説明

内燃機関の始動方法

【課題】 内燃機関の始動方法を提供する。
【解決手段】 始動装置を介してトランスミッションに連結され、且つ始動/停止動作モードで動作する自動車の内燃機関の始動方法において、液圧媒体が油圧ポンプによりバルブ装置を介して始動装置に送り込まれる。スタータによる内燃機関の始動前及び始動中、制御ユニットは、バルブ装置が液圧媒体を始動装置に供給することが可能なように前記バルブ装置を作動させる。制御ユニットは、内燃機関の始動中、油圧ポンプが液圧媒体を始動装置に直接供給するように前記油圧ポンプを作動させ、それにより始動装置による内燃機関とトランスミッションとの間の機械的に動作可能な連結が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、始動装置を介してトランスミッションに連結され、且つ始動/停止動作モードで動作する、請求項1の前段にさらに詳細に定義されるタイプの自動車の内燃機関の始動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車製造業者においては、自動車の内燃機関に始動/停止機能を再導入する傾向が見られ、この機能は、1980年代に既に導入されていたもので、すなわち、例えば交通信号灯において、又は交通渋滞のなか自動車が一時的に停止している間、この機能に従い内燃機関は運転を停止し、必要になると、通常、アクセルペダルの作動によって指示されて再始動する。しかしながら、自動車の始動時、場合によっては遅延が生じる。なぜなら、始動は通常、内燃機関とトランスミッションとの間の機械的に動作可能な連結を、始動装置、例えば湿式クラッチにより閉じることによって行われるが、最初に始動装置に液圧媒体、通常はオイルが充填されなければ、内燃機関を装備した自動車を始動させることはできないためである。
【0003】
先行技術では、この問題の解消を目的とする解決策について様々な手法が開示された。例えば、下記特許文献1は、初めに始動装置の油圧システムが作動又は充填されてから内燃機関が始動するものについて記載している。しかしながら、前記文献に記載される動力伝達システムは、油圧システムを充填するための油圧ポンプを駆動する電気モータ又は発電機を必要とする。油圧システムが完全に動作可能な状態となるまで、内燃機関は点火されず、そこに燃料は送り込まれない。加えて、内燃機関の始動時、点火時間のオフセットによりその出力パワーまでも低減され、吸気バルブ及び排気バルブの少なくとも一部は閉じられたままである。しかしながら、こうした方策は全て、内燃機関の始動を大幅に遅延させ、極めて複雑な処理手順をもたらす。従って、とりわけ、電気モータのトルクの制御を実施することが必要となり、これは多大な作業量を要するものである。
【0004】
一般的なタイプの方法が、下記特許文献2に記載されている。当該文献では追加的なアキュムレータが提供され、これが、内燃機関の始動時に油圧システムを充填する働きをする。しかしながら、かかる追加的なアキュムレータはコストを著しく増加させ、また、前記追加的なアキュムレータの動作に必要な追加的なスプリング要素、逆止バルブ、スロットルなどによってもコストが増加する。また、この方法の極めて重大な欠点は、最初にアキュムレータに蓄圧しなければ、油圧システムに液圧媒体を供給できないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第102 48 454 A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2006 014 758 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、運転者による始動プロセスの開始と内燃機関を装備した自動車の始動との間に生じる時間が可能な限り短い内燃機関の始動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、本発明に従い請求項1に記載される特徴により達成される。
【0008】
本発明に従えば、油圧ポンプとつながるバルブ装置は、内燃機関の始動前に既に動作可能であり、その結果、内燃機関の始動中、油圧ポンプは既に液圧媒体を始動装置に供給することができる。結果として、始動の開始時、すなわち、内燃機関を始動させるために用いられるスタータの非常に低い回転速度において、液圧媒体を始動装置の充填に既に使用することができる。始動プロセスの間に油圧ポンプによって供給される液圧媒体は、ここでは始動装置に直接使用され、最初に充填しなければならないアキュムレータ等はない。これにより、内燃機関を始動する間に、内燃機関とトランスミッションとの間の機械的に動作可能な連結を既に実現することができるという状況が生じ、従って、内燃機関を装備した自動車を、公知の解決策による場合と比べて著しく迅速に始動させることができる。従って、本発明に従えば、内燃機関の始動と始動装置の充填とが同時に行われる。
【0009】
このように手順が同時に行われる結果として、内燃機関は遅延なしに始動させることができ、ここで内燃機関の点火プロセスは、本発明に係る手順によって遅延することも、又は妨害されることもない。むしろ、液圧媒体が始動装置に供給され、その結果、始動プロセスにおけるシステム圧力、ひいては抵抗も低下するため、内燃機関の始動プロセスは、ある程度さらに容易となる。
【0010】
本発明に係る方法によって、追加的な補助部品を用いる必要をなくすことが可能となる結果として、コスト及び設置スペースの双方を節減することができ、且つ公知の解決策と比べてより単純な装置及びより単純な方法手順が達成される。また、本発明に係る方法では、内燃機関の始動は既に存在するスタータによって行われるため、とりわけ、油圧ポンプを補助する電気モータ、又はスタータ/発電機を用いる必要をなくすことも可能となる。これに関連して、有利には、スタータの制御が不要である。
【0011】
本発明の有利な一改良形態において、内燃機関の始動前に制御ユニットがCANメッセージを用いてバルブ装置に通電する場合、バルブ装置の極めて迅速な作動を行うことができる。
【0012】
液圧媒体としてはオイルが使用され、始動装置としては湿式クラッチが使用されることが好ましい。
【0013】
本発明のさらなる有利な改良形態及び発展形態が、他の従属項から明らかとなる。本発明の例示的実施形態が、以下に図面を参照して基本的な形式で示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る、本発明に記載の方法を実行するために使用される構成部品の概略図である。
【図2】内燃機関の始動プロセスにおける本発明に係る方法の効果を、先行技術に係る方法と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、トランスミッション3、記載される例示的実施形態では好ましくはオートマチックトランスミッションと始動装置2を介して連結される内燃機関1の非常に概略的な図であり、始動装置2は、この場合には湿式クラッチとして具体化される。図1に示される構成部品は、それ自体公知の設計のものであり得るため、前記構成部品に関してこれ以上の詳細は提供しない。
【0016】
内燃機関1及びトランスミッション3は、双方とも制御ユニット4に連結され、さらに制御ユニット4が、油圧ポンプ5及びバルブ装置6に連結される。バルブ装置6は、この場合には3/2ウェイバルブとして示されるが、バルブ装置6のかかる実施形態は全くの例示とみなされるべきであり、油圧ポンプ5により生成される液圧媒体、好ましくはオイルの流れを、バルブ装置6を通じるライン7を介して始動装置2に誘導するために、他の様々なバルブ装置6を使用することができる。
【0017】
内燃機関1は始動/停止動作モードで動作し、すなわち、内燃機関1を装備した自動車(図示せず)の静止状態において、及び適切であるならば、別の条件、但し一般的に公知の条件を満たすとき、内燃機関1は運転を停止する。内燃機関1が、それを再び始動させて自動車を作動させるようメッセージ又は通知を受信すると、内燃機関1を始動させるための以下の方法が直ちに実行される。内燃機関1を始動させるための通知は、例えば、同様に制御ユニット4に連結され得るアクセル(図示せず)から発することができる。内燃機関1は、スタータ8によりそれ自体公知の方法で始動され、ここで、内燃機関1の始動前に、制御ユニット4は、バルブ装置6が液圧媒体を始動装置2に送り込むことが可能なようにバルブ装置6を作動させ、すなわち制御ユニット4は、バルブ装置6を図1に示される位置に動かし、この位置では、油圧ポンプ5がバルブ装置6を介して始動装置2と連結される。さらに、制御ユニット4は、内燃機関1の始動中、好ましくは前記内燃機関1の始動が既に始まっているときに、油圧ポンプ5が液圧媒体を始動装置2に直接、すなわち、それらの間に装置を介することなく供給するように前記油圧ポンプを作動させる。バルブ装置6は、内燃機関1の始動前にCANメッセージを用いて制御ユニット4により動作可能にすることができる。
【0018】
図1の図から明らかなとおり、油圧ポンプ5はいかなる補助手段も備えず、すなわち、油圧ポンプ5は、始動装置2を充填するのに必要な液圧媒体の流れを、補助手段なしに実現する。このため、油圧ポンプ5は、図示されないものの、それ自体公知の方法で、例えば、前記油圧ポンプ5が、内燃機関1のクランクシャフトにより駆動されるバルブドライブと一体化されているという事実に基づき、内燃機関1によって駆動され得る。結果として、内燃機関1の始動後最初の回転が、既に油圧ポンプ5を作動させ、液圧媒体を始動装置2に送る。これに関連して油圧ポンプ5により生じる流量及び/又は油圧ポンプ5により生成される圧力は、予め設定された目標圧力に下側から漸近的に近付くように調節することができる。この目標圧力を上回って超過することは、始動装置2の過剰な充填に起因して起こり得るとともに、始動時の振動につながる可能性があるが、最高300rpmの範囲で行われるスタータ8の低い回転数の結果としてポンプ送出量が低くなるため、ここでは起こり得ない。結果として、過剰に高い予充填圧力を伴う過剰に長い充填時間の結果として引き起こされ得る制御の不正確さが回避され、自動車の始動による始動時の振動が低減される。特定の回転数で供給されるオイル量は、一般には、スタータ8が回転している間に始動装置2を充填可能とするのに十分である。内燃機関1の点火後、その回転数は無負荷回転数(アイドリング速度)まで上がる。内燃機関1の点火時点までに始動装置2への液圧媒体の充填がまだ完全には完了していない場合、内燃機関1の比較的高い回転数によって残りの充填が行われ、その後回転数は、無負荷回転数を上回ってさらに上昇し得る。始動装置2に液圧媒体が充填される間、前記始動装置2では、内燃機関1とトランスミッション3との間に機械的に動作可能な連結を実現するためのモーメント(運動量)が高まり、自動車の始動を確実に行うことができる。
【0019】
図2は、公知の方法に対する上記の方法の利点を図によって示す。線9〜18は、時間tに対してプロットされた自動車又は内燃機関1の構成部品の様々な動作状態を示す。これに関連して、参照符号9によって示される破線はブレーキの位置を表し、一方、参照符号10によって示される線は、自動車のアクセルペダルの位置を表す。破線11は、先行技術から公知の方法に係る自動車の加速を示し、一方、参照符号12によって示される線は、本発明に係る方法による自動車の加速を表す。参照符号13によって示される破線は、先行技術から公知の方法に係る内燃機関1の回転数のプロファイルを表し、参照符号14によって示される線は、本発明に係る方法による内燃機関1の回転数を示す。参照符号15によって示される破線は、先行技術から公知の方法におけるトランスミッション3の入力回転数を表し、参照符号16によって示される線は、本発明の方法に係るトランスミッション3の入力回転数を示す。最後に、参照符号17を付された破線は、先行技術から公知の方法に係る始動装置2の設定圧力を表し、一方、参照符号18によって示される線は、本発明に係る方法による始動装置2の設定圧力を表す。
【0020】
図から、始動装置2に存在する圧力とトランスミッション3の入力回転数の増加の双方とも、そして、最後に自動車の加速もまた、時間Δtによって大幅に早まり、すなわち、自動車の加速、トランスミッション3の入力回転数、及び始動装置2における圧力は、より早い時期に増加することが明らかに分かる。換言すれば、本発明に係る方法により、内燃機関1の始動時の反応時間が大幅に短縮される。
【符号の説明】
【0021】
1 内燃機関
2 始動装置
3 トランスミッション
4 制御ユニット
5 油圧ポンプ
6 バルブ装置
8 スタータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
始動装置を介してトランスミッションに連結され、且つ始動/停止動作モードで動作する自動車の内燃機関の始動方法であって、液圧媒体が油圧ポンプによりバルブ装置を介して前記始動装置に送り込まれる、始動方法において、スタータ(8)による前記内燃機関(1)の始動前、制御ユニット(4)は、前記バルブ装置(6)が前記液圧媒体を前記始動装置(2)に供給することが可能なように前記バルブ装置(6)を作動させ、前記制御ユニット(4)は、前記内燃機関(1)の始動中、前記油圧ポンプ(5)が前記液圧媒体を前記始動装置(2)に直接供給するように前記油圧ポンプ(5)を作動させ、それにより前記始動装置(2)による前記内燃機関(1)と前記トランスミッション(3)との間の機械的に動作可能な連結が実現される、始動方法。
【請求項2】
前記制御ユニット(4)が、前記内燃機関(1)の始動前及び始動中、CANメッセージを用いて前記バルブ装置(6)に通電することを特徴とする、請求項1に記載の始動方法。
【請求項3】
前記液圧媒体としてオイルが使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の始動方法。
【請求項4】
前記始動装置(2)として湿式クラッチが使用されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の始動方法。
【請求項5】
前記液圧媒体が、前記内燃機関(1)の始動の開始時に前記始動装置(2)を充填するために使用されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の始動方法。
【請求項6】
前記油圧ポンプ(5)が、補助手段を用いることなく、前記始動装置(2)の充填に必要な前記液圧媒体の流れを実現することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の始動方法。
【請求項7】
前記油圧ポンプ(5)が、前記内燃機関(1)によって駆動され、前記内燃機関(1)の始動後最初の回転が、既に前記油圧ポンプ(5)を駆動し、前記液圧媒体を前記始動装置(2)に供給することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の始動方法。
【請求項8】
前記油圧ポンプ(5)によって生成される前記液圧媒体の圧力が、目標圧力に下側から漸近的に近付くように調節されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の始動方法。
【請求項9】
始動装置を介してトランスミッションに連結され、且つ始動/停止動作モードで動作す内燃機関を備える自動車であって、液圧媒体が油圧ポンプによりバルブ装置を介して前記始動装置に送り込まれる、自動車において、スタータ(8)による前記内燃機関(1)の始動前、前記バルブ装置(6)が前記液圧媒体を前記始動装置(2)に供給することが可能なように前記バルブ装置(6)を作動させ、前記内燃機関(1)の始動中、前記油圧ポンプ(5)が前記液圧媒体を前記始動装置(2)に直接供給するように前記油圧ポンプ(5)を作動させ、それにより前記始動装置(2)による前記内燃機関(1)と前記トランスミッション(3)との間の機械的に動作可能な連結が実現される、制御ユニット(4)を有する、自動車。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−106673(P2011−106673A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−249386(P2010−249386)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(508174975)ドクトル イング ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (134)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】