説明

内燃機関の構成部品の識別装置

【課題】小型で電池交換を必要とせずに電力供給が可能であり、しかも長距離の通信が可能に構成された内燃機関の構成部品の識別装置を提供する。
【解決手段】部品監視装置30は、無線タグユニット35と受信端末装置45とから構成されている。無線タグユニット35は、ディーゼルエンジン10の構成部品(ピストンやピストンヘッド等)に埋め込まれている。無線タグユニット35に振動発電素子38が組み込まれている。エンジン10が駆動して振動が発生すると振動発電素子38が発電し、その電力を受けて無線タグユニット35が起動する。無線タグユニット35は、自らで発電した電力で生成した比較的強い電波にメモリ39内の部品固有情報を乗せて無線通信によって発信する。受信端末装置45は、無線タグユニット35からの電波をキャッチすると、それに含まれている部品固有情報を取得して、データ記憶部50に蓄積記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に対して交換可能に取り付けられた複数の構成部品それぞれに設けられた複数の無線タグユニットと、これらの無線タグユニットそれぞれから発信される識別情報を受信可能な受信ユニットとを備えた構成部品の識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、交換可能な複数の構成部品を備えた装置においては、装置の性能低下や装置の故障などの原因となるため、部品交換時には正規部品を使用することが強く推奨されている。装置の取扱説明書に含まれるパーツリストには構成部品のパーツナンバーが記載されており、ユーザはこのパーツナンバーを販売代理店などに提示することで、正規部品が手配されてユーザに納入される。ユーザは、納入された構成部品に刻印されたパーツナンバーとパーツリストに記載のパーツナンバーとが一致しているかどうかを目視で確認することで、納入された構成部品が正規部品であるかどうかを判断できる。しかしながら、パーツナンバーが刻印された模倣品や粗悪品などの非正規品が納入された場合は、ユーザはそれが正規部品であると判断してしまうので、意に反して非正規品を装置に取り付けてしまう場合がある。この場合、装置の性能が低下したり、装置の寿命が低下したり、場合によっては装置が故障するおそれがある。このような問題を解決する手段として、構成部品に非接触式のICタグ(無線タグともいう。)を埋め込むことが考えられる(特許文献1及び2参照)。模倣品などの非正規品にはICタグは埋め込まれていないため、ユーザは、ICタグから発信された電波をリーダが受信したかどうかによって、或いはその電波に含まれる識別情報に基づいて、正規部品かどうかを正確に判定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−353026号公報
【特許文献2】特開2008−27241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、大気汚染物質の放出規制に関する73/78MARPOL条約の1997年議定書(附属書VI)が2005年5月19日に発効されたことに伴い、外航船に搭載される130kWを越えるディーゼルエンジンに対してNOx(窒素酸化物)の放出量が制限されることになった。また我が国の内航船に対しても国内法が改正されたことにより、同様の規制が適用されるようになった。この規制にクリアしたディーゼルエンジンに対しては、NOx規制に適合していることを証明するEIAPP証書(国際大気汚染防止原動機証書)が発給される。上記規制の対象船舶は、原則として、EIAPP証書が発給されたディーゼルエンジンを搭載しなければならないことになっている。
【0005】
竣工後の船舶については、中間検査及び定期検査ごとにNOx規制に適合しているかどうかの検査が行われる。また、ポートステートコントロール(Port State Control)の観点から、入港時に行われる外航船に対する立入検査時にもNOx規制の適合性について検査される場合もある。一般に、この検査は船上で行われる。この検査方法は、大きく分けて2つある。一つはエンジンパラメータチェック法と呼ばれるもので、もう一つは船上でディーゼルエンジン運転中にNOxを実測する船上計測法である。
【0006】
エンジンパラメータチェック法とは、エンジンの構成部品及び各種の設定値がテクニカルファイル(原動機取扱手引書)に記載された事項を満足していることを検証する方法であり、実際にNOxの排出量を計測しなくてよい。これは、現状のディーゼルエンジンがテクニカルファイルの記載事項を満足していればNOx規制をクリアしていると見なす検査方法である。テクニカルファイルには、NOxテクニカルコードに規定されたNOx排出量に影響をおよぼす構成部品とその部品の識別番号(例えばパーツナンバー)とが記載されており、エンジンパラメータチェック法では、対象船舶に搭載されているディーゼルエンジンの上記構成部品がテクニカルファイルに記載されたものと一致しているかどうか、検査前の部品交換の履歴が記録されたエンジンパラメータ記録簿の内容を調査して交換が適切に行われているかどうか、などを検証する。従来、この検証は、ディーゼルエンジンに組み込まれた上記構成部品に記されている刻印番号とテクニカルファイルに記載されたパーツナンバーとを照合することにより行われる。
【0007】
船上計測法は、上述したように、実際のNOxの排出量を船上で計測する方法であるが、この方法では、ディーゼルエンジンの実際のNOx排出量を測定し、その加重平均値を算出するという面倒な作業を伴う。そのため、一般的には、NOxの検査においては手間のかからないエンジンパラメータチェック法が用いられており、船主や機関エンジニアもエンジンパラメータチェック法による検証を強く望んでいる。
【0008】
しかしながら、書類の不備などが原因で、テクニカルファイルの記載事項を満足しない場合がある。例えば、エンジンパラメータ記録簿への記録ミスがあった場合や、物理的に取付互換性があるものの異なるパーツナンバーの部品が誤って取り付けられた場合は、パーツナンバーが一致しないため、テクニカルファイルの記載事項を満足しなくなる。また、船主の意に反して刻印の無い模倣品が取り付けられていた場合は、そもそもパーツナンバーの確認ができないため、テクニカルファイルの記載事項を満たさない。このような場合は、NOx排出量を増加させる可能性のある部品が使用されていると見なされて、テクニカルファイルに記載の構成部品に交換することを強いられるか、上記船上計測法による検査方法を強いられる。また、テクニカルファイルに記載のパーツナンバーと同じパーツナンバーが刻印された模倣品が船主の意に反して取り付けられていた場合は、パーツナンバーは一致するから検査にはパスすることになる。しかしながら、仮に一時的に検査をパスしたとしても、テクニカルファイルの記載事項を満たさないことが事後的に判明した場合は、運行禁止などの厳しい処置を受けることになりかねない。また、多くの模倣品が正規品よりも劣悪であることからすると、模倣品が使用されることによって、エンジンの性能低下、寿命の低下、更に場合によってはエンジン破損にいたるおそれがある。このように、船舶用などに用いられるディーゼルエンジンなどの数百〜数千kW級の大型内燃機関については、上述の種々の事情があるため、内燃機関に取り付けられている構成部品の識別情報(パーツナンバー等)を正確に取得する必要性が極めて高い。なお、上述したエンジン性能低下といった問題は、船舶用の内燃機関に限られず、陸上において常用又は非常用の発電機用として使用される内燃機関にも生じ得る問題である。
【0009】
そこで、前掲の特許文献1及び2に記載の従来の手段を上記内燃機関に適用することが考えられる。これにより、内燃機関の構成部品のパーツナンバー等の識別情報を正確に取得することが可能である。しかしながら、上述の従来の手段で用いられているICタグは、通信距離の短いパッシブタイプのものや電池内蔵のアクティブタイプのものであるから、内燃機関の構成部品に従来の手段を適用すると、以下の不都合が生じ得る。例えば、前者のパッシブタブを大型の内燃機関に適用した場合は、通信距離が短いので複数の構成部品から一度にまとめて情報を得ることができない。一方、後者のアクティブタブを大型の内燃機関に適用した場合は、内部の電池の寿命を構成部品の寿命よりも長くしなければならず、その結果、大型の電池を設けなければならなくなり、実質的に構成部品に取り付けることはできない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、小型ながら長時間の電力供給が可能であり、しかも長距離の通信が可能に構成された内燃機関の構成部品の識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) 本発明は、内燃機関の構成部品の識別装置として構成されており、内燃機関に対して交換可能に取り付けられた複数の構成部品それぞれに設けられた複数の無線タグユニットと、上記複数の無線タグユニットそれぞれから発信される上記構成部品の識別情報を受信可能な受信ユニットとを備えている。この識別装置において、上記無線タグユニットは、上記内燃機関の運転時に発生する振動エネルギーを受けて発電する振動発電素子と、上記構成部品の識別情報を記憶する記憶部と、上記振動発電素子で生成された電力を受けて起動されて上記記憶部の識別情報を無線通信によって発信する通信制御部とが一体に構成されたものである。上記受信ユニットは、上記複数の無線タグユニットから発信される複数の上記識別情報をまとめて受信することにより各構成部品を個別に識別するよう構成されたものである。
【0012】
内燃機関の運転中は内燃機関が振動する。無線タグユニットには振動発電素子が組み込まれているから、内燃機関の振動エネルギーが振動発電素子に伝わると、振動発電素子は発電し、その電力を受けて無線タグユニットが起動する。無線タグユニットは、自らで発電した電力で情報発信用の比較的強い電波を生成できる。この電波に乗せて上記記憶部から読み出された上記構成部品に関する識別情報を無線通信によって発信する。そのため、従来のパッシブタグよりも通信距離を長くすることができる。一方、上記無線タグユニットは、アクティブタグのように内部に電池を設けなくても良い。船舶に搭載される主機用又は補機用のディーゼルエンジンは20年〜30年も使用されるため、その長寿命にアクティブタグで対応しようとすると、蓄電量の大きな大型の蓄電池を組み込む必要があり、そうなるとアクティブタグを内燃機関の構成部品に設けることは実質的に不可能となる。しかし、上記無線タグユニットであれば、振動発電素子が発電するため、蓄電量の大きな蓄電池を設ける必要がなく、コンパクトな形状を実現することができる。
【0013】
(2) また、本発明は、内燃機関の構成部品の識別装置として構成されており、内燃機関に対して交換可能に取り付けられた複数の構成部品それぞれに設けられた複数の無線タグユニットと、上記複数の無線タグユニットそれぞれから発信される上記構成部品の識別情報を受信可能な受信ユニットとを備えている。この識別装置において、上記無線タグユニットは、上記内燃機関の運転時に発生する熱エネルギーを受けて発電する熱発電素子と、上記構成部品の識別情報を記憶する記憶部と、上記熱発電素子で生成された電力を受けて起動されて上記記憶部の識別情報を無線通信によって発信する通信制御部とが一体に構成されたものである。上記受信ユニットは、上記複数の無線タグユニットから発信される複数の上記識別情報を受信して各構成部品を上記識別情報に基づいて個別に識別するものである。
【0014】
このように無線タグユニットに熱発電素子が組み込まれたものであっても、従来のパッシブタグよりも通信距離を長することができ、且つ、アクティブタグのように無線タグユニットの内部に電池を設けなくてもよいから、コンパクトな形状を実現することができる。
【0015】
(3) 上記受信ユニットは、上記内燃機関の起動直後に上記無線タグユニットから発信された最初の上記識別情報を受信すると、その受信日時とともに当該識別情報を蓄積記憶するものである請求項1又は2に記載の内燃機関の構成部品の識別装置。
【0016】
内燃機関が停止しているときは振動や熱が生じないため、振動発電素子や熱発電素子からの電力供給がストップして無線タグユニットは停止する。内燃機関が起動されると振動及び熱が発生し、振動発電素子或いは熱発電素子が発電する。これら発電素子から電力が供給されることによって無線タグユニットが駆動する。無線タグユニットは、この無線タグユニットが設けられている構成部品に関する識別情報を電波に乗せて発信する。言うまでもなく、内燃機関が再び停止すると、電力供給が途絶えるため、識別情報が発信されなくなる。つまり、この構成であれば、無線タグユニットは、内燃機関が起動されるたびに、その起動直後に構成部品の識別情報を発信する。受信ユニットは、内燃機関の起動直後に最初に送られてくる識別情報を受信すると、その受信日時とともに受信した上記識別情報を蓄積記憶する。なお、識別情報は、無線タグユニットの駆動中に連続的に送信されてもよく、或いは、無線タグユニットが起動した直後に1回だけ発信されてもよい。また、受信ユニットは、識別情報を常に受信できるように待機していてもよく、或いは、内燃機関の起動直後だけ受信待機していてもよい。
【0017】
一般に、内燃機関が運転中のときに構成部品が交換されることはなく、内燃機関が停止しているときに構成部品が交換される。したがって、内燃機関の起動直後に受信した識別情報と、停止直前の内燃機関に組み込まれた構成部品の識別情報(例えば刻印されたパーツナンバー)とは一致している。そのため、内燃機関の起動直後に受信した識別情報と受信した日時を所定の記憶媒体に蓄積記憶しておけば、交換前後の構成部品の識別情報がその交換時期とともに管理され得る。このような識別情報に関するデータがあれば、例えば船舶用のディーゼルエンジンに対してNOx規制に関するエンジンパラメータチェック法による検査が行われても、従来ような記録ミスや取り付け間違いなどといった人的ミスが生じ無くなる。これにより、エンジンパラメータチェック法による検査時に、上述の人的にミスに起因して、テクニカルファイルの記載事項を満たさないという事態が生じなくなる。
【0018】
(4) 上記受信ユニットは、上記内燃機関が起動されてから一定時間経過後に上記無線タグユニットから発信された最初の上記識別情報を受信したときに、その受信日時とともに当該識別情報を蓄積記憶するものであってもよい。
【0019】
内燃機関の起動直後は、内燃機関が温まっておらず運転が不安定な場合があり、振動発電素子或いは熱発電素子が安定して発電できない場合がある。このため、内燃機関が安定な運転になるまでの一定期間が経過した後に発信された最初の上記識別情報が最も信頼性があり、したがって、この識別情報の蓄積データが最も信頼性が高い。
【0020】
(5) 上記構成部品は、上記内燃機関の運転時に排出されるNOxの排出量に影響をおよぼすものである。このような構成部品の具体例としては、シリンダヘッド、ピストン、過給機、空気冷却器、カムシャフト、燃料噴射ポンプ、燃料噴射ポンププランジャ、燃料噴射弁、及び燃料噴射弁ノズルが該当する。これらの構成部品は、NOxテクニカルコードにおいて、NOx排出量に影響をおよぼす構成部品として規定されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、振動エネルギーで発電する振動発電素子が無線タグユニットに組み込まれており、その振動発電素子が発電した電力によって発信用の強い電波が生成されるので、従来のパッシブタグよりも通信距離を長くすることができる。また、アクティブタグのように大容量の蓄電池を必要としないため、安価でコンパクトな形状の識別装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、船舶用のディーゼルエンジン10の構成を模式的に示す側面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る部品監視装置30の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、部品監視装置30の受信端末装置45で実行される照合処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態に係る部品監視装置30(本発明の識別装置の一例)について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明が具体化された単なる一例であり、本実施形態は本発明の要旨を変更しない範囲で変更可能である。
【0024】
部品監視装置30は、図1に示されるディーゼルエンジン10(本発明の内燃機関の一例)に適用されるものである。ディーゼルエンジン10(以下「エンジン10」と略称する。)は、複数の気筒が直列又は並列に配置されたものであり、主として、気筒数と同数のシリンダ(不図示)と、シリンダの上部に配置されたシリンダヘッド16と、シリンダに沿って鉛直方向へ往復運動可能に支持されたピストン11と、出力軸15に連結されたクランク軸12と、各ピストン11の往復運動をクランク軸12の回転運動に変えるためのコンロッド13と、シリンダの吸排気バルブを開閉するためのカムを備えたカムシャフト(不図示)と、シリンダへ空気を強制的に送り込む過給機14と、過給機14からシリンダへ送り込まれた空気を冷却するための空気冷却器(不図示)と、シリンダ内に燃料を供給する燃料噴射ポンプ(不図示)とから構成されている。シリンダヘッド16には燃料噴射弁及び燃料噴射弁ノズルが設けられており、燃料噴射ポンプは、カムシャフトのカムによってプランジャが駆動されると、燃料配管を通って燃料を燃料噴射弁へ圧送する。そして、燃料噴射弁の閉弁圧以上に燃料圧力が上昇すると、燃料噴射弁ノズルからシリンダ内へ燃料が噴霧される。
【0025】
このエンジン10は、船舶において発電用モータに回転力を供給する用途として使用されたり、船舶のプロペラ軸を回転させる用途として使用されるものであり、例えば、機関出力が数百kW〜数千kWの大型のディーゼルエンジンである。
【0026】
図2は、部品監視装置30の概略構成を示す図である。図2に示されるように、部品監視装置30は、無線タグユニット35(本発明の無線タグユニットの一例)と、受信端末装置45(本発明の受信ユニットの一例)とを備えている。なお、図2では、シリンダヘッド16に埋め込まれた無線タグユニット35が示されているが、他の構成部品に埋め込まれた無線タグユニット35も同様に構成されている。
【0027】
(無線タグユニット35)
無線タグユニット35は、エンジン10を構成する構成部品に埋め込まれている。具体的には、無線タグユニット35は、シリンダヘッド16、ピストン11、過給機14、カムシャフト(不図示)、燃料噴射ポンプ(不図示)、燃料噴射ポンプのプランジャ(不図示)、燃料噴射弁(不図示)、燃料噴射弁ノズル(不図示)に埋め込まれるようにして設けられている。これらの各構成部品は、エンジン10に対して交換可能に構成されたものであり、例えば、一定期間が経過したときや、或いは不具合が生じたときに交換される。これらの構成部品は、NOx排出量に影響をおよぼす構成部品としてNOxテクニカルコードに規定されたものである。
【0028】
図2に示されるように、無線タグユニット35は、小型のCPUなどの制御部37(本発明の通信制御部の一例)と、メモリ39(本発明の記憶部の一例)と、蓄電素子40と、振動発電素子38(本発明の振動発電素子の一例)と、受信端末装置45との間で無線通信するためのアンテナ41とを備える。これらの電子部品は、樹脂ケースに収納されている。
【0029】
振動発電素子38は、所謂環境振動を利用して発電するものである。本実施形態では、振動発電素子38は、エンジン10の運転時に発生する振動エネルギーを受けて電力を発生する。振動発電素子38は、所謂静電誘導タイプのものである。振動エネルギーを利用して発電する素子としては、振動発電素子38のような静電誘導タイプのほかに、電磁誘導タイプのものや圧電タイプのものが知られている。振動発電素子38のような静電誘導タイプの発電素子は、例えば特開2010−136598号公報に記載されているように従来から公知にものであるため、その構造に関する詳細な説明は省略する。なお、振動発電素子38に代えて、エンジン10の運転時に発生する熱エネルギーを受けて発電する熱発電素子を用いてもかまわない。
【0030】
蓄電素子40は、電荷を蓄積するものであり、例えばコンデンサや蓄電池である。この蓄電素子40は、振動発電素子38の発電停止時の電力源として用いられる。本実施形態では、エンジン10の停止時に無線タグユニット35を必ずしも駆動させる必要はない。そのため、大容量の蓄電素子40を必要としない。また、発電により無線タグユニット35を駆動させるに十分な電流が供給されるのであれば、蓄電素子40が設けられてなくてもかまわない。
【0031】
メモリ39には、無線タグユニット35が埋め込まれている構成部品のパーツナンバー(本発明の識別情報に相当)、その構成部品の製造年月日、その構成部品の保管場所の履歴情報、その構成部品の工場出荷日などの部品固有情報が格納されている。
【0032】
このように構成された無線タグユニット35では、エンジン10の振動によって振動発電素子38が発電すると、蓄電素子40を経て必要な電力が制御部37に供給される。これにより、制御部37が起動し、無線タグユニット35の全体が駆動される。制御部37が起動すると、無線通信に必要な所定周波数の電波を生成するとともに、メモリ39から読み出した上記部品固有情報を上記電波に乗せて、アンテナ41から無線通信によって発信する。振動が停止して振動発電素子38が発電しなくなり、蓄電素子40の電荷が無くなると、無線タグユニット35が停止する。
【0033】
(受信端末装置45)
図2に示されるように、受信端末装置45は、CPUなどの制御部47と、ROM48と、RAM49と、HDDなどの大容量記憶媒体であるデータ記憶部50と、キーボードなどの入力部51と、液晶ディスプレイなどのモニタ52と、外部との通信を行う通信I/F53と、無線タグユニット35との間で無線通信するためのアンテナ54とを備えるコンピュータ(電子計算機)である。受信端末装置45の具体例としては、例えば、エンジン10に搭載された制御装置や、エンジン10の監視装置などに設置されたパーソナルコンピュータなどが該当する。また、受信端末装置45は、これら制御装置やパーソナルコンピュータのスロットに装着可能な電気回路ボードであってもよい。
【0034】
受信端末装置45は、エンジン10の構成部品に埋め込まれた全ての無線タグユニット35から発信される電波をキャッチできる領域内に配置されている。無線タグユニット35からの電波をキャッチすると、制御部47は電波に含まれる上記部品固有情報を取得し、データ記憶部50に記憶する。このとき、受信端末装置45が受信した上記部品固有情報がデータベース化されてデータ記憶部50に蓄積記憶される。上記部品固有情報は、受信端末装置45で受信された日時が関連付けられた状態でデータ記憶部50に格納される。ユーザは、入力部51を用いて受信端末装置45を操作することにより、データ記憶部50に記憶された部品固有情報をモニタ52で閲覧したり、図示しないプリンタなどに出力したりすることができる。
【0035】
データ記憶部50には、プログラム記憶領域が割り当てられており、この記憶領域に、後述する照合処理を実行するためのプログラムが格納されている。また、ROM48には、エンジン10のテクニカルファイルに記載されているパーツリスト(各構成部品のパーツ名称及びナンバーが記載されたリスト)や、無線タグユニット35が埋め込まれた構成部品に関する情報が格納されている。
【0036】
(照合処理)
以下、図3に示されるフローチャートを参照しながら、受信端末装置45の制御部47によって実行される照合処理の手順の一例について説明する。図3中のS1、S2、・・・は処理手順の番号を示す。当該照合処理は、図3中のステップS1から開始される。
【0037】
ステップS1において、制御部47は、エンジン10が起動されたかどうかを判定する。かかる判定は、例えば、エンジン10に取り付けられた速度センサの出力信号に基づいて、エンジン回転数が定格回転数に到達したかどうかによって行われる。エンジン10が起動されたと判定されると、制御部47はアンテナ54を駆動させて、受信端末装置45を受信可能な状態(受信待機状態)にする(S2)。
【0038】
エンジン10が起動されて回転し始めると、エンジン10に振動が発生する。エンジン10の各構成部品に埋め込まれた無線タグユニット35では、振動発電素子38がこの振動エネルギーを受けて発電し、蓄電素子40に電荷を貯めつつ、制御部37に電力を供給する。これにより、全ての無線タグユニット35が駆動して、無線通信に必要な所定周波数の電波を生成するとともにメモリ39から読み出した部品固有情報を上記電波に乗せて、アンテナ41から無線通信によって発信する。
【0039】
ステップS3では、制御部47は、無線タグユニット35から発信される電波をキャッチして、全ての部品固有情報を受信したかどうかを判定する。具体的には、無線タグユニット35が埋め込まれた構成部品に関する情報がROM48に格納されており、制御部37は、受信した部品固有情報とROM48内の情報とを比較することにより、全ての部品固有情報を受信したがどうかを判定する。ここで、全ての部品固有情報が受信されたと判定された場合は、制御部37は、部品固有情報に含まれるパーツナンバーと、ROM48に記憶されたパーツリストのパーツナンバーとを照合する(S6)。
【0040】
一方、ステップS3で、一部の部品固有情報を受信できなかった場合は、制御部37は、未受信の構成部品を特定し(S4)、その構成部品の部品固有情報を受信できなかったことを示すエラーメッセージをモニタ52等に外部出力するとともに、データ記憶部50に受信日時ともに記憶する(S5)。その後、制御部37は、受信できた部品固有情報に含まれるパーツナンバーと、ROM48に記憶されたパーツリストのパーツナンバーとを照合する(S6)。なお、部品固有情報を受信できないケースとしては、本来、無線タグユニット35を有する構成部品が組み付けられていなければならないところに無線タグユニット35を有さない構成部品が取り付けられているケースが考えられる。例えば、無線タグユニット35を有する構成部品を正規品とすると、その正規品が、正規品の提供者以外の者が提供する模倣品に交換されたケースが具体的な事例として挙げられる。
【0041】
ステップS6の照合処理が終了すると、次のステップS7では、制御部37は、パーツナンバーの不一致があったかどうかを判定する。ここで、全てのパーツナンバーが一致していると判定された場合は、次のステップ9において、制御部37は、受信した部品固有情報と受信日時とをデータ記憶部50に記憶して、データベース管理する。
【0042】
一方、ステップS7でパーツナンバーの不一致があった場合は、不一致のパーツナンバーがあったこと及びそのパーツナンバーを示すエラーメッセージをモニタ52等に外部出力するとともに、データ記憶部50に受信日時ともに記憶する(S8)。その後、制御部37は、一致していた部品固有情報と受信日時とをデータ記憶部50に記憶して、データベース管理する(S9)。なお、パーツナンバーが不一致となるケースとしては、無線タグユニット35を有する構成部品ではあるが取り付け互換性を有する異なる部品が取り付けられていたケースや、或いは、正規品のパーツナンバーとは異なるパーツナンバーの無線タグユニット35が埋め込まれた模倣品が取り付けられていたケースが考えられる。
【0043】
上述したように、本実施形態では、無線タグユニット35に振動発電素子38が組み込まれているから、エンジン10の振動エネルギーによって振動発電素子38が発電し、その電力を受けて無線タグユニット35が起動する。無線タグユニット35は、自らで発電した電力で生成した比較的強い電波にメモリ39内の部品固有情報を乗せて無線通信によって発信する。そのため、従来の無線タグよりも、長い通信距離を実現することができる。しかも、蓄電量の大きな蓄電池を設ける必要がないから無線タグユニット35をコンパクトにすることができる。
【0044】
また、図3の照合処理が行われることによって、受信できなかった部品固有情報がある場合はその旨がデータ記憶部50に記憶され、パーツナンバーが一致しなかった場合は不一致である旨がデータ記憶部50に記憶される。もちろん、パーツナンバーが一致する場合は部品固有情報がデータ記憶部50に記憶される。このため、エンジン10のエンジンパラメータ記録簿として、現在取り付けられている構成部品の情報や過去に取り付けられていた構成部品の情報などがデータベース管理されるので、記録ミスといった人的ミスが生じ無くなる。また、このデータベースを見れば、異なる部品に交換された場合や模倣品に交換された場合に、その事実及び交換日時が直ぐに把握できる。
【0045】
なお、上述の実施形態では、内燃機関の一例として、船舶に搭載される主機用又は補機用のエンジン10を例示したが、船舶用の内燃機関に限られず、工場や離島などで常用又は非常用として使用される発電機用の大型のディーゼルエンジンやガスエンジン又はガスタービンであっても、これらの構成部品に対して本発明は適用可能である。
【0046】
10:ディーゼルエンジン
30:部品監視装置
35:無線タグユニット
37:制御部
38:振動発電素子
39:メモリ
40:蓄電素子
41:アンテナ
45:受信端末装置
47:制御部
48:ROM
49:RAM
50:データ記憶部
51:入力部
52:モニタ
53:通信I/F
54:アンテナ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に対して交換可能に取り付けられた複数の構成部品それぞれに設けられた複数の無線タグユニットと、
上記複数の無線タグユニットそれぞれから発信される上記構成部品の識別情報を受信可能な受信ユニットと、を備え、
上記無線タグユニットは、上記内燃機関の運転時に発生する振動エネルギーを受けて発電する振動発電素子と、上記構成部品の識別情報を記憶する記憶部と、上記振動発電素子で生成された電力を受けて起動されて上記記憶部の識別情報を無線通信によって発信する通信制御部とが一体に構成されたものであり、
上記受信ユニットは、上記複数の無線タグユニットから発信される複数の上記識別情報を受信して各構成部品を上記識別情報に基づいて個別に識別するものである内燃機関の構成部品の識別装置。
【請求項2】
内燃機関に対して交換可能に取り付けられた複数の構成部品それぞれに設けられた複数の無線タグユニットと、
上記複数の無線タグユニットそれぞれから発信される上記構成部品の識別情報を受信可能な受信ユニットと、を備え、
上記無線タグユニットは、上記内燃機関の運転時に発生する熱エネルギーを受けて発電する熱発電素子と、上記構成部品の識別情報を記憶する記憶部と、上記熱発電素子で生成された電力を受けて起動されて上記記憶部の識別情報を無線通信によって発信する通信制御部とが一体に構成されたものであり、
上記受信ユニットは、上記複数の無線タグユニットから発信される複数の上記識別情報を受信して各構成部品を上記識別情報に基づいて個別に識別するものである内燃機関の構成部品の識別装置。
【請求項3】
上記受信ユニットは、上記内燃機関の起動直後に上記無線タグユニットから発信された最初の上記識別情報を受信すると、その受信日時とともに当該識別情報を蓄積記憶するものである請求項1又は2に記載の内燃機関の構成部品の識別装置。
【請求項4】
上記受信ユニットは、上記内燃機関が起動されてから一定時間経過後に上記無線タグユニットから発信された最初の上記識別情報を受信すると、その受信日時とともに当該識別情報を蓄積記憶するものである請求項1又は2に記載の内燃機関の構成部品の識別装置。
【請求項5】
上記構成部品は、上記内燃機関の運転時に排出されるNOxの排出量に影響をおよぼすものであり、シリンダヘッド、ピストン、過給機、空気冷却器、カムシャフト、燃料噴射ポンプ、燃料噴射ポンププランジャ、燃料噴射弁、及び燃料噴射弁ノズルのいずれかである請求項1から4のいずれかに記載の内燃機関の構成部品の識別装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−79581(P2013−79581A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218800(P2011−218800)
【出願日】平成23年10月1日(2011.10.1)
【出願人】(390033042)ダイハツディーゼル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】