説明

内燃機関の燃料供給系異常診断装置

【課題】アルコール濃度学習値が本来の値から大きく乖離してしまうことを抑制するとともに、濃度学習処理の長期化によって燃料供給系の異常診断処理の実行期間が不必要に制限されることを回避して燃料供給系に異常が発生している場合にはこれを早期に診断することのできる内燃機関の燃料供給系異常診断装置を提供する
【解決手段】給油が判定された後の流入積算量が、デリバリパイプ4に燃料タンク1の燃料が供給され始める量に達してから、デリバリパイプ4の燃料が給油後の燃料に置換される量に達するまでの期間を濃度学習期間とし、同期間に限定して濃度学習処理を実行する。また、濃度学習期間を除く期間における実空燃比と理論空燃比との乖離傾向に基づいて燃料供給系の異常診断処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガソリンに対して任意の割合でアルコールを含有させた燃料を使用可能な内燃機関の燃料供給系異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に内燃機関では、内燃機関の実空燃比が理論空燃比と一致するように燃料噴射弁の燃料噴射量を補正する空燃比フィードバック制御が実行されている。こうした空燃比フィードバック制御のもとで内燃機関の燃料供給系に何らかの異常が発生すると、必要な量の燃料を内燃機関に適切に供給することが困難となる。その結果、空燃比フィードバック制御ではこれを補償するように燃料噴射量が補正されるため、その補正度合いが過度に大きくなったことに基づいて燃料供給系の異常診断処理をすることが可能である。
【0003】
ところで近年、ガソリンに対して任意の割合でアルコールを含有させた燃料を使用可能な内燃機関が注目されている。こうした内燃機関では、燃料に含まれるアルコール濃度によって理論空燃比が異なるため、そのアルコール濃度に応じて燃料噴射量を制御することが求められる。そこで、給油後において、燃料に含まれるアルコールの濃度を示す濃度学習値を更新するようにした内燃機関の制御装置が知られている。例えば特許文献1に記載される制御装置では、燃料タンクに給油がなされた旨判定すると、その給油後において生じる実空燃比と理論空燃比との乖離が燃料のアルコール濃度変化に起因するものであると判断し、上記実空燃比が理論空燃比に収束するまでの期間、その乖離傾向に基づいてアルコール濃度学習値を更新する濃度学習処理を実行する。そして、こうして更新されたアルコール濃度学習値に応じて燃料噴射量を補正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−51063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、内燃機関の燃料供給系の異常診断処理を実行する燃料供給系異常診断装置において、上述したような濃度学習処理を併せて実行する場合には、アルコール濃度学習値の誤学習が懸念される。これは、アルコール濃度学習値の誤学習が生じると、この学習値から把握される理論空燃比と実際の理論空燃比とが乖離するため、空燃比フィードバック制御における燃料噴射量の補正度合いが本来の値とは異なるものとなり、これにより燃料供給系に異常が発生したと誤判定するといった不都合が生じるおそれがあるためである。
【0006】
こうしたアルコール濃度学習値の誤学習は、例えば濃度学習処理の実行期間が適切に設定されない場合に生じる。具体的には、上記特許文献1に記載のように、給油後において実際の空燃比が理論空燃比に収束するまで濃度学習処理を実行するようにした場合には、濃度学習処理の実行中に、例えば燃料供給系の異常に基づく空燃比センサの出力値の変化が生じたときに、この濃度学習処理の実行期間が不要に長くなる場合がある。その結果、アルコール濃度学習値は、燃料供給系の異常に起因する実空燃比と理論空燃比との乖離をも補償する値として更新されることとなり、アルコールの濃度変化に起因する実空燃比と理論空燃比との乖離を補償するといったその本来の値とは異なるものとなる。更にこのように濃度学習処理の実行期間が長期化すると、その分だけ異常診断処理の実行期間が制限されてしまうため、燃料供給系の異常を適切な時期をもって検出できないこととなる。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルコール濃度学習値が本来の値から大きく乖離してしまうことを抑制するとともに、濃度学習処理の長期化によって燃料供給系の異常診断処理の実行期間が不必要に制限されることを回避して燃料供給系に異常が発生している場合にはこれを早期に診断することのできる内燃機関の燃料供給系異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、燃料タンクのアルコール燃料を燃料圧送機構から供給通路を通じてデリバリパイプに圧送するとともに同デリバリパイプに接続された燃料噴射弁を通じて内燃機関に供給する燃料供給系を備え、同内燃機関の実空燃比が燃料のアルコール濃度に応じた理論空燃比と一致するように前記燃料噴射弁の燃料噴射量を補正する空燃比フィードバック制御を実行する空燃比フィードバック手段と、同制御を通じて求められる実空燃比と理論空燃比との乖離傾向に基づいて燃料噴射量を補正するためのアルコール濃度学習値を更新する濃度学習処理を実行する学習手段と、同乖離傾向に基づいて燃料供給系の異常診断処理を実行する異常診断手段とを有する内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、前記タンクに給油がなされたことを判定する給油判定手段と、給油がなされた旨の判定後に前記デリバリパイプに流入する燃料の流入積算量を算出する算出手段とを備え、前記学習手段は、給油が判定された後の前記流入積算量が、前記デリバリパイプに前記燃料タンクの燃料が供給され始める量に達してから同デリバリパイプの燃料が給油後の燃料に置換される量に達するまでの期間を濃度学習期間とし、同期間に限定して前記濃度学習処理を実行するものであり、前記異常診断手段は、前記濃度学習期間を除く期間における前記乖離傾向に基づいて前記異常診断処理を実行することを要旨とする。
【0009】
上記構成では、給油がなされた後にデリバリパイプに流入する燃料の流入積算量を算出し、その流入積算量によって濃度学習処理の実行期間を設定するようにしている。すなわち、この流入積算量が、給油後の燃料がデリバリパイプに供給され始める量に達したときを濃度学習処理の開始時期とする一方、デリバリパイプの燃料が給油後の燃料に置換される量に達したときを濃度学習処理の終了時期としている。このため、燃料のアルコール濃度変化による空燃比の変化が生じると想定される適切な期間をもって濃度学習処理を実行することができ、燃料供給系の異常に基づき空燃比が変化した場合であってもその影響を最小限に留めることができ、濃度学習処理が不必要に長期化するような事態を回避することができる。その結果、こうした濃度学習処理の長期化に起因してアルコール濃度学習値が本来の値から大きく乖離してしまうことを抑制することができるとともに、燃料供給系の異常診断処理の実行期間が制限されてしまうことを回避することができ、燃料供給系に異常が発生している場合にはこれを早期に診断できるようになる。
【0010】
ここで、デリバリパイプに流入する燃料の流入積算量については燃料圧送機構の燃料圧送量及び燃料噴射量のいずれか一方を選択的に積算することで算出することができる。すなわち、燃料圧送機構から圧送される燃料がすべてデリバリパイプに流入する場合には、その燃料圧送量を積算することで流入積算量を算出することができる一方、デリバリパイプから排出される燃料が燃料噴射量と同量となる場合には、その燃料噴射量を積算することで流入積算量を算出することができる。さらに、燃料供給系において、燃料圧送機構から圧送される燃料がすべて流入する状態とデリバリパイプから排出される燃料が燃料噴射量と同量となる状態とが適宜切り替えられる場合であれば、その状態に合わせたかたちで逐次積算する対象を燃料圧送量と燃料噴射量との間で切り替えることもできる。
【0011】
なお、「燃料供給系の異常」には、燃料噴射特性が本来の特性から大きく乖離するなどの燃料噴射弁の異常はもとより、デリバリパイプ等の燃料供給用配管の異常の他、燃料噴射量の設定に際して用いられる吸入空気量センサや実空燃比を検出する空燃比センサの異常も含まれる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、前記異常診断手段は、給油がなされた旨判定されてから前記濃度学習処理が開始されるまでの期間を前記異常診断処理の実行期間として含むことを要旨とする。
【0013】
給油がなされた場合であっても、濃度学習処理が開始されるまでの期間では、給油前の燃料が燃料噴射弁から内燃機関に供給される。この給油前の燃料については、前回の給油によって変化したアルコール濃度に応じて濃度学習値が既に更新されているため、上述した濃度学習処理が開始されるまでの期間においては、その更新されたアルコール濃度学習値に基づいて適宜補正された燃料噴射量をもって燃料供給が行われる。したがって、給油後であっても濃度学習処理が実行される前の期間であれば異常診断処理は実行可能であり、同期間に異常診断処理を実行することで異常診断処理の実行頻度を高めることができ、燃料供給系の異常を早期に検出できるようになる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、前記学習手段は、前記流入積算量が前記供給通路の容積以上になったことを条件とし、その条件が成立したときを前記濃度学習処理の開始時期である旨判定する開始時期判定手段を備えることを要旨とする。
【0015】
燃料タンクに給油がなされた場合であっても、その給油後の燃料がすぐにデリバリパイプに流入することはなく、まず初めは供給通路に残留している給油前の燃料がデリバリパイプに流入する。そして、この供給通路に残留している給油前の燃料がすべてデリバリパイプに流入した後に、給油後の燃料がデリバリパイプに流入するようになる。したがって、上記構成によるように、流入積算量が供給通路の容積以上となったときを濃度学習処理の開始時期である旨判定して同処理を開始することにより同濃度学習処理を適切な時期に開始することができるようになる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、前記学習手段は、前記流入積算量が前記供給通路の容積及び前記デリバリパイプの容積により定まる所定量以上になったことを条件とし、その条件が成立したときを前記濃度学習処理の終了時期である旨判定する終了時期判定手段を備えることを要旨とする。
【0017】
給油後においてデリバリパイプの燃料が給油後の燃料に置換されるまでに要する流入積算量は、供給通路の容積及びデリバリパイプの容積によって一義的に決定することができる。したがって、上記構成によるように、流入積算量が供給通路の容積及びデリバリパイプの容積により定まる所定量以上になったときを濃度学習処理の終了時期である旨判定して同処理を終了することにより同濃度学習処理を適切な時期に終了することができるようになる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、前記終了時期判定手段は前記流入積算量をΣQdel、前記供給通路の容積をVa及び前記デリバリパイプの容積をVbとしたとき、以下の条件が成立したときを前記濃度学習処理の終了時期として判定することを要旨とする。
【0019】

ΣQdel≧Va+Vb・α
α:2.5≦α≦3.5

ここで、本発明者は、デリバリパイプに給油後の燃料が流入され始めると、その後の流入積算量がデリバリパイプの容積の2.5〜3.5倍に達すれば同デリバリパイプの燃料が給油後の燃料に置換されるとの知見を実験により得た。したがって、上記構成によるように、供給通路の容積と、デリバリパイプの容積のα倍(2.5≦α≦3.5)の値とを加えた値まで流入積算量が達したときを濃度学習処理の終了時期である旨判定して同処理を終了することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、前記燃料圧送機構は、前記デリバリパイプに供給する燃料の圧力を高圧状態とこれよりも低い低圧状態とに少なくとも切り替え可能であることを要旨とする。
【0021】
アルコールの理論空燃比はガソリンの理論空燃比よりも小さいため、燃料のアルコール濃度が高くなるほど、同一の機関出力を確保するために必要な燃料噴射量は増大する。したがって、こうしたアルコールとガソリンとの混合燃料を使用可能な内燃機関の燃料供給系にあっては、ガソリンのみを燃料として使用する内燃機関の燃料供給系と比較して燃料噴射量を広範囲にわたって制御する必要が生じる。特に、アルコール濃度が高い燃料を使用している状況で機関出力の要求値が増大した場合には、それに見合う量の燃料を噴射することができなくなる。一方、燃料噴射圧を高めてこれに対応することもできるが、この場合には燃料噴射量が少ないときの燃料噴射時間が短くなるため、燃料噴射時間の制御精度を高める必要が生じることとなる。上記構成の燃料圧送機構は、デリバリパイプに供給する燃料の圧力を少なくとも低圧状態と高圧状態とに切り替え可能であるため、それに合わせて燃料噴射弁の噴射圧についても2段階に設定することができる。そのため、燃料噴射量を広範囲にわたって適切に制御することができるようになる。
【0022】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、前記燃料供給系は、前記デリバリパイプの余剰燃料を前記燃料タンクに戻すリターン通路と、同リターン通路に設けられて前記デリバリパイプの燃料圧力が所定の開弁圧以上であるときに開弁する調圧弁とを備え、前記燃料圧送機構は、前記供給通路を通じて前記燃料タンクの燃料を前記デリバリパイプに供給する燃料ポンプと、前記供給通路において前記燃料ポンプよりも下流側に接続されるとともに同供給通路の燃料を前記燃料タンクに戻すリリーフ通路と、同リリーフ通路と前記供給通路との連通状態を切り替える切替弁とを含み、前記切替弁を開弁状態とし前記リリーフ通路を通じて前記供給通路の燃料を前記燃料タンクに戻すことで前記デリバリパイプの燃料圧力を前記低圧状態に設定する一方、前記切替弁を閉弁状態とし前記調圧弁を開弁させて前記デリバリパイプの余剰燃料を前記リターン通路を通じて前記燃料タンクに戻すことで前記デリバリパイプの燃料圧力を前記高圧状態に設定するものであり、前記算出手段は、前記切替弁の開弁時には前記燃料噴射弁の燃料噴射量に基づき前記流入積算量を算出する一方、前記切替弁の閉弁時には前記燃料ポンプの燃料圧送量に基づき前記流入積算量を算出することを要旨とする。
【0023】
上記構成にあっては、切替弁が開弁状態にあってリリーフ通路を通じて燃料が燃料タンクへ戻されるときには、燃料ポンプから圧送される燃料の一部がデリバリパイプに流入するとともに、同デリバリパイプに流入した燃料は全て燃料噴射弁から内燃機関に供給される。一方、切替弁が閉弁状態にあってリターン通路を通じてデリバリパイプの余剰燃料が燃料タンクへ戻されるときには、燃料ポンプから圧送される燃料は全てデリバリパイプに流入するとともに、同デリバリパイプに流入した燃料の一部が燃料噴射弁から内燃機関に供給される。したがって、上記構成のように、切替弁の開弁時には燃料噴射弁の燃料噴射量に基づき流入積算量を算出する一方、切替弁の閉弁時には燃料ポンプの燃料圧送量に基づき流入積算量を算出することにより、デリバリパイプへの流入積算量を適切に算出することができる。これにより、濃度学習処理の実行期間を適切に設定することができるようになる。
【0024】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、前記燃料圧送機構は、給油がなされた旨の判定後から前記濃度学習期間が経過するまで前記デリバリパイプの燃料圧力を前記高圧状態に維持することを要旨とする。
【0025】
同構成では、給油がなされた旨の判定後に、デリバリパイプの燃料圧力を高圧状態に設定しリターン通路を通じてデリバリパイプの余剰燃料を燃料タンクに戻すようにしているため、デリバリパイプの燃料が給油後の燃料に置換されるまでに要する時間、換言すれば濃度学習処理の実行期間を短く設定することができるため、この濃度学習処理の実行期間において、燃料供給系の異常に基づき空燃比センサの出力値が変化する機会をより低減させることができ、これによりアルコール濃度学習値が誤学習されることをより抑制することができるようになる。さらに、異常診断処理の実行期間を長く設定することができるため、燃料供給系の異常をより早期に診断することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる内燃機関の燃料供給系異常診断装置を具体化した第1の実施形態の燃料供給系異常診断装置及びその診断対象である燃料供給系の構成図。
【図2】同実施形態における濃度学習処理の実行期間を設定するための期間設定処理についてその処理手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態における濃度学習処理の処理手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態における空燃比学習処理の処理手順を示すフローチャート。
【図5】同実施形態における異常診断処理の処理手順を示すフローチャート。
【図6】濃度学習処理、及び異常診断処理の各実行期間の設定態様並びに空燃比学習値及び濃度学習値の推移を示すタイミングチャート。
【図7】第2の実施形態の燃料供給系異常診断装置及びその診断対象である燃料供給系の構成図。
【図8】同実施形態における濃度学習処理の実行期間を設定するための期間設定処理についてその処理手順を示すフローチャート。
【図9】第3の実施形態における濃度学習処理の実行期間を設定するための期間設定処理についてその処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1の実施形態)
以下、図1〜図6を参照して、本発明にかかる内燃機関の燃料供給系異常診断装置(以下、診断装置)を具体化した第1の実施形態について説明する。
【0028】
図1は、燃料供給系異常診断装置及びその診断対象である内燃機関の燃料供給系を示している。この内燃機関は、ガソリンに対して任意の割合でアルコール(具体的にはエタノール)を含有させた燃料を使用可能なV型多気筒内燃機関である。
【0029】
燃料タンク1には、その内部に貯留された燃料を圧送する電動式の燃料ポンプ2と、燃料の残量を検出する燃料レベルゲージ21とが設けられている。また、燃料ポンプ2から吐出された燃料を一対のデリバリパイプ4に移送する供給通路3には、同供給通路3の燃料の一部を燃料タンク1に戻すリリーフ通路6が接続されている。このリリーフ通路6において燃料タンク1に開放されている端部には、供給通路3及びリリーフ通路6の燃料圧力が所定の低圧PL以上であるときに開弁する低圧プレッシャレギュレータ8が設けられている。また、リリーフ通路6において低圧プレッシャレギュレータ8の上流側部位には、同リリーフ通路6と供給通路3との連通状態を切り替える電磁駆動式の切替弁7が設けられている。
【0030】
上記供給通路3は、デリバリパイプ4の一方に形成された燃料流入口4aに接続されている。これらデリバリパイプ4には、燃料を噴射してこれを内燃機関の各気筒に供給する複数の燃料噴射弁5がそれぞれ接続されている。また、デリバリパイプ4の他方の端部4bには、同デリバリパイプ4の余剰燃料を燃料タンク1に戻すリターン通路10が接続されている。また、このリターン通路10には、デリバリパイプ4の燃料圧力が所定の高圧PH以上であるときに開弁する高圧プレッシャレギュレータ9が設けられている。この高圧プレッシャレギュレータ9は、デリバリパイプ4の燃料圧力、換言すれば燃料噴射弁5の燃料噴射圧を所定の高圧PHに調圧する調圧弁として機能する。上述した所定の低圧PL及び所定の高圧PHは、使用される燃料がガソリン100%であるときからアルコール濃度が最高濃度(例えば85%)であるときまで燃料噴射量を広範囲にわたって適切に制御するうえで適切な燃料噴射圧が得られるように設定されている。
【0031】
なお、燃料ポンプ2、リリーフ通路6、切替弁7、及び低圧プレッシャレギュレータ8は、燃料タンク1のアルコール燃料を供給通路3を通じてデリバリパイプ4に圧送する燃料圧送機構30としての機能を有している。
【0032】
燃料噴射弁5及び燃料圧送機構30を総括的に制御する電子制御装置20には、上述した燃料レベルゲージ21の他、吸入空気量を検出するエアフロメータ22、機関回転速度を検出する回転速度センサ23、内燃機関の排気通路に設けられて同内燃機関の空燃比に応じた信号を出力する空燃比センサ24等が接続されている。そして、電子制御装置20は、演算ユニット(CPU)をはじめ、各種制御プログラムや演算マップ、制御の実行に際して算出されるデータ等を記憶保持する複数のメモリ20aを備えている。なお、メモリ20aの一部は、図示しないバッテリにより電力が供給されることにより機関停止中においてもその記憶された情報を保持するバックアップメモリとして機能する。電子制御装置20は、これらセンサの検出信号をそれぞれ取り込み、それらの検出結果に基づいて空燃比フィードバック制御(燃料噴射制御)の他、切替弁7の開閉制御を実行する。
【0033】
この開閉制御において、例えば、内燃機関が高負荷高回転状態であり、且つ燃料のアルコール濃度が高いときには、必要とされる燃料噴射量が相対的に多くなるため、上記切替弁7を閉弁してデリバリパイプ4の燃料圧力を所定の高圧PHに調整する。すなわち、燃料圧送機構30によりデリバリパイプ4に供給される燃料の圧力が高圧状態となる。一方、内燃機関が低負荷低回転状態であり、且つ燃料のアルコール濃度が低いときには、必要とされる燃料噴射量が相対的に少なくなるため、上記切替弁7を開弁してデリバリパイプ4の燃料圧力を所定の低圧PLに調整する。すなわち、燃料圧送機構30によりデリバリパイプ4に供給される燃料の圧力が低圧状態となる。
【0034】
また、燃料噴射制御において、エアフロメータ22により検出される吸入空気量、すなわち機関負荷と、回転速度センサ23により検出される機関回転速度とに基づいて、ガソリンを噴射する場合を基準とした基本燃料噴射量QBASEが算出される。そして、この基本燃料噴射量QBASEが、後述するフィードバック補正値FAF、空燃比学習値KG及び燃料に含まれるアルコールの濃度に対応する濃度学習値EGにより補正され、最終的な燃料噴射量QFINが算出される(式(1)参照)。
【0035】

QFIN←QBASE・{(1.0+EG/100)・(1.0+(FAF+KG)/100)} …(1)
FAF:フィードバック補正値(%)
KG:空燃比学習値(%)
EG:濃度学習値(%)

ここで、フィードバック補正値FAFは0%をその基準値とし、空燃比フィードバック制御の実行中に空燃比AFと理論空燃比SAFとの乖離度合に応じて適宜設定される。すなわち、フィードバック補正値FAFは、空燃比AFが理論空燃比SAFよりもリッチであれば、そのリッチ度合に応じて小さい値に設定され、空燃比AFが理論空燃比よりもリーンであれば、そのリーン度合に応じて大きい値に設定される。なおここで、理論空燃比SAFとは、燃料が吸入空気に含まれる酸素によって完全燃焼するときの燃料に対する吸入空気の重量比である。
【0036】
また、燃料供給系、例えば燃料噴射弁5やエアフロメータ22について、その噴射特性や検出特性が経時的に変化したり、個体差が存在していたりした場合、空燃比フィードバック制御の実行中において理論空燃比SAFに対する空燃比AFの定常的な偏りが生じるようになる。こうした定常的な偏りを補正するため、フィードバック補正値FAFに基づいて、上述した空燃比学習値KGを更新する空燃比学習処理が電子制御装置20によって実行される。これにより、理論空燃比SAFよりもリッチ側又はリーン側に空燃比AFが定常的に偏る乖離傾向が生じた場合には、これを空燃比学習値KGによって補償することができるようになり、フィードバック補正値FAFをその基準値である0%近傍に戻すことができる。
【0037】
さらに、アルコール、すなわちエタノールの理論空燃比(約9.0)はガソリンの理論空燃比(約14.7)よりも小さいため、燃料のアルコール濃度が高くなるほど同燃料の理論空燃比SAFは小さくなる。そのため、燃料噴射弁5の燃料噴射量が同一であれば、アルコール濃度が高いときほど空燃比AFはリーン側に偏る傾向を示し、アルコール濃度が低いときほど空燃比AFはリッチ側に偏る傾向を示す。したがって、給油前に使用していた燃料と異なるアルコール濃度の燃料が燃料タンク1に給油されることに伴い、燃料噴射弁5から噴射される燃料のアルコール濃度が変化した場合には、空燃比AFがリッチ側又はリーン側に偏る傾向が生じることとなる。そこで、フィードバック補正値FAFに基づいて、これら空燃比AFと理論空燃比SAFとの乖離傾向を補償するための濃度学習値EGを更新する濃度学習処理が電子制御装置20によって実行される。
【0038】
ここで、こうした空燃比フィードバック制御のもとで内燃機関の燃料供給系に何らかの異常が発生すると、燃料噴射特性が大きく変化するため、必要な量の燃料を内燃機関に適切に噴射供給することが困難となる。そこで、電子制御装置20は、空燃比AFと理論空燃比SAFとの乖離傾向を示す空燃比学習値KGに基づいて燃料供給系の異常診断処理を実行するようにしている。なお、燃料供給系の異常とは、燃料噴射特性が本来の特性から大きく乖離するなどの燃料噴射弁5の異常はもとより、供給通路3、デリバリパイプ4等の燃料供給用配管の異常他、基本燃料噴射量QBASEの設定に際して用いられるエアフロメータ22や空燃比センサ24の異常も含まれる。
【0039】
ところで、上述したように、濃度学習処理と異常診断処理とは、いずれも空燃比AFと理論空燃比SAFとの乖離傾向に基づき実行されるため、濃度学習値EGの誤学習が懸念される。これは、濃度学習値EGの誤学習が生じると、濃度学習値EGから把握される理論空燃比SAFと実際の理論空燃比SAFとが乖離するため、空燃比フィードバック制御における燃料噴射量の補正度合いが本来の値とは異なるものとなって燃料噴射量QFINが適切に算出できなくなり、これにより燃料供給系に異常が発生したと誤判定するといった不都合が生じるおそれがあるためである。
【0040】
こうした濃度学習値EGの誤学習は、例えば濃度学習処理の実行期間が適切に設定されない場合に生じる。すなわち、燃料供給系の異常に起因して空燃比AFが変化しているときに濃度学習処理が実行されると、濃度学習値EGは、燃料供給系の異常に起因する空燃比AFと理論空燃比SAFとの乖離をも補償する値として更新されることとなり、アルコールの濃度変化に起因する空燃比AFと理論空燃比SAFとの乖離を補償するといった本来の値とは大きく異なるものとなる。また、濃度学習処理の実行期間が不適切に長く設定されると、その分だけ異常診断処理の実行期間が制限されてしまうため、燃料供給系の異常を適切な時期をもって検出できないこととなる。
【0041】
そこで、本実施形態では、図2に示す処理を実行することにより、濃度学習処理及び異常診断処理の各実行期間を設定するようにしている。同図に示す一連の処理は、内燃機関の始動後において電子制御装置20により所定の周期をもって繰り返し実行される。
【0042】
本処理が開始されると、まず、給油フラグFが「OFF」であるか否かが判定される(ステップS101)。本判定では、電子制御装置20のメモリ20aに記憶された給油フラグFを読み込むことにより判定される。
【0043】
そして、給油フラグFが「OFF」である旨判定される場合には(ステップS101:YES)、次に、給油がなされたか否かが判定される(ステップS102)。具体的には、燃料レベルゲージ21の出力値に基づき燃料タンク1の燃料が所定量以上増加した旨判定されたときに給油がなされた旨判定される。本ステップでの処理が給油判定手段により実行される処理に相当する。
【0044】
そして、給油がなされていない旨判定される場合には(ステップS102:NO)、燃料のアルコール濃度が変化されておらず濃度学習処理を実行することを要しないと判断することができるので本処理が終了される。その後は、空燃比センサ24の出力値に基づき空燃比フィードバック制御、空燃比学習制御、及び異常診断処理がそれぞれ実行される。
【0045】
一方、給油がなされた旨判定される場合には(ステップS102:YES)、給油フラグFが「ON」に設定されるとともに(ステップS103)、この給油フラグFの情報がメモリ20aに記憶される。
【0046】
続いて、切替弁7が閉弁され(ステップS104)、これによりデリバリパイプ4の燃料圧力PDが高圧状態に設定される。すなわち、切替弁7が閉弁されると、燃料ポンプ2から圧送される燃料はすべてデリバリパイプ4に流入する。そして、デリバリパイプ4の燃料圧力PDが所定の高圧PH以上に達すると(PD≧PH)高圧プレッシャレギュレータ9が開弁し、デリバリパイプ4の余剰燃料がリターン通路10を通じて燃料タンク1に戻される。これにより、デリバリパイプ4の燃料圧力PDが所定の高圧PHに調整され、高圧状態に設定される。
【0047】
こうして切替弁7が閉弁状態にあるときには、上述したように、燃料ポンプ2から圧送される燃料はすべてデリバリパイプ4に流入するため、続いて、給油後におけるデリバリパイプ4への燃料の流入積算量ΣQdelが、燃料ポンプ2の燃料圧送量(ポンプ吐出量Qp)を用いて次式(2)により算出される(ステップS105)。
【0048】

流入積算量ΣQdel←前回の流入積算量ΣQdel+ポンプ吐出量Qp …(2)

なお、上式(2)における前回の流入積算量ΣQdelは、前回の本ステップS105の処理実行時に算出した流入積算量ΣQdelであって、ポンプ吐出量Qpは、前回の処理実行時から今回の処理実行時までに燃料ポンプ2から圧送された燃料量である。本ステップS105の処理が算出手段により実行される処理に相当する。
【0049】
ところで、給油がなされた場合には、まず供給通路3に残留していた給油前の燃料が初めにデリバリパイプ4に流入するとともに、この給油前の燃料が燃料噴射弁5から内燃機関に供給される。そして、この供給通路3に残留していた給油前の燃料がすべてデリバリパイプ4に流入した後に、給油後の燃料がデリバリパイプ4に流入するとともに、デリバリパイプ4において給油前の燃料との置換が開始される。
【0050】
そこで、まず、算出された流入積算量ΣQdelが次式(3)の関係を満たすか否かが判定される(ステップS106)。

流入積算量ΣQdel≧供給通路容積Va …(3)

そして、本処理において肯定判定がなされる場合には(ステップS106:YES)、給油後の燃料がデリバリパイプ4に流入していると判断することができる。なお、上記ステップS102の判定処理において給油がなされた旨判定された後(ステップS102:YES)、上記ステップS106の判定処理において初めて肯定判定がなされる場合には(ステップS106:YES)、濃度学習処理の開始時期である旨判定される。このステップS106での判定処理が開始時期判定手段により実行される処理に相当する。
【0051】
続いて流入積算量ΣQdelが次式(4)の関係を満たすか否かが判定される(ステップS107)。

流入積算量ΣQdel≧供給通路容積Va+デリバリパイプ容積Vb×3 …(4)

ここで、発明者の実験により、デリバリパイプ4に給油後の燃料が供給され始めると、その後の流入積算量ΣQdelが同デリバリパイプ4の容積Vbの2.5〜3.5倍に達するまでに、同デリバリパイプ4の燃料がほぼ給油後の燃料に置換されるとの知見が得られており、特にデリバリパイプ4の容積Vbの3倍を指標とすることにより好適に同デリバリパイプ4の燃料の置換が判断できることが判明している。そのため、上記ステップS107の判定処理において否定判定がなされる場合には(ステップS107:NO)、すなわち流入積算量ΣQdelが次式(5)の関係を満たす場合には、デリバリパイプ4において給油後の燃料と給油前の燃料との置換が実行されている期間である旨判断することができる。
【0052】

流入積算量ΣQdel<供給通路容積Va+デリバリパイプ容積Vb×3 …(5)

そして、こうしたデリバリパイプ4における燃料の置換に伴い、燃料噴射弁5から内燃機関に供給される燃料のアルコール濃度が徐々に変化するため、この燃料のアルコール濃度変化により空燃比AFが変化するようになる。そこで、上記ステップS107の判定処理において否定判定がなされる場合には(ステップS107:NO)、空燃比AFの変化に基づきアルコール濃度学習値EGを更新する濃度学習処理が実行され(ステップS108)、本処理が一旦終了される。この濃度学習処理の詳細については後述する。
【0053】
また、この濃度学習処理の実行中において、ステップS101からの処理が再び実行される場合には、給油フラグFが「ON」に設定されているため、ステップS101の判定処理で否定判定がなされ(ステップS101:NO)、続いてステップS105の処理が実行される。そして、次のステップS106の判定処理の実行時には、既に給油後の燃料がデリバリパイプ4に流入しているため、肯定判定がなされ(ステップS106:YES)、続いて、ステップS107の判定処理が実行される。
【0054】
一方、上記ステップS107の判定処理において上式(4)を満たすとして肯定判定がなされる場合には(ステップS107:YES)、デリバリパイプ4の燃料がすべて給油後の燃料に置換されていると判断することができる。したがって、濃度学習処理が実行されている場合であって、上記ステップS107の判定処理において初めて肯定判定がなされる場合には(ステップS107:YES)、濃度学習処理の終了時期である旨判定される。このステップS107での判定処理が終了時期判定手段により実行される処理に相当する。
【0055】
こうして濃度学習処理が終了されると、給油フラグFが「OFF」に設定される(ステップS109)。そして、濃度学習処理が終了された後に空燃比AFの変化が生じた場合には、この空燃比AFの変化は燃料のアルコール濃度以外の要因、例えば燃料供給系の異常によるものであると判断することできる。
【0056】
ところで、上記ステップS106の判定処理において否定判定がなされる場合には(ステップS106:NO)、すなわち流入積算量ΣQdelが次式(6)の関係を満たす場合には、供給通路3に残留している給油前の燃料が未だデリバリパイプ4に流入している状態であると判断することができる。
【0057】

流入積算量ΣQdel<供給通路容積Va …(6)

そして、給油前の燃料については、前回の給油によって変化したアルコール濃度に応じて濃度学習値EGが既に更新されているため、この既に更新された濃度学習値EGに基づいて燃料噴射量QFINが算出される。そのため、この状態において空燃比AFの変化が生じた場合には、この空燃比AFの変化は燃料のアルコール濃度変化以外の要因、例えば燃料供給系の異常によるものであると判断することができる。
【0058】
そこで、上記ステップS106の判定処理により否定判定がなされる場合(ステップS106:NO)、又は上記ステップS107の判定処理により肯定判定がなされる場合(ステップS107:YES)には、空燃比学習処理が実行されるとともに(ステップS110)、異常診断処理(ステップS111)が実行され、本処理は終了される。これら空燃比学習処理及び異常診断処理の詳細については後述する。
【0059】
次に、図3を参照して、上述したステップS108において実行される濃度学習処理の処理手順を説明する。
本処理では、まず、濃度学習値EGの更新条件が成立したか否かが判定される(ステップS201)。具体的には、次式(7)により、フィードバック補正値FAFの絶対値が判定値αを超えているか否かが判定される。
【0060】

フィードバック補正値FAFの絶対値|FAF|>判定値α …(7)

なお、判定値αは、空燃比AFの変化が燃料のアルコール濃度変化に起因すると判断することのできる適切な値が予め設定されるとともに、電子制御装置20のメモリ20aに記憶されている。
【0061】
ここで、給油に伴い燃料のアルコール濃度が高くなった場合には、空燃比AFがリーン側に偏るため、空燃比フィードバック制御を通じて燃料噴射量QFINを増量すべくフィードバック補正値FAF(%)について正の値が設定される(FAF>0)。一方、給油に伴い燃料のアルコール濃度が低くなった場合には、空燃比AFがリッチ側に偏るため、空燃比フィードバック制御を通じて燃料噴射量QFINを減量すべくフィードバック補正値FAF(%)について負の値が設定される(FAF<0)。
【0062】
そこで、上記判定処理において濃度学習値EGの更新条件が成立している旨判定される場合には(ステップS201:YES)、濃度学習値EGが更新され(ステップS202)、本処理が終了される。具体的には、フィードバック補正値FAFが正の値であるときには、濃度学習値EGが一定値Aだけ増加される(EG←EG+A)。一方、フィードバック補正値FAFが負の値であるときには、濃度学習値EGが一定値Aだけ減少される(EG←EG−A)。
【0063】
このようにして濃度学習値EGが制御周期ごとに一定値ずつ増加、又は減少されることにより、濃度学習処理の実行期間中において給油後の燃料のアルコール濃度に応じた濃度学習値EGにまで更新される。
【0064】
一方、上述した判定処理において濃度学習値EGの更新条件が成立していない旨判定される場合には(ステップS201:NO)、濃度学習処理の実行期間であっても、空燃比AFと理論空燃比SAFとの乖離度合いが小さいと判断することができる。これは、給油後の燃料のアルコール濃度が給油前の燃料のアルコール濃度と同一であるとき等に生じる。したがって、この場合には濃度学習値EGが更新されることなく本処理が終了される。
【0065】
次に、図4を参照して、上述したステップS110において実行される空燃比学習処理の処理手順を説明する。
本処理では、まず、空燃比学習値KGの更新条件が成立したか否かが判定される(ステップS301)。具体的には、次式(8)により、フィードバック補正値FAFの絶対値が判定値βを超えているか否かが判定される。
【0066】

フィードバック補正値FAFの絶対値|FAF|>判定値β …(8)

なお、判定値βは、フィードバック補正値FAFに定常的な偏りが生じている旨判断することのできる適切な値が予め設定されるとともに、電子制御装置20のメモリ20aに記憶されている。
【0067】
そして、本判定処理において空燃比学習値KGの更新条件が成立している旨判定される場合には(ステップS301:YES)、空燃比学習値KGが更新される(ステップS302)。具体的には、フィードバック補正値FAF(%)が正の値である場合には(FAF>0)、空燃比学習値KGが一定値Bだけ増加される(KG←KG+B)。一方、フィードバック補正値FAFが負の値である場合には(FAF<0)、空燃比学習値KGが一定値Bだけ減少される(KG←KG−B)。
【0068】
一方、上述した判定処理において空燃比学習値KGの更新条件が成立していない旨判定される場合には(ステップS301:NO)、フィードバック補正値FAFが基準値である0%近傍であると判断することができるため、空燃比学習値KGが更新されることなく本処理が終了される。
【0069】
続いて、図5を参照して、上述したステップS111において実行される異常診断処理の処理手順を説明する。
本処理が開始されると、次式(9)により、上述した空燃比学習処理により更新された空燃比学習値KGの絶対値が判定値γを超えているか否かが判定される(ステップS401)。
【0070】

空燃比学習値KGの絶対値|KG|>判定値γ …(9)

なお、判定値γは、燃料供給系の異常に起因して空燃比学習値KGが過度に大きくなっている、又は小さくなっていると判断することのできる適切な値が予め設定されるとともに、電子制御装置20のメモリ20aに記憶されている。
【0071】
そして、上述した判定処理において肯定判定がなされる場合には(ステップS401:YES)、燃料供給系に異常が発生している旨判断することができるため、異常判定がされて(ステップS402)、本処理が終了される。
【0072】
一方、上記判定処理において否定判定がなされる場合には(ステップS401:NO)、燃料供給系に異常は発生していない旨判断することができ、本処理は終了される。
次に、図6を参照して、給油がなされた後における濃度学習処理、及び異常診断処理の各実行期間の設定態様について説明する。なお、本実施形態では、上述したように、空燃比学習処理と異常診断処理が続いて実行されるためこれらの実行期間は同一である。
【0073】
内燃機関の始動後の時刻t1において給油がなされた旨判定されると、給油フラグFが「ON」に設定される。そして、時刻t1から時刻t2までの間には、まず供給通路3に残留している給油前の燃料がデリバリパイプ4に流入するため、濃度学習処理は停止状態にある一方、空燃比学習処理及び異常診断処理が実行される。
【0074】
時刻t2において、給油後の燃料がデリバリパイプ4に供給され始めた旨が流入積算量ΣQdelに基づき判定されると、この時刻t2が濃度学習処理の開始時期と判定され、濃度学習処理が開始される。そして、この濃度学習処理の実行期間においてフィードバック補正値FAFが変化し、同フィードバック補正値FAFの絶対値が判定値αを超えると(|FAF|>α)、それに伴い濃度学習値EGが更新される。
【0075】
時刻t3において、デリバリパイプ4の燃料が給油後の燃料に置換された旨が流入積算量ΣQdelに基づき判定されると、この時刻t3が濃度学習処理の終了時期と判定され、濃度学習処理が終了される。なお、時刻t2から時刻t3までの期間が濃度学習期間に相当する。
【0076】
濃度学習処理の終了に伴い、空燃比学習処理及び異常診断処理が開始される。そして、これら空燃比学習処理及び異常診断処理の実行期間である時刻t4においてフィードバック補正値FAFが変化し、同フィードバック補正値FAFの絶対値が判定値βを超えると(|FAF|>β)、それに伴い空燃比学習値KGが更新される。さらに、時刻t5において、空燃比学習値KGの絶対値が判定値γを超えると(|KG|>γ)、異常判定がなされ、異常フラグが「ON」に設定される。
【0077】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)給油がなされた後にデリバリパイプ4に流入する燃料の流入積算量ΣQdelが算出され、その流入積算量ΣQdelによって濃度学習処理の実行期間が設定される(ステップS106、ステップS107)。すなわち、この流入積算量ΣQdelが、給油後の燃料がデリバリパイプ4に供給され始める量に達したときが濃度学習処理の開始時期とされる一方(ステップS106:YES)、デリバリパイプ4の燃料が給油後の燃料に置換される量に達したとき(ステップS107:YES)が濃度学習処理の終了時期とされる。このため、燃料のアルコール濃度変化による空燃比AFの変化が生じると想定される適切な期間をもって濃度学習処理を実行することができ、燃料供給系の異常に基づき空燃比AFが変化した場合であってもその影響を最小限に留めることができ、濃度学習処理が不必要に長期化するような事態を回避することができる。その結果、こうした濃度学習処理の長期化に起因してアルコール濃度学習値EGが本来の値から大きく乖離してしまうことを抑制することができるとともに、燃料供給系の異常診断処理の実行期間が制限されてしまうことを回避することができ、燃料供給系に異常が発生している場合にはこれを早期に診断できるようになる。
【0078】
(2)給油後であって、濃度学習処理が実行される前の期間において、異常診断処理が実行されるため、異常診断処理の実行頻度を高めることができ、燃料供給系の異常を早期に検出できるようになる。
【0079】
(3)流入積算量ΣQdelが供給通路3の容積Va以上となったときが濃度学習処理の開始時期である旨判定され(ステップS106:YES)、濃度学習処理が開始されるため、同濃度学習処理を適切な時期に開始することができる。
【0080】
(4)流入積算量ΣQdelが供給通路3の容積Va及びデリバリパイプ4の容積Vbにより定まる所定量以上になったとき(ステップS107:YES)が濃度学習処理の終了時期である旨判定されて同処理が終了されるため、同濃度学習処理を適切な時期に終了することができる。
【0081】
(5)デリバリパイプ4に給油後の燃料が流入され始めた後、流入積算量ΣQdelがデリバリパイプ4の容積の3倍に達したときに(ステップS107:YES)、濃度学習処理の終了時期である旨判定されて同処理が終了されるため、同濃度学習処理を適切な時期に終了することができる。
【0082】
(6)燃料ポンプ2の燃料圧送量(ポンプ吐出量)Qpに基づき流入積算量ΣQdelが算出されるため(ステップS105)、この流入積算量ΣQdelを適切に算出することができる。これにより、濃度学習処理の実行期間を適切に設定することができる。
【0083】
(7)本実施形態における内燃機関では、ガソリンのみを燃料として使用する内燃機関の燃料供給系と比較して燃料噴射量を広範囲にわたって制御する必要が生じる。特に、アルコール濃度が高い燃料を使用している状況で機関出力の要求値が増大した場合には、それに見合う量の燃料を噴射することができなくなる。一方、燃料噴射圧を高めてこれに対応することもできるが、この場合には燃料噴射量が少ないときの燃料噴射時間が短くなるため、燃料噴射時間の制御精度を高める必要が生じることとなる。本実施形態では、切替弁7の開閉を切り替えることにより、デリバリパイプ4に供給する燃料の圧力を低圧状態と高圧状態とに切り替え可能であるため、それに合わせて燃料噴射弁5の噴射圧についても2段階に設定することができる。そのため、燃料噴射量を広範囲にわたって適切に制御することができるようになる。
【0084】
(8)給油がなされた旨の判定後に、切替弁7が閉弁されることにより(ステップS104)リターン通路10を通じてデリバリパイプ4の余剰燃料が燃料タンク1に戻されるため、デリバリパイプ4の燃料が給油後の燃料に置換されるまでに要する時間、換言すれば濃度学習処理の実行期間を短く設定することができる。そのため、この濃度学習処理の実行期間において、燃料供給系の異常に基づき空燃比センサ24の出力値が変化する機会をより低減させることができ、これにより濃度学習値が誤学習されることをより抑制することができるようになる。さらに、異常診断処理の実行期間を長く設定することができるため、燃料供給系の異常をより早期に診断することができるようになる。
【0085】
(第2の実施形態)
次に、図7及び図8を参照して、本発明にかかる内燃機関の内燃機関の燃料供給系異常診断装置を具体化した第2の実施形態について、上記第1の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、上記第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。
【0086】
図7に示すように、本実施形態における燃料圧送機構40には、リリーフ通路6に切替弁7が設けられていないとともに、デリバリパイプ4には、同デリバリパイプ4から燃料タンク1へ余剰燃料を戻すリターン通路10が設けられていない。
【0087】
本実施形態の燃料圧送機構40の燃料ポンプ41は、デリバリパイプ4に供給する燃料の圧力を、低圧状態と高圧状態の2段階に切り替え可能に構成されている。具体的には、低圧状態として、上述した第1実施形態における低圧プレッシャレギュレータ8の開弁圧である所定の低圧PLに調整される。一方、高圧状態として、上述した第1実施形態における高圧プレッシャレギュレータ9の開弁圧である所定の高圧PHに調整される。なお、同実施形態におけるプレッシャレギュレータ42は、リリーフ通路6の燃料圧力が所定の高圧PH以上になるときに開弁するように設定されている。
【0088】
本実施形態では、上述した第1の実施形態において実行される図2に示す処理に代わり、図8に示す処理が実行される。なお、図3〜図4に示す各処理は、本実施形態においても同様に実行される。
【0089】
図8に示す処理が開始されると、ステップS501からステップS503まで、図2のステップS101からステップS103に示す各処理と同一の処理が順に実行される。
ここで、本実施形態では、デリバリパイプ4から排出される燃料が燃料噴射量と同量である。そこで、給油後におけるデリバリパイプ4への燃料の流入積算量ΣQdelが、燃料噴射弁5の燃料噴射量Qinjを用いて次式(10)により算出される(ステップS504)。
【0090】

流入積算量ΣQdel←前回の流入積算量ΣQdel+燃料噴射量Qinj…(10)

なお、上式(10)における前回の流入積算量ΣQdelは、前回の本ステップS504の処理実行時に算出した流入積算量ΣQdelであって、燃料噴射量Qinjは、前回の処理実行時から今回の処理実行時までに燃料噴射弁5から噴射された燃料量である。本ステップS504の処理が算出手段により実行される処理に相当する。
【0091】
こうして流入積算量ΣQdelが算出されると、以下のステップS505からステップS510において、上述した図2のステップS106からステップS111に示す各処理が順に実行される。
【0092】
以上説明した第2の実施形態によれば、上記(1)〜(5)、(7)に示す作用効果に加え、以下の作用効果を奏することができる。
(9)燃料ポンプ2の燃料噴射量Qinjに基づき流入積算量ΣQdelが算出されるため(ステップS504)、この流入積算量ΣQdelを適切に算出することができる。これにより、濃度学習処理の実行期間を適切に設定することができる。
【0093】
(第3の実施形態)
次に、図9を参照して、本発明にかかる内燃機関の内燃機関の燃料供給系異常診断装置を具体化した第3の実施形態について説明する。
【0094】
本実施形態では、上述した第1の実施形態において実行される図2に示す処理の一部に代わり、図9に示す各処理が実行される。
すなわち、図2のステップS103の処理が終了されると、図8に示すように、切替弁7の閉弁条件が成立したか否かが判定される(ステップS601)。具体的には、内燃機関がアイドル運転時ではない旨判定されるときに、閉弁条件が成立した旨判定される。
【0095】
そして、切替弁7の閉弁条件が成立した旨判定される場合には(ステップS601:YES)、切替弁7が閉弁される(ステップS602)。そして、切替弁7の閉弁時には、燃料ポンプ2から圧送される燃料はすべてデリバリパイプ4に流入するため、次式(11)により流入積算量ΣQdelが算出される(ステップS603)。なお、同式は、第1の実施形態における上式(2)と同一である。
【0096】

流入積算量ΣQdel←前回の流入積算量ΣQdel+ポンプ吐出量Qp …(11)

一方、内燃機関のアイドル運転時であって、切替弁7の閉弁条件が成立していない旨判定される場合には(ステップS601:NO)、切替弁7が開弁される(ステップS604)。そして、切替弁7の開弁時には、燃料ポンプ2から圧送される燃料の一部がデリバリパイプ4に流入するとともに、同デリバリパイプ4に流入した燃料は全て燃料噴射弁5から内燃機関に供給される。したがって、次式(12)により流入積算量ΣQdelが算出される(ステップS605)。なお、同式は、第2の実施形態における上式(10)と同一である。
【0097】

流入積算量ΣQdel←前回の流入積算量ΣQdel+燃料噴射量Qinj…(12)

こうして、上記ステップS603又はステップS605において流入積算量ΣQdelが算出されると、図2に示すステップS106の処理に移行されるとともに、それ以降の各処理が順に実行される。なお、上記ステップS603及びステップS605の各処理が、算出手段により実行される処理に相当する。
【0098】
以上説明した第3の実施形態によれば、上記(1)〜(5)、(7)、(8)に示す作用効果に加え、以下の作用効果を奏することができる。
(10)切替弁7の開閉状態に応じて、燃料ポンプ2の燃料圧送量(ポンプ吐出量)Qpに基づく流入積算量ΣQdelの算出と、燃料ポンプ2の燃料噴射量Qinjに基づく流入積算量ΣQdelの算出とが切り替えて実行されるため、流入積算量ΣQdelを適切に算出することができる。これにより、濃度学習処理の実行期間を適切に設定することができる。
【0099】
(その他の実施形態)
なお、この発明にかかる内燃機関の燃料供給系異常診断装置は、上記各実施の形態にて例示した構成に限定されるものでなく、それら各実施の形態を適宜変更した例えば次のような形態として実施することもできる。
【0100】
・上述した第3の実施形態では、切替弁7の閉弁条件として内燃機関がアイドル運転時ではない旨を設定する例を示したが(ステップS601)、閉弁条件としてはこれに限られない。例えば、内燃機関がアイドル運転時ではないこと、且つ空燃比センサ24が活性化されていることを閉弁条件としてもよい。
【0101】
・上記各実施形態では、デリバリパイプ4に給油後の燃料が流入され始めた後、流入積算量ΣQdelがデリバリパイプ4の容積の3倍に達したときを濃度学習処理の終了時期である旨判定する例を示したが(ステップS107、ステップS506)、終了時期の設定方法についてはこの例に限られない。例えば、デリバリパイプ4に給油後の燃料が流入され始めた後、流入積算量ΣQdelがデリバリパイプ4の容積の3.5倍に達したときを終了時期と判定するといった態様を採用することもできる。すなわち、流入積算量ΣQdelがデリバリパイプ4の燃料が給油後の燃料に置換される量に達したことが判定できる態様であれば、判定条件である供給通路3の容積及びデリバリパイプ4の容積により定まる所定量を適宜設定することができる。ただし、異常診断処理の実行期間が不必要に制限されることを抑えるため、濃度学習期間が不適切に長くなることを抑えるべく終了時期を適切に設定することが望ましい。この場合であっても、上記(1)〜(4)、(6)〜(10)に示す各作用効果を奏することができる。
【0102】
・上記各実施形態では、空燃比学習値KGの更新条件が成立する否かの判定処理において、フィードバック補正値FAFの絶対値が判定値βを超えているか否か(|FAF|>β)により判定される例を示したが(ステップS301)、この判定条件についてもこの例に限られない。例えば、こうしたフィードバック補正値FAFの判定条件に加えて、機関回転速度及び吸入空気量の変化が小さく内燃機関の運転条件が安定していることを判定条件とし、これら判定条件が満たされるときに空燃比学習値KGを更新するようにしてもよい。
【0103】
・上記第2の実施形態では、流入積算量ΣQdelが燃料噴射量Qinjにより算出される例を示した(ステップS504)。しかし、同実施形態においてデリバリパイプ4の燃料圧力が低圧状態に設定されるときには、所定の高圧PH以上の圧力が作用したときに開弁するプレッシャレギュレータ42が閉弁状態にあるため、燃料ポンプ41から圧送される燃料はすべてデリバリパイプ4に供給される。したがって、このようにデリバリパイプ4の燃料圧力が低圧状態に設定されるときには、ステップS105の処理に示すようにポンプ吐出量Qpにより流入積算量ΣQdelを算出するようにしてもよい。すなわち、この場合には、燃料圧送機構40から圧送される燃料がすべて流入する状態(低圧状態)と、デリバリパイプ4から排出される燃料が燃料噴射量と同量となる状態(低圧状態及び高圧状態)とが適宜切り替えられるため、その状態に合わせたかたちで逐次積算する対象をポンプ吐出量Qpと燃料噴射量Qinjとの間で切り替えるようにすればよい。この場合であっても、上述した各作用効果を奏することができる。
【0104】
・上記第2の実施形態では、燃料圧送機構40にリリーフ通路6が設けられた例を示したが、このリリーフ通路6を省略するとともに、上記第1の実施形態で示したようにデリバリパイプ4にリターン通路10を設ける態様を採用してもよい。この場合には、燃料圧送機構40から圧送される燃料がすべて流入する状態と、デリバリパイプ4から排出される燃料が燃料噴射量と同量となる状態とが適宜切り替えられるため、その状態に合わせたかたちで逐次積算する対象をポンプ吐出量Qpと燃料噴射量Qinjとの間で切り替えるようにすればよい。この場合であっても、上述した各作用効果を奏することができる。
【0105】
・上記第2の実施形態では、デリバリパイプ4に供給する燃料の圧力を、低圧状態と高圧状態の2段階に切り替え可能に構成された燃料ポンプ41を設ける例を示したが、さらに多段階の圧力状態に切り替え可能に構成された燃料ポンプを採用することもできる。この場合であっても、内燃機関の運転状態及び燃料のアルコール濃度に応じてデリバリパイプ4に供給する燃料の圧力を切り替えることにより、燃料噴射量を適切に制御することができるとともに、少なくとも上記(1)〜(4)に示す各作用効果を奏することができる。
【0106】
・さらに、上記第2の実施形態では、デリバリパイプ4に供給する燃料の圧力を、低圧状態と高圧状態の2段階に切り替え可能に構成された燃料ポンプ41を設ける例を示したが、デリバリパイプ4の燃料圧力を一定に保持すべく同一の吐出圧で燃料を圧送する燃料ポンプを採用するようにしてもよい。この場合には、使用される燃料がガソリン100%であるときからアルコール濃度が最高濃度(本実施形態では85%)であるときまで燃料噴射量を広範囲にわたって適切に制御することのできる燃料噴射弁を採用するようにすればよい。この場合であっても、少なくとも上記(1)〜(4)に示す各作用効果を奏することができる。
【0107】
・上記各実施形態で示した空燃比フィードバック制御、濃度学習処理、空燃比学習処理の各実行態様については、これらの例に限られない。すなわち、空燃比センサ24の出力値に応じた空燃比AFと理論空燃比SAFとの乖離傾向に基づき燃料噴射量の補正をすることのできる態様であれば、適宜変更することができる。
【0108】
・上記各実施形態では、燃料ポンプ2,41とデリバリパイプ4とが供給通路3にて連通されているとともに、この供給通路3の途中にはリリーフ通路6のみが接続されている例を示した。しかし、この供給通路3からさらに分岐する燃料通路を設ける例を採用してもよい。この場合であっても、燃料のアルコール濃度変化による空燃比の変化が生じると想定される適切な期間となるべく、デリバリパイプ4への流入積算量に基づき濃度学習期間を設定するとともに、この濃度学習期間を除く期間において異常診断処理を実行することにより、上記(1)に示す作用効果を奏することができる。
【0109】
・上記各実施形態では、燃料として使用するアルコールとしてエタノールを使用する例を示したが、内燃機関に使用可能である旨保証されたアルコールであれば、例えばメタノール、プロパノール、ブタノール等、異なるアルコールを燃料として使用することもできる。この場合であっても、上述した各作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0110】
1…燃料タンク、2,41…燃料ポンプ、3…供給通路、4…デリバリパイプ、5…燃料噴射弁、6…リリーフ通路、7…切替弁、8…低圧プッシャレギュレータ、9…高圧プレッシャレギュレータ、10…リターン通路、20…電子制御装置(空燃比フィードバック手段、学習手段、異常診断手段)、21…燃料レベルゲージ、22…エアフロメータ、23…回転速度センサ、24…空燃比センサ、30,40…燃料圧送機構、41…プレッシャレギュレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクのアルコール燃料を燃料圧送機構から供給通路を通じてデリバリパイプに圧送するとともに同デリバリパイプに接続された燃料噴射弁を通じて内燃機関に供給する燃料供給系を備え、同内燃機関の実空燃比が燃料のアルコール濃度に応じた理論空燃比と一致するように前記燃料噴射弁の燃料噴射量を補正する空燃比フィードバック制御を実行する空燃比フィードバック手段と、同制御を通じて求められる実空燃比と理論空燃比との乖離傾向に基づいて燃料噴射量を補正するためのアルコール濃度学習値を更新する濃度学習処理を実行する学習手段と、同乖離傾向に基づいて燃料供給系の異常診断処理を実行する異常診断手段とを有する内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、
前記タンクに給油がなされたことを判定する給油判定手段と、
給油がなされた旨の判定後に前記デリバリパイプに流入する燃料の流入積算量を算出する算出手段とを備え、
前記学習手段は、給油が判定された後の前記流入積算量が、前記デリバリパイプに前記燃料タンクの燃料が供給され始める量に達してから同デリバリパイプの燃料が給油後の燃料に置換される量に達するまでの期間を濃度学習期間とし、同期間に限定して前記濃度学習処理を実行するものであり、
前記異常診断手段は、前記濃度学習期間を除く期間における前記乖離傾向に基づいて前記異常診断処理を実行する
ことを特徴とする内燃機関の燃料供給系異常診断装置。
【請求項2】
前記異常診断手段は、給油がなされた旨判定されてから前記濃度学習処理が開始されるまでの期間を前記異常診断処理の実行期間として含む
請求項1に内燃機関の燃料供給系異常診断装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、
前記学習手段は、前記流入積算量が前記供給通路の容積以上になったことを条件とし、その条件が成立したときを前記濃度学習処理の開始時期である旨判定する開始時期判定手段を備える
ことを特徴とする内燃機関の燃料供給系異常診断装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置において、
前記学習手段は、前記流入積算量が前記供給通路の容積及び前記デリバリパイプの容積により定まる所定量以上になったことを条件とし、その条件が成立したときを前記濃度学習処理の終了時期である旨判定する終了時期判定手段を備える
ことを特徴とする内燃機関の燃料供給系異常診断装置。
【請求項5】
前記終了時期判定手段は前記流入積算量をΣQdel、前記供給通路の容積をVa及び前記デリバリパイプの容積をVbとしたとき、以下の条件が成立したときを前記濃度学習処理の終了時期として判定する

ΣQdel≧Va+Vb・α
α:2.5≦α≦3.5

請求項4に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置。
【請求項6】
前記燃料圧送機構は、前記デリバリパイプに供給する燃料の圧力を高圧状態とこれよりも低い低圧状態とに少なくとも切り替え可能である
請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置。
【請求項7】
前記燃料供給系は、前記デリバリパイプの余剰燃料を前記燃料タンクに戻すリターン通路と、同リターン通路に設けられて前記デリバリパイプの燃料圧力が所定の開弁圧以上であるときに開弁する調圧弁とを備え、
前記燃料圧送機構は、前記供給通路を通じて前記燃料タンクの燃料を前記デリバリパイプに供給する燃料ポンプと、前記供給通路において前記燃料ポンプよりも下流側に接続されるとともに同供給通路の燃料を前記燃料タンクに戻すリリーフ通路と、同リリーフ通路と前記供給通路との連通状態を切り替える切替弁とを含み、
前記切替弁を開弁状態とし前記リリーフ通路を通じて前記供給通路の燃料を前記燃料タンクに戻すことで前記デリバリパイプの燃料圧力を前記低圧状態に設定する一方、前記切替弁を閉弁状態とし前記調圧弁を開弁させて前記デリバリパイプの余剰燃料を前記リターン通路を通じて前記燃料タンクに戻すことで前記デリバリパイプの燃料圧力を前記高圧状態に設定するものであり、
前記算出手段は、前記切替弁の開弁時には前記燃料噴射弁の燃料噴射量に基づき前記流入積算量を算出する一方、前記切替弁の閉弁時には前記燃料ポンプの燃料圧送量に基づき前記流入積算量を算出する
請求項6に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置。
【請求項8】
前記燃料圧送機構は、給油がなされた旨の判定後から前記濃度学習期間が経過するまで前記デリバリパイプの燃料圧力を前記高圧状態に維持する
請求項7に記載の内燃機関の燃料供給系異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−87632(P2012−87632A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232797(P2010−232797)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】