説明

内燃機関の制御装置

【課題】電子制御スロットルの製造バラつきがある場合でも、従来より最適なスロットル制御を行うことができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンECUは、内燃機関のアイドル時のエンジン回転数制御後、この学習を行って(ステップS1)、アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量を表す学習値を得て(ステップS2)、内燃機関のエンジン回転数を検出し(ステップS3)、学習値とエンジン回転数とに基づいて走行時の吸入空気量を算出し(ステップS4)、この値に基づいてスロットル開度を制御する(ステップS5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御スロットルを用いてスロットル開度を制御する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータ制御された車両では、内燃機関の制御装置としてECU(Electronic Control Unit)を用いて、内燃機関に関する各種制御を総合的に制御することで、走行状況に応じて最適な燃焼状態が得られるようになっている。ECUは、特に燃料噴射制御(EFI)、点火時期制御(ESA)、アイドル回転数制御(ISC)などの制御を行って、車両の高性能・高出力化、低燃費化およびエミッション性能の向上などを図るようになっている。
【0003】
このうち、アイドル回転数制御(以下、ISCという)においては、ECUは、アイドル時の実エンジン回転数をアイドル時の目標エンジン回転数に一致させるよう制御しており、一般には、実エンジン回転数が目標エンジン回転数よりも低い場合には、スロットルバルブの開度を所定の補正量だけ大きくし、反対に、実エンジン回転数が目標エンジン回転数よりも高い場合には、スロットルバルブの開度を所定の補正量だけ小さくするフィードバック制御を実行している。
【0004】
また、ECUは、アイドリング中やアクセルOFFの減速時など、ISCの実行中にはスロットル開度に基づいて吸入空気量を推定しているため、このスロットル開度には高い精度が求められている。そこで、従来、アクセル開度を電気的に検知し、検知したアクセル開度に応じてモータによりバルブを開閉することで、スロットル開度を制御する電子制御スロットルが広く利用されている。この電子制御スロットルは、メカニカルスロットルに比べ、吸入空気量をきめ細かく制御することができ、燃費向上とNO低減を達成する上で好適であり、さらに、部品点数を減らして、重量減を達成する上でも好適である。
【0005】
このような電子制御スロットルを有する内燃機関において、適切な吸入空気量を得るためのスロットル開度制御の精度を向上するための様々な技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示されたものは、スロットルバルブの周辺にデポジット(堆積物)が付着することに起因して、空気通路の断面積が減少し、所望の空気量が得られなくなり、スロットルバルブの開度から算出される吸入空気量の誤差が経時的に発生することを課題としている。
【0006】
このため、特許文献1に開示されたものは、スロットル開度およびエンジン回転数に基づいて基準吸入空気量を算出し、当該基準吸入空気量と実際の吸入空気量との比較結果などに基づいて、スロットル開度に対する補正値を所定のスロットル開度領域毎に算出するようになっている。そして、補正値により補正されたスロットル開度である学習後スロットル開度をスロットル開度領域毎に学習することで、より正確なスロットルバルブの開度を把握するようになっている。
【0007】
一方、モータおよび内燃機関の駆動力により走行するハイブリッド車において、車両の減速時に内燃機関のアイドル制御を実行する場合、車両に振動が発生することを抑制するために、スロットルバルブの開度を制御する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に開示されたものは、内燃機関と車輪軸とが連結された構成を有しているため、車両減速時における内燃機関のアイドル制御中に、減速による車輪軸の回転数の低下によりエンジン回転数が引き下げられると、車両に振動が発生するおそれがあることを課題としている。
【0008】
このため、特許文献2に開示されたものは、予め定められた実行条件が成立すると、車輪の回転数など検出された物理量に基づく車両の減速の度合いに応じて、スロットル開度の制御量や目標エンジン回転数などアイドル制御に関連する制御量を補正するようになっていた。これにより、車両の減速時におけるエンジン回転数の低下を抑制するようになっていた。
【0009】
このように、従来、様々な態様でISC制御を実行し、経時変化や車両の走行状況に応じて内燃機関に吸入される空気量を調整するようにスロットルバルブの開度を補正することが知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−126036号公報
【特許文献2】特開2008−120350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した特許文献1および2に開示されたものは、いずれも電子制御スロットルに製造バラつきがあるにもかかわらず、この流量特性の個体差を考慮するようなものではなかった。つまり、上述した特許文献1および2に開示されたものは、スロットルバルブの開度についてデポジットなどに起因した経時変化や車両の走行状態に応じて補正を行うようになっているものの、電子制御スロットルの製造バラつきを考慮して、走行時の吸入空気量を算出するようなものではなかった。
【0012】
このため、特許文献1および2に開示されたものでは、電子制御スロットルの製造バラつきにより、スロットル開度に応じた吸入空気量が所望の吸入空気量から乖離する場合が発生し、最適な燃焼状態とするための制御の正確性が低下するおそれがあった。例えば、電子制御スロットルの個体差により、電子制御スロットルの流量特性が、平均的な流量特性を有するものより流量が多くなるものが引き当たった場合には、空気量過多によりエンジン回転数の吹き上がりを生じさせる可能性があった。また、電子制御スロットルの流量特性が、平均的な流量特性を有するものより流量が少なくなるものが引き当たった場合には、空気量不足により自立運転できる下限負荷率を割り込んで、エンストを発生させる可能性があった。
【0013】
したがって、特許文献1および2のいずれに開示されたものも、アイドル時やアクセルOFFによる減速時などスロットル開度に基づいて吸入空気量を推定する場合に、スロットル開度の制御に対して得られる実吸入空気量と推定される吸入空気量とが一致せず、最適なスロットル制御を実行できない可能性があった。
【0014】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、電子制御スロットルの製造バラつきがある場合でも、従来より最適なスロットル制御を行うことができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、上記目的達成のため、(1)内燃機関の吸入空気量を調整するためのスロットルバルブを含む電子制御スロットルを用いて、前記スロットルバルブのスロットル開度を制御する内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関のアイドル時のエンジン回転数制御を行うアイドル回転数制御手段と、前記アイドル時のエンジン回転数制御の学習を行って、アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量を表す学習値を得る学習値取得手段と、前記内燃機関のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、前記学習値と前記エンジン回転数とに基づいて走行時の吸入空気量の目標値を算出する算出手段と、前記走行時の吸入空気量の目標値に基づいて前記スロットル開度を制御するスロットル開度制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成により、電子制御スロットルの製造バラつきがある場合であっても、アイドル回転数制御(ISC)学習から得られる、アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量を表すISC学習値を用いて、電子制御スロットルの個体差を示すスロットル流量特性を特定できる。したがって、この学習値とエンジン回転数とに基づいて走行時空気量の目標値を算出することで、電子制御スロットルの製造バラつきに因らないで、従前より良好なスロットル制御を行うことができる。
【0017】
上記(1)に記載の内燃機関の制御装置において、(2)前記学習値と予め定められた基準値との差から前記電子制御スロットルの流量特性を特定する特定手段を備え、前記算出手段は、前記特定手段により特定された流量特性と前記エンジン回転数とに基づいて走行時の吸入空気量を算出することが好ましい。
【0018】
この構成により、電子制御スロットルの流量特性に個体差がある場合に、アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量を表す学習値と所定の基準値との差に基づいて、電子制御スロットルの個体差を特定できる。したがって、この特定された流量特性とエンジン回転数とに基づいて走行時空気量の目標値を算出することで、電子制御スロットルの製造バラつきに因らないで、従前よりも良好なスロットル制御を行うことができる。
【0019】
上記(2)に記載の内燃機関の制御装置において、(3)前記基準値は、複数の前記電子制御スロットルにおける前記アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量の中央値であることが好ましい。
【0020】
この構成により、吸入空気量の平均的な値である中央値を基準にとるので、測定対象となる電子制御スロットルの流量特性が中央品からどの程度ずれているかを算出することが可能となる。
【0021】
上記(3)に記載の内燃機関の制御装置において、(4)複数の前記電子制御スロットルを同一のスロットル開度にした場合に吸入空気量が最大となる前記電子制御スロットルのアイドル時の単位時間あたりの吸入空気量、吸入空気量が最小となる前記電子制御スロットルのアイドル時の単位時間あたりの吸入空気量、および前記基準値と、前記学習値取得手段により得られる学習値とに基づいて、測定対象となる前記電子制御スロットルの個体差を示す流量特性を特定することが好ましい。
【0022】
この構成により、電子制御スロットルの個体差上、中央品と同一のスロットル開度において流量が中央品より多くなる特性を有するものが引き当たった場合には、例えば、中央品の場合と比べて、走行時空気量の目標値を減らすことで、空気量過多によりエンジン回転数の吹き上がりを生じさせることを未然に防ぐことができる。また、中央品と同一のスロットル開度において流量が中央品より少なくなるものが引き当たった場合にも、例えば、中央品の場合と比べて、走行時空気量の目標値を増やすことで、空気量不足により自立運転できる下限負荷率を割り込んで、エンストを発生させることを未然に防ぐことができる。このため、電子制御スロットルの製造バラつきに因らないで、従前より良好なスロットル制御を行うことができる。
【0023】
上記(1)から(4)のいずれか一に記載の内燃機関の制御装置において、(5)前記学習値および前記エンジン回転数と、前記走行時の吸入空気量とを対応させたマップを記憶した記憶手段をさらに備え、前記算出手段は、前記マップを参照することにより前記走行時の吸入空気量の目標値を算出することが好ましい。
【0024】
この構成により、予め記憶しておいた学習値およびエンジン回転数と、走行時空気量とを対応させたマップを利用して、電子制御スロットルの流量特性に応じた走行時空気量の目標値を迅速かつ正確に算出することができる。また、このマップは、適宜、記憶手段に記憶させることができるため、マップの取り込みや修正などについて柔軟に対応することができる。
【0025】
上記(1)から(5)のいずれか一に記載の内燃機関の制御装置において、(6)前記走行時の吸入空気量は、車両の減速走行時における吸入空気量であることが好ましい。
【0026】
この構成により、アイドルスピードコントロールにより吸入空気量が調整される車両の走行状態において吸入空気量センサを用いずに吸入空気量を推定する場合においても、本願発明を適用することにより、正確に吸入空気量を推定し、適切なスロットル制御を実行することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、電子制御スロットルを用いてスロットル開度を制御する内燃機関において、電子制御スロットルの製造バラつきがある場合でも、電子制御スロットルの流量特性に応じたスロットル開度の制御を実行することができる。したがって、従来と比較して電子制御スロットルの製造バラつきに因らずより正確なスロットル開度の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を示すブロック構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る動力分割機構の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電子制御スロットルの流量特性を、スロットル開度と流量の関係に基づいて、中央品と、流量上限品と、流量下限品の三つに区別して示した図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るISC学習値に対応する流量特性およびエンジン回転数と、走行時空気量とを対応させたマップを示した図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るエンジンECUの構成を概略的に示す機能ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るスロットル開度制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0030】
まず、本発明が適用される車両の構成について説明する。以下の説明では、ガソリンエンジンに併せて、モータからの駆動力を利用して走行するハイブリッド車両1に適用する場合を例に説明する。しかしながら、本発明は、他の種類の車両、例えば、通常のガソリンエンジンのみを利用する車両に適用してもよい。
【0031】
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、駆動源としてのエンジン120と、回転電機であるモータジェネレータ(MG)140と、を備えている。本実施の形態においては、エンジン120はガソリンエンジンにより構成されている。また、エンジン120は、本発明に係る内燃機関を構成している。
【0032】
以下、説明の便宜上、モータジェネレータ140について説明する際に、モータ140Aとジェネレータ140Bとに分けて説明するが、従来技術で公知なように、ハイブリッド車両1の走行状態に応じて、モータ140Aがジェネレータとして機能したり、ジェネレータ140Bがモータとして機能してもよい。
【0033】
また、ハイブリッド車両1は、エンジン120やモータジェネレータ140で発生した動力を駆動輪160に伝達するための減速機180を備えている。また、ハイブリッド車両1は、遊星歯車機構などにより構成されエンジン120の発生する動力を駆動輪160およびジェネレータ140Bの2経路に分配するための動力分割機構200を備えている。
【0034】
また、ハイブリッド車両1は、モータジェネレータ140を駆動するための電力を充電する走行用バッテリ220と、走行用バッテリ220の直流とモータ140Aおよびジェネレータ140Bの交流とを変換しながら電流制御を行うためのインバータ240と、を備えている。なお、走行用バッテリ220の代わりにキャパシタなどの蓄電機構を備えていてもよい。
【0035】
さらに、ハイブリッド車両1は、走行用バッテリ220とインバータ240の間にコンバータ242を備えている。コンバータ242は、走行用バッテリ220の定格電圧が、モータ140Aやジェネレータ140Bの定格電圧よりも低い場合に、走行用バッテリ220からモータ140Aやジェネレータ140Bに電力を供給するときに電力を昇圧するようになっている。コンバータ242には図示しない平滑コンデンサが内蔵されており、コンバータ242が昇圧動作を行う際に、平滑コンデンサに電荷が蓄えられる。
【0036】
ハイブリッド車両1は、発進時や低速走行時などであって、エンジン120の効率が悪い場合には、モータジェネレータ140のモータ140Aのみにより走行を行うことができる。また、エンジン120の効率が良好な通常の走行時には、例えば動力分割機構200によりエンジン120の動力を2経路に分けて、一方で駆動輪160の直接駆動を行い、他方でジェネレータ140Bを駆動して発電を行うことができる。この時、発生する電力でモータ140Aを駆動して駆動輪160の駆動補助を行ってもよい。
【0037】
また、ハイブリッド車両1は、高速走行時には、さらに走行用バッテリ220からの電力をモータ140Aに供給してモータ140Aの出力を増大させることにより駆動力の追加を行ってもよい。また、減速時には、駆動輪160により従動するモータ140Aがジェネレータとして機能して回生発電を行い、回収した電力を走行用バッテリ220に蓄えることができる。なお、走行用バッテリ220の充電量が低下し、充電が特に必要な場合には、エンジン120の出力を増加してジェネレータ140Bによる発電量を増やし走行用バッテリ220に対する充電量を増加してもよい。
【0038】
また、後述するHV_ECU320は、上述のように走行用バッテリ220の充電が必要な場合や、エアコンなどの補機を駆動する場合や、エンジン120の冷却水の温度を所定温度まで上げる場合などには、低速走行時でも必要に応じてエンジン120の駆動力を増加する制御を行うようになっている。さらに、HV_ECU320は、ハイブリッド車両1の運転状態や走行用バッテリ220の状態によっては、燃費を向上させるために、エンジン120を適宜停止させて、その後の運転状態や走行用バッテリ220の状態に基づいて再始動させるように、エンジン120を間欠運転してもよい。
【0039】
図2に示すように、動力分割機構200は、サンギヤ202と、リングギヤ206と、サンギヤ202とリングギヤ206との間の複数のピニオンギヤ208の回転軸を連結して設けられるプラネタリキャリア204とを含む遊星歯車機構により構成されている。サンギヤ202は、ジェネレータ140Bの回転軸に接続されている。リングギヤ206は、モータ140Aの回転軸に接続されている。そして、プラネタリキャリア204は、エンジン120の出力軸に接続されている。
【0040】
モータ140Aおよびリングギヤ206が一体的に回転する回転軸には、さらにチェーンドライブスプロケット216が接続されている。チェーンドライブスプロケット216に入力された動力は、チェーン210を介してチェーンドライブスプロケット212に伝達される。また、チェーンドライブスプロケット212は、カウンタドライブギヤ214から減速機180(図1参照)に動力を伝達するようになっている。
【0041】
また、エンジン120から出力されたトルクは、プラネタリキャリア204に入力されると、サンギヤ202によってジェネレータ140Bに、リングギヤ206によってモータ140Aおよび出力軸(駆動輪160側)に、それぞれ伝達される。また、HV_ECU320は、回転中のエンジン120を停止させる時には、エンジン120が回転しているので、この回転の運動エネルギーをジェネレータ140Bで電気エネルギーに変換して、エンジン120の回転数を低下させる。
【0042】
図1に戻り、ハイブリッド車両1は、内燃機関の制御装置として、エンジンECU280を備えている。エンジンECU280は、エンジン120に関する各種制御を総合的に制御することで、運転状況に応じて最適な燃焼状態が得られるようになっている。また、ハイブリッド車両1は、エンジン120の動作状態を制御するエンジンECU280の他に、走行用バッテリ220の充放電状態を管理制御するバッテリECU260を備えている。ここで、本実施の形態に係るエンジンECU280は、本発明に係るアイドル回転数制御手段、学習値取得手段、エンジン回転数検出手段、算出手段、スロットル開度制御手段、特定手段および記憶手段を構成する。
【0043】
さらに、ハイブリッド車両1は、車両の走行状態などに応じてモータジェネレータ140、バッテリECU260およびインバータ240などを制御するMG_ECU300を備えている。さらに、ハイブリッド車両1は、HV_ECU320を備えており、上記バッテリECU260、エンジンECU280およびMG_ECU300などを相互に管理制御している。このHV_ECU320は、エンジン出力とモータ出力を車両負荷や走行状態などに応じて最適配分し、ハイブリッド車両1が最も効率よく運行できるように、ハイブリッドシステム全体を制御している。
【0044】
以下、本発明の実施形態では、エンジンECU280が内燃機関の制御装置を構成するものとして説明する。但し、このエンジンECU280に対して、図1に示した他のECUの機能を統合させるように構成してもよい。
【0045】
本実施の形態に係るハイブリッド車両1は、エンジン120と、エンジン120に吸気するための吸気系と、エンジン120からの排気を排出するための排気系と、エンジンECU280によって構成されるエンジンシステムを備えている。以下、図1を参照して、本発明の実施形態に関するエンジンシステムについて概略的に説明する。
【0046】
エンジン120の吸気通路122には、吸入空気のほこりなどを捕捉するためのエアクリーナ122Aと、エンジン120に吸入される空気量を調整するためのスロットルバルブ122Cが設けられている。これら吸気通路122と、エアクリーナ122Aと、スロットルバルブ122Cと、図示していないインテークマニホールドとによって吸気系が構成されている。
【0047】
スロットルバルブ122Cは、電子制御スロットルの一部を構成しており、エンジンECU280は、アクセル開度を電気的に検知すると、その電気信号に応じてスロットルバルブ122Cを開閉するモータを制御しスロットル開度を調節するようになっている。電子制御スロットルは、メカニカルスロットルに比べて、吸入空気量をきめ細かく制御できるため、特に燃費向上とNO低減を達成する上で好適である。
【0048】
吸気通路122には、エアクリーナ122Aを通ってエンジン120に吸入される空気量を検知するためのエアフローメータ122Bが設けられている。エアフローメータ122Bは、例えば、吸気温センサ内蔵のホットワイヤ式エアフローメータにより構成されている。また、スロットルバルブ122Cには、開度を検知するためのスロットル開度センサ340が設けられている。スロットル開度センサ340は、例えば、ホール素子を用いた電子式のポジションセンサにより構成されている。
【0049】
また、アクセルペダルには、アクセルペダル踏込み量、すなわちアクセル開度を検知するためのアクセルポジションセンサ330が配置されている。アクセルポジションセンサ330は、アクセルペダル踏込み量に対して直線的に出力電圧が得られるリニアタイプのセンサにより構成されている。これらセンサ122B、330、340の検知結果を示す信号は、エンジンECU280に入力されるようになっている。
【0050】
また、エンジン120のシリンダブロック内部には、図示しないピストン、燃焼室および点火プラグが設けられており、吸気ポートにはフューエルインジェクタが設けられている。フューエルインジェクタは、燃焼室内に燃料を噴射するようになっており、このフューエルインジェクタから燃焼室内に噴射された燃料と、吸気通路122を通ってインテークマニホールドから導入された空気との混合気が、エンジンECU280の制御下で、点火プラグを用いて着火されて燃焼する。
【0051】
エンジン120のシリンダブロック内部には、シリンダブロック内を流通する冷却水の水温を検知するための水温センサ360が設けられている。また、エンジン120のシリンダブロック内部には、クランク位置やクランク角度を検知するためのクランクポジションセンサ380が設けられている。これらセンサ360、380の検知結果を示す信号は、エンジンECU280に入力されるようになっている。
【0052】
また、エンジン120の排気通路124には、CO、HC、NOを低減させる三元触媒コンバータ124Bや、排気音を小さくする消音器124Dなどが設けられている。これら排気通路124と、三元触媒コンバータ124Bと、消音器124Dと、図示しないエキゾーストマニホールドとによって排気系が構成されている。
【0053】
排気通路124には、三元触媒コンバータ124Bに導入される排気に基づいて空燃比(A/F)を検知するための空燃比センサ124Aが設けられている。また、排気通路124には、三元触媒コンバータ124Bの温度を検知する触媒温度センサ124Cが設けられている。これらセンサ124A、124Cの検知結果を示す信号は、エンジンECU280に入力されるようになっている。
【0054】
エンジンECU280は、上述した各種センサからの検出結果を用いて、吸気系、エンジン120および排気系に関する各種制御を総合的に制御するようになっている。エンジンECU280は、内燃機関の制御装置として、燃料噴射制御(EFI)、点火時期制御(ESA)、アイドル回転数制御(ISC)などの制御を行って、車両の高出力化、低燃費化およびエミッション性能の向上などを図るようになっている。
【0055】
エンジンECU280は、ISCにおいて、アイドル時の実エンジン回転数が目標エンジン回転数よりも低い場合には、スロットルバルブ122Cの開度を所定の補正量だけ大きくして吸入空気量を増量補正し、反対に、アイドル時の実エンジン回転数が目標エンジン回転数よりも高い場合には、スロットルバルブ122Cの開度を所定の補正量だけ小さくして吸入空気量を減量補正している。
【0056】
本実施の形態においては、エンジンECU280は、アイドル時の目標エンジン回転数を1000rpmに設定するとともに、目標エンジン回転数と実エンジン回転数との差を用いたフィードバック制御によりスロットルバルブ122Cの開度を調節して、実エンジン回転数を1000rpmに一致させる。
【0057】
通常、エンジンECU280は、アイドル時には電子制御スロットルのスロットルバルブ122Cの開度に基づいて吸入空気量を推定するため、このスロットル開度には高い精度が要求される。しかしながら、大量生産の過程において、設計上は同一であっても、個々の部品に個体差が生じ得る。このような電子制御スロットルの製造バラつきに起因して、個体差に応じて流量やスロットル開度が影響を受ける。
【0058】
そこで、本実施の形態に係るエンジンECU280は、以下に説明するように、電子制御スロットルに製造バラつきがある場合であっても、各電子制御スロットルの流量特性に応じた走行時の吸入空気量を算出することで、電子制御スロットルの製造バラつきに因らないで最適なスロットル制御を行うようになっている。
【0059】
図3は、電子制御スロットルの製造バラつきに関して、スロットルバルブ122Cのスロットル開度と流量との関係について例示したグラフである。図3には、3つの曲線が示されているが、このうち、中央の曲線は、設計および製造上、基準となる電子制御スロットルの中央品について示している。通常、この中央品が示す数値に基づいて、スロットル開度を基準とした吸入空気量が定められている。以下、このような基準となる電子制御スロットルのことを中央品と呼ぶ。
【0060】
また、一番上の曲線は、上記電子制御スロットルの中央品と比べて、同一スロットル開度にしたときに、流量が最大となる電子制御スロットルについて示している。以下、このような個体差を有する電子制御スロットルを流量上限品と呼ぶ。同様に、一番下の曲線は、上記電子制御スロットルの中央品と比べて、同一スロットル開度にしたときに、流量が最少となる電子制御スロットルについて示している。以下、このような個体差を有する電子制御スロットルを流量下限品と呼ぶ。
【0061】
このような個体差は、大量生産される電子制御スロットルに関して、所定量の母体について検討することで、スロットル開度と流量との関係について予め実験的な測定により導き出されている。
【0062】
従来は、この個体差を考慮したスロットル制御が実行されていなかったため、この個体差に起因して、最適な燃焼状態となるように正確にエンジン120を制御することに不都合を生じさせる可能性があった。すなわち、ハイブリッド車両1に搭載された電子制御スロットルが流量上限品の近傍の流量特性を有する場合には、操作上、中央品と同一スロットル開度にしたときに、より多くの流量が流動する結果、空気量過多によりエンジン回転数の吹き上がりを生じさせる可能性があった。逆に、流量下限品の近傍の流量特性を有する場合には、操作上、中央品と同一スロットル開度にしたときに、より少ない流量が流動する結果、空気量不足により自立運転できる下限負荷率を割り込んで、エンストを発生させる可能性があった。
【0063】
そこで、エンジンECU280は、ISC学習を含むISC制御を行う。このISC学習によって、エンジンECU280は、スロットルボディに設けられているスロットル開度センサ340から信号を受け取って、対応するスロットルバルブ122Cの開度を検出できる。
【0064】
また、エンジンECU280は、中央品におけるスロットル開度と吸入空気量とを対応付けた開度特性マップをROMに記憶しており、エンジンECU280は、アイドル時のフィードバック制御により得られたスロットルバルブ122Cの開度と当該開度特性マップより、中央品に換算した場合の吸入空気量を算出し、これを学習値EQGとして記憶するようになっている。
【0065】
ここで、開度特性マップは、例えば、図3に示したグラフのうち、中央品の特性を表すグラフにより構成されている。つまり、エンジンECU280は、目標とする吸入空気量を算出すると、この開度特性マップにしたがってスロットルバルブ122Cの開度を設定し、この開度になるようスロットル制御を実行するようになっている。
【0066】
したがって、学習値EQGは、エンジン120のアイドル回転数保持に必要とされる単位時間あたりの吸入空気量を、同じスロットル開度における中央品の吸入空気量に換算した値を意味する。
【0067】
アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量は、電子制御スロットルの個体差にかかわらず一定の値となる。しかし、電子制御スロットルの個体差のため、吸入空気量に変化が生じ得る場合には、中央品に従って設定されている当初のスロットルバルブ122Cの開度に補正が必要となる。したがって、エンジンECU280は、アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量を表す学習値EQGを得るとともに、この学習値EQGを用いて個体差を導き出すようになっている。
【0068】
また、エンジンECU280は、後述する空気量算出マップ(図4参照)における流量上限品、流量下限品および中央品の学習値EQGと、今回算出された学習値EQGとを比較することにより、電子制御スロットルの個体差を導き出すことができる。なお、空気量算出マップにおける流量上限品、流量下限品および中央品の学習値EQGは、予め実験的な測定により求められている。
【0069】
なお、上記のように、学習値EQGは、エンジン120のアイドル回転数保持に必要な空気量を同じスロットル開度における中央品の吸入空気量に換算した値である。このため、流量上限品の学習値EQGは、中央品の学習値EQGよりも小さくなり、また、流量下限品の学習値EQGよりも大きくなる。つまり、アイドル回転数を保持するために必要な吸入空気量は電子制御スロットルに個体差がある場合であっても変わらないが、操作上、電子制御スロットルの中央品のスロットル開度にて制御するため、学習値EQGを用いることによりスロットル開度が個体差に応じて補正されることになる。なお、学習値EQGは、フィードバック制御により収束した学習値、すなわちアイドル時に1000rpmを維持するためのスロットル開度における中央品の吸入空気量を用いているので、デポジット付着など経時変化に起因する誤差もこの学習値EQGに反映されている。したがって、エンジンECU280は、この学習値EQGを用いることにより、経時変化に起因する誤差も補正した状態でスロットル制御を実行していることになる。
【0070】
また、エンジンECU280は、電子制御スロットルの流量特性を表す学習値EQGを算出すると、当該学習値EQGと予め定められた基準値との差から、電子制御スロットルの流量特性の区分を判定する。すなわち、エンジンECU280は、基準値として、図3に示した中央品の値を用いる。そして、この基準値と、算出した学習値EQGとを比較検討する。基準値と学習値EQGとの差が所定値以下であれば、対応する電子制御スロットルの流量特性は、中央品であると判定する。一方、基準値と学習値EQGとの差が所定値を超えていれば、対応する電子制御スロットルの流量特性は、学習値EQGが基準値より小さい場合に流量上限品であると、基準値より大きい場合に流量下限品であるとそれぞれ判定するようになっている。なお、基準値は、複数の電子制御スロットルにおけるアイドル時の単位時間あたりの吸入空気量の中央値である。
【0071】
エンジンECU280は、上記方法によって、電子制御スロットルの個体差を判別した後、この結果に応じて、最適なスロットル操作が行われるように制御を行うようになっている。すなわち、従来は、電子制御スロットルの個体差を考慮せずに、エンジン回転数から走行時空気量を算出していたため、吸入空気量に関して電子制御スロットルに個体差がある場合には、必ずしもエンジン回転数に基づいて算出された目標走行時空気量が最適な値とはいえない場合があったのに対して、本実施の形態に係るエンジンECU280は、電子制御スロットルの個体差を考慮して、エンジン回転数から目標走行時空気量を算出することで、より正確で優れた制御を実現できる。
【0072】
図4は、電子制御スロットルの個体差に応じて、エンジン回転数から走行時空気量を算出する空気量算出マップの例を示している。本実施の形態に係る空気量算出マップでは、電子制御スロットルの個体差を、上から順に、流量上限品の場合と、中央品の場合と、流量下限品の場合との3区分に分けた場合を示している。また、本実施形態では、アイドル回転数(1000rpm)保持に必要な空気量の学習値EQGとして、流量上限品の場合は2.0L/s、中央品の場合は2.5L/s、流量下限品の場合は3.0L/sであることを示している。これらの値は、各品毎のアイドル時における収束値を示しており、予め実験的に求められている。
【0073】
また、図4では、エンジン回転数(Ne)の例として、1000rpm、1200rpm、1600rpmおよび2000rpmを示している。なお、これらのエンジン回転数は一例にすぎない。
【0074】
また、図4に示すマップでは、電子制御スロットルの個体差として、2.0L/s、2.5L/s、3.0L/sの3つの場合に分ける場合を例に示しているが、個体差をより細分化してもよい。さらに、本実施の形態においては、アイドル回転数が1000rpmの場合を例に説明してるが、このアイドル回転数は一例であり、また、車両の状態に応じてEQGを算出するアイドル回転数を変更してもよい。
【0075】
空気量算出マップは、電子制御スロットルの個体差およびエンジン回転数と、走行時空気量を対応させたものである。このため、エンジンECU280は、電子制御スロットルの個体差と、エンジン回転数とを得ると、ROMに記憶されている空気量算出マップを参照して、目標の走行時空気量を算出するようになっている。例えば、エンジンECU280は、測定対象の電子制御スロットルを中央品と判別しており、エンジン回転数が1600rpmの場合、走行時空気量の目標値を、アイドル回転数時の2.5L/sに、エンジン回転数が上がった結果として1.0L/sを加えた3.5L/sに設定する。
【0076】
また、エンジンECU280は、測定対象の電子制御スロットルを上限品と判別しており、エンジン回転数が1600rpmの場合、走行時空気量の目標値を、アイドル回転数時の2.0L/sに、エンジン回転数が上がった結果として0.8L/sを加えた2.8L/sに設定する。
【0077】
また、エンジンECU280は、走行時空気量の目標値を算出すると、スロットルバルブ122Cの開度をこの走行時空気量の目標値に対応する開度となるように制御する。エンジンECU280は、中央品におけるスロットルバルブ122Cの開度と走行時空気量とを対応付けた開度特性マップをROMに記憶しているが、上記のように算出した走行時空気量は、所望の吸入空気量となるスロットル開度と同一のスロットル開度における中央品の走行時空気量に換算しているので、エンジンECU280は、スロットルバルブ122Cをこの算出した走行時空気量に対応する開度になるよう調節することにより、中央品以外の流量特性を有する電子制御スロットルにおいても適切にスロットル開度を制御し、吸入空気量を最適化できる。
【0078】
以下、図5を参照して、エンジンECU280の構成を示す機能ブロック図について概略的に説明する。
【0079】
エンジンECU280は、図5に示すように、入力インターフェース(以下、入力I/Fという)400と、演算処理部500と、記憶装置600と、出力インターフェース(以下、出力I/Fという)700と、を備えている。なお、この機能ブロック図は本発明の説明に必要な箇所を概略的に示したものであって、通信機能など他の公知の機能は説明を簡略にするために省略する。
【0080】
入力I/F400は、エアフローメータ122B(図1参照)からの吸入空気量信号や、クランクポジションセンサ380(図1参照)からのエンジン回転数信号など、各センサからの信号を受信して、演算処理部500に送信する。演算処理部500は、ISC学習判定部502と、電子制御スロットルの流量特性判定部504と、走行時空気量算出部506と、スロットル開度制御部508とを含んでいる。
【0081】
ISC学習判定部502は、エンジン120のISC学習について、ISC学習の完了を示す予め定められた条件が成立したか否かを判定する。予め定められた条件は、例えば、ISCフィードバック制御が所定時間以上行われたこと、ISC学習値であるEQGの所定時間あたりの変動が予め定められた範囲内に収まっていることなど、学習値EQGの精度が十分高くなったと判断するための条件である。
【0082】
電子制御スロットルの流量特性判定部504は、電子制御スロットルの流量特性に応じて、スロットル開度を補正するために、電子制御スロットルの個体差としての流量特性を判定する。例えば、ISC学習完了後に得られた学習値EQGと、記憶装置600に予め記憶された中央品のEQGである基準値との差から、検出対象となっている電子制御スロットルの流量特性が、中央品、流量上限品、あるいは流量下限品のいずれの区分に属するかを特定する。
【0083】
走行時空気量算出部506は、クランクポジションセンサ380から受信するエンジン回転数信号に基づくエンジン回転数と、上記電子制御スロットルの流量特性とから、走行時空気量を算出する。走行時空気量は、上記学習値EQGとエンジン回転差とに応じて設定される。例えば、走行時空気量算出部506は、学習値EQGから導き出された電子制御スロットルの流量特性と、エンジン回転数とを取得すると、記憶装置600に記憶された、図4に示す空気量算出マップを参照し、走行時空気量を算出するようになっている。
【0084】
スロットル開度制御部508は、走行時空気量算出部506にて決定された走行時空気量に基づいてスロットルバルブ122Cの開度を制御する。すなわち、スロットル開度制御部508は、走行時空気量および記憶装置600に記憶されている開度特性マップに基づいてスロットル開度制御信号を生成して、出力I/F700を介してスロットルバルブ122Cにスロットル開度制御信号を送信する。そして、スロットル開度を決定された走行時空気量に対応する開度になるように、スロットルバルブ122Cのスロットルモータを制御する。スロットルモータの形態は任意であって、良好なスロットル開度制御を行うことができれば、様々な形態で構成されてもよい。
【0085】
なお、本実施の形態において、ISC学習判定部502と、電子制御スロットルの流量特性判定部504と、走行時空気量算出部506と、スロットル開度制御部508は、いずれも演算処理部500であるCPUが記憶装置600に記憶されたプログラムを実行することにより実現される、ソフトウェアとして機能する記憶装置600は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなど公知の記憶手段により構成されている。上記記憶装置600には、各種データ、プログラム、閾値、マップなどが記憶されており、必要に応じて演算処理部500からデータが読み出されたり、格納されたりする。なお、本実施の形態に係る記憶装置600は、本発明に係る記憶手段を構成する。
【0086】
図6は、本実施の形態に係るスロットルバルブ122Cのスロットル開度の制御を示すフローチャートである。なお、以下に説明する処理は、予めエンジンECU280のROMに記憶されているプログラムによって実現され、所定の時間間隔で実行される。
【0087】
まず、エンジンECU280は、内燃機関のアイドル時のエンジン回転数制御(ISC)を行って、このISC学習が完了しているか否かを判定する(ステップS1)。ISC学習が完了していれば(ステップS1にてYES)、処理はステップS2に移される。一方、ISC学習が完了していなければ(ステップS1にてNO)、処理はステップS1に戻される。
【0088】
ISC学習が完了している場合、エンジンECU280は、ステップS2にて、ISC学習の完了後に得られたスロットル開度と開度特性マップとに基づいて、中央品に換算した場合のアイドル時の単位時間あたりの吸入空気量を学習値EQGとして算出する。ここで、学習値EQGは、ISCフィードバック制御に基づいて得られる値であるため、デポジットなどに起因した経時変化も加味された値が算出されることになる。
【0089】
そして、エンジンECU280は、この学習値EQGを用いて、電子制御スロットルの流量特性の区分を判定する。例えば、エンジンECU280は、予め定められた基準値を記憶装置600に記憶しておく。そして、この基準値と上記学習値EQGとの差から、電子制御スロットルの流量特性の割出を行う。本実施の形態においては、エンジンECU280は、上述したように、電子制御スロットルの流量特性を流量上限品、中央品および流量下限品のうちのいずれかに決定する。
【0090】
また、エンジンECU280は、ステップS3にて、エンジン回転数を検出するが、例えば、エンジンECU280は、クランク位置やクランク角度を検知するクランクポジションセンサ380を利用して、エンジン回転数を検出する。なお、本実施の形態においては、ステップS2にて、学習値EQGを得た後、ステップS3にて、エンジン回転数を検出している。しかしながら、本発明はこの順序に限定されず、例えば、エンジンECU280は、エンジン回転数を検出した後、学習値EQGを得るようにしてもよい。さらに、エンジンECU280は、学習値EQGとエンジン回転数の検出を同時に行ってもよい。
【0091】
次に、エンジンECU280は、ステップS4にて、ステップS2にて特定した電子制御スロットルの流量特性の区分と、ステップS3にて検出した内燃機関のエンジン回転数とを用いて、走行時空気量の目標値を算出する。例えば、図4に示したように、エンジンECU280は、上記学習値EQGから導き出される電子制御スロットルの流量特性およびエンジン回転数と、走行時空気量とを対応させた空気量算出マップを予めROMに記憶しておく。そして、この空気量算出マップに上記流量特性およびエンジン回転数を適用することで、走行時空気量の目標値を算出する。
【0092】
最後に、エンジンECU280は、ステップS5にて、電子スロットル制御を行う。上記のように、エンジンECU280は、中央品の走行時空気量とスロットル開度を対応させた開度特性マップを持っている。そして、ステップS4で算出された走行空気量の目標値は、中央品の目標走行空気量に換算したものであるので、この開度特性マップと得られた走行時空気量とに基づいて、スロットルバルブ122Cの開度を算出する。そして、エンジンECU280は、スロットルバルブ122Cが算出された開度になるように、電子制御スロットルのスロットルモータを制御する。ステップS5にて電子スロットル制御が行われたならば、一連の処理は終了する。
【0093】
以上のように、本発明に係る内燃機関の制御装置は、電子制御スロットルを用いてスロットル開度を制御するエンジン120において、従前の制御装置では、電子制御スロットルの製造バラつきを考慮に入れずに制御を行っていたことに対して、電子制御スロットルの製造バラつきがある場合でも、電子制御スロットルの流量特性にあった走行時の吸入空気量の指示値を算出して、制御に反映させることができる。このため、本発明によれば、電子制御スロットルの製造バラつきに因らないで最適なスロットル制御を行うことができ、従来と比較して、より正確に制御することができる。
【0094】
また、電子制御スロットルの流量特性に個体差がある場合に、アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量を表す学習値と所定の基準値との差に基づいて、電子制御スロットルの個体差を特定できる。したがって、この特定された流量特性とエンジン回転数とに基づいて走行時空気量の目標値を算出することで、電子制御スロットルの製造バラつきに因らないで、従前よりも良好なスロットル制御を行うことができる。
【0095】
また、吸入空気量の平均的な値である中央値を基準にとるので、測定対象となる電子制御スロットルの流量特性が中央品からどの程度ずれているかを算出することが可能となる。
【0096】
また、電子制御スロットルの個体差上、中央品と同一のスロットル開度において流量が中央品より多くなる特性を有するものが引き当たった場合には、例えば、中央品の場合と比べて、走行時空気量の目標値を減らすことで、空気量過多によりエンジン回転数の吹き上がりを生じさせることを未然に防ぐことができる。また、中央品と同一のスロットル開度において流量が中央品より少なくなるものが引き当たった場合にも、例えば、中央品の場合と比べて、走行時空気量の目標値を増やすことで、空気量不足により自立運転できる下限負荷率を割り込んで、エンストを発生させることを未然に防ぐことができる。このため、電子制御スロットルの製造バラつきに因らないで、従前より良好なスロットル制御を行うことができる。
【0097】
また、予め記憶しておいた学習値およびエンジン回転数と、走行時空気量とを対応させたマップを利用して、電子制御スロットルの流量特性に応じた走行時空気量の目標値を迅速かつ正確に算出することができる。また、このマップは、適宜、記憶手段に記憶させることができるため、マップの取り込みや修正などについて柔軟に対応することができる。
【0098】
また、アイドルスピードコントロールにより吸入空気量が調整される車両の走行状態において吸入空気量センサを用いずに吸入空気量を推定する場合においても、本願発明を適用することにより、正確に吸入空気量を推定し、適切なスロットル制御を実行することができる。
【0099】
なお、図4に示した空気量算出マップに示されている値は、よりきめ細かく設定されていてもよい。この場合、図4に示したマップに示されない値については、経験的にデータを集めてもよく、または、線形補間などの計算を行うことにより算出してもよい。電子制御スロットルの流量特性およびエンジン回転数と、走行時空気量との関係については、実験的あるいは解析的に様々に設定することができる。さらに、マップの利用とともに、またはこの利用に代えて、電子制御スロットルの流量特性およびエンジン回転数と、走行時空気量との関係を示す数式を用いて走行時空気量を算出するようにしてよい。また、線形補間などの計算を用いる場合には、エンジンECU280は、電子制御スロットルの流量特性を流量上限品、中央品あるいは流量下限品などいずれの区分に該当するかを判定せず、算出した学習値EQGと、線形補間により算出される値との和により、目標とする走行時空気量を算出するようにしてもよい。
【0100】
また、上述した実施の形態では、エンジンECU280は、学習値EQGを用いて、電子制御スロットルの流量特性を特定し、次に、図4に示すように、特定した電子制御スロットルの流量特性とエンジン回転数を用いて、走行時空気量の目標値を算出する場合について説明した。したがって、図5に示した構成では、演算処理部500は、ISC学習判定部502と、電子制御スロットルの流量特性判定部504と、走行時空気量算出部506と、スロットル開度制御部508とを含むようになっている。
【0101】
これに対し、図5の破線で示すように、電子制御スロットルの流量特性判定部504と、走行時空気量算出部506とを一つにまとめるようにしてもよい。
【0102】
例えば、エンジンECU280は、ISC学習を行って、このISC学習値EQGを得ると、ISC学習値EQGを利用して、電子制御スロットルの流量特性を判定すると同時に、走行時空気量を算出するようにしてもよい。つまり、エンジンECU280は、学習値EQGを算出すると、この電子制御スロットルの特性区分を判別せず、この学習値EQGと空気量算出マップから直接走行時空気量の目標値を算出するようにする。
【0103】
また、エンジンECU280は、ISCの制御を行う過程において、エアコンの作動状態や電気負荷の大きさなどに応じてアイドル目標回転数を変更するように流量調節手段を制御する補正制御を行ってもよい。この場合、この補正制御に合わせて、対応するマップが記憶装置600から読み出されて、利用される。
【0104】
また、以上の説明においては、ISC学習値EQGを利用して、電子制御スロットルの流量特性を判定しているものの、その種類は、電子制御スロットルの個体差の範囲内に限定されていた。しかしながら、エンジンECU280は、電子制御スロットルの個体差の割出しを行うだけでなく、個体差の範囲内に収まらないレベルで値を相違させている部品の割出しをも行えるように構成されていてもよい。
【0105】
例えば、エンジンECU280は、学習値EQGと基準値との比較検討の結果、学習値EQGが単に基準値を上回るだけでなく、さらに流量上限品の値を上回る結果が得られた場合には、対応する電子制御スロットルについて、流量過大の規格外品として識別するようにしてもよい。同様に、上記比較検討の結果、学習値EQGが単に基準値を下回るだけでなく、さらに流量下限品の値を下回る結果が得られた場合には、対応する電子制御スロットルについて、流量過小の規格外品として識別するようにしてもよい。
【0106】
この場合、例えば、過って規格外の電子制御スロットルが車両に取り付けられていた場合には、エンジンECU280は、ISC学習後にこの電子制御スロットルの識別を行った後、速やかに、視覚または聴覚を利用した警告を示したり、部品の交換などを促してもよい。なお、通常は上記のような規格外品の電子制御スロットルが用いられることはないが、本発明のさらなる実施例として、このような場合においても対応できるように構成することは可能である。
【0107】
また、以上の説明においては、内燃機関の制御装置として、エンジンECU280を想定している。ここで、図1に示した構成では、上記のように、車両1の各ECUを別構成としているが、これら2つ以上のECUの機能を統合して構成することは可能である。例えば、図1に点線で示すように、MG_ECU300とHV_ECU320とを統合したECUとしてもよい。さらに、エンジンECU280に他のECUの機能を統合することは可能である。
【0108】
また、以上の説明においては、図6に示した本発明に係るプログラムが、エンジンECU280で実行される場合について説明したが、これに限定されず、HV_ECU320とエンジンECU280とが協働してプログラムを実行するように構成してもよい。
【0109】
また、以上の説明では、スロットルバルブ122Cの開度調整によってアイドリング回転数を制御する場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されず、スロットルバルブ122Cをバイパスするバイパス管にISCバルブを設置し、このISCバルブの開度調整によってアイドリング回転数を制御するものに対しても適用可能である。
【0110】
以上のように、本発明に係る内燃機関の制御装置は、電子制御スロットルの製造バラつきがある場合でも、従来より最適なスロットル制御を行うことができる内燃機関の制御装置を提供するという効果を奏するものであり、電子制御スロットルを用いてスロットル開度を制御する内燃機関の制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0111】
1 ハイブリッド車両
120 エンジン(内燃機関)
122C スロットルバルブ
140 モータジェネレータ
160 駆動輪
200 動力分割機構
260 バッテリECU
280 エンジンECU(制御装置、アイドル回転数制御手段、学習値取得手段、エンジン回転数検出手段、算出手段、スロットル開度制御手段、特定手段、記憶手段)
300 MG_ECU
320 HV_ECU
330 アクセルポジションセンサ
340 スロットル開度センサ
360 水温センサ
380 クランクポジションセンサ
500 演算処理部
502 ISC学習判定部
504 流量特性判定部
506 走行時空気量算出部
508 スロットル開度制御部
600 記憶装置(記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸入空気量を調整するためのスロットルバルブを含む電子制御スロットルを用いて、前記スロットルバルブのスロットル開度を制御する内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関のアイドル時のエンジン回転数制御を行うアイドル回転数制御手段と、
前記アイドル時のエンジン回転数制御の学習を行って、アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量を表す学習値を得る学習値取得手段と、
前記内燃機関のエンジン回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
前記学習値と前記エンジン回転数とに基づいて走行時の吸入空気量の目標値を算出する算出手段と、
前記走行時の吸入空気量の目標値に基づいて前記スロットル開度を制御するスロットル開度制御手段と、を備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記学習値と予め定められた基準値との差から前記電子制御スロットルの流量特性を特定する特定手段を備え、
前記算出手段は、前記特定手段により特定された流量特性と前記エンジン回転数とに基づいて走行時の吸入空気量を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記基準値は、複数の前記電子制御スロットルにおける前記アイドル時の単位時間あたりの吸入空気量の中央値であることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
複数の前記電子制御スロットルを同一のスロットル開度にした場合に吸入空気量が最大となる前記電子制御スロットルのアイドル時の単位時間あたりの吸入空気量、吸入空気量が最小となる前記電子制御スロットルのアイドル時の単位時間あたりの吸入空気量、および前記基準値と、前記学習値取得手段により得られる学習値とに基づいて、測定対象となる前記電子制御スロットルの個体差を示す流量特性を特定することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記学習値および前記エンジン回転数と、前記走行時の吸入空気量とを対応させたマップを記憶した記憶手段をさらに備え、
前記算出手段は、前記マップを参照することにより前記走行時の吸入空気量の目標値を算出することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一の請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記走行時の吸入空気量は、車両の減速走行時における吸入空気量であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一の請求項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−113258(P2013−113258A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261956(P2011−261956)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】