説明

内燃機関の制御装置

【課題】 気筒数より少ない数の振動センサを使用して、より簡便な手法で気筒毎の燃焼状態パラメータを全気筒について算出することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 気筒数より少ない2つの力センサ11,12のそれぞれに対応して設定され、かつ#1〜#4気筒のそれぞれに対応したサンプリング期間TSMP#1〜TSMP#4において、振動センサ出力信号をサンプリングする。サンプリング期間TSMP#1等は対象気筒の燃焼行程開始上死点を中心としたクランク角度180度の期間に設定され、サンプリングされた信号値に基づいて、所定の数式((1)〜(4))を用いて複数気筒のそれぞれに対応する燃焼状態パラメータを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に内燃機関の気筒数より少ない数の振動センサを使用して、図示平均有効圧と相関のある燃焼状態パラメータを全気筒について算出し、機関制御に適用するものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数気筒の一部に筒内圧センサを配置し、一部の気筒に対応する検出筒内圧に基づいて全気筒の燃焼状態を判定する装置が示されている。この装置によれば、全気筒数の1/2の気筒に筒内圧センサが装着されるとともに、筒内圧に関する気筒間の相互相関値が予め算出されて相関図が作成される。そして、運転中に得られる検出値と相関図とを用いて、正常燃焼状態や失火状態が判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−14065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来装置では、気筒数より少ない筒内圧センサを用いて、筒内圧センサが装着されていない気筒について、燃焼状態の判定が行われるが、予め相関図を作成しておく必要があり、また判定したい燃焼状態が増えると相関図も増加させる必要があるという課題がある。
【0005】
本発明は上述した課題を考慮してなされたものであり、気筒数より少ない数の振動センサを使用して、より簡便な手法で気筒毎の燃焼状態パラメータを全気筒について算出することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、複数気筒を有する内燃機関に装着され、前記気筒の数より少ない所定数の振動センサ(11,12)の出力信号(P1,P2)に基づいて前記機関の燃焼状態を示す燃焼状態パラメータ(EIMEP)を気筒毎に算出する燃焼状態パラメータ算出手段を備える内燃機関の制御装置において、前記所定数の振動センサ(11,12)のそれぞれに対応して設定され、かつ前記複数気筒のそれぞれに対応したサンプリング期間(TSMP#1〜TSMP#4)において、前記振動センサ出力信号(P1,P2)をサンプリングするサンプリング手段を備え、前記サンプリング期間(TSMP#1〜TSMP#4)は対象気筒の燃焼行程開始上死点を中心とした所定クランク角度期間(180度)に設定され、前記燃焼状態パラメータ算出手段は、前記サンプリング手段によりサンプリングされた信号値に基づいて、下記式(1)から(4)を用いて前記複数気筒のそれぞれに対応する前記燃焼状態パラメータ(EIMEP)を算出することを特徴とする:
【数1】

【0007】
ここで、EIMEPは前記燃焼状態パラメータ、mは前記サンプリング期間中のサンプリングデータ数の1/2のデータ数、hは前記機関が2サイクル機関であるとき「1」に設定され、4サイクル機関であるとき「0.5」に設定される定数、jは1から(m−1)までの値をとるインデクスパラメータ、xjは(πj/mh)で与えられ、サンプリングが行われたクランク角度[rad]を、燃焼行程開始上死点を基準として示す角度パラメータであり、P(xj)は前記信号値であり、λは前記機関のコンロッド長をクランク半径で除算することにより算出される比率パラメータである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記燃焼状態パラメータの変動率(CREIMEP)を算出する変動率算出手段と、前記変動率(CREIMEP)を用いて前記機関の制御パラメータ(LCMD)を算出する制御パラメータ算出手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、前記振動センサは、2つの気筒に対応して1つの割合で装着され、前記2つの気筒における燃焼に起因する検出信号値が同程度となる位置に配置されることを特徴とする。
【0010】
なお、上記振動センサとしては、圧電素子を用いた圧電型力センサが一般的に使用されるが、内燃機関の適切な位置に装着した加速度センサ、圧力センサ、あるいはすきまセンサも使用可能である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、気筒数より少ない所定数の振動センサのそれぞれに対応して設定され、かつ複数気筒のそれぞれに対応したサンプリング期間において、振動センサ出力信号がサンプリングされ、サンプリング期間は対象気筒の燃焼行程開始上死点を中心とした所定クランク角度期間に設定され、サンプリングされた信号値に基づいて、上記式(1)から(4)を用いて複数気筒のそれぞれに対応する燃焼状態パラメータが算出される。式(1)〜(4)を用いることにより、図示平均有効圧と相関性の高い燃焼状態パラメータが得られるので、気筒数より少ない所定数の振動センサを用いて、各気筒の燃焼状態が適切に反映された燃焼状態パラメータを全気筒について得ることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、燃焼状態パラメータの変動率が算出され、その変動率を用いて機関の制御パラメータが算出される。振動センサの装着位置に依存して、燃焼状態が同じであってもセンサ出力値が気筒毎に異なる場合があるが、変動率を用いることにより、そのような場合においても適切な制御を行うことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、振動センサは、2つの気筒に対応して1つの割合で装着され、2つの気筒における燃焼に起因する検出信号値が同程度となる位置に配置されるので、1つの振動センサによって得られる2つの気筒の検出信号値に、各気筒の燃焼状態が適切に反映される。したがって、1つの振動センサによって2つの気筒の燃焼状態を適切に判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】力センサの装着位置を説明するための図である(第1の実施形態)。
【図3】図2に示す力センサの出力信号を示す波形図である。
【図4】力センサ出力信号のサンプリング処理のフローチャートである。
【図5】排気還流制御のフローチャートである。
【図6】図示平均有効圧と燃焼状態パラメータ(EIMEP)との相関係数(KCRR)と、サンプリング期間との関係を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態における力センサの装着位置を説明するための図である。
【図8】図7に示す力センサの出力信号を示す波形図である。
【図9】3気筒、V型6気筒、及びV型8気筒の機関における力センサの装着位置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。内燃機関(以下「エンジン」という)1は、4気筒を有する4サイクルエンジンである。エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が設けられている。スロットル弁3にはスロットル弁開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、その検出信号は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に供給される。
【0016】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。エンジン1の各気筒には、点火プラグ7が設けられており、点火プラグ7はECU5に接続されている。ECU5は、点火プラグ7に点火信号を供給する。
【0017】
スロットル弁3の下流側には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8、及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。エンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出する冷却水温センサ10が装着されている。
【0018】
さらに図2に示すようにエンジン1本体(シリンダブロック)の#1気筒と#2気筒のほぼ中間位置には、圧電素子を用いた第1力センサ11が装着され、#3気筒と#4気筒のほぼ中間位置には、圧電素子を用いた第2力センサ12が装着されている。すなわち、第1力センサ11は、#1気筒及び#2気筒における燃焼に起因する検出信号値が同程度となる位置に配置され、第2力センサ12は、#3気筒及び#4気筒における燃焼に起因する検出信号値が同程度となる位置に配置されている。第1及び第2力センサ11,12は、装着位置における振動加速度に応じた検出信号を出力する。上記センサ8〜12の検出信号は、ECU5に供給される。
【0019】
力センサ11,12は、ノッキングを検出するためのノックセンサが取り付けられる位置に取り付けられている。ノックセンサの取り付け位置は,気筒内の燃焼によって生じる振動や力の変化を比較的検知しやすい位置に選定されているため、燃焼状態のモニタに適した位置と考えられる。具体的には、いくつかの候補位置に力センサを取付けてエンジンを運転し、最も信号を良好に検知できる位置を選択する。ここでノックセンサとは,エンジンの異常燃焼(ノッキング)を検知するセンサで,シリンダ内の燃焼現象に起因してエンジンブロックに伝達される高周波数振動(6kHzくらいを基本波として,その整数倍の周波数の振動)を検知するものである。
【0020】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ13が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ12は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0021】
エンジン1の排気管21と、各気筒の燃焼室に連通する吸気マニホールド2との間には、排気還流通路22が設けられており、排気還流通路22には排気還流量を制御するための排気還流制御弁(以下[EGR弁」という)23が設けられている。すなわち、排気還流通路22は、4つの気筒に対応して分岐し、EGR弁23は各分岐通路に配置されている。EGR弁23は、ECU5に接続されており、ECU5からの信号によりその開度(弁リフト量)が制御される。したがって、本実施形態では排気還流量を気筒毎に制御可能である。なお、排気還流量を気筒毎に制御可能な排気還流機構は図1には具体的に示していないが、例えば特許4004656号公報に示されている。
【0022】
ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、該CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路(メモリ)、燃料噴射弁6、点火プラグ7、及びEGR弁23に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0023】
本実施形態では、力センサ11,12の出力信号P1,P2に基づいて、各気筒の図示平均有効圧と高い相関性を有し、各気筒の燃焼状態を示す燃焼状態パラメータEIMEP(i)(i=1〜4)を算出し、燃焼状態パラメータEIMEP(i)の変動率CREIMEP(i)に基づいてEGR弁開度指令値LCMD(i)の補正を行う。
【0024】
図3は、第1及び第2力センサ11,12の出力信号P1,P2を示すタイムチャートであり、太線L1が信号P1に対応し、細線L2が信号P2に対応する。この図においては、クランク角度−360度から−180度までの期間が#2気筒の圧縮行程(#4気筒の燃焼行程)に相当し、−180度から0度までの期間が#1気筒の圧縮行程(#2気筒の燃焼行程)に相当し、0度から180度までの期間が#1気筒の燃焼行程(#3気筒の圧縮行程)に相当し、180度から360までの期間が#3気筒の燃焼行程(#4気筒の圧縮行程)に相当する。
【0025】
第1力センサ11の出力信号P1は、クランク角度−270度から−90度までの期間では、#2気筒における圧縮及び燃焼による圧力の上昇を示しクランク角度−90度から90度までの期間では、#1気筒における圧縮及び燃焼による圧力の上昇を示している。また出力信号P2は、クランク角度90度から270度までの期間では、#3気筒における圧縮及び燃焼による圧力の上昇を示しクランク角度270度から450度(図では−270度で表示している)までの期間では、#4気筒における圧縮及び燃焼による圧力の上昇を示している。
【0026】
そこで、本実施形態では、出力信号P1に応じて#1気筒の燃焼状態パラメータEIMEP(1)及び#2気筒の燃焼状態パラメータEIMEP(2)を算出し、第2力センサ12の出力信号P2に応じて#3気筒の燃焼状態パラメータEIMEP(3)及び#4気筒の燃焼状態パラメータEIMEP(4)を算出する。
【0027】
具体的には、図3に示すように設定された、各気筒毎のサンプリング期間TSMP#1〜TSMP#4において、例えばCRKパルスに同期して出力信号P1,P2のサンプリングを行い、サンプリング値をメモリに格納し、サンプリング終了後直ちに下記式(1)〜(4)を用いて、燃焼状態パラメータEIMEPを算出する。
【数2】

【0028】
ここで、mはサンプリング期間中のサンプリングデータ数nの1/2のデータ数、hは本実施形態(4サイクルエンジン)では「0.5」に設定される定数、jは1から(m−1)までの値をとるインデクスパラメータ、xjは(πj/mh)で与えられ、サンプリングが行われたクランク角度[rad]を、算出対象である気筒の燃焼行程開始上死点を基準(「0」)として示す角度パラメータであり、P(xj)は上記出力信号P1またはP2のサンプリング時期における信号値であり、λはエンジン1のコンロッド長sをクランク半径rで除算することにより算出される比率パラメータ(s/r)である。なお、定数hは2サイクルエンジンでは「1」に設定される。
【0029】
例えばCRKパルスに同期してサンプリングする場合には、180度のサンプリング期間中に得られるデータ数nは「30」であるので、データ数mは「15」となる。
上記式(1)〜(4)は、本件発明者らによって記述された非特許文献(機械学会 Dynamics and Design Conference 2006,講演番号235,「図示平均有効圧の動的(過渡)計測について」)により既に発表されているものであり、図示平均有効圧と高い相関性のある燃焼状態パラメータが得られることが確認されている。
【0030】
図4は、力センサ11及び12の出力信号P1,P2のサンプリング処理のフローチャートである。この処理は、所定クランク角度(例えば6度)毎にECU5のCPUで実行される。
【0031】
ステップS11では、#1気筒サンプリング期間TSMP#1の期間内であるか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、さらに#2気筒サンプリング期間TSMP#2の期間内であるか否かを判別する(ステップS12)。ステップS11またはS12の答が肯定(YES)であるときは、ステップS13に進み、第1力センサ11の出力P1を取り込む。
【0032】
ステップS12の答が否定(NO)であるときは、#3気筒サンプリング期間TSMP#3の期間内であるか否かを判別し(ステップS14)、その答が否定(NO)であるときは、さらに#4気筒サンプリング期間TSMP#4の期間内であるか否かを判別する(ステップS15)。ステップS14またはS15の答が肯定(YES)であるときは、ステップS16に進み、第2力センサ12の出力P2を取り込む。ステップS15の答が否定(NO)であるときは直ちに処理を終了する。
【0033】
図5は、図4の処理により取得された信号値を用いて気筒毎のEGR弁開度指令値LCMD(i)を算出する処理のフローチャートである。この処理は、例えば各気筒のサンプリング期間の終了直後においてECU5のCPUで実行される。
【0034】
ステップS21では、エンジン回転数NE及び吸気圧PBAに応じてEGR弁23の基本弁開度指令値LCMDBを算出する。ステップS22では、図4の処理によって取り込みが完了した最新のデータを用いて、燃焼状態パラメータEIMEP(i)(i=1〜4)を算出する。ステップS23では、下記式(5)を用いて燃焼状態パラメータEIMEP(i)の変動率CREIMEP(i)を算出する。式(5)のSIGEIMEPB(i)は、燃焼状態パラメータEIMEP(i)の最新の所定数N(例えば100)のデータを用いて算出される標準偏差であり、AVEIMEP(i)は、同じデータを用いて算出される平均値である。
CREIMEP(i)=SIGEIMEP(i)/AVEIMEP(i) (5)
【0035】
ステップS24では、変動率CREIMEP(i)が判定閾値CRIMPTHより大きいか否かを判別する。この答が肯定(YES)であるときは、下記式(6)により補正量LCMDC(i)を減少方向に更新する(ステップS25)。式(6)の右辺のLCMDC(i)は前回値であり、DLは比較的小さな値に設定される所定修正量である。なお補正量LCMDC(i)の初期値は「0」に設定される。
LCMDC(i)=LCMDC(i)−DL (6)
【0036】
ステップS24の答が否定(NO)であって変動率CREIMEP(i)が判定閾値CRIMPTH以下であるときは、下記式(7)により補正量LCMDCを増加方向に更新する(ステップS26)。
LCMDC(i)=LCMDC(i)+DL (7)
【0037】
ステップS27では、基本弁開度指令値LCMDB及び補正量LCMDCを下記式(8)に適用し、EGR弁開度指令値LCMDを算出する。
LCMD(i)=LCMDB+LCMDC(i) (8)
【0038】
図5の処理によれば、燃焼状態パラメータEIMEP(i)の変動率CREIMEP(i)が増加しない範囲で、排気還流量を増加させるような補正が気筒毎に行われ、良好な燃焼状態を維持しつつ、NOx排出量の低減を図ることができる。
【0039】
図6は、図示平均有効圧と燃焼状態パラメータEIMEPとの相関係数KCRRと、サンプリング期間TSMP(検出対象気筒の燃焼行程開始上死点を中心として設定される)の角度幅WTSMPとの関係を示す図であり、実線はエンジン回転数NEを一定とした定常運転状態に対応し、破線はエンジン回転数NEが増加する過渡運転状態に対応する。いずれの運転状態においても、角度幅WTSMPが60度以上の範囲で高い相関性が得られることが確認できる。
【0040】
以上のように本実施形態では、気筒数4より少ない2つの力センサ11,12のそれぞれに対応して設定され、かつ#1気筒〜#4気筒のそれぞれに対応したサンプリング期間TSMP#1〜TSMP#4において、各力センサ11,12の出力信号P1,P2がサンプリングされ、サンプリング期間TSMP#1〜TSMP#4はそれぞれ対象気筒の燃焼行程開始上死点を中心としたクランク角度180度の期間に設定され、サンプリングされた信号値に基づいて、上記式(1)から(4)を用いて各気筒の燃焼状態パラメータEIMEP(i)が算出される。式(1)〜(4)を用いることにより、図示平均有効圧と相関性の高い燃焼状態パラメータEIMEP(i)が得られるので、気筒数より少ない2つの力センサ11,12を用いて、各気筒の燃焼状態が適切に反映された燃焼状態パラメータEIMEP(i)(i=1〜4)を得ることができる。
【0041】
また燃焼状態パラメータEIMEP(i)の変動率CREIMEP(i)が算出され、その変動率CREIMEP(i)を用いてEGR弁23のEGR弁開度指令値LCMDが算出される。力センサ11,12の装着位置に依存して、燃焼状態が同じであってもセンサ出力値が気筒毎に異なり、したがって燃焼状態パラメータEIMEP(i)の値が異なる場合があるが、変動率CREIMEP(i)を用いることにより、そのような場合においても適切な制御を行うことができる。
【0042】
また力センサ11,12は、2つの気筒における燃焼に起因する検出信号値が同程度となる位置に配置されるので、1つの力センサによって得られる2つの気筒に対応する信号値に、各気筒の燃焼状態が適切に反映される。したがって、1つの力センサによって2つの気筒の燃焼状態を適切に判定することが可能となる。
【0043】
本実施形態では、力センサ11,12が振動センサに相当し、ECU5が燃焼状態パラメータ算出手段、サンプリング手段、変動率算出手段、及び制御パラメータ算出手段を構成する。具体的には、図4の処理がサンプリング手段に相当し、図5のステップS22が燃焼状態パラメータ算出手段に相当し、ステップS23が変動率算出手段に相当し、ステップS21,S24〜S27が制御パラメータ算出手段に相当する。
【0044】
なお、エンジン1が2サイクルエンジンである場合には、サプリ期間TSMP#1〜TSMP#4は、それぞれ対象気筒の燃焼行程開始上死点を中心としたクランク角度90度の期間に設定される。
【0045】
[第2の実施形態]
本実施形態は、第1及び第2の力センサ11,12を、それぞれプラグ座型力センサ11a及び12aに変更し、図7に示すように力検出部が#1気筒及び#4気筒の燃焼室内に挿入されるようにしたものである。以下に説明する点以外は第1の実施形態と同一である。
【0046】
図8は、第1力センサ11aの出力信号P1を示すタイムチャートである。この図においては、クランク角度−360度から−180度までの期間が#2気筒の圧縮行程に相当し、−180度から0度までの期間が#1気筒の圧縮行程に相当し(#2気筒の燃焼行程に相当し)、0度から180度までの期間が#1気筒の燃焼行程に相当する。
【0047】
出力信号P1には、クランク角度−90度から90度までの期間では、#1気筒における圧縮及び燃焼による圧力の上昇が示されており、さらにクランク角度−270度から−90度までの期間では、#2気筒における圧縮及び燃焼による圧力の上昇が示されている。そこで、本実施形態では、出力信号P1に応じて#1気筒の燃焼状態パラメータEIMEP(1)を算出するとともに、#2気筒の燃焼状態パラメータEIMEP(2)を算出する。
【0048】
また図示はしていないが、第2力センサ12aの出力信号P2には、#4気筒における圧縮及び燃焼による圧力の上昇とともに、#3気筒における圧縮及び燃焼による圧力の上昇が示されるので、出力信号P2に応じて#4気筒の燃焼状態パラメータEIMEP(4)を算出するとともに、#3気筒の燃焼状態パラメータEIMEP(3)を算出する。
【0049】
本実施形態では、EIMEP(1)>EIMEP(2)、及びEIMEP(4)>EIMEP(3)なる関係が通常燃焼状態では成立するが、第1の実施形態と同様に変動率CRIMEP(1)〜CRIMEP(4)を用いることにより、同様のエンジン制御を行うことができる。
【0050】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、サンプリング期間TSMPの角度幅WTSMPを180度に設定したが、図6を参照すれば明らかなように、60度から180度の範囲内の角度に設定することが可能である。
【0051】
また上述した実施形態では振動センサとして最も一般的な圧電型力センサを使用したが、圧電型力センサに代えて、加速度センサ、圧力センサ、またはすきまセンサを使用してもよい。公知の非特許文献(自動車技術学会学術講演会前刷集2006/05「加速度、力、すきまセンサを用いた図示平均有効圧モニタ法」)に示されるように、加速度センサ、圧力センサ、またはすきまセンサにより、圧電型力センサと相関性の高い検出データを得ることができる。
【0052】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。また4気筒エンジン以外の複数気筒を有するエンジンに適用可能である。図9(a)は、3気筒エンジンの制御に適用した例を示す。この例では、第1力センサ11を#1気筒と#2気筒のほぼ中間位置に配置し、第2力センサ12を#3気筒近傍に配置する。サンプリング期間TSMPは対応する気筒の燃焼行程開始上死点を中心とした180度角度期間から240度角度期間の範囲で選択する。
【0053】
図9(b)は、V型6気筒エンジンの制御に適用した例を示す。この例では、第1力センサ11を#1〜#3気筒が設けられたバンクのほぼ中間位置に配置し、第2力センサ12を#4〜#6気筒が設けられたバンクのほぼ中間位置に配置する。サンプリング期間TSMPは対応する気筒の燃焼行程開始上死点を中心とした180度角度期間から240度角度期間の範囲で選択する。
【0054】
図9(c)は、V型8気筒エンジンの制御に適用した例を示す。この例では、第1力センサ11を#1気筒と#2気筒のほぼ中間位置に配置し、第2力センサ12を#3気筒と#4気筒のほぼ中間位置に配置し、第3力センサ11bを#5気筒と#6気筒のほぼ中間位置に配置し、第4力センサ12bを#7気筒と#8気筒のほぼ中間位置に配置する。サンプリング期間TSMPは対応する気筒の燃焼行程開始上死点を中心とした240度程度の角度期間に設定する。
【符号の説明】
【0055】
1 内燃機関
5 電子制御ユニット(燃焼状態パラメータ算出手段、サンプリング手段、変動率算出手段、制御パラメータ算出手段)
11,11a 第1力センサ(振動センサ)
12,12a 第2力センサ(振動センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数気筒を有する内燃機関に装着され、前記気筒の数より少ない所定数の振動センサの出力信号に基づいて前記機関の燃焼状態を示す燃焼状態パラメータを気筒毎に算出する燃焼状態パラメータ算出手段を備える内燃機関の制御装置において、
前記所定数の振動センサのそれぞれに対応して設定され、かつ前記複数気筒のそれぞれに対応したサンプリング期間において、前記振動センサ出力信号をサンプリングするサンプリング手段を備え、
前記サンプリング期間は対象気筒の燃焼行程開始上死点を中心とした所定クランク角度期間に設定され、
前記燃焼状態パラメータ算出手段は、前記サンプリング手段によりサンプリングされた信号値に基づいて、下記式(1)から(4)を用いて前記複数気筒のそれぞれに対応する前記燃焼状態パラメータを算出することを特徴とする内燃機関の制御装置:
【数3】

ここで、EIMEPは前記燃焼状態パラメータ、mは前記サンプリング期間中のサンプリングデータ数の1/2のデータ数、hは前記機関が2サイクル機関であるとき「1」に設定され、4サイクル機関であるとき「0.5」に設定される定数、jは1から(m−1)までの値をとるインデクスパラメータ、xjは(πj/mh)で与えられ、サンプリングが行われたクランク角度[rad]を、燃焼行程開始上死点を基準として示す角度パラメータであり、P(xj)は前記信号値であり、λは前記機関のコンロッド長をクランク半径で除算することにより算出される比率パラメータである。
【請求項2】
前記燃焼状態パラメータの変動率を算出する変動率算出手段と、
前記変動率を用いて前記機関の制御パラメータを算出する制御パラメータ算出手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記振動センサは、2つの気筒に対応して1つの割合で装着され、前記2つの気筒における燃焼に起因する検出信号値が同程度となる位置に配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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