学習値として学習する基準値学習機能を備えたことを特徴とする。
【0053】
(2)前記基準値学習機能は、一定時間毎に前記車速と実回転速度の比率を表す実演算値をモニタするモニタ機能をさらに有し、前記スロットル開度が所定値以上の状態で、前記車速と実回転速度の比率を表す実演算値が所定の期間変化しない第3の条件を満たしている場合に、前記車速と実回転速度の比率を表す実演算を各ギヤにおける基準学習値として学習することを特徴とする。
【0054】
(3)前記基準値学習機能は、前記スロットル開度毎の前記内燃機関の上限回転速度を備え、前記内燃機関の実回転速度が前記上限回転速度以下のである第4の条件を満たしている場合に、前記車速と実回転速度の比率を表す実演算値を各変速ギヤに於ける基準学習値として学習することを特徴とする。
【0055】
(4)電源オフ時にも記憶内容が消去されない不揮発性メモリを備え、前記基準値学習機能は、前記各変速ギヤに於ける基準学習値を前記不揮発性メモリに記憶し、次回の走行時
には、前記不揮発性メモリに記憶された前記各ギヤに於ける基準学習値をクラッチ結合状態の検出に用いることを特徴とする。
【0056】
(5)前記クラッチ状態検出ユニットは、変速ギヤが「0」速ギヤのときは、前記内燃機関と前記駆動装置とは連結されていない判定し、前記変速ギヤが「0」速ギヤ以外であり、且つ前記スロットルの開度が所定値以上であるときは、前記内燃機関と前記駆動装置とは連結されていると判定し、前記変速ギヤが「0」速ギヤ以外であり、前記スロットルの開度が所定値以下であり、且つ「1」速ギヤ以外であるときは、前記車速と前記内燃機関の実回転速度との比率を表す実演算値と前記基準学習値との偏差に基づいて前記内燃機関と前記駆動装置との連結状態を判定し、前記変速ギヤが「0」速ギヤ以外であり、前記スロットルの開度が所定値以下であり、且つ前記変速ギヤが「1」速ギヤのときは、前記車速と前記内燃機関の実回転速度との比率を表す実演算と前記基準学習値以外の所定値とに基づいて前記内燃機関と前記駆動装置との連結状態を判定することを特徴とする。
【符号の説明】
【0057】
1 クラッチレバー 2 スロットル開度センサ
3 吸気圧力センサ 4 内燃機関温度センサ
5 クランク角センサ 6 車速センサ
9 不揮発性メモリ 10 コントロールユニット
11 エアクリーナ 12 吸気通路
13 スロットルバルブ 14 バイパスエア量制御弁
15 内燃機関 16 排気通路
17 燃料噴射モジュール 18 点火コイル
19 点火プラグ 21 クラッチ板
22 チェーン 23 タイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された内燃機関と前記車両の駆動装置との連結を制御するクラッチと、
前記クラッチを操作するクラッチレバーと、前記車両の速度を検出する車速センサと、
前記内燃機関の出力を前記駆動装置に伝達する変速ギヤを検出するギヤ検出装置と、
前記内燃機関の実回転速度を検出する回転センサと、前記内燃機関への吸入空気量を制御するスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサと、
前記車両と前記内燃機関との内の少なくとも一方の運転状態に基づいて、前記内燃機関への燃料噴射量及び吸入空気量を制御する電子制御式燃料噴射装置と、
前記回転センサにより検出される前記内燃機関の実回転速度と前記車速センサにより検出される前記車両の速度の情報とに基づいて、前記クラッチによる前記内燃機関と前記駆動装置との連結状態を判定するクラッチ状態検出ユニットと、
を備え、
前記クラッチ状態検出装置により検出する前記連結状態に応じて、前記燃料噴射量と前記吸入空気量とのうち少なくとも一方を補正するようにした内燃機関の制御装置であって、
前記車速センサにより検出された車速と前記回転センサにより検出された実回転速度と前記スロットル開度センサにより検出されたスロットル開度とが所定の範囲である第1の条件と、前記車速センサにより検出された車速と前記回転センサにより検出された実回転速度との比率を表す実演算値が所定の状態である第2の条件とを満たしているとき、前記実演算値を前記変速ギヤに於ける基準学習値として学習する基準値学習機能を備えた、
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記基準値学習機能は、一定時間毎に前記車速と実回転速度の比率を表す実演算値をモニタするモニタ機能をさらに有し、
前記スロットル開度が所定値以上の状態で、前記車速と実回転速度の比率を表す実演算値が所定の期間変化しない第3の条件を満たしている場合に、前記車速と実回転速度の比率を表す実演算を各ギヤにおける基準学習値として学習する、
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記基準値学習機能は、前記スロットル開度毎の前記内燃機関の上限回転速度を備え、
前記内燃機関の実回転速度が前記上限回転速度以下のである第4の条件を満たしている場合に、前記車速と実回転速度の比率を表す実演算値を各変速ギヤに於ける基準学習値として学習する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
電源オフ時にも記憶内容が消去されない不揮発性メモリを備え、
前記基準値学習機能は、前記各変速ギヤに於ける基準学習値を前記不揮発性メモリに記憶し、
次回の走行時には、前記不揮発性メモリに記憶された前記各ギヤに於ける基準学習値をクラッチ結合状態の検出に用いる、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちの何れか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記クラッチ状態検出ユニットは、
変速ギヤが「0」速ギヤのときは、前記内燃機関と前記駆動装置とは連結されていない判定し、
前記変速ギヤが「0」速ギヤ以外であり、且つ前記スロットルの開度が所定値以上であるときは、前記内燃機関と前記駆動装置とは連結されていると判定し、
前記変速ギヤが「0」速ギヤ以外であり、前記スロットルの開度が所定値以下であり、
且つ「1」速ギヤ以外であるときは、前記車速と前記内燃機関の実回転速度との比率を表す実演算値と前記基準学習値との偏差に基づいて前記内燃機関と前記駆動装置との連結状態を判定し、
前記変速ギヤが「0」速ギヤ以外であり、前記スロットルの開度が所定値以下であり、且つ前記変速ギヤが「1」速ギヤのときは、前記車速と前記内燃機関の実回転速度との比率を表す実演算と前記基準学習値以外の所定値とに基づいて前記内燃機関と前記駆動装置との連結状態を判定する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のうちの何れか一項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−225239(P2012−225239A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92984(P2011−92984)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】