説明

内燃機関の燃焼噴射の異常判定方法と内燃機関

【課題】高価な空気過剰率センサを追加することなく、燃料供給システムの異常を診断することができる内燃機関の燃料噴射の異常判定方法を提供する。
【解決手段】NOxセンサ21の酸素濃度値から算出した実空気過剰率と、吸気通路5に設けたMAFセンサ22で検出された新気空気量と現指示燃料噴射量から算出した目標空気過剰率との偏差値を算出し、現学習値を、偏差値がゼロになるように補正して、新たな学習値を算出し、インジェクタ3からの燃料噴射に際しては、現指示燃料噴射量を学習値で補正して、燃料噴射を行い、学習値の絶対値が予め設定された異常判定値より大きくなったときに、燃料噴射が異常であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化装置の下流に設けたNOxセンサの酸素濃度を利用して、実際の燃料噴射量と指示燃料噴射量との乖離をなくすように補正する際に、燃料噴射弁を含む燃料供給システムの異常を判定することができる内燃機関の燃料噴射方法と内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン(内燃機関)では、ECU(制御装置)がインジェクタ(燃料噴射弁)を制御して、インジェクタからの燃料噴射量を適正な量になるように調整している。この適正な量に調節された指示燃料噴射量は、燃費を向上し、排出ガスの有害成分を減少し、及び騒音を減少するように定められている。
【0003】
しかし、インジェクタを含む燃料供給システムの劣化、及び故障により指示燃料噴射量と実際にインジェクタが噴射する量とが乖離すると、様々な問題が発生する。例えば、実際の噴射量が指示燃料噴射量よりも少ない場合は、必要とするトルクが得られずに走行に支障を来し、一方、実際の噴射量が指示燃料噴射量よりも多い場合は、燃圧が上がってエンジンが故障する、燃費が悪化する、及び排気ガスの有害成分の濃度が増加するなどの問題が発生する。
【0004】
そこで、空気過剰率、又は空燃比を測定することができる空気過剰率センサ(ラムダセンサとも呼ばれる酸素センサ、又はA/Fセンサとも呼ばれる空燃比センサなど)を用いて、目標空燃比から排気ガスの空燃比のずれ量を補正する装置(例えば、特許文献1参照)や、排気ガス中の空気過剰率と指示噴射量と新気空気量より計算される空気過剰率を比較し補正を行う装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
これらの装置は、排気ガス処理装置の上流、又は排気ガス処理装置の上流と下流に設けた空気過剰率センサで、排気ガス中の空気過剰率、又は排気ガスの空燃比を検出している。検出した空気過剰率、又は空燃比は実際の燃料噴射量によるものであり、これと指示燃料噴射量から求められる目標値との偏差を補正することで、又は偏差を比較して燃料噴射の異常を検知することで、実際の燃料噴射量と指示燃料噴射量とが乖離しないようにインジェクタを監視、及び制御している。
【0006】
上記の装置に設けられている空気過剰率センサは、例えば、排気ガス処理装置の上流に設けられて、内外面にPt(白金)コーティングによる電極を持つZrO(ジルコニア)又はTiO(チタニア)などで形成した固体電解質の管で形成される。
【0007】
この空気過剰率センサの原理は、酸素分圧の高い大気側から酸素分圧の低い排気ガス側に向かって酸素イオンが流れることで電極間の酸素分圧比の対数に比例する起電力が発生し、その起電力から、排気ガス中の酸素濃度を検出するというものである。
【0008】
この空気過剰率センサを搭載した上記の装置を用いることで、実際の燃料噴射量と指示燃料噴射量との偏差を補正することが、又は偏差を比較して燃料噴射の異常を検知することができるが、空気過剰率センサは、PtやZrOを用いるため、センサとしては高価なものになっている。そのため、製造コストが増加するため、空気過剰率センサを搭載しているエンジンはごく一部である。
【0009】
一方、近年のエンジンには、排気ガスのクリーン化のために、排気ガス浄化装置を搭載
したものが多い。このエンジンは、排気ガス浄化装置の下流に排気ガス中のNOx(窒素酸化物)の含有量を計測するNOxセンサを設けている。
【0010】
このNOxセンサは、例えば、排気ガス処理装置の下流に設けられ、耐久性と耐熱性に優れたセラミックスの固体電解質(酸素イオン伝導体)で、少なくとも2つの区画を形成してなるセンサである。一方の区画で、NOx以外の酸素を除去する第1酸素ポンプとし、他方の区画でNOxを分解して、生成した酸素を除去する第2酸素ポンプとすることで、第1酸素ポンプで排気ガス中の酸素濃度を検出し、第2酸素ポンプで排気ガス中のNOx濃度を検出している。
【0011】
前述の空気過剰率センサと同様、NOxセンサも酸素イオン導電体(SnO、ITO、YBCO、WO、TiO、ZrO、ZnSnOなど)が用いられ、それらの表面にPt、Rh(ロジウム)などを塗布して、加工されているため、センサとしては高価なものである。
【0012】
しかしながら、このNOxセンサは、排気ガス浄化装置内のNOx吸蔵還元触媒のNOx吸蔵状態を直接検知し、還元剤投入制御の最適タイミングを与える方法や、同触媒の劣化を車上で診断する方法に用いられており、排気ガス浄化装置をエンジンに設ける上で必要不可欠なセンサである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−82117号公報
【特許文献2】特開平10−141125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、高価な空気過剰率センサを追加することなく、排気ガス浄化装置の下流に設けたNOxセンサを用いて、インジェクタの故障などにより発生する実際の燃料噴射量と指示された燃料噴射量との偏差をゼロにするように次回の指示燃料噴射量を補正する際に、インジェクタを含む燃料供給システムの異常を診断することができる内燃機関の燃料噴射の異常判定方法と内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を解決するための本発明の内燃機関の燃料噴射の異常判定方法は、排気通路に排気ガス浄化装置を設けた内燃機関の燃料噴射方法において、前記排気ガス浄化装置の下流に設けたNOxセンサの酸素濃度値から算出した実空気過剰率λ1と、吸気通路に設けた吸気量センサで検出された新気空気量と現指示燃料噴射量から算出した目標空気過剰率λ2との偏差値を算出し、コモンレール圧と指示燃料噴射量をベースとする噴射時間補正値マップに記憶され、且つ、現コモンレール圧と前記現指示燃料噴射量に対応する現噴射時間補正値を、前記偏差値がゼロになるように補正して、噴射時間補正値を算出し、燃料噴射弁からの燃料噴射に際しては、前記現指示燃料噴射量を前記噴射時間補正値で補正して、燃料噴射を行い、前記噴射時間補正値の絶対値が予め設定された異常判定値より大きくなったときに、燃料噴射が異常であると判定することを特徴とする方法である。
【0016】
この方法によれば、SCR装置(選択的触媒還元装置)を含む排気ガス浄化装置の下流に設けたNOxセンサを用いて、インジェクタ(燃料噴射弁)の燃料噴射量を、実際の燃料噴射量に基づいて補正する際に、インジェクタを含む燃料供給システムの異常を検知することができる。これにより、システムの異常の検知に従来では必要であった空気過剰率
センサを追加することなく、インジェクタの故障などによる燃料噴射の異常を検知することができるので、その分の部品点数が減り、また、製造コストを低減することができる。
【0017】
また、上記の内燃機関の燃料噴射の異常判定方法において、前記噴射時間補正値を、前記実空気過剰率λ1と前記目標空気過剰率λ2と前記現噴射時間補正値を用いて、下記に示す式(1)により求める。
【数1】

但し、L(i,j):現噴射時間補正値、L(I,J):噴射時間補正値、W_cor:重み係数とする。
【0018】
この方法によれば、実空気過剰率λ1と理想空気過剰率λ2との偏差値をゼロにするように補正した噴射時間補正値を用いて、インジェクタの噴射量を補正する際に、その噴射時間補正値の絶対値と異常判定値とを比較し、異常判定値より大きい場合に、つまり実際の燃料噴射量と指示燃料噴射量との乖離が一定の値よりも大きい場合に、インジェクタを含む燃料供給システムの異常と判定することができる。これにより、空気過剰率センサを追加することなく、インジェクタの故障などを検知することができ、インジェクタの故障などで発生する燃費の悪化、スモーク排出の増加、及び排気ガスの高温化による排気管やターボチャージャーなどの熱破損を防止することができる。
【0019】
上記の問題を解決するための内燃機関は、排気通路に排気ガス浄化装置を設けた内燃機関において、前記排気ガス浄化装置の下流に設けたNOxセンサの酸素濃度値から算出した実空気過剰率λ1と、吸気通路に設けた吸気量センサで検出された新気空気量と現指示燃料噴射量から算出した目標空気過剰率λ2との偏差値を算出する手段と、コモンレール圧と指示燃料噴射量をベースとする噴射時間補正値マップに記憶され、且つ、現コモンレール圧と前記現指示燃料噴射量に対応する現噴射時間補正値を、前記偏差値がゼロになるように補正して、噴射時間補正値を算出する手段と、燃料噴射弁からの燃料噴射に際しては、前記現指示燃料噴射量を前記噴射時間補正値で補正して、燃料噴射を行う手段と、前記噴射時間補正値の絶対値が予め設定された異常判定値より大きくなったときに、燃料噴射が異常であると判定する手段とを備える制御装置を設けて構成される。
【0020】
また、上記の内燃機関において、前記制御装置が、前記噴射時間補正値を、前記実空気過剰率λ1と前記目標空気過剰率λ2と前記現噴射時間補正値を用いて、上記に示す式(2)により求める手段を備える。
【数2】

但し、L(i,j):現噴射時間補正値、L(I,J):噴射時間補正値、W_cor:重み係数とする。
【0021】
この構成によれば、NOxセンサの出力から実空気過剰率λ1を算出することができ、その実空気過剰率λ1を用いて、実際の燃料噴射量から指示燃料噴射量を補正する際に、算出される噴射時間補正値の絶対値が異常判定値よりも大きくなったときに、インジェクタを含む燃料供給システムの異常を検知することができる。これにより、従来では必要であった空気過剰率センサを追加することがないため、コストを低減することができる。ま
た、上記の構成に加えて、燃料噴射の異常を運転手に報知する報知装置を備えてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高価な空気過剰率センサを追加することなく、排気ガス浄化装置の下流に設けたNOxセンサを用いて、インジェクタの故障などにより発生する実際の燃料噴射量と指示された燃料噴射量との偏差をゼロにするように次回の指示燃料噴射量を補正する際に、インジェクタを含む燃料供給システムの異常を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態の内燃機関の吸気、及び排気システムを示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の内燃機関の制御を示した概略図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の内燃機関の燃料噴射の異常判定方法に用いる学習領域マップである。
【図4】本発明に係る実施の形態の内燃機関の燃料噴射の異常判定方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関の燃料噴射の異常判定方法と内燃機関について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態では、直列4気筒のディーゼルエンジンを例に説明するが、これに限定せずにNOxセンサを設ける内燃機関であれば、本発明を適用することができる。
【0025】
まず、本発明に係る実施の形態の内燃機関の構成について、図1と図2を参照しながら説明する。図1に示すように、エンジン(内燃機関)1は、各気筒2に燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)3を含む燃料供給システム4と、吸気通路5を含む吸気システム6と、排気通路7を含む排気システム8を備える。
【0026】
燃料吸気システム4は、加圧された燃料を貯えたコモンレール9に接続されたインジェクタ3から高圧の燃料を噴射するシステムであり、他に図示しない燃料タンク、サプライポンプを備える。吸気システム6は、吸気フィルタ10、インタークーラー11、及び吸気スロットル12を備え、排気システム8は、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルタ)13とSCR装置(選択的触媒還元装置)14とからなる排気ガス処理装置15を備える。
【0027】
また、吸気システム6と排気システム8には、排気ガスのエネルギーを利用してタービンを高速回転させ、その回転力で遠心式圧縮機を駆動することにより圧縮した空気をエンジン内に送り込むことができるターボチャージャー16と、EGRクーラー17とEGR弁18とからなり、燃焼後の排気ガスの一部を取出し、吸気側へ導き再度吸気させるEGR装置(排気再循環装置)19を備える。
【0028】
上記のエンジン1の構成は、周知の構成であり、各装置も周知の技術を用いることができる。この実施の形態においては、少なくともSCR装置14を含む排気ガス処理装置15を排気システム8に設けていれば、他の構成は上記の構成に限定しない。
【0029】
加えて、上記の装置及びシステムを制御するECU(制御装置)20と、そのECU20と接続されるNOxセンサ21、MAFセンサ(新気空気量センサ)22、圧力センサ23、及び警告ランプ(報知装置)29を備える。その他にも、エンジン1には図示しないセンサを設けるが、この実施の形態においては、少なくとも上記のセンサ21〜23があればよい。
【0030】
ECU20は、エンジンコントロールユニットと呼ばれる制御装置であり、電気回路によってエンジン1の制御を担当している電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラであり、図2に示すように、この実施の形態ではインジェクタ3の燃料噴射量を制御し、また、警告ランプ29の点灯を制御している。このECU20は、実空気過剰率算出手段24、目標空気過剰率算出手段25、学習値算出手段26、指示燃料噴射量算出手段27、及び異常判定手段28を備え、また、学習領域マップM1と現指示燃料噴射量Q_finを記憶している。これの各手段24〜28をプログラムとして、ECU20に記憶し、燃料噴射量を補正する際に順次実行する。
【0031】
SCR装置14の下流に設けられるNOxセンサ21は、排気ガス中のNOx(窒素酸化物)の濃度値を測定するセンサであり、且つ排気ガス中の酸素濃度値O2_exhを測定することができるセンサである。このNOxセンサ21は、SCR装置14内のNOx吸蔵還元触媒のNOx吸蔵状態を直接検知し、還元剤投入制御の最適タイミングを与える方法や、同触媒の劣化を車上で診断する方法に用いられており、排気システム8に、SCR装置14を備えた場合には必要なセンサである。
【0032】
このNOxセンサ21は、耐久性及び耐熱性に優れ、排気ガス中のNOx濃度を測定すると共に、排気ガス中の酸素濃度値O2_exhを測定することができれば、周知のNOxセンサを用いることができる。また、MAFセンサ22と圧力センサ23も、MAFセンサ22が新気空気量m_airを検出し、圧力センサ23がコモンレールの圧力(コモンレール圧)Pを検出することができれば、周知のセンサを用いることができる。
【0033】
警告ランプ29は、エンジン1の燃料噴射の異常時に、運転手に異常を報知するために点灯するランプである。この実施の形態ではランプを用いたが、運転手に異常を報知することができればよく、例えば、警告ブザーなどを用いてもよい。
【0034】
次に、エンジン1の動作について、図2と図3を参照しながら説明する。エンジン1は、この動作を所定のクランク角(例えば、360°毎)に達する度に行う。図2に示すように、先ず、NOxセンサ21が検出した酸素濃度値O2_exhを用いて、ECU20に備えた実空気過剰率算出手段24が、以下の数式(3)より、実空気過剰率λ1を算出する。なお、ここで大気中の酸素濃度をO2_airとする。
【数3】

【0035】
この実空気過剰率算出手段24により、NOxセンサ21の検出する酸素濃度値O2_exhから、実際の燃料噴射量から導かれる実空気過剰率λ1を算出することができる。これにより、実空気過剰率λ1を算出するために、SCR装置14を備えるエンジン1には設ける必要があるNOxセンサ21を用いることで、空気過剰率センサを別途追加する必要がない。そのため、部品点数を減らすことでき、また、製造コストも低減することができる。
【0036】
次に、ECU20に記憶された現指示燃料噴射量Q_finと、MAFセンサ22で検出した新気空気量m_airと理想空燃比AFRを用いて、目標空気過剰率算出手段25が、以下の数式(4)より、目標空気過剰率λ2を算出する。
【数4】

【0037】
ここで、理想空燃比AFRは、燃料の性状により種々の値を取るが、例えば燃料が軽油の場合にその値は約14.5前後である。
【0038】
次に、学習領域マップ(噴射時間補正値マップ)M1に記憶された現学習値(現噴射時間補正値)L(i,j)を補正するが、ここでその学習領域マップM1について説明する。図3に示すように、学習領域マップM1は、コモンレール圧P_areaと燃料流量(指示燃料噴射量)Q_areaをベースとするマップである。
【0039】
この学習領域マップM1に記憶された学習値(噴射時間補正値)L(i,j)は、インジェクタ3の噴射時間の補正値である。なお、図3に示す学習領域マップM1に記載されている数値は説明のための数値であり、実際の数値はこれに限定しない。また、セル数も限定せず、実際には数値を細かく設定し、セル数を増やしても構わない。
【0040】
次に、図2に示すように、上記の学習領域マップM1に記憶された現学習値(現噴射時間補正値)L(i,j)を、実空気過剰率λ1と目標空気過剰率λ2との偏差値Δλと、重み係数w_corとを用いて、学習値算出手段26が、以下の数式(5)より、補正して、学習値(噴射時間補正値)L(I,J)を算出する。
【数5】

【0041】
次に、算出された学習値L(I,J)の絶対値が、予め定めた異常判定値Vdよりも大きいか否かを、異常判定手段28が判定する。インジェクタ3を含む燃料供給システム4が故障していなく燃料噴射が正常の場合は、|L(I,J)|≦Vdとなり、学習値L(I,J)の絶対値は適当な値に収まる。一方、燃料供給システム4が故障しており燃料噴射が異常の場合は、|L(I,J)|>Vdとなる。
【0042】
ここで、異常判定値Vdについて説明する。燃料供給システム4の故障レベルが大きくなると、実空気過剰率λ1と目標空気過剰率λ2との偏差値Δλは大きくなっていき、それに対応する学習値(噴射時間補正値)L(I,J)の絶対値も大きくなる。このことは、実際の燃料噴射量と現指示燃料噴射量Q_finとの偏差が大きいことを示している。
【0043】
そこで、異常判定値Vdを、燃料噴射システム4が故障した際に発生する変化値(エンジン1のトルク変動値、排気ガス中の有害成分量、又は騒音など)と学習値L(I,J)との関係から、予め設定し、ECU20に記憶させておく。排気ガス中の有害成分量から設定する場合は、例えば、OBD(On―BoardDiagnstic:車載式自己診断)の法規で示されている故障と判断できる排気ガス値を超えない手前の値に設定する。この異常判定値Vdは、学習値L(I,J)の絶対値から、燃料供給システム4の故障を検知することができればよく、上記の値に限定しない。
【0044】
燃料供給システム4に問題が無い場合は、学習値算出手段26で実空気過剰率λ1と目標空気過剰率λ2との偏差値Δλをゼロになるように補正された学習値L(I,J)を、新たな学習値として学習領域マップM1に記憶する。
【0045】
次に、現指示燃料噴射量Q_finと学習値L(I,J)とを用いて、指示燃料噴射量算出手段27が、以下の数式(6)より、次回の指示燃料噴射量Q_corrを算出する。ここで、αは学習値L(I,J)を噴射量補正値に変換する係数とする。
【数6】

【0046】
そして、ECU20は、算出した指示燃料噴射量Q_corrで噴射するようにインジェクタ3を制御する。一方、燃料供給システム4に異常がある場合は、ECU20は、運転手にその異常を報知するために、警告ランプ29を点灯させるように制御する。
【0047】
上記の動作によれば、学習領域マップM1に記憶されている現学習値L(i,j)を、実空気過剰率λ1と目標空気過剰率λ2との偏差値Δλをゼロにするように補正した学習値L(I,J)の絶対値と予め定めた異常判定値Vdとを比較することで、インジェクタ3を含む燃料供給システム4の故障を検知することができる。
【0048】
また、エンジン1はインジェクタ3が燃料を噴射する際に、SCR装置14の下流に設けたNOxセンサ21の酸素濃度値O2_exhを用いて、実空気過剰率λ1を算出することができ、算出した実空気過剰率λ1と目標空気過剰率λ2の偏差値Δλを用いて学習値L(I,J)を算出することができるので、空気過剰率センサを追加することなく、インジェクタ3の劣化などを検知することができる。
【0049】
次に、エンジン1の燃料噴射の異常判定方法について、図4のフローチャートを参照しながら、説明する。この異常判定方法を、エンジン1の所定のクランク角毎に行い、インジェクタ3の実際の燃料の噴射量に基づいた指示燃料噴射量Q_corrになるように補正する際に、燃料噴射の異常を判定していく。
【0050】
まず、SCR装置14の下流に設けたNOxセンサ21の酸素濃度値O2_exhを用いて、排気ガス中の実空気過剰率λ1を算出するステップS11を行う。このステップS11は、上記の数式(3)を用いて、実空気過剰率λ1を算出するが、実際の燃料噴射量に基づく空気過剰率を求めることができればよく、上記の方法に限定しない。
【0051】
次に、MAFセンサ16と現指示燃料噴射量Q_finを用いて、目標空気過剰率λ2を算出するステップS12を行う。このステップS12は、上記の数式(4)を用いて、目標空気過剰率λ2を算出するが、現指示燃料噴射量Q_finから求まる目標空気過剰率λ2を算出することができればよく、上記の方法に限定しない。
【0052】
次に、算出した実空気過剰率λ1と目標空気過剰率λ2とを比較するステップS13を行う。このステップS13でλ1=λ2であれば、実燃料噴射量と現指示燃料噴射量Q_finは一致しているので、補正せずにステップS18へと進む。一方、ステップS13でλ1≠λ2であれば、現指示燃料噴射量Q_finに対して実燃料噴射量がずれていることになるので、ステップS14へと進み補正をおこなう。
【0053】
ステップS13でλ1≠λ2と判断されると、次に、学習領域マップM1から現学習値L(i,j)を呼び出すステップS14を行う。このステップS14では、クランク角センサ23が検出したエンジン回転数Neと現指示燃料噴射量Q_finとに対応する現学習値L(i,j)を呼び出す。この学習値L(i,j)は、現指示燃料噴射量Q_finを補正した際に用いた学習値である。
【0054】
次に、実空気過剰率λ1と目標空気過剰率λ2との偏差値Δλを用いて、現学習値L(i,j)を補正して、学習値L(I,J)を算出するステップS15を行う。このステップS15では、上記の数式(5)を用いて、学習値L(I,J)を算出する。
【0055】
次に、ステップS15で算出した学習値L(I,J)を用いて、燃料供給システム4の異常を判定するステップS16を行う。このステップS16では、学習値L(I,J)の絶対値と予め定めた異常判定値Vdとを比較して、学習値L(I,J)の絶対値が異常判定値Vd以下の場合は、燃料噴射の正常と判断し、学習値L(I,J)の絶対値が異常判定値Vdよりも大きい場合は、燃料噴射の異常と判断する。
【0056】
ステップS16で燃料噴射の正常と判断されると、次に、学習領域マップM1に学習値L(I,J)を書き込むステップS17を行う。このとき、学習領域マップM1に書き込まれるセルの場所を、現コモンレール圧Pと現指示燃料噴射量Q_finで指定する。
【0057】
次に、学習値L(I,J)と現指示燃料量噴射量Q_finを用いて次回の指示燃料噴射量Q_corrを算出するステップS19を行う。このステップS19では、上記の数式(6)を用いて、指示燃料噴射量Q_corrを算出する。次回の指示燃料噴射量Q_corrが算出されると、スタートへと戻り、エンジン1が停止するまでくり返し上記のステップを行う。
【0058】
ステップS13でλ1=λ2と判断された場合は、現学習値L(i,j)を学習値L(I,J)とするステップS18を行って、ステップS19へ進み、次回の指示燃料噴射量Q_corrを算出して、スタートへと戻る。
【0059】
ステップS16で燃料噴射の異常と判断されると、次に、燃料供給システム4の異常を報知するステップS20を行う。この実施の形態では、運転手に燃料噴射の異常を報知することができればよく、上記の方法に限定しない。例えば、警告ランプ29の代わりに警告ブザーなどを用いてもよい。
【0060】
上記の燃料噴射の異常判定方法によれば、NOxセンサ21の酸素濃度O2_exhを用いて、実際の燃料噴射量と現指示燃料噴射量Q_finとの乖離を無くすために次回の指示燃料噴射量Q_corrを補正する際に、指示燃料噴射量Q_corrの補正に用いる学習値L(I,J)の絶対値と予め定めた異常判定値Vdとを比較することで、燃料供給システム4の故障を検知することができる。これにより、空気過剰率センサを追加することなく、インジェクタの故障などによる実際に燃料噴射量の異常を正確に検知することができる。
【0061】
また、上記の異常判定方法は、エンジン1の所定のクランク角で行われるため、燃料噴射量の異常が発生したときに、直ぐにその異常を検知することができる。これにより、運転手は燃料噴射の異常をリアルタイムで確認して、燃料噴射の異常の原因を直して、燃料噴射の異常で発生する問題を回避することができる。
【0062】
この実施の形態では、直列4気筒のディーゼルエンジンを例に説明したが、理想空燃比などをガソリンに適した値にすることで、排気ガス処理装置を備えたガソリンエンジンにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の内燃機関は、排気ガス処理装置の下流に設けたNOxセンサを用いて、実際の燃料噴射量と指示燃料噴射量とのずれを補正する際に、燃料噴射の異常を検知することができるので、特に排気ガスを処理する必要があるディーゼルエンジンを搭載した車両に利
用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 エンジン(内燃機関)
2 シリンダブロック
3 気筒
4 インジェクタ(燃料噴射弁)
5 吸気管(吸気通路)
6 吸気システム
7 排気管(排気通路)
8 排気システム
9 コモンレール
10 吸気フィルタ
11 インタークーラー
12 吸気スロットル
13 DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルタ)
14 SCR装置(選択的触媒還元装置)
15 排気ガス処理装置
16 ターボチャージャー
17 EGR装置(排気再循環装置)
18 EGRクーラー
19 EGR弁
20 ECU(制御装置)
21 NOxセンサ
22 MAFセンサ(新気空気量センサ)
23 クランク角センサ
29 警告ランプ
λ1 実空気過剰率
λ2 目標空気過剰率
M1 学習領域マップ(噴射時間補正値マップ)
L(i,j) 現学習値(現噴射時間補正値)
L(I,J) 学習値(噴射時間補正値)
Q_fin 現指示燃料噴射量
Q_corr 指示燃料噴射量
O2_exh 酸素濃度
O2_air 大気の酸素濃度
m_air 新気吸気量
AFR 理想空燃比
Vd 異常判定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に排気ガス浄化装置を設けた内燃機関の燃料噴射の異常判定方法において、
前記排気ガス浄化装置の下流に設けたNOxセンサの酸素濃度値から算出した実空気過剰率λ1と、吸気通路に設けた吸気量センサで検出された新気空気量と現指示燃料噴射量から算出した目標空気過剰率λ2との偏差値を算出し、
コモンレール圧と指示燃料噴射量をベースとする噴射時間補正値マップに記憶され、且つ、現コモンレール圧と前記現指示燃料噴射量に対応する現噴射時間補正値を、前記偏差値がゼロになるように補正して、噴射時間補正値を算出し、
燃料噴射弁からの燃料噴射に際しては、前記現指示燃料噴射量を前記噴射時間補正値で補正して、燃料噴射を行い、
前記噴射時間補正値の絶対値が予め設定された異常判定値より大きくなったときに、燃料噴射が異常であると判定することを特徴とする内燃機関の燃料噴射の異常判定方法。
【請求項2】
前記噴射時間補正値を、前記実空気過剰率λ1と前記目標空気過剰率λ2と前記現噴射時間補正値を用いて、下記に示す式(1)により求めることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射の異常判定方法。

但し、
L(i,j):現噴射時間補正値
L(I,J):噴射時間補正値
W_cor:重み係数
【請求項3】
排気通路に排気ガス浄化装置を設けた内燃機関において、
前記排気ガス浄化装置の下流に設けたNOxセンサの酸素濃度値から算出した実空気過剰率λ1と、吸気通路に設けた吸気量センサで検出された新気空気量と現指示燃料噴射量から算出した目標空気過剰率λ2との偏差値を算出する手段と、
コモンレール圧と指示燃料噴射量をベースとする噴射時間補正値マップに記憶され、且つ、現コモンレール圧と前記現指示燃料噴射量に対応する現噴射時間補正値を、前記偏差値がゼロになるように補正して、噴射時間補正値を算出する手段と、
燃料噴射弁からの燃料噴射に際しては、前記現指示燃料噴射量を前記噴射時間補正値で補正して、燃料噴射を行う手段と、
前記噴射時間補正値の絶対値が予め設定された異常判定値より大きくなったときに、燃料噴射が異常であると判定する手段とを備える制御装置を設けることを特徴とする内燃機関。
【請求項4】
前記制御装置が、前記噴射時間補正値を、前記実空気過剰率λ1と前記目標空気過剰率λ2と前記現噴射時間補正値を用いて、下記に示す式(2)により求める手段とを備えることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関。

但し、
L(i,j):現噴射時間補正値
L(I,J):噴射時間補正値
W_cor:重み係数

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−108403(P2013−108403A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253050(P2011−253050)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】