説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】エネルギ不足による直噴インジェクタの開弁不能を回避しつつ、可能な限り筒内での燃料の燃焼悪化を抑制する。
【解決手段】直噴インジェクタ7を駆動するために必要な駆動エネルギが判定値よりも多いと、それに基づいて直噴圧が低下されて上記駆動エネルギが少なく抑えられるため、エネルギ不足による直噴インジェクタ7の開弁不能が回避される。また、上述した直噴圧の低下に伴い直噴インジェクタ7からの各燃料噴射における燃料噴射期間が長くされるとしても、それら燃料噴射期間は各々の最大値を越えて長くならないようガードされる。この場合、直噴インジェクタ7からの各燃料噴射では、要求燃料噴射量分の燃料を噴射しきれなくなる可能性が高い。しかし、要求燃料噴射量分の燃料を直噴インジェクタ7からの各燃料噴射によって噴射しきれない場合には、その噴射しきれない分の燃料量がポート噴射インジェクタ6から噴射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される内燃機関として、同機関の1サイクル当たりに筒内に対し複数回の燃料噴射を行うことの可能な直噴インジェクタを備え、その直噴インジェクタからの燃料噴射によって機関運転状態に基づき求められる要求燃料噴射量を得るようにしたものが知られている。
【0003】
直噴インジェクタからの複数回の燃料噴射としては、圧縮行程での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、及び吸気行程前期での燃料噴射のうちの少なくとも二つを行うことが考えられる。なお、直噴インジェクタからの圧縮行程での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、及び吸気行程前期での燃料噴射はそれぞれ、次の[1]〜[3]に示すように良好な機関運転の実現に関係する。
【0004】
[1]圧縮行程での燃料噴射は、噴射燃料を筒内の気流等により点火プラグ周りに集めやすいという特徴を有することから、筒内の燃料に対する着火を良好なものとして同燃料の燃焼速度を速めることに寄与する。[2]吸気行程後期での燃料噴射は、ピストンの移動速度が遅くなって同ピストンの移動による筒内の気流が弱くなるとき、噴射燃料によって筒内の気流を強めて良好な燃料の燃焼を得ることに寄与する。[3]吸気行程前期での燃料噴射は、ピストン頂部に対し直接的に噴射燃料を付着させることが可能になるため、その燃料の気化潜熱によってピストン頂部を冷却すること、ひいては内燃機関でのノッキングの発生を抑制することに寄与する。
【0005】
上記直噴インジェクタからの複数回の燃料噴射を行う内燃機関においては、可能な限り上記[1]〜[3]に示す効果を併せて得ることが好ましい。そして、上記[1]〜[3]に示す効果を併せて得るためには、上記複数回の燃料噴射での燃料噴射量をそれぞれ、そのときの機関運転状態のもとで上記[1]〜[3]の効果を得るうえでの要求値に調整することが重要になる。
【0006】
ところで、直噴インジェクタにおいては、高圧になる筒内に対し同直噴インジェクタからの燃料噴射を実現するため、その直噴インジェクタに供給される燃料の圧力が高い値に調節される。このように直噴インジェクタに供給される燃料の圧力が高い値になると、閉弁状態となっている直噴インジェクタを開弁させるとき、それを上記燃料の圧力に基づく力に抗して行わなければならないため、直噴インジェクタを駆動(開弁)する際に電気エネルギ等の多量の駆動エネルギが必要になる。このため、直噴インジェクタの駆動に用いられる電源(バッテリ)の電圧低下などにより、同直噴インジェクタの駆動に用いることの可能な供給エネルギ(電気エネルギ)が少なくなると、直噴インジェクタに供給される燃料の圧力に基づく力に抗して同直噴インジェクタを開弁させることができなくなるおそれがある。そして、直噴インジェクタを開弁させることができないと、同直噴インジェクタから行うべき燃料噴射が行われないという現象(以下、「噴射抜け」という)が生じる。
【0007】
ここで、特許文献1には、バッテリの電圧低下に伴い直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させることが開示されている。こうした特許文献1の技術を適用すれば、バッテリの電圧低下によって同直噴インジェクタの駆動に用いることの可能な供給エネルギが少なくなるとき、直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させて同圧力に基づく力、すなわち直噴インジェクタの開弁に抗する力を小さくすることができる。その結果、直噴インジェクタを駆動(開弁)するための駆動エネルギを少なく抑えることができる。従って、バッテリの電圧低下によって同直噴インジェクタの駆動に用いることの可能な供給エネルギが少なくなるとしても、その供給エネルギを用いて直噴インジェクタを駆動することにより、同直噴インジェクタを上記燃料の圧力に基づく力に抗して開弁させることが可能になる。このため、直噴インジェクタを開弁させることができず、同直噴インジェクタでの上記噴射抜けが生じることを回避できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−136523公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のように、バッテリの電圧低下に伴い直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させることで、上記バッテリの電圧低下により直噴インジェクタの駆動に用いることの可能な供給エネルギが少なくなるとしても、その供給エネルギでの直噴インジェクタの駆動を通じて同直噴インジェクタを開弁させることが可能にはなる。ただし、直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させた場合、その低下に対応した分だけ直噴インジェクタでの燃料噴射期間を長くしないと、直噴インジェクタの燃料噴射量を上記要求値とすることができない。
【0010】
ここで、内燃機関の1サイクル当たりに直噴インジェクタから複数回の燃料噴射を行う場合、上述したように直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させると、それら燃料噴射での燃料噴射量をそれぞれ上記要求値とするためには、各燃料噴射での燃料噴射期間を長くしなければならなくなる。しかし、このように上記各燃料噴射での燃料噴射量をそれぞれ要求値とすべく、それら各燃料噴射における燃料噴射期間を長くする際、それら燃料噴射期間が過度に長くなると、それに起因して筒内での燃料の燃焼状態が悪化するという問題が生じる。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、エネルギ不足による直噴インジェクタの開弁不能を回避しつつ、可能な限り筒内での燃料の燃焼悪化を抑制することができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1記載の発明によれば、機関運転状態に基づき求められる要求燃料噴射量が得られるよう、内燃機関の筒内に燃料を噴射可能な直噴インジェクタから同機関の1サイクル当たりに複数回の燃料噴射が行われる。具体的には、直噴インジェクタからの上記複数回の燃料噴射として、内燃機関の点火に近いタイミングで燃料を噴射する第1燃料噴射、及び、その第1燃料噴射よりも前記点火から離れたタイミングで燃料を噴射する第2燃料噴射が行われる。そして、直噴インジェクタを駆動するための駆動エネルギが判定値よりも多くなると、直噴インジェクタに供給される燃料の圧力が低下され、それによって直噴インジェクタを駆動するために必要な駆動エネルギが少なく抑えられる。このように駆動エネルギが少なく抑えられることで、エネルギ不足による直噴インジェクタの開弁不能を回避することができる。
【0013】
上述したように、直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させると、第1燃料噴射及び第2燃料噴射での燃料噴射により上記要求燃料噴射量を得るために、それら各燃料噴射での燃料噴射期間を長くしなければならなくなる。しかし、各燃料噴射での燃料噴射期間が過度に長くなると、それに起因して筒内での燃料の燃焼状態が悪化するおそれがある。これに対処するため、請求項1記載の発明では、上記燃料の圧力の低下が行われた状態のもと、直噴インジェクタからの第1燃料噴射を行うに当たり、その第1燃料噴射での燃料噴射期間が筒内での燃料の燃焼悪化を抑制可能な最大値を越えるときには、同燃料噴射期間を上記最大値に制限する。更に、上記要求燃料噴射量分の燃料のうち上記第1燃料噴射では噴射しきれない燃料量を直噴インジェクタからの第2燃料噴射によって噴射させる。
【0014】
ここで、第1燃料噴射と第2燃料噴射とにおいては、内燃機関の点火に近いタイミングで行われる第1燃料噴射の方が、その第1燃料噴射よりも点火から離れたタイミングで行われる第2燃料噴射よりも優先度が高くなる。これは、内燃機関の点火に近いタイミングで行われる燃料噴射ほど、同燃料噴射での燃料噴射期間の違いによる燃料への着火の影響が大きくなるためである。従って、直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させたとき、上述したように第1燃料噴射及び第2燃料噴射が行われることで、要求燃料噴射量を得ながらも優先度の高い燃料噴射である第1燃料噴射において燃料噴射期間が上記最大値を越えないようにすることができ、それによって可能な限り筒内での燃料の燃焼悪化を抑制することができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、機関運転状態に基づき求められる要求燃料噴射量が得られるよう、内燃機関の筒内に燃料を噴射可能な直噴インジェクタから同機関の1サイクル当たりに複数回の燃料噴射が行われるとともに、同機関の吸気ポートに向けて燃料噴射を行うことの可能なポート噴射インジェクタからの燃料噴射が行われる。そして、直噴インジェクタを駆動するために必要な駆動エネルギが判定値よりも多くなると、直噴インジェクタに供給される燃料の圧力が低下され、それによって直噴インジェクタを駆動するための駆動エネルギが少なく抑えられる。このように駆動エネルギが少なく抑えられることで、エネルギ不足による直噴インジェクタの開弁不能を回避することができる。
【0016】
上述したように、直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させると、直噴インジェクタにおける上記複数回の燃料噴射での燃料噴射量をそれら燃料噴射による効果の得られる値(要求値)とするためには、各燃料噴射での燃料噴射期間を長くしなければならなくなる。しかし、直噴インジェクタからの上記各燃料噴射での燃料噴射期間が過度に長くなると、それに起因して筒内での燃料の燃焼状態が悪化するおそれがある。これに対処するため、請求項2記載の発明では、上記燃料の圧力の低下が行われた状態のもと、直噴インジェクタからの上記複数回の燃料噴射を行うに当たり、それら各燃料噴射での燃料噴射期間が筒内での燃料の燃焼悪化を抑制可能な最大値を越えるときには、同燃料噴射期間を上記最大値に制限する。更に、上記要求燃料噴射量分の燃料のうち直噴インジェクタからの上記各燃料噴射では噴射しきれない燃料量をポート噴射インジェクタから噴射させる。
【0017】
ここで、直噴インジェクタからの燃料噴射とポート噴射インジェクタからの燃料噴射とにおいては、筒内に直接的に燃料を噴射する直噴インジェクタからの燃料噴射の方が、吸気ポートに向けて燃料噴射するポート噴射インジェクタからの燃料噴射よりも優先度が高くなる。これは、直噴インジェクタからの燃料噴射の方が、ポート噴射インジェクタからの燃料噴射と比べて、噴射された燃料による筒内での燃料の燃焼状態への影響が大きいためである。従って、直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させたとき、上述したように直噴インジェクタからの各燃料噴射及びポート噴射インジェクタからの燃料噴射が行われることで、要求燃料噴射量を得ながらも優先度の高い燃料噴射である直噴インジェクタでの各燃料噴射の燃料噴射期間が上記最大値を越えないようにすることができる。その結果、内燃機関において、要求燃料噴射量を得つつ、可能な限り筒内での燃料の燃焼悪化を抑制することができる。
【0018】
なお、上記判定値については、請求項3記載の発明のように、直噴インジェクタの駆動に用いることの可能な供給エネルギに基づいて定めることが好ましい。この場合、上記供給エネルギを判定値として定めることが可能になる。このように判定値を定めることにより、直噴インジェクタを駆動するために必要な駆動エネルギが上記供給エネルギ(判定値)よりも多くなるとき、すなわち直噴インジェクタを駆動(開弁)できないほど供給エネルギが少ないとき、的確に直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させることができる。
【0019】
また、上述したように直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させる際には、請求項4記載の発明のように、上記燃料の圧力を直噴インジェクタの駆動に用いることの可能な供給エネルギで同直噴インジェクタを開弁できる値まで低下させることが好ましい。この場合、上記直噴インジェクタに供給される燃料の圧力の低下により、上記供給エネルギを用いて直噴インジェクタを駆動(開弁)させることができるようになることから、同直噴インジェクタがエネルギ不足による開弁不能な状態のままになることはない。
【0020】
また、直噴インジェクタを駆動するために必要な駆動エネルギについては、請求項5記載の発明のように、直噴インジェクタの温度に基づいて求めることが好ましい。これは、直噴インジェクタの温度が高くなって同インジェクタに駆動電流を流すときの電気抵抗が大きくなるほど、同直噴インジェクタを駆動(開弁)するために多量の駆動エネルギが必要になるためである。こうしたことを考慮して直噴インジェクタの温度に基づき上記駆動エネルギを求めることにより、その求められた駆動エネルギを正確な値とすることができ、ひいては同駆動エネルギが判定値よりも多いか否かを正確に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の燃料噴射制御装置が適用される内燃機関全体を示す略図。
【図2】直噴インジェクタを駆動するための装置を示す概略図。
【図3】直噴インジェクタからの燃料噴射を行う際の同インジェクタでの駆動電流の変化を示すタイムチャート。
【図4】直噴インジェクタからの燃料噴射態様を示す説明図。
【図5】直噴インジェクタを駆動するために必要な駆動エネルギと、直噴圧及び同直噴インジェクタの温度との関係を示すグラフ。
【図6】上記燃料噴射制御装置での燃料噴射制御手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を自動車に搭載される内燃機関の燃料噴射制御装置に具体化した一実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
図1に示される内燃機関1の吸気通路2には、燃焼室3に吸入される空気の量(吸入空気量)を調整すべく開閉動作するスロットルバルブ4が設けられている。このスロットルバルブ4の開度(スロットル開度)は、自動車の運転者によって踏み込み操作されるアクセルペダル5の操作量(アクセル操作量)に応じて調節される。また、内燃機関1は、吸気通路2から燃焼室3の吸気ポート2aに向けて燃料を噴射するポート噴射インジェクタ6と、燃焼室3内(筒内)に燃料を噴射する直噴インジェクタ7とを備えている。これらインジェクタ6,7には、燃料タンク8内に蓄えられた燃料が供給される。
【0023】
すなわち、燃料タンク8内の燃料は、フィードポンプ9によって汲み上げられた後に低圧燃料配管31を介してポート噴射インジェクタ6に供給される。この低圧燃料配管31内の燃料の圧力は、フィードポンプ9の駆動制御を通じてフィード圧に調整されるとともに、同配管31に設けられたプレッシャレギュレータ32によって過上昇しないようにされる。また、フィードポンプ9によって汲み上げられた低圧燃料配管31内の燃料の一部は、高圧燃料ポンプ10で上記フィード圧よりも高圧(以下、直噴圧という)の状態に加圧された後に高圧燃料配管33を介して直噴インジェクタ7に供給される。
【0024】
内燃機関1においては、インジェクタ6,7から噴射される燃料と吸気通路2を流れる空気とからなる混合気が燃焼室3に充填され、この混合気に対し点火プラグ12による点火が行われる。そして、点火後の混合気が燃焼すると、そのときの燃焼エネルギによりピストン13が往復移動し、それに伴いクランクシャフト14が回転するようになる。一方、燃焼後の混合気は排気として排気通路15に送り出される。なお、上記燃焼室3と吸気通路2との間は、クランクシャフト14からの回転伝達を受ける吸気カムシャフト25の回転に伴って開閉動作する吸気バルブ26によって連通・遮断される。また、上記燃焼室3と排気通路15との間は、クランクシャフト14からの回転伝達を受ける排気カムシャフト27の回転に伴って開閉動作する排気バルブ28によって連通・遮断される。
【0025】
次に、本実施形態の燃料噴射制御装置の電気的構成について説明する。
燃料噴射制御装置は、内燃機関1の各種運転制御を行う電子制御装置16を備えている。同電子制御装置16には、上記制御に係る各種演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果等が一時記憶されるRAM、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等が設けられている。
【0026】
電子制御装置16の入力ポートには、以下に示す各種センサ等が接続されている。
・アクセル操作量を検出するアクセルポジションセンサ17。
・スロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ18。
【0027】
・吸気通路2を通過する空気の量(内燃機関1の吸入空気量)を検出するエアフローメータ19。
・クランクシャフト14の回転に対応した信号を出力するクランクポジションセンサ20。
【0028】
・吸気カムシャフト25の回転に基づき同シャフト25の回転位置に対応した信号を出力するカムポジションセンサ21。
・内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサ22。
【0029】
・低圧燃料配管31内の燃料の圧力(フィード圧)を検出する第1圧力センサ23。
・高圧燃料配管33内の燃料の圧力(直噴圧)を検出する第2圧力センサ24。
また、電子制御装置16の出力ポートには、スロットルバルブ4、ポート噴射インジェクタ6、直噴インジェクタ7、フィードポンプ9、及び高圧燃料ポンプ10といった各種機器の駆動回路等が接続されている。
【0030】
電子制御装置16は、図1に示される上記各種センサ等から入力した信号に基づき機関回転速度や機関負荷といった機関運転状態を把握し、その把握した機関運転状態に基づいてスロットルバルブ4、ポート噴射インジェクタ6、直噴インジェクタ7、フィードポンプ9、及び高圧燃料ポンプ10といった各種機器の駆動回路に対し指令信号を出力する。こうして内燃機関1のスロットル開度制御及び燃料噴射制御、並びに、フィードポンプ9及び高圧燃料ポンプ10の駆動制御など、内燃機関1の各種運転制御が電子制御装置16を通じて実施される。
【0031】
ちなみに、上記機関回転速度は、クランクポジションセンサ20からの検出信号に基づき求められる。また、機関負荷は、内燃機関1の吸入空気量に対応するパラメータと上記機関回転速度とから算出される。なお、吸入空気量に対応するパラメータとしては、エアフローメータ19からの検出信号に基づき求められる内燃機関1の吸入空気量の実測値、スロットルポジションセンサ18からの検出信号に基づき求められるスロットル開度、及びアクセルポジションセンサ17からの検出信号に基づき求められるアクセル操作量等があげられる。
【0032】
ここで、上記直噴インジェクタ7においては、高圧になる筒内に対する燃料噴射を実現するために上記直噴圧が高い値に調節されることから、その直噴圧に基づく力に抗して開弁する必要がある。こうした状況のもとで直噴インジェクタ7を的確に開弁することができるよう、図2に示すように直噴インジェクタ7を駆動するための駆動ユニット29が設けられている。この駆動ユニット29は、電子制御装置16によって駆動されるものであって、自動車に搭載されたバッテリ30の電圧を昇圧して直噴インジェクタ7に印可する駆動回路を備えている。この駆動回路を通じて直噴インジェクタ7に対し電圧を印可すると、直噴インジェクタ7に駆動電流が流れて同直噴インジェクタ7が開弁し、それによって直噴インジェクタ7からの燃料噴射が行われる。なお、直噴インジェクタ7の上記駆動電流を大きい値とするほど、同直噴インジェクタ7の開弁する力が大きくなる。
【0033】
図3は、直噴インジェクタ7を開弁させる際における同直噴インジェクタ7の駆動電流の推移を示すグラフである。駆動ユニット29(駆動回路)によって昇圧された電圧を直噴インジェクタ7に印可すると、タイミングT1〜T2間の実線で示すように直噴インジェクタ7の駆動電流が急速に大きい値になり、それに基づき直噴インジェクタ7を開弁する力が大きくなることから、直噴インジェクタ7を上記直噴圧に基づく力に抗して開弁させることができる。直噴インジェクタ7の開弁後であってタイミングT2以降では、直噴インジェクタ7に印可される電圧が低下してゆき、それに伴い同直噴インジェクタ7の駆動電流も小さい値へと低下してゆく。更に、タイミングT3以降では、駆動ユニット29によって昇圧されていない電圧(バッテリ30の電圧)が直噴インジェクタ7に対し印可され、そのときの印可電圧に対応した駆動電流が直噴インジェクタ7に流れる。
【0034】
直噴インジェクタ7において、開弁した状態を維持するために必要な力は、閉弁した状態から開弁させるのに必要な力よりも小さくて済む。このため、タイミングT2以降で直噴インジェクタ7の駆動電流が小さい値になるとしても、そのときに直噴インジェクタ7が上記直噴圧に基づく力によって閉弁してしまうことはない。そして、直噴インジェクタ7からの燃料噴射を終了する際には、直噴インジェクタ7に対する電圧の印可が停止される。これにより、直噴インジェクタ7の駆動電流が「0」とされ(タイミングT4)、それに伴い直噴インジェクタ7が閉弁される。ちなみに、直噴インジェクタ7に対する電圧印可の停止状態のもとで同直噴インジェクタ7に対し電圧を印可する際、そのときの電圧が仮に一定とすると、直噴インジェクタ7の駆動電流の増加速度が同直噴インジェクタ7の温度によって変わってくる。これは、直噴インジェクタ7の温度が高いほど、同直噴インジェクタ7に駆動電流が流れるときの電気抵抗が大きくなり、図中に二点鎖線で示すように上記駆動電流の増加速度が遅くなるためである。
【0035】
次に、内燃機関1の燃料噴射量制御について説明する。
この燃料噴射量制御は、機関回転速度及び機関負荷といった機関運転状態に基づき、内燃機関1全体としての要求燃料噴射量Qfin を求め、その要求燃料噴射量Qfin が得られるようにポート噴射インジェクタ6及び直噴インジェクタ7からの燃料噴射を行うことで実現される。なお、このときの直噴インジェクタ7の駆動により、上記要求燃料噴射量Qfin の少なくとも一部を得るための同直噴インジェクタ7からの燃料噴射が行われる。
【0036】
直噴インジェクタ7からの燃料噴射としては、内燃機関1における圧縮行程での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、及び吸気行程前期での燃料噴射のうちの少なくとも二つを行うことが考えられる。なお、この実施形態では、内燃機関1における圧縮行程での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、及び吸気行程前期での燃料噴射の三つ全てが行われる。これら各燃料噴射における燃料噴射期間の一例を図4に示す。同図に示される第1燃料噴射期間d1では上記圧縮行程での燃料噴射が行われる。また、第2燃料噴射期間d2では上記吸気行程後期での燃料噴射が行われ、第3燃料噴射期間d3では上記吸気行程前期での燃料噴射が行われる。
【0037】
これら第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3に関しては、それぞれの間に所定の間隔を必要とする関係などから、そうした所定の間隔等に基づいて定められる最大値が存在している。仮に、これら最大値を越えて第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3が長くなると、各々の期間で噴射された燃料の燃焼が互いに影響を及ぼし合い、それによって燃料の燃焼が悪化するようになる。このため、第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3に関しては、それらに対応する最大値を越えて長くならないようにガードされる。
【0038】
直噴インジェクタ7からの圧縮行程での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、及び吸気行程前期での燃料噴射はそれぞれ、[背景技術]の欄の[1]〜[3]に示したように良好な機関運転の実現に関係する。このため、内燃機関1においては、1サイクルにつき直噴インジェクタ7からの燃料噴射を複数回行うに当たり、可能な限り上記[1]〜[3]に示す効果を併せて得ることが好ましい。そして、上記[1]〜[3]に示す効果を併せて得るためには、直噴インジェクタ7からの上記複数回の燃料噴射をそれぞれ、そのときの機関運転状態のもとで上記[1]〜[3]の効果を得るうえでの要求値に調整することが重要になる。このことを考慮して、内燃機関1における要求燃料噴射量Qfin が得られるよう直噴インジェクタ7及びポート噴射インジェクタ6から燃料を噴射する際、次のように直噴インジェクタ7及びポート噴射インジェクタ6が駆動される。
【0039】
すなわち、直噴インジェクタ7からの圧縮行程、吸気行程後期、及び吸気行程前期での燃料噴射に関する目標燃料噴射量Qd1〜Qd3をそれぞれ機関運転状態に応じた要求値に設定する。具体的には、直噴インジェクタ7における圧縮行程での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、及び吸気行程前期での燃料噴射の順に、上記目標燃料噴射量Qd1〜Qd3を機関運転状態に応じた要求値に設定してゆく。こうした目標燃料噴射量の設定を続けることで、それら目標燃料噴射量の合計値が要求燃料噴射量Qfin に近づけられる。なお、こうした目標燃料噴射量の設定は、それら目標燃料噴射量の合計値が要求燃料噴射量Qfin となるまで続けられる。そして、このように設定された上記各燃料噴射毎の目標燃料噴射量Qd1〜Qd3が得られるよう、それら目標燃料噴射量Qd1〜Qd3に基づいて直噴インジェクタ7が駆動される。
【0040】
具体的には、上記目標燃料噴射量Qd1を得るための第1燃料噴射期間d1、上記目標燃料噴射量Qd2を得るための第2燃料噴射期間d2、及び、上記目標燃料噴射量Qd3を得るための第3燃料噴射期間d3がそれぞれ、目標燃料噴射量Qd1〜Qd3及び直噴圧に基づいて求められる。こうして求められた第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3については、上述した理由により、それぞれの最大値を越えて長くなることがないようガードされる。そして、圧縮行程にて上記第1燃料噴射期間d1分だけ直噴インジェクタ7が開弁されることで、圧縮行程における直噴インジェクタ7からの目標燃料噴射量Qd1分の燃料噴射が実現される。また、吸気行程後期にて上記第2燃料噴射期間d2分だけ直噴インジェクタ7が開弁されることで、吸気行程後期における直噴インジェクタ7からの目標燃料噴射量Qd2分の燃料噴射が実現される。更に、吸気行程前期にて上記第3燃料噴射期間d3分だけ直噴インジェクタ7が開弁されることで、吸気行程前期における直噴インジェクタ7からの目標燃料噴射量Qd3分の燃料噴射が実現される。
【0041】
なお、直噴インジェクタ7からの圧縮行程での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、及び吸気行程前期での燃料噴射に関するそれぞれの燃料噴射量の合計値が上記要求燃料噴射量Qfin に満たない可能性もある。この場合、直噴インジェクタ7からの圧縮行程での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、及び吸気行程前期での燃料噴射によっては、要求燃料噴射量Qfin 分の燃料を噴射しきれなくなる。しかし、このときには要求燃料噴射量Qfin 分の燃料のうち、上記直噴インジェクタ7からの各燃料噴射によっては噴射しきれない分の燃料量がポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射における目標燃料噴射量Qpに設定される。そして、このように設定された目標燃料噴射量Qpが得られるよう、その目標燃料噴射量Qpに基づくポート噴射インジェクタ6の駆動が行われる。
【0042】
ここで、直噴インジェクタ7においては、上記直噴圧が高い値に調節された状況のもと同直噴圧に基づく力に抗して的確に開弁できるようにするため、直噴インジェクタ7を開弁させる力を大きくしなければならない。そして、直噴インジェクタ7を開弁する力を大きくするということは、同直噴インジェクタ7を開弁する際に多量の電気エネルギ(以下、駆動エネルギという)が必要になることを意味する。こうしたことを考慮して、バッテリ30の電圧を昇圧して直噴インジェクタ7に印可することの可能な駆動ユニット29を設け、その駆動ユニット29で昇圧した電圧を直噴インジェクタ7に対して印可することにより上記駆動エネルギを得るようにしている。ちなみに、この駆動エネルギについては、図5に示すように直噴圧が高い値になるほど多くなる一方、直噴インジェクタ7の温度が高くなるほど多くなる。これは、直噴圧が高い値になるほど直噴インジェクタ7を開弁させるために必要な力が大きくなる一方、直噴インジェクタ7の温度が高くなるほど同直噴インジェクタ7に対し開弁に必要な駆動電流を流すときの電気抵抗が大きくなるためである。
【0043】
ところで、バッテリ30の電圧低下等が生じると、駆動ユニット29によって昇圧される電圧、すなわち直噴インジェクタ7に対し印可することの可能な電圧も低下することから、同直噴インジェクタ7の駆動に用いることの可能な電気エネルギ(以下、供給エネルギという)が少なくなる。このように直噴インジェクタ7に対する供給エネルギが少なくなると、その直噴インジェクタ7を開弁させる力が小さくなるため、同直噴インジェクタ7を直噴圧に基づく力に抗して開弁させることができなくなるおそれがある。ちなみに、直噴圧が高い値になったり直噴インジェクタ7の温度が高くなったりすると、同直噴インジェクタ7を駆動するために必要な上記駆動エネルギが多くなるため、その駆動エネルギよりも上記供給エネルギが少ない値になりやすくなる。そして、この供給エネルギが上記駆動エネルギよりも少なくなると、同直噴インジェクタ7を直噴圧に基づく力に抗して開弁させることができなくなる。このように直噴インジェクタ7を開弁させることができない場合、同直噴インジェクタ7で行うべき燃料噴射が実際には行われないという現象(「噴射抜け」)が生じる。
【0044】
こうしたことに対処するため、本実施形態では、直噴インジェクタ7を駆動するために必要な上記駆動エネルギが判定値よりも多いときには、高圧燃料ポンプ10の駆動制御を通じて上記直噴圧を低下させることが行われる。なお、上記判定値については、直噴インジェクタ7の駆動に用いることの可能な上記供給エネルギに基づいて定めることが可能であり、その供給エネルギの値をそのまま判定値として用いることが好ましい。
【0045】
次に、本実施形態の燃料噴射制御装置の動作について説明する。
直噴インジェクタ7を駆動するために必要な駆動エネルギが上記判定値よりも多くなると、それに基づいて直噴圧が低下されて上記駆動エネルギが少なく抑えられる。このように駆動エネルギが少なく抑えられることで、エネルギ不足による直噴インジェクタ7の開弁不能、言い換えれば直噴インジェクタ7での燃料の噴射抜けを回避することができる。ただし、上述したように直噴圧を低下させると、直噴インジェクタ7における複数回の燃料噴射での燃料噴射量をそれら燃料噴射による効果の得られる値(要求値)とするために、各燃料噴射での燃料噴射期間、すなわち第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3が長くされる。
【0046】
これら第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3が各々の最大値を越えて長くなると、それに起因して筒内での燃料の燃焼状態が悪化するおそれがある。このため、第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3はそれぞれ、対応する最大値を越えて長くならないようガードされる。言い換えれば、第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3がそれぞれの最大値に制限される。なお、このように第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3がそれぞれの最大値に制限された場合、直噴インジェクタ7からの各燃料噴射によっては、要求燃料噴射量Qfin 分の燃料を噴射しきれなくなる可能性が高い。しかし、要求燃料噴射量Qfin 分の燃料を直噴インジェクタ7からの各燃料噴射によって噴射しきれない場合には、その噴射しきれない分の燃料量がポート噴射インジェクタ6から噴射される。
【0047】
ここで、直噴インジェクタ7からの燃料噴射とポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射とにおいては、筒内に直接的に燃料を噴射する直噴インジェクタ7からの燃料噴射の方が、吸気ポート2aに向けて燃料噴射するポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射よりも優先度が高くなる。これは、直噴インジェクタ7からの燃料噴射の方が、ポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射と比べて、噴射された燃料による筒内での燃料の燃焼状態への影響が大きいためである。従って、直噴圧を低下させたとき、上述したように直噴インジェクタ7からの各燃料噴射及びポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射が行われることで、要求燃料噴射量Qfin を得ながらも、優先度の高い燃料噴射である直噴インジェクタ7での各燃料噴射の燃料噴射期間(d1〜d3)が最大値を越えないようにすることができる。その結果、内燃機関1において、要求燃料噴射量Qfin を得つつ、可能な限り筒内での燃料の燃焼悪化を抑制することができる。
【0048】
次に、ポート噴射インジェクタ6及び直噴インジェクタ7からの燃料噴射の制御態様について、噴射制御ルーチンを示す図6のフローチャートを参照して詳しく説明する。この噴射制御ルーチンは、電子制御装置16を通じて、例えば所定クランク角毎の角度割り込みにて周期的に実行される。
【0049】
同ルーチンにおいては、まず直噴インジェクタ7からの一回の燃料噴射を行う際に必要とされる駆動エネルギが、実際の直噴圧及び直噴インジェクタ7の温度に基づいて算出される(S101)。なお、上記実際の直噴圧は、第2圧力センサ24によって検出することが可能である。また、上記直噴インジェクタ7の温度は、水温センサ22によって検出される内燃機関1の冷却水の温度、及び、機関回転速度や機関負荷といった機関運転状態に基づいて推定することが可能である。S101の処理で算出される駆動エネルギに関しては、実際の直噴圧が高い値になるほど多くなる一方、直噴インジェクタ7の温度が高い値になるほど多くなる。
【0050】
続いて、S101で算出された直噴インジェクタ7からの一回の燃料噴射を行う際に必要とされる駆動エネルギ、機関回転速度、及び内燃機関1の1サイクル当たりにおける直噴インジェクタ7からの燃料の噴射回数(この例では三回)に基づき、直噴インジェクタ7において単位時間当たりに必要とされる駆動エネルギErが算出される(S102)。その後、現在のバッテリ30の電圧に基づき、直噴インジェクタ7の駆動に用いることの可能な単位時間当たりの供給エネルギEfが算出される(S103)。そして、この供給エネルギEfが判定値に設定され(S104)、同判定値に対し上記駆動エネルギErが多いか否かの判断が行われる(S105)。
【0051】
S105の処理において、駆動エネルギErが上記判定値未満である旨判断されると、現在の直噴圧のもとでの第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3が算出される(S107)。詳しくは、現在の直噴圧のもとで、直噴インジェクタ7からの圧縮行程での燃料噴射における目標燃料噴射量Qd1が得られるように、上記第1燃料噴射期間d1が算出される。また、現在の直噴圧のもとで、直噴インジェクタ7からの吸気行程後期での燃料噴射における目標燃料噴射量Qd2が得られるように、上記第2燃料噴射期間d2が算出される。更に、現在の直噴圧のもとで、直噴インジェクタ7からの吸気行程前記での燃料噴射における目標燃料噴射量Qd3が得られるように、上記第3燃料噴射期間d3が算出される。
【0052】
そして、上述したように算出された第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3には、それぞれに対応する最大値を越えて長くならないようにするためのガード処理が施される(S110)。詳しくは、第1燃料噴射期間d1がその最大値を越えて長くなるときには、同第1燃料噴射期間d1が上記最大値に置き換えられることで同最大値に制限される。また、第2燃料噴射期間d2がその最大値を越えて長くなるときには、同第2燃料噴射期間d2が上記最大値に置き換えられることで同最大値に制限される。更に、第3燃料噴射期間d3がその最大値を越えて長くなるときには、同第3燃料噴射期間d3が上記最大値に置き換えられることで同最大値に制限される。
【0053】
こうしたガード処理が施された後、直噴インジェクタ7からの第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3分の燃料噴射が行われる(S111)。詳しくは、吸気行程前期にて直噴インジェクタ7から第3燃料噴射期間d3分の燃料噴射が行われる。また、吸気行程後期にて直噴インジェクタ7から第2燃料噴射期間d2分の燃料噴射が行われる。更に、圧縮行程にて直噴インジェクタ7から第3燃料噴射期間d3分の燃料噴射が行われる。その後、要求燃料噴射量Qfin 分の燃料のうち、上述した直噴インジェクタ7からの吸気行程前期での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、圧縮行程での燃料噴射によっては噴射しきれない分の燃料量が、ポート噴射インジェクタ6から噴射される(S112)。
【0054】
一方、上記S105の処理において、駆動エネルギErが上記判定値よりも多い旨判断されると、実際の直噴圧を低下させるための処理(S106、S108)が実行される。この一連の処理では、まず上記供給エネルギEfで直噴インジェクタ7を開弁することが可能になる直噴圧Ptが算出される(S106)。そして、高圧燃料ポンプ10の駆動制御を通じて、実際の直噴圧が上記直噴圧Ptまで低下される(S108)。その結果、駆動エネルギErが供給エネルギEf以下となるよう少なく抑えられ、それによって供給エネルギEfを用いて直噴インジェクタ7を開弁させることが可能になる。
【0055】
また、上述したように実際の直噴圧が上記直噴圧Ptまで低下されると、その直噴圧Ptのもとでの第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3が算出される(S107)。詳しくは、直噴圧Ptのもとで、直噴インジェクタ7からの圧縮行程での燃料噴射における目標燃料噴射量Qd1が得られるように、上記第1燃料噴射期間d1が算出される。また、現在の直噴圧のもとで、直噴インジェクタ7からの吸気行程後期での燃料噴射における目標燃料噴射量Qd2が得られるように、上記第2燃料噴射期間d2が算出される。更に、現在の直噴圧のもとで、直噴インジェクタ7からの吸気行程前記での燃料噴射における目標燃料噴射量Qd3が得られるように、上記第3燃料噴射期間d3が算出される。このように算出された第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3は、実際の直噴圧を直噴圧Ptまで低下させる前に算出したと仮定した場合のそれぞれの値と比較すると、上記実際の直噴圧を直噴圧Ptまで低下させた分だけそれぞれ長くなる。
【0056】
そして、このように第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3が算出された後、上述したS110〜S112の処理が行われる。すなわち、第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3に対するガード処理が行われる(S110)。そして、ガード処理後の第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3分の直噴インジェクタ7からの燃料噴射が行われる。更に、要求燃料噴射量Qfin 分の燃料のうち直噴インジェクタ7から噴射しきれない分の燃料量がポート噴射インジェクタ6から噴射される(S112)。
【0057】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)直噴インジェクタ7を駆動するために必要な駆動エネルギErが判定値よりも多いと、それに基づいて直噴圧が低下されて上記駆動エネルギErが少なく抑えられる。このように駆動エネルギErが少なく抑えられることで、エネルギ不足による直噴インジェクタ7の開弁不能を回避することができる。また、上述した直噴圧の低下に伴い直噴インジェクタ7からの各燃料噴射における第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3が長くされるとしても、それら燃料噴射期間d1〜d3は各々の最大値を越えて長くならないようガードされる。言い換えれば、第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3がそれぞれの最大値に制限される。このように第1燃料噴射期間d1、第2燃料噴射期間d2、及び第3燃料噴射期間d3がそれぞれの最大値に制限された場合、直噴インジェクタ7からの各燃料噴射では要求燃料噴射量Qfin 分の燃料を噴射しきれなくなる可能性が高い。しかし、要求燃料噴射量Qfin 分の燃料を直噴インジェクタ7からの各燃料噴射によって噴射しきれない場合には、その噴射しきれない分の燃料量がポート噴射インジェクタ6から噴射される。上記直噴インジェクタ7からの燃料噴射とポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射とにおいては、筒内に直接的に燃料を噴射する直噴インジェクタ7からの燃料噴射の方が、吸気ポート2aに向けて燃料噴射するポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射よりも優先度が高い。従って、実際の直噴圧を直噴圧Ptまで低下させたとき、上述したように直噴インジェクタ7からの各燃料噴射及びポート噴射インジェクタ6からの燃料噴射が行われることで、要求燃料噴射量Qfin を得ながら優先度の高い燃料噴射である直噴インジェクタ7での各燃料噴射の燃料噴射期間(d1〜d3)が最大値を越えないようにすることができる。その結果、内燃機関1において、要求燃料噴射量Qfin を得つつ、可能な限り筒内での燃料の燃焼悪化を抑制することができる。
【0058】
(2)上記判定値は、現在のバッテリ30の電圧に基づいて求められる供給エネルギEf、すなわち直噴インジェクタ7の駆動に用いることの可能な供給エネルギEfに設定されている。このように判定値を設定することにより、直噴インジェクタ7を駆動するために必要な駆動エネルギErが上記供給エネルギEf(判定値)よりも多くなるとき、すなわち直噴インジェクタ7を駆動(開弁)できないほど供給エネルギEfが少ないとき、的確に直噴圧を低下させることができる。
【0059】
(3)上述したように直噴圧を低下させるに当たっては、高圧燃料ポンプ10の駆動制御を通じて、実際の直噴圧が直噴インジェクタ7の駆動に用いることの可能な供給エネルギEfで同直噴インジェクタ7を開弁できる値(直噴圧Pt)まで低下される。この場合、上記直噴圧の低下後には、上記供給エネルギEfを用いて直噴インジェクタ7を駆動(開弁)させることができるようになることから、同直噴インジェクタ7がエネルギ不足により開弁不能な状態のままになることを的確に回避できる。
【0060】
(4)上記駆動エネルギErは、直噴インジェクタ7の温度に基づいて求められる。ここで、直噴インジェクタ7の温度が高くなって同インジェクタ7に駆動電流を流すときの電気抵抗が大きくなるほど、同直噴インジェクタ7を駆動(開弁)するための上記駆動エネルギErが多い値になる。こうしたことを考慮して、上述したように直噴インジェクタ7の温度に基づき上記駆動エネルギErを求めることで、その求められた駆動エネルギErを正確な値とすることができ、ひいては同駆動エネルギErが判定値よりも多いか否かを正確に判断することができる。
【0061】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・駆動エネルギErを算出するために、必ずしも直噴インジェクタ7の温度を用いる必要はない。
【0062】
・駆動エネルギErが判定値よりも多いとき実際の直噴圧を直噴圧Ptまで低下させたが、こうしたことを必ずしも行う必要はなく、上記実際の直噴圧を直噴圧Ptよりも高い値まで低下させるだけでもよい。
【0063】
・上記判定値を供給エネルギEfに設定したが、こうしたことを必ずしも行う必要はなく、例えば上記判定値を予め実験等により定めた最適値に固定することも考えられる。
・直噴インジェクタ7からの燃料噴射として、圧縮行程での燃料噴射と吸気行程後期での燃料噴射との二つのみを行ったり、圧縮行程での燃料噴射と吸気行程前期での燃料噴射との二つのみを行ったり、吸気行程後期での燃料噴射と吸気行程前期での燃料噴射との二つのみを行ったりしてもよい。
【0064】
・駆動エネルギErが判定値よりも多いときに実際の直噴圧を低下させることに代えて、その直噴圧の低下を次のように行ってもよい。すなわち、実際の直噴圧が予め定められた閾値よりも高いか否かの判断を行い、実際の直噴圧が上記閾値よりも高い旨判断されたときを駆動エネルギErが判定値よりも多くなっているときであると判断し、その判断に基づいて実際の直噴圧を低下させることが可能である。また、直噴インジェクタ7の温度が予め定められた閾値よりも高いか否かの判断を行い、直噴インジェクタ7の温度が上記閾値よりも高い旨判断されたときを駆動エネルギErが判定値よりも多くなっているときであると判断し、その判断に基づいて実際の直噴圧を低下させることも可能である。
【0065】
・ポート噴射インジェクタ6のない内燃機関に本発明を適用してもよい。この場合、直噴インジェクタ7からの圧縮行程での燃料噴射、吸気行程後期での燃料噴射、及び吸気行程前期での燃料噴射をそれぞれ、内燃機関1の点火に近いタイミングで燃料を噴射する第1燃料噴射と、その第1燃料噴射よりも前記点火から離れたタイミングで燃料を噴射する第2燃料噴射とに区分することが可能である。すなわち、圧縮行程及び吸気行程後期での燃料噴射が上記第1燃料噴射とされる一方、吸気行程前期での燃料噴射が上記第2燃料噴射とされる。
【0066】
こうした第1燃料噴射と第2燃料噴射とを行うに当たり、駆動エネルギErが判定値よりも多くなって実際の直噴圧が低下されると、各燃料噴射の燃料噴射期間が長くなる傾向があり、それら燃料噴射期間に関する最大値での制限が加えられる可能性がある。こうした状況のときにも要求燃料噴射量Qfin 分の燃料が得られるよう、直噴インジェクタ7における各燃料噴射が次にように行われる。すなわち、圧縮行程及び吸気行程後期での燃料噴射(第1燃料噴射)における燃料噴射期間が上記最大値で制限されるとき、要求燃料噴射量Qfin 分の燃料のうち第1燃料噴射では噴射しきれない燃料量を吸気行程前期での燃料噴射(第2燃料噴射)によって噴射させる。このときの第2燃料噴射に関しては、その燃料噴射期間を最大値で制限することがないようにされる。
【0067】
ここで、第1燃料噴射と第2燃料噴射とにおいては、内燃機関1の点火に近いタイミングで行われる第1燃料噴射の方が、その第1燃料噴射よりも点火から離れたタイミングで行われる第2燃料噴射よりも優先度が高くなる。これは、内燃機関1の点火に近いタイミングで行われる燃料噴射ほど、同燃料噴射での燃料噴射期間の違いによる燃料への着火の影響が大きくなるためである。従って、上記実際の直噴圧を低下させたとき、上述したように第1燃料噴射及び第2燃料噴射が行われることで、要求燃料噴射量Qfin を得ながらも優先度の高い燃料噴射である第1燃料噴射において燃料噴射期間が上記最大値を越えないようにすることができ、それによって可能な限り筒内での燃料の燃焼悪化を抑制することができる。
【0068】
なお、上述した直噴インジェクタ7の燃料噴射態様については、上記実施形態のように直噴インジェクタ7とポート噴射インジェクタ6とを備える内燃機関1に採用することも可能である。
【0069】
・上記第1燃料噴射は、圧縮行程での燃料噴射と吸気行程後期での燃料噴射とのいずれか一方のみであってもよい。
・上記第2燃料噴射として吸気行程前期での燃料噴射を用いたが、この吸気行程前期での燃料噴射を実施しない内燃機関の場合には、圧縮行程での燃料噴射を第1燃料噴射としつつ吸気行程後期での燃料噴射を第2燃料噴射とすることが考えられる。
【符号の説明】
【0070】
1…内燃機関、2…吸気通路、2a…吸気ポート、3…燃焼室、4…スロットルバルブ、5…アクセルペダル、6…ポート噴射インジェクタ、7…直噴インジェクタ、8…燃料タンク、9…フィードポンプ、10…高圧燃料ポンプ、12…点火プラグ、13…ピストン、14…クランクシャフト、15…排気通路、16…電子制御装置(噴射制御手段、燃圧制御手段)、17…アクセルポジションセンサ、18…スロットルポジションセンサ、19…エアフローメータ、20…クランクポジションセンサ、21…カムポジションセンサ、22…水温センサ、23…第1圧力センサ、24…第2圧力センサ、25…吸気カムシャフト、26…吸気バルブ、27…排気カムシャフト、28…排気バルブ、29…駆動ユニット、30…バッテリ、31…低圧燃料配管、32…プレッシャレギュレータ、33…高圧燃料配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の1サイクル当たりに同機関の筒内に対し複数回の燃料噴射を行うことの可能な直噴インジェクタを備え、機関運転状態に基づき求められる要求燃料噴射量が得られるように前記直噴インジェクタからの燃料噴射を行う内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記直噴インジェクタからの前記複数回の燃料噴射として、内燃機関の点火に近いタイミングで燃料を噴射する第1燃料噴射、及び、その第1燃料噴射よりも前記点火から離れたタイミングで燃料を噴射する第2燃料噴射を行う噴射制御手段と、
前記直噴インジェクタを駆動するために必要な駆動エネルギが判定値よりも多いとき、前記直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させる燃圧制御手段と、
を備え、
前記噴射制御手段は、前記燃圧制御手段による燃料の圧力の低下が行われた状態のもと、前記直噴インジェクタからの前記第1燃料噴射を行うに当たり、その第1燃料噴射での燃料噴射期間が最大値を越えるときには同燃料噴射期間を前記最大値に制限する一方、要求燃料噴射量分の燃料のうち前記第1燃料噴射では噴射しきれない燃料量を前記直噴インジェクタからの前記第2燃料噴射によって噴射させる
ことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
内燃機関の1サイクル当たりに同機関の筒内に対し複数回の燃料噴射を行うことの可能な直噴インジェクタと、同機関の吸気ポートに向けて燃料噴射を行うことの可能なポート噴射インジェクタとを備え、機関運転状態に基づき求められる要求燃料噴射量が得られるように前記直噴インジェクタ及び前記ポート噴射インジェクタからの燃料噴射を行う内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記直噴インジェクタからの前記複数回の燃料噴射を行う噴射制御手段と、
前記直噴インジェクタを駆動するために必要な駆動エネルギが判定値よりも多いとき、前記直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させる燃圧制御手段と、
を備え、
前記噴射制御手段は、前記燃圧制御手段による燃料の圧力の低下が行われた状態のもと、前記直噴インジェクタからの前記複数回の燃料噴射を行うに当たり、それら各燃料噴射における燃料噴射期間が各々の最大値を越えるときには同燃料噴射期間をそれに対応する最大値に制限する一方、要求燃料噴射量分の燃料のうち前記複数回の燃料噴射では噴射しきれない燃料量を前記ポート噴射インジェクタから噴射させる
ことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記判定値は、前記直噴インジェクタの駆動に用いることの可能な供給エネルギに基づいて定められる
請求項1又は2記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記燃圧制御手段は、前記直噴インジェクタに供給される燃料の圧力を低下させる際、その燃料の圧力を前記直噴インジェクタの駆動に用いることの可能な供給エネルギで前記直噴インジェクタを開弁できる値まで低下させる
請求項1又は2記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記直噴インジェクタを駆動するために必要な駆動エネルギは、同直噴インジェクタの温度に基づいて求められる
請求項1又は2記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113196(P2013−113196A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259357(P2011−259357)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】