説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】内燃機関から排出されるNOxを還元浄化するとともに、排気ガス中に含まれるNH3を無害なN2に浄化することができる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の排気通路内に配置され、第1の触媒金属を触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒と、NOx浄化触媒の下流側排気通路内に配置され、卑金属を含む第2の触媒金属を触媒担体に担持してなる酸化触媒と、酸化触媒上流の排気ガスに空気を導入するための空気導入手段と、酸化触媒の温度を検出するための触媒温度検出手段とを備え、酸化触媒の温度が所定の温度以下である場合には、酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比をリーン空燃比に制御し、酸化触媒の温度が所定の温度を超えた場合には、酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比に制御するようにした内燃機関の排気浄化装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置、より詳しくはNOx浄化触媒と酸化触媒を備えた内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関からの排気を浄化する技術としてNOx浄化触媒を使用することが知られている。しかしながら、このようなNOx浄化触媒の触媒成分として一般的に用いられる貴金属、例えば、ロジウム(Rh)等の白金族元素は、自動車の排ガス規制の強化とともに使用量が増加しており、それゆえ資源の枯渇が懸念されている。このため、白金族元素の使用量を減らすとともに、将来的には、当該白金族元素の役割を他の金属等で代替することが必要とされている。
【0003】
特許文献1では、主としてHCを部分酸化してCOを生成する第1段卑金属触媒とNOxを還元浄化する第2段卑金属触媒からなる基本構造を備えた内燃機関の排気浄化装置が記載され、望ましい形態として、前記第1段卑金属触媒に理論空燃比より僅かに燃料リッチな空燃比の排気ガスを流入させ、さらには前記基本構造の下流側にHC及びCOを酸化浄化する第3段卑金属触媒を備え、前記基本構造と前記第3段卑金属触媒との間に設けられた空気導入手段により前記第3段卑金属触媒に流入する排気ガス中に空気を導入することが記載されている。なお、特許文献1では、NOxを還元浄化する第2段卑金属触媒の触媒成分として銅(Cu)が使用できると記載されている。また、特許文献1では、上記の構成を有する排気浄化装置によれば、第2段卑金属触媒においてCO−NO反応によりNOxの還元浄化が促進され、第3段卑金属触媒において排気ガス中に残存するCO及びHCが酸化浄化されると記載されている。
【0004】
なお、特許文献2においても、特許文献1に記載されるような空気導入手段を設けた内燃機関の排気浄化装置が記載されている。
【0005】
ここで、特許文献1に記載の排気浄化装置において触媒成分として使用されるCu等の卑金属は、酸素過剰のリーン雰囲気や理論空燃比(ストイキ)近傍の雰囲気下ではRh等の白金族元素に比べて還元能力が低く、それゆえ排気ガスの空燃比がリーン又はストイキであると排気ガス中に含まれるNOxを十分に還元浄化することができない。したがって、例えば、このような卑金属をNOx浄化触媒の触媒金属として使用する場合には、当該NOx浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比を特許文献1に記載されるように理論空燃比よりもリッチな空燃比に制御することが一般に好ましい。しかしながら、このようなリッチ空燃比、すなわち還元性雰囲気のもとでは、例えば、排気ガス中に含まれる窒素(N2)が炭化水素(HC)等により還元されてアンモニア(NH3)が生成してしまう場合がある。
【0006】
特許文献3及び4では、排気ガス中に含まれるアンモニアを酸化分解するための触媒や方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2011−183964号
【特許文献2】特開2008−309013号公報
【特許文献3】特開2006−289211号公報
【特許文献4】特開平10−085557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、特許文献3に記載のアンモニア酸化触媒は、NH3からN2Oが生成するのを抑制しつつ、NH3をNOに酸化するというものであり、それゆえ特許文献3に記載のアンモニア酸化触媒ではNH3が無害なN2とH2Oに酸化分解されるわけではない。一方で、特許文献4に記載のアンモニア含有排ガスの浄化方法は、化学工場等からの排ガスの浄化を対象とするものであり、それゆえ内燃機関からの排ガスの浄化を対象としたものではない。また、特許文献4に記載のアンモニア含有排ガスの浄化方法は、アンモニアを浄化するのにそれぞれ触媒を充填した前段反応器と後段反応器の2つの反応器を必要とするものであり、それゆえコストや搭載スペース等の観点からも、特許文献4に記載の方法を内燃機関の排気浄化装置に適用することは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、新規な構成により、内燃機関から排出されるNOxを還元浄化するとともに、排気ガス中に含まれるNH3を無害なN2に浄化することができる内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は下記にある。
(1)内燃機関の排気通路内に配置され、第1の触媒金属を触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒と、
前記NOx浄化触媒の下流側排気通路内に配置され、卑金属を含む第2の触媒金属を触媒担体に担持してなる酸化触媒と、
前記NOx浄化触媒の下流側排気通路に設けられ、前記酸化触媒上流の排気ガスに空気を導入するための空気導入手段と、
前記酸化触媒の温度を検出するための触媒温度検出手段と
を備え、前記触媒温度検出手段によって検出される前記酸化触媒の温度が所定の温度以下である場合には、前記空気導入手段から導入される空気の量を調節することによって前記酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリーンな空燃比に制御し、前記触媒温度検出手段によって検出される前記酸化触媒の温度が所定の温度を超えた場合には、前記空気導入手段から導入される空気の量を調節することによって前記酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比に制御するようにした、内燃機関の排気浄化装置。
(2)前記卑金属が、Cu、Fe、Ni、Cr、Ce、Co、Mg、Zn及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、上記(1)に記載の内燃機関の排気浄化装置。
(3)前記卑金属がCu、Fe及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、上記(2)に記載の内燃機関の排気浄化装置。
(4)前記酸化触媒が排ガス上流側の前段部分と排ガス下流側の後段部分からなり、前記第2の触媒金属がPt、Pd及びAgの少なくとも1種をさらに含み、前記卑金属が前記前段部分と前記後段部分の両方に担持され、かつPt、Pd及びAgの少なくとも1種が前記後段部分にのみ担持された、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
(5)前記第2の触媒金属が担持される触媒担体が、アルミナ、ゼオライト、チタニア及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
(6)前記第1の触媒金属が、Cu、Fe、Ni、Mn、Pt、Pd、Rh、Au及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
(7)前記第1の触媒金属がCuである、上記(6)に記載の内燃機関の排気浄化装置。
(8)前記酸化触媒の下流側排気通路内に配置された酸素センサ又は空燃比センサをさらに備え、該酸素センサ又は空燃比センサの出力値に基づいて、前記空気導入手段から導入される空気の量を調節することによって前記酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御するようにした、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
(9)前記所定の温度が350℃である、上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
(10)前記NOx浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比である、上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
(11)前記NOx浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比が、理論空燃比よりもリッチな空燃比と理論空燃比よりもリーンな空燃比の間で交互に切り換えられる、上記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を当該酸化触媒の温度に応じて適切に制御することにより、当該酸化触媒がさらされる全ての温度域において、NOx浄化触媒の運転条件等に関連して排気ガス中に含まれるNH3をNOやNO2等の窒素酸化物(NOx)に対して選択的にN2に酸化させることができ、したがって排気エミッションの悪化を顕著に改善することができる。さらに、本発明の内燃機関の排気浄化装置の好ましい実施態様によれば、Cu及びFeの少なくとも1種を酸化触媒の前段部分と後段部分の両方に担持し、かつPt、Pd及びAgの少なくとも1種を酸化触媒の後段部分にのみ担持することで、Cu及び/又はFeにより排気ガス中のNH3をNOxに対して選択的にN2へ酸化するとともに、未反応のNH3を酸化触媒の後段部分に担持されたPt、Pd及び/又はAgによって確実に酸化浄化することができる。また、Pt、Pd及びAgは、排気ガス中のHCやCOに対する酸化活性も非常に高いため、これらの金属を酸化触媒の後段部分に使用することで、排気ガス中のHC及びCOについても確実に酸化浄化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による排気浄化装置の1つの実施態様を模式的に示した図である。
【図2】酸素センサを使用した場合における図1に示す本発明による排気浄化装置の制御を示すフローチャートである。
【図3】(a)は、465℃における酸化触媒A〜Dに関するNH3からN2への転化率(%)を示すグラフであり、(b)は、310℃における酸化触媒A〜Dに関するNH3からN2への転化率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の内燃機関の排気浄化装置は、内燃機関の排気通路内に配置され、第1の触媒金属を触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒と、前記NOx浄化触媒の下流側排気通路内に配置され、卑金属を含む第2の触媒金属を触媒担体に担持してなる酸化触媒と、前記NOx浄化触媒の下流側排気通路に設けられ、前記酸化触媒上流の排気ガスに空気を導入するための空気導入手段と、前記酸化触媒の温度を検出するための触媒温度検出手段とを備え、前記触媒温度検出手段によって検出される前記酸化触媒の温度が所定の温度以下である場合には、前記空気導入手段から導入される空気の量を調節することによって前記酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリーンな空燃比に制御し、前記触媒温度検出手段によって検出される前記酸化触媒の温度が所定の温度を超えた場合には、前記空気導入手段から導入される空気の量を調節することによって前記酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比に制御するようにしたことを特徴としている。
【0014】
排ガス浄化用触媒として一般的に用いられている三元触媒では、当該三元触媒の作用によってCO、HC及びNOxの3成分を同時かつ効率的に浄化するためには、自動車のエンジンに供給される空気と燃料の比率(空燃比A/F)を理論空燃比(ストイキ)近傍に制御することが重要である。しかしながら、実際の空燃比は、自動車の走行条件等によってストイキを中心にリッチ(燃料過剰雰囲気)側又はリーン(燃料希薄雰囲気)側に変動するため、排気ガスの雰囲気も同様にリッチ側又はリーン側に変動する。そして、排気ガスの空燃比がリッチ側にある場合には、先に述べたとおり、排気ガス中に含まれる窒素(N2)が炭化水素(HC)等により還元されてアンモニア(NH3)が生成するという問題がある。一方で、例えば、NOx浄化触媒の触媒成分として白金族元素以外の金属、特に卑金属を使用する場合には、当該卑金属によって排気ガス中に含まれるNOxを十分に還元浄化するために、当該NOx浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比をストイキではなくリッチ空燃比に制御することが一般に必要となる。しかしながら、このような場合には、排気ガス中におけるアンモニアの生成が特に顕著となってしまう。
【0015】
また、例えば、ディーゼルエンジンにおいて使用される尿素選択還元型NOx触媒(いわゆるSCR触媒)では、尿素を加水分解させることで得られるアンモニアを用いて排気ガス中のNOxが窒素に還元浄化されるが、尿素の加水分解によって生成したアンモニアの一部は必ずしもこのような還元反応には寄与せずに未反応のまま外部へ排出されてしまう場合がある。一方で、従来技術において提案されているアンモニア酸化触媒では、例えば、その酸化活性が高いために、排気ガス中に含まれるアンモニアが窒素ではなくNOやNO2等の窒素酸化物にまで酸化されてしまい、結果として排気エミッションの十分な改善を図ることができない場合がある。
【0016】
本発明者は、NOx浄化触媒及び酸化触媒、特には触媒成分として主として卑金属を含むNOx浄化触媒及び酸化触媒を備えた内燃機関の排気浄化装置において、酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を当該酸化触媒の温度に応じて適切に制御することにより、NOx浄化触媒の運転条件等に関連して排気ガス中に含まれるか又は排気ガス中に生成するアンモニアをNOやNO2等の窒素酸化物に対して選択的に窒素に酸化させることができ、したがって排気エミッションの悪化を顕著に改善することができることを見出した。
【0017】
より具体的に説明すると、アンモニアの酸化反応においては、反応に要するエネルギーが多く供給される高温下では当該酸化反応の反応速度が大きくなり、結果として、酸化触媒による酸化が促進されて排気ガス中に含まれるアンモニアの多くが窒素ではなくNOやNO2等の窒素酸化物にまで酸化されてしまう。そこで、本発明者は、酸化触媒の温度が所定の温度を超えた場合には、酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比をストイキ近傍に制御し、すなわちアンモニアが比較的酸化されにくい雰囲気に制御することで、アンモニアから窒素酸化物への酸化を抑制して選択的に窒素を生成させることができることを見出した。一方で、本発明者は、酸化触媒の温度が所定の温度以下である場合には、酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比をストイキよりもリーンな空燃比に制御し、すなわちアンモニアが比較的酸化されやすい雰囲気に制御することで、アンモニアから窒素への酸化を促進させることができることを見出した。
【0018】
なお、本発明において「理論空燃比」又は「ストイキ」とは、A/F=14.6±0.1の範囲にある空燃比を含むものである。
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の内燃機関の排気浄化装置の好ましい実施態様についてより詳しく説明するが、以下の説明は、本発明の好ましい実施態様の単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の実施態様に限定することを意図するものではない。
【0020】
図1は、本発明による排気浄化装置の1つの実施態様を模式的に示した図である。
【0021】
図1を参照すると、内燃機関10の排気側は、排気通路11を介して第1の触媒金属を触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒12に連結され、さらに当該NOx浄化触媒12の出口部が排気通路13に連結されている。そして、この排気通路13にさらに第2の触媒金属を触媒担体に担持してなる酸化触媒14が連結され、当該酸化触媒14の上流側に排気通路13内に空気を導入するためのポンプ15(空気導入手段)が接続されている。また、酸化触媒14の上流側排気通路13内には当該酸化触媒14の温度を検出するための温度センサ16(触媒温度検出手段)が取り付けられている。なお、この酸素センサ16は、電子制御ユニット(ECU)18に電気的に接続されている。そして、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比は、温度センサ16によって検出される温度に基づいて、ECU18によりポンプ15の出力を調節することで制御することが可能である。なお、上記の温度センサ16は、単に酸化触媒14の温度を検出することができればよく、例えば、酸化触媒14のケーシングに取り付けてもよいし、あるいは酸化触媒14の下流側排気通路17内に取り付けてもよい。
【0022】
本発明によれば、NOx浄化触媒12において触媒成分として含まれる第1の触媒金属としては、排気ガス中のNOxを還元浄化することができるものであればよく、特に限定されないが、例えば、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)又はそれらの組み合わせを使用することができ、好ましくはCuを使用することができる。なお、Cuやその他の卑金属を本発明における第1の触媒金属として使用する場合には、排気ガス中に含まれるNOxを十分に還元浄化するために、NOx浄化触媒12に流入する排気ガスの空燃比は、理論空燃比よりもリッチな空燃比に制御することが一般的に好ましい。
【0023】
また、上記第1の触媒金属が担持される触媒担体としては、特に限定されないが、一般に触媒担体として用いられる任意の金属酸化物を使用することができる。このような触媒担体としては、例えば、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、シリカ−アルミナ(SiO2−Al23)、ゼオライト(例えばZSM−5等)、ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、セリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)、チタニア(TiO2)及びそれらの組み合わせからなる群より選択される金属酸化物が挙げられる。
【0024】
本発明による排気浄化装置では、NOx浄化触媒12としては、PtやRh等の白金族元素を用いた従来公知のいわゆる三元触媒を使用することもできるし、あるいはディーゼルエンジンにおいて使用される尿素選択還元型NOx触媒(SCR触媒)を使用することも可能である。しかしながら、本明細書では、理解を容易にするため、NOx浄化用触媒12としてCuやFe等の卑金属を触媒担体に担持してなる材料を使用した場合について以下により詳しく説明する。
【0025】
図1に示す本発明による排気浄化装置の1つの実施態様について具体的に説明すると、NOx浄化触媒12が触媒成分として主として卑金属を含む場合には、常時は、ECU18によって当該NOx浄化触媒12に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比に制御され、そしてこのNOx浄化触媒12によって排気ガス中のNOxが還元浄化される。一方で、このようなリッチ空燃比のもとでは排気ガス中に含まれるN2がHC等によって還元されてNH3が生成することがある。したがって、本実施態様では、このようにして生成したNH3がNOx浄化触媒12の下流側排気通路13内に配置された酸化触媒14とポンプ15から導入された空気中のO2とによってN2とH2Oに酸化分解される。
【0026】
この際、酸化触媒14の温度が所定の温度以下である場合には、酸化触媒14によるアンモニアの酸化反応速度が遅いため、ポンプ15から導入される空気の量を増やして酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比をストイキよりもリーンな空燃比に制御し、すなわちアンモニアの酸化反応速度を大きくするよう制御することで、アンモニアから窒素への酸化を促進させる。一方で、酸化触媒14の温度が所定の温度を超えた場合には、酸化触媒14によるアンモニアの酸化反応速度が大きいため、ポンプ15から導入される空気の量を少なくして酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比をストイキ近傍に制御し、すなわちアンモニアの酸化反応速度を遅くするよう制御することで、アンモニアからNOやNO2等の窒素酸化物への酸化を抑制して選択的に窒素が生成するようにする。このようにすることで、酸化触媒14がさらされる全ての温度域において、排気ガス中に含まれるNH3を窒素酸化物に対して選択的に窒素に酸化させることができ、したがって排気エミッションの悪化を顕著に改善することが可能である。
【0027】
また、排気ガス中にはNOxやNH3以外にもHCやCO等の他の有害成分が一般に含まれている。しかしながら、本実施態様によれば、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比は、上記のとおり、ポンプ15から導入される空気によって常にストイキ近傍か又はそれよりもリーンな空燃比に制御されるため、これらの有害成分についても、当該酸化触媒14とポンプ15から導入される空気中のO2とによって十分に酸化浄化することが可能である。
【0028】
なお、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比は、例えば、内燃機関10の回転数やトルク、燃料噴射量、吸入空気量、さらにはポンプ15の空気導入量から予め作成されそしてECU18に記憶されたマップを利用して算出することができ、又はそれに基づいてポンプ15の出力を調節することによって制御することが可能である。あるいはまた、本発明の好ましい実施態様では、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比を算出及び/又は制御するために酸素センサや空燃比センサ等を使用してもよく、この場合、コスト等の観点からは酸素センサを使用することがより好ましい。
【0029】
ここで、酸素センサは、空燃比がリッチかリーンかに応じて出力値が変化するものであり、例えば、酸素センサとしては、電解質であるジルコニアを大気に接触する基準電極と排気ガスに接触する測定電極とで挟み両電極の酸素濃度差に応じた起電力を生じるジルコニア酸素センサを使用することができる。このジルコニア酸素センサは、理論空燃比(約0.5V付近)を境に、実際の空燃比が理論空燃比よりもリッチ側にあるときには約0.6Vよりも大きな電圧を出力し、実際の空燃比が理論空燃比よりもリーン側にあるときには約0.4Vよりも小さな電圧を出力するものである。本発明の好ましい実施態様では、この酸素センサは、酸化触媒14の下流側排気通路17内に取り付けられ、ECU18に電気的に接続される。そして、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比は、当該酸素センサからの出力値に基づいて、ECU18によりポンプ15から導入される空気の量を調節することで制御することができる。
【0030】
図2は、酸素センサを使用した場合における図1に示す本発明による排気浄化装置の制御を示すフローチャートである。なお、この制御は、ECU18によって予め定められた設定時間毎の割り込みによって実行されるルーチンとして行われる。
【0031】
図2を参照すると、まず初めにステップ100では、温度センサ16によって検出される酸化触媒14の温度Tが、当該酸化触媒14が比較的高い酸化活性を示す所定の温度T0を超えたか否かが判定され、T>T0の場合はステップ101に進む。ここで、温度T0は、例えば、酸化触媒14において触媒成分として使用される触媒金属の種類等に応じても変化しうるため、必ずしも特定の値には限定されない。しかしながら、一般的には、温度T0としては、約300℃と約400℃の間のいずれかの温度に設定することができ、特に酸化触媒14の触媒成分としてCuやFe等の卑金属を使用した場合には、温度T0としては約350℃と設定することができる。
【0032】
なお、ステップ100においてT>T0の場合には、排気ガス中に含まれるアンモニアが当該酸化触媒14によって窒素酸化物にまで酸化されるのを抑制するため、以降のステップにおいて、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がストイキ近傍に制御される。具体的には、ステップ101において、酸素センサの出力値が0.6Vを超えているか否かが判定され、すなわち酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比であるか否かが判定され、酸素(O2)センサ出力>0.6Vの場合、すなわち酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比である場合には、ステップ102に進む。そして、ステップ102において、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がストイキになるように、ポンプ15の出力を大きくすることで酸化触媒14の上流側排気通路13内に導入される空気量が増加される。
【0033】
一方、ステップ101において、酸素センサ出力≦0.6Vの場合、すなわち酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がストイキであるか又はリーン空燃比である場合には、ステップ103に進む。そして、ステップ103において、酸素センサの出力値が0.4Vを下回っているか否かが判定され、すなわち酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がストイキであるか又はリーン空燃比であるかが判定され、酸素センサ出力<0.4Vの場合、すなわち酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比である場合には、ステップ104に進む。そして、ステップ104において、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がストイキになるように、ポンプ15の出力を小さくすることで酸化触媒14の上流側排気通路13内に導入される空気量が減少される。一方で、ステップ103において、酸素センサ出力≧0.4Vの場合には、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がストイキであると判断してルーチンを終了する。
【0034】
なお、ステップ100においてT≦T0である場合には、酸化触媒14による排気ガス中のアンモニアの窒素への酸化を促進させるために、以降のステップにおいて、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がストイキよりもリーンな空燃比に制御される。具体的には、ステップ200において、酸素センサの出力値が0.4V以上であるか否かが判定され、すなわち酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比であるか否かが判定され、酸素センサ出力≧0.4Vの場合、すなわち酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比ではない場合には、ステップ201に進む。次に、ステップ201において、ポンプ15の出力を大きくすることで酸化触媒14の上流側排気通路13内に導入される空気量が増加され、当該酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比になるよう制御される。一方で、ステップ200において、酸素センサ出力<0.4Vの場合には、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比であると判断してルーチンを終了する。
【0035】
次に、酸化触媒14について詳しく説明すると、本発明によれば、酸化触媒14において触媒成分として含まれる第2の触媒金属としては、例えば、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、セリウム(Ce)、コバルト(Co)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)又はそれらの組み合わせを使用することができ、好ましくはCu、Fe又はそれらの組み合わせを使用することができる。より好ましくは、酸化触媒14において触媒成分として含まれる第2の触媒金属としては、上記の卑金属又はそれらの組み合わせに加えて、特にはCu、Fe又はそれらの組み合わせに加えて、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)又はそれらの組み合わせを使用することができる。
【0036】
また、上記第2の触媒金属が担持される触媒担体としては、特に限定されないが、一般に触媒担体として用いられる任意の金属酸化物を使用することができる。このような触媒担体としては、例えば、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、シリカ−アルミナ(SiO2−Al23)、ゼオライト(例えばZSM−5等)、ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、セリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)、チタニア(TiO2)及びそれらの組み合わせからなる群より選択される金属酸化物が挙げられ、好ましくはアルミナ、ゼオライト、チタニア及びそれらの組み合わせからなる群より選択される金属酸化物を使用することができる。アンモニアは、より低い温度域、例えば、350℃よりも低い温度域においては触媒上の酸点に優先的に吸着すると考えられる。したがって、上記第2の触媒金属が担持される触媒担体として、比較的酸点の多いアルミナ、ゼオライト又はチタニア等の金属酸化物を使用することで、低温下においても酸化触媒14へのアンモニアの吸着を促進させて、上記第2の触媒金属によるアンモニアの窒素への酸化を顕著に改善することが可能である。
【0037】
なお、本発明による排気浄化装置の好ましい実施態様によれば、酸化触媒14は、排ガス上流側の前段部分と排ガス下流側の後段部分からなり、当該酸化触媒14における第2の触媒金属としてCu及びFeの少なくとも1種と、さらにPt、Pd及びAgの少なくとも1種とが使用され、そしてCu及びFeの少なくとも1種が酸化触媒14の前段部分に少なくとも担持され、かつPt、Pd及びAgの少なくとも1種が酸化触媒14の後段部分にのみ担持される。より好ましくは、Cu及びFeの少なくとも1種は、酸化触媒14の前段部分と後段部分の両方に担持される。
【0038】
Pt、Pd及びAg等の金属は、酸化活性が非常に高いため、これらの金属が酸化触媒14の第2の触媒金属として使用され、特には酸化触媒14の排ガス上流側において担持されるか又は排ガス上流側と排ガス下流側の全領域において担持された場合には、NH3がN2ではなくNOやNO2等の窒素酸化物(NOx)にまで酸化されてしまう場合がある。このような場合には、外部へのNOx排出量が増加し、結果として排気エミッションの悪化を招く虞がある。一方で、Cu及びFe等の比較的酸化活性の低い金属を酸化触媒14の第2の触媒金属として使用した場合には、NH3からNOxへの酸化は顕著に抑制されるものの、NH3からN2への酸化が十分に行われない場合があり、このような場合には、排気ガス中に含まれるNH3の一部が未反応のまま外部へ排出されてしまう虞がある。
【0039】
そこで、本発明による排気浄化装置の好ましい実施態様では、Cu及びFeの少なくとも1種を酸化触媒14の前段部分、好ましくは酸化触媒14の前段部分と後段部分の両方に担持し、かつPt、Pd及びAgの少なくとも1種を酸化触媒14の後段部分にのみ担持することで、Cu及び/又はFeにより排気ガス中のNH3をNOxに対して選択的にN2へ酸化するとともに、未反応のNH3を酸化触媒14の後段部分に担持されたPt、Pd及び/又はAgによって確実に浄化することが可能である。また、何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、例えば、酸化触媒14の温度が350℃を超える高温下では、酸化触媒14に流入する排気ガスの空燃比はストイキ近傍に制御され、しかも当該酸化触媒14の前段部分に担持されたCu及び/又はFeによる酸化反応において排気ガス中の酸素がある程度消費される。それゆえ、酸化触媒14の後段部分に担持されたPt、Pd及び/又はAgは、その酸化活性自体は高いものの、これらの触媒金属付近の排気ガス中には酸化反応に寄与しうる過剰酸素がないために、結果として未反応のNH3がこれらの触媒金属によってNOxにまで酸化されることが抑制されると考えられる。したがって、このような構成を有する排気浄化装置によれば、例えば、酸化触媒14において第2の触媒金属としてCu及び/又はFeのみを担持した場合や、それに加えて酸化触媒14の前段部分にさらにPt、Pd及び/又はAgを担持した場合に比べて、排気エミッションを顕著に改善することが可能である。
【0040】
また、排気ガス中にはNOxやNH3以外にもHCやCO等の有害成分が一般に含まれている。そして、Pt、Pd及びAg等の金属は、これらの有害成分に対する酸化活性が非常に高いことが知られている。したがって、これらの金属を酸化触媒14の第2の触媒金属として当該酸化触媒14の後段部分に使用することで、当該第2の触媒金属としてCuやFe等の卑金属のみを使用した場合に比べて、排気ガス中のHC及びCOを確実に酸化浄化することも可能である。なお、Pt、Pd及び/又はAgが担持される酸化触媒14の範囲としては、当該酸化触媒14の所望の酸化性能、特にはNH3、HC及びCOに対する酸化性能等に応じて適宜決定すればよい。特に限定されないが、例えば、Pt、Pd及び/又はAgは、NH3からNOxへの酸化を抑制しつつ、未反応のNH3を確実に浄化し、さらには排気ガス中のHCやCO等の有害成分を十分に酸化浄化するために、酸化触媒14の全長の5〜50%の範囲において当該酸化触媒14の後段部分に担持することが好ましい。また、白金族元素を他の金属で代替するという観点から言えば、PtやPdではなくAgを酸化触媒14の後段部分に担持することがより好ましい。
【0041】
本発明による排気浄化装置において用いられる酸化触媒14、さらには先に記載したNOx浄化触媒12は、当業者に公知の任意の方法によって調製することができる。例えば、これらの触媒において触媒成分として用いられる第1及び第2の各触媒金属の塩を含む溶液を、所定量の溶液に分散させた触媒担体の粉末に、当該触媒金属の担持量が一般的に0.01〜10wt%の範囲になるような量において添加する。次いで、これを所定の温度及び時間、特には触媒金属の塩部分を分解除去しかつ当該触媒金属を触媒担体上に担持するのに十分な温度及び時間において乾燥及び焼成することにより、第1及び第2の各触媒金属を触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒12及び酸化触媒14を得ることができる。また、これらの触媒は、例えば、高圧下でプレスしてペレット状に成形するか、又は所定のバインダ等を加えてスラリー化し、これをコージェライト製ハニカム基材等の触媒基材上に塗布することにより使用することができる。
【0042】
本発明による排気浄化装置の1つの実施態様では、先に記載したとおり、NOx浄化触媒12が第1の触媒金属として特にCu等の卑金属を含む場合には、常時は、当該NOx浄化触媒12に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比に制御され、そしてこのNOx浄化触媒12によって排気ガス中のNOxが還元浄化される。しかしながら、理論空燃比よりも極端にリッチな空燃比下において運転することは、燃費の大幅な悪化を招くため一般的には好ましくない。したがって、本発明による排気浄化装置の1つの実施態様によれば、NOx浄化触媒12に流入する排気ガスの空燃比は、例えばA/F=14.4程度のリッチ空燃比に制御することが好ましい。
【0043】
一方で、NOx浄化触媒12では、触媒成分として含まれる第1の触媒金属が、アクセルオフ時に行われるフューエルカット制御等の特に酸素濃度の高い雰囲気にさらされた場合に、当該第1の触媒金属の表面が酸素によって覆われ、すなわち当該第1の触媒金属の表面がいわゆる酸素被毒を受けて、結果としてNOx浄化触媒12のNOx浄化性能が低下してしまうことがある。特にNOx浄化触媒12における第1の触媒金属として白金族元素ではなく卑金属を使用した場合には、当該卑金属は白金族元素等に比べて一般に酸化されやすいため、このような酸素被毒によるNOx浄化性能の低下が特に顕著となりうる。したがって、本発明による排気浄化装置の好ましい実施態様では、フューエルカット制御が停止された段階、具体的には機関回転数が所定の回転数以下に低下した段階や、アクセルがオンされた段階において、NOx浄化触媒12に流入する排気ガスの空燃比を通常走行時のリッチ空燃比(例えばA/F=約14.4)よりもさらにリッチな空燃比、例えばA/F=約14.0等のリッチ空燃比に所定の時間あるいは瞬間的に切り換えることができる。このようにすることで、第1の触媒金属、特には卑金属が酸素被毒を受けた場合に、それを解消してNOx浄化触媒12を劣化した状態から活性の高い状態へと確実に再生させることが可能である。
【0044】
本発明による排気浄化装置のさらに好ましい実施態様によれば、NOx浄化触媒12に流入する排気ガスの空燃比は、理論空燃比よりもリッチな第1の空燃比、例えばA/F=約14.0と理論空燃比よりもリーンな第2の空燃比、例えばA/F=約14.8との間で交互に切り換えられる。先に述べたように、NOx浄化触媒12が第1の触媒金属として特にCu等の卑金属を含む場合には、常時は、当該NOx浄化触媒12に流入する排気ガスの空燃比はA/F=約14.4等のリッチ空燃比に制御される。しかしながら、このようなリッチ空燃比下においては、排気ガス中に含まれるHC等によって第1の触媒金属、例えばCu等の卑金属の表面がいわゆるHC被毒を受け、その結果としてNOx浄化触媒12のNOx浄化性能が低下してしまうことがある。しかしながら、本発明による排気浄化装置の上記のさらに好ましい実施態様によれば、理論空燃比よりもリッチな第1の空燃比下においてNOx浄化触媒12上の第1の触媒金属がHC被毒を受けた場合でも、理論空燃比よりもリーンな第2の空燃比に切り換えることで、このようなHC被毒を容易に解消することが可能であり、一方で、理論空燃比よりもリーンな第2の空燃比下においてNOx浄化触媒12上の第1の触媒金属が先に記載したような酸素被毒を受けたとしても、理論空燃比よりもリッチな第1の空燃比に切り換えることで、このような酸素被毒を解消してNOx浄化触媒12を劣化した状態から確実に再生させることが可能である。
【0045】
なお、上記の実施態様では、第1の空燃比を約14.0、そして第2の空燃比を約14.8として記載しているが、これら第1及び第2の空燃比としては、必ずしも上記の値には限定されず、NOx浄化触媒12の所望のNOx浄化性能等に応じて任意の適切な値を選択することができる。また、第1の空燃比と第2の空燃比の切り換えのタイミングについては、それぞれの空燃比の具体的な値や、NOx浄化触媒12の劣化度合等、種々のパラメータを考慮して適切に決定すればよい。例えば、常時は理論空燃比よりもリッチな第1の空燃比で運転し、そして間欠的に理論空燃比よりもリーンな第2の空燃比に切り換える、いわゆるリーンスパイクを発生させるように運転してもよいし、あるいはまた、例えば1秒又はそれよりも短い時間間隔ごとに第1の空燃比と第2の空燃比を交互に切り換えるように運転してもよい。後者の方法によれば、前者の方法に比べてリッチ空燃比による合計の運転時間を短くすることができるので、燃費の悪化をより改善することが可能である。
【0046】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
[酸化触媒の検討]
本実験では、本発明による排気浄化装置において使用される酸化触媒の触媒成分について、以下のとおり検討した。
【0048】
[Cuを含む酸化触媒A(Cu担持量2wt%)の調製]
まず、蒸留水500mLに触媒担体として所定量のゼオライト粉末(SAPO:三菱樹脂製)を添加して攪拌し、次いで、これに硝酸銅を溶解した水溶液を最終的に得られる酸化触媒のCu担持量が2wt%となるような量において添加し、次いで50℃で8時間攪拌してイオン交換した。次に、得られた溶液を濾過及び洗浄し、乾燥器において120℃で12時間乾燥した後、得られた粉末を空気中500℃で2時間焼成することにより、Cu担持ゼオライト粉末を得た。
【0049】
次に、得られたCu担持ゼオライト粉末167部を、アルミナ粉末(サソール社製)20部及びアルミナバインダー(日産化学工業(株)製:AS200)13部と混合し、水を加えてコート用スラリーを調製した。次いで、得られたスラリーをウォッシュコート法によりセラミック基材に200g/基材−L(基材1リットル当たり)の量でコートし、その後、電気炉において250℃で2時間焼成して、触媒成分としてCuを含む酸化触媒A(Cu担持量2wt%)を得た。
【0050】
[Feを含む酸化触媒B(Fe担持量2wt%)の調製]
硝酸銅の代わりに硫酸鉄、及びゼオライト粉末として三菱樹脂製のSAPOではなく東ソー製のBEAを使用したこと以外は酸化触媒Aの調製方法と同様にして、触媒成分としてFeを含む酸化触媒B(Fe担持量2wt%)を得た。
【0051】
[Ag及びFeを含む酸化触媒C(Ag担持量1wt%、Fe担持量2wt%)の調製]
アルミナ粉末の代わりにAg担持アルミナ粉末を使用したこと以外は、酸化触媒Bの調製方法と同様にして、触媒成分としてAg及びFeを含む酸化触媒C(Ag担持量1wt%、Fe担持量2wt%)を得た。
【0052】
[Pt及びFeを含む酸化触媒D(Pt担持量1wt%、Fe担持量2wt%)の調製]
アルミナ粉末の代わりにPt担持アルミナ粉末を使用したこと以外は、酸化触媒Bの調製方法と同様にして、触媒成分としてPt及びFeを含む酸化触媒D(Pt担持量1wt%、Fe担持量2wt%)を得た。
【0053】
[酸化触媒A〜Dの活性評価]
次に、酸化触媒A〜DについてそれらのNH3浄化能を評価した。具体的には、固定床流通式反応装置(日本ケミカル製)を用いて酸化触媒A〜Dの各酸化触媒に下表1に示す評価用モデルガスを15L/分(空間速度SV=25714/h)の流量で導入し、そして当該評価用モデルガス中のO2濃度を0%、0.06%、0.5%、1.0%及び5.0%にそれぞれ変化させた場合の465℃及び310℃の各温度におけるNH3からN2への転化率(%)を測定した。なお、NH3からN2への転化率(%)は以下の計算式により算出した。その結果を図3に示す。
転化率(%)=(流入NH3量−未反応NH3量−NO生成量−NO2生成量−2×N2O生成量)×100÷(流入NH3量)
なお、触媒出口側の未反応NH3量、NO生成量、NO2生成量及びN2O生成量についてはFT−IR分析計(HORIBA製6000FT)を用いて測定し、一方で、評価用モデルガス中のO2濃度を別の分析計(HORIBA製7100H)によって測定した。
【0054】
【表1】

【0055】
図3(a)は、465℃における酸化触媒A〜Dに関するNH3からN2への転化率(%)を示すグラフであり、図3(b)は、310℃における酸化触媒A〜Dに関するNH3からN2への転化率(%)を示すグラフである。図3(a)及び(b)は、横軸に評価用モデルガス中のO2濃度(%)を示し、縦軸にNH3からN2への転化率(%)を示している。なお、図中、O2濃度0%の点がリッチ空燃比に相当し、O2濃度0.06%の点がストイキ(A/F=約14.6)に相当し、そしてO2濃度0.5%、1.0%及び5.0%の各点がリーン空燃比に相当する。
【0056】
図3(a)及び(b)を参照すると、触媒成分として酸化活性が高いAg及びPtを含む酸化触媒C及びDは、465℃及び310℃の両温度に関し、O2濃度0.06%のストイキ条件下では、触媒成分としてCu又はFeのみを含む酸化触媒A及びBと比較して非常に高い転化率を示すことがわかる。特に触媒成分としてPtを含む酸化触媒Dでは、465℃及び310℃の両温度に関してストイキ条件下で100%に近い転化率を達成することができた。しかしながら、酸化触媒C及びDでは、O2濃度が0.06%よりも高いリーン空燃比下では、評価用モデルガス中のNH3がN2ではなくNOやNO2等の窒素酸化物にまで酸化されてしまい、結果としてNH3からN2への転化率が大きく低下した。一方で、触媒成分として酸化活性が比較的低いCu及びFeのみを含む酸化触媒A及びBでは、ストイキ条件下での活性は、酸化触媒C及びDに比べて劣るものの、リーン空燃比下では酸化活性が大きく向上し、しかも酸化触媒C及びDに比べてNH3が選択的にN2に酸化されていることがわかる。
【0057】
以下の実施例では、本発明による排気浄化装置を図2のフローチャートに従って制御した場合のNH3浄化能について調べた。
【0058】
[Cuを含むNOx浄化触媒の調製]
NOx浄化触媒については、すべての実施例及び比較例において以下の同じ触媒を使用した。まず、アルミナ粉末(サソール社製)137部とアルミナバインダー(日産化学工業(株)製:AS200)13部を混合し、水を加えてコート用スラリーを調製した。次いで、得られたスラリーをウォッシュコート法によりセラミック基材(日本ガイシ製、セル形状:四角、壁厚:4ミル、セル数:400セル/平方インチ)に150g/基材−L(基材1リットル当たり)の量でコートした。次いで、所定量の水に硝酸銅(II)三水和物をCuが0.118mol/基材−Lの担持量(Cuメタル換算で5wt%の担持量に相当)となるような量において溶解した溶液を上記のセラミック基材に吸水させた後、これをマイクロ波乾燥器において120℃通風中で20分間乾燥させた。最後に、電気炉において250℃で2時間焼成して硝酸塩を分解除去し、触媒成分としてCuを含むNOx浄化触媒(Cu担持量5wt%)を得た。
【0059】
[実施例1]
[Cuを含む酸化触媒の調製]
まず、蒸留水500mLに触媒担体として所定量のゼオライト粉末(SAPO:三菱樹脂製)を添加して攪拌し、次いで、これに硝酸銅を溶解した水溶液を最終的に得られる酸化触媒のCu担持量が2wt%となるような量において添加し、次いで50℃で8時間攪拌してイオン交換した。次に、得られた溶液を濾過及び洗浄し、乾燥器において120℃で12時間乾燥した後、得られた粉末を空気中500℃で2時間焼成することにより、Cu担持ゼオライト粉末を得た。
【0060】
次に、得られたCu担持ゼオライト粉末167部を、アルミナ粉末(サソール社製)20部及びアルミナバインダー(日産化学工業(株)製:AS200)13部と混合し、水を加えてコート用スラリーを調製した(スラリー1)。次いで、得られたスラリー1をウォッシュコート法によりセラミック基材(日本ガイシ製、セル形状:四角、壁厚:4ミル、セル数:400セル/平方インチ)に200g/基材−L(基材1リットル当たり)の量でコートし、その後、電気炉において500℃で2時間焼成して、触媒成分としてCuを含む酸化触媒(Cu担持量2wt%)を得た。
【0061】
[実施例2]
[前段及び後段部分にCu並びに後段部分にPtを含む酸化触媒の調製]
まず、実施例1で得られたのと同じCu担持ゼオライト粉末167部を、Pt担持アルミナ粉末20部及びアルミナバインダー(日産化学工業(株)製:AS200)13部と混合し、水を加えてコート用スラリーを調製した(スラリー2)。次いで、実施例1において調製したスラリー1をウォッシュコート法によりセラミック基材(日本ガイシ製、セル形状:四角、壁厚:4ミル、セル数:400セル/平方インチ)の排ガス上流側の前段部分にセラミック基材の全長に対して50%の幅で200g/基材−Lの量においてコートした。次いで、先に調製したスラリー2を同様にしてセラミック基材の排ガス下流側の後段部分にセラミック基材の全長に対して50%の幅で200g/基材−Lの量においてコートした。最後に、得られたセラミック基材を電気炉において500℃で2時間焼成して、触媒成分として前段及び後段部分にCu並びに後段部分にPtを含む酸化触媒(Cu担持量2wt%、Pt担持量0.5wt%)を得た。
【0062】
[実施例3]
[前段及び後段部分にFe並びに後段部分にPtを含む酸化触媒の調製]
硝酸銅の代わりに硫酸鉄、及びゼオライト粉末として三菱樹脂製のSAPOではなく東ソー製のBEAを使用したこと以外は実施例2と同様にして、触媒成分として前段及び後段部分にFe並びに後段部分にPtを含む酸化触媒(Cu担持量2wt%、Pt担持量0.5wt%)を得た。
【0063】
[比較例1]
[前段及び後段部分にCu並びに前段部分にPtを含む酸化触媒の調製]
スラリー1をセラミック基材の後段部分にそしてスラリー2をセラミック基材の前段部分にコートしたこと以外は実施例2と同様にして、触媒成分として前段及び後段部分にCu並びに前段部分にPtを含む酸化触媒(Cu担持量2wt%、Pt担持量0.5wt%)を得た。
【0064】
[比較例2]
比較例2では、実施例2と同じ酸化触媒を使用した。
【0065】
[本発明による排気浄化装置を用いたNH3の浄化]
上で調製したNOx浄化触媒と、実施例1〜3並びに比較例1及び2で調製した各酸化触媒とを実際のエンジン(排気量:2400cc)の排気系に図1に示すように装着し、次いでエンジンの回転数を1200rpm(酸化触媒の入りガス温度306℃に相当)と1600rpm(酸化触媒の入りガス温度409℃に相当)の間で変化させた場合の排気ガス中に含まれるNH3の浄化について調べた。なお、本実験では、上流側のNOx浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比はA/F=14.0とA/F=14.8の間で0.3秒ごとに交互に切り換えた。そして、下流側の酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比は、実施例1〜3及び比較例1については図2のフローチャートに従ってT0=350℃としてストイキ近傍とリーン空燃比の間で制御し、比較例2については温度による空燃比の切り換えは行わずに常時リーン空燃比に制御した。なお、実施例1〜3並びに比較例1及び2の各酸化触媒に関する空燃比制御の条件及び触媒構成を下表2にまとめる。
【0066】
【表2】

【0067】
各実施例及び比較例に関する酸化触媒の入りガス温度306℃及び409℃におけるNH3からN2への転化率(%)を測定した。具体的には、酸化触媒に流入する排気ガス中のNH3量及び酸化触媒出口側の未反応NH3量についてはFT−IR式NH3計を用いて測定し、一方で、酸化触媒出口側のNO生成量、NO2生成量及びN2O生成量については別の分析計(HORIBA製9500D)を用いて測定し、これらの値に基づいて先の酸化触媒A〜Dの場合と同様にしてNH3からN2への転化率(%)を算出した。その結果を下表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表3の結果から明らかなように、酸化触媒の前段部分にPtを担持した比較例1では、306℃の低温下と409℃の高温下の両方においてNH3の浄化活性が最も低かった。これは、酸化触媒の前段部に酸化活性の高いPtを配置したことで、排気ガス中のNH3の多くがN2ではなくNO、NO2及びN2O等の窒素酸化物(NOx)にまで酸化されたことに起因するものである。一方で、本発明の排気浄化装置による空燃比制御を行っていない比較例2では、409℃の高温下でNH3浄化活性の低下が顕著であった。これは、比較例2では実施例2と同じ酸化触媒を使用しているにもかかわらず、適切な空燃比制御を行わなかったために、409℃の高温下でNH3からNOxへの酸化が促進され、結果としてNH3からN2への転化率が大きく低下したためである。
【0070】
これらとは対照的に、本発明による排気浄化装置では、実施例1〜3に示すとおり、306℃と409℃の両温度において高いNH3からN2への転化率が得られ、すなわち排気ガス中のNH3を選択的にN2に酸化分解することができた。また、酸化触媒の後段部分にPtをさらに担持した実施例2及び3では、Ptを担持していない実施例1と比較して、特に409℃の高温下において高いNH3からN2への転化率を達成することができた。
【符号の説明】
【0071】
10 内燃機関
11、13、17 排気通路
12 NOx浄化触媒
14 酸化触媒
15 ポンプ(空気導入手段)
16 温度センサ(触媒温度検出手段)
18 電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路内に配置され、第1の触媒金属を触媒担体に担持してなるNOx浄化触媒と、
前記NOx浄化触媒の下流側排気通路内に配置され、卑金属を含む第2の触媒金属を触媒担体に担持してなる酸化触媒と、
前記NOx浄化触媒の下流側排気通路に設けられ、前記酸化触媒上流の排気ガスに空気を導入するための空気導入手段と、
前記酸化触媒の温度を検出するための触媒温度検出手段と
を備え、前記触媒温度検出手段によって検出される前記酸化触媒の温度が所定の温度以下である場合には、前記空気導入手段から導入される空気の量を調節することによって前記酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりもリーンな空燃比に制御し、前記触媒温度検出手段によって検出される前記酸化触媒の温度が所定の温度を超えた場合には、前記空気導入手段から導入される空気の量を調節することによって前記酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比に制御するようにした、内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記卑金属が、Cu、Fe、Ni、Cr、Ce、Co、Mg、Zn及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記卑金属がCu、Fe及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記酸化触媒が排ガス上流側の前段部分と排ガス下流側の後段部分からなり、前記第2の触媒金属がPt、Pd及びAgの少なくとも1種をさらに含み、前記卑金属が前記前段部分と前記後段部分の両方に担持され、かつPt、Pd及びAgの少なくとも1種が前記後段部分にのみ担持された、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記第2の触媒金属が担持される触媒担体が、アルミナ、ゼオライト、チタニア及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記第1の触媒金属が、Cu、Fe、Ni、Mn、Pt、Pd、Rh、Au及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記第1の触媒金属がCuである、請求項6に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項8】
前記酸化触媒の下流側排気通路内に配置された酸素センサ又は空燃比センサをさらに備え、該酸素センサ又は空燃比センサの出力値に基づいて、前記空気導入手段から導入される空気の量を調節することによって前記酸化触媒に流入する排気ガスの空燃比を制御するようにした、請求項1〜7のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項9】
前記所定の温度が350℃である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項10】
前記NOx浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項11】
前記NOx浄化触媒に流入する排気ガスの空燃比が、理論空燃比よりもリッチな空燃比と理論空燃比よりもリーンな空燃比の間で交互に切り換えられる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−72308(P2013−72308A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210426(P2011−210426)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】